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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】給送装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/46 20060101AFI20240930BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240930BHJP
   B65H 1/04 20060101ALI20240930BHJP
   B65H 7/02 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B65H3/46 D
G03G21/00 510
B65H1/04 326B
B65H7/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020104674
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195249
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】潮津 英大
(72)【発明者】
【氏名】矢野 崇史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 正季
(72)【発明者】
【氏名】籾山 大輔
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-159357(JP,A)
【文献】特開2017-165531(JP,A)
【文献】特開平07-291480(JP,A)
【文献】特開2010-150034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 3/46
G03G 21/00
B65H 1/04
B65H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材を収容する収容手段と、
前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、
前記給送手段によって給送された記録材を検知する検知手段と、
所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの時間を測定する測定手段と、を有する給送装置において、
前記測定手段によって測定された複数の時間データを、時間の長さに応じて2つのグループに分け、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準時間を、前記2つのグループの内、選択したグループに含まれる前記複数の時間データから求める取得手段と、
前記基準時間と前記選択したグループに含まれる前記複数の時間データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする給送装置。
【請求項2】
前記収容手段は、記録材の給送方向における記録材の後端を規制する規制板を含み、
前記取得手段が求める前記基準時間は、前記記録材の後端が前記規制板に位置決めされ記録材が前記収容手段に収容されている状態から記録材が給送される場合に、前記測定手段によって測定される前記時間に対応することを特徴とする請求項に記載の給送装置。
【請求項3】
前記基準時間は、前記2つのグループの内、時間の長さが長い方のグループに含まれる前記複数の時間データの中で、最も度数の高い時間であることを特徴とする請求項またはに記載の給送装置。
【請求項4】
前記基準時間は、前記2つのグループの内、時間の長さが長い方のグループに含まれる前記複数の時間データの平均値または中央値であることを特徴とする請求項またはに記載の給送装置。
【請求項5】
前記判断手段は、前記基準時間と、前記選択したグループに含まれる前記複数の時間データの中から前記基準時間よりも長い時間データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項6】
前記判断手段は、前記基準時間と、前記基準時間よりも長い時間データそれぞれとの差分の絶対値を求め、前記差分の絶対値の総和が大きいほど前記異常状態が発生する可能性が高いと判断することを特徴とする請求項に記載の給送装置。
【請求項7】
前記異常状態とは、スリップにより記録材が遅延した状態であることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項8】
前記取得手段が求める前記基準時間は、記録材の給送方向における記録材の先端が前記分離ニップ部にある状態から記録材が給送される場合に、前記測定手段によって測定される前記時間に対応することを特徴とする請求項に記載の給送装置。
【請求項9】
前記基準時間は、前記2つのグループの内、時間の長さが短い方のグループに含まれる前記複数の時間データの度数分布の中で、最も度数の高い時間であることを特徴とする請求項またはに記載の給送装置。
【請求項10】
前記基準時間は、前記2つのグループの内、時間の長さが短い方のグループに含まれる前記複数の時間データの平均値または中央値であることを特徴とする請求項またはに記載の給送装置。
【請求項11】
