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特許7562160強誘電体におけるキラリティの熱的及び電磁的発生及びスイッチング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】強誘電体におけるキラリティの熱的及び電磁的発生及びスイッチング
(51)【国際特許分類】
   B82B 3/00 20060101AFI20240930BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240930BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B82B3/00
B82Y40/00
H01L29/06 601N
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022138984
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2023050116
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】21199906
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521124319
【氏名又は名称】テラ クアンタム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TERRA QUANTUM AG
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】ルキヤンチュク・イーゴリ
(72)【発明者】
【氏名】チーホノフ・ユーリイ
(72)【発明者】
【氏名】ラスムナジャ・アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィノコール・ヴァレリー
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-078560(JP,A)
【文献】特開2015-072427(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230893(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 3/00
B82Y 40/00
H01L 29/82
G02F 1/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のキラリティを有するナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を生成する方法であって、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)は、高温状態及び低温強誘電状態を提供するように適合されており、且つ、残留分極を提供するように適合されており、第1の方向に沿った前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)の第1の延伸寸法は、最大1000nmであり、
前記低温強誘電状態において、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)は、複数の分極状態からの分極状態を有し、
前記複数の分極状態は、少なくとも、第1のキラリティ(102R)を有する第1のキラル分極状態と、前記第1のキラリティ(102R)とは異なる第2のキラリティ(102L)を有する第2のキラル分極状態とを含み、
前記方法は、
前記第1のキラリティ(102R)及び前記第2のキラリティ(102L)から前記所定のキラリティを選択することと、
前記所定のキラリティに従って電磁場(506,604,604’,604’’)を選択することと、
前記高温状態の前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を提供することと、
前記高温状態の前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に前記電磁場(506,604,604’,604’’)を印加することと、
前記電磁場(506,604,604’,604’’)を印加しながら、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を前記高温状態から前記低温強誘電状態に冷却して、前記所定のキラリティを有する前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)の前記分極状態を確立することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の延伸寸法が、最大100nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高温状態が、高温における常誘電状態又は強誘電状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記低温強誘電状態が、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)の室温状態に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電磁場(506)を印加することが、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に電磁波(506)を照射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電磁波(506)が楕円偏波であり、前記楕円偏波である前記電磁波(506)のキラリティ(508)が前記所定のキラリティに対応する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
記電磁場(506,604,604’,604’’)を印加しながら、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を基板(302)によって支持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)が冷却されている間、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)が固体又は液体マトリックス(302’)によって取り囲まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を前記高温状態から前記低温強誘電状態に冷却する間及び/又は冷却後に、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に不均一電磁場を印加して、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を前記所定のキラリティに関連する位置に輸送することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記不均一電磁場(506,604,604’,604’’)が、フィールド分極(508,508’)を有し、前記方法が、前記所定のキラリティに従って前記フィールド分極(508,508’)を選択することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電磁場(604,604’,604’’)を印加することが、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)の対向する両側に配置された電極(602,602’,602’’,606)に電圧(U,-U)を印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記電極(602’’)の少なくとも一方が、前記電磁場(604’’)としてキラル電磁場(604’’)を提供するキラル形状を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記高温状態の前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を提供することが、
前記低温強誘電状態にあり、前記第1のキラリティ(102R)を有する前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を提供することと、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を前記高温状態に加熱することとを含み、
前記所定のキラリティが、前記第2のキラリティ(102L)である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)は、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムハフニウム、酸化ハフニウム、又は、シリコンがドープされた酸化ハフニウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
