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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】がんの処置のための併用治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240930BHJP
   A61K 31/415 20060101ALI20240930BHJP
   A61K 31/7052 20060101ALI20240930BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K31/415
A61K31/7052
A61K31/7068
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020096807
(22)【出願日】2020-06-03
(62)【分割の表示】P 2016568918の分割
【原出願日】2015-05-21
(65)【公開番号】P2020128432
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2020-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】62/002,366
(32)【優先日】2014-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/150,004
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】バオ,シンフォン
(72)【発明者】
【氏名】アルブ,ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】ウッダール-ヤッペ,メアリー
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】冨永 みどり
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-538825(JP,A)
【文献】特許第6787792(JP,B2)
【文献】Park, W. et al.,Antitumor enhancement of celecoxib, a selective Cyclooxygenase-2 inhibitor, in a Lewis lung carcinoma expressing Cyclooxygenase-2,Journal of Experimental & Clinical Cancer Research,2008年,Vol.27, No.1,66,doi:10.1186/1756-9966-27-66
【文献】Yusup, G. et al.,A COX-2 inhibitor enhances the antitumor effects of chemotherapy and radiotherapy for esophageal squamous cell carcinoma,International Journal of Oncology,2014年04月,Vol.44, No.4,p.1146-1152,doi:10.3892/ijo.2014.2300
【文献】Blanquicett, C. et al.,Antitumor efficacy of capecitabine and celecoxib in irradiated and lead-shielded, contralateral human BxPC-3 pancreatic cancer xenografts: clinical implications of abscopal effects,Clinical Cancer Research,2005年,Vol.11, NO.24,p.8773-8781,doi:10.1158/1078-0432.CCR-05-0627
【文献】Xu, G. et al.,Zhonghua Yi Xue Za Zhi,2005年,Vol.85, No.14,p.986-991
【文献】Zhang, D. Q. et al.,Increase of cyclooxygenase-2 inhibition with celecoxib combined with 5-FU enhances tumor cell apoptosis and antitumor efficacy in a subcutaneous implantation tumor model of human colon cancer,World Journal of Surgical Oncology,2013年,Vol.11,16,doi:10.1186/1477-7819-11-16
【文献】Rahman, M. et al.,Inhibition of COX-2 in colon cancer modulates tumor growth and MDR-1 expression to enhance tumor regression in therapy-refractory cancers in vivo,Neoplasia,2012年,Vol.14, No.7,p.624-633,doi:10.1593/neo.12486
【文献】Fulton, A. M. et al.,Targeting prostaglandin E EP receptors to inhibit metastasis,Cancer Research,2006年,Vol.66, No.20,p.9794-9797,doi:10.1158/0008-5472.CAN-06-2067
【文献】9.Jure-Kunkel, M. et al.,Synergy between chemotherapeutic agents and CTLA-4 blockade in preclinical tumor models,Cancer Immunology, Immunotherapy,2013年,Vol.62, No.9,p.1533-1545,doi:10.1007/s00262-013-1451-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
PubMed
医中誌WEB
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EP4受容体と関連するがんの処置における治療と併用されるための、EP4アンタゴニストを含む医薬組成物であって、
前記治療がアテゾリズマブ抗体治療であり、
前記EP4アンタゴニストが:
【化1】
またはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。
【請求項2】
EP4受容体と関連するがんの処置における治療と併用されるための、EP4アンタゴニストを含む医薬組成物であって、
前記治療がペンブロリズマブ抗体治療であり、
前記EP4アンタゴニストが:
【化2】
またはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。
【請求項3】
前記治療が、さらに、フルオロウラシルの投与と併用される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記治療が、さらに、カペシタビンの投与と併用される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記がんが、乳がん、子宮頚がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、膠芽腫、頭頚部がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、髄芽腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん(例えば黒色腫)および尿路がんからなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記がんが転移性がんである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
EP4受容体と関連するがんに対する記憶免疫応答の発生を必要とする対象において、前記がんに対する前記記憶免疫応答を発生させるために用いられ、治療と併用されるための、EP4アンタゴニストを含む医薬組成物であって、
前記治療が、さらに、放射線治療と併用され、
前記EP4アンタゴニストが:
【化3】
またはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。
【請求項8】
前記がんが、乳がん、子宮頚がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、膠芽腫、頭頚部がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、髄芽腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん(例えば黒色腫)および尿路がんからなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記がんが転移性がんである、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記記憶免疫応答がエピトープ拡大を含む、請求項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
