(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20240930BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087 325
G03G9/08
(21)【出願番号】P 2020150549
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019166952
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水口 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 禎崇
(72)【発明者】
【氏名】友野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松下 修
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】香川 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘貴
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071377(JP,A)
【文献】特開2014-167602(JP,A)
【文献】特開2019-139132(JP,A)
【文献】特開2018-101125(JP,A)
【文献】特開2004-170606(JP,A)
【文献】特開2019-144364(JP,A)
【文献】特開2019-117218(JP,A)
【文献】特開2019-109274(JP,A)
【文献】特開2017-173545(JP,A)
【文献】特開平05-297629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0336726(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂
及び結晶性ポリエステルを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂が、ビニル重合体部位及び非晶性ポリエステル部位を有するハイブリッド樹脂を含有し、
該結晶性ポリエステルが、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸を含む酸成分との縮重合物であって、末端に脂肪族モノカルボン酸が縮合した構造及び末端に脂肪族モノアルコールが縮合した構造の少なくともいずれかを有し、該脂肪族ジオールの炭素数をC1とし、該脂肪族ジカルボン酸の炭素数をC2としたときに、C1及びC2の和が、10以上16以下であり、
該トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる、温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、
(i)80℃における貯蔵弾性率G’(80℃)が、2.0×10
3Pa以上2.0×10
5Pa以下であり、
(ii)60℃から80℃の範囲における貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値が、-1.0×10
6以下であり、
25℃から120℃まで、10℃/minの昇温速度で該トナーを昇温したとき、80℃における該トナーの投影面積をS
1(μm
2)とし、80℃における該トナーの投影面積の半径をR
1(μm)とし、120℃における該トナーの投影面積をS
2(μm
2)としたとき、
該S
1、R
1及びS
2が、下記式(1)を満たすことを特徴とするトナー。
(1) S
2/S
1×1/R
1≦0.22
【請求項2】
前記温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、
120℃における貯蔵弾性率G’(120℃)が、2.0×10
3Pa以上2.0×10
4Pa以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記トナーのテトラヒドロフランを用いたソックスレー抽出において18時間抽出したとき、前記トナーがテトラヒドロフラン不溶分を含有し、
該テトラヒドロフラン不溶分の回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に測定される、120℃における貯蔵弾性率G’(120℃)が、1.0×10
5Pa以上1.0×10
7Pa以下である請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
酢酸エチルを用いた前記トナーのソックスレー抽出において、18時間抽出したときの前記トナーの酢酸エチル不溶分の含有量をα質量%とし、
テトラヒドロフランを用いた前記トナーのソックスレー抽出において、18時間抽出したときの前記トナーのテトラヒドロフラン不溶分の含有量をβ質量%としたとき、
該α及び該βが、下記式(2)及び(3)を満たす請求項1~3のいずれか一項に記載のトナー。
(2) 5.0 ≦ β ≦ 30.0
(3) 10.0≦(α-β)≦40.0
【請求項5】
前記ビニル重合体部位は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造を有し、
該ビニル重合体部位中の該アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造の合計の含有量が、50質量%以上98質量%以下である請求項
1~4のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項6】
前記ハイブリッド樹脂中の前記非晶性ポリエステル部位の含有量が、50質量%以上98質量%以下である請求項
1~5のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項7】
前記非晶性ポリエステル部位が、3価以上の多価アルコール及び3価以上の多価カルボン酸からなる群から選択される少なくとも一により架橋された構造を有する請求項
1~6のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項8】
前記トナーの示差走査熱量計(DSC)測定において、
(i)降温時における40℃以上120℃以下の範囲での冷結晶化ピークの個数をX個とし、
(ii)2回目の昇温時における40℃以上120℃以下の範囲での吸熱ピークの個数をY個としたとき
