(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240930BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20240930BHJP
C09J 199/00 20060101ALI20240930BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240930BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/25
C09J199/00
B32B27/00 M
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2019054306
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 理仁
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203822(JP,A)
【文献】特開平06-228508(JP,A)
【文献】特開2007-161971(JP,A)
【文献】特開2006-299101(JP,A)
【文献】特開2003-301152(JP,A)
【文献】特開2003-231216(JP,A)
【文献】特開2016-108363(JP,A)
【文献】特開2014-196471(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056499(WO,A1)
【文献】特開2019-218458(JP,A)
【文献】特開2005-247402(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010507(WO,A1)
【文献】特開2006-282752(JP,A)
【文献】特開2020-041023(JP,A)
【文献】特開2020-050712(JP,A)
【文献】国際公開第2016/146349(WO,A1)
【文献】特開2016-029155(JP,A)
【文献】特開2015-028130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 7/25
C09J 199/00
B32B 27/00
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の部品を固定するために用いられる
両面接着性の粘着シートであって、
ポリエステル樹脂を含む基材層(ただし、ポリ乳酸フィルムを除く。)と
、粘着剤層と、を備えており、
前記粘着剤層は前記基材層の両面に配置されており、
前記粘着剤層に含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素であり、
前記ポリエステル樹脂はバイオマス由来炭素を含み、
前記基材層に含まれる全炭素に占めるバイオマス由来炭素の含有割合は20%未満であり、
せん断接着力が1.8MPa以上である、粘着シート。
【請求項2】
前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は10%以上である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材層の破断強度は200MPa以上である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着シートに含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は50%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記基材層に含まれる全炭素の5%以上
20%未満がバイオマス由来炭素である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、例えば支持体上に粘着剤層を有する支持体付き粘着シートの形態で、家電製品から自動車、各種機械、電気機器、電子機器等の様々な産業分野において、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として広く利用されている。粘着シートは、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン等の電子機器における部材の固定等に好ましく用いられている。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6104500号公報
【文献】特開2015-221847号公報
【文献】特許第5316725号公報
【文献】国際公開第2016/186122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球温暖化等の環境問題が重視されるようになり、石油等の化石資源系材料の使用量を低減することが望まれている。粘着シートもその例外ではない。粘着剤に着目すると、バイオベース度の高い材料として天然ゴムやロジンが知られている。これら天然資源由来材料の改質や変性等により、所定以上のバイオベース度を保持しつつ、例えば電子機器用途等の特定の用途に適した粘着特性(接着保持力、耐熱性等)を得ることができる。また、複雑な形状への打ち抜き加工性や加工時の歩留り向上の点で基材レスよりも有利な基材付き粘着シートが広く利用されている。その基材材料に目を向けると、バイオマス資源由来のポリオレフィンやポリ乳酸が知られているが、ポリオレフィンは低剛性ゆえ、例えば電子機器用途など薄厚化が求められる用途への展開には制限がある。ポリ乳酸は汎用プラスチックと比べて強度が低く、また成形性も劣る傾向があり、やはりその適用箇所には制限がある。
【0005】
ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂については、合成に用いるジオールをバイオマス資源由来としたものが報告されている(例えば特許文献3および4)。しかし、特許文献3,4に記載されているように、化石資源系材料と同等の性能を得るには工夫が必要であり、また、コスト増の割にバイオベース度への寄与度が小さいこともあって実用化の検討は進んでいない。バイオマス資源由来のポリエステル樹脂を用いた粘着シートは報告されていないのが現状である。そこで、本発明者らは、鋭意検討を行い、バイオマス資源由来のポリエステル樹脂を用いて、実用的な価値を有する新規な粘着シートを創出した。具体的には、本発明は、バイオマス資源由来のポリエステル樹脂を用いて、粘着シート全体として化石資源材料への依存度を低減することができ、かつ良好な加工性を有する粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると、ポリエステル樹脂を含む基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に配置された粘着剤層と、を備えた粘着シートが提供される。前記粘着剤層に含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素である。また、前記ポリエステル樹脂はバイオマス由来炭素を含む。上記粘着シートは、粘着剤層および基材層の両方にバイオマス材料を用いているので、粘着シート全体として化石資源系材料への依存度を低減することができる。また、上記粘着シートは、ポリエステル樹脂含有基材層を有するので良好な加工性を有する。具体的には、ポリエステル樹脂含有基材層を備える構成によると、複雑な形状への打ち抜き加工がしやすく、加工時の歩留りを向上することができる。かかる構成は、貼り損ねの際のリワーク性(剥離性)にも優れる傾向がある。剥離性に優れることは、リサイクル性の点でも有利である。さらに、ポリエステル樹脂含有基材層は剛性が高い傾向があり、粘着シートを薄厚化しやすい。
【0007】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は10%以上である。相対的に高い剛性を有する基材層の厚さの比率を所定以上とすることで、また、粘着剤層厚みの比率が低下して粘着剤のブロッキングが防止されやすくなる結果、加工性を向上させることができる。
【0008】
いくつかの好ましい態様において、前記基材層の破断強度は200MPa以上である。所定以上の破断強度を有する基材層を使用することで、優れた加工性が得られやすく、また、粘着シートを薄厚化しやすい。
【0009】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着シートに含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素である。ここに開示される技術によると、粘着シートを構成する粘着剤層および基材層の両方にバイオマス材料を用いて、粘着シート全体に含まれる全炭素に占めるバイオマス由来炭素の割合を50%以上とすることができる。粘着剤層と基材層とを備える構成において、化石資源系材料の使用量を効果的に低減することができる。
【0010】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は50%以下である。ポリエステル樹脂含有基材層のバイオマス炭素化は、粘着剤層のバイオマス炭素化と比べて、技術的、経済的、品質等の点で難度が高い。そこで、粘着シート全体に占めるポリエステル樹脂含有基材層の割合を低減することが、所定の粘着特性を保持しつつ、粘着シート全体としての化石資源系材料への依存度を低減する現実的かつ好適な選択肢となり得る。
【0011】
いくつかの好ましい態様において、前記基材層に含まれる全炭素の5%以上はバイオマス由来炭素である。所定量以上のバイオマス由来炭素を含む基材層を採用することによって、粘着シート全体としての化石資源系材料への依存度を好ましく低減することができる。
【0012】
いくつかの好ましい態様に係る粘着シートは、1.8MPa以上のせん断接着力を示す。所定量以上のバイオマス材料を用いながら、高いせん断接着力を発揮し得る粘着シートは、接着保持性等の性能が要求される各種用途において、環境負荷低減を実現することができる。
【0013】
ここに開示される粘着シートは、前記粘着剤層が前記基材層の両面に設けられた両面接着性の粘着シートであることが好ましい。両面粘着シートは、例えば部品を固定する用途に好適である。
【0014】
ここに開示される粘着シートは、各種用途に適した粘着特性を発揮することが可能であり、また良好な加工性を有し、かつ基材の薄厚化も可能であるので、接着保持性等の粘着特性や省スペース化が要求されがちな電子機器の部品固定用途に特に好適である。大量に生産、消費され、かつ陳腐化する電子機器用途において、化石資源系材料への依存度低減による環境負荷低減のインパクトは大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】他の一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】他の一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】他の一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】せん断接着力の測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の粘着シートのサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0017】
なお、ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、ここに開示される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0018】
また、本明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion : Fundamental and Practice”, McLaren & Sons, (1966) P. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E*(1Hz)<107dyne/cm2を満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。
【0019】
<粘着シートの構成>
ここに開示される粘着シートは、ポリエステル樹脂を含む基材層と、基材層の少なくとも一方の面に配置された粘着剤層と、を備える。上記粘着シートは、非剥離性の基材(支持基材)の片面または両面に上記粘着剤層を有する形態の粘着シートであり得る。粘着シートは、例えば、
図1~
図4に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。一実施形態に係る粘着シートの構造を
