(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20240930BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240930BHJP
B29C 35/08 20060101ALI20240930BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
H02K15/12 A
H02K15/02 K
B29C35/08
F27D7/02 Z
(21)【出願番号】P 2024042339
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2022179245の分割
【原出願日】2021-04-20
【審査請求日】2024-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594067195
【氏名又は名称】株式会社九州日昌
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】松藤 正明
(72)【発明者】
【氏名】李 乙松
(72)【発明者】
【氏名】ベンスーシー ソフィエン
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-222761(JP,A)
【文献】特開平11-083337(JP,A)
【文献】特開2004-137124(JP,A)
【文献】実開昭56-104085(JP,U)
【文献】特開昭62-013537(JP,A)
【文献】中国実用新案第210856215(CN,U)
【文献】特開平05-255645(JP,A)
【文献】特開2013-073071(JP,A)
【文献】特開2020-088909(JP,A)
【文献】特開2017-005218(JP,A)
【文献】特開2017-068921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 15/02
B29C 35/08
F27D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周面を有する被加熱物を加熱する加熱装置であって、
被加熱物を支持する支持部材と、
前記支持部材に対して上下方向に相対移動可能に設けられ、下端部が開口する被加熱物を収容する収容空間を画定する内壁面を備え、前記支持部材上に配置されることで前記収容空間が閉鎖され、前記支持部材と離間することで被加熱物の搬入又は搬出を可能にする被覆部材と、
前記被覆部材によって保持され、前記収容空間において被加熱物の円筒状外周面を包囲するように上下方向に設けられた被加熱物を加熱するための光を放射する複数のリング状光源と、を有し、
前記被覆部材の天井部には、前記収容空間内のガスを外部に排出するための排気管が設けられており、
前記排気管の入口には、整流器が設けられて
おり、
前記整流器は、前記排気管の入り口の下方でかつ被加熱物の上方に配置された板状部材と、前記板状部材と前記天井部との間に設けられ外周面の全周囲から均等にガスを取り込むガス取り込み口を備える円筒状部材と、を含み、前記天井部に沿った方向からのみガスを前記排気管の入口に取り込むように形成されている、加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコア等の円筒状外周面部を有する被加熱物を効率良くかつ均等に加熱可能な加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気モーターを構成するローターの鉄心部分に当たる部品であるモータコアは、一般的には、金型を使ってプレス加工した電磁鋼板またはエッチング加工した電磁鋼板を、一定枚数を積層させて製造する。
一定枚数の電磁鋼板が積層されたモータコア(ロータコア)には、複数の磁石挿入孔が設けられており、これらにそれぞれマグネットを挿入した後に、その磁石挿入孔に樹脂を充填し、その充填した樹脂を硬化させることにより、モータコアにマグネットを固定することが行われている(例えば、特許文献1,2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-199890号公報
【文献】特開2018-007565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した樹脂封止方法では、モータコアにセグメント磁石を入れ、これらを予熱した後、溶融樹脂を注入する。溶融樹脂を注入する前の予熱工程は、加熱により溶融させた液状の樹脂材を磁石挿入孔に充填する際に、樹脂材の温度が低下して流動性が落ちて充填しにくくなり、また充填されても硬化しにくくなるのを防ぐためには、必須の工程である。
