(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20240930BHJP
G03G 15/01 20060101ALI20240930BHJP
G03G 21/16 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G03G15/16 103
G03G15/01 114
G03G21/16 180
(21)【出願番号】P 2019096200
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-04-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】関 浩行
(72)【発明者】
【氏名】横山 健
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】道祖土 新吾
【審判官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-18177(JP,A)
【文献】特開2018-146954(JP,A)
【文献】特開2006-145805(JP,A)
【文献】特開2008-170968(JP,A)
【文献】特開平3-131883(JP,A)
【文献】特開2001-324883(JP,A)
【文献】特開2015-222404(JP,A)
【文献】特開2015-210411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G15/01
G03G15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能であって、トナー像を担持する像担持体と、移動可能であって、前記像担持体と接触する無端状のベルトと、前記ベルトを介して前記像担持体とは反対側に設けられ、
前記ベルトと接触し、前記像担持体から前記ベルトに向かってトナー像を転写するための転写部材と、を備える画像形成装置において、
前記ベルトは中間転写ベルトであり、前記像担持体に担持されたトナー像は、前記像担持体から前記中間転写ベルトに一次転写された後に前記中間転写ベルトから転写材に二次転写され、
前記転写部材は、前記
中間転写ベルトの移動方向に関して、前記像担持体の回転中心の位置に対して上流側又は下流側に配置されており、前記像担持体に向かって付勢され前記
中間転写ベルトを介して前記像担持体を押圧することによって、前記像担持体
に前記
中間転写ベル
トが巻き付く領域を形成し、
前記像担持体と前記
中間転写ベルトとが接触する位置における前記
中間転写ベルトの移動速度と前記像担持体の回転速度が異なり
、前記転写部材は、芯金と、芯金の外周を覆う弾性層であって、前記弾性層の外周面に粗し処理を施された厚みが
0.5mm以上1.9mm未満の前記弾性層と、を有し、
Asker-C硬度計を用いて、前記Asker-C硬度計の自重を含めて1kgf荷重の条件で前記転写部材に対して硬度測定を行ったとき、前記転写部材のAsker-C硬度が40°以上85°以下である
、
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記
中間転写ベルトを張架し、前記
中間転写ベルトを移動させるために前記
中間転写ベルトを駆動させる回転可能な駆動部材と、前記像担持体と前記
中間転写ベルトとが接触する位置における前記
中間転写ベルトの前記移動速度が、前記像担持体の前記回転速度に対して1.5~3.0%の速度差を有するように前記駆動部材の回転速度を制御する制御手段と、を備える
、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記弾性層は、ウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記転写部材は、前記像担持体から前記
中間転写ベルトに向かってトナー像を転写する際に前記像担持体に向かって付勢され、前記像担持体から前記
中間転写ベルトに向けたトナー像の転写が終了した後に前記像担持体に対する付勢を解除される
、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記転写部材は、前記
中間転写ベルトの移動方向に関して、前記像担持体の回転中心の位置に対して下流側に配置されている
、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記転写部材の弾性層は、前記
中間転写ベルトの移動方向と直交する幅方向に関して、両端領域の厚みよりも中央領域の厚みが大きいクラウン形状を有する
、
ことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記中間転写ベルトの移動方向において前記転写部材と前記
中間転写ベルトが接触する領域
の長さより
も前記
中間転写ベルトと前記像担持体とが接触する領域の長さが短い