さらに代謝拮抗物質化学治療の投与と併用される、請求項10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記代謝拮抗物質がデオキシヌクレオシド類似体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記代謝拮抗物質がフルオロウラシルである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記代謝拮抗物質がカペシタビンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
プロスタグランジンE2(PGE2)とプロスタグランジンE受容体4(EP4)との相互作用によるPGE2シグナル伝達をアンタゴニストによって遮断すると、炎症を低減するのに有効であることが示されている(Chen et al.(2010)British J. Pharmacol. 160, 292-310)。PGE2はまた、多くの固形腫瘍によって作り出される免疫抑制環境における重要な構成要素として意味づけられており(Whiteside(2010)Expert Opinion in Biological Therapy. 2010. 10, 1019-1035)、アンタゴニストによるEP4シグナル伝達の抑制は、腫瘍成長(Terada et al.(2010)Cancer Res. 70, 1606-1615)および腫瘍動物モデルにおける腫瘍転移(Yang et al.(2006)Cancer Res. 66, 9665-9672)を低減することが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
最も進歩したがん(cancer)の治療においてさえ、固形がん、特に転移したがんのもっと有効な処置について、医療ニーズは引き続き存在している。
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
EP4アンタゴニストを、放射線;細胞傷害性tリンパ球抗原4に対する抗体(抗CTLA4);プログラム死リガンド1に対する抗体(抗PDL1);プログラム細胞死タンパク質1に対する抗体(抗PD1);および代謝拮抗物質と、様々に併用した場合の抗腫瘍活性を試験してきた。この試験の結果は、EP4アンタゴニストを他の治療と併用することによって、単一薬剤処置のみと比較した際に、抗腫瘍活性が改善され、および/または相乗的になることを示した。これは、いくつかの実施形態において、異なるがんに対してでも、腫瘍に対する記憶免疫応答を導き得る。
【0004】
したがって、本発明の一態様において、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置する方法であって、EP4アンタゴニストを、放射線治療、抗体治療および代謝拮抗物質化学治療からなる群から選択される治療と併用して投与する工程を含む方法を提供する。本発明のさらに特定した態様において、抗体治療は、CTLA4抗体治療、PDL1抗体治療およびPD1抗体治療からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、がんは転移性がんである。
【0005】
本発明の別の態様において、記憶免疫応答の発生を必要とする対象において記憶免疫応答を発生させる方法であって、ある量のEP4アンタゴニストを、放射線治療、抗体治療および代謝拮抗物質化学治療からなる群から選択される治療と併用して投与する工程を含む方法を提供する。本発明のさらに特定した別の態様において、抗体治療は、CTLA4抗体治療、PDL1抗体治療およびPD1抗体治療からなる群から選択される。
【0006】
本発明のさらに別の態様において、処置されるがんは、乳がん、子宮頚がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、膠芽腫、頭頚部がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、髄芽腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がんおよび尿路がんからなる群から選択される。
【0007】
本発明のさらに特定した態様において、式(I)の化合物:
【化1】

[式中:
1aとR1bのうち一方が水素であり、他方がメチルであり;またはR1aとR1bとが一緒になってシクロプロピル環を形成し、
はメチルまたはフルオロメチルであり、
はメチルであり、
は、水素、ハロ、メチル、フルオロメチル、メトキシまたはフルオロメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチル、フルオロメチル、メトキシまたはフルオロメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチルまたはメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチルまたはメトキシであり、および
Xは酸素である]
またはその薬学的に許容される塩
を、放射線治療と併用して;抗CTLA4治療と併用して;抗PDL1治療と併用して;抗PD1治療と併用して;および/または代謝拮抗物質化学治療と併用して投与する工程を含む、がんを処置するおよび/または記憶免疫応答を発生させる方法を提供する。
【0008】
本明細書に開示されているように、がんを処置するため、および/または記憶免疫応答を発生させるための、EP4アンタゴニストと、放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療からなる群から選択される治療との併用の使用をさらに提供する。
【0009】
本明細書に開示されているように、がんを処置するため、および/または記憶免疫応答を発生させるための、放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療からなる群から選択される治療との併用治療のための医薬品の調製におけるEP4アンタゴニストの使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】放射線単独と比較した際の、放射線/ER-886046併用治療の抗腫瘍成長活性の有意な改善。パネルA)9Gy放射線+ER-886046、9Gy放射線単独またはビヒクル単独を施したCT26腫瘍担持マウスの平均腫瘍サイズ。パネルB)CT-26腫瘍担持マウスの平均動物体重。放射線処置:9日目に9Gy単回線量;ER-886046投薬:150mg/kg、9日目~32日目に毎日経口(po)投与。腫瘍担持マウスへの放射線およびER-886046の投与は、それぞれ矢印およびバーで示されている。N=群当たり10~12匹。*, p<0.05、スチューデントのt-検定。
図2】放射線/ER-886046または放射線単独で処置した個々のCT-26腫瘍の腫瘍成長プロット。動物は、図1で説明した実験の動物である。パネルA)ビヒクル処置群。パネルB)放射線。パネルC)放射線プラスER-886046。N=群当たり10~12匹。治癒は完全な腫瘍後退;進行は急速な腫瘍成長;安定は処置前の初期腫瘍と同程度のサイズ。放射線処置:9日目に9Gy単回線量;ER-886046投薬:150mg/kg、9日目~32日目に毎日経口(po)投与。各線は個々の動物を表す。
図3】低線量放射線単独と比較した際の、低線量放射線/ER-886046による腫瘍成長抑制および動物の生存率の改善。示した処置群間の動物の生存率の状態のプロット。放射線処置:17日目に3Gy単回線量;ER-886046投薬:150mg/kg、17日目~45日目に毎日po投与。試験計画書に従って、動物が、その初期体重と比較して20%の体重減少に達した場合、または腫瘍体積が2000mm以上になった場合、その動物を試験から除外した。N=群当たり10匹。*, p<0.05;***, p<0.001;ゲーハン-ブレスロウ-ウィルコクソン検定。
図4】ER-886046/放射線処置による記憶免疫応答を伴う長期持続性の抗腫瘍効果。パネルA)CT26細胞の注射を施し、ER-886046と放射線との併用処置によって治癒したマウスまたは未処置のBalB/cマウスの腫瘍成長。パネルB)治癒したマウスまたは未処置の(naive)マウスにおける、2度目の誘発をした(challenged)CT-26腫瘍の腫瘍成長。パネルC)治癒したマウスまたは未処置のマウスにおける4T1腫瘍の成長。N=9~10匹。併用で治癒したマウスにおいて、誘発したCT-26腫瘍は完全に拒絶され、誘発した4T1腫瘍の成長は低減されていることに留意されたい。***, p<0.001。両側スチューデントのt-検定。非処置はいずれの動物にも適用しなかったことに留意されたい。
図5】両側性腫瘍モデルにおけるER-886046/放射線の抗腫瘍効果。BalB/cマウスの左右側腹部の両方にCT26細胞を皮下注射することによって、同じサイズの2つのCT-26腫瘍を宿主中に成長させた。パネルAにおいて矢印で示したとおり、9日目および13日目の両日に、放射線を右側腹部腫瘍に適用した。バーで示したとおり、ER-886046を、動物に用量150mg/kgで毎日po投与した。ER-886046を動物に投薬したのは9日目~27日目であった。パネルA)放射線およびER-886046を施した右側腹部腫瘍の平均サイズ。パネルB)放射線を投与しなかった左側腹部腫瘍の平均サイズ(放射線は右側腹部にのみ投与)。右側腹部腫瘍に投与した放射線/ER-886046の併用は、放射線処置を投与しなかった同源の左側腹部腫瘍の成長を有意に遅くさせ、アブスコパル効果(abscopic effect)を示していることに留意されたい。**, p<0.01;nsは有意差なし;スチューデントのt-検定。
図6】4T1乳房腫瘍モデルにおけるER-886046/放射線の抗肺転移活性。4T1-luc2細胞をBalB/cマウスに皮下(sc)接種した。腫瘍の平均サイズが100mmに達したとき、腫瘍を線量9Gyで1回照射し、ER-886046を用量150mg/kgで毎日経口投与した、またはしなかった。パネルA)27日目の試験終了時に、動物の肺転移を解析し、ルシフェラーゼ発現により定量化した。パネルB)各群の代表的なIVIS画像を示す。スチューデントのt-検定を統計解析に使用した。
