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特許7562244トラクション・エネルギ貯蔵装置を加熱するための技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】トラクション・エネルギ貯蔵装置を加熱するための技術
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6552 20140101AFI20240930BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240930BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240930BHJP
   H01M 10/617 20140101ALI20240930BHJP
   H01M 10/663 20140101ALI20240930BHJP
   H01M 10/6569 20140101ALI20240930BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20240930BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240930BHJP
   B60L 58/26 20190101ALI20240930BHJP
   B60L 58/27 20190101ALI20240930BHJP
【FI】
H01M10/6552
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/617
H01M10/663
H01M10/6569
B60K1/04 Z
B60L50/60
B60L58/26
B60L58/27
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019112203
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020004715
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】10 2018 114 417.2
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517449763
【氏名又は名称】エムアーエヌ トラック アンド バス エスエー
【氏名又は名称原語表記】MAN Truck & Bus SE
【住所又は居所原語表記】Dachauer Strasse 667, 80995 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー シドロ
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-084041(JP,A)
【文献】特開2012-155858(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020614(WO,A1)
【文献】特開2003-197277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6552
H01M 10/615
H01M 10/625
H01M 10/617
H01M 10/663
H01M 50/20
H01M 10/6569
B60K 1/04
B60L 50/60
B60L 58/26
B60L 58/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵エネルギによって駆動されるまたは駆動可能な自動車に電気エネルギを貯蔵するためのトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)であって、
- それぞれ少なくとも1つのセル壁(104)を含む少なくとも1つの電気化学二次電池(102)と、
- 少なくとも1つの密閉ヒートパイプ(106)であって、気化熱を利用して、前記ヒートパイプ(106)の被加熱端部(108)から、前記被加熱端部(108)から離間した前記ヒートパイプ(106)の熱放出端部(110)へ熱が受動的に伝達されるよう構成された、少なくとも1つの密閉ヒートパイプ(106)と、
を含み、
前記熱放出端部(110)は、前記セル壁(104)に固定されて一体化されるまたは前記セル壁(104)を貫通してそれぞれの前記二次電池(102)内に突出するものであり、前記二次電池(102)の前記セル壁(104)とそれぞれの前記ヒートパイプ(106)の前記熱放出端部(110)とは、前記二次電池(102)の内部空間を前記ヒートパイプ(106)の内部空間から分離する同じ材料の分離壁を共有するように、一体的配置で一体的に構成されているものであり、
