(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20240930BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20240930BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B41J2/16 507
B41J2/045
B41J2/14 611
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2020109837
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅隆
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010785(JP,A)
【文献】特開2020-006548(JP,A)
【文献】特開2011-016350(JP,A)
【文献】特開2019-098558(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022112(WO,A1)
【文献】特開昭61-159731(JP,A)
【文献】特開2013-193411(JP,A)
【文献】特開2017-030258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給口を有する基板と、前記基板上に、圧力発生素子と、液体の流路を形成する流路形成部材と
、を有する液体吐出ヘッド基板の製造方法であって、
基板の上に、
Al、AlCu、TaSiNの少なくともいずれかによって形成されている部材と、前記部材を覆い開口を有するエッチングマスクを設ける工程と、
前記部材を除去して部材が除去された空間を形成する工程と、
前記エッチングマスクの開口から前記基板を反応性イオンエッチングによってエッチングして、前記基板に供給口を形成する工程と、を有し、
前記空間は前記開口に露出しており、前記基板に供給口を形成する工程において、前記空間から前記基板がエッチングされ、前記空間の下方に前記基板がエッチングされた領域が形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項2】
供給口を有する基板と、前記基板上に、圧力発生素子と、液体の流路を形成する流路形成部材と、液体を吐出するための吐出口と、を有する液体吐出ヘッド基板の製造方法であって、
基板の上に、部材と、前記部材を覆い開口を有するエッチングマスクを設ける工程と、
前記部材を除去して部材が除去された空間を形成する工程と、
前記エッチングマスクの開口から前記基板を反応性イオンエッチングによってエッチングして、前記基板に供給口を形成する工程と、を有し、
前記基板は前記圧力発生素子に電気を供給する電気配線層を有し、前記部材と前記電気配線層は同じ材料で形成されており、
前記空間は前記開口に露出しており、前記基板に供給口を形成する工程において、前記空間から前記基板がエッチングされ、前記空間の下方に前記基板がエッチングされた領域が形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項3】
供給口を有する基板と、前記基板上に、圧力発生素子と、液体の流路を形成する流路形成部材と、液体を吐出するための吐出口と、を有する液体吐出ヘッド基板の製造方法であって、
基板の上に、部材と、前記部材を覆い開口を有するエッチングマスクを設ける工程と、
前記部材を除去して部材が除去された空間を形成する工程と、
前記エッチングマスクの開口から前記基板をボッシュプロセスによる反応性イオンエッチングによってエッチングして、前記基板に供給口を形成する工程と、を有し、
前記ボッシュプロセスにおいて、最初のエッチングステップの時間は他のエッチングステップの時間より10%以上長く、
前記空間は前記開口に露出しており、前記基板に供給口を形成する工程において、前記空間から前記基板がエッチングされ、前記空間の下方に前記基板がエッチングされた領域が形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項4】
前記エッチングマスクは感光性樹脂で形成されている請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項5】