X及びYが、下記式(7)及び(8)を満たす
請求項1~
7のいずれか一項に記載のトナー。
(7) X ≧ 1
(8) Y ≧ X+1
【請求項9】
前記トナー粒子が、結晶性ポリエステル樹脂を含有し、
前記トナーの示差走査熱量測定において、
25℃から120℃まで1000℃/秒の速さで昇温し、
100m秒の間、120℃で温度を保持し、25℃まで1000℃/秒の速さで冷却した後に、
120℃まで1000℃/秒の速さで昇温し、
1度目の昇温におけるガラス転移温度をTg1(℃)とし、2度目の昇温におけるガラス転移温度をTg2(℃)としたとき、
下記式(9)及び(10)を満たす請求項1~
8のいずれか一項に記載のトナー。
(9) 65℃≦Tg1≦85℃
(10) 7℃≦Tg1-Tg2≦30℃
【請求項10】
前記温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、貯蔵弾性率が1.0×10
3Paとなる温度をT1(℃)とし、
前記トナーの示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、30℃から120℃の範囲に吸熱ピークを有し、
該吸熱ピークの最も低温側に存在するピークのピーク温度をT2(℃)としたとき、
下記式(11)を満たす請求項1~
9のいずれか一項に記載のトナー。
(11) T1-T2≧40
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電荷像を顕像化するための画像形成方法に使用されるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法を用いた画像形成装置は、省エネルギー化に対する要求が高く、トナーの低温定着性の向上が求められている。一般的に低温定着性はトナーの粘度と関係があり、定着時の熱により素早く粘度が低下するトナーが求められる。しかし、このような低温定着性を満足させたトナーは現像器内の攪拌や本体の昇温といった外的なストレスに対して弱く、外添剤の埋め込みによる耐久性の低下や保存性の低下といった問題を生じやすい。
また、近年では省エネルギー化に加えて、装置の高速化に対する要望も高い。高速化された画像形成装置において、全面ベタ画像を出力すると、紙表面の凹凸によって、トナーの溶融度に差が生じる濃度ムラといった課題も見られる。このような現象は低粘度化されたトナーにおいて発生しやすく、省エネルギー化対応と高速化対応を両立することは技術的なハードルが高く非常に困難である。
特許文献1では、低温定着性及び耐オフセット性を向上するために、80℃から140℃における貯蔵弾性率G’を制御したトナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記文献のように貯蔵弾性率G’を制御したトナーは、低温定着性に一定の効果はあるものの、より高速化された画像形成装置においては、ベタ画像濃度ムラを発生することがわかった。よって、ベタ画像濃度ムラに対して改善の余地を有する。
本発明は上記問題点を解消したトナーを提供する。
すなわち、高速機においても良好な低温定着性を有し、ベタ画像濃度ムラを抑制できるトナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検討を重ねた結果、下記構成にすることで、上記要求を満足できることを見いだし、本発明に至った。
即ち本発明は、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる、温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、
(i)80℃における貯蔵弾性率G’(80℃)が、2.0×103Pa以上2.0×105Pa以下であり、
(ii)60℃から80℃の範囲における貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値が、-1.0×106以下であり、
25℃から120℃まで、10℃/minの昇温速度で該トナーを昇温したとき、80℃における該トナーの投影面積をS1(μm2)とし、80℃における該トナーの投影面積の半径をR1(μm)とし、120℃における該トナーの投影面積をS2(μm2)としたとき、
該S1、R1及びS2が、下記式(1)を満たすことを特徴とするトナー。
(1) S2/S1×1/R1≦0.22
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高速機においても良好な低温定着性を有し、ベタ画像濃度ムラを抑制できるトナーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
低温定着性が良好にするためには、定着のニップを通過するわずかな時間でトナーを迅速に溶融させる必要がある。一般的にトナーを迅速に溶融させる手法としては、トナー中の樹脂成分の溶融特性を制御することが知られている。近年では定着助剤(低融点ワックスや結晶性樹脂等の添加物)を用い、可塑効果により樹脂成分の溶融特性を制御する方法が種々検討されている。
そこで低温定着性向上の観点から、結晶性ポリエステルを添加したトナーを評価したところ、低温定着性に一定の効果はあるものの、次世代を想定した高速印字条件下においてはベタ画像濃度ムラを発生することがわかった。そのため、今後の省エネルギー化や高速化の要求に対しては、定着ニップ通過時にトナーを低粘度化しても、紙上の凸部でトナーが濡れ広がり過ぎず、ベタ画像濃度ムラを抑制できるトナーの検討が必要である。
【0008】
本発明者らが、低温定着性の向上とベタ画像濃度ムラの抑制というトレードオフ項目を解決すべく検討を進めた結果、下記に示す特徴を有するトナーを用いることで、上記課題を解決できるという考えに行きついた。
即ち本発明は、
結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる、温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、
(i)80℃における貯蔵弾性率G’(80℃)が、2.0×103Pa以上2.0×105Pa以下であり、
(ii)60℃から80℃の範囲における貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値が、-1.0×106以下であり、
25℃から120℃まで、10℃/minの昇温速度で該トナーを昇温したとき、80℃における該トナーの投影面積をS1(μm2)とし、80℃における該トナーの投影面積の半径をR1(μm)とし、120℃における該トナーの投影面積をS2(μm2)としたとき、
