(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグタンパク質との融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240930BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240930BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20240930BHJP
C07K 14/81 20060101ALI20240930BHJP
C07K 1/13 20060101ALI20240930BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240930BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240930BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240930BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240930BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240930BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240930BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/435
C07K14/81
C07K1/13
C12N9/14
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/68
G01N33/483 C
(21)【出願番号】P 2021502288
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007568
(87)【国際公開番号】W WO2020175502
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019034315
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】中井 紀
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】川岸 将彦
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502279(JP,A)
【文献】国際公開第2007/051623(WO,A1)
【文献】特開2009-186291(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225781(WO,A1)
【文献】Anal. Biochem.,Vol.423,2012年,pp.261-268
【文献】Bio Design,2018年,Vol.6, No.1,pp.10-14
【文献】Sci. Rep.,2017年,Vol.7,2595 (pp.1-11)
【文献】Nat. Commun.,2016年,Vol.7,11031 (pp.1-9)
【文献】Sci. Rep.,2016年,Vol.6,27055 (pp.1-11)
【文献】J. Mol. Biol.,2016年,Vol.428,pp.1574-1588
【文献】Sci. Rep.,2017年,Vol.7,11217 (pp.1-11)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグとの融合タンパク質であって、
抗原結合タンパク質は、末端にヘリックス構造またはβシート構造を有する抗原結合タンパク質であり、
蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグは、末端にヘリックス構造またはβシート構造を有する蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグであり、
前記抗原結合タンパク質
の配列に由来する前記ヘリックスと前記蛍光タンパク質またはタグ
の配列に由来する前記ヘリックスとが連結され、
当該2つのヘリックスを含む領域全体が一つの大きなヘリックスを形成している、または
前記抗原結合タンパク質
の配列に由来する前記βシート構造と前記蛍光タンパク質またはタグ
の配列に由来する前記βシート構造とが連結され、
当該2つのβシート構造を含む領域全体が一つの大きなβシート構造を形成している、
融合タンパク質。
【請求項2】
抗原結合タンパク質が、N末端にヘリックス構造を有し、
蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグが、C末端にヘリックス構造を有し、
抗原結合タンパク質
の配列に由来する前記ヘリックスと蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグ
の配列に由来する前記ヘリックスとが連結され、
当該2つのヘリックスを含む領域全体が一つの大きなヘリックスを形成している、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
抗原結合タンパク質が、生物学的に不活性であり、物理的に安定なステフィンAまたはシスタチンの改変体を基本骨格として有するタンパク質であり、当該基本骨格が有する4本のβシート構造から同一側に提示される2つのループに抗原結合部位を有するタンパク質である、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
蛍光タンパク質が、GFP及びGFP様のβバレル構造を有する蛍光タンパク質およびその点変異体、並びにこれらの円順列変異体からなる群から選択されるC末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質である、請求項2または3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
抗原結合タンパク質が、C末端にβシート構造を有し、
蛍光タンパク質が、N末端にβシート構造を有し、
前記抗原結合タンパク質
の配列に由来する前記βシート構造と前記蛍光タンパク質またはタグ
の配列に由来する前記βシート構造とが連結され、
当該2つのβシート構造を含む領域全体が一つの大きなβシート構造を形成している、
請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
抗原結合タンパク質が、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、およびアルパカからなる群から選択される動物の重鎖のみからなる抗体の可変領域ドメインに基づく抗原結合タンパク質またはscFvである、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
蛍光タンパク質が、GFP及びGFP様のβバレル構造を有する蛍光タンパク質および点変異体、並びにこれらの円順列変異体および欠失変異体からなる群から選択される、N末端にβシート構造を有する蛍光タンパク質である、請求項5または6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
蛍光標識されるタグが、C末端にヘリックス構造を有する配列番号9または29に記載されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインである、請求項2または3に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
蛍光タンパク質が、C末端にヘリックス構造を有するフィトクロム系もしくはシアノバクテリオクロム系の近赤外蛍光タンパク質である、請求項2または3に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含む、組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項12】
請求項11の核酸を含み、前記核酸は、制御配列に作動可能に連結したものである、細胞内で融合タンパク質を発現させることに用いるための遺伝子発現ベクター。
【請求項13】
抗原の観察方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質と結合した抗原を観察することを含む、方法。
【請求項14】
抗原が、水溶液内または細胞内もしくは細胞表面の抗原である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質である第一の融合タンパク質と結合した第一の抗原と、
請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質である第二の融合タンパク質{但し、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質の蛍光波長は異なる}と結合した第二の抗原と
のそれぞれを観察することを含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
第一の融合タンパク質および第二の融合タンパク質の蛍光相関分光、蛍光相互相関分光を実施することを含む、方法。
【請求項17】
蛍光相関分光、および蛍光相互相関分光が、偏光蛍光相関分光である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
融合タンパク質のアミノ酸配列を設計する方法であって、
抗原結合タンパク質のアミノ酸配列である第一のアミノ酸配列と蛍光タンパク質のアミノ酸配列である第二のアミノ酸配列を用意することと、ここで、第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端が、共にヘリックス構造であるか、共にβシート構造であるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にヘリックス構造となるものであるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にβシート構造となるものであり、
第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端
のヘリックス構造同士もしくはβシート構造同士、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端
のヘリックス構造同士もしくはβシート構造同士を連結し、
第一のアミノ酸配列および第二のアミノ酸配列にそれぞれ由来する当該2つのヘリックス構造または当該2つのβシート構造を含む領域を設計し、
これによって、
前記領域全体がヘリックス構造またはβシート構造
を形成するアミノ酸配列を得ることとを含む、方法。
【請求項19】
請求項11に記載の核酸を含み、前記核酸が、制御配列に作動可能に連結したものであり、細胞内で融合タンパク質を発現させることに用いるための遺伝子発現ベクターで改変された細胞。
【請求項20】
請求項11に記載の核酸を含み、前記核酸が、前記融合タンパク質をコードするmRNAである、細胞。
【請求項21】
請求項19または20に記載の細胞を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグタンパク質との融合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の可視化のために蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグタンパク質を標的タンパク質に連結させる技術が開発されている。これらの技術は、標的タンパク質の局在を蛍光顕微鏡下で観察することに用いられる。
【0003】
蛍光は、偏光を有することが知られている。例えば、緑色蛍光タンパク質であるGFPが偏光を有することが開示されている(非特許文献1)。また、GFPをセプチンというタンパク質に連結させてセプチンの偏光を観察した事例が開示されている(非特許文献2)。非特許文献2では、出芽酵母の細胞分裂面におけるセプチン繊維の配向が時間と共に変化することが、その偏光を観察することで初めて明らかになった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Inoue et al., PNAS, 99: 4272-4277, 2002
【文献】Vrabioiu and Mitchison, Nature, 28, 466-469, 2006
【発明の概要】
【0005】
本発明は、抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグタンパク質との融合タンパク質を提供する。
【0006】
本発明者らは、抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグタンパク質との融合タンパク質において、2つのタンパク質のヘリックス同士を連結させた融合タンパク質、およびβシート同士を連結させた融合タンパク質を多数得た。本発明者らは、得られた融合タンパク質が抗原への結合性を保持し、かつ蛍光の観察に適していることを見出した。本発明者らはまた、得られた融合タンパク質は、蛍光偏光の観察に適していることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の産業上利用可能な発明が提供される。
(1)抗原結合タンパク質と蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグとの融合タンパク質であって、
抗原結合タンパク質は、末端にヘリックス構造またはβシート構造を有する抗原結合タンパク質であり、
蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグは、末端にヘリックス構造またはβシート構造を有する蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグであり、
当該末端のヘリックスと末端のヘリックスとが連結されている、または
当該末端のβシート構造と末端のβシート構造とが連結されている、
融合タンパク質。
(2)抗原結合タンパク質が、N末端にヘリックス構造を有し、
蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグが、C末端にヘリックス構造を有し、
抗原結合タンパク質の末端のヘリックスと蛍光タンパク質または蛍光標識されるタグの末端のヘリックスとが連結されている、上記(1)に記載の融合タンパク質。
(3)抗原結合タンパク質が、アフィマーである、上記(2)に記載の融合タンパク質。
(4)蛍光タンパク質が、GFP及びGFP様のβバレル構造を有する蛍光タンパク質と点変異体の円順列変異体から選択されるC末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質である、上記(2)または(3)に記載の融合タンパク質。
(5)抗原結合タンパク質が、C末端にβシート構造を有し、
蛍光タンパク質が、N末端にβシート構造を有し、
当該C末端のβシート構造とN末端のβシート構造とが連結されている、
上記(1)に記載の融合タンパク質。
(6)抗原結合タンパク質が、ナノボディまたはscFvである、上記(5)に記載の融合タンパク質。
(7)蛍光タンパク質が、GFP及びGFP様のβバレル構造を有する蛍光タンパク質および点変異体、並びにこれらの円順列変異体および欠失変異体からなる群から選択される、N末端にβシート構造を有する蛍光タンパク質である、上記(5)または(6)に記載の融合タンパク質。
(8)蛍光標識されるタグが、C末端にヘリックス構造を有する配列番号9または29に記載されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインである、上記(2)または(3)のいずれかに記載の融合タンパク質。
(9)蛍光タンパク質が、C末端にヘリックス構造を有するフィトクロム系もしくはシアノバクテリオクロム系の近赤外蛍光タンパク質である、上記(2)または(3)に記載の融合タンパク質。
(10)上記(1)~(9)のいずれかに記載の融合タンパク質を含む、組成物。
(11)上記(1)~(9)のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸。
(12)上記(11)に記載の核酸を含み、前記核酸は、制御配列に作動可能に連結したものである、細胞内で融合タンパク質を発現させることに用いるための遺伝子発現ベクター、または当該ベクターで形質転換された細胞、もしくはmRNAを導入された細胞。
(13)抗原の観察方法であって、
上記(1)~(9)のいずれかに記載の融合タンパク質と結合した抗原を観察することを含む、方法。
(14)抗原が、水溶液内または細胞内、もしくは細胞表面の抗原である、上記(13)に記載の方法。
(15)上記(13)または(14)に記載の方法であって、
上記(1)~(9)のいずれかに記載の融合タンパク質である第一の融合タンパク質と結合した第一の抗原と、
上記(1)~(9)のいずれかに記載の融合タンパク質である第二の融合タンパク質{但し、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質の蛍光波長は異なる}と結合した第二の抗原と
のそれぞれを観察することを含む、方法。
(16)上記(15)に記載の方法であって、
第一の融合タンパク質および第二の融合タンパク質の蛍光相関分光、及び蛍光相互相関分光を実施することを含む、方法。
(17)蛍光相関分光、及び蛍光相互相関分光が、偏光蛍光相関分光である、上記(16)に記載の方法。
(18)融合タンパク質のアミノ酸配列を設計する方法であって、
抗原結合タンパク質のアミノ酸配列である第一のアミノ酸配列と蛍光タンパク質のアミノ酸配列である第二のアミノ酸配列を用意することと、ここで、第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端が、共にヘリックス構造であるか、共にβシート構造であるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にヘリックス構造となるものであるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にβシート構造となるものであり、
第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端を連結し、これによって、連結箇所がヘリックス構造またはβシート構造の一部となるアミノ酸配列を得ることとを含む、方法。
(18A)得られたアミノ酸配列をコードする核酸を得ることを含む、上記(18)に記載の方法。
(18B)プロモーターに作動可能に上記(18A)において得られた核酸を連結することを含む、当該核酸を発現させるための遺伝子発現ベクターを製造する方法。
(18C)上記(18)に記載の方法によって得られるアミノ酸配列。
(18D)上記(18A)に記載の方法によって得られる核酸。
(18E)上記(18B)に記載の方法によって得られる遺伝子発現ベクター。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、本発明の融合タンパク質における2つのタンパク質の連結方法(ヘリックス同士の連結方法)を図解するものである。
【
図1B】
図1Bは、それぞれのタンパク質の結晶構造から推定して得たcp-sfGFPとアフィマーとの融合タンパク質の立体構造モデルを示す。
【
図1C】
図1Cは、cp-sfGFPとアフィマーとの融合タンパク質の結晶構造解析結果を示す。
【
図2】
図2は、蛍光タンパク質がcp-sfGFPであり、アフィマーがアクチンに結合するアフィマーである本発明の融合タンパク質を発現した細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図3】
図3は、蛍光タンパク質がcpmVenusであり、アフィマーがアクチンに結合するアフィマーである本発明の融合タンパク質を発現した細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図4】
図4は、蛍光タンパク質がcpmTurquoise2であり、アフィマーがアクチンに結合するアフィマーである本発明の融合タンパク質を発現した細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図5】
図5は、蛍光標識されるタグがハロタグであり、アフィマーがアクチンに結合するアフィマーである本発明の融合タンパク質の連結方法を図解するものである。
【
図6A】
図6Aは、ハロタグとアクチンに対するアフィマーとの融合タンパク質の立体構造モデルと、この融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図6B】
図6Bは、ハロタグとアクチンに対するアフィマーとの融合タンパク質の立体構造モデルと、この融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
図6Aとは、連結箇所のヘリックスの巻き数が異なる。
【
図6C】
図6Cは、ハロタグとアクチンに対するアフィマーとの融合タンパク質の立体構造モデルと、この融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
図6Aおよび
図6Bとは、連結箇所のヘリックスの巻き数が異なる。
【
図7A】
図7Aは、cp-sfGFPとナノボディとの融合タンパク質の連結方法を図解するものである。
【
図7B】
図7Bは、
図7Aの連結方法で連結したcp-sfGFPとビメンチンに結合するナノボディとの融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図7C】
図7Cは、
図7Aと同様の連結方法で連結した、ビメンチンに結合するナノボディとcp176-172mVenusとの融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図8A】
図8Aは、mAppleとナノボディとの融合タンパク質の連結方法を図解するものである。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aの連結方法で連結したmAppleとビメンチンに結合するナノボディとの融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図9A】
図9Aは、cp-sfGFPとscFvとの融合タンパク質の連結方法を図解するものである。
【
図9B】
図9Bは、
図9Aの連結方法で連結したcp-sfGFPと非筋ミオシンIIAに結合するscFvとの融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図9C】
図9Cは、
図7Cと同じ連結方法で連結した、ミオシンに結合するscFvとcp176-172mVenusとの融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図10】
図10は、表1に記載のユトロフィンのアクチン結合部位とmEGFPとの融合タンパク質(配列番号35)の立体構造モデルと、当該融合タンパク質を発現する細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図11】
図11は、アクチンに結合するアフィマーとmScarletとの融合タンパク質の3次元構造モデルと、当該融合タンパク質を用いて細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図12】
図12は、アクチンに結合するアフィマーとmNeonGreenとの融合タンパク質の3次元構造モデルと、当該融合タンパク質を用いて細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図13】
図13は、ALFAタグに結合するナノボディとcp176-172mVenusとの融合タンパク質の3次元構造モデルと、当該融合タンパク質と、アフィマーとALFAタグとの融合タンパク質(すなわち、アクチンに結合するアフィマーのN末端のアルファヘリックスを削り、アルファへリックスを連続させる形でALFAタグ配列をつないだ融合タンパク質)を共発現させた細胞を蛍光偏光顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図14】
図14は、ALFAタグを連結させたアクチンに結合するアフィマーの3次元構造モデルを示す。図中、ALFAタグは、暗いグレーで示され、アフィマーは、明るいグレーで示されている。
【発明の詳細の説明】
【0009】
本明細書では、「抗原結合タンパク質」とは、ある特定の物質に結合するタンパク質を意味する。抗原結合タンパク質は、改変されたタンパク質もしくは非天然のタンパク質またはその抗原結合性断片であり得る。抗原結合タンパク質としては、アミノ酸配列を改変することによって抗原に対する結合親和性を付与でき、かつ、N末端もしくはC末端のβシート構造またはヘリックス構造を有するタンパク質(例えば、スキャフォルドタンパク質)である限り特に限定されないが例えば、抗体、抗体の抗原結合断片(例えば、scFv)、ラクダやラマの重鎖抗体の単鎖可変ドメイン(VHHドメイン)(例えば、ナノボディ(商標))、細菌のアルブミン結合ドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、ABD(商標))、ヒトフィブロネクチンの10番目のドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アドネクチン(Adnectin(商標)、FingR(商標)またはモノボディ(商標)))、ブドウ球菌タンパク質AのZドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アフィボディー(Affibody(商標)))、ヒトγ-B-クリスタリンを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アフィリン(Affilin(商標)))、古細菌のDNA結合タンパク質Sac7dを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アフィチン(Affitin(商標)))、三重逆平行ヘリックスを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アルファボディ(Alphabody(商標)))、ヒトまたは昆虫のリポカリンを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アンチカリン(Anticalin(商標)))、アルマジロタンパク質を基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アルマジロリピートタンパク質)、ヒトC型レクチンドメインCTLD3を基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アトリマー(Atrimer(商標)))、重合化LDLR-Aモジュールを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アビマー(Avimer(商標)))、ヒトテネイシンCのFn3ドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、センチリン(Centyrin(商標)))、ヒトFynチロシンキナーゼのSH3ドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、フィノマー(Fynomer(商標)))、ヒトBPTI/LACI-D1/ITI-D2/APPIを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、クニッツドメイン(knitz domain(商標)))、バイロバキュラム・エロフィルムのアスパルチルtRNA合成酵素のOB形状を基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、オーボディー(Obody(商標)))、ヒトフィブロネクチンIIIの14番目の細胞外ドメインを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、プロネクチン(Pronectin(商標)))、無顎類の可変リンパ球受容体のロイシンリッチリピートモジュールを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、レペボディ(Repebody(商標)))、ヒトアンキリンリピートタンパク質を基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、DARPin(商標))及びステフィンAまたはシスタチンを基本骨格とするスキャフォルドタンパク質(例えば、アフィマー(商標))が挙げられ(Skrlec, K. et al., Trends in Biotechnology, Vol. 33, No. 7: 408-418, 2015)、これらのタンパク質のN末端もしくはC末端のβシート構造またはヘリックス構造が本発明の融合タンパク質における連結に用いられ得る。