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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240930BHJP
   G03G 21/14 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G03G15/20 535
G03G21/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020050963
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021149034
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 敦志
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-142428(JP,A)
【文献】特開2009-151118(JP,A)
【文献】特開2005-352441(JP,A)
【文献】特開2007-128037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
前記画像形成部と前記定着部を制御する制御部と、
を有する画像形成装置であって、
前記定着部が、
記録材と接触しつつ回転する筒状のフィルムと、
ヒータと、前記ヒータの長手方向に亘って前記ヒータを支持するヒータ支持体と、を有し、前記フィルムの内面に接触するヒータユニットであって、前記ヒータが前記ヒータ支持体に接着剤で固定されているヒータユニットと、
前記ヒータの温度を検知する温度検知部材と、
前記ヒータが前記ヒータ支持体から剥がれる方向へ前記ヒータを押圧する押圧部材と、
前記フィルムの外面に接触しており、前記フィルムを介して前記ヒータユニットと共に記録材を挟持搬送するニップを形成する加圧部材と、
前記ニップにおける加圧力を調整するための加圧力調整機構と、
を有し、
前記制御部は、(i)記録材のジャムが発生したとき、(ii)前記画像形成装置の電源がオフになったとき、(iii)前記画像形成装置がスリープモードに移行したとき、の少なくともいずれかにおいて、前記加圧力を解除または低減するように前記加圧力調整機構を制御するものであって、前記加圧力を解除または低減するように前記加圧力調整機構を動作させる時、前記温度検知部材の検知温度が所定の閾値を下回ったタイミングで動作開始させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記温度検知部材であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記ヒータの過昇温を防止する安全素子であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記ヒータを通電発熱させるための接点部材であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記加圧力調整機構が前記加圧力を解除または軽減した回数に応じて、前記閾値を変化させることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記定着部の熱履歴に応じて、前記閾値を変化させることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記熱履歴は、前記ニップを通過した記録材の累積の枚数であることを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記熱履歴は、前記定着部の累積稼働時間であることを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記熱履歴は、前記定着部の温まり度合いの累積見積もり量であることを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記加圧力調整機構は、前記ヒータユニットが前記フィルムを介して前記加圧部材に押し付けられるように、前記ヒータ支持体を押圧する第2の加圧部材を有し、前記第2の加圧部材による加圧力を調整することで、前記ニップにおける加圧力を調整することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やレーザビームプリンタ等の画像形成装置に用いられる像加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やレーザビームプリンタ等の画像形成装置は、記録材上にトナー像を転写させる転写装置、前記トナー像を加熱および加圧することにより前記記録材上に定着させる像加熱装置(以下、定着装置と記す)等により構成されている。