該S1、R1及びS2が、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
(1) S2/S1×1/R1≦0.22
【0009】
以下に、トナーについて具体的に示していく。
トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、80℃における貯蔵弾性率G’(80℃)が2.0×103Pa以上2.0×105Pa以下であることが必要である。
また、貯蔵弾性率G’(80℃)は、良好な低温定着性を得られることから、2.0×103Pa以上1.5×105Pa以下が好ましく、2.0×103Pa以上1.0×105Pa以下がより好ましい。
【0010】
通常、紙表面には無数の凹凸が存在し、凹部は凸部よりも定着ニップ通過時に受ける熱及び圧力が少なくなる傾向にある。よって、凹部のトナーは凸部のトナーに対して溶融不
足になりやすく、定着不良を生じやすい。本発明者らが鋭意検討を行った結果、80℃におけるトナーの貯蔵弾性率G’(80℃)と、紙上の凹部におけるトナーの溶融度合いが対応することがわかった。
貯蔵弾性率G’は、高分子における弾性、すなわち応力に対する可逆な性質を表す指標である。トナーの貯蔵弾性率G’は、定着ニップ部においてトナーが熱と圧力により変形した際にもとの状態に復元する力を表すものである。つまりトナーを形成する分子内にばねのような性質があるかどうかを示しており、値が小さいほどトナーが柔らかく、良好な低温定着性を有することを示す。
【0011】
トナーの貯蔵弾性率G’(80℃)が、2.0×105Paより大きいと、定着ニップ内で受けた熱、及び定着ニップ通過後に受けた余熱により、トナーが十分に低粘度化しない。結果として、メディア-トナー間、及びトナー-トナー間の付着力が低下し、定着画像を擦った際にメディア表面からトナーが剥がれる定着不良が発生する。
【0012】
また、高速印字条件下において画像を出力した場合、メディアが定着ニップを通過した際に、印字部の一部が欠けたり、抜けたりする定着不良も見られる。これは、マシンの高速化によってメディア上のトナーの定着ニップ間を通過する時間が減少することが原因と考えられる。
定着ニップ通過中に十分に溶融しきれなかったトナーは、熱源である定着部材側に対して強く付着し、印字部がオフセットしてしまう。この印字部の抜け及び欠けは、トナーが定着ニップを通過した瞬間に発生するため、トナーが定着ニップ中で受けた熱量のみで発生の有無が決まる。つまり、定着ニップ通過後の余熱によるトナーの溶融は影響しない。
本発明者らが、印字部の抜け及び欠けを抑制するために鋭意検討を行った結果、下記構成を採用することで解決できるという考えに行きついた。
【0013】
トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる温度T[℃]-貯蔵弾性率G’[Pa]曲線において、60℃から80℃の範囲における貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値が、-1.0×106以下である。
該変化量(dG’/dT)の極小値は、良好な低温定着性を得られることから、-5.0×106以下が好ましい。下限は特に制限されないが、好ましくは-1.0×108以上であり、より好ましくは-5.0×107以上である。
【0014】
該変化量(dG’/dT)は、温度Tに対する貯蔵弾性率G’の傾きを示している。つまり、値が小さいほど急激にトナーの粘度が変化しやすいことを意味しており、印字部の抜け及び欠けを抑制しやすいトナーであるといえる。
トナーの貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値が、-1.0×106よりも大きいと、トナーが定着ニップを通過する短い時間内で十分に粘度低下できず印字部の抜け及び欠けが発生する。
【0015】
トナーの貯蔵弾性率G’(80℃)、及びトナーの貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値は、例えば、トナー中の樹脂成分の組成や定着助剤の組成、さらには材料(定着助剤、着色剤等)の分散性を変更することで制御できる。その他、トナー中に含まれる無機粒子の含有量を調整することでも制御できる。
【0016】
また、該温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、120℃における貯蔵弾性率G’(120)が、2.0×103Pa以上2.0×104Pa以下であることが好ましく、4.0×103Pa以上1.0×104Pa以下であることがより好ましい。
【0017】
上述したように、紙表面の凸部は凹部よりも定着ニップ通過時に受ける熱量が多くなる
傾向にある。よって、凸部のトナーは凹部のトナーに対して過剰溶融になりやすく、ベタ画像濃度ムラを生じやすい。本発明者らが鋭意検討を行った結果、120℃におけるトナーの貯蔵弾性率G’(120)と、紙上の凸部における溶融度合が対応することがわかった。
トナーの貯蔵弾性率G’(120℃)を上記範囲とすることで、ベタ画像濃度ムラを抑制できると共に、ホットオフセット耐性が良好なトナーを得ることができる。貯蔵弾性率G’(120℃)は、例えば、トナー中の樹脂成分の組成や定着助剤の組成、さらには材料(定着助剤、着色剤等)の分散性を変更することで制御できる。その他、トナー中に含まれる無機粒子の含有量を調整することにより制御できる。
【0018】
25℃から120℃まで、10℃/minの昇温速度でトナーを昇温したとき、80℃におけるトナーの投影面積をS1[μm2]とし、80℃におけるトナーの投影面積の半径をR1[μm]とし、120℃におけるトナーの投影面積をS2[μm2]としたとき、
S1、R1及びS2が下記式(1)を満たす。
(1) S2/S1×1/R1≦0.22
【0019】
S1、S2、及びR1の関係を上記範囲にすることで、高速印字した際にも、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。その理由について、以下のように考察している。
上述したように、ベタ画像濃度ムラの主な発生要因は、メディアの凹凸によるトナーの溶けムラだと考えられている。特に、一般的に用いられている紙の場合は、紙表面の凹部と凸部で約30μm程度のばらつきが存在する。