上記のスキャフォルドタンパク質において、抗原への結合親和性に関与するアミノ酸の存在部位は、周知であり、当該部位のアミノ酸に関して、リボソームディスプレイやファージディスプレイによって抗原への結合に適したものを選択することによって、所望の抗原結合特性を有するスキャフォルドタンパク質を得ることができる。その他、抗原結合タンパク質としては、N末端またはC末端にヘリックスまたはβシートを有する抗原結合タンパク質は、本発明において蛍光タンパク質との融合タンパク質において用いることができる。スキャフォルドタンパク質とは、パラトープを保持する(特にその立体形状を保持する)機能を有する、親タンパク質(改変前のタンパク質)と3次構造において類似した骨格を有するタンパク質をいう。基本骨格とは、スキャフォルドタンパク質において、意図された改変部位(例えば、パラトープ)以外の部分を意味する。パラトープとは、抗原結合タンパク質において、抗原と結合する部分を意味する。
【0010】
本明細書では、「蛍光タンパク質」とは、短波長の電磁波を照射することによって、そのエネルギーを吸収して電子が励起し、これが基底状態に戻る際に、より長波長の電磁波を放出するタンパク質をいう。蛍光タンパク質には、可視光を放出する蛍光タンパク質、および近赤外光を放出する近赤外蛍光タンパク質が挙げられる。蛍光偏光観察に適する蛍光タンパク質は、蛍光偏光観察に好ましく用いられ得る。蛍光偏光観察に適する蛍光タンパク質および蛍光偏光観察に適さない蛍光タンパク質は、単なる蛍光観察に用いられ得る。
【0011】
本明細書では、「アフィマー」(Affimer)とは、生物学的に不活性であり、物理的に安定なステフィンAまたはシスタチンの改変体を基本骨格として有するタンパク質であり、当該基本骨格が有する4本のβシート構造から同一側に提示される2つのループに抗原結合部位を有するタンパク質である。前記ループ部分のアミノ酸配列に多様性を持たせることができる。そして、前記ループ部分のアミノ酸配列に多様性を持たせることによって、様々な抗原に対する結合性を有するアフィマーを取得することがファージディスプレイによって可能となっている。アフィマーの基本骨格としては、例えば、WO2009/136182において開示された配列番号1に対応するアミノ酸配列を有するステフィンAの改変体を用いることができ、ステフィンAの4番目のグリシンがアルギニンで置換されていてもよいステフィンAの改変体は当該基本骨格が有する4本のβシート構造から同一側に提示される2つのループ(例えば、ステフィンAの46~54番目のアミノ酸部位および67~84番目のアミノ酸部位)に異種アミノ酸配列を有するタンパク質である。アフィマーは、N末端にαヘリックス構造を有する。アフィマーはまた、植物由来のシスタチンを基本骨格として有するタンパク質であり得、当該基本骨格が有する4本のβシート構造から同一側に提示される2つのループに抗原結合部位を有するタンパク質である場合もある。シスタチンを基本骨格とするアフィマーとしては、例えば、WO2014/125290において開示された配列番号1~6のいずれか1つの配列が挙げられる。アフィマーの分子量は、約12~14kDaであり得る。
【0012】
本発明では、「ナノボディ」とは、抗体が重鎖と軽鎖とからなるのに対して、ある種の動物において発見された重鎖のみからなる抗体の可変領域ドメインに基づく抗原結合タンパク質である。この重鎖のみからなる抗体は、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、およびアルパカに共通して見られる抗体であり、上記重鎖の可変領域ドメインのみで抗原に結合することができる。近年では、軟骨魚類(サメ等)においても類似した重鎖のみからなる抗体が発見されている。ナノボディは、3つの相補性決定領域(CDR)を有し、この3つのCDRで抗原と結合する。ナノボディは、上記の重鎖のみからなる抗体を産生する動物を抗原で免疫し、免疫された動物からB細胞を単離し、可変領域を含むcDNAライブラリを得て、M13ファージを用いたファージディスプレイライブラリに組み込み、抗原でスクリーニングすることによって得ることができる。ナノボディは、N末端およびC末端に、本発明で蛍光物質を接続できるβシート構造を有する。本発明では、ナノボディのN末端および/またはC末端のβシート構造、例えば、C末端のβシート構造を蛍光タンパク質や蛍光標識されるタグのβシート構造と連結させることができる。
【0013】
本明細書では、「scFv」は、抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とをフレキシブルなペプチドリンカーで連結した単鎖の抗原結合タンパク質である。重鎖可変領域と軽鎖可変領域とで抗原認識をすることによって元となる抗体の抗原特異性を保持しながら、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との会合を促進するためにフレキシブルなリンカーによって両者を接続したものである。フレキシブルなリンカーは、scFvと抗原との会合状態等に応じて自由に構造を変化させることができるものが用いられ、例えば、約15アミノ酸のグリシンリッチな配列(例えば、親水性を確保するためにセリンが挿入されることがある)が好ましく用いられ得る。フレキシブルなリンカーとしては、例えば、-(GGGGS)3-のアミノ酸配列を有するリンカーが用いられ得る。scFvは、フレームワーク配列を有するscFv(例えば、ヒトなどの哺乳動物のフレームワーク配列)の抗原結合部位をランダム化したファージライブラリーから所望の抗原結合性を有することを指標として選択して得ることができる。scFvは、N末端およびC末端に本発明で蛍光物質を接続できるβシート構造を有する。本発明では、scFvのN末端および/またはC末端のβシート構造、例えば、C末端のβシート構造を蛍光タンパク質や蛍光標識されるタグのβシート構造と連結させることができる。
【0014】
本明細書では、「DARPin」とは、Molecular partners AG社が開発した抗原結合タンパク質である。DARPinは、アンキリン反復単位(通常、2~30個程度)を有する人工タンパク質であって、各反復単位は骨格残基および標的相互作用残基を含む(例えば、WO2002/020565参照)。アンキリン反復単位は、2つの逆平行αヘリックスとそれに続くβヘアピン{ここでβペアピンは次の反復単位に結合するループを有する}からなる共通の折りたたみ構造を有する。アンキリン反復単位が積み重なることで、DARPinは、湾曲した構造を形成する。標的相互作用残基は、アンキリン反復単位のβヘアピンおよび第一のαヘリックスの露出した部分に存在し得る。DARPinは、抗原に対する結合性に基づいて選択することにより得ることができる。DARPinは、例えば、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、プラスミドディスプレイなどの方法を用いて得ることができる。DARPinは、末端にαヘリックスおよび他端にβシートを有し、本願発明で、蛍光物質を接続する部位を提供する。
【0015】
本明細書では、「モノボディ」とは、FingRまたはアドネクチン(Adnectin)とも呼ばれ、ヒトフィブロネクチンの10番目のドメイン(フィブロネクチンIII型ドメイン)を基本骨格とするスキャフォルドタンパク質である。このドメインは、抗体の可変ドメインと同様の構造を有し、すなわち、βサンドイッチを形成する7本のβシート構造と3つの相補性決定領域に対応する3つのループを両側に有する。抗原への結合特異性は、2本目と3本目のβシートの間のループBC、4本目と5本目のβシートの間のループDE、および6本目と7本目のβシートの間のループFGのアミノ酸配列によって改変し得る。あるいは、3本目と4本目のβシートの間のループCDおよび6本目と7本目のβシートの間のループFGに加えて3本目、4本目、6本目および7本目のβシートへのアミノ酸配列によって改変し得る。モノボディは、N末端およびC末端にβシートを有し、蛍光物質を接続する部位を提供し得る。
【0016】
本明細書では、「あるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する」とは、当該アミノ酸配列に加えて、そのアミノ酸配列に対応する同じ機能を保持したアミノ酸配列を有するものを包含する意味で用いられる。例えば、種間で配列が異なる場合、特定の種のアミノ酸配列だけでなく、近縁の種における同じ機能を保持したアミノ酸配列は、前記特定の種のアミノ酸配列を類似性の高いアミノ酸配列を有する。「あるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する」とは、このようなそのアミノ酸配列に対応する同じ機能を保持したアミノ酸配列を有することを意味し得るものである。例えば、タンパク質では、当該あるアミノ酸配列を有するタンパク質とオーソログの関係を有する他の種のタンパク質を意味し得る。
【0017】
本発明では、蛍光タンパク質が有するC末端のヘリックス構造(例えば、αヘリックス、3/10ヘリックス)とアフィマーが有するN末端のヘリックス構造を連結することができる。連結された2つのヘリックスは、一つの大きなヘリックス構造を形成し得るが、本発明の融合タンパク質は、このようにして連結された蛍光タンパク質とアフィマーとの融合タンパク質を提供し得る。連結は、ヘリックス構造同士を直接的に結合することによって行ってもよいし、またはリンカーを介して行ってもよい。リンカーとしては、例えば、ヘリックス構造を有するリンカー(ヘリックスリンカー)を用いることができる。ヘリックス構造同士を連結させる場合には、ヘリックス構造の長さ、および/またはヘリックスリンカーの長さを調整することによって、蛍光タンパク質と抗原結合性タンパク質との結合角を調整することが可能となる。ヘリックスリンカーとしては、特に限定されないが例えば、配列番号3、10、12、14、および23のいずれかに記載のアミノ酸配列を有しうる。
【0018】
本発明では、蛍光タンパク質が有するN末端のβシート構造とナノボディまたはscFvがC末端に有するβシート構造を連結することができる。連結された2つのβシートは、1つの大きなβシート構造を形成し得るが、本発明の融合タンパク質は、このようにして連結された蛍光タンパク質とナノボディまたはscFvとの融合タンパク質を提供する。連結は、β-シート同士を直接的に結合することによって行ってもよいし、またはリンカーを介して行ってもよい。リンカーとしては、例えば、βシート構造を有するリンカーを用いるか、または1もしくは2~数個のバリン(V)などの構造的にフレキシブルではないアミノ酸をリンカーとして用いることができる。
【0019】
C末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質としては、GFPの円順列変異体(cpGFP)が用いられ得る。GFPの改変体蛍光タンパク質が各種知られている。円順列変異体蛍光タンパク質とは、タンパク質のN末端とC末端をリンカーを介してまたは介さずに連結し、他の適当な部分で2分することによって、N末端とC末端の配列の位置を変更させた変異体である。円順列変異体は、N末端およびC末端が立体構造上で近傍に位置していることが重要な条件となり得るが、多くの蛍光タンパク質がこの条件を満たし、円順列変異体による蛍光タンパク質の改変は、標準的な蛍光タンパク質の改変技術となっている。本発明では、円順列変異体により、C末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質がアフィマーとの融合タンパク質の作製に用いられ得る。本発明ではまた、円順列変異体により、N末端にβシート構造を有する蛍光タンパク質が、ナノボディまたはscFvとの融合タンパク質の作製に用いられ得る。
【0020】