図1に模式的に示す。この実施形態に係る粘着シート1は、片面接着性の基材付き粘着シートとして構成されている。使用前(すなわち、被着体への貼付け前)の粘着シート1は、基材層10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(密着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。
【0020】
他の一実施形態に係る粘着シートの構造を
図2に模式的に示す。この実施形態に係る粘着シート2も、
図1の粘着シート1と同様、片面接着性の基材付き粘着シートとして構成されており、基材層10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。この粘着シート2では、基材層10の他面10Bは剥離面となっており、使用前は、粘着シート2を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(密着面)21Bが基材層10の他面10Bで保護されるようになっている。
【0021】
さらに他の一実施形態に係る粘着シートの構造を
図3に模式的に示す。この実施形態に係る粘着シート3は、両面接着タイプの基材付き粘着シートとして構成されている。粘着シート3は、基材層10の各面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22がそれぞれ設けられている。使用前の粘着シート3は、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。
【0022】
さらに他の一実施形態に係る粘着シートの構造を
図4に模式的に示す。この実施形態に係る粘着シート4も、
図3の粘着シートと同様、両面接着タイプの基材付き粘着シートとして構成されている。この粘着シート4は、基材層10の各面(いずれも非剥離性)にそれぞれ粘着剤層21,22が設けられており、使用前は、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。粘着シート4は、該粘着シート4を巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
【0023】
<粘着剤層>
(バイオマス炭素比)
ここに開示される粘着シートは、粘着剤層のバイオマス炭素比(バイオベース度ともいう。)が50%以上である。粘着剤層のバイオマス炭素比が高いことは、石油等に代表される化石資源系材料の使用量が少ないことを意味する。かかる観点において、粘着剤層のバイオマス炭素比は高いほど好ましいといえる。例えば、粘着剤層のバイオマス炭素比は、60%以上であってもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよい。バイオマス炭素比の上限は定義上100%であり、典型的にはバイオマス炭素比は100%未満である。せん断接着力を得やすくする観点から、いくつかの態様において、粘着剤層のバイオマス炭素比は、例えば95%以下であってよく、より粘着性能が重視される場合には90%以下でもよく、85%以下でもよい。
【0024】
ここで、本明細書において「バイオマス由来炭素」(「バイオマス炭素」と略す場合がある。)とは、バイオマス材料、すなわち再生可能な有機資源に由来する材料が含む炭素(再生可能炭素)を意味する。上記バイオマス材料とは、典型的には、太陽光と水と二酸化炭素とが存在すれば持続的な再生産が可能な生物資源(典型的には、光合成を行う植物)に由来する材料のことをいう。したがって、採掘後の使用によって枯渇する化石資源に由来する材料(化石資源系材料)は、ここでいうバイオマス材料の概念から除かれる。
【0025】
また、本明細書において「バイオマス炭素比」(「バイオベース度」ともいう。)は、測定対象物(試料)中の全炭素に占めるバイオマス炭素の含有割合をいい、ASTM D6866に基づいて測定される。ASTM D6866に記載の方法のなかでは、精度の高いB法が好ましい。後述する粘着剤層、基材層および粘着シートのバイオベース度についても同様である。本明細書におけるバイオマス炭素比は、標準物質によって定められた基準値(Modern Reference Standard)に対する14C濃度比(単位:pMC(percent Modern Carbon))から求められる値である。
【0026】
ここに開示される技術において、粘着剤層を構成する粘着剤の種類は、バイオベース度50%以上を満足する限りにおいて特に限定されない。上記粘着剤(粘着剤組成物でもあり得る。)は、粘着剤の分野において公知のアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の各種ゴム状ポリマーの1種または2種以上を含むものであり得る。粘着性能やコスト等の観点から、ゴム系ポリマーを主成分とする粘着剤(ゴム系粘着剤)が好ましい。ゴム系粘着剤としては、天然ゴム系粘着剤や合成ゴム系粘着剤が挙げられ、アクリル変性天然ゴム等の変性ゴム系粘着剤も好ましく用いられ得る。粘着剤を構成するポリマー種やその含有割合によって、粘着剤層のバイオベース度は調節され得る。
【0027】
いくつかの態様では、粘着シートは、天然ゴムベースの粘着剤から構成された粘着剤層を備える。天然ゴムベースの粘着剤とは、該粘着剤のベースポリマーのうち50重量%超が、天然ゴムおよび変性天然ゴム(以下、天然ゴム系ポリマーともいう。)から選択される1種または2種以上のポリマーである粘着剤をいう。粘着剤のベースポリマーとは、該粘着剤に含まれるゴム状ポリマーをいい、そのこと以外、例えば含有量や他成分との関係等で何ら限定的に解釈されない。上記ゴム状ポリマーとは、室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマーをいう。上記粘着剤のベースポリマーは、天然ゴム系ポリマーに加えて、天然ゴム系ポリマー以外のポリマーを副成分として含み得る。天然ゴム系ポリマー以外のポリマーの例としては、粘着剤の分野において公知のアクリル系ポリマー、合成ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等が挙げられる。
【0028】
いくつかの好ましい態様において、粘着剤のベースポリマーを構成する全繰返し単位の20重量%以上がアクリル系モノマー由来の繰返し単位である。すなわち、ベースポリマーの全重量の20重量%以上がアクリル系モノマーに由来する重量である。以下、ベースポリマーの全重量のうちアクリル系モノマーに由来する重量の割合を「アクリル比」ともいう。ベースポリマーがアクリル系モノマー由来の繰返し単位を一定以上含むことにより、天然ゴムベースの粘着剤の凝集力を高め、例えば、加硫剤やイオウ含有加硫促進剤の使用を必須とすることなく、せん断接着力を向上させることができる。
【0029】
粘着剤の凝集力向上の観点から、ベースポリマーのアクリル比は、例えば20重量%超であってよく、24重量%以上が好ましく、28重量%以上でもよく、33重量%以上でもよい。より凝集力を重視する観点から、いくつかの態様において、ベースポリマーのアクリル比は、35重量%以上でもよく、38重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。ベースポリマーのアクリル比の上限は、粘着剤層のバイオマス炭素比が50重量%以上となるように設定される。粘着剤層のバイオマス炭素比を高める観点からは、ベースポリマーのアクリル比は低いほうが有利である。かかる観点から、ベースポリマーのアクリル比は70重量%未満とすることが適当であり、60重量%未満とすることが好ましく、55重量%未満でもよく、50重量%未満でもよい。よりバイオマス炭素比を高める観点から、いくつかの態様において、ベースポリマーのアクリル比は、45重量%未満であってもよく、42重量%未満であってもよく、39重量%未満であってもよい。
【0030】
ベースポリマーに含まれるアクリル系モノマー由来の繰返し単位は、アクリル変性天然ゴムを構成する繰返し単位であり得る。ここに開示される粘着シートは、粘着剤のベースポリマーがアクリル変性天然ゴムを含む態様で好ましく実施することができる。ここでアクリル変性天然ゴムとは、アクリル系モノマーがグラフト重合された天然ゴムをいう。かかる態様の粘着剤は、アクリル系モノマー由来の繰返し単位を含まないベースポリマー(例えば天然ゴム)をさらに含んでいてもよい。また、上記粘着剤のベースポリマーは、アクリル系モノマー由来の繰返し単位を、アクリル変性天然ゴム以外のポリマーを構成する繰返し単位としてさらに含んでいてもよい。
【0031】
なお、本明細書においてアクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。したがって、ここでいうアクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。
【0032】
アクリル変性天然ゴムにおいて、天然ゴムにグラフト重合させるアクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の、エステル末端に炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。凝集力向上の観点から好ましいアクリル系モノマーとして、エステル末端に炭素数1~2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸が挙げられる。腐食性低減の観点からはカルボキシ基を含まないアクリル系モノマーが有利であり、かかる観点から(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。なかでもメタクリル酸メチル(MMA)およびメタクリル酸エチルが好ましく、MMAが特に好ましい。
【0033】
アクリル変性天然ゴム全体の重量のうちアクリル系モノマー由来の繰返し単位の重量の占める割合(以下、アクリル変性率ともいう。)は、0重量%を超えて100重量%未満の範囲であればよく、特に限定されない。凝集力の向上効果を高める観点から、アクリル変性天然ゴムのアクリル変性率は、1重量%以上とすることが適当であり、5重量%以上としてもよく、10重量%以上としてもよく、15重量%以上でもよい。より高い凝集力を得る観点から、いくつかの態様において、アクリル変性率は、例えば20重量%超であってよく、24重量%以上でもよく、28重量%以上でもよく、33重量%以上でもよく、35重量%以上でもよく、38重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。また、バイオマス炭素比を高める観点から、アクリル変性天然ゴムのアクリル変性率は、80重量%未満とすることが適当であり、70重量%未満とすることが好ましく、60重量%未満でもよく、55重量%未満でもよく、50重量%未満でもよく、45重量%未満でもよい。
【0034】
アクリル変性天然ゴムは、公知の方法で製造することができ、あるいは市販品を用いることができる。アクリル変性天然ゴムの製造方法としては、例えば、天然ゴムにアクリル系モノマーを加えて付加重合させる方法、あらかじめオリゴマー化したアクリル系モノマーを天然ゴムと混合して付加させる方法、これらの中間的な方法、等が挙げられる。天然ゴムとアクリル系モノマーとの使用量比その他の製造条件は、所望のアクリル変性率を有するアクリル変性天然ゴムが得られるように、適宜設定することができる。アクリル変性天然ゴムの製造に用いる天然ゴムとしては、特に限定されず、例えばリブドスモークドシート(RSS)、ペールクレープ、standard malaysian rubber(SMR)、standard vietnamese rubber(SVR)等の、一般に入手可能な各種の天然ゴムから適宜選択することができる。アクリル変性天然ゴムと組み合わせて天然ゴムを使用する場合における天然ゴムも、同様の各種天然ゴムから選択され得る。天然ゴムは、典型的には常法により素練りを行った後に用いられる。
【0035】
アクリル変性天然ゴムを製造するために用いられる天然ゴムのムーニー粘度は、特に限定されない。例えば、MS(1+4)100℃の測定条件におけるムーニー粘度(すなわち、ムーニー粘度MS1+4(100℃))が凡そ10以上120以下の範囲にある天然ゴムを用いることができる。上記天然ゴムのムーニー粘度MS1+4(100℃)は、例えば100以下であってよく、80以下でもよく、70以下でもよく、60以下でもよい。ムーニー粘度MS1+4(100℃)が小さくなると、初期タックが発現しやすくなる傾向にある。このことは被着体への貼付け作業性向上の点から有利である。かかる観点から、いくつかの態様において、上記天然ゴムのムーニー粘度MS1+4(100℃)は、50以下でもよく、40以下でもよく、30以下でもよい。ムーニー粘度MS1+4(100℃)は、素練り等の一般的な方法で調整することができる。
【0036】