当該画像形成装置において、何らかのエラーによって記録材の搬送が滞ってしまう、いわゆるジャムが発生する場合がある。特許文献1には、定着装置に対する記録材の滞留を検知する記録材検知手段と定着装置の加圧力を解除する加圧解除機構を設けることによって、ジャムを検知した際に定着装置の加圧を自動解除して、ジャムした記録材を定着装置から取り除きやすくする技術が開示されている。
【0003】
また、画像形成装置の電源オフ時や、画像形成装置をしばらく使用しない場合に入るスリープモードへの移行時において、定着装置の加圧を自動解除することによって、長時間加圧に起因する定着部材の変形などの劣化を防止する技術が開示されている。
【0004】
定着装置の加熱方式について、例えばハロゲンヒータ等を内包した円筒体としての定着ローラと加圧ローラを用いた熱ローラ方式のほか、定着装置の省電力化を実現できる加熱方式として、フィルム加熱方式が提案されている。フィルム加熱方式の定着装置は、例えば耐熱樹脂や金属をベースにした低熱容量の筒状ベルト(以下、フィルムと記す)と、その内面に接触摺動するセラミック等からなる加熱体(以下、ヒータと記す)と加熱体支持体(以下、ヒータ支持体あるいはヒータホルダと記す)により摺動ニップ部(以下、内面ニップ部と記す)を形成し、フィルムを介した加圧部材からの加圧により圧接ニップ部(以下、定着ニップ部と記す)を形成したものが挙げられる。
【0005】
この種の定着装置では、ヒータホルダにヒータが取り付けられており、ヒータホルダとヒータの間には、ヒータの温度を検知するためのサーミスタ、安全素子としてのサーモスイッチ、ヒータに給電するためのコネクタ等の押圧部材が設けられることがある。これらはヒータに対して加圧当接することによって支持されており、ヒータホルダからヒータを引き離す方向に力が作用している。
【0006】
画像形成装置のジャム検知時、電源オフ時、スリープモード移行時において、定着装置の加圧が自動解除されたとき、上述の押圧部材からの加圧によって、ヒータがヒータホルダから引き離れてしまうと、押圧部材の支持状態が変化してサーミスタによる温度検知や安全素子の作動条件が不安定になったり、フィルム内面にヒータのエッジ部が当たって傷つけたりする可能性がある。特許文献2には、ヒータとヒータホルダの間の所定箇所に接着剤を介在させてヒータを支持することによって、上述の押圧部材によるヒータの引き離しを抑制する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-129018号公報
【文献】特開2016-12077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の接着剤としては、ヒータとヒータホルダの熱膨張率差による応力を吸収し、200℃以上の高温に耐えるため、シリコーンゴム系の弾性を有する接着剤を用いることが一般的である。
【0009】
しかしながら、シリコーンゴム系の接着剤は、一般的に常温に対して温度が上がるにつれて柔らかくなって接着剤自身が伸びやすくなる特性を有している。上述のように定着装置の加圧が自動解除されると、押圧部材の加圧力によってヒータホルダからヒータを引き離す方向に接着剤が伸びようとする。特にジャム検知時などの高温状態では、接着剤の伸びが大きくなり、弾性復元力の作用によってヒータあるいはヒータホルダと接着剤との界面(接着界面)に大きな負荷がかかる。このような負荷が繰り返されると、接着界面での接着力が徐々に低下し、接着剥離が発生しやすくなるため、ジャム発生回数または電源オフ回数などの定着加圧解除の繰り返し回数が、定着装置寿命の律速になる可能性があった。
【0010】
