(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240930BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20240930BHJP
【FI】
G02B7/02 E
G02B7/04 D
(21)【出願番号】P 2020092899
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】北山 冬馬
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-258295(JP,A)
【文献】特開2010-085678(JP,A)
【文献】特開2014-160120(JP,A)
【文献】特開2016-130765(JP,A)
【文献】特開2014-092565(JP,A)
【文献】特開2010-186199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02ー 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系を備える光学機器であって、
第1保持部材に配置されている少なくとも3つのコロと、
前記コロと摺動する溝部を備え、光軸回りに回転することで、前記撮影光学系の一部を光軸に沿った方向に移動させる操作部材と、
前記操作部材を光軸に沿った方向に付勢する付勢部材を有し、
前記コロは、
金属で形成されている第1コロと、前記第1コロとは剛性が異なる
樹脂で形成されている第2コロを含
み、
前記第1コロ及び前記第2コロは、同一の前記溝部に摺動することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記第1コロまたは前記第2コロと当接する前記溝部の少なくとも一部は金属で形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記第1コロと前記第2コロは、前記第1保持部材の前記光軸回りのそれぞれ異なる位置に配置されることを特徴とする請求項1
または2に記載の光学機器。
【請求項4】
複数の前記第1コロが前記光軸を中心とした円周上に等間隔に配置され、複数の前記第2コロが前記光軸中心とした円周上に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項5】
前記第1コロの数と前記第2コロの数は同数であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項6】
前記第1コロと前記第2コロは、それぞれ少なくとも3つ配置されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項7】
前記第1コロと前記第2コロは、前記第1保持部材の、前記光軸に垂直な面内に配置されることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記第1コロまたは前記第2コロは、円筒形状または側面の一部に少なくとも2つの互いに平行な面を有する形状のいずれかで形成される請求項1~
7のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項9】
前記第1保持部材は、外周側に突出している突出部を有し、
前記操作部材の一部が、前記突出部に当接することによって回転角度が制限されることを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項10】
前記操作部材の前記回転角度は、105°以上120°以下であることを特徴とする請求項
9に記載の光学機器。
【請求項11】
前記操作部材を回転させることによって、前記撮影光学系の一部を被写体側と結像面側に移動できるように構成されており、前記第1コロは、前記操作部材に設けた穴を介して、前記操作部材の回転可能範囲のいずれかの端に合わせて前記第1保持部材に対し配置することを特徴とする請求項1~1
0のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項12】
前記付勢部材により前記操作部材に保持される外装部材に加わる押圧力を回転操作によって変化させる調整部材を有することを特徴とする請求項1~1
1のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項13】
前記付勢部材は、前記調整部材を回転可能に保持している第2保持部材に保持される第3保持部材と前記外装部材との間、または前記第2保持部材と前記外装部材との間のいずれかに配置することを特徴とする請求項1
2に記載の光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒等の光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子などを保持する鏡筒部品の位置を保持する為、鏡筒部品に取り付けられたコロを円筒部材に配置された溝に係合させる構成が使用されている。そのような構成において、外部からレンズ鏡筒(光学機器)に衝撃が加わった際、円筒部材の溝はコロから応力を受けて傷や打痕が生じる懸念があった。溝に対してコロが相対的に硬いと傷や打痕の発生に対しより不利になる為、樹脂製のコロを採用することが対策の一つとしてあった。
【0003】
また、ズーム操作時に一部のレンズが光軸方向に繰り出すレンズ鏡筒において、一部のレンズが、レンズの自重や振動により意図せず光軸方向に繰り出すことを防止する為、ズーム操作環をバネで付勢する構造が採用されている。特許文献1においては、回転操作によりズーム操作環への加圧力を変化させる構造が提案されている。この構成により、ズーム操作時は操作トルクを軽くし、意図しない繰り出しを防止したい場合は操作トルクを重くすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1においては、ズーム操作環のスラスト(光軸方向)位置は案内筒とのバヨネット結合により決められる。バヨネット結合を採用した場合、バヨネット結合部の周方向幅や組み込み位相の関係から、ズームリングの回転角度は105°程度が限界となる。
【0006】
また、それ以上に回転角度を増やそうとした場合、バヨネット結合の代わりにコロを使う方法がある。バヨネット結合と比較して、コロはズーム操作環との当接面積が狭くなるため、金属のコロを採用すると、上述したように衝撃を受けた際にズーム操作環の溝部に傷や打痕が生じ、操作時の品位(操作性)が悪化する懸念がある。樹脂のコロを使用した場合は傷や打痕が発生する懸念は少なくなるが、一般に金属と比較して樹脂は剛性及び摩擦係数が低い特徴がある為、ズーム操作環を加圧することによる繰り出し防止の効果が得られづらくなる場合があった。
【0007】
そこで本発明は、例えば、ズーム操作環を加圧することによる繰り出し防止の効果を得ることができる光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、撮影光学系を備える光学機器であって、第1保持部材に配置されている少なくとも3つのコロと、コロと摺動する溝部を備え、光軸回りに回転することで、撮影光学系の一部を光軸に沿った方向に移動させる操作部材と、操作部材を光軸に沿った方向に付勢する付勢部材を有し、コロは、金属で形成されている第1コロと、第1コロとは剛性が異なる樹脂で形成されている第2コロを含み、第1コロ及び第2コロは、同一の前記溝部に摺動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、例えば、ズーム操作環を加圧することによる繰り出し防止の効果を得ることができる光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例1のズーム機構を使用した際のレンズ鏡筒の断面図である
【
図3】実施例1のレンズ鏡筒の構成の一部を抜粋した斜視図である。
【
図4】実施例1のカム環を外周側から見た展開図である。
【
図5】実施例1の定位置回転コロの位置関係を示す斜視図である。
【
図6】実施例1の金属コロと樹脂コロの配置位相を示す断面図である。
【
図9】実施例1の金属コロと樹脂コロがコロ溝部を摺動する際の位相を示す概念図である。
【
図10】実施例1のレンズ鏡筒の構成の一部の斜視図である。
【
図12】実施例3の定位置回転コロの形状と配置を示す図である。
【