前記判断手段は、前記基準時間と、前記選択したグループに含まれる前記複数の時間データの中から前記基準時間よりも短い時間データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断することを特徴とする請求項または乃至10のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項12】
前記判断手段は、前記基準時間と、前記基準時間よりも短い時間データそれぞれとの差分の絶対値を求め、前記差分の絶対値の総和が大きいほど前記異常状態が発生する可能性が高いと判断することを特徴とする請求項11に記載の給送装置。
【請求項13】
前記異常状態とは、前記分離ニップ部において複数枚の記録材が1枚に分離されていない状態であることを特徴とする請求項または乃至12のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項14】
前記取得手段は、前記給送手段が所定の枚数の記録材を給送する度に、前記基準時間を更新することを特徴とする請求項乃至13のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項15】
前記所定のタイミングとは、前記給送部材が記録材の給送を開始したタイミングであることを特徴とする請求項乃至13のいずれか1項に記載の給送装置。
【請求項16】
記録材を収容する収容手段と、
前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、
前記給送手段によって搬送された記録材を検知する検知手段と、
前記給送手段を駆動する駆動手段と、
所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの前記駆動手段による駆動量を測定する測定手段と、を有する給送装置において、
前記測定手段によって測定された複数の駆動量データを、駆動量の大きさに応じて2つのグループに分け、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準量を、前記2つのグループの内、選択したグループに含まれる前記複数の駆動量データから求める取得手段と、
前記基準量と前記選択したグループに含まれる前記複数の駆動量データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする給送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材を給送する給送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
給送装置や画像形成装置の動作安定性を維持するため、給送装置に設けられた給送ローラや搬送ローラの寿命状態や、搬送トラブルの兆候を示すリスクレベルを検出し、装置を使用するユーザや保守管理サービスを行う管理者に報知する技術が知られている。また、検出されたこれらの情報をフィードバックし、給送装置や画像形成装置の搬送制御に適用することで、搬送トラブルを未然に防ぐことが求められている。
【0003】
特許文献1に記載の画像形成装置では、給送トレイに収容された印刷用紙を給送コロによって搬送路に給送し、搬送路上に設けられたセンサによって印刷用紙を検知するまでの時間を測定している。そして、測定された時間データが、紙種に応じてあらかじめ設定された閾値時間を超えた回数をカウントし、さらにその回数が所定の回数を超えた場合に、給送搬送部が劣化していると判断して警告を出す手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-133021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法によって測定された時間データは、装置の使用環境や使用条件などによって変化することが知られている。具体的には、装置周辺の温度や湿度が変化すると、給送ローラや搬送ローラの表面の摩擦係数が変化し、印刷用紙の搬送性能に影響を及ぼすことが考えられる。
【0006】
特許文献1の画像形成装置では、上述した通り紙種によって閾値時間を変更するが、同一の紙種に対しては予め設定された同一の閾値時間を用いるため、装置の使用環境や使用条件が変化した場合は正確に給送手段の劣化を判断できない可能性がある。そのため、給送手段が印刷用紙を給送した時に、遅延によるジャム(紙詰まり)や重送などの異常状態が発生する可能性を精度良く判断することが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を精度良く判断することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の給送装置は、記録材を収容する収容手段と、前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、前記給送手段によって給送された記録材を検知する検知手段と、所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの時間を測定する測定手段と、を有する給送装置において、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準時間を、前記測定手段によって測定された複数の時間データから求め、前記給送手段が所定の枚数の記録材を給送する度に、前記基準時間を更新する取得手段と、前記基準時間と前記複数の時間データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