(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】免疫複合体を形成する細胞内への運搬体(キャリア)を含む医薬
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240930BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240930BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240930BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61K39/395 N
A61P37/02
C07K16/46
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020000219
(22)【出願日】2020-01-06
(62)【分割の表示】P 2017074379の分割
【原出願日】2012-11-30
【審査請求日】2020-02-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/077619
(32)【優先日】2011-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2012123773
(32)【優先日】2012-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】廣庭 奈緒香
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】山村 祥子
【審判官】冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/122011(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/111007(WO,A1)
【文献】特表2008-505174(JP,A)
【文献】PNAS(1982) Vol.79、pp.1984-1988
【文献】Cell (1982) Vol.29、pp.671-679
【文献】Nucleic Acids Research (1986) Vol.14、pp.1779-1789
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Caplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) FcγR及びFcRnの少なくともいずれか一方に対して結合活性を有するFc領域、および、
(ii)二以上の抗原結合単位を含む単量体からなる抗原であって、当該抗原結合単位中のエピトープに結合する二以上の抗原結合ドメイン、
を含む抗体を含む、血漿中から抗原を消失させるための組成物であって、当該ドメインの少なくとも一つが、
(a1) 抗体軽鎖のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位、34位、50位、51位、52位、53位、54位、55位、56位、89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位においてヒスチジンを有する、pH5.8の条件下での抗原に対する結合活性よりもpH7.4の条件下での抗原に対する結合活性が大きい抗原結合ドメイン
であり、
当該ドメインの他のもののうち少なくとも一つが、
(a2) 抗体重鎖のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/もしくは101位、ならびに/または、抗体軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/もしくは92位において、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を有する、3μMのカルシウム濃度条件下での抗原に対する結合活性よりも1.2mMのカルシウム濃度条件下での抗原に対する結合活性が大きい抗原結合ドメインであり、
当該抗体は、(a) 二分子以上の当該抗体、および、(b) 二分子以上の抗原を含む免疫複合体を形成することが可能な抗体であ
り、
酸性pH条件下において、前記免疫複合体の形成は解消される、前記組成物。
【請求項2】
抗体が、多重特異性または多重パラトピックな抗体、もしくは抗体カクテルである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Fc領域が、それぞれ配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記Fc領域のpH4.0~pH6.5の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位のアミノ酸の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記Fc領域のpH7.4の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域を含む請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位または440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつのアミノ酸を含む請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記Fc領域が、活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域である、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、請求項13または14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む、請求項13から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
233位のアミノ酸がAsp、
234位のアミノ酸がTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、
267位のアミノ酸がAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸がAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸がGly、
326位のアミノ酸がAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸がArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、Leu、またはMetのいずれか、もしくは
296位のアミノ酸がAsp、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、請求項16または17に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子の使用、抗原結合分子を投与することを含む血漿中から抗原を消失させる方法、血漿中から抗原を消失させることが可能な抗原結合分子を含む医薬組成物、血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子のスクリーニング方法、および血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。一方、第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されている(非特許文献3)。抗体医薬は一般に投与量が非常に高いため、皮下投与製剤の作製が困難であること、製造コストが高いこと等が課題として考えられる。抗体医薬の投与量を低減させる方法として、抗体の薬物動態を向上する方法と、抗体と抗原のアフィニティーを向上する方法が考えられる。
【0003】
抗体の薬物動態を向上させる方法として、定常領域の人工的なアミノ酸置換が報告されている(非特許文献4、および5)。抗原結合能、抗原中和能を増強させる技術として、アフィニティーマチュレーション技術(非特許文献6)が報告されており、可変領域のCDR領域などのアミノ酸に変異を導入することで抗原への結合活性を増強することが可能である。抗原結合能の増強によりインビトロの生物活性を向上させる、あるいは投与量を低減することが可能であり、さらにin vivo(生体内)での薬効を向上させることも可能である(非特許文献7)。
【0004】
一方、抗体一分子あたりが中和できる抗原量はアフィニティーに依存し、アフィニティーを強くすることで少ない抗体量で抗原を中和することが可能であり、様々な方法で抗体のアフィニティーを強くすることが可能である(非特許文献6)。さらに抗原に共有結合的に結合し、アフィニティーを無限大にすることができれば一分子の抗体で一分子の抗原(二価の場合は二抗原)を中和することが可能である。しかしながら、これまでの方法では一分子の抗体は、一分子の抗原(二価の場合は二抗原)に結合することが限界であった。一方、最近になって抗原に対してpH依存的に結合する抗原結合分子を用いることで、一分子の抗原結合分子が複数分子の抗原に結合することが可能であることが報告された(特許文献1、非特許文献8)。pH依存的抗原結合分子は、抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原を解離する。さらに抗原を解離した後に当該抗原結合分子がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、一つのpH依存的抗原結合分子で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。
【0005】
さらに、中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強するように改変されたpH依存的抗原結合分子は、抗原に繰り返し結合できる効果、および、血漿中から抗原を消失させる効果を有しているため、こうした抗原結合分子の投与によって血漿中から抗原を除去することが可能であることが報告された(特許文献2)。通常のIgG抗体のFc領域を含むpH依存的抗原結合分子は、中性条件下においてFcRnに対してほとんど結合が認められない。そのため、当該抗原結合分子と抗原の複合体が細胞内に取り込まれるのは、主に非特異的な取込みによると考えられる。この報告によれば、中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強するように改変されたpH依存的抗原結合分子は、通常のIgG抗体のFc領域を含むpH依存的抗原結合分子よりも、その抗原消失をさらに加速することが可能である(特許文献2)。
【0006】
抗原の血漿中滞留性は、FcRnを介したリサイクル機構を有する抗体と比較して非常に短いため、抗原は血漿中で当該リサイクル機構を有する(その結合がpH依存的でない)抗体と結合することによって、通常血漿中滞留性が長くなり、血漿中抗原濃度は上昇する。例えば、血漿中抗原が複数種類の生理機能を有する場合、仮に抗体の結合によって一種類の生理活性が遮断されたとしても、当該抗原の血漿中濃度が抗体の結合によって他の生理機能が病因となる症状を増悪することも考えられる。このような観点から血漿中の抗原を消失させることが好ましい場合があるところ、抗原の消失を加速する目的で上記のようなFcRnへの結合を増強するFc領域に対する改変を加える方法が報告されているが、それ以外の方法で抗原の消失を加速する方法はこれまでに報告されていない。
【0007】
なお、本発明における先行技術文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第WO2009/125825号
【文献】国際公開第WO2011/122011号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Monoclonal antibody successes in the clinic, Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073 - 1078
【文献】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur. J. Pharm. Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【文献】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol. Cells. (2005) 20 (1), 17-29
【文献】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N, J. Immunol. (2006) 176 (1), 346-356
【文献】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Nat. Biotechnol. (1997) 15 (7), 637-640
【文献】Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (2005) 102 (24), 8466-8471
【文献】Wu H, Pfarr DS, Johnson S, Brewah YA, Woods RM, Patel NK, White WI, Young JF, Kiener PA., J. Mol. Biol. (2007) 368, 652-665
【文献】Igawa T, et al., Nat. Biotechnol. (2010) 28, 1203-1207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子の使用、抗原結合分子を投与することを含む血漿中から抗原を消失させる方法、血漿中から抗原を消失させることが可能な抗原結合分子を含む医薬組成物、血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子のスクリーニング方法、および血漿中から抗原を消失させるための抗原結合分子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、(i) Fc領域、および、(ii) 二以上の抗原結合ドメインを含む抗原結合分子であって、当該ドメインの少なくとも一つがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであり、
(a) 二分子以上の当該抗原結合分子、および、(b) 二分子以上の抗原であって、当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む抗原、を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子を創作した。また、本発明者らは、当該抗原結合分子が血漿中から抗原を消失するために使用できることを見出した。さらに、本発明者らは、当該抗原結合分子が医薬組成物として有用であることを見出すとともに、当該抗原結合分子を投与することを含む血漿中から当該抗原を消失させる方法を創作した。また、本発明者らは前記の性質を有する抗原結合分子のスクリーニング方法を見出すとともに、その製造方法を創作して本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は下記;
〔1〕(i) Fc領域、および、
(ii) 二以上の抗原結合ドメイン、
を含む抗原結合分子の使用であって、当該ドメインの少なくとも一つがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであり、
(a) 二分子以上の当該抗原結合分子、および、(b) 二分子以上の抗原、ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む、
を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子の、血漿中から当該抗原を消失させるための使用、
〔2〕イオン濃度の条件が、カルシウムイオン濃度の条件である、〔1〕に記載の使用、
〔3〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔2〕に記載の使用、
〔4〕イオン濃度の条件が、pHの条件である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の使用、
〔5〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔4〕に記載の使用、
〔6〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が多量体である〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の使用、
〔7〕前記抗原が、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、VEGF、IgE、IgA、IgG、IgM、RANKL、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、またはIL-8のいずれかである〔6〕に記載の使用、
〔8〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が単量体である〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の使用、
〔9〕抗原結合分子が、多重特異性または多重パラトピックな抗原結合分子、もしくは抗原結合分子カクテルである〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の使用、
〔10〕前記Fc領域が、それぞれ配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域である、〔1〕から「9〕のいずれかに記載の使用、
〔11〕前記Fc領域のpH酸性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の使用、
〔12〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位のアミノ酸の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である〔11〕に記載の使用、
〔13〕 前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔12〕に記載の使用、
〔14〕前記Fc領域のpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の使用、
〔15〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である〔14〕に記載の使用、
〔16〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔15〕に記載の使用、
〔17〕前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域を含む〔1〕から〔13〕のいずれかに記載の使用、
〔18〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位または440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む〔17〕に記載の使用、
〔19〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含む〔18〕に記載の使用、
〔20〕前記Fc領域が、活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域である、〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の使用、
〔21〕前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、〔20〕に記載の使用、
〔22〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔20〕または「21〕のいずれかに記載の使用、
〔23〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む、〔20〕から〔22〕のいずれかに記載の使用、
〔24〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸をGluである、〔23〕に記載の使用、
〔25〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
233位のアミノ酸がAsp、
234位のアミノ酸がTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、
267位のアミノ酸がAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸がAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸がGly、
326位のアミノ酸がAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸がArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、Leu、またはMetのいずれか、もしくは、
296位のアミノ酸がAsp、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔23〕または〔24〕に記載の使用、
〔26〕以下の工程(a)~(i)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子のスクリーニング方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子を抗原と接触させる工程、
(g) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
〔27〕以下の工程(a)~(d)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) Fc領域、および、二以上の抗原結合ドメインであって少なくとも一つの抗原結合ドメインがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子と抗原を接触させる工程、
(b) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
(c) 前記工程(b)で免疫複合体の形成が確認された抗原結合分子をコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(d) 前記工程(c)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
〔28〕以下の工程(a)~(i)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子を抗原と接触させる工程、
(g) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
(h) 前記工程(g)で免疫複合体の形成が確認された抗原結合分子をコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(i) 前記工程(h)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
〔29〕以下の工程(a)~(e)を含む製造方法であって、さらに当該製造方法で得られた抗原結合分子と抗原を接触させて当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
【0013】
なお、上記の〔1〕~〔25〕は別の表現では、
〔1'〕(i) Fc領域、および、
(ii) 二以上の抗原結合ドメイン、
を含む抗原結合分子の使用であって、当該ドメインの少なくとも一つがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであり、
(a) 二分子以上の当該抗原結合分子、および、(b) 二分子以上の抗原、ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む、
を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子を含む、血漿中から当該抗原を消失させるための医薬組成物、
〔2'〕イオン濃度の条件が、カルシウムイオン濃度の条件である、〔1'〕に記載の医薬組成物、
〔3'〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔2'〕に記載の医薬組成物、
〔4'〕イオン濃度の条件が、pHの条件である、〔1'〕から〔3'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔5'〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔4'〕に記載の医薬組成物、
〔6'〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が多量体である〔1'〕から〔5'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔7'〕前記抗原が、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、VEGF、IgE、IgA、IgG、IgM、RANKL、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、またはIL-8のいずれかである〔6'〕に記載の医薬組成物、
〔8'〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が単量体である〔1'〕から〔5'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔9'〕抗原結合分子が、多重特異性または多重パラトピックな抗原結合分子、もしくは抗原結合分子カクテルである〔1'〕から〔8'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔10'〕前記Fc領域が、それぞれ配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域である、〔1'〕から〔9'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔11'〕前記Fc領域のpH酸性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1'〕から〔9'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔12'〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸のアミノ酸が置換されているFc領域である〔11'〕に記載の医薬組成物、
〔13'〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔12'〕に記載の医薬組成物、
〔14'〕前記Fc領域のpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1'〕から〔9'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔15'〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である〔14'〕に記載の医薬組成物、
〔16'〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔15'〕に記載の医薬組成物、
〔17'〕前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域を含む〔1'〕から〔13'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔18'〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位または440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む〔17'〕に記載の医薬組成物、
〔19'〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含む〔18'〕に記載の医薬組成物、
〔20'〕前記Fc領域が、活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域である、〔1〕から〔16'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔21'〕前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、〔20'〕に記載の医薬組成物、
〔22'〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔20'〕または〔21'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔23'〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む、〔20'〕から〔22'〕のいずれかに記載の医薬組成物、
〔24'〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluである、〔23'〕に記載の医薬組成物、
〔25'〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
233位のアミノ酸がAsp、
234位のアミノ酸がTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、
267位のアミノ酸がAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸がAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸がGly、
326位のアミノ酸がAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸がArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、Leu、またはMetのいずれか、もしくは、
296位のアミノ酸がAsp、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔23'〕または〔24'〕に記載の医薬組成物、
といい換えることも可能である。
【0014】
さらに、上記の〔1〕~〔25〕は別の表現では、
〔1"〕(i) Fc領域、および、
(ii)二以上の抗原結合ドメイン、
を含む抗原結合分子の使用であって、当該ドメインの少なくとも一つがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであり、
(a) 二分子以上の当該抗原結合分子、および、(b) 二分子以上の抗原、ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む、
を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子を対象に投与することを含む、当該対象の血漿中から当該抗原を消失させるための方法、
〔2"〕前記イオン濃度の条件が、カルシウムイオン濃度の条件である、〔1"〕に記載の方法、
〔3"〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔2"〕に記載の方法、
〔4"〕前記イオン濃度の条件が、pHの条件である、〔1"〕から〔3"〕のいずれかに記載の方法、
〔5"〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、〔4"〕に記載の方法、
〔6"〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が多量体である〔1"〕から〔5"〕のいずれかに記載の方法、
〔7"〕前記抗原が、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、VEGF、IgE、IgA、IgG、IgM、RANKL、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、またはIL-8のいずれかである〔6"〕に記載の方法、
〔8"〕二以上の抗原結合単位を含む前記抗原が単量体である〔1"〕から〔5"〕のいずれかに記載の方法、
〔9"〕抗原結合分子が、多重特異性または多重パラトピックな抗原結合分子、もしくは抗原結合分子カクテルである〔1"〕から〔9"〕のいずれかに記載の方法、
〔10"〕前記Fc領域が、それぞれ配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域である、〔1"〕から〔9"〕のいずれかに記載の方法、
〔11"〕前記Fc領域のpH酸性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1"〕から〔9"〕のいずれかに記載の方法、
〔12"〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である〔11"〕に記載の方法、
〔13"〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔12"〕に記載の方法、
〔14"〕前記Fc領域のpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域の結合活性より増強されているFc領域である、〔1"〕から〔9"〕のいずれかに記載の方法、
〔15"〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である〔14"〕に記載の方法、
〔16"〕前記Fc領域が、配列番号:13、14、15、または16のいずれかで表されるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔15"〕に記載の方法、
〔17"〕前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域を含む〔1"〕から〔13"〕のいずれかに記載の方法、
〔18"〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位または440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む〔17"〕に記載の方法、
〔19"〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含む〔18"〕に記載の方法、
〔20"〕前記Fc領域が、活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域である、〔1〕から〔16"〕のいずれかに記載の方法、
〔21"〕前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、〔20"〕に記載の方法、
〔22"〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔20"〕または〔21"〕のいずれかに記載の方法、
〔23"〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸が天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含む、〔20"〕から〔22"〕のいずれかに記載の方法、
〔24"〕前記Fc領域のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluである、〔23"〕に記載の方法、
〔25"〕前記Fc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
233位のアミノ酸がAsp、
234位のアミノ酸がTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、
267位のアミノ酸がAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸がAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸がGly、
326位のアミノ酸がAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸がArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、Leu、またはMetのいずれか、もしくは、
296位のアミノ酸がAsp、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸である、〔23"〕または〔24"〕に記載の方法、
といい換えることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】pH依存的結合抗体が繰り返し可溶型抗原に結合することを示す図である。(i) 抗体が可溶型抗原と結合する、(ii) 非特異的に、ピノサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる、(iii) エンドソーム内で抗体はFcRnと結合し、可溶型抗原は抗体から解離する、(iv) 可溶型抗原はライソソームに移行し分解される、(v) 可溶型抗原が解離した抗体はFcRnにより血漿中にリサイクルされる、(vi) リサイクルされた抗体は、再び可溶型抗原へ結合することが可能となる。
【
図2】中性条件下でFcRnへの結合を増強することによって、pH依存的結合抗体が抗原に繰り返し結合できる効果をさらに向上させることを示す図である。(i) 抗体が可溶型抗原と結合する、(ii) FcRnを介して、ピノサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる、(iii) エンドソーム内で可溶型抗原は抗体から解離する、(iv) 可溶型抗原はライソソームに移行し分解される、(v) 可溶型抗原が解離した抗体はFcRnにより血漿中にリサイクルされる、(vi) リサイクルされた抗体は、再び可溶型抗原へ結合することが可能となる。
【
図3】Biacoreを用いた抗ヒトIgA抗体のCa
2+1.2 mM およびCa
2+ 3μM におけるヒトIgAへの相互作用を示すセンサーグラムを示す図である。
【
図4】ヒトIgA+GA1-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-FcγR (-)およびGA2-N434W抗体投与群のノーマルマウス血漿中抗体濃度推移を示す図である。
【
図5】ヒトIgA単独投与群、ヒトIgA+GA1-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-FcγR (-)抗体投与群およびヒトIgA+GA2-N434W抗体投与群のノーマルマウス血漿中ヒトIgAの濃度推移を示す図である。
【
図6】ヒトIgA+GA1-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-IgG1抗体投与群、ヒトIgA+GA2-FcγR (-)抗体投与群およびヒトIgA+GA2-N434W抗体投与群のノーマルマウス血漿中の非結合型ヒトIgAの濃度推移を示す図である。
【
図7】多量体抗原に対して大きな免疫複合体を形成する天然IgG1の定常領域を含むpH/Ca依存性抗体の、抗体1分子あたりの抗原を消失させる効率を例示する図である。
【
図8】単量体抗原に存在する2つ以上のエピトープを認識し大きな免疫複合体を形成するのに適切なmultispecific pH/Ca依存性抗体の、抗体1分子あたりの抗原を消失させる効率を例示する図である。
【
図9】ヒトIgEとpH依存的抗IgE抗体であるクローン278がpH依存的に大きな免疫複合体を形成することを確認したゲルろ過クロマトグラフィー分析の結果を示す図である。
【
図10】ヒトIgE+クローン278投与群およびヒトIgE+Xolair抗体投与群のノーマルマウス血漿中抗体濃度推移を示す図である。
【
図11】ヒトIgE単独投与群、ヒトIgE+クローン278抗体投与群、および、ヒトIgE+クローン278抗体投与群のノーマルマウス血漿中ヒトIgEの濃度推移を示す図である。
【
図12】ノーマルマウスにおけるGA2-IgG1およびGA2-F1087の血漿中抗体濃度推移を示した図である。
【
図13】GA2-IgG1およびGA2-F1087が投与されたノーマルマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を示した図である。
【
図14】C57BL/6Jマウスにおける278-IgG1および278-F1087の血漿中抗体濃度推移を示した図である。
【
図15】278-IgG1および278-F1087が投与されたC57BL/6Jマウスにおける血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を示した図である。
【
図16】GA2-F760またはGA2-F1331が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中のGA2-F760またはGA2-F1331の濃度推移を示した図である。
【
図17】GA2-F760またはGA2-F1331が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中のヒトIgAの濃度推移を示した図である。
【
図18】278-F760または278-F1331が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中の278-F760または278-F1331の濃度推移を示した図である。
【
図19】278-F760または278-F1331が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中のヒトIgEの濃度推移を示した図である。
【
図20】pH7.4, pH6.0におけるPHX-IgG1のhsIL-6Rに対するセンサーグラムを示す図である。
【
図21】Fv4-IgG1とPHX-F29が同時にIL6Rに結合できるかをECL法(電気化学発光法)で評価した結果である。
【
図22】hsIL6R+Fv4-IgG1投与群およびhsIL6R+Fv4-IgG1+PHX-IgG1投与群のノーマルマウス血漿中抗IL6R抗体の濃度推移を示したグラフである。
【
図23】hsIL6R+Fv4-IgG1投与群およびhsIL6R+Fv4-IgG1+PHX-IgG1投与群のノーマルマウス血漿中ヒトIL6Rの濃度推移を示したグラフである。
【
図24】FcγRと抗体のみの溶液もしくは抗体と抗原の混合溶液を作用させたときのBiacoreセンサーグラムである。破線は抗体のみの溶液を作用させた場合であり、実線は抗体と抗原を混合した溶液を作用させた場合のセンサーグラムを示す図である。
【
図25】ヒトFcRnと抗体のみの溶液もしくは抗体と抗原の混合溶液を作用させたときのBiacoreセンサーグラムである。実線は抗体のみの溶液を作用させた場合であり、破線は抗体と抗原を混合した溶液を作用させた場合のセンサーグラムを示す図である。
【
図26】マウスFcRnと抗体のみの溶液もしくは抗体と抗原の混合溶液を作用させたときのBiacoreセンサーグラムである。破線は抗体のみの溶液を作用させた場合であり、実線は抗体と抗原を混合した溶液を作用させた場合のセンサーグラムを示す図である。
【
図27】マウスFcRnと抗体のみの溶液もしくは抗体と抗原の混合溶液を作用させたときのBiacoreセンサーグラムである。破線は抗体のみの溶液を作用させた場合であり、実線は抗体と抗原を混合した溶液を作用させた場合のセンサーグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
アミノ酸
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。
【0017】
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0018】
本明細書において、アミノ酸の改変部位を表す際に用いられる「および/または」の用語の意義は、「および」と「または」が適宜組み合わされたあらゆる組合せを含む。具体的には、例えば「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換されている」とは以下のアミノ酸の改変のバリエーションが含まれる;
(a) 33位、(b)55位、(c)96位、(d)33位および55位、(e)33位および96位、(f)55位および96位、(g)33位および55位および96位。
【0019】
抗原結合単位
本明細書において、「抗原結合単位」とは、「本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの一価の結合単位が結合するエピトープを含む抗原分子が当該抗原結合分子の非存在下において血漿中で通常存在する形態の一分子当りに存在する当該エピトープの数」をいう。抗原結合単位が二単位である抗原の例として、GDF、PDGF、またはVEGF等のホモ二量体の形態で通常血漿中に存在する多量体を含む抗原が例示される。例えば、同一配列の可変領域を二つその分子中に含む(すなわち後述する二重特異性抗体ではない)抗GDF抗体に含まれる可変領域の一価の結合単位が結合するエピトープは、ホモ二量体を形成するGDFの分子中に二単位存在する。また、抗原結合単位が二単位である抗原の例として、IgE等のイムノグロブリン分子も例示される。IgEは、血漿中では重鎖二量体と軽鎖二量体を含む四量体で通常存在するが、同一配列の可変領域を二つその分子中に含む(すなわち後述する二重特異性抗体ではない)抗IgE抗体に含まれる可変領域の一価が結合するエピトープは、当該四量体中に二単位存在することとなる。IgAは、血漿中では重鎖二量体と軽鎖二量体を含む四量体、または当該四量体がJ鎖を介してさらに複合体を形成する八量体の二つの態様で通常存在するが、同一配列の可変領域を二つその分子中に含む(すなわち後述する二重特異性抗体ではない)抗IgA抗体に含まれる可変領域の一価が結合するエピトープは、当該四量体中、および八量体中にはそれぞれ二単位、または四単位が存在することとなる。また、抗原結合単位が三単位である抗原の例として、TNFスーパーファミリーであるTNFα、RANKL、またはCD154等のホモ三量体の形態で通常血漿中に存在する多量体を含む抗原が例示される。
【0020】
抗原結合単位が一単位である抗原分子の例として、可溶型IL-6受容体(以下sIL-6Rとも呼ばれる)、IL-6、HMGB-1、CTGF等の単量体の形態で通常血漿中に存在する分子が例示される。IL-12p40およびIL-12p35を含むIL-12、IL-12p40および(IL-30Bとも呼ばれる)IL-23p19を含むIL-23、もしくはEBI3およびIL27p28を含むIL-23、もしくはIL-12p35およびEBI3を含むIL-35等のヘテロ二量体は、互いに構造の異なる二分子のサブユニットを含む。これらのサブユニットのいずれかに結合する可変領域を二つその分子中に含む(すなわち後述する二重特異性抗体ではない)抗サブユニット抗体に含まれる可変領域の一価が結合するエピトープは一単位であるため、これらのヘテロ二量体の抗原結合単位は一単位である。TNFα-TNFβ-hCGのマルチサブユニット複合体等のヘテロ三量体も同様に、その抗原結合単位は一単位である。
【0021】
なお、抗原結合単位は、抗原結合ドメインの一価の結合単位が結合するエピトープの数を意味することから、抗原結合分子中のパラトープが一種類存在する場合と複数種類存在する場合では、これらの抗原結合分子が結合する抗原が同一の抗原であっても、当該抗原における抗原結合単位は異なることとなる。例えば、上記のヘテロ二量体の例では、抗原結合分子が含む抗原結合ドメイン中の一価の結合単位が当該ヘテロ二量体中の一種類のサブユニットに結合する場合には、当該抗原中の抗原結合単位は一単位であるのに対して、抗原結合分子が、ヘテロ二量体を形成する各サブユニットに結合する一価の結合単位を二つ含む二重特異性または、二重パラトピックな抗原結合分子である場合には、当該抗原中の抗原結合単位は二単位である。
【0022】
多量体(multimer)
本明細書において単に二以上の多量体と記載される場合、多量体という用語にはホモ多量体とヘテロ多量体の両方が含まれる。多量体に含まれるサブユニット間の結合様式としては、ペプチド結合またはジスルフィド結合等の共有結合、もしくはイオン結合、ファンデルワールス結合または水素結合等の安定な非共有結合を含むが、これらに限定されない。ホモ多量体は、複数の同一サブユニットを含み、一方、ヘテロ多量体は、複数の異なるサブユニットを含む。例えば、二量体という用語にはホモ二量体とヘテロ二量体の両方が含まれ、ホモ二量体は、二つの同一サブユニットを含み、一方、ヘテロ二量体は、二つの異なるサブユニットを含む。また、多量体を形成するそれぞれの単位を表す単量体とは、当該単位がポリペプチドの場合には、ペプチド結合によって連結された連続する各構造単位を意味する。
【0023】
抗原