図13】実施例3の定位置回転コロの詳細形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施例を用いて説明する。なお、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略ないし簡略化する。
【0012】
〔実施例1〕
図1は、実施例1のレンズ鏡筒(光学機器)101及びカメラ201のシステム構成の一例を示す図である。以下、
図1を参照して、実施例1に係るレンズ鏡筒101及びカメラ201のシステム構成について説明する。
【0013】
レンズ鏡筒101は、1群鏡筒401、フォーカス鏡筒404、絞りユニット405、後群鏡筒410、像ぶれ補正ユニット411及び5群鏡筒412を含みうる。また、ジャイロセンサ106、レンズ側メインCPU107、像ぶれ補正駆動源108、絞り駆動源109及びフォーカス駆動源110も含みうる。また、各鏡筒にはレンズ群が保持されている。
【0014】
1群鏡筒401は、マウント414を介してカメラ201に固定され、レンズ鏡筒101内の撮影光学系を通して、カメラ201に保持されている撮像素子202上に結像することで被写体の撮像を行う。フォーカス鏡筒404は、後述のように4群レンズ454を保持する保持部材としても機能し、駆動機構によって後群鏡筒410と相対的に光軸方向(スラスト方向)へ移動し、焦点調節を行う。ここで光軸方向とは、光軸に沿った方向(撮影光学系の光軸が延びる方向)をいう。
【0015】
絞りユニット(光量調整ユニット)405は、1群レンズ451に入射して撮像素子へ導かれる光量を調節する。絞り駆動源109は、絞りユニット405の駆動源である。像ぶれ補正ユニット(像ぶれ補正装置)411は、例えば、手ぶれ等による画像の乱れを補正する。像ぶれ補正駆動源108は、像ぶれ補正ユニット411の駆動源である。ジャイロセンサ(角速度センサ)106は、例えば、手ぶれ等による振動成分を検知するセンサである。また、ジャイロセンサ106はこれらのぶれを検出するぶれ検出手段としても機能する。
【0016】
レンズ側メインCPU107は、レンズ全体の駆動を統括的に制御することや計算を行うレンズ側の制御手段として機能する。また、絞り駆動源109、フォーカス鏡筒404、絞りユニット405の駆動は、レンズ側のメインCPU107から駆動指令(指示)を出すことで実施される。像ぶれ補正制御を行う際には、レンズ側のメインCPU107がジャイロセンサ106の検出値を用いて、ぶれ補正量を算出し、像ぶれ補正駆動源108に指示を送る。光軸xに対して直交する軸である、y方向(ヨー方向)、p方向(ピッチ方向)に像ぶれ補正ユニット411を駆動させることで、ぶれ補正を行う。
【0017】
像ぶれ補正ユニット411及び像ぶれ補正駆動源108は、像ぶれ補正手段として機能する。また、レンズ側のメインCPU107は、レンズ鏡筒101またはカメラ201の保持状態をジャイロセンサ106の検出値から判断する判断手段としても機能する。
【0018】
カメラ201には、撮像素子202、カメラ側のメインCPU203、レリーズボタン204、主電源205及び画像記録用メディア206を含みうる。
【0019】
撮像素子202は、撮像光学系を通過した光束により形成された被写体像を撮像(光電変換)する。カメラ側のメインCPU203は、カメラ201内の各種装置の動作を制御するカメラ側の制御手段として機能する。
【0020】
レリーズボタン204は、2段押しの構成を有する部材である。レリーズボタン204の1段目をSW1と呼び、2段目をSW2と呼ぶ。SW1では、撮影スタンバイからの復帰や、手ぶれ補正開始、オートフォーカスの開始、測光の開始などの撮影開始準備の指示を行う。SW2では、撮影を行い画像記録用メディア206への画像の記録指示を行う。また、マウント414に設けられた不図示の接点ブロックを介して、カメラ側メインCPU203からレンズ鏡筒に電力の供給や、その他撮影情報のやり取りをレンズ側メインCPU107と行っている。
【0021】
図2は、実施例1のズーム機構を使用した際のレンズ鏡筒101の断面図である。
図2(A)は、レンズ鏡筒101がWide側の位置における断面図である。
図1(B)は、レンズ鏡筒101がTele側の位置における断面図である。また、以下の説明において物体側は撮影する被写体がある側と定義し、