さらに、
- 前記少なくとも1つの二次電池(102)の外側に配置されかつ前記被加熱端部(108)と直接接触する少なくとも1つの加熱エネルギ供給源(118)
を含むトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項2】
前記熱放出端部(110)がそれぞれの前記二次電池(102)を貫通する、請求項1に記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項3】
前記熱放出端部(110)が、それぞれの前記二次電池(102)の電解質(124)と熱的に直接接触している、請求項1または2に記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項4】
前記ヒートパイプ(102)の前記被加熱端部(108)は導電性であり、前記加熱エネルギ供給源(118)は前記被加熱端部(108)において加熱電流を発生させるよう配置されている、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項5】
前記被加熱端部(108)が、前記加熱エネルギ供給源(118)によって誘導的に加熱されるまたは加熱可能である、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項6】
複数の前記二次電池(102)にそれぞれ複数の前記ヒートパイプ(106)の少なくとも1つが割り当てられる、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項7】
複数の前記二次電池(102)がハウジング(122)内に配置され、前記加熱エネルギ供給源(118)が前記ハウジング(122)の外側面上に配置されている、請求項に記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項8】
さらに、前記少なくとも1つの二次電池(102)の温度を検出するようおよび前記検出された温度に応じて前記加熱エネルギ供給源(118)の前記少なくとも1つの二次電池(102)から供給される電流を制御するよう構成されたバッテリ管理システム(BMS)を含む、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置。
【請求項9】
前記加熱エネルギ供給源(118)は、電気作動式カートリッジ・ヒータおよび/または電気作動式フィルム・ヒータを含むものである、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項10】
さらに、前記自動車の電気駆動系とのエネルギ交換を確立するまたは確立するよう構成できる電力端子を含む、請求項1乃至のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)を含む自動車。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載のトラクション・エネルギ貯蔵装置(100)を含む業務用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両(electrically powered motor vehicle (Kraftfahrzeug))用のトラクション(牽引)エネルギ貯蔵装置または貯蔵器(Traktionsenergiespeicher)に熱を供給しまたは入力するための技術に関する。特に、加熱可能なトラクション・エネルギ貯蔵装置およびそれを備えた自動車(動力車)が説明される。
【背景技術】
【0002】
電動車両の、例えばハイブリッド電気自動車(HEV、hybrid electric vehicle)またはバッテリ電気自動車(BEV、battery electric vehicle)の、トラクション・エネルギ貯蔵装置は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の最適な動作状態の維持管理(メンテナンス)を確保できるようにするために、特定の動作温度範囲または最低動作温度を必要とする。トラクション・エネルギ貯蔵装置の温度は、その充電容量、効率および寿命に影響を与える。例えば冬季に駐車した自動車の、周囲温度に応じて、トラクション・エネルギ貯蔵装置の使用期間中または使用前に温度上昇が必要となることがある。
【0003】
既存の技術的概念によれば、寒い冬季の数ヶ月の期間に、トラクション・エネルギ貯蔵装置のバッテリ・セルまたは電池セルは、冷却剤(Kuehlmittel)によって加熱されることが想定される。米国特許出願公開第2009/0249807号には、このタイプの任意選択的な加熱構成が記載されており、ここで、トラクション・エネルギ貯蔵装置を通って流れる冷却剤が二次回路内を循環する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2009/0249807号