また、近年は画像形成装置の省エネルギー化の観点から、印刷ジョブの終了後まもなくスリープモードに移行する制御が標準的になりつつあり、定着装置が高温の状態で加圧解除される頻度が上がっているため、定着装置寿命への影響はますます大きくなっている。
【0011】
本発明の目的は、像加熱装置の加圧解除制御を改善することによってヒータとヒータ支持体との接着力低下を防止し、加圧解除による像加熱装置の寿命への影響を縮小させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の画像形成装置は、
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
前記画像形成部と前記定着部を制御する制御部と、
を有する画像形成装置であって、
前記定着部が、
記録材と接触しつつ回転する筒状のフィルムと、
ヒータと、前記ヒータの長手方向に亘って前記ヒータを支持するヒータ支持体と、を有し、前記フィルムの内面に接触するヒータユニットであって、前記ヒータが前記ヒータ支持体に接着剤で固定されているヒータユニットと、
前記ヒータの温度を検知する温度検知部材と、
前記ヒータが前記ヒータ支持体から剥がれる方向へ前記ヒータを押圧する押圧部材と、
前記フィルムの外面に接触しており、前記フィルムを介して前記ヒータユニットと共に記録材を挟持搬送するニップを形成する加圧部材と、
前記ニップにおける加圧力を調整するための加圧力調整機構と、
を有し、
前記制御部は、(i)記録材のジャムが発生したとき、(ii)前記画像形成装置の電源がオフになったとき、(iii)前記画像形成装置がスリープモードに移行したとき、の少なくともいずれかにおいて、前記加圧力を解除または低減するように前記加圧力調整
機構を制御するものであって、前記加圧力を解除または低減するように前記加圧力調整機構を動作させる時、前記温度検知部材の検知温度が所定の閾値を下回ったタイミングで動作開始させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヒータとヒータ支持体との接着力低下を防止し、加圧解除による像加熱装置の寿命への影響を縮小させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】画像形成装置100の断面図
図2】定着装置200の断面図
図3】実施例1におけるヒータ210とヒータホルダ220の接着構成説明図
図4】接着剤280の界面接着力の温度特性を示した図
図5】接着剤280の界面剥離力の温度特性メカニズムを説明する図
図6】記録材Pのジャムを検知したときの定着加圧解除制御のフローチャート
図7】プリンタの電源をオフしたときの定着加圧解除制御のフローチャート
図8】スリープモードに移行したときの定着加圧解除制御のフローチャート
図9】実施例2における定着加圧解除制御のフローチャート
図10】実施例3における定着加圧解除制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例1)
図1は電子写真記録技術を用いたレーザプリンタ(画像形成装置)100の断面図である。本発明が適用可能な画像形成装置としては、電子写真方式や静電記録方式を利用した複写機、プリンタなどが挙げられ、ここでは電子写真方式を利用して記録材P上に画像を形成するレーザプリンタに適用した場合について説明する。
【0017】
ビデオコントローラ120は、パーソナルコンピュータ等の外部装置から送信される画像情報、及びプリント指示を受信して処理するものである。制御部113はビデオコントローラ120と接続されており、ビデオコントローラ120からの指示に応じて画像形成装置を構成する各部を制御するものである。ビデオコントローラ120が外部装置からプリント指示をうけると、以下の動作で画像形成が実行される。
【0018】