所定のキラリティを有するナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を生成するための装置であって、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を受け入れるように適合されている保持要素(302,302’)と、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を高温状態に加熱するように適合されている加熱要素(502,504)と、
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)が前記高温状態にある間に、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に電磁場(506,604,604’,604’’)を印加するように適合されている場印加要素(504,602,602’,602’’,606)と、
前記場印加要素を使用して前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に前記電磁場(506,604,604’,604’’)を印加しながら、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を、前記所定のキラリティを有する分極状態を有する低温強誘電状態に冷却するように適合されている冷却要素と
を備え
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)は、残留分極を提供するように適合されており、第1の方向に沿った前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)の第1の延伸寸法は、最大1000nmである、装置。
【請求項16】
電磁波(506)を生成するように適合されており、前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)に前記電磁波(506)を照射するようにさらに適合されている放射源(504)をさらに備え、
前記放射源(504)が、前記ナノ構造強誘電体を前記所定のキラリティに関連する位置に輸送し、及び/又は前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)を前記所定のキラリティとは異なるキラリティを有する第2のナノ構造強誘電体から分離するように適合されている光ピンセットに含まれる、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記ナノ構造強誘電体(300,300a,300b,300c,800,900a,900b)は、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムハフニウム、酸化ハフニウム、又は、シリコンがドープされた酸化ハフニウムを含む、請求項15または16に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノ構造強誘電体において分極場のキラリティを生成及びスイッチングするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
1894年にLord Kelvinによって導入されたキラリティ又は掌性は、鏡映対称性のない物体を記述する基本的な特性である。キラル物体のプロトタイプの例は、人間の手である。左手は、右手の重ね合わせ不可能な鏡像である。2つの手は、どのように向けられても一致しない。数学的には、回転及び並進のいかなる組み合わせによってもその鏡像にマッピングすることができない場合、物体はキラルである(又はキラリティを有すると言われる)。キラリティは、エナンチオマーとも呼ばれるキラル物体の左手系及び右手系の修飾を区別する。グルコース、セルロース、及びDNA分子などの多種多様な有機物質が非鏡面対称であることを考えると、分子キラリティは、立体化学及び生化学における主要な概念である。キラル分子は、重ね合わせることができない鏡像を有する分子である。
【0003】
キラル材料は、キラル検知、光学活性、負の屈折率回転能、及び円偏光二色性などの優れたレーザ操作能力を有するため、キラリティは現代の材料科学の焦点である。これらの能力のために、キラル材料は、オプトエレクトロニクス及びプラズモニクスにおいて多様な用途を見出す。しかしながら、調整可能且つスイッチング可能なキラリティを有するキラルナノ材料の製造、すなわち、制御可能で構成可能なキラリティを有するナノスケールの無機及びハイブリッド物体の設計は、依然として課題である。新世代のキラルナノ材料のいくつかの例には、キラル金属粒子及びナノ結晶、DNA集合プラズモニックナノ構造、コア-シェルプラズモン球、及びスキャフォールド上に集合したキラルプラズモン粒子が含まれる。発生する問題は、キラルナノ材料が通常、平均キラル応答が消失する左手系粒子と右手系粒子とのラセミ混合物として製造されることである。しかし、実用的な用途では、モノキラリティを有する系が非常に望ましい。
【0004】
モノキラリティのナノ材料を達成する1つの方法は、エナンチオ選択的合成を導入することである。代替的な手法は、製造後にそれらのキラリティに従ってナノ材料をフィルタリング又は選別する。両方の手法が、ナノ粒子の工業的製造を実質的に複雑にする。
【0005】
これらの問題に取り組む可能な方法は、Luk’yanchuk他「Hopfions emerge in ferroelectrics」(Nat.Commun.11,2433(2020))及びTikhonov他「Controllable skyrmion chirality in ferroelectrics」(Sci.Rep.10,8657(2020))に概説されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高い技術的需要を考慮して、モノキラル系を作成し、これらの系のキラリティをスイッチング可能且つ調整可能にする方法が探求されている。対応する技法は、望ましいキラリティを有し、最も重要なことには、制御可能なキラリティを有するナノ構造体を製造することを可能にする。制御は、キラリティのスイッチング、調整、構成、及び再構成を含むことができる。特に、ナノ構造体の製造後に、及びナノ構造体の製造とは無関係に、単一のナノ構造体のキラリティを可逆的に複数回スイッチングする方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。請求項14は、所定のキラリティの分極状態を有するナノ構造強誘電体を生成するための装置に関する。従属請求項は、好ましい実施形態に関する。
【0008】
キラル分子から構成される材料は、非線形光学及びスピントロニクスから生物学及び医薬品にまで及ぶ分野において広範な用途が見出されている。しかしながら、キラリティは通常、容易に自由に変更することができない所与の材料の不変の固有の特性である。本開示は、ナノ構造強誘電体のキラリティを構成、スイッチング、及び調整して、様々な用途におけるそれらの広範な利用を確実にすることを可能にする方法を提示する。
【0009】
第1の態様では、ナノ構造強誘電体は、高温状態及び低温強誘電状態を提供するように適合される。低温強誘電状態では、ナノ構造強誘電体は複数の分極状態からの分極状態を有する。複数の分極状態は、少なくとも、第1のキラリティを有する第1のキラル分極状態、及び、第1のキラリティとは異なる第2のキラリティを有する第2のキラル分極状態を含む。所定のキラリティを有するナノ構造強誘電体を生成するための方法は、第1のキラリティ及び第2のキラリティから所定のキラリティを選択することと、所定のキラリティに従って電磁場を選択することと、高温状態のナノ構造強誘電体を提供することと、高温状態のナノ構造強誘電体に電磁場を印加することと、電磁場を印加しながら、ナノ構造強誘電体を高温状態から低温強誘電状態に冷却して、所定のキラリティを有するナノ構造強誘電体の分極状態を確立することとを含む。
【0010】
ナノ構造強誘電体の分極状態は、スイッチング可能なキラリティを提供する。スイッチング可能なキラル分極構造は、例えば、特に偏光依存光学制御及び/又は読み出しを使用して、sストレージ及び検知用途に適用することができる。この温度変化プロトコルは、強誘電状態と高温状態との間の遷移にわたってナノ構造をとり、異なるキラリティを有する分極状態間のエネルギー障壁が低減される。したがって、本方法は、所定のキラリティに従って選択された電磁場を使用して、ナノ構造強誘電体を所定のキラリティを有する分極状態に確実に駆動することができる。
【0011】
したがって、本方法は、ナノ構造強誘電体の分極状態の制御可能なキラリティを提供することができる。制御可能なキラリティは、調整可能、スイッチング可能、及び/又は再構成可能なキラリティを含んでもよい。特に、制御可能なキラリティは、複数回、且つ/又は、ナノ構造強誘電体の初期製造とは無関係に、調整可能、スイッチング可能、及び/又は再構成可能であってもよい。
【0012】
熱処理なしの方法と比較して、開示されている方法は、確実なスイッチングに必要な電磁場の大きさを低減する。
【0013】
ナノ構造強誘電体は、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムハフニウム又は酸化ハフニウム、特に例えばシリコンでドープされたドープ酸化ハフニウムを含んでもよい。
