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特許7562280巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20240930BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240930BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240930BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
H01F27/245 155
C21D8/12 D
C22C38/00 303U
H01F41/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020067557
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021163942
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-05
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】井上 信一
【審判官】渡辺 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-37572(JP,A)
【文献】国際公開第2008/050700(WO,A1)
【文献】特開2003-347128(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪が、表面に付与され、かつ折曲部を有する方向性電磁鋼板が、層状に積み重ねられた巻鉄芯であって、
前記折曲部及びその近傍の領域では、前記方向性電磁鋼板の表面に、前記幅方向に延びる溝が形成されている、巻鉄芯。
【請求項2】
前記溝は、前記圧延方向に2mm~10mmの間隔で形成され、
前記折曲部の近傍は、前記折曲部を中心に、前記圧延方向に1mm~50mmの範囲である、請求項1に記載の巻鉄芯。
【請求項3】
方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪を付与する、歪付与ステップと、
前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、溝形成ステップと、
磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工ステップと、
前記折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付けステップと、
を有し、
前記歪付与ステップは、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍以外の領域において、前記磁区制御用の歪の付与を行い、
前記溝形成ステップは、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域で、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造方法。
【請求項4】
前記歪付与ステップと前記溝形成ステップは、同一のビーム照射装置を用い、前記ビームの、パワー、集光形状及び照射速度の少なくともいずれか一つを変更することで、前記磁区制御用の歪付与ステップと前記溝形成ステップとの処理を切り替える、請求項3に記載の巻鉄芯の製造方法。
【請求項5】
表面にビームを照射することで、圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪が付与された方向性電磁鋼板を用い、
前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、溝形成ステップと、
磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工ステップと、
前記折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付けステップと、
を有し、
前記溝形成ステップは、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域でのみ、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造方法。
【請求項6】
方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪を付与し、前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、ビーム照射部と、
磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工部と、
前記折り曲げ加工された前記電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付け部と、
を有し、
前記ビーム照射部は、