GFPの改変体蛍光タンパク質{より具体的には、例えば、GFP及びGFP様のβバレル構造を有する蛍光タンパク質(すなわち、GFP様タンパク質)とその点変異体、もしくはこれらの円順列変異体が挙げられる}としては例えば、superfolder GFP (sfGFP)、EGFP、Citrine、Venus、mVenus、YFP、mApple、mOrange、mCherry、BFP、TagBFP、mTurquoise、およびCerulean、mHoneydew、mBanana、tdTomato、mTangerine、mStrawberry、mPlum、mScarlet、mNeonGreen、mNeptuneおよびNirFPなどのGFP様蛍光タンパク質、並びにこれらの改変体蛍光タンパク質の円順列変異体(例えば、C末端にヘリックス構造を有する円順列変異体である蛍光タンパク質;タンパク質名の接頭辞として表記“cp-”を付与することにより、当該タンパク質が円順列変異体であることが明示される)を用いることができる。GFPの改変体蛍光タンパク質としては、βバレルを構成するβシートの順番を交換した置換体や、βシートの数を減らしたβバレル構造をもつ蛍光タンパク質が多数知られており、これらは本発明の融合タンパク質に用い得る。C末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質としては、mTurquioseの円順列変異体(cpmTurquoise)を用いることができる。mTurquioseは、N末端にヘリックス構造を有するため、円順列変異体であるC末端にヘリックス構造を有するcpmTurquioseを用い得る。mTurquioseとしては、例えば、mTurquiose-DR、mTurquiose-GL、mTurquiose-GV、mTurquiose-RA、mTurquiose2、mTurquiose2-G、mTurquiose-146G、およびmTurquiose-146S、並びにこれらの改変体蛍光タンパク質が知られ、これらからなる群から選択される1以上をC末端にヘリックス構造を有する円順列変異体に変換して用いることができる。これらのタンパク質の結晶構造は、例えば、Protein Data Bank (PDB)において公開されており、これらのタンパク質のN末端もしくはC末端に存在するβシート構造またはヘリックス構造を、本発明の融合タンパク質の連結のために用いることができる。
本発明で用いられるC末端にヘリックス構造を有するcp-sfGFPとしては、C末端にヘリックス構造を有する限り特に限定されないが、例えば、配列番号1のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するcp-sfGFPを用いることができる。
【0021】
C末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質としては、フィトクロム系の近赤外蛍光タンパク質が挙げられる。フィトクロム系の近赤外蛍光タンパク質としては、iRFPおよびmiRFPが挙げられる。iRFPは、Rhodopseudomonas
palustrisのバクテリオフィトクロムRpBphP2のPASドメインおよびGAFドメイン(PAS-GAF)を含み、ビリベルジンIXaを取り込むことで近赤外の蛍光を発し、二量体化に必要なC末端のαへリックスを欠き、かつ、S13L、A92T、V104I、V114I、E161K、Y193K、F198Y、D202T、I203V、Y258F、A283V、K288T、およびN290Yの変異を有する(Filonov et al., Nat. Biotechnol., 29(8): 757-761, 2011参照)。miRFPは、Rhodopseudomonas
palustrisのバクテリオフィトクロムRpBphP1のPASドメインおよびGAFドメイン(PAS-GAF)を含み、ビリベルジンIXaを取り込むことで近赤外の蛍光を発し、二量体化に必要なC末端のαへリックスを欠き、かつ、各種変異を有する(Shcherbakova DM et al., Nature Communication, 7, Article number: 12405, 2016参照)。miRFPとしては、特に限定されないが例えば、miRFP670 (excitation/emission at 642/670 nm)、miRFP709 (excitation/emission at 683/709 nm)、およびmiRFP703 (excitation/emission at 673/703 nm)、並びにこれらのmiRFPから誘導されたmiRFPが挙げられる。miRFP670は、例えば配列番号22に記載のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有し得る。これらのフィトクロム系の近赤外蛍光タンパク質は、GAFドメインのC末端にヘリックス構造を有し、アフィマーとの融合タンパク質の作製に用いられ得る。また、Nostoc punctiforme由来のシアノバクテリオクロムNpR3784のGAFドメインに由来する、miRFP、例えばmiRFP670nanoも本発明の融合タンパク質の作製に用いられ得る。miRFP670nanoとしては、NpR3784のGAFドメインに、V7M, F25C, M26V, Y27F, P31E, S41A, A48S, N51K, Q55R, T57R, I72Y, G82N, H87Y, N99I, N117H, C119L, L136Q, Q139Vの18個の変異を導入したものを用いることができる。miRFP670nanoは、N末端にヘリックス構造を有し、本発明において蛍光タンパク質との連結に用いることができる。
【0022】
C末端にヘリックス構造を有する蛍光標識されるタグタンパク質としては、ロドコッカス属細菌のハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインに由来する改変タンパク質が挙げられる。ハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインでは、活性中心のAsp106付近にリガンドが挿入されるポケットを有する。このポケットにリガンドが有する基-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-(CH2)6-Clが挿入される。リガンドを蛍光物質とし、これに基-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-(CH2)6-Clを導入することにより、上記タグを付与したタンパク質に蛍光物質が結合することができるようになる。このような目的に用い得るハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインとしては、脱ハロゲン化酵素活性を喪失したハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインが挙げられ、例えば、活性中心のヒスチジンがフェニルアラニンに変換された活性変異体(H272F)を用いることができ、例えば、配列番号9または29に記載のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する脱ハロゲン化ドメインが挙げられる。このハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインは、C末端にαヘリックスを有している。リガンドと当該脱ハロゲン化ドメインとの結合は、偏光観察に適する。本発明では、ハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインおよびその活性変異体の蛍光偏光観察における使用が提供され得る。リガンドに用いられ得る蛍光物質としては、クマリン、オレゴングリーン、diAcFAM、テトラメチルローダミン(TMR)、STELLA Fluor 650、STELLA Fluor700、STELLA Fluor 720、インドシアニングリーン、Alexa Fluor 488、およびAlexa Fluor 660が挙げられ、それぞれがHalotagリガンドとして市販されている。
【0023】
ヘリックス構造の長さは、ヘリックス構造が形成される限り特に限定されない。ヘリックス構造同士の連結においては、連結部位のヘリックスのアミノ酸の長さを変えることによって、アフィマーとの結合角を変化させることができ、これによって蛍光タンパク質の偏光面をアフィマーに対して変化させることが可能である。αヘリックスの場合には、約3.5アミノ酸で1周するため、αヘリックスを1アミノ酸長くすることによって、結合角は約100度変更される。3/10ヘリックスにおいては、約3アミノ酸で1周するため、ヘリックスを1アミノ酸長くすることによって結合角は約120度変更される。ヘリックスの長さは、アミノ酸の付加、欠失、および挿入から選択される1以上によって調節することができる。また、ヘリックスは、その目的に応じて適宜その長さを調節することができる。調節の方法は、特に限定されないが例えば、融合タンパク質のいずれかのヘリックスの長さを変更することによって行ってもよいし、融合タンパク質の連結部位にヘリックス構造を有するペプチドを挿入することによって行ってもよい。いずれの場合にも、連結部位の前後の領域を含むヘリックス構造が新たに形成されて、これにより融合タンパク質が、より硬く連結することとなる。
【0024】
βシート構造の長さは、βシート構造が形成される限り特に限定されない。βシート構造同士の連結においては、連結後に連結部前後のβシート構造を含む構造的にフレキシブルでない構造が新たに形成されて、これにより融合タンパク質が、より硬く連結することとなる。
【0025】
本発明の融合タンパク質は、例えば、以下であり得る:
(A)C末端にヘリックス構造を有する蛍光タンパク質とN末端にヘリックス構造を有するアフィマーとの融合タンパク質{但し、2つのタンパク質はヘリックス構造同士が連結される};
(B)C末端にヘリックス構造を有するハロアルカンデハロゲナーゼの脱ハロゲン化ドメインとN末端にヘリックス構造を有するアフィマーとの融合タンパク質{但し、2つのタンパク質はヘリックス構造同士が連結される};
(C)C末端にβシート構造を有するナノボディとN末端にβシート構造を有する蛍光タンパク質との融合タンパク質{但し、2つのタンパク質はβシート構造同士が連結される};および
(D)C末端にβシート構造を有するscFvとN末端にβシート構造を有する蛍光タンパク質との融合タンパク質{但し、2つのタンパク質はβシート構造同士が連結される}。
【0026】
本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸(例えば、DNAである)が提供される。本発明の融合タンパク質をコードする核酸は、少なくとも1つの制御配列(例えば、プロモーター)と作動可能に連結されていることができる。本発明によれば、少なくとも1つの制御配列(例えば、プロモーター)と作動可能に連結された本発明の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクター(例えば、哺乳動物の細胞に当該融合タンパク質を発現させるベクター)が提供される。制御配列としては、特に限定されないが例えば、RNAポリメラーゼIIのプロモーターが挙げられ、例えば、CMV即時早期、HSVチミジンキナーゼ、早期および後期SV40、レトロウイルスのLTR、メタロチオネインIなどのプロモーターが挙げられる。大腸菌で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、lac、trp、lacI、lacZ、T3、T7、gpt、ラムダPR、ラムダPL、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、などのプロモーターが挙げられる。植物で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S転写開始領域、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのT-DNA由来の1’または2’プロモーター、およびオーキシンなどのプロモーターが挙げられる。出芽酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、ADH1、TDH3、PGK1、GAL1が挙げられる。分裂酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、adh、tef、nmt1、およびCMV等のプロモーターが挙げられる。発現ベクターとしては、プラズミド、ファージ、ファージミド、コスミド、フォスミド、人工染色体、レトロウイルス、レンチウイルス、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびセンダイウイルスなどが挙げられる。本発明によれば、これらの発現カセットをゲノム中に含む、細胞(例えば、動物細胞、植物細胞、細菌、古細菌、および菌類の細胞)が提供される。その他、制御配列に作動可能に連結した本発明の融合タンパク質をコードする直鎖状または環状DNAを細胞に導入する方法(導入後に安定発現株を取得してもよい)、ゲノム編集技術(例えば、TALEN、ZFN、またはCRISPR/Cas9システム等)を用いて、制御配列に作動可能に連結した本発明の融合タンパク質をコードする直鎖状または環状DNAを細胞のゲノムに導入する方法などを用いてもよい。
細胞に対して遺伝子発現ベクターを用いずに核酸を導入する方法や核酸にコードされるタンパク質を発現させる方法も知られている。制御配列(例えば、プロモーター)を作動可能に連結した本発明の融合タンパク質をコードする核酸(例えば、直鎖状核酸、例えば、直鎖状DNA)を細胞に導入して本発明の融合タンパク質を細胞内に発現させることができる。本発明の融合タンパク質をコードするmRNAを細胞に導入して本発明の融合タンパク質を細胞内に発現させることもできる。
【0027】
本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸は、DNAまたはメッセンジャーRNA(mRNA)であり得る。
【0028】