本明細書において「抗原」は抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限りその構造は特定の構造に限定されない。別の意味では、抗原は無機物でもあり得るし有機物でもあり得る。抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ-V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス-Y抗原、ルイス-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF-ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
【0024】
後述されるように、二重特異性抗体等のように抗原結合分子が抗原分子中の複数のエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子と複合体を形成することが可能な抗原は上記に例示される抗原のいずれか、またはその組合せ、換言すれば単量体またはヘテロ多量体であり得る。ヘテロ多量体の非限定な例として、IL-12p40およびIL-12p35を含むIL-12、IL-12p40および(IL-30Bとも呼ばれる)IL-23p19を含むIL-23、もしくはEBI-3およびIL27p28を含むIL-23、もしくはIL-12p35およびEBI-3を含むIL-35等のヘテロ二量体、が挙げられる。
【0025】
上記の抗原の例示には受容体も記載されるが、これらの受容体が血漿中等の生体液中に可溶型で存在する場合、本発明の抗原結合分子と複合体を形成することが可能であるため、上記に挙げた受容体が可溶型で血漿中等の生体液中に存在する限り、本発明の抗原結合分子が結合して本発明の複合体を形成し得る抗原として使用され得る。そのような可溶型受容体の非限定な一態様として、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6Rである、配列番号:1で表されるIL-6Rポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質が例示され得る。
【0026】
上記の抗原の例示には可溶型抗原も記載されるが、当該抗原が存在する溶液に限定はなく生体液、すなわち生体内の脈管又は組織・細胞の間を満たす全ての液体に本可溶型抗原は存在し得る。非限定な一態様では、本発明の抗原結合分子が結合する抗原は、細胞外液に存在することができる。細胞外液とは、脊椎動物では血漿、組織間液、リンパ液、密な結合組織、脳脊髄液、髄液、穿刺液、または関節液等の骨および軟骨中の成分、肺胞液(気管支肺胞洗浄液)、腹水、胸水、心嚢水、嚢胞液、または眼房水(房水)等の細胞透過液(細胞の能動輸送・分泌活動の結果生じた各種腺腔内の液、および消化管腔その他の体腔内液)の総称をいう。
【0027】
また、抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインが結合するエピトープが単一のエピトープである場合、当該抗原結合分子が結合して本発明の複合体を形成し得る抗原の非限定な一態様として、抗原結合単位にホモ二量体、あるいは、ホモ三量体等を含む下記のような分子;GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、VEGF、IgE、IgA、IgG、IgM、RANKL、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、IL-8が例示され得る。
【0028】
エピトープ
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合分子中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合分子中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
【0029】
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8ないし約10個、6ないし20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
【0030】
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
【0031】
エピトープに結合する抗原結合ドメインの構造はパラトープと呼ばれる。エピトープとパラトープの間に作用する、水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合等によりエピトープとパラトープは安定して結合する。このエピトープとパラトープの間の結合力はアフィニティー(affinity)と呼ばれる。複数のエピトープと複数のパラトープが結合するときの結合力の総和はアビディティ(avidity)と呼ばれる。複数のパラトープを含む(すなわち多価の)抗体等が複数のエピトープに結合する際には、結合力(affinity)が相加的または相乗的に働くため、アビディティはアフィニティーよりも高くなる。
【0032】
結合活性
下記にIgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、IgA以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
【0033】
例えば、IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、IgA分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。例えば、上記の目的のためにIgAの定常領域を構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、IgAのcDNA中の、定常領域に相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、定常領域を構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が評価され得る。あるいは、IgA細胞に対する当該抗原結合分子の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が明らかにされ得る。
【0034】
また、IgAタンパク質に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、本明細書において記載されるように、一般的な組換え遺伝子手法を用いることによって、IgAタンパク質内のネイティブな立体エピトープの形成を可能にする宿主細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞)にIgAをコードする組換え遺伝子が形質導入される。このように作製された組換え細胞の培養液から立体構造エピトープを含むIgAが調製される。IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識するとは、当該被験抗原結合分子が固定化された立体構造エピトープを含むIgAに接触した際に当該IgA分子に強く結合する一方で、固定化されたIgAのアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して、当該抗原結合分子が実質的に結合しないとき等が挙げられる。上記線状ペプチドの代わりに、ジチオスレイトール(dithiothreitol)、ジチオエリトリトール(dithioerythritol)β-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)、ホスフィン誘導体(phosphines)、水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohydride)等のジスルフィド結合を切断する還元剤、および/または、グアニジン塩酸塩、尿素、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤等のカオトロピック薬剤によって変性されたIgAに対する当該被験抗原結合分子もまた使用され得る。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトIgAに対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
【0035】
IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIgAに対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ちIgAを抗原とするELISAやEIAの原理によって評価され得る。
【0036】
ELISAフォーマットにおいて、IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIgAに対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、IgAを固定化したELISAプレートに被験抗原結合分子を加え、当該プレートに固定されたIgAに結合した被験抗原結合分子が、被験抗原結合分子を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。上記ELISAにおいては、被験抗原結合分子の希釈系列を作成し、IgAに対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、IgAに対する被験抗原結合分子の結合活性が比較され得る。
【0037】
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
【0038】
例えば、IgEに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、IgEを発現する細胞と反応させた被験抗原結合分子を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合分子を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該抗原結合分子が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合分子の結合量によって表される被験抗原結合分子の結合活性が測定され得る。
【0039】
IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、ある抗原結合分子とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。抗原結合分子間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0040】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたIgAタンパク質が、候補となる競合抗原結合分子の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合分子が添加される。ウェル中のIgAタンパク質に結合した被験抗原結合分子の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合抗原結合分子の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合分子の親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合分子のIgAタンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
【0041】
IgAタンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合分子の量は、予め抗原結合分子を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合分子は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合分子は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
【0042】
候補の競合抗原結合分子会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合分子が、IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20-50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合分子は競合抗原結合分子と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗原結合分子である。
【0043】
IgAに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者の抗原結合分子の結合活性を比較することによって評価され得る。
【0044】
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合分子及び対照抗原結合分子の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合分子と対照抗原結合分子を流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合分子を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
【0045】
また、細胞上に発現する抗原中の同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、例えば次のような方法で評価され得る。抗原がIgEの場合を例に挙げて以下に説明する。まず、IgEを発現する細胞とエピトープに変異が導入されたIgEを発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の結合活性を測定することができる。
【0046】
本方法において、例えば「変異IgE発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異IgEを発現する細胞に対して結合した被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が、標識抗体で染色される。次いで細胞の蛍光強度が検出される。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、抗原結合分子の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
【0047】
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
【0048】
解析によって得られる被験抗原結合分子の変異IgE発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異IgE分子ΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合分子のIgE発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異IgE発現細胞及びIgE発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合分子の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調製されることが特に好ましい。予めIgE中のエピトープを認識していることが確認された抗原結合分子が、対照抗原結合分子として利用される。
【0049】
被験抗原結合分子の変異IgE発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合分子のIgE発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異IgE発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User's Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子のエピトープは同一であると評価され得る。
【0050】
抗原結合ドメイン
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(国際公開第WO2004/044011号、国際公開第WO2005/040229号)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(国際公開第WO2002/032925号)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(国際公開第WO1995/001937号)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(国際公開第WO2002/020565号)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(国際公開第WO2003/029462号)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(国際公開第WO2008/016854号)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0051】
本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは、本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。
【0052】
免疫複合体(Immune complex)
免疫複合体は、少なくとも一つの抗原と少なくとも一つの抗原結合分子が互いに結合してより大きな分子量の複合体を形成する場合に生じる比較的安定した構造を意味する。免疫複合体の非限定な一態様として、抗原‐抗体凝集体が例示される。二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む免疫複合体の形成を評価する方法は、本明細書において後述される。
【0053】
特異的
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。ここで、何ら有意な結合を示さないとは、当該相手方の分子に対する結合活性の、50%以下、通常30%以下、好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下の結合活性を、当該相手方の分子以外の分子に対して示すことをいう。
【0054】
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242 に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。特にヒトIgG1の配列としては、EUナンバリングで表される356-358位のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。また、ヒトIgκ (Kappa)定常領域とヒトIgλ (Lambda)定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0055】
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、IgAに結合する抗体(抗IgA抗体)を作製する方法が例示される。IgA以外の抗原に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
【0056】
抗IgA抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗IgA抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。なお本願発明のモノクローナル抗体には、「ヒト化抗体」や「キメラ抗体」が含まれる。
【0057】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、IgAタンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗IgA抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
【0058】
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。例えば、精製した天然のIgAタンパク質が感作抗原として使用され得る。また、IMGT/GENE-DBにおいてL00022|IGHE*02として記載されている、配列番号:2で表されるIgAポリペプチド配列からなる組換えタンパク質が培養上清中から可溶型のIgAを取得するために精製される。組換えタンパク質を発現させるために、まず、配列番号:3にそのヌクレオチド配列が開示されたIgA重鎖定常領域遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用される配列番号:2で表されるIgAタンパク質が取得され得る。すなわち、IgAをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のIgAタンパク質が公知の方法で精製される。IgA重鎖定常領域遺伝子を発現するに際して、配列番号:3に記載されたポリヌクレオチド配列がシグナル配列の3'末端に作動可能なように連結され得る。また、別の非限定な一態様では、5'末端にシグナル配列を含む重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド配列の3'末端に作動可能なように配列番号:3に記載されたポリヌクレオチド配列が連結され得る。また、組換えタンパク質を精製するために配列番号:2のアミノ末端またはカルボキシ末端に適宜精製のためのタグペプチドが付加され得る。このような例として、GGGGS(配列番号:31)リンカーを介して連結されるAviタグであるGLNDIFEAQKIEWHE(配列番号:4)等が非限定な一態様として挙げられる。前記のような組換えタンパク質の非限定な作製例として、実施例1で記載されるような軽鎖と組み合わせて発現させた組換えIgAタンパク質を、組換え宿主細胞の培養液から回収後精製する方法が挙げられる。
【0059】
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製IgAタンパク質が使用され得る。IgAの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、当該部分ペプチドはヒトIgAのアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、IgA遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてIgAタンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるIgAペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:2のアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8~50、好ましくは10~30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
【0060】
また、IgAタンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるIgAの取得方法及びそれを用いた免疫方法は、PCT/JP2011/077619等にも具体的に記載されている。
【0061】
該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
【0062】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
【0063】
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。タンパク質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
-抗原が膜タンパク質の場合、膜タンパク質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
-免疫抗原を精製する必要が無い
【0064】
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、IgAタンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。IgAをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、IgAを認識する抗体の作製はPCT/JP2011/077619に記載された方法を用いても作製され得る。
【0065】
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるIgAに結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
【0066】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0067】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0068】
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
【0069】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
【0070】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
【0071】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0072】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
【0073】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
【0074】
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、固定化したIgAに対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにIgAが固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内のIgAに接触させ、IgAに結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
【0075】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、当該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0076】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
【0077】
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
【0078】
たとえば、抗IgA抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗IgA抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
【0079】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
【0080】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、当該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
【0081】
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0082】
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0083】
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
【0084】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、IgAに対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばIgAに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のIgAに対する結合は、特異的であることがさらに好ましい。IgAに結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をIgAに接触させる工程、
(2)IgAと抗体との結合を検出する工程、および
(3)IgAに結合する抗体を選択する工程。
【0085】
抗体とIgAとの結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたELISAなどの手法によって、抗体とIgAとの結合が検出され得る。
【0086】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0087】
目的とする抗IgA抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗IgA抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス-ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト-ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0088】
抗IgAモノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:5)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗IgA抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
【0089】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開第WO 1994/011523号を参照のこと)。
【0090】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合分子を単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO(Chinese hamster ovary cell line)、COS(Monkey kidney cell line)、ミエローマ(Sp2/O、NS0等)、BHK (baby hamster kidney cell line)、HEK293(human embryonic kidney cell line with sheared adenovirus (Ad)5 DNA)、PER.C6 cell (human embryonic retinal cell line transformed with the Adenovirus Type 5 (Ad5) E1A and E1B genes)、Hela、Vero、HEK293(human embryonic kidney cell line with sheared adenovirus (Ad)5 DNA)など(Current Protocols in Protein Science (May, 2001, Unit 5.9, Table 5.9.1))
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0091】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0092】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
-酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
-糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
【0093】
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli )、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
【0094】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
【0095】
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
【0096】
本明細書において記載される抗原結合分子における抗原結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0097】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植するCDR移植技術(CDR grafting technology)を適用したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0098】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0099】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。当該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、当該組換え細胞を培養し、当該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、当該ヒト化抗体が当該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開第WO1996/002576号参照)。
【0100】
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Cancer Res., (1993) 53, 851-856)。
【0101】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0102】
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0103】
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)または国際公開WO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
【0104】
EUナンバリングおよびKabatナンバリング
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
【0105】
イオン濃度の条件
金属イオン濃度の条件
本発明の一つの態様では、イオン濃度とは金属イオン濃度のことをいう。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
【0106】
本発明で好適な金属イオンの例としてカルシウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンは多くの生命現象の調節に関与しており、骨格筋、平滑筋および心筋等の筋肉の収縮、白血球の運動および貪食等の活性化、血小板の変形および分泌等の活性化、リンパ球の活性化、ヒスタミンの分泌等の肥満細胞の活性化、カテコールアミンα受容体やアセチルコリン受容体を介する細胞の応答、エキソサイトーシス、ニューロン終末からの伝達物質の放出、ニューロンの軸策流等にカルシウムイオンが関与している。細胞内のカルシウムイオン受容体として、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフも数多く知られている。例えば 、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインがよく知られている。
【0107】
本発明においては、金属イオンがカルシウムイオンの場合には、カルシウムイオン濃度の条件として低カルシウムイオン濃度の条件と高カルシウムイオン濃度の条件が挙げられる。カルシウムイオン濃度の条件によって結合活性が変化するとは、低カルシウムイオン濃度と高カルシウムイオン濃度の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
【0108】
本明細書において、高カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には100μMから10 mMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、200μMから5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では400μMから3 mMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では200μMから2 mMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに400μMから1 mMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5 mMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
【0109】
本明細書において、低カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には0.1μMから30μMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、0.2μMから20μMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では0.5μMから10μMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では1μMから5μMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに2μMから4μMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近い1μMから5μMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
【0110】
本発明において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子の0.1μMから30μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、100μMから10 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子の0.5μMから10μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、200μMから5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性が、生体内の血漿中のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子の1μMから5μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、500μMから2.5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
【0111】
金属イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、低カルシウムイオン濃度および高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
【0112】
さらに本発明において、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性が低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能が高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能を高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0113】
抗原への結合活性を測定する際のカルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
【0114】
本発明の抗原結合分子において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件におけるKDの比であるKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0115】
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0116】
また、本発明の抗原結合分子の低カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性と高カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する低カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)と高カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0117】
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なるカルシウムイオン濃度における抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、カルシウム濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0118】
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウム濃度の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を選択する工程。
【0119】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を単離する工程。
【0120】
また、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0121】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0122】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0123】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0124】
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得された低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子が提供される。(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0125】
本発明のスクリーニング方法において、低カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が0.1μM~30μMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として、0.5μM~10μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が挙げられ、具体的には1μM~5μMにおける抗原結合活性を挙げることができる。また、高カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が100μM~10 mMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として200μM~5 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の血漿中でのイオン化カルシウム濃度を挙げることができ、具体的には0.5 mM~2.5 mMにおける抗原結合活性を挙げることができる。
【0126】
抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0127】
本発明において、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程は、低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0128】
高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い限り、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性と低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0129】
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はいかなる抗原結合ドメイン又は抗原結合分子でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよい。
【0130】
ライブラリ
ある一態様によれば、本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。イオン濃度の例としては金属イオン濃度や水素イオン濃度が好適に挙げられる。
【0131】
本明細書において「ライブラリ」とは複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチド、もしくはこれらの配列をコードする核酸、ポリヌクレオチドをいう。ライブラリ中に含まれる複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチドの配列は単一の配列ではなく、互いに配列の異なる抗原結合分子または抗原結合分子を含む融合ポリペプチドである。
【0132】
本明細書においては、互いに配列の異なる複数の抗原結合分子という記載における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なることを意味する。すなわち、ライブラリ中における互いに異なる配列の数は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」と指称される場合もある。通常のファージディスプレイライブラリでは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパンニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10ないし10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれるが、同じアミノ酸配列を有する個々のクローンが10ないし10,000存在し得ることを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語はライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なること、より具体的には互いに配列の異なる抗原結合分子が106から1014分子、好ましくは107から1012分子、さらに好ましくは108から1011、特に好ましくは108から1010存在することを意味する。
【0133】
また、本発明における、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「複数の」との用語は、例えば本発明の抗原結合分子、融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子、ベクターまたはウイルスは、通常、その物質の2つ以上の種類の集合を指す。例えば、ある2つ以上の物質が特定の形質に関して互いに異なるならば、その物質には2種類以上が存在することを表す。例としては、アミノ酸配列中の特定のアミノ酸位置で観察される変異体アミノ酸が挙げられ得る。例えば、フレキシブル残基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上の抗原結合分子がある場合、本発明の抗原結合分子は複数個存在する。他の例では、フレキシブル残基をコードする塩基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸をコードする塩基以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上のポリヌクレオチド分子があるならば、本発明におけるポリヌクレオチド分子は複数個存在する。
【0134】
