(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】心電図からの炭水化物代謝障害の非侵襲的検出のためにコンピュータが補助する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/352 20210101AFI20240930BHJP
【FI】
A61B5/352 100
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020144453
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-08-25
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520066902
【氏名又は名称】ザクリトエ・アクツィオニェルノエ・オブシェスティヴォ・”イーシー-リーシング”
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー・ウィークトロヴィチ・シュミット
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ・アレクサンドロヴィッチ・ベレジン
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・アレクサンドロヴィッチ・ノヴォパシン
(72)【発明者】
【氏名】ローマン・セルゲヴィッチ・ノビコフ
(72)【発明者】
【氏名】ボリス・アロノヴィッチ・ポジン
(72)【発明者】
【氏名】アショット・ムサエロヴィッチ・ムクルタミヤン
(72)【発明者】
【氏名】タチアナ・ニコラエヴナ・マルコヴァ
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0032015(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0235342(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0332929(US,A1)
【文献】国際公開第2019/151888(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0027202(US,A1)
【文献】特表2003-534044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の非侵襲的検出のためにコンピュータが補助する方法であって、前記ECGが、前記FPUの自己回帰の表現であり、
少なくともI誘導の少なくとも1つ
の心電図
(ECG)をとるステップと、
前記少なくとも1つのECGについてフーリエ変換を実行して、前記少なくとも1つのECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、
前記少なくとも1つのECGの前記フーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記少なくとも1つのECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、
前記取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、
前記DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、前記分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、
を含む、コンピュータが補助する方法。
【請求項2】
前記離散化することが
、平均化された形式で前記フーリエ変換された
少なくともI誘導の少なくとも1つのECGの包絡線を構築することを含む、請求項1に記載のコンピュータが補助する方法。
【請求項3】
前記離散化することが、前記フーリエ変換された
少なくともI誘導の少なくとも1つのECGの高調波ピーク包絡線を構築することを含む、請求項1に記載のコンピュータが補助する方法。
【請求項4】
フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するために集団をスクリーニングするためにコンピュータが補助する方法であって、前記ECGが、前記FPUの自己回帰の表現であり、
スクリーニングのためのターゲット感度および特異度の値を指定するステップと、
スクリーニングを準備するステップであって、前記準備することが、前記指定されたターゲット感度および特異度の値を考慮に入れて、1人の被験者
についてとられるべき心電図(ECG)の最小必要数、および、各年齢別研究グループのCHMDの兆候を有するECGの
数のしきい
値を表から決定することを含み、前記
数のしきい
値を超えると、前記
年齢別研究グループの患者においてCHMDがあることが認識される、ステップと、
前記集団をスクリーニングして、炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するステップと、を含み、前記スクリーニングすることが、
前記表から決定された、1人の被験者
についての前記最小必要数の少なくとも
I誘導
の心電図(ECG)をとるステップと、
前記決定された数のECGからとられた各ECGについてフーリエ変換を実行して、とられた各ECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、
前記とられた各ECGの前記フーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記とられた各ECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、
前記DECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、
前記DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、前記分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、
前記スクリーニングの結果の統計分析を実行するステップであって、前記統計分析が、1人の被験者
についてとられるべきECGの
最小数から、前記CHMDの兆候を有するECGの数を決定し、
前記CHMDの兆候を有するECGの数と所定のしきい値とを比較することを含み、前記
スクリーニングの結果の統計分析に基づいて、前記被験者に炭水化物代謝障害があることが判断される、ステップと、
を含む、コンピュータが補助する方法。
【請求項5】
前記しきい値を超えた1人の被験者の前記CHMDの兆候を有するECGの前記数に基づいて、炭水化物代謝障害の重症度を判断し、前記重症度に基づいて、糖尿病を予備診断するステップをさらに含む、請求項4に記載のコンピュータが補助する方法。
【請求項6】
フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法であって、前記ECGが、前記FPUの自己回帰の表現であり、
複数の監視された患者からの各患者について、患者の識別子でマークされた、前記患者の一連の記録された複数の少なくとも
I誘導