プリント信号が発生すると、画像情報に応じて変調されたレーザ光をスキャナユニット21が出射し、帯電ローラ16によって所定の極性に帯電された感光体19を走査する。これにより感光体19には静電潜像が形成される。この静電潜像に対して現像器17からトナーが供給され、感光体19上に画像情報に応じたトナー画像が形成される。一方、給紙カセット(給紙部)11に積載された記録材(記録紙)Pはピックアップローラ12によって一枚ずつ給紙され、ローラ13によってレジストローラ14に向けて搬送される。さらに、記録材Pは感光体19上のトナー画像が感光体19と転写ローラ20で形成される転写位置に到達するタイミングに合わせて、レジストローラ14から転写位置へ搬送される。記録材Pが転写位置を通過する過程で感光体19上のトナー画像は記録材Pに転写される。その後、記録材Pは定着部(像加熱部)としての定着装置(像加熱装置)200で加熱されてトナー画像が記録材Pに加熱定着される。定着済みのトナー画像を担持する記録材Pは、ローラ26、27によってレーザプリンタ100上部のトレイに排出される。なお、18は感光体19を清掃するクリーナである。商用の交流電源41に接続された制御回路40から定着装置200へ電力供給している。上述した、感光体19、帯電ローラ16、スキャナユニット21、現像器17、転写ローラ20が、記録材Pに未定着画像を形成する画像形成部を構成している。15は交換ユニットとしてのカートリッジを示している。
【0019】
図2は定着装置200の断面図である。定着装置200は、加熱体としての薄肉状のヒータ210と、加熱体支持部材(ヒータ支持体)としてのヒータホルダ220と、前記ヒ
ータ210と接触摺動しながら走行移動する移動体としての筒状のフィルム230と、を備える。さらに、定着装置200は、ヒータ210の温度を検知する温度検知部材としてのサーミスタ250と、フィルム230を介してヒータ210と共に記録材Pを所定の加圧力で挟持する圧接ニップとしての定着ニップ部Nをフィルム230外面との間に形成する加圧部材としての加圧ローラ290と、を備える。また、定着装置200は、定着ニップ部Nを形成するための加圧力を付与したり解除したりすることが可能な加圧力調整機構としての加圧機構300を有する。
【0020】
フィルム230は、ポリイミド等の耐熱樹脂、またはステンレス等の金属をベースとし、ベース上に、耐熱ゴム等の弾性層や耐熱樹脂からなる離型層を設けても良い。加圧ローラ290は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金291と、シリコーンゴム等の材質の弾性層292を有し、モータM1から動力を受けて矢印方向に回転する。ヒータ210は、アルミナ等のセラミックやSUS等の金属をベースとし、通電して発熱する抵抗発熱体が形成されている。ヒータ210は、液晶ポリマーなどの耐熱樹脂製のヒータホルダ220に、後述する接着部材を介して支持されている。
【0021】
ヒータ210におけるフィルム230との接触摺動面とは反対側の面に、サーミスタ250や図3に示す安全素子260等の押圧部材が当接配置されている。サーミスタ250は、ヒータ210の温度を検知して温度制御にフィードバックするための温度検知部材である。本実施例においては、温度によって抵抗値が変化する抵抗素子をセラミックペーパー等の耐熱部材上に支持し、ポリイミドフィルム等の耐圧部材で絶縁保護して構成されたユニット部材を用いている。サーミスタ250は、押圧部材ホルダ270に保持されたサーミスタ加圧ばね250aの加圧力によってヒータ210に当接配置されている。安全素子260は、異常な高温状態で作動してヒータ210に供給する電力を遮断し、ヒータ210の過昇温を防止するサーモスイッチや温度ヒューズ等の保護素子である。安全素子260は、押圧部材ホルダ270に保持された安全素子加圧ばね260aの加圧力によってヒータ210に当接配置されている。
【0022】
加圧ステー240は、金属等の剛性部材によって構成される肉厚部材であり、ヒータホルダ220におけるヒータ支持面とは反対側の面に当接配置されており、加圧ローラ290側に加圧力を付与して定着ニップ部Nを形成する。
【0023】
加圧機構300は、定着フレーム201、加圧ばね202、加圧板203、圧解除カム204からなる。加圧機構300は、定着フレーム201に保持された加圧ばね202の加圧力を、加圧板203を介して、第2の加圧部材としての加圧ステー240の長手方向両端部に付与する。その加圧力がヒータホルダ220との当接部を介して加圧ローラ290側に伝達することによって定着ニップ部Nが形成される。本実施例においては、ヒータ210、ヒータホルダ220、加圧ステー240などが、フィルム230の内面に接触するヒータユニット222を構成する。
【0024】