、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置として、搬送ベルトや中間転写ベルトなどのベルトの移動方向に関して複数の画像形成部をそれぞれ配置したタンデム型の画像形成装置の構成が知られている。各色の画像形成部は、それぞれ像担持体としてのドラム状の感光体(以下、感光ドラムと称する)を有している。各色の感光ドラムに担持された各色のトナー像は、転写材搬送ベルトによって搬送される紙やOHPシートなどの転写材に転写されるか、または、中間転写ベルトに1度転写された後に転写材に転写された後に、定着手段によって転写材に定着される。ここで、感光ドラムから転写材又は中間転写ベルトへのトナー像の転写は、転写材搬送ベルト又は中間転写ベルトを介して感光ドラムとは反対の位置に設けられる転写部材に電圧を印加することによって実行される。
【0003】
従来から、転写部材を感光ドラムに向けて付勢してベルトを感光ドラムに巻き付かせることで、ベルトと感光ドラムとが接触する転写部におけるベルトの巻き付き領域を大きくとり、転写性を向上させる構成が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、転写部材として低硬度のスポンジローラを用いる場合、スポンジローラの付勢力を大きくしてもスポンジ部が潰れるだけで、巻き付き領域を一定以上増やすことができず、転写効率の改善効果が限定的となるおそれがある。一方で、転写部材として、高硬度である金属ローラを用いる場合、金属ローラを感光ドラムに向けて付勢してしまうと、感光ドラムの摩耗を促進させてしまうため、ベルトの移動方向に関して金属ローラを感光ドラムから離れた位置に配置する必要がある。ここで、ベルトの移動方向に関して金属ローラと感光ドラムとの間の距離を広くすると、金属ローラから感光ドラムまでの間のインピーダンスが高くなってしまう。即ち、感光ドラムから転写材又は中間転写ベルトにトナー像を転写する際に、金属ローラから感光ドラムに向かって電流が流れる距離が長くなることで、転写部材から感光ドラムに向かって流れる電流の値が不足した場合に、転写性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで発明は、像担持体に対して転写部材を付勢することによって像担持体とベルトとが接触する巻き付き領域を形成する構成において、適切な巻き付き領域を確保して転写性を向上させることが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転可能であって、トナー像を担持する像担持体と、移動可能であって、前記像担持体と接触する無端状のベルトと、前記ベルトを介して前記像担持体とは反対側に設けられ、前記ベルトと接触し、前記像担持体から前記ベルトに向かってトナー像を転写するための転写部材と、を備える画像形成装置において、前記ベルトは中間転写ベルトであり、前記像担持体に担持されたトナー像は、前記像担持体から前記中間転写ベルトに一次転写された後に前記中間転写ベルトから転写材に二次転写され、前記転写部材は、前記中間転写ベルトの移動方向に関して、前記像担持体の回転中心の位置に対して上流側又は下流側に配置されており、前記像担持体に向かって付勢され前記中間転写ベルトを介して前記像担持体を押圧することによって、前記像担持体に前記中間転写ベルトが巻き付く領域を形成し、前記像担持体と前記中間転写ベルトとが接触する位置における前記中間転写ベルトの移動速度と前記像担持体の回転速度が異なり、前記転写部材は、芯金と、芯金の外周を覆う弾性層であって、前記弾性層の外周面に粗し処理を施された厚みが0.5mm以上1.9mm未満の前記弾性層と、を有し、Asker-C硬度計を用いて、前記Asker-C硬度計の自重を含めて1kgf荷重の条件で前記転写部材に対して測定を行ったとき、前記転写部材のAsker-C硬度が40°以上85°以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、像担持体に対して転写部材を付勢することによって像担持体とベルトとが接触する巻き付き領域を形成する構成において、適切な巻き付き領域を確保して転写性を向上させることが可能な画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1における画像形成装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】実施例1における一次転写部を拡大した概略断面図である。
【
図3】実施例1における一次転写部材の構成を説明する模式図である。
【
図4】実施例1において、一次転写部内におけるトナーの振る舞いを説明する模式図である。
【
図5】実施例1の一次転写部におけるニップ幅と、ニップ幅の端部に係る力について説明する模式図である。
【
図6】一次転写部材の硬度とニップ幅の関係を説明するグラフである。
【
図7】一次転写部材の硬度と弾性層の厚みの関係を説明するグラフである。
【
図8】弾性層の厚みと一次転写部のニップ幅との関係を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対配置などは、本発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。従って、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0011】
(実施例1)
図1は、本実施例に係る画像形成装置100の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施例の画像形成装置100は、電子写真方式を用いてフルカラー画像の形成が可能な中間転写方式を採用した、タンデム型のレーザービームプリンターである。