【発明の開示】
【0005】
既存の技術的概念の欠点は、システム(系)全体の効率性である。トラクション・エネルギ貯蔵装置に化学的に貯蔵される電気エネルギのうち、温度管理のために、即ちトラクション・エネルギ貯蔵装置上の対流熱交換器におよび冷却剤回路(Kuehlmittelkreislauf)に関連する高い熱抵抗を克服するために、或る割合を使用しなければならない。さらに、冷却剤(冷媒)を搬送するための循環ポンプを駆動する必要がある。
【0006】
従って、結果的に生じる本発明の目的は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の温度管理回路におけるエクセルギ(有効エネルギ)損失(exergy losses)を最小化するまたは最小限に抑えることである。代替的なまたは追加的もしくは補足的な目的は、最低温度を達成するために、トラクション・エネルギ貯蔵装置をより急速におよび/または空間的により均一に加熱することである。
【0007】
発明の概要
このまたはこれらの目的は、独立請求項の特徴を有する技術によって達成される。本発明の有利な形態の実施形態および適用例は、従属請求項の構成であり、部分的に図を参照しつつ以下の記載でより詳細に説明する。
【0008】
一態様によれば、貯蔵(蓄積)されたエネルギによって駆動もしくは推進されるまたは駆動可能もしくは推進可能な自動車において電気エネルギを貯蔵するためのトラクション・エネルギ貯蔵装置が実現される。トラクション・エネルギ貯蔵装置は、それぞれ少なくとも1つのセル壁を含む少なくとも1つの電気化学二次電池を含むことができる。代替的にまたは追加的に、トラクション・エネルギ貯蔵装置は少なくとも1つの(例えば、耐圧性で密閉された)ヒートパイプを含み得る。そのヒートパイプは、気化熱を利用して、そのヒートパイプの被加熱(熱吸収端部から、その被加熱端部から離間したそのヒートパイプの熱放出端部へと熱を受動的に伝達するよう構成することができる。熱放出端部は、セル壁の一部を構成し(セル壁に固定されて一体化され)てもよく、および/またはセル壁を貫通してそれぞれの二次電池内に突出してもよい。代替的にまたは追加的に、トラクション・エネルギ貯蔵装置は、少なくとも1つの二次電池の外側に配置された少なくとも1つの加熱エネルギ供給源(熱源を含んでもよい。少なくとも1つの加熱エネルギ供給源は、それぞれの被加熱端部と直接接触してもよい。
【0009】
ヒートパイプによって、二次電池の外側からの熱を、限られたまたは少ないエクセルギ損失(熱)でそれぞれの二次電池に迅速に導入することができる。代替的にまたは追加的に、耐圧性密閉ヒートパイプ内に封入された冷媒または冷却剤(Kaeltemittels)の液体からガス状集合体状態への(両状態間での)転移(相転移)に関連する、気化熱による潜熱を、トラクション・エネルギ貯蔵装置のそれぞれの二次電池に供給することができる。トラクション・エネルギ貯蔵装置上の通常の対流熱交換器で生じるような熱伝導に対する高い抵抗は、ヒートパイプと二次電池の間の直接的な熱的接触によって無くしまたは減少させることができる。
【0010】
また、トラクション・エネルギ貯蔵装置は、バッテリ(電池)ユニットまたはバッテリ・モジュールと称することもできる。
【0011】
トラクション・エネルギ貯蔵装置は、さらに、二次電池の検出された実際の温度と、規定された(所定の)目標温度との間の差の符号(sign、symbol、Vorzeichen)に応じて加熱エネルギ供給源(熱源を任意選択的に動作させるよう構成された制御ユニット(制御部)(例えばバッテリ管理システム)を含んでいてもよい。任意に、その制御ユニットは、ヒートパイプから二次電池への熱の供給または入力(入熱)を、および/または加熱エネルギ供給源に電流を供給するために二次電池における電力抽出またはサンプリング(extraction or tap-off or sampling)に関連する(による)熱の供給または入力を、二次電池の温度制御の目的のために、考慮に入れることができる。
【0012】
ヒートパイプ内に封入された冷媒または冷却剤(Kaeltemittels)の沸点は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の最低動作温度に調整する(合わせる)ことができる。例えば、その沸点はその最低動作温度より低くすることができる。
【0013】
電気化学二次電池(また、二次電池またはセル)は、エネルギまたは或る割合の一部のエネルギを電気化学的に貯蔵するよう構成することができる。各セルは、それぞれ、空間的に分離された1対の電極と、両電極を接続するイオン伝導用の電解質とを含むことができる。少なくとも1つのセル壁は、各電極および/または電解質を空間的に区切るまたは境界を定めることができる。