そして、加圧板203には圧解除カム204が当接配置されており、定着装置200の加圧力を解除する命令によって、モータM2からの動力を受けて圧解除カム204が所定量だけ回転し、加圧板203を持ち上げることによって定着ニップ部Nを形成する加圧力を解除できるようになっている。定着装置200の加圧力を解除する動作フローについては詳細を後述する。なお、本実施例における加圧力の解除とは、無加圧状態にする以外にも、記録材P上にトナー画像を加熱定着させるのに必要な加圧力に対して、ジャム処理性や定着部材の変形に対して許容できる程度に加圧力を軽減することを含む。
【0025】
図3は、ヒータ210とヒータホルダ220の接着構成を説明する図である。
【0026】
図3(a)は定着ニップ部N側から見たヒータ210の平面図を示す。ヒータ210は、基板211上に、通電することによって発熱する抵抗発熱体層212と、抵抗発熱体層212に通電するための電極213と、抵抗発熱体層212を絶縁保護する保護層214が形成されている。本実施例では抵抗発熱体212が形成されている面をフィルム230と摺動する面とし、反対面側をヒータホルダ220との接着面としたが、抵抗発熱体212が形成されている面をヒータホルダ220との接着面としてもよい。
【0027】
図3(b)は定着ニップ部N側から見たヒータホルダ220におけるヒータ支持面の平面図、図3(c)はヒータ210とヒータホルダ220とを接着部材としての接着剤280で接着した状態における、図3(b)の線分X-X断面図を示す。
【0028】
ヒータホルダ220のヒータ支持面側には、長手方向の所定箇所に貫通穴が開いており、それぞれの貫通穴を通してサーミスタ250、251、252、安全素子260をヒータ210に当接するように配置されている。本実施例においては、各サーミスタと安全素子の加圧力はそれぞれ5Nとした。
【0029】
サーミスタ250、251、252、安全素子260それぞれに対して、ヒータホルダ220の長手方向で挟みこむように接着ポイント281を設け、シリコーンゴム系の接着剤280によってヒータ210とヒータホルダ220を接着する。ヒータホルダ220における接着ポイント281の表面形状について、本実施例においては接着面積を大きくするために凹凸を施した形状とした。これに限らず、平面形状でもよいしブラスト処理などしてもよい。
【0030】
接着剤280について、本実施例においては、信越化学工業社製の一液タイプ、縮合反応型(湿度硬化)のシリコーンゴム系接着剤KE-3417を用いた。接着剤280としては、これに限らず、二液タイプや付加反応型(加熱硬化)であってもよく、200℃以上の耐熱性を有するゴム系の接着剤であればよい。また、接着力を強化するために別途プライマーを用いてもよい。また、各接着ポイント281の塗布範囲はΦ5mm、接着剤280の塗布量は10mgとした。
【0031】
次に、本発明者が事前検討により得られた、接着剤280の接着力の温度特性について説明する。ここで、本実施例における接着力とは、接着剤280とヒータホルダ220との界面剥離力、または接着剤280とヒータ210との界面剥離力のことを指し、接着剤自身の破壊強度ではない。
【0032】
本発明者は、接着ポイント1箇所当たりの接着力を測定するため、以下のような事前検討をおこなった。
【0033】
ヒータホルダ220中の1箇所の接着ポイントと、その接着ポイントを長手方向に挟むように開いた2箇所の貫通穴を含む部分を切り出し、切り出した長さと同様の長さに切り出したヒータ210の一部分を、サーミスタや安全素子を組み付けない状態で上述の条件で接着して評価用アセンブリを作製する。常温から230℃まで調整可能なホットプレート上に評価用アセンブリのヒータ露出面を置き、ヒータ押さえ工具を用いて2つの貫通穴からヒータをホットプレート側に押さえて十分に馴染ませたのち、ヒータ210とヒータホルダ220を引き離す方向にフォースゲージで引っ張り、接着界面が剥離したときの引っ張り力のピーク値を界面剥離力または単に接着力とした。
【0034】
図4は、上述の評価アセンブリを用いてホットプレート温度に対する界面剥離力の傾向を示した図である。図4に示すように、界面剥離力は常温に対して高温になるほど小さくなっており、本実施例においては230℃における界面剥離力は常温におけるそれの半分
以下になっており、高温状態ほど小さい力で界面が剥がれることがわかる。
【0035】