さらに、本発明における、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「から主としてなる」との用語は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の数が反映される。具体的には、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中に少なくとも104分子存在することが好ましい。また、より好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも105分子存在するライブラリから取得され得る。さらに好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも106分子存在するライブラリから取得され得る。特に好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも107分子存在するライブラリから取得され得る。また、好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも108分子存在するライブラリから取得され得る。別の表現では、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の割合としても好適に表現され得る。具体的には、本発明の抗原結合ドメインは、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数の0.1%から80%、好ましくは0.5%から60%、より好ましくは1%から40%、さらに好ましくは2%から20%、特に好ましくは4%から10% 含まれるライブラリから取得され得る。融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子またはベクターの場合も、上記と同様、分子の数や分子全体における割合で表現され得る。また、ウイルスの場合も、上記と同様、ウイルス個体の数や個体全体における割合で表現され得る。
【0135】
カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
【0136】
前記のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、例えば、金属イオンがカルシウムイオンである場合には、カルシウム結合モチーフを形成するアミノ酸であれば、その種類は問わない。カルシウム結合モチーフは、当業者に周知であり、詳細に記載されている(例えばSpringerら(Cell (2000) 102, 275-277)、KawasakiおよびKretsinger(Protein Prof. (1995) 2, 305-490)、Moncriefら(J. Mol. Evol. (1990) 30, 522-562)、Chauvauxら(Biochem. J. (1990) 265, 261-265)、BairochおよびCox(FEBS Lett. (1990) 269, 454-456)、Davis(New Biol. (1990) 2, 410-419)、Schaeferら(Genomics (1995) 25, 638~643)、Economouら(EMBO J. (1990) 9, 349-354)、Wurzburgら(Structure. (2006) 14, 6, 1049-1058))。すなわち、ASGPR, CD23、MBR、DC-SIGN等のC型レクチン等の任意の公知のカルシウム結合モチーフが、本発明の抗原結合分子に含まれ得る。このようなカルシウム結合モチーフの好適な例として、上記のほかには配列番号:6に記載される抗原結合ドメインに含まれるカルシウム結合モチーフも挙げられ得る。
【0137】
また、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、金属キレート作用を有するアミノ酸も好適に用いられる得る。金属キレート作用を有するアミノ酸の例として、例えばセリン(Ser(S))、スレオニン(Thr(T))、アスパラギン(Asn(N))、グルタミン(Gln(Q))、アスパラギン酸(Asp(D))およびグルタミン酸(Glu(E))等が好適に挙げられる。
【0138】
前記のアミノ酸が含まれる抗原結合ドメインの位置は特定の位置に限定されず、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる限り、抗原結合ドメインを形成する重鎖可変領域または軽鎖可変領域中のいずれの位置でもあり得る。すなわち、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が重鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0139】
また、本発明の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が軽鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1のKabatナンバリングで表される30位、31位および/または32位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0140】
また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2のKabatナンバリングで表される50位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリが提供される。
【0141】
さらに別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される92位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0142】
また、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が、前記に記載された軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3から選択される2つまたは3つのCDRに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから本発明の異なる態様として取得され得る。さらに、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/または92位のいずれかひとつ以上に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0143】
特に好適な実施形態では、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖可変領域のフレームワーク配列は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を有していることが望ましい。したがって、本発明の一態様においてフレームワーク配列が完全にヒトの配列であるならば、ヒトに投与(例えば疾病の治療)された場合、本発明の抗原結合分子は免疫原性反応を殆どあるいは全く引き起こさないと考えられる。上記の意味から、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む 」とは、本発明におけるフレームワーク配列の一部が、いずれかのヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の一部と同一であることを意味する。例えば、本発明の抗原結合分子の重鎖FR2の配列が複数の異なるヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の重鎖FR2配列が組み合わされた配列である場合も、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む 」抗原結合分子である。
【0144】
フレームワークの例としては、例えばV-Base(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)等のウェブサイトに含まれている、現在知られている完全にヒト型のフレームワーク領域の配列が好適に挙げられる。 これらのフレームワーク領域の配列が本発明の抗原結合分子に含まれる生殖細胞系列の配列として適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性にもとづいて分類され得る(Tomlinsonら(J. Mol. Biol. (1992) 227, 776-798)WilliamsおよびWinter(Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1456-1461)およびCoxら(Nat. Genetics (1994) 7, 162-168))。 7つのサブグループに分類されるVκ、10のサブグループに分類されるVλ、7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
【0145】
完全にヒト型のVH配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、VH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、VH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、VH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、VH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、VH7サブグループ(VH7-4、VH7-81)のVH配列等が好適に挙げられる。これらは公知文献(Matsudaら(J. Exp. Med. (1998) 188, 1973-1975))等にも記載されており、当業者はこれらの配列情報をもとに本発明の抗原結合分子を適宜設計することが可能である。これら以外の完全にヒト型のフレームワークまたはフレームワークの準領域も好適に使用され得る。
【0146】
完全にヒト型のVκ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、O18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、O11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、L25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(本明細書においてはVk5-2とも指称される))、Vk6サブグループに分類されるA10、A14、A26等(Kawasakiら(Eur. J. Immunol. (2001) 31, 1017-1028)、SchableおよびZachau(Biol. Chem. Hoppe Seyler (1993) 374, 1001-1022)およびBrensing-Kuppersら(Gene (1997) 191, 173-181))が好適に挙げられる。
【0147】
完全にヒト型のVλ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、V1-22、VL1サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、V2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、V3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、V4-6、VL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、V5-6等(Kawasakiら(Genome Res. (1997) 7, 250-261))が好適に挙げられる。
【0148】
通常これらのフレームワーク配列は一またはそれ以上のアミノ酸残基の相違により互いに異なっている。これらのフレームワーク配列は本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用され得る。本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用される完全にヒト型のフレームワークの例としては、これだけに限定されるわけではないが、ほかにもKOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、POM等が挙げられる(例えば、前記のKabatら (1991)およびWuら(J. Exp. Med. (1970) 132, 211-250))。
【0149】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、生殖細胞系の配列の使用がほとんどの個人において有害な免疫反応を排除すると期待されている一つの理由は、以下の通りであると考えられている。通常の免疫反応中に生じる親和性成熟ステップの結果、免疫グロブリンの可変領域に体細胞の突然変異が頻繁に生じる。これらの突然変異は主にその配列が超可変的であるCDRの周辺に生じるが、フレームワーク領域の残基にも影響を及ぼす。これらのフレームワークの突然変異は生殖細胞系の遺伝子には存在せず、また患者の免疫原性になる可能性は少ない。一方、通常のヒトの集団は生殖細胞系の遺伝子によって発現されるフレームワーク配列の大多数にさらされており、免疫寛容の結果、これらの生殖細胞系のフレームワークは患者において免疫原性が低いあるいは非免疫原性であると予想される。免疫寛容の可能性を最大にするため、可変領域をコード化する遺伝子が普通に存在する機能的な生殖細胞系遺伝子の集合から選択され得る。
【0150】
本発明の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が前記の可変領域配列の配列、重鎖可変領域または軽鎖可変領域の配列、もしくはCDR配列またはフレームワーク配列に含まれる抗原結合分子を作製するために部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。
【0151】
例えば、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:6(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
【0152】
また、前記のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基以外の残基として多様なアミノ酸が含まれるように設計することも可能である。本発明においてそのような残基は、フレキシブル残基と指称される。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:6(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
【0153】
【0154】
【0155】
本明細書においては、フレキシブル残基とは、公知のかつ/または天然抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、その位置で提示されるいくつかの異なるアミノ酸を持つ軽鎖および重鎖可変領域上のアミノ酸が非常に多様である位置に存在するアミノ酸残基のバリエーションをいう。非常に多様である位置は一般的にCDR領域に存在する。一態様では、公知のかつ/または天然抗体の非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.) (1987年および1991年)が提供するデータが有効である。また、インターネット上の複数のデータベース(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)では収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されており、これらの配列とその配置の情報は本発明における非常に多様な位置の決定に有用である。本発明によると、アミノ酸がある位置で好ましくは約2から約20、好ましくは約3から約19、好ましくは約4から約18、好ましくは5から17、好ましくは6から16、好ましくは7から15、好ましくは8から14、好ましくは9から13、好ましくは10から12個の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有する場合は、その位置は非常に多様といえる。いくつかの実施形態では、あるアミノ酸位置は、好ましくは少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、好ましくは少なくとも約6、好ましくは少なくとも約8、好ましくは約10、好ましくは約12の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有し得る。
【0156】
また、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:7(Vk1)、配列番号:8(Vk2)、配列番号:9(Vk3)、配列番号:10(Vk4)等の生殖細胞系列の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
【0157】
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のEUナンバリングで表される30位、31位、および/または32位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される92位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。また、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を設計することも可能である。例えば、上記の目的でカドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
【0158】
前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
【0159】
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
【0160】
また、本発明の非限定な一態様では、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J.Mol.Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J.Appl.Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput.Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ.Mol.Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
【0161】
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。本発明で記載されるナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されるアミノ酸配列をいう。
【0162】
本発明の一つの態様では、「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリから、本発明の抗原結合ドメインが取得され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:11(6RL#9-IgG1)または配列番号:12(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。また、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域の代わりに、生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域の中から適宜選択することによって作製され得る。例えば、配列番号:11(6RL#9-IgG1)または配列番号:12(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列と生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
【0163】
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域の配列に、フレキシブル残基が含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:11(6RL#9-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位、96位および/または100a位以外のCDR3のアミノ酸残基が挙げられる。または配列番号:12(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位および/または101位以外 のCDR3のアミノ酸残基もまた挙げられる。
【0164】
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせることによっても、複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、重鎖可変領域の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として重鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。当該アミノ酸残基が重鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、重鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位のアミノ酸が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
【0165】
前記の、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該重鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。また、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基以外の重鎖可変領域のCDR1、CDR2および/またはCDR3のアミノ酸配列としてランダム化可変領域ライブラリも好適に使用され得る。軽鎖可変領域として生殖細胞系列の配列が用いられる場合には、例えば、配列番号:7(Vk1)、配列番号:8(Vk2)、配列番号:9(Vk3)、配列番号:10(Vk4)等の生殖細胞系列の配列が非限定な例として挙げられ得る。
【0166】
前記の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸としては具体的に電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸が好適に例示される。
【0167】
水素イオン濃度の条件
また、本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件とは水素イオン濃度の条件またはpHの条件をいう。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
【0168】
本発明においては、イオン濃度の条件としてpHの条件が用いられる場合には、pHの条件として高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件が挙げられる。pHの条件によって結合活性が変化するとは、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)と低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、pH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、pH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
【0169】
本明細書において、pH中性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0の間から選択され得る。また、別の態様では、pH6.7からpH9.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH7.0からpH9.0の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH7.0からpH8.0の間から選択され得る。特に生体内の血漿中(血中)でのpHに近いpH7.4が好適に挙げられる。
【0170】
本明細書において、pH酸性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5の間から選択され得る。また、別の態様では、pH4.5からpH6.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH5.0からpH6.5の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH5.5からpH6.5の間から選択され得る。特に生体内の早期エンドソーム内での水素イオン濃度に近いpH5.8が好適に挙げられる。
【0171】
本発明において、抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子のpH4.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH4.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH9.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、より好ましくは、抗原結合分子のpH5.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH9.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。また、好ましくは抗原結合分子のpH5.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH8.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子のpH5.8での抗原に対する結合活性が、pH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
【0172】
pHの条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。すなわち、当該測定方法に際して異なるpHの条件下での結合活性が測定される。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、pH酸性域およびpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
【0173】
さらに本発明において、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0174】
抗原への結合活性を測定する際の水素イオン濃度またはpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
【0175】
本発明の抗原結合分子において、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるKDの比であるKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が40以上である。KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0176】
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0177】
また、本発明の抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるkd(解離速度定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0178】
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なる水素イオン濃度すなわちpHにおける抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、水素イオン濃度すなわちpH以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0179】
例えば、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子のスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を選択する工程。
【0180】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を単離する工程。
【0181】
また、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0182】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0183】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0184】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0185】
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子が提供される。(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0186】
本発明のスクリーニング方法において、高水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが4.0~6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5~6.6の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0~6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5~6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、低水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが6.7~10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7~9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0~9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0~8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
【0187】
抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0188】
本発明において、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程は、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0189】
低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い限り、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性と高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0190】
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はいかなる抗原結合ドメイン又は抗原結合分子でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよい。
【0191】
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
【0192】
動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗原結合ドメインまたは抗体から、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する方法として、例えば、国際公開WO2009/125825で記載されるような抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも一つが、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異に置換されているもしくは抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中に、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子または抗原結合分子が好適に挙げられる。
【0193】
側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異が導入される位置は特に限定されず、置換または挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどが好適に挙げられる。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上の複数のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得る。又、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などが同時に行われ得る。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジン等に置き換えたヒスチジン等scanning等の方法によってランダムに行われ得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換または挿入の変異がランダムに導入された抗原結合ドメインまたは抗体の中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子が選択され得る。
【0194】
前記のようにその側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異後のpH中性域での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異前のpH中性域での抗原結合活性と同等である抗原結合分子が好適に挙げられる。本発明において、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることをいう。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後のpH7.4での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換または挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などによって、抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にされ得る。本発明においては、そのような側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことによって結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0195】
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、イオン濃度の条件が水素イオン濃度の条件もしくはpHの条件である場合には、あらかじめ存在している抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
【0196】
本発明の一つの態様として、「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。
【0197】
当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
【0198】
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位および/または34位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位および/または56位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
【0199】
前記の「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、水素イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表3または表4に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。また、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基やフレキシブル残基以外の軽鎖可変領域のアミノ酸配列としては、非限定な例としてVk1(配列番号:7)、Vk2(配列番号:8)、Vk3(配列番号:9)、Vk4(配列番号:10)等の生殖細胞系列の配列が好適に使用され得る。
【0200】
【0201】
【0202】
前記の、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸残基としては、具体的に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンまたはグルタミン酸等の天然のアミノ酸のほか、ヒスチジンアナログ(US2009/0035836)もしくはm-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)または3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然のアミノ酸(Bioorg. Med. Chem. (2003) 11 (17), 3761-3768が好適に例示される。また、当該アミノ酸残基の特に好適な例としては、側鎖のpKaが6.0-7.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンが好適に例示される。
【0203】
抗原結合ドメインのアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0204】
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
【0205】
また、本発明の非限定な一態様では、前記と同様に、ゲノムDNAにおけるV遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面に露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J. Mol. Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J. Appl. Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput. Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ. Mol. Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
【0206】
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。
【0207】
Fc領域
Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216位のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。当該Fc領域の好適な例として、後述されるようにpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFc領域が挙げられる。また当該Fc領域の好適な例として、後述されるようにFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域が挙げられる。そのようなFc領域の非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域が例示される。
【0208】
FcRn
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、ヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しクラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性βまたは軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通αまたは重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1,α2,α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。
【0209】
FcRnは、哺乳動物の母性胎盤または卵黄嚢で発現され、それは母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現するげっ歯類新生児の小腸では、FcRnが摂取された初乳または乳から母性IgGの刷子縁上皮を横切る移動に関与する。FcRnは多数の種にわたって多数の他の組織、並びに種々の内皮細胞系において発現している。それはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、および肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、それを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。FcRnのIgG分子への結合は、通常、厳格にpHに依存的であり、最適結合は7.0未満のpH酸性域において認められる。
【0210】
配列番号:17で表されたシグナル配列を含むポリペプチドを前駆体とするヒトFcRnは、生体内で(配列番号:18にシグナル配列を含むそのポリペプチドが記載されている)ヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。β2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnが通常の組換え発現手法を用いることによって製造される。このようなβ2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnに対する本発明のFc領域の結合活性が評価され得る。本発明において、特に記載のない場合は、ヒトFcRnは本発明のFc領域に結合し得る形態であるものを指し、例としてヒトFcRnとヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体が挙げられる。非限定な一態様において、マウスFcRn(配列番号:73)とマウスβ2-ミクログロブリン(配列番号:74)との複合体も挙げられる。
【0211】
FcRn、特にヒトFcRnに対するFc領域の結合活性
本発明により提供されるFc領域のFcRn、特にヒトFcRnに対する結合活性は、前記結合活性の項で述べられているように、当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価され得る。これらは当業者公知の方法で測定され得る。例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等が使用され得る。
【0212】
本発明のFc領域のヒトFcRnに対する結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、国際公開WO2009/125825に記載されているようにMESバッファー、37℃の条件において測定され得る。また、本発明のFc領域のヒトFcRnに対する結合活性の測定は当業者公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定され得る。本発明のFc領域とヒトFcRnの結合活性の測定は、Fc領域またはFc領域を含む本発明の抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいはFc領域またはFc領域を含む本発明の抗原結合分子をアナライトとして流すことによって評価され得る。
【0213】
本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7~pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0~pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。pH7.4でのヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーが低いためにその結合アフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。本発明において、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0~pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5~pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8~pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーは、10℃~50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃~40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
【0214】
The Journal of Immunology (2009) 182, 7663-7671によれば、天然型ヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はpH酸性域(pH6.0)でKD 1.7μMであるが、pH中性域では活性をほとんど検出できていない。よって、好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 20μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。上記のKD値は、The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
【0215】
本発明においては、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域が好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得る。当該ドメインがpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変することによって所望のFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得るが、Fc領域中のアミノ酸を改変することによってpH酸性域の条件下で所望のFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFc領域も好適に取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。前記のFcγレセプターに対する結合活性を改変するために用いられる手法と同様の公知の手法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
【0216】