この予熱工程では、樹脂材の充填性を良好に保ちつつ生産効率を向上するためには、できるだけ短時間で、かつ、均一に目標温度に電磁鋼板が所定数積層されたモータコアを加熱する必要がある。特に、モータコアのうち、外周部に配置されかつ樹脂材が充填される磁石挿入孔付近の温度を、モータコアの上下方向および円周方向において均一かつ目標温度になるように速やかに加熱する必要がある。
さらに、大量のモータコアの処理を効率化しかつ自動化していくには、予熱工程を製造工程内にインラインで組み込み、流れ生産を阻害しないようにする要請もある。
【0005】
本発明の目的の一つは、円筒状外周面部を有する被加熱物を効率良くかつ均等に加熱可能な加熱装置を提供することにあり、より特定的には、モータコアの樹脂充填前の予熱工程において、モータコアおよびその保持治具を均一かつ効率的に加熱できる加熱装置を提供することにある。
本発明の目的の一つは、モータコアの製造工程に予熱工程をインラインで組み込み可能で、予熱工程の自動化を可能にする加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る加熱装置は、円筒状外周面を有する被加熱物を加熱する加熱装置であって、
被加熱物を支持する支持部材と、
前記支持部材に対して上下方向に相対移動可能に設けられ、下端部が開口する被加熱物を収容する収容空間画定する内壁面を備え、前記支持部材上に配置されることで前記収容空間が閉鎖され、前記支持部材と離間することで被加熱物の搬入又は搬出を可能にする被覆部材と、
前記被覆部材によって保持され、前記収容空間において被加熱物の円筒状外周面を包囲するように上下方向に設けられた被加熱物を加熱するための光を放射する複数のリング状光源と、を有する。
【0007】
好適には、前記被覆部材の内壁面は、前記複数のリング状光源からの光を被加熱物の側に向けて反射する反射面を備える。さらに好適には、前記反射面は、被覆部材の内壁面を鏡面加工した鏡面で形成されている、構成を採用できる。
【0008】
前記複数のリング状光源の各々は、光を放出するフィラメントと、当該フィラメントをカバーするガラス管を有し、
前記ガラス管には、前記フィラメントから放出された光を被加熱物の側に向けて反射する反射面が形成されている、構成を採用できる。
好適には、前記被覆部材の反射面が形成された内壁面は、円筒状内壁面であり、
前記円筒状内壁面と、前記複数のリング状光源と、被加熱物の円筒状外周面とは、同心状に配置されている、構成を採用できる。
【0009】
さらに好適には、前記被覆部材の内壁面に設けられ、前記複数のリング状光源の、隣り合う2つのリング状光源の間の相互の光の入射を遮る遮光部材を有する、構成を採用できる。
この場合に、前記遮光部材で隔てられた前記隣り合う2つのリング状光源の出力をそれぞれ独立に制御する給電装置をさらに有する、構成を採用できる。
【0010】
好適には、前記遮光部材は、熱膨張による変形を阻止するための構造を有する、構成を採用できる。
また、前記被加熱物は、環状の薄鋼板が所定数積み重ねられたモータコアを含み、このモータコアは、当該モータコアの中心部を貫通する支持柱と当該支持柱が設けられた支持プレートを有する保持治具によって保持され、
前記複数のリング状光源は、前記モータコアの円筒状外周面を加熱し、
前記保持治具を加熱するための加熱機構をさらに有する、構成を採用することも可能である。
【0011】
本発明の第2の側面に係る加熱装置は、被加熱物を加熱するための光を放射する一定方向に配列された複数の光源と、
前記複数の光源間の相互の光の入射を遮る遮光部材と、
前記遮光部材で隔てられた光源の出力をそれぞれ独立に制御する給電装置と
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、円筒状外周面部を有する被加熱物、より特定的には、モータコアの外周部付近に配置される樹脂材が充填される磁石挿入孔付近の温度を、モータコアの上下方向および円周方向において均一かつ迅速に加熱することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加熱装置の一部に縦断面図を含む概略構成図。
【
図2】
図1の加熱炉の被覆部材が上昇した状態を示す加熱炉の縦断面図。
【
図7B】
図7Aのモータコアを構成する一枚の薄鋼板の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態である加熱装置1について説明する。