前記基板はシリコンの単結晶基板である請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項6】
前記エッチングマスクを現像液によって現像して前記開口を形成する工程を有し、前記現像液によって前記部材が除去されて、前記部材が除去された空間が形成される請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板は前記圧力発生素子に電気を供給する電気配線層を有し、前記基板の上に絶縁層が形成されており、前記電気配線層は多層であり、前記絶縁層の中に多層の前記電気配線層が埋め込まれている請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁層の前記供給口の側の端部と、前記基板がエッチングされた領域の端部との間に、前記基板の表面が存在している請求項
7に記載の液体吐出ヘッド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出装置は、液体を吐出する部分である液体吐出ヘッドを有する。液体吐出ヘッドは、チップ等と呼称される液体吐出ヘッド基板を有する。液体吐出ヘッド基板として、供給口を有する基板と、基板上に流路を形成する流路形成部材とを有するものが知られている。流路形成部材が形成する流路には圧力室が含まれており、圧力室内の液体に圧力発生素子から圧力が付与されることによって、液体が吐出口から吐出する。
【0003】
このような液体吐出ヘッド基板において、液体を速い間隔で高速に吐出することが求められることがある。液体を高速に吐出することで、液体による文字や画像の高速記録が可能となる。液体を高速に吐出するには、液体吐出時に圧力室への液体の補充をより速く行う必要がある。
【0004】
基板の供給口から圧力室までの距離を短くすることで、流抵抗が低下し、圧力室への液体の補充速度が速くなる。特許文献1には、液体吐出ヘッド基板において、供給口の開口付近で基板の表面を掘り込み、供給口から圧力室までの距離を短くして流抵抗を低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、基板の表面を彫り込む方法として、ドリル等の機械的手段、レーザー等の光エネルギーの使用、化学的なエッチングが例示されているが、具体的な掘り込み方法については記載されていない。これらの方法で基板を掘り込むとなると、基板の表面を機械的手段やレーザーで直接加工するか、基板の表面にエッチングマスクを設けて化学的にエッチングを行うことが考えられる。しかしながら、これらの方法で基板を掘り込んだ場合、掘り込んだ部分の形状が安定でない場合がある。例えば、機械的手段等による直接加工では、掘り込む部分の横幅が安定化しにくい。また、エッチングマスクを設けたエッチングでは、エッチング液やエッチングガスが供給口側に回りこむなどし、供給口自体の形状が変形することで、掘り込んだ部分の形状に影響を与える場合がある。これらの結果、基板上の流路の形状が所望の形状とならず、流路内の液体の流れや液体の吐出に影響が出ることがある。
【0007】
従って、本発明では、基板表面の掘り込みを安定的に行うことができる、液体吐出ヘッド基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、供給口を有する基板と、前記基板上に、圧力発生素子と、液体の流路を形成する流路形成部材と、を有する液体吐出ヘッド基板の製造方法であって、基板の上に、Al、AlCu、TaSiNの少なくともいずれかによって形成されている部材と、前記部材を覆い開口を有するエッチングマスクを設ける工程と、前記部材を除去して部材が除去された空間を形成する工程と、前記エッチングマスクの開口から前記基板を反応性イオンエッチングによってエッチングして、前記基板に供給口を形成する工程と、を有し、前記空間は前記開口に露出しており、前記基板に供給口を形成する工程において、前記空間から前記基板がエッチングされ、前記空間の下方に前記基板がエッチングされた領域が形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板表面の掘り込みを安定的に行うことができる、液体吐出ヘッド基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る液体吐出ヘッド基板の製造方法について説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本発明を十分に説明するため具体的記述を行う場合もあるが、これらは技術的に好ましい一例を示しており、特に本発明の範囲を限定しているものではない。
