IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒ飲料株式会社の特許一覧

特許7562268豆乳含有飲料、及び豆乳含有飲料の風味劣化抑制方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】豆乳含有飲料、及び豆乳含有飲料の風味劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20240930BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240930BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240930BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240930BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20240930BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20240930BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20240930BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23L11/00 Z
A23L2/38 D
A23C11/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020029015
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021132536
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】山口 航
(72)【発明者】
【氏名】武邑 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕貴
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-018025(JP,A)
【文献】特開2010-004809(JP,A)
【文献】特開昭62-111632(JP,A)
【文献】特開2008-029279(JP,A)
【文献】J Food Sci Nutr,2009年,Vol. 14,pp.76-85
【文献】J Food Sci Technol,2018年,55(4),1591-1598
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ノナノンを0.08~1.5ppm含有する、豆乳含有飲料
【請求項2】
pHが4.6以下である、請求項1に記載の豆乳含有飲料。
【請求項3】
2-ノナノンを0.08~ppm含有する、請求項1または2に記載の豆乳含有飲料。
【請求項4】
豆乳含有飲料に2-ノナノンを配合する工程を含む、豆乳含有飲料の風味劣化抑制方法(ただし、豆乳含有飲料が(E)-6-ノネナールを0.05ppt~2ppb含む場合を除く)。
【請求項5】
2-ノナノンを含む、豆乳含有飲料の風味劣化抑制剤(ただし、(E)-6-ノネナールを有効成分として含む場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳含有飲料、及びその風味劣化抑制方法、並びに、豆乳含有飲料の風味劣化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、多種多様なターゲットに合わせた様々な乳性飲料が開発されている。一方で、乳アレルギーの問題や近年の健康志向や嗜好性の多様化などを背景に、乳性飲料に代わる、新しい豆乳含有飲料の開発も進められている。これまで、豆乳は栄養価の高い植物性ミルクとして親しまれており、常温で保存可能な製品も多数販売されている。しかしながら、豆乳及び豆乳含有飲料は、保存中に大豆由来の青臭い豆乳臭などが目立ってきて、好ましくない風味が生じるため、美味しさが損なわれてしまい、結果として飲みにくくなることが知られていた。このような課題に対し、例えば、豆乳にフルーツの味わいを付与して飲みやすくする工夫がなされているが、豆乳本来の味わいも損なわれてしまう可能性がある。
【0003】
そこで、様々な手段で好ましくない豆乳臭のマスキングをすることが試みられている。例えば、特許文献1には、一般に匂いのマスキングに効果があることが既に知られているレモン油から抽出したセスキテルペンを有効成分とする、豆乳臭のマスキングに関する技術が開示されている。また、特許文献2には、焙煎大豆を豆乳の原料に配合することで、得られる豆乳に含まれるメチルピラジン類の量を調整することで、大豆固有の青臭みを抑制できることが示されている。しかしながら一方で、特許文献2には、焙煎大豆の添加により、青臭みの原因物質であるヘキサナール量が増大することも記載されている。
