(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】脆性材料から成る基板の容積に微細な構造を形成する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20240930BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240930BHJP
B23K 26/06 20140101ALI20240930BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240930BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240930BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20240930BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20240930BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240930BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C03C23/00 D
B01J19/00 321
B23K26/06
B23K26/53
B81B1/00
B81C3/00
C03C15/00 Z
G01N37/00 101
H01S3/00 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019085719
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2021-12-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】10 2018 110 211.9
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス オアトナー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ロータース
(72)【発明者】
【氏名】ハウケ エーゼマン
(72)【発明者】
【氏名】マークス ハイス-シュケ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ ブリュックバウアー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー マンゴルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ ヒラー
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-152693(JP,A)
【文献】特表2017-534458(JP,A)
【文献】特表2018-509298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0023684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00-23/00
B23K26/00-26/70
B81B 1/00
B81C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性の材料から成る基
板にキャビティを形成する方法であって、
-超短パルスレーザ(30)のレーザビーム(27)を、前記基板(2)の側面(2,3)のうちの1つの側面に向け、フォーカシング光学素子(23)により集束させて前記基板(1)において延長された焦点を形成し、
前記レーザビーム(27)の入射エネルギにより、フィラメント状の損傷部(32)を前記基板(1)の容積に形成し、該フィラメント状の損傷部(32)は、最大で1μmの直径を有し、予め規定された深さに至るまで前記容積内に入り込み、前記基板(1)を貫通せず、
前記フィラメント状の損傷部(32)を形成するために、前記超短パルスレーザ(30)がパルスまたは連続する少なくとも2つのレーザパルスを有するパルスパケットを入射し、
少なくとも2つのフィラメント状の損傷部(32)の加工後に、
-前記基板(1)をエッチング媒体(33)に曝し、該エッチング媒体(33)が前記基板(1)の材料を毎時2μm~毎時20μmの除去速度で除去し、かつ
-前記少なくとも2つのフィラメント状の損傷部(32)を拡張してフィラメント(6)を形成し、
-少なくとも2つのフィラメントを結合して1つのキャビティ(5)を形成し、前記キャビティ(5)の壁部(8)が球欠状の凹部(7)を有しており、前記キャビティ(5)が、5mmまでの深さを有して
おり、かつ、前記基板の隣接している側面に対する、前記キャビティ(5)の前記壁部のテーパ角度が、90°+/-
5°の範囲にある、脆性の材料から成る基板にキャビティを形成する方法。
【請求項2】
少なくとも20個のフィラメン
トが互いに結合されて1つのキャビティを形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
t<0.8
*Tであり、ここでt=前記基板(1)に設けられた前記フィラメント状の損傷部(32)の深さであり、T=前記損傷部の箇所における前記基板(1)の厚さである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記フィラメント状の損傷部(32)が、最大で0.8μ
mの直径を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
互いに隣り合う少なくとも2つ以上のフィラメント状の損傷部(32)が、前記容積内に、前記基板(1)を貫通しない予め規定された深さに至るまで加工される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
互いに隣り合って配置されたそれぞれ2つのフィラメント状の損傷部(32)が、互いに異なる深さを有している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
多数のフィラメント状の損傷部(32)を、1つの経路または直線に沿って加工する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
多数のフィラメント状の損傷部(32)を2次元のパターンまたはマトリックスの形で加工し
、それぞれ複数のフィラメント状の損傷部(32)が、1つの経路に沿って配置されていて、少なくとも2つの経路が相並んで配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
1つの経路に沿って隣り合って配置された2つのフィラメント状の損傷部の間隔d
xと、相並んで配置された2つの経路の間隔d
yとが等しく、したがって、d
x=d
yである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
1つの経路に沿って隣り合って配置された2つのフィラメント状の損傷部の間隔d
xと、相並んで配置された2つの経路の間隔d
yとが異なっており、したがって、d
x≠d
yである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
d
xが、少なくとも10μ
mであり、d
yが、少なくとも4μ
mである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の、前記レーザビームの前記入射側に面した側への前記フィラメント状の損傷部(32)の加工時に(表面キャビティ)、まずより長いフィラメント状の損傷部(32)、次いでより短いフィラメント状の損傷部(32)を加工し、前記基板の、前記レーザビームの前記入射側とは反対に位置する側への前記フィラメント状の損傷部(32)の加工時に(背面キャビティ)、まずより短いフィラメント状の損傷部(32)、次いでより長いフィラメント状の損傷部(32)を加工する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記キャビティ(5)に対して付加的に、前記基板(1)を通って延びるフィラメント状の損傷部(32)の加工と、該フィラメント状の損傷部(32)の、前記エッチング媒体(33)による拡張とにより、貫通開口を前記基板(1)に形成する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
マイクロフルイディクスセル(12)を製造する方法であって、ディスク状のガラスエレメント(200)に、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法によりキャビティ(5)を形成し、
-前記ガラスエレメント(200)の側面のうちの少なくとも1つの側面を、少なくとも1つの別のガラス部分に結合し、これにより前記キャビティ(5)の開口を、前記ガラス部分により閉じ、液体のガイドのために適した中空室を形成し、前記ガラス部分との前記ガラスエレメント(200)の結合が、被着された接着材により行わ
れる、
マイクロフルイディクスセル(12)を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して脆性材料から成る基板の容積、特にガラスエレメントまたはガラスセラミックスエレメントに微細な構造または切欠きを形成する方法に関する。本発明はさらに、この方法により製造された、このような構造または切欠きを備えるガラスエレメントまたはガラスセラミックスエレメントに関する。
【0002】