前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍以外の領域において、前記磁区制御用の歪の付与を行い、
前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域で、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造装置。
【請求項7】
表面にビームを照射することで、圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪が付与された方向性電磁鋼板を用い、前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、ビーム照射部と、
磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工部と、
前記折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付け部と、
を有し、
前記ビーム照射部は、
前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域でのみ、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスの鉄芯には積鉄心と巻鉄芯とがある。そのうち、巻鉄芯は、一般に、方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて、ドーナツ状(巻回形状)に巻回し、その後、その巻回体を加圧してほぼ角型に成形することにより製造される。この成形工程によって方向性電磁鋼板全体に機械的な加工歪(塑性変形歪)が入り、その加工歪が方向性電磁鋼板の鉄損を大きく劣化させる要因となるため、歪取り焼鈍を行なう必要がある。
【0003】
鉄芯に用いられる方向性電磁鋼板には、磁化容易軸が一方向に揃った電磁鋼板である方向性電磁鋼板が用いられる。そのような方向性電磁鋼板には、方向性電磁鋼板の表面に、圧延方向と交差する方向に周期的にレーザ照射を行ない、局所的な急加熱(及び、急加熱から常温方向への急冷)を行なうことによって、細い複数の歪(磁区制御用の歪)を導入して、その部位に発生する還流磁区を起点に180°磁区を細分化することで鉄損を低減させた、いわゆる歪付与型の磁区制御材がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような磁区制御用の歪を付与した歪付与型の磁区制御材である方向性電磁鋼板を、巻鉄芯に用いた場合には、前述した歪取り焼鈍工程を行なうことによって、(磁区制御用の起点となる歪、及び、加工歪を含む)歪が消失してしまうため、結果として磁区制御効果も消失し、鉄損の低い巻鉄芯にならない。したがって、歪付与型の磁区制御材は、一般に、加圧成形や焼鈍工程が不要な積鉄芯にのみ使用される。
【0004】
また、方向性電磁鋼板には、その表面に、圧延方向と交差する方向に周期的に溝を形成することで、還流磁区と同様の効果により、180°磁区を細分化して鉄損を低減した、鉄損が低減される磁区制御効果を得る、いわゆる溝形成型の磁区制御材もある(例えば、特許文献2参照)。このような溝形成型の磁区制御材は、歪取り焼鈍を行なっても磁区制御効果が消失しないため、巻鉄芯の材料として用いることができる。しかしながら、溝形成型の鉄損改善効果(磁区制御効果)は、歪付与型の鉄損改善効果に比べて小さいという欠点がある。また、溝を形成する方法として、歯形プレスによる機械加工、エッチングによる化学的加工が実用に供されているが、そうした方法は、非接触式で磁区制御用の歪を付与するレーザや電子ビーム等を照射する方法と比べて、歯形プレスでは、機械設備が大掛かりになったり、歯形が損耗する等といった問題があり、また、エッチング法では、廃液処理やマスクが必要になる等といった、コストや生産能力上の問題があった。溝形成法として、レーザや電子ビーム等を照射する溝加工法であれば、非接触式であるというメリットがあるが、このレーザや電子ビーム等による溝加工法は、磁区制御用の歪を付与する場合に比べて大きなパワーを必要とするために、方向性電磁鋼板の全面に溝を加工しようとすると、生産能力やコストが増加するといった問題があった。
【0005】
ところで、近年、巻鉄芯の製造方法として、鋼板を個別に(1枚や2枚といった、極少数枚ごとに)折り曲げ加工して切断し、それらの個々に加工された鋼板を複数層にわたって積層することにより巻鉄芯を角型形状に成形する方法(いわゆる、「ユニコア」と呼ばれる巻鉄芯製造方法;以下、ユニコア製法とも称する)が知られるようになった。こうした方法を用いることで、折り曲げ部の曲率Rを極めて小さくすることができ、鋼板の内側で測定した曲率Rの値を、3mm以下とすることができ、折り曲げ加工に起因して鋼板に導入される加工歪の及ぶ範囲を、曲率Rが3mm以下となるように規定される小さな折り曲げ部近傍のみに限定することが可能となる。なお、曲率Rの下限は、特に限定されないが、折り曲げ装置の能力等に依存しており、現実的には1mm程度になる場合が多い。