図2の図面上では左側になる。像面側はカメラの撮像素子がある側と定義し、
図2の図面上では右側になる。なお、実施例1では交換レンズについて説明するが、同様の構成をレンズ一体型のデジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置のレンズ鏡筒やレンズ交換可能な写真フィルムカメラ等にも適用することができる。
【0022】
レンズ鏡筒101は、1群レンズ451、2群レンズ452、3群レンズ453、4群レンズ454及び5群レンズ455を含む撮影光学系(光学部材)を保持している。
【0023】
1群レンズ451は、1群鏡筒401に保持されている。1群鏡筒401は直進筒417に固定されている。2群レンズ452は、像ぶれ補正ユニット411に保持されている。また、2群レンズ452は光軸に垂直な方向に移動することで像ブレを補正しうる。像ぶれ補正ユニット411は案内筒(第1保持部材)474に固定されている。なお、像ぶれ補正ユニット411はズーム操作によって光軸方向には動かない。
【0024】
3群レンズ453は、後群鏡筒410に保持されている。4群レンズ454は、フォーカス鏡筒404に保持されておりフォーカス鏡筒404設けられた案内機構を介して、後群鏡筒410に保持されている。さらにフォーカス鏡筒404は駆動機構によって後群鏡筒410と相対的に光軸方向へ移動し、焦点調節を行う。5群レンズ455は、5群鏡筒412に保持されている。絞りユニット405は光量調節を行い、後群鏡筒410に固定される。案内筒474の外径(外周部)側にある、後固定筒472にビスで固定されており、複数の直進溝が設けられている。
【0025】
カム環416は、案内筒474の内周に回転可能に嵌合したカム環(カム部材)である。カム環416の周方向には複数のカム溝が設けられている。
【0026】
以下、
図3を参照してズーム機構について説明する。
図3は、1群鏡筒401および直進筒417を抜粋した斜視図である。ズームリング(操作部材)435は、案内筒474に回転可能に保持されている。直進筒417はカムコロ417aと直進筒コロ417bを有する。カムコロ417aはズームリング435が有する、カム溝435dと係合し、直進筒コロ417bは案内筒474が有する直進溝474aと係合する。ズームリング435を手動により光軸回りに回転させると、カムフォロアが摺動し直進筒417が光軸方向に移動する。
【0027】
駆動用IC431は、マイコン等が配置されたプリント基板であり、後固定筒472に固定されている。外観リング427は、マウント414と共に、後固定筒472にビス固定される。前固定筒423は後固定筒472にビス固定される。
【0028】
マニュアルフォーカスリング(MF)ユニット419は、前固定筒423を軸として回転可動に支持されている。マニュアルフォーカスリングユニット419を回転させると、その回転をセンサ(不図示)が検出し、回転量に応じて手動の焦点調節を行う。AFモータ480は、後群鏡筒410に固定されており、フォーカス鏡筒404の駆動を行う。
【0029】
図4は、実施例1のカム環416を外周側から見た展開図である。ここで、
図4に示しているカム溝及び直進溝について、カム環416のカム溝416aは直進筒417のカム溝である。カム環416のカム溝416bは後群鏡筒410のカム溝である。カム環416のカム溝416cは5群鏡筒412のカム溝である。カム溝416dは保護枠461のカム溝である。ここで、直進溝474aと直進溝474bは案内筒474の案内溝である。案内筒474の直進溝474aは直進筒417の直進溝である。案内筒474の直進溝474bは後群鏡筒410と5群鏡筒412共通の直進溝である。
【0030】
前述したように、ズームリング435を手動により光軸回りに回転させると、直進筒417はズームリング435のカム溝と案内筒474の直進溝にカムフォロアが係合している為、カムフォロアが摺動し光軸方向に移動する。そして、直進筒417に設けられたカムフォロアがカム環416のカム溝416aとも係合している。したがって、直進筒417が光軸方向に移動するとカム環416が光軸周りに回転する。
【0031】