【0014】
ナノ構造強誘電体は、マルチフェロイック材料を含んでもよい。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、複数の分極状態に含まれる任意の分極状態は、第1のキラリティ又は第2のキラリティのいずれかを有する。
【0016】
実施形態によれば、第1の方向に沿ったナノ構造強誘電体の第1の延伸寸法は、最大1000nm、特に最大200nm、最大100nm、又は最大80nmである。
【0017】
第2の方向に沿ったナノ構造強誘電体の第2の延伸寸法は、最大1000nm、特に最大200nm、最大100nm、又は最大80nmであってもよい。特に、第2の方向は、第1の方向に対して垂直であってもよい。
【0018】
第3の方向に沿ったナノ構造強誘電体の第3の延伸寸法は、最大1000nm、特に最大200nm、最大100nm、又は最大80nmであってもよい。特に、第3の方向は、第1の方向及び/又は第2の方向に垂直であってもよい。
【0019】
ナノ構造強誘電体は層であってもよく、第1の延伸寸法は層の厚さに対応してもよい。
【0020】
ナノ構造強誘電体は角柱の形状を有してもよく、第1の延伸寸法は角柱の高さに対応してもよい。
【0021】
ナノ構造強誘電体は、ロッドの形状を有してもよい。第1の延伸寸法、第2の延伸寸法、又は第3の延伸寸法は、角柱の高さに対応してもよい。第1の延伸寸法、第2の延伸寸法、又は第3の延伸寸法は、ロッドの幅に対応してもよい。第1の延伸寸法、第2の延伸寸法、又は第3の延伸寸法は、ロッドの長さに対応してもよい。
【0022】
いくつかの実施態様において、ナノ構造強誘電体は、ディスクの形状を有してもよい。第1の延伸寸法又は第2の延伸寸法は、ディスクの直径に対応してもよい。第1の延伸寸法又は第2の延伸寸法は、ディスクの高さに対応してもよい。
【0023】
角柱は、直方体であってもよく、第2の延伸寸法は、直方体の長方形底辺の辺の長さに対応してもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、ナノ構造強誘電体は球の形状を有してもよく、第1の延伸寸法は球の直径に対応してもよい。
【0025】
他の実施形態では、ナノ構造強誘電体はピラミッドの形状を有してもよく、第1の延伸寸法はピラミッドの辺の長さに対応してもよい。
【0026】
高温状態は常誘電状態であってもよい。
【0027】
高温状態では、ナノ構造強誘電体はアキラル分極状態を有してもよい。
【0028】
冷却は、ナノ構造強誘電体のキュリー温度より高い温度からナノ構造強誘電体のキュリー温度より低い温度までナノ構造強誘電体を冷却することを含んでもよい。
【0029】
低温状態は、ナノ構造強誘電体の室温状態に対応してもよい。
【0030】
電磁場を印加することは、ナノ構造強誘電体に電磁波を照射することを含んでもよい。
【0031】
電磁波は、マイクロ波、テラヘルツ、赤外線、可視光線、紫外線、又はX線放射を含んでもよい。
【0032】
電磁波の中心波長は、少なくとも190nm、特に少なくとも250nm、特に少なくとも370nm、特に少なくとも700nmであってもよい。
【0033】
電磁波の中心波長は、最大3000nm、特に最大1400nm、最大1100nm、又は最大980nmであってもよい。
【0034】
中心波長は、電磁波のすべての波長の加重平均に対応してもよい。
【0035】
電磁波は、特に、最大1ns、特に最大300ps、最大100ps、最大40ps、最大10ps又は最大2psのパルス持続時間を有するパルス電磁波であってもよい。
【0036】
実施形態によれば、ナノ構造強誘電体におけるパルス電磁波のパルス及び面積当たりのエネルギーは、100mJ/cmを超えず、特に70mJ/cmを超えず、又は40mJ/cmを超えない。
【0037】
高温状態のナノ構造強誘電体を提供することは、電磁波を使用してナノ構造強誘電体を加熱することを含んでもよい。
【0038】
電磁波は楕円偏波であってもよい。楕円偏波電磁波のキラリティは、所定のキラリティに対応し得る。
【0039】
電磁波は円偏波であってもよい。円偏波電磁波のキラリティは、所定のキラリティに対応し得る。
【0040】
楕円偏波又は円偏波電磁波は、第1のキラリティを有する第1のキラル分極状態を、第2のキラリティを有する第2のキラル分極状態よりもエネルギー的に有利にする刺激を提供することができる。これにより、ナノ構造強誘電体が、低温強誘電相への冷却時に第1のキラル分極状態を発現する確率が高まる。
【0041】
本方法は、特に電磁場を印加しながら、及び/又はナノ構造強誘電体を冷却しながら、基板によってナノ構造強誘電体を支持することをさらに含んでもよい。
【0042】
基板は、ナノ構造強誘電体と直接接触していてもよく、ナノ構造強誘電体内に応力又は歪みを誘起するように適合されていてもよい。特に、実施形態において、ナノ構造強誘電体は、チタン酸鉛及び/又はチタン酸ジルコン酸鉛を含み、及び/又は基板は、チタン酸ストロンチウムを含む。
【0043】
基板は、ナノ構造強誘電体に歪み又は応力を誘起することができ、これは、ナノ構造強誘電体のキラル基底状態(複数可)を調整するために使用することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、基板は、ナノ構造強誘電体を冷却するプロセスステップにおいて、ナノ構造強誘電体から熱を吸収するように適合され得る。
【0045】
基板は、高温状態のナノ構造強誘電体を提供するプロセスステップにおいて、電磁波からエネルギーを吸収し、ナノ構造強誘電体にエネルギーを提供するように適合され得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、基板は、電磁波を誘起するように、特に電磁波をナノ構造強誘電体に向けて反射するように適合され得る。
【0047】
ナノ構造強誘電体は、基板の上に配置された強誘電体層であってもよい。
【0048】
少なくとも1つの追加の層、特に強誘電体ではない少なくとも1つの追加の層が、ナノ構造強誘電体の上に配置されてもよい。
【0049】
第2のナノ構造強誘電体が、少なくとも1つの追加の層の上に配置されてもよい。第2のナノ構造強誘電体は、第2の強誘電体層であってもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、中間層、特に誘電体中間層、例えば強誘電体ではない誘電体中間層が、基板と強誘電体層との間に配置されてもよい。
【0051】
強誘電体層は、複数の強誘電体層及び複数の追加の層を含む積層多層構造体に含まれてもよい。特に、追加の層は強誘電性でなくてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、積層多層構造体は、強誘電体層と追加の層との交互の構成を含んでもよい。
【0053】
基板は、高温状態のナノ構造強誘電体を提供するプロセスステップにおいて、ナノ構造強誘電体に熱を伝達するように適合され得る。
【0054】
ナノ構造強誘電体は、ナノ構造強誘電体を冷却している間、固体又は液体マトリックスによって取り囲まれてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、固体又は液体マトリックスは、ナノ構造強誘電体を冷却するプロセスステップにおいて、ナノ構造強誘電体から熱を吸収するように適合され得る。
【0056】
固体又は液体マトリックスは、電磁波に対して透過性であるように適合されてもよい。
【0057】
固体又は液体マトリックスは、高温状態のナノ構造強誘電体を提供するプロセスステップにおいて、ナノ構造強誘電体に熱を伝達するように適合され得る。
【0058】
電磁場は、不均一電磁場であってもよい。
【0059】
本方法は、ナノ構造強誘電体を高温状態から低温強誘電状態に冷却する間及び/又は冷却後に、ナノ構造強誘電体に不均一電磁場を印加して、ナノ構造強誘電体を所定のキラリティに関連する位置に輸送することをさらに含むことができる。
【0060】
不均一電磁場を印加することは、ナノ構造強誘電体に、又はその近傍に位置する焦点に電磁波を集束させることを含んでもよい。
【0061】
本方法は、不均一電磁場を使用してナノ構造強誘電体を表面から持ち上げることをさらに含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、本方法は、所定のキラリティとは異なるキラリティを有する第2のナノ構造強誘電体に不均一電磁場を印加して、第2のナノ構造強誘電体を所定のキラリティに関連する位置とは異なる第2の位置に輸送することをさらに含むことができる。
【0063】
特に、本方法は、不均一電磁場をナノ構造強誘電体と第2のナノ構造強誘電体とに同時に印加して、ナノ構造強誘電体と第2のナノ構造強誘電体とを分離することを含むことができる。
【0064】
基板は導電性であり得、不均一電磁場を印加すると、基板内、特に基板の表面においてプラズモン励起が誘起され得る。プラズモン励起は、ナノ構造強誘電体と、所定のキラリティとは異なるキラリティを有する第2のナノ構造強誘電体とを、それらの分極状態のキラリティに従って分離するように適合することができる。
【0065】
不均一電磁場を印加することは、光ピンセットを使用することを含んでもよい。
【0066】