【0012】
画像形成装置100は、一列に配置された4つの画像形成部SY、SM、SC、SKを有する。各画像形成部Sa、Sb、Sc、Sdは、それぞれイエロー(Y)マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を形成する。本実施例では、各画像形成部Sa、Sb、Sc、Sdの構成及び動作は、使用するトナーの色が異なることを除けば、実質的に同じである。したがって、以下、特に区別を要しない場合は、いずれかの色用の要素であることを示す符号の末尾a、b、c、dは省略して、当該要素について統括的に説明する。
【0013】
画像形成部Sは、像担持体としてドラム型(円筒形)の感光ドラム2を有する。この感光ドラム2は、所定の周速度Vd(回転速度)で、駆動力を受けて図中矢印R1方向に回転可能である。感光ドラム2の周囲には、その回転方向に沿って順に、帯電手段としてのローラ状の帯電部材である帯電ローラ3と、露光手段4と現像手段5と、感光ドラム2に残留したトナーを回収するドラムクリーニング手段6と、が配置されている。
【0014】
現像手段5は、現像剤として非磁性一成分現像剤を収容しており、現像剤担持体としての現像ローラ51などを有する。各画像形成部Sにおいて、感光ドラム2と、これに作用するプロセス手段としての帯電ローラ3、現像手段5及びドラムクリーニング手段6とは、一体的に画像形成装置100の装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジ32として構成される。露光手段4は、レーザー光を多面鏡によって走査させるスキャナユニットで構成され、画像信号に基づいて変調された走査ビームを感光ドラム2上に照射する。
【0015】
また、各画像形成部Sa、Sb、Sc、Sdの感光ドラム2a、2b、2c、2dの全てと当接するように、移動可能な中間転写体としての無端状ベルトで構成された中間転写ベルト31が配置されている。中間転写ベルト31は、駆動ローラ34(駆動部材)、張架ローラ11により張架されている。そして、駆動ローラ34が図中矢印R2方向に回転駆動されることによって、中間転写ベルト31は、所定の周速度Vb(移動速度)で、図中矢印R3方向で示されるベルト搬送方向に移動(回転)する。
【0016】
中間転写ベルト31を介して、感光ドラム2とは反対側の位置には、一次転写部材(転写部材)としての一次転写ローラ14が配置されている。一次転写ローラ14は、中間転写ベルト31を介して感光ドラム2に対して所定の圧力で付勢されており、感光ドラム2から中間転写ベルト31にトナー像が転写される領域である一次転写部N1(転写部)を形成している。また、中間転写ベルト31の外周面側において、駆動ローラ34と対向する位置には、二次転写部材としての二次転写ローラ25が配置されている。二次転写ローラ25は、中間転写ベルト31を介して駆動ローラ34に対して所定の圧力で付勢されており、中間転写ベルト31と二次転写ローラ25とが接触する二次転写部N2を形成している。
【0017】
また、中間転写ベルト31の外周面側において、駆動ローラ34に対向する位置には、回収手段としてのクリーニングブレード33aを有するクリーニング手段33が配置されている。
【0018】
画像形成動作が開始されると、各感光ドラム2、中間転写ベルト31は、所定の周速度で、それぞれ図中矢印R1、R3方向に回転を始める。回転する感光ドラム2の表面は、帯電ローラ3により所定の極性(本実施例では負極性)に略一様に帯電させられる。このとき帯電ローラ3には、不図示の帯電電源から所定の帯電電圧が印加される。その後、感光ドラム2は、各画像形成部Sに対応した画像情報に応じて露光手段4によって露光されることにより、感光ドラム2の表面に、画像情報に従った静電潜像が形成される。感光ドラム2に形成された静電潜像は、感光ドラム2と現像ローラ51との対向部(現像部)において、現像ローラ51に担持された負極性のトナーによって可視化され、感光ドラム2にトナー像が形成される。
【0019】
次に、感光ドラム2に形成されたトナー像は、一次転写部N1において、一次転写ローラ14の作用により、回転駆動されている中間転写ベルト31に転写(一次転写)される。このとき、一次転写ローラ14には、不図示の一次転写電源から、トナーの正規の帯電極性とは逆極性(本実施例では正極性)の一次転写電圧が印加される。例えば、フルカラー画像の形成時には、各画像形成部Sにおいて各感光ドラム2に静電潜像が形成され、これが現像されて各色のトナー像となる。そして、各画像形成部Sの各感光ドラム2に形成された各色のトナー像が、各一次転写部N1a、N1b、N1c、N1dにおいて中間転写ベルト31に順次重ねて転写され、中間転写ベルト31に4色のトナー像が形成される。
【0020】
また、給紙カセット37に積載されている記録用紙などの転写材Sは、給送ローラ16、及び、搬送ローラ17によって、中間転写ベルト31と二次転写ローラ25とで形成される二次転写部N2へ搬送される。そして、中間転写ベルト31上に担持された4色の多重トナー像が、二次転写部N2において、二次転写ローラ25の作用により、転写材Sに一括して転写される。このとき、二次転写ローラ25には、不図示の二次転写電源からトナーの正規の帯電極性とは逆極性(本実施例では正極性)の二次転写電圧が印加される。