透明、半透明または不透明なガラスまたはガラスセラミックスの正確な構造化は、多くの使用分野において有利である。この場合、数マイクロメートルの範囲の精度が必要とされる。構造化は、(丸形または角形の)孔、キャビティ、通路もしくは任意の自由形に関する。広い使用分野において使用することができるように、加工は、基板の縁部領域または容積中に損傷、残留物または応力を残さないことが望ましい。
【0003】
さらに、このような構造化は、できるだけ効率的な製造プロセスを可能にすることが望ましい。孔の製造のためには、たとえば種々異なる方法を使用することができる。相応するマスクによるサンドブラストの他に、超音波マシニングは確立された方法である。しかし、両方法は、そのスケーリングに関して、典型的には超音波マシニングでは約400μm、サンドブラストでは最小で100μmである小さな構造に制限されている。機械的な除去に基づいて、サンドブラスト時には、さらにガラス内の応力が孔縁部領域におけるはげ落ちに関連して生じる。薄いガラスの構造化のためには、両方法は基本的に使用可能ではない。
【0004】
したがって、最近では、種々異なる材料の構造化のために複数のレーザ源が使用される。この場合、CO2レーザまたはCOレーザ、赤外線(たとえば1064nm)、緑(532nm)およびUV(365nm)の波長を有するダイオード励起のns-、ps-およびfs固体レーザのようなほぼ全ての公知のレーザ源が使用されている。極めて短い波長(たとえば193nmまたは248nm)で作業するエキシマレーザも加工のために使用される。
【0005】
米国特許出願公開第2015/0165563号明細書(US2015/0165563A1)または米国特許出願公開第2015/0166395号明細書(US2015/0166395A1)は、薄いガラスに貫通孔を形成するための、あるいはガラス部材の後の分離のための準備としてのレーザ法を記載している。
【0006】
特に要求が多いのは、ガラスまたはガラスセラミックスの加工である。なぜならば、ガラスまたはガラスセラミックスは、概して小さな熱伝導性および高い破損敏感性を有しているからである。したがって、全てのレーザアブレーション法は、多かれ少なかれ強い熱負荷もしくは熱導入をもたらす。この熱導入は、より短い波長およびより短いパルス長により確かに減じることができるが、未だに孔の縁部領域におけるマイクロクラックおよび変形に至るまでの部分的に臨界的な応力をもたらす。同時に、この方法では、さらに明らかに可測である粗さが孔壁部において形成される。なぜならば、全てのレーザ法は、クラスタ状にアブレーションする、つまりそれぞれのクラスタサイズが壁部の残留粗さを規定するからである。
【0007】
さらにレーザアブレーション法において不都合であるのは、十分に深い構造が、加工すべきワークの複数回の通過によってのみ達成され得ることにある。加工速度は相応して緩慢である。したがって、この方法は、産業的な生産において使用するためには条件付きでしか適していない。このことは特に、ガラスを貫通する開口、または概して一方の側面から、反対の側に位置する側面へと延びている構造を加工すべき場合に当てはまる。さらに、たとえば溝のようなこのような構造の壁部は、傾斜を有していて、つまり鉛直ではない。
【0008】
特に、脆性の材料としてのガラスまたはガラスセラミックスの構造化時に、加工された構造が曲げ負荷時の強度を著しく減じてしまうという別の問題が発生する。なぜならば、構造化時にマイクロクラックが発生してしまうからである。別の欠点は、除去された材料が集積してしまうことにある。
【0009】
ガラス基板に貫通部を加工する方法は、独国特許出願公開第102013103370号明細書(DE102013103370A1)に記載されている。この方法では、まずレーザビームにより開口がガラス基板に形成され、次いでエッチング法により続いて材料除去が行われる。
【0010】
この公知の方法において不都合であるのは、ガラス基板またはガラスセラミックス基板の容積における微細で複雑な構造を許容可能な手間と高い品質で(つまり構成部材の強度に関して)製造することが極めて困難であることにある。
【0011】
発明者は、この課題のために尽力した。したがって、本発明の根底を成す課題は、少なくとも1つの開口もしくは切欠きを備えるガラスエレメントまたはガラスセラミックスエレメントを提供することであり、その際に、強度はできるだけ僅かにしか減じられないようにする。この場合、できるだけ少ないマイクロクラックが、ガラスエレメントまたはガラスセラミックスエレメントに開口を形成する方法によりもたらされることが望ましい。同時に、方法のプロセス時間も改善されることが望ましい。
【0012】
特に、切欠きのための幾何学的な形状を自由に選択することできることが可能であることが望ましい。この形式により形成された切欠きは、特に基板を貫通していないことが望ましく、つまり基板の、切欠きとは反対の側に位置する表面は不変のまま維持されることが望ましい。
【0013】
この課題は、独立請求項のいずれか1項に記載の、脆性の材料から成る基板にキャビティを形成する方法ならびにこのようなキャビティを備えるガラス基板またはガラスセラミックス基板により、意想外に簡単に解決される。本発明の好適な実施形態または改良形態は、それぞれの従属請求項から判る。
【0014】
したがって、本発明の対象は、好適にはガラスまたはガラスセラミックスを含む脆性の材料から成る基板の容積に少なくとも1つのキャビティを形成する方法である。
【0015】
単純に基板と云われる場合、以下では脆性の材料を含む基板であると理解すべきである。基板は、有利にはガラスまたはガラスセラミックスから成っているか、またはガラスまたはガラスセラミックスを含んでいる。
【0016】
本発明に係る基板は、たとえば互い反対の側に位置する2つの側面を備えたプレート状に形成されていてよいが、このことは方法を実施するための前提条件をなさない。基板が、特に薄く形成されていることも不可欠ではない。なぜならば、基板の厚さを制限する貫通開口が形成されなくてもよいからである。本発明による基板は、500μm以上の厚さを有していてよい。
【0017】
「フィラメント」という概念は、以下では、極めて微細な盲孔、つまり基板を貫通していない開口であると理解される。本発明によれば、超短パルスレーザのレーザビームによりフィラメント状の損傷部が形成される。したがって、本発明によれば、基板を貫通していない少なくとも1つのフィラメント状の損傷部を備える基板を中間製品として得ることができる。次いで、このフィラメント状の損傷部の直径は、エッチングプロセスにより拡張され、これによりフィラメントを形成することができる。したがって、本発明によれば、さらに基板を貫通していない少なくとも1つのフィラメントを備える基板を中間製品として得ることができる。
【0018】
「キャビティ」という概念は、以下では、後続のエッチングプロセスにおける関与するフィラメントの拡張の結果、互いに隣り合った少なくとも2つのフィラメントの結合により形成され得る開口または切欠きであると理解される。この開口は、基板の片側に向かって、つまり一方の側面に向かって開いていて、したがって、基板の表面上の切欠きを定義する。開口は、種々異なる幾何学形状または複雑な構造をとることができる。したがって、キャビティは、一方の側面から反対の側に位置する側面へと延びている貫通開口ではない。
【0019】
本発明に係る方法は、以下のステップを予定している:
-超短パルスレーザのレーザビームを、基板の側面のうちの1つの側面に向け、フォーカシング光学素子により集束させて基板において延長された焦点を形成し、
レーザビームの入射エネルギにより、フィラメント状の損傷部を基板の容積に形成し、該フィラメント状の損傷部は、予め規定された深さに至るまで容積内に入り込み、特に基板を貫通せず、
フィラメント状の損傷部を形成するために、超短パルスレーザがパルスまたは連続する少なくとも2つのレーザパルスを有するパルスパケットを入射し、
少なくとも2つのフィラメント状の損傷部の加工後に、
-基板をエッチング媒体に曝し、該エッチング媒体が基板の材料を毎時2μm~毎時20μmの除去速度で除去し、
-少なくとも2つのフィラメント状の損傷部を拡張してフィラメントを形成し、
-少なくとも2つのフィラメント、好適には少なくとも20のフィラメント、特に好適には少なくとも50のフィラメントを互いに結合して1つのキャビティを形成する。
【0020】
本発明により、脆性の材料から成る基板、好適にはガラスエレメントまたはガラスセラミックスエレメントを含む基板は、少なくとも1つのキャビティをさらに含んでいる。基板の容積に設けられたこのキャビティは、フィラメント状の損傷部を形成するレーザに基づく方法と損傷部を拡張してキャビティを形成するための後続のエッチング方法とを含む組み合わせられた方法により製造することができる。
【0021】
好適には、互いに隣り合った少なくとも2つ以上のフィラメント状の損傷部が基板に加工される。次いでエッチングプロセスにより、少なくとも2つのフィラメント状の損傷部の間にある材料を一緒に除去することができ、これによりキャビティが形成される。したがって、エッチングプロセスにより材料が除去されるので、キャビティの寸法は、フィラメント状の損傷部もしくはフィラメントよりも大きい。したがって、好適には、キャビティは、少なくとも2つ以上のフィラメント状の損傷部を含み、ひいては切欠きを形成する。
【0022】
このことは、従来、エッチング方法の使用、つまり材料に設けられた極めて小さなフィラメント状の損傷部の、エッチング媒体による拡張が、貫通開口または比較的大きな直径を備える開口を要求することが仮定されていたので、意想外であった。確かにこのような貫通開口は、基板の、反対の側に位置する側面の表面損傷も要求する。さらに、本発明には当てはまらない、基板の厚さに関する制限もある。
【0023】
貫通開口の要求は、エッチング媒体が第1の側から毛細管力によりフィラメント状の損傷部内に引き込まれ、この場合に、反対に位置している別の側において、フィラメント状の損傷部内に存在する気体が漏れ出ることができるのだから、エッチング媒体は、このような小さなフィラメント状の損傷部にしか進入することができないという想定に基づく。