後群鏡筒410は、カム環416のカム溝416bと案内筒474の直進溝にカムフォロアを介して係合している。その為カム環416の回転によりカムフォロアが摺動し後群鏡筒410と5群鏡筒412は光軸方向に移動する。保護枠461は、5群鏡筒412の像面側に位置している。保護枠461に不図示のストッパー部材及び2つのカムフォロア465がビスで取り付けられている。
【0032】
ストッパー部材は、直進溝係合部を有しており、案内筒474の直進溝と係合することで光軸方向に移動可能且つ、光軸周りに回転不能に保持している。2つのカムフォロア465も同様に案内筒474の直進溝と係合しており、これにより保護枠461は光軸方向に移動可能且つ、光軸周りに回転不能に保持している。さらにストッパー部材はカム溝係合部があり、カム環416のカム溝416dと係合している。2つのカムフォロア465も同様にカム環416のカム溝416dとそれぞれ係合している。
【0033】
これにより、カム環416が回転することで、カム溝416dに沿って、保護枠461は光軸方向に移動する。以上のようにして、ズームリング435を手動で回転させることにより、直進筒417、後群鏡筒410、5群鏡筒412が光軸方向に移動することでズーム動作を行っている。当該ズーム動作に伴い保護枠461も連動しての光軸方向に可動する。この際に、5群鏡筒412は、wide側からTele側にいくに従って、物体側に繰り出て(伸びて)いき、保護枠461も、wide側からTele側にいくに従って、物体側に繰り出て(伸びて)いく設定になっている。
【0034】
次に、本構成におけるズームリングへの加圧機構について説明する。
図5は、案内筒474に取り付けられた(配置された)定位置回転コロ(コロ部)300を示す斜視図である。定位置回転コロ300は案内筒474に対し光軸に垂直な同じ面内に配置され、ズームリング435は、案内筒474にビス310によって締結された定位置回転コロ300によって光軸方向の位置が保持される。実施例1においてズームリング435は金属で構成されるが、これに限らず樹脂で構成するようにしてもよい。
【0035】
図6は、
図5で示した斜視図を定位置回転コロ300の位置で光軸に垂直な面で切断した断面図である。さらに
図6は、撮像面側(結像面側)から被写体側に向かって見た図である。実施例1において、ズームリング435は6個の定位置回転コロ300で保持されている。また、実施例1において、定位置回転コロ300は3個の金属コロ(第1コロ)300aと3個の樹脂コロ(第2コロ)300bによって構成されている。金属コロ300aと樹脂コロ300bはそれぞれ同数で構成する。また、これらの金属コロ300aと樹脂コロ300bはそれぞれ3個以上で構成するようにしてもよい。
【0036】
図7は、定位置回転コロ300のうちの一つと光軸中心を通る、光軸と平行な面で切断した断面図である。ズームリング435はコロ溝部435bを有する。実施例1において、コロ溝部435bはズームリング435の内周側に形成される。前述のようにズームリング435を樹脂で構成させる場合、例えばコロ溝部435bの部分及び周辺を金属部材で一体となるように構成してもよく、コロ溝部435bの部分及び周辺を取り外し可能な金属部材で構成するようにしてもよい。ズームリング435は案内筒474と径方向に係合し、回転可能に保持される。突き当て部(突出部)435aは、ズームリング435が被写体側及び撮像面側の2か所の壁面部が定位置回転コロ300と係合し、ズームリング435の光軸方向の位置を規定する。ズームリング435は、ズーム操作リング(外装部材)360と不図示のビスにより締結され、ズーム操作リング360と一体で回転する。つまり、レンズ鏡筒101の外部に露出したズーム操作リング360を回転させることで、ズームリング435も一体に回転する。
【0037】
このように、実施例1では、ズームリング435とズーム操作リング360が別体で構成されていても良い。また、別体に限らず一体で構成するようにしてもよい。移動環(第3保持部材)340とズーム操作リング360の間には加圧バネ(付勢部材)320が配置される。加圧バネ320により、ズーム操作リング360とズームリング435が付勢され、当該付勢により前に押し出される力(押圧力)が加えられる。この力は定位置回転コロ300とコロ溝部435bの摺動箇所で受けられる。すなわち、加圧によるトルク(回転トルク、操作トルク)の増分は、加圧バネ320とズーム操作リング360の摺動部でもある定位置回転コロ300とコロ溝部435bの摺動摩擦によって生じる。