の心電図(ECG)をデータベースに収集するステップであって、前記一連のECGは、観察期間全体を通して以前に収集された複数の患者の一連のECGに、前記識別子でマークされた新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成される、ステップと、
前記記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換を実行して、前記記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、
前記記録された複数のECGの各々の前記フーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、
前記取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、
前記DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、前記分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、
前記分析されたDECGと健常者の前記DECGとの間の相違の程度を計算し、前記程度を炭水化物代謝障害の統合指標として使用するステップと、
前記炭水化物代謝障害の前記統合指標の時間的変動に基づいて、前記監視された患者の炭水化物代謝障害の前記レベルの前記時間的変動を評価するステップと、
炭水化物代謝障害の前記統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、前記監視された患者の炭水化物代謝障害の前記レベルを予測するステップと、
を含むコンピュータが補助する方法。
【請求項7】
フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法であって、前記ECGが、前記FPUの自己回帰の表現であり、
複数の監視された患者からの各患者について、患者の識別子でマークされた、前記患者の一連の記録された複数の少なくとも
I誘導
の心電図(ECG)をデータベースに収集するステップであって、前記一連のECGは、観察期間全体を通して以前に収集され
た複数の患者の一連のECGに、前記識別子でマークされた新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成される、ステップと、
前記記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換を実行して、前記記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、
前記記録された複数のECGの各々の前記フーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、
前記取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、
前記DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、前記分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、
前記CHMDの兆候を有する心電図の発生率に基づいて、前記監視された患者の炭水化物代謝障害の前記レベルの時間的変動を評価するステップと、
前記CHMDの兆候を有する心電図の前記発生率の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、前記監視された患者の炭水化物代謝障害の前記レベルを予測するステップと、
を含む、コンピュータが補助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学に関し、より詳細には、フェルミ・パスタ・ウラム(Fermi-Pasta-Ulam, FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系(open nonlinear self-oscillating system)と見なされる、心臓の心電図(ECG)から炭水化物代謝障害を検出するためにコンピュータが補助する方法に関し、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。
【0002】
この方法は、炭水化物代謝の障害を診断し、さらに糖尿病の有無を診断するために患者をフォローアップするために使用することができる。この方法は、臨床病院、救急救命センターを含む様々な状況で使用することができ、外来治療での病院外の患者の状態のフォローアップにも使用することができる。
【背景技術】
【0003】
2型糖尿病(T2D)は、インスリン抵抗性および膵臓のベータ細胞の機能不全の結果として発症する慢性内分泌疾患である。
【0004】
2型糖尿病は、インスリンに対する細胞抵抗性(インスリン抵抗性)の増加によって引き起こされる炭水化物の代謝の障害から生じる。組織がグルコースを受け入れ、利用する能力が低下し、高血糖の状態である血漿糖の上昇が発生する。
【0005】
インスリン非依存性糖尿病の検出の難しさは、病気の初期段階で顕著な症状がないことによって説明される。これに関して、危険にさらされている人々および40歳以上のすべての人々は、血漿糖レベルをスクリーニングすることが推奨されている。糖尿病の初期段階だけでなく、糖尿病前の状態も検出することができるので、最も有益なのは検査室診断である。
【0006】
医療システムの開発に許容できるコストで、様々な病気を有する患者の医療の質を向上させることは、極めて緊急の課題である。この作業の最も重要な方向性は、地域に関係なく、診断、スクリーニング、監視、および患者へのケアの提供のための様々な遠隔医療方法の開発である。これらの病気のうちの1つは、糖尿病である。
【0007】
患者の非侵襲的診断のための方法および装置が、たとえば、2013年7月20日に発行されたRU2487655C2に開示されている。この方法は、診断センターで患者の生物物理学的パラメータを測定することと、情報を処理し、蓄積するためにパラメータを統合システムに転送することと、患者の測定結果を患者の識別データと一緒にシステムに登録することと、分析し、診断することと、診断を、診断センターに送信されるフィードバック信号に変換することとを含む。診断センターは、各患者の生物物理学的パラメータの固定リストを測定し、現在の診断テストに起因する患者のパラメータの情報ベクトルを形成する。
【0008】
診断テストは定期的に実行され、現在および前の診断テストから得られた患者のパラメータの情報ベクトルの差から、患者の状態の変化の程度を評価するために、パラメータの偏差の情報ベクトルが決定され、次いで、変化の程度、患者の識別データ、ならびに病歴および遺伝的要因を反映する情報ベクトルを使用して診断が行われる。診断センターでの明確な診断には情報が不十分である場合、固定リストに含まれていない生物物理学的パラメータの追加測定が行われ、患者のパラメータの追加の情報ベクトルが形成され、追加の情報ベクトルを考慮に入れて診断が行われる。生物物理学的パラメータの測定の結果は、医療支援システムに含まれるすべての患者の統合レジスタに記録される。
【0009】