、上記の目的を達成するための本発明の給送装置は、記録材を収容する収容手段と、前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、前記給送手段によって給送された記録材を検知する検知手段と、所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの時間を測定する測定手段と、を有する給送装置において、前記測定手段によって測定された複数の時間データを、時間の長さに応じて2つのグループに分け、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準時間を、前記2つのグループの内、選択したグループに含まれる前記複数の時間データから求める取得手段と、前記基準時間と前記選択したグループに含まれる前記複数の時間データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、上記の目的を達成するための本発明の給送装置は、記録材を収容する収容手段と、前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、前記給送手段によって給送された記録材を検知する検知手段と、前記給送手段を駆動する駆動手段と、所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの前記駆動手段による駆動量を測定する測定手段と、を有する給送装置において、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準量を、前記測定手段によって測定された複数の駆動量データから求め、前記給送手段が所定の枚数の記録材を給送する度に、前記基準量を更新する取得手段と、前記基準量と前記複数の駆動量データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、上記の目的を達成するための本発明の給送装置は、記録材を収容する収容手段と、前記収容手段に収容された記録材を給送する給送部材と、前記給送部材によって給送された記録材を搬送する搬送部材と、前記搬送部材と分離ニップ部を形成し、複数枚の記録材を1枚に分離する分離部材と、を含む給送手段と、前記給送手段によって搬送された記録材を検知する検知手段と、前記給送手段を駆動する駆動手段と、所定のタイミングから前記検知手段が記録材を検知するまでの前記駆動手段による駆動量を測定する測定手段と、を有する給送装置において、前記測定手段によって測定された複数の駆動量データを、駆動量の大きさに応じて2つのグループに分け、前記給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を判断するための基準量を、前記2つのグループの内、選択したグループに含まれる前記複数の駆動量データから求める取得手段と、前記基準量と前記選択したグループに含まれる前記複数の駆動量データに基づいて、前記異常状態が発生する可能性を判断する判断手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、給送手段が記録材を給送した時に異常状態が発生する可能性を精度よく判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び2における画像形成装置の断面図
図2】実施例1及び2における給紙機構の断面図
図3】実施例1及び2における給紙枚数と給紙時間の関係を示すグラフ
図4】実施例1における給紙時間の度数分布を示すグラフ
図5】実施例1におけるカセット残量が給紙時間に与える影響を示すグラフ
図6】実施例1におけるスリップ指標値の算出方法を説明するための給紙枚数と給紙時間の関係を示すグラフ
図7】実施例1における給紙枚数とスリップ指標値の関係を示すグラフ
図8】実施例1におけるスリップが発生する可能性を判断するためのフローチャート
図9】実施例2における給紙時間の度数分布を示すグラフ
図10】実施例2における重送指標値の算出方法を説明するための給紙枚数と給紙時間の関係を示すグラフ
図11】実施例2における給紙枚数と重送指標値の関係を示すグラフ
図12】実施例2における重送が発生する可能性を判断するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
本実施例では、給紙動作中に記録材がスリップしてしまう可能性を判断する方法について説明する。
【0015】
[画像形成装置の説明]
本実施例を適用可能な給送装置の例として、電子写真方式のプリンタPR(画像形成装置)を説明する。図1は、プリンタPRの概略構成図である。
【0016】
プリンタPRは、タンデム式のカラーレーザビームプリンタであり、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナーを重ね合わせることでカラー画像を出力できるように構成されている。以下の説明において、特にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックを区別する必要のない部材については、説明の便宜上、符号の添え字のY、M、C、Kを省略する。
【0017】
プロセスカートリッジ5は、それぞれトナー容器6を有している。さらに、像担持体である感光ドラム1を有している。さらに、帯電ローラ2と、現像ローラ3と、ドラムクリーニングブレード4と、廃トナー容器7を有している。
【0018】