図7】放射線とER-886046とが相乗的に作用して、腫瘍内免疫を改変した。パネルA)9Gy単独、9Gy+ER-886046またはビヒクル単独を施したCT26腫瘍中の骨髄系細胞(CD11b+)および細胞傷害性T細胞(CD8+)の定量化。パネルB)腫瘍中の骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC細胞、CD11b+Gr1+)の定量化。無作為化した日に放射線を1回腫瘍に照射し、無作為化後に連続7日間、毎日、ER-886046を150mg/kgで動物にpo投与した。ER-886046の最終投薬の1日後に、腫瘍をフローサイトメトリーで解析した。**, p<0.01;nsは有意差なし;スチューデントのt-検定。
図8】B16F10腫瘍におけるER-886046と抗CTLA4との相乗的抗腫瘍活性。パネルA)C57BL/6マウス中に成長しているB16F10黒色腫腫瘍における抗CTLA4およびER-886046の抗腫瘍成長活性。パネルB)処置群の動物体重変化。抗CTLA4投薬:移植の3日後に最初の静脈(iv)注射として200μgおよび矢印で示したとおり、6日目、9日目および12日目に他3回のiv注射として100μg。ER-886046投薬:150mg/kg、バーで示したとおり、3日目~15日目に毎日po投与。*, p<0.05;**, p<0.01;nsは有意差なし;スチューデントのt検定。
図9】CT26腫瘍におけるER-886046による抗PDL1または抗PD1の抗腫瘍活性の増強。パネルA)抗PDL1プラスER-886046および抗PDL1単独の活性。抗PDL1投薬:矢印で示したとおり、細胞移植後9日目、12日目、15日目および18日目にiv注射により200μg;ER-886046投薬:150mg/kg、バーで示したとおり、細胞移植後9日目~19日目に毎日po投与。パネルB)抗PD1プラスER-886046および抗PD1単独の活性。抗PD1投薬:矢印で示したとおり、細胞移植後9日目、12日目、15日目、18日目および21日目にiv注射により200μg;ER-886046投薬:150mg/kg、バーで示したとおり、細胞移植後9日目~23日目に毎日po投与。*, p<0.05;***, p<0.001;スチューデントのt-検定。
図10】放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療のみと比較した際の、ER-886046と放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療との併用治療による抗腫瘍活性の増強。C57BL/6マウスにおけるPAN02膵腫瘍に、ER-886046を用いてまたは用いずに投与したゲムシタビンプラス局所放射線(RT)の抗腫瘍活性。ゲムシタビンおよびRT投薬:単回用量40mg/kgのゲムシタビンおよび単回線量6GyのRTを腫瘍細胞注射後27日目に投与した。ER-8806046を、150mg/kgの量で、腫瘍細胞注射後27日目から試験終了まで毎日投与した。
図11】放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療のみと比較した際の、ER-886046と放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療との併用治療についての追加実験。パネルA)ゲムシタビンおよびRT投薬:単回用量40mg/kgのゲムシタビンおよび単回線量6GyのRTを腫瘍細胞注射後19日目に投与した。ER-8806046を、150mg/kgの量で、腫瘍細胞注射後19日目から試験終了まで毎日投与した。パネルB)ゲムシタビンおよびRT投薬:単回用量40mg/kgのゲムシタビンおよび単回線量6GyのRTを腫瘍細胞注射後12日目に投与した。ER-8806046を、150mg/kgの量で、腫瘍細胞注射後12日目から試験終了まで毎日投与した。ビヒクル、ER-886046、ゲムシタビン(gem)プラス放射線(RT)、ER-886046プラスRT、またはER-886046プラスゲムシタビンおよびRTを、指定した投与量およびスケジュールで施したPAN02マウス膵腫瘍担持マウスの平均腫瘍サイズ。AおよびBは、各々独立した試験を表す。N=群当たり8~10匹。NSは有意差なし;*, p<0.05;**, p<0.01;***, p<0.001;および****, p<0.0001、二元配置ANOVA検定。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の詳細な説明
「EP4アンタゴニスト」とは、PGE2とEP4受容体との相互作用によって引き起こされる細胞シグナル伝達を抑制または遮断する化合物を指す。EP4アンタゴニストの例として、以下に限定されるものではないが、IUPHARデータベースにEP4受容体のアンタゴニストとして記載されているような、ER-819762、MK-2894、MF498、ONO-AE3-208、エバタネパグ(evatanepag)、ONO-AE2-227、CJ-042794、EP4A、BGC201531、CJ-023423、ONO-AE3-240、GW627368およびAH23848が挙げられる。さらなる例として、以下に限定されるものではないが、本明細書に教示している式(I)の化合物、例えば、ER-885290、ER-885740、ER-885741、ER-886045、ER-886046(E7046)、ER-886074、ER-885290、ER-885740およびER-885741が挙げられ、これらは国際公開第2012/039972号に記載されている。
【0012】
「CTLA4抗体」または「抗CTLA4」とは、細胞傷害性tリンパ球抗原4(CTLA4)を対象とする1つまたは複数の抗体を指す。例示的な抗体として、以下に限定されるものではないが、米国特許第8,685,394号および同第8,709,417号に記載されているようなCTLA4アンタゴニストまたはCTLA4抗体である抗体が挙げられる。抗体のいくつかの実施形態には、MDX-010(イピリムマブ、Bristol-Myers Squibb)およびCP-675,206(トレメリムマブ、Pfizer)が含まれる。特定の実施形態では、抗体はイピリムマブである。
【0013】
「PDL1抗体」または「抗PDL1」とは、プログラム死リガンド1(PDL1)を対象とする抗体を指す。例示的な抗体として、以下に限定されるものではないが、米国特許第8,217,149号、同第8,383,796号、同第8,552,154号および同第8,617,546号に記載されている抗体が挙げられる。特定の実施形態では、抗体はMPDL3280A(Roche)である。
【0014】
「PD1抗体」または「抗PD1」とは、プログラム死タンパク質1(PD1)を対象とする抗体を指す。例示的な抗体として、以下に限定されるものではないが、米国特許第7,029,674号、同第7,488,802号、同第7,521,051号、同第8,008,449号、同第8,354,509号、同第8,617,546号および同第8,709,417号に記載されている抗体が挙げられる。抗体の特定の実施形態には、MDX-1106(ニボルマブ、Bristol-Myers Squibb)、ランブロリズマブ(Merck)およびペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、Merck)が含まれる。
【0015】
「処置(treatment)」「処置する(treat)」および「処置すること(treating)」とは、それを必要とする対象におけるがんの進行を緩和、抑制および/または阻止することを指す。「処置すること」という用語は、がんの処置または回復における成功の任意の徴候を含み、任意の客観的または主観的パラメーター、例えば、軽減;寛解;症状の減少、または損傷、病状もしくは病態に対する対象の耐容性を高めること;進行速度の遅延または緩慢化などを含む。処置または回復の測定は、例えば、当技術分野において公知の身体検査、病理学的検査および/または診断検査の結果を基にすることができる。
【0016】
処置することとは、がんの発生率もしくは発現、またはその再発を、措置が取られない場合に起こるであろう状況と比較して低減すること(寛解の時間の延長など)も指す場合がある。
【0017】
「有効量」または「処置有効量」とは、臨床検査および評価ならびに/あるいは患者観察などを通して認められる、がんの処置に有効な量を指す。「有効量」とは、さらに、生物学的活性または化学的活性において検出可能な変化を生じさせる量を指すことができる。検出可能な変化は、関連する機序またはプロセスについて、当業者によって検出され得る、および/またはさらに定量化され得る。さらに、「有効量」は、所望の生理学的状態を維持する量、即ち、大幅な衰弱を低減もしくは防止、および/または病態の改善を促進する量を指すことができる。「有効量」はさらに、治療有効量を指すことができる。
【0018】
「対象」とは、本明細書で使用する場合、哺乳動物の対象、特にヒト対象を指し、男性または女性の対象を含み、新生児、乳児、若年、青年、成人または老年の対象を含み、さらに、種々の人種および民族を含む。
【0019】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、比較的非毒性の、本発明の化合物の無機酸塩または有機酸塩を指す。これらの塩は、化合物の最終単離および精製中にin situで、または精製した化合物をその遊離型で好適な有機酸または無機酸と別々に反応させ、このようにして形成された塩を単離することによって調製することができる。代表的な酸性塩として、以下に限定されるものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、炭酸水素塩/炭酸塩、硫酸水素塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物塩、臭化水素酸塩/臭化物塩、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物塩、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、ピログルタミン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩およびキシナホ酸塩が挙げられる。一実施形態では、薬学的に許容される塩は塩酸塩/塩化物塩である。