【0038】
次に、
図8を用いてズーム操作時の回転トルクを可変させる機構について説明する。
図8は、調整リング330と移動環340の一部を抜粋した断面図である。調整リング(調整部材)330は外装環(第2保持部材)350に対して回転可能に支持され、移動環340は外装環350に対して回転しないように保持される。調整リング330と移動環340は略同一の傾斜である斜面部331と斜面部341を、3つずつ有する。斜面部331と斜面部341は互いに当接し、調整リング330を回転させることで、斜面部331と斜面部341の当接箇所が変化し、移動環340が光軸方向に進退する。
【0039】
移動環340が進退することで、移動環340とズーム操作リング360のクリアランスが変化する。そのため、加圧バネ320の作用長も変化し、ズーム操作リング360に対する加圧力が変化する。そして、加圧力の強弱により摺動摩擦が変化する為、ズーム操作時の回転トルクを変化させることができる。ここで、摺動摩擦を生じさせる上で、定位置回転コロ300の剛性または材質(材料)が重要となる。一般に、金属の方が樹脂よりも剛性及び摩擦係数が高い特徴があるため、ズーム操作時の回転トルクを増加させる観点では、定位置回転コロ300は金属製とすることが望ましい。
【0040】
しかしながら、例えば、定位置回転コロ300を金属で形成したものを採用した場合、例えば落下による衝撃等によりコロ溝部435bに傷や打痕等の不具合が生じる可能性がある。コロ溝部435bに傷や打痕が生じると、金属コロ300aがこの傷や打痕を乗り越えた際に操作者に振動として伝わり、ズーム操作時の品位悪化(操作性悪化)の原因となる。そして、例えば定位置回転コロ300を樹脂で形成したものを採用した場合、金属と比べて柔らかい材質である為、コロ溝部435bに傷や打痕は生じにくい。しかしながら、金属と比較して樹脂は、剛性及び摩擦係数が低い特徴があるため、ズームリング435を加圧しても所定の回転トルクを得られず、意図せずレンズが繰り出してしまう可能性がある。そこで、実施例1においては、金属コロ300aと樹脂コロ300bを組み合わせて使用する。このように、回転トルクを可変させる機構があることで、樹脂コロ300bは微小変形し、金属コロ300aと樹脂コロ300bは常にコロ溝部435bと当接し摺動する。ここで、剛性及び摩擦係数が高い特徴を有する金属コロ300aがコロ溝部435bを摺動する為、加圧による摩擦力を向上させることができる。また、金属コロ300aまたは樹脂コロ300bは、例えば、摩擦係数を高く若しくは低くするためのコーティングを施してもよい。
【0041】
図9は、実施例1におけるコロ溝部435bに対する定位置回転コロ300の摺動箇所及び打痕発生位置の位相関係を示した模式図である。前述したように、ズームリング435は被写体側に加圧される為、コロ溝部435bの撮像面側の面に傷や打痕がつくと、操作時の操作性(品位)の悪化につながる恐れがある。そして撮像面側の面に傷や打痕がつくのは、例えば、レンズ鏡筒101を被写体側もしくは撮像面側を重力方向に向けた時である。
【0042】
ズーム動作により、被写体側に繰り出す直進筒417は、ズームリング435のカム溝435dを介して被写体側に向かって繰り出される。実施例1において、ズームリングをWide方向からTele方向に向けて回転させると、直進筒417は常に被写体側に繰り出す方向に移動する。つまり、Tele側に繰り出している状態の直進筒417を被写体側から押し込むように操作すると、ズームリング435が回転しながら直進筒417が撮像面側に移動する。移動の際は、Wide方向の端まで押し込まれると移動は停止する。よって、Tele側でレンズ鏡筒101を落下してしまった場合、落下による衝撃によりTele側で繰り出したレンズ群は引き込まれてしまう。そして、引き込まれた後の位置で、レンズ鏡筒101及び定位置回転コロ300が摺動しているコロ溝部435bが傷や打痕の損害を受けてしまう。
【0043】
つまり、コロ溝部435bに傷や打痕がつく位相は、Wide側における金属コロ300aが存在する位置である。実施例1において、金属コロ300aによる傷や打痕の位置は金属コロ300aの摺動範囲におけるWide端の位置と一致する。つまり、コロ溝部435bにできた打痕を金属コロ300aは乗り越えることがない。ここで端の位置から定位置回転コロ300が動き始める場合を考えてみる。