この方法により巻鉄芯を製造する場合には、局所的な折り曲げ加工を行なうことから、加工歪が、その折り曲げによって生じる角部の近傍の領域内にしか生じないため、巻鉄芯全体としての鉄損劣化を少なくすることができ、したがって、歪取り焼鈍を不要にできるという利点がある。そのため、鉄損が極めて低い歪付与型の磁区制御材を巻鉄芯の材料として使用できる。
【0006】
すなわち、以上から分かるように、歪付与型の磁区制御材は、巻鉄芯に用いた場合に歪取り焼鈍工程に伴う歪の消失に起因して鉄損が低くならないという欠点を有するが、溝形成型の磁区制御材と比べて鉄損改善効果が高く安価であるという利点を有することから、歪取り焼鈍工程を排除できるユニコア製法により歪付与型の磁区制御材を用いて巻鉄芯を製造すれば、歪付与型の磁区制御材の欠点を解消してその利点を存分に生かすことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-347128号公報
【文献】国際公開第2011/125672号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ユニコア製法により歪付与型の磁区制御材(歪付与型で磁区制御された方向性電磁鋼板)を用いて巻鉄芯を製造した場合であっても、依然として折り曲げ加工した際に角となる部位や、その近傍には加工歪(塑性変形歪)が残存するため、そうした領域では鉄損の劣化が生じる。そのため、折り曲げ加工において角となる部位及びその近傍に残存する、加工歪に伴う鉄損劣化の改善が、求められている。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、歪取り焼鈍工程を伴うことなく歪付与型の磁区制御材により製造できるとともに、折り曲げ加工部位の加工歪に伴う鉄損劣化を抑制できる巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪が、表面に付与された方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工し、巻回形状に組付けることで形成された巻鉄芯であって、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域では、前記方向性電磁鋼板の表面に、前記幅方向に延びる溝が形成されている、巻鉄芯を提供するものである。
【0011】
上記構成に係る本発明の巻鉄芯は、鋼板表面に磁区制御用の歪を付与して還流磁区を形成することにより鉄損が改善された方向性電磁鋼板から形成される巻鉄芯であり、個別に折り曲げ加工された各方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて巻回形状に組み付けて成る(歪取り焼鈍を行なわないユニコア製法により製造される)とともに、各方向性電磁鋼板の折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍に鋼板圧延方向と交差する方向に延びる複数の溝が形成された巻鉄芯である。
【0012】
方向性電磁鋼板に対して局所的に折り曲げ加工を施す場合には、その折り曲げ部の近傍から数mm~数十mmの範囲で加工歪が生じる。この加工歪は、方向性電磁鋼板の鉄損を劣化させる要因となり、周期的な磁区制御用の歪(互いに所定の間隔を隔てた複数の磁区制御用の歪)を起点に還流磁区を形成して磁区制御を行なった方向性電磁鋼板を用いる場合では、鉄損改善代が相殺される問題がある。そこで、本発明者らは、折り曲げ部近傍では、折り曲げ部を起点にして主に曲げ方向に発生する張力によって、加工歪が生じていることに着目し、当該部位を中心に数mm~数十mmの範囲で張力方向とほぼ垂直に溝を周期的に形成(互いに所定の間隔を隔てた複数の溝を形成)したところ、鉄芯全体の鉄損が数%改善されるという知見を得た。これは、溝形成により応力が緩和されて、加工歪の影響が緩和されたものと推定される。また、周期的な溝形成は、磁区制御効果があることから、これも鉄損改善に寄与していると考えられる。
【0013】
溝を形成する方法としては、例えば、エッチング、機械的なプレス、電子ビーム、レーザ等を挙げることができる。しかしながら、エッチングは廃液処理を要し、機械プレスは歯形の寿命があり、また、電子ビームは、真空チャンバが必要など、装置が大型化あるいは高コスト化するため、大気中で非接触加工が可能なレーザ加工法によって溝を形成することが好ましい。また、各方向性電磁鋼板の折り曲げ加工された部位および/またはその近傍に形成されるこのような溝は、磁区制御用の歪に代えてまたは加えて設けられる。
【0014】