天然ゴムへのアクリル系モノマーの付加は、ラジカル重合開始剤の存在下で行うことができる。ラジカル重合開始剤の例としては、一般的な過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤、過酸化物と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも過酸化物系開始剤が好ましい。過酸化物系開始剤の例としては、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)に代表される芳香族系ジアシルパーオキサイドや、ジアルキロイルパーオキサイド(例えばジラウロイルパーオキサイド)等の脂肪族系ジアシルパーオキサイド等の、ジアシルパーオキサイドが挙げられる。過酸化物系開始剤の他の例としては、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等が挙げられる。過酸化物系開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
粘着剤のベースポリマーは、1種または2種以上のアクリル変性天然ゴムのみを含んでいてもよく、アクリル変性天然ゴムと他のポリマーとを組み合わせて含んでいてもよい。ベースポリマー全体のうちアクリル変性天然ゴムの割合は、特に限定されず、0重量%を超えて100重量%以下の範囲で適宜設定し得る。いくつかの態様において、アクリル変性天然ゴムの割合は、例えば10重量%以上であってよく、良好な保持特性(例えば、高いせん断接着力)を得る観点から、25重量%以上とすることが有利であり、40重量%以上とすることが好ましい。いくつかの態様において、アクリル変性天然ゴムの割合は、50重量%超でもよく、65重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。なお、ベースポリマーとしてアクリル変性天然ゴムのみを使用する場合、ベースポリマー全体のうちアクリル変性天然ゴムの割合は100重量%である。
【0038】
アクリル変性天然ゴムと組み合わせて用いられるポリマーとしては、相溶性の観点から、例えばゴム系ポリマーを好ましく採用し得る。ゴム系ポリマーとしては、天然ゴムおよび合成ゴム(例えば、スチレンブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体等)のいずれも使用可能である。バイオマス炭素比を向上させる観点から、バイオマス材料である天然ゴムの使用が特に好ましい。ベースポリマーは、アクリル変性天然ゴムおよび天然ゴムのみを含んでいてもよく、アクリル変性天然ゴムと天然ゴムと他のポリマーとを組み合わせて含んでいてもよい。いくつかの態様において、アクリル変性天然ゴムおよび天然ゴム以外のポリマーの割合は、ベースポリマー全体の30重量%未満とすることが適当であり、20重量%未満とすることが好ましく、10重量%未満でもよい。
【0039】
天然ゴムを使用する場合、アクリル変性天然ゴムと天然ゴムとの合計量に占める天然ゴムの割合は、0重量%より多い量とすることができ、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、25重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。天然ゴムの割合を高くすることにより、粘着剤のバイオマス炭素比は向上する傾向にある。上記アクリル変性天然ゴムと天然ゴムとの合計量に占める天然ゴムの割合は、100重量%より少ない量とすることができ、95重量%以下でもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよい。より高いせん断接着力を得る観点から、いくつかの態様において、上記天然ゴムの含有割合は、50重量%以下であってもよく、45重量%以下でもよく、35重量%以下でもよく、25重量%以下でもよい。
【0040】
アクリル変性天然ゴムと組み合わせて用いられ得る他のポリマーとして、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー等が挙げられる。アクリル系ポリマーは、バイオマス由来の炭素を有するモノマーを含むモノマー成分から形成されたものであり得る。ポリエステル系ポリマーとしては、該ポリマーを形成するポリカルボン酸(典型的にはジカルボン酸)およびポリオール(典型的にはジオール)の少なくとも一方が、その一部または全部がバイオマス由来の炭素を含む化合物、例えば植物由来の化合物であるものが好ましい。バイオマス由来のジカルボン酸としては、例えば、植物由来の不飽和脂肪酸(セバシン酸、オレイン酸、エルカ酸等)から誘導されるダイマー酸を用いることができる。バイオマス由来のジオールとしては、例えば、上記ダイマー酸を還元することで得られるダイマージオールや、バイオマスエタノールを原料として得られるバイオマスエチレングリコール等を用いることができる。このようなポリエステル系ポリマーのバイオマス炭素比は、例えば40%超であってよく、好ましくは50%超であり、70%以上でもよく、85%以上でもよく、90%以上でもよく、100%でもよい。相溶性等の観点から、ポリエステル系ポリマーの含有量は、ベースポリマー全体の20重量%未満とすることが適当であり、10重量%未満とすることが好ましく、5重量%未満でもよい。
【0041】
(架橋剤)
ここに開示される粘着シートの粘着剤層には、架橋剤が用いられていることが好ましい。架橋剤は、粘着剤の凝集力を高めるために役立ち得る。このことによってせん断接着力を効果的に向上させることができる。架橋剤は、粘着剤の分野において公知の各種架橋剤から選択することができる。かかる架橋剤の例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
架橋剤を用いる場合における使用量は特に限定されない。架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.001~15重量部の範囲から選択し得る。凝集力の向上と被着体への良好な密着性とをバランスよく両立する観点から、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、12重量部以下とすることが好ましく、8重量部以下でもよく、6重量部以下でもよく、また、0.005重量部以上とすることが適当であり、0.01重量部以上でもよい。
【0043】
架橋剤は、非イオウ含有架橋剤から選択することが好ましい。ここで、非イオウ含有架橋剤とは、少なくとも意図的にはイオウ(S)を含まない架橋剤を意味し、したがって一般に天然ゴムの架橋剤として用いられている加硫剤とは明確に区別される材料である。イオウを構成元素として含まない化合物を有効成分とする架橋剤は、ここでいう非イオウ含有架橋剤の一典型例である。架橋剤として非イオウ含有架橋剤を用いることにより、架橋剤由来のイオウが粘着剤層に持ち込まれることが回避される。このことは、イオウの存在を嫌う電子機器分野に用いられる粘着シートにおいて有利な特徴となり得る。ここに開示される粘着シートは、粘着剤層に加硫剤が用いられていないことが好ましい。
【0044】
いくつかの態様において、架橋剤は、少なくともイソシアネート系架橋剤を含むことが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。イソシアネート系架橋剤と他の架橋剤、例えばエポキシ系架橋剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0045】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート系架橋剤が好ましく用いられる。ポリイソシアネート系架橋剤1分子当たりのイソシアネート基の数は、好ましくは2~10個であり、例えば2~4個であり、典型的には2または3個である。上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;が例示される。より具体的には、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物;ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート等のポリイソシアネート;これらポリイソシアネートとポリオールとの付加物;および、これらポリイソシアネートを、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合等により多官能化したポリイソシアネート;等が挙げられる。
【0046】
イソシアネート系架橋剤を用いる場合の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば凡そ0.1重量部以上であってよく、0.5重量部以上でもよく、1.0重量部以上でもよく、1.5重量部超でもよい。より高い使用効果を得る観点から、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば2.0重量部超であってよく、2.5重量部以上でもよく、2.7重量部以上でもよい。また、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、10重量部以下とすることが適当であり、7重量部以下でもよく、5重量部以下でもよい。イソシアネート系架橋剤の使用量が多過ぎないことは、過度の架橋による被着体への密着性低下を避ける観点から有利となり得る。
【0047】
エポキシ系架橋剤としては、エポキシ基を1分子中に2つ以上有する多官能エポキシ化合物を用いることができる。例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテルの他、分子内にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ系樹脂等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、例えば、三菱ガス化学製の商品名「テトラッドC」、「テトラッドX」等が挙げられる。
【0048】
エポキシ系架橋剤を用いる場合の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.005重量部以上とすることができ、より高い使用効果を得る観点から0.01重量部以上としてもよく、0.02重量部以上としてもよい。また、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、2重量部以下とすることが適当であり、1重量部以下でもよく、0.5重量部以下でもよく、0.1重量部以下でもよい。エポキシ系架橋剤の使用量が多過ぎないことは、過度の架橋による被着体への密着性低下を避ける観点から有利となり得る。
【0049】
イソシアネート系架橋剤と他の架橋剤(すなわち、非イソシアネート系架橋剤)とを組み合わせて用いる場合、イソシアネート系架橋剤と非イソシアネート系架橋剤(例えばエポキシ系架橋剤)との使用量の関係は、特に限定されない。被着体に対する密着性と凝集力とをより好適に両立する観点から、いくつかの態様において、非イソシアネート系架橋剤の含有量は、重量基準で、イソシアネート系架橋剤の含有量の凡そ1/2以下とすることができ、凡そ1/5以下としてもよく、凡そ1/10以下でもよく、凡そ1/20以下でもよく、凡そ1/30以下でもよい。また、イソシアネート系架橋剤と非イソシアネート系架橋剤(例えばエポキシ系架橋剤)とを併用することの効果を好適に発揮する観点から、非イソシアネート系架橋剤の含有量は、イソシアネート系架橋剤の含有量の凡そ1/1000以上、例えば凡そ1/500以上とすることが適当である。
【0050】
上述したいずれかの架橋剤の架橋反応をより効率よく進行させるために、架橋触媒を用いてもよい。架橋触媒としては、例えば、ジラウリン酸ジオクチルスズ等のスズ系触媒を好ましく用いることができる。架橋触媒の使用量は特に制限されないが、例えば、ベースポリマー100重量部に対して凡そ0.0001重量部~1重量部とすることができる。
【0051】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層に使用され得る架橋剤の他の例として、1分子内に2以上の重合性官能基を有するモノマー、すなわち多官能性モノマーが挙げられる。多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ブチルジオール(メタ)アクリレート、ヘキシルジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
架橋剤として多官能性モノマーを用いる場合におけるその使用量は、該多官能性モノマーの分子量や官能基数等により異なるが、ベースポリマー100重量部に対して0.01重量部~3.0重量部程度の範囲とすることが適当である。より高い効果を得る観点から、いくつかの態様において、多官能性モノマーの使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.02重量部以上であってもよく、0.03重量部以上であってもよい。一方、過度な凝集力向上によるタックの低下を避ける観点から、多官能性モノマーの使用量は、ベースポリマー100重量部に対して2.0重量部以下であってよく、1.0重量部以下でもよく、0.5重量部以下でもよい。