いくつかの実施形態では、不均一電磁場を印加することは、プラズモンピンセット、特に0.1~5fN/(μm・W)の範囲又は0.1~1fN/(μm・W)の範囲内のプラズモントラップ剛性を有するプラズモニンピンセットを使用することを含んでもよい。
【0067】
不均一電場は、フィールド分極を有することができ、本方法は、所定のキラリティに従ってフィールド分極を選択することをさらに含むことができる。フィールド分極は、線形、楕円形又は円形であってもよい。
【0068】
フィールド分極を選択することは、円偏光若しくは楕円偏光の掌性を選択すること、又は直線偏光の方向を選択することを含んでもよい。
【0069】
電磁場を印加することは、ナノ構造強誘電体の対向する両側に配置された電極に電圧を印加することを含んでもよい。
【0070】
電極は、上記ナノ構造強誘電体を含む複数のナノ構造強誘電体の対向する両側に配置されてもよい。特に、複数のナノ構造強誘電体は、ナノ構造強誘電体のラセミ混合物であってもよい。
【0071】
実施形態によれば、正確に1つのナノ構造強誘電体が電極間に配置される。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、電極のうちの少なくとも1つは、最大1000nm、特に最大200nm、最大100nm、又は最大80nmの、第1の方向に沿った第1の電極延伸寸法を有する。
【0073】
実施形態によれば、電極のうちの少なくとも1つは、最大1000nm、特に最大200nm、最大100nm、又は最大80nmの第2の方向に沿った第2の電極延伸寸法を有し、第2の方向は、第1の方向とは異なってもよく、特に第2の方向に垂直であってもよい。
【0074】
電極のうちの少なくとも1つは、先端、特に導電性先端、特に走査型トンネル顕微鏡先端又は導電性原子間力顕微鏡先端を提供するように適合されている先端であってもよい。
【0075】
実施形態によれば、電場の絶対値は、100kV/cmを超えず、特に10kV/cmを超えない。
【0076】
電極のうちの少なくとも1つはキラル形状を有してもよい。
【0077】
いくつかの例では、ナノ構造強誘電体に近接する電極のうちの少なくとも1つにキラル分子を吸着させることができる。特に、キラル分子は、ナノチューブ、例えばカーボンナノチューブであってもよい。
【0078】
電極の少なくとも1つは、キラル歪みを有する先端、特に、キラル歪みを有する走査型トンネル顕微鏡先端又は導電性原子間力顕微鏡先端などの、キラル歪みを有する導電性先端であってもよい。
【0079】
先端上のキラル分子、又は先端のキラル歪みは、冷却中にナノ構造強誘電体を所定のキラリティの分極状態に駆動する刺激として機能することができるキラル電場を提供することができる。
【0080】
高温状態のナノ構造強誘電体を提供することは、低温強誘電状態の、第1のキラリティを有するナノ構造強誘電体を提供することと、ナノ構造強誘電体を高温状態に加熱することとをさらに含んでもよい。所定のキラリティは、第2のキラリティであってもよい。
【0081】
本開示による方法は、異なる分極状態間の可逆的且つ反復可能なスイッチングを提供することができる。
【0082】
ナノ構造強誘電体を高温状態に加熱することは、抵抗加熱器を使用することを含んでもよい。
【0083】
抵抗加熱器は、ナノ構造強誘電体、又はナノ構造強誘電体を支持する基板、又はナノ構造強誘電体を取り囲む固体若しくは液体マトリックスと直接接触することができる。
【0084】
ナノ構造強誘電体を高温状態に加熱することは、マイクロ波加熱器を使用することを含んでもよい。
【0085】
ナノ構造強誘電体を高温状態に加熱することは、電磁波から吸収されるエネルギーを使用してもよい。エネルギーは、ナノ構造強誘電体によって電磁波から吸収することができる。
【0086】
代替的又は付加的に、エネルギーは、ナノ構造強誘電体を支持する基板によって、又はナノ構造強誘電体を取り囲む固体若しくは液体マトリックスによって電磁波から吸収されてもよく、本方法は、ナノ構造強誘電体を支持する基板によって、又はナノ構造強誘電体を取り囲む固体若しくは液体マトリックスによってナノ構造強誘電体にエネルギーを伝達することをさらに含んでもよい。
【0087】
第2の態様では、所定のキラリティを有するナノ構造強誘電体を生成するための装置が、保持要素と、加熱要素と、場印加要素と、冷却要素とを備える。保持要素は、ナノ構造強誘電体を受け入れるように適合されている。加熱要素は、ナノ構造強誘電体を高温状態に加熱する。場印加要素は、ナノ構造強誘電体が高温状態にある間、ナノ構造強誘電体に電磁場を印加するように適合されている。冷却要素は、場印加要素を用いてナノ構造強誘電体に電磁場を印加している間に、ナノ構造強誘電体を、所定のキラリティを有する分極状態を有する低温強誘電状態に冷却するように適合されている。
【0088】
ナノ構造強誘電体は、第1の態様による方法の文脈において上述した特徴の1つ又はすべてを特徴とすることができる。
【0089】
保持要素は、ナノ構造強誘電体を支持するように適合されている基板、特に導電性基板を備えてもよい。冷却要素は、基板を含んでもよい。
【0090】
特に、基板は、ナノ構造強誘電体から熱を吸収するように適合されてもよく、及び/又は、基板は、ナノ構造強誘電体と直接熱接触するように適合されてもよい。
【0091】
代替的又は付加的に、保持要素は、ナノ構造強誘電体を取り囲むように適合されている固体又は液体マトリックスを含んでもよい。冷却要素は、固体又は液体マトリックスを含んでもよい。
【0092】
特に、固体若しくは液体マトリックスは、ナノ構造強誘電体から熱を吸収するように適合されてもよく、及び/又は固体若しくは液体マトリックスは、ナノ構造強誘電体と直接熱接触するように適合されてもよい。
【0093】
加熱要素は、抵抗加熱器、特に保持要素と直接熱接触する抵抗加熱器、及び/又はナノ構造強誘電体と直接熱接触するように適合されている抵抗加熱器を含んでもよい。
【0094】
場印加要素は、ナノ構造強誘電体の対向する両側に配置された電極を含んでもよい。
【0095】
電極は、第1の態様による方法の電極の文脈において上述した特徴の1つ又はすべてを特徴とすることができる。
【0096】
本装置は、ナノ構造強誘電体の分極状態を監視するように適合されている、特にナノ構造強誘電体の分極状態のヘリシティ又はナノ構造強誘電体の分極状態のキラリティを監視するように適合されている監視要素をさらに備えることができる。
【0097】
監視要素は、プローブ電磁波の偏波を決定するように適合されているデバイス、特にプローブ電磁波のためのポラリメータを含んでもよい。監視要素は、プローブ電磁波を生成し、プローブ電磁波をナノ構造強誘電体に向け、ナノ構造強誘電体から反射した後又はナノ構造強誘電体を透過した後、プローブ電磁波を、プローブ電磁波の偏光を決定するように適合されているデバイスに向けるように適合されているプローブ光源をさらに備えることができる。
【0098】
本装置は、電磁波を生成し、ナノ構造強誘電体に電磁波を照射するように適合されている放射源をさらに備えることができる。
【0099】
放射源波は、加熱要素及び/又は電場印加要素を提供することができる。電磁波は、マイクロ波、テラヘルツ、赤外線、又は可視光放射を含んでもよく、又はそれらであってもよい。
【0100】
放射源は、光ピンセットに含まれてもよい。光ピンセットは、ナノ構造強誘電体を所定のキラリティに関連する位置に輸送するように適合されてもよい。代替的に又は付加的に、光ピンセットは、ナノ構造強誘電体を、所定のキラリティとは異なるキラリティを有する第2のナノ構造強誘電体から分離するように適合することができる。
【0101】
放射源は、プラズモンピンセットに含まれてもよい。プラズモンピンセットは、ナノ構造強誘電体の導電性基板を照射して、導電性基板内でプラズモン励起を誘起するように適合されてもよい。導電性基板内のプラズモン励起は、ナノ構造強誘電体と、所定のキラリティとは異なるキラリティを有する第2のナノ構造強誘電体とを分離するように適合することができる。代替的又は付加的に、導電性基板内のプラズモン励起は、プラズモントラップを生成するように適合されてもよい。プラズモントラップは、ナノ構造強誘電体と第2のナノ構造強誘電体とを分離するように適合されてもよい。
【0102】
電磁波は、プローブ電磁波を提供するように適合されてもよい。
【0103】
本装置は、電磁波をナノ構造強誘電体上に集束させるための集束光学系をさらに備えることができる。特に、集束光学系は、レンズ又は顕微鏡対物レンズを含んでもよい。
【0104】
集束光学系及び放射源は、受け入れ要素、特にナノ構造強誘電体を受け入れるように適合されている受け入れ要素の位置に不均一電磁場を生成するように適合されてもよい。不均一電磁場は、ナノ構造強誘電体の分極状態に関連する位置、特にナノ構造強誘電体の分極状態のキラリティに関連する位置にナノ構造強誘電体を輸送するように適合されてもよい。
【0105】
集束光学系及び放射源は、ナノ構造強誘電体を、その分極状態に従って、特にその分極状態のキラリティに従って移動させるように適合されている光ピンセットを提供することができる。
【0106】
いくつかの実施形態では、保持要素は導電性基板を含んでもよい。
【0107】
放射源及び集束光学系は、導電性基板内、特に導電性基板の表面においてプラズモン励起を誘起するように適合されてもよい。
【0108】
