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特許7562223核医学診断装置および核医学データ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】核医学診断装置および核医学データ処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020191074
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022080094
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-09-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 章吾
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-524012(JP,A)
【文献】特表2020-517946(JP,A)
【文献】特開2020-128882(JP,A)
【文献】特開2016-211995(JP,A)
【文献】特表2018-505401(JP,A)
【文献】特表2020-519863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0266728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップアンドシュート方式の1回の撮像により収集された、ガンマ線の検出位置情報、強度情報、ガンマ線検出器と被検体との相対位置を示す情報、およびガンマ線の検出時刻がガンマ線の入射イベントごとにリスト化されたリストモードデータを取得する取得部と、
前記リストモードデータのうち前記1回の撮像中の異なる期間に対応するデータのそれぞれから核医学データを生成することで収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成する生成部と、
前記複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を算出する算出部と、
備えた核医学診断装置。
【請求項2】
前記生成部は、
前記取得部により取得された前記リストモードデータから互いに異なる収集期間に属する複数のリストモードデータを抽出することで前記複数の核医学データを生成する、または、前記互いに異なる収集期間に属する前記複数のリストモードデータのそれぞれにもとづいて再構成処理を行うことにより前記複数の核医学データとして複数の核医学画像を生成する、
請求項1記載の核医学診断装置。
【請求項3】
前記互いに異なる収集期間は、互いに重複しない、
請求項2記載の核医学診断装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記複数の核医学データのそれぞれのSUV(Standardized Uptake Value)値を求め、前記複数の核医学データのそれぞれの前記SUV値を比較することで得られる前記SUV値の変化にもとづいて前記代謝機能に関する定量値を算出する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項5】
収集タイミングの異なる前記複数の核医学データのそれぞれに対してデノイズ処理を行うデノイズ部、
をさらに備え、
前記算出部は、
前記デノイズ処理によりデノイズされた前記複数の核医学データにもとづいて前記代謝機能に関する定量値を算出する、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項6】
前記1回の撮像で被検体との位置関係を固定したまま、前記被検体に投与された放射性薬品から放射されるガンマ線を検出するガンマ線検出器と、
前記ガンマ線検出器の出力をリストモードで収集し、前記1回の撮像での収集にもとづく前記リストモードデータを前記取得部に与えるデータ収集回路と、
をさらに備えた請求項1ないしのいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項7】
ステップアンドシュート方式の1回の撮像により収集された、ガンマ線の検出位置情報、強度情報、ガンマ線検出器と被検体との相対位置を示す情報、およびガンマ線の検出時刻がガンマ線の入射イベントごとにリスト化されたリストモードデータを取得する取得部と、
前記リストモードデータのうち前記1回の撮像中の異なる期間に対応するデータのそれぞれから核医学データを生成することで複数の核医学データを生成する生成部と、
前記複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を算出する算出部と、
備えた核医学データ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書および図面に開示の実施形態は、核医学診断装置および核医学データ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置やPET(Positron Emission Tomography)装置などの核医学診断装置は、放射性同位元素(Radio Isotope、以下RIという)を含む薬品(血流マーカ、トレーサ)が生体内の特定組織や臓器に選択的に取り込まれる性質を利用する。核医学診断装置は、生体内に分布したRIから放射されるガンマ線を、生体外に配設されたガンマ線の検出器で検出し、検出したガンマ線に基づくデータを収集し、このデータを利用して核医学画像を生成する。