【0053】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層は、凝集力向上等の目的で、電子線照射による架橋処理(電子線架橋)が施されたものであってもよい。電子線架橋は、上述したいずれかの架橋剤の使用に代えて、あるいは架橋剤の使用と組み合わせて行うことができる。
【0054】
(粘着付与剤)
ここに開示される技術における粘着剤は、粘着付与剤(典型的には粘着付与樹脂)を含む組成であり得る。粘着付与剤の使用により、粘着シートの性能(例えば、せん断接着力および剥離強度の一方または両方)を向上させ得る。粘着付与剤としては、特に制限されず、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂等の各種粘着付与樹脂を用いることができる。このような粘着付与剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
ロジン系粘着付与樹脂の具体的としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);その他の各種ロジン誘導体;等が挙げられる。上記ロジン誘導体の例としては、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジン類または不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩;ロジン類(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0056】
テルペン系粘着付与樹脂の例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体などのテルペン系樹脂;これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性等)した変性テルペン系樹脂;等が挙げられる。上記変性テルペン樹脂の例としては、テルペン-フェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂等が挙げられる。
【0057】
炭化水素系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン-オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
脂肪族系炭化水素樹脂としては、炭素原子数4~5程度のオレフィンおよびジエンから選択される1種または2種以上の脂肪族炭化水素の重合体等が例示される。上記オレフィンの例としては、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン等が挙げられる。上記ジエンの例としては、ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン等が挙げられる。
芳香族系炭化水素樹脂の例としては、炭素原子数8~10程度のビニル基含有芳香族系炭化水素(スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン、メチルインデン等)の重合体等が挙げられる。脂肪族系環状炭化水素樹脂の例としては、いわゆる「C4石油留分」や「C5石油留分」を環化二量体化した後に重合させた脂環式炭化水素系樹脂;環状ジエン化合物(シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ジペンテン等)の重合体またはその水素添加物;芳香族系炭化水素樹脂または脂肪族・芳香族系石油樹脂の芳香環を水素添加した脂環式炭化水素系樹脂;等が挙げられる。
【0058】
ここに開示される粘着剤層が粘着付与剤を含む場合、粘着付与剤としては、粘着剤層のバイオマス炭素比向上の観点から、植物に由来する粘着付与剤(植物性粘着付与剤)を好ましく作用し得る。植物性粘着付与剤の例としては、上述のロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂が挙げられる。植物性粘着付与剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される粘着剤層が粘着付与剤を含む場合、粘着付与剤の総量に占める植物性粘着付与剤の割合は、30重量%以上(例えば50重量%以上、典型的には80重量%以上)とすることが好ましい。特に好ましい一態様では、粘着付与剤の総量に占める植物性粘着付与剤の割合は、90重量%以上(例えば95重量%以上、典型的には99~100重量%)である。ここに開示される技術は、植物性粘着付与剤以外の粘着付与剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0059】
ここに開示される技術では、軟化点(軟化温度)が凡そ60℃以上(好ましくは凡そ80℃以上、より好ましくは凡そ95℃以上、例えば凡そ105℃以上)である粘着付与樹脂を好ましく使用し得る。かかる粘着付与樹脂によると、より高性能な(例えば、よりせん断接着力の高い)粘着シートが実現され得る。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されない。相溶性等の観点から、いくつかの態様において、粘着付与樹脂の軟化点は、例えば凡そ200℃以下であってよく、凡そ180℃以下でもよく、凡そ140℃以下でもよく、凡そ120℃以下でもよい。なお、ここでいう粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K5902:2006およびJIS K2207:2006のいずれかに規定する軟化点試験方法(環球法)によって測定された値として定義される。
【0060】
粘着付与樹脂の含有量は特に制限されず、目的とする粘着性能(せん断接着力、剥離強度等)に応じて適宜設定することができる。いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、例えば5重量部以上であってよく、15重量部以上が適当であり、30重量部以上でもよく、40重量部以上でもよく、50重量部以上でもよく、65重量部以上でもよい。また、粘着性能のバランスを考慮して、いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、例えば200重量部以下であってよく、150重量部以下が適当であり、120重量部以下でもよく、100重量部以下でもよく、85重量部以下でもよい。
【0061】
(その他の成分)
粘着剤層は、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、フィラー、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤を含み得る。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができる。
【0062】
粘着剤層におけるフィラーの含有量は、例えば、ベースポリマー100重量部に対して0重量部以上200重量部以下(好ましくは100重量部以下、例えば50重量部以下)とすることができる。粘着剤層からのフィラーの脱落を防止する観点から、いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対するフィラーの含有量は、30重量部未満とすることが適当であり、好ましくは20重量部未満、より好ましくは10重量部未満であり、5重量部未満でもよく、1重量部未満でもよい。フィラーを使用しない粘着剤層であってもよい。
【0063】
粘着剤層における可塑剤の含有量は、例えば、ベースポリマー100重量部に対して0重量部以上35重量部以下とすることができる。部材の固定に適した良好なせん断接着力を得る観点から、上記可塑剤の含有量は、25重量部以下とすることが好ましく、15重量部以下とすることがより好ましい。また、可塑剤の存在に起因して発生し得る揮発物の量を低減する観点から、いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する可塑剤の含有量は、10重量部未満とすることが適当であり、5重量部未満でもよく、3重量部未満でもよく、1重量部未満でもよい。特に、電子機器の内部で用いられる粘着シートや精密電子機器に用いられる粘着シートでは、可塑剤の含有量を低減するか、可塑剤を使用しないことが有利である。
【0064】
粘着剤層は、加硫剤が用いられておらず、かつイオウを含む加硫促進剤(チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤等)も用いられていないことが好ましい。このことは、イオウの存在を嫌う電子機器分野に用いられる粘着シートとして有利な特徴となり得る。ここに開示される粘着シートの粘着剤層には、加硫剤および加硫促進剤に限らず、イオウを含む材料が用いられていないことが好ましい。
【0065】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層(粘着剤からなる層)は、このような組成の粘着剤組成物から形成された層であり得る。粘着剤組成物の形態は特に限定されず、例えば、水系粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物等であり得る。ここで、水系粘着剤組成物とは、水を主成分とする溶媒(水系溶媒)中に粘着剤(粘着剤層形成成分)を含む形態の粘着剤組成物のことをいい、粘着剤が水に分散した形態の水分散型粘着剤組成物や、粘着剤が水に溶解した形態の水溶性粘着剤組成物を包含する概念である。また、溶剤型粘着剤組成物とは、有機溶媒中に粘着剤を含む形態の粘着剤組成物のことをいう。ここに開示される粘着シートは、溶剤型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える態様で好ましく実施され得る。
【0066】
粘着剤組成物からの粘着剤層の形成は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、基材に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して硬化させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して硬化させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。また、上記粘着剤組成物の硬化は、該粘着剤組成物に乾燥、架橋、重合、冷却等の硬化処理を施すことにより行うことができる。2種以上の硬化処理を同時にまたは段階的に行ってもよい。
【0067】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。あるいは、含浸やカーテンコート法等により粘着剤組成物を塗布してもよい。
架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40~150℃程度とすることができ、60~130℃程度とすることが好ましい。粘着剤組成物を乾燥させた後、さらに、粘着剤層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、基材や粘着剤層内に存在し得る歪の緩和等を目的としてエージングを行ってもよい。
【0068】
ここに開示される粘着シートにおいて、粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。被着体に対する接着性と凝集性とのバランスを考慮して、粘着剤層の厚さは、例えば2μm~500μm程度とすることができる。被着体に対する接着性の観点から、粘着剤層の厚さは、3μm以上であることが適当であり、5μm以上であることが好ましい。より良好なせん断接着力を発揮する粘着シートを実現しやすくする観点から、いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、例えば8μm以上であってよく、12μm以上が好ましく、15μm以上でもよく、20μm以上でもよく、25μm以上でもよい。また、粘着シートの薄型化の観点から、粘着剤層の厚さは、例えば200μm以下であってよく、150μm以下でもよく、100μm以下でもよく、70μm以下でもよく、50μm以下でもよく、30μm以下でもよい。より薄型化を重視する態様において、粘着剤層の厚さは、例えば20μm以下であってよく、15μm以下でもよく、12μm以下でもよい。ここに開示される粘着シートが基材の両面に粘着剤層を備える両面粘着シートの場合、各粘着剤層の厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
<基材層>