【0020】
「がん」には、本明細書で使用する場合、遺伝性突然変異に由来するがんを含めてもよい。かかるがんの例として、以下に限定されるものではないが、乳がん、リ・フラウメニ症候群に関連している可能性のあるがん、例えば、小児期の肉腫、白血病および脳がん、リンチ症候群に関連している可能性のあるがん、例えば、結腸がん、胆管がん、脳がん、子宮内膜がん、腎臓がん、卵巣がん、膵臓がん、小腸がん、胃がんおよび尿管がん、肺がん、黒色腫、前立腺がん、網膜芽細胞腫、甲状腺がんならびに子宮がんが挙げられる。
【0021】
さらに、がんは、後天性突然変異、例えば、食事、環境および/または生活様式に由来する突然変異、または体細胞突然変異に由来するものとすることができる。かかるがん(carcinoma)の例として、以下に限定されるものではないが、副腎がん、副腎皮質がん、膀胱がん、脳がん、原発性脳がん、神経膠腫、膠芽腫、乳がん、子宮頚がん、結腸がん(非限定的な例として、結腸直腸がん、例えば結腸腺がんおよび結腸腺腫が挙げられる)、子宮内膜がん、表皮がん、食道がん、胆嚢がん、尿生殖器がん、頭頚部がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん(非限定的な例として、腺がん、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんが挙げられる)、リンパ腫(非限定的な例として、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫が挙げられる)、黒色腫、悪性黒色腫、悪性カルチノイドがん、悪性膵島細胞腺腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、膵臓がん(膵外分泌部がんなど)、前立腺がん、腎細胞がん、皮膚がん、例えば、既述の他のがんに加えて扁平上皮がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、甲状腺濾胞がん、ウィルムス腫瘍、絨毛がん、菌状息肉症、悪性高カルシウム血症、子宮頚部過形成、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ヘアリー細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、前骨髄球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、線維肉腫、横紋筋肉腫、星細胞腫、神経芽腫、横紋筋肉腫、シュワン細胞腫、カポジ肉腫、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟部組織肉腫、骨原性肉腫、原発性マクログロブリン血症、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマおよび網膜芽細胞腫を含み得る。
【0022】
「転移性がん」とは、臓器または体部位からのがん性細胞が、(「転移」によって)他の非隣接の臓器または体部位に拡散したがんを指す。非隣接の臓器または体部位のがん(「二次性腫瘍」または「転移性腫瘍」)は、がんまたはがん性細胞が拡散した元の臓器または体部位から生じたがん性細胞を含む。二次性腫瘍が発生し得る部位には、以下に限定されるものではないが、リンパ節、肺、肝臓、脳および/または骨が含まれる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に教示している方法および組成物に使用されるEP4アンタゴニストは、式(I):
【化2】

[式中:
1aとR1bのうち一方が水素であり、他方がメチルであり;またはR1aとR1bとが一緒になってシクロプロピル環を形成し、
はメチルまたはフルオロメチルであり、
はメチルであり、
は、水素、ハロ、メチル、フルオロメチル、メトキシまたはフルオロメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチル、フルオロメチル、メトキシまたはフルオロメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチルまたはメトキシであり、
は、水素、ハロ、メチルまたはメトキシであり、および
Xは酸素である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0024】
式(I)の化合物は既知であり、その合成は国際公開第2012/039972号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
別段の指示のない限り、本明細書で使用する化学基または部分を述べるために使用する命名法は、慣例に従い、名称を左から右へ読み、分子の残部への結合部位は名称の右側である。例えば、「メトキシ」基は分子の残部に酸素端部で結合している。別の例としてメトキシエチルが挙げられ、結合部位はエチル端部である。
【0026】
「フルオロメチル」とは、本明細書で使用する場合、1つまたは複数のフルオロ原子で置換されているメチル基(例えば、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル)を指す。
【0027】
「フルオロメトキシ」とは、本明細書で使用する場合、上で定義したフルオロメチル基が、酸素原子を介して炭素主鎖に結合しているものを指す。
【0028】
式(I)のいくつかの実施形態では、R1aとR1bのうち一方が水素であり、他方がメチルであり、Rは、メチル、ジフルオロメチルまたはトリフルオロメチルであり、Rはメチルであり、Rは、クロロ、フルオロ、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、メチル、メトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメトキシであり、Rは、水素、クロロ、フルオロ、メチルまたはメトキシであり、ならびにRおよびRは水素である。いくつかの実施形態では、Rは水素である。いくつかの実施形態では、Rは、クロロ、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、ジフルオロメトキシおよびトリフルオロメトキシから選択される。
【0029】
式(I)のいくつかの実施形態では、R1aとR1bとが一緒になってシクロプロピル環を形成し、Rは、メチル、トリフルオロメチルまたはジフルオロメチルであり、Rはメチルであり、Rは、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、クロロまたはフルオロであり、ならびにRおよびRは水素である。
【0030】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、
【化3】

またはその薬学的に許容される塩である。
【0031】
特定の実施形態では、式(I)の化合物は、
【化4】

またはその薬学的に許容される塩である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、腫瘍成長を抑制するまたはがんを処置する方法であって、EP4アンタゴニストが、腫瘍成長の抑制および/またはがんの処置に有用な付加治療または薬剤と併用して投与される方法、即ち、併用治療を提供する。
【0033】
本明細書で使用する場合、2種以上の薬剤/治療(EP4アンタゴニスト、放射線治療、抗体治療、代謝拮抗物質化学治療またはこれらの任意の併用を含む)を「併用して」の投与とは、一方の投与または存在が、他方の生物学的効果を変化させるのに十分近い時間で治療が施されることを意味する。治療の投与は同時に(一時に)でも順次にでもよい。
【0034】
同時投与は、例えば、投与前に2種以上の薬剤を混合することによって、もしくは同一時点であるが異なる解剖学的部位に薬剤/治療を投与することによって、もしくは異なる投与経路を使用することによって行うことができ、または観察される結果が、薬剤/治療が同一時点で投与される場合に達成される結果と区別がつかないほど十分近い時間で投与することができる。例えば、1種または複数種の薬剤と放射線との同時投与は、放射線を適用するのと同一時点で薬剤を投与することによって、または観察される結果が、薬剤と放射線とが同一時点で投与される場合に達成される結果と区別がつかないほど十分近い時間で行うことができる。
【0035】
順次投与は、薬剤/治療を異なる時点で投与することによって、例えば、併用する薬剤/治療の投与ががん処置の治療効果を増強するように、1種または複数種の他の薬剤/治療を投与する前または後のある時点で薬剤/治療を投与することによって、行うことができる。いくつかの実施形態では、EP4アンタゴニストは、放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療を最初に投与する前のある時点で投与される。または、放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療は、EP4アンタゴニストを投与する前のある時点で投与され、任意選択により、EP4アンタゴニストを投与した後のある時点で再び投与することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、EP4アンタゴニストを、放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療と併用して投与すると、前記放射線治療、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療が増強し、例えば、投与量を少なくした放射線、抗体治療および/または代謝拮抗物質化学治療が処置に有効となり得る。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、がんの処置は、アブスコパル効果(abscopal effect)を含むことができ、および/または記憶免疫応答を付与することができる。