【0003】
たとえば、F18-FDG(フルオロデオキシグルコース、以下FDGという)を用いたPET検査において主要な定量指標のひとつに、SUV(standardized uptake value)がある。SUV値は、FDGをはじめとするRI(Radio Isotope、放射性同位元素)トレーサの体内分布を定量化するために用いる指標であり、SUV値が大きければFDGの集積が相対的に強いと考えられる。しかし、FDGは悪性腫瘍のみならず活動性炎症部位や正常生理的部位にも集積する。このため、明確に腫瘍の良悪性を判別する閾値を定めることは困難である。
【0004】
悪性腫瘍を識別するための方法として、異なるタイミングで収集された核医学データ(生データまたは核医学画像)のそれぞれのSUVを比較することで、組織の代謝機能に関する定量値を求める方法が考えられる。異なるタイミングで収集された核医学データを取得するための方法としては、遅延撮像を用いる方法や、FDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法がある。
【0005】
しかし、遅延撮像を用いる方法や、FDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法では、検査時間が長くなってしまうため、被検体の被ばく線量が多くなってしまうほか、被検体の負担が大きいとともにユーザの負担も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2020-517946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書および図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、1ベッドでの収集にもとづいて代謝機能に関する定量値を求めることである。ただし、本明細書および図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る核医学診断装置は、取得部と、生成部と、算出部とを備える。取得部は、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを取得する。生成部は、リストモードデータにもとづいて、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成する。算出部は、複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る核医学診断装置を含む核医学診断システムの一構成例を示すブロック図。
図2】(a)は従来の遅延撮像を用いる方法を説明するための図、(b)は従来のFDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法を説明するための図。
図3】本実施形態に係る核医学データ生成機能の動作の一例を説明するための図。
図4】(a)は悪性腫瘍と正常組織のそれぞれのSUV値の時間変化と、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータの前半と後半からそれぞれ生成される第1画像および第2画像のそれぞれの収集タイミングとの関係の一例を示す説明図、(b)は悪性腫瘍と正常組織のそれぞれのSUV値の時間変化と、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータの最初の1分と最後の1分からそれぞれ生成される第1画像および第2画像のそれぞれの収集タイミングとの関係の一例を示す説明図。
図5】処理回路により、1ベッドでの収集(ステップアンドシュートの1回の撮像)にもとづいて代謝機能に関する定量値を求める際の手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、核医学診断装置および核医学データ処理装置の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係る核医学診断装置は、ステップアンドシュートによる撮像にもとづくリストモードデータ収集が可能なものであればよく、SPECT装置やPET装置などを用いることができる。以下の説明では、本実施形態に係る核医学診断装置としてFDGを用いたPET検査が可能な核医学診断装置を用いる場合の例を示す。
【0012】
図1は、一実施形態に係る核医学診断装置10を含む核医学診断システム1の一構成例を示すブロック図である。なお、核医学診断装置10は、ステップアンドシュートによる撮像にもとづくリストモードデータ収集が可能なものであればよく、SPECT装置やPET装置などを用いることができる。以下の説明では、本実施形態に係る核医学診断装置10としてFDGを用いたPET検査が可能な核医学診断装置を用いる場合の例を示す。
【0013】
核医学診断システム1は、核医学診断装置10および画像サーバ101を含む。
【0014】