ここに開示される粘着シートは、ポリエステル樹脂を含む基材層を備える。これにより、粘着シートは良好な加工性を発揮することができる。また、基材層に用いられるポリエステル樹脂は、バイオマス由来炭素を含むバイオマスポリエステル樹脂である。基材層材料としてバイオマスポリエステル樹脂を用いることで、良好な加工性を発揮しつつ、粘着シート全体として化石資源系材料への依存度を低減することができる。バイオマスポリエステル樹脂としては、例えば、バイオマスポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、バイオマスポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、バイオマスポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、バイオマスポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、バイオマスポリエチレンフラノエート(PEF)樹脂、バイオマスポリトリメチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる、なかでも、バイオマスPET樹脂、バイオマスPEN樹脂、バイオマスPBT樹脂、バイオマスPBN樹脂が好ましく、バイオマスPET樹脂がより好ましい。バイオマスポリエステル樹脂としては、典型的には、ジカルボン酸とジオールを重縮合して得られるポリエステルを主成分として含むポリエステル樹脂が用いられる。合成に使用するジカルボン酸とジオールの少なくとも一方(例えば両方)にバイオマス由来の化合物を使用することにより、ポリエステル樹脂はバイオマス化され得る。
【0070】
バイオマスポリエステル樹脂を含む基材層の形態は特に限定されず、いくつかの好ましい態様において、寸法安定性、厚み精度、経済性(コスト)、加工性、引張強度等の観点から、粘着シートの基材層はポリエステル樹脂フィルムを含む。ポリエステル樹脂フィルム層を備える構成によると、複雑な形状への打ち抜き加工がしやすく、また、貼り損ねの際のリワーク性(剥離性)にも優れる傾向がある。剥離性に優れることは、リサイクル性の点でも有利である。さらに、高い剛性を有するので、目的とする機械的特性を保持しつつ薄厚の基材層とすることが可能である。樹脂フィルムは、例えば電子機器用の分野においては、塵埃(例えば紙粉等の、微小な繊維または粒子)の発生源となりにくい。なお、この明細書において「樹脂フィルム」とは、典型的には非多孔質のフィルムであって、いわゆる不織布や織布とは区別される概念である。
【0071】
ポリエステルを構成するジカルボン酸(合成後のポリエステルにおいては「ジカルボン酸単位」ともいう。)としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;これらの誘導体(例えば、テレフタル酸等の上記ジカルボン酸の低級アルキルエステル等);等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
ポリエステルを構成するジカルボン酸は、テレフタル酸を主成分とするものであり得る。この態様のポリエステル樹脂の具体例としては、PET樹脂やPBT樹脂が挙げられる。かかる態様において、上記ポリエステルを構成するジカルボン酸全体に占めるテレフタル酸の割合は凡そ50重量%以上とすることが適当であり、テレフタル酸使用の効果を十分発揮させる観点から、好ましくは凡そ90重量%以上(典型的には95重量%以上、例えば99~100重量%)である。テレフタル酸は、例えば、テレフタル酸の低級アルキルエステル等の誘導体の形態でポリエステル合成に用いられ得る。
【0073】
上記ジカルボン酸としては、バイオマス由来のジカルボン酸が好ましく用いられ得る。これによって、ポリエステル樹脂は所定量のバイオマス炭素を含むことができる。いくつかの態様では、上記ジカルボン酸として、バイオマス由来のテレフタル酸およびその誘導体が用いられ得る。バイオマス由来のジカルボン酸を得る方法は特に限定されず、例えば、バイオマス由来のテレフタル酸は、とうもろこしや糖類、木材からイソブタノールを得た後、イソブチレンへ変換し、それを二量化してイソオクテンを得て、Chemische Technik, vol.38, No.3, p116-119;1986に記載の方法、すなわちラジカル開裂、再結合、環化を経てp-キシレンを合成し、これを酸化してテレフタル酸を得る方法が挙げられる(国際公開第2009/079213号公報)。
【0074】
ポリエステルを構成するジカルボン酸(例えばテレフタル酸)のうちバイオマス由来のジカルボン酸(例えばテレフタル酸)の占める割合は特に限定されない。バイオベース度向上の観点から、上記ポリエステルを構成するジカルボン酸全体に占めるバイオマス由来のジカルボン酸割合は、凡そ1重量%以上(例えば1~100重量%)であり、凡そ10重量%以上とすることが適当であり、例えば凡そ50重量%以上でもよく、凡そ80重量%以上でもよく、凡そ90重量%以上でもよく、凡そ99重量%以上でもよい。上記ジカルボン酸の実質的に全部がバイオマス由来のジカルボン酸であってもよい。他のいくつかの態様(例えば、ポリエステルを構成するジオールがバイオマス由来のジオールを含む態様)では、上記ジカルボン酸全体に占めるバイオマス由来のジカルボン酸割合は、1重量%未満でもよく、上記ポリエステルは、バイオマス由来のジオールを実質的に含まないものであってもよい。
【0075】
ポリエステルを構成するジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。透明性等の観点から脂肪族ジオールが好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。上記ポリエステルを構成するジオールに占める脂肪族ジオール(好ましくはエチレングリコール)の割合は、50重量%以上(例えば80重量%以上、典型的には95重量%以上)であることが好ましい。上記ジオールは、実質的にエチレングリコールのみから構成されていてもよい。
【0076】
ポリエステルを構成するジオール(合成後のポリエステルにおいては「ジオール単位」ともいう。)は、エチレングリコールを主成分とするものであり得る。この態様のポリエステル樹脂の具体例としては、バイオマスPET樹脂やバイオマスPEN樹脂が挙げられる。かかる態様において、上記ポリエステルを構成するジオール全体に占めるエチレングリコールの割合は凡そ50重量%以上とすることが適当であり、エチレングリコール使用の効果を十分発揮させる観点から、好ましくは凡そ90重量%以上(典型的には95重量%以上、例えば99~100重量%)である。
【0077】
上記ジオールとしては、バイオマス由来のジオール(典型的には、バイオマスエタノールを原料として得られるバイオマスジオール)が好ましく用いられ得る。これによって、ポリエステル樹脂は所定量のバイオマス炭素を含むことができる。いくつかの好ましい態様では、上記ジオールとして、バイオマス由来のエチレングリコール(典型的には、バイオマスエタノールを原料として得られるバイオマスエチレングリコール)が用いられ得る。
【0078】
ポリエステルを構成するジオール(好適にはエチレングリコール)のうちバイオマス由来のジオール(好適にはエチレングリコール)の占める割合は特に限定されない。バイオベース度向上の観点から、上記ポリエステルを構成するジオール全体に占めるバイオマス由来のジオール割合は、凡そ1重量%以上(例えば1~100重量%)であり、凡そ10重量%以上とすることが適当であり、例えば凡そ50重量%以上でもよく、凡そ80重量%以上でもよく、凡そ90重量%以上でもよく、凡そ99重量%以上でもよい。上記ジオールの実質的に全部がバイオマス由来のジオールであってもよい。他のいくつかの態様(例えば、ポリエステルを構成するジカルボン酸がバイオマス由来のジカルボン酸を含む態様)では、上記ジオール全体に占めるバイオマス由来のジオール割合は1重量%未満でもよく、上記ポリエステルは、バイオマス由来のジオールを実質的に含まないものであってもよい。
【0079】
なお、ポリエステルは、ジカルボン酸とジオールから実質的に構成され得るが、所望の官能基の導入や分子量の調節等を目的として、ここに開示される技術による効果が損なわれない範囲で、3価以上の多価カルボン酸や3価以上のポリオール、モノカルボン酸やモノアルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が共重合されていてもよい。これら他の共重合成分は、バイオマス由来であってもよく、バイオマス由来でなくてもよい。上記他の共重合成分の割合は、例えば30モル%未満、典型的には10モル%未満(さらには1モル%未満)程度とすることが適当である。ここに開示される技術は、ポリエステルのモノマー成分が上記他の共重合成分を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0080】
ここに開示されるポリエステルを得る方法は特に限定されず、ポリエステルの合成手法として知られている重合方法を適宜採用することができる。ポリエステルの合成に用いるモノマー原料は、重合効率、分子量調節等の観点から、ジカルボン酸とジオールとを適当なモル比とし、それらを重縮合することにより得ることができる。より詳しくは、ジカルボン酸の有するカルボキシ基とジオールの有する水酸基との反応を、典型的には上記反応により生成する水(生成水)等を反応系外に除去しつつ進行させることにより、ポリエステルを合成することができる。上記生成水を反応系外に除去する方法としては、反応系内に不活性ガスを吹き込んで該不活性ガスとともに生成水を反応系外に取り出す方法、減圧下で反応系から生成水を留去する方法(減圧法)等を用いることができる。合成時間を短縮しやすく生産性の向上に適していることから、上記減圧法を好ましく採用することができる。上記反応は、バッチ重合、半連続重合、連続重合のいずれであってもよい。
【0081】
上記反応(エステル化および重縮合を包含する。)を行う際の反応温度や、減圧法を採用する場合における減圧度(反応系内の圧力)は、目的とする特性(例えば分子量)のポリマーが効率よく得られるように適宜設定することができる。特に限定するものではないが、反応速度や劣化防止等の観点から、上記反応温度を180℃~290℃(例えば250℃~290℃)とすることが適当である。特に限定するものではないが、生成水の除去、反応効率等の観点から、上記減圧度を10kPa以下(典型的には10kPa~0.1kPa)とすることが適当であり、例えば4kPa~0.1kPaとすることができる。反応系内の圧力の安定維持の観点から、反応系内の圧力を0.1kPa以上とすることが適当である。
【0082】
上記反応には、一般的なポリエステルの合成と同様、公知ないし慣用の触媒がエステル化、縮合のために適当量用いられ得る。エステル交換触媒としては、マグネシウム系、マンガン系、カルシウム系、コバルト系、リチウム系、チタン系、亜鉛、バリウム系等の化合物が挙げられ、重合触媒としては、例えばチタン系、アルミニウム系、ゲルマニウム系、アンチモン系、スズ系、亜鉛系等の種々の金属化合物;p-トルエンスルホン酸や硫酸等の強酸;等が挙げられる。上記合成において、溶媒は用いてもよく、用いなくてもよい。上記合成は、有機溶媒を実質的に使用することなく(例えば、上記反応の際の反応溶媒として意図的に有機溶媒を使用する態様を排除する意味である。)実施することができる。上記反応においては、安定剤(リン化合物等)等の添加成分が任意に配合され得る。
【0083】
ここに開示される技術において使用されるポリエステル樹脂含有層は、ポリエステルに加えて上記ポリエステル以外のポリマーを含んでもよい。上記ポリエステル以外のポリマーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ウレタン樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂;天然ゴム、変性天然ゴム、合成ゴム(クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム等)のゴム類;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;酢酸ビニル樹脂;ポリスチレン;ポリアセタール;ポリイミド;ポリアミド;フッ素樹脂;セロハン;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ポリエステル以外のポリマーは、バイオマス資源由来のポリマーであってもよく、化石資源由来のポリマーであってもよい。ポリエステル以外のバイオマス樹脂としては、バイオマス高密度ポリエチレン(バイオマスHDPE)樹脂、バイオマス低密度ポリエチレン(バイオマスLDPE)樹脂、バイオマス直鎖状低密度ポリエチレン(バイオマスLLDPE)樹脂等のバイオマスポリエチレン樹脂、バイオマスポリプロピレン(バイオマスPP)樹脂等のバイオマスポリオレフィン樹脂;ポリ乳酸;バイオマスポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート);ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリ(キシリレンセバカミド)等のバイオマスポリアミド樹脂;バイオマスポリエステルエーテルウレタン樹脂、バイオマスポリエーテルウレタン樹脂等のバイオマスポリウレタン樹脂;セルロース系樹脂;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