【0038】
「アブスコパル」効果とは、特定の腫瘍またはがんを、例えば放射線治療で局所的に処置すると、非局所的な疾患、腫瘍またはがん、例えば局所的に処置した部位から離れたところの、転移に由来するものが収縮および消滅し、このため、対象または患者の全身の疾患、腫瘍またはがんが消滅するような、転移性がんの処置における現象のことである。アブスコパル効果は、例えば、放射線治療の結果として起こり得るバイスタンダー効果などの局所的処置に隣接した組織に起こり得る効果とは異なるものである。
【0039】
「記憶免疫応答」は、対象または患者の処置されている疾患、腫瘍またはがんの逆戻りまたは再発を、緩慢にする、低減するまたは防止する(例えば寛解の時間の延長)能力において、対象または患者の免疫系および免疫応答の適応が、付与されたがんの処置によって容易になる場合に生じる。いくつかの実施形態では、記憶免疫応答は、例えばエピトープ拡大によって、処置されているがんとは異なる腫瘍またはがんの発症を、緩慢にする、低減するまたは防止することができる。
【0040】
EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質は、本明細書で使用する場合、公知の技術に従って、投与するために医薬担体に入れて製剤化され得る。例えば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy(9th Ed. 1995)を参照されたい。本発明による医薬製剤の製造において、活性化合物(その生理学的に許容される塩を含む)は、とりわけ、許容される担体と通常混合される。当然ながら、担体は、製剤中の他のいずれの成分とも適合性であるという意味で許容されるものでなくてはならず、患者に有害なものであってはならない。担体は、固体でも液体でも両方でもよく、単位用量製剤、例えば錠剤として化合物と一緒に製剤化されるのが好ましく、単位用量製剤は、0.01重量%または0.5重量%~95重量%または99重量%の活性化合物を含有してもよい。1種または複数種の活性化合物が本発明の製剤中に組み入れられてもよく、製剤は、構成成分の混合を含む薬学の周知の技術のうちいずれかによって調製されてもよく、任意選択により、1種または複数種の副成分および/または添加剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物、担体、副成分、添加剤のうちいずれかおよび/または本発明の製剤は、天然源または非天然源の成分を含む。他の実施形態では、組成物、担体、副成分、添加剤の任意の構成成分および/または本発明の製剤は、滅菌形態で提供されてもよい。滅菌担体の非限定的な例として、エンドトキシン不含水またはパイロジェン不含水が挙げられる。
【0041】
EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質は、対象に、経口(口腔による投与を含み、経口胃栄養管による投与をさらに含む)、腹腔内、非経口、吸入スプレー、局所(即ち、気道表面を含む、皮膚表面および粘膜表面の両方)、経皮、経直腸、経鼻(経鼻胃栄養管を含む)、舌下、頬側、経腟または埋め込み式リザーバーによるものを含む、任意の好適な経路で投与することができる。「非経口」という用語は、本明細書で使用する場合、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、くも膜下腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注射または注入技術を含む。特定の実施形態では、EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質は経口投与される。別の特定の実施形態では、EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質は静脈内投与される。
【0042】
いくつかの実施形態では、組成物を単一剤形に製造するために添加剤材料と組み合わせることができるEP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質の量は、処置される宿主および特定の投与経路に依存して変化することになる。
【0043】
いくつかの実施形態では、EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質は、EP4アンタゴニスト、抗体および/または代謝拮抗物質と、許容される担体および/または添加剤とを含む滅菌の組成物/製剤の一部として提供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、EP4アンタゴニストは、対象に有効量で投与される。有効量は一般に、1日当たり0.01mg/kg体重~500mg/kg体重である。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される組成物は、1日当たり0.01mg/kg体重~200mg/kg体重または0.01mg/kg体重~100mg/kg体重の投与量の化合物が、これらの組成物で処理される患者に投与され得るように製剤化することができる(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~7.5gまたは15gの投与量)。一定の実施形態では、本発明の組成物は、0.01mg/kg~70mg/kgの投与量を提供するように製剤化される(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~5.25gの投与量)。
【0045】
いくつかの実施形態では、EP4アンタゴニストの有効用量は、約0.5~約250mg/kg、1~約250mg/kg、約2~約200mg/kg、約3~約120mg/kg、約5~約250mg/kg、約10~約200mg/kg、または約20~約120mg/kgである。いくつかの実施形態では、有効な投与量には、約0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、8mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、75mg/kg、100mg/kg、120mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、225mg/kg、250mg/kgおよび300mg/kgが含まれる。剤形は、例えば錠剤またはカプセル剤の形態とすることができ、有効用量は、1つまたは複数の錠剤またはカプセル剤などで提供してもよく、1日1回または1日を通して例えば4時間、8時間または12時間の間隔をおいて提供してもよい。錠剤またはカプセル剤は、例えば、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100または1,250mgの化合物を含有することが可能である。例えば、いくつかの実施形態におけるEP4アンタゴニストのヒト対象への投与は、EP4アンタゴニストの1日投与量を100~1,250、150~1,000、200~800または250~750mgの範囲で含んでもよく、この1日投与量は、1日1回その全体量が投与され得るか、またはその部分量が1日を通して間隔をおいて投与される。液体製剤も、任意の投与量が容易にかつ簡便に投与され得るように調製することができる。
【0046】
抗体、例えば、抗CTLA4、抗PDL1または抗PD1は、一般に、投与前に、非毒性の薬学的に許容される担体物質(例えば生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)と混合され、例えば、以下に限定されるものではないが、静脈内または動脈内の投与および脳脊髄液中への注射を含む、医学的に適切な任意の手順を使用して投与することができる。場合により、腹腔内、皮内、腔内、くも膜下腔内または腫瘍もしくは腫瘍に供給している動脈への直接投与が有利な場合がある。
【0047】
いくつかの実施形態では、抗体の有効用量は、約5~約250mg/kg、約10~約200mg/kgまたは約20~約120mg/kgである。いくつかの実施形態では、有効な投与量には、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、75mg/kg、100mg/kg、120mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、225mg/kg、250mg/kgおよび300mg/kgが含まれる。剤形は、例えば錠剤またはカプセル剤の形態とすることができ、有効用量は、1つまたは複数の錠剤またはカプセル剤などで提供してもよく、1日1回または1日を通して例えば4時間、8時間または12時間の間隔をおいて提供してもよい。錠剤またはカプセル剤は、例えば、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900または1,000mgの抗体を含有することが可能である。液体製剤も、任意の投与量が容易にかつ簡便に投与され得るように調製することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、抗体は、対象に有効量で投与される。有効量は一般に、1日当たり0.01mg/kg体重~500mg/kg体重である。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される組成物は、1日当たり0.01mg/kg体重~200mg/kg体重または0.01mg/kg体重~100mg/kg体重の投与量の化合物が、これらの組成物で処置される患者に投与され得るように製剤化することができる(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~7.5gまたは15gの投与量)。一定の実施形態では、本発明の組成物は、0.01mg/kg~70mg/kgの投与量を提供するように製剤化される(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~5.25gの投与量)。