核医学診断装置10は、ガンマ線検出器11と、データ収集回路12と、核医学データ処理装置の一例としてのコンソール13とを有する。
【0015】
ガンマ線検出器11は、コンソール13に制御されて被検体に取り込まれた放射性薬品から放出されたガンマ線を検出する。
【0016】
核医学診断装置10としてPET装置を用いる場合、ガンマ線検出器11はFDGなどの薬品に含まれて被検体に投与された放射性薬品から放射されるガンマ線を検出する検出器である。ガンマ線検出器11としては、半導体型検出器を用いてもよいし、シンチレータ型検出器を用いてもよい。
【0017】
半導体型検出器を用いてガンマ線検出器11を構成する場合は、ガンマ線検出器11は、コリメータ、コリメートされたガンマ線を検出するための2次元に配列された複数のガンマ線検出用半導体素子(以下、半導体素子という)および半導体用電子回路などを有する。半導体素子は、たとえばCdTeやCdZnTe(CZT)などにより構成される。
【0018】
半導体用電子回路は、ガンマ線が入射する事象(イベント)が発生するごとに、半導体素子の出力にもとづいて位置情報および強度情報を生成しデータ収集回路12に出力する。この位置情報は、複数の半導体素子のうちのどの半導体素子に入射したかを示す情報である。
【0019】
一方、シンチレータ型検出器を用いてガンマ線検出器11を構成する場合は、ガンマ線検出器11は、ガンマ線の入射角度を規定するためのコリメータ、コリメートされたガンマ線が入射すると瞬間的な閃光を発するシンチレータ、ライトガイド、シンチレータから射出された光を検出するための2次元に配列された複数の光電子増倍管、およびシンチレータ用電子回路などを有する。シンチレータは、たとえばタリウム活性化ヨウ化ナトリウムNaI(Tl)により構成される。
【0020】
シンチレータ用電子回路は、ガンマ線が入射する事象(イベント)が発生するごとに、複数の光電子増倍管の出力にもとづいて複数の光電子増倍管により構成される検出面内におけるガンマ線の入射位置情報(位置情報)および強度情報を生成しデータ収集回路12に出力する。この位置情報は、検出面内の2次元座標の情報であってもよいし、あらかじめ検出面を複数の分割領域(以下、1次セルという)に仮想的に分割しておき、どの1次セルに入射があったかを示す情報であってもよい。
【0021】
また、核医学診断装置10としてSPECT装置を用いる場合は、ガンマ線検出器11は被検者に薬品に含まれて投与されたテクネシウム-99mやタリウム-201などの放射性同位元素から放射されるガンマ線を検出する検出器である。この場合も、ガンマ線検出器11としては、半導体型検出器を用いてもよいし、シンチレータ型検出器を用いてもよく、半導体型検出器およびシンチレータ型検出器の構成は核医学診断装置10としてPET装置を用いる場合と同様である。
【0022】
すなわち、ガンマ線検出器11は、コンソール13に制御されて被検体に投与された放射性薬品から放射されたガンマ線を検出し、イベントごとに位置情報および強度情報を出力する。以下、核医学診断装置10としてPET装置を用い、FDGを用いたPET検査を行う場合の例について説明する。たとえば、被検体との位置関係を固定したままの1回の撮像(ステップアンドシュートの1回の撮像)が行われると、ガンマ線検出器11は、このステップアンドシュートの1回の撮像において被検体から放射されるガンマ線を検出する。
【0023】
本実施形態に係る核医学診断装置10は、PET検査において、被検体の対消滅イベントに関するデータを、複数の撮像部位のそれぞれで収集することができる。具体的には、核医学診断装置10は、ステップアンドシュート方式により、被検体を、複数の撮像部位それぞれで撮像する。ステップアンドシュート方式では、核医学診断装置10は、1つの撮像部位でデータを収集した後に、天板を移動させることで天板に載置された被検体の位置を移動させ、次の撮像部位での撮像を行なう。
【0024】
ここで、複数の撮像部位の設定は、たとえば、X線CT(Computed Tomography)装置により撮像された被検体のスキャノグラムを参照したユーザが、核医学画像の撮像計画を設定ことで行なわれる。スキャノグラムは、X線管とX線検出器を回転可能に支持する回転フレームを固定させた状態で、X線管からX線を照射しながら被検体を体軸方向に沿って移動させることで、被検体の全身を体軸方向に沿ってスキャンした画像データである。
【0025】
たとえば、被検体の身長が「175cm」であり、ガンマ線検出器11の幅(天板の長手方向に沿った幅)が「25cm」である場合であって全身の核医学画像を撮像する場合、ユーザは、被検体を「25cm」ごとに「12.5cm」重複させながら、全身撮像をするように設定を行う。各撮像は、ベッドポジション、あるいは、ベッドと呼ばれる。
【0026】
本実施形態では、ステップアンドシュートの1回の撮像によるデータ収集を、1ベッドでの収集というものとする。1ベッドでの収集は、ガンマ線検出器11の幅に対応する被検体の領域の撮像に対応する。たとえば、複数の撮像位置で撮像(マルチベッドスキャン)を行なう場合は、1ベッドあたり、たとえば5分間にわたってデータ収集を行なう。
【0027】