集束光学系、放射源、及び導電性基板は、その分極状態に従ってナノ構造強誘電体を移動させるように適合されているプラズモンピンセット、特に0.1~5fN/(μm・W)の範囲、又は0.1~1fN/(μm・W)の範囲内のプラズモントラップ剛性を有するプラズモンピンセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
本開示の技法及びそれと関連付けられる利点は、添付の図面による典型的な実施形態の説明から最も明らかになるであろう。
図1a】手の形態の左手系及び右手系エナンチオマーの例を示す図である。
図1b】螺旋の形態の左手系及び右手系エナンチオマーの例を示す図である。
図2】強誘電体のキラルドメイン壁を示す図である。
図3a】スキルミオンを含むキラル分極状態を有する薄い強誘電膜の形態のナノ構造強誘電体を示す図である。
図3b】渦を伴うキラル分極状態を有する薄い強誘電膜を有する多層構造の形態のナノ構造強誘電体を示す図である。
図4】ナノ構造強誘電体のポテンシャルエネルギー面を示す図である。
図5】一実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図6a】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図6b】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図7a】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図7b】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図8】ドメイン壁に関連するキラル分極構造を有するナノドットの形態のナノ構造強誘電体を示す図である。
図9a】ドメイン壁のないキラル分極構造を有するナノ粒子の形態のナノ構造強誘電体を示す図である。
図9b】ドメイン壁のない異なるキラル分極構造を有するナノドットの形態のナノ構造強誘電体を示す図である。
図10a】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図10b】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図11a】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図11b】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図12a】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図12b】別の実施形態による、ナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図13】一実施形態による、エナンチオ選択的輸送を使用してナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
図14】別の実施形態による、エナンチオ選択的輸送を使用してナノ構造強誘電体の所定のキラリティを生成するための方法及び装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0110】
ここで、本開示の技法を、材料科学の分野からのいくつかの異なる実施形態を参照して説明する。いくつかの特徴は、これらの実施形態のいくつかに関してのみ説明されるが、当業者には、これらの実施形態が組み合わされてもよく、したがって、これらの特徴は、一般に、説明される実施形態のいくつか又はすべての中に存在してもよいことが理解されよう。
【0111】
図1a及び図1bは、キラル構造の2つの例、すなわち図1aのヒトの手104L、104R及び図1bの螺旋106L、106Rを示す。両方の手104L、104R及び螺旋106L、106Rは、2つの異なるエナンチオマーとして存在する。エナンチオマーは、鏡面100に対する互いの鏡像である。鏡像104R、106Rは、その回転の向き102R、又はキラリティがそれぞれプロトタイプ104L、106Lとは異なる。これに関連して、反時計回りの回転の向き102Rを有するエナンチオマーは、右手系エナンチオマー104R、106Rとして参照され、時計回りの回転の向き102Lを有するエナンチオマーは、左手系エナンチオマー104L、106Lとして参照される。
【0112】
図2は、2つの強誘電ドメイン202U、202Dの間のキラル強誘電ドメイン壁200L、200Rを示す。強誘電体は、残留分極204U、204Dによって特徴付けられる。分極204U、204Dに関連する長距離電場は、エネルギー的にコストがかかる。したがって、バルク強誘電体は、典型的には、長距離場及び関連するエネルギーを減少させるドメイン壁200L、200Rを呈する。
【0113】
ドメイン壁200L、200Rの近傍では、分極204U、204Dは、典型的には、ドメイン壁200L、200Rによって画定される表面に平行に向けられる。ドメイン壁にわたって、分極は、その向きを維持し、例えば分極204Uに平行な軸(イジングドメイン壁)に対して負から正にのみその値を変化させると長い間考えられていた。しかしながら、最近の実験は、図2に示すように、ドメイン壁200L、200Rの表面法線208の周りで分極204U、204Dが回転する強誘電ドメイン壁200L、200Rを見出した。このタイプのドメイン壁は、ブロッホドメイン壁200L、200Rとして参照される。回転の向き102L、102Rは、時計回りの向き102L又は反時計回りの向き102Rとすることができ、左手系ブロッホドメイン壁200L又は右手系ブロッホドメイン壁200Rをもたらす。ブロッホドメイン壁202L、202Rはキラルであり、鏡面反射及び/又は空間回転変換時にそれ自体と重ね合わせることができない。
【0114】
バルク強誘電体では、強誘電ドメイン及びドメイン壁は、ランダムな向きでランダムな位置に形成される。しかしながら、多くの実際の用途では、制御された向き及び配置が好ましい場合がある。この目的のために、強誘電体は、少なくとも1つの方向に沿ってナノ構造化される。
【0115】
本開示の文脈では、ナノ構造強誘電体は、少なくとも1つの方向に沿って、例えば1μm以下のナノスケールに閉じ込められた延伸寸法を有するものとして理解され得る。このような強誘電体は、ナノ閉じ込めとして参照されることもある。
【0116】
一例は、層に垂直な方向に沿って閉じ込められた薄層である。
【0117】
図3aは、基板302上の薄い強誘電体層300を示す。ナノ構造幾何形状の結果として、分極304は、好ましくは、薄い強誘電体層300の中(面内)又は垂直(面外)に向けられる。薄い強誘電体層300の強誘電材料及びその環境(例えば、基板302)を提供する材料の選択は、分極304の向きに対する制御を提供する。
【0118】
薄い強誘電体層300の強誘電材料の選択、その環境、例えば基板を提供する材料の選択、及び成長条件は、ドメイン壁306のトポロジを制御するためにも使用される。一般に、強誘電体薄層は、図2の文脈で説明したブロッホドメイン壁のようなキラル(例えば、イジング)ドメイン壁及びアキラルドメイン壁を含み得る。
【0119】
様々な種類のキラルドメイン壁及びアキラルドメイン壁を含む層について、キラリティはヘリシティ
【数1】
の符号として定義することができ、ここで
【数2】
は分極を示し、積分はナノ構造強誘電体、例えば薄い強誘電体層300の体積にわたって実行される。
【0120】
図3aは、誘電体チタン酸ストロンチウム(SrTiO)基板302上に50nmの厚さで堆積されたチタン酸鉛(PbTiO)の薄い強誘電体層300を示す。格子不整合は、強誘電体層300に歪みを誘起する。薄い強誘電体層300は、分極304の面外の向きを発現する。
【0121】
強誘電体薄層は、パルスレーザ堆積を使用して成長されたが、物理蒸着技法、原子層堆積又は分子線エピタキシが代替的に適用されてもよい。成長条件の詳細は、Das他「Local negative permittivity and topological phase transition in polar skyrmions」(Nat.Mater.20,194(2021))に見出すことができる。
【0122】
図3aの強誘電体層300の成長条件は、スキルミオン308によってキラル分極状態を形成する分極304に対して最適化されている。スキルミオンは、図2の文脈で上述したブロッホドメイン壁200L、200Rのうちの1つと同様のブロッホドメイン壁と見ることができる。
【0123】
しかしながら、スキルミオン308は、自己閉鎖構造308をもたらす湾曲を有する。下にあるブロッホドメイン壁のキラリティに従って、スキルミオン308は左手系又は右手系であり得る。図3aは、反時計回りの回転の向き102Rを有するスキルミオン308、すなわち、右手系スキルミオン308を示す。図3aに示されるスキルミオン308の規則的な配置は、キラルバブルドメイン又は円筒ドメインとして参照されることもある。
【0124】
図3bは、薄い強誘電体層300a、300b、300c及び常誘電体層302a、303bから成る代替シーケンスを含む多層構造312を示す。例えば、多層構造は、Yadav他「Observation of polar vortices in oxide superlattices」(Nature 530,198(2016))に詳細に記載されているように、各々が9~10nmの厚さを有する、強誘電性チタン酸鉛と誘電性チタン酸ストロンチウムとの交互の層から形成されてもよい。図3aの薄い強誘電体層300の文脈で説明したのと同じ成長技法が適用されて、強誘電体層が形成される。