また、特許文献3には、多種多様な飲料における悪臭のマスキングなどを目的とした香料組成物が記載されており、具体的には、乳成分を含む様々な製品に当該香料組成物を配合させることが記載されており、特許文献4には、より嗜好性の高い乳又は乳製品様の香味を付与するための香料組成物が記載されており、その有効成分として多種多様な成分が開示されている。特許文献3及び4に記載の技術においては、香料組成物において用いられる複数の香気成分と併用し得る成分の一つとして2-ノナノンが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-105011号公報
【文献】特開2017-169481号公報
【文献】特開2004-168936号公報
【文献】特開2005-15685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、豆乳感を損なうことなく、保存中の風味劣化が抑制された豆乳含有飲料、及びこのような豆乳含有飲料を提供するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、豆乳含有飲料の風味劣化を抑制できるフレーバー等や風味劣化抑制するための新しい手段等について鋭意検討するなかで、予想外にも、豆乳には通常含まれない2-ノナノンを、無調整豆乳や豆乳含有飲料に加えた場合に、風味劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
〔1〕2-ノナノンを含有する、豆乳含有飲料。
〔2〕pHが4.6以下である、前記〔1〕に記載の豆乳含有飲料。
〔3〕2-ノナノンを0.08~3ppm含有する、前記〔1〕または〔2〕に記職の豆乳含有飲料。
〔4〕豆乳含有飲料に2-ノナノンを配合する工程を含む、豆乳含有飲料の風味劣化抑制方法。
〔5〕2-ノナノンを含む、豆乳含有飲料の風味劣化抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、豆乳感を損なうことなく、保存中の風味劣化が抑制された豆乳含有飲料、及びこのような豆乳含有飲料を提供するための手段を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、2-ノナノンを含有する豆乳含有飲料に関する。原材料に大豆以外のものを使用しないで製造される豆乳においては、通常2-ノナノンが含まれていないため、2-ノナノンを適量添加することで本発明に係る豆乳含有飲料を得ることができる。本発明に係る豆乳含有飲料は、2-ノナノンを含有することで、豆乳感を損なうことなく、保存中の風味劣化を抑制することができる。この風味劣化抑制の理由の一つには、2-ノナノンが単独で、豆乳含有飲料における豆乳由来成分に対して、風味劣化に寄与するヘキサナールなどの風味をマスキングできることが考えられる。したがって、2-ノナノンは、豆乳含有飲料の風味改善剤として使用することもできる。
本発明に係る豆乳含有飲料における2-ノナノンの含有量は、0.08~3ppmであることが好ましく、0.1~3ppmであることがより好ましく、0.2~2ppmであることがさらに好ましく、0.3~1ppmであることが特に好ましい。本発明において、市販品の2-ノナノンを豆乳含有飲料に配合してもよいし、既知濃度の2-ノナノンを含有する飲食品を豆乳含有飲料に配合してもよい。なお、豆乳含有飲料における2-ノナノンの濃度が未知である場合においては、ゲステル社製MPSを用いるMVM(Multi Volatile Method)法により、GC/MS測定に供し、本実施例に記載した条件で測定することができる。なお、2-ノナノンは牛乳の超高温(UHT)殺菌によって生成する加熱フレーバーの1種として知られている(日本食品化学工学会誌 第46巻 第9号 1999年9月)。
【0009】