データ収集回路12は、たとえばプリント回路基板により構成され、ガンマ線検出器11の出力をたとえばリストモードで収集し、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを出力する。リストモードでは、ガンマ線の検出位置情報、強度情報、ガンマ線検出器11と被検者との相対位置を示す情報(ガンマ線検出器11の位置や角度など)、およびガンマ線の検出時刻がガンマ線の入射イベントごとに収集される。
【0028】
核医学データ処理装置の一例としてのコンソール13は、データ収集回路12とデータ送受信可能に接続されていればよく、データ収集回路12と同一の部屋や建屋に設けられずともよい。
【0029】
また、以下で説明するコンソール13と同等の構成および作用を有する核医学データ処理装置は、ガンマ線検出器11およびデータ収集回路12を少なくとも有する核医学診断装置10とネットワーク100を介して接続されて、データ収集回路12から1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを取得してもよい。また、核医学データ処理装置は、ネットワーク100を介して画像サーバ101と接続されて、データ収集回路12から出力されて画像サーバ101に記憶された1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを、画像サーバ101から取得してもよい。
【0030】
コンソール13は、入力インターフェース21、ディスプレイ22、記憶回路23、ネットワーク接続回路24、および処理回路25を有する。
【0031】
入力インターフェース21は、たとえばトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、テンキー、音声入力装置などの一般的な入力装置により構成され、ユーザの操作に対応した操作入力信号を処理回路25に出力する。ディスプレイ22は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどの一般的な表示出力装置により構成される。
【0032】
記憶回路23は、たとえば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等の、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有し、処理回路25が利用するプログラムや1ベッドの収集にもとづくリストモードデータなどのデータを記憶する。なお、記憶回路23の記録媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は、ネットワーク100を介した通信によりダウンロードされてもよいし、光ディスクなどの可搬型記憶媒体を介して記憶回路23に与えられてもよい。
【0033】
ネットワーク接続回路24は、ネットワーク100の形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装する。ネットワーク接続回路24は、この各種プロトコルに従ってネットワーク100を介して他の電気機器と接続する。ネットワーク100は、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、病院基幹LAN(Local Area Network)などの無線/有線LANやインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワークなどを含む。
【0034】
核医学診断装置10は、画像サーバ101とネットワーク100を介して互いにデータ送受信可能に接続される。
【0035】
なお、図1には、核医学診断装置10と画像サーバ101とがネットワーク100を介して接続される場合の例を示したが、ネットワーク100を介さず有線通信または赤外線通信などの無線通信により直接接続されてもよい。
【0036】
処理回路25は、記憶回路23に記憶された医用情報処理プログラムを読み出して実行することにより、1ベッドでの収集(ステップアンドシュートの1回の撮像)にもとづいて代謝機能に関する定量値を求めるための処理を実行するプロセッサである。
【0037】
図1に示すように、処理回路25のプロセッサは、取得機能31、核医学データ生成機能32、デノイズ機能33、および定量値算出機能34を実現する。これらの各機能は、それぞれプログラムの形態で記憶回路23に記憶されている。
【0038】
取得機能31は、データ収集回路12から、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを取得する。取得機能31は、ネットワーク100を介して、あらかじめ収集されて画像サーバ101に記憶されたリストモードデータを取得してもよい。取得機能31は、取得部の一例である。
【0039】
ここで、異なるタイミングで収集された核医学データを取得するための従来の2つの方法について説明する。
【0040】
図2(a)は従来の遅延撮像を用いる方法を説明するための図であり、(b)は従来のFDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法を説明するための図である。
【0041】