帯電ローラ2は所定の負極性の電圧を感光ドラム1に印加することで、感光ドラム1の表面を所定の負極性の電位に帯電させる。プロセスカートリッジ5の下方にはレーザユニット8が配置され、画像信号に基づいて感光ドラム1を露光する。これにより、感光ドラム1の表面には静電潜像が形成される。現像ローラ3は所定の負極性の電圧を感光ドラム1に印加し、さらにトナー容器6に収容されたトナーを感光ドラム1に供給することで、静電潜像を現像する。これにより、感光ドラム1の表面にはそれぞれY、M、C、Kのトナー像が形成される。なお、本実施例で使用するトナーは、負極性に帯電されている。
【0019】
中間転写体ユニットは、中間転写体11、駆動ローラ12、テンションローラ13、対向ローラ15から構成されている。また、感光ドラム1に対向して、中間転写体11の内側に1次転写ローラ10が配設されており、不図示の電圧印加手段により転写電圧が印加される構成となっている。各感光ドラム1および中間転写体11が矢印方向に回転し、さらに1次転写ローラ10に正極性の電圧が印加されることにより、感光ドラム1上に形成されたトナー像は中間転写体11上に1次転写される。感光ドラム1上のトナー像はY、M、C、Kの順に、中間転写体11上に1次転写され、4色のトナー像が重なった状態で2次転写ローラ14まで搬送される。1次転写後に感光ドラム1に残留したトナーはクリーニングブレード4によってかきとられ、廃トナー容器7へ収容される。
【0020】
給紙機構20は、記録材Sを収容する収容カセット21から記録材Sを搬送路40に給紙する給紙ローラ22(給送部材)を有している。さらに給紙機構20は、給紙された記録材Sを搬送する搬送ローラ23(搬送部材)及び複数枚の記録材Sを1枚に分離搬送する分離ローラ24(分離部材)を有している。収容カセット21は装置本体50(プリンタ筐体)に対して着脱可能であり、ユーザが記録材Sの補充や交換を行うことができるようになっている。そして、給紙機構20から搬送された記録材Sはレジストレーションローラ対25によって2次転写ローラ14に搬送される。中間転写体11から記録材Sへトナー像を転写するために、2次転写ローラ14に正極性の電圧を印加する。これにより、搬送されている記録材Sに、中間転写体11上のトナー像が2次転写される。トナー像が転写された記録材Sは、定着装置30に搬送され、定着フィルム31と加圧ローラ32とによって加熱、加圧されて表面にトナー像が定着される。トナー像が定着された記録材Sは排出ローラ対33によってプリンタPRの装置本体50の外部へ排出される。
【0021】
制御部100は、CPU70等を備えたMPU(不図示)、プリンタPRを制御するために必要なデータの演算や一時的な記憶等に使われるRAM(不図示)、プリンタPRを制御するプログラムや各種データを格納するROM(不図示)等が搭載されている。搬送路40には搬送路センサ27が設けられており、搬送された記録材Sを検知する。搬送路センサ27が記録材Sを検知すると、その旨を通知する信号が制御部100へ出力される。制御部100は、電子写真プロセスの全体制御を行い、さらに搬送路センサ27から通知された信号に基づいて、記録材Sの早着・遅延やジャムなどの搬送異常が発生したかどうかを判断する。搬送異常が発生したと制御部100が判断した場合、制御部100は操作表示部80(オペレーションパネル)に搬送異常が発生したことをユーザに通知するためのメッセージや画像を表示させる。また、制御部100は必要に応じて搬送異常を解消するための手段を示すメッセージや画像を操作表示部80に表示させる。
【0022】
[給紙機構の説明]
次に本実施例における給紙機構20について図2を用いて詳細に説明する。図2は本実施例における給紙動作を表した概略断面図である。
【0023】
図2(a)は収容カセット21に収容された複数枚の記録材Sの内、最上位に位置する記録材S1を給紙するタイミングにおける給紙機構20の断面図である。収容カセット21内の記録材S1は収容カセット21内の後端規制板26によって位置決めされ、記録材S1を給紙する際、記録材S1の先端は図2(a)におけるセット位置Psにある。ここで、記録材S1の先端とは記録材S1の給紙方向(給送方向)における下流側の端であり、記録材S1の後端とは記録材S1の給紙方向における上流側の端である。給紙動作のトリガーとなるピック開始信号が出力され給紙動作が開始されると、給紙ローラ22、搬送ローラ23がそれぞれ図2(a)の矢印方向に回転し、記録材S1は給紙ローラ22との間に発生する摩擦力により、図2(a)における右方向へ給紙される。
【0024】
その後、記録材S1は、搬送ローラ23と分離ローラ24によって形成される分離ニップ部Pnに到達する。この際、図2(b)に示すように記録材S1とS2の間でも摩擦力が生じ、記録材S2も移動してしまう場合がある。以下、この現象を連れ出し現象と呼ぶ。連れ出し現象によって2枚以上の記録材Sが分離ニップ部Pnに送られてきたときに、搬送ローラ23と分離ローラ24は、複数枚の記録材Sを1枚に分離し、分離した1枚の記録材Sだけ下流に送る機能を有している。分離ローラ24には不図示のトルクリミッタが接続されており、記録材S1の搬送方向とは逆方向に抵抗力としてのトルクが与えられている。このトルクは分離ニップ部Pnに記録材Sが1枚だけある時には分離ローラ24が搬送ローラ23に従動して回転し、分離ニップ部Pnに記録材Sが2枚以上入ると停止するよう設定されている。よって、分離ニップ部Pnで複数枚の記録材Sを1枚に分離し、下流に搬送することができる。
【0025】