通常、定着器の温度は、定着ニップ部で受ける熱量が小さい凹部のトナーが定着できるように設定するため、凸部のトナーは定着ニップ部で受ける熱量が過剰となる。高速化対応したマシンの場合、凹部上のトナーと凸部上のトナーの受ける熱量の差はより大きくなり、トナーの到達温度には約40℃程度の差が生じることがわかった。
よって、高速化対応したマシンにおいても、ベタ画像濃度ムラを抑制する為には、異なる温度条件下においても紙上のトナーの濡れ広がる面積に、差が少ないことが求められる。このような効果を得るために発明者らが鋭意検討を行った結果、式(1)から算出される濡れ広がりパラメーターを上記の範囲とすることが重要であることがわかった。
【0020】
トナーのメディアに対する濡れ広がり易さは、トナー材料の組み合わせ、及びトナー粒径で制御することができる。ただし、トナー粒径は、本体やカートリッジCRGの構成によりしばしば限定され、自由に選択できない場合が多い。よって、トナーのメディアに対する濡れ広がりやすさは、トナー材料の組み合わせで制御することに着目した。
具体的には、トナーのメディアに対する濡れ広がり易さから、トナー粒径の因子を除くために、1/R1の積を取ることにした。その理由を以下に示す。
【0021】
トナーを球形と仮定した場合、定着前のトナーの体積は、半径の3乗に比例する。一方、トナーのメディアに対する投影面積は、半径の2乗に比例する。トナーがメディア上で一定の厚みまで濡れ広がると仮定すると、体積と面積の指数の差を考慮しなければならない。
よって、トナーの80℃における投影面積と120℃における投影面積の変化率S2/S1に対して、1/R1の積を取ることでトナー粒径の因子を除けると考えている。
【0022】
S2/S1×1/R1が、0.22よりも大きいと、紙表面の凹部に対して凸部のトナーの面積変化が大きくなるため、ベタ画像濃度ムラが発生してしまう。S2/S1×1/R1は、0.20以下であることが好ましい。一方、下限は特に制限されないが、好ましくは0.12以上であり、より好ましくは0.15以上である。
S2/S1×1/R1の値は、例えば後述するような結着樹脂を用いることにより制御
することができる。また、結晶性材料(結晶性樹脂、ワックス等)の分散径、融点、及び結着樹脂との相溶性を調整することでも制御できる。
【0023】
酢酸エチルを用いたトナーのソックスレー抽出において、18時間抽出したときのトナー中の酢酸エチル不溶分の含有量をα質量%としたとき、αが、25.0質量%以上55.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
酢酸エチルはエステル基を有しており、極性が高いため、同様にエステル基を持ち、極性が高い線状成分を抽出することができる。一方、極性が高い成分であっても分子同士の絡まりが強い場合や非極性成分の抽出はほとんど進まない。すなわち、後述するビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間の架橋構造、及び非晶性ポリエステル部位中の架橋構造などは酢酸エチルの不溶分となる。
酢酸エチルに可溶する線状成分は、高温高湿環境で樹脂を可塑化させるため、結着樹脂の酢酸エチル不溶分の含有量が上記範囲を満たすことで、高温高湿環境で長期間使用した際、トナーの可塑化を抑制し、耐久性が良好になる。
酢酸エチル不溶分の含有量は、結着樹脂のモノマー組成や製造条件、及びトナーの製造条件を変更することによって調整することができる。
【0025】
また、テトラヒドロフラン(THF)を用いたトナーのソックスレー抽出において、18時間抽出したときのトナー中のテトラヒドロフラン不溶分の含有量をβ(質量%)としたとき、βが、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(2’)を満たすことがより好ましく、下記式(2’’)を満たすことがさらに好ましい。
(2) 5.0 ≦ β ≦ 30.0
(2’) 5.0 ≦ β ≦ 20.0
(2’’) 8.0 ≦ β ≦ 20.0
【0026】
THFはフラン環を有しており、極性を持つ線状成分だけでなく、極性を持つ絡まりが強い成分、さらには非極性の線状成分を溶出できるため、結着樹脂の大部分の成分を溶出させることができる。
すなわち、後述する非晶性ポリエステル部位中の架橋構造などはTHFの不溶分となる。THFの不溶分は、定着時の温度領域において変形しにくく、トナーが溶融した際にトナーが過剰に変形することを抑制でき、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。また、トナーの外添剤埋没を抑制できるため、耐久性が良好になる。
THF不溶分の含有量は、結着樹脂のモノマー組成や製造条件、及びトナーの製造条件を変更することによって調整することができる。
【0027】
また、該酢酸エチル不溶分の含有量α質量%、及びテトラヒドロフラン不溶分の含有量β質量%が下記式(3)を満たすことが好ましく、下記式(3’)を満たすことがより好ましく、下記式(3’’)を満たすことがさらに好ましい。
(3) 10.0≦(α-β)≦40.0
(3’) 15.0≦(α-β)≦33.0
(3’’) 17.0≦(α-β)≦25.0
【0028】
上述したように、酢酸エチル不溶分の量は、例えばビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間の架橋構造、及び非晶性ポリエステル部位中の架橋構造が影響しうる。また、THFの不溶分の量は、非晶性ポリエステル部位中の架橋構造が影響しうる。つまり、式(3)中の(α-β)はビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間での架橋構造が影響しうる。
後述するが、ビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間の架橋構造は、架橋点間
距離が短く、密な網目を形成しているため、他の原材料と絡み合い、トナー中の材料分散性を向上させることができる。結果として、(α-β)が上記範囲を満たすトナーは、ベタ画像濃度ムラを抑制できることに加えて、カブリを抑制できる。
【0029】
トナーのテトラヒドロフランを用いたソックスレー抽出において18時間抽出したとき、トナーがテトラヒドロフラン不溶分を含有することが好ましい。そして、テトラヒドロフラン不溶分の回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に測定される、120℃における貯蔵弾性率G’(120)が、1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下であることが好ましく、2.0×105Pa以上5.0×106Pa以下であることがより好ましい。
