(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】車両駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60K 17/12 20060101AFI20240930BHJP
F16H 3/72 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B60K17/12
F16H3/72 A
(21)【出願番号】P 2024521832
(86)(22)【出願日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2023047189
【審査請求日】2024-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2023083694
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】森 晃賢
(72)【発明者】
【氏名】小川原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】白▲さき▼ 亮
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108340760(CN,A)
【文献】仏国特許出願公開第2997047(FR,A1)
【文献】特開2020-80597(JP,A)
【文献】特表2013-531958(JP,A)
【文献】特開2018-203059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/12
F16H 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータ及び第2モータから動力を得て、変速機及び減速機を介して車両を駆動する車両駆動システムにおいて、
前記変速機が遊星歯車機構であり、前記第2モータにブレーキが連結されると共に、出力軸に回転制御ギアが連結されており、
前記遊星歯車機構に、前記第1モータの出力軸と前記回転制御ギアとが接続されており、
前記第1モータ及び前記第2モータは制御部により独立に回転駆動され、
前記制御部は、前記ブレーキの締結及び解除を制御すると共に、前記車両の低速域においては前記第1モータを駆動し、中速域においては前記第1モータ及び前記第2モータを駆動し、前記第1モータ及び前記第2モータの回転数が同一となる高速域においては、前記第1モータ及び前記第2モータを駆動するようになっており、
前記低速-前記中速の変化域において、前記第1モータを定速駆動すると共に、前記第2モータを増速駆動し、
クラッチ機構を用いることなく変速を行って前記車両の最高速を向上するようにしたことを特徴とする車両駆動システム。
【請求項2】
前記遊星歯車機構が、サンギア、キャリア及びリングギアで成るシンプソン型遊星歯車機構であり、
前記第1モータの出力軸が前記サンギアに連結され、前記回転制御ギアが前記リングギアに噛合され、前記キャリアが前記減速機に連結されている
請求項1に記載の車両駆動システム。
【請求項3】
前記ブレーキがワンウェイクラッチで構成されている
請求項2に記載の車両駆動システム。
【請求項4】
第1モータ及び第2モータから動力を得て、変速機及び減速機を介して車両を駆動する車両駆動システムにおいて、
前記変速機が遊星歯車機構であり、前記第2モータにブレーキが連結されると共に、出力軸に回転制御ギアが連結されており、
前記遊星歯車機構に、前記第1モータの出力軸と前記回転制御ギアとが接続されており、
前記第1モータ及び前記第2モータは制御部により独立に回転駆動され、
前記制御部は、前記ブレーキの締結及び解除を制御すると共に、前記車両の低速域においては前記第1モータを駆動し、低速-中速の変化域においては前記第1モータを定速駆動すると共に、前記第2モータを増速駆動し、中速域においては前記第1モータ及び前記第2モータを増速駆動し、前記第1モータが最大回転数に達したときに減速駆動し、前記第1モータ及び前記第2モータの回転数が同一となる高速域においては、前記第1モータ及び前記第2モータを駆動するようになっており、
クラッチ機構を用いることなく変速を行って前記車両の最高速を向上するようにしたことを特徴とする車両駆動システム。
【請求項5】
前記遊星歯車機構が、サンギア、キャリア及びリングギアで成るシンプソン型遊星歯車機構であり、
前記第1モータの出力軸が前記サンギアに連結され、前記回転制御ギアが前記リングギアに噛合され、前記キャリアが前記減速機に連結されている
請求項4に記載の車両駆動システム。
【請求項6】
前記ブレーキがワンウェイクラッチで構成されている