また、本発明は、方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪を付与する、歪付与ステップと、前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、溝形成ステップと、磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工ステップと、前記折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付けステップと、を有し、前記歪付与ステップは、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍以外の領域において、前記磁区制御用の歪の付与を行い、前記溝形成ステップは、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域で、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪を付与し、前記方向性電磁鋼板の表面にビームを照射することで、前記方向性電磁鋼板の前記幅方向に延びる溝を形成する、ビーム照射部と、磁区制御用の歪が付与され溝が形成された前記方向性電磁鋼板を、個別に折り曲げ加工する、折り曲げ加工部と、前記折り曲げ加工された前記電磁鋼板を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯を形成する、組付け部と、を有し、前記ビーム照射部は、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍以外の領域において、前記磁区制御用の歪の付与を行い、前記方向性電磁鋼板の表面のうち、前記折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍の領域で、前記溝を形成する、巻鉄芯の製造装置を提供する。
【0016】
上記構成の巻鉄芯の製造方法および製造装置は、磁区制御を行なっていない電磁鋼板を用意し、この電磁鋼板に対してレーザや電子ビーム等のビームを照射することにより還流磁区の起点となる磁区制御用の歪を付与して磁区制御を行なうとともに、それぞれの方向性電磁鋼板ごとに折り曲げ加工を施して、層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることにより巻鉄芯を形成するユニコア製法を採用する。
【0017】
また、上記構成の製造方法および製造装置では、同一のビーム照射装置を用い、ビームの照射条件を変えることで、方向性電磁鋼板の表面に対する溝付与と磁区制御用の歪付与とを切り替えて行なうようにしてもよい。ここで、ビーム照射装置が照射するビームとしては、レーザや電子ビーム等を挙げることができる。
【0018】
また、本発明においては、表面にビームを照射することで、圧延方向と交差する幅方向に延びる磁区制御用の歪が付与された方向性電磁鋼板を別途入手し、そうした磁区制御用の歪が付与された方向性電磁鋼板に対して、溝を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の巻鉄芯は、個別に折り曲げ加工された方向性電磁鋼板をドーナツ状(巻回形状)に組付けることで形成されるため、歪取り焼鈍工程を伴うことなく歪付与型の磁区制御材により製造できるとともに、方向性電磁鋼板の折り曲げ加工において折曲部となる部位及びその近傍に、方向性電磁鋼板の幅方向に延びる溝が形成されているため、折り曲げ加工部位の加工歪に伴う鉄損劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の斜視図を示し、巻鉄芯を構成する各方向性電磁鋼板の折り曲げ部に線状溝を含む拡大された層断面を含んでいる。
図2】比較例の巻鉄芯の鉄損を100とした場合に、本発明の巻鉄芯の鉄損がどのようになるのかを示す図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯を構成する方向性電磁鋼板の、折り曲げ加工した際の折曲部周辺における溝の形成形態を示す断面図である。
図4】様々な溝間隔(レーザ照射ピッチ)における溝形成範囲と鉄損比との間の関係を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置の概略斜視図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置におけるレーザ照射態様を示す概略模式図であり、(a)はレーザ照射装置およびその走査方向を示し、(b)は集光ビーム形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯10を示している。この巻鉄芯10は、中空部15を有する略直方体形状を成しており、ユニコア製法を用いることで、その角部Rが局所的に折り曲げ加工されている。また、巻鉄芯10は、方向性電磁鋼板40の表面に、方向性電磁鋼板40の圧延方向(長手方向)Dと交差する方向に直線的に又は曲率をもって延びる複数の磁区制御用の歪20を付与することで、還流磁区を起点に180°磁区を細分化することで鉄損が改善された、複数の方向性電磁鋼板40から形成されている。巻鉄芯10は、個別に折り曲げ加工された方向性電磁鋼板(本実施の形態では、その厚み及び幅が同一)40を層状に積み重ね、ドーナツ状(巻回形状)に組み付けることで形成される(図5も参照)。局所的な折り曲げ加工を行なうことから、加工歪(塑性変形歪)が、その折り曲げ部の近傍にしか生じないため、巻鉄芯10全体としての鉄損の劣化を少なくすることができる。したがって、本実施の形態に係る方向性電磁鋼板40は、積層の前後で歪取り焼鈍を実施する必要がない。
【0022】