THF不溶分の貯蔵弾性率G’(120)が上記範囲を満たすことで、ベタ画像濃度ムラを抑制できると共に、耐久性が良好なトナーを得ることができる。
【0030】
(結着樹脂)
結着樹脂は、特に制限されず公知の樹脂を用いることができる。結着樹脂は、ビニル重合体部位及び非晶性ポリエステル部位を有するハイブリッド樹脂を含有することが好ましい。結着樹脂が、溶融特性の優れる非晶性ポリエステル部位と、帯電特性に優れ、軟化点が高いビニル重合体部位とを有するハイブリッド樹脂を含有することで、結着樹脂の軟化点を高くしつつ、帯電安定性と低温定着性に優れる。その結果、低温定着性及び高湿環境下における画像濃度の安定性がより高まる。
結着樹脂中のハイブリッド樹脂の含有量は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
ハイブリッド樹脂は、ビニル重合体部位及び非晶性ポリエステル部位が、エステル交換反応によりハイブリッド化していることが好ましい。これにより、ビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間で架橋構造が構成され、酢酸エチル不溶分の含有量α質量%、THF不溶分の含有量β質量%を制御しやすくなる。
上記架橋構造は、架橋点間距離が短く、比較的小さな網目を構成しやすい為、架橋部位の貯蔵弾性率G’を高めることができる。よって、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。
【0032】
ハイブリッド樹脂は、非晶性ポリエステル部位とビニル重合体部位との質量比(非晶性ポリエステル部位:ビニル重合体部位)が、50:50~98:2であることが好ましく、70:30~97:3であることがより好ましく、90:10~97:3であることがさらに好ましい。
すなわち、ハイブリッド樹脂中の、非晶性ポリエステル部位の含有量が、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、70質量%以上97質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
上記範囲にすることで、ハイブリッド樹脂が有するメリットを得つつ、環境に依らず安定的な低温定着性を発揮する。また、酢酸エチル不溶分の含有量α質量%、THF不溶分の含有量β質量%を制御しやすくなり、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。
【0033】
ポリエステル樹脂又はポリエステル部位を構成するモノマーとしては以下の化合物が挙げられる。
アルコール成分としては、以下のような2価のアルコールが挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、下記(I)式で表されるビスフェノール及びその誘導体、並びに下記(II)式で表されるジオール類。
【0034】
【化1】
(式中、Rはエチレン基又はプロピレン基を示し、x及びyはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+yの平均値は0以上10以下である。)
【0035】
【0036】
酸成分としては、以下のような2価のカルボン酸が挙げられる。
フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸のようなベンゼンジカルボン酸類又はその無水物;こはく酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸のようなアルキルジカルボン酸類又はその無水物;炭素数6以上18以下のアルキル基若しくは炭素数6以上18以下のアルケニル基で置換されたこはく酸又はその無水物;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸のような不飽和ジカルボン酸又はその無水物。
【0037】
ポリエステル樹脂又はポリエステル部位は、多価アルコール由来のモノマーユニット、又は多価カルボン酸由来のモノマーユニットを含有することが好ましい。すなわち、非晶性ポリエステル部位は、3価以上の多価アルコール及び3価以上の多価カルボン酸からなる群から選択される少なくとも一により架橋された構造を有することが好ましい。これにより、非晶性ポリエステル部位に架橋構造が構成され、THFの含有量β質量%を制御しやすくなる。
上記架橋構造は、架橋点間距離が長く、比較的大きな網目を構成しやすい為、結着樹脂全体に3次元的なネットワーク構造を構築することができる。よって、ベタ画像濃度ムラ、及びトナーの耐久安定性が向上する。
【0038】
3価以上の多価カルボン酸としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物又は低級アルキルエステルなどが挙げられる。上記のうち、環境変動による安定性も高い芳香族系化合物が好ましく、例えば1,2,4-ベンゼントリカルボン酸及びその無水物が好ましい。
3価以上の多価アルコールとしては、1,2,3-プロパントリオール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0039】
結着樹脂は、ビニル重合体部位及び非晶性ポリエステル部位を有するハイブリッド樹脂を含有する樹脂組成物を含むことが好ましく、ビニル重合体部位及び非晶性ポリエステル部位を有するハイブリッド樹脂を含有する樹脂組成物であることがより好ましい。
該樹脂組成物は、
i)炭素数の平均値27以上50以下の長鎖アルキルモノアルコールが非晶性ポリエステル部位の末端に縮合した構造及び炭素数の平均値27以上50以下の長鎖アルキルモノカルボン酸が非晶性ポリエステル部位の末端に縮合した構造の少なくとも一方、並びに
ii)炭素数の平均値27以上50以下の脂肪族炭化水素、
を含有することが好ましい。
結着樹脂が上記樹脂組成物を含有することで、結晶性ポリエステルを添加した際に、結晶性ポリエステルの結晶化速度が向上し、耐熱保存性が良好なトナーを得ることができる。
結着樹脂中の該樹脂組成物の含有量は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
長鎖アルキルモノアルコールが縮合した構造を、以下、アルコール残基ともいう。長鎖アルキルモノカルボン酸が縮合した構造を、以下、カルボン酸残基ともいう。また、これらの残基を長鎖アルキル成分ともいう。
【0040】