請求項5に記載の車両駆動システム。
【請求項7】
前記第1モータ及び前記第2モータが、前記遊星歯車機構に対して一方側に並列に配置されている
請求項1又は4に記載の車両駆動システム。
【請求項8】
前記第1モータ及び前記第2モータが、前記遊星歯車機構に対して対向するように配置されている
請求項1又は4に記載の車両駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ(電動モータ)を動力源とする電気自動車(Electric Vehicle: EV)に搭載する車両駆動システムに関し、特に2つのモータを駆動源として効率良く効果的に制御し、クラッチ機構を具備しない簡易構成の2モータ式電気自動車の車両駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来変速機を備えず、駆動源として単一のモータを用いたいわゆるワンモータ式の電気自動車が実用化されているが、最近は、駆動源として2つのモータを用いると共に、変速機を備えた2モータ式の電気自動車が開発されている。即ち、
図1に示すように、電力(バッテリ)により回転駆動されるモータ10に変速機20が接続され、変速機20の変速回転が減速機30で減速されて差動ギア40に伝達され、両軸の駆動シャフト41を経て車輪42及び43に伝達され、車両が走行するようになっている。
【0003】
2モータ式の電気自動車として、例えば特開2020-186736号公報(特許文献1)、特開2020-48374号公報(特許文献2)が提案されている。
【0004】
特許文献1は、第1モータから得られる動力がギアを介して第1サンギアに伝達され、第1切替部は、第2サンギアの回転を抑制するか否かを選択的に切り替え、第2切替部は、第2モータから得られる動力を第2サンギアへ伝達するか否かを選択的に切り替え、第3切替部は、第2モータから得られる動力を第1サンギアへ伝達するか否かを選択的に切り替えるようになっている。
【0005】
また、特許文献2の駆動装置は変速機及び制御装置を備え、変速機は、第1モータ及び第2モータにそれぞれ結合し同軸上に配置される第1入力軸及び第2入力軸と、第1入力軸の動力を出力軸に伝達する第1減速機と、第1減速機の減速比よりも小さい減速比で第2入力軸の動力を出力軸に伝達する第2減速機と、第1入力軸と第2入力軸とを切断又は接続する第1クラッチと、出力軸に配置され第1減速機から出力軸へ動力を伝達するワンウェイクラッチから成る第2クラッチとを備え、制御装置は、第1クラッチを繋ぐときに第1モータの回転数を制御し、それ以外のときは第1モータのトルクを制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-186736号公報
【文献】特開2020-48374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の車両駆動装置はクラッチ作動機構を搭載しており、消費電力が大きくなる問題があり、クラッチ作動機構に加えラビニオ遊星歯車を搭載しているため部品点数が多くなり、構造が複雑化してコストアップになってしまう課題がある。
【0008】
また、特許文献2の駆動装置はドグクラッチを使用しているため、変速ショックが発生すると共に、運転性が悪化する問題がある。
【0009】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、クラッチ機構を搭載せず、構造が比較的に簡易で部品点数が少なく、車両速度を効率良く効果的に制御でき、安価に構成可能な車両駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1モータ及び第2モータから動力を得て、変速機及び減速機を介して車両を駆動する車両駆動システムに関し、本発明の上記目的は、前記変速機が遊星歯車機構であり、前記第2モータにブレーキが連結されると共に、出力軸に回転制御ギアが連結されており、前記遊星歯車機構に、前記第1モータの出力軸と前記回転制御ギアとが接続されており、前記第1モータ及び前記第2モータは制御部により独立に回転駆動され、前記制御部は、前記ブレーキの締結及び解除を制御すると共に、前記車両の低速域においては前記第1モータを駆動し、中速域においては前記第1モータ及び前記第2モータを駆動し、前記第1モータ及び前記第2モータの回転数が同一となる高速域においては、前記第1モータ及び前記第2モータを駆動するようになっており、前記低速-前記中速の変化域において、前記第1モータを定速駆動すると共に、前記第2モータを増速駆動し、
或いは