また、本発明に係る豆乳含有飲料は、例えば、平成30年3月29日農林水産省告示第683号に記載される豆乳、調製豆乳、又は豆乳飲料を含むものであれば特に限定はされない。また、本発明に係る豆乳含有飲料は原料として豆乳粉末を混合したものであってもよい。また、本発明に係る大豆含有飲料においては、大豆固形分は0.1~0.5質量%であることが好ましく、0.2~0.4質量%であることがより好ましい。当該大豆固形分は、当該豆乳含有飲料の製造に用いられる原材料に基づいて算出に従い決定することができる。また、本発明に係る大豆含有飲料において、大豆たんぱく質含有率は、特に限定されないが、例えば0.05~0.3質量%であることが好ましく、0.1~0.2質量%であることが特に好ましい。当該大豆たんぱく質含有率は、例えば大豆含有飲料約5gを量りとり、ケルダール法により窒素の量を求め、これに5.71を乗じて得た値の試料重量に対する百分比を大豆たん白質含有率とすることができる。また、本発明に係る大豆含有飲料において、大豆固形分(質量%):2-ノナノン含有量(ppm)の比率が、10~1:1~10であることが好ましく、8~1:1~8であることがより好ましい。また、本発明に係る豆乳含有飲料において、大豆脂質分(大豆固形分に含まれる)は、0.05~0.3質量%であることが好ましく、0.1~0.2質量%であることがより好ましい。
【0010】
ここで、本発明に係る大豆含有飲料は、pHが4.6以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以上であることが好ましく3.3以上であることがより好ましい。pHが4.6を超える場合には、大豆たんぱく質の安定性が損なわれ、沈殿が増加する恐れがあり、pHが2.6未満であると酸味を強く感じるため、飲みやすさが低下する恐れがある。
【0011】
本発明に係る豆乳含有飲料として好ましい態様は、限定はされないが、例えば、2-ノナノンを0.5~1.5ppm含有し、pHが3.0~4.0であり、大豆固形分が0.2~0.4質量%である、豆乳入り清涼飲料水が挙げられる。
【0012】
本発明に係る豆乳含有飲料の糖度は、ブリックス(BrixまたはBxとも表記する)値と同義とする。すなわち、本発明において糖度は、20℃における糖用屈折計の示度とし、例えば、商品名「デジタル屈折計Rx‐5000」(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した固形分量とすることができる。当該糖度は、特に限定されないが、3~12°Bxであることが好ましく、5~10°Bxであることがより好ましい。
本発明に係る豆乳含有飲料の糖度は、公知の甘味料を使用することで上記の値に調整することができる。たとえば、ショ糖、ブドウ糖、グラニュー糖、果糖、乳糖、および麦芽糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖等の糖類;キシリトール、D-ソルビトール等の低甘味度甘味料;タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、およびサッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料を単独で、又は適宜2種類以上を組み合わせて調整することが好ましく、ショ糖や果糖ぶどう糖液糖、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテームで調整することが豆乳含有飲料に求められる自然な甘みや爽やかな酸味といった嗜好性の観点から特に好ましい。
【0013】
また、本発明に係る豆乳含有飲料は、たんぱく質の安定化剤を含有することが好ましい。安定化剤としては、食品や飲料に用いることができる増粘多糖類であれば特に制限無く用いることができるが、特に大豆多糖類が好ましい。増粘多糖類は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用しても良い。特に限定されないが、使用される増粘多糖類としては、例えば、大豆多糖類やペクチンなどが挙げられる。
大豆多糖類とは、大豆から得られる水溶性の多糖類であり、主な成分はヘミセルロースであり、さらにガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸、ラムノース、キシロース、フコース、グルコース等の糖類から構成される。この大豆多糖類は、大豆から大豆油や分離大豆たんぱく質を製造する際に生成するオカラ(繊維状の絞りかす)から抽出、精製、殺菌して得ることができる。また、大豆多糖類としては市販のものを用いてもよく、例えば、商品名「SM-700」、商品名「SM-900」、商品名「SM-1200」(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ社製)が挙げられる。
当該豆乳含有飲料への安定化剤の配合割合は、その種類等に応じて本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定できる。該配合割合は、特に制限されないが、例えば、たんぱく質の安定性の維持を良好なものとし、良好な風味を維持するためには、飲料の全質量を基準として、その下限は通常2g/L、好ましくは4g/Lであり、その上限は通常8g/L、好ましくは6g/Lとすることができる。安定化剤の配合割合を高くすると、安定化剤特有の風味やテクスチャーが強くなるおそれがある。