本発明の抗原結合分子に含まれるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFcRn結合ドメインが取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、もしくは酸性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、国際公開WO1997/034631に記載されているように、EUナンバリングで表される252位、254位、256位、309位、311位、315位、433位、および/または434位ならびにこれらのアミノ酸に組み合わせる253位、310位、435位、および/または426位のアミノ酸が挙げられる。国際公開WO2000/042072に記載されるように、EUナンバリングで表される238位、252位、253位、254位、255位、256位、265位、272位、286位、288位、303位、305位、307位、309位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、386位、388位、400位、413位、415位、424位、433位、434位、435位、436位、439位および/または447位のアミノ酸が好適に挙げられる。同様に、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2002/060919に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、254位、255位、256位、308位、309位、311位、312位、385位、386位、387位、389位、428位、433位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。さらに、そのような改変が可能なアミノ酸として、国際公開WO2004/092219に記載されているように、EUナンバリングで表される250位、314位および428位のアミノ酸も挙げられる。加えて、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2006/020114に記載されているように、238位、244位、245位、249位、252位、256位、257位、258位、260位、262位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、307位、311位、312位、316位、317位、318位、332位、339位、341位、343位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、423位、427位、430位、431位、434位、436位、438位、440位、および/または442位のアミノ酸も好適に挙げられる。また、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2010/045193に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、307位、308位、378位、428位、430位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が増強される。
【0217】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
251位のアミノ酸がArgまたはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、またはThrのいずれか、
308位のアミノ酸がIleまたはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
311位のアミノ酸がGlu、Leu、またはSerのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはAspのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がHis、Phe、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Lys、Met、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
【0218】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、308位のアミノ酸がIle、309位のアミノ酸がPro、および/または311位のアミノ酸がGluを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がLeu、312位のアミノ酸がAla、および/または314位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がIleまたはThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がGlu、Leu、またはSer、312位のアミノ酸がAla、および/または314位のアミノ酸がAlaまたはLeuを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、308位のアミノ酸がThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がSer、312位のアミノ酸がAsp、および/または314位のアミノ酸がLeuを含む改変であり得る。
【0219】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、251位のアミノ酸がLeu、252位のアミノ酸がTyr、254位のアミノ酸がSer、またはThr、255位のアミノ酸がArg、および/または256位のアミノ酸がGluを含む改変であり得る。
【0220】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか、433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、434位のアミノ酸がHis、Phe、またはTyrのいずれか、および/または436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Lys、Met、またはThrのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、428位のアミノ酸がHisまたはMet、および/または434位のアミノ酸がHisまたはMetを含む改変であり得る。
【0221】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、385位のアミノ酸がArg、386位のアミノ酸がThr、387位のアミノ酸がArg、および/または389位のアミノ酸がProを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、385位のアミノ酸がAsp、386位のアミノ酸がProおよび/または389位のアミノ酸がSerを含む改変であり得る。
【0222】
さらに、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所のアミノ酸が改変され得る。
【0223】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、250位のアミノ酸がGln、および/または428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、250位のアミノ酸がGlu、および/または428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれかを含む改変であり得る。
【0224】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
251位のアミノ酸がAspまたはGluのいずれか、
252位のアミノ酸がTyr、
307位のアミノ酸がGln、
308位のアミノ酸がPro、
378位のアミノ酸がVal、
380位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がLeu、
430位のアミノ酸がAla、またはLysのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、His、Ser、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がIle、
の群から選択される少なくとも二つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、二箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、三箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
【0225】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、307位のアミノ酸がGln、および434位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、252位のアミノ酸がTyr、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、378位のアミノ酸がVal、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。当該改変の別の異なる非限定な一態様は、428位のアミノ酸がLeu、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の異なる非限定な一態様は、434位のアミノ酸がAla、および436位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。さらに、当該改変のもう一つの非限定な一態様は、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がTyrを含む改変であり得る。さらに、当該改変の別のもう一つの非限定な一態様は、307位のアミノ酸がGln、および436位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。
【0226】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、307位のアミノ酸がGln、380位のアミノ酸がAla、および434位のアミノ酸がSerのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、307位のアミノ酸がGln、380位のアミノ酸がAla、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、252位のアミノ酸がTyr、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がTyrを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、251位のアミノ酸がAsp、307位のアミノ酸がGln、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。
【0227】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
252位のアミノ酸がTyr、
256位のアミノ酸がPro、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Ile、Lys、Leu、Met、Val、またはTrpのいずれか、
312位のアミノ酸がPro、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、またはAsnのいずれか、
380位のアミノ酸がAsn、Ser、またはThrのいずれか、
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
434位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がIle、Leu、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、
の群から選択される少なくとも二つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、二箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、三箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
【0228】
Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、257位のアミノ酸がIle、および311位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、257位のアミノ酸がIle、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、376位のアミノ酸がVal、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。
【0229】
また、別の非限定な一態様では、上記に記載されたpH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性という特徴に代えて、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性という特徴を有するFc領域を含む抗原結合分子もまたスクリーニングされ得る。より好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。さらにより好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 15μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。
【0230】
また、別の非限定な一態様では、上記に記載されたpH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性という特徴に加えて、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性という特徴を有するFc領域を含む抗原結合分子もまたスクリーニングされ得る。より好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。さらにより好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 15μMまたはそれより強いFc領域を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。
【0231】
本発明において、pH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が好ましい。当該Fc領域は、あらかじめpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRnに対する結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得る。当該Fc領域がpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子に含まれるFc領域中のアミノ酸を改変することによって所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子が取得され得るが、ヒトFc領域中のアミノ酸を改変することによってpH酸性域および/またはpH中性域における所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域も好適に取得され得る。また、あらかじめpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有しているFc領域中のアミノ酸の改変によって、所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子も取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすヒトFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域および/またはpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。公知の手法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
【0232】
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH酸性域においてヒトFcRnに結合することができる限り(ゆえに、出発Fc領域はpH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を必ずしも必要とするわけではない)いずれのFc領域も出発ドメインとして使用され得る。出発Fc領域の例としては、IgG抗体のFc領域、すなわち天然型のFc領域が好適に挙げられる。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられた改変Fc領域も本発明の改変Fc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のIgG抗体のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
【0233】
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%~100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%~100%未満、より好ましくは約85%~100%未満の、より好ましくは約90%~100%未満、最も好ましくは約95%~100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定な一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで表されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
【0234】
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0235】
本発明の抗原結合分子に含まれるpH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 20μMまたはそれより強いFc領域、より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強いFc領域、さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強いFc領域、を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えば、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、または配列番号:16でそれぞれ表されるIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4等のヒトIgG、およびそれらの改変体のFc領域が挙げられる。
【0236】
抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によって上記の所望の効果をもたらす改変が可能なアミノ酸として、例えば、国際公開WO2000/042072に記載されるように、EUナンバリングで表される238位、252位、253位、254位、255位、256位、265位、272位、286位、288位、303位、305位、307位、309位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、386位、388位、400位、413位、415位、424位、433位、434位、435位、436位、439位および/または447位のアミノ酸が好適に挙げられる。同様に、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2002/060919に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、254位、255位、256位、308位、309位、311位、312位、385位、386位、387位、389位、428位、433位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。さらに、そのような改変が可能なアミノ酸として、国際公開WO2004/092219に記載されているように、EUナンバリングで表される250位、314位および428位のアミノ酸も挙げられる。また、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2010/045193に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、307位、308位、378位、428位、430位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH酸性域の条件下におけるFcRnに対する結合が増強される。
【0237】
出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によって、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域もまた取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えば、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、または配列番号:16でそれぞれ表されるIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4等のヒトIgG、およびそれらの改変体のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位~225位、227位、228位、230位、232位、233位~241位、243位~252位、254位~260位、262位~272位、274位、276位、278位~289位、291位~312位、315位~320位、324位、325位、327位~339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位~378位、380位、382位、385位~387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位~438位、440位および442位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
【0238】
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
【0239】
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。これらのアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表5-1~5-33に示すアミノ酸の改変が挙げられる。
【0240】
【0241】
表5-2は表5-1の続きの表である。
【表5-2】
【0242】
表5-3は表5-2の続きの表である。
【表5-3】
【0243】
表5-4は表5-3の続きの表である。
【表5-4】
【0244】
表5-5は表5-4の続きの表である。
【表5-5】
【0245】
表5-6は表5-5の続きの表である。
【表5-6】
【0246】
表5-7は表5-6の続きの表である。
【表5-7】
【0247】
表5-8は表5-7の続きの表である。
【表5-8】
【0248】
表5-9は表5-8の続きの表である。
【表5-9】
【0249】
表5-10は表5-9の続きの表である。
【表5-10】
【0250】
表5-11は表5-10の続きの表である。
【表5-11】
【0251】
表5-12は表5-11の続きの表である。
【表5-12】
【0252】
表5-13は表5-12の続きの表である。
【表5-13】
【0253】
表5-14は表5-13の続きの表である。
【表5-14】
【0254】
表5-15は表5-14の続きの表である。
【表5-15】
【0255】
表5-16は表5-15の続きの表である。
【表5-16】
【0256】
表5-17は表5-16の続きの表である。
【表5-17】
【0257】
表5-18は表5-17の続きの表である。
【表5-18】
【0258】
表5-19は表5-18の続きの表である。
【表5-19】
【0259】
表5-20は表5-19の続きの表である。
【表5-20】
【0260】
表5-21は表5-20の続きの表である。
【表5-21】
【0261】
表5-22は表5-21の続きの表である。
【表5-22】
【0262】
表5-23は表5-22の続きの表である。
【表5-23】
【0263】
表5-24は表5-23の続きの表である。
【表5-24】
【0264】
表5-25は表5-24の続きの表である。
【表5-25】
【0265】
表5-26は表5-25の続きの表である。
【表5-26】
【0266】
表5-27は表5-26の続きの表である。
【表5-27】
【0267】
表5-28は表5-27の続きの表である。
【表5-28】
【0268】
表5-29は表5-28の続きの表である。
【表5-29】
【0269】
表5-30は表5-29の続きの表である。
【表5-30】
【0270】
表5-31は表5-30の続きの表である。
【表5-31】
【0271】
表5-32は表5-31の続きの表である。
【表5-32】
【0272】
表5-33は表5-32の続きの表である。
【表5-33】
【0273】
Fcγレセプター
Fcγレセプター(FcγRとも記載される)とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得るレセプターをいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む。即ち、FcγRIIa (H)およびFcγRIIa (R))、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む。即ち、FcγRIIIa (V)およびFcγRIIIa (F))およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(FcγRIV、CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγレセプターの好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。ヒトFcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:19(NM_000566.3)及び20(NP_000557.1)に、ヒトFcγRIIa(アロタイプH131)のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:21(BC020823.1)及び22(AAH20823.1)に(アロタイプR131は配列番号:22の166番目のアミノ酸がArgに置換されている配列である)、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:23(BC146678.1)及び24(AAI46679.1)に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:25(BC033678.1)及び26(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:27(BC128562.1)及び28(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。例えばアロタイプV158が用いられる場合にFcγRIIIaVと表記されているように、特記されないかぎり、アロタイプF158が用いられているが、本願で記載されるアイソフォームFcγRIIIaのアロタイプが特に限定して解釈されるものではない。
【0274】
FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)は、IgGのFc部分と結合するα鎖と細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖が会合する。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の自身の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらのレセプターは、マクロファージやマスト細胞、抗原提示細胞等の多くの免疫細胞に発現している。これらのレセプターがIgGのFc部分に結合することによって伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能や炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、抗原提示細胞の機能亢進が促進される。上記のように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても活性型Fcγレセプターと呼ばれる。
【0275】
一方、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)の自身の細胞質内ドメインには抑制型シグナルを伝達するITIMが含まれている。B細胞ではFcγRIIbとB細胞レセプター(BCR)との架橋によってBCRからの活性化シグナルが抑制される結果BCRの抗体産生が抑制される。マクロファージでは、FcγRIIIとFcγRIIbとの架橋によって貪食能や炎症性サイトカインの産生能が抑制される。上記のように抑制化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても抑制型Fcγレセプターと呼ばれる。
【0276】
FcγRに対するFc領域の結合活性
前述されるように、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域として、Fcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域が挙げられる。そのようなFc領域の非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域が例示される。Fcγレセプターが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0277】
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
【0278】
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたFc領域を含む抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγレセプターが結合される。競合するFc領域改変体を含む抗原結合分子の非存在下では、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγレセプターは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていないFc領域改変体を含む抗原結合分子は、天然型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγレセプター間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。FcγレセプターをGSTでタグ化する方法としては、FcγレセプターをコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子が作動可能に連結されたベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウェアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
【0279】
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
【0280】
本発明が含むFc領域として、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域のほかに、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域も適宜使用され得る。本明細書において、「天然型ヒトIgGのFc領域」とは、配列番号:13、14、15、または16で例示されるヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFc領域のEUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるFc領域を意味する。そのようなFcγR結合改変Fc領域は、天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。FcγR結合改変Fc領域のFcγRに対する結合活性が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγRに対する結合活性より高いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
【0281】
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域においてヒトFcγレセプターに結合することができる限り、いずれのFc領域も出発Fc領域として使用され得る。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
【0282】
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%~100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%~100%未満、より好ましくは約85%~100%未満の、より好ましくは約90%~100%未満、最も好ましくは約95%~100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明のFcγR結合改変Fc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と本発明のFcγR結合改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
【0283】
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0284】
本発明の抗原結合分子に含まれる、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域(FcγR結合改変Fc領域)はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によって当該FcγR結合改変Fc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えば、配列番号:13、14、15、または16で例示されるヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。
【0285】
他のアミノ酸への改変は、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高い効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。こうしたアミノ酸の改変としては、例えば国際公開WO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260およびWO2006/023403などにおいて報告されている。
【0286】
そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域(FcγR結合改変Fc領域)を取得することができる。
【0287】
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6(表6-1~表6-3)に記載されるような組合せが挙げられる。
【0288】
【0289】
表6-2は表6-1の続きの表である。
【表6-2】
【0290】
表6-3は表6-2の続きの表である。
【表6-3】
【0291】
本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定するpHの条件はpH酸性域またはpH中性域の条件が適宜使用され得る。本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7~pH10.0を意味する。好ましくはpH7.0~pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。本発明において、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0~pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5~pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8~pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、Fc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーは、10℃~50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、Fc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために、15℃~40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、Fc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
【0292】
本明細書において、FcγR結合改変Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が天然型Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも高いとは、FcγR結合改変Fc領域のFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性が、これらのヒトFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも高いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、対照とするヒトIgGの天然型Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較してFcγR結合改変Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性が、105%以上、好ましくは110%以上、115%以上、120%以上、125%以上、特に好ましくは130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上、155%以上、160%以上、165%以上、170%以上、175%以上、180%以上、185%以上、190%以上、195%以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、7.5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上の結合活性を示すことをいう。天然型Fc領域としては、出発Fc領域も使用され得るし、同じサブクラスの抗体の天然型Fc領域も使用され得る。
【0293】
本発明では、対照とするヒトIgGの天然型Fc領域として、EUナンバリングで表される297位のアミノ酸に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域が好適に用いられる。EUナンバリングで表される297位のアミノ酸に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるか否かは、非特許文献6に記載された手法が用いられ得る。例えば、下記のような方法によって、天然型ヒトIgGのFc領域に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるか否かを判定することが可能である。被験天然型ヒトIgGにN-Glycosidase F(Roche diagnostics)を反応させることによって、被験天然型ヒトIgGから糖鎖が遊離される(Weitzhandlerら(J. Pharma. Sciences (1994) 83, 12, 1670-1675)。次に、エタノールを反応させてタンパク質が除かれた反応液(Schenkら(J. Clin. Investigation (2001) 108 (11) 1687-1695)の濃縮乾固物が、2-アミノピリジンまたは2-アミノベンズアミドによって蛍光標識される(Biggeら(Anal. Biochem. (1995) 230 (2) 229-238)。セルロースカートリッジを用いた固相抽出により脱試薬された、蛍光標識された2-APまたは2-AB化糖鎖が、順相クロマトグラフィによって解析される。検出されるクロマトグラムのピークを観察することによって、ヒトIgGの天然型Fc領域に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるか否かを判定することが可能である。
【0294】
対照とする同じサブクラスの天然型抗体のFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:13(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、14(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号CAA27268.1)、および16(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、被験Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
【0295】
選択的なFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域
本発明において好適に用いられる、Fc領域の例として、特定のFcγレセプターに対する結合活性がそのほかのFcγレセプターに対する結合活性よりも高い性質を有するFc領域(選択的なFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域)もまた好適に挙げられる。抗原結合分子として抗体が用いられる場合には、一分子の抗体は一分子のFcγレセプターとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制型Fcγレセプターに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできないし、活性型Fcγレセプターに結合した状態で他の活性型Fcγレセプターや抑制型Fcγレセプターに結合することはできない。
【0296】
上述したように、活性型Fcγレセプターとしては、FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158またはF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1またはFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、及びFcγRIIa(アロタイプH131またはR131を含む)が好適に挙げられる。また、FcγRIIb(FcγRIIb-1またはFcγRIIb-2を含む)が抑制型Fcγレセプターの好適な例として挙げられる。
【0297】
本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子は、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域(以下、野生型Fc領域と総称される)および当該野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、活性型FcγR(FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa、および/またはFcγRIIc)に対しても結合活性が維持あるいは減少しているFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子でもあり得る。
【0298】
野生型Fc領域および野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子が前記活性型FcγRに対する結合活性が減少している程度としては、例えば、99%以下、98%以下、97%以下、96%以下、95%以下、94%以下、93%以下、92%以下、91%以下、90%以下、88%以下、86%以下、84%以下、82%以下、80%以下、78%以下、76%以下、74%以下、72%以下、70%以下、68%以下、66%以下、64%以下、62%以下、60%以下、58%以下、56%以下、54%以下、52%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下、0.005%以下が挙げられる。
【0299】
本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子は、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域(以下、野生型Fc領域と総称される)および当該野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、抑制型FcγR(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2)に対しても結合活性が増強しているFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子でもあり得る。
【0300】
野生型Fc領域および野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子が前記抑制型FcγRに対する結合活性が増強している程度としては、例えば、101%以上、102%以上、103%以上、104%以上、105%以上、106%以上、107%以上、108%以上、109%以上、110%以上、112%以上、114%以上、116%以上、118%以上、120%以上、122%以上、124%以上、126%以上、128%以上、130%以上、132%以上、134%以上、136%以上、138%以上、140%以上、142%以上、144%以上、146%以上、148%以上、150%以上、155%以上、160%以上、165%以上、170%以上、175%以上、180%以上、185%以上、190%以上、195%以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、500倍以上、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上、1000倍以上、10000倍以上、100000倍以上が挙げられる。
【0301】
また、本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子は、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域(以下、野生型Fc領域と総称される)および当該野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、活性型FcγR(FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa、および/またはFcγRIIc)に対して結合活性が維持あるいは減少し、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域(以下、野生型Fc領域と総称される)および当該野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、抑制型FcγR(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2)に対して結合活性が増強しているFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子でもあり得る。
【0302】
また、本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインを含むFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子は、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域(以下、野生型Fc領域と総称される)および当該野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、抑制型Fcγレセプター(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2)に対する結合活性の増強の程度が、活性型Fcγレセプター(FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa)に対する結合活性の増強の程度よりも高いFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子でもあり得る。
【0303】