【0024】
しかし意想外にも、発明者は、エッチング溶液が、フィラメント状の損傷部内に、つまり基板を貫通していない開口もしくは盲孔内にも侵入して、この開口もしくは盲孔を拡張することができることを突き止めた。それどころか、本発明によれば、基板容積において測定して最大で1μm、好適には最大で0.8μm、特に好適には最大で0.5μmの直径を有する、基板を貫通していないフィラメント状の損傷部をエッチング媒体により拡張することが可能である。したがって、基板もしく基板の、拡張のために設けられた領域をエッチング媒体に曝し、この場合に、拡張すべき開口が貫通していて、一方の側から他方の側へと延びることはない。したがってレーザビームの射入側とは反対の側に位置する表面は、不変のままである。
【0025】
レーザ法により形成されたフィラメント状の損傷部が、十分に近傍に位置している場合、後続のエッチング法により、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部の間の残っている壁材料は溶出されて、複雑なキャビティが形成され得る。
【0026】
個別のパルスのパルスエネルギは、このパルスエネルギが基板材料のアブレーション閾値の下にあるように選択されるので、レーザ光は材料内に進入することができ、レーザエネルギは、既に表面におけるアブレーションプロセスによって消費されない。
【0027】
したがって、フィラメント状の損傷部が相並んで形成される場合に、フィラメント状の損傷部の加工および後続のエッチングにより、特に良好に基板の容積にキャビティを形成することができる。キャビティは、種々異なるテーパ角度で形成することができる。この場合テーパ角度は、隣接する側面に対するキャビティの壁部の角度である。
【0028】
テーパ角度は、特にエッチングプロセスにおける除去速度により規定される。毎時15μm~毎時20μmの範囲のような高い除去速度では、キャビティの、どちらかというと垂直な構成が残るので、90°+/-5°、好適には90°+/-3°、特に好適には90°+/-1°の範囲のテーパ角度が生じる。キャビティの垂直な構成からの著しい逸脱は、より緩慢に進行するエッチングプロセスにより生じる。このことは、毎時2μm~毎時10μmの範囲の除去速度に関する。
【0029】
レーザビームの入射されたエネルギによる基板の容積に設けられたフィラメント状の損傷部の深さおよび延在量は、基板に対して相対的な焦点位置の意図的な調節により可能にされる。このためには、相応する光学素子が設けられていてよく、この光学素子により、焦点位置および深さが制御され得る。
【0030】
延長された均一な損傷部を基板の容積において予め規定された深さまでで達成するためには、パルスパケットの入射を伴うバーストモードが特に有利となる。このことは特に、フィラメント状の損傷部が基板を完全に貫くのではなく、上述の箇所における基板の厚さに関して所定の部分区間にだけ延びることを意味している。フィラメント状の損傷部が、基板の厚さに関して80%未満、有利には70%未満、特に好適には50%未満だけ入り込むことが規定されている。換言すると、フィラメント状の損傷部の長さは、損傷部の箇所における基板の厚さの80%未満、好適には70%未満、特に好適には50%未満である。
【0031】
さらにこれに関連して、後続のエッチングプロセスにより、フィラメント状の損傷部の底部領域においても別の材料除去が行われることを考慮すべきである。この場合、反対に位置する側の予備損傷が生じることを確実に排除するために、フィラメント状の損傷部が、基板の厚さに関して80%未満、好適には70%未満の深さで基板に入り込むと有利であると見なされる。
【0032】
エッチング媒体として、プラズマエッチングに比類するエッチング溶液が好適である。つまりエッチングは、この実施形態によれば、湿式化学的に実施される。このことは、エッチング中に基板構成部分を表面から除去するために有利である。エッチング溶液として、酸性の溶液およびアルカリ性の溶液が使用され得る。酸性のエッチング媒体として、特にHF、HCI、H2SO4、フッ化水素アンモニウム、HNO3溶液またはこれらの酸類物から成る混合物が適している。塩基性のエッチング媒体のためには、好適にはKOH-またはNaOHアルカリ液が考慮される。酸性のエッチング溶液では、典型的には高い除去速度を達成することができる。塩基性の溶液は、とりわけいずれにせよ緩慢な除去が目指される場合に好適である。さらにエッチングは、40℃~150℃、好適には50℃~120℃、特に好適には100℃までの温度範囲で実施されると好適である。
【0033】
概して、本発明に係る構造化にとって低いアルカリ度を有するケイ酸含有ガラスが特に適している。高過ぎるアルカリ度は、エッチングを困難にする。0.45~0.55、好適には0.48~0.54の範囲の塩基性を有するガラスを使用すると有利であることが判った。このことは、ガラスを、特に塩基性のエッチング媒体による制御されたエッチングのために適しているようにする。しかし、酸性のエッチング媒体によるエッチングも可能なままである。本発明の別の改良形態によれば、ガラスエレメントのガラスが、17重量パーセントよりも小さいアルカリ酸化物を含有するシリカガラスであることが規定されている。
【0034】
しかし、この方法により、特にLASシステムによるガラスセラミックスにキャビティを形成することも可能である。
【0035】
本発明のために規定されたバースト運転モードでは、レーザエネルギが個別パルスとして放出されるのではなく、一緒に1つのパルスパケット、いわゆるバーストを形成する、相前後して放出される短いパルスの連続として放出される。このようなパルスパケットは、典型的には、通常のシングルショット運転における個別パルスよりもいくらか大きなエネルギを有している。しかしバーストのパルス自体は、個別パルスよりも著しく小さなエネルギを含んでいる。バースト中のパルスに関して、パルスエネルギがフレキシブルに調節可能であり、特に、パルスエネルギが実質的に一定のままであるか、またはパルスエネルギが増大するか、パルスエネルギが減少することが規定されていてよい。
【0036】
本発明による適したレーザ源は、1064ナノメートルの波長を有するネオダイムドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネットレーザである。第2高調波発生(SHG:second harmonic generation)または第三高調波発生(THG:Third harmonic generation)を伴う運転も可能である。レーザ源の選択時には、基板材料がレーザビームの対応する波長に対して少なくとも部分的に透過性であることに留意すべきである。
【0037】
レーザ源は、たとえば、12mmの(1/e2)直径を有する生ビームを生成し、光学素子として、16mmの焦点距離を有する両凸レンズを使用することができる。生ビームの生成のために、場合によっては、たとえばガリレオテレスコープのような適切にビームを形成する光学素子を使用することができる。レーザ源は、特に、1kHz~1000kHz、好適には2kHz~200kHz、特に好適には3kHz~100kHzの間の繰り返し率で作業する。
【0038】
繰り返し率および/または方法速度、つまり基板に対して相対的にレーザビームがガイドされる速度は、隣り合うフィラメント状の損傷部の所望の間隔が達成されるように選択され得る。
【0039】
レーザパルスの適切なパルス幅は、100ピコ秒未満、好適には20ピコ秒未満の範囲にある。レーザ源の典型的な出力は、特に有利には20~300ワットの範囲にある。フィラメント状の損傷部を得るためには、本発明の有利な改良形によれば、400マイクロジュールよりも高いバースト時のパルスエネルギが使用され、さらに有利には500マイクロジュールよりも高い総バーストエネルギが使用される。
【0040】
バーストモードにおける超短パルスレーザの運転時に、繰り返し率は、バーストの放出の反復率である。パルス幅は実質的に、レーザが個別パルス運転で運転されるか、バーストモードで運転されるかに依存しない。バースト中のパルスは、典型的には、個別パルス運転中のパルスと類似のパルス長さを有している。バースト周波数は、15MHz~90MHzの範囲、好適には20MHz~85MHzの範囲にあり、たとえば50MHzであり、バースト中のパルスの個数は、2~20パルス、好適には3~8パルス、たとえば6パルスである。
【0041】
フィラメント状の損傷部は、相前後して配置された局所的な欠陥の連続として、たとえば基板の深部に達する、フィラメント状の損傷部の列の形で成っていてよい。このフィラメント状の損傷部の列は、基板内に予め規定された深さに至るまで入り込む。したがって、特に薄い基板を使用することも不要である。
【0042】
本発明を以下に好適な実施形態につき、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】後続のエッチングのための準備としてガラスエレメントをレーザ加工する装置を示す図である。
【
図2】加工されたフィラメント状の損傷部を備えるガラスエレメントを上から示す平面図である。
【
図3a】ガラスエレメントのエッジの電子顕微鏡写真の拡大図である。
【
図3b】キャビティの壁部の電子顕微鏡写真を例示的に示す図である。
【
図4】基板の容積におけるフィラメント状の損傷部の列置を示す側面図である。
【
図5】フィラメント状の損傷部のマトリックス状の配置を有する基板の側面を上から見た平面図である。
【
図6a】既に形成された隣り合うフィラメント状の損傷部による、新たなフィラメント状の損傷部の形成時の相互影響を示す図である。
【
図6b】既に形成された隣り合う複数のフィラメント状の損傷部による、新たなフィラメント状の損傷部の形成時の相互影響を示す図である。
【
図7a】2つの直線に沿って互いに接近して延びるフィラメント状の損傷部の2つのチェーンにつき材料依存の関係を求める図である。
【