【0012】
図1に、液体吐出ヘッド基板の製造方法を示す。
図1(f)が、完成した液体吐出ヘッド基板の一部における断面図であり、
図1(f´)は同液体吐出ヘッド基板の上面図である。
図1では、各工程において、液体吐出ヘッド基板の断面図((a)~(f))と上面図((a´)~(f´))とを示している。液体吐出ヘッド基板は、供給口10を有する基板5を有する。基板5上には、流路12と液体を吐出するための吐出口13を形成する流路形成部材14が設けられている。基板5の表面(基板上)には圧力発生素子1が設けられており、流路12のうち圧力発生素子1の上方の領域が圧力室となる。圧力室内の液体には、基板上の圧力発生素子1から圧力が与えられ、圧力を与えられた液体が吐出口13から吐出する。尚、本明細書においては、液体が吐出される方向を下方から上方とする。
【0013】
このような液体吐出ヘッド基板を製造する方法を、順を追って説明する。まず、
図1(a)に示すように、表面側に絶縁層2を有する基板5を用意する。
図2は、
図1(a)をより詳細に示した図である。基板5としてはシリコンの単結晶基板が挙げられる。絶縁層2としては、SiNやSiC、SiCN、SiO
2などが挙げられる。絶縁層2の中には多層の電気配線層3が埋め込まれており、絶縁層2の表面側に圧力発生素子1が設けられている。電気配線層3は、外部から供給される電気を圧力発生素子1に供給するものであり、供給された電気によって圧力発生素子1が駆動する。電気配線層3や圧力発生素子1は、AlやAlCu、TaSiN等の金属で形成する。尚、このとき、絶縁層2の中には、基板上に配置された部材4が埋め込まれている。部材4は基板5の表面を掘り込むために設けられるものであるが、その詳細については後で説明する。
【0014】
図2に示すように、多層の電気配線層21の間には絶縁層(層間絶縁層23)が挟まれており、電気配線層21同士をタングステンプラグ22によって電気的に接続している。部材4は基板5の表面上にあり、その高さ(上下方向の部材4の厚み)をL1とする。L1は、後で説明する掘り込み領域11の大きさに影響する。この観点から、L1は0.2μm以上10μm以下とすることが好ましく、0.4μm以上1.0μm以下とすることがより好ましい。尚、
図1(a´)に示すように、基板5を上方(基板5の表面と対向する側)から見ると、2つの圧力発生素子1に対して1つの部材4が対応して設けられている。
【0015】
図1(a)のような基板5を用意した後、
図1(b)に示すように、絶縁層2上に第一のエッチングマスク6を設け、第一のエッチングマスク6を用いて絶縁層2のパターニングを行う。第一のエッチングマスク6は、SiN、SiC、SiCN、感光性樹脂等で形成することが好ましい。例えば、絶縁層2を覆うように第一のエッチングマスクとなる層を塗布した後、この層をパターニングすることで開口6´を形成し、第一のエッチングマスクとする。そして第一のエッチングマスク6の開口6´から、絶縁層2をドライエッチング等でエッチングし、絶縁層2のパターニングを行う。このパターニングによって、絶縁層2に開口7が形成される。開口7は、開口6´と対応した形状になっている。このとき、開口7には部材4が露出しており、
図1(b´)に示すように、基板5を上方から見ると、開口7の中に部材4が配置された状態となる。
【0016】
次に、第一のエッチングマスク6を除去し、さらに第二のエッチングマスク8を設ける(
図1(c))。第二のエッチングマスク8は、SiN、SiC、SiCN、感光性樹脂等で形成することが好ましい。例えば、絶縁層2部材4を覆うように第二のエッチングマスクとなる層を塗布した後、この層をパターニングすることで開口8´を形成し、第二のエッチングマスク8とする。ここで、基板5を上方からみたときに、第二のエッチングマスク8の開口8´が絶縁層2の開口7の内側に位置するように形成する。また、部材4は第二のエッチングマスク8に覆われているが、基板5の断面において、開口8´に部材4が露出するようにする。例えば第二のエッチングマスク8を感光性樹脂で形成した場合、第二のエッチングマスク8をフォトリソグラフィーによってパターニングして開口8´を形成する。