ポリエステル樹脂含有層がポリエステルに加えて上記ポリエステル以外のポリマーを含む態様において、該ポリエステル以外のポリマーの含有量は、ポリエステル100重量部に対して100重量部未満とすることが適当であり、凡そ50重量部以下が好ましく、凡そ30重量部以下がより好ましく、凡そ10重量部以下がさらに好ましい。ポリエステル以外のポリマーの含有量は、ポリエステル100重量部に対して凡そ5重量部以下であってもよく、凡そ1重量部以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、ポリエステル樹脂含有層に含まれるポリマーの99.5~100重量%がポリエステルである態様で好ましく実施され得る。
【0085】
ここに開示されるバイオマスポリエステル樹脂含有層(好適にはバイオマスポリエステル樹脂フィルム)の製造方法は、バイオマスポリエステル樹脂を用いる他は従来公知の方法を適宜採用すればよく特に限定されない。例えば、上述の材料を用いて公知のポリエステル合成法により調製したバイオマスポリエステル樹脂や、市販のバイオマス資源由来のポリエステル(例えば帝人社製の製品名「プラントペット」)を用いて、必要な場合、各種添加剤を適当量配合して押出成形、インフレーション成形、Tダイキャスト成形、カレンダーロール成形等のフィルム成形方法を適宜採用して、バイオマスポリエステル樹脂含有層(好適にはバイオマスポリエステル樹脂フィルム)を作製することができる。
【0086】
ここに開示されるバイオマスポリエステル樹脂含有層(好適にはバイオマスポリエステル樹脂フィルム)のバイオベース度は、特に限定されず、凡そ1%以上であり、凡そ5%以上とすることが適当である。化石資源系材料への依存度低減の観点から、バイオマスポリエステル樹脂含有層のバイオベース度は、好ましくは凡そ8%以上、より好ましくは凡そ12%以上(例えば凡そ15%以上)であり、凡そ30%以上でもよく、凡そ60%以上でもよく、凡そ90%以上であり得る。バイオマスポリエステル樹脂含有層のバイオベース度の上限は100%であり、費用対効果等の観点から、50%未満でもよく、40%未満でもよく、30%未満(例えば20%未満)の範囲から選択され得る。
【0087】
バイオマスポリエステル樹脂含有層(好適にはバイオマスポリエステル樹脂フィルム層)の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。バイオマスポリエステル樹脂含有層の厚さは、凡そ1μm以上であることが適当であり、取扱い性や加工性の観点から、例えば1.5μm以上であってよく、2μm以上でもよく、3μm以上でもよく、4μm以上でもよく、6μm以上でもよい。バイオマスポリエステル樹脂含有層の厚さを所定値以上とすることにより、複雑な形状への加工性や、貼り損ねの際のリワーク性(剥離性)も向上する傾向がある。また、粘着シートの薄型化の観点から、いくつかの態様において、バイオマスポリエステル樹脂含有層の厚さは、例えば150μm以下であってよく、100μm以下でもよく、50μm以下でもよく、25μm以下でもよく、20μm以下でもよく、10μm以下でもよく、7μm以下でもよく、5μm未満でもよく、4μm未満でもよい。ここに開示される技術によると、上記のように薄厚のバイオマスポリエステル樹脂含有層を用いる構成において、良好な加工性を発揮することができる。
【0088】
ここに開示される基材層は、単層構造であってもよく、2層、3層またはそれ以上の多層構造を有するものであってもよい。形状安定性の観点から、樹脂フィルムは単層構造であることが好ましい。すなわち、基材層はバイオマスポリエステル樹脂含有層からなるものであり得る。基材層が多層構造を有する場合、そのうちの少なくとも1層がバイオマスポリエステル樹脂含有層(典型的にはバイオマスポリエステル樹脂フィルム層)となる。多層構造の基材層において、他の層は特に限定されず、各種のシート状基材を用いることができ、例えば、バイオマスポリエステル樹脂フィルム以外の樹脂フィルム、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体等を用いることができる。バイオマスポリエステル樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの例としては、PE、PP、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等から形成されたポリオレフィン樹脂フィルム;バイオマスポリオレフィン樹脂フィルム;ウレタン樹脂フィルム;バイオマスウレタン樹脂フィルム;塩化ビニル樹脂フィルム;塩化ビニリデン樹脂フィルム;酢酸ビニル樹脂フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリアセタールフィルム;ポリイミドフィルム;ポリアミドフィルム;フッ素樹脂フィルム;セロハン;等が挙げられる。ゴムシートの例としては、天然ゴムシート、ブチルゴムシート等が挙げられる。発泡体シートの例としては、発泡ポリウレタンシート、発泡ポリオレフィンシート等が挙げられる。金属箔の例としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
【0089】
基材層(例えばバイオマスポリエステル樹脂フィルム層)には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。各種添加剤の配合割合は、通常は30重量%以下(例えば20重量%以下、典型的には10重量%以下)程度である。例えば、基材層に顔料(例えば白色顔料)を含ませる場合、その含有割合は0.1~10重量%(例えば1~8重量%、典型的には1~5重量%)程度とすることが適当である。
【0090】
基材層の粘着剤層が配置される面(粘着剤層側表面)には、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り層の形成等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、基材層と粘着剤層との密着性、言い換えると粘着剤層の基材層への投錨性を向上させるための処理であり得る。あるいは、上記基材層は、上記粘着剤層側表面に投錨性を向上させるような表面処理が施されていないものであってもよい。下塗り層を形成する場合、該形成に使用する下塗り剤(プライマー)は特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。下塗り層の厚さは特に制限されず、例えば0.01μm超とすることができ、0.1μm以上とすることが適当であり、効果を高める観点から0.2μm以上としてもよい。また、下塗り層の厚さは、1.0μm未満とすることが好ましく、0.7μm以下でもよく、0.5μm以下でもよい。
【0091】
基材層の片面に粘着剤層が設けられた片面粘着シートの場合、基材層の粘着剤層非形成面(背面)には、剥離処理剤(背面処理剤)によって剥離処理が施されていてもよい。背面処理層の形成に用いられ得る背面処理剤としては、特に限定されず、シリコーン系背面処理剤やフッ素系背面処理剤、長鎖アルキル系背面処理剤その他の公知または慣用の処理剤を目的や用途に応じて用いることができる。背面処理剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
基材層のバイオベース度は0%よりも大きく、例えば凡そ1%以上であり、凡そ5%以上とすることが適当である。化石資源系材料への依存度低減の観点から、基材層のバイオベース度は、好ましくは凡そ8%以上、より好ましくは凡そ12%以上(例えば凡そ15%以上)であり、凡そ30%以上でもよく、凡そ60%以上でもよく、凡そ90%以上の範囲から選択され得る。基材層のバイオベース度の上限は100%であり、費用対効果等の観点から、50%未満でもよく、40%未満でもよく、30%未満(例えば20%未満)の範囲から選択され得る。
【0093】
ここに開示される基材層の破断強度は、特に限定されず、例えば凡そ100MPa以上(例えば凡そ150MPa以上)とすることが適当であり、加工性や取扱い性の観点から、好ましくは凡そ200MPa以上(例えば凡そ220MPa以上)であり、凡そ250MPa以上でもよく、凡そ300MPa以上(例えば凡そ340MPa以上)でもよい。基材層の破断強度の上限は、例えば凡そ800MPa以下であることが適当であり、被着体表面への追従性等の観点から、好ましくは凡そ500MPa以下、より好ましくは凡そ凡そ460MPa以下であり、凡そ400MPa以下でもよく、凡そ350MPa以下でもよく、凡そ300MPa以下でもよい。基材層の破断強度は、JIS C 2318に基づいて測定することができる。
【0094】
基材層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択でき、例えば1μm~500μm程度の範囲内である。基材層の取扱い性や加工性の観点から、上記基材層の厚さは、例えば1.5μm以上であってよく、2μm以上でもよく、3μm以上でもよく、4μm以上でもよく、6μm以上でもよい。基材層の厚さを所定値以上とすることにより、複雑な形状への加工性や、貼り損ねの際のリワーク性(剥離性)も向上する傾向がある。また、粘着シートの薄型化の観点から、いくつかの態様において、基材層の厚さは、例えば150μm以下であってよく、100μm以下でもよく、50μm以下でもよく、25μm以下でもよく、20μm以下でもよく、10μm以下でもよく、7μm以下でもよく、5μm未満でもよく、4μm未満でもよい。ここに開示される技術によると、上記のように薄厚の基材層を用いる構成において、良好な加工性を発揮することができる。
【0095】
また、粘着シートの総厚さ(粘着剤層と基材層の厚さは含むが、剥離ライナーの厚さは含まない。)に占める基材層の厚さは、目的に応じて適切に設定され、特定の範囲に限定されない。例えば、粘着シートの総厚さに占める基材層の厚さは、凡そ1%以上(例えば凡そ5%以上)であることが適当であり、複雑な形状への打ち抜き加工のしやすさや、加工時の歩留り向上、さらには貼り損ねの際のリワーク性(剥離性)の観点から、好ましくは凡そ10%以上であり、凡そ15%以上でもよく、凡そ20%以上でもよく、凡そ25%以上でもよく、凡そ30%以上(例えば凡そ40%以上)でもよい。また、粘着シートの総厚さに占める基材層の厚さの割合は、凡そ90%以下(例えば凡そ70%以下)であることが適当であり、好ましくは凡そ50%以下であり、凡そ30%以下でもよく、凡そ20%以下でもよく、凡そ15%以下でもよい。基材層の厚さの比率を制限することにより、粘着剤の特性が発揮しやすくなり、またバイオベース度の高い粘着剤を用いる態様においては、粘着シート全体としての化石資源系材料への依存度を低減することにもなり得る。
【0096】
<剥離ライナー>
ここに開示される粘着シートは、必要に応じて、粘着面(粘着剤層のうち被着体に貼り付けられる側の面)を保護する目的で、該粘着面に剥離ライナーを貼り合わせた形態(剥離ライナー付き粘着シートの形態)で提供され得る。剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面が剥離処理された剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(PE、PP等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。剥離ライナーの樹脂フィルム(層)としては、PET樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルム;PP、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル等フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムが好ましく用いられ得る。強度や加工性の観点から、ポリエステル樹脂フィルムがより好ましい。また、上記剥離処理には、例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、脂肪酸アミド系、硫化モリブデン等の剥離処理剤、あるいはシリカ粉等が用いられ得る。剥離処理された樹脂フィルム(例えばポリエステル樹脂フィルム)を剥離ライナーとして好ましく採用し得る。上記剥離処理層は、樹脂フィルムの少なくとも一方の面(例えば両面)に設けられ得る。
【0097】