【0044】
定位置回転コロ300が、動き始める前において定位置回転コロ300とコロ溝部435bの相対位置は静止摩擦力により保持される。この状態から徐々に力を加えて静止摩擦力を越えると、定位置回転コロ300とコロ溝部435bにかかる力が動摩擦力に切り替わり、ズームリング435は回転を始める。Tele側端に向かって回転させる場合、仮に、Wide側端の位置に傷や打痕が生じていて、動き始めの位置において微少な回転トルク変化が生じたとしても、微小な変化であるため、操作をする上では操作性の悪化は手では感じにくい。これは、上記の静止摩擦力から動摩擦力への遷移で生じる回転トルク変化の中に埋もれてしまうためである。これとは逆に、Wide側端に向かって回転させる場合を考えてみる。この場合、Wide側端に到達する際に生じる回転トルクは定位置回転コロ300とコロ溝部435bの間の動摩擦力により発生する。Wide側端に到達すると、ズームリング435の突き当て部435aが、案内筒474に対し外周側に突出して構成されるズーム端(突出部)370に突き当たり回転動作が停止する。
【0045】
この時に生じる回転トルクはズーム端370から突き当て部435aが受ける反力に依存する。この反力による回転トルクの増分は、傷や打痕による引っ掛かりに起因する回転トルクの変動よりも十分に大きい為、Wide側端に向かって回した場合でも、操作性の悪化は手では感じにくい。また、実施例1においては、ズームリング435の回転角を120°に設定している。回転角度を120°とすると、例えば、一方の金属コロ300aのWide端ともう一方の金属コロ300aのTele端が一致するが、このTele端においても金属コロ300aが傷や打痕を乗り越えることがない。また、回転角は120°のみに限らず、105°以上120°以下の範囲で回転角に設定するようにしてもよい。
【0046】
このように、回転角を120°以下にすることで、金属コロ300aが傷や打痕を乗り越えないような配置ができる。このような構成においても、樹脂コロ300bは傷や打痕を乗り越えてしまうが、一般に金属と比較して樹脂は材質が柔らかい(剛性が低い)特徴を有するため、与えた力に対して変形しやすい。例えば、金属のヤング率が数百GPaに対して、樹脂のヤング率は数GPа程度である。したがって、傷や打痕を乗り越えた際の振動が金属より緩和され、傷や打痕による操作性の悪化を抑制するができる。
【0047】
次に、
図10を用いて定位置回転コロ300の組み込み位相について説明する。
図10は、実施例1におけるズームリング435、案内筒474、定位置回転コロ300及びズーム端370を抜粋した斜視図である。ズームリング435は前述のように突き当て部435aを有し、案内筒474はズーム端370を有する。実施例1において、ズーム端370は案内筒474に対して別体で構成され、ビスで固定されている。しかしこれに限らず案内筒474に一体として構成するようにしてもよい。
【0048】
ズーム端370と、突き当て部435aは光軸を中心とした回転の周方向に当接し、案内筒474に対するズームリング435の回転可能角度を規定(制限)する。ズーム端370は案内筒474に複数配置するものとする。実施例1においては、ズーム端370を2つ配置するものとし、このズーム端370の一方はズームリング435のWide端となり、もう一方はTele端となる。さらに、ズームリング435には組み込み穴435cが配置されている。組み込み穴435cは、ズームリング435を案内筒474に径嵌合させた後、定位置回転コロ300を組み込むために使用する穴である。案内筒474が有する不図示のコロ座と組み込み穴435cを合わせて定位置回転コロ300を案内筒474に対して組み込む。
【0049】
実施例1において、金属コロ300aの組み込み位相はズームリング435のWide端と一致するものとして、樹脂コロ300bはWide端からTele端へ少し回した位相とする。一般に、材質は金属の方が樹脂よりも硬い(剛性が高い)特徴があるため、金属コロ300aを組み込む際にコロ溝部435bを傷つける恐れがある。そして、金属コロ300aが、コロ溝部435bを摺動させる際に、一方の金属コロ300aでつけた傷を、もう一方の金属コロ300aが乗り越えてしまったら、前述した傷や打痕が生じた場合と同様に、操作性が悪化して手で感じてしまう。そこで、実施例1では、金属コロ300aの組み込み位相を操作部材の回転可能範囲の一方の端であるWide端と一致させる。これにより、コロ溝部435bを万が一傷つけてしまっても操作性の悪化を抑制することができる。