図1に本発明の一実施形態に係る加熱装置の構成を示し、
図2に加熱装置の開放状態にある加熱炉10の構造を示し、
図3に
図1の加熱炉10のA-A線断面図を示す。
加熱装置1は、加熱炉10と、給電装置100とを有する。
加熱炉10は、被加熱物Wを支持する支持部材40と、支持部材40に支持された被加熱物Wを覆う被覆部材20と、被加熱物Wを加熱するための光を放射する複数のリング状光源50と、複数のリング状光源50が放射する光を遮るための遮光部材30とを有する。
【0015】
被覆部材20は、天井部20cを有し下端部が開口する円筒形状に形成された部材であり、円筒状内壁面20aと天井部20cの下面である天井面20bとにより被加熱物Wを収容する収容空間Spを画定している。被覆部材20は、耐熱性の金属材料で形成され、円筒状内壁面20aは、上記したリング状光源50からの放射される光を反射するように、鏡面加工されている。なお、本実施形態では、円筒状内壁面20aを鏡面加工された反射面としているが、これに限定されるわけではなく、蒸着等によって反射膜を円筒状内壁面20a上に形成することも可能である。なお、天井面20bも鏡面加工等により反射面としてもよいが、非反射面としてもよい。
被覆部材20は、
図1および
図2から分かるように、図示しない昇降機構により、支持部材40に対して、上方向A1および下方向A2に移動可能になっている。なお、支持部材40を被覆部材20に対して上方向A1および下方向A2に移動させることも可能である。
【0016】
被覆部材20は、天井部20cには、排気管21が設けられており、被覆部材20の収容空間Sp内で発生するガスを外部に排出可能となっている。排気管20の入口には、整流器22が設けられている。この整流器22は、収容空間Sp内で発生するガスを外部に排出する際に、収容空間Sp内の空気またはガスに乱流が生じるのを抑制して、被加熱物Wに温度ムラが生じるのを抑制するために設けられている。整流器22は、これに限定されないが、例えば、円筒状の外周面を備え、この外周面の全周から均等にガスを取り込むガス取り込み口を持つ構造を採用できる。この整流器22の全周囲から均等にガスを取り込んでガスを排気管21に流通させることで、収容空間Sp内のガスの流れの偏りを極力抑制して、被加熱物Wに発生する温度ムラを抑制することができる。また、被加熱物Wを加熱することでアウターガスが生じる場合には、排気管21にポンプを接続し、収容空間Sp内のガスを一定流量で外部に強制的に排出させることもできる。ポンプを使用しない場合には、光加熱により温度上昇したガスの上昇流を利用して自然に排気する。
【0017】
複数のリング状光源50は、
図3に示すように、円筒状内壁面20aの内側に上下方向に所定の間隔をおいて配置されている。
複数のリング状光源50の各々は、
図4Aに示すように、リング状部52とリング状部52の両方の終端部に連なるストレート部53とからなる透明なガラス管51と、ガラス管51のリング状部52内に設けられた光を放出するリング状のフィラメント54とを有する。
ガラス管51のストレート部53は、発熱しないように、フィラメント54は設けられておらず、フィラメント54の端部に接続された給電配線55が挿通している。給電配線55は、後述するように、
図1に示す給電装置100に電気的に接続されている。
ストレート部53は、後述するように、被覆部材20の円筒状の壁部を貫通し、当該壁部に固定されて支持されている。
複数のリング状光源50の各々は、本実施形態では、ハロゲンガスがガラス管51内に封入されたハロゲンランプである。ハロゲンランプはタングステン製やニクロム線等のフィラメント54に通電してそれを高温にし、そこから放射される光(この光の波長は近赤外域~可視域の電磁波)を利用する。遠赤外ランプやキセノンランプやレーザー等の光源を使用することも可能である。ハロゲンランプは、放射エネルギーへの変換効率が比較的高い点や、出力をコントロールしやすい、給電装置100を小型化でき、低コスト化できる等のメリットがある。
光源として、例えば、ニクロム線を使用する場合には、ガラス管51でカバーしない構成を採用することも可能である。
【0018】
図4Bに
図4AのC1-C1線断面図を示す。
ガラス管51のリング状部52は、
図4Bに示すように、リング状部52の周面52aの外側の領域R1に反射膜Ctが形成されている。反射膜Ctが形成された領域R1の範囲は、素線54を中心として周面52aの外側の180度の範囲である。しかし、領域R1の範囲はこれに限定されるわけではなく、180度より大きい範囲であってもよいし、180度より小さい範囲であってもよく、適宜調整可能である。