図5は、上述のような界面剥離力の温度特性メカニズムを説明する図である。評価アセンブリに所定の引っ張り力、例えば5Nでヒータ210とヒータホルダ220を引き離す力を加えたとき、図5(a)は常温、図5(b)は230℃における接着剤280の状態を模式的に示している。
【0036】
図5(a)と図5(b)を比較すると、同じ力でヒータ210とヒータホルダ220を引っ張ったときの、引っ張り方向における接着剤の伸びる量に差があることがわかる(白抜き矢印)。これは、シリコーンゴム系の接着剤における一般的な特性として、温度が上がるほど材料的に柔らかくなって伸びやすくなる特性を有することに起因する。ただし、ゴム自身が軟化劣化しているわけではなく、常温に戻すと硬さや伸びも元に戻る。
【0037】
接着剤が引っ張られると、接着剤の断面形状は鼓のように中細のくびれ形状になる。このとき接着剤280は、自身の弾性復元力によって元に戻ろうとするが、接着剤280とヒータ210またはヒータホルダ220の接着界面、特に接着面の縁部分において大きな応力(図中の斜め矢印)が加わる。
【0038】
そして、常温の図5(a)よりも高温状態である図5(b)のほうが接着剤の伸び量が大きいためくびれ量も大きくなり、上述の接着界面の縁に加わる応力も大きくなる。したがって、図4のように温度が上がるほど小さな力で接着界面が剥離するという温度特性を示す。
【0039】
次に、本実施例における定着装置200の制御について説明する。本実施例において、記録材Pにトナー像を定着させるために必要なフィルム表面温度は180℃である。定着装置200の温まり具合に応じて、通紙部におけるサーミスタ250を200℃~230℃に制御することで、所望のフィルム温度を得ることができる。そして、接着剤280は各接着ポイント近くのサーミスタと同程度の温度に晒される。
【0040】
ここで、定着装置200、または定着装置200が搭載されたレーザプリンタ100は、不図示の記録材ジャム検知手段を有し、ジャムを検知した際に記録材Pが定着装置200内で滞留していることを検知することができる。
【0041】
また、定着装置200、または定着装置200が搭載されたレーザプリンタ100は、装置の起動と停止をつかさどる電源切り替え手段としての電源スイッチ(不図示)を有し、電源スイッチの切り替えによって装置の電源をオンしたりオフしたりできる。
【0042】
さらに、定着装置200、または定着装置200が搭載されたレーザプリンタ100は、記録材Pにトナー像を定着させるための通常電力モードと、消費電力の少ない節約電力モードとしてのスリープモードを有し、通常電力モード時に装置を所定時間使用しないときにスリープモードへ移行し、スリープモード時にプリント信号を受信すると通常電力モードに復帰する。
【0043】
定着装置200が搭載されたレーザプリンタ100は、以下の場合に定着装置200の加圧力を解除する動作をおこなう。
(1)レーザプリンタ100がジャムを検知した際に定着装置200に記録材Pが滞留しているとき
(2)レーザプリンタ100の電源をオフしたとき
(3)レーザプリンタ100がスリープモードに移行したとき
そして、以下の場合に定着装置200の加圧力を付与する動作をおこなう。
(4)定着装置200に滞留した記録材Pを取り除いたとき
(5)レーザプリンタ100の電源をオンしたとき
(6)レーザプリンタ100がスリープモードから復帰したとき
【0044】
図6図8に、本実施例における定着装置200の加圧力を解除する制御フローチャートを示す。以下、フローチャートにしたがって説明する。
【0045】
図6は、レーザプリンタ100が記録材Pのジャムを検知したときの動作を示している。レーザプリンタ100がプリント動作中において(S602)ジャムを検知すると(S603)、レーザプリンタ100はプリント動作を停止してヒータ210の通電加熱を停止する(S604)。次に、定着装置200内に記録材Pが滞留していないかを不図示の検知手段によって検知し(S605)、滞留している場合、サーミスタ250、251、252の検知温度が所定の閾値、本実施例においては175℃を下回るまで待機したのち(S606)、定着装置200の加圧力を解除する(S607)。S605において、記録材Pが滞留していない場合には定着装置200の加圧力を解除する必要がない。本実施例においては、S606での待機時間として最大2秒かかったのち、定着装置200の加圧力が解除されて、ジャムした記録材Pを取り除くことができる。