【0050】
以上のように、実施例1では、定位置回転コロ300に、金属コロ300aと樹脂コロ300bを組み合わせて使用し、これらの配置位置を異なる位置とし、さらにズームリング435の回転角を規定する。これにより、仮にコロ溝部435bに傷や打痕等が生じていても、金属コロ300aは傷や打痕を乗り越えない為、操作性悪化の抑制が可能な光学機器を提供することができる。さらに、剛性及び摩擦係数が高い特徴の金属コロ300aがコロ溝部435bを摺動する為、ズーム操作リング360を回転させる際に、加圧バネ320によってズーム操作リング360に対する加圧による摩擦力を向上させることができる。これにより操作時の加圧効果を高めた光学機器を提供することができる。
【0051】
〔実施例2〕
次に、
図11を参照して、実施例2におけるレンズ鏡筒(光学装置)101の構成を説明する。
図11は、定位置回転コロ300のうちの1つを基準に光軸中心を通る、光軸と平行な面で切断した断面図である。なお、実施例1のレンズ鏡筒101と同様の構成は説明を省略する。
【0052】
実施例2では、加圧バネ320をズーム操作リング360と外装環350の間に配置するものとして構成する。ここで、外装環350とズーム操作リング360のクリアランスは一定である為、加圧バネ320による加圧力も変化せず一定となる。
【0053】
以上のように、実施例2では、加圧バネ320の配置箇所を実施例1の配置箇所と変更することで、加圧力を可変させる機構の有無にかかわらず一定の加圧力を有する光学機器を提供することができる。
【0054】
〔実施例3〕
次に、
図12及び
図13を参照して実施例3におけるレンズ鏡筒(光学装置)101の構成を説明する。
図12は、案内筒474に取り付けられた定位置回転コロ300を光軸直交方向から見た図である。また、
図13は、実施例3における定位置回転コロ300の形状を示す斜視図である。なお、実施例1のレンズ鏡筒101と同様の構成は説明を省略する。
【0055】
ここで、
図13に示すように、実施例3における定位置回転コロ300の金属コロ300a及び樹脂コロ300bは、側面の一部に2つの互いに平行な面である平面部301を有する円筒形状で構成される。さらに、コロ溝部435bに対しては、平面部301が摺動する。このように、実施例3では、金属コロ300a及び樹脂コロ300bの平面部301がコロ溝部435bを摺動するため、実施例1の円筒形状で形成される定位置回転コロ300と比較して、コロ溝部435bと当接する箇所が面当たりになる。これにより、コロ溝部435bが、何かしらの衝撃を受けた際の応力が小さくなるため、平面部301を有さない円筒形状の定位置回転コロ300を使用したときに比べ、コロ溝部435bの耐衝撃性を高めることができる。
【0056】
また、平面部301は、2つ以上有していてもよく、例えば略四角形状を構成するように平面部301を4つ設けることや、それ以上の多角形状を構成するようにしてもよい。また、例えば、定位置回転コロ300の金属コロ300aを実施例3のように平面部301を有した円筒形状の構成とし、樹脂コロ300bを実施例1のような平面部301を有さない円筒形状で構成するようにしてもよく、この逆であってもよい。
【0057】
以上のように、実施例3では、円筒形状をしている定位置回転コロ300の側面の一部に2つの互いに平行な面を設けた形状とすることで、コロ溝部435bの耐衝撃性を高めた光学機器を提供することができる。
【0058】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【符号の説明】
【0059】
101 レンズ鏡筒
300 定位置回転コロ
300a 金属コロ
300b 樹脂コロ
350 外装環
360 ズーム操作リング
370 ズーム端
427 外観リング
435 ズームリング
435a 突き当て部
435b コロ溝部
435c 組み込み穴
474 案内筒