前記制御部は、前記ブレーキの締結及び解除を制御すると共に、前記車両の低速域においては前記第1モータを駆動し、低速-中速の変化域においては前記第1モータを定速駆動すると共に、前記第2モータを増速駆動し、中速域においては前記第1モータ及び前記第2モータを増速駆動し、前記第1モータが最大回転数に達したときに減速駆動し、前記第1モータ及び前記第2モータの回転数が同一となる高速域においては、前記第1モータ及び前記第2モータを駆動するようになっており、クラッチ機構を用いることなく変速を行って前記車両の最高速を向上することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両駆動システムによれば、部品構成が従来構成よりも少なくなり、更にモータの小型化が可能であることから、軸方向又は径方向のユニット全体のサイズを小さくすることができる。特に商用車向けでの使用においては、荷物搭載スペースやバッテリ搭載スペースの確保に寄与できる。また、モータの小型化により、モータのコスト低減にも寄与する。
【0012】
本発明では、第2モータの回転軸を固定するためだけに乾式ブレーキを使用しており、摩擦が極めて小さく、ステップAT(Automatic Transmission)をベースとした湿式ブレーキに比べ、空転摩擦が小さく、消費電力も小さい。本発明は、ステップATをベースにした変速機ではないので、変速のためにクラッチ機構を締結及び解除する必要がなく、なだらかで連続的な変速が可能である。本発明では、変速時にドグクラッチやシンクロ装置などを使用しないので、変速回転の同期をとるためのトルク抜けも起きない。また、発進停止が多いトラックやトレーラなどの使用条件では、発進時に作動するモータ出力は、従来のeアクスル(E-Axle)の半分以下の出力のモータを1つ使用するだけなので、大幅な電力消費節約の向上に繋がる。
【0013】
更に、本発明では、モータの高速回転化の進化に対して、構造が複雑な回転体を備えていないので、高回転化にも対応できる。リング回転制御ギア及びシンプソン型遊星歯車機構のギア比の設定と、2つのモータの独立的な回転駆動制御によって、車両の使用頻度が高い領域において、2つのモータの効率が最適なシステム領域を使用することができる。
【0014】
本発明の機構によれば、ギア比を容易に調整することができ、2つのモータのサイズバリエーションに制限がなくなると共に、車両の要求性能に基づいたモータ選定が可能となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電気自動車の一般的な構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の機構部の構成例を示すスケルトン図である。
【
図5】本発明の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の第1制御例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第1制御例を説明するためのタイムチャート及び線図である。
【
図8】本発明の第2制御例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第2制御例を説明するためのタイムチャート及び線図である。
【
図10】本発明の発進トルクの増大作用を、従来例と比較して説明するための特性図である。
【
図11】1モータ式駆動の作動効果を説明するための特性図である。
【
図12】本発明の2モータ式駆動の作動効果を説明するための特性図である。
【
図13】本発明の機構上の変形例を示す斜視図である。
【
図15】本発明の機構上の変形例を示す斜視図である。
【
図17】本発明の機構上の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2は、本発明の構成例をスケルトン図により、
図1に対応させて示しており、モータ10は第1モータ11及び第2モータ12の2つを備え、第2モータ12にはブレーキ13が接続されると共に、出力軸にリング回転制御ギア14が取り付けられている。本例では、第1モータ11及び第2モータ12は、変速機20に対して同一側に、並列に配置されている。また、第1モータ11及び第2モータ12の構造と性能に制限はなく、車両要求によって適宜変更可能である。ブレーキ13は第2モータ12の出力軸の固定のみに使用するので、電磁ブレーキ、ワンウェイクラッチなどの、保守が容易な乾式ブレーキとなっている。ブレーキ13を締結すると第2モータ12の出力軸は固定され、指令により駆動しても回転せず(0回転)、解除指令によりブレーキ13を解除すると、第2モータ12の出力軸は回転され得るようになっている。更に、第1モータ11及び第2モータ12には、ここでは図示していないが、出力回転数を検出するためのレゾルバ等の回転センサ11A及び12Aがそれぞれ設けられている。そして、第1モータ11及び第2モータ12は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro
Processor Unit)等で成る制御部50で、要求駆動力信号DSなどの入力によって駆動制御される。
【0017】
モータ10の出力軸は変速機20に連結されており、本発明では、モータ10は第1モータ11及び第2モータ12の2つを具備し、第2モータ12の出力軸にはリング回転制御ギア14が取り付けられており、変速機20はシンプソン型遊星歯車機構で構成されている。即ち、シンプソン型遊星歯車機構はサンギア21、キャリア22及びリングギア23の3回転要素で構成され、第2モータ12に取り付けられたリング回転制御ギア14がリングギア23と噛合され、第1モータ11の出力軸がサンギア21に連結され、それぞれの回転が遊星歯車機構に伝達されるようになっている。
【0018】
変速機20の回転出力は減速機30で減速されて差動ギア40に伝達される。即ち、変速機20を構成する遊星歯車機構のキャリア22の出力軸22Aには第1減速ギア31が連結され、第1減速ギア31に噛合する第2減速ギア32で減速され、更に第2減速ギア32に連結された第3減速ギア33に噛合する第4減速ギア34で減速される。そして、減速された回転を出力する第4減速ギア34の回転軸34Aが、差動ギア40に連結されている。
【0019】
図3は、
図2の機構部の外観斜視図であり、
図4(A)はその側面図であり、
図4(B)は正面図であり、第1モータ11及び第2モータ12が変速機20の一方側、つまり減速機30の反対側に並列に配置されている。
【0020】
このように本発明の機構では、第1モータ11と第2モータ12の出力関係を調整するギア(リング回転制御ギア14、サンギア21、キャリア22、リングギア23)が、第1モータ11の出力軸と第2モータ12の出力軸に分かれて取り付けられていると共に、変速用の締結要素(クラッチ機構など)を具備していない。また、本発明では、第1モータ11の出力は、第2モータ12の出力の制約を受けずに、独立して駆動できる構造となっている。
【0021】
低速ギア時、ブレーキ13を締結して第2モータ12の出力軸を固定することで、リング回転制御ギア14を介してリングギア23を固定する。この状態で第1モータ11が回転されると、第1モータ11に連結されたサンギア21が回転され、キャリア22も同方向に回転され、その回転が減速機30に伝達される。ここで、リングギア23の内歯数をZr、サンギア21の歯数をZsとした場合、第1モータ11の1回転Nmt1とキャリア22の回転数Ncとの関係は、下記数1となる。
(数1)
Nmt1/Nc = 1 + Zr/Zs
上記低速状態から中速への変化時には、第2モータ12の回転制御を0回転とした上で、ブレーキ13を解除する。ブレーキ13を解除した瞬間に、第2モータ12のトルクTr2は0回転を保持しようとして、下記数2の値に従って上昇する。ここで、リング回転制御ギア14の歯数をZrc、リングギア23の外歯数をZro、第1モータ11のトルクをTr1としている。
(数2)
Tr2 = -Tr1 × (Zr/Zs) × (Zro/Zrc)
よって、下記数3で制御することにより、第2モータ12の回転数を増加させることができる。
(数3)
Tr2 > -Tr1 ×(Zr/Zs) × (Zro/Zrc)
そして、第1モータ11及び第2モータ12を一定出力で制御している場合、第1モータ11の回転数Nm1が上昇すると、モータ特性により出力トルクTr1は低下する。本発明では、第2モータ12の回転数Nm2が上昇し、最大出力使用可能回転数Nm2-maxに達したとき、下記数4及び数5が成立するように制御する。
(数4)
Nm2 × Tr2 = Nm1 × Tr1
(数5)
Tr2 = Tr1 × (Zr/Zs) × (Zro/Zrc)
上記数5が成立する状態を中速状態とし、最大出力トルクを出すことが可能となる。そして、出力トルクToutは、下記数6で表わすことができる。
(数6)
Tout = Tr1 - Tr2 × (Zrc/Zro)
モータ回転数の限界(定格)により、車速Vsが制限されることを回避するため、下記数7とすることが可能である。
(数7)
Nm1 = Nm2
上記数7が成立する状態を高速状態とする。高速状態での出力トルクToutは、中速状態と同一の数6の計算式である。
【0022】