一般的な撮像手順では、被検体に対してFDG投与した後に、60分程度待機してから、被検体の観察領域に対する撮像が行われる。このため、一般的な撮像手順では、1つの観察領域に対して1度の核医学データ収集しか行われない。また、この「FDG投与60分後撮像」という一般的な撮像手順は、スループットや物理学的半減期を考慮して採用されており、そもそも、正常組織と悪性腫瘍の集積比率が最も適切となり両者の識別に最適な時間であるとは言えない。
【0042】
異なるタイミングで収集された核医学データを取得するための方法としては、上述の通り、遅延撮像を用いる方法(図2(a)参照)や、FDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法(図2(b)参照)が知られている。
【0043】
しかし、遅延撮像を用いる方法では、一般的な撮像手順の後、すなわち、被検体に対してFDG投与した後に60分程度待機してから被検体の観察領域に対する撮像を行った後、さらに、所定の待機時間(たとえば20~30分)の後に再度の撮像を行うことで、1つの観察領域に対して異なるタイミングで2度の核医学データ収集を行う(図2(a)参照)。このため、この方法では、複数回の撮像を行う必要があり、非常に煩雑であるとともに、検査時間が長くなってしまうために被検体の被ばく線量が多くなってしまう。また、検査時間が長いために、検査の枠を圧迫するほか、被検体の負担が大きいとともにユーザの負担も大きい。
【0044】
また、FDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法では、FDG投与直後からダイナミック撮像を開始し、当該撮像の間に天板を連続移動させて天板に載置された被検体の観察領域を一往復させることで、1つの観察領域に対して異なるタイミングで2度の核医学データ収集を行う(図2(b)参照)。このため、この方法では90分程度の長時間のダイナミック撮像が必要となってしまう。したがって、この方法でも検査時間が長くなってしまい、被検体の被ばく線量が多くなってしまうほか、検査の枠を圧迫するとともに被検体やユーザの負担も大きい。
【0045】
そこで、本実施形態に係る処理回路25の核医学データ生成機能32は、取得機能31が取得した1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータにもとづいて、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成する。核医学データは、リストモードデータそのもの、または、リストモードにもとづく再構成処理により生成された核医学画像である。核医学データ生成機能32は、生成部の一例である。
【0046】
図3は、本実施形態に係る核医学データ生成機能32の動作の一例を説明するための図である。図3に示すように、本実施形態に係る核医学診断装置10は、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータにもとづいて、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成することができる。
【0047】
たとえば、核医学データ生成機能32は、取得機能31により取得された1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータから、互いに異なる収集期間に属する複数のリストモードデータを抽出することで、複数の核医学データを生成する。この場合、核医学データはリストモードデータそのもの(生データ)である。また、核医学データ生成機能32は、抽出された互いに異なる収集期間に属する複数のリストモードデータのそれぞれにもとづいて再構成処理を行うことにより、複数の核医学画像を生成してもよい。この場合、核医学データは核医学画像である。なお、互いに異なる収集期間は、互いに重複しないようにするとよい。
【0048】
このように、核医学データ生成機能32は、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータから、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成することができる。
【0049】
図4(a)は、悪性腫瘍と正常組織のそれぞれのSUV値の時間変化と、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータの前半と後半からそれぞれ生成される第1画像および第2画像のそれぞれの収集タイミングとの関係の一例を示す説明図であり、(b)は悪性腫瘍と正常組織のそれぞれのSUV値の時間変化と、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータの最初の1分と最後の1分からそれぞれ生成される第1画像および第2画像のそれぞれの収集タイミングとの関係の一例を示す説明図である。
【0050】
悪性腫瘍は代謝をおこなっているためエネルギー(グルコース)消費が多く、悪性腫瘍には徐々にFDGが集積していく。このため、悪性腫瘍に対応する画素のSUV値は、時間とともに上昇する。一方、正常組織は、FDGが少しずつ抜けていくか、あるいは、悪性腫瘍よりもFDGの集積が遅い。このため、SUV値の時間変化は悪性腫瘍よりも正常組織のほうが大幅に小さい。
【0051】
このため、1ベッドの収集時間(たとえば5分)においても、5分のうちの異なる収集期間にもとづいて再構成された画像は、コントラストが異なる。
【0052】