【0021】
その後、トナー像が転写された転写材Sは、定着手段6に搬送される。転写材Sに二次転写されたトナー像は、定着手段6の定着ローラと加圧ローラとで挟持されて搬送される過程で加圧及び加熱されることで転写材Sに定着され、その後、画像形成装置100の装置本体の外部に排出される。
【0022】
本実施例の画像形成装置100においては、以上の動作により、フルカラーのプリント画像が形成される。なお、二次転写後に中間転写ベルト31に残った転写残トナーは、中間転写ベルト31を介して駆動ローラ34に対向して設けられたクリーニングブレード33aによって、クリーニング手段33に回収され、中間転写ベルト31の表面から除去される。
【0023】
[一次転写部の構成]
図2(a)は、
図1における一次転写部N1を拡大した概略断面図である。また、
図2(b)は、
図2(a)における一次転写部N1を更に拡大した概略断面図である。ここで、本実施例の構成においては、感光ドラム2の直径は24mm、中間転写ベルト31の厚みは70μmであり、不図示の張架バネによって、98Nの張力で張架されている。また、本実施例において、一次転写ローラ14は、中間転写ベルト31の移動方向と直交する中間転写ベルト31の幅方向に関して、両端部側を不図示のバネによって感光ドラム2に向けて付勢されている。ここで、中間転写ベルト31は、から合計98Nの張力で張架されている。
【0024】
図2(a)に示すように、本実施例の一次転写ローラ14は、感光ドラム2の回転軸方向から見た際に、中間転写ベルト31の移動方向に関して感光ドラム2の回転中心よりも下流側に配置されている。また、
図2(b)に示すように、一次転写ローラ14は、中間転写ベルト31を介して感光ドラム2に接触する位置に配置されている。ここで、中間転写ベルト31の移動方向に関して、感光ドラム2と中間転写ベルト31とが接触する一次転写部N1の距離を、ニップ幅Ldとする。本実施例においては、一次転写ローラ14の長手方向に関する両端部に配置される不図示の加圧バネ(付勢手段)によって一次転写ローラ14を感光ドラム2に向けて付勢している。この構成により、
図2(b)に示すように、一次転写ローラ14が中間転写ベルト31を介して感光ドラム2と接触し、感光ドラム2と中間転写ベルト31とが巻き付く領域Mtが形成される。
【0025】
図3は、本実施例の一次転写ローラ14の構成を説明する模式図である。
図3に示すように、一次転写ローラ14は、金属で構成された芯金20と、芯金20の外周を覆う弾性層21と、を有する。弾性層21は、導電性を有し、電気抵抗が約1MΩである。芯金20の直径は5.0mmであり、
図3における芯金20の半径方向に関する弾性層の厚みは1.0mmである。即ち、本実施例において一次転写ローラ14の外径は7.0mmとなる。このように、本実施例の一次転写ローラ14は、スポンジゴムや中実ゴムなどを用いて構成された従来の一次転写ローラと比較すると、薄い弾性層21を有する構成である。
【0026】
本実施例において、弾性層21は、ウレタン樹脂を基材とした中実構成を有し、基材にイオン導電性の導電剤を含有させて導電性を付与させている。一般的に、ウレタン樹脂は粘着性(タック性)が高い特性を有していることが知られている。そこで、本実施例においては、一次転写ローラ14と中間転写ベルト31の内周面との間におけるウレタン樹脂の粘着性に起因した影響を緩和するため、弾性層21の表面に粗し処理を施している。なお、弾性層21としては、ウレタン樹脂に限らず、シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴムなどを主成分として構成しても良い。
【0027】
また、ウレタン樹脂を主成分とするゴム部材は、長期の使用や高温高湿環境下での使用において、中間転写ベルト31に圧接した状態で長期間放置すると、ゴム内の低分子成分や導電剤成分が析出するブリード現象が発生する場合がある。本実施例においては、感光ドラム2から中間転写ベルト31にトナー像を一次転写する画像形成時などにおいては、一次転写ローラ14を中間転写ベルト31に当接させている。一方で、トナー像の一次転写が終了した後は、一次転写ローラ14を中間転写ベルト31から離間するよう制御している。
【0028】
次にニップ幅Ldを増やすことによる転写効率の向上について説明する。
図4は、一次転写部N1に介在するトナーの状態を示す模式図である。一次転写部N1において、感光ドラム2は周速度Vdで移動しており、中間転写ベルト31は、感光ドラム2の移動方向と同じ方向に周速度Vbで移動する。ここで、本実施例においては、一次転写部N1における転写性を向上させるために、周速度Vbを周速度Vdよりも大きい値に設定しており、周速度Vdと周速度Vbとの間に速度差ΔV(ΔV=|Vd-Vb|)が付与されている。
【0029】