反射膜Ctは、後述するように、素線54から放出された光を被加熱物Wの側に向けて反射する役割を果たす。反射膜Ctの形成材料は、セラミックであるが、これに限定されるわけではなく、耐熱性があり光を反射する特性のある材料であればよい。
【0019】
複数の遮光部材30は、
図1および
図2に示すように、上下方向に間隔をもって配置された複数のリング状光源50のうち、上下方向において隣り合う2つのリング状光源50,50間に配置されるものと、複数のリング状光源50のうち最上部に配置されたリング状光源50のさらに上部に配置されたものと、複数のリング状光源50のうち最下部に配置されたリング状光源50のさらに下部に配置されたものとからなる。
遮光部材30は、
図1~
図3から分かるように、被覆部材20の円筒状内壁面20aに固定されている。固定方法は、溶接や、ボルトによる締結など、種々存在し、適宜最適な固定方法を採用できるが、詳細説明は省略する。
【0020】
図5Aに遮光部材30の構造を示す。
遮光部材30は、
図5Aに示すように、環状円板からなり、内周円から外周側に向けて半径方向に伸びる複数のスリット31が所定の角度間隔で形成されている。遮光部材30は、セラミックや金属などの耐熱性部材で形成され、上記したリング状光源50からの光を遮る役割を果たす。複数のスリット31は、リング状光源50からの光により遮光部材30の温度が上昇によって熱膨張した際に、遮光部材30が変形するのを防ぐ役割を果たす。
【0021】
上下方向において隣り合う2つのリング状光源50,50間に配置された複数(3枚)の遮光部材30は、隣り合う2つのリング状光源50,50の間で一方から他方へ光が入射するのを防ぐ役割を果たす。すなわち、隣り合う2つのリング状光源50,50の間で相互の光の入射を遮る。なお、これら複数(3枚)の遮光部材30を設けた理由については後述する。
【0022】
複数のリング状光源50のうち最上部に配置されたリング状光源50のさらに上部に配置された遮光部材30は、最上部に配置されたリング状光源50から放射される光を遮ることにより、主に、被覆部材20の天井部の過熱を防ぐために設けられている。
複数のリング状光源50のうち最下部に配置されたリング状光源50のさらに下部に配置された遮光部材30は、最下部に配置されたリング状光源50から放射される光を遮ることにより、主に、支持部材40の過熱を防ぐために設けられている。
なお、遮光部材30の構造は、
図4Aの構造に限定されるわけではなく、遮光機能を有していれば種々の態様を採用できる。
例えば、
図4Bに示すように、扇状の分離した複数の遮光部材30Aを組み合わせて被覆部材20の円筒状内壁面20aに固定し、隣り合う遮光部材30Aの間に隙間Gpを形成することで、遮光機能を実現しつつ遮光部材30Aの変形を防止できる。
【0023】
支持部材40は、耐熱性の金属材料で形成され、凹部41と、被覆部材20の下端面20eに当接する上端面40aとを有する。
支持部材40の凹部41には、被加熱物Wを支持するための複数の支持ピン45と、被加熱物Wを底部から加熱するための加熱機構としての光源60とが設けられている。
複数の支持ピン45は、後述するように、被加熱物の自動搬入・搬出を容易にするために、先端部が支持部材40の上端面40aから上方に突出している。
複数の光源60は、直線状に形成されているが、リング状光源50と基本的には同様の構造を有している。非加熱部である両端部61が支持部材の壁部により支持されている。なお、複数の光源60は直線状のものとしたが、これに限定されるわけではなく、他の形状を採用することも可能である。複数の光源60には、図示しない給電配線を通じて給電装置100から電力が供給される。
支持部材40は、後述するように、支持部材40に対して被覆部材20が下降して被覆部材20の下端面20eが支持部材40の上端面40aに当接した状態になると、被覆部材20の下端の開口を閉鎖して収容空間Spを外部から遮断する。
【0024】
給電装置100は、
図1に示すように、コントローラ102と、複数のリング状光源50および複数の光源60への供給電力を制御する複数のドライバ105とを有する。なお、複数の光源60に対応するドライバ105は、一つしか図示していないが、複数の光源60にそれぞれ対応してドライバ105を設けることができる。あるいは、共通のドライバ105で複数の光源60の出力を共通に制御することも可能である。
コントローラ102は、プロセッサやメモリなどのハードウエアと、所要のソフトウエアを含み、複数のドライバ105にそれぞれ独立の制御指令を出力可能に形成されている。
複数のドライバ105の各々は、コントローラ102からの制御指令に応じて、複数のリング状光源50および複数の光源60への供給電力を制御する。