また、磁区制御用の歪20は、具体的には、方向性電磁鋼板40の表面に、所定の間隔Pl(例えば4mm)で導入されており、この磁区制御用の歪20を起点として還流磁区が発生し、方向性電磁鋼板40の長手方向Dの磁区である180°磁区が細分化され、鉄損が磁区制御用の歪20導入前に比べて約10%程度改善されている。
【0023】
また、本実施の形態において、方向性電磁鋼板40を折り曲げ加工した際の角部(したがって、巻鉄芯10の4つの角部)において、方向性電磁鋼板が折れ曲がる点である折曲部及びその近傍の領域には、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dと交差する方向に直線的に又は曲率をもって延びる複数の溝25が、所定の間隔で形成されている。
【0024】
これらの溝25は、方向性電磁鋼板40を折り曲げ加工した際に、角部Rにおいて方向性電磁鋼板40が折れ曲がる部分(頂辺。折曲部)R1の両側に、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dに沿った1mm~50mmの範囲(溝形成範囲)Xにわたって、2mm~10mmの間隔Plで形成される。例えば、角部Rにおける折曲部R1の両側25mmの溝形成範囲X内に、レーザ加工により4mmの間隔で溝25を形成し、溝25の深さは平均値で25μmとすることができる。
なお、図1には、折曲R1及びその近傍の領域(即ち、溝形成範囲Xに対応)に形成される溝25が、実線で示されるとともに、それ以外の方向性電磁鋼板40の表面の全体にわたって形成される複数の磁区制御用の歪20が、一部破線で示されている。
【0025】
また、本実施の形態に係る巻鉄芯10は、例えば図示しない一次巻線と二次巻線とが、中空部15を貫通するように巻かれることで、トランスとなるものであり、一次巻線または二次巻線に電流を流すと、中空部15の周りを環流する磁束の磁気回路すなわち閉磁路が形成されるものである。また、本実施の形態に係る方向性電磁鋼板40は、圧延方向Dに結晶粒の磁化容易軸(体心立方晶の<100>方向)の方向がほぼ揃っている電磁鋼板であって、圧延方向Dに磁化が向いた複数の磁区が磁壁を挟んで配列した構造を有する。このような方向性電磁鋼板40は、磁力線が一定な方向を向くトランス用の鉄芯材料として適している。ここで、方向性電磁鋼板40の磁化容易軸は、巻鉄芯10では、巻鉄芯10の周方向(中空部15の周りを環流する方向)に対応するように組み付けられる。
【0026】
図2は、比較例の巻鉄芯の鉄損を100とした場合に、本実施の形態に係る巻鉄芯10の鉄損がどのようになるのかを示す図である。比較例の巻鉄芯は、本実施の形態に係る巻鉄芯10と同じ磁区制御用の歪20が付与されているが、折り曲げ加工される際の折曲部R1及びその近傍の領域には、溝25は形成されていない。図2に示すように、本発明の巻鉄芯10は、比較例の巻鉄芯に対して約2%の鉄損低減が実現できている。
【0027】
図3は、図1に示す本実施の形態に係る巻鉄芯10を構成する方向性電磁鋼板40の、折り曲げ加工した際の折曲部R1周辺における溝25の形成形態を示す断面図であり、溝25の形成間隔Plおよび方向性電磁鋼板40の角部Rにおける折曲部R1や、溝形成範囲Xを示している。この例では、溝25が、方向性電磁鋼板40の角部Rの折曲部R1直上に形成され、この折曲部R1から1mmの間隔Plで、他の溝25が形成されている。
【0028】
図4は、溝25の様々な間隔Pl(レーザ照射ピッチ)における溝形成範囲X(mm)と鉄損比との間の関係を示している。図4は、溝25の間隔Plを1mmから12mmまで変更し、また、溝形成範囲Xを、最大70mmまで変更して、それぞれ対応する巻鉄芯を製作し、鉄損を比較した結果である。また、図4における鉄損比は、溝25を形成していない巻鉄芯における鉄損の値を100とした場合の、鉄損の相対値である。
【0029】
図4から分かるように、P1=1mmの場合には、溝形成範囲Xが広がるほど鉄損が増加した。これは、折り曲げ加工によって生じた加工歪が緩和される影響より、磁区制御用の歪付与から溝形成に変更したことによる鉄損改善効果の低下の影響の方が大きくなり、溝形成範囲X全体としての鉄損を増大させたからである。また、Pl=2mmの場合には、鉄損が100を下回り、Pl=4mmおよびPl=6mmの場合には、溝形成範囲Xが20mm~40mm程度のときに、鉄損が最大2%も低減した。一方、Plが増加すると鉄損低減効果は減少するが、Pl=10mmまでは鉄損が低下する傾向にあり、Plが10mmを超えると、鉄損は溝25を形成しない場合と同等であった。これは、溝間隔Plが大きくなると、折り曲げ加工によって生じた加工歪を緩和する応力付与が不十分になるからと考えられる。また、Pl=10mm以下でも溝形成範囲Xが50mmを超えると鉄損が増大する。これは、磁区制御用の歪20を付与することで鉄損を改善していた影響が小さくなり、折り曲げ加工によって生じた加工歪の影響が相対的に大きくなったために、鉄損を劣化させたものと考えられる。
【0030】
したがって、溝25は、方向性電磁鋼板40の折り曲げ加工において生じる角部Rにおける折曲部R1を中心に、近傍と見なせる、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dに1mm~50mmの範囲において、2mm~10mmの溝間隔Plで、形成されることが好ましいといえる。