このフォトリソグラフィーの現像工程において、第二のエッチングマスク8の現像と共に、部材4が除去され、部材4があった領域が空間9となる。即ち、開口8´が形成されると、開口8´に部材4が露出し、部材4の露出した部分から、現像液が部材4を溶解していき、最終的に空間9が形成される。このようにして空間9を形成する為に、第二のエッチングマスク8は感光性樹脂で形成することが好ましい。また、部材4は感光性樹脂の現像液で溶解して除去される材料で形成することが好ましい。このような材料としては、例えば金属が挙げられる。中でも電気配線層21と同じ材料で形成しておけば、電気配線層21と一括して形成することもできる。例えば、部材4及び電気配線層21を形成する材料としては、Al、AlCu、TaSiNが挙げられる。同じ材料とは、例えば両方ともAlと称されるものであれば同じ材料であることを意味し、厳密に化学構造が一致することまでは問わない。あとで除去することを考慮すると、部材4はAlまたはAlCuで形成することが好ましい。尚、開口8´を形成する過程で部材4を除去しなくてもよく、例えば開口8´を現像液によって形成した後、別の方法(例えば現像液と異なる材料の溶剤)によって除去してもよい。
【0017】
次に、
図1(d)に示すように、第二のエッチングマスク8の開口8´から基板5をエッチングしていく。このエッチングは、反応性イオンエッチングで行い、基板5に液体供給口10を形成する。このとき、基板5と第二のエッチングマスク8との間の空間9は開口8´に露出していることから、空間9に基板5をエッチングするラジカル成分が入り込む。空間9に入り込んだラジカル成分によって、空間9の下方の基板5もエッチングされ、掘り込み領域11が形成される。掘り込み領域11は基板表面の掘り込み部分となっている。また、供給口10に隣接しており、供給口の一部であるともいえる。
【0018】
基板5をエッチングして供給口10及び掘り込み領域11を形成する際の反応性イオンエッチングのプロセスとしては、ボッシュプロセスとノンボッシュプロセスとが挙げられる。ボッシュプロセスでは、基板のエッチングステップと、エッチングした領域のコーティングステップとが繰り返される。ノンボッシュプロセスでは、基板のエッチングと同時にエッチングした領域の側壁がコーティングで保護される。掘り込み領域11の形状をより制御しやすいという点では、ボッシュプロセスによってエッチングを行う方が好ましい。ボッシュプロセスの方が、最初にエッチングステップの時間やパワー、ガス圧力を大きくすることで、第二のエッチングマスク8の下方の空間9にエッチングガスが優先的に入り、空間下の基板が優先的にエッチングされる。そしてその後、コーティングステップに切り替えることで、それ以上、空間下の基板がエッチングされなくなり、掘り込み領域11の形状が安定化する。一方、供給口10では、底部のコーティングを除去しやすく、掘り込み領域11と異なり次のエッチングステップで垂直下方に向かって延在させていくことができる。ノンボッシュプロセスを用いた場合には、空間9の下方の基板5がなるべくエッチングされないように、部材4の形状等を制御する必要がある。
【0019】
供給口10及び掘り込み領域11を形成した後、第二のエッチングマスク8を除去し、
図1(e)に示す状態とする。続いて、
図1(f)に示すように、基板5の表面上に、流路12や吐出口13を形成する流路形成部材14を設ける。流路形成部材14の形成方法は特に限定されないが、例えば感光性樹脂からなるドライフィルムを複数用いて形成する。ドライフィルムとしては、ポリエチレンテレフタラート(以下PETと称する)フィルムや、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム等が挙げられる。他にも、金属やシリコンによって、流路形成部材14を形成することもできる。また、ここでは流路形成部材14が流路12と吐出口13とを形成している例を示したが、流路12を形成する部材と吐出口を形成する部材とが別の部材であってもよい。
【0020】
以上のようにして、液体吐出ヘッド基板を製造することができる。