このシステムは、非侵襲的測定のための診断機器、情報処理および蓄積ユニットを備えた通信チャネル、診断評価ユニット、監視、制御および情報表示ユニット、治療の方法および手段を自動的に決定するためのユニットを収容するm個の診断センターを含む。すべての診断機器は、各診断センターで出力アダプタのそれぞれの入力に接続され、アダプタ出力は、二重通信チャネルを介してシステムの入力アダプタに接続され、入力アダプタは、第1の出力によって、診断評価ユニットの第1の入力ならびに情報処理および蓄積ユニットの第1の入力に接続され、第2の出力によって、患者の状態の追加のフォローアップのためのユニットの第1の入力に接続される。生物物理学的パラメータの追加測定のための診断機器は、通信チャネルを介して、患者の状態をさらにフォローアップするために、ユニットのそれぞれの入力に接続される。本発明は、意思決定プロセスのコンピュータ化により、患者を診断する客観性を向上させる。
【0010】
この装置の欠点は、診断センターを訪問する必要性、それに基づいて、および遺伝的要因を考慮して診断が行われる、患者の状態の変化の程度を決定するためのパラメータの偏差を検出するための診断テストの繰り返しを含む。
【0011】
本発明に最も密接に関連しているのは、たとえば、2017年7月4に公開されたRU2615721C2に開示されている患者の状態の心電図モニタリングのための装置である。装置は、モニタ、インターフェース、患者の身体から心電図信号を取得するためのECG電極を含み、これは、1次信号処理ユニットの入力に接続され、このユニットの別の入力は、時間サンプリングユニットの出力に接続され、1次信号処理ユニットの出力は、チャネル切替えユニットに接続されている。チャネル切替えユニットの出力は、出力が研究中の信号の高調波の振幅、周波数、位相の値を含む離散フーリエ変換ユニット、および患者データ入力ユニットに接続されている。高調波は、研究中の信号の高調波の振幅を必要な時間量の間記憶し、出力する心電図レコーダで処理される。高調波の振幅は、心電図画像識別子に送られ、これは、ECG電極から受信された画像を、信頼区間および指定された信頼性レベルを考慮して、心電図画像ベースからの画像と比較する。
【0012】
識別子の出力は、状態を登録し、その変遷を分析するためのユニットの入力に接続され、患者の病気の診断は、信頼区間および指定された信頼性レベルを考慮して、ECG電極からの心電図画像のセットを、心臓診断ベースからの病気の診断を特徴付けるセットと比較することによって、すべてのECG電極からの心電図画像のデータから形成される。同じユニットが、診断の信頼性、患者の以前の検査に応じた診断の変遷、および診断を行う時を決定する。データはモニタ上に表示され、他の技術的手段での保管および検査のためにインターフェース、および患者データ入力ユニットに転送され、そこでそれぞれの患者アーカイブに記憶される。
【0013】
この装置は複雑な設計であり、この開示は、患者の心臓の状態に基づいて炭水化物代謝障害を評価するために使用される基準には言及していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の非侵襲的検出のためにコンピュータが補助する方法を提供することであって、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。本発明のさらなる目的は、炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するために集団をスクリーニングするためにコンピュータが補助する方法、および患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法を提供することである。
【0015】
本発明は、心電図から炭水化物代謝障害をより良好に検出するために患者の心臓の状態を評価する精度を高め、診断、集団のスクリーニング、ならびに患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためのコストおよび時間を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の非侵襲的検出のためにコンピュータが補助する方法であって、ECGが、FPUの自己回帰の表現であり、少なくともI誘導の少なくとも1つの心電図(ECG)をとるステップと、前記少なくとも1つのECGについてフーリエ変換を実行して、前記少なくとも1つのECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、前記少なくとも1つのECGのフーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記少なくとも1つのECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、を含む、コンピュータが補助する方法を提供することによって達成される。
【0017】
好ましくは、離散化することは、平均化された形式でフーリエ変換された少なくともI誘導の少なくとも1つのECGの包絡線を構築することを含む。
【0018】
好ましくは、離散化することは、フーリエ変換された少なくともI誘導の少なくとも1つのECGの高調波ピーク包絡線を構築することを含む。
【0019】
この目的は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するために集団をスクリーニングするためにコンピュータが補助する方法であって、ECGが、FPUの自己回帰の表現であり、スクリーニングのためのターゲット感度および特異度の値を指定するステップと、スクリーニングを準備するステップであって、前記準備することが、指定されたターゲット感度および特異度の値を考慮に入れて、1人の被験者についてとられるべき心電図(ECG)の最小必要数、および、各年齢別研究グループのCHMDの兆候を有するECGの数のしきい値を表から決定することを含み、この数のしきい値を超えると、グループの患者においてCHMDがあることが認識される、ステップと、炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するために集団をスクリーニングするステップと、を含み、前記スクリーニングすることが、表から決定された、1人の被験者の最小必要数の少なくともI誘導の心電図(ECG)をとるステップと、決定された数のECGからとられた各ECGについてフーリエ変換を実行して、とられた各ECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、前記とられた各ECGのフーリエ振幅スペクトルを離散化して、前記とられた各ECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、DECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、スクリーニング結果の統計分析を実行するステップであって、前記統計分析が、1人の被験者のECGの最小数から、CHMDの兆候を有するECGの数を決定し、CHMDの兆候を有するECGの数と所定のしきい値とを比較することを含み、スクリーニング結果の統計分析に基づいて、被検者に炭水化物代謝障害があることが判断される、ステップと、を含む、コンピュータが補助する方法を提供することによってさらに達成される。
【0020】
好ましくは、この方法は、しきい値を超えた1人の被験者のCHMDの兆候を有するECGの数に基づいて、炭水化物代謝障害の重症度を判断し、重症度に基づいて、糖尿病を予備診断するステップをさらに含む。