図4に示すように、現像ローラ51から感光ドラム2に現像されたトナー像のうち、潜像形成部に付着する最下層のトナーは、感光ドラム2と接触する接点Ptを有する。感光ドラム2との接点を有するトナーは、そのトナーの表面において、感光ドラム2との付着力のより大きなポイントを接点Ptとすることで安定した状態で感光ドラム2に付着している場合が多い。ここで、トナーの表面における付着力が大きいポイントは、トナーの表面形状や表面電荷状態によって異なる。そして、感光ドラム2に対する付着力が大きいポイントは、その付着力の大きさから、感光ドラム2から中間転写ベルト31に移動しづらい傾向にある。したがって、感光ドラム2に対する付着力が大きいポイントを接点Ptとしたトナーを一次転写するための転写効率を上げるためには、一次転写部N1においてその付着力以上の力でトナーを中間転写ベルト31に移動させる転写条件が必要となる。
【0030】
本実施例の構成においては、
図4に示すように、トナーTnが一次転写部N1に到達すると、トナーTnは、一次転写部N1における速度差ΔVによってベアリングのように回転することで、状態Aから状態Bに移動する。この移動に伴い、トナーTnと感光ドラム2との接点Ptは点Pt’まで移動する。よって、一次転写部N1突入前には、感光ドラム2と接していた付着力の大きな接点Ptは、感光ドラム2から離れることとなり、トナーTnと感光ドラム2の付着力は低下することとなる。ニップ幅Ldが大きいほど、接点Ptは感光ドラム2から離れるので、トナーTnと感光ドラム2との付着力は、より低下する。
【0031】
以上説明したように、感光ドラム2と中間転写ベルト31間のニップ幅Ldを大きくし、かつ速度差ΔVを付与することで、トナーTnと感光ドラム2の付着力が低下し、感光ドラム2からトナーTnを引きはがしやすくなり、転写効率の改善効果が発現する。
【0032】
図5(a)は、一次転写部N1におけるニップ幅Ldに関して説明する模式図である。ニップ幅Ldは、剛体の感光ドラム2に対し、弾性体である一次転写ローラ14が同じく弾性体である中間転写ベルト31を押し込むことで形成される。
図5(a)において、点Pmは、一次転写ローラ14を感光ドラム2の回転中心に対してずらした方向(本実施例においては、中間転写ベルト31の移動方向に関する下流側)に関する一次転写部N1の端部、即ち、ニップ幅Ldが形成される領域の端部である。また、接線22は、感光ドラム2の点Pmにおける接線を仮想線として示したものである。
【0033】
中間転写ベルト31には不図示の加圧バネを用いて張力がかかっているため、中間転写ベルト31の張力が一次転写ローラ14の付勢力に反発する状態が形成されている。その結果、
図5(a)にあるように、一次転写ローラ14によって中間転写ベルト31を感光ドラム2に当接させられない領域、即ち、一次転写ローラ14と中間転写ベルト31は接触するが、感光ドラム2と中間転写ベルトは接触していない領域が発生する。即ち、一次転写ローラ14と中間転写ベルト31が接触する領域よりも、ニップ幅Ldは小さくなる傾向がある。
【0034】
図5(b)は一次転写部N1の端部である点Pmに作用する中間転写ベルト31のテンション力Ftを、点Pmにおける感光ドラム2との接線22方向の力Ftxと、接線22と垂直方向の力Ftyに分解した模式図である。
図5(b)に示すように、垂直方向の力Ftyは、張力を付与されている中間転写ベルト31が一次転写ローラ14を押しつぶす力の一つとなる。一方、不図示の中間転写ベルト31の曲げ応力Fbは、一次転写ローラ14によって中間転写ベルト31を感光ドラム2に押し付ける押し込み力の阻害力となる。一次転写ローラ14によって中間転写ベルト31を押し上げる押し込み力をFrとすると、点Pmにおいて、以下の式1の関係が成立する。
Fr=Ft・sinβ+Fb・・・・・・・・(式1)
即ち、式1における左辺の一次転写ローラ14の押し込み力Frと、右辺における反力の和がつり合う個所が一次転写部N1の端部である点Pmとなる。ここで、式1において、左辺よりも右辺が小さければ、一次転写ローラ14による押し込み力がその阻害力に勝っており、一次転写部N1を形成することは言うまでもない。また、一次転写ローラ14のゴムのヤング率である値Eと、一次転写ローラ14の歪である値εを用いると、押し込み力Frは、下記の式2で表現される。
Fr=E・ε・・・・・・・・・・・・・・・・(式2)
式1及び式2に示すように、一次転写ローラ14のヤング率である値Eが小さくなると、押し込み力Frが小さくなるため、式1の左辺と右辺がつり合うためには、
図5(a)のβ角度を小さくする必要がある。すると、この場合、ニップ幅Ldが小さくなる。つまり、一次転写ローラ14の硬度が小さくなると、ニップ幅Ldが小さくなる、という関係になる。
【0035】
[弾性層の硬度及び厚み]
次に、一次転写ローラ14の硬度と、弾性層21の厚みのとりうる範囲について、実験を行ったので説明する。
【0036】
ここで、Asker-C硬度計を用いた一次転写ローラ14の硬度測定は、芯金20を含む一次転写ローラに対して、硬度計の自重を含め1kg重の加重をかけて測定を行った。この測定では、芯金が弾性層のバックアップとなっており、一次転写ローラの硬度を測定することで得られるAsker-C硬度の値は、実質的に、弾性層の硬度としてとらえることが可能である。即ち、一次転写ローラに対し硬度計の検針を鉛直方向真上から芯金の中心に向かって押し当てることで、弾性層の硬度を測定することが可能である。以下の説明においては、一次転写ローラを測定することによって得られる一次転写ローラの硬度を、弾性層の硬度として説明を行う。弾性層の硬度は、ゴム材としての基材の材料硬度が高くなるほど値が高くなり、基材の材料硬度が低くなるほど値が小さくなる。また、弾性層の厚みが薄くなるほど値が高くなり、弾性層の厚みが厚くなるほど値が小さくなる。