その後、さらに給紙ローラ22、搬送ローラ23が回転を続けると記録材S1はレジストレーションローラ対25を通過し、図2(c)に示すように記録材S1の先端が搬送路センサ27によって検知される位置Prに到達する。給紙動作のトリガーとなるピック開始信号が出力されてから、記録材S1が搬送路センサ27に到達するまでの経過時間を給紙時間とする。この給紙時間は、図1で説明した制御部100に含まれるCPU70によって測定される。
【0026】
図3はプリンタPRの使用開始からモニターした、給紙枚数に対する給紙時間の推移を示したグラフである。プリンタPRを使い続ける中においては、その時々で使用されるメディア物性のばらつき(表面性、坪量、剛度など)、使用環境の温湿度の違いにより、ローラ摩擦係数が微妙に変化する。そのため、給紙時間は不規則に変動する。例えば、図3のタイミングDにおいて記録材Sの種類が変わり、給紙時間の傾向が変わっている様子が確認できる(記録材Eから別の種類である記録材Fに変更)。なお、給紙基準時間Tsと給紙基準時間Tmについて詳しくは後述する。
【0027】
一般的に、記録材Sの先端が分離ニップ部Pnに位置している状態から給紙開始する場合は給紙時間が短くなり、記録材Sの先端がセット位置Psに位置している状態から給紙開始する場合は長くなる。このような基本特性があるため、所定の範囲内における給紙時間の不規則な変動は、給紙不具合に直接的につながるものではない。データ分布に対して外側に突発的に外れるデータ(所定の範囲を超えて変動した給紙時間データ)が、給紙不具合につながり得る。そこで、その時々の状態に適した給紙時間の基準値を統計的に算出し、突発的に外れるデータとの差分傾向を見ることで、不具合リスクの評価を行う。
【0028】
[基準値の算出方法の説明]
次に、給紙時間の基準値を算出する方法について説明する。給紙時間は記録材Sが給紙される給紙口、紙種、環境、本体の耐久状況、ユーザによる紙セット方法等の様々な要因に応じて大きく変化する。そのため、基準値を算出する際には、給紙時間が安定し、統計的に信頼性が担保できる必要十分な集合データを用いて、算出する必要がある。耐久要因を排除するために直近のデータを活用し、変動量が大きい箇所を除いたデータを活用することが望ましい。また、本体が持っている情報(例えば、紙種センサ、温湿度センサ、カセットの開閉履歴、紙残量センサ等)を活用し、使用条件が変わった区間のデータを除いても良い。
【0029】
図4は直近の500枚の給紙時間データの度数分布を表すグラフである。本実施例では、この500枚の給紙時間データを1つの集合データA0として扱い、基準値を算出する。つまり、プリンタPRの使用開始から500枚ごとに1つの基準値データが算出(更新)されることになる。ここで、給紙時間は収容カセット21に収容されている記録材Sの残量に応じて変化する可能性があるため、集合データA0に対しては事前に収容カセット21に収容されている記録材Sの残量に応じた補正処理が行われる場合がある。以下、この理由および具体的な補正方法について説明する。
【0030】
収容カセット21に収容されている記録材Sの残量が少なくなると、最上位に位置する記録材Sと給紙ローラ22の間に隙間が生じるため、この隙間を埋めるために中板を上昇させる必要がある。中板の昇降方式としては回動式(中板を回動させて記録材Sをリフトアップさせる方式)と直動式(中板を垂直方向に移動させて記録材Sをリフトアップさせる方式)が知られている。このうち、回動式の構成をとると、中板を回動させることに伴い、給紙時間にも影響を与えてしまう可能性がある。
【0031】
回動式の構成において、給紙時間が変化する要因としては大きく2つ考えられる。1つ目の要因は、中板を回動させることに伴い、最上位に位置する記録材Sのセット位置Ps(図2に記載)が変化することである。セット位置Psがずれることによって、記録材Sが搬送路センサ27に到着するまでの時間も変化する。2つ目の要因は、中板を回動させることに伴い、最上位に位置する記録材Sの姿勢(傾き)が変化することである。記録材Sの姿勢が変化すると、記録材Sが搬送路40へ進入する角度が変わるため、分離ニップ部Pnから検知位置Prまで記録材Sが通る道筋が変化する。満載時においては、記録材Sの先端が搬送路40の外側(図2における右側)に沿うように記録材Sは搬送される。一方、少載時においては、記録材Sの先端が搬送路40の内側(図2における左側)に沿うように記録材Sは搬送される。以上の要因を考慮すると、少載時は満載時に比べて、給紙時間が短くなる傾向がある。この様子を図5に示す。
【0032】
プリンタPRには収容カセット21に収容されている記録材Sの残量を検知する機構が備わっている。具体的には収容カセット21に収容されている記録材Sの紙面を検知する紙面センサ(不図示)がプリンタPRに設けられており、紙面センサが記録材Sを検知するまでのリフトアップ時間またはリフトアップ駆動量などを測定することで残量を検知できる。リフトアップ後はCPU70が給紙枚数をカウントすることによって残量を検知できる。本実施例では、検知した残量に応じて給紙時間に補正処理を行う。例えば、満載時には補正処理を行わず、残量が20%から40%になると補正時間αを測定した給紙時間に加え、残量が0%から20%になると補正時間β(α<β)を測定した給紙時間に加える。
【0033】