【0014】
熱放出端部は、それぞれの二次電池内の電解質と熱的に直接接触することができる。例えば、熱放出端部は、それぞれの二次電池の電解質によって包囲されてもよい。
【0015】
熱放出端部はそれぞれの二次電池を横切るまたは貫通することができる。代替的にまたは追加的に、それぞれの二次電池のセル壁と、それぞれのヒートパイプの熱放出端部とは、一体的配置で構成することができる。
【0016】
少なくとも1つのヒートパイプの被加熱(熱吸収端部は導電性とすることができる。加熱エネルギ供給源(熱源は、被加熱端部において加熱電流を発生させる(駆動するよう配置することができる。代替的にまたは追加的に、被加熱端部は、加熱エネルギ供給源によって誘導的に加熱されてもまたは加熱可能であってもよい。加熱電流は渦電流であってもよい。
【0017】
トラクション・エネルギ貯蔵装置は複数の二次電池を含むことができる。複数の二次電池の各々に、複数のヒートパイプの少なくとも1つを割り当てることができる。複数の二次電池は、1つのハウジング内に配置することができる。加熱エネルギ供給源(熱源はハウジング上に(例えば、外側面上に)配置することができる。
【0018】
トラクション・エネルギ貯蔵装置は、さらに、バッテリ管理システム(BMS)を含むことができる。BMSは、少なくとも1つの二次電池の温度を検出するよう、およびその検出温度に応じて少なくとも1つの二次電池から供給される 加熱エネルギ供給源(熱源の電流を制御するよう構成することができる。
【0019】
加熱エネルギ供給源(熱源は、電動(電気作動)式カートリッジ・ヒータおよび/または電動式の加熱フォイル(箔)(フィルム・ヒータ)を含み得る。
【0020】
トラクション・エネルギ貯蔵装置は、さらに、自動車の電気駆動系または電気的動力伝達装置(drive train、power train、Antriebsstrang)とのエネルギ交換を確立するまたは確立するよう構成できる電力端子または接続部を含み得る。
【0021】
別の態様によれば、自動車、特にユティリティ・ビークルまたは業務用車両(Nutzfahrzeug)が実現される。自動車は、上述の態様の例示的な一実施形態によるトラクション・エネルギ貯蔵装置を含んでいる。ユティリティ・ビークルまたは業務用車両は、HGV(重量物運搬車)、トラクタまたはバスであってもよい。本発明の他の態様は、上述の各装置特徴に対応するプロセス(方法)工程含むトラクション・エネルギ貯蔵装置を加熱する方法、および/または、上述の各装置特徴を与える(用意する、供給する)方法、およびそのようなトラクション・エネルギ貯蔵装置を製造する方法に関する。
【0022】
本発明の他の特徴および利点を、図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の温度制御のための通常の装置の概略的なブロック図を示している。
図2図2は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の第1の例示的な実施形態の概略的なブロック図を示している。
図3図3は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の第2の例示的な実施形態の概略的な斜視図を示している。
図4図4は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の第2の例示的な実施形態の概略的な断面図を示している。
図5図5は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の第3の例示的な実施形態の概略的な斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
トラクション・エネルギ貯蔵装置は、バッテリ・ユニットとも称されるものであり、最適な動作状態の維持管理を確保できるようにするために、最適な動作温度を必要とする。その動作温度は、トラクション・エネルギ貯蔵装置の効率および寿命に影響を与える。
【0025】
図1は、比較例として、トラクション・エネルギ貯蔵装置10の温度制御用の通常の装置の概略的なブロック図を示している。通常の装置は、冷却剤(冷媒)回路(Kuehlmittelkreislauf)に組み込まれた電気的高電圧ヒータ(HVH)13を含んでいる。トラクション・エネルギ貯蔵装置10の温度および周囲温度に応じて、HVH13は任意選択的にスイッチ・オンまたは付勢される。HVH13によって生成された熱流束は、HVH熱交換器内の冷却剤(Kuehlmittel)に伝達され、対流および熱伝導を含む熱伝達機構によって、冷却剤の質量流からトラクション・エネルギ貯蔵装置10へと伝達される。この多段熱伝達の結果として(特に、多段エネルギ変換による)、エクセルギ損失が発生し、そのエクセルギ損失が、システム全体の効率を低下させシステム全体のエネルギ消費の増大を生じさせる。