【0014】
また、本発明に係る豆乳含有飲料に、例えば、クエン酸(クエン酸三ナトリウムなど)、リン酸、乳酸、リンゴ酸などの酸味料を添加してもよい。クエン酸、リン酸、乳酸及びリンゴ酸の添加量については、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に限定はされないが、例えば、豆乳含有飲料において、0.05~0.5質量%、好ましくは0.1~0.3質量%添加するのが好ましい。また、必要に応じて、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどのミネラルを含有させることによって、味を調整してもよい。
本発明に用いる水は特に限定されず、例えば、イオン交換水を用いることができる。
【0015】
また、本発明に係る豆乳含有飲料は、乳成分を含んでいてもよい。当該乳成分は、例えば、獣乳及び植物乳の何れの原料乳を由来とするものであってもよい。獣乳としては、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳及び馬乳等が挙げられる。乳成分の形態としては、例えば、全脂乳、脱脂乳、乳清、乳たんぱく濃縮物、バターミルク粉、無糖練乳、脱脂加糖練乳、全脂加糖練乳、生クリーム、及び発酵乳が挙げられる。また、粉乳や濃縮乳から還元した乳も使用できる。なかでも、脱脂乳が好ましく、ハンドリングのよさから脱脂粉乳を用いることが特に好ましい。また、乳成分としては、単一種類の原料由来であっても、数の種類の原料由来であってもよい。
また、本発明の大豆含有飲料の風味等を損なわない範囲で、必要に応じて任意の酸性成分として、果汁、例えば、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘系の果汁や、ブドウ、モモ、リンゴ、バナナ等の果汁を添加してもよい。
また、本発明に係る豆乳含有飲料は、原料(豆乳など)を乳酸菌や酵母等を用いて発酵して得られる、液状または糊状の発酵豆乳飲食品等を含むものであってもよい。
また、本発明に係る豆乳含有飲料は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、一般的に使用されうる、上述していない甘味料や香料、各種栄養成分、各種植物抽出物、着色料、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を含有させてもよい。
本発明の豆乳含有飲料は、豆乳入りの飲料であれば特に限定されないが、例えば、無調整豆乳、調製豆乳、豆乳飲料、清涼飲料水、コーヒー飲料、茶系飲料、果実飲料、スポーツ飲料、健康飲料又はアルコール飲料等が挙げられる。
【0016】
本発明に係る豆乳含有飲料は、豆乳や上述した2-ノナノン、甘味料や香料、各種栄養成分、各種植物抽出物、着色料、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を適宜混合することで得られる。本発明の豆乳含有飲料においては、その製造工程において、適宜必要に応じて、均質化処理や殺菌処理を加えて行なうことができる。
均質化処理は、通常、ホモゲナイザーを用いて行うことができる。均質化条件は特に限定されず、常法に従うことができる。
殺菌処理の方法は特に制限されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌、バッチ殺菌、オートクレーブ殺菌等の方法を採用することができる。
殺菌処理後の本発明の豆乳含有飲料を容器に充填する方法としては、例えば、飲料を容器にホットパック充填し、充填した容器を冷却する方法、又は容器充填に適した温度まで飲料を冷却して、予め洗浄殺菌した容器に無菌充填する方法により行うことができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明が何ら限定されるものでない。
【実施例
【0017】
以下の実施例及び比較例の各種原料(成分)については、以下のものを用いた。
調製豆乳(大豆固形分18%の豆乳及び酸化防止剤からなる)
果糖ぶどう糖液糖(55%異性化糖)
大豆多糖類
ペクチン
50%乳酸
クエン酸三ナトリウム
2-ノナノン
イオン交換水(残部を構成する溶媒)
【0018】
各成分の含有値の分析値又は計算値を得るための方法については、以下の通りとした。
≪1 糖度(Bx°)≫
糖度測定は20℃のサンプルに対して、商品名「デジタル屈折計Rx‐5000」(アタゴ社製)を用いて、測定を行った。
≪2 酸度(無水クエン酸)(質量%(w/w%))≫