なお、上述した通り、集合データA0を取得する上では、変動量が大きい箇所を除いたデータを活用することが望ましいが、十分なサンプル数を取得するために変動量が大きい箇所のデータを用いる必要がある場合は、事前に集合データA0に補正処理をかける。例えば、図3で説明した通り、収容カセット21に収容されている記録材Sの種類が記録材Eから記録材Fに変更された場合、給紙時間は全体的に遅くなっている。この影響を考慮し、500枚の給紙データの中に記録材Eを給紙した場合のデータと記録材Fを給紙した場合のデータが混在している場合、2つのデータの間に大きな差が生まれないように補正処理を行う。具体的には、記録材Eを給紙した場合のデータに対して補正時間γを加えるか、記録材Fを給紙した場合のデータに対して補正時間γを引くなどの処理を行う。
【0034】
本実施例では、給紙機構20により記録材Sを給紙する場合に、スリップが発生する可能性を判断する。スリップとは、給紙ローラ22が記録材Sを給紙する際に摩擦力がうまく働かず滑りが発生し、記録材Sを移動させるタイミングが遅くなった状態または記録材Sを移動させることができなかった状態を指す。本実施例では、記録材S1の先端が図2におけるセット位置Psにある状態から給紙開始した時の給紙時間を給紙基準時間Ts(基準値)として定義する。そして、この基準値よりも長い時間を示すデータを抽出して分析を行う。
【0035】
図4の度数分布において、給紙基準時間Tsは突発的に遅くなった一部のデータを除いた集合データA0の上位x%の値となる。本実施例では、様々な条件での給紙基準時間Tsの分布傾向を確認した上で、全ての条件で給紙基準時間Tsを安定的に取得可能であった割合であるx=5%を設定する。なお、x%は大きくても10%以内に収まることが実験からわかっている(数%から10%の範囲内)。
【0036】
[スリップ指標値の算出方法とスリップが発生する可能性の判断方法の説明]
次に基準値を用いてスリップ指標値Hを算出する方法について、図6を用いて説明する。図6は集合データA0の給紙枚数と給紙時間の関係を示すグラフである。なお、ここではグラフを見やすくするため、500枚分のデータ全てをプロットしてはいない。グラフ上の白丸データは給紙基準時間Tsよりも長い時間を示すデータ(遅延データ)である。耐久推移、記録材Sの表面性の状態等により、給紙機構20でスリップする傾向が出始めると、グラフ上の白丸データの遅延度合いが大きくなる。この傾向を鑑みて、給紙基準時間Tsから白丸データまでの差分の絶対値の平均値をスリップ指標値Hとする。つまり、スリップ指標値Hは以下の式で求められる。
【0037】
【数1】
【0038】
今回、指標値の定量化手法として、差分の絶対値を平均化したが、単純なる差分の絶対値の総和または二乗平均平方根等の他のパラメータを用いても良い。このスリップ指標値Hは、500枚の給紙時間データ(集合データA0)ごとに1つ算出される。なお、このスリップ指標値Hは制御部100に含まれるCPU70によって取得される。
【0039】
次にスリップが発生する可能性の判断方法について、図7を用いて説明する。図7はプリンタPRの使用開始から500枚ごとにスリップ指標値Hを計算した結果をグラフにしたものである。通紙枚数の増加に従って、スリップ指標値Hが徐々に大きくなっている様子がわかる。本実施例では2つの閾値HSA、HSBを用意し、以下のように制御部100によってスリップが発生する可能性を判断する。
【0040】
≦HSA:スリップが発生する可能性が低い
SA<H≦HSB:スリップが発生する可能性普通
SB<H:スリップが発生する可能性が高い
閾値は用途に応じ、2つに限らず、3つ以上用意しても良い。制御部100は、得られた判断結果をユーザやプリンタPRの保守管理サービスを行う管理者に対して通知してもよい。なお、通知を行う場合、制御部100はリアルタイムで給紙機構20が上記のどの状態にあるか判断を行い、その都度ユーザや管理者に対して通知を行う。給紙枚数が多くなってくると、給紙ローラ22が摩耗し、スリップが発生する可能性が高いと通知される頻度も増えてくる。
【0041】
図8は本実施例におけるスリップが発生する可能性を判断するためのフローチャートである。図8に基づく制御は、制御部100に搭載されたROM(不図示)等に記憶されているプログラムに基づいてCPU70が実行する。なお、CPU70は500枚の給紙時間データ(集合データA0)を取得する度にこの制御を実行する。
【0042】
まず、CPU70は集合データA0の上位x%の値である給紙基準時間Tsを取得する(S10)。次に、CPU70は上述した式に基づいて、スリップ指標値Hを求める(S11)。CPU70はスリップ指標値Hと予め設定された閾値HSAを比較し(S12)、スリップ指標値Hが閾値HSA以下であれば、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合にスリップが発生する可能性は低いと判断する(S14)。スリップ指標値Hが閾値HSAよりも大きい場合、CPU70は次にスリップ指標値Hと予め設定された閾値HSB(HSA<HSB)を比較する(S13)。スリップ指標値Hが閾値HSB以下であれば、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合にスリップが発生する可能性は普通であると判断する(S15)。スリップ指標値Hが閾値HSBよりも大きい場合、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合にスリップが発生する可能性が高いと判断する(S16)。スリップが発生する可能性が高いと判断した場合、CPU70は給紙機構20に含まれる給紙ローラ22の寿命が残り少ないと判断し、操作表示部80などを通じてユーザや管理者に交換を促す(S17)。以上で本フローチャートの制御を終了する。