複数のドライバ105の各々は、例えば、サイリスタを内蔵し、このサイリスタをコントローラ102から与えられる指令電圧に応じてオンオフ制御することで、商用電源から供給される交流電圧を所望の大きさの交流電圧に変換することができる。このため、給電装置100は比較的簡易な構成で、小型化することができる。
【0025】
図6A~
図8Bに被加熱物Wの一例を示す。
被加熱物Wは、環状の薄鋼板301が所定数積み重ねられたモータコア300と、このモータコア300を保持する保持治具200とを含む。
環状の薄鋼板301を所定数積み重ねると、所定枚数の薄鋼板301の外周面301aによって、モータコア300の円筒状外周面300aが画定される。また、所定数積み重ねられた環状の薄鋼板301の内周面301hがモータコア300の中心部の貫通孔300hを画定している。
保持治具200は、矩形状の外形をもつ金属製の支持プレート201と、支持プレート201の中心部に支持プレート201に対して垂直に設けられた円柱状の支持柱202を有する。支持柱202がモータコア300の貫通孔に300hに嵌合挿入されている。
【0026】
モータコア300は、図示しない複数の磁石挿入孔が外周部付近に設けられており、これらにそれぞれマグネットを挿入した後に、その磁石挿入孔に樹脂を充填し、その充填した樹脂を硬化させることにより、マグネットが固定される。上記したように、この樹脂充填工程前に、モータコア300を所定の温度まで加熱しておく予熱工程が必須である。加熱装置1は、この予熱工程に用いられる。
【0027】
被加熱物Wのモータコア300の円筒状外周面300aと保持治具200の支持柱202とは、
図3に示すように、被覆部材20の円筒状内壁面20aと、複数のリング状光源50と、遮光部材30と、同心状に配置されている。
複数のリング状光源50は、
図1および
図2に示すように、被加熱物Wのモータコア300の円筒状外周面300aの上端部から下端部までの加熱が可能に配置されている。
【0028】
次に、加熱装置1による、被加熱物Wの予熱工程の手順の一例について説明する。
図2に示すように、加熱炉10の被覆部材20を支持部材40に対して上方向A1に上昇させる。このとき、複数のリング状光源50および複数の光源60には給電装置100から電力が既に供給され、複数のリング状光源50および複数の光源60から加熱用の光が放出された状態にあるものとする。
【0029】
次いで、図示しないハンドリングロボット等の搬送装置を使用して、被加熱物Wを支持部材40の支持ピン45の上に置く。
次いで、
図1に示すように、上昇させた状態の被覆部材20を下降させ、被覆部材20の下端面20eを支持部材40の上端面40aに当接させる。これにより、被覆部材20の収容空間および支持部材40の凹部で画定される空間が閉鎖され、被加熱物Wの加熱が開始される。
被加熱物Wの加熱により発生するガス等を含めて収容空間Sp内の気体は徐々に排気管21を通じて外部へ排出される。
なお、被加熱物Wの加熱中に、閉鎖された収容空間Sp内に不活性ガス等の所要のガスを供給しながら、被加熱物Wを加熱することができる。
【0030】
複数のリング状光源50は、モータコア300の円筒状外周面300aを包囲しているため、リング状光源50から放出される光の一部は、円筒状外周面300aの全周に放射される。
リング状光源50から放出される光のうち、リング状光源50の半径方向外側に向かう光の一部は、ガラス管51のリング状部52に形成された反射膜Ctでモータコア300の円筒状外周面300aに向かって反射する。
リング状光源50から放出される光のうち、リング状光源50の半径方向外側に向かう光の一部は、被覆部材20の円筒状内壁面20aに達すると、円筒状内壁面20aが円筒形状であることから、モータコア300の円筒状外周面300aに向かって反射する。
光源60から放射される光は、保持治具200の支持プレート201に主に当てられ、保持治具200を加熱する。
このように、加熱炉10においては、複数のリング状光源50および光源60からの光が効率的に被加熱物Wの加熱に利用されるため、被加熱物Wの温度を迅速に上昇させることができる。
【0031】
ここで、被加熱物Wの温度が均一になるようにするための温度制御の一例について説明する。
加熱炉10内で生じた熱は、上方向に向かって上昇するため、モータコア300の上側にいくほど雰囲気の温度は高くなりやすい。
このため、複数のリング状光源50の出力を独立に調整することが必要である。一般的には、上方に位置するリング状光源50ほど、出力を落とし、下方に配置されたリング状光源50ほど出力を大きくする。