飲料サンプル全体のクエン酸酸度は下記の滴定法で測定した。具体的には、クエン酸酸度は、フェノールフタレイン指示薬と水酸化ナトリウムとを用いて、以下の手順で滴定することにより求めた。
(1)200mL三角フラスコに対して5~15gの飲料を正確に秤量し、水を用いて50mL程度まで希釈する。
(2)希釈した前記飲料に対して1%フェノールフタレイン指示薬を数滴加えて撹拌する。
(3)三角フラスコ内の希釈飲料溶液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、25mL容ビューレットに入れた0.1Mの水酸化ナトリウムを前記飲料溶液に滴下し、滴定試験を実施する。この滴定試験は、三角フラスコ内の飲料溶液の色が、30秒間赤色を持続した点を終点とする。
(4)クエン酸酸度(%)の値を、滴定試験の結果に基づき次式によって算出する。
クエン酸酸度(%)=A×f×(100/W)×0.0064 式(1)
[式(1)において、Aは、0.1M水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)を、fは、0.1M 水酸化ナトリウム溶液の力価を、Wは、サンプルの質量(g)を示す。また、式(1)において乗算している「0.0064」という値は、1mLの0.1M水酸化ナトリウム溶液に相当する無水クエン酸の質量(g)を指す。]
なお、前記滴定試験においては、フェノールフタレイン指示薬に代えて、水素イオン濃度計を用いて実施してもよい。この場合、滴定試験の終点は、三角フラスコ内の飲料溶液のpHが8.1になった時とする。
【0019】
≪3 pH≫
pHは、pHメーター計を用いて、測定を行った。
≪4 大豆固形分(質量%(w/w%))≫
大豆固形分は、各飲料サンプル製造に用いられる原材料に基づいて算出した。
≪5 脂質(質量%(w/w%))≫
大豆固形分に含まれる脂質分は、各飲料サンプル製造に用いられる原材料に基づいて算出した。
【0020】
≪6 2-ノナノンの含有量(ppm)≫
本実施例においては、2-ノナノンの含有量は、各飲料サンプル製造に用いられる原材料に基づいて算出した。なお、2-ノナノン濃度が未知である飲料においては、飲料中の2-ノナノンの濃度(ppm)について、ゲステル社製MPSを用いるMVM(Multi Volatile Method)法により、GC/MS測定に供し、以下に示す条件で測定できる。
装置:GC:Agilent Techno1ogies社製 7890B
MS:Agilent Techno1ogies社製 5977BMSD
HS:Gerstel社製 MPS,
TUBE:Tenax TA、CarbopackB/X
カラム:DB-WAX UI 0.25mm×30m×0.25μm
定量イオン:2-ノナノンm/z=58
温度条件:40℃(2分)~8℃/分→240℃(10分)
キャリアガス流量:He 1ml/分
注入法.スプリットレス
イオン源温度:230℃
【0021】
<予備試験>
豆乳において青臭さの原因物質として知られているヘキサナールに対する、2-ノナノンによるマスキング効果を検討した。また、比較用に、香気成分として知られる乳酸エチルによるヘキサナールに対するマスキング効果も同時に検討した。
まず、1ppmのヘキサナール含有水(青臭さが感じられる)に、0.1ppm、及び1ppm濃度になるように2-ノナノンを添加して、2種類のサンプルを準備した。同様に乳酸エチルも10ppm濃度になるようにヘキサナール含有水に添加した。2名の専門パネリストが各サンプルの青臭さについて官能評価した。
結果、2-ノナノン添加した場合には、サンプルの青臭さの低減効果が確認されたが、乳酸エチルの方は10ppm添加した場合でも、サンプルの香調変化は確認できなかった。
したがって、この結果から、2-ノナノン単独で、豆乳の青臭さをマスキングできることが示唆された。
【0022】
[対照例1]
0.2質量%の大豆固形分(脂質を含む)となるように調製豆乳を配合し、下記表1に示すBx、酸度、pHとなるように安定剤(大豆多糖類、ぺクチン)、酸味料(50%乳酸、クエン酸三ナトリウム)、果糖ぶどう糖液糖(55%異性化糖)を加えて、調合液を製造した。得られた調合液を95℃瞬間殺菌にて殺菌した後、PETボトルに充填して容器詰の飲料サンプルを得た。対照例1から、2-ノナノンは検出されなかった。
[実施例1]
2-ノナノン濃度が0.1ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例1と同様にして飲料サンプルを得た。
[実施例2]
2-ノナノン濃度が0.3ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例1と同様にして飲料サンプルを得た。
[実施例3]