本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を含む組成物が提供される。本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を含む遺伝子発現ベクターを含む組成物が提供される。これらの組成物には、核酸および/または遺伝子発現ベクターと賦形剤とを含み得る。賦形剤としては、核酸および/または遺伝子発現ベクターを安定化させるための賦形剤が挙げられる。賦形剤としては、塩、キレート剤、およびpH調整剤が挙げられる。
【0029】
本発明の融合タンパク質は、タンパク質であるので、細胞に導入するか、または細胞に融合タンパク質をコードする核酸を導入して強制発現させることができる。従って、本発明の融合タンパク質は、細胞内での抗原の観察に用いることができる。本発明によれば、本発明の融合タンパク質を含む、組成物(例えば、本発明の融合タンパク質の細胞導入用の組成物)が提供されうる。本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を含む、組成物(例えば、本発明の融合タンパク質の細胞内発現用の組成物)が提供されうる。
【0030】
本発明によれば、抗原の観察方法(以下、「本発明の融合タンパク質の観察方法」とも読み替えることができる)が提供される。抗原の観察方法は、本発明の融合タンパク質と結合した抗原を観察することを含み得る。ここで「抗原」とは、特に限定されないが、抗体の免疫原となり得る物質、アフィマーの免疫原となり得る物質、ナノボディの免疫原となり得る物質、またはscFvの免疫原となり得る物質を意味し得るものであり、このような抗原であれば、例えば、溶液中または細胞中において、または細胞表面で、本発明の融合タンパク質との結合を形成し得る。抗原は、他のタンパク質と複合体を形成していてもよく、他のタンパク質と複合体を形成していなくてもよい。観察は通常、溶液中または細胞中、または細胞表面の本発明の融合タンパク質に結合した抗原に対して行われ得る。観察は、顕微鏡(例えば、蛍光顕微鏡および蛍光偏光顕微鏡)下で行われ得る。本発明の融合タンパク質は、蛍光タンパク質と抗原結合タンパク質とが一定の回転角で結合し、蛍光が有する偏光が抗原結合タンパク質に対して一定する。従って、本発明の融合タンパク質は、好ましくは、蛍光偏光顕微鏡下で観察されうる。
【0031】
本発明によれば、抗原としては、動物、植物、細菌、菌類、および古細菌の抗原が挙げられる。抗原としては、細胞内の抗原、細胞外の抗原、および細胞膜上の抗原が挙げられる。抗原は、遊離型でもよいし、何らかの他の構成成分と複合体を形成していてもよい。抗原は、モノマー形態の抗原でもよいし、ポリマー形態の抗原でもよい。本発明では、細胞は、受精卵、多能性幹細胞、幹細胞、前駆細胞、体細胞、および生殖細胞(例えば、卵細胞)のいずれであってもよい。本発明では、抗原は、生物における細胞以外の構成体、例えば、鞭毛(例えば、精子や微生物の鞭毛)の構成要素であってもよい。本発明によれば、抗原は、アクチン、微小管、セプチン、および中間径フィラメント等の細胞内骨格であり得る。本発明によれば、抗原は、細胞内のアクチン(例えば、α-アクチン、β-アクチン、およびγ-アクチン)、微小管のチューブリン(例えば、α-チューブリン、βチューブリン、およびγ-チューブリン)、セプチン、および中間径フィラメント(例えば、ケラチン、GFAP(グリア細胞線維性酸性蛋白質)、ビメンチン、ニューロフィラメント-M、ニューロフィラメント-L、ニューロフィラメント-H、α-インターネキシン、ラミンB1、ラミンB2、ラミンA)等の細胞内骨格であり得る。本発明によれば、抗原としては、特に限定されないが例えば、ミオシン(例えば、ミオシンI、ミオシンII、ミオシンIII、ミオシンIV、ミオシンV、ミオシンVI、ミオシンVIII、およびミオシンIX等のミオシン、並びにこれらの重鎖または軽鎖)、ダイニン(例えば、軸糸ダイニンおよび細胞質ダイニン)、キネシン(特に限定されないが例えば、KIF1A、KIF1Bα、KIF1Bβ、KIF1C、KIF2A、KIF3、KIF4、KIF5、KIF13B、KIF17、KIF26A、KIFC1、KIFC2、およびKIFC3、並びにキネシンスーパーファミリーに属する他のキネシン)が挙げられる。本発明によれば、抗原は、特に限定されないが例えば、膜タンパク質(例えば、受容体タンパク質、Gタンパク質、イオン輸送体(イオンチャンネル、イオンポンプ)、およびトランスポータータンパク質が挙げられる。本発明によれば、抗原は、特に限定されないが例えば、BARドメインタンパク質(Amphiphysin、EndophilinA1、FCHO2、Pacsin2、IRSp53)やESCRT-IIIタンパク質(CHMP2A、CHMP2B、CHMP4A、CHMP4B、CHMP4C)が挙げられる。その他、特に抗原は、上記に限られず、様々な生体分子(例えば、タンパク質、脂質、核酸、ホルモン、および糖など)であり得る。本発明によれば、抗原は、特に限定されないが例えば、脂質膜や脂質膜ドメインであり得る{例えば、脂溶性の蛍光色素や脂質結合モチーフを用い得る}。本発明によれば、細胞内骨格以外の細胞の構成要素も観察対象であり得る。例えば、本発明において偏光蛍光相関分光または偏光蛍光相互相関分光を実施する場合には、細胞内骨格以外の細胞の構成要素の回転拡散を評価することができる。
【0032】
本発明によれば、抗原の観察方法は、蛍光相関分光(FCS)を含み得る。蛍光相関分光は、蛍光物質の分子運動を顕微鏡(例えば、共焦点顕微鏡または2光子顕微鏡など)下で観察することを含み得る。蛍光相関分光は、本発明の融合タンパク質に光(例えば、レーザー光)を照射して蛍光強度のゆらぎを測定することを含み得る。蛍光相関分光は、強度スペクトル(時間スペクトル)を逆フーリエ変換して時間的自己相関を得ることを含み得る。蛍光相関分光は、得られた結果から、本発明の融合タンパク質の拡散運動(並進拡散運動)、および測定領域内の分子数を評価することができる。本発明の方法は、本発明の融合タンパク質の拡散係数を求めることを含み得る。本発明によれば、複数種の蛍光分子由来の蛍光強度変化の同時測定は、本発明の複数種の融合タンパク質間の結合の検出に用いられ得る。本発明によれば、抗原の観察方法は、ある態様では、蛍光偏光を観察することを含み得る。蛍光偏光は、蛍光偏光顕微鏡下にて観察され得る。偏光は、偏光板を通してその強度を解析する等することにより、融合タンパク質の回転拡散運動を評価することができる。本発明の方法は、本発明の融合タンパク質の流体回転半径を求めることを含み得る。本発明によれば、流体回転半径は、本発明の融合タンパク質の構造揺らぎ・周囲の微視的環境の揺らぎの評価、本発明の融合タンパク質と他のタンパク質の結合の評価、または本発明の複数種の融合タンパク質間の結合の評価に用いられ得る。
【0033】
本発明によれば、抗原の観察方法は、ある態様では、本発明の融合タンパク質である第一の融合タンパク質と結合した抗原と、本発明の融合タンパク質である第二の融合タンパク質{但し、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質の蛍光波長は異なる}と結合した第二の抗原とのそれぞれを観察することを含み得る。本発明によれば、抗原の観察方法は、本発明の融合タンパク質である第一の融合タンパク質と結合した抗原と、本発明の融合タンパク質である第二の融合タンパク質{但し、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質の蛍光波長は異なる}と結合した第二の抗原と蛍光相関分光(FCS)を含み得る。本発明によれば、抗原の観察方法は、2つ以上の抗原の蛍光強度の揺らぎの同時性を解析すること(蛍光相互相関分光(FCCS))を含み得る。2つ以上の抗原の蛍光強度を測定するためには、2つ以上の本発明の融合タンパク質(すなわち、第一の融合タンパク質、第二の融合タンパク質を用いることができ、例えば、第三の融合タンパク質を用いてもよく、第四の融合タンパク質をさらに用いてもよく、更にまた必要に応じてそれ以上の本発明の融合タンパク質を用いてもよい(但し、それぞれの蛍光波長は異なることが好ましい)。本発明によれば、抗原の観察方法は、ある態様では、蛍光偏光を観察することを含み得る。蛍光偏光は、蛍光偏光顕微鏡下にて観察され得る。蛍光相関分光(FCS)、および蛍光相互相関分光(FCCS)を偏光蛍光顕微鏡下で行うメリットは、蛍光の回転拡散運動を検出することができることである。従って、本発明では、抗原の観察方法は、ある態様では、蛍光偏光を観察して分子の回転拡散運動を検出することをさらに含んでいてもよい。回転拡散運動は、粒子径の変化に対して感受性であるため、偏光蛍光相関分光によれば、2つ以上の抗原の結合状態をより精密に評価することができると期待される。本発明では、抗原の観察方法は、ある態様では、細胞内の2つ以上の抗原の結合状態を評価すること、または溶液中の2つ以上の抗原の結合状態を評価することを含み得る。
【0034】
蛍光の偏光観察は、蛍光偏光顕微鏡を用いて当業者が適宜行うことができる。偏光は、例えば、第一の偏光面と第二の偏光面を含む2つまたはそれ以上の偏光面に関して観察することができる。偏光は、第一の偏光面と第二の偏光面と第三の偏光面と第四の偏光面を含む4つまたはそれ以上の偏光面に関して観察することができる。観察する偏光面を増やすにつれて、蛍光分子の回転の検出感度が高まると期待できる。
【0035】
本発明では、本発明の融合タンパク質の観察は、超解像度顕微鏡法により行うことができる。超解像度顕微鏡法としては、例えば、誘導放出抑制顕微鏡法(STED)、光活性化局在性顕微鏡法(PALM)、確率的光学再構築顕微鏡法、走査型近接場光顕微鏡法(SNOM)、構造化照明顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、および2光子励起顕微鏡法によるものが挙げられる。超解像度顕微鏡法では、光の回折限界以下の分解能(例えば、200 nm以下の分解能)で観察対象物を観察することができる。更に全反射照明下等、適切な観察条件下では、蛍光分子を1分子レベルで輝点として検出することができる。超解像度顕微鏡法においても、蛍光相関分光(FCS)および蛍光相互相関分光(FCCS)、並びに蛍光に代えて発光物質を用いる前記方法と同様に、抗原の観察が可能である。従来の超解像度顕微鏡法では抗原の位置を計測するのみであったが、本発明では複数の抗原の位置に加えて偏光の方向を同時に観察することで、各抗原の構造上の相関関係を評価することが可能である。これは、超解像度顕微鏡法において従来存在しなかった点像変換アルゴリズムの実験的基盤となることが期待できる。
【0036】
本発明によれば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、および43からなる群から選択される1つの配列番号に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、およびこれをコードする核酸が提供される。本発明によれば、上記核酸を含む、細胞内発現用のベクターが提供される。
【0037】
本発明によれば、融合タンパク質のアミノ酸配列を設計する方法であって、
抗原結合タンパク質のアミノ酸配列である第一のアミノ酸配列と蛍光タンパク質のアミノ酸配列である第二のアミノ酸配列を用意することと、ここで、第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端が、共にヘリックス構造であるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にヘリックス構造となるものであり、
第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端を連結し、これによって、連結箇所がヘリックス構造の一部となるアミノ酸配列を得ることとを含む、方法が提供される。設計されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質は、蛍光偏光観察に適したものであり得る。好ましくは、N末端またはC末端の一部を切除することは、抗原結合タンパク質の結合特性および蛍光タンパク質の蛍光特性を消失させない。
【0038】
本発明によれば、融合タンパク質のアミノ酸配列を設計する方法であって、
抗原結合タンパク質のアミノ酸配列である第一のアミノ酸配列と蛍光タンパク質のアミノ酸配列である第二のアミノ酸配列を用意することと、ここで、第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端が、共にβシートであるか、N末端またはC末端の一部を切除することで共にβシートとなるものであり、
第一のアミノ酸配列のN末端および第二のアミノ酸配列のC末端、または、第一のアミノ酸配列のC末端および第二のアミノ酸配列のN末端を連結し、これによって、連結箇所がβシート構造の一部となるアミノ酸配列を得ることとを含む、方法が提供される。設計されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質は、蛍光偏光観察に適したものであり得る。好ましくは、N末端またはC末端の一部を切除することは、抗原結合タンパク質の結合特性および蛍光タンパク質の蛍光特性を消失させない。
【0039】
本発明によれば、融合タンパク質を設計する方法であって、
タンパク質のアミノ酸配列を用意することと、ここで、当該アミノ酸配列の少なくともN末端またはC末端がヘリックス構造を有し、