【0037】
なお、弾性層の硬度は、誤差の影響をより少なくするために、上述の測定方法で複数の測定箇所を測定し、各測定値を平均化して算出した。より詳細には、一次転写ローラの長手方向に関して、長手中心の位置と両端部側の位置の3点を、一次転写ローラの回転方向に関して角度90度刻みで4回、即ち、長手3点×回転方向4箇所の合計12箇所を測定し、測定値の平均値を取って弾性層の硬度とした。
【0038】
[一次転写部N1のニップ幅Ld]
次に、上記測定で得られた、硬度が異なる一次転写ローラを用いて、加圧バネ圧を変えながらニップ幅Ldの測定を行った。中間転写ベルト31上にトナーなどの色材を載せた状態で感光ドラム2に当接、離間させ、感光ドラム2上に転写された色材の幅を測定することでニップ幅Ldの測定を行った。
図6は、測定された一次転写ローラとニップ幅との関係を示すグラフである。
図6に示すように、一次転写ローラのAsker-C硬度(1kgf荷重)が高くなるほど、加圧バネ圧アップによるニップ幅Ldの増加幅が大きくなる傾向にある。一方、Asker-C硬度(1kgf荷重)が40°未満の一次転写ローラは、加圧バネ圧を上げても、一定以上ニップ幅Ldが増えなかった。
【0039】
[転写効率の評価]
次に、硬度が異なる一次転写ローラ14を用いて、転写バネ加圧力が500gfの条件で転写効率の評価を行った。なお、下記式3によって定義される速度差率Vrが0.2%の条件において、転写効率の評価を行った。
速度差率Vr=|Vd-Vb|/Vd・・・式(3)
また、詳細な評価の方法としては、まず、マゼンタ(M)のトナー像を形成する画像形成部Sbにおいて、転写材Pに対するトナー濃度が100%となる画像(以下、単にベタ画像と称する)を、感光ドラム2bから中間転写ベルト31に一次転写した。その後、中間転写ベルト31の移動方向に関して画像形成部Sbの下流に配置された画像形成部Scにおいて、感光ドラム2cから中間転写ベルト31にベタ画像一次転写した。そして、ベタ画像を一次転写した後の感光ドラム2cの表面に残留したトナーを、テーピングによって採取し、反射濃度計TC-6DS(東京電飾製)によって残留したトナーの反射率を測定した。
【0040】
反射率の小数点以下は四捨五入し、4%以下であれば「◎」、4%より大きく8%以下であれば「○」、8%より大きく12%以下であれば「△」、12%より大きければ「×」として評価を行った。ここで、本実施例の各種構成において、反射率が8%以下というのは、中間転写ベルト31に均一で良好な2色のベタ画像を形成することができるレベルである。一方で、反射率が8%より大きく12%以下というのは、1色のベタ画像であれば良好に形成することが可能だが、2色のベタ画像に関しては不均一な濃度ムラが発生する可能性があるレベルである。また、反射率が12%より大きいというのは、2色のベタ画像を形成した場合に、明らかに濃度ムラが発生するレベルである。以下、結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1に示すように、Asker-C硬度が40°以上の一次転写ローラにおいては、反射率が8%以下の良好な転写効率を得ることができた。また、Asker-C硬度が30°以下の一次転写ローラにおいては、中間転写ベルトの移動方向と直交する一次転写ローラの幅方向(長手方向)で転写効率の差がみられた。これは、ニップ幅Ldが小さいと、一次転写ローラの取り付け位置や転写バネ加圧力の長手方向における差によるニップ幅Ldの長手方向ムラの影響が大きくなるためである。ニップ幅Ldが0.65mmより大きい場合においては、長手方向に関して安定した転写効率を得ることが可能であった。
【0043】
次に、一次転写ローラ14の弾性層21の厚みのとりうる範囲について検討を行ったので説明する。
図7は、その結果を説明する図である。
図7における○又は×は、各一次転写ローラの構成における、画像不良の発生の有無を示しており、○は画像不良が発生しなかった場合の構成、×は画像不良が発生した場合の構成を示している。
図7に示すように、本実施例における検討によれば、Asker-C硬度の値が破線Aよりも大きい領域において画像不良が確認され、また、Asker-C硬度の値が破線Dよりも小さい領域においても画像不良が確認された。そして、弾性層21の厚みが破線Bよりも小さい領域において画像不良が確認され、また、弾性層21の厚みが破線Cよりも大きい領域においても画像不良が確認された。
【0044】
画像形成装置100を使用していくと、画像形成装置100の外部から侵入したゴミなどの異物や、画像形成装置の内部において脱落した異物などが、一次転写ローラ14や中間転写ベルト31などに付着する場合がある。このような場合、中間転写ベルト31の移動に従動して一次転写ローラ14が回転する間に、一次転写ローラ14と中間転写ベルト31との接触位置に異物が到達すると、異物に起因した画像不良が発生してしまうおそれがある。より具体的には、中間転写ベルト31と一次転写ローラ14の間において、異物がスペーサーとなることで、異物が付着している位置における中間転写ベルト31の表面性が変化して異物起因の画像不良として顕在化するおそれがある。
【0045】