例えば、モータコア300の温度を非接触で検出できる温度センサを加熱炉10内に設け、検出される温度を給電装置100のコントローラ102にフィードバックし、モータコア300の温度が均一になるように、複数のリング状光源50の出力を独立に制御することも可能である。
また、あらかじめ実験等により、モータコア300の温度を均一にするための複数のリング状光源50のそれぞれの出力を求めておき、この情報に従って、リング状光源50に供給する電力を調整することも可能である。
【0032】
ここで重要な事は、各リング状光源50の出力を正確に制御するには、上下方向において隣り合うリング状光源50,50の間の相互の光の入射を避ける必要がある。一のリング状光源50に他のリング状光源50からの光が入射すると、一のリング状光源50へ供給する電力を正確に制御したとしても、目標の出力に制御することが困難になるからである。これを避けるために、最上段および最下段に配置されたリング状光源50を除く3つのリング状光源50の間に遮光部材30が配置されている。
【0033】
上記のようにして、モータコア300を所定時間加熱する。具体的には、モータコア300の図示しない樹脂材が充填される磁石挿入孔付近の温度が、モータコア300の上下方向および円周方向において均一かつ目標温度に達するように加熱する。
被加熱物W(モータコア300)の所要の加熱が完了したところで、
図2に示したように、支持部材40から離間させるために被覆部材20を上昇させ、被加熱物Wを搬出できるようにする。そして、被加熱物Wを図示しないハンドリングロボット等の搬送装置を使用して、支持部材40の支持ピン45の上から搬出してこれを樹脂充填工程に送るとともに、新たに加熱すべき被加熱物Wを支持部材40の支持ピン45の上に搬入する。これらの手順を繰り返すことにより、大量のモータコア300の加熱を流れ作業で実行できる。
【0034】
複数のリング状光源50を用いた光加熱のメリットについて説明する。
第1に、複数のリング状光源50を用いると、モータコア300の円筒状外周面300aを非接触で加熱することができ、パーティクルがモータコア300に付着する等の不具合を防ぐことができ、高いクリーン度を保つことができる。
第2に、モータコア300は、上記したように、複数の薄鋼板301が積層されたものであり、このモータコア300の外周面を急激に加熱すると、複数の薄鋼板301の外周部が熱変形を起こし、複数の薄鋼板301の間に隙間が形成されてしまい、不良品となってしまう可能性がある。複数のリング状光源50は、上記したように、それぞれ独立に制御できるとともに、供給する電圧をサイリスタでコントロールすることによって、比較的簡単に複数のリング状光源50の出力を微調整することができる。このため、加熱の初期は、複数の薄鋼板301の外周部に熱変形が生じないように各リング状光源50の出力をコントロールし、モータコア300の内部に向かって熱が浸透していくに従って、各リング状光源50の出力を上げていけば、熱変形の問題を防ぐことができ、かつ、モータコア300の円周方向および上下方向の温度を均等に上昇させつつ目標温度まで加熱することができる。すなわち、リング状光源50を用いると、高精密に出力をコントロールできることができ、この高精密に出力をコントロールできるという特徴を担保するために、遮光部材30が設けられている。なお、モータコア300の図示しない複数の磁石挿入孔の周辺を加熱する際の目標温度は、樹脂充填工程において用いる樹脂の融解温度付近の温度である。
【0035】
光加熱以外の加熱方法として、例えば、誘導加熱が挙げられる。誘導加熱によるモータコア300の加熱におけるデメリットは、第1に装置が大型化し、かつ、コストが高くなる点である。誘導加熱では、モータコア300の周囲に加熱コイルを設け、スイッチング素子を用いて商用電源から非常に高い周波数の電流を生成し、加熱コイルに供給する必要があり、装置が複雑で、大型化し、コストが高くなる。
第2に、誘導加熱による加熱のコントロールは、加熱コイルに供給する電流の周波数の調整と加熱コイルに供給する電流の大きさの調整が必要であり、これらの調整を実施して上記した外周部の熱変形の問題を解消しつつ、モータコア300の外周部付近であって複数の磁石挿入孔が形成される箇所の周辺の温度を円周方向および上下方向に均一に目標温度まで加熱するのは非常に難しい。特に、誘導加熱による加熱は、目標温度を超えて薄鋼板301を過熱させてしまいやすく、薄鋼板301を熱酸化させてしまう可能性もある。
これと比較して、光加熱では、それぞれのリング状光源50の供給する電圧を微調整することで、モータコア300の外周部の熱変形を確実に防ぎつつ、モータコア300の外周部付近であって複数の磁石挿入孔が形成される箇所の周辺の温度を円周方向および上下方向に均一に目標温度まで容易に加熱することができる。また、光加熱では、出力コントロールが比較的容易であるため、目標温度を超えて薄鋼板301を過熱させて薄鋼板301が熱酸化するのを容易に回避できる。