図7b】1つの直線に沿った多数のフィラメント状の損傷部のチェーンの遮蔽作用を測定するための配置を示す図である。
【
図8a】互いに対して極めて小さな間隔を有するフィラメント状の損傷部を形成するための三段階の精製化を有する方法を示す図である。
【
図8b】2つのフィラメント状の損傷部の間隔と、期待されるフィラメント深さとの関係を示す図である。
【
図9a】背面キャビティを形成するための背面側のフィラメント状の損傷部の加工を示す図である。
【
図9b】背面キャビティを形成するための背面側のフィラメント状の損傷部の加工を示す図である。
【
図10a】基板に互いに異なる深さでキャビティを形成するための実施形態を示す図である。
【
図10b】基板に互いに異なる深さでキャビティを形成するための実施形態を示す図である。
【
図11a】本発明により形成された表面構造を有する基板のそれぞれ1つの斜視図である。
【
図11b】本発明により形成された表面構造を有する基板のそれぞれ1つの斜視図である。
【
図11c】本発明により形成された表面構造を有する基板のそれぞれ1つの斜視図である。
【
図12】キャビティを備えるガラスエレメントの一部を上から見た平面図である。
【
図13a】マイクロフルイディクスチップとして使用するためのガラスから成る2つのウェハの別のアセンブリを示す概略図である。
【
図13b】マイクロフルイディクスチップとして使用するためのガラスから成る2つのウェハの別のアセンブリを示す概略図である。
【
図14】マイクロフルイディクスセルの例を示す図である。
【
図15】マイクロフルイディクスセルの例を示す図である。
【
図16】接着材層を被着するためのアセンブリを示す図である。
【0044】
好適な実施形態の詳細な説明
好適な実施形態の以下の詳細な説明では、明瞭にするために、同一の参照符号は、その実施形態において実質的に同一の部分を示す。しかし本発明をより明確にするために、図面に図示された好適な実施形態は、必ずしも縮尺通りに示されていない。
【0045】
図1には、レーザ加工装置20のための実施例が示されている。このレーザ加工装置20により、基板、たとえばガラスエレメント1にフィラメント状の損傷部32が加工され得る。これにより、次いでこのフィラメント状の損傷部32からエッチングプロセスにおいてキャビティを形成することができる。
【0046】
装置20は、前置された集束光学素子23を備える超短パルスレーザ30と、位置決めユニット17とを有している。この位置決めユニット17により、たとえばプレート状の加工すべきガラスエレメント1の側面2上で、超短パルスレーザ30のレーザビーム27の衝突点73を横方向で位置決めすることができる。図示の例では、位置決めユニット17が、x-yテーブルを含んでいる。このx-yテーブル上にガラスエレメント1の一方の側面3が載置している。しかし代替的または付加的には、レーザビーム27を運動させるために光学素子を可動に構成することも可能であり、これによりガラスエレメント1が固定されている場合に、レーザビーム27の衝突点73が運動可能である。
【0047】
集束光学素子23は、レーザビーム27を、特に照射すべき側面2に対して垂直なビーム方向で集束して延長された焦点を形成する。このような焦点は、たとえば円錐状レンズ(いわゆるアキシコン)または大きな球面収差を有するレンズにより形成することができる。位置決めユニット17および超短パルスレーザ30の制御は、好適にはプログラム技術的に調整された計算ユニット15により実施される。この形式により、フィラメント状の損傷部32を加工するための予め規定された位置へと到達することができ、このことは、特に、好適にはデータからの位置データまたはネットワークを介した位置データの読み込みにより行われる。
【0048】
図示の例では、図示のフィラメント状の損傷部32が、ガラスエレメント1の容積の所定の深さにまで入り込んでいる。この深さは、この例ではプレート状のガラスエレメント1の厚さのほぼ半分に相当する。本発明によれば、フィラメント状の損傷部32の長さは、加工されたフィラメント状の損傷部32の位置における基板の厚さの80%未満であり、好適には70%未満であり、特に好適には50%未満である。
【0049】
1つの実施例によれば、レーザビームのために以下のパラメータを使用することができる。
【0050】
レーザビームの波長は、Nd:YAGレーザにとって典型的には、1064nmである。12mmの生ビーム径を備えるレーザビームが形成され、このレーザビームは、次いで16mmの焦点距離を有する両凸レンズの形の光学素子により集束される。超短パルスレーザのパルス幅は、20psよりも小さく、好適にはほぼ10psである。パルスは、バースト時に2以上、好適には4以上のパルスで放出される。バースト周波数は12~48ns、好適には約20nsであり、パルスエネルギは、少なくとも200マイクロジュールであり、バーストエネルギは、相応して少なくとも400マイクロジュールである。
【0051】
次いで、1つまたは特に多数のフィラメント状の損傷部32の加工後に、ガラスエレメント1が取り出され、エッチング槽内に置かれる。このエッチング槽内では、緩慢なエッチングプロセスにおいて、基板材料、つまりこの実施例ではガラスが、フィラメント状の損傷部32に沿って除去されるので、このような損傷部32の箇所においてフィラメントがガラスエレメント1の容積内に形成される。
【0052】
好適には、>12のph値を有する塩基性のエッチング槽、たとえば>4mol/l、好適には>5mol/l、特に好適には6mol/l、しかし<30mol/lであるKOH溶液が使用される。エッチングは、本発明の1つの実施形態によれば、使用されるエッチング媒体とは関係なしに、>70℃、好適には>80℃、特に好適には>90℃のエッチング槽の温度で実施される。
【0053】
図2は、多数のフィラメント状の損傷部32を備えるガラスエレメント1を、側面2を上から見た平面図で示している。フィラメント状の損傷部32は、位置決めユニット17および超短パルスレーザ30の上述の計算機制御された制御によりガラスエレメント1内に書き込まれ得るような、規定されたパターンで配置されている。特に、フィラメント状の損傷部32は、ここではたとえば閉じた方形の輪郭または形の規定された経路に沿って、ガラスエレメント1に加工されている。線のコーナは、僅かに面取りされていてもよい。当業者には、この方法により方形の経路だけではなく、任意に形成された経路がたどられ得ることは明らかである。
【0054】
本発明に係る方法の根底を成す実施形態では、
-基板上でのレーザビーム27の衝突点73を、規定された経路に沿って、または予め規定された位置へとガイドし、
-規定された位置において、基板に対して相対的な焦点位置を意図的に形成することにより、基板の容積において規定された深さに至るまでフィラメント状の損傷部32を形成し、
-次いで、エッチングにより、フィラメント状の損傷部32の拡張が行われて、基板の容積におけるフィラメントが形成される。
【0055】
特別な実施形態では、光学素子23が、同様に制御可能に構成されているので、正確な焦点位置および基板における深さが特に簡単に制御可能である。この形式によって、フィラメント状の損傷部32を基板における種々異なる高さに形成することが可能である。
【0056】
フィラメント状の損傷部32の直径は、後続の等方性のエッチングにより拡張される。この場合、キャビティは、後続のエッチングプロセスにおいて互いに隣り合う少なくとも2つのフィラメントを接続することより形成することができる。フィラメント状の損傷部32の急な角度、つまりテーパ角度は、緩慢な等方性のエッチング時、つまり小さな除去速度では維持されたままである。
【0057】
本発明によれば、相並んで位置するフィラメントを統合するためのこの拡張は、複雑な幾何学形状を備えるキャビティ5を形成し、かつ/または複数のフィラメントを含むキャビティ5を形成するために、所望されている。
【0058】
図3aは、本発明により加工されたガラスエレメント1の列置された複数のフィラメント状の損傷部32の縦断面の電子顕微鏡写真を示している。相並んで平行に延びている、側方で開いた多数のフィラメント6を有するエッジを確認することができる。これらのフィラメント6は、たとえば、細長い形状である。図示された例では、フィラメント6は、かつてのフィラメント状の損傷部の箇所において、エッチングプロセスにより形成されている。隣り合ったフィラメント状の損傷部の統合は、この例ではまだ行われていない。
図3に示した図面では、切断エッジを上から見た平面図において、フィラメント6の長手方向51が、特に垂直方向で一方の側面3を起点としてガラスエレメント1の容積内へと延びていることが判る。
【0059】
図3ではさらに、フィラメント6の微細構造、つまり
面取りされた球欠状の凹部7の形のフィラメント6の側壁の形状を明確に確認することができる。好適には緩慢なエッチングプロセスにより、これらの球欠状の凹部7は、互いに隣接しており、凹部7の付き合わせられている凹状の丸み部は稜線を形成する。
【0060】
フィラメント6の間隔は、この例では、約50μmで比較的に大きく形成されている。この間隔は、特にフィラメント6が平坦なエッジ区分11なしに直接に互いに移行している場合には、小さく選択することもできる。概して、フィラメント6の間隔(「ピッチ」とも呼ばれる)は、好適には3μm~70μmの範囲、好適には少なくとも10μm、特に好適には少なくとも20μmである。この間隔は、フィラメント6の中心から中心までを測定される。
【0061】
図3bは、キャビティ5の壁部8の電子顕微鏡写真を例示的に示している。壁部8の球欠状の表面を明確に確認することができる。図示された例は、本発明により、たとえばSchott AG社(所在地:マインツ)のD263Tの名称で入手可能であるような、透明無色のホウ珪酸ガラスに加工されているキャビティ5の壁部8である。前もって加工されたフィラメント状の損傷部32の拡張は、80℃のエッチング媒体の温度で19時間行われた。