本発明は、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAspであるFc領域またはEUナンバリングで表される328位のアミノ酸がGluであるFc領域に対して、前記アミノ酸の改変の項で説明された態様等により、さらに別の少なくとも一つのFc領域に対する改変を加えることが可能である。また、これらの改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠損、あるいは修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。例えば、FcγRIIbに対する結合活性を増強し、かつFcγRIIa(H型)およびFcγRIIa(R型)に対する結合活性を維持あるいは低減する改変を加えることが可能である。そのような改変を加えることにより、FcγRIIaよりもFcγRIIbに対する結合選択性が向上する。
【0304】
また本発明のポリペプチドの各種FcγRに対する結合活性が維持、増強、あるいは減少したかどうかは、上記例に従って求めた各種FcγRの本発明のポリペプチドに対する結合量の増減により判断することもできる。ここで、各種FcγRのポリペプチドに対する結合量は、各ポリペプチドに対してアナライトである各種FcγRを相互作用させた前後で変化したセンサーグラムにおけるRU値の差を、センサーチップにポリペプチドを捕捉させた前後で変化したセンサーグラムにおけるRU値の差で割った値を意味する。
【0305】
本発明のポリペプチドのFcγRIIa(R型、H型)に対する結合活性が維持あるいは減少し、かつFcγRIIbに対する結合活性が増強したポリペプチドかどうかは、上記例に従って求めた、当該ポリペプチドのFcγRIIaに対する結合量と当該ポリペプチドのFcγRIIbに対する結合量とを用いることにより判断することが可能である。
【0306】
例えば、本発明のポリペプチドのFcγRIIbに対する結合量が親ポリペプチドのFcγRIIbに対する結合量より増加し、本発明のポリペプチドのFcγRIIa(R型、H型)に対する結合量が親ポリペプチドのFcγRIIa(R型、H型)に対する結合量と同等(維持されている)か、好ましくは減少している場合である。また上記例に従って求めた、当該ポリペプチドのFcγRIaに対する結合量、FcγRIIIaに対する結合量を適宜組み合わせて判断することも可能である。
【0307】
本発明の非限定な一態様では、抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高い(抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有する)Fc領域の例として、US2009/0136485またはWO2012/115241に挙げられているFc領域のほか、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0308】
また本発明の非限定な一態様では、抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高い(抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有する)Fc領域の例として、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US2009/0136485またはWO2012/115241に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
【0309】
また本発明の非限定な一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0310】
さらに本発明の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0311】
抗原結合分子
本発明において、抗原結合分子は抗原結合ドメインおよびFc領域を含む分子を表す最も広義な意味として使用されており、具体的には、それらが抗原に対する結合活性を示す限り、様々な分子型が含まれる。例えば、抗原結合ドメインがFc領域と結合した分子の例として、抗体が挙げられる。抗体には、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が含まれ得る。また抗体の断片として使用される場合としては、抗原結合ドメインおよび抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab')2、scFvおよびFv)が好適に挙げられ得る。既存の安定なα/βバレルタンパク質構造等の立体構造が scaffold(土台)として用いられ、その一部分の構造のみが抗原結合ドメインの構築のためにライブラリ化されたスキャフォールド分子も、本発明の抗原結合分子に含まれ得る 。
【0312】
本発明の抗原結合分子は、FcRnに対する結合およびFcγレセプターに対する結合を媒介するFc領域の少なくとも部分を含むことができる。例えば、非限定な一態様において、抗原結合分子は抗体またはFc融合タンパク質であり得る。融合タンパク質とは、天然ではそれが自然に連結しない第二のアミノ酸配列を有するポリペプチドに連結された第一のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。例えば、融合タンパク質は、Fc領域の少なくとも部分(例えば、FcRnに対する結合を付与するFc領域の部分やFcγレセプターに対する結合を付与するFc領域の部分)からなるアミノ酸配列、および、例えばレセプターのリガンド結合ドメインまたはリガンドのレセプター結合ドメインからなるアミノ酸配列を含む非免疫グロブリンポリペプチド、を含むことができる。アミノ酸配列は、一緒に融合タンパク質に運ばれる別々のタンパク質に存在できるか、あるいはそれらは通常は同一タンパク質に存在できるが、融合ポリペプチド中の新しい再編成に入れられる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係でコードされたポリヌクレオチドを作成し、それを発現する遺伝子組換えの手法によって作製され得る。
【0313】
本発明の抗原結合ドメイン、Fc領域等の各ドメインはポリペプチド結合によって直接連結され得るし、リンカーを介して連結され得る。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering (1996) 9 (3), 299-305)に開示されるリンカー等が使用され得るが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
【0314】
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:29)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:30)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:33)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:34)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:35)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:36)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0315】
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0316】
各ドメインを連結するリンカーが複数用いられる場合には、全て同種のリンカーが用いられ得るし、異種のリンカーも用いられ得る。
【0317】
また、上記記載で例示されるリンカーのほか、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
【0318】
各ドメインをペプチド結合で連結するために、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドがインフレームで連結される。ポリヌクレオチドをインフレームで連結する方法としては、制限断片のライゲーションやフュージョンPCR、オーバーラップPCR等の手法が公知であり、本発明の抗原結合分子の作製にも適宜これらの方法が単独または組合せで使用され得る。本発明では、用語「連結され」、「融合され」、「連結」または「融合」は相互交換的に用いられる。これらの用語は、上記の化学結合手段または組換え手法を含めた全ての手段によって、二以上のポリペプチド等のエレメントまたは成分を一つの構造を形成するように連結することをいう。インフレームで連結するとは、二以上のドメイン、エレメントまたは成分がポリペプチドである場合に、当該ポリペプチドの正しい読み取り枠を維持するように連続したより長い読み取り枠を形成するための二以上の読取り枠の単位の連結をいう。二分子のFabが抗原結合ドメインとして用いられた場合、当該抗原結合ドメインとFc領域がリンカーを介することなくペプチド結合によってインフレームで連結された本発明の抗原結合分子である抗体は、本願の好適な抗原結合分子として使用され得る。
【0319】
二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む複合体
実施例1に記載のとおり(国際公開WO2011/122011に示されているように)、H54/L28-IgG1と比較してpHの条件によってsIL-6Rに対する結合活性がより変化するFv4-IgG1は、sIL-6Rの消失を加速するが、sIL-6R単独よりも消失を加速しない。sIL-6R単独より消失を加速するためには、(例えば、実施例1に記載されるFv4-IgG1-v2等の)pH中性域におけるFcRnに対する結合を増強したFc領域を含む抗原結合分子を用いる必要がある。
【0320】
その一方で、驚くべきことに、Caイオン濃度の条件によってヒトIgAに対する結合活性が変化するGA2-IgG1は、pH中性域におけるFcRnに対する結合を増強していない天然型IgG1由来のFc領域を含むにも関わらず、ヒトIgAの消失をヒトIgA単独よりも加速することが見出された。同様にpHの条件によってヒトIgEに対する結合活性が変化するクローン278は、pH中性域におけるFcRnに対する結合を増強していない天然型IgG1由来のFc領域を含むにも関わらず、ヒトIgEの消失をヒトIgE単独よりも加速することが見出された。特定の理論に拘束されるものではないが、このようなことがGA2-IgG1やクローン278において起こる理由として以下のメカニズムが例示される。
【0321】
sIL-6R等のように抗原結合単位が一単位(すなわちホモ単量体)である場合、二価の抗原結合ドメインを含む一分子の抗体に対して二分子(すなわち二単位の抗原結合単位)の抗原が結合し、一分子の抗sIL-6R抗体と二単位の抗原結合単位を含む二分子の抗原分子と複合体を形成する。そのため、このような抗原と抗体の複合体は、
図1に示すように一つのFc領域(天然型IgG1のFc領域)しか有しない。当該複合体は一つのFc領域を介して一分子のFcγR、または二分子のFcRnに結合するため、これらの受容体に対する親和性は通常のIgG抗体と同様であり、細胞内への取込みは主に非特異的に起こると考えられ得る。
【0322】
一方、重鎖および軽鎖のヘテロ複合体の二量体であるヒトIgA等のように抗原結合単位が二単位である場合、当該抗原結合単位中には、抗原結合ドメインが結合するエピトープも二単位存在することとなる。しかし、二価の(すなわち一分子の抗IgA抗体に含まれる抗原結合ドメインが同一のエピトープに結合する)抗IgA抗体がその抗原であるIgAに結合する場合、一分子の抗IgA抗体に含まれる二価の個々の抗原結合ドメインが、一分子のIgA分子に存在する二単位のエピトープに各々結合することはエピトープの配置等の点から困難であることが考えられる。その結果、一分子の抗IgA抗体中に存在する二価の抗原結合ドメインに結合する二分子のIgA中に存在する二単位の抗原結合単位には、別の抗IgA抗体分子が結合することによって、少なくとも四分子(すなわち抗原分子であるIgAの二つの分子と抗原結合分子である抗IgA抗体の二つの分子)を含む抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成すると考えられる。
【0323】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子が少なくとも四量体の大きな免疫複合体を形成する場合、当該免疫複合体はFcγR、FcRn、補体レセプター等に対して少なくとも二つ以上の多価のFc領域を介してavidityで強固に結合することが可能である。このため、
図7に示されるように、当該複合体はこれらのレセプターを発現する細胞に天然型IgG1よりも高い効率で取り込まれる。一方、一単位の抗原結合単位を含む(単量体の)抗原分子に結合する等の抗原結合分子と抗原分子との免疫複合体のこれらのレセプターに対するFc領域を介した親和性は上述したように十分ではないため、
図1に示されるようにこれらの受容体を発現する細胞内へ当該免疫複合体は主に非特異的(avidityによる結合を介する取込よりは非効率的)に取り込まれる。すなわち、avidityによる結合を介する取込よりも非効率的である。
【0324】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子として、pH又はCa依存的結合等のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する結合が変化する抗原結合ドメインを含む抗体が血漿中で少なくとも四分子(二分子の抗原および二分子の抗体)以上からなる抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成した場合において、当該免疫複合体が細胞内に取り込まれたときは、そのイオン濃度の条件が血漿中の条件とは異なるエンドソーム内で抗原が当該抗体から解離する。そのため、当該免疫複合体が取り込まれた細胞のエンドソーム内では、当該免疫複合体の形成が解消される。解離した抗原はエンドソーム内でFcRnに結合することができないため、ライソソームに移行した後に分解される。一方、抗原を解離した抗体は、エンドソーム内でFcRnに結合した後に血漿中にリサイクルされると考えられる(
図7)。
【0325】
上述したように、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原に対する天然IgG1型の定常領域を含むpHあるいはCa依存的結合抗体が大きな免疫複合体を形成して、avidityでFcγR、FcRn、補体レセプター等に結合することが出来れば、抗原の消失のみを選択的に大幅に加速することが出来ると考えられる。ヒトIgAに結合するGA2-IgG1が投与された場合にも、そのような大きな免疫複合体が形成されていると考えられた。実際、実施例3で示されたように、GA2-IgG1に対して、マウスFcγRに対する結合が損なわれた改変が導入されたGA2-IgG1-FcγR(-)は、ヒトIgA の消失をGA2-IgG1のようにヒトIgA単独と比較して大幅に加速することはできず、ヒトIgA単独と同等の消失を示した。このことから、GA2-IgG1がヒトIgAの消失を大幅に加速することができたのは、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原であるヒトIgAとGA2-IgG1を含む免疫複合体が、FcγRに対してavidityで結合し、FcγRを発現する細胞に速やかに取り込まれたためと考えられた。当該免疫複合体を取り込んだ細胞のエンドソーム内で当該免疫複合体から解離したIgAはライソソームで分解される。それとともに、当該エンドソーム内でFcRnに結合後血漿中にリサイクルされたIgAを解離した抗体は、再度血漿中のIgAに結合することが可能となる。このようにして、血漿中のヒトIgAの消失が大幅に加速されたと考えられる。抗原の血漿中からの消失を加速する方法として、pH中性域でFcRnに対して結合するFc領域のアミノ酸の改変体を用いる方法が国際公開WO2011/122011に記載されている。本発明は、上述の改変体を用いることなく、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失を加速する方法として有用であるとともに、GA2-N434Wにて示されたように、上述の改変体と組み合わせることによって二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させることが可能である。
【0326】
二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む免疫複合体の形成を評価する方法
上述のような、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させる作用を発揮するためには、抗原結合分子と抗原が大きな免疫複合体を形成し、抗原結合分子に含まれるFc領域がavidityでFcγRおよび/またはFcRnに強く結合することが好ましいと考えられる。抗原が二以上の抗原結合単位を含む抗原であれば、二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であるため、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化し、上述されるレセプターに対してavidityで結合する抗原結合分子をスクリーニングすることによって、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させる抗原結合分子を取得することが可能である。
【0327】
複合体形成評価方法
抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、免疫複合体が抗原結合分子単体または抗原分子単体よりも分子が大きくなる性質を利用したサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィー法、超遠心分析法、光散乱法、電子顕微鏡、マススペクトロメトリー等を含む分析化学的手法が挙げられる(Molecular Immunology (2002), 39, 77-84、Molecular Immunology(2009), 47, 357-364)。例えば、
図9に示されているようにサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィーを用いた場合、免疫複合体を形成しているか否かは、抗原分子単独もしくは抗原結合分子単独を分析した場合と比較してより大きな分子種が観測されるかで評価される。
【0328】
さらに抗原結合分子もしくは抗原がイムノグロブリン定常領域を有する場合には、免疫複合体がFcレセプターまたは補体成分に抗原結合分子単体もしくは抗原単体よりも強く結合する性質を利用したELISAやFACS、SPR法(例えばBiacoreを用いた方法)等を含む免疫化学的手法も挙げられる(The Journal of Biological Chemistry (2001) 276(9), 6591-6604、Journal of Immunological Methods (1982) 50, 109-114, Journal of Immunology (2010) 184 (4),1968-1976、mAbs (2009) 1 (5) 491-504)。例えば、Fcレセプターを固相化したELISAを行った場合、免疫複合体を形成しているか否かは、抗原単体もしくは抗原結合分子単体を評価した場合と比較して検出されるシグナルが増加しているかで評価される。
【0329】
抗原結合分子のカクテルを用いた単量体抗原の血漿中からの消失を促進する方法
上述したように、抗原が多量体抗原(例えば、非限定な一例としてIgA, IgE等のイムノグロブリン、もしくは、TNFまたはCD154等のTNFスーパーファミリー)であるときは、二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む大きな免疫複合体が形成される場合があると考えられる。一方、抗原が単量体抗原の場合でも、当該単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する適切な二以上の抗原結合分子であって、(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって当該エピトープに対する結合が変化する抗原結合分子の混合物もまた、二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。本明細書において、単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する適切な二以上の抗原結合分子であって、(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって当該エピトープに対する結合が変化する抗原結合分子の混合物を抗原結合分子カクテルと呼ぶ。このうち抗原結合分子のうち、免疫複合体を形成する少なくとも一つの抗原結合分子(に含まれる抗原結合ドメイン)がイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであればよい。
【0330】
多重特異性または多重パラトピックな抗原結合分子を用いた単量体抗原の血漿中からの消失を促進する方法
また、抗原が単量体抗原の場合でも、抗原結合分子に含まれる各抗原結合ドメインが当該単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する特徴を有し、個々の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合が(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子もまた、二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。上記のような抗原結合分子の非限定な一態様として、単量体抗原に存在する互いに異なるエピトープに結合する適切な可変領域を含む多重特異性(multispecific)抗体、または多重パラトピックな(multiparatopic)抗体が例示される。そのような多重特異性(multispecific)抗体、または多重パラトピックな(multiparatopic)抗体の非限定な一態様として、その可変領域がpHまたはCa依存的な結合抗体(
図8に示すようなエピトープAを認識する右腕の可変領域とエピトープBを認識する左腕の可変領域を含む、二重特異性(bispecific)抗体あるいは二重パラトピック(biparatopic)抗体)もまた、二以上の抗体、および二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。
【0331】
単量体抗原の異なるエピトープに対する抗原結合ドメインであって、当該各エピトープに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化し、上述されるレセプターに対してavidityで結合することが可能な抗原結合ドメインの組合せをスクリーニングすることによって、単量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させる抗原結合分子を取得することが可能である。多重特異性または多重パラトピックな抗原結合ドメインの、各エピトープに対する結合活性を変化させるイオン濃度の条件は同一のイオン濃度の条件であってもよいし、異なるいイオン濃度の条件であってもよい。例えば、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がpHの条件、またはCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。さらに、例えば、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がpHの条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。また、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープ対する結合活性がpHの条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性もpHの条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子もまた、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。さらに、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子もまた、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。
【0332】
多重特異性抗原結合分子、または多重パラトピックな抗原結合分子
その少なくとも一つの抗原結合ドメインが抗原分子中の第一のエピトープに結合し、その少なくとも一つの別の抗原結合ドメインが抗原分子中の第二のエピトープに結合する特徴を有する、少なくとも二つの抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、その反応の特異性という観点から多重特異性抗原結合分子と呼ばれる。一分子の抗原結合分子に含まれる二種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、二つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は二重特異性抗原結合分子と呼ばれる。また、一分子の抗原結合分子に含まれる三種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、三つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は三重特異性抗原結合分子と呼ばれる。
【0333】
抗原分子中の第一のエピトープに結合する抗原結合ドメイン中のパラトープと、第一のエピトープと構造の異なる第二のエピトープに結合する抗原結合ドメイン中のパラトープとはその構造が互いに異なる。ゆえに、その少なくとも一つの抗原結合ドメインが抗原分子中の第一のエピトープに結合し、その少なくとも一つの別の抗原結合ドメインが抗原分子中の第二のエピトープに結合する特徴を有する、少なくとも二つの抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、その構造の特異性という観点から多重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。一分子の抗原結合分子に含まれる二種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、二つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は二重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。また、一分子の抗原結合分子に含まれる三種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、三つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は三重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。
【0334】
一つまたは複数の抗原結合ドメインを含む多価の多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法は、Conrathら(J.Biol.Chem. (2001) 276 (10) 7346-7350)、Muyldermans(Rev. Mol. Biotech. (2001) 74, 277-302)およびKontermann R.E. (2011) Bispecific Antibodies(Springer-Verlag)等の非特許文献、ならびに国際公開WO1996/034103またはWO1999/023221等の特許文献等にも記載されている。これらに記載された多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法を用いることによって、本発明の抗原結合分子を作製することが可能である
【0335】
二重特異性抗体とその作製方法
前記のような多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法の一態様として、二重特異性抗体とその作製方法が下記に例示される。二重特異性抗体とは、異なるエピトープに対して特異的に結合する二種類の可変領域を含む抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
【0336】
二重特異性抗体を前記の抗体の項で記載されたような組換え手法を用いて製造する場合、目的の二種の可変領域を含む重鎖をコードする遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させる方法が採用され得る。しかしながら、こうした共発現させる方法における重鎖の組合せを考慮するだけでも、(i) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖と第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖が一対となった重鎖の組合せ、(ii) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せ、(iii) 第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せが、2:1:1の分子数の割合で存在する混合物となる。これら三種類の重鎖の組合せの混合物から目的の重鎖の組合せを含む抗原結合分子を精製することは困難である。
【0337】
こうした組換え手法を用いて二重特異性抗体を製造する際に、重鎖を構成するCH3ドメインに適当なアミノ酸置換の改変を加えることによってヘテロな組合せの重鎖を含む二重特異性抗体が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにして異種の重鎖形成の促進および同種の重鎖形成の阻害を引き起こす方法である(国際公開WO1996/027011、Ridgwayら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchantら(Nat. Biotech. (1998) 16, 677-681))。
【0338】
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、重鎖の会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、重鎖内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有する重鎖の会合が阻害され、配列の異なる二つの重鎖が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(国際公開WO2006/106905)。このような方法も二重特異性抗体を製造する際に、採用され得る。
【0339】
本発明の非限定な一態様における抗原結合分子に含まれるFc領域としては、上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を形成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される349のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がTrpであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がSerに、368のアミノ酸がAlaに、407のアミノ酸がValであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0340】
そのほかの本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAspであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。上記態様では、409のアミノ酸はAspに代えてGlu、399のアミノ酸はLysに代えてArgでもあり得る。また、399のアミノ酸のLysに加えて360のアミノ酸としてAsp又は392のアミノ酸としてAspも好適に追加され得る。
【0341】
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0342】
本発明のさらに別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0343】
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、これらが組み合わされた以下の態様のいずれか;
(i) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
(ii) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439のアミノ酸のGluに代えて360のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392のアミノ酸のAsp又は439のアミノ酸のAspであってもよい)、
(iii) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370のアミノ酸をGluに置換しない上で、439のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
【0344】
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
【0345】
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
【0346】
また、上記の異種の重鎖の会合技術のほか、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖を、各々、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖に会合させる異種の軽鎖の会合技術として知られるCrossMab技術(Scaeferら(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. (2011) 108, 11187-11192))も、本発明が提供する多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子を作製するために使用され得る。
【0347】
血漿中から二以上の抗原結合単位を含む抗原を消失させるための抗原結合分子の使用
本発明によって、
(i) Fc領域、および、
(ii) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、
を含む抗原結合分子の使用であって、
(a) 二分子以上の当該抗原結合分子、および、(b) 二分子以上の抗原、ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む、
を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子の、血漿中から当該抗原を消失させるための使用が提供される。
【0348】
本発明において、抗原結合分子の使用は、血漿中から当該抗原を消失することができればよく、その使用の態様は特に限定されない。そのような使用の非限定な一態様として、本発明が提供する抗原結合分子を含む医薬組成物、または本発明が提供する抗原結合分子を対象に投与することを含む方法等が例示される。また、非限定な別の一態様として、対象から単離された血漿を本発明の抗原結合分子と接触せしめ形成させた、二分子以上の当該抗原結合分子、および、二分子以上の抗原(ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む)を含む免疫複合体を、FcRnまたはFcγレセプターを発現する細胞に接触させることを含む、血漿中から当該抗原を消失させるためのex vivoの方法における当該抗原結合分子の使用も例示される。
【0349】
薬物動態の改善
本発明において、「血漿中抗原消失能」とは、抗原結合分子が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子の生体内への分泌が生じた際に、血漿中に存在する抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加する」とは、抗原結合分子を投与した際に、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、FcγRまたはFcRnに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、を投与したときと比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなっていればよい。抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子とを生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより判断することが可能である。二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位の抗原を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子の、pH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させる(または、低カルシウムイオン濃度における抗原に対する結合活性を高カルシウムイオン濃度における抗原に対する結合活性より低下させる)等によりイオン濃度によって抗原に対する結合活性が変化した抗原結合分子と可溶型抗原を投与した後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したと判断することができる。可溶型抗原は、血漿中において抗原結合分子に結合する抗原であっても、または抗原結合分子が結合しない抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗原結合分子結合抗原濃度」および「血漿中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる(後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である)。「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」を意味することから、可溶型抗原濃度は「血漿中総抗原濃度」として決定することができる。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定する様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0350】
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」、「血漿中(血中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
【0351】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子がヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの非ヒト動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されて消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留する時間が長くなることも含む。天然型Fc領域を有するヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、天然型Fc領域を有するヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int. Immunol. (2001) 13 (12), 1551-1559)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために用いることができる。具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が分解されて消失するまでの時間が長くなることを含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができ、抗原が抗原結合分子に結合している時間を長くすることが可能となる。抗原結合分子の投与によって血漿中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度が増加し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。つまり、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による血漿中からの抗原の消失が加速されること、を含む。抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin. Pharmacol. (2008) 48 (4), 406-417において測定されている方法を用いることができる。
【0352】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたか否かは、遊離抗原の血漿中濃度を測定し、遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
【0353】
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で決定され得る。例えば、Pharm. Res. (2006) 23 (1), 95-103において使用されている方法を用いて決定され得る。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。
【0354】
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、生体内マーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などが挙げられる。本発明において、「血漿中抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「血漿中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれも含まれる概念である。
【0355】
血漿中総抗原濃度は、抗原結合分子として、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、または、FcγRに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減し得る。
【0356】
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出され得る:
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
【0357】
C値がより小さい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
【0358】
抗原/抗原結合分子モル比は、上記のように算出され得る。
【0359】
抗原/抗原結合分子モル比は、抗原結合分子として、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、FcγRまたはFcRnに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0360】
本発明において、本発明の抗原結合分子と比較する参照抗原結合分子として、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、FcγRまたはFcRnに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、が用いられる。
【0361】
血漿中から細胞内への本発明の抗原結合分子の取込みにFcRnが介在する経路が利用される場合の血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することもできる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0362】
血漿中から細胞内への本発明の抗原結合分子の取込みにFcγRが介在する経路が利用される場合の血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することもできる。
【0363】
同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0364】
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその減少を評価することにより決定され得る。
【0365】
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0366】
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
【0367】
本発明においては、ヒトにおける抗原結合分子の薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性をもとに、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
【0368】
本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善、血漿中滞留性の向上」とは抗原結合分子を生体に投与した際のいずれかの薬物動態パラメーターが改善されていること(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下、バイオアベイラビリティのいずれか)、あるいは、投与後の適切な時間における抗原結合分子の血漿中濃度が向上していることを意味する。抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス、バイオアベイラビリティ等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス(ノーマルマウスおよびヒトFcRnトランスジェニックマウス)、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。
【0369】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の、(i) Fc領域、ならびに、(ii) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、を含む抗原結合分子であって、二以上の当該抗原結合分子および二以上の抗原結合単位の抗原を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子が、血漿中から当該抗原結合単位を消失させる可能性のある一つのメカニズムとして、以下のようなメカニズムが例示される。sIL-6R等のように抗原結合単位が一単位(すなわち単量体)である場合、二価の抗原結合ドメインを含む一分子の抗体に対して二分子(すなわち二単位の抗原結合単位)の抗原が結合し、一分子の抗sIL-6R抗体と二単位の抗原結合単位を含む二分子の抗原分子と複合体を形成する。そのため、このような抗原と抗体の複合体は、
図1に示すように一つのFc領域(天然型IgG1のFc領域)しか有しない。当該複合体は一つのFc領域を介して一分子のFcγR、または二分子のFcRnに結合するため、これらの受容体に対する親和性は通常のIgG抗体と同様であり、細胞内への取込みは主に非特異的に起こると考えられ得る。
【0370】
一方、重鎖および軽鎖のヘテロ複合体の二量体であるヒトIgA等のように抗原結合単位が二単位である場合、当該抗原結合単位中には、抗原結合ドメインが結合するエピトープも二単位存在することとなる。しかし、二価の(すなわち一分子の抗IgA抗体に含まれる抗原結合ドメインが同一のエピトープに結合する)抗IgA抗体がその抗原であるIgAに結合する場合、一分子の抗IgA抗体に含まれる二価の個々の抗原結合ドメインが、一分子のIgA分子に存在する二単位のエピトープに各々結合することはエピトープの配置等の点から困難であることが考えられる。その結果、一分子の抗IgA抗体中に存在する二価の抗原結合ドメインに結合する二分子のIgA中に存在する二単位の抗原結合単位には、別の抗IgA抗体分子が結合することによって、少なくとも四分子(すなわち抗原分子であるIgAの二つの分子と抗原結合分子である抗IgA抗体の二つの分子)を含む抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成すると考えられる。
【0371】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子が少なくとも四量体の大きな免疫複合体を形成する場合、当該免疫複合体はFcγR、FcRn、補体レセプター等に対して少なくとも二つ以上の多価のFc領域を介してavidityで強固に結合することが可能である。このため、