【0021】
この目的は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法であって、ECGが、FPUの自己回帰の表現であり、複数の監視された患者からの各患者について、患者の識別子でマークされた、患者の一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)をデータベースに収集するステップであって、前記一連のECGは、観察期間全体を通して以前に収集された複数の患者の一連のECGに、前記識別子でマークされた新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成される、ステップと、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換を実行して、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを離散化して、記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、分析されたDECGと健常者のDECGとの間の相違の程度を計算し、程度を炭水化物代謝障害の統合指標として使用するステップと、炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動を評価するステップと、炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルを予測するステップと、を含む、コンピュータが補助する方法を提供することによっても達成される。
【0022】
この目的は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放
型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて患者の炭水化物代謝障
害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法であって、ECGが、FPUの自己回帰の表現であり、複数の監視された患者からの各患者について、患者の識別子でマークされた、患者の一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)をデータベースに収集するステップであって、前記一連のECGは、観察期間全体を通して以前に収集された複数の患者の一連のECGに、前記識別子でマークされた新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成される、ステップと、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換を実行して、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するステップと、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを離散化して、記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するステップと、取得されたDECGをコンピュータ処理のために使用するステップであって、前記コンピュータ処理が、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが、炭水化物代謝障害の兆候である、ステップと、CHMDの兆候を有する心電図の発生率に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動を評価するステップと、CHMDの兆候を有する心電図の発生率の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルを予測するステップと、を含む、コンピュータが補助する方法を提供することによってさらに達成される。
【0023】
本発明は、心電図からの炭水化物代謝の障害の非侵襲的検出のための信頼できる方法を提供する。
【0024】
本発明は、患者が状態の予備的な自己診断を行い、心電図に基づいて炭水化物代謝障害を迅速かつ明確に登録することを可能にする。
【0025】
以下、添付の図面を参照して、本発明について好ましい実施形態の説明によって解説する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】X軸が周波数を示し、Y軸が高調波の振幅を示す、健常者の心電図(ECG)のフーリエスペクトルを示す図である。
【
図2】炭水化物代謝障害の兆候を有する心電図(ECG)のフーリエスペクトルを示す図である。
【
図3A】炭水化物代謝障害の兆候がないことが確実にわかっている健常者のDECGを示す図である。
【
図3B】炭水化物代謝障害の兆候を有する入院患者のDECGを示す図である。
【
図4A】CHMDの兆候が検出されたECGと検出されなかったECGとの間の比率の変遷を示す図である(25年間にわたりT2Dと診断された73歳の患者)。
【
図4B】全観察期間の間、CHMDの兆候を有するECGおよび兆候のないECGの合計比率を示す図である(25年間にわたりT2Dと診断された73歳の患者)。
【
図5A】CHMDの兆候が検出されたECGと検出されなかったECGとの間の比率の変遷を示す図である(T2Dのない73歳の患者)。
【
図5B】全観察期間の間、CHMDの兆候を有するECGおよび兆候のないECGの合計比率を示す図である(T2Dのない73歳の患者)。
【
図6A】CHMDの兆候が検出されたECGと検出されなかったECGとの間の比率の変遷を示す図である(T2Dのない44歳の患者)。
【
図6B】全観察期間の間、CHMDの兆候を有するECGおよび兆候のないECGの合計比率を示す図である(T2Dのない44歳の患者)。
【
図7A】CHMDの兆候が検出されたECGと検出されなかったECGとの間の比率の変遷を示す図である(T2Dのない34歳の患者)。
【
図7B】全観察期間の間、CHMDの兆候を有するECGおよび兆候のないECGの合計比率を示す図である(T2Dのない34歳の患者)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本方法の理論的根拠
1954年に、科学者のフェルミ、パスタ、およびウラムは、非線形系がシングルモード励起の状態からエネルギーが一様に分布した状態に必然的に遷移することを数値的に実証しようとした。
【0028】
発明者らは、あるバージョンのフェルミ・パスタ・ウラムの回帰モデル(FPUの自己回帰)を提案し、数学的に説明し、検出されたFPUの自己回帰現象内の心臓の電気力学の適切な説明を仮定した。自己回帰は、非線形システムの状態が時間的に繰り返されるパターンである。心電図(ECG)の形式で正常に機能している心臓の電気力学に対応するFPUの自己回帰のソリューションの変遷は、コンピュータモデル研究によって取得された(Schmid A., Berezin A., Novopashin M. "Fermi-Pasta-Ulam auto recurrence in the description of the electrical activity of the heart", Journal Medical Hypothesis, 101 (2017) 17~22頁を参照されたい)。