【0062】
既に加工された、この例では全部で5個のフィラメント状の損傷部32を備えるガラスエレメント1の縦断面図を概略的に示している
図4からは、フィラメント状の損傷部32が、ガラスエレメント1を完全に貫通しているのではなく、単に盲孔を形成していることを良好に確認することができる。
【0063】
本発明によれば、フィラメント状の損傷部32には、エッチング媒体が加えられる。このことは、エッチング溶液が、盲孔として形成されているにもかかわらず、フィラメント状の損傷部32内に侵入し、均一な、つまり等方性の拡張を引き起こすことができる点で特異である。フィラメント状の損傷部32は、極めて小さな寸法を有している。キャビティ5の
図3bに示された壁部8の基礎を成すフィラメント状の損傷部32は、最大でも1μmの直径しか有していない。さらに小さな直径、好適には最大で0.8μm、特に好適には最大で0.5μmの直径も本発明に係るエッチングプロセスの妨げにならない。
【0064】
本発明の特に好適な実施形態では、複数のフィラメント状の損傷部32が、相並んでガラスエレメント1に加工される。ガラスエレメント1内のフィラメント状の損傷部32の長さtと、横断面でのフィラメント状の損傷部32の大きさと、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部32の間隔dxとに依存して、この形式により、複雑な幾何学形状を備えたキャビティ5、つまり種々異なる基本形状もしくは横断面の切欠きを基板の容積に形成することができる。
【0065】
図4には、ガラスエレメント1内のフィラメント状の損傷部32の構成に関連する幾つかの重要な幾何学的な関係が図示されている。この例では、厚さTを有する基板、たとえばガラスエレメント1の容積に、相並んで列置された、長さtの5つのフィラメント状の損傷部32が示されている。
【0066】
上述のように、フィラメント状の損傷部32は基板を完全に貫通していないので、t<Tである。基板へのフィラメント状の損傷部の加工を加速するために、フィラメント状の損傷部の長さは有利には、できるだけ小さく選択される。なぜならば、比較的長いフィラメント状の損傷部の加工は、このような多数のフィラメント状の損傷部を要求する複雑な構造を形成するために、極めて時間がかかるからである。したがって、好適にはt<0.8*T、好適にはt<0.7*T、特に好適にはt<0.5*Tである。
【0067】
基板における深さの他に、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部の間隔は、極めて重要である。この間隔は、フィラメント状の損傷部32の中心から中心までを測定され、
図4には、d
xで示されている。したがって、この「ピッチ」は、方法制御のための基準を成す。
【0068】
基板の両側面のうちの1つの側面に向いた唯1つの開口しか有しておらず、基板の、反対の側に位置する側面の表面が不変であることを特徴とする、三次元の内側構造を基板の容積に形成するために、フィラメント状の損傷部32は、1つの側面を起点とする二次元の構造もしくはパターンで基板の容積内に加工される。
【0069】
図5は、この例では4x5の配置である、フィラメント状の損傷部32のマトリックス状の配置を備える基板の側面の上から見た平面図を概略的に示している。フィラメント状の損傷部32のこの幾何学的な配置によりエッチングプロセス後に形成可能な内側輪郭は、フィラメント状の損傷部32の間隔および深さが上述の要求を満たしている限り、方形形状である。当業者には、基板の側面上でのフィラメント状の損傷部32の配置のみに基づいて種々異なる幾何学的な形状を形成することができ、たとえば三角形または円形の基本形状または自由曲面を備えるガラスエレメント1内の内側輪郭を形成することができることが明らかである。
【0070】
図5には、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部32の二次元の間隔が、d
xと、d
xに対して垂直なd
yとにより記載されている。フィラメント状の損傷部32のマトリックス状の配置では、これらの間隔は、これらの両方向で同一であってよいが、必須ではないので、d
x≠d
yの条件も可能である。隣り合ったフィラメント状の損傷部32のこれらの間隔は、エッチングプロセス中に、キャビティ5の底部および壁部8の規定された形成をもたらす。このキャビティ5はさらに下方に深められて進行させられる。図示の例ではd
x=d
yが選択されている。
【0071】
フィラメント状の損傷部32をエッチングプロセスにより拡張して所望の構造を備えるキャビティを形成するためには、フィラメント状の損傷部32が基板材料への加工時に完全に成形されることが重要である。
【0072】
フィラメント状の損傷部32の成形は、基板の表面上の汚れにより不都合に影響され得る。ここでは、レーザビームのシェーディングが生じてしまうので、ビーム形状またはビーム強度に不都合に影響が与えられてしまう。これにより、基板におけるフィラメント状の損傷部32の形成における不所望なずれが生じ、つまり規定された深さおよび/または予め規定された配向が達成されなくなってしまう。
【0073】
確かに、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部32の小さな間隔は、比較的に大きな構造を形成し、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部32の間の材料除去またはこの材料除去のために必要となる時間を最小限にするために有利であると見なされるが、他方では規定された最小間隔が維持されて、フィラメント状の損傷部32が互いに対して空間的に近接しすぎることが阻止されるように留意しなければならない。
【0074】
これは、現在の作業点、つまりまさに新しいフィラメント状の損傷部32が形成される位置に対する、隣り合ったフィラメント状の損傷部32の空間的な近接が、隣接フィラメントの遮蔽作用に基づいて、まさに今形成されているフィラメント状の損傷部32の成形に大きな影響を有しているという状況によるものである。球面収差またはベッセルビームにより作業する光学的な構造物では、フィラメント状の損傷部32の形成は、焦線に対してできるだけ回転対照的に行われるレーザエネルギの供給に依存している。
【0075】
たとえばフィラメントの連続により、第1のチェーンが経路に沿って形成されると、新たなフィラメント状の損傷部32aを形成するためのエネルギ供給は、既に形成されている、隣り合うフィラメント状の損傷部32bによってのみ妨害されている。このことは、
図6aに純粋に例示的に示されている。
図6aは、既に形成された隣り合うフィラメント状の損傷部による、新たなフィラメント状の損傷部の形成時の相互影響を明確に示そうとするものである。
【0076】
新たなフィラメント状の損傷部32aの形成に対する、隣り合うフィラメント状の損傷部32bの影響は、フィラメント状の損傷部32,32a,32bの相互間隔、形成されたフィラメント状の損傷部32の直径、ひいては存在するフィラメント状の損傷部32bが新たなフィラメント状の損傷部32aへのエネルギ供給に対するシェーディングを成す立体角割合に全体的に依存している。この例では、この範囲は、角度δにより図示されている。レーザビームのそれぞれの影響ゾーン33は、この例では、円により示されている。この円は、レーザビーム27の衝突点73に相当する中間点を起点とした外側の画定部を示している。参照符号34は、先に加工されたフィラメント状の損傷部の影響ゾーン33に少なくとも部分的にオーバラップしているためにシェーディング下にある影響領域を示している。
【0077】
別の重要なサイズは、基板の側面2,3上での、フィラメントを形成するレーザビームの直径である。既に形成された複数のフィラメント状の損傷部32bに隣接して、たとえばフィラメント状の損傷部32bの既に存在する列の隣に、新たなフィラメント状の損傷部32aを形成する場合、近接し過ぎていると、理論的に提供されるエネルギの半分が複数の立体角度割合において既に遮蔽される。
【0078】
このことは
図6bに純粋に例示的に示されている。
図6bは、既に形成された隣り合う複数のフィラメント状の損傷部32bによる新たなフィラメント状の損傷部32aの形成時の相互の影響を図示している。この場合、個別の立体角度割合δの遮蔽が、加算されて全体遮蔽を形成する。したがって、全体的に、隣り合うフィラメント状の損傷部32bの近傍における、フィラメント状の損傷部32aの達成可能な最大長さは、フィラメント状の損傷部の相互の間隔の関数である。この関数関係の知識は、本発明によれば、プロセスストラテジの最適化のために、ひいては本発明によるキャビティの形成のための方法制御のために使用される。
【0079】
この関係は、材料依存であり、
図7aおよび
図7bにつき簡単に概説される。材料依存の関係を求めるために、第1のステップでは、個別のフィラメント状の損傷部32aの遮蔽作用が特定される(
図7a)。このためには、まず第1の直線35に沿って、互いに対して一定の間隔d
xで離間する、半径Rを有するフィラメント状の損傷部32aを備えたチェーンが、基板に加工される。この場合d
x>>Rである。好適には、フィラメント状の損傷部32aの間隔は、既に存在しているフィラメント状の損傷部32aによる影響が生じないように大きく選択される。この前提条件は、d
x>50
*R、好適にはd
x>100
*Rである場合に与えられている。
【0080】
第2の直線36に沿って、フィラメント状の損傷部32bの第2のチェーンが第1のチェーンと同一のx位置において形成されるが、一定に減少する間隔dyを備えている。開始値として、dy=dxが選択されてよい。フィラメント状の損傷部の第2のチェーンが形成され、この場合、所属する第2の直線36は、連続的に第1の直線35に接近して延びている。フィラメント状の損傷部の相互間隔に関連してフィラメント状の損傷部の形成された長さを測定することにより、最適な間隔が特定され、別の方法のために使用され得る。長さの特定は、たとえば、光学顕微鏡により、たとえばフィラメントラインの開放により行うか、または画像処理法に関連した写真撮影により、たとえばエッジのエッジ抽出アルゴリズムにより行うこともできる。