すなわち、1ベッドの収集時間のうちの異なる収集期間のそれぞれに対応する核医学データ(リストモードデータそのもの、または核医学画像)を比較することにより、代謝機能に関する定量値を算出することが可能である。
【0053】
ただし、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータから、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成する場合、それぞれの核医学データのカウントが不足し統計ノイズが多くなってしまうことがある。
【0054】
そこで、デノイズ機能33は、収集タイミングの異なる複数の核医学データのそれぞれに対してデノイズ処理を行う。デノイズ処理を行うことにより、1ベッドでの収集にもとづいて生成される比較的短い収集時間の複数の核医学データであっても、複数の核医学データの差異を明確にすることができる。デノイズ機能33は、デノイズ部の一例である。
【0055】
デノイズ処理としては、従来各種のものが知られており、これらのうち任意のものを使用することが可能である。好ましくは、デノイズ機能33は、たとえば特開2019-211475号公報に記載のデノイズ処理を行う。この場合、デノイズ機能33は、核医学データを入力することでデノイズされた核医学データを出力する学習済みモデルに対して、核医学データ生成機能32が生成した収集タイミングの異なる複数の核医学データのそれぞれを入力することにより、デノイズされた複数の核医学データを出力するとよい。
【0056】
このとき、学習済みモデルは、第1のノイズレベルの核医学データと、第1のノイズレベルよりも高い複数の第2のノイズレベルの核医学データとの差分を最小化するように損失関数を最適化することで構築される。この学習済みモデルを利用したデノイズ処理によれば、集積部位の集積を維持したまま周囲のノイズを除去することができるため、コントラストが維持され核医学データの定量性が担保される。
【0057】
この学習済みモデルを構築するにあたっては、具体的には、深層学習(DL、Deep Learning)ネットワークおよび畳み込みニューラルネットワーク(CNN、Convolutional Neural Network)の方法を適用して、損失関数を利用して、訓練されたDL-CNNネットワークを生成するために、停止基準が満たされるまで(たとえば、パラメータの所定閾値への収束)DL-CNNネットワークのパラメータ(たとえば、畳み込み層およびプーリング層の重みおよびバイアス)を繰り返し調整する。
【0058】
すなわち、複数の第1のノイズレベルの核医学データに対して、損失関数を同時に最小化することにより学習を行い、かつ調整可能パラメータを繰り返し調整しながら学習を行う。損失関数は、第1のノイズレベルの核医学データとしての高品質データを現行版のDL-CNNネットワーク(第1のノイズレベルの核医学データより高いノイズレベルを持つような複数のノイズレベルの核医学データとしての低品質データが適用される)の結果と比較する。
【0059】
PETイメージングの場合、高品質データおよび低品質データは、それぞれ、高い/良い画像品質および低い/劣った画像品質をもつ核医学データである。DL-CNNネットワークは、種々の雑音レベルをもつ低品質データの種々のサンプルを利用して訓練されることにより雑音レベルが変化することに対して堅牢となる。一般的に、信号対雑音比(SNR)は、画像を再構成するときにより小さいデータセット(たとえば、より短いスキャン時間またはより少ない同時カウントをもたらすその他の要因のために)を利用するほど小さくなる。
【0060】
核医学データとして再構成画像を利用する場合、たとえば、第1の被検体のPETスキャンからの同時カウントのすべてを使用して高品質画像を生成することができ、これにより実現可能な最高画像品質のPET画像が生成される。次に、第1の被検体のスキャンから再構成されるより低い品質の画像、155(1,1),155(1,2),…,155(1,k)が、データセット全体から選択された同時カウントのデータの種々の部分集合を利用して生成され得る。
【0061】
これらの低い品質画像のそれぞれは、相異なる個数のカウントに対応しており、したがって一定の範囲の雑音レベルをもつ画像を再構成することが可能となる。同様に、第2の被検体および最後の被検体までのすべてのその他の被検体のPETスキャンから生成されたデータセット全体の部分集合から、種々の雑音レベルを、低品質画像155(2,1),155(2,2),…,155(2,k)により得ることができる(すなわち、第Lの被検体については、その低品質画像は155(L,1),155(L,2),…,155(L,k)であり、また、高品質画像は153(L)である)。
【0062】
定量値算出機能34は、複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を算出する。たとえば、定量値算出機能34は、複数の核医学データのそれぞれについて、所定の部分領域ごとに(たとえば画素ごとに)SUV(Standardized Uptake Value)値を求め、複数の核医学データのそれぞれのSUV値を比較することで得られるSUV値の変化にもとづいて代謝機能に関する定量値を算出する(図4(a)、(b)参照)。SUV値の変化は、たとえばSUV値の差分や比によって表される。また、定量値算出機能34は、デノイズ機能33によってデノイズされた複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を算出するとよい。定量値算出機能34は、算出部の一例である。