剥離ライナーの厚さは、特に限定されず、粘着面への追従性や剥離作業性の観点から、例えば凡そ5μm~200μmとすることができ、凡そ10μm~100μm程度が好ましい。両面粘着シートの各粘着面を2枚の剥離ライナーでそれぞれ保護する態様において、各剥離ライナーの厚さを異ならせることが、剥離ライナーの剥離作業性の点から好ましい。例えば、第1剥離ライナーの厚さは、凡そ10~200μm(典型的には凡そ30~100μm、例えば凡そ50~80μm)とすることができ、第2剥離ライナーの厚さは、凡そ5μm以上100μm未満(典型的には凡そ8μm以上50μm未満、例えば凡そ12~40μm)とすることができる。第1剥離ライナーの厚さは、第2剥離ライナーの厚さの1.5倍~5倍(例えば2倍~3倍)程度とすることが好ましい。
【0098】
<粘着シート>
ここに開示される粘着シート(粘着剤層および基材層を含むが、剥離ライナーは含まない。)の厚さ(総厚)は、特に限定されず、例えば凡そ2μm~1000μmの範囲とすることができる。いくつかの態様において、粘着シートの厚さは、粘着特性等を考慮して、5μm~500μm(例えば10μm~300μm、典型的には15μm~200μm)程度とすることが好ましい。あるいは、薄型化を重視するいくつかの態様において、粘着シートの厚さは、100μm以下(例えば5μm~100μm)であってよく、70μm以下(例えば5μm~70μm)でもよく、45μm以下(例えば5μm~45μm)でもよい。
【0099】
ここに開示される粘着シートは、該粘着シートに含まれる全炭素の40%超がバイオマス由来の炭素であることが好ましい。すなわち、粘着シートのバイオマス炭素比が40%超であることが好ましい。このようにバイオマス炭素比の高い粘着シートを用いることにより、化石資源系材料の使用量を低減することができる。かかる観点において、粘着シートのバイオマス炭素比は高いほど好ましいといえる。粘着シートのバイオマス炭素比は、50%以上であることが好ましく、60%以上でもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよい。バイオマス炭素比の上限は定義上100%であり、いくつかの態様では、粘着シートのバイオマス炭素比は100%未満である。せん断接着力を得やすくする観点から、いくつかの態様において、粘着シートのバイオマス炭素比は、例えば95%以下であってよく、より粘着性能が重視される場合には90%以下でもよく、85%以下でもよい。
【0100】
いくつかの好ましい態様において、粘着シートは、1.8MPa以上のせん断接着力を示す。かかるせん断接着力を示す粘着シートは、接着界面をずらそうとする力(すなわち、せん断力)に対して強い抵抗を示すので、被着体の保持性能に優れる。より高い保持性能を発揮する観点から、粘着シートのせん断接着力は、2.0MPa以上であることが好ましく、2.2MPa以上であることがより好ましい。いくつかの態様において、上記せん断接着力は、2.4MPa以上でもよく、2.6MPa以上でもよい。上記せん断接着力の上限は特に制限されず、一般的には高いほど好ましい。一方、粘着剤層のバイオマス炭素比を高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記せん断接着力は、例えば20MPa以下であってよく、15MPa以下でもよく、10MPa以下でもよく、7MPa以下でもよい。せん断接着力は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0101】
いくつかの態様に係る粘着シートは、ステンレス鋼板に対する剥離強度が5N/20mm以上であることが好ましい。上記特性を示す粘着シートは、被着体に強固に接合することから、典型的には再剥離を意図しない態様で好ましく用いられ得る。より信頼性の高い接合を実現する観点から、上記剥離強度は、例えば10N/20mm以上であってよく、11N/20mm以上が好ましく、12N/20mm以上でもよく、13N/20mm以上でもよく、14N/20mm以上でもよく、15N/20mm以上でもよい。上記剥離強度の上限は特に制限されず、一般的には高いほど好ましい。一方、粘着剤層のバイオマス炭素比を高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記剥離強度は、例えば50N/20mm以下であってよく、40N/20mm以下でもよく、30N/20mm以下でもよい。以下、上記剥離強度のことを対SUS剥離強度ともいう。
【0102】
上記対SUS剥離強度の測定は、次に述べる方法で行うことができる。すなわち、粘着シートを幅20mm、長さ150mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの粘着面を露出させ、その粘着面を被着体としてのステンレス鋼板(SUS304BA板)に2kgのゴムローラを1往復させて圧着する。これを50℃の環境下に2時間放置した後、23℃、50%RHの環境下にて、引張試験機を使用してJIS Z0237:2000に準じて、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で剥離強度(180°引きはがし粘着力)(N/20mm)を測定する。引張試験機としては、万能引張圧縮試験機(装置名「引張圧縮試験機、TCM-1kNB」ミネベア社製)を使用することができる。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
なお、測定にあたっては、両面粘着シートの場合や、基材付き粘着シートであって基材が変形しやすい場合等には、測定対象の粘着シートに適切な裏打ち材を貼り付けて補強することができる。裏打ち材としては、例えば厚さ25μm程度のPETフィルムを用いることができる。
【0103】
いくつかの態様に係る粘着シートは、ステンレス鋼板に対する耐熱剥離強度が4N/20mm以上であることが好ましく、5N/20mm以上であることがより好ましく、7N/20mm以上であることがさらに好ましい。上記特性を示す粘着シートによると、より信頼性の高い接合が実現され得る。上記耐熱剥離強度の上限は特に制限されず、一般的には高いほど好ましい。一方、粘着剤層のバイオマス炭素比を高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記耐熱剥離強度は、例えば30N/20mm以下であってよく、20N/20mm以下でもよい。上記耐熱剥離強度は、23℃、50%RHの環境下にて測定サンプルの粘着面をステンレス鋼板(SUS304BA板)に圧着し、次いで80℃の環境下に30分間放置した後に同環境下で剥離強度を測定する他は、上述した対SUS剥離強度と同様にして測定される。
【0104】
いくつかの態様に係る粘着シートは、ポリプロピレン(PP)板に対する剥離強度(対PP剥離強度)が8N/20mm以上であることが好ましく、10N/20mm以上であることがより好ましく、13N/20mm以上であることがさらに好ましい。上記特性を示す粘着シートは、ポリオレフィン系樹脂等の低極性の被着体に対しても強固に接合し得る。上記対PP剥離強度の上限は特に制限されず、一般的には高いほど好ましい。一方、粘着剤層のバイオマス炭素比を高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記対PP剥離強度は、例えば40N/20mm以下であってよく、30N/20mm以下でもよく、25N/20mm以下でもよい。上記対PP剥離強度は、被着体としてポリプロピレン樹脂板を使用する他は、上述した対SUS剥離強度と同様にして測定される。
【0105】
いくつかの態様において、対PP剥離強度に対する対SUS剥離強度の比、すなわちPP/SUS剥離強度比は、例えば0.5以上であってよく、0.7以上であることが好ましく、0.9以上でもよい。また、上記PP/SUS剥離強度比は、例えば3以下であってよく、2以下でもよく、1.5以下でもよい。上記PP/SUS剥離強度比がより1に近いことは、被着体の材質による剥離強度の違いがより小さいことを意味する。このような粘着シートは、汎用性が高く、異種材料の接合や固定にも適するので好ましい。
【0106】
いくつかの態様に係る粘着シートは、ポリエチレン(PE)板に対する剥離強度(対PE剥離強度)が1.5N/20mm以上であることが適当であり、3N/20mm以上であることが好ましく、5N/20mm以上であることがより好ましく、8N/20mm以上であることがさらに好ましい。上記特性を示す粘着シートは、ポリオレフィン系樹脂等の低極性の被着体に対しても強固に接合し得る。上記対PE剥離強度の上限は特に制限されず、一般的には高いほど好ましい。一方、粘着剤層のバイオマス炭素比を高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記対PE剥離強度は、例えば30N/20mm以下であってよく、20N/20mm以下でもよい。上記対PE剥離強度は、被着体としてポリエチレン樹脂板を使用する他は、上述した対SUS剥離強度と同様にして測定される。
【0107】
ここに開示される粘着シートは、ハロゲンフリー(特に、塩素フリー)であることが好ましい。ハロゲンフリーの粘着シートは、ハロゲンを含む材料の使用を避けることにより実現することができる。例えば、粘着剤層においては、ハロゲン化ポリマー(例えば、ポリクロロプレンゴム等の塩素化ゴム)やハロゲンを含む添加剤の使用を避けることが望ましい。また、基材の構成成分としてハロゲン化樹脂(例えば塩化ビニル樹脂)や塩素を含む添加剤の使用を避けることが望ましい。
【0108】
ここに開示される粘着シートは、(A)塩素含有率が0.09重量%(900ppm)以下である、(B)臭素含有率が0.09重量%(900ppm)以下である、(C)塩素および臭素の含有率の総量が0.15重量%(1500ppm)以下である、のうち一つ以上を満たすように構成されていることが好ましい。少なくとも(A)を満たすことがより好ましく、(A)および(C)を満たすことがさらに好ましく、(A),(B),(C)の全てを満たすことが特に好ましい。塩素含有率および臭素含有率は、蛍光X線分析、イオンクロマトグラフ等の公知の方法により測定される。
【0109】
<用途>
ここに開示される粘着シートの用途は特に限定されず、各種用途に用いられる粘着シートが対象となり得る。ここに開示される粘着シートは、典型的には両面粘着シートの形態で、部材を固定または接合する用途に好ましく利用され得る。かかる用途では、粘着シートが良好なせん断接着力を示すことが特に有意義である。典型的な用途としては、電子機器を構成する部品に貼り付けられて、当該部品の固定、接合、補強等する用途が挙げられる。薄型化の観点から、いくつかの態様において、薄手の基材を用いた基材付き両面粘着シートの形態が好ましく採用され得る。上記薄手の基材層としては、厚さが10μm以下(例えば5μm未満)の基材層が好ましく用いられ得る。
【0110】
ここに開示される粘着シートは、例えば、携帯電子機器における部品固定用途に好適である。上記携帯電子機器の非限定的な例には、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノート型パソコン、各種ウェアラブル機器(例えば、腕時計のように手首に装着するリストウェア型、クリップやストラップ等で体の一部に装着するモジュラー型、メガネ型(単眼型や両眼型。ヘッドマウント型も含む。)を包含するアイウェア型、シャツや靴下、帽子等に例えばアクセサリの形態で取り付ける衣服型、イヤホンのように耳に取り付けるイヤウェア型等)、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、音響機器(携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー等)、計算機(電卓等)、携帯ゲーム機器、電子辞書、電子手帳、電子書籍、車載用情報機器、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯プリンター、携帯スキャナ、携帯モデム等が含まれる。ここに開示される粘着シートは、例えば、このような携帯電子機器のうち感圧センサを備える携帯電子機器内において、感圧センサと他の部材とを固定する目的で好ましく利用され得る。いくつかの好ましい態様では、粘着シートは、画面上の位置を指示するための装置(典型的にはペン型、マウス型の装置)と位置を検出するための装置とで、画面に対応する板(典型的にはタッチパネル)の上で絶対位置を指定することを可能とする機能を備える電子機器(典型的には携帯電子機器)内において、感圧センサと他の部材とを固定するために用いられ得る。なお、この明細書において「携帯」とは、単に携帯することが可能であるだけでは充分ではなく、個人(標準的な成人)が相対的に容易に持ち運び可能なレベルの携帯性を有することを意味するものとする。
【0111】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1) ポリエステル樹脂を含む基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に配置された粘着剤層と、を備えた粘着シートであって、