【0081】
したがって、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部32a,32bの最適な間隔は、相互影響によるフィラメント状の損傷部の長さの減少がまだ生じていないか、エッチング挙動における差異がまだ認められない最小限の間隔dyである。
【0082】
同様の形式で、直線35(
図7b)に沿った多数のフィラメント状の損傷部32から成るチェーンによる遮蔽効果の測定を行うことができる。上述の例におけるように、まず直線35に沿って互いに一定の間隔d
xで離間している、半径Rを備えるフィラメント状の損傷部32のチェーンが、基板に加工される。次いで、種々異なる間隔d
yで、個別のフィラメント状の損傷部32が形成され、新たに、フィラメント状の損傷部32の長さが直線35に対するその間隔に依存して新たに特定される。
【0083】
特定の場合には、フィラメント状の損傷部32を互いに対して、上述したような遮蔽部の測定に基づいて有利であると判っている間隔よりも小さい間隔で形成することも必要となり得る。このことは、フィラメント状の損傷部の長さの短縮が生じ得る間隔が選択されることを意味している。
【0084】
このためには、
図8aおよび
図8bに図示された方法が特に有利に使用され得る。たとえば経路に沿ったフィラメント状の損傷部132のチェーンを、この文脈において互いに対してより密な間隔で製造するために、複数のステップを含む方法が選択される。
【0085】
第1のステップでは、フィラメント状の損傷部132cのチェーンが、粗め規定された経路に沿って可能な最大の長さで、互いに対する最小間隔で形成される。この場合、最小間隔は、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部132の、レーザビームの照射時にまだ相互影響が生じない間隔である。
【0086】
第2のステップにおいて、隣り合うそれぞれ2つのフィラメント状の損傷部132cの間の中心に、より小さな長さを有する別の新たなフィラメント状の損傷部132bが形成される。このことは、隣り合うフィラメント状の損傷部132cによる遮蔽に基づいて当初の長さで行うことはできない。必要に応じて、この過程の再帰的な精製化が行われる。
【0087】
図8aでは、3段階の精製化を有するこの方法が図示されている。経路、この例では長さbの直線に沿って、この例ではまず最大深さt
1を備えるフィラメント状の損傷部132cが形成される。このフィラメント状の損傷部132cは、維持された最小間隔d
1に基づいて生じる。つまりこのステップAは、最長のフィラメント状の損傷部132cの形成を含んでいる。
【0088】
隣り合うそれぞれ2つのフィラメント状の損傷部132cのまさに真ん中に、深さt2を有する別の新しいフィラメント状の損傷部132bが形成される。このフィラメント状の損傷部132bは、両側で、隣り合うフィラメント状の損傷部132cに対して間隔d1/2=d2を有している。つまりこの第2のステップBは、フィラメント状の損傷部132cに比べて短いフィラメント状の損傷部132bの形成を含んでいる。
【0089】
最終的に第3のステップCにおいて、隣り合うそれぞれ2つのフィラメント状の損傷部132bの間に、深さt
3を有する別の新しいフィラメント状の損傷部132aが形成される。このフィラメント状の損傷部132aは、両側で、隣り合うフィラメント状の損傷部132bに対してd
2/2=d
3の間隔を有している。この形式により、フィラメント状の損傷部132の特に狭い連続が達成され得る。この場合、フィラメント状の損傷部132は、その形成のそれぞれのステップに応じた深さをそれぞれ有している。
図8bは、2つのフィラメント状の損傷部132の間隔dと、期待すべきフィラメント深さt=t(d)との関係を示している。隣り合う2つのフィラメント状の損傷部132は、この場合互いに異なる深さを有している。
【0090】
図8aに示された三段階の方法により、エッチングプロセスの実施後に、エッチングプロセスによる拡張に基づく大きさを加算した最大深さt
1を有する幅bのキャビティ5が形成され得る。
【0091】
当然ながら、方法を、上述の3つの反復よりも多くの反復で実施することも可能であり、これにより、フィラメント状の損傷部132のさらに狭い間隔を達成することができる。この場合、多数のフィラメント状の損傷部32,132が、まだ遮蔽が行われていない最小間隔で基板に加工され、次いで1回以上の反復において、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部の間の中心にそれぞれ別のフィラメント状の損傷部が形成される。この場合、相並んで配置されたフィラメント状の損傷部の深さは、概して同一ではなく、フィラメント状の損傷部が製造された方法経過におけるそれぞれの反復に依存している。
【0092】
原則的には、焦線の、ビームを形成する光学素子により形成された長さが、基板の厚さを上回っていることも可能である。しかしこの場合、基板の、射入口とは反対に位置する側が変質されないように留意すべきである。なぜならば、さもなければ後続のエッチングプロセスにおいて不所望な損傷が基板の背面側の表面にも生じてしまうからである。たとえば焦点系の光学素子23と基板との間の間隔の変更により、つまり基板もしくはこの例では上述のガラスエレメント1の表面からの光学素子23の間隔の拡大により、かつ/または光学システムによる適切な再フォーカシングにより、このことは対抗策が講じられる。
【0093】
このことは、フィラメント状の損傷部の間隔によってもさらに影響される。間隔は、キャビティの規定された深さおよび使用される光学システムにさらに依存する。球面収差を有する光学システム、たとえば16mmの焦点距離を有する両凸レンズの形の光学素子、18mmの自由開口および1064nmで12mm(1/e2)の生ビームならびに0.5mmまでの形成すべきキャビティの所望の深さの使用時に、フィラメント状の損傷部32の互いに対する間隔は、少なくとも10μm、好適には20μmであると有利であることが判った。
【0094】
約5mmまでの比較的大きな深さを備えるキャビティ5を形成することも可能である。キャビティ5の深さは、より小さく選択されていてもよい。この場合、本発明に係る方法の利点を、アブレーションに対しても完全に利用し尽くすことができるように、少なくとも50μm、好適には少なくとも100μm、特に好適には少なくとも200μmの最小深さが有利である。
【0095】
フィラメント状の損傷部の間隔は、キャビティの底面の成形にも影響を与える。この場合、基本的な2つの態様が区別され得る。
1)フィラメント状の損傷部が、マトリックス状に互いに対して同一の間隔を備える網目(Raster)に加工される。この場合、dx=dyである。エッチングプロセスにより、キャビティの、均一な波状構造を備えた底部が成形される。この波状構造は、実質的に選択された間dxもしくはdyに依存している。
2)フィラメント状の損傷部は、連続ラインで加工される。この場合、フィラメント状の損傷部は、それぞれ隣り合う経路に沿って、第1の方向では、約4~6μmの互いに対する第1の間隔で加工される。第2の間隔で、フィラメント状の損傷部の別の経路が、第1に加えられる。この場合、経路の互いに対する間隔は、第1の間隔よりも大きく選択される。たとえば、この第2の間隔は、10μm以上であってよい。この形式により形成されたキャビティは、エッチングプロセス後に溝構造を備える底部を有している。
【0096】
当然ながら、上述の実施例では、経路の配置は、キャビティの所望の形状に応じて選択される。つまり、配置は、任意のパターン、たとえばマトリックスの形状で行われてよい。キャビティを形成するために使用されるチェーンまたは経路は、この場合、真っ直ぐに成形されている必要はなく、あらゆる自由形で選択され得る。
【0097】
上述の両方の態様1)および2)にとって、基本的には、キャビティの底部に生じる構造は、超短パルスレーザによる材料変質とエッチングプロセスとの相互作用により発生させられる。この底部構造は、フィラメント形成ストラテジに取って特徴的である。
【0098】
両方の態様1)および2)は、キャビティ5の壁部8が、たとえば
図3bに示されているように、エッチングプロセス後に多数の球欠状の凹部7を備える構造を有していることを意味している。
【0099】
特別な実施形態では、基板の容積に本発明により形成されたキャビティ5は、互いに異なる深さを備えた少なくとも2つの領域を含んでいる。この実施形態では、フィラメント状の損傷部32、132が、互いに異なる長さおよび/または互いに異なる焦点位置で基板に加工される。
【0100】
キャビティ5がレーザの入射側で基板に形成される、いわゆる上述の表面キャビティでは、まず、比較的深く、ひいては長いフィラメント状の損傷部32,132を加工し、次いで比較的短いフィラメント状の損傷部を加工すると有利であることが判った。基板の、レーザの入射側とは反対の側に位置する側面に形成される、いわゆる背面キャビティの形成時には、逆の順番が有利であることが判った。
【0101】
概して、背面キャビティの形成が有利であることが判った。なぜならば、フィラメント間隔が小さく選択され得るからである。入射側では、レーザプロセスにより少ない汚染しか生じないので、フィラメントは、規定された深さおよび方向でより良好に加工され得る。
図9aおよび
図9bは、背面キャビティを形成するための、背面側のフィラメント状の損傷部32の加工を示している。この場合、底部を備えるキャビティ5が形成される。この底部は、この場合、
図9aに示された実施形態の場合には溝状の形状を有していて、
図9bに示された実施形態の場合には均一な波状の形状を有している。