図5は本発明の制御部50の構成例を示しており、制御部50にはCAN(Controller Area Network)等から車速Vsが入力されると共に、操作部等から要求駆動力信号DSが入力される。第1モータ11には回転センサ11Aが設けられ、第2モータ12には回転センサ12Aが設けられており、回転センサ11Aからの第1モータ11の回転数Nm1と、回転センサ12Aからの第2モータ12の回転数Nm2とが、制御部50に入力される。また、車速Vsは車速判定部51に入力され、設定部52で設定されている低速、中速及び高速などの設定値と比較され、判定結果JDが駆動制御部53に入力される。駆動制御部53は判定結果JDと、設定部からの設定値、回転センサ11Aからの回転数Nm1及び回転センサ12Aからの回転数Nm2と、要求駆動力信号DSとに基づき、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を駆動制御すると共に、第2モータ制御部54-2及び第2モータ駆動部55-2を介して第2モータ12を駆動制御する。回転センサ11Aからの回転数Nm1は第1モータ制御部54-1にも入力され、回転センサ12Aからの回転数Nm2は第2モータ制御部54-2にも入力されている。更に、駆動制御部53は、要求駆動力信号DSに基づき、ブレーキ信号BSによりブレーキ13を締結又は解除するようになっている。
【0023】
このような構成において、本発明の第1制御例を、
図6のフローチャート及び
図7(A)のタイムチャートを参照して説明する。
【0024】
走行していない駐停車状態(車速Vs=0)から、発進動作により駆動制御が開始されると、駆動制御部53に要求駆動力信号DSが入力され、駆動制御部53は先ずブレーキ信号BSによりブレーキ13を締結し、第2モータ12の出力軸、つまりリングギア23を固定すると共に(ステップS10A)、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を駆動(増速)し(ステップS10)、車速Vsが低速域を過ぎる車速Vs1になるまで、若しくは第1モータ11の回転数Nm1が回転数Nm11となるまで継続される(ステップS11)。車速Vsと車速Vs1の関係は車速判定部51で判定され、回転数Nm1と回転数Nm11の関係は駆動制御部53で判定される。この間、第2モータ12はブレーキ13の締結により、回転駆動されない固定状態(0回転)に維持されている。
【0025】
車速Vsが車速Vs1に達したとき若しくは第1モータ11の回転数Nm1が回転数Nm11に達したとき、駆動制御部53は、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を定速で駆動し(ステップS12)、ブレーキ信号BSによりブレーキ13を解除すると共に(ステップS13A)、第2モータ制御部54-2及び第2モータ駆動部55-2を介して第2モータ12を駆動(増速)する(ステップS13)。第1モータ11の定速駆動及び第2モータ12の増速は、車速Vsが中速域の車速Vs2となるまで若しくは第2モータ12の回転数Nm2が回転数Nm21となるまで継続される(ステップS14)。
【0026】
なお、第1モータ11の定速駆動、ブレーキ13の解除及び第2モータ12の駆動(増速)の順番は適宜変更可能であり、同時に行うことも可能である。
【0027】
そして、車速Vsが車速Vs2に達したとき若しくは第2モータ12の回転数Nm2が回転数Nm21に達したとき、駆動制御部53は、第2モータ12の駆動(増速)をそのまま継続すると共に、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を駆動(増速)する(ステップS15)。第1モータ11の増速によりモータ回転数Nm1が上昇し、第1モータ11の最大回転数Nm1-max1の直ぐ手前の回転数Nm12に達したとき(ステップS16)、駆動制御部53は、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を定速駆動に変更するが(ステップS17)、第2モータ12の増速は継続する。その結果、第2モータ12の回転数Nm2も遂には回転数Nm22、つまり第1モータ11の回転数Nm12に達し、2つのモータ回転数は同一の回転数(Nm12=Nm22)となる(ステップS18)。同一の回転数(Nm12=Nm22)となったときの車速はVs4であり、以後は高速領域となり、第1モータ11及び第2モータ12の駆動で走行する(ステップS19)。
【0028】
第1モータ11の最大回転数Nm1-max1までは変化させることが可能であるが、最大回転数Nm1-max1に到達するとその最大回転数を維持して回転する。即ち、高速時のモータ回転数は、第2モータ12の回転数に依存して変化する。
【0029】
図7(B)は
図7(A)の共線図を示しており、Sはサンギア21、Cはキャリア22、Rはリングギア23における回転磁界をそれぞれ示している。そして、ST1は低速状態の時、ST2は低速-中速変化過程、ST3は中速領域の変化過程、ST4は高速の変化過程を示しており、回転磁界はサンギア21においては殆ど変化せず、リングギア23において変化が大きくなっている。