【0125】
図3bの多層構造312は、3つの薄い強誘電体層300a、300b、300c及び2つの常誘電体層302a、302bを含むが、これは単なる例であり、層の数は一般に、用途の要件に自由に適合させることができる。例えば、光学用途では、強誘電体層の数を少なくとも10、又は少なくとも50、又は少なくとも100まで増加させて、厚さ及び光学活性が強化された多層構造312を生成することができる。対照的に、ストレージ用途では、分極材料の量を最小にし、スイッチング速度を最大にするために、単一の強誘電体層を使用することができる。
【0126】
多層構造312の薄い強誘電体層300a、300b、300cの分極は、無芯渦314L、314Rを形成する。薄い強誘電体層300a、300b、300cの各々の中の無芯渦314L、314Rは、典型的には、交互に反対方向に旋回する。渦314L、314Rのキラリティは、渦が無芯構造を有し、分極が渦軸に沿って第3の空間方向に逃げ、螺旋状のキラルテクスチャを形成する場合に現れる。破線316は、左手系渦314Lを有する領域を右手系渦314Rを有する領域から分離する。
【0127】
ブロッホドメイン壁200L、200R、スキルミオン308、又は渦314L、314Rなどのナノ構造強誘電体のキラル構造のいずれも、右手系又は左手系のいずれかであり得、両方のキラリティに関連する分極状態は、典型的にはエネルギー的に縮退している。結果として、ナノ構造強誘電体を常誘電性高温状態から強誘電性室温状態に冷却すると、両方のキラリティが等しい確率で形成され得る。両方の掌性が形成される確率が等しいことは、2つの状態のエネルギー縮退の直接の結果として理解することができる。しかしながら、状況は、これより図4を参照して下記にさらに詳細に説明するように、適切な外部刺激が加えられると変化し得る。
【0128】
図4は、ナノ構造強誘電体の分極状態のエネルギーEをそれらのキラリティχの関数として示す。図4は、高温常誘電状態のポテンシャルエネルギーランドスケープ402(破線)、外部刺激の不在下での強誘電状態のポテンシャルエネルギーランドスケープ404、及び2つの異なる外部刺激の存在下での強誘電状態のポテンシャルエネルギーランドスケープ404L、404Rを示す。
【0129】
外部刺激の不在下でキュリー温度を通じて冷却すると、分極状態は、常誘電状態のポテンシャルエネルギー面402から、左手系キラリティL及び右手系キラリティRに関連する強誘電状態のポテンシャルエネルギー面404のエネルギー最小値に遷移する確率が同じであり得る。しかしながら、適切な刺激を加えることによって、2つのキラリティL、Rに関連する最小値のエネルギー縮退を解除することができる。1つの掌性又はキラリティが、強誘電体によって好ましいものとなり得る。図4では、これは、外部刺激の存在下でのポテンシャルエネルギーランドスケープ404Lにおける左手系キラリティLに関連する最小値のより低いエネルギーに反映される。
【0130】
修正された外部刺激は、右手系キラリティRのエネルギー最小値がより低いポテンシャルエネルギーランドスケープ404Rをもたらし得る。したがって、強誘電体が、2つの刺激のいずれかの存在下で高温常誘電状態402から低温強誘電状態に冷却される場合、強誘電体は、規定のキラリティL、Rを有するポテンシャルエネルギー面404L、404Rの対応するエネルギー最小値の状態を達成し得る。
【0131】
刺激は、電磁放射線、電場、機械力、構造的又は化学的刺激を含んでもよい。本開示の一態様は、適切な刺激の設計、並びにその刺激を加えるための方法及び装置に関する。
【0132】
図5は、第1の実施形態による、ナノ構造強誘電体の望ましいキラリティを生成し、キラリティをスイッチングするための光支援方法及び装置を示す。図5の実施形態によれば、図3aの基板302上の薄い強誘電体層300と同様であり得る、基板302上の薄い強誘電体層300のキラリティが制御される。しかしながら、本方法は、他のナノ構造強誘電体、例えば図3bの多層構造312などの多層構造にも適用することができる。
【0133】
本装置は、基板302と熱接触する抵抗加熱器502を含む。加熱器502に供給電圧を印加すると、加熱器502、基板302及び薄い強誘電体層300の温度は、強誘電体層300の温度が、その中に含まれる強誘電体材料のキュリー温度、例えば、BaTiOの場合の400℃又はPbTiOの場合の500℃に近づくか又は超えるまで上昇する。加熱すると、強誘電体材料は、室温強誘電相から高温常誘電相に相転移し得る。
【0134】
その後、加熱器502に供給される電力が低減され、薄い強誘電体層300は、常誘電性高温相から、薄い強誘電体層300に含まれる強誘電体材料のキュリー温度より十分に低い温度まで冷却される。薄い強誘電体層300の表面から環境への放射熱伝達は、典型的には、冷却に十分な熱伝達を提供する。一方、厚い層300及び/又は基板302の場合、基板302は、ペルチェ素子などの冷却デバイスに結合されて、薄い強誘電体層300からより速く熱を除去することができる。
【0135】
キュリー温度未満の温度に冷却されると、常誘電相が不安定になり得、局所分極の対称性の破れが生じ得、結果として、薄い強誘電体層300に残留分極304が局所的に形成される。薄い強誘電体層300は、図5及び図3aに示すように、面外分極304を有する分極構造を達成することができる。面外分極304に関連するエネルギーを最小化するために、反対の分極の小領域(コア)を取り囲むスキルミオン308がさらに形成され得る。スキルミオン308は、右手系であってもよく、又は左手系であってもよい。任意のナノ構造強誘電体について図4の文脈で説明したように、いずれかの掌性又はキラリティのスキルミオン308は、等しいエネルギー、したがって外部刺激の不在下で冷却中に形成される等しい確率を有することができる。
【0136】
図5に示す実施形態によれば、レーザ504は、円偏光508を有する光又は近赤外放射506を薄い強誘電体層300に照射する。したがって、レーザは、左手系スキルミオン308と右手系スキルミオンとの分極状態304間のエネルギー縮退を破る外部刺激を提供する。円偏光508の掌性、又は光若しくは近赤外放射506のキラリティに応じて、左手系スキルミオン308又は右手系スキルミオン308による分極状態は、大域的なエネルギー最小値になり、冷却中に形成される。放出される光又は近赤外放射506は、薄い強誘電体層300を高温常誘電状態からキュリー温度より十分低い温度まで冷却しながら施与される。ナノ構造強誘電体300が冷却されると、その分極状態は、左手系又は右手系のキラリティを有するポテンシャルエネルギー面504L、504Rの大域的最小値を達成することができ、キラリティは、光又は近赤外放射506のヘリシティを介して制御される。このようにして、左手系又は右手系スキルミオン308を用いた分極状態を制御された方法で準備することができる。加熱、選択されたヘリシティの光又は近赤外放射506の施与、及び冷却のプロセスステップを繰り返すことにより、キラリティが制御された分極状態を繰り返し書き換えることができる。
【0137】
図5に示す実施形態は、光又は近赤外放射506の源としてレーザ504、より具体的には、1kHzの繰返し率で700~1200nmの波長範囲内のレーザパルスを放出するTi:サファイア増幅器システムを使用する。放出されるレーザパルスは、周波数を2倍、3倍又は4倍にすることができる。レーザパルスはまた、ドープファイバを使用するレーザ増幅器によって提供されてもよい。励起レーザフルエンスは、ナノ構造強誘電体300への損傷を避けるために、40~70mJcm-2未満に選択されてもよい。代替的な実施形態によれば、量子カスケードレーザから放出されるテラヘルツ放射線、マグネトロンからのマイクロ波放射線、又はX線管若しくはシンクロトロンからのX線放射線が施与されてもよい。
【0138】
図5に示す実施形態によれば、ナノ構造強誘電体300を加熱するためのエネルギーは、主に抵抗加熱器502によって供給される。あるいは、レーザ504、又は上述の代替の放射源504が、加熱のためのエネルギーの大部分を提供してもよく、又はそのすべて及び抵抗加熱器が省略されてもよい。レーザ又は放射源504からのエネルギーは、ナノ構造強誘電体300によって直接吸収されてもよく、又は基板によって吸収され、続いて基板302によってナノ構造強誘電体300に向かって伝達されてもよい。
【0139】
図5の装置500は、プローブ光512を放出するプローブ光源として作用する追加のレーザ510を備える。プローブ光512の一部は、薄い強誘電体層300の表面から反射され、プローブ光512の別の部分は、薄い強誘電体層300を透過し、基板302から反射された後、再び薄い強誘電体層300を透過する。反射及び/又は透過プローブ光512の偏光は、光検出器(図示せず)と共にポラリメータとして作用する回転偏光子514を使用して分析することができる。反射及び/又は透過プローブ光512の偏光の測定は、ナノ構造強誘電体の分極、特にキラリティを監視することを可能にし得る。プローブ光源に追加のレーザ510を使用する代わりに、レーザ504からの光又は近赤外放射506の一部を使用して、分極状態を監視してもよい。