当該ヘリックスとALFAタグ(ALFAタグは、例えば、配列番号40に記載のアミノ酸配列または対応するALFAタグのアミノ酸配列を有し得る)のヘリックスのアミノ酸配列とを連結し、これによって、連結箇所がヘリックス構造の一部となるアミノ酸配列を得ることとを含む、方法が提供される。設計されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質は、ALFAタグに結合する抗原結合タンパク質と硬く連結した蛍光タンパク質によって検出され得、蛍光偏光観察に用い得る。好ましくは、N末端またはC末端の一部を切除することは、タンパク質の機能性領域を欠失させない。ある態様では、上記タンパク質は、抗原結合タンパク質であり得る。ある態様では、上記タンパク質は、観察対象であるタンパク質であり得る。ALFAタグに結合する抗原結合タンパク質としては、ALFAタグに結合するナノボディ、scFv、アフィマーおよび上記で例示した抗原結合タンパク質が挙げられ、蛍光タンパク質も上記で例示した蛍光タンパク質が挙げられ、これらがヘリックス構造同士、またはβシート同士で連結された融合タンパク質(例えば、上記(A)~(D)のいずれかの融合タンパク質であって、ALFAタグに結合する融合タンパク質)を、ALFAタグを検出するために用いることができる。また、検出されるタンパク質は、N末端またはC末端にヘリックス構造を有することが好ましく、ALFAタグのヘリックス構造と連結されて、連結部がヘリックス構造の一部となった、融合タンパク質とすることができる。
【0040】
本発明によれば、設計されたアミノ酸配列に基づいて、当該融合タンパク質をコードする核酸配列を得ることを含む、方法が提供される。本発明によれば、設計されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する核酸を製造する方法が提供され得る。本発明によれば、設計されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する核酸(例えば、DNAまたはmRNA)が提供され得る。本願発明によればまた、得られた核酸配列を有する核酸を含む遺伝子発現ベクターが提供される。遺伝子発現ベクターにおいては、核酸は、プロモーターに作動可能に連結させることができる。得られた遺伝子発現ベクターは、細胞に発現可能に導入されることによって、細胞内で設計されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を合成することに用いることができる。得られた融合タンパク質が、蛍光偏光観察に適したものである場合には、当該融合タンパク質およびこれをコードする核酸は、蛍光偏光観察に有用であり得る。
【0041】
本発明によれば、上記によって設計されたアミノ酸配列に基づいて、融合タンパク質を製造する方法が提供される。
【実施例】
【0042】
実施例1:円順列変異体cp-sfGFPとアフィマーとの融合タンパク質の設計と観察
本実施例では、円順列変異体cp-sfGFPとアフィマーとの融合タンパク質を設計した。
【0043】
アフィマーは、ステフィン由来またはシスタチン由来のタンパク質であり、αヘリックスとそれに接する4本の折り返しβシート構造とからなるタンパク質である。4本の折り返しβシートは、αヘリックスによって安定化されており、固い3次構造を有する。4本のβシートによって3箇所のループが形成されるが、そのうち同じ側の2箇所のループには、アミノ酸を導入することができることが知られている。導入するアミノ酸によってアフィマーが、抗体のような抗原に対する選択的な結合親和性を獲得できることも知られている。また、ファージディスプレイなどの技法によって、所望の抗原に対して結合親和性を示すアフィマーを設計することができることも明らかになっている。
【0044】
本実施例では、C末端にヘリックス(3/10ヘリックスと考えられる)を有するcp-sfGFPと、N末端にαヘリックスを有するアフィマーとを、当該C末端のヘリックスとN末端のヘリックスとをヘリックスリンカーを介して連結させて、融合タンパク質を得た(
図1A参照)。
【0045】
得られる融合タンパク質の予想される立体構造モデルは、
図1Bに示される通りであった。
【0046】
cp-sfGFPとしては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するcp-sfGFPを用いた。また、アフィマーとしては、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。このアフィマーは、アクチン線維(F-アクチン)に選択的に結合することができる。遺伝子工学的手法により、配列番号1に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とを、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するヘリックスリンカーを介して、インフレームで連結し、これによって配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。配列番号4は、C末端にHAタグのアミノ酸配列を含む。
【0047】
設計した融合タンパク質を大腸菌に産生させて精製し、得られた融合タンパク質を結晶化し、X線結晶構造解析に供した。得られたX線回折像から、当該融合タンパク質は、
図1Cに示される結晶構造を有することが明らかとなった。
図1Cに示されるように、cp-sfGFPとアフィマーとは、当該C末端のヘリックスとN末端のヘリックスとが連結して1本のヘリックスを新たに形成させたことが明らかとなった。
【0048】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。融合タンパク質がアクチン繊維に結合したときに、結合した融合タンパク質の蛍光の偏光面が揃っていれば、蛍光の偏光(異方性)が観察されると予想される。偏光ビームスプリッタを用いて縦の観察偏光面と横の観察偏光面の像を同時に取得し、比較した。結果は
図2に示される通りであった。
図2に示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束(矢尻参照)が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束(矢印参照)が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察された。このことは、アクチン繊維に結合した融合タンパク質の偏光面が揃っていることを意味する。同様の実験を、HeLa細胞に代えてLLC-PK1細胞、Ptk2細胞、酵母細胞やヒトデの卵母細胞、または受精卵を用いて実施し、上記融合タンパク質の偏光を細胞内において観察することができることを確認した。
【0049】
アフィマーは、アクチン線維に対して揃った向きで結合すると考えられる。アクチン線維は、アクチンモノマーの繰り返しにより構成されたポリマーであるからである。融合タンパク質の偏光面が揃っているということは、融合タンパク質におけるcp-sfGFPがアフィマーに対して硬く固定されていることを示すものである。従って、本発明の融合タンパク質において、C末端のヘリックスとN末端のヘリックスとを連結させる方法は、cp-sfGFPをアフィマーに対して固定して、cp-sfGFPの偏光面をアフィマーに対して固定化する方法論を提供するものである。アフィマーのN末端のαヘリックスと連結するように、sfGFPのN末端のヘリックスをC末端に移動させる円順列変異体の作製がこの固定化のための方法論に役立ち得ることが示された。
【0050】
これによって、所望の抗原に対して結合して、偏光を発する蛍光標識法が構築できる。この蛍光偏光標識法の戦略の有効性を以下実施例によりさらに確認した。
【0051】
実施例2:円順列変異体cpmVenusとアフィマーとの融合タンパク質の設計と観察
実施例1に開示した戦略を用いて、cpmVenusとアフィマーとを連結させた。具体的には、cpmVenusのC末端に存在する3/10ヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで連結させて融合タンパク質を設計した。
【0052】
cpmVenusとしては、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。アフィマーとしては、実施例1と同じアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号5に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とを、アラニン(A)を介してインフレームで連結し、これによって配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するcpmVenusとアフィマーとの融合タンパク質を設計した。配列番号6は、C末端にHAタグのアミノ酸配列を含む。
【0053】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(アバランシェ-エブリデートランスフェクション試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図3に示される通りであった。
図3に示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このことから、cpmVenusのC末端に存在する3/10ヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで直接的に連結させて得た融合タンパク質もまた、偏光を示すものであった。
【0054】
実施例3:円順列変異体cpmTurquoise2とアフィマーとの融合タンパク質の設計と観察
実施例1に開示した戦略を用いて、cpmTurquoise2とアフィマーとを連結させた。具体的には、cpmTurquoise2のC末端に存在する3/10ヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで連結させて融合タンパク質を設計した。
【0055】
cpmTurquoise2としては、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。アフィマーとしては、実施例1と同じアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号7に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とをアラニン(A)を介してインフレームで連結し、これによって配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するcpmTurquoise2とアフィマーとの融合タンパク質を設計した。配列番号8は、C末端にHAタグのアミノ酸配列を含む。
【0056】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(アバランシェ-エブリデートランスフェクション試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図4に示される通りであった。
図4に示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このことから、cpmTurquoise2のC末端に存在する3/10ヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで連結させて得た融合タンパク質もまた、偏光を示すものであった。
【0057】
上記実施例1~3から、蛍光タンパク質のC末端のヘリックスと、アフィマーのN末端のヘリックスとを連結する戦略は、蛍光の偏光面をアフィマーに対して固定することができ、標的タンパク質(すなわち、アフィマーの抗原)を蛍光偏光観察する新しい手法を提供するものとなる。
【0058】
実施例4:蛍光標識されるタグとアフィマーとの融合タンパク質の設計と観察
上記実施例に開示した戦略を用いて、蛍光標識されるタグとアフィマーとを連結させた。蛍光標識されるタグとしてはハロタグを用いた。ハロタグは、細胞膜透過性の様々な蛍光リガンドと結合することができるタンパク質標識技術である。ハロタグとアフィマーとを連結させることによって、所望の抗原に対してハロタグを導入することができるが、上記実施例に開示した戦略を用いることで蛍光偏光観察への適用を試みた。
【0059】
(1)融合タンパク質(1つ目)
ハロタグとしては、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質を用いた。アフィマーとしては、実施例1と同じアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とを配列番号10のアミノ酸配列を有するヘリックスリンカーを介してインフレームで連結し、これによって配列番号11に記載のアミノ酸配列を有するハロタグとアフィマーとの融合タンパク質を設計した。ハロタグは、
図5に示されるようにC末端にαヘリックス構造を有する。本実施例では、このC末端のαヘリックスとアフィマーのN末端のαヘリックスとを上記ヘリックスリンカーを介して連結させた(
図5参照)。
【0060】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。ハロタグリガンドとしては、オレゴングリーンリガンドを用いて、蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図6Aに示される通りであった。
図6Aに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このことから、ハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで直接的に連結させて得た融合タンパク質もまた、偏光を示すものであった。偏光を示すということから、蛍光色素とハロタグ、アフィマーとの相互の結合がタイトに固定されており、その結合には柔軟性がほとんどないものと考えられる。
【0061】
このことから、本実施例の戦略によってハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとを連結させると、アフィマーに対してハロタグが硬く結合することによって、ハロタグに結合する蛍光標識を介して蛍光偏光観察が可能となることが明らかとなった。
【0062】