異物に起因した画像不良は、ゴム材としての基材の材料硬度が高いほど、又は、弾性層の厚みが薄いほど顕在化しやすい。すなわち、一次転写ローラを測定することで得られる弾性層の硬度としてのAsker-C硬度が大きいほど、異物起因の画像不良が発生しやすい傾向にある。
【0046】
本実施例における検討では、200μmサイズの異物を一次転写ローラ14に付着させて画像形成動作を実行した場合に、
図7に示される、Asker-C硬度が85°よりも大きい一次転写ローラを用いた構成において、異物による画像不良が発生した。ここで、
図7における破線Aは、異物に起因した画像不良が発生するAsker-C硬度の境界線を示している。したがって、異物に起因した画像不良の発生を抑制するためには、一次転写ローラ14を測定することで得られる弾性層21の硬度としてのAsker-C硬度が85°以下の一次転写ローラ14を用いることが好ましい。
【0047】
また、厚みが0.5mmより小さくなると、上述した異物起因の画像不良が発生した。
図7における破線Bは、異物に起因した画像不良が発生する、弾性層21の厚みの境界線を示している。これは、一次転写部に混入した異物をいなすための十分な弾性層の厚みを確保できず、異物が中間転写ベルト31と一次転写ローラ14間のスペーサーとなり、異物起因の画像不良として顕在化したためであると考えられる。したがって、異物に起因した画像不良の発生を抑制するためには、上記Asker-C硬度に加えて、弾性層21の厚みが0・5mm以上の一次転写ローラ14を用いることが好ましい。
【0048】
図7に示すように、厚みが2.0mmを上回るとAsker-C硬度と無関係に異物起因とは別の画像不良が発生した。これは、一次転写ローラの外径が大きくなることで、一次転写部N1のニップ幅Ldが中間転写ベルト31の移動方向に対して上流側へ広がることに起因して発生する画像不良である。より詳細には、ニップ幅Ldが中間転写ベルト31の移動方向に関して上流側に広がると、感光ドラム2に担持されたトナー像が中間転写ベルト31に転写される位置が、中間転写ベルト31の移動方向に関して上流側にずれて転写されてしまい画像不良となる。
【0049】
図8は、比較例としての一次転写ローラ114を用いた場合に形成されるニップ幅Ldについて説明する模式図であり、比較例の一次転写ローラ114は、弾性層の厚みが2.0mmよりも大きい構成を有している。
図8に示すように、一次転写ローラ114の外径が大きくなることで、中間転写ベルト31の移動方向に関するニップ幅Ldが形成される位置が、感光ドラム2の中心位置に対する上流側に、tanγ×感光ドラム2の半径(mm)分だけ広がる。すると、所定の転写位置よりも上流側において、感光ドラム2から中間転写ベルト31にトナー像が飛翔することで、一次転写後の中間転写ベルト31に形成されたトナー像は、散ったようにまばらな配置となる。その結果、文字品位の劣化を招き、画像不良として顕在化する。なお、本実験では、弾性層21の厚みが1.9mm以下であれば、文字品位の劣化を起こすことなく、良好な一次転写性能を得ることができた。ここで、
図7における破線Cは、前述のような、ニップ幅Ldが広がってしまうことで画像不良が発生する、弾性層21の厚みの境界線を示しており、破線Cに示すように、弾性層21の厚みは2.0mm未満に設定することが望ましい。
【0050】
また、すでに前記転写効率の評価結果において説明したように、弾性層21の硬度としての一次転写ローラのAsker-C硬度が40°以上であれば、良好な転写効率が得られた。ここで、
図7における破線Dは、良好な転写効率を得るためのAsker-C硬度の境界線を示している。
【0051】
以上説明したように、一次転写ローラ14のAsker-C硬度が40°以上85°以下であれば、良好な転写効率を確保することができることに加え、更に、異物に起因した画像不良の発生を抑制することが可能であった。そして、弾性層21の厚みを0.5mm以上、2.0mm未満にすることで、異物に起因した画像不良やニップ幅Ldが広がりすぎることによる画像不良の発生を抑制することが可能であった。
【0052】
本実施例においては、速度差率Vrを0.2%に設定する構成について説明したが、これに限らない。ただし、速度差率Vrを大きくし過ぎると、一次転写部N1に挟持されたトナーTnの移動量が増えすぎてしまうおそれがある。この場合、中間転写ベルト31の移動方向に画像が伸びてしまうことで、画像不良となるおそれがある。本実施例の構成においては、速度差率Vrが3%を超えると、明朝体の6pt単色黒文字の「電」の字で、画像が伸びる現象が見られた。そのため、文字品位維持の観点で、速度差率Vrは3%を上限とするのが望ましい。
【0053】
なお、弾性層21は、Asker-C硬度が40°以上85°以下の範囲に設定されていれば、弾性層21の構成は中実の構成であっても良く、スポンジのような中空の構成であっても良い。また弾性層21は、長手方向に対して、すべての領域が同一の厚みであるストレート形状でもよく、両端領域の厚みよりも中央領域の厚みが大きいクラウン形状でもよい。弾性層21の硬度と転写バネ加圧力、および一次転写ローラ14の長手幅の関係で、長手中央部の加圧力が弱まり、中央部の転写効率が端部に比べて劣る場合がある。その場合は、弾性層21の厚みを長手方向端部に対して中央部を厚くすることで、ニップ幅Ldを均一に保ち、安定した転写効率を得ることができる。
【0054】