図7に示されるように、当該複合体はこれらのレセプターを発現する細胞に効率的に取り込まれる。一方、一単位の抗原結合単位を含む(単量体の)抗原分子に結合する等の抗原結合分子と抗原分子との免疫複合体のこれらのレセプターに対するFc領域を介した親和性は上述したように十分ではないため、
図1に示されるようにこれらの受容体を発現する細胞内へ当該免疫複合体は主に非特異的(avidityによる結合を介する取込よりは非効率的)に取り込まれる。すなわち、avidityによる結合を介する取込よりも非効率的である。
【0372】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子として、pH又はCa依存的結合等のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する結合が変化する抗原結合ドメインを含む抗体が血漿中で少なくとも四分子(二分子の抗原および二分子の抗体)以上からなる抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成した場合において、当該免疫複合体が細胞内に取り込まれたときは、そのイオン濃度の条件が血漿中の条件とは異なるエンドソーム内で抗原が当該抗体から解離する。そのため、当該免疫複合体が取り込まれた細胞のエンドソーム内では、当該免疫複合体の形成が解消される。解離した抗原はエンドソーム内でFcRnに結合することができないため、ライソソームに移行した後に分解される。一方、抗原を解離した抗体は、エンドソーム内でFcRnに結合した後に血漿中にリサイクルされると考えられる(
図7)。
【0373】
上述したように、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原に対する天然IgG1型の定常領域を含むpHあるいはCa依存的結合抗体が大きな免疫複合体を形成して、avidityでFcγR、FcRn、補体レセプター等に結合することが出来れば、抗原の消失のみを選択的に大幅に加速することが出来ると考えられる。ヒトIgAに結合するGA2-IgG1が投与された場合にも、そのような大きな免疫複合体が形成されていると考えられた。実際、実施例3で示されたように、GA2-IgG1に対して、マウスFcγRに対する結合が損なわれた改変が導入されたGA2-IgG1-FcγR(-)は、ヒトIgA の消失をGA2-IgG1のようにヒトIgA単独と比較して大幅に加速することはできず、ヒトIgA単独と同等の消失を示した。このことから、GA2-IgG1がヒトIgAの消失を大幅に加速することができたのは、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原であるヒトIgAとGA2-IgG1を含む免疫複合体が、FcγRに対してavidityで結合し、FcγRを発現する細胞に速やかに取り込まれたためと考えられた。当該免疫複合体を取り込んだ細胞のエンドソーム内で当該免疫複合体から解離したIgAはライソソームで分解される。それとともに、当該エンドソーム内でFcRnに結合後血漿中にリサイクルされたIgAを解離した抗体は、再度血漿中のIgAに結合することが可能となる。このようにして、血漿中のヒトIgAの消失が大幅に加速されたと考えられる。抗原の血漿中からの消失を加速する方法として、pH中性域でFcRnに対して結合するFc領域のアミノ酸の改変体を用いる方法が国際公開WO2011/122011に記載されている。本発明は、上述の改変体を用いることなく、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失を加速する方法として有用であるとともに、上述の改変体と組み合わせることによって二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させることが可能である。
【0374】
血漿中から当該抗原を消失させるためのex vivoの方法
本発明によって提供される、血漿中から当該抗原を消失させるための方法における抗原結合分子の使用の非限定な一態様として、対象から単離された血漿を本発明の抗原結合分子と接触せしめ形成させた、二分子以上の当該抗原結合分子、および、二分子以上の抗原(ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む)を含む免疫複合体を、FcRnおよび/またはFcγレセプターを発現する細胞に接触させることを含む、血漿中から当該抗原を消失させるための、いわゆるex vivoの方法における当該抗原結合分子の使用も例示される。抗原結合分子を生体内に投与する方法に代えて/と組み合わせて、抗原結合分子および抗原結合分子に結合する抗原を含む血漿を生体外にいったん取り出した後に、FcRnおよび/またはFcγレセプターを発現する細胞と接触させ一定期間を経過して細胞外にリサイクル(再分泌または再循環ともいう)された、抗原を結合しない抗原結合分子を含む血漿を生体内に戻すいわゆるex vivoの方法によっても、血漿中の抗原の消失速度を促進させることができる。
【0375】
また、本発明によって提供される、血漿中から当該抗原を消失させるための方法における抗原結合分子の使用の非限定な一態様として、本発明の抗原結合分子が投与された対象から単離された血漿中に存在する、二分子以上の当該抗原結合分子、および、二分子以上の抗原(ただし当該抗原は二以上の抗原結合単位を含む)を含む免疫複合体を、FcRnおよび/またはFcγレセプターを発現する細胞に接触させることを含む、血漿中から当該抗原を消失させるための、いわゆるex vivoの方法における当該抗原結合分子の使用も例示される。
【0376】
当該抗原が血漿から消失しているか否かは、前述の血漿中の抗原の消失速度が、本発明の抗原結合分子の代わりに、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、FcγRまたはFcRnに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、を対照として比較したときに促進されているか否かを評価すること等によって確認され得る。
【0377】
Fc領域および抗原に対する結合活性イオン濃度依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子のスクリーニング方法
本発明は、以下の工程(a)~(g)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子のスクリーニング方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子を抗原と接触させる工程、
(g) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
を提供する。
【0378】
本発明の非限定な一態様では、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドが適切な発現ベクターに挿入される。例えば、抗原結合ドメインが抗体の可変領域である場合には、当該可変領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入された制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗原結合分子の遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗原結合分子の可変領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、本発明の抗原結合分子の発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記可変領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合され得る。
【0379】
所望の抗原結合分子を製造するために、抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが制御配列に作動可能に連結された態様で発現ベクターに組み込まれる。制御配列とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗原結合分子が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に連結され得る。例えばシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:5)を有するペプチドが使用されるが、これ以外にも適したシグナル配列が連結され得る。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、所望の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを発現する組換え細胞が取得され得る。当該組換え細胞から、本発明の抗原結合分子を製造する方法は、前記の抗体の項で記載した方法に準じて製造され得る。
【0380】
核酸に関して「作動可能に連結した」は、その核酸が他の核酸配列と機能的な関係にあることを意味する。例えば、プレシーケンス(presequence)または分泌リーダーのDNAは、あるポリペプチドの分泌に関わっている前駆体タンパク質として発現する場合は、そのポリペプチドのDNAと作動可能的に結合している。プロモーターまたはエンハンサーは、それがあるコード配列の転写に影響する場合はその配列と作動可能に連結している。または、リボソーム結合部は、それが翻訳を容易にする位置にある場合は作動可能にコード配列と連結している。通常、「作動可能に連結した」は、結合したDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合は連続して読取り枠内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは連続する必要はない。連結は適切な制限部位でライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。また前記のOverlap Extension PCRの手法によっても連結された核酸が作製され得る。
【0381】
本発明の非限定な一態様において、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドの改変体が適切な発現ベクターに挿入される。このような改変体の一つとして、ランダム化可変領域ライブラリとして、合成ライブラリや非ヒト動物を起源として作製された免疫ライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列がヒト化された改変体が好適に挙げられる。ヒト化された抗原結合分子の改変体の作製方法は、前記のヒト化抗体の作製方法と同様の方法が採用され得る。
【0382】
また、改変体のその他の態様として、ランダム化可変領域ライブラリとして合成ライブラリやナイーブライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合親和性の増強(アフィニティ成熟化)をもたらすような改変が、単離されたポリヌクレオチド配列に施された改変体が好適に挙げられる。そのような改変体はCDRの変異誘導(Yangら(J. Mol. Biol. (1995) 254, 392-403))、鎖シャッフリング(Marksら(Bio/Technology (1992) 10, 779-783))、E.coliの変異誘発株の使用(Lowら(J. Mol. Biol. (1996) 250, 359-368))、DNAシャッフリング(Pattenら(Curr. Opin. Biotechnol. (1997) 8, 724-733))、ファージディスプレイ(Thompsonら(J. Mol. Biol. (1996) 256, 77-88))および有性PCR(sexual PCR)(Clameriら(Nature (1998) 391, 288-291))を含む種々のアフィニティー成熟化の公知の手順によって取得され得る。
【0383】
前記のように、本発明の製造方法によって作製される抗原結合分子として、Fc領域を含む抗原結合分子が挙げられるが、Fc領域として様々な改変体が使用され得る。このようなFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として好適に挙げられる。
【0384】
本発明の非限定な一態様では、Fc領域として、例えば、配列番号:13で表されるIgG1(N末端にAla が付加されたAAC82527.1)、配列番号:14で表されるIgG2(N末端にAlaが 付加されたAAB59393.1)、配列番号:15で表されるIgG3(CAA27268.1)、配列番号:16で表されるIgG4(N末端にAlaが付加されたAAB59394.1)等の抗体のFc定常領域が好適に挙げられる。IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(血漿中からの消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRn特にヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRn特にヒトFcRnに結合する。FcRn特にヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進み、そこで分解されるが、FcRn特にヒトFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRn特にヒトFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0385】
通常のFc領域を含む抗体は血漿中のpH中性域の条件下においてFcRn特にヒトFcRnに対する結合活性を有しないため、通常の抗体および抗体-抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内のpH酸性域の条件下でFcRn特にヒトFcRnに結合することで細胞表面に輸送される。FcRn特にヒトFcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRn特にヒトFcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられるが、細胞表面のpH中性域の条件下では抗体はFcRn特にヒトFcRnから解離するため、抗体は血漿中にリサイクルされる。
【0386】
本発明の抗原結合分子に含むことが可能であるpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位~225位、227位、228位、230位、232位、233位~241位、243位~252位、254位~260位、262位~272位、274位、276位、278位~289位、291位~312位、315位~320位、324位、325位、327位~339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位~378位、380位、382位、385位~387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位~438位、440位および442位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。より具体的には、例えば表5に記載のようなアミノ酸の改変が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
【0387】
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
【0388】
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表5-1~5-32に記載されるような組合せが挙げられる。
【0389】
また、本発明が含むFc領域として、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域のほかに、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域も適宜使用され得る。そのようなFcγR結合改変Fc領域は、天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。Fc領域のFcγRに対する結合活性が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγRに対する結合活性より高いか否かは、前述のような方法を用いて適宜評価され得る。
【0390】
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域においてヒトFcγレセプターに結合することができる限り、いずれのFc領域も出発Fc領域として使用され得る。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
【0391】
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%~100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%~100%未満、より好ましくは約85%~100%未満の、より好ましくは約90%~100%未満、最も好ましくは約95%~100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明のFcγR結合改変Fc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と本発明のFcγR結合改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
【0392】
本発明の抗原結合分子に含まれる、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高い(FcγR結合改変Fc領域)はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によって当該FcγR結合改変Fc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。
【0393】
他のアミノ酸への改変は、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高い効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。こうしたアミノ酸の改変としては、例えば国際公開WO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260およびWO2006/023403などにおいて報告されている。
【0394】
そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域(FcγR結合改変Fc領域)を取得することができる。
【0395】
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6(表6-1~表6-3)に記載されるような組合せが挙げられる。
【0396】
また、本発明において好適に用いられるFc領域のうち、特定のFcγレセプターに対する結合活性がそのほかのFcγレセプターに対する結合活性よりも高い性質を有するFc領域(選択的なFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域)の非限定な一態様として用いられる、抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高い(抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有する)Fc領域の例として、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US2009/0136485に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
【0397】
また本発明の非限定な一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0398】
さらに本発明の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0399】
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0400】
前記のように、作動可能に連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を含む宿主細胞の培養液から単離された抗原結合分子は、本発明のスクリーニング方法において、抗原と接触させられる。接触させる際の非限定な一態様として、前記の抗原に対する結合抗原の項で記載される条件等が適宜採用される。
【0401】
次いで、当該被験抗原結合分子と当該被験抗原を含む免疫複合体が形成されたか否かが評価される。抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、免疫複合体が抗原結合分子単体または抗原分子単体よりも分子が大きくなる性質を利用したサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィー法、超遠心分析法、光散乱法、電子顕微鏡、マススペクトロメトリーが挙げられる(Molecular Immunology(2002), 39, 77-84、Molecular Immunology(2009), 47, 357-364)。例えば、
図9に示されているようにサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィーを用いた場合、免疫複合体を形成しているか否かは、抗原分子単独もしくは抗原結合分子単独を分析した場合と比較してより大きな分子種が観測されるかで評価される。
【0402】
さらに抗原結合分子もしくは抗原がイムノグロブリン定常領域を有する場合には、免疫複合体がFcレセプターまたは補体成分に抗原結合分子単体もしくは抗原単体よりも強く結合する性質を利用したELISAやFACSも挙げられる(The Journal of Biological Chemistry (2001) 276(9), 6591-6604、Journal of Immunological Methods (1982) 50, 109-114)。例えば、Fcレセプターを固相化したELISAを行った場合、免疫複合体を形成しているか否かは、抗原単体もしくは抗原結合分子単体を評価した場合と比較して検出されるシグナルが増加しているかで評価される。
【0403】
Fc領域および抗原に対する結合活性イオン濃度依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子の製造方法
【0404】
本発明は、以下の工程(a)~(d)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) Fc領域、および、二以上の抗原結合ドメインであって少なくとも一つの抗原結合ドメインがイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子と抗原を接触させる工程、
(b) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
(c) 前記工程(b)で免疫複合体の形成が確認された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(d) 前記工程(c)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
【0405】
本発明は、また以下の工程(a)~(i)を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子を抗原と接触させる工程、
(g) 当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程、
(h) 前記工程(g)で免疫複合体の形成が確認された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(i) 前記工程(h)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
【0406】
本発明は、さらに以下の工程(a)~(e)を含む製造方法であって、さらに当該製造方法で得られた抗原結合分子と抗原を接触させて当該抗原結合分子と当該抗原を含む免疫複合体の形成を評価する工程を含む、血漿中から当該抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、Fc領域をコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
【0407】
本発明の非限定な一態様では、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドが適切な発現ベクターに挿入される。例えば、抗原結合ドメインが抗体の可変領域である場合には、当該可変領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入された制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗原結合分子の遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗原結合分子の可変領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、本発明の抗原結合分子の発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記可変領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合され得る。
【0408】
所望の抗原結合分子を製造するために、抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが制御配列に作動可能に連結された態様で発現ベクターに組み込まれる。制御配列とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗原結合分子が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に連結され得る。例えばシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:5)を有するペプチドが使用されるが、これ以外にも適したシグナル配列が連結され得る。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、所望の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを発現する組換え細胞が取得され得る。当該組換え細胞から、本発明の抗原結合分子を製造する方法は、前記の抗体の項で記載した方法に準じて製造され得る。
【0409】
核酸に関して「作動可能に連結した」は、その核酸が他の核酸配列と機能的な関係にあることを意味する。例えば、プレシーケンス(presequence)または分泌リーダーのDNAは、あるポリペプチドの分泌に関わっている前駆体タンパク質として発現する場合は、そのポリペプチドのDNAと作動可能的に結合している。プロモーターまたはエンハンサーは、それがあるコード配列の転写に影響する場合はその配列と作動可能に連結している。または、リボソーム結合部は、それが翻訳を容易にする位置にある場合は作動可能にコード配列と連結している。通常、「作動可能に連結した」は、結合したDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合は連続して読取り枠内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは連続する必要はない。連結は適切な制限部位でライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。また前記のOverlap Extension PCRの手法によっても連結された核酸が作製され得る。
【0410】
本発明の非限定な一態様において、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドの改変体が適切な発現ベクターに挿入される。このような改変体の一つとして、ランダム化可変領域ライブラリとして、合成ライブラリや非ヒト動物を起源として作製された免疫ライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列がヒト化された改変体が好適に挙げられる。ヒト化された抗原結合分子の改変体の作製方法は、前記のヒト化抗体の作製方法と同様の方法が採用され得る。
【0411】
また、改変体のその他の態様として、ランダム化可変領域ライブラリとして合成ライブラリやナイーブライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合親和性の増強(アフィニティ成熟化)をもたらすような改変が、単離されたポリヌクレオチド配列に施された改変体が好適に挙げられる。そのような改変体はCDRの変異誘導(Yangら(J. Mol. Biol. (1995) 254, 392-403))、鎖シャッフリング(Marksら(Bio/Technology (1992) 10, 779-783))、E.coliの変異誘発株の使用(Lowら(J. Mol. Biol. (1996) 250, 359-368))、DNAシャッフリング(Pattenら(Curr. Opin. Biotechnol. (1997) 8, 724-733))、ファージディスプレイ(Thompsonら(J. Mol. Biol. (1996) 256, 77-88))および有性PCR(sexual PCR)(Clameriら(Nature (1998) 391, 288-291))を含む種々のアフィニティー成熟化の公知の手順によって取得され得る。
【0412】
前記のように、本発明の製造方法によって作製される抗原結合分子として、Fc領域を含む抗原結合分子が挙げられるが、Fc領域として様々な改変体が使用され得る。このようなFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として好適に挙げられる。
【0413】
本発明の非限定な一態様では、Fc領域として、例えば、配列番号:13で表されるIgG1(N末端にAla が付加されたAAC82527.1)、配列番号:14で表されるIgG2(N末端にAlaが 付加されたAAB59393.1)、配列番号:15で表されるIgG3(CAA27268.1)、配列番号:16で表されるIgG4(N末端にAlaが付加されたAAB59394.1)等の抗体のFc定常領域が好適に挙げられる。IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(血漿中からの消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRn特にヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRn特にヒトFcRnに結合する。FcRn特にヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進み、そこで分解されるが、FcRn特にヒトFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRn特にヒトFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0414】
通常のFc領域を含む抗体は血漿中のpH中性域の条件下においてFcRn特にヒトFcRnに対する結合活性を有しないため、通常の抗体および抗体-抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内のpH酸性域の条件下でFcRn特にヒトFcRnに結合することで細胞表面に輸送される。FcRn特にヒトFcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRn特にヒトFcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられるが、細胞表面のpH中性域の条件下では抗体はFcRn特にヒトFcRnから解離するため、抗体は血漿中にリサイクルされる。
【0415】
本発明の抗原結合分子に含むことが可能であるpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位~225位、227位、228位、230位、232位、233位~241位、243位~252位、254位~260位、262位~272位、274位、276位、278位~289位、291位~312位、315位~320位、324位、325位、327位~339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位~378位、380位、382位、385位~387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位~438位、440位および442位の群から選択される少なくともひとつのアミノ酸が挙げられる。より具体的には、例えば表5に記載のようなアミノ酸の改変が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
【0416】
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
【0417】
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表5-1~5-33に記載されるような組合せが挙げられる。
【0418】
また、本発明が含むFc領域として、ヒトIgG1(配列番号:13)、IgG2(配列番号:14)、IgG3(配列番号:15)、またはIgG4(配列番号:16)で表されるFc領域のほかに、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域も適宜使用され得る。そのようなFcγR結合改変Fc領域は、天然型ヒトIgGのFc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。Fc領域のFcγRに対する結合活性が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγRに対する結合活性より高いか否かは、前述のような方法を用いて適宜評価され得る。
【0419】
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域においてヒトFcγレセプターに結合することができる限り、いずれのFc領域も出発Fc領域として使用され得る。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
【0420】
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%~100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%~100%未満、より好ましくは約85%~100%未満の、より好ましくは約90%~100%未満、最も好ましくは約95%~100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明のFcγR結合改変Fc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と本発明のFcγR結合改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
【0421】
本発明の抗原結合分子に含まれる、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高い(FcγR結合改変Fc領域)はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によって当該FcγR結合改変Fc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。
【0422】
他のアミノ酸への改変は、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高い効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。こうしたアミノ酸の改変としては、例えば国際公開WO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260およびWO2006/023403などにおいて報告されている。
【0423】
そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFc領域(FcγR結合改変Fc領域)を取得することができる。
【0424】
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、もしくは
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6(表6-1~表6-3)に記載されるような組合せが挙げられる。
【0425】
また、本発明において好適に用いられるFc領域のうち、特定のFcγレセプターに対する結合活性がそのほかのFcγレセプターに対する結合活性よりも高い性質を有するFc領域(選択的なFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域)の非限定な一態様として用いられる、抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高い(抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有する)Fc領域の例として、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US2009/0136485またはWO2012/115241に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
【0426】
また本発明の非限定な一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、または328位のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0427】
さらに本発明の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
【0428】
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0429】
前記のようなアミノ酸の変異が加えられたFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として作製される。
【0430】
本発明によって、Fc領域をコードするポリヌクレオチドとインフレームで連結されたイオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法が提供される。また、ベクター中に予め作動可能に連結されたFc領域をコードするポリヌクレオチドと、イオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法もまた提供される。
【0431】
本発明の製造方法において、「免疫複合体の形成が確認された抗原結合ドメイン」が取得された後に、当該免疫複合体の形成が可能な限り、当該ドメインに適宜改変が加えられ得る。また、免疫複合体を形成することが可能な抗原結合ドメインであって、このように改変が加えられた当該ドメインをコードするポリヌクレオチドと、上述されるアミノ酸の変異が加えられたFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法もまた提供される。
【0432】
医薬組成物
可溶型抗原に対する既存の中和抗体を投与すると、抗原が抗体に結合することで血漿中での持続性が高まることが予想される。抗体は一般的に長い半減期(1週間~3週間)を有するが、一方で抗原は一般的に短い半減期(1日以下)を有する。そのため、血漿中で抗体に結合した抗原は、抗原単独で存在する場合に比べて顕著に長い半減期を有するようになる。その結果として、既存の中和抗体を投与することにより、血漿中の抗原濃度の上昇が起こる。このような事例は様々な可溶型抗原を標的とした中和抗体において報告されており、一例を挙げるとIL-6(J. Immunotoxicol. (2005) 3, 131-139)、amyloid beta(mAbs (2010) 2 (5), 1-13)、MCP-1(ARTHRITIS & RHEUMATISM (2006) 54,2387-2392)、hepcidin(AAPS J. (2010) 4, 646-657) 、sIL-6 receptor(Blood (2008) 112 (10), 3959-64)などがある。既存の中和抗体の投与により、ベースラインからおよそ10倍~1000倍程度(上昇の程度は、抗原によって異なる)の血漿中総抗原濃度の上昇が報告されている。ここで、血漿中総抗原濃度とは、血漿中に存在する抗原の総量としての濃度を意味しており、すなわち抗体結合型と抗体非結合型の抗原濃度の和として表される。このような可溶型抗原を標的とした抗体医薬にとっては、血漿中総抗原濃度の上昇が起こることは好ましくない。なぜなら、可溶型抗原を中和するためには、少なくとも血漿中総抗原濃度を上回る血漿中抗体濃度が必要なためである。つまり、血漿中総抗原濃度が10倍~1000倍上昇するということは、それを中和するための血漿中抗体濃度(すなわち抗体投与量)としても、血漿中総抗原濃度の上昇が起こらない場合に比べて10倍~1000倍が必要になることを意味する。一方で、既存の中和抗体に比較して血漿中総抗原濃度を10倍~1000倍低下することができれば、抗体の投与量を同じだけ減らすことが可能である。このように、血漿中から可溶型抗原を消失させて、血漿中総抗原濃度を低下させることができる抗体は、既存の中和抗体に比較して顕著に有用性が高い。
【0433】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の、(i) Fc領域、ならびに、(ii) イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、を含む抗原結合分子であって、二以上の当該抗原結合分子および二以上の抗原結合単位の抗原を含む免疫複合体を形成することが可能な抗原結合分子が、血漿中から当該抗原結合単位を消失させる可能性のある一つのメカニズムとして、以下のようなメカニズムが例示される。sIL-6R等のように抗原結合単位が一単位(すなわちホモ単量体)である場合、二価の抗体結合ドメインを含む一分子の抗体に対して二分子(すなわち二単位の抗原結合単位)の抗原が結合し、一分子の抗sIL-6R抗体と二単位の抗原結合単位を含む二分子の抗原分子と複合体を形成する。そのため、このような抗原と抗体の複合体は、
図1に示すように一つのFc領域(天然型IgG1のFc領域)しか有しない。当該複合体は一つのFc領域を介して一分子のFcγR、または二分子のFcRnに結合するため、これらの受容体に対する親和性は通常のIgG抗体と同様であり、細胞内への取込みは主に非特異的に起こると考えられ得る。
【0434】
一方、重鎖および軽鎖のヘテロ複合体の二量体であるヒトIgA等のように抗原結合単位が二単位である場合、当該抗原結合単位中には、抗原結合ドメインが結合するエピトープも二単位存在することとなる。しかし、二価の(すなわち一分子の抗IgA抗体に含まれる抗原結合ドメインが同一のエピトープに結合する)抗IgA抗体がその抗原であるIgAに結合する場合、一分子の抗IgA抗体に含まれる二価の個々の抗原結合ドメインが、一分子のIgA分子に存在する二単位のエピトープに各々結合することはエピトープの配置等の点から困難であることが考えられる。その結果、一分子の抗IgA抗体中に存在する二価の抗原結合ドメインに結合する二分子のIgA中に存在する二単位の抗原結合単位には、別の抗IgA抗体分子が結合することによって、少なくとも四分子(すなわち抗原分子であるIgAの二つの分子と抗原結合分子である抗IgA抗体の二つの分子)を含む抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成すると考えられる。
【0435】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子が少なくとも四量体の大きな免疫複合体を形成する場合、当該免疫複合体はFcγR、FcRn、補体レセプター等に対して少なくとも二つ以上の多価のFc領域を介してavidityで強固に結合することが可能である。このため、
図7に示されるように、当該複合体はこれらのレセプターを発現する細胞に効率的に取り込まれる。一方、一単位の抗原結合単位を含む(単量体の)抗原分子に結合する等の抗原結合分子と抗原分子との免疫複合体のこれらのレセプターに対するFc領域を介した親和性は上述したように十分ではないため、
図1に示されるようにこれらの受容体を発現する細胞内へ当該免疫複合体は主に非特異的(avidityによる結合を介する取込よりは非効率的)に取り込まれる。すなわち、avidityによる結合を介する取込よりも非効率的である。
【0436】
二以上の抗原結合単位を含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合分子として、pH又はCa依存的結合等のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する結合が変化する抗原結合ドメインを含む抗体が血漿中で少なくとも四分子(二分子の抗原および二分子の抗体)以上からなる抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成した場合において、当該免疫複合体が細胞内に取り込まれたときは、そのイオン濃度の条件が血漿中の条件とは異なるエンドソーム内で抗原が当該抗体から解離する。そのため、当該免疫複合体が取り込まれた細胞のエンドソーム内では、当該免疫複合体の形成が解消される。解離した抗原はエンドソーム内でFcRnに結合することができないため、ライソソームに移行した後に分解される。一方、抗原を解離した抗体は、エンドソーム内でFcRnに結合した後に血漿中にリサイクルされると考えられる(
図7)。
【0437】
上述したように、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原に対する天然IgG1型の定常領域を含むpHあるいはCa依存的結合抗体が大きな免疫複合体を形成して、avidityでFcγR、FcRn、補体レセプター等に結合することが出来れば、抗原の消失のみを選択的に大幅に加速することが出来ると考えられる。ヒトIgAに結合するGA2-IgG1が投与された場合にも、そのような大きな免疫複合体が形成されていると考えられた。実際、実施例3で示されたように、GA2-IgG1に対して、マウスFcγRに対する結合が損なわれた改変が導入されたGA2-IgG1-FcγR(-)は、ヒトIgA の消失をGA2-IgG1のようにヒトIgA単独と比較して大幅に加速することはできず、ヒトIgA単独と同等の消失を示した。このことから、GA2-IgG1がヒトIgAの消失を大幅に加速することができたのは、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原であるヒトIgAとGA2-IgG1を含む免疫複合体が、FcγRに対してavidityで結合し、FcγRを発現する細胞に速やかに取り込まれたためと考えられた。当該免疫複合体を取り込んだ細胞のエンドソーム内で当該免疫複合体から解離したIgAはライソソームで分解される。それとともに、当該エンドソーム内でFcRnに結合後血漿中にリサイクルされたIgAを解離した抗体は、再度血漿中のIgAに結合することが可能となる。このようにして、血漿中のヒトIgAの消失が大幅に加速されたと考えられる。抗原の血漿中からの消失を加速する方法として、pH中性域でFcRnに対して結合するFc領域のアミノ酸の改変体を用いる方法が国際公開WO2011/122011に記載されている。本発明は、上述の改変体を用いることなく、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失を加速する方法として有用であるとともに、GA2-N434Wにおいて示されたように、上述の改変体と組み合わせることによって二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させることが可能である。また、二以上の抗原結合単位を含む多量体抗原を消失させるのは上記の血漿中以外でも、間質液、関節液、腹水、胸水、心嚢水に接触する細胞がFcγRまたはFcRnを発現している限り、これらの間質液、関節液、腹水、胸水、心嚢水からも消失させることが可能である。そのような細胞の非限定な一態様として間質液、関節液、腹水、胸水、心嚢水に存在する免疫細胞等が例示される。
【0438】
またすなわち、本発明は、本発明の抗原結合分子、本発明の改変方法により作製された抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子はその投与により通常の抗原結合分子と比較して血漿中の抗原濃度を低下させる作用が高い上に、投与された生体による免疫応答や当該生体中の薬物動態等が改変されていることから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物には医薬的に許容される担体が含まれ得る。