(2)融合タンパク質(2つ目;巻き数変更)
αヘリックスは、3.5アミノ酸で1巻きするタンパク質の二次構造である。αヘリックス同士をアミノ酸をずらして連結させること(巻き数変更)によって、偏光面が回転するのかを確認した。
【0063】
ハロタグとしては、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。アフィマーとしては、実施例1と同じアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とを配列番号12のアミノ酸配列を有するヘリックスリンカーを介してインフレームで連結し、これによって配列番号13に記載のアミノ酸配列を有するハロタグとアフィマーとの融合タンパク質を設計した。
図6Aに示された融合タンパク質とはヘリックスリンカーの長さが1アミノ酸相違する(すなわち回転角が約100度異なる)。
図6Aと
図6Bとを比較すると理解できるように、ハロタグに対するアフィマーの結合角が
図6Aと
図6Bの融合タンパク質では異なる。
【0064】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。ハロタグリガンドとしては、オレゴングリーンリガンドを用いて、蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図6Bに示される通りであった。
図6Bに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このことから、ハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで直接的に連結させて得た融合タンパク質もまた、偏光を示すものであった。
【0065】
このことから、ハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとは、巻き数を変更して連結させても蛍光偏光標識戦略として成立することが明らかとなった。
図6Aおよび
図6Bに開示されたモデルによれば、巻き数を変更することによって、偏光の回転角を自由に変えることが原理的に可能であることが明らかである。
【0066】
(3)融合タンパク質(3つ目;更なる巻き数変更)
αヘリックス同士をアミノ酸を更にずらして連結させた(更なる巻き数変更)。
【0067】
ハロタグとしては、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。アフィマーとしては、実施例1と同じアミノ酸配列を有するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列とを配列番号14のアミノ酸配列を有するヘリックスリンカーを介してインフレームで連結し、これによって配列番号15に記載のアミノ酸配列を有するハロタグとアフィマーとの融合タンパク質を設計した。
図6Aに示された融合タンパク質とはヘリックスリンカーの長さが2アミノ酸相違する(すなわち回転角が約200度異なる)。
図6Aと
図6Bと
図6Cとを比較すると理解できるように、ハロタグに対するアフィマーの結合角が
図6Aと
図6Bと
図6Cの融合タンパク質では異なる。
【0068】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。ハロタグリガンドとしては、オレゴングリーンリガンドを用いて、蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図6Cに示される通りであった。
図6Cに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるアクチン線維束が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このことから、ハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとをインフレームで直接的に連結させて得た融合タンパク質もまた、偏光を示すものであった。なお、ハロタグリガンドとして、オレゴングリーンリガンドに代えて、TMRリガンド、HMSiRリガンドを用いても強い偏光が観察され、ハロタグリガンドに用いられる蛍光物質によらずに偏光の観察が可能であった。
【0069】
このことから、ハロタグのC末端に存在するαヘリックスと、アフィマーのN末端に存在するαヘリックスとは、巻き数を変更して連結させても蛍光偏光標識戦略として成立することがさらに確認された。
【0070】
実施例5:円順列変異体cp-sfGFPとナノボディとの融合タンパク質の設計と観察
本実施例では、蛍光タンパク質とナノボディの融合タンパク質を設計した。
【0071】
ナノボディは、ヒト、ウサギ、及びマウスなどに見られる一般的な抗体(重鎖と軽鎖を有する抗体)とは異なり、重鎖のみからなる抗体(例えば、サメやギンザメなどの軟骨魚類やラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカなどの抗体)は、重鎖可変領域のみで抗原に結合することができるものと、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とに由来するものがある。これらの可変領域を含むペプチドは、分子量が通常のIgG抗体の10分の1ほど(おおよそ12~15kDa)であり、ナノボディと呼ばれる。ファージディスプレイなどの技法によって、所望の抗原に対して結合親和性を示すナノボディを設計することができることも明らかになっている。
【0072】
sfGFP(superfolder GFP)は、オワンクラゲから得られるGFPの改変体である。細胞内で迅速に構造形成(folding)することが特徴とされる。本実施例では、このsfGFPとナノボディとをβシート同士で連結することを試みた。ナノボディはC末端にβシートを有するので、N末端にβシートを有する円順列変異体cp-sfGFP(詳細には、cp10/8(10/9)sfGFP)を構築した。
【0073】
N末端にβシートを有する円順列変異体cp-sfGFPは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。ナノボディとしては、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する、ビメンチンに結合するナノボディを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するcp-sfGFPのN末端のβシートと、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する、ビメンチンに結合するナノボディのC末端のβシートとを連結させて、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。配列番号17に記載のアミノ酸配列は、N末端にHisタグとT7タグを有する。
図7Aに予想される融合タンパク質の構造モデルを示す。このモデルでは、ナノボディが抗原に結合する部位は、蛍光タンパク質とは反対方向に存在し、抗原への接近可能性が担保されている。
【0074】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(アバランシェ-エブリデートランスフェクション試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図7Bに示される通りであった。
図7Bに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるビメンチン繊維が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるビメンチン繊維が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このように、作製した融合タンパク質は、ビメンチン繊維を染色することができた上に、その蛍光は偏光を示した。
【0075】
このことから、cp-sfGFPのN末端のβシートとナノボディのC末端のβシートとを連結させて融合タンパク質を得る戦略は、蛍光偏光標識に有用であり得ることが示唆された。
【0076】
実施例6:ナノボディとcp176-172mVenusとの融合タンパク質の設計と観察
また、ビメンチンに結合するナノボディ(配列番号16)とcp176-172mVenus(配列番号30)とをVVを介して連結した融合タンパク質(配列番号31、配列番号31に記載のアミノ酸配列は、N末端にHisタグとT7タグを有する。)を設計し(
図7Cの上のパネル参照)、実施例5と同様にHeLa細胞に発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察したところ、
図7Cに示されるように、細胞内のビメンチンを観察することができ、かつ、その蛍光は偏光を示した。その偏光の方向は、先のcp-sfGFPの場合と異なっていた。実施例5のcp-sfGFPと本実施例で用いたcp176-172mVenusとは、基本的に同じタイプの蛍光タンパク質であるが、cpの位置において相違する。従って、本実施例では、様々な場所で蛍光タンパク質の円順列変異体を作成することで、偏光の角度を変えることができることが示された。
【0077】
実施例7:mAppleとナノボディとの融合タンパク質の設計と観察
そこで次に、別の蛍光タンパク質であるmAppleとナノボディとの融合タンパク質を設計した。
【0078】
mAppleは、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を用いた。ナノボディとしては、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する、ビメンチンに結合するナノボディを用いた。遺伝子工学的手法により、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するmAppleのN末端のβシートと、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する、ビメンチンに結合するナノボディのC末端のβシートとを、フレキシブルではないリンカー(「硬いリンカー」)を介して連結させて、配列番号19に記載のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。配列番号19に記載のアミノ酸配列は、N末端にHisタグとT7タグを有する。
図8Aに予想される融合タンパク質の構造モデルを示す。このモデルでは、ナノボディが抗原に結合する部位は、蛍光タンパク質とは反対方向に存在し、抗原への接近可能性が担保されている。
【0079】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(アバランシェ-エブリデートランスフェクション試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図8Bに示される通りであった。
図8Bに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察されるビメンチン繊維が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察されるビメンチン繊維が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このように、作製した融合タンパク質は、ビメンチン繊維を染色することができた上に、その蛍光は偏光を示した。
【0080】
このように、ナノボディのC末端のβシート構造を利用し、蛍光タンパク質のN末端に存在するβシート構造と連結させることにより、偏光性を喪失することなく、ナノボディの蛍光タンパク質標識が可能であることが明らかである。
【0081】
実施例8:cp-sfGFPとscFvとの融合タンパク質の設計と観察
本実施例では、N末端にβシート構造を有するcp-sfGFPを設計し、scFvのC末端に存在するβシート構造と連結させて、融合タンパク質を得た。
【0082】
scFvは、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とをフレキシブルなリンカーで連結した構造を有するタンパク質である。抗体から遺伝子工学的手法により作製する場合には、当該抗体の結合特性を維持させることができる。現在では、scFvをファージディスプレイで作製する手法が周知であり、これにより所望の抗原に対して所望の結合特性を有するscFvを入手することができる。
【0083】
cp-sfGFPとしては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するsfGFPの円順列変異体を用いた。scFvとしては、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有する、非筋ミオシンIIAに結合するscFvを用いた。遺伝子工学的手法によって、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するsfGFPのN末端のβシート構造と、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するscFvのC末端のβシート構造とを直接的に連結させて、配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。配列番号21に記載のアミノ酸配列は、N末端にHisタグとT7タグを有する。この融合タンパク質の予想される立体構造は
図9Aにされる。scFvの融合タンパク質の抗原認識部位は、融合させたcp-sfGFPとは反対側に露出しており、抗原認識部位に対する抗原の接近可能性は担保された。
【0084】