【0029】
心臓は開放型非線形自励振動系であり、これは、2結合ファンデルポール方程式の系によって、いくつかの制限の下でモデル化できることが知られている。
【0030】
CardioQwarkインターネット心電計の少なくともI誘導のECGのビッグデータ技術を使用した大規模な研究により、患者のグループを、数カ月間、常時監視して収集し、前記モデルに当てはまらず、健常者と何らかの心臓病を有する患者の両方に特徴的ないくつかの規則性が明らかになった。
【0031】
仮説をテストするために、健常者と炭水化物代謝障害を有する患者の両方の20,000を超えるECGが検査された。
【0032】
健常者のECGアレイを処理した結果、健常者のECGの特徴的なタイプのフーリエスペクトルが決定された。
【0033】
ECGをシミュレートするために、心臓が自励振動モードで機能することが考慮され、これは、心臓活動のシミュレーションに使用される、FPUの回帰構造に同様の原理の変遷が存在することを意味する。
【0034】
研究の結果、正常に機能している心臓の電気的活動の変遷はFPUの自己回帰現象によって解釈することができることがわかり、一方、炭水化物代謝障害は、FPUの自己回帰の低周波の高調波と高周波の高調波との間でエネルギーが流れるときにノイズが現れることによって特徴付けられる。
【0035】
数学的シミュレーションは、心臓の電気的活動が、発明者によって最初に定式化されたFPUの自己回帰を表すことを示しており、これは個人の性質であり、その構造には心臓の生理学的状態および身体の病理学的プロセスの図を含み、そのパターンは、自己回帰のフーリエスペクトルに定期的に現れる。
【0036】
健常者のECGのフーリエスペクトルの自己回帰は、標準的なFPUの回帰に対応する1~5Hzの範囲の低周波部分と、高周波FPUの回帰に対応する20~35Hzの範囲の高周波部分の両方を含む。したがって、ECGは、完全なFPUの自己回帰の生物学的な例である。
【0037】
シミュレーション結果に基づいて、1人または複数人の患者の異なる心電図から取得された周波数パターンのセットは、無秩序な分布を有しておらず、したがって、いくつかの周波数パターンのセットは、何らかの近接度によって区別できることが示唆された。
【0038】
これは、クラスタリングアルゴリズムを複数のECG周波数パターンに適用することができ、特定の患者と共通の特徴について選択された患者グループの両方の状態の安定した周波数パターンを取得することができることを意味する。
【0039】
研究の目的として、発明者らは、州予算医療機関「City Clinical Hospital No. 52」および州予算医療機関「Moscow Clinical Scientific Center named after A. Loginov」の内分泌センターの5日間以上の滞在の128人の患者の1,997の心電図のデータ、および参照グループとして、炭水化物代謝障害(CHMD)のない様々な年齢グループの59人の患者の741の心電図のデータを使用した。
【0040】
発明者らは、CardioQVARKシステム(カーディオモニタ+ソフトウェア)を使用して、炭水化物代謝障害(CHMD)を有する患者の入院患者のフォローアップ中に施された治療の背景に対するECG波形の偏差、およびCHMDのない被験者(参照グループ)のECG波形とCHMD患者のECG波形との間の相違を研究した。
【0041】
健常者の心電図(ECG)のフーリエスペクトル(
図1)および炭水化物代謝障害(CHMD)の兆候を有する心電図(ECG)のフーリエスペクトル(
図2)が取得された。
【0042】
CHMDの兆候を有するECGのフーリエスペクトルは、周波数高調波の顕著な強度によって特徴付けられ、一方、健常者のECGのフーリエスペクトルは、周波数高調波の顕著な強度がないことによって特徴付けられる。
【0043】
心電図は、フーリエスペクトルの高調波によって特徴付けられる反復信号である。低周波(LF)範囲と高周波(HF)範囲との間のエネルギー伝達は、それらの間のノイズの量によって特徴付けられる。ノイズのレベルが高い場合、エネルギーが前後に流れるプロセスが進行中であることを意味する。エネルギーフローのプロセスの同期の違反が見られる場合、発明者らは、これを炭水化物代謝障害の兆候であると考える。
【0044】
自己回帰は、高周波数スペクトルと低周波数スペクトルとの間のエネルギーの前後の流れである。
【0045】
1つのECGでエネルギーがある方向に流れ、もう1つのECGでいくぶん異なる方法に流れることを比較するために、いくつかのECGを有する必要はない。一度心電図をとれば、エネルギーが流れるかどうかをノイズレベルで判断することが可能である。
【0046】
どこからどこに流れが向かうのかを決定することは不可能である。複数のECGを比較する場合でも、常に静止画像しか見ることができない。
【0047】
複数のECGにおいて、1つのECGのLF部分が減少し、HF部分が上昇することが連続して見られる。しかし、実際にはそれらは異なって上昇し、すなわち、LF高調波の一部は上昇し、一部は低下し得る。
【0048】
スペクトルごとに、カオス化の割合は、高調波分布によって計算することができる。人が健康である場合、その高調波分布曲線は凸型になり(軸Yはカオス化の割合、軸Xは周波数である)、一方、糖尿病患者の場合、曲線のくぼみ(凹面)が取得され、糖尿病予備軍の場合、くぼみは小さい。
【0049】
すべての状態がトレースされるわけではなく、多くの場合、状態(遷移状態)を変更するプロセスがトレースされる。複数の状態をトレースするには、多くの心電図をとる必要がある。
【0050】
1つのECGは、患者がこの状態にあり、この状態が一般化していることを示し得る。別のECGは、患者がある状態から別の状態に移行することを示し得る。高周波が増加するか減少するかに関係なく、これは時間的に発展するプロセス全体の別のフレームにすぎない。
【0051】
脳の機能的活動はグルコースの使用と密接に関連しており、したがって、脳血管の血流中のグルコース濃度が低下すると、血流強度を高めるために、脳から心臓をトリガするインパルスの振幅を増加させる必要がある。これは、洞結節に入る脳で生成されたインパルスの振幅が大幅に増加するためであり、炭水化物代謝障害の患者で見られる、狭い台座を有するECGスペクトルのフーリエ高調波のより堅固な形の形成につながる。これにより、次に、スペクトルのカオス化の割合が低下し、これは、炭水化物代謝障害の診断的兆候として役立つ可能性がある。このモードの心臓活動は、秩序無秩序型のギンツブルグ・ランダウ・ストリングの、ある解に対応している。脳血流中のグルコース濃度の減少に伴うフィードバックの遅れの大きさは、低血糖性昏睡の発症時の脳の反応時間に匹敵する可能性があることに留意されたい。
【0052】
機能の概日リズムに加えて、膵臓は、1~2Hzに等しい、心臓の収縮の主周波数と同期する機能のリズムも有する。FPUの自己回帰スペクトルの変遷のコンピュータ研究によって示されているように、膵臓のこのリズムの違背は、炭水化物代謝障害を有する患者のスペクトルで見られる、スペクトルの最低周波数の高調波のエネルギーの減少につながる。
【0053】
好ましい実施形態の説明