前記粘着剤層に含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素であり、
前記ポリエステル樹脂はバイオマス由来炭素を含む、粘着シート。
(2) 前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は10%以上である、上記(1)に記載の粘着シート。
(3) 前記基材層の破断強度は200MPa以上である、上記(1)または(2)に記載の粘着シート。
(4) 前記粘着シートに含まれる全炭素の50%以上はバイオマス由来炭素である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の粘着シート。
(5) 前記粘着シートの総厚さに占める前記基材層の厚さの割合は50%以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(6) 前記基材層に含まれる全炭素の5%以上はバイオマス由来炭素である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の粘着シート。
(7) せん断接着力が1.8MPa以上である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の粘着シート。
(8) 前記粘着剤層が前記基材層の両面に設けられた両面接着性の粘着シートである、上記(1)~(7)のいずれかに記載の粘着シート。
(9) 電子機器の部品を固定するために用いられる、上記(1)~(8)のいずれかに記載の粘着シート。
【0112】
(10) 上記粘着剤層は、天然ゴムベースの粘着剤から構成されている、上記(1)~(9)のいずれかに記載の粘着シート。
(11) 上記粘着剤のベースポリマーを構成する全繰返し単位の20重量%以上(典型的には20重量%以上70重量%以下)はアクリル系モノマーに由来する、上記(1)~(10)のいずれかに記載の粘着シート。
(12) 上記粘着剤層は植物由来の粘着付与剤(植物性粘着付与剤)を含む、上記(1)~(11)のいずれかに記載の粘着シート。
(13) 上記植物性粘着付与剤の含有量は、上記粘着剤層に含まれるベースポリマー100重量部に対して30重量部以上(典型的には、30重量部以上100重量部以下)である、上記(12)に記載の粘着シート。
(14) 上記植物性粘着付与剤は、テルペン系樹脂および変性テルペン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(12)または(13)に記載の粘着シート。
(15) 上記粘着剤層は架橋剤を含み、上記架橋剤は非イオウ含有架橋剤から選択される、上記(1)~(14)のいずれかに記載の粘着シート。
(16) 上記架橋剤はイソシアネート系架橋剤を含む、上記(15)に記載の粘着シート。
(17) 上記粘着剤層は、そのベースポリマー100重量部に対するフィラーの含有量が10重量部未満(典型的には、0重量部以上10重量部未満)である、上記(1)~(16)のいずれかに記載の粘着シート。
(18) ステンレス鋼板に対する剥離強度が5N/20mm以上(例えば、5N/20mm以上50N/20mm以下)である、上記(1)~(17)のいずれかに記載の粘着シート。
(19) 上記粘着剤層は、ベースポリマーとしてアクリル変性天然ゴムを含む、上記(1)~(18)のいずれかに記載の粘着シート。
(20) 上記アクリル変性天然ゴムは、メタクリル酸メチルがグラフト重合された天然ゴムである、上記(19)に記載の粘着シート。
(21) 上記アクリル変性天然ゴム全体の重量のうちアクリル系モノマー由来の繰返し単位の重量の占める割合は、1重量%以上80重量%未満である、上記(19)または(20)に記載の粘着シート。
(22) ハロゲンフリーである、上記(1)~(21)のいずれかに記載の粘着シート。
【実施例】
【0113】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0114】
<評価方法>
[せん断接着力]
粘着シート(典型的には両面粘着シート)を10mm×10mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの各粘着面を2枚のステンレス鋼板(SUS304BA板)の表面にそれぞれ重ねて2kgのローラを1往復させて圧着する。これを同環境下に2日間放置した後、引張試験機を用いて、引張速度10mm/分、剥離角度0度の条件で、せん断接着力[MPa]を測定する。具体的には
図5に示すように、測定サンプル50の一方の粘着面50Aをステンレス鋼板61に貼り合わせ、測定サンプル50の他方の粘着面50Bをステンレス鋼板62に貼り合わせて圧着する。これを上述の速度で
図5の矢印方向(すなわち、せん断方向)に引っ張り、10mm×10mm当たりの剥離強度を測定する。得られた値からせん断接着力[MPa]を求める。片面接着性の粘着シート(片面粘着シート)の場合は、該シートの非粘着面を接着剤等でステンレス鋼板に固定し、その他は上記と同様にして測定することができる。引張試験機としては、万能引張圧縮試験機(製品名「TG-1kN」、ミネベア社製)を使用することができる。
【0115】
[加工性]
剥離ライナー付き粘着シートを5cm×10cmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。剥離ライナー面が上面となるよう測定サンプルを載置し、カッターを用いて、8cm程度の長さの2本のスリットを1cm間隔で平行するように測定サンプルの中央に入れる。スリットは測定サンプルを貫通する深さで入れる。測定サンプルは、スリット両端にある各1cm程度の非スリット部分で連続している。次いで、測定サンプルの上面で、2kgのローラをスリットの長手方向に沿う方向に当該スリットを通るように5往復させる。その後、スリット両端付近で測定サンプルをはさみでカット(スリット長手方向に直交する方向にカット)して非スリット部分を除去する。測定サンプルをスリットを境にして分離する方向にゆっくりと引っ張り、糊のはみ出しの有無を目視で確認する。糊のはみ出しがなかったものを「○」と評価し、糊のはみ出しが認められたものを「×」と評価する。
【0116】
<例1>
(粘着剤組成物の調製)
天然ゴム(RSS1級、素練り後)49部を含むトルエン溶液に、メタクリル酸メチル(MMA)36部および過酸化物系開始剤0.4部を加えて溶液重合を行うことにより、天然ゴムにMMAがグラフトしたアクリル変性天然ゴムAのトルエン溶液を得た。過酸化物系開始剤としては、BPO(日本油脂社製、製品名「ナイパーBW」)とジラウロイルパーオキサイド(日本油脂社製、製品名「パーロイルL」)とを、約1:1.7の重量比で使用した。
上記アクリル変性天然ゴムAのトルエン溶液に、該溶液に含まれるアクリル変性天然ゴムA 100部当たり、テルペン系粘着付与樹脂(ヤスハラケミカル社製、製品名「YSレジンPX1150N」、軟化温度:115±5℃)70部、老化防止剤(フェノール系老化防止剤、製品名「イルガノックス1010」、BASF社製)3部およびイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)4部を加え、均一に攪拌混合することにより、本例に係る粘着剤組成物Aを調製した。
【0117】
(粘着シートの作製)
ポリエステルフィルムの片面がシリコーン系剥離処理剤による剥離面となっている厚さ38μmの第1剥離ライナー(三菱ポリエステル社製、製品名「ダイアホイルMRF38」)の剥離面に、上記粘着剤組成物Aを塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ4μmの第1粘着剤層を形成した。また、ポリエステルフィルムの片面がシリコーン系剥離処理剤による剥離面となっている厚さ25μmの第2剥離ライナー(三菱ポリエステル社製、製品名「ダイアホイルMHA25」)の剥離面に、上記粘着剤組成物Aを塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ4μmの第2粘着剤層を形成した。バイオマスPET樹脂を用いて成形した厚さ2μmのPET樹脂フィルム基材を用意し、このPET樹脂フィルム基材の各面に、上記第1および第2の剥離ライナー上に形成した第1および第2の粘着剤層をそれぞれ貼り合わせて、粘着シートを作製した(転写法)。上記剥離ライナーは、そのまま粘着剤層上に残し、該粘着剤層の表面(粘着面)の保護に使用した。このようにして、基材層(厚さ2μm)の一方の面に第1粘着剤層(厚さ4μm)を有し、他方の面に第2粘着剤層(厚さ4μm)を有する総厚10μmの両面粘着シートを得た。上記バイオマスPET樹脂は、テレフタル酸またはその誘導体と、バイオマス資源由来原料として植物由来のエチレングリコールを用いて合成したバイオマスPET樹脂である。
【0118】
<例2>
基材層として、バイオマスPET樹脂を用いて成形した厚さ6μmのPET樹脂フィルムを用い、第1および第2の粘着剤層の厚さをそれぞれ12μmとした。その他は例1と同様にして、総厚30μmの両面粘着シートを得た。
【0119】
<例3>
基材層として、バイオマスPET樹脂を用いて成形した厚さ12μmのPET樹脂フィルムを用い、第1および第2の粘着剤層の厚さをそれぞれ19μmとした。その他は例1と同様にして、総厚50μmの両面粘着シートを得た。
【0120】
<例4>
基材層として、バイオマスPET樹脂を用いて成形した厚さ25μmのPET樹脂フィルムを用い、第1および第2の粘着剤層の厚さをそれぞれ38μmとした。その他は例1と同様にして、総厚100μmの両面粘着シートを得た。
【0121】
<例5>
基材層として、厚さ12μmのPET樹脂フィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」)を用いた他は例3と同様にして、総厚50μmの両面粘着シートを得た。
【0122】
<例6>
基材層として、厚さ25μmのPET樹脂フィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」)を用いた他は例4と同様にして、総厚100μmの両面粘着シートを得た。
【0123】
<例7>
ポリエステルフィルムの片面がシリコーン系剥離処理剤による剥離面となっている厚さ38μmの剥離ライナー(三菱ポリエステル社製、製品名「ダイアホイルMRF38」)の剥離面に、上記粘着剤組成物Aを塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層に、ポリエステルフィルムの片面がシリコーン系剥離処理剤による剥離面となっている厚さ25μmの剥離ライナー(三菱ポリエステル社製、製品名「ダイアホイルMHA25」)の剥離面を貼り合わせた。このようにして、両面が上記2枚のポリエステル製剥離ライナーで保護された形態の基材レス両面粘着シートを得た。
【0124】
<例8~10>
粘着剤層の厚さがそれぞれ30μm(例8)、50μm(例9)、100μm(例10)となるように粘着剤組成物Aの塗布量を調節した他は例5と同様にして、各例に係る基材レス両面粘着シートを得た。
【0125】
<測定および評価>
各例により得られた粘着シートにつき、上述の方法でせん断接着力を測定し、加工性を評価した。また、各例に係る粘着シートについて、粘着剤層および基材層のバイオベース度を、ASTM D6866に基づいて測定した。さらに、粘着剤層のバイオベース度にその厚さの比率を乗じた値と、基材層のバイオベース度にその厚さの比率を乗じた値との和から粘着シートのバイオベース度を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
表1に示されるように、バイオマス炭素比が50%以上の粘着剤層と、バイオマス由来炭素を含むポリエステル樹脂含有基材層とを備える粘着シートを用いた例1~4は、粘着剤層および基材層の両方にバイオマス材料を用いたことで、非バイオマス基材層を用いた例5,6と比べて、例えば同じ厚さの基材層を用いた例3と例5との対比からわかるように、せん断接着力については同じ性能を保持しつつ、粘着シート全体としてのバイオベース度を高めることができた。また、例1~4はバイオマスポリエステル樹脂を含む基材層を用いているので加工性にも優れていた。これに対して、基材レスの粘着シートを用いた例7~10では、良好な加工性を得ることができなかった。
上記の結果から、バイオマスポリエステル樹脂含有基材層と、バイオマス炭素比が50%以上の粘着剤層と、を備えた粘着シートによると、粘着シート全体として化石資源材料への依存度を低減することができ、かつ良好な加工性が得られることがわかる。
【0128】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0129】
1,2,3,4 粘着シート
10 基材層
21,22 粘着剤層
31,32 剥離ライナー
50 測定サンプル
50A,50B 粘着面
61,62 ステンレス鋼板