【0026】
本発明の例示的な実施形態は、トラクション・エネルギ貯蔵装置10を冷却するための冷却剤回路を任意に保持することができるが、例示的な実施形態によって、より迅速および/またはより効率的な熱伝達が可能になる。特に、冷却剤回路においてHVH13の分岐路または二次分枝路(offshoot or secoandary branch、Nebenzweig)を除去または省略することができる。
【0027】
例示的な実施形態は、トラクション・エネルギ貯蔵装置10を加熱するための技術をその中に組み込むことができる。
【0028】
任意に、トラクション・エネルギ貯蔵装置の各例示的な実施形態は、ラジエータまたは放熱器11、循環ポンプ12および冷凍機(冷却機)(Kaeltemaschine)14を含む冷却剤回路に一体化することができる。トラクション・エネルギ貯蔵装置は、冷凍機14の下流でかつラジエータ11の上流の冷却剤回路内に配置することができる。
【0029】
冷凍機(冷却機)(Kaeltemaschine)14は、熱交換器によってトラクション・エネルギ貯蔵装置10の冷却剤回路と熱を交換する冷媒回路(Kaeltemittelkreislauf)15を組み込むことができる。冷凍機14の熱交換器は、その入力側で熱膨張バルブ(弁)におよびその出力側で圧縮器に接続することができる。
【0030】
図2は、全体的に参照番号100によって識別されるトラクション・エネルギ貯蔵装置の第1の例示的な実施形態の概略的なブロック図を示している。トラクション・エネルギ貯蔵装置100の各例示的な実施形態は、例えばHVH13の分岐路を除去または省略することにより、図1において参照番号10によって識別される冷却剤回路において、使用することができる。
【0031】
トラクション・エネルギ貯蔵装置100は、貯蔵されたエネルギによって駆動もしくは推進されるまたは駆動可能もしくは推進可能な自動車において電気エネルギを貯蔵するよう構成されている。トラクション・エネルギ貯蔵装置100は、それぞれ少なくとも1つのセル壁104を含む少なくとも1つの電気化学二次電池102を含んでいる。トラクション・エネルギ貯蔵装置100は、気化熱を利用して、ヒートパイプ106の被加熱(熱吸収端部108から、被加熱端部108から離間したヒートパイプ106の熱放出端部110へと熱を受動的に伝達するよう構成された少なくとも1つの耐圧性密閉ヒートパイプ106、をさらに含んでいる。熱放出端部110は、セル壁104の一部を構成し、またはセル壁104を貫通してそれぞれの二次電池102内に突出する。
【0032】
耐圧性密閉ヒートパイプ106には、冷媒または冷却剤(Kaeltemittel)が封入(収容)されている。被加熱(熱吸収端部108は冷媒(冷却剤)気化器として機能し、その潜熱は、熱伝導112によってまたは誘導的に導入される。トラクション・エネルギ貯蔵装置100の内部へと導入された熱は、ヒートパイプ106の断熱領域114を介してまたは通して、少なくとも1つの二次電池102に伝達される。その伝達された熱は、熱放出端部110において、それぞれの二次電池102に伝達される。ここで、熱放出端部110は、ヒートパイプ106内に封入された冷媒(冷却剤)用の凝縮器として機能する。
【0033】
トラクション・エネルギ貯蔵装置100は、少なくとも1つの二次電池102の外側に配置され被加熱(熱吸収端部108と直接接触120の状態にある少なくとも1つの加熱エネルギ供給源(熱源118を含んでいる。直接接触120は、熱伝導のための熱的な直接接触によって、または被加熱端部108において渦電流を誘導するための電磁近接場(electromagnetic near field)によって、達成または実現することができる。
【0034】
全ての二次電池102を1つのハウジング122内に配置することができる。加熱エネルギ供給源(熱源118は、ハウジング122に(例えば、その内側または外側に)取り付けることができる。
【0035】
従って、トラクション・エネルギ貯蔵装置を加熱するときには、循環ポンプ12用の電力供給を省く(entfallen:不適用とする)ことができる。これは、通常のHVH13による通常の加熱と比較して、トラクション・エネルギ貯蔵装置100を加熱するときに循環ポンプ用に追加的な電気的作動エネルギを使用する必要がないこと、を意味する。電気式の循環ポンプ12のこの通常の駆動力または作動力(電力)は、冷却剤回路内の内圧損失および循環ポンプ12の効率に依存するまたは応じて決まる。その結果、エクセルギ損失を減少させることができ、加熱回路内のエネルギ変換段の数を最小化することができる。特に、システム全体の効率を増大させかつそのエネルギ消費量を低減することができる。
【0036】
トラクション・エネルギ貯蔵装置100の各例示的な実施形態は、ハイブリッド電気自動車(HEV)またはバッテリ電気自動車(BEV)において使用可能であり得る。