【0046】
図7は、レーザプリンタ100の電源をオフしたときの動作を示している。レーザプリンタ100の電源ボタンを押すなどの本体電源を切る動作によって、プリンタ電源オフ信号が出されると(S702)、サーミスタ250、251、252の検知温度が所定の閾値、本実施例においては175℃を下回るまで待機したのち(S703)、定着装置200の加圧力を解除する(S704)。その他の電源オフ時の動作を経たのち(S705)、レーザプリンタ100の全動作が停止する。印刷ジョブが終了した直後でなければ、サーミスタの温度は閾値を十分に下回っているため、電源オフ信号に対して直ちに定着加圧解除動作に入る。
【0047】
図8は、レーザプリンタ100がスリープモードに移行したときの動作を示している。レーザプリンタ100に対してプリント信号が所定時間来なかったときなど、スリープモードへの移行信号が出されると(S802)、サーミスタ250、251、252の検知温度が所定の閾値、本実施例においては175℃を下回るまで待機したのち(S803)、定着装置200の加圧力を解除する(S804)。その他のスリープモード移行動作を経たのち(S805)、レーザプリンタ100はスリープモードに移行する。印刷ジョブが終了した直後でなければ、サーミスタの温度は閾値を十分に下回っているため、スリープモード移行信号に対して直ちに定着加圧解除動作に入る。
【0048】
本発明の制御フローを用いない場合、例えばジャムを検知した際には、図6におけるS606を省いた制御フローによって定着装置200の加圧力が解除されるが、状況によってはサーミスタ温度が230℃で加圧解除されることがある。前述のように、高温における接着剤280の界面剥離力は小さくなるので、加圧解除された際にサーミスタ(250、251、252)や安全素子260の加圧力によってヒータ210とヒータホルダ220とを引き離す力と、接着剤280の界面剥離力とのマージンが少ない状態になる。このような加圧解除が繰り返されると、更に界面剥離力が低下する可能性があるため、定着装置200の加圧解除回数に制限を設ける必要があり、それが定着装置200の寿命の律速になる場合があった。
【0049】
以上説明したように、画像形成装置のジャム検知時やプリンタ電源オフ時、更にはスリープモード移行時において、定着装置の温度推移を監視しながら定着装置の加圧力を解除することによって、ヒータとヒータホルダとの接着界面剥離に対してマージンを確保することが可能となり、定着加圧解除による定着装置寿命への影響を縮小させることができる
【0050】
なお、定着加圧解除するための温度閾値については、定着装置の構成に応じた界面剥離力によって適宜に調整されるべきものである。具体的には、接着剤の物性、接着ポイントの形状、接着範囲、押圧部材の配置や加圧力などに応じて、接着剤の界面剥離力に対してマージンを確保できる温度閾値に設定するのが好ましい。
【0051】
また、本実施例においては、ヒータに当接配置したサーミスタの検知温度を用いて定着加圧解除の温度閾値を設定したが、これに限らず、ヒータホルダやフィルム、更には加圧ローラの温度を検知する手段によって接着剤の温度を予測して定着加圧解除を制御しても、本発明の効果を得ることができる。
【0052】
更に、本実施例においては、押圧部材としてサーミスタと安全素子をヒータ裏面(ヒータにおける定着ニップ側の面とは反対側の面)配置する例を説明したが、これに限らず、ヒータ裏面に通電発熱するための電極を配置した構成において、電極に給電するための接点部材を押圧部材として配置する例においても本発明の効果を得ることができる。
【0053】
(実施例2)
実施例1では、定着装置200の加圧解除制御方法として、サーミスタが所定の温度閾値を下回ったら定着加圧解除動作をする例について説明した。実施例2では、ジャム検知やプリンタ電源オフ、スリープモード移行に際する定着加圧解除の繰り返し回数に応じて、加圧解除するための温度閾値を変化させる例について説明する。本実施例におけるレーザプリンタや定着装置の構成は実施例1と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0054】