【0439】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤をいう。
【0440】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法を用いて製剤化され得る。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用され得る。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定される。
【0441】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施にしたがって処方され得る。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適切な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が併用され得る。
【0442】
油性液としてはゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールも併用され得る。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合され得る。調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
【0443】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物が投与される。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与され得る。
【0444】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。抗原結合分子を含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定され得る。または、例えば、患者あたり0.001~100000 mgの投与量が設定され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0445】
また本発明は、少なくとも本発明の抗原結合分子を含む、本発明の方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【0446】
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を有効成分として含有する、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための薬剤に関する。
【0447】
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を対象(患者、被験者、等)へ投与する工程を含む、疾患の治療方法に関する。疾患の非限定な一例として、癌、または炎症性疾患が挙げられる。
【0448】
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための薬剤の製造における使用に関する。
【0449】
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための使用に関する。
【0450】
また本発明は、本発明の方法に使用するための、本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子に関する。
【0451】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0452】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0453】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕カルシウム依存的にヒトIgAに結合する抗体の調製
(1-1)ヒトIgA(hIgA)の調製
抗原であるヒトIgA(以下hIgAとも呼ばれる)は以下のような組換え技術を用いて調製された。H (WT)-IgA1(配列番号:49)とL (WT)(配列番号:50)を含む組み組換えベクターを含む宿主細胞を培養することによって発現されたhIgAが、当業者公知の方法によってイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製された。
【0454】
(1-2)カルシウム依存的結合抗体について
国際公開WO2009/125825に記載されているH54/L28-IgG1はヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1は、H54/L28-IgG1に対して可溶型ヒトIL-6レセプターに対してpH依存的に結合する(中性条件下において結合し、酸性条件下において解離する)特性を有するヒト化抗IL-6レセプター抗体である。国際公開WO2009/125825に記載されているマウスのin vivo試験では、H54/L28-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群と比較して、Fv4-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群において、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に加速されていることが示された。
【0455】
通常の可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体に結合した可溶型ヒトIL-6レセプターは、抗体とともにFcRnによって血漿中にリサイクルされる。これに対して、pH依存的に可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体は、エンドソーム内の酸性条件下において抗体に結合した可溶型ヒトIL-6レセプターを解離する。解離した可溶型ヒトIL-6レセプターはライソソームによって分解されるため、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中からの消失を大幅に加速することが可能となり、さらにpH依存的に可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体は可溶型ヒトIL-6レセプターを解離した後FcRnによって血漿中にリサイクルされ、リサイクルされた抗体は再び可溶型ヒトIL-6レセプターに結合することができる。上記のサイクル(抗原を結合した抗体の細胞内への取込>抗体からの抗原の解離>抗原の分解と抗体の血漿中への再循環)が繰り返されることによって、ひとつの抗体分子が複数回繰り返して可溶型ヒトIL-6レセプターに結合することが可能となる(
図1)。
【0456】
さらに、国際公開WO2011/122011に記載されているように、H54/L28-IgG1はヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1は、H54/L28-IgG1に対して可溶型ヒトIL-6レセプターへpH依存的に結合する(中性条件下において結合し、酸性条件下において解離する)特性を有するヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1-v2は、Fv4-IgG1に対してpH中性の条件下においてFcRnへの結合が増強されたヒト化抗IL-6レセプター抗体である。国際公開WO2011/122011に記載されているマウスのin vivo試験では、Fv4-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群と比較して、Fv4-IgG1-v2と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群において、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に加速されていることが示された。すなわち、pH依存的に抗原に結合する抗体の、pH中性の条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強することによって、増強された改変抗体が抗原に繰り返し結合できる効果、および、抗原の血漿中からの消失を促進する効果がさらに向上し、当該抗体を投与することによって血漿中からの抗原を消失することが可能であることが報告された(
図2)。
【0457】
図1および
図2に示されたpH依存的に抗原に結合する抗体による作用では、血漿中とエンドソーム内の環境の相違、すなわちpHの相違(血漿中:pH7.4、エンドソーム内:pH6.0)を利用して、血漿中では抗原に強く結合させ、エンドソーム内では抗原を解離する抗体の性質が活用されている。血漿中とエンドソーム内でpH依存的に結合する抗体の抗原への結合能にこのような差異を活用するためには、血漿中とエンドソーム内の環境因子の性質とその相違の大きさが重要である。pHの相違はすなわち水素イオン濃度の相違である。すなわち、pH7.4の血漿中の水素イオン濃度は約40 nMである一方で、pH6.0のエンドソーム内の水素イオン濃度は約1000 nMであることから、血漿中とエンドソーム内での環境因子の一つとして考えられる水素イオン濃度の相違は約25倍の大きさである。
【0458】
さらに、
図1および
図2に示した作用を異なる態様で達成するため、または、これらの態様を併せて達成するするために、血漿中とエンドソーム内の水素イオン濃度の相違以外で、その相違が大きい環境因子に依存して抗原に結合する抗体を使用すれば良いと考えられた。血漿中とエンドソーム内で濃度の相違が大きい環境因子が探索された結果、カルシウムが見出された。血漿中のイオン化カルシウム濃度は1.1-1.3 mM程度である一方で、エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度は3μM程度であることから、血漿中とエンドソーム内での環境因子の一つとして考えられるカルシウムイオン濃度の相違は約400倍の大きさであって、その大きさは水素イオン濃度差(25倍)よりも大きいことが見出された。すなわち、高カルシウム濃度条件下(1.1-1.3 mM)で抗原に結合し、低カルシウム濃度条件下(3μM)で抗原を解離するイオン化カルシウム濃度依存的に抗原に結合する抗体を用いることによって、pH依存的に抗原に結合する抗体と同等またはそれ以上にエンドソーム内で抗原を抗体から解離することが可能であると考えられた。
【0459】
(1-3)hIgAに結合する抗体の発現と精製
GA1-IgG1(重鎖配列番号:37、軽鎖配列番号:38)、GA2-IgG1(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:40)はhIgAに結合する抗体である。GA1-IgG1(重鎖配列番号:37、軽鎖配列番号:38)およびGA2-IgG1(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:40)をコードするDNA配列が動物細胞発現用プラスミドに当業者公知の方法で組み込まれた。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)をFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁させた細胞懸濁液が、1.33 x 106個/mLの細胞密度で6 well plateの各ウェルへ3 mLずつ播種された。次に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが細胞へ導入された。当該細胞はCO2インキュベーター(37℃、8%CO2, 90 rpm)で4日間培養され、単離されたその培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体が精製された。精製された抗体溶液の吸光度(波長:280nm)が、分光光度計を用いて測定された。得られた測定値からPACE法によって算出された吸光係数を用いて抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0460】
(1-4)取得された抗体のhIgAに対するカルシウム依存的結合能の評価
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、(1-3)で単離された抗体のhIgA結合活性(解離定数KD (M))が評価された。ランニングバッファーとして3μMまたは1.2 mM CaCl2を含有する0.05% tween20、20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl(pH7.4またはpH5.8)、または0.1μMもしくは10 mM CaCl2を含有する0.05% tween20、20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、pH8.0を用いて測定が行われた。
【0461】
アミノカップリング法で適切な量の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)に、抗体を結合させた。次に、アナライトとして適切な濃度のhIgA((1-1)に記載)をインジェクトすることによって、hIgAとセンサーチップ上の抗体を相互作用させた。測定は37℃で行われた。測定後、10 mmol/L Glycine-HCl、 pH1.5をインジェクトすることによって、センサーチップが再生された。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて、カーブフィッティングによる解析および平衡値解析により、測定結果から解離定数K
D(M)が算出された。その結果を表7に示した。また、得られたセンサーグラムを
図3に示した。GA2-IgG1はCa
2+濃度が1.2 mMにおいてはhIgAに強く結合するが、Ca
2+濃度が3μMにおいてはhIgAに弱く結合することが示された。また、GA2-IgG1はCa
2+濃度が1.2 mMの条件下で、pH7.4においてはヒトIgAに強く結合するが、pH5.8においてはヒトIgAに弱く結合することが示された。すなわち、GA2-IgG1は、ヒトIgAに対して、pH依存的、および、カルシウム依存的に結合することが明らかとなった。
【0462】
【0463】
〔実施例2〕カルシウム依存的にhIgAに結合する抗体の改変体の調製
さらに、血漿中からの抗原(hIgA)の消失をさらに増大させるために、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1に対してマウスFcRnに対するpH7.4における結合を増強するためにN434Wのアミノ酸置換を導入したGA2-N434W(重鎖配列番号:41、軽鎖配列番号:40)を作製した。また、GA2-IgG1に対してFcγRに対する結合を欠損させるためにL235R、S239Kのアミノ酸置換を導入したGA2-FcγR(-)(重鎖配列番号:42、軽鎖配列番号:40)を作製した。GA2-N434W(重鎖配列番号:41、軽鎖配列番号:40)およびGA2-FcγR(-)(重鎖配列番号:42、軽鎖配列番号:40)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。GA2-FcγR(-)の各種マウスFcγR(mFcγRI、mFcγRII、mFcγRIII、mFcγRIV)に対する結合を評価した結果、いずれのレセプターに対しても結合が認められなかった。
【0464】
〔実施例3〕ノーマルマウスを用いたCa依存性hIgA結合抗体の抗原の血漿中滞留性への影響評価
(3-1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)に対してhIgA(ヒトIgA:実施例1にて作製)を単独に投与された、またはhIgAおよび抗hIgA抗体が同時に投与された後の、hIgAおよび抗hIgA抗体の体内動態が評価された。hIgA溶液(80μg/mL)、または、hIgAと抗hIgA抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与された。抗hIgA抗体としては、上述のGA1-IgG1、GA2-IgG1、GA2-N434W およびGA2-FcγR(-)が使用された。
【0465】
混合溶液中のhIgA濃度は全て80μg/mLであるが、抗hIgA抗体濃度は各抗体のhIgAへのアフィニティーに応じて抗体毎に異なり、GA1-IgG1は10 mg/mL、GA2-IgG1は2.69 mg/mL、GA2-N434Wは1 mg/mL、GA2-FcγR(-)は2.69 mg/mLに調製された。このとき、hIgAに対して抗hIgA抗体は十分量過剰に存在することから、hIgAは大部分が抗体に結合していると考えられる。投与後5分間、7時間、1日間、2日間、3日間、7日間でマウスから採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0466】
(3-2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗hIgA抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody (SIGMA) がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、0.01563、0.07813μg/mLに調製された抗hIgA抗体の検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が、前記のAnti-Human IgG固相化プレートに分注された後、当該プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associats Inc.)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるGA1-IgG1、GA2-IgG1、GA2-N434WおよびGA2-FcγR(-)の血漿中抗体濃度推移を
図4に示した。
【0467】
(3-3)ELISA法による血漿中hIgA濃度測定
マウスの血漿中hIgA濃度はELISA法にて測定された。まずGoat anti-Human IgA Antibody(BETHYL)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgA固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLに調製されたhIgAの検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料の各100μLが前記のAnti-Human IgA固相化プレートに分注された後、さらに500 ng/mLのhsIL-6Rが200μL分注された後、当該プレートは室温で1時間静置された。次に、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。更にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて反停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定した静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を
図5に示した。
【0468】
その結果、hIgA単独の消失に対して、hIgA とCa依存的な結合が弱い(依存性の度合いが小さい)抗体であるGA1-IgG1を同時に投与した場合は、hIgAの消失が遅くなった。それに対して、hIgA と100倍以上のCa依存的な結合活性を有するGA2-IgG1を同時に投与した場合は、hIgA の消失をhIgA単独と比較して大幅に加速した。
図4に示された血漿中抗体濃度、
図5に示された血漿中hIgA濃度、および表7に示された各抗体のKD値から、血漿中に存在する非結合型のhIgA濃度が求められた。その結果を
図6に示した。
図6に示されたようにGA1-IgG1投与群の非結合型の抗原(hIgA)の濃度と比較して、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1投与群の非結合型の抗原(hIgA)の濃度は低いことから、カルシウム依存的結合抗体を抗原の消失を用いて加速することによって、抗体に結合していない(抗体非結合型)抗原(hIgA)を低下できることが示された。さらに、pH7.4におけるFcRn結合が増強されているGA2-N434Wは抗原の消失をGA2-IgG1よりも早め、血漿中のhIgA濃度は投与7時間後には検出限界以下となった。
【0469】
〔実施例4〕pH依存的抗IgE抗体の取得
(4-1)抗ヒトIgE抗体の取得
pH依存的抗ヒトIgE抗体を取得するために、抗原であるヒトIgE(重鎖配列番号:43、軽鎖配列番号:44)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体からなる)をFreeStyle293(Life Technologies)を用いて発現させた。、発現したヒトIgEは当業者公知の一般的なカラムクロマトグラフィー法により精製して、調製された。
【0470】
取得された多数の抗体の中から、ヒトIgEにpH依存的に結合し、且つ、二分子の抗IgE抗体および二分子のIgE以上からなる大きな免疫複合体を形成する抗体が選抜された。選抜された抗ヒトIgE抗体をヒトIgG1重鎖定常領域、および、ヒト軽鎖定常領域を用いて発現、精製した。作製された抗体はクローン278(重鎖配列番号:45、軽鎖配列番号:46)と命名された。
【0471】
(4-2)抗ヒトIgE抗体の結合活性およびpH依存的結合活性の評価
エンドソーム内で抗原を解離することができる抗体は、抗原に対してpH依存的に結合するだけでなく、Ca依存的に結合する抗原に結合することによっても創製することが可能である。そこで、クローン278およびコントロールとなるpH/Ca依存的IgE結合能を有さないXolair (omalizumab, Novartis)の、ヒトIgE(hIgE)に対するpH依存的結合能およびpH/Ca依存的結合能が評価された。
【0472】
すなわち、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、クローン278およびXolairのhIgEに対する結合活性(解離定数KD (M))が評価された。ランニングバッファーとして以下3種を用いて測定が行われた。
・1.2 mmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH7.4
・1.2 mmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
・3 μmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
【0473】
適当量添加された化学合成されたヒトグリピカン3タンパク質由来配列(配列番号:47)のC末端に存在するLysにビオチンが付加されたペプチド(以下「ビオチン化GPC3ペプチド」と記載する)が、ストレプトアビジンとビオチンの親和性を利用してSensor chip SA(GE Healthcare)上に固定化された。適切な濃度のヒトIgEをインジェクトして、ビオチン化GPC3ペプチドに捕捉させることで、ヒトIgEがチップ上に固定化された。アナライトとして適切な濃度のクローン278をインジェクトして、センサーチップ上のヒトIgEと相互作用させた。その後、10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5をインジェクトして、センサーチップが再生された。相互作用は全て37℃で測定された。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いた、カーブフィッティングによる測定結果の解析により、結合速度定数ka (1/Ms)及び解離速度定数kd (1/s)を算出された。これらの定数を元に解離定数KD (M)が算出された。さらに、pH5.8, 1.2 mM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH依存性結合が、pH5.8, 3μM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH/Ca依存性結合が評価された。その結果を表8に示した。
【0474】
【0475】
(4-3)クローン278の免疫複合体の形成評価
クローン278がヒトIgEと中性条件下(pH7.4)において2:2以上からなる大きな免疫複合体を形成すること、またその免疫複合体が酸性条件下(pH5.8)において解離すること、がゲルろ過クロマトグラフィーにより評価された。100 mM NaClに透析処理されたクローン278は、中性条件下のサンプルとして20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 1.2mM CaCl
2, pH7.4のバッファー、酸性条件下のサンプルとして20mM Bis-tris-HCl, 150mM NaCl, 3μM CaCl
2, pH5.8のバッファーを用いて希釈された。(実施例5で作製された)ヒトIgEであるhIgE(Asp6)100μg/mL(0.60μM)とクローン278が1:1、1:6のモル比で混合された混合液が、室温または25℃オートサンプラー中で2時間以上放置後、ゲルろ過クロマトグラフィーで分析された。中性条件下では20mM Tris-HCl, 300mM NaCl, 1.2mM CaCl
2, pH7.4の移動相、酸性条件下では20mM Bis-tris-HCl, 300mM NaCl, 3uM CaCl
2, pH5.8の移動相がそれぞれ用いられた。カラムはG4000SWxl (TOSOH)を用い、流速0.5mL/min、25℃の条件下で分析された。その結果を
図9に示した。
図9に示すとおり、クローン278とヒトIgEは、中性条件下において、見かけの分子量670kDa程度からなる(抗体一分子を一量体と仮定した場合における)4量体およびそれ以上の多量体からなる大きな免疫複合体を形成したことが確認された。さらに、酸性条件下においては、このような免疫複合体は認められなかったことから、上述のBiacoreを用いた結合の評価と同様、pH依存的にこれらの免疫複合体は解離することが確認された。
【0476】
これらの結果から、クローン278は上述の抗IgA抗体であるGA2-IgG1と同様に、ヒトIgEの消失を加速することが可能であると考えられた。
【0477】
〔実施例5〕クローン278とXolairのin vivo評価
(5-1)In vivo評価用のヒトIgE(hIgE(Asp6))の調製
重鎖(配列番号:48)および軽鎖(配列番号:44)からなるin vivo評価用のヒトIgEであるhIgE (Asp6)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体)は、実施例1と同様の方法で調製された。hIgE(Asp6)は、ヒトIgEのN型糖鎖のヘテロジェニティーが抗原であるヒトIgEの血漿中濃度推移の影響を受けないようにするために、ヒトIgEの6か所のN型糖鎖結合サイトのアスパラギンをアスパラギン酸に改変された分子である。
【0478】
(5-2)ノーマルマウスを用いたクローン278とXolairのヒトIgEの消失加速効果の検証
C57BL/6Jマウス(Charles river Japan)にhIgE(Asp6)を単独投与、もしくはhIgE(Asp6)および抗hIgE抗体(クローン278とXolair)を同時投与した後のhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の体内動態が評価された。hIgE(Asp6)(20μg/mL)もしくはhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の混合溶液(濃度は表9に記載)が尾静脈から10mL/kgで単回投与された。このとき、hIgE(Asp6)に対して各抗体は十分量過剰に存在することから、hIgE(Asp6)はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与後5分間、2時間、7時間、1日間、2日間、4日間もしくは5日間、7日間、14日間、21日間、28日間で当該マウスから血液が採血された。採取された血液をただちに4℃、15,000 rpmで5分間遠心分離して、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで、-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0479】
【0480】
(5-3)ノーマルマウスの血漿中hIgE(Asp6)濃度の測定
マウス血漿中hIgE(Asp6)濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として192、96、48、24、12、6、3 ng/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、10μg/mLとなるようにXolair(Novartis)を添加し、室温で30分静置させた。静置後の検量線およびマウス血漿測定試料をanti-human IgEが固相化されたイムノプレート(MABTECH)もしくは、anti-human IgE(clone 107、MABTECH)が固相化されたイムノプレート(Nunc F96 MicroWell Plate(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは4℃で一晩静置させた。その後、human GPC3 core protein(配列番号:51)、NHS-PEG4-Biotin(Thermo Fisher Scientific)でbiotin化された抗GPC3抗体(社内調製)、Sterptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法、もしくはSuperSignal(r) ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を基質として発光反応を行い、マイクロプレートリーダーにて発光強度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度もしくは発光強度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を
図11に示した。
【0481】
(5-4)ノーマルマウスの血漿中抗ヒトIgE抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、1μg/mLとなるようにhIgE(Asp6)を添加し、室温で30分静置させた。静置後の検量線およびマウス血漿測定試料をAnti-Human Kappa Light Chain Antibody(Bethyl Laboratories)が固相化されたイムノプレート(Nunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは4℃で一晩静置させた。その後、Rabbit anti-Human IgG (Fc) Secondary antibody, Biotin conjugate(Pierce Biotechnology)およびStreptavidin-Poly HRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中抗体濃度推移を
図10に示した。
【0482】
その結果、ヒトIgE単独の消失に対して、ヒトIgEとコントロール抗IgE抗体であるXolairを同時に投与した場合は、ヒトIgEの消失は遅くなった。それに対して、ヒトIgEと強いpH依存的な結合活性を有するクローン278を同時に投与した場合は、ヒトIgEの消失をヒトIgE単独と比較して大幅に加速することが確認された。すなわち、IgAのみならず、IgEにおいても、大きな免疫複合体を形成する抗体を投与することによって、抗原単独と比較して抗原の消失を加速することが示された。
【0483】
〔実施例6〕カルシウム依存的にhIgAに結合する抗体の改変体の調製
次に、血漿中からの抗原(hIgA)の消失をさらに増大させることを目的に、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1に対してマウスFcγRに対する結合を増強するためにGA2-IgG1のEUナンバリングで表される328位のLeuがTyrに置換されたGA2-F1087(重鎖配列番号:52)が作製された。GA2-F1087(重鎖配列番号:52、軽鎖配列番号:40)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。この改変を含む抗体は参考実施例5に示されるように、マウスFcγRに対する結合が大幅に増強していた。
【0484】
〔実施例7〕Ca依存性hIgA結合抗体が投与されたノーマルマウスにおける抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(7-1)ノーマルマウスが用いられたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)に対してhIgA(ヒトIgA:実施例(1-1)にて作製)が単独で投与された、またはhIgAおよび抗hIgA抗体が同時に投与された後の、hIgAおよび抗hIgA抗体の体内動態が評価された。hIgA溶液(80μg/mL)、または、hIgAと抗hIgA抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与された。抗hIgA抗体としては、上述のGA2-IgG1およびGA2-F1087が使用された。
【0485】
混合溶液中のhIgA濃度は全て80μg/mLであり、抗hIgA抗体濃度は2.69 mg/mLであった。このとき、hIgAに対して抗hIgA抗体は十分量過剰に存在することから、hIgAは大部分が抗体に結合していると考えられた。GA-IgG1が投与された群では、投与後5分間、7時間、1日間、2日間、3日間、7日間でマウスから採血が行われた。またGA-F1087が投与された群では、投与後5分間、30分間、1時間、2時間、1日間、3日間、7日間でマウスから採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0486】
(7-2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗hIgA抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、0.01563、0.007813μg/mLに調製された抗hIgA抗体の検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が、前記のAnti-Human IgG固相化プレートに分注された後、当該プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associats Inc.)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるGA2-IgG1およびGA2-F1087の血漿中抗体濃度推移を
図12に示した。その結果、hIgAと強いpHおよびCa依存的な結合活性を有するクローンGA2-IgG1はFcγRとの結合を増強したとしても、その血漿中抗体濃度が大きく低下しないことが確認された。
【0487】
(7-3)ELISA法による血漿中hIgA濃度測定
マウスの血漿中hIgA濃度はELISA法にて測定された。まずGoat anti-Human IgA Antibody(BETHYL)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgA固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLに調製されたhIgAの検量線試料が用いられた。検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料の各100μLに対し、500ng/mLhsIL6Rを200μL加えて混合し、室温で1時間静置した。その後、混合溶液100μLが分注された前記のAnti-Human IgA固相化プレートプレートは室温で1時間静置された。次に、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。更にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定した静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を
図13に示した。
【0488】
その結果、hIgA単独の消失に対して、hIgA と100倍以上のCa依存的な結合活性を有するGA2-IgG1が同時に投与されたマウスでは、hIgA の消失がhIgA単独と比較して加速された。さらに、hIgAとFcγRに対して結合が増強されたGA2-F1087が投与されたマウスの血漿中では、投与一日後に測定範囲(0.006μg/mL以上)よりhIgAの濃度が低下し、GA-IgG1が投与されたマウスの血漿中よりも大幅にhIgAの消失が加速された。以上から、免疫複合体を形成するhIgAと抗hIgA抗体が投与されたマウスにおいて、FcγRに対する結合が増強された抗体による抗原(hIgA)の血漿中からの除去効果が、FcγRに対する結合の増強された抗体のもととなる抗体による抗原(hIgA)の除去効果と比較して増強されていることが示された。
【0489】
〔実施例8〕pH依存的にヒトIgEに結合する抗体の改変体の調製
次に、血漿中からの抗原(ヒトIgE)の消失をさらに増大させることを目的に、pH依存的にヒトIgEに結合する278-IgG1に対してマウスFcγRに対する結合を増強するために278-IgG1のEUナンバリングで表される328位のLeuがTyrに置換された278-F1087(重鎖配列番号:53、軽鎖配列番号:46)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で動物発現用プラスミドに組み込まれた。当該プラスミドが導入された動物細胞を用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、その精製後に測定された。
【0490】
〔実施例9〕278-IgG1のin vivo評価
(9-1)In vivo評価用のヒトIgE(hIgE(Asp6))の調製
実施例(5-1)に記載された方法と同様の方法でin vivo評価用のヒトIgEであるhIgE (Asp6)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体)が調製された。hIgE(Asp6)は、ヒトIgEのN型糖鎖のヘテロジェニティーが抗原であるヒトIgEの血漿中濃度推移の影響を受けないようにするために、ヒトIgEの6か所のN型糖鎖結合サイトのアスパラギンがアスパラギン酸に改変された分子である。
【0491】
(9-2)クローン278が投与されたノーマルマウスの血漿中のヒトIgEの消失加速効果の検証
実施例7で、pH依存的に抗原であるヒトIgAに結合しマウスFcγRに対する結合が増強された分子が投与されたマウスの血漿中の抗原濃度が大幅に低下したことが示された。マウスFcγR に対する結合を増強した場合に、ヒトIgA以外の抗原に対してpH依存的に結合しマウスFcγR に対する結合が増強された抗体が投与された生体の血漿中の可溶型抗原の消失効果が同様に観察されるかについて更なる検証を行うために、ヒトIgEを抗原とする抗体を用いた試験が新たに実施された。
【0492】
C57BL/6Jマウス(Charles river Japan)にhIgE(Asp6)が単独投与、もしくはhIgE(Asp6)および抗hIgE抗体(278-IgG1と278-F1087)が同時投与された後のhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の体内動態が評価された。hIgE(Asp6)(20μg/mL)もしくはhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の混合溶液(濃度は表10に記載したように、いずれの抗体も同じ濃度になるように調製された)が尾静脈から10mL/kgで単回投与された。このとき、hIgE(Asp6)に対して各抗体は十分量過剰に存在することから、hIgE(Asp6)はほぼ全て抗体に結合していると考えられた。クローン278(278-IgG1)が投与された群では、投与後5分間、2時間、7時間、1日間、2日間、4日間、5日間、7日間、14日間、21日間で当該マウスから血液が採血された。278-F1087が投与された群では、5分間、30分間、1時間、2時間、1日間、3日間、7日間、14日間、21日間で当該マウスから血液が採血された。また、採取された血液をただちに4℃、15,000 rpmで5分間遠心分離して、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで、-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0493】
【0494】
(9-3)ノーマルマウスの血漿中の抗ヒトIgE抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、1μg/mLとなるようにhIgE(Asp6)を添加し、278-hIgG1投与群および対応する検量線試料は室温で30分静置させた。また、278-F1087投与群および対応する検量線試料は37℃で一晩攪拌した。静置もしくは攪拌後の検量線およびマウス血漿測定試料をAnti-Human Kappa Light Chain Antibody(Bethyl Laboratories)が固相化されたイムノプレート(Nunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置攪拌(278-F1087投与群の試料および278-F1087の検量線試料)もしくは4℃で一晩静置(278-hIgG1投与群の試料および278-hIgG1の検量線試料)させた。その後、Rabbit anti-Human IgG (Fc) Secondary antibody, Biotin conjugate(Pierce Biotechnology)およびStreptavidin-Poly HRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中抗体濃度推移を
図14に示した。その結果、ヒトIgEに対して強いpH依存的な結合活性を有する278-IgG1のFcγRとの結合が増強された改変体が投与されたマウスにおいて、当該マウスの血漿中における抗体濃度は278-IgG1のそれと比較しても大きく低下しないことが確認された。
【0495】
(9-4)ノーマルマウスの血漿中のhIgE(Asp6)濃度の測定
マウス血漿中hIgE(Asp6)濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として192、96、48、24、12、6、3 ng/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、278-hIgG1を投与した群では10μg/mLとなるようにXolair(Novartis)を添加し、室温で30分静置させた。278-F1087を投与した群では20μg/mLとなるように278-F1022(重鎖配列番号:54、軽鎖配列番号:46、実施例8と同様に調製)もしくは278-F760(重鎖配列番号:55、軽鎖配列番号:46、実施例8と同様に調製)を添加し、37℃で60時間攪拌した。マウス血漿測定試料をanti-human IgEが固相化されたイムノプレート(MABTECH)もしくは、anti-human IgE(clone 107、MABTECH)が固相化されたイムノプレート(Nunc F96 MicroWell Plate(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは攪拌もしくは4℃で一晩静置させた。その後、human GPC3 core protein(配列番号:51)、NHS-PEG4-Biotin(Thermo Fisher Scientific)でbiotin化された抗GPC3抗体(社内調製)、Sterptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法、もしくはSuperSignal(r) ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を基質として発光反応を行い、マイクロプレートリーダーにて発光強度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度もしくは発光強度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を
図15に示した。
【0496】
その結果、ヒトIgE単独の消失に対して、強いpH依存的な結合活性を有する278-IgG1とヒトIgEが同時に投与されたマウスでは、ヒトIgEの消失がヒトIgE単独と比較して加速された。さらに278-IgG1に対してFcγRとの結合が増強された278-F1087とヒトIgEが投与されたマウスでは、ヒトIgEの消失が、ヒトIgE単独および278-IgG1とヒトIgEが投与されたマウスよりも大幅に加速されることが確認された。すなわち、これまでに述べられたFcγRとの結合が増強された抗IgA抗体のみならず、FcγRとの結合が増強された抗IgE抗体が投与されたマウスにおいても、抗原の消失が加速されることが示された。以上の結果から、免疫複合体を形成するhIgAと抗hIgA抗体の組合せおよびhIgEと抗hIgE抗体の組合せそれぞれにおいて、FcγRとの結合を増強することによって、抗原の消失をさらに加速できることが示された。
【0497】
〔実施例10〕カルシウム依存的にhIgAに結合する抗体の改変体の調製
次に、血漿中からの抗原(hIgA)の消失を増大させることを目的に、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1に対してマウスFcRnに対する結合が増強された改変体が作製された。まず、FcγRに対するFc領域の結合を低減させることを目的に、GA2-IgG1のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに、239位のSerがLysに置換されたGA2-F760(重鎖配列番号:57)が作製された。さらにGA2-F760よりもpH7.4においてFcRnに対してより強く結合する改変体であるGA2-F1331が、GA2-F760のEUナンバリングで表される236位のGlyをArgに、252位のMetをTyrに、254位のSerをThrに、256位のThrをGluに、434位のAsnをTyrに、436位のTyrをValに、438位のGlnをArgに、440位のSerをGluに置換して作製された。GA2-F760(重鎖配列番号:57、軽鎖配列番号:40)およびGA2-F1331(重鎖配列番号:56、軽鎖配列番号:40)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。GA2-F760のマウスFcγR(mFcγRI、mFcγRII、mFcγRIIIおよびmFcγRIV)に対する結合活性が測定された。その結果、GA2-F760はマウスFcγRに対して有意な結合を示さなかった。
【0498】
〔実施例11〕Ca依存性hIgA結合抗体が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(11-1)ヒトFcRnトランスジェニックマウスが用いられたin vivo試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse, Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. (2010) 602, 93-104)に対してhIgA(ヒトIgA:実施例(1-1)にて作製)が単独で投与された、またはhIgAおよび抗hIgA抗体が同時に投与された後の、hIgAおよび抗hIgA抗体の体内動態が評価された。hIgA溶液(80μg/mL)、または、hIgAと抗hIgA抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与された。投与される抗hIgA抗体としては、上述のGA2-IgG1、GA2-F760、およびGA2-F1331のいずれかが使用された。
【0499】
混合溶液中のhIgA濃度は全て80μg/mLであり、抗hIgA抗体濃度は2.69 mg/mLであった。このとき、hIgAに対して抗hIgA抗体は十分量過剰に存在することから、hIgAは大部分が抗体に結合していると考えられた。抗体の投与後15分間、1時間、2時間、7時間、1日間、3日間、7日間、14日間でマウスから採血された。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0500】
(11-2)ELISA法によるヒトFcRnトランスジェニックマウス血漿中の抗hIgA抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、0.01563、0.007813μg/mLに調製された抗hIgA抗体の検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が、前記のAnti-Human IgG固相化プレートに分注された後、当該プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associats Inc.)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるGA2-F1331およびGA2-F760の血漿中抗体濃度推移を