【0049】
抗体の有効量は、例えば、投薬毎に0.05mg/kg、0.1mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kgまたは8mg/kgとしてもよい(例えば、75kgのヒトを基準にすると、3.75mg~600mgの投与量)。
【0050】
投与量の抗体は、処置期間中、週に1回、2回、3回、4回もしくは5回以上、毎週1回、2週間に1回、または3週間に1回でも投与することができる。投薬の時期は、毎日、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、週1回、2週間に1回または3週間に1回としてもよい。抗体を含む製剤は、任意の投与量が容易にかつ簡便に投与され得るように調製することができる。
【0051】
「放射線治療」とは、特にがんを処置するための電離放射線の医療用使用を指す。がんの処置における電離放射線の医療用使用によって、対象におけるがん細胞が低減および/または死滅するのが好ましい。
【0052】
放射線治療は、当業者に理解されるであろう任意の様式で投与することができる。放射線治療に利用される放射線の例として、以下に限定されるものではないが、光子放射線、電離放射線または荷電粒子放射線、例えばX線または陽子線が挙げられる。放射線治療の例として、以下に限定されるものではないが、外照射治療または遠隔照射治療、近接照射治療または密封線源治療、および全身性放射線同位元素治療または非密封線源放射線治療が挙げられる。
【0053】
投与される放射線の投与量は、標的のがんまたは腫瘍に依存して変化し得る。いくつかの実施形態では、放射線の投与量は、80グレイ(Gy)、60Gy、40Gy、20Gy、12Gy、10Gy、9Gy、8Gy、7Gy、6Gy、5Gy、4Gy、3Gy、2Gyまたは1Gyとしてもよく、ここに挙げた量の間の任意の量および/またはその範囲を含んでもよい。いくつかの実施形態では、投与量は、12Gy、9Gy、6Gyまたは3Gyである。放射線の投与量は、処置期間中、週に1回、2回、3回、4回または5回以上、1週間、2週間、3週間、4週間または5週間以上投与してもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、代謝拮抗物質は、対象に有効量で投与される。有効量は一般に、1日当たり0.01mg/kg体重~500mg/kg体重である。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される組成物は、0.01mg/kg体重~200mg/kg体重または0.01mg/kg体重~100mg/kg体重の投与量が、これらの組成物で処置される患者に投与され得るように製剤化することができる(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~7.5gまたは15gの投与量)。一定の実施形態では、本発明の組成物は、0.01mg/kg~70mg/kgの投与量を提供するように製剤化される(例えば75kgのヒトを基準にすると、0.75mg~5.25gの投与量)。
【0055】
いくつかの実施形態では、代謝拮抗物質の有効用量は、約0.5~約250mg/kg、1~約200mg/kg、約2~約175mg/kg、約3~約150mg/kg、約5~約125mg/kg、約10~約100mg/kgまたは約20~約80mg/kgである。いくつかの実施形態では、有効な投与量には、約0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、8mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、75mg/kg、100mg/kg、120mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、225mg/kg、250mg/kgおよび300mg/kgが含まれる。投与量は、例えば、非経口投与(例えば静脈内)に好適な液体形態で、または経口投与に好適な形態、例えば錠剤もしくはカプセル剤で提供することができ、有効用量は、1つまたは複数の錠剤またはカプセル剤などで提供することができる。いくつかの実施形態では、代謝拮抗物質は、放射線と同時に投与される。
【0056】
「抗体(antibody)」および「抗体(antibodies)」という用語は、本明細書で使用する場合、本明細書に開示している医療用使用に適切な場合がある全ての種類の免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEまたはこれらのフラグメントを含む)を含む。抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマまたはヒトを含むいずれの種が起源であってもよい。本発明で使用される抗体が結合するタンパク質またはエピトープ(例えばCTLA4、PDL1またはPD1)への特異的結合を保持している抗体フラグメントは、「抗体」という用語の範囲内に含まれる。かかるフラグメントは、既知の技術で製造することができる。抗体は、特に治療目的で使用される場合、キメラ抗体またはヒト化抗体とすることができる。抗体は、当技術分野において公知の方法を使用して、入手または調製することができる。
【0057】
「抗体治療」とは、対象においてがんを処置および/または免疫応答を刺激して、対象におけるがん性細胞の認識、攻撃および/または破壊をもたらすため、および本発明のいくつかの実施形態では、対象において記憶免疫応答を活性化または刺激して、それに続き、対象におけるがん性細胞の認識、攻撃および/または破壊をもたらすための、標的の細胞またはタンパク質に結合する抗体の医療用使用を指す。
【0058】
「CTLA4抗体治療」とは、対象の免疫応答の調節における、細胞傷害性tリンパ球抗原4を対象とする抗体(抗CTLA4)の使用を指す。いくつかの実施形態では、CTLA4抗体は、がん細胞の攻撃および破壊におけるT細胞の活性化を抑制するCTLA4シグナル伝達の作用を抑制または遮断する。この使用に好適な抗体には、以下に限定されるものではないが、米国特許第8,685,394号および同第8,709,417号に記載のCTLA4アンタゴニストまたはCTLA4抗体である抗体が含まれる。抗体のいくつかの実施形態には、MDX-010(イピリムマブ、Bristol-Myers Squibb)およびCP-675,206(トレメリムマブ、Pfizer)が含まれる。特定の実施形態では、抗体はイピリムマブである。
【0059】
「PDL1抗体治療」とは、対象の免疫応答の調節における、プログラム死リガンド1を対象とする抗体(抗PDL1)の使用を指す。いくつかの実施形態では、PDL1抗体は、PDL1とプログラム細胞死タンパク質1(PD1)との相互作用を抑制または遮断し、PDL1とPD1間の相互作用の遮断は、がん細胞を攻撃および破壊するT細胞活性化の、PD1による負の調節を抑制する。この使用に好適な抗体には、以下に限定されるものではないが、米国特許第8,217,149号、同第8,383,796号、同第8,552,154号および同第8,617,546号に記載の抗体が含まれる。特定の実施形態では、抗体はMPDL3280A(Roche)である。
【0060】
「PD1抗体治療」とは、対象の免疫応答の調節における、プログラム細胞死タンパク質1、即ちPD1を対象とする抗体(抗PD1)の使用を指す。いくつかの実施形態では、PD1抗体は、PD1とPDL1との相互作用を抑制または遮断し、PDL1とPD1間の相互作用の抑制または遮断は、がん細胞を攻撃および破壊するT細胞活性化の、PD1による負の調節を抑制する。この使用に好適な抗体には、以下に限定されるものではないが、米国特許第7,029,674号、同第7,488,802号、同第7,521,051号、同第8,008,449号、同第8,354,509号、同第8,617,546号および同第8,709,417号に記載の抗体が含まれる。抗体の特定の実施形態には、MDX-1106(ニボルマブ、Bristol-Myers Squibb)、ランブロリズマブ(Merck)およびペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、Merck)が含まれる。
【0061】
「代謝拮抗物質化学治療」とは、対象の処置における代謝拮抗物質化学治療薬の使用を指す。「代謝拮抗物質(anti-metabolite)」とは、DNAおよびRNAの合成を妨害する分子群を指す。代謝拮抗物質の例として、以下に限定されるものではないが、葉酸代謝拮抗剤、フルオロピリミジン、デオキシヌクレオシド類似体およびチオプリンが挙げられる。葉酸代謝拮抗剤には、メトトレキサートおよびペメトレキセドが含まれる。フルオロピリミジンには、フルオロウラシルおよびカペシタビンが含まれる。デオキシヌクレオシド類似体には、シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、5-アザシチジン(VIDAZA)、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビンおよびペントスタチンが含まれる。チオプリンには、チオグアニンおよびメルカプトプリンが含まれる。一実施形態では、代謝拮抗物質はゲムシタビンである。別の実施形態では、代謝拮抗物質はカペシタビンである。