【0043】
以上より、本実施例によれば、給送手段が記録材を給送した時にスリップが発生する可能性を精度よく判断することができる。
【0044】
[実施例2]
本実施例では、給紙動作中に記録材が重送してしまう可能性を判断する方法について説明する。主な部分の説明は実施例1と同様であり、ここでは実施例1と異なる部分のみを説明する。
【0045】
[基準値の算出方法の説明]
本実施例では、給紙機構20により記録材Sを給紙する場合に、重送が発生する可能性を判断する。重送とは、記録材S1の給紙動作中に、記録材S1の下に載置された記録材S2が記録材S1との間に発生する摩擦力によって連れ出され、記録材S1と重なった状態で記録材S2の先端が分離ニップ部Pnを超えてしまう状態を指す。本実施例では、記録材S1の先端が図2における分離ニップ部Pnにある状態から給紙開始した時の給紙時間を給紙基準時間Tm(基準値)として定義する。そして、この基準値よりも短い時間を示すデータを抽出して分析を行う。
【0046】
給紙基準時間Tmの算出方法について図9を用いて説明する。図9図4と同じ給紙時間データの度数分布を示すグラフである。ここで、実施例1と同様に、給紙時間は収容カセット21に収容されている記録材Sの残量に応じて変化する可能性があるため、集合データA0に対しては事前に収容カセット21に収容されている記録材Sの残量に応じた補正処理が行われる場合がある。
【0047】
ここで、図9の度数分布を見ると、給紙時間データは大きく2つのグループに分けられることがわかる。給紙機構20の構成を鑑みると、収容カセット21に収容されている記録材Sの先端位置は、セット位置Psまたは分離ニップ部Pnに存在する確率が高い。そして、記録材Sの先端がセット位置Psにある状態は、記録材Sの先端が分離ニップ部Pnにある状態に比べて、記録材Sの先端から搬送路センサ27までの距離が長い。そのため、時間の長さが短い方のグループ(部分集合A1)は、記録材S1の先端が分離ニップ部Pnにある状態における給紙時間データに対応している。そして、時間の長さが長い方のグループ(部分集合A2)は、記録材S1の先端が分離ニップ部Pnにある状態における給紙時間データに対応している。
【0048】
本実施例においては、集合データA0に対してデータ分離アルゴリズムを適用し、部分集合A1の構成データのみを取り出す。本実施例では、ガウス混合モデルを用いて、分離処理を行っている。ガウス混合モデルとは、複数のガウス分布(正規分布)の重ね合わせでデータを近似するモデルである。なお、k-means法などその他のクラスタリング方法を用いてもよい。取り出された部分集合A1は、給紙機構20の特性上、連れ出された後続紙が堰き止められる分離ニップ部Pnに記録材Sの先端がある状態に対応する給紙時間に、分布のピークが表れる。重送が発生する可能性は、分離ニップ部Pnで堰き止められなかった記録材Sの給紙時間データで判断する必要があるため、部分集合A1の分布ピークの給紙時間(度数が最も高い給紙時間)を給紙基準時間Tmに設定した。なお今回、給紙基準時間Tmは、部分集合データA1の分布ピークとしたが、部分集合A1に含まれる給紙時間データの平均値または中央値としても良い。
【0049】
[重送指標値の算出方法と重送が発生する可能性の判断方法の説明]
次に基準値を用いて重送指標値Hを算出する方法について、図10を用いて説明する。図10は集合データA0の給紙枚数と給紙時間の関係を示すグラフである。なお、ここではグラフを見やすくするため、500枚分のデータ全てをプロットしてはいない。グラフ上の白丸データは給紙基準時間Tmよりも短い時間を示すデータ(早着データ)である。耐久推移、記録材の表面性の状態等により、給紙機構20で重送する傾向が出始めると、分離ニップ部Pnで後続紙を堰き止めきれないケースの発生頻度が増える。そのため、グラフ上の白丸データの数が増え、給紙基準時間Tmとの差分も大きくなる。この傾向を鑑みて、給紙基準時間Tmから白丸のデータまでの差分の二乗平均平方根を重送指標値Hとする。つまり、重送指標値Hは以下の式で求められる。
【0050】
【数2】
【0051】
今回、指標値の定量化手法として、二乗平均平方根を使用したが、単純なる差分の絶対値の総和または差分の絶対値の平均値等の他のパラメータを用いても良い。この重送指標値Hは、500枚の給紙時間データ(集合データA0)ごとに1つ算出される。なお、この重送指標値Hは制御部100に含まれるCPU70によって取得される。
【0052】
次に重送が発生する可能性の判断方法について、図11を用いて説明する。図11はプリンタPRの使用開始から500枚ごとに重送指標値Hを計算した結果をグラフにしたものである。本実施例では2つの閾値HmA、HmBを用意し、以下のように制御部100によって重送が発生する可能性を判断する。
【0053】
≦HmA:重送が発生する可能性が低い
mA<H≦HmB:重送が発生する可能性が普通
mB<H:重送が発生する可能性が高い
閾値は用途に応じ、2つに限らず、3つ以上用意しても良い。制御部100は、得られた判断結果をユーザやプリンタPRの保守管理サービスを行う管理者に対して通知してもよい。なお、実施例1におけるスリップ指標値Hとは異なり、図11に示すように重送指標値Hは耐久が進むにつれて悪化するわけではない。重送指標値Hは記録材Sの表面性(摩擦係数)に大きく依存しており、この表面性は記録材Sの種類で異なるのはもちろんのこと、同一の紙種でも紙のロットや冊間部でも異なることが知られている。こういった情報を主にディーラに通知することによって、重送しやすい環境下でプリンタPRを使用しているユーザに対して異なる紙種の記録材Sを紹介するなど、ディーラがより良質なサービスを提供することができるようになる。