【0037】
図3は、トラクション・エネルギ貯蔵装置100の第2の例示的実施形態の概略的な斜視図を示している。第2の例示的な実施形態は、第1の例示的な実施形態の別の展開形態として構成することができる。例えば、図3を参照して説明する特徴の中の1つ以上は、図2に示された第1の例示的な実施形態における対応するまたは代替的な特徴を補足しまたは置換することができる。この目的のために、置換可能なまたは均等な若しくは同等の特徴には、同じ参照番号が付されている。
【0038】
ヒートパイプ106は、二次電池102内でその熱放出端部110と一体化されている。例えば、ヒートパイプ106の気密包囲部(Einfassung:容器)と、ヒートパイプ106に面する二次電池102のセル壁104とは、例えば同じ金属材料で、一体的配置で、一体的に構成することができる。その結果、断熱領域114に関連するヒートパイプ106内での実質的に(近似的に)エクセルギ持続性のある熱伝達に加えて、熱放出端部110における熱伝導116に関連するエクセルギ損失を最小化することもできる。
【0039】
図4は、1つの例示的な実施形態の、例えば図3の第2の例示的な実施形態の、概略的な断面図を示している。示されたその断面は、ヒートパイプ106の長手方向軸を含み、それ(長手方向軸)と平行である。
【0040】
ヒートパイプ106は、少なくともその熱放出端部110で(と共に)、個々の二次電池102(これは電池またはバッテリ・セルとも称される)に組み込まれている。熱放出端部110は、セル壁104を貫通して二次電池102の内部に突出する。ヒートパイプ106は、二次電池102を貫通することが、好ましい。これは、ヒートパイプ106が貫通するセル壁104から、セル壁104の反対側に位置する二次電池102のセル壁へと、熱放出端部110が伸びること、を意味する。
【0041】
二次電池102内に突出するヒートパイプ106の熱放出端部110は、二次電池102の内部の電解質124と熱的に直接接触している。二次電池102に一体化された直接的な熱的接続によって、熱伝導116のための大きい(広い)熱伝達面が形成され、それによってより効率的でより速い熱伝達が可能になる。
【0042】
上述の各例示的な実施形態では、ヒートパイプ106の数および/またはその熱伝達の能力(capacity)(例えば、その直径)は、特にトラクション・エネルギ貯蔵装置100内に配置された二次電池102の配置構造および/または密度に応じて(の関数として)、変えることができる(可変である)。
【0043】
図5は、トラクション・エネルギ貯蔵装置100の第3の例示的な実施形態を示している。トラクション・エネルギ貯蔵装置100は、1つのハウジング122内に少なくとも2つの電気化学二次電池102を含んでいる。各二次電池102は、熱伝達の目的のために、1つ以上のヒートパイプ106によって(図5に示された第3の例示的な実施形態において、例えば、それぞれ3つのヒートパイプ106によって)、ハウジング122の側面上に配置された加熱エネルギ供給源(熱源118に接続される。
【0044】
図5に示された例示的な実施形態では、加熱エネルギ供給源(熱源118は、トラクション・エネルギ貯蔵装置100に(より詳しくは、ハウジング122の少なくとも1つの表面に)直接接着された加熱フォイル(箔)(フィルム・ヒータ)を含んでいる。従って、加熱フォイル118からヒートパイプ106のそれぞれの被加熱(熱吸収端部108の接触面を通したそれぞれの二次電池102への熱伝達は、エネルギ効率が良い。さらに、電気的加熱エネルギ供給源118と、個々の二次電池102内の各電気化学反応との間の電気的短絡または漏れ電流は、ヒートパイプ106に関連する空間的分離によって排除する(無くす)ことができる。
【0045】
各例示的な実施形態では、1つ以上のヒートパイプによって、トラクション・エネルギ貯蔵装置100内の(例えば電池ユニット内の)加熱エネルギ供給源(熱源118(例えば加熱素子)とヒートシンク(例えば二次電池102)の間の間接的な熱伝達が可能になる。加熱エネルギ供給源118からの熱流束は、少なくとも1つのヒートパイプ106との直接接触120によって、例えば接触面によってまたは電気誘導によって、ヒートパイプ106内の冷媒(冷却剤)に伝達することができる。被加熱(熱吸収端部108での冷媒(冷却剤)の気化と、熱放出端部110での凝縮とによって、顕熱流束(sensible thermal flux、fuehlbarer Waermestrom)および潜熱流束が、各ヒートパイプ106からの熱伝達によって二次電池102(即ちヒートシンク)上に供給される。
【0046】