図1(f)に示すように、液体吐出ヘッド基板は、供給口10の開口付近で、掘り込み領域11の分だけ基板の表面が掘り込まれている。上述の通り、掘り込み領域11は、空間9からの反応性イオンエッチングで形成する。空間9は部材4の寸法によって制御することができる。部材4は、例えば部材4の材料を塗布した後に、その上にマスクを形成し、このマスクを用いてドライエッチングすることで形成する。即ち、部材4の寸法は、基板5を直接加工するような場合と比べて制御しやすく、この制御しやすい部材4によって掘り込み領域11の形状を制御できる為、基板表面の掘り込みを安定的に行うことができる。
【0021】
液体吐出ヘッド基板は、
図1(f)や
図2に示すように、多層の電気配線層の間に層間絶縁層が挟まれている形態であることが好ましい。このようにすることで、絶縁層全体の高さとしては、電気配線層が単層である場合と比較して高くなる。即ち、
図1(f)に示すように絶縁層の端部を供給口10の開口から後退させたときに、基板の表面を多く掘り込んだ場合と同様に、流路における液体の流れの効率(リフィル効率)をより高めることができる。この観点から、絶縁層の厚みは、4μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。絶縁層の厚みとは、絶縁層が複数の層で形成されている場合、合計の厚みである。また、絶縁層の間に電気配線層がある場合、電気配線層の分も含めた厚みとなる。絶縁層の厚みの上限は、液体吐出ヘッド基板の全体的な設計を考慮すると、20μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用い、本発明をより具体的に説明する。
【0023】
<実施例1>
液体吐出ヘッド基板の製造方法について、
図3(a)から(h)を用いて説明する。まず、
図3(a)に示すように、表面側にTaSiNからなる圧力発生素子1と、SiO
2からなる絶縁層2と、Alからなる電気配線層(不図示)とを有する基板5を用意した。基板5はシリコンの単結晶基板である。絶縁層2は10μmの厚みとした。絶縁層2の内部には4層の電気配線層が設けられており、タングステンプラグ(不図示)で接続されている。また、絶縁層2と基板5の間に、後に形成される供給口の開口に対応する位置に、AlCuからなる部材4を配置している。
【0024】
次に、
図3(b)に示すように、基板5の表面と反対側の面である裏面にエッチングマスク31を設け、反応性イオンエッチングによって共通供給口32を形成した。共通供給口32は、後で形成する複数の供給口35に共通して設けられる供給口である。エッチングマスク31はノボラック系フォトレジストで形成した。共通供給口32の深さは500μmとし、エッチングステップにSF
6ガス、コーティングステップにC
4F
8ガスを使用し、ガス圧力10Pa、ガス流量を500sccmとした。また、エッチング時間を20秒、コーティング時間を5秒とし、エッチング時間のうち10秒間をプラテンパワー150Wで印可した。その際のエッチング条件としては、エッチングステップにSF
6ガス、コーティングステップにC
4F
8ガスを使用し、ガス圧力10Pa、ガス流量を500sccmとした。さらに、エッチング時間を20秒、コーティング時間を5秒とし、エッチング時間のうち10秒間をプラテンパワー150Wで印可した。尚、これは、反応性イオンエッチングのうちボッシュプロセスとよばれるエッチング手法である。
【0025】
次に、エッチングマスク31を除去し、
図3(c)に示すように、基板5の表面側に第一のエッチングマスク33を設けた。第一のエッチングマスク33は、ノボラック系のポジ型レジストを厚さ20μmで塗布し、150℃でプリベークした後で、露光及び現像することで形成した。
【0026】
次に、第一のエッチングマスク33をマスクとして、
図3(d)に示すように、反応性イオンエッチングによって絶縁層2をエッチングし、絶縁層2に開口7を形成した。その後、第一のエッチングマスク33を除去した。絶縁層2をエッチングする際の反応性イオンエッチングは、C
4F
8ガスとCF
4ガスおよびArガスの混合ガスを用いて、C
4F
8ガスの流量を10sccm、プラテンパワーを100Wとして実施した。このエッチングでは、シリコンで形成された基板5をエッチングストップ層とした。即ち、絶縁層2のエッチングが進むと、エッチングガス(エッチング領域)が基板5に到達する。絶縁層2と基板5とのエッチングに対する選択比は100程度である(基板5の方がエッチングされにくい)ため、エッチングガスが基板5に到達してからエッチングを停止する。このようにして、基板5をエッチングストップ層として用いた。尚、絶縁層を10μmエッチングした後、追加のエッチング(オーバーエッチング)を20%実施した場合、基板5が約0.02μm削れる計算となる。よって、絶縁層2の高さがほぼそのまま開口7の高さとなった。