【0036】
モータコア300の加熱は、上記したように、モータコア300の外周部付近に設けられる図示しない複数の磁石挿入孔の周辺の温度が円周方向と上下方向において均一に目標温度に達するように実施される必要がある。したがって、モータコア300の外周部付近の内部の温度は目標温度に達していなくても、複数の磁石挿入孔の周辺の温度が円周方向と上下方向において均一に目標温度に達しさえすれば、モータコア300の予熱工程は完了する。
しかしながら、モータコア300の中心部に近い側の内部の温度を上昇させないと、モータコア300の外周部付近の加熱に用いた熱がモータコア300の中心部に近い側の内部に向かって逃げていく。本実施形態では、モータコア300の円筒状外周面300aを加熱した熱がモータコア300の中心部に近い側の内部に逃げていくのを抑制してモータコア300の加熱に要する時間を短縮させせるために、光源60を用いて保持治具200を加熱している。すなわち、保持治具200を加熱することにより、保持治具の支持柱202が加熱され、支持柱202が直接接触するモータコア300の貫通孔300hから熱がモータコア300の半径方向い外周に向けて伝わる。これにより、モータコア300の円筒状外周面300aを加熱した熱がモータコア300の外周側に偏った位置に配置された複数の磁石挿入孔周辺を通過してモータコア300の内部に逃げていくのを阻止でき、モータコア300の複数の磁石挿入孔周辺の温度上昇速度を高めることができる。
【0037】
保持治具200を加熱する加熱機構として光源60を用いると、高いクリーン度を維持できる点でメリットがある。誘導加熱等の加熱機構を用いることも可能である。また、保持治具200の保持プレート201に加熱ブロック等の加熱機構を直接接触させて加熱することも可能である。
さらに、保持治具200の支持柱202の中心部にヒータを収容する収容空間を形成し、支持柱202を加熱することも可能である。このとき、支持柱202の上下方向での均熱性を保持するように、ヒータ巻き線の粗密を調整するなど、周知の方法で、支持柱202の上下方向の均熱性を保つのが好ましい。
【0038】
モータコア300を加熱する方法としては、他にも熱風をモータコア300に直接吹き付ける方法が挙げられる。しかしこの方法では、熱風の偏りにより、モータコア300の円周方向および上下方向の均等な温度制御が困難であり、熱風を吹き付けるため、パーティクル等がモータコア300に付着してクリーン度が低下するという問題がある。
【0039】
本実施形態によれば、上記の構成により、モータコア300および保持治具200を含む被加熱物Wを効率良くかつ均等に加熱可能である。
また、本実施形態によれば、上記の構成により、モータコア300の製造工程に、予熱工程をインラインで組み込み可能となる。
【0040】
本実施形態では、被加熱物Wとして、モータコア300およびこれを保持する保持治具200を例に挙げたが、これ以外にも、円筒状外周面を有する被加熱物であれば、本発明の加熱装置を適用可能である。
【0041】
上記実施形態では、モータコア300を大気中で光加熱する場合を例に説明した。しかしながら、被加熱物Wを加熱する際の目標温度が比較的高い場合には、大気中で光加熱すると電磁鋼板等からなる薄鋼板301が熱酸化してしまう可能性がある。これを防ぐ方法の一つとしては、不活性ガスを閉鎖された収容空間Sp内に供給しつつ、排気管21に接続したポンプにより、収容空間Spのガスを一定流量で排気する。このとき、収容空間Sp内のガスの流れに偏りができるだけ出ないようにすることが、モータコア300の均熱化の観点からは重要である。
【0042】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 加熱装置
10 加熱炉
20 被覆部材
20a 円筒状内壁面
20b 天井面
20c 天井部
21 排気管
22 整流板
30 遮光部材
30a 内周縁部
31 スリット
30A 遮光部材
Gp 間隙
40 支持部材
50 リング状光源
51 ガラス管
52 リング状部
52a 外周面
Ct 反射膜
53 ストレート部
54 フィラメント
55 給電配線
60 光源
100 給電装置
102 コントローラ
105 ドライバ
W 被加熱物
200 保持治具
201 支持プレート
202 支持柱
300 モータコア
300a 円筒状外周面
300h 貫通孔
301 薄鋼板
301a 外周面
301h 内周面
G ガス