2-ノナノン濃度が1ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例1と同様にして飲料サンプルを得た。
[参考例1]
2-ノナノン濃度が0.05ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例1と同様にして飲料サンプルを得た。
[参考例2]
2-ノナノン濃度が5ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例1と同様にして飲料サンプルを得た。
【0023】
【表1】
【0024】
<加速試験1>
対照例1、実施例1~3、参考例1及び2で得られた各飲料サンプルを、55℃環境下にて2日間保存し劣化を促進させた。
劣化を促進した後、各飲料サンプルを4℃に冷やし、5名の専門パネリストが「対照例1」の飲料サンプルを基準として官能評価し、その評点を平均化した。官能評価基準は、下記表2に示したものに従った。
【0025】
【表2】

加速試験1においては、「対照例1」を基準とし、このスコアを4点に調整した。専門パネリストに各飲料サンプルの「豆乳の青臭さ、油臭さ」、「豆乳感」、「おいしさ(総合評価)」を1~7点の7段階評価してもらい、専門パネリスト5名の評点の平均値の小数第2位を四捨五入したものを最終評点とした。なお、「おいしさ(総合評価)」は、飲料としての嗜好性を豆乳に起因する風味以外も加味し、総合的に評価したものである。各専門パネリスト間の評価には、ばらつきはなかった。加速試験1の官能評価結果は表3に示される。
【0026】
【表3】

表3の結果から、大豆固形分0.2質量%で、2-ノナノンを0.1~1ppm含有する場合に、豆乳の青臭さ、油臭さを抑えつつ、豆乳感やおいしさを向上させる傾向にあることが確認された。また、2-ノナノンにより、劣化耐久性及び嗜好性が改善される傾向にあることが確認された。
【0027】
[対照例2]
0.4質量%の大豆固形分(脂質を含む)となるように調製豆乳を配合し、表4に示すBx、酸度、pHとなるように安定剤(大豆多糖類、ぺクチン)、酸味料(50%乳酸、クエン酸三ナトリウム)、果糖ぶどう糖液糖(55%異性化糖)を加えて、調合液を製造した。得られた調合液を95℃瞬間殺菌にて殺菌した後、PETボトルに充填して容器詰の飲料サンプルを得た。
[実施例4]
2-ノナノン濃度が1ppmになるように、調合液に2-ノナノンを配合した以外は、対照例2と同様にして飲料サンプルを得た。
【0028】
【表4】
【0029】
<加速試験2>
対照例2及び実施例4で得られた各飲料サンプルを、55℃環境下にて2日間保存し劣化を促進させた。
劣化を促進した後、各飲料サンプルを4℃に冷やし、加速試験1と同様にして、5名の専門パネリストが「対照例2」の飲料サンプルを基準として官能評価し、その評点を平均化した。加速試験2の官能評価結果は表5に示される。
【0030】
【表5】

表5の結果から、大豆固形分0.4質量%で、2-ノナノンを1ppm含有する場合に、豆乳の青臭さ、油臭さを抑えつつ、豆乳感やおいしさを向上させ、表3の結果と同様な劣化耐久性、嗜好性を確保できた。
【0031】
ここで、2-ノナノン単独(すなわち他の添加物等の不存在下)で、豆乳含有飲料の豆乳風味改善に寄与することを確認するために、2-ノナノンによる豆乳に生じた劣化風味のマスキング効果を確認することにした。
[対照例3]
豆乳(キッコーマン社製「おいしい無調整豆乳」)を、開封せずに、55℃環境下にて5日間保存して劣化を促進させたものを対照例3とした。なお、当該豆乳は、上述した加速試験1及び2の条件では劣化の進み具合が緩やかだったため、当該加速試験よりも保存期間が延長された。対照例3の飲料サンプルの組成及び物性は表6のとおりであった。
[実施例5]
2-ノナノン濃度が1.0ppmになるように、対照例3に2-ノナノンを配合した以外は、対照例3と同様にして飲料サンプルを得た。
[実施例6]
2-ノナノン濃度が2.0ppmになるように、対照例3に2-ノナノンを配合した以外は、対照例3と同様にして飲料サンプルを得た。
【0032】
<検討試験>
対照例3、実施例5及び6で得られた各飲料サンプルを4℃に冷やし、5名の専門パネリストが「対照例3」の飲料サンプルを基準として官能評価し、その評点を平均化した。官能評価基準は、上記表2に示したものに従った。検討試験の官能評価結果は表6に示される。
【0033】
【表6】

表6の結果から、豆乳含有飲料において、2-ノナノン単独で、すなわち他の添加物等を添加しなくても、豆乳に生じた劣化風味のマスキング効果を発揮して、豆乳風味改善に寄与することが分かった。この結果から、2-ノナノン単独で豆乳由来の青臭さ、油臭さを抑えることができ、劣化促進した豆乳含有飲料であっても、嗜好性を保つことができることが示唆された。