設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(アバランシェ-エブリデートランスフェクション試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。結果は、
図9Bに示される通りであった。
図9Bに示されるように、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が弱く観察される部分が、観察偏光面が縦であるときに蛍光強度が強く観察される一方で、観察偏光面が横であるときに蛍光強度が強く観察される部分が、観察偏光面が縦であるときに弱く観察される様子が認められた。このように、作製した融合タンパク質は、ミオシンを染色することができた上に、その蛍光は偏光を示した。
【0085】
さらに、scFv(配列番号20)とcp176-172mVenus(配列番号30)とをVVを介して連結した融合タンパク質(配列番号32)を設計し(
図9Cの上のパネル参照)、同様にHeLa細胞に発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察したところ、
図9Cに示されるように、細胞内のミオシンを観察することができ、かつ、その蛍光は偏光を示した。その偏光の方向は、先のcp-sfGFPの場合と異なっていた。本実施例のcp-sfGFPとcp176-172mVenusとは、基本的に同じタイプの蛍光タンパク質であるが、cpの位置において相違する。従って、本実施例では、様々な場所で蛍光タンパク質の円順列変異体を作成することで、偏光の角度を変えることができることが示された。
【0086】
このように、scFvのC末端のβシート構造を利用し、蛍光タンパク質のN末端に存在するβシート構造と連結させることにより、偏光性を喪失することなく、scFvの蛍光タンパク質標識が可能であることが明らかである。
【0087】
実施例9:アフィマーとmScarletの融合タンパク質の設計と観察
mScarletのN末端を削り、アフィマーのC末端のβシートと連結させて、アフィマーとmScarletとの融合タンパク質を得た。mScarletとしては、N末端のアミノ酸を削り込んで作成した配列番号36に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質を用いた。アフィマーとしては、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するアクチンに結合するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法によって、これらを連結させ、配列番号37に記載されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。
【0088】
得られた融合タンパク質は、
図11に記載の3次元構造モデルにより示されている。設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。
【0089】
結果は、
図11に示される通りであった。
図11に示されるように、縦の偏光および横の偏光による観察像が異なる結果となり、このことから、得られた融合タンパク質は、偏光顕微鏡観察下において抗原(アクチン)に結合して偏光を示す蛍光タンパク質であることが明らかとなった。
【0090】
実施例10:アフィマーとmNeonGreenの融合タンパク質の設計と観察
mNeonGreenのN末端のβシートを露出させ、アフィマーのC末端のβシートと連結させて、アフィマーとmNeonGreenとの融合タンパク質を得た。mNeonGreenとしては、N末端のアミノ酸を削り込んで作成した配列番号38に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質を用いた。アフィマーとしては、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するアクチンに結合するアフィマーを用いた。遺伝子工学的手法によって、これらを連結させ、配列番号39に記載されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を設計した。
【0091】
得られた融合タンパク質は、
図12に記載の3次元構造モデルにより示されている。
図12では、アフィマーのC末端のβシートと、mNeonGreenのN末端のβシートが一連のβシートを形成しているようすが認められる。設計した融合タンパク質をコードするDNAを適切なプロモーター下に配置した発現ベクターをリポフェクション法(リポフェクタミン3000試薬)によって導入することにより、HeLa細胞に上記融合タンパク質を発現させた。蛍光偏光顕微鏡下で融合タンパク質を発現した細胞を観察した。
【0092】
結果は、
図12に示される通りであった。
図12に示されるように、縦の偏光および横の偏光による観察像が異なる結果となり、このことから、得られた融合タンパク質は、偏光顕微鏡観察下において抗原(アクチン)に結合して偏光を示す蛍光タンパク質であることが明らかとなった。
【0093】
実施例11:タンパク質にALFAタグを導入して偏光蛍光観察をする手法
本実施例では、観察対象のタンパク質に対する結合タンパク質を取得することなく、当該タンパク質の蛍光偏光観察を可能とする手法の構築を試みた。具体的には、観察対象のタンパク質をALFAタグ(アルファタグ)で標識し、ALFAタグに結合するナノボディでこれを検出する系を構築した。
【0094】
具体的には、上記検出系の検証のためのモデル系として、F-アクチンに結合するアフィマー(配列番号2)にALFAタグ(配列番号40)を導入して、配列番号41に記載のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を得た。この融合タンパク質の3次元構造モデルは、
図13に示される通りであった。この融合タンパク質をHeLaM細胞に発現させた。これに対して、抗ALFAタグナノボディ(配列番号42)とcp176-172mVenusの融合タンパク質(配列番号43)と接触させ、蛍光偏光観察を行った。抗ALFAタグナノボディとcp176-172mVenusの融合タンパク質は、ナノボディとcp176-172mVenusとが硬く連結した融合タンパク質であり、蛍光偏光観察に適したものである(参考:実施例5)。
【0095】
結果は、
図13に示される通りであった。
図13に示されるように、縦の偏光および横の偏光による観察像が異なる結果となり、このことから、得られた融合タンパク質は、偏光顕微鏡観察下において抗原(アクチン)に結合して偏光を示す蛍光タンパク質であることが明らかとなった。本実施例の実施形態においてはまず、F-アクチンをアフィマーが硬く認識している。次に、アフィマーとALFAタグが硬く連結しており、かつ、ALFAタグをナノボディが硬く認識している。これにより、いずれのタンパク間相互作用も、タンパク質間の連結も硬いものとなっていて、F-アクチンをcp176-172mVenusの蛍光偏光を用いて観察できたということが結論できた。
【0096】
実施例12:他の実施例
その他、以下表1の融合タンパク質を設計して同様に蛍光偏光標識が可能かを確認した。下記のいずれにおいても、抗原を蛍光標識することができた上に、その蛍光は明らかに偏光を示し、蛍光偏光標識として利用可能であることが確認された。また、抗原結合タンパク質としてアフィマー、ナノボディ、およびscFvを用いることができた。なお、表1において、ユトロフィンは、アクチンに結合するタンパク質として知られたタンパク質である。
【表1】
【0097】
以上の通り、本実施例で設計した融合タンパク質は、いずれも抗原の蛍光観察に適する上に、いずれも蛍光の偏光観察に適していた。偏光観察においては、蛍光標識と抗原とが硬く(constrained)に連結していることが有利であると考えられる。
【0098】
本実施例の結果によれば、蛍光偏光標識をする際に、蛍光タンパク質もしくは蛍光標識されるタグタンパク質の末端のヘリックス構造と抗原結合タンパク質の末端のヘリックス構造とを連結させること、および蛍光タンパク質の末端のβシート構造と抗原結合タンパク質の末端のβシート構造とを連結させることが有効であり得る。また、末端にヘリックスまたはβシート構造を有しない蛍光タンパク質に関しては、例えば、末端にヘリックスまたはβシート構造を有するように蛍光タンパク質の円順列変異体を作製することは、有用なタンパク質改変技術であり得る。
さらには、ヘリックス同士は、直接連結してもよく、ヘリックス構造を有しうるリンカーを介して連結してもよいことが明らかとなった。ヘリックス構造を有しうるリンカーを介して連結する場合には、その長さを1アミノ酸変更することによって、融合タンパク質における2つのタンパク質部分の結合角を約100度回転させることができ、融合タンパク質の作製技術の戦略の幅を広げるものとなり得る。また、βシート構造同士を連結する場合にも、直接連結してもよく、末端を削除して連結してもよく、または、バリン(V)などの硬いアミノ酸残基を介して連結してもよいことが明らかとなった。偏光観察においては、蛍光標識と抗原とが硬く(constrained)に連結していることが有利であるが、偏光観察に対しては、本実施例で示した様々な連結方法がいずれも有効であることが明らかとなった。
【0099】
配列表
配列番号1:cp-sfGFPのアミノ酸配列の一例
配列番号2:アクチンに結合するアフィマーのアミノ酸配列の一例
配列番号3:ヘリックスリンカーのアミノ酸配列の一例
配列番号4:cp-sfGFPとアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号5:cpmVenusのアミノ酸配列の一例
配列番号6:cpmVenusとアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号7:cpmTurquoise2のアミノ酸配列の一例
配列番号8:cpmTurquoise2とアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号9:ハロタグのアミノ酸配列の一例
配列番号10:ヘリックスリンカー2のアミノ酸配列の一例
配列番号11:ハロタグとアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号12:ヘリックスリンカー3のアミノ酸配列の一例
配列番号13:ハロタグとアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号14:ヘリックスリンカー4のアミノ酸配列の一例
配列番号15:ハロタグとアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号16:ビメンチンに結合するナノボディのアミノ酸配列の一例
配列番号17:ナノボディとcp-sfGFPとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号18:mAppleのアミノ酸配列
配列番号19:ナノボディとmAppleとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号20:非筋ミオシンIIAに結合するscFvのアミノ酸配列の一例
配列番号21:scFvとcp-sfGFPとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号22:miRFP670のアミノ酸配列
配列番号23:ヘリックスリンカー5のアミノ酸配列の一例
配列番号24:miRFP670とアフィマーとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号25:ナノボディとcpmTurquoise2との融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号26:ナノボディとcpmVenusとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号27:scFvとcpmTurquoise2との融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号28:Haloalkane dehalogenaseのアミノ酸配列
配列番号29:Haloalkane dehalogenaseのH272F変異体のアミノ酸配列
配列番号30:cp176-172mVenusのアミノ酸配列の一例
配列番号31:ナノボディとcp176-172mVenusとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号32:scFVとcp176-172mVenusとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号33:ユトロフィンのアクチン結合部位のアミノ酸配列の一例
配列番号34:mEGFPのアミノ酸配列の一例
配列番号35:ユトロフィンのアクチン結合部位とmEGFPとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号36:N末端を切除したmScarletの断片のアミノ酸配列の一例
配列番号37:アクチンに結合するアフィマーとmScarletとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号38:N末端を切除したmNeonGreenの断片のアミノ酸配列の一例
配列番号39:アクチンに結合するアフィマーとmNeonGreenとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
配列番号40:ALFAタグのアミノ酸配列の一例
配列番号41:ALFAタグが導入されたアフィマーのアミノ酸配列の一例
配列番号42:抗ALFAタグナノボディのアミノ酸配列の一例
配列番号43:抗ALFAタグナノボディとcp176-172mVenusとの融合タンパク質のアミノ酸配列の一例
【配列表】