【0140】
図6aは、第2の実施形態によるナノ構造強誘電体の望ましいキラリティを生成するための方法及び装置を示す。本装置は、図5の実施形態の文脈で説明した加熱器502と同様であり得る加熱器502を備える。加えて、薄い強誘電体層300の基板302と反対の側には、対向電極602が設けられている。加熱器502に供給電力が印加されると、薄い強誘電体層300は、薄い強誘電体層300に含まれる強誘電体材料のキュリー温度に近いか又はそれを超える温度に加熱され得る。その後の薄い強誘電体層300の冷却中、基板302と対向電極602との間に電圧Uが印加されて、薄い強誘電体層300を通る電場604が発生する。電場604は、薄い強誘電体層300のポテンシャルエネルギー面404の極小値間のエネルギー縮退を持ち上げることができる。電場604の振幅は、最大10kV/cm、又は強誘電体材料及びその厚さに応じて、さらに最大100kV/cmであってもよい。電圧Uの符号、又は電場604の方向に応じて、薄い強誘電体層の左手系キラリティLに対する大域最小値を有するポテンシャルエネルギー面404L、又は薄い強誘電体層の右手系キラリティRに対する大域最小値を有するポテンシャルエネルギー面404Rを生成することができる。したがって、電場604の存在下で薄い強誘電体層300を冷却することにより、左手系又は右手系のいずれかの制御されたキラリティのスキルミオン308を有する強誘電体層300を準備することができる。
【0141】
図6bは、図6aの実施形態と同様の実施形態を示す。しかしながら、単一の対向電極の代わりに、上部電極602及び下部電極606が設けられている。上部電極602と下部電極606との間に電圧Uが印加されて、電場604が発生する。このようにして、導電性基板の不在下で電場604をナノ構造強誘電体300a、300b、300cに印加することができる。
【0142】
図7は、第3の実施形態による、ナノ構造強誘電体300の望ましいキラリティを生成し、キラリティをスイッチングするための方法及び装置を示す。本実施形態は、図6aの文脈で説明したものと同様である。しかしながら、導電性原子間力顕微鏡先端602’が、強く局所化された電場604’を達成するための対向電極として使用される。これは、2つの利点を提供し得る。第1に、電場604’の先端増強により、薄い強誘電体層300の分極状態304のキラリティを確実に制御するのに十分に大きい電場604’を提供するのに、低減された電圧U’で十分である。第2に、電場604’はナノメートルスケールで空間的に閉じ込められ、したがって、ナノメートルサイズの寸法を有するキラル構造308を薄い強誘電体層300に書き込むことが可能になる。これは、(光学)メタマテリアルの生成又はストレージ用途にとって特に魅力的である。
【0143】
図7bは、図7aの実施形態と同様の実施形態を示すが、導電性原子間力顕微鏡先端602’’がキラルであり、したがってキラル電場604’’を生成するという違いがある。図7bの右手系キラル電場604’’は、薄い強誘電体層300のスキルミオン308の右手系キラル分極状態のエネルギー404Rをさらに減少させ、したがって、薄い強誘電体層300が強誘電相に冷却されたときに右手系スキルミオン308の形成を支援する。導電性原子間力顕微鏡先端602’’は、走査型プローブ顕微鏡において使用する前に、例えば全体的にキラルな形状で先端602’を成長若しくはエッチングすることによって、又は最初はアキラルな先端602’にトルクを加えることによって製造することができる。あるいは、導電性原子間力顕微鏡先端602’’は、広くアキラルな形状を有してもよく、キラルカーボンナノチューブなどのキラル分子が、例えば走査型プローブ顕微鏡の走査プロセスにおいてそれをピックアップすることによって、まさにその先端において吸着されてもよい。左手系及び右手系キラル分子のリザーバは、基板302上の異なる領域に設けられてもよく、先端604’’のキラリティは、対応する領域からキラル分子をピックアップすることによって変更されてもよい。
【0144】
図8は、基板302上にスキルミオン308をホストする円筒ナノドット800を示す。スキルミオン308は、図3aの文脈で前述したように、湾曲した自己閉鎖ドメイン壁306として示され得る。図8のスキルミオン308の回転の向き102Rは右手系である。薄い強誘電体膜300中の強誘電体と比較して、ナノドット800中の強誘電体は、基板302、薄い強誘電体膜300、及び/又はナノドット800の表面に平行な両方向に沿って追加の閉じ込めを受ける。追加の閉じ込めは、スキルミオン308の形成、位置、及び回転の向きに対する制御を改善することができ、一方、環境を介した制御、特に基板302の選択を介した制御は依然として可能である。
【0145】
ナノドット800は、直径60nm、高さ30nmである。ナノドットは、Li他「High-density array of ferroelectric nanodots with robust and reversibly switchable topological domain states」(Sci.Adv.3,e1700919(2017))に詳細に記載されているように、多孔質陽極アルミナスキャフォールド上でチタン酸ストロンチウム上にビスマスフェライトを堆積させることによって製造することができる。あるいは、ナノドット800は、最初に平坦な基板上に強誘電体の連続膜を堆積し、続いてリソグラフィ(例えば、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、イオンビームリソグラフィ、X線リソグラフィ)及びエッチング技法(例えば、ウェットエッチング、イオンビームエッチング、反応性イオンエッチング)を使用して連続膜を構造化することによって製造することができる。図8のナノドット800は、円筒形である、すなわち、円形の基底を有する角柱である。リソグラフィ製造技術を使用して、角柱形状及び広範囲の基底形状を有するナノドットを製造することができ、特定の用途の要件に従ってナノドット800の形状及びサイズを最適化する選択肢を与える。例えば、基底は、長方形及び非常に細長い形(ナノロッド)、正方形、三角形、又は楕円形であってもよい。本開示によるナノ構造強誘電体の望ましいキラリティを生成するための方法及び装置は、これらの形状のいずれかを有するナノドットに適用可能である。
【0146】
図9a及び図9bは、ナノ粒子900a、900bを示す。本開示の文脈内で、ナノドット800は、ドメイン壁306の存在に依存するキラリティを有する分極構造を有し得、一方、ナノ粒子900a、900bは、ドメイン壁が存在しない場合でもキラリティを有する分極状態を有し得る。
【0147】
図9a及び図9bに示されるナノ粒子900a、900bは球形であり、直径は30nmである。ナノ粒子は、ソルボサーマル法及び熱水法を用いて作製されてもよい。あるいは、ナノ粒子900a、900bは、ゾルゲル合成、ペルオキソ-シュウ酸塩錯体形成、非等温分解を使用して、又はこれらの技術の任意の組み合わせによって生成されてもよい。サイズ及び形状は、強誘電体材料及び準備条件の選択によって調整することができる。例えば、ファセット形状、全体的にほぼ球形の形状、ピラミッド形状、立方体形状、直方体形状、二十面体形状、又は十二面体形状が達成されてもよい。ナノ粒子はまた、ナノドット800との関連で説明した形状のうちの1つを有し得る。
【0148】
図9a及び図9bは、キラリティを示す分極状態304を有するナノ粒子900a、900bの2つの例を示す。ナノ粒子900a、900bの分極状態は、準備条件及び/又は外部電場などの外部刺激による以前の処置に依存し得る。準備条件及び外部場処置は、例えば、渦状態、ホプフィオン、又はスキルミオン状態を達成するように調整されてもよい。詳細は、Luk’yanchuk他「Hopfions emerge in ferroelectrics」(Nat.Commun.11,2433(2020))に与えられている。
【0149】
図4図5図6a、図6b、図7a及び図7bに記載されているナノ構造強誘電体の望ましいキラリティを生成するための方法及び装置はまた、望ましいキラリティを生成するためのナノ構造強誘電体としてのナノドット800及びナノ粒子900a、900bに適用することもできる。図10a、図10b、図11a、図11b、図12a、及び図12bに関連する開示は、上記の開示の対応する部分を参照し、同様の構成要素については再度説明しない。ナノドット800及びナノ粒子900a、900bへの特定の適用に関連する方法及び装置の態様のみが指摘される。
【0150】
図10aは、薄い強誘電体膜について図5の文脈で説明した実施形態と同様の、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの所望のキラリティを生成し、キラリティをスイッチングするための光支援方法及び装置500’を示す。円筒形状を有するナノドット800が図10aに示されているが、本方法は、図8図9a及び図9bに関連して上述したナノドット800又はナノ粒子900a、900bのいずれかに適用することができる。
【0151】