図9は、本実施例の制御フローチャートである。定着装置200の加圧解除動作をするための温度閾値をTa(初期値200℃)として、ジャム検知時やプリンタ電源オフ時、またはスリープモード移行時において(S903)、サーミスタ(250、251、252)の検知温度が温度閾値Taを下回ったら定着加圧解除動作をするという実施例1と同様な定着加圧解除シーケンスを実行した際(S904)、定着加圧解除回数Cをカウントアップしながら(S905)、表1に従ってカウントCに対応した温度閾値Taに設定する(S906)。表1では定着加圧解除回数が増えるにつれてより低温で定着加圧解除動作をするように設定しており、定着加圧解除回数がカウント上限Cmaxに到達すると(S907)、定着装置200の寿命警告を報知する(S908)。本実施例においては、Cmaxを15,000カウントに設定した。本実施例におけるCmaxは、一般的なオフィス環境において、1日当たりの定着圧解除回数を10回、1か月当たりのプリンタ稼働日数を20日と想定して、6年以上経過して到達するカウント数に設定してある。
【0055】
(表1)
【0056】
本実施例のような制御を施すことによって、定着加圧解除の繰り返し回数が少ないうちは接着界面剥離に対してマージンがあるので、より短い時間で定着加圧解除動作を実行できる。そして、定着加圧解除の繰り返し回数が増えるにしたがって温度閾値を変化させる
ことによって接着界面剥離に対するマージンを確保できる。
【0057】
(実施例3)
実施例3では、定着装置200の熱履歴に応じて定着加圧解除動作をする温度閾値を変化させる例について説明する。本実施例におけるレーザプリンタや定着装置の構成は実施例1と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0058】
図10は、本実施例の制御フローチャートである。定着装置200の加圧解除動作をするための温度閾値をTa(初期値200℃)として、プリント動作中において(S1003)、記録材Pの累積通紙枚数Cpをカウントしながら(S1004)、ジャム検知時やプリンタ電源オフ時またはスリープモード移行時など定着加圧解除の要否を判断して(S1005)、必要と判断された場合は表2に従って累積通紙カウントCpに対応した温度閾値Taに設定して(S1006)、実施例1と同様な定着加圧解除シーケンスを実行する(S1007)。表2では記録材Pの累積通紙カウントが増えるにつれてより低温で定着加圧解除動作をするように設定している。累積通紙カウントが上限Cpmaxに到達すると(S1008)、定着装置200の寿命警告を報知する(S1009)。本実施例においては、Cpmaxを150,000枚に設定した。
【0059】
(表2)
【0060】
本実施例のような制御を施すことによって、記録材Pの通紙枚数が少ない、すなわち定着装置の熱履歴が少なく接着剤の熱劣化が少ないうちは接着界面剥離に対してマージンがあるので、より早いタイミングで定着加圧解除動作を実行できる。そして、累積通紙枚数が増えて定着装置の熱履歴により接着剤の熱劣化が進むにしたがって温度閾値を変化させることによって、定着装置の寿命を通じて接着界面剥離に対するマージンを確保できる。
【0061】
なお、本実施例においては、記録材Pの累積通紙カウントに応じて温度閾値Taを変化させる例を説明したが、これに限らず、定着装置の累積稼働時間や、加熱温度と加熱時間の履歴などから適宜見積もった、定着装置の温まり度合いの累積見積もり量などの熱履歴に応じて温度閾値を変化させることによっても同様の効果が得られる。
【0062】
ここまで実施例1~3について説明してきたが、本発明の技術思想内においてあらゆる変形が可能である。上記実施例では、ヒータのフィルム内面と対向する側とは反対側の面に押し付けられる押圧部材として、サーミスタや安全素子、接点部材を例示したが、これらに限定されるものではない。また、所定の閾値としての各種設定温度は、装置構成等に応じて適宜、上記とは異なる温度で設定してよい。
【符号の説明】
【0063】
200…定着装置、210…ヒータ、220…ヒータホルダ、250、251、252…サーミスタ、260…安全素子、280…接着剤、281…接着ポイント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10