本発明によれば、心臓の心電図(ECG)からの炭水化物代謝障害の非侵襲的検出のためにコンピュータが補助する方法が提供される。上述のように、心臓は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされ、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。この方法は、次のステップを含む。
【0054】
少なくともI誘導の少なくとも1つの心電図がとられる。CMHDの存在を検出するには、単一の心電図があれば十分である。
【0055】
前記少なくとも1つのECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するために、少なくとも1つのECGの各々についてフーリエ変換が実行される(
図1および
図2)。
【0056】
前記少なくとも1つのECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、前記少なくとも1つのECGのフーリエ振幅スペクトルが離散化される(
図1または
図2の太い実線)。得られたDECGは、コンピュータ処理のために使用され、コンピュータ処理は、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからのCHMD患者のDECG(
図3B)と、注釈付きECGのセットからの健常者のDECG(
図3A)との類似性/相違を決定することによって、炭水化物代謝障害(CHMD)の心臓兆候の有無を検出することを含む。
【0057】
分析されたDECGとCMHD患者のDECGとの間に類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが炭水化物代謝障害の兆候である。
【0058】
この方法では、たとえば
、平均化された形式でフーリエ変換された少なくとも1つのECGの包絡線を構築することによって、離散化が実行される(
図1および
図2の太い実線)。
【0059】
離散化は、フーリエ変換された少なくとも1つのECGの高調波ピーク包絡線を構築することによって実行することができる(
図1および
図2の太い点)。
【0060】
本発明によれば、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて炭水化物代謝障害の兆候を有する人を検出するために集団をスクリーニングするためにコンピュータが補助する方法も提供され、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。スクリーニング方法は以下のように実行される。
【0061】
方法の効率を評価するために必要なスクリーニング感度および特異度の目標値が指定されている。
【0062】
研究の感度は、分析された人の2つの状態、健常者と病理を有する人との間を区別する能力であり、感度は、方法の正の陽性の結論と患者のグループの最終診断の総数との間の比率を定量的に反映する。
【0063】
特異度とは、病気をはねつける能力、すなわち、病気が実際に存在しない場合にその病気がないことを述べる能力である。特異度は、病気のない人のグループにおける陰性の結論の割合を定量的に反映する。
【0064】
感度および特異度を決定するために、各人が健康であるか病気であるかがわかっている人のグループが調査される。
【0065】
感度、特異度、および陽性結果の予測値(PPR)は、次の式を使用して計算される。
【0066】
【0067】
式中、Aは、正の陽性の結論の数、Bは偽陽性の結論の数、Cは偽陰性の結論の数、Dは正の陰性の結論の数である。
【0068】
炭水化物代謝障害を有する患者の心電図障害を検出するための感度および特異度を計算するために、2つのグループが形成された。
病人-少なくとも2回ECGをとった2型糖尿病を有する市臨床病院第52号MKSCの入院患者(127人)。
健常者-少なくとも2回ECGをとった糖尿病のない、糖尿病でない人を有する市臨床病院第52号MKSCのスタッフ(59人)。
【0069】
表1は、単一のECGで方法を適用した結果を示している。
【0070】
【0071】
感度および特異度の値は、患者の単一のECGではなく、複数のECGに基づいて結論を出すことによって大幅に増加させることができる。研究結果に基づいて、指定された数の心電図、CMHDの兆候を含む心電図の最小数のしきい値、ならびに感度および特異度の対応する値が表に作成される(表2)。
【0072】
【0073】
次いで、スクリーニングの準備が行われ、これは、感度および特異度の指定された目標値を考慮して、1人の被験者の心電図(ECG)の最小必要数、および監視対象の各年齢グループのCMHDの兆候を有するECGの数のしきい値を、表2から決定することを含む。
【0074】
次いで、炭水化物代謝障害の兆候を有する人を識別するためにその集団をスクリーニングする。スクリーニングは、
表から決定された、1人の被験者の最小必要数の少なくともI誘導の心電図(ECG)をとることと、
とられた各ECGについてフーリエ変換を実行して、とられた各ECGのフーリエ振幅スペクトルを取得することと、
とられた各ECGのフーリエ振幅スペクトルを離散化して、とられた各ECGの元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得することと、
DECGをコンピュータ処理のために使用することと、を含み、当該使用することが、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが炭水化物代謝障害の兆候である。
【0075】
次いで、スクリーニング結果の統計分析が実行され、これは、1人の被験者のECGの最小必要数から、CHMDの兆候を有するECGの数を決定し、それを(表2から)スクリーニングの準備中に指定されたしきい値と比較し、統計分析に基づいて、被検者に炭水化物代謝障害があることを判断することを含む。
【0076】
この方法は、しきい値を超えた1人の被検者のCHMDの兆候を有するECGの数から炭水化物代謝障害の重症度を決定し、決定結果に基づいて糖尿病を予備診断することをさらに含むことができる。
【0077】
本発明によれば、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)に基づいて患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視するためにコンピュータが補助する方法も提供され、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。監視方法は以下のように実行される。
【0078】
複数の監視された患者からの各患者について、患者の識別子でマークされた、一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)がデータベースに蓄積される。一連のECGは、識別子でマークされた、観察期間を通して以前に収集された患者の一連の複数のECGに、患者の新しく記録された各ECGを追加することによって生成される。
【0079】
収集された複数のECGの各ECGのフーリエ振幅スペクトルを取得するために、患者の収集された複数のECGの各ECGについてフーリエ変換が実行される。
【0080】
収集された複数のECGの各ECGのフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、各収集されたECGのフーリエ振幅スペクトルが離散化される(
図1および