図10bは、図10aの実施形態と同様の実施形態を示す。この実施形態では、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bは、基板302上に支持されるのではなく、固体又は液体マトリックス302’に埋め込まれる。ナノドット800又はナノ粒子900a、900bを固体又は液体マトリックス302’によって囲むことにより、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bから熱を運び去るための非常に効率的な経路を提供し、したがってそれらを効果的に冷却することができる。したがって、固体又は液体マトリックス302’を形成する材料は、最適化された熱伝導率を提供するように選択することができる。実施形態によれば、レーザ504からの光又は近赤外放射506の一部は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの分極状態を監視するポラリメータ514のために使用することができる。しかしながら、例えば、光又は近赤外放射506の方向に垂直な方向に沿ってナノドット800又はナノ粒子900a、900bを照射するために、追加のプローブ光源が設けられてもよい。
【0152】
図11a及び図11bは、図6bの実施形態と同様の実施形態を示す。上部電極602及び下部電極606は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの対向する両側に配置されている。電極602,606間に電圧Uを印加することにより、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bを冷却しながら所望のキラリティを有する分極状態を生成する刺激として機能し得る電場604が生成される。図11bでは、上部電極602と下部電極606との間に印加される電圧-Uは、図11aで印加される電圧Uと比較して反転しており、その結果、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの分極状態のキラリティが反転している。
【0153】
一実施形態によれば、下部電極606は、導電性基板によって提供される。
【0154】
一実施形態によれば、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bは、浸漬コーティング又はスピンコーティングによって懸濁液又は溶液から下部電極上に堆積させることができる。懸濁液又は溶液中のナノドット800又はナノ粒子900a、900bの濃度は、下部電極606上の面積当たりの堆積ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの密度を制御するように選択することができる。特に、濃度は、用途によって必要とされる場合、電場604内に単一のナノドット800又はナノ粒子900a、900bを有するのに十分に低い密度を達成するように選択されてもよい。他の用途は、場の中により多数のナノドット800又はナノ粒子900a、900bを必要とする場合があり、これは、高濃度のナノドット800又はナノ粒子900aを有する懸濁液又は溶液を施与することによって容易に達成することができる。上部電極は、堆積ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの上に堆積されてもよい。上部電極を堆積させる前に、特に電磁放射がナノドット800又はナノ粒子900a、900bを加熱するための伝搬経路を提供するために、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの周りにマトリックス、特に誘電体マトリックスを堆積させることができる。マトリックスは、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの冷却を促進するために熱伝導率を高めるように最適化されてもよい。
【0155】
代替的な実施形態では、電極602,606は、例えば表面上のフィンガ構造として、単一の平面内に配置構成されてもよい。ナノドット800又はナノ粒子900a、900bは、懸濁液又は溶液から電極602,606の間に堆積させることができる。堆積ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの密度は、上述のように、懸濁液又は溶液の濃度によって制御することができる。電極602,606のいずれか又は両方は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bを加熱するための抵抗加熱器としても機能し得る。
【0156】
図12aは、図7aの実施形態と同様の実施形態を示す。先端602’を上部電極として使用すると、電場604’を、基板302上に存在する複数のナノドット800又はナノ粒子900a、900bの個々のナノドット800又はナノ粒子900a、900bに選択的に印加することができる。
【0157】
図12bは、図7bの実施形態と同様の実施形態を示す。キラル先端602’’を上部電極として使用すると、電場604’を、基板302上に存在する複数のナノドット800又はナノ粒子900a、900bの個々のナノドット800又はナノ粒子900a、900bに選択的に印加することができる。
【0158】
図13は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの集合1304からのナノドット800又はナノ粒子900a、900bのエナンチオ選択的輸送を使用する実施形態を示す。集合1304は、左手系ナノドット又はナノ粒子1304L及び右手系ナノドット又はナノ粒子1304Rの両方を含み得る。光ピンセット1300は、円偏光508を有する光又は近赤外放射506を生成するための光源(図示せず)と、光又は近赤外放射506を緊密に集束するための顕微鏡対物レンズ1302とから成る。緊密な集束は、光又は近赤外放射506の勾配を生成し、集合1304のナノドット800又はナノ粒子900a、900bに対する力をもたらすことができる。ナノドット800又はナノ粒子900a、900bに対する力は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bのキラリティ、及び、光又は近赤外放射506の円偏光508に依存し得る。円偏光508は、予め選択されたキラリティのナノドット800又はナノ粒子900a、900bを選択的に輸送するように選択されてもよい。図13に示す例では、右手系円偏光508を有する光又は近赤外放射506は、右手系キラリティを有する集合1304のナノドット800又はナノ粒子1304Rのみを輸送する。
【0159】
図13の実施形態による方法では、光又は近赤外放射506は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの集合1304を常誘電状態に加熱する。代替的又は付加的に、集合1304は、基板302と熱接触している抵抗加熱器502を使用して加熱されてもよい。その後、加熱力を減少させることができ、集合1304を冷却することができる。選択された円偏光508は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの分極状態の生成されるキラリティを決定し得る。ナノドット800又はナノ粒子900a、900bが強誘電状態に冷却され、予め選択されたキラリティを達成すると、エナンチオ選択的輸送を適用して、所定のキラリティのナノドット800又はナノ粒子900a、900bを標的目的位置に移動させるか、又は反対のキラリティのナノドット800又はナノ粒子900a、900bを除去することができる。このようにして、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの集合1304のキラリティの純度をさらに改善することができる。
【0160】
図14は、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの集合1304からのナノドット800又はナノ粒子900a、900bのエナンチオ選択的輸送を使用する別の実施形態を示す。本実施形態は、図13のものと同様である。しかしながら、光ピンセット1300の代わりに、プラズモンピンセット1400が適用される。したがって、直線偏光508’を有する光又は近赤外放射506が、顕微鏡対物レンズ1302を使用して導電性基板302上に集束される。直線偏光又は近赤外放射506は、導電性基板302内にプラズモン励起を誘起することができ、これは、ナノドット800又はナノ粒子900a、900bの集合1304に力を及ぼすことができる。典型的なプラズモントラップ剛性は、0.1から1及び5fN/(μm×mW)まで変化し得る。ナノドット800又はナノ粒子900aが受ける力は、左手系ナノドット又はナノ粒子1304Lと右手系ナノドット又はナノ粒子1304Rとで異なり得る。したがって、左手系ナノドット又はナノ粒子1304L及び右手系ナノドット又はナノ粒子1304Rは、表面302上の異なる領域に輸送され得、それによって分離され得る。
【0161】
実施形態および図面の説明は、本開示の技法およびそれに関連する利点を説明する役割を果たすにすぎず、いかなる限定を意味するとも解釈されるべきではない。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲から決定されるべきである。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図11a
図11b
図12a
図12b
図13
図14