【0062】
本明細書に記載されている本発明がもっと深く理解されるように、以下の実施例を説明する。当然のことながら、これらの実施例は例証するためのものに過ぎず、いかなる形でも本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0063】
実施例1:ER-886046と放射線または抗体との併用治療
材料および方法
試薬および機器:ER-886046は、Eisai Inc.(Andover, MA)が製造した。CTLA4に対するin vivo既成抗体(クローン9H10)およびそのアイソタイプ対照をBioXCell(Wester Lebanon, NH)から入手し、PDL1に対する抗体(クローン10f.9G2)およびその対照(クローンLTF-2)をTONBO Bioscience(San Diego, CA)から入手し、マウスPD1に対する抗体(クローンRMP1-14)およびそのアイソタイプ対照をBioXcell(Wester Lebanon, NH)から入手した。メチルセルロースおよびコラゲナーゼIをSigmaから購入した。マウスCD45用(クローン30-F11)、CD8用(クローン53-6.7)、CD11b用(クローンM1/70)、Gr1用(クローンRB6-8C5)の各蛍光標識抗体をeBioscience(San Diego, CA)から入手した。Precision X-Ray製の生物照射器X-RAD 320を、動物の腫瘍照射に使用した。フローサイトメトリー解析を、ソフトウェアFlowJoバージョン7.6を備えた6色のBD Canto-1フローサイトメトリー装置(BD Biosciences)を使用して行った。ソフトウェアLiving Imageバージョン4.3.1を備えたIVIS spectrumを、Perkin Elmerから購入した。
【0064】
細胞株:マウス結腸CT26細胞(CRL-2638)、黒色腫B16F10細胞(CRL-6475)および乳房4T1細胞(CRL-2539)を、American Tissue Culture Collectionから購入した。ルシフェラーゼ発現4T1細胞(4T1-luc2)を、Perkin Elmerから入手した。全ての細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI-1640培地に入れ、加湿したインキュベーター中で37℃にて5%二酸化炭素雰囲気中で培養し、マウスの接種に必要な数の細胞が得られるまで、週2回継代培養した。
【0065】
動物:BalB/cおよびC57BL/6の雌マウスを4~6週齢でCharles River Laboratoriesから購入した。動物をマイクロアイソレーターケージに、ケージ当たり5匹まで収容し、12時間明暗サイクルとした。ケージは週2回交換した。動物を毎日観察し、臨床徴候を記録した。全ての実験手順は、Eisai Inc.またはSouthern Research Instituteの動物試験所(それぞれがAAALACの認定を受けている)の認可を受けた。
【0066】
動物試験:in vitro培養したがん細胞を収集し、100μlのリン酸緩衝生理食塩水に細胞濃度1.0×10細胞/mlで懸濁させ、0日目に26gシリンジを使用してマウスに皮下(sc)注射した。図に示したように、細胞移植後日に、マウスを腫瘍サイズに基づいて無作為化し、次いで、処置当たり3Gyまたは9Gy線量の放射線、腹腔内注射(ip)による200μg/マウスの抗PDL1、またはip注射による200もしくは100μg/マウスの抗CTLA4の処置をし、用量150mg/kgのER-886046の経口投与を併用した、または併用しなかった。個々の試験で処置群に割り付けた動物は、全ての群において平均に近い腫瘍重量を有するようにした。腫瘍サイズはデジタルノギス(Mitutoyo Corp)で週2回測定し、体積は式(l×w)/2=mmを使用して計算した。式中、lおよびwは、各測定で収集した大きい方および小さい方の垂直寸法を指す。群の腫瘍サイズ(平均±SEM)および体重(平均±SEM)対時間のグラフは、ソフトウェアGraphPad Prism 6(Lake Forest, CA)を使用してプロットした。スチューデントのt-検定およびゲーハン-ブレスロウ-ウィルコクソン検定を統計解析に使用した。
【0067】
処置後に腫瘍のないマウスに腫瘍を再誘発する際に、CT26細胞および4T1細胞を、同じマウスの別の側腹部に個別にsc注射し、各腫瘍の成長を測定し、上記のようにグラフ化した。がん細胞注射も薬物処置も投与さなかった未処置のマウスを、対照として含めた。4T1-luc2モデルの肺転移において、細胞を接種し、腫瘍担持マウスを、原発腫瘍のサイズに基づいて10日目に無作為化した。27日目の試験終了時、全処置群のマウスにルシフェリンを鼻腔内投与し、肺を切除し、IVIS機器を使用して、ルシフェラーゼ発現を解析した。肺におけるルシフェラーゼ活性の定量化をソフトウェアLiving Imageで行った。
【0068】
フローサイトメトリー:処置を施したまたは施していないCT26腫瘍を外科的切除し、物理的圧力ですりつぶし、次いで1mg/mlのコラゲナーゼIで37℃にて1時間消化した。消化物からの単細胞混合物を、免疫細胞抗原に対する蛍光抗体を用いるインキュベーションによって標識化し、フローサイトメトリーで解析した。細胞集団の計数はソフトウェアFlowJo 7.6で行った。
【0069】
結果
放射線単独と比較した際のER-886046と放射線との併用治療による抗腫瘍活性の改善
ER-886046による処置が放射線の抗腫瘍効果を増強させるかどうかを調査するために、マウスの皮下に成長させたCT26腫瘍を、腫瘍移植後9日目に線量9Gyの局所放射線で処置し、次いでER-886046を4週間毎日経口投与した。図1、パネルAは、処置群の平均腫瘍サイズを示す。放射線単独は、9~32日目の期間に有意な腫瘍成長抑制を示したが、その後、対照群と比較して急速な腫瘍の再成長を示した。これに対し、ER-886046および放射線による処置は、49日目の試験終了時まで持続的に腫瘍成長を抑制し、処置前の腫瘍サイズと比較して有意な腫瘍成長は見られなかった。併用群の抗腫瘍活性は、放射線単独と比較して、統計的に有意に改善された。処置レジメンにER-886046を加えても、放射線単独と比較して、総合的な健康状態および動物体重に影響を及ぼさなかった(図1、パネルB)。
【0070】
各処置群の個々の腫瘍の成長曲線を比較することによって(図2、パネルA~C)、ER-886046と放射線との併用は、マウス12匹中9匹に治癒をもたらし、進行が急速であったのは腫瘍12個中1個のみであったことがわかった。これに対し、放射線処置単独では、試験終了時に腫瘍がなかったマウスは11匹中5匹のみであった。さらに、3Gyの低線量の単一放射線とER-886046とを併用すると、ビヒクル処置または放射線処置単独と比較して、動物の生存率が有意に増加した(図3)。これらの結果をまとめると、ER-886046の経口投与を放射線処置に加えると、前臨床動物モデルにおいて、高線量と低線量の両方の放射線の抗腫瘍活性が有意に増強した。
【0071】
ER-886046と放射線との併用処置後に治癒したマウスは抗腫瘍記憶免疫応答を有した。
上記の試験の腫瘍のない9匹のマウスをさらに2カ月間フォローし、その間、まだ腫瘍の再発はなかった。併用処置をしたこれらの腫瘍のないマウスが、拒絶された腫瘍に対する記憶免疫応答を有しているかどうかを試験するために、同じCT26細胞株をマウスの別の部位に注射し、次の1.5カ月間腫瘍成長をモニターした。衝撃的なことに、誘発処置をした全てのマウスに腫瘍の成長が全くなかった。これに対し、同齢の動物に同量のCT26細胞を注射すると、急速に成長する腫瘍が生成した(図4、パネルA)。さらに、CT26細胞の1回目の誘発から1.5カ月後に再度、2回目の誘発をしたが、治癒したマウスでは検出可能な腫瘍が生成されなかった(図4、パネルB)。興味深いことに、別の全く異なる腫瘍細胞株である4T1を、治癒したマウスに注射すると、腫瘍の拒絶は示さなかったが、成長速度は、対照群と比較して有意に遅かった(図4、パネルC)。これらの結果により、ER-886046と放射線との併用処置で治癒したマウスには、腫瘍抗原に特異的な記憶免疫応答が生じたことが明示された。治癒したマウスにおいて4T1腫瘍の成長が抑制されたことは、治癒したマウスの中にエピトープ拡大効果が存在することを示し、これは腫瘍患者にとって極めて好ましい効果である。
【0072】
動物モデルにおけるER-886046と放射線との併用処置のアブスコパル効果。
抗腫瘍免疫応答の誘導は全身性となり得、このため、一宿主中に複数の病変を有する転移性がんを処置するのに極めて重要であり得る。マウスにおける大きな転移性病変を模倣するために、個々のマウスの両側に、がん細胞を皮下注射することによってCT26腫瘍を同時に成長させた。マウスの右側の腫瘍は放射線とER-886046の両方で処置した。マウスの左側の腫瘍はER-886046単独で処置した。放射線とER-886046の両方で処置したマウスの右側の腫瘍の測定値は、放射線単独またはER-886046単独で処置したものと比較して、より良好な腫瘍成長抑制を示した(図5、パネルA)。さらに、放射線を用いずにER-886046単独で処置したマウスの左側腫瘍は、ER-886046処置を投与さなかったものと比較して、腫瘍成長速度が有意に遅かった(図5、パネルB)。これらの結果は、局所放射線とER-886046の全身投与との併用は、照射をしなかった腫瘍の成長を抑制したことを示し、したがって、転移性腫瘍の成長に対するアブスコパル効果を示した。
【0073】
ER-886046と放射線との併用治療の抗自然転移効果。