ここで、長鎖アルキルモノアルコールのアルコール残基及び長鎖アルキルモノカルボン酸のカルボン酸残基の少なくとも一方の残基を末端に有するポリエステル樹脂とは、これらの長鎖アルキル成分がメインバインダー成分であるポリエステル樹脂に反応し組み込まれている樹脂を表している。
一方、樹脂組成物が上記平均炭素数の脂肪族炭化水素を含むことは、例えば、樹脂組成物が長鎖アルキル成分をアルコール変性又は酸変性した際の、未変性成分も含有していることを表す。
上記樹脂組成物は、長鎖アルキル成分が組み込まれたポリエステル樹脂と、(例えば長鎖アルキル成分の未変性品である)脂肪族炭化水素成分を有することを意味する。
【0041】
長鎖アルキル成分の炭素数の平均値は以下の方法で求める。
長鎖アルキル成分の炭素数分布は、ガスクロマトグラフィー(GC)により、以下のようにして測定する。サンプル10mgを精秤し、サンプルビンに入れる。このサンプルビンに精秤した10gのヘキサンを加えてフタをした後、ホットプレートで150℃に加温して混合する。
その後、長鎖アルキル成分が析出してこないようすばやくガスクロマトグラフィーの注入口へこのサンプルを注入して、下記測定装置及び測定条件で分析を行う。横軸を炭素数、縦軸をシグナルの強度とするチャートを得る。
次いで、得られたチャートにおいて、検出された全ピークのトータルの面積に対する各炭素数成分のピークの面積の割合を算出し、これを各炭化水素化合物の存在比率(面積%)とする。そして、横軸に炭素数、縦軸に炭化水素化合物の存在比率(面積%)を取り、炭素数分布チャートを作成する。そして、炭素数分布チャートのピークトップの炭素数を、炭素数の平均値とする。
【0042】
測定装置及び測定条件は、下記の通りである。
GC:HP社 6890GC
カラム:ULTRA ALLOY-1 P/N:UA1-30m-0.5F(フロンティア・ラボ社製)
キャリアーガス:He
オーブン:(1)温度100℃で5分ホールド、(2)30℃/分で温度360℃まで昇温、(3)温度360℃で60分ホールド
注入口:温度300℃
初期圧力:10.523 psi
スプリット比:50:1
カラム流量:1mL/min
【0043】
また、樹脂組成物中の、炭素数の平均値27以上50以下の脂肪族炭化水素、炭素数の平均値27以上50以下の長鎖アルキルモノアルコールが縮合した構造(アルコール残基)、及び炭素数の平均値27以上50以下の長鎖アルキルモノカルボン酸が縮合した構造(カルボン酸残基)の合計の含有割合が、2.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3.5質量%以上7.5質量%以下である。
長鎖アルキルに由来する成分の割合を上記範囲とすることで、結晶性ポリエステルの結晶化速度が制御しやすくなり、保存性が良好なトナーを得ることができる。
【0044】
また、樹脂組成物は、示差走査熱量測定(DSC)にて得られる温度-吸熱量曲線において、樹脂組成物の吸熱ピークのピークトップ温度が、60.0℃以上90.0℃以下であることが好ましい。
また、吸熱ピークの吸熱量(ΔH)が、0.10J/g以上1.90J/g以下であることが好ましく、0.20J/g以上1.00J/g以下であることがより好ましい。
【0045】
トナーの低温定着性とベタ画像濃度ムラの抑制を両立させるためには、トナー中で結晶性ポリエステルを均一に分散させることが好ましい。そのためには、結着樹脂中で長鎖アルキルに由来する成分が均一に分散していることが好ましく、ポリエステル樹脂成分と結合せず、遊離した成分、すなわち未変性の脂肪族炭化水素の量を適正化させることが好ましい。
【0046】
この未変性の脂肪族炭化水素は、示差走査熱量測定(DSC)にて得られる温度-吸熱量曲線において吸熱ピークが発現する。DSCで観測される、吸熱量ΔHが上記範囲内にあることは、遊離している長鎖アルキル成分が少ない、すなわち、ポリエステル樹脂(メインバインダー)に組み込まれていることを示す。
そのため、本発明者等はこの吸熱ピークの吸熱量(ΔH)を適正化することで、樹脂組成物中で長鎖アルキルに由来する成分が均一に分散しやすくなると考えている。
【0047】
吸熱ピークのピークトップ温度及び吸熱量(ΔH)は以下の方法で測定される。示差走査熱量測定(DSC)における吸熱ピークのピークトップ温度及び吸熱ピーク量は、示差走査型熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いて、ASTM D3418-82に準じて測定される。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、測定試料約5mgを精密に秤量し、これをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用いて、測定温度範囲30~200℃の間で、昇温速度10℃/minで常温常湿下測定を行う。
なお、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この昇温過程で得られるDSC曲線(温度-吸熱量曲線)において、温度30℃~200℃の範囲における最大の吸熱ピークのピークトップの温度を求める。また、吸熱ピークの吸熱量ΔHは、上記吸熱ピークの積分値である。
【0048】
長鎖アルキル成分の遊離量、すなわちDSCの吸熱ピークの量を制御する方法としては、脂肪族炭化水素のアルコール変性率又は酸変性率を高める方法が挙げられる。
すなわち、アルコール又は酸変性された長鎖アルキル成分は、重合反応でポリエステル樹脂と反応しポリエステル樹脂中へ組み込まれると、DSC測定において吸熱ピークが発現しない。一方、未変性の脂肪族炭化水素は、ポリエステル樹脂との反応点を持たない為、ポリエステル樹脂中で遊離した状態で存在することになり、DSCの吸熱量を高めることになる。
【0049】
炭素数の平均値が27以上50以下の長鎖アルキルモノアルコール、及び炭素数の平均
値が27以上50以下の長鎖アルキルモノカルボン酸は、工業的には原料となる脂肪族炭化水素をアルコール又は酸変性することで得られる。
脂肪族炭化水素は、飽和炭化水素及び不飽和炭化水素を含み、例えば、アルカン、アルケン、アルキンや、シクロヘキサンなどの環状の炭化水素が挙げられるが、飽和炭化水素(アルカン)であることが好ましい。
【0050】
例えば、アルコール変性品に関しては、炭素数が27以上50以下の脂肪族炭化水素を、硼酸、無水硼酸、又はメタ硼酸のような触媒の存在下に分子状酸素含有ガスで液相酸化することによりアルコールに転化できることが知られている。使用される触媒添加量は、原料脂肪族炭化水素1molに対して0.01mol~0.5molが好ましい。