各ヒートパイプ106において、冷媒(冷却剤)は、被加熱(熱吸収端部108における気化(蒸発)領域において気化することができ、また、断熱領域114において熱および物質移動によって移送されまたは送られて、熱放出端部110における凝縮領域において凝縮させるようにすることができる。個々の構成要素または部品相互間における熱伝達を、即ち、加熱エネルギ供給源(熱源118とヒートパイプ106の間における(被加熱端部108での)またはヒートパイプ106と二次電池102の間における(熱放出端部110での)熱伝達を、例えばそれぞれの固体の接触面相互間でまたは一体的配置で一体的に構成された1つの固体内で、熱伝導機構によって、達成することができる。
【0047】
本発明を、装置の態様(観点)に関する機能的および構造的な特徴を参照して説明したが、本発明は、対応する方法の態様(観点)、特にこのタイプのトラクション・エネルギ貯蔵装置を製造する方法にも関する。
【0048】
トラクション・エネルギ貯蔵装置を間接的に(例えば、加熱期間中に冷却剤回路を使用せずに)加熱する方法では、少なくとも1つのヒートパイプおよび1つの加熱エネルギ供給源(熱源を設けてもよい。ヒートパイプの被加熱(熱吸収端部は、熱を吸収するために、加熱エネルギ供給源と協働することができまたは加熱エネルギ供給源に作動的に接続することができる。トラクション・エネルギ貯蔵装置の少なくとも1つの二次電池に熱を伝達するために、ヒートパイプの熱放出端部は、二次電池と協働することができまたは二次電池に作動的に接続することができる。
【0049】
各態様において、少なくとも1つの加熱エネルギ供給源(熱源118は、トラクション・エネルギ貯蔵装置100内またはその上に設置または一体化することができる。加熱エネルギ供給源118の例にはカートリッジ・ヒータ、加熱フォイルおよび加熱素子が含まれる。各加熱エネルギ供給源118は、中間熱交換器として機能する1つ以上のヒートパイプ106であって、トラクション・エネルギ貯蔵装置100におけるヒートシンクとしての少なくとも1つの二次電池102に熱流束を伝導する1つ以上のヒートパイプ106、に熱的に接触することができる。
【0050】
任意に、個々の構成要素相互間の熱伝達は熱伝導によって行われる。熱伝導は、加熱エネルギ供給源(熱源118と加熱される二次電池102との間での支配的な熱伝達機構であり得る。
【0051】
ヒートパイプを介して二次電池を間接的に加熱することによって、加熱エネルギ供給源(熱源のおよび二次電池の複数の電気部品を、短絡および漏れ電流に対する保護のために空間的に分離することができる。
【0052】
直接接触されたおよび/または一体的に構成された一体型の複数のヒートパイプを使用した加熱によって、加熱回路におけるエクセルギ損失を減少させることができる。代替的にまたは追加的に、この加熱によって、加熱回路におけるエネルギ変換段の数を減らすことができる。従って、複数のヒートパイプを介した二次電池の間接的な加熱の結果、一次(primary)エネルギ源としてのトラクション・エネルギ貯蔵装置のエネルギ消費量が減少し得る。代替的にまたは追加的に、この加熱は、自動車の走行(到達)距離または範囲(Reichweite)を拡大しおよび/または自動車の動作コストを削減することができる。さらに、HVH補助分岐路(オフシュート)を除去または省略することによって、電気駆動系の製造コストを削減することができる。
【0053】
各例示的な実施形態では、流体は、有機または無機の冷媒(冷却剤)の形態で、ヒートパイプ内に封入または収容することができる。
【0054】
トラクション・エネルギ貯蔵装置の加熱方法および/または各例示的実施形態は、自家用車またはユティリティ・ビークル若しくは業務用車両(特に、HGV、トラクタまたはバス)において実現することができる。トラクション・エネルギ貯蔵装置は、バッテリ電気自動車(BEV)および/またはハイブリッド電気自動車(HEV)を電気的に駆動しまたは推進させるよう構成することができる。
【0055】
本発明を例示的な実施形態を参照して説明してきたが、様々な変形を施すことが可能であり、均等物を代替手段として用いることができることは、この分野の専門家にとって明らかであろう。さらに、特定の状況または特定の材料を本発明の教示内容に適合化するために、多数の変形を施すことができる。従って、本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、特許請求の範囲内に含まれる全ての例示的な実施形態を包含する。
【符号の説明】
【0056】
100 トラクション・エネルギ貯蔵装置
102 二次電池
104 二次電池のセル壁
106 ヒートパイプ
108 ヒートパイプの被加熱(熱吸収端部
110 ヒートパイプの熱放出端部
112 加熱エネルギ供給源(熱源からヒートパイプへの熱伝導
114 ヒートパイプの断熱領域
116 ヒートパイプから二次電池への熱伝導
118 加熱エネルギ供給源(熱源
120 加熱エネルギ供給源(熱源被加熱(熱吸収端部の間の直接接触
122 トラクション・エネルギ貯蔵装置のハウジング
124 電解質
図1
図2
図3
図4
図5