【0031】
図5は、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置を概略的に示している。
先ず、図5を参照しながら、本実施形態に係る巻鉄芯の製造装置について説明する。
図5に示すように、本実施形態に係る巻鉄芯の製造装置は、例えば、方向性電磁鋼板40を巻き回して形成されたフープ材40aを保持する鋼板供給部50から、方向性電磁鋼板40を、搬送速度V1(例えば30m/s)で、繰り出すことで、方向性電磁鋼板40の供給を受ける。
【0032】
鋼板供給部50から供給される方向性電磁鋼板40の表面に、ビーム照射部52からビーム90を照射して、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dと交差する、方向性電磁鋼板40の幅方向Wに延びる複数の磁区制御用の歪20を、所定の間隔Plで付与する。なお、ビーム照射部52から照射されるビームの種類としては、特に限定されるものではない。レーザであれば高エネルギーの光源を容易に安価で入手できるため好ましいが、電子ビーム等であっても、レーザと同様に用いることができる。
【0033】
折り曲げ加工部54によって、磁区制御用の歪20が付与されて磁区制御された方向性電磁鋼板40を、適宜適当なサイズに切断するとともに、1枚ずつといったように、少数枚毎に個別に折り曲げる、折り曲げ加工を行う(即ち、ユニコア製法を用いる)。こうして得られた方向性電磁鋼板40では、折り曲げ加工で生じる角部Rにおける折曲部R1の曲率が、極めて小さくなるため、折り曲げ加工によって、方向性電磁鋼板40に付与される加工歪は、極めて小さいものとなる。
組付け部56(図示せず)によって、折り曲げ加工された方向性電磁鋼板40を、層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることで、巻鉄芯10が製造される。
【0034】
制御部58は、鋼板供給部50、ビーム照射部52、折り曲げ加工部54及び組付け部56と、直接に又はネットワーク等を介して、有線又は無線で接続されている(図示の一部は省略)。
制御部58は、折り曲げ加工部54で折り曲げられる折り曲げ加工の際の折曲部R1の位置が、鋼板供給部50から供給される(例えば長尺の)方向性電磁鋼板40のどの部位にあるかを、折り曲げ加工部54からの信号S1に基づいて計算する。
そして、制御部58は、ビーム照射部52に信号S2を出力することで、ビーム照射部52の動作を鋼板供給部50の動作と同期させ、鋼板供給部50から供給される方向性電磁鋼板40上の、折り曲げ加工の際に折曲部R1となる部位に基づいて、ビーム照射が行えるように、ビーム照射部52の動作を制御する。
【0035】
例えば、制御部58の制御によって、ビーム照射部52のビーム照射条件(ビームの、パワー、集光形状及び照射速度)を、相対的に低いパワー密度のビームを照射する条件とすることで、方向性電磁鋼板40の表面の全領域に対して、磁区制御用の歪20を付与するようにし、一方で、折り曲げ加工において折曲部R1となる部位及びその近傍の領域では、ビーム照射部52のビーム照射条件を、よりパワー密度の高いビームを照射する条件とすることで、付与された磁区制御用の歪20の上に、溝25を(上書き的に)形成するようにすることができる。
【0036】
また、制御部58の制御によって、折り曲げ加工において折曲部R1となる部位及びその近傍以外の領域については、ビーム照射部52のビーム照射条件を、相対的にパワー密度の低いビームを照射する条件とすることで、磁区制御用の歪20を付与するようにし、一方で、折り曲げ加工において折曲部R1となる部位及びその近傍の領域では、ビーム照射部52のビーム照射条件を、よりパワー密度の高いビームを照射する条件に切り替えることで、溝25を形成するように、ビームを切り替えるようにしてもよい。
【0037】
次に、図5を参照しながら、本実施形態に係る巻鉄芯の製造方法について説明する。
フープ材40aは、磁区制御用の歪付与による磁区制御を行なっていない長尺の方向性電磁鋼板40をロール状にしたものである。鋼板供給部50から繰り出されたフープ材40aは、制御された一定速度V1でビーム照射部52へ向けて搬送される。ビーム照射装置52Aからレーザ光等のビームを方向性電磁鋼板40に照射し、方向性電磁鋼板40の幅方向Wに走査することにより、幅方向Wに延びる磁区制御用の歪20を方向性電磁鋼板40の表面上に形成する(歪付与ステップ)。なお、磁区制御用の歪20は、方向性電磁鋼板40の表面のうち、折り曲げ加工の際に折曲部R1となる部位及びその近傍の以外の領域のみで、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dと交差する幅方向Wに延びる磁区制御用の歪20を付与するのが好ましいが、方向性電磁鋼板40全体に磁区制御用の歪を付与し、その後に、後述する溝形成ステップで、溝25を上書き的に形成するようにしてもよい。
【0038】