反応系に吹き込む分子状酸素含有ガスとしては、酸素、空気又はそれらを不活性ガスで希釈した広範囲のものが使用可能であるが、酸素濃度3%~20%が好ましい。また、反応温度は、100℃以上200℃以下が好ましい。
DSCの吸熱量は、反応条件の最適化や、変性反応後に精製作業を行うことで、未変性の脂肪族炭化水素成分を除去することにより制御することができる。脂肪族炭化水素成分の変性率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。一方、上限は99%以下であることが好ましい。
【0051】
また、樹脂組成物は、炭素数の平均値27以上50以下の長鎖アルキルモノアルコールが末端に縮合した構造及び炭素数の平均値27以上50以下の脂肪族炭化水素を含有することが好ましい。長鎖アルキルモノアルコールは、2級アルコールを含有することが好ましく、2級アルコールを主成分として含有することがより好ましい。なお、2級アルコールを主成分とするとは、長鎖アルキルモノアルコール中の50質量%以上が2級アルコールであることを示す。
長鎖アルキルモノアルコールとして、2級アルコールを主成分として用いることで、長鎖アルキル成分が折りたたみ構造を取り易くなる。その結果、立体障害等が抑制され、長鎖アルキル成分が樹脂組成物中でより均一に存在し易くなり、より保存安定性が向上する。
【0052】
ハイブリット樹脂に含有される、ビニル重合体部位は、スチレンに由来するモノマーユニットと、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルに由来するモノマーユニットとを含有し、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルに由来するモノマーユニットの合計の含有割合が、ビニル重合体部位を形成する全モノマーユニット中、50mol%以上98mol%以下であることが好ましく、より好ましくは70mol%以上97mol%以下であり、さらに好ましくは85mol%以上97mol%以下である。
これにより、ビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間で架橋構造の密度を調整できるため、酢酸エチル不溶分の含有量α質量%、THF不溶分の含有量β質量%を制御しやすくなり、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。
【0053】
ビニル重合体部位を構成するビニル系モノマーとしては、以下の化合物が挙げられる。
スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロルスチレン、3,4-ジクロルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレンのようなスチレン誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンのような不飽和モノオレフィン類;ブタジエン、イソプレンのような不飽和ポリエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニルのようなハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルのようなビニルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エ
チル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルのようなメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-クロルエチル、アクリル酸フェニルのようなアクリル酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンのようなビニルケトン類;N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンのようなN-ビニル化合物;ビニルナフタリン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドのようなアクリル酸又はメタクリル酸誘導体。
【0054】
さらに、以下のものが挙げられる。マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸のような不飽和二塩基酸;マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物のような不飽和二塩基酸無水物;マレイン酸メチルハーフエステル、マレイン酸エチルハーフエステル、マレイン酸ブチルハーフエステル、シトラコン酸メチルハーフエステル、シトラコン酸エチルハーフエステル、シトラコン酸ブチルハーフエステル、イタコン酸メチルハーフエステル、アルケニルコハク酸メチルハーフエステル、フマル酸メチルハーフエステル、メサコン酸メチルハーフエステルのような不飽和二塩基酸のハーフエステル;ジメチルマレイン酸、ジメチルフマル酸のような不飽和二塩基酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイヒ酸のようなα,β-不飽和酸;クロトン酸無水物、ケイヒ酸無水物のようなα,β-不飽和酸無水物、前記α,β-不飽和酸と低級脂肪酸との無水物;アルケニルマロン酸、アルケニルグルタル酸、アルケニルアジピン酸、これらの酸無水物及びこれらのモノエステルのようなカルボキシ基を有するモノマー。
【0055】
さらに、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートのようなアクリル酸又はメタクリル酸エステル類;4-(1-ヒドロキシ-1-メチルブチル)スチレン、4-(1-ヒドロキシ-1-メチルヘキシル)スチレンのようなヒドロキシ基を有するモノマーが挙げられる。
【0056】
ビニル重合体部位は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造を有することが好ましい。ビニル重合体部位は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造、並びにスチレンが重合した構造を有することが好ましい。
ビニル重合体部位中のアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造の合計の含有量が、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、70質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