図2の太線)。
【0081】
得られたDECGは、コンピュータ処理のために使用され、コンピュータ処理は、DECGを分析して、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出することを含み、分析されたDECGとCHMD患者のDECGとの類似性があること、および健常者のDECGとの類似性がないことが炭水化物代謝障害の兆候である。
【0082】
次いで、一実施形態では、炭水化物代謝障害(CMHD)の統合指標の時間的変動によって、または別の実施形態では、患者の心電図におけるCMHDの兆候の発生率の変動によって、経時的な患者の状態を監視することができる。
【0083】
DECGの統合指標の時間的変化に基づいて患者の状態を監視するとき、分析されたDECGと健常者のDECGとの相違の程度が計算され、炭水化物代謝障害の統合指標として使用される。
【0084】
炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動が評価される。
【0085】
炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、監視された患者の炭水化物代謝障害のレベルが予測される。
【0086】
患者の心電図におけるCMHDの兆候の発生率の変動に基づいて監視すると、すべての一連のECGが、CMHDの兆候を有するもの、およびCMHDの兆候がないものとの2つのクラスに分けられる(
図4A、
図5A、
図6A、
図7A)。
【0087】
患者の一連のN個のECGにおけるCHMDの兆候の存在の分析結果が統計的に要約される。一連のCMHDの兆候の発生率に応じて、糖尿病の存在を予備診断する程度まで、患者にすでに存在する炭水化物代謝障害の重症度について結論が出される。
【0088】
患者のCMHDの兆候を有するECGの発生率の増減の変遷は、日、週、月、年の前および後の観測期間についてCMHDの兆候を有するECGの発生率を比較することによって、以前に蓄積された患者のECGのアレイ全体の観察に基づいて監視される。
【0089】
糖尿病では、冠状動脈性心臓病が急速に進行し、しばしば心臓発作の原因になり、そのため、様々な状態の心電図から患者自身が炭水化物代謝障害を非侵襲的に検出することが重要である。
【0090】
ECG診断は、緊急時に心臓発作の原因を数分で発見し、遅滞なく的を絞った支援を提供するのに役立つ。
【0091】
以下は、フェルミ・パスタ・ウラム(FPU)の自己回帰によって特徴付けられる開放型非線形自励振動系と見なされる、心臓の心電図(ECG)を使用して患者の炭水化物代謝障害のレベルを監視する例であり、ECGは、FPUの自己回帰の表現である。
【0092】
特に、2型糖尿病の診断が証明された患者、および糖尿病の診断が証明されていない患者、すなわち健常者について研究された。
【0093】
例1
患者A、73歳。診断:25年間にわたり2型糖尿病。関連する慢性病はない。検査結果によると、全般的な病状は良好である。
【0094】
心電図(ECG)の監視が行われた。ECGは、2017年9月から2019年8月まで週5~20回とられた(
図4A)。
【0095】
患者の識別子でマークされた、患者の一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)がデータベースに蓄積された。一連のECGは、観察期間を通して以前に蓄積された一連の複数のECGに、新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成された。
【0096】
記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するために、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換が実行された。
【0097】
記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルが離散化された(
図1および
図2の例)。
【0098】
最終的に、一連内のすべてのECGは、CMHDの兆候を有するものとCHMDの兆候がないものとの2つのクラスに分けられる(
図4A)。
【0099】
コンピュータ処理が実行され、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出するために、DECGが分析された。
【0100】
分析されたDECGと健常者のDECGとの間の相違の程度が計算され、炭水化物代謝障害の統合指標として使用された。
【0101】
炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、患者における炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動が評価された。
【0102】
炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における登録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、患者Aの炭水化物代謝障害のレベルが予測された。
【0103】
観察期間全体で、CMHDの心臓兆候を有するECGの合計比率は99%であり、CMHDの心臓兆候のないECGは1%であった(
図4B)。
【0104】
患者のCMHDの兆候を有するECGの発生率の増減の変遷は、日、週、月、年の前および後の観測期間についてCMHDの兆候を有するECGの発生率を比較することによって、以前に収集された患者のECGのアレイ全体の観察に基づいて監視された。
【0105】
2型糖尿病が証明された患者Aの見かけの傾向(破線)は、CMHDの兆候の発生率に変遷がないことを示しており(
図4A)、これは、炭水化物代謝の正常化に向けた正の変遷を示している可能性がある。
【0106】
上記から、2型糖尿病が証明された患者のCMHDの兆候の発生率には変遷がないことがわかる(
図4A)。
【0107】
例2
患者B、73歳。糖尿病は診断されていない。関連する慢性病はない。検査結果によると、全般的な病状は良好である。
【0108】
心電図(ECG)の監視が行われた。ECGは、2016年2月から2019年8月まで週5~20回とられた(
図5A)。
【0109】
患者の識別子でマークされた、一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)がデータベースに蓄積された。一連のECGは、観察期間を通して以前に蓄積された一連の複数のECGに、新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成された。
【0110】
記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するために、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換が実行された。
【0111】
記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルが離散化された(
図1および
図2の例)。
【0112】
最終的に、一連内のすべてのECGは、CMHDの兆候を有するものとCMHDの兆候がないものとの2つのクラスに分けられる(
図5A)。
【0113】