図16に示した。
【0501】
(11-3)ELISA法による血漿中hIgA濃度測定
マウスの血漿中hIgA濃度はELISA法にて測定された。まずGoat anti-Human IgA Antibody(BETHYL)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgA固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLに調製されたhIgAの検量線試料が用いられた。検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料の各100μLに対し、500ng/mLhsIL6Rを200μL加えて混合し、室温で1時間静置した。その後、混合溶液100μLが分注された前記のAnti-Human IgA固相化プレートプレートは室温で1時間静置された。次に、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。更にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定した静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を
図17に示した。
【0502】
その結果、hIgAとヒトFcRnに対する結合活性が低いGA2-F760が併せて投与されたマウスの血漿中のhIgA の消失と比較して、hIgAとヒトFcRnに対する結合が増強されているGA2-F1331が併せて投与されたマウスの血漿中のhIgA の消失が顕著に加速されていることが示された。
【0503】
〔実施例12〕pH依存的にヒトIgEに結合する抗体の改変体の調製
次に、血漿中からの抗原(ヒトIgE)の消失を増大させることを目的に、pH依存的にヒトIgEに結合する278-IgG1に対してマウスFcRnに対する結合が増強された改変体が作製された。まず、マウスFcγRに対する結合を低減させることを目的に、278-IgG1のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに、239位のSerがLysに置換された278-F760(配列番号:55)が作製された。さらに278-F760よりもpH7.4においてFcRnに対してより強く結合する改変体である278-F1331が、278-F760のEUナンバリングで表される236位のGlyをArgに、252位のMetをTyrに、254位のSerをThrに、256位のThrをGluに、434位のAsnをTyrに、436位のTyrをValに、438位のGlnをArgに、440位のSerをGluに置換して作製された。278-F1331(重鎖配列番号:58、軽鎖配列番号:46)または278-F760(重鎖配列番号:55、軽鎖配列番号:46)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で動物発現用プラスミドに組み込まれた。当該プラスミドが導入された動物細胞を用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、その精製後に測定された。
【0504】
〔実施例13〕pH依存性hIgE結合抗体が投与されたヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(13-1)ヒトFcRnトランスジェニックマウスが用いられたin vivo試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse, Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. (2010) 602, 93-104)に対してhIgE(Asp6)(ヒトIgE(Asp6):実施例(5-1)にて作製)と抗hIgE抗体(278-F760または278-F1331)およびSanglopor(ヒトノーマルイムノグロブリン、CSL Behring)が同時に投与された後の、hIgE(Asp6)および抗hIgE抗体の体内動態が評価された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体およびSangloporの混合溶液(濃度は表11に記載されている。)が尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与された。投与される抗hIgE抗体としては、上述の278-F760、および278-F1331のいずれかが使用された。
【0505】
このとき、hIgE(Asp6)に対して抗hIgE抗体は十分量過剰に存在することから、hIgE(Asp6)は大部分が抗体に結合していると考えられた。抗体の投与後5分間、2時間、7時間、1日間、2日間、4日間または5日間、7日間、14日間、21日間および28日間でマウスから採血された。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0506】
【0507】
(13-2)ELISA法によるヒトFcRnトランスジェニックマウス血漿中の抗hIgE抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度は電気化学発光(ECL)アッセイにて測定された。血漿中濃度の標準液として32、16、8、4、2、1、0.5および0.25μg/mLに調製された抗hIgE抗体の検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)が固相化されたECLプレートの各ウェルに検量線試料とマウス血漿試料がそれぞれ分注された後、当該プレートを4℃で1時間一晩反応させた。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associats Inc.)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。次に、当該プレート中の各反応液にSULFOタグ標識されたヤギ抗ウサギ抗体(Meso Scale Discovery)を室温で1時間反応させた。最後に各反応液に読取り(read)バッファーT(
x4)
(Meso Scale Discovery)が分注されてから直ちに
Sector Imager 2400 Reader(Meso Scale Discovery)を用いて、反応液の発光が測定された。マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度は検量線の反応性(response)から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける278-F1331および278-F760の血漿中抗体濃度推移を
図18に示した。
(13-3)ヒトFcRnトランスジェニックマウスの血漿中におけるhIgE(Asp6)濃度の決定
マウス血漿中hIgE(Asp6)濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として192、96、48、24、12、6、3 ng/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、278-hIgG1を投与した群では10μg/mLとなるようにXolair(Novartis)を添加し、室温で30分静置させた。マウス血漿測定試料をanti-human IgEが固相化されたイムノプレート(MABTECH)もしくは、anti-human IgE(clone 107、MABTECH)が固相化されたイムノプレート(Nunc F96 MicroWell Plate(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間もしくは4℃で一晩静置させた。その後、human GPC3 core protein(配列番号:51)、NHS-PEG4-Biotin(Thermo Fisher Scientific)でbiotin化された抗GPC3抗体(社内調製)、Sterptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法、もしくはSuperSignal(r) ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を基質として発光反応を行い、マイクロプレートリーダーにて発光強度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度もしくは発光強度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を
図19に示した。
【0508】
その結果、hIgEとマウスFcγRに対する結合活性が低い278-F760が併せて投与されたマウスの血漿中のhIgE の消失と比較して、hIgEとヒトFcRnに対する結合が増強されている278-F1331が併せて投与されたマウスの血漿中のhIgE の消失が顕著に加速されていることが示された。すなわち、これまでに述べられたFcRnとの結合が増強された抗IgE抗体のみならず、FcRnとの結合が増強された抗IgE抗体が投与されたマウスにおいても、抗原の消失が加速されることが示された。以上の結果から、免疫複合体を形成するhIgAと抗hIgA抗体の組み合わせおよびhIgEと抗hIgE抗体の組み合わせそれぞれにおいて、FcRnとの結合を増強することによって、抗原の消失をさらに加速できることが示された。
【0509】
〔実施例14〕ノーマルマウスを用いた2種類の抗ヒトIL6レセプター抗体同時投与の抗原の血漿中滞留性への影響評価
(14-1)2種類の抗IL6R抗体の調製
Fv4-IgG1(重鎖配列番号:59、軽鎖配列番号:60)は国際公開WO2011/122011に記載されているpH依存的にヒトIL6Rに結合する(中性条件下において結合し、酸性条件下において解離する)特性を有する抗ヒトIL6レセプター抗体である。また、PHX-IgG1(重鎖配列番号:61、軽鎖配列番号:62)はヒトIL6Rに結合する抗体である。Fv4-IgG1(重鎖配列番号:59、軽鎖配列番号:60)、PHX-IgG1(重鎖配列番号:61、軽鎖配列番号:62)またはPHX-IgG1の重鎖定常領域のアミノ酸が改変されたPHX-F29(重鎖配列番号:63、軽鎖配列番号:62)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法(実施例1に記載)で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。
【0510】
(14-2)PHX-IgG1のヒトIL6レセプター結合評価
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、(14-1)で調製されたPHX-IgG1とIL-6Rとの相互作用を解析することによって、解離定数(KD)が算出された。ランニングバッファーとして10mM ACES, 150mM NaCl, 0.05% Tween20, pH7.4を用いて、37℃にて相互作用が解析された。アミンカップリング法によりProtein A/G(Thermo Scientific)が固定化されたSeries S Sencor Chip CM4(GE Healthcare)へ目的の抗体をキャプチャーさせた。抗体を補足させた当該チップにランニングバッファーで800、400、200、100、50、25、12.5 nMに希釈されたIL-6Rおよびランニングバッファーと流速 2μL/分で15分間相互作用させた。10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、チップにキャプチャーした抗体が洗浄され、洗浄されたチップが再生されて繰り返し相互作用解析に用いられた。
【0511】
PHX-IgG1のIL-6Rに対する解離定数KD(mol/L)は、Biacoreの測定結果として得られたセンサーグラムに対してBiacore Evaluation Softwareを用いてsteady state affinity解析を行うことで算出された。この方法により算出されたpH7.4におけるPHX-IgG1とIL-6Rとの解離定数 (KD) は1.4E-7 (M)であった。
【0512】
次に、PHX-IgG1のhIL-6Rに対する結合のpH依存性がBiacore T100を用いて評価された。ランニングバッファーとして10mM ACES, 150mM NaCl, 0.05% Tween20, pH7.4および10mM ACES, 150mM NaCl, 0.05% Tween20, pH6.0の各バッファーを用い、37℃の温度でpH7.4およびpH6.0の条件下でのPHX-IgG1のhIL-6Rに対する結合が測定された。アミンカップリング法によりProtein A/G (Thermo Scientific) が固定化されたSeries S Sencor Chip CM4(GE Healthcare)へ目的の抗体をキャプチャーさせた。抗体を捕捉させた当該チップに対して、ランニングバッファーで1000、250、62.5 nMに希釈されたhIL-6Rおよびランニングバッファーを相互作用させた。
【0513】
この方法で測定して得られたpH7.4およびpH6.0におけるセンサーグラムをそれぞれ
図20に示した。
図20は、抗体のキャプチャー量を100 RUにnormalizeした際のPHX-IgG1のhIL-6Rに対する結合相および解離相を示す。
図20の結果を比較すると、pH6.0ではpH7.4の場合と比較して、PHX-IgG1のhIl-6Rに対する結合が減少することが明らかとなった。
【0514】
(14-3)電気化学発光法による2種の抗体の同一抗原同時結合性評価
2種の抗体が1つの抗原に同時に結合できるかが電気化学発光法にて評価された。まずEZ-Link Sulfo-NHS-Biotin (Thermo SIENTIFIC)でビオチン化されたFv4-IgG1(1μg/mL、100μL)をMULTI-ARRAY(r) 96-well Streptavidin Gold Plateに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄後0、0.2、1、5、25μg/mLに調製されたhsIL-6Rを100μL添加し室温で1時間反応させ、さらに洗浄後SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化されたPHX-F29(0、0.2、1、5、25、125μg/mL、100μL)または同じ方法でルテニウム化されたFv4-IgG1(5μg/mL、100μL)を添加し室温で1時間反応させた。洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を各ウェルに150μLずつ分注し、ただちにSECTOR IMAGER 2400 reader(Meso Scale Discovery)で化学発光が測定された。
【0515】
結果を
図21に示した。ルテニウム化されたFv4-IgG1を反応させた場合、抗原の濃度によらず、反応は観測されなかった。一方で、ルテニウム化されたPHX-F29を反応させた場合、抗原(IL6R)の濃度依存的に反応がみられた。この結果は、PHX-F29がFv4-IgG1と同時にIL6Rに結合していることを示している。したがって、PHX-F29が認識するIL6RのエピトープとFv4-IgG1が認識するエピトープが異なることを示しており、PHX-F29の可変領域とFv4-IgG1の可変領域をそれぞれもつ抗体を用いることで、1分子のIL6Rに2分子の抗原結合分子が結合できることを示している。
【0516】
(14-4)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例1にて作製)をhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体が併せて投与された後のhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。hsIL-6R溶液(5μg/mL)、もしくは、hsIL-6Rと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体としては、Fv4-IgG1およびPHX-IgG1が使用された。
【0517】
混合溶液中のhsIL-6R濃度は全て5μg/mLであるが、投与群毎に異なる抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度を表12に示した。このとき、hsIL-6Rに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、hsIL-6Rは大部分が抗体に結合していると考えられる。投与後5分間、7時間、1日間、2日間、3日間、7日間、14日間、21日間で、投与されたマウスから採血された。Fv4-IgG1(1mg/kg)投与群(#1)は、投与後5分間、7時間、1日間、2日間、3日間、7日間、15日間、22日間で採血された。採取された血液は直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離して、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0518】
【0519】
(14-5)電気化学発光法によるノーマルマウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は電気化学発光法にて測定された。まずAnti-Human kappa capture antibody (Antibody Solutions) をMulti-ARRAY 96-Well plate(Meso Scale Discovery)に分注し、室温で1時間攪拌した後で5%BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて室温で2時間BlockingしてAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として40.0、13.3、4.44、1.48、0.494、0.165、0.0549μg/mLの濃度に調製された検量線試料と500倍以上希釈して調製されたマウス血漿測定試料が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが室温で1時間攪拌された。その後当該プレートの各ウェルにAnti-Human kappa capture antibody Biotin conjugate(Antibody Solutions)が分注された後に、当該プレートを室温で1時間攪拌して反応させた。さらに当該プレートの各ウェルにSULFO-TAG Labeled streptavidin (Meso Scale Discovery) が分注された後に、当該プレートを室温で1時間攪拌して反応させた。各ウェルを洗浄後、同ウェルにRead Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)が分注された反応液の化学発光が、ただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)を用いて測定された。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて検量線のレスポンスからマウス血漿中濃度が算出された。抗ヒトIL6R抗体の濃度推移を
図22に示した。
【0520】
(14-6)電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定された。血漿中濃度として12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.781, 0.391, 0.195 ng/mLに調製されたhsIL-6R検量線試料または50倍以上希釈されて調製されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化されたMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびトシリズマブ(重鎖配列番号:64、軽鎖配列番号:65)溶液の混合液を37℃で1晩反応させた。その後、0.5%BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて5℃で1晩BlockingされたStreptavidin Gold Multi-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)の各ウェルに当該混合液が分注された。さらに室温で2時間反応させた当該プレートの各ウェルの洗浄後、Read Buffer T(×2)(Meso Scale Discovery)が分注された各ウェルの反応液中の化学発光がただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)を用いて測定された。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて検量線のレスポンスからhsIL-6R濃度が算出された。
【0521】
算出されたヒトIL6R(hsIL6RまたはhsIL-6Rとも記載するが同じタンパク質を指す)の濃度推移を
図23に示した。Fv4-IgG1と共に、PHX-IgG1が投与されたマウスでは、Fv4-IgG1が単独で投与されたマウスよりもhs血漿中のIL6Rの消失が加速された。
【0522】
特有の理論に拘束されるものではないが、上記の血漿中の抗原の消失の加速は以下のように説明することも可能であると考えられた。Fv4-IgG1は、単独投与された場合でもhsIL6Rに対して十分量存在し、ほぼ全てのhsIL6Rは血漿中でFv4-IgG1に結合していると考えられる。Fv4-IgG1とエピトープが異なり、hsIL6Rにともに結合できるPHX-IgG1を投与すると、一分子のhsIL6Rに対して、Fv4-IgG1、PHX-IgG1を含む免疫複合体が形成される。その結果、増強されたFcγレセプターおよび/またはFcRnへの結合によって細胞内への取込みが促進された結果、hsIL6Rの血漿中からの消失が加速されたと考えられた。すなわち、単量体抗原に存在する互いに異なるエピトープに結合する適切な可変領域を含む多重特異性(multispecific)抗体、または多重パラトピックな(multiparatopic)抗体の非限定な一態様である、その可変領域がpHまたはCa依存的な結合抗体(
図8に示すようなエピトープAを認識する右腕の可変領域とエピトープBを認識する左腕の可変領域を含む、二重特異性(bispecific)抗体あるいは二重パラトピック(biparatopic)抗体)もまた、二以上の抗体、および二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成し、抗原の消失を加速することが可能であることが示された。
【0523】
〔実施例15〕Biacoreを用いた免疫複合体とFcgRの結合評価
(15-1)免疫複合体とFcγRの結合について
抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、実施例4では、ゲルろ過(サイズ排除)クロマトグラフィー、実施例14では電気化学発光法(ECL法)が用いられた。免疫複合体に含まれる抗原結合分子もしくは抗原にイムノグロブリン定常領域等のFcγR結合ドメインが含まれる場合には、免疫複合体はFcγRとAvidityで結合する。そのため、抗原結合分子単体もしくは抗原単体よりもFcγRに強く結合する性質(特に解離が遅くなる性質)を利用した方法で、FcγR結合ドメインを含む免疫複合体の形成を確認することが出来ると考えられた(The Journal of Biological Chemistry (2001) 276(9), 6591-6604、mAbs (2009) 1 (5), 491-504)。
【0524】
(15-2)評価抗体・抗原およびヒスチジンタグ付加human FcγR IIIaVの調製
免疫複合体の形成の評価に用いられたXolair(Novartis)、クローン278-IgG1(実施例4で調製)、GA2-IgG1(実施例1で調製)、Fv4-IgG1(実施例14で調製)、PHX-IgG1(実施例14で調製)は、前述の方法で調製された。
【0525】
評価に用いたhIgE(hIgE(Asp6)、実施例5で調製)およびIL6R(参考実施例1)は、それぞれ前述の方法で調製された。ヒトIgAの組換え体であるhIgA-v2(GC-hIgA)は、以下の方法で調製された。GC-hIgA- MYC(重鎖配列番号:66、軽鎖配列番号:67)をコードする遺伝子断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。構築されたプラスミドベクターは、FreeStyle293 (Invitrogen)に293Fectin (Invitrogen)を用いて、EBNA1を発現する遺伝子と共に導入された。その後、遺伝子導入された細胞を37℃、CO2 8%で6日間培養して、GC-hIgAタンパク質を培養上清中に分泌させた。GC-hIgA-MYCを含む細胞培養液を、0.22μmボトルトップフィルターでろ過し培養上清が得られた。当業者公知の方法によってイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製されたGC-hIgA-MYCが得られた。
【0526】
ヒスチジンタグ付加human FcγR IIIaVは参考実施例2に記載された方法で調製された。
【0527】
(15-3)免疫複合体とFcγRの結合評価
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、抗原抗体免疫複合体とFcgRとの結合が評価された。
【0528】
アミンカップリング法で適切な量のPenta-His antibody (QIAGEN)が固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)上に適切な濃度のヒスチジンタグが付加されたhuman FcγR IIIaVがインジェクトされた。当該チップ上に固定化されたpenta-His antibodyにhuman FcγR IIIaVを捕捉させることで、当該チップ上にhuman FcγR IIIaVが固定化された。アナライトとして、200 nMの抗体を含む溶液または200 nMの抗体と200 nMの抗原の混合液をインジェクトし、センサーチップ上に固定化されたhuman FcγR IIIaVと相互作用させた。その後、10 mmol/L Glycine-HCl, pH2.5をインジェクトして、センサーチップが再生された。ランニングバッファーとして、1.2 mmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH7.4を用いて、抗原抗体免疫複合体とFcgRとの結合が25℃で測定された。
【0529】
抗体を含む溶液または抗体と抗原の混合液をhuman FcγRIIIaVと作用させたときの結合解析の結果を
図24に示した。
図24は、解離に着目するために、結合量が100に正規化されたセンサーグラムである。Fv4-IgG1は、IL6Rと結合するが、免疫複合体を形成しないため、抗体を含む溶液とFcγRとを作用させたときの解離と、抗体と抗原の混合液とを作用させたときの解離との間に差は認められなかった。一方で、免疫複合体を形成していることが報告されているXolair(J. Pharmacol. Exp. Ther. (1996) 279 (2) 1000-1008)とhIgEの混合液をFcγRと結合させたときのFcγRからの解離は、XolairのみをFcγRと結合させたときのFcγRからの解離よりも遅くなることが観測された。さらに、実施例4においてサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィーを用いて免疫複合体の形成が確認されたクローン278-IgG1と抗原(hIgE)の混合液をFcγRと結合させたときのFcγRからの解離も、クローン278-IgG1のみをFcγRと結合させたときのFcγRからの解離よりも遅くなった。さらに、GA2-IgG1とhIgAの混合液をFcγRと結合させたときのFcγRからの解離も、GA2-IgG1のみをFcγRと結合させたときのFcγRからの解離よりも遅くなった。さらに、Fv4-IgG1およびPHX-IgG1と抗原(IL6R)の混合液をFcγRと結合させたときのFcγRからの解離も、Fv4-IgG1またはPHX-IgG1をFcγRと結合させたときのFcγRからの解離よりも遅くなった。
【0530】
以上から、免疫複合体に含まれる抗原結合分子もしくは抗原にイムノグロブリン定常領域等のFcγR結合ドメインが含まれる場合には、免疫複合体はFcγRとAvidityで結合することから、抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、イムノグロブリン定常領域等のFcγR結合ドメイン等が含まれる分子を単独でFcγRに結合させたときのFcγRからの解離より、FcγR結合ドメイン等が含まれる抗原結合分子とその抗原の混合液をFcγRに結合させたときのFcγRからの解離、またはFcγR結合ドメイン等が含まれる抗原と当該抗原に結合する抗原結合分子の混合液をFcγRに結合させたときのFcγRからの解離が遅くなることを評価する方法が有効であることが明らかになった。上記のFcγRからの解離を判断基準として用いた免疫複合体の評価は、単量体が複数個結合した抗原に対する抗体で形成された免疫複合体、単量体抗原にエピトープが異なる複数の抗体で形成された免疫複合体のいずれの場合でも有効であることが示された。
【0531】
〔実施例16〕Biacoreを用いた免疫複合体とFcRnの結合評価
(16-1)免疫複合体とFcRnの結合について
抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、免疫複合体に含まれる抗原結合分子もしくは抗原がイムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメインが含まれる場合には、免疫複合体はFcRnとAvidityで結合する。そのため、抗原結合分子単体もしくは抗原単体よりもFcRnに強く結合する性質(特に解離が遅くなる性質)を利用した方法で、FcRn結合ドメインを含む免疫複合体の形成を確認することが出来ると考えられた(Journal of Immunology (2010) 184 (4) 1968-1976)。しかし、これまでに報告されている方法は、FcRnとFcRn結合ドメインとの結合がpH6.0の条件で評価されており、当該条件は生体内とは異なるだけでなく、pHが変化すると結合力が変化する検体の評価には不適当であった。これは、ヒトFcRnとヒトIgG1の結合力が非常に低いため、pH7.4での結合が評価できなかったためであると考えられた。そこで、生体内での条件に近づけたpH7.4の条件下での免疫複合体の評価が可能であるか検討された。
【0532】
(16-2)評価抗体・抗原およびFcRnの調製
評価に用いられたFv4-F22はFv4-IgG1(実施例14に記載)の重鎖定常領域改変体である。Xolair-F22はXolair(Novartis)の重鎖定常領域改変体である。Fv4-F22(重鎖配列番号:68、軽鎖配列番号:60)およびXolair-F22(重鎖配列番号:69、軽鎖配列番号:70)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で動物発現用プラスミドに組み込まれた。当該プラスミドが導入された動物細胞を用いて、上述の方法(実施例1に記載)で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、その精製後に測定された。また、クローン278-IgG1(実施例4で調製)、Fv4-IgG1(実施例14で調製)、PHX-IgG1(実施例14で調製)は、前述の方法で調製された。
【0533】
評価に用いられたhIgE(hIgE(Asp6)、実施例5で調製)およびIL6R(参考実施例1で調製)は、それぞれ前述の方法で調製された。
【0534】
ヒトFcRnおよびマウスFcRnはそれぞれ参考実施例3および4に記載された方法で調製された。
【0535】
(16-3)免疫複合体とヒトFcRnの結合評価
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、抗原抗体免疫複合体とヒトFcRnとの結合が評価された。
【0536】
アミンカップリング法で適切な量のヒトFcRn(hFcRn)が固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)上に、アナライトとしてインジェクトされた、表13に示す抗体のみの溶液または抗体と抗原との混合液を、センサーチップ上のhFcRnと相互作用させた。その後、20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH9.0もしくはpH9.5をインジェクトし、センサーチップが再生された。ランニングバッファーとして、50 mmol/l Na-Phosphate(リン酸), 150 mmol/l NaCl, 0.05% Tween20、pH7.4を用いて、抗原抗体免疫複合体とFcRnとの結合が25℃で測定された。
【0537】
【0538】
抗体を含む溶液または抗体と抗原の混合液をhFcRnと作用させたときの結合解析の結果を
図25に示した。
図25は、解離に着目するために、結合量が100に正規化されたセンサーグラムである。Fv4-F22は、IL6Rと結合するが、イムノグロブンリン定常領域を有する分子を複数個含む免疫複合体を形成しないため、抗体を含む溶液とFcRnとを作用させたときの解離と抗体と抗原の混合液とを作用させたときの解離との間に差は認められなかった。一方で、hIgEと免疫複合体を形成することが報告されているXolair(J. Pharmacol. Exp. Ther. (1996) 279 (2) 1000-1008)の可変領域を有するXolair-F22 とhIgEの混合液をFcRnと結合させたときのFcRnからの解離は、Xolair-F22のみをFcRnに結合させたときのFcRnからの解離よりも遅くなることが観測された。以上から、pH7.4の条件であも、hFcRnとの結合が増強された抗体を用いることでhFcRnとの結合が検出できるようになることが明らかとなった。また、免疫複合体に含まれる抗原結合分子もしくは抗原にイムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメインが含まれる場合には、免疫複合体はFcRnとより強固に結合することから、抗原結合分子と抗原を含む免疫複合体の形成を評価する方法として、イムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメイン等が含まれる分子を単独でFcRnに結合させたときのFcRnからの解離より、FcRn結合ドメイン等が含まれる抗原結合分子とその抗原の混合液をFcRnに結合させたときのFcRnからの解離、またはFcRn結合ドメイン等が含まれる抗原と当該抗原に結合する抗原結合分子の混合液をFcRnに結合させたときのFcRnからの解離が遅くなることを評価する方法が有効であることが明らかになった。
【0539】
(16-4)Biacoreを用いた、免疫複合体とマウスFcRnの結合評価
(16-3)では、hFcRnとの結合が増強されたイムノグロブリン定常領域の改変体を含む免疫複合体のFcRnに対する結合が評価された。天然型ヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int. Immunol. (2001) 13 (12), 1551-1559)、天然型ヒトIgGの定常領域を含む抗体のマウスFcRnに対する結合を評価することで、イムノグロブリン定常領域を改変せずに免疫複合体の形成を評価することが可能であるか検討された。
【0540】
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、抗原抗体免疫複合体とFcRnとの結合が評価された。アミンカップリング法で適切な量のマウスFcRn(mFcRn)が固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)上に、アナライトとしてインジェクトされた、表14に示す抗体のみの溶液または抗体と抗原との混合液を、センサーチップ上のmFcRnと相互作用させた。その後、20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH9.0もしくはpH9.5をインジェクトし、センサーチップが再生された。ランニングバッファーとしては、50 mmol/l Na-Phosphate(リン酸), 150 mmol/l NaCl, 0.05% Tween20、pH7.4を用いて、抗原抗体免疫複合体とFcRnとの結合が25℃で測定された。
【0541】
【0542】
抗体のみを含む溶液または抗体と抗原の混合液をmFcRnと作用させたときの結合解析の結果を
図26および
図27に示した。
図26および
図27は、解離に着目するために、結合量が100に正規化されたセンサーグラムである。実施例4においてサイズ排除(ゲルろ過)クロマトグラフィーを用いて免疫複合体の形成が確認されたクローン278-IgG1と抗原(hIgE)の混合液をmFcRnと結合させたときのmFcRnからの解離も、クローン278-IgG1のみをmFcRnと結合させたときのmFcRnからの解離よりも遅くなった。さらに、免疫複合体を形成していることが報告されているXolair(J. Pharmacol. Exp. Ther. (1996) 279 (2) 1000-1008)とhIgEの混合液をmFcRnと結合させたときのmFcRnからの解離は、XolairのみをmFcRnと結合させたときのmFcRnからの解離よりも遅くなることが観測された(
図26)。一方で、Fv4-IgG1を含む溶液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離と、とFv4-IgG1とIL6Rの混合液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離との間に差は認められなかった。さらに、PHX-IgG1を含む溶液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離と、PHX-IgG1とIL6Rの混合液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離との間に差は認められなかった(
図27)。これは、Fv4-IgG1に含まれる可変領域が結合するIL6Rにおける抗原結合単位は1であるため、Fv4-IgG1のみがIL6Rに対する抗原結合分子として用いられた場合、一分子のIL6Rに対して二分子以上のFv4-IgG1が含まれる免疫複合体を形成しないためであると考えられた。PHX-IgG1に含まれる可変領域が結合するIL6Rにおける抗原結合単位も1であるため、IL6Rに一つのエピトープしか存在していないために、PHX-IgG1のみがIL6Rに対する抗原結合分子として用いられた場合、一分子のIL6Rに対して二分子以上のPHX-IgG1が含まれる免疫複合体を形成しないためであると考えられた。。。ここで、エピトープが互いに異なることが実施例14で明らかになったPHX-IgG1とFv4-IgG1とIL6Rの混合液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離は、Fv4-IgG1抗体とPHX-IgG1抗体とを含む(抗体のみの)溶液とmFcRnとを結合させたときのmFcRnからの解離よりも遅くなった。このような解離が遅くなった現象は、クローン278で観測された現象と同様であった。このことは、標的となる抗原に結合する抗原結合分子として単一の抗原結合分子が使用されるときには抗原結合単位が1の抗原であっても、エピトープが互いに異なる抗原結合分子の組合せを当該抗原に対する抗原結合分子として用いることによって、当該抗原の抗原結合単位を2以上にすることが可能であり、その結果、2分子以上の抗原結合分子を含む免疫複合体が形成出来ることを示している。
【0543】
以上から、マウスFcRnを用いることで、FcRnとの相互作用に影響する改変を加えていない天然のヒトIgG1分子であっても、生体内の条件と同じpH7.4の条件下におけるFcRnとの結合が評価できることが示された。さらに、抗原結合分子もしくは抗原にイムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメインが含まれる場合には、免疫複合体はFcRnと強固に結合することから、イムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメインが含まれる分子のFcRnからの解離よりも、イムノグロブリン定常領域等のFcRn結合ドメインが含まれる分子が複数含まれる免疫複合体のFcRnからの解離が遅くなることを評価することによって、免疫複合体の形成を確認することが可能であることが明らかになった。上記のFcRnを用いた免疫複合体の形成の評価は、単量体が複数個結合した抗原と当該抗原に結合する抗体によって形成された免疫複合体、および、単量体抗原と当該抗原に結合し互いに結合するエピトープが異なる複数の抗体によって形成された免疫複合体の形成を確認するいずれの場合でも用いることができることが確認された。
【0544】
〔参考実施例1〕 可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製された。J. Immunol. (1994) 152, 4958-4968で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(以下、hsIL-6R)を定常的に発現するCHO株が当業者公知の方法で構築された。当該CHO株を培養することによって、hsIL-6Rを発現させた。得られた当該CHO株の培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの二工程によってhsIL-6Rが精製された。最終工程においてメインピークとして溶出された画分が最終精製品として用いられた。
【0545】
〔参考実施例2〕 ヒスチジンタグ付加human FcγR IIIaVの調製
ヒスチジンタグ付加human FcγRIIIaVは以下の方法で調製された。まずFcgRの細胞外ドメインの遺伝子の合成を当業者公知の方法で実施した。その際、各FcgRの配列はNCBIに登録されている情報に基づき作製した。具体的には、FcgRIIIaについてはNCBIのaccession # NM_001127593.1の配列に基づいて作製し、C末端にHisタグを付加した。またFcgRIIIaについては多型が知られているが、FcgRIIIaについてはJ. Clin. Invest., 1997, 100 (5): 1059-1070を参考にして作製した。
【0546】
得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターをヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、目的タンパク質を発現させた。培養し、得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターを通して培養上清を得た。得られた培養上清は原則として次の4ステップで精製した。第1ステップは陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(SP Sepharose FF)、第2ステップはHisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)、第3ステップはゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)、第4ステップは無菌ろ過、を実施した。精製したタンパク質については分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて精製タンパク質の濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0547】
〔参考実施例3〕 可溶型ヒトFcRn(hFcRn)の調製
ヒトFcRnはβ2-ミクログロブリンと複合体を形成している。既報のhuman FcRn gene sequence (J Exp Med. 1994 Dec 1; 180(6): 2377-81)を元にOligo-DNA primersが設計された。設計されたPrimerを用いて、PCR法によりhuman cDNA (Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)からcDNAを増幅した。増幅されたcDNAは、シグナル配列を含む細胞外ドメイン(Met1-Leu290)であり、動物細胞発現用ベクターに挿入された。同様にβ2―ミクログロブリンも既報のhuman β2―ミクログロブリンの配列を元にPrimerが設計され、PCR法でcDNAが増幅された。シグナル配列を含むMet1-Met119のcDNA断片が増幅され、動物細胞発現用ベクターに挿入された。
【0548】
可溶型human FcRn(hFcRnと呼ぶ)は以下の手順に従って、調製された。前述のヒトFcRn(配列番号:71)を発現するベクターとβ2―ミクログロブリン(配列番号:72)を発現するベクターをHEK293H細胞(Invitrogen)にPEI(Polyscience)を利用したlipofection法で遺伝子導入した。遺伝子が導入された細胞を培養し、培養液を回収した。回収した培養液から、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)およびHi Trap Q HP(GE Healthcare)の各クロマトグラフィーによってhFcRnを精製した。(J Immunol. 2002 Nov 1; 169(9): 5171-80).
【0549】
〔参考実施例4〕 可溶型マウスFcRn(mFcRn)の調製
可溶型マウスFcRnは可溶型ヒトFcRnと同様に調整された。まずマウスFcRnの細胞外ドメインの遺伝子およびマウスβ2-ミクログロブリンの遺伝子の合成を当業者公知の方法で実施した。その際、マウスFcRnおよびマウスβ2-ミクログロブリンの配列はNCBIに登録されている情報に基づき作製した。具体的には、マウスFcRnはNCBIのaccession # NP_034319.2の配列に基づいて、細胞外ドメインとしてシグナル配列を含む1-290番目のアミノ酸をコードする遺伝子断片を作製した(配列番号:73)。さらに、β2-ミクログロブリンはNCBIのaccession # NP_033865の配列に基づいて遺伝子断片を作製した(配列番号:74)。得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターをヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、目的タンパク質を発現させた。遺伝子が導入された細胞を培養し、培養液を回収した。回収した培養液から、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)およびSuperdex200(GE Healthcare)の各クロマトグラフィーによってmFcRnを精製した。
【0550】
〔参考実施例5〕 FcγRに対する結合活性が天然型ヒトIgGのFc領域の結合活性より高く、pH酸性域の条件下におけるヒトFcRn結合活性が増強された抗原結合分子の作製
(5-1)マウスFcγRに対する結合が増強されている抗ヒトIL-6レセプター抗体の作製
マウスFcγRへの結合が増強された抗原結合分子として、VH3-IgG1のEUナンバリングで表される326位のLysがAspに置換されたVH3-IgG1-F1087(配列番号:75)およびVH3-IgG1のEUナンバリングで表される239位のSerがAspに置換され、332位のIleがGluに置換されたVH3-IgG1-F1182(配列番号:76)が作製された。参考実施例2の方法を用いて、VH3-IgG1-F1087を重鎖として含み、VL3-CK(配列番号:77)を軽鎖として含むFv4-IgG1-F1087および、VH3-IgG1-F1182を重鎖として含み、VL3-CKを軽鎖として含む、Fv4-IgG1-F1182が作製された。
【0551】
(5-2)マウスFcγRに対する結合活性の確認
VH3-IgG1-F1087およびVH3-IgG1-F1182を重鎖として含み、L (WT)-CK(配列番号:78)を軽鎖として含むVH3/L (WT)-IgG1-F1087およびVH3/L (WT)-IgG1-F1182が作製された。これらの抗体およびVH3/L (WT)-IgG1-F1022のマウスFcγRに対する結合活性が評価された。その結果を表15に示した。また、それぞれの改変体のマウスFcγRに対する結合活性が、改変を加える前のIgG1に比較して何倍増強しているかを表16に示した。
【0552】
【0553】
【産業上の利用可能性】
【0554】
本発明にかかる抗原結合分子は、二以上の抗原結合単位(エピトープ)を含む抗原と二分子以上の抗原結合分子(例えば抗体)とを含む大きな免疫複合体を形成するという特徴を備えることにより、二以上の抗原結合単位を含む抗原を血漿中からの消失を加速されることを可能とする。本発明にかかる抗原結合分子は、また、斯かる特徴に加え、イオン依存性抗原結合活性を備えることで当該抗原の消失のさらなる加速を可能とする。本願発明にかかる抗原結合分子が斯様な技術的特徴を備えることにより、当該抗原結合分子は、疾患または症状(例えば、癌、炎症性疾患)を治療するための医薬として極めて有用である。
【配列表】