【0063】
図5は、処理回路25により、1ベッドでの収集(ステップアンドシュートの1回の撮像)にもとづいて代謝機能に関する定量値を求める際の手順の一例を示すフローチャートである。図5において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0064】
まず、被検体にFDGが投与され(ステップS1)、所定の時間(たとえば60分)だけ被検体を安静に待機させる。
【0065】
次に、ステップS3において、ステップアンドシュートによる撮像が1回行われ、取得機能31は、データ収集回路12から、1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータを取得する。
【0066】
次に、ステップS4において、核医学データ生成機能32は、取得機能31が取得した1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータにもとづいて、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成する(図4(a)、図4(b)参照)。
【0067】
次に、ステップS5において、収集タイミングの異なる複数の核医学データのそれぞれに対してデノイズ処理を行う。
【0068】
そして、ステップS6において、定量値算出機能34は、複数の核医学データのそれぞれについて、たとえば画素ごとにSUV(Standardized Uptake Value)値を求め、複数の核医学データのそれぞれのSUV値を比較することで得られるSUV値の変化にもとづいて、代謝機能に関する定量値を算出する。
【0069】
以上の手順により、1ベッドでの収集(ステップアンドシュートの1回の撮像)にもとづいて代謝機能に関する定量値を求めることができる。
【0070】
本実施形態に係る処理回路25によれば、1ベッドでの収集にもとづいて、収集タイミングの異なる複数の核医学データを生成することができる。このため、1ベッドでの収集を行うだけで、収集タイミングの異なる複数の核医学データにもとづいて代謝機能に関する定量値を求めることができる。したがって、従来の遅延撮像を用いる方法(図2(a)参照)やFDG投与直後からダイナミック撮像を行う方法(図2(b)参照)に比べ、非常に簡便であるとともに、大幅に検査時間を短縮することができる。よって、本実施形態に係る処理回路25によれば、被検体の被ばく線量を低減させることができるとともに、被検体の負担およびユーザの負担を大きく低減することができる。
【0071】
なお、上記実施形態では1ベッドでの収集にもとづくリストモードデータから2つの核医学データを生成する場合の例を示したが、収集タイミングの異なる3以上の核医学データを生成してもよい。この場合、定量値算出機能34は、3以上の核医学データのSUV値の変化にもとづいて、代謝機能に関する定量値を算出するとよい。
【0072】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、1ベッドでの収集にもとづいて代謝機能に関する定量値を求めることができる。
【0073】
なお、上記実施形態において、「プロセッサ」という文言は、たとえば、専用または汎用のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(たとえば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサがたとえばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出して実行することにより、各種機能を実現する。また、プロセッサがたとえばASICである場合、記憶回路にプログラムを保存するかわりに、当該プログラムに相当する機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行するハードウェア処理により各種機能を実現する。あるいはまた、プロセッサは、ソフトウェア処理とハードウェア処理とを組み合わせて各種機能を実現することもできる。
【0074】
また、上記実施形態では処理回路の単一のプロセッサが各機能を実現する場合の例について示したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサが各機能を実現してもよい。また、プロセッサが複数設けられる場合、プログラムを記憶する記憶回路は、プロセッサごとに個別に設けられてもよいし、1つの記憶回路が全てのプロセッサの機能に対応するプログラムを一括して記憶してもよい。
【0075】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
10 核医学診断装置
11 ガンマ線検出器
12 データ収集回路
13 コンソール(核医学データ処理装置)
25 処理回路
31 取得機能
32 核医学データ生成機能
33 デノイズ機能
34 定量値算出機能
図1
図2
図3
図4
図5