【0027】
次に、
図3(e)に示すように、第二のエッチングマスク34を形成した。第二のエッチングマスク34は、ノボラック系のポジ型レジストを、20μmの膜厚で部材4及び絶縁層2を覆うように塗布し、150℃でプリベークした後で、露光及び現像することで形成した。第二のエッチングマスク34は、開口34´を有する。第二のエッチングマスクの現像液としてアルカリ系の現像液(NMD3)を用いたことによって、絶縁層2と基板5の間に形成した部材4(AlCu)が開口34´から進入した現像液によって除去された。部材4が除去された部分が空間9である。
図3(e)に示すように、空間9は、開口34´に開口(露出)している。
【0028】
次に、
図3(f)に示すように、第二のエッチングマスク34の開口34´から基板5をエッチングし、供給口35を形成した。エッチングには、反応性イオンエッチングを用いた。エッチングマスクと基板の間に空間9が存在する状態で反応性イオンエッチングを実施することで、供給口35と、空間9の下方に位置する掘り込み領域11とが一括して形成された。供給口35のエッチングは、供給口35が共通供給口32と連通するまで実施した。その際のエッチング条件としては、エッチングステップとコーティングステップを用いるボッシュプロセスを用いた。詳細には、エッチングステップにSF
6ガス、コーティングステップにC
4F
8ガスを使用し、ガス圧力10Pa、ガス流量を500sccmとした。また、エッチング時間を20秒、コーティング時間を5秒とし、エッチング時間のうち10秒間をプラテンパワー150Wで印可した。
【0029】
その後、
図3(g)で示すように、第二のエッチングマスク34を除去した。続いて、ネガ型感光性樹脂(エポキシ樹脂)で形成されたドライフィルムを基板5に貼り付け、フォトリソグラフィーを行うことで、流路12および吐出口13を形成する流路形成部材14を形成した(
図3(h))。
【0030】
以上のようにして製造された液体吐出ヘッド基板を、
図4に示す。
図4(a)は液体吐出ヘッド基板の上面図、
図4(b)は液体吐出ヘッド基板の断面図である。
図4(c)は、
図4(b)の掘り込み領域11の部分、即ち、基板5の表面を掘り込んだ部分を拡大して示した図である。本実施例の製造方法によれば、部材4の寸法によって掘り込み領域11の形状を制御できる為、掘り込み領域11の形状を安定化させやすい。また、絶縁層2の供給口35側の端部と、基板5がエッチングされた領域11の端部との間に、基板5の表面が存在している。この基板5の表面の長さをD1とする。D1は、基板5のエッチングによらず、部材4と絶縁層2との位置関係によって制御可能である。
図4(c)に示すように、スロープ状の掘り込み領域11があり、平らな基板の表面があり、続いて傾斜した絶縁層2の端部が続くという構成にすることによって、流路内の液体の流れをより良好に制御することができる。
【0031】
<実施例2>
実施例1と異なる点を中心に、
図3を用いて説明する。実施例1と同様に
図3(e)に示す工程まで進めた後、
図3(f)で示すエッチングの条件を変更した。具体的には、実施例1で述べたボッシュプロセスでエッチングステップとコーティングステップを交互に実施する手法を用いたが、最初のエッチングステップの条件だけ、エッチング時間を増やし、20秒のところを22秒とした(10%長くした)。このように最初のエッチングステップを他のエッチングステップの時間より10%以上長くすることで、エッチングマスクと基板の界面に存在する空間へエッチングガスがより入り込みやすくなり、掘り込み領域11が大きくなった。実施例1と比較すると、掘り込み領域11を大きく形成したことで、流路における液体の流れの効率をより高めることができることができる。尚、エッチングステップの時間だけでなく、最初のエッチングステップのガス圧力、ガス流量、コイルパワーを、他のエッチングステップのそれらよりも10%以上大きくすることでも、同様の効果が見込まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 圧力発生素子
4 部材
5 基板
9 部材が除去された空間
11 掘り込み領域
13 吐出口
14 流路形成部材