ER-886046と放射線との併用が抗転移効果を有するかどうかを試験するために、ルシフェラーゼ発現マウス乳房4T1-luc2腫瘍をBalB/cマウスの皮下に成長させた。原発腫瘍を、ビヒクル、ER-886046、9Gyの単一放射線、およびER-886046と放射線との併用で処置した。放射線の処置を9日目に行い、ER-886046を9日目~27日目に毎日経口投与した。27日目に、全処置群のマウスにルシフェリンを鼻腔内投与し、肺を切除し、ルシフェラーゼ発現を解析した。ルシフェラーゼ発現を定量化すると、併用処置にのみ有意な低減が示され(図6、パネルA、パネルB)、自然肺転移を低減することが示された。
【0074】
ER-886046と放射線との併用処置による腫瘍内免疫細胞浸潤の変化。
腫瘍内免疫におけるER-886046と放射線との併用処置の影響を調査するために、併用処置または放射線単独を施したCT26腫瘍中の免疫細胞を、フローサイトメトリーで解析した。放射線単独では、CD8+T細胞とCD11b+骨髄系細胞の両方の腫瘍浸潤の頻度が有意に増加し、ER-886046を放射線に加えても、両細胞型の頻度にさらなる有意な影響はなかった。他方で、併用処置のみがCD45+CD11b+細胞の中でGr1+細胞の比を低減し、ビヒクルまたは放射線単独の処置と比較して、ER-886046と放射線との併用処置によって骨髄系由来サプレッサー細胞の頻度が低減されたことを示した。
【0075】
前臨床モデルにおけるER-886046および抗CTLA4の相乗的抗腫瘍活性。
抗CTLA4(イピリムマブ)は現在、転移性黒色腫用に認可を受けた免疫治療であり、免疫細胞、特にT細胞中でCTLA4シグナル伝達を遮断する。ER-886046による処置が抗CTLA4の抗腫瘍活性に影響を及ぼすかどうかを調査するために、マウス黒色腫B16F10モデルで、ER-886046と抗CTLA4との併用治療の効果を試験した。図8、パネルAに示すように、ER-886046単独では、このモデルにおいて最小限の活性しかなく、抗CTLA4単独では、幾分の、しかし統計的に有意ではない活性を示した。しかしながら、ER-886046と抗CTLA4との併用処置では、極めて有意な抗腫瘍活性を示した。併用治療処置では動物の体重減少が観察されなかった。この結果は、前臨床モデルにおけるER-886046と抗CTLA4との併用治療の相乗的な抗腫瘍活性を示した。
【0076】
ER-886046は、前臨床モデルにおいて抗PD1および抗PDL1のがん免疫治療の有効性を増強させた。
抗PD1および抗PDL1は、がん免疫治療に使用される可能性について、現在臨床試験が行われている。このどちらかの薬剤とER-886046との併用効果の可能性を調査するために、CT-26腫瘍モデルにおいて併用治療を試験した。抗PDL1は、幾分の、しかし有意ではない抗腫瘍成長活性を示し(図9、パネルA)、一方、抗PD1は、それ自体で有意な活性を示した(図9、パネルB)。両環境において、ER-886046を追加すると、抗PD1単独または抗PDL1単独と比較して、より良好な抗腫瘍活性が生じ、これは、がんの管理にER-886046とこれらの抗体との併用に基づく免疫治療をすることの有益性を示している。
【0077】
結論
ER-886046と、放射線、抗CTLA4、抗PDL1または抗PD1との併用は、前臨床動物モデルにおいて有意な抗腫瘍活性を有した。併用処置にER-886046を含めると、単一薬剤または単独の方法と比較して、腫瘍成長抑制および腫瘍拒絶さえもが増強した。このため、がん患者を処置するために医療現場で治療的使用を有することが可能になる。
【0078】
実施例2:ER-886046と放射線および代謝拮抗物質化学治療との併用治療
材料および方法
試薬および機器:ER-886046(Chen et al. British J Pharmacol,(2010)160, 292-310)、特異的プロスタグランジンE2受容体4アンタゴニストは、Eisai Inc.(Andover, MA)が製造した。ゲムシタビン塩酸塩およびメチルセルロースをSigma(St Louis, MO)から購入した。Precision X-Ray製の生物照射器X-RAD 320を、動物の腫瘍照射に使用した。
【0079】
細胞株および動物:マウス結腸CT26細胞および膵臓PAN02細胞を、それぞれ、American Tissue Culture CollectionおよびNational Cancer Institute DCTD Repositoryから購入した。細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI-1640培地に入れ、加湿したインキュベーター中で37℃にて5%二酸化炭素雰囲気中で培養し、マウスの接種に必要な数の細胞が得られるまで、週2回継代培養した。BalB/cおよびC57BL/6の雌マウスを4~6週齢でCharles River Laboratoriesから購入した。動物をマイクロアイソレーターケージに、ケージ当たり5匹まで収容し、12時間明暗サイクルとした。ケージは週2回交換した。動物を毎日観察し、臨床徴候を記録した。全ての実験手順は、Institutional Animal Care and Use Committee of Eisai Inc.の認可を受けた。この動物試験所はAAALACの認定を受けている。
【0080】
動物試験:in vitro培養したがん細胞を収集し、100μlの冷HBSS緩衝液に、細胞濃度1.0×10細胞/ml(CT-26細胞)または1.0×10細胞/ml(PAN02細胞)で懸濁させ、0日目に26gシリンジを使用してマウスに皮下(sc)注射した。図に示した日々に、マウスを腫瘍サイズに基づいて無作為化し、次いで、局所放射線単独、ゲムシタビン単独(静脈内投与)、ER-886046単独(経口投与)、またはこれらの処置の併用で処置した。個々の試験で処置群に割り付けた動物は、全ての群において平均に近い腫瘍重量を有するようにした。腫瘍サイズはデジタルノギス(Mitutoyo Corp)で週2回測定し、体積は式(l×w)/2=mmを使用して計算した。式中、lおよびwは、各測定で収集した大きい方および小さい方の垂直寸法を指す。群の腫瘍サイズ(平均±SEM)対時間のグラフは、ソフトウェアGraphPad Prism 6(Lake Forest, CA)を使用してプロットした。二元配置ANOVAを群間の統計計算に使用した。N=各処置群につき8~10匹。
【0081】
動物の生存率の比較の際に、腫瘍が処置前の原発腫瘍サイズの10倍大きく成長した腫瘍担持動物はエンドポイントに達したと考え、これにより、試験から除外した。動物の生存率パーセンタイル対時間のグラフは、GraphPad Prism 6を使用してプロットし、ログランク検定を統計計算に使用した。
【0082】
結果
放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療のみと比較した際の、ER-886046と放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療との併用治療による優れた抗腫瘍活性。
前臨床動物モデルにおいて、ER-886046を放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療に加えると、抗がん活性が改善されるかどうかを評価するために、複数の試験を、C57BL/6マウスの皮下に成長させたマウス膵臓PAN02腫瘍を使用して行った。C57BL/6マウスには、ER-886046を用いてまたは用いずに、RT、およびゲムシタビンプラスRTで処置を施した。最初の試験では、RTおよびゲムシタビンを、腫瘍細胞接種後27日目に1回投与し、一方、ER-886046は、27日目から試験終了まで毎日投与した。図10は、この試験の処置群の平均腫瘍サイズを示す。RTプラスゲムシタビンは、弱いが統計的に有意な腫瘍成長遅延活性を示した。ER-886046単独では、RTプラスゲムシタビンより有効であった。ER-886046とRTとゲムシタビンとの三者併用は、処置群の中で最良の抗腫瘍活性を生じさせ、その活性はRTプラスゲムシタビン単独での活性より有意に良好であった。重要なことであるが、三者併用群とER-886046プラスRT群との間の抗腫瘍活性に有意差はなく、三者併用の抗腫瘍活性の大部分がER-886046およびRTから生じたことを示している。
【0083】
同じPAN02膵臓がんモデルを使用する2番目および3番目の試験では、図11、パネルAおよびBに示すように、単一薬剤処置のいずれかまたはゲムシタビンプラスRTの併用と比較して、ER-886046とRTとゲムシタビンとの三者併用に上と同様の優れた抗腫瘍活性が観察された。RTおよびゲムシタビンを19日目(図11、パネルA)または12日目(図11、パネルB)に1回投与し、一方、ER-886046は、19日目(図11、パネルA)または12日目(図11、パネルB)から各試験の終了まで毎日投与した。注目すべきは、腫瘍細胞接種後36日目に、8匹のうち5匹の腫瘍担持動物が三者併用処置によって治癒したが、他の処置レジメンでは治癒が生じなかったことである(図11、パネルB)。これらの結果をまとめると、前臨床モデルにおいて、樹立した腫瘍の包含および/または拒絶における、ER-886046とゲムシタビンプラスRTとの間の相乗作用が明らかになった。
【0084】
これら3種の試験における全ての処置は、死亡も有意な体重減少もなく、耐容性が高いものであった。
【0085】
結論
これらのデータは、免疫適格性動物がんモデルにおいて、ER-886046と放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療との併用は、有意な抗腫瘍成長活性を有したという証拠を提供するものである。ER-886046と放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療との併用処置は、放射線を伴う代謝拮抗物質化学治療のみでの処置と比較して、抗腫瘍活性を有意に増強させた。このため、がんを処置するために医療現場で治療的使用をすることが可能になる。
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