【0030】
次に本発明の第2制御例を、
図8のフローチャート及び
図9(A)のタイムチャートを参照して説明する。
【0031】
走行していない駐停車状態(車速Vs=0)から、発進動作により駆動制御が開始されると、前述の第1制御例と同様に、駆動制御部53に要求駆動力信号DSが入力され、駆動制御部53は先ずブレーキ信号BSによりブレーキ13を締結し、第2モータ12の出力軸、つまりリングギア23を固定すると共に(ステップS20A)、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を駆動(増速)し(ステップS20)、車速Vsが低速域を過ぎる車速Vs10になるまで、若しくは第1モータ11の回転数Nm1が回転数Nm13となるまで継続される(ステップS21)。車速Vsと車速Vs10の関係は車速判定部51で判定され、回転数Nm1と回転数Nm13の関係は駆動制御部53で判定される。この間、第2モータ12はブレーキ13の締結により、回転駆動されない固定状態(0回転)になっている。
【0032】
車速Vsが車速Vs10に達したとき若しくは第1モータ11の回転数Nm1が回転数Nm13に達したとき、駆動制御部53は、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を定速で駆動し(ステップS22)、ブレーキ信号BSによりブレーキ13を解除すると共に(ステップS23A)、第2モータ制御部54-2及び第2モータ駆動部55-2を介して第2モータ12を駆動(増速)する(ステップS23)。第1モータ11の定速駆動及び第2モータ12の増速は、車速Vsが中速域の車速Vs11となるまで若しくは第2モータ12の回転数Nm2が回転数Nm23となるまで継続される(ステップS24)。
【0033】
なお、第1モータ11の定速駆動、ブレーキ13の解除及び第2モータ12の駆動(増速)の順番は適宜変更可能であり、同時に行うことも可能である。
【0034】
そして、車速Vsが車速Vs11に達したとき若しくは第2モータ12の回転数Nm2が回転数Nm23に達したとき、駆動制御部53は、第2モータ12の駆動(増速)をそのまま継続すると共に、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を再度駆動(増速)する(ステップS25)。第1モータ11の増速によりモータ回転数Nm1が上昇し、第1モータ11の最大回転数Nm1-max22に達したとき(ステップS26)、駆動制御部53は、第1モータ制御部54-1及び第1モータ駆動部55-1を介して第1モータ11を減速に変更すると共に(ステップS27)、第2モータ12を更に増速する(ステップS28)。その結果、遂には第1モータ11の回転数Nm1と第2モータ12の回転数Nm2が同一となり(ステップS30)、つまり回転数(Nm13=Nm25)となり(車速Vs13)、以後は高速領域となり、第1モータ11、第2モータ12の駆動で走行する(ステップS31)。高速時のモータ回転数は、第2モータ12の回転数に依存して変化する。
【0035】
図9(B)は
図9(A)の共線図を示しており、Sはサンギア21、Cはキャリア22、Rはリングギア23における回転磁界をそれぞれ示している。そして、ST10は低速状態の時、ST11は低速-中速の変化過程、ST12は中速領域の第1モータ11の最大回転数Nm1-max22までの過程、ST14は第1モータ11の最大回転数Nm1-max22に到達後、回転数を減速する制御に入った時の挙動、ST13は高速領域の挙動を示しており、回転磁界はサンギア21においては小さな減少と増加があり、リングギア23において変化が大きくなっている。
【0036】
図10(A)は従来の1モータ式EVにおけるモータ特性であるが、本発明では、
図7の制御の場合には
図10(B)に示すような特性であり、2つのモータで効率的な制御を実現できる。
【0037】
一般的な1モータ式駆動では、
図11に示すように停止から発進後、モータ回転数が上昇していくと効率の良い領域に入り、更に回転数が上昇して高速域に入ると、再度効率の悪い領域を使用して走行を続けることになる。消費電力Pは下記数8で表わせるが、モータのシステム効率η
0が悪ければ総出力も低下してしまう。なお、数8のP
iは、モータ入力電力を示している。
(数8)
P=実出力トルク×回転数=P
i×η
0
これに対して、本発明では
図12に示すように、低速領域では第1モータ11のトルクを遊星ギア比で増大させて加速していき、高効率の領域を外れる前に第2モータ12を駆動し、第1モータ11の回転を下げて効率の良い回転域に入るようになっている。第2モータ12も同様に回転が上がっていくことで、低効率の領域を抜けて効率の良い回転で稼働させる。中速領域で稼働しているときのモータ総出力は、下記数9で表わせる。なお、数9において、P