【0102】
原則的には、
図10aに示されているように、基板において互いに異なる深さを有する複数のキャビティを形成し、それどころか段部を形成することも可能である。この段部は、
図10bに示唆されているような貫通開口37との組み合わせで盲孔を形成するために使用されてよく、つまり同心的な横断面を有する段部の横断面形状を有している。
【0103】
図10aおよび
図10bに図示されたものとは異なり、好適にはフィラメント状の損傷部の互いに対する間隔は、フィラメントが完全な長さで形成されるように調節される。換言すると、隣り合う2つのフィラメント状の損傷部の互いに対する最小間隔は、それぞれに形成に影響を与えることなしに維持される。
【0104】
同様に有利な実施形態では、フィラメント状の損傷部が加工される場合に、基板の少なくとも1つの境界面が、液体で湿潤させられる。この場合、種々異なる態様が用いられる。
1)背面における屈折率差を減少させるための、基板の背面側の表面、つまりレーザの入射側とは反対の側に位置する側面の湿潤。屈折率差の回避もしくは減少は、表面損傷の回避もしくは最少化をもたらす。
2)上面における汚染の減少のための、基板の前側の表面、つまりレーザの入射側に面した側面の湿潤。汚染は、不都合な損傷および/またはフィラメントの成形に対する影響をもたらす。つまり、フィラメントが小さな深さで成形されてしまう。
3)背面側における屈折率差を減少させ、かつ基板の上面における汚染を減少させるための両側の湿潤。
【0105】
この場合、液体下でのフィラメント状の損傷部32,132の形成は、開放された中空室に空気ではなく液体が充填されるという別の利点を有している。このことは、後のエッチングプロセスを加速させる。特別な実施形態は、上述のようエッチング溶液下でのフィラメント状の損傷部の形成である。
【0106】
図11a、
図11bおよび
図11cは、上述した本発明に係る方法によりキャビティ5が形成された表面構造を備える基板、この例ではガラスエレメント200をそれぞれ1つの斜視図で示している。
図11bおよび
図11cは、2つもしくは3つのガラスエレメント200を含む層構造を示している。このように構造化されたガラスエレメント200(以下ではウェハとも呼ぶ)と、これらのガラスエレメント200から形成された、2つ以上のウェハを備える層構造は、典型的には、マイクロ流体工学の分野において、いわゆるマイクロフルイディクスチップ(「microfluidic Chips」)もしくはマイクロフルイディクスセルとして使用される。マイクロフルイディクスチップもしくはマイクロフルイディクスセルは、系統的、自動化された形での化学的または生物学的な材料の特性および反応の調査を可能にする。関与する反応物質は、典型的には、カバーガラス内にある貫通孔50を通って流れ通路(加工された溝)および反応室内にもたらされ、次いで反応生成物が分析される。キャビティ5を形成するための本発明に係る方法は、この極めて微細な反応室を形成するために最も有利な形式で使用され得る。つまり、本発明は、別の観点によれば、少なくとも1つのキャビティ5を備えるガラスエレメントの形の基板を備えるマイクロフルイディクスセル12に関する。
【0107】
図12は、ガラスエレメントの一部を上から見た平面図を示している。このガラスエレメントには、本発明によりフィラメント形成およびエッチングによりキャビティ5が形成されている。
【0108】
この場合、キャビティ5の所望の領域は、>20μm=dxおよび5μm=dyのピッチ間隔のフィラメント状の損傷部32で網目形成されている。この場合、フィラメント状の損傷部32は、完全にガラス容積を通って成形されているのではなく、単に一方の側面から所望の深さに至るまで成形されている。後のエッチングプロセス時に、この個別のフィラメント状の損傷部32は、結合されて一貫した面を形成する。これにより本発明によるキャビティ5が形成される。図示の例では、キャビティ5の底面は、側壁のように、球欠状の凹部を備える構造を有している。
【0109】
図13aおよび
図13bは、最終的に、マイクロフルイディクスセル12として使用するための2つの基板、この例ではガラスから成る2つのウェハ9,10の別の配置を、分かり易くするために単純にされた例で概略的に示している。この場合、ウェハ9は、フラットかつ平坦な形状であるのに対して、同様にフラットかつ平坦な形状であるウェハ10は、2つの貫通孔122ならびにキャビティ121を有している。
図13bには、マイクロフルイディクスセル12の層構造が示されている。この場合、本発明により形成されたキャビティ121は、反応室を成している。両方の貫通孔122は、充填および排出のために働く。
【0110】
したがって、脆性材料から成る基板、好適にはガラスまたはガラスセラミックスにフィラメントを形成するための本発明に係る方法は、特に微細かつ繊細な表面構造を形成するために使用することができる。
【0111】
したがって、マイクロフルイディクスチップもしくはマイクロフルイディクスセルの製造の支援のために特に良好に適している。
【0112】
本発明の別の観点によるマイクロフルイディクスセルの製造を以下に詳細に説明する。マイクロフルイディクスセルの最も簡単な構成は、通路により構造化された下側部分と、通路へのアクセスを有するカバーとの組み合わせにより得られる。最新の先行技術では、マイクロフルイディクスセルは、ポリマから、たとえば射出成形法により製造される。対応するアセンブリは、たとえば欧州特許第2719460号明細書(EP2719460B1)および独国特許出願公開第102011085371号明細書(DE102011085371A1)から公知である。しかし、2つのポリマ構成部材からのマイクロフルイディクスセルの製造により、以下の欠点が生じる。
-ポリマはしばしば使用される溶媒に対して耐性ではないか、または使用される生体分子との特定されていない反応をもたらす(生体適合性の欠如)、
-ポリマの自家蛍光(Eigenfluoreszenz)および制限された透明性は、蛍光マーカ物質の検出時の選別品質に影響を与えるもしくは妨害する。
-さらにポリマ表面は、制限されてしかバイオマーカを機能付与できない。
【0113】
これに対する解決手段として、既に3つの構成部材から成るマイクロフルイディクスセルの製造が提案されている。このマイクロフルイディクスセルでは、下側の構成部材および上側の構成部材がガラスから成っており、これにより幅広い機能付与を可能にする。さらに、通路構造が、有機ポリマ構成部材またはシリコン構成部材を介して形成されている。この構成部材は、たとえば既に構造化のまえに被着された接着材により上側部分および下側部分に結合される。ポリマ構成部材は、欧州特許第2547618号明細書(EP2547618B1)に記載されており、シリコンから成るエレメントは、特開2013188677号(JP2013188677A2)および中国特許第103992948号明細書(CN103992948B)に記載されている。欧州特許出願公開第3037826号明細書(EP3037826A1)からは、さらに2つのガラス基板の間のエラストマ層から成るサンドイッチ構造を有するマイクロフルイディクスセルが公知である。結合は、たとえばコロナ放電により活性化された表面の直接結合により行われる。欧州特許出願公開第3088076号明細書(EP3088076A1)も、シリコン層内に通路構造が加工されている多層のセルを記載している。
【0114】
しかし、ガラス材料およびポリマ材料から成る組み合わせは、種々異なる温度サイクルを実施する分析時の構成部材の互いに異なる膨脹係数が、セルの変形と、極端な場合にはセルの非密閉性をもたらすという欠点を有している。さらに、生体適合性および自家蛍光の問題もこの手段では解決されない。さらに、プラスチック中間層では、プラスチックの強度不足により、しばしば極めて薄く長い通路構造が接合時に下側部分および上側部分の構造に合わせて十分に調整することができないという問題が生じる。廉価な製造は、同時に複数のセルを備える大きな基板の製造によってのみ可能にされるので、この調整の問題はさらに大きくなる。
【0115】
上述の要求に対する解決手段は、本発明の1つの観点により、マイクロフルイディクスセルが3つのガラス構成部材から製造されることにより実施される。これらのガラス構成部材では、中間の構成部材(ここでは挿入体とも呼ばれる)が構造化された薄いガラスから成っており、構造化後に両側に被着された接着材によりカバーおよび底部に結合される。これにより、3つ全ての構成部材が、不活性な、自家蛍光せず、良好に機能付与可能な材料から成っている。互いに異なる高い熱膨脹による応力は発生しない。接着技術の使用により、セルの密閉性は容易に保証することができる。構造化された構成部材への接着材の被着により、底部およびカバーの、このセルに向いた表面には、廉価に、個別に、かつ全面的に、構成部材の接合前にバイオマーカを備えることができる。さらに、接着技術は、プラスチックからの粒子が封入されず、したがって結合プロセスをもはや妨害せず、セルの密閉性が保証されたままであることを可能にする。したがってプロセス環境の清浄性に関する要求は、相応して低くなる。ガラス構成部材のうちの少なくとも1つのガラス構成部材は、本明細書に記載されたレーザ支援されたエッチング法により製造され得るキャビティ5も有している。
【0116】
特に、マイクロフルイディクスセルを製造するために、キャビティがディスク状のガラスエレメント200に加工されるが、この場合、
-超短パルスレーザ30のレーザビーム27がガラスエレメント200の側面2、3のうちの1つの側面に向けられて、フォーカシング光学素子23により集束して基板1において延長された焦点を形成し、
-レーザビーム27の入射されたエネルギにより、フィラメント状の損傷部32がガラスエレメント200の容積に形成され、このフィラメント状の損傷部32は、容積内に予め規定された深さに至るまで入り込むが、ガラスエレメント200を貫通せず、