本実施例においては、中間転写ベルト31を用いた中間転写方式の画像形成装置100について説明したが、これに限らない。転写材Pを搬送する搬送ベルトを有する直接転写方式の画像形成装置においても、本実施例にて説明した一次転写ローラ14を用いることで、本実施例と同様の効果を得ることが可能である。
【0055】
(実施例2)
実施例1では、転写効率を確保するための構成として好ましい弾性層21の硬度としての一次転写ローラ14の硬度、及び弾性層21の厚みについて説明した。これに対し、実施例2は、弾性層21の硬度としての一次転写ローラ14の硬度、及び速度差率Vrを規定することによって、好ましい転写効率を確保する点で、実施例1と異なる。なお、以下の説明において、実施例1と共通する部分に関しては、実施例1と同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
図4に示すように、速度差率Vrをより大きくすることでトナーTnは感光ドラム2との接点Ptからより離れるため、トナーTnと感光ドラム2との付着力がより低下する。速度差率Vrを大きくすることで、トナーTnの感光ドラム2との初期の接点は、付着力を下げるに十分な感光ドラム2との距離を確保できるようになり、より転写効率が改善すると考えられる。以上のメカニズムから、速度差率Vrを大きくすることで一次転写部N1幅を大きくすることと同等の効果が得られる。そのため、実施例1で良好な転写効率が得られなかった、Asker-C硬度39°以下の一次転写ローラでも、速度差率Vrを一定値以上設定することで良好な転写効率が得られるようになる。
【0057】
ここで、速度差ΔVを設ける方法としては、感光ドラム2と中間転写ベルト31で駆動系列を共通化してギア比などで機械的に速度差ΔVを設ける方法や、感光ドラム2と中間転写ベルト31のそれぞれに駆動系列を持たせて速度差ΔVを設ける方法などがある。後者の方法においては、速度差ΔVを可変にできる自由度が前者の方法よりも高い。なお、感光ドラム2と中間転写ベルト31との間における速度差ΔVは、レーザードップラー方式などの速度計で、感光ドラム2の表面速度と中間転写ベルト31の表面速度を測定して比較することで求めることができる。
【0058】
そこで、速度差率Vrを変えながら転写効率の評価を行った。なお、転写効率の評価方法に関しては、実施例1と同様であるため、説明を省略する。表2は、各Asker-C硬度の一次転写ローラを用い、速度差率Vrを変えながら転写効率の評価を行った結果を示す表である。
【0059】
【0060】
表2に示すように、速度差率Vrを大きくするほど良好な転写効率が得られた。より詳細には、弾性層21のAsker-C硬度が40°で速度差率Vrが3.0%の構成や、Asker-C硬度が60°以上かつ速度差率Vrが2.5%以上の構成においては、反射率は4%以下となり、良好な転写効率を確保することができた。また、弾性層21のAsker-C硬度が38°の構成や、39°の構成においては、速度差率Vrを1.5%以上とすることで、良好な転写効率を得ることができた。一方で、弾性層21のAsker-C硬度が37°以下の構成においては、ニップ幅Ldが0.65mm未満となることから、転写効率が一次転写ローラの長手方向に対して不均一となった。
【0061】
表2に示すように、速度差率Vrを大きくするほど良好な転写効率が得られるが、一方で、速度差率Vrを大きくし過ぎると、一次転写部N1に挟持されたトナーTnの移動量が増えすぎてしまうおそれがある。この場合、中間転写ベルト31の移動方向に画像が伸びてしまうことで、画像不良となるおそれがある。本実施例の構成においては、速度差率Vrが3%を超えると、明朝体の6pt単色黒文字の「電」の字で、画像が伸びる現象が見られた。そのため、文字品位維持の観点で、速度差率Vrは3%を上限とするのが望ましい。
【0062】
以上説明したように、本実施例によれば、速度差率Vrを1.5%以上、3.0%以下に設定し、且つ、弾性層21の硬度としての一次転写ローラ14のAsker-C硬度を38°以上85°以下と設定することで、良好な転写効率を得ることが可能である。
【0063】
なお、弾性層21は、Asker-C硬度が38°以上85°以下の範囲に設定されていれば、弾性層21の構成は中実の構成であっても良く、スポンジのような中空の構成であっても良い。また弾性層21は、長手方向に対して、すべての領域が同一の厚みであるストレート形状でもよく、両端領域の厚みよりも中央領域の厚みが大きいクラウン形状でもよい。弾性層21の硬度と転写バネ加圧力、および一次転写ローラ14の長手幅の関係で、長手中央部の加圧力が弱まり、中央部の転写効率が端部に比べて劣る場合がある。その場合は、弾性層21の厚みを長手方向端部に対して中央部を厚くすることで、ニップ幅Ldを均一に保ち、安定した転写効率を得ることができる。
【0064】
本実施例においては、中間転写ベルト31を用いた中間転写方式の画像形成装置100について説明したが、これに限らない。転写材Pを搬送する搬送ベルトを有する直接転写方式の画像形成装置においても、本実施例にて説明した一次転写ローラ14を用いることで、本実施例と同様の効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
2 感光ドラム
14 一次転写ローラ
20 芯金
21 弾性層
31 中間転写ベルト