1は第1モータ11の入力電力、P
2は第2モータ12の入力電力、η
1は第1モータ11の効率、η
2は第2モータ12の効率である。
(数9)
P=実出力トルク×回転数=P
1×η
1+P
2×η
2
しかし、効率η1及びη2とも高効率の領域であるので、総出力の効率が良い。最大で4%程度の電力消費の改善が見込まれる。
【0038】
本発明では、低速の状態では、第1モータ11のトルクが変速機20の遊星歯車比分だけ増大されるため、小さなモータでも大きなモータと同等の発進駆動力を得ることができる。最大加速が必要な場合は、第1モータ11のトルク特性が“肩(平坦特性から落ち込むところ)”にかかる位置で第2モータ12による変速を行い、それ以降は第1モータ11及び第2モータ12の2つのモータによって、効率の良い回転域で作動する。
【0039】
そして、第1モータ11により一定電力で発進すると、上記肩の部分から電力曲線によってトルクは下がり始める。ここで、最大電力で第1モータ11を駆動したとすると、第2モータ12での分担トルクは、第1モータ11の出力軸に連結されている遊星歯車比-1倍(分担比)が必要となる。発進直後は分担比のトルクを、ブレーキ13の締結によって0回転に保持しているが、第2モータ12を同じ出力のモータを使用したとすると、第1モータ11の回転が上昇し、上記肩を過ぎてトルクが下がり始め、最大トルクの1/分担比になったところで、第2モータ12の最大トルクと釣り合うことになる。このときに第2モータ12を駆動すると共に、ブレーキ13を解除することで第2モータ12に滑らかに分担トルクの移動を行うことができる。このとき、第2モータ12は最大トルクを出力しているが、キャリア22から出力されるトルクは、第1モータ11のトルクに遊星歯車比を乗じた値となる。
【0040】
第1モータ11と第2モータ12の回転比を一定にして上昇させていくと、本発明システムの最大出力を得られる。パーシャル領域(全開でもなく、全閉でもない不確定な中程度のアクセル開度)においても、同様な制御を行う。即ち、第1モータ11の肩を過ぎてトルク低下して来た値が、低下する前の1/分担比になるところで、第1モータ11のトルクと同じ電力で第2モータ12を駆動する。
【0041】
上述の実施形態では、第1モータ11及び第2モータを変速機20の一方側に配置しているが、
図13及び
図14に示すように両側に対向させて配置することも可能である。この場合、ユニット単体の重心バランスを取り易くなり、車両前後方向の短縮化が可能となる。
【0042】
また、
図15及び
図16に示すように減速ギア32を逆配置にしても良く、
図17に示すように、リングギア23の外径より小径のギア23Aを、リングギア23と同一軸上の軸方向に配置しても良い。この場合のスケルトン図は、
図2と同じである。効果として、例えばリングギア23とリング回転制御ギア14のギアサイズや配置がうまくできない場合、リングギア23よりも小さいギア23Aを軸方向に伸ばして、リング回転制御ギア14と噛合させことで、ギアの強度や車両搭載スペース、モータサイズの選択範囲を拡げることが可能となる。
図17の場合、リングギア23は内歯外丸歯形、ギア23Aは外歯内丸歯形の構成となる。
【符号の説明】
【0043】
10 モータ
11 第1モータ(#1)
11A 回転センサ
12 第2モータ(#2)
12A 回転センサ
13 ブレーキ
14 リング回転制御ギア
20 変速機(シンプソン型遊星歯車機構)
21 サンギア
22 キャリア
23 リングギア
30 減速機
31 第1減速ギア
32 第2減速ギア
33 第3減速ギア
34 第4減速ギア
40 差動ギア
41 駆動シャフト
42,43 車輪
50 制御部
51 車速判定部
52 設定部
53 駆動制御部
【要約】
【課題】クラッチ機構を搭載せず、構造が比較的に簡易で部品点数が少なく、車両速度を効率良く効果的に制御でき、安価に構成可能な車両駆動システムを提供する。
【解決手段】第1及び第2モータから動力を得て、変速機及び減速機を介して駆動する車両駆動システムにおいて、変速機が遊星歯車機構であり、第2モータにブレーキが連結されると共に、出力軸に回転制御ギアが連結されており、遊星歯車機構に、第1モータの出力軸と回転制御ギアとが接続されており、第1及び第2モータは制御部により独立に回転駆動され、制御部は、ブレーキの締結及び解除を制御すると共に、車両の低速域では第1モータを駆動し、中速域では第1及び第2モータを駆動し、第1及び第2モータの回転数が同一となる高速域では第1及び第2モータを駆動する。
【選択図】
図2