コンピュータ処理が実行され、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出するために、DECGが分析された。
【0114】
分析されたDECGと健常者のDECGとの間の相違の程度が計算され、炭水化物代謝障害の統合指標として使用された。
【0115】
炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、患者における炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動が評価された。
【0116】
炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、患者Bの炭水化物代謝障害のレベルが予測された。
【0117】
観察期間全体で、CMHDの心臓兆候を有するECGの合計比率は47%であり、兆候のないECGは53%であった(
図5B)。
【0118】
CMHDの兆候を有するECGの患者の発生率の増減の変遷は、日、週、月、年の前および後の観測期間についてCMHDの兆候を有するECGの発生率を比較することによって、以前に蓄積された患者のECGのアレイ全体の観察に基づいて監視された。
【0119】
糖尿病と診断されていない患者Bの見かけの傾向(破線)は、CMHDの兆候の発生率の低下を示しており、これは、炭水化物代謝の正常化に向けた正の変遷を示している可能性がある。
【0120】
したがって、これは、CHMDの兆候の発生率が高い患者のフォローアップの一例である。
【0121】
例3
患者C、44歳。糖尿病は診断されていない。関連する慢性病はない。検査結果によると、全般的な状態は良好である。
【0122】
心電図(ECG)の監視が行われた。ECGは、2017年4月から2019年8月まで週5~20回とられた(
図6A)。
【0123】
患者の識別子でマークされた、一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)がデータベースに蓄積された。一連のECGは、観察期間を通して以前に蓄積された一連の複数のECGに、新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成された。
【0124】
記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するために、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換が実行された。
【0125】
記録されたECGのセットの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、記録されたECGのセットの各々のフーリエ振幅スペクトルが離散化された(
図1および
図2の例)。
【0126】
最終的に、一連内のすべてのECGは、CMHDの兆候を有するものとCMHDの兆候がないものとの2つのクラスに分けられる(
図6A)。
【0127】
コンピュータ処理が実行され、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出するために、DECGが分析された。
【0128】
分析されたDECGと健常者のDECGとの間の相違の程度が計算され、炭水化物代謝障害の統合指標として使用された。
【0129】
炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、患者における炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動が評価された。
【0130】
炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、患者Cの炭水化物代謝障害のレベルが予測された。
【0131】
観察期間全体で、CMHDの心臓兆候を有するECGの合計比率は29%であり、兆候のないECGは71%であった(
図6B)。
【0132】
患者のCMHDの兆候を有するECGの発生率の増減の変遷は、日、週、月、年の前および後の観測期間についてCMHDの兆候を有するECGの発生率を比較することによって、以前に蓄積された患者のECGのアレイ全体の観察に基づいて監視された。
【0133】
糖尿病と診断されていない患者Cの見かけの傾向(破線)は、CMHDの兆候の発生率の低下を示しており(
図4A)、これは、炭水化物代謝の正常化に向けた正の変遷を示している可能性がある。
【0134】
したがって、これは、CHMDの兆候の発生率が低下した患者のフォローアップの一例である。
【0135】
例4
患者D、34歳。糖尿病は診断されていない。関連する慢性病はない。検査結果によると、全般的な状態は良好である。
【0136】
心電図(ECG)の監視が行われた。ECGは、2017年4月から2019年8月まで週5~20回とられた(
図7A)。
【0137】
患者の識別子でマークされた、一連の記録された複数の少なくともI誘導の心電図(ECG)がデータベースに蓄積された。一連のECGは、観察期間を通して以前に蓄積された一連の複数のECGに、新しく記録された患者の各ECGを追加することによって生成された。
【0138】
記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルを取得するために、記録された複数のECGの各々についてフーリエ変換が実行された。
【0139】
記録された複数のECGの各々の元のフーリエ振幅スペクトルの離散形(DECG)を取得するために、記録された複数のECGの各々のフーリエ振幅スペクトルが離散化された(
図1および
図2の例)。
【0140】
最終的に、一連内のすべてのECGは、CMHDの兆候を有するものとCMHDの兆候がないものとの2つのクラスに分けられる(
図7A)。
【0141】
コンピュータ処理が実行され、注釈付きECGのセットからの炭水化物代謝障害(CHMD)患者のDECGと、注釈付きECGのセットからの健常者のDECGとの類似性/相違を決定することによって、CHMDの心臓兆候の有無を検出するために、DECGが分析された。
【0142】
分析されたDECGと健常者のDECGとの間の相違の程度が計算され、炭水化物代謝障害の統合指標として使用された。
【0143】
炭水化物代謝障害の統合指標の時間的変動に基づいて、患者における炭水化物代謝障害のレベルの時間的変動が評価された。
【0144】
炭水化物代謝障害の統合指標の以前の値における記録された時間的変動を含む「フォローアップ履歴」に基づいて、患者Dの炭水化物代謝障害のレベルが予測された。
【0145】
観察期間全体で、CMHDの心臓兆候を有するECGの合計比率は9%であり、兆候のないECGは91%であった(
図7B)。
【0146】
患者のCMHDの兆候を有するECGの発生率の増減の変遷は、日、週、月、年の前および後の観測期間についてCMHDの兆候を有するECGの発生率を比較することによって、以前に収集された患者のECGのアレイ全体の観察に基づいて監視された。
【0147】
糖尿病と診断されていない患者Dの見かけの傾向(破線)は、CMHDの兆候の発生率の低下を示しており、これは、炭水化物代謝の正常化に向けた正の変遷を示している可能性がある。
【0148】
したがって、これは、CHMDの兆候の発生率が低下した患者のフォローアップの一例である。