【0054】
図12は本実施例における重送が発生する可能性を判断するためのフローチャートである。図12に基づく制御は、制御部100に搭載されたROM(不図示)等に記憶されているプログラムに基づいてCPU70が実行する。なお、CPU70は500枚の給紙時間データ(集合データA0)を取得する度にこの制御を実行する。
【0055】
まず、CPU70は集合データA0を2つのグループ(部分集合A1、A2)に分割する(S20)。CPU70は2つのグループの内、時間が短い方のグループ(部分集合A1)を選択する(S21)。そして、CPU70は時間が短い方のグループに含まれる給紙時間データから給紙基準時間Tmを求める(S22)。次に、CPU70は上述した式に基づいて、重送指標値Hを求める(S23)。CPU70は重送指標値Hと予め設定された閾値HmAを比較し(S24)、重送指標値Hが閾値HmA以下であれば、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合に重送が発生する可能性は低いと判断する(S26)。重送指標値Hが閾値HmAよりも大きい場合、CPU70は次に重送指標値Hと予め設定された閾値H(HmA<HmB)を比較する(S25)。重送指標値Hが閾値HmB以下であれば、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合に重送が発生する可能性は普通であると判断する(S27)。重送指標値Hが閾値HmBよりも大きい場合、CPU70は給紙機構20により記録材Sを給紙した場合に重送が発生する可能性が高いと判断する(S28)。以上で本フローチャートの制御を終了する。なお、上述した通り、重送指標値Hは耐久が進むにつれて悪化するわけではないので、本実施例では重送が発生する可能性が高いと判断した場合、CPU70によってローラの寿命末期を報知することはしない。
【0056】
以上より、本実施例によれば、給送手段が記録材を給送した時に重送が発生する可能性を精度よく判断することができる。
【0057】
[変形例]
上記の実施例1ではスリップが発生する可能性、実施例2では重送が発生する可能性をそれぞれ判断していたが、スリップが発生する可能性と重送が発生する可能性を両方判断して、まとめてユーザやディーラに通知する構成としてもよい。
【0058】
また、上記の実施例1では、給紙基準時間Tsを集合データA0の上位x%の値として抽出していたが、これに限定されない。実施例2と同様に、集合データA0を2つのグループ(部分集合A1、A2)に分け、時間が長い方のグループA2を選択して給紙基準時間Tsを取得してもよい。具体的には、実施例2で説明した方法と同様に、グループA2の分布ピークの給紙時間(度数が最も高い給紙時間)を給紙基準時間Tsとしてもよいし、グループA2に含まれる給紙時間データの平均値または中央値を給紙基準時間Tsとしてもよい。
【0059】
また、上記の実施例2では、給紙基準時間TmをグループA1に含まれる給紙時間データから抽出していたが、これに限定されない。実施例1と同様に、集合データA0の下位y%の値として給紙基準時間Tmを取得してもよい。y%はx%よりも小さい値を設定する必要があり、実験によれば1%から2%の値を設定することが好ましい。
【0060】
また、上記の実施例1および2では、給紙ローラ22が記録材Sの給紙を開始したタイミングから給紙時間のカウントを開始していたが、これに限定されない。例えば、搬送路センサ27とは別の位置に新たなセンサを配置して、その新たなセンサで記録材Sを検知したタイミングから給紙時間のカウントを開始してもよい。もしくは搬送路センサ27で記録材Sを検知したタイミングから給紙時間のカウントを開始し、新たなセンサで記録材Sを検知したタイミングで給紙時間のカウントを終了するようにしてもよい。
【0061】
また、上記の実施例1および2では、給紙機構20が記録材Sを給紙した時に異常状態が発生する可能性を判断していたが、給紙機構20以外の箇所に本発明を適用してもよい。例えば、給紙機構20よりも下流側に位置する搬送路40上の任意の2点間における給紙時間をモニターすることにより、記録材Sがこの区間を通過する際に生じ得る、搬送負荷変動による突発的なスリップが発生する可能性を判断することができる。
【0062】
また、上記の実施例1および2では、異常状態が発生する可能性を判断するための処理データとして給紙時間を採用したが、これに限定されない。例えば、給紙ローラ22や搬送ローラ23を駆動するモータ(アクチュエータ)による駆動量を処理データとして採用してもよい。基準量としては、給紙基準時間Tsや給紙基準時間Tmの代わりに基準となる駆動量データを求め、実施例1および2に記載された方法と同じように差分の絶対の総和等を求めて閾値と比較する。駆動量を処理データとして採用すれば、給紙ローラ22によって記録材Sを給紙してから、記録材Sの搬送速度の切り替え制御を行うようなケースにも対応可能である。
【符号の説明】
【0063】
20 給紙機構
21 収容カセット
22 給紙ローラ
23 搬送ローラ
24 分離ローラ
27 搬送路センサ
100 制御部
PR プリンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12