-フィラメント状の損傷部32を形成するために、超短パルスレーザ30が、1つのパルスまたは連続する少なくとも2つのレーザパルスを備えるパルスパケットを入射し、相並んで位置する少なくとも2つのフィラメント状の損傷部32の加工後に、
-ガラスエレメントをエッチング媒体33に曝し、該エッチング媒体33が、
-少なくとも2つのフィラメント状の損傷部32を拡張するので、キャビティが形成され、
-つまり全体的に、本発明による構造化法は、ガラスエレメントに使用され、
-ガラスエレメント200は、両側面のうちの少なくとも1つの側面において、少なくとも1つの別のガラス部分に結合されるので、キャビティ5の開口は、ガラス部分により閉じられ、かつ特に液体のガイドのために適した中空室が形成され、ガラスエレメント200とガラス部分との結合が被着された接着材により行われ、接着材の被着時に、ガラスエレメント200内のキャビティ5の開口は回避される。接着材は、好適には、ガラスエレメント200の側面に被着される。しかし、ガラス部分の対応する面への構造化された被着も可能である。
【0117】
これにより、マイクロフルイディクスセル12が得られ、このマイクロフルイディクスセル12は、一方の側で開放した少なくとも1つのキャビティ5を備えるディスク状のガラスエレメント200を有しており、ガラスエレメント200の、キャビティ5が開放されている側の側面は、ガラス部分に結合されているので、キャビティ5はガラス部分により閉じられており、キャビティ5を備えるガラスエレメント200とガラス部分との間に封入された、液体のガイドのために適した中空室が形成される。この場合、キャビティ5を備えるガラスエレメント200と、ガラス部分とは接着材層により結合されていて、接着材層は、キャビティの開口の周囲で空けられた領域を有しているので、中空室の壁部の、ガラス部分により形成された部分は、接着材を有しておらず、好適には、キャビティ5を閉じるガラス部分の材料により形成される。
【0118】
有利な構成によれば、マイクロフルイディクスセル12は、少なくとも3つのガラス部分の結合により製造される。したがって、液体のガイドのために適している中空構造は、中間のガラスエレメント3が1つまたは複数の貫通開口を有していることによっても形成され得る。次いでこの貫通開口は、両方の別のガラス部分の結合時に閉じられる。したがって、最大で700マイクロメートル、好適には最大で500マイクロメートルの厚さを有するディスク状のガラスエレメントを以下のように構造化することが規定されている。すなわち、このガラスエレメントが少なくとも1つの開口を有していて、この開口が、ガラスエレメントの、互いに反対の側に位置する平行な両側面を接続しているように、ガラスエレメントを構造化し、ガラスエレメントの各側面をガラス部分に結合し、これにより、開口が両ガラス部分により閉じられて、これら別のガラス部分の間に封入された、液体のガイドのために適している中空室を備えるマイクロフルイディクスセルが形成されることが規定されている。この場合、ガラスエレメントと、両ガラス部分のうちの少なくとも1つのガラス部分との結合は、被着された接着材により行われ、接着材の被着時に、ガラスエレメントに設けられた少なくとも1つの開口は回避される。接着材は、さらに好適にはガラスエレメントの側面に被着される。しかしガラス部分の対応する面への構造化された被着も可能である。ガラスエレメントのうちの少なくとも1つのガラスエレメント、つまり中間のガラスエレメントまたは外側のガラスエレメントは、本発明によるキャビティを有している。このキャビティの開口は、結合時に閉じられる。キャビティは、別個の中空室を形成するか、または中間のガラスエレメントに形成された開口により形成される中空室の一部であってよい。
【0119】
好適には、中間のガラスエレメントのためにさらに薄いガラス、すなわち最大で300マイクロメートル、たとえば210マイクロメートル以下の厚さを備えるガラスが使用される。それどころか、100マイクロメートル以下、たとえば最大で70μmの厚さを有するガラスエレメントを構造化し、マイクロフルイディクスセル用のガラスエレメントとして使用することができる。特に小さな構造のためには、最大で70μm、好適には最大で50μmまたはそれどころか最大で30μmしかない薄ガラスも開口で構造化され得る。概して、開口の製造のためには、既に上記で
図10に関して説明されたような、片側でしか開いていないキャビティを製造するための方法と同一の方法が適している。したがって、本発明の1つの実施形態では、片側で開いたキャビティ5に対して付加的に、特に基板を貫通して延びるフィラメント状の損傷部32の加工およびエッチング媒体によるフィラメント状の損傷部32の拡張により、基板1に貫通開口が形成されることが規定されている。したがって、このような貫通開口の壁部は、典型的には、片側で開いたキャビティ5と同様に球欠状の凹部を有している。
図10bの例におけるように、貫通開口は、キャビティを起点として基板の、反対の側に位置する側面に延びていてよい。しかし同様に、キャビティ5の他に1つの貫通開口が形成されることも可能である。
【0120】
これに関して、
図14および
図15は、3つのガラス部分、すなわちガラスエレメント200とガラス部分201,202とを備えるマイクロフルイディクスセル12の例を横断面で示している。ガラスエレメント200は、1つ以上の貫通開口101を有している。これらの貫通開口101は、ガラス部分201,202との結合により閉じられ、この形式で液体を収容しかつ/またはガイドするために、マイクロフルイディクスセル12の1つ以上の中空室91を形成する。ガラス部分201は、貫通開口401を有している。この貫通開口401は中空室91に接続されていて、この形式で充填開口として働く。
【0121】
図14に示した例のガラス部分201は、本発明により製造されたキャビティ5を有している。このキャビティ5は、両方の中空室91を接続するように配置されているので、両方の中空室9はキャビティ5を介して通じている。
【0122】
図15は、両ガラス部分201,202の間に配置されたガラスエレメント200にキャビティ5が加工されている態様である。キャビティ5は、たとえば、中空室91に充填開口401を接続するための通路を形成する。両方の実施例は、開口401がガラス部分201,202のうちの少なくとも1つのガラス部分に存在しているか、またはこのガラス部分に加工される方法の実施例の根底を成している。この場合、ガラス部分200,201は、開口401が、結合時に形成された中空室91内へ流体をガイドする接続部を形成するように、ガラスエレメント200と組み付けられる。
【0123】
マイクロフルイディクスセル12のガラス部分は、図示のように接着材層151により互いに結合される。開口101およびキャビティ5は、接着材層151を有していない。接着材は、概して、貫通開口およびキャビティの縁部が接着材を有していないように被着される。
【0124】
図16は、ガラス部分201,202またはガラスエレメント200の側面2に接着材層151をコーティングするためのアセンブリを示している。ここでは接着材の被着は、構造化された印刷法により行われる。この印刷法では、接着材は選択的にガラスエレメント200に設けられたキャビティ5の開口にわたって延びる領域131を回避しながらガラスエレメント200のそれぞれの側面2上に被着される。本発明の実施形態によれば、このためには、コンピュータ199により制御された印刷ヘッド181を備える印刷装置171が使用される。この印刷ヘッド181は、たとえば、ガラスエレメント200上を運動させられ、この運動中に接着材を液滴状に放出するインクジェット印刷ヘッドであってよい。コンピュータ199は、細長いキャビティ5が位置している領域131が空けられるように印刷ヘッドを制御する。たとえば、印刷ヘッド181は、メアンダ状にガラスエレメント200上を運動させられてよい。この場合、印刷ヘッド181は、横梁において往復運動され、横方向運動で移動されるか、または代替的にはガラスエレメント200が、行のように移動させられる。概して、規定された印刷法または塗布法に制限されることなしに、本発明の改良形態では、接着材層151を有しない領域131が、回避すべき貫通開口またはキャビティよりも大きいように接着材が被着され、これにより、被着された接着材層151の縁部161は、開口101またはキャビティ5の縁部111から離間していて、特にセットバックされていることが規定されている。
【0125】
図16に図示されているような印刷法は、純粋に例示的である。別の印刷方法は、タンポン印刷、スクリーン印刷、孔版印刷、ロール塗布、もしくはロール・ツー・ロール塗布、塗布、スタンプ転写である。特に大きな個数のためには、タンポン印刷またはスクリーン印刷のような印刷法が適している。1つの実施例では、マイクロフルイディクスセル12の製造のために、スクリーン印刷で、9600mPa・sの粘度を有するアクリラート接着材が両側でガラスエレメント200に被着される。位置決めマークにより、ガラスエレメント200がガラス部分201,202に対して位置調整だけではなく、スクリーン印刷マスクがマイクロフルイディクスセルの構造に対して位置調整され得る。
【0126】
接着材の粘度は、概して、印刷法にも適合されていてよい。したがってタンポン印刷のためには低い粘度、たとえば300mPa・sの範囲が有利である。
図16に図示されているような例示的なインクジェット法では、さらに低い粘度、好適には50mPa・sを下回る粘度が有利である。
【0127】
本発明の好適な実施形態は、光硬化性の、好適にはUV硬化性の接着材12が被着されることを規定している。したがって接着材12は、ガラス部分5,7のうちの一方を通って光、好適にはUV光を照射され得るので、接着材が硬化して1つのガラス部分もしくは両側への被着時には両方のガラス部分201,202が硬くガラスエレメント3に接着される。UV硬化されていてよい適切な接着材は、シリコン含有の接着材、エポキシ樹脂およびアクリラートであってよい。