また、ビーム照射部52は、前述した磁区制御用の歪20の付与に加え、方向性電磁鋼板40の表面のうち、折り曲げ加工において折曲部R1となる部位及びその近傍の領域で、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dと交差する幅方向Wに延びる溝25も形成する(溝形成ステップ)。
【0039】
また、折り曲げ加工部54は、歪付与ステップで磁区制御用の歪20が付与され、溝形成ステップで溝25が形成された方向性電磁鋼板40を、1枚ずつといったように、少数枚毎に個別に折り曲げ加工を行う(即ち、ユニコア製法を用いる)(折り曲げ加工ステップ)。こうして得られた方向性電磁鋼板40では、折り曲げ加工で生じる折曲部R1の曲率が、極めて小さくなるため、折り曲げ加工によって、方向性電磁鋼板40に付与される加工歪は、極めて小さいものとなる。
組付け部56は、折り曲げ加工された方向性電磁鋼板40を、巻回形状に組付けることで、巻鉄芯10を形成する(組付けステップ)。
【0040】
図6は、ビーム照射部52におけるビーム照射態様を概略的に示している。ビーム照射部52から照射されるビームの種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、レーザであっても電子ビームであってもよい。ビーム光は、図示しないビーム光源から、図示しない光ファイバまたはミラー反射伝送系によりビーム出射部へと導かれ、ビーム照射装置52A内にある多面体の回転ポリゴンミラー、又は、ガルバノモータによる振動ミラーによって、方向性電磁鋼板40の幅方向Wに走査され、fθレンズや放物面ミラーで集光されて、方向性電磁鋼板40に対して照射される。
【0041】
また、磁区制御用の歪20を付与する場合及び溝25を形成する場合のビーム照射条件の条件例として、レーザを用いる場合の条件例を挙げると、磁区制御用の歪20を付与する場合には、レーザパワーPを300Wとし、集光形状としてビーム走査方向の径dxを0.1mm、その直交方向の径dyを4.0mmとした楕円形状とし、ビーム走査速度Vxを20m/sとするように設定することができる。一方、溝25を形成する場合には、レーザパワーPを2000Wとし、集光形状としてビーム走査方向の径dxを0.05mm、その直交方向の径dyを0.3mmとした楕円形状とし、ビーム走査速度Vxを30m/sとするように設定することができる。なお、ビームパワーの変更は、ビーム照射装置52Aのパワー調整機能によって行なわれ、集光径の変更は、ビーム照射装置52A内のビーム拡大・集光機能によって行なわれ、また、走査速度の変更は、ビーム照射装置52A内のビーム走査機能である振動ミラーあるいは回転ポリゴンミラーの速度変更によって行なわれてもよい。
【0042】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述の実施の形態では、磁区制御用の歪20を付与する場合及び溝25を形成する場合を、同一のビーム照射装置52Aで行なう実施態様を説明したが、磁区制御用の歪20を付与する場合と、溝25を形成する場合とで、それぞれ独立のビーム照射部を用いて行うようにしてもよい。
また、前述の実施の形態においては、自ら、方向性電磁鋼板40の表面にビームを照射することで、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dと交差する幅方向Wに延びる磁区制御用の歪20を付与しているが、磁区制御用の歪20が付与された方向性電磁鋼板40を、外部から取得し、そうして取得した方向性電磁鋼板40に対して、溝25を形成するようにしてもよい。その場合には、歪付与ステップ(ビーム照射部)を不要とすることができる。
また、前述した実施の形態では、方向性電磁鋼板40の角部Rにおける折曲部R1直上に溝25が形成されているが、折曲部R1直上に溝25を形成しなくてもよい。
また、以上では、磁区制御用の歪20を、レーザや電子ビームといったビームを用いて付与する例を用いて説明を行ったが、磁区制御用の歪20を付与する手法は、それらに限定されるものではなく、その他の公知の手法を用いることもできる。例えば、磁区制御用の歪20を付与するに当たって、プラズマを照射することで付与したり、又は、方向性電磁鋼板40の表面を硬質の突起でけがいたり若しくはショットピーニング等を用いたりして、方向性電磁鋼板40に圧縮応力を与えることで付与したり、することも可能である。
また、以上では、溝25を、レーザや電子ビームを用いて形成する例を用いて説明を行ったが、溝25を形成する手法は、それらに限定されるものではなく、その他の公知の手法を用いることもできる。例えば、溝25を付与するに当たって、レーザや電子ビーム以外のビームを照射することで付与したり、エッチングを行ったり、又は、機械的なプレスを行ったりして、形成することも可能である。
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 巻鉄芯
20 磁区制御用の歪
25 溝
40 方向性電磁鋼板
50 鋼板供給部
52 ビーム照射部
52A ビーム照射装置
54 折り曲げ加工部
56 組付け部
R 角部
R1 折曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6