結着樹脂は、ビニル重合体部位と非晶性ポリエステル部位の間で架橋構造、及び非晶性ポリエステル部位中の架橋構造の両方を有することが好ましい。これにより、貯蔵弾性率G’、及びトナーの濡れ広がり指数を上記範囲に制御しやすくなる。
【0057】
(結晶性ポリエステル樹脂)
トナー粒子は結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
ここで、結晶性ポリエステルとは、示差走査熱量計(DSC)による測定において、明確な吸熱ピークを有するポリエステル樹脂と定義する。
結晶性ポリエステル樹脂について述べる。
【0058】
結晶性ポリエステル樹脂は公知のものを使用できる。例えば、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールの縮重合物が挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール、並びに脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族モノアルコールからなる群から選択される少なくとも一の縮重合物であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール、並びに脂肪族モノカルボン酸の縮重合物であることがより好ましい。
【0059】
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。
【0060】
脂肪族ジオールとしては、炭素数2~20の脂肪族ジオールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール等が挙げられる。
【0061】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数6~20の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)等が挙げられる。
脂肪族モノアルコールとしては、炭素数6~20の脂肪族モノアルコールが挙げられる。例えば、カプリルアルコール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデカノール、ミリスチルアルコール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、マルガリルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデカノール、アラキジルアルコールが挙げられる。
【0062】
結晶性ポリエステル樹脂が、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸を含む酸成分との縮重合物であることが好ましい。そして、脂肪族ジオールの炭素数をC1とし、脂肪族ジカルボン酸の炭素数C2としたときに、C1及びC2の和が、10以上16以下であることが好ましく、12以上16以下であることがより好ましい。
なお、脂肪族ジオール及び/又は脂肪族ジカルボン酸が複数用いられている場合、それぞれの炭素数は質量分率による平均値を採用する。
【0063】
C1及びC2の和が10以上16以下ということは、結晶性ポリエステル樹脂を構成する脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸の炭素数の合計が比較的少ないことを意味する。
このようにC1及びC2の和を上述の範囲のように小さくすることにより、結晶性ポリエステル樹脂に含まれるエステル基の数が増える。エステル基が増えることにより、結晶性ポリエステル樹脂の極性が上がる。その結果、結着樹脂を可塑する速度が非常に早くなるため、本発明の効果を発現しやすくなる。
【0064】
また、結晶性ポリエステル樹脂が、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸を含む酸成分との縮重合物であり、末端に脂肪族モノカルボン酸が縮合した構造及び末端に脂肪族モノアルコールが縮合した構造の少なくともいずれかを有することが好ましい。
そして脂肪族モノカルボン酸が縮合した構造及び脂肪族モノアルコールが縮合した構造
の少なくともいずれかの炭素数C3が、6以上14以下であることが好ましい。
【0065】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、好ましくは65℃以上100℃以下である。融点は、使用するカルボン酸成分及びアルコール成分の組み合わせで決まるため、上記範囲に入るよう、適宜選択すればよい。
結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは8質量部以上30質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以上25質量部以下であり、さらにより好ましくは10質量部以上20質量部以下である。
【0066】
結晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル合成法で製造することができる。例えば、酸成分とアルコール成分をエステル化反応、又はエステル交換反応せしめた後、減圧下又は窒素ガスを導入して常法に従って重縮合反応させることによって得ることができる。
エステル化又はエステル交換反応の時には、必要に応じて硫酸、ターシャリーブチルチタンブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム等の通常のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いることができる。また、重合に関しては、通常の重合触媒、例えば、ターシャリーブチルチタンブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の公知のものを使用することができる。重合温度、触媒量は特に限定されるものではなく、必要に応じて任意に選択すればよい。
触媒としてはチタン触媒を用いると望ましく、キレート型チタン触媒であると更に望ましい。これはチタン触媒の反応性が適当であり、本発明において望ましい分子量分布のポリエステルが得られるためである。
【0067】
(着色剤)
トナーには着色剤を用いてもよい。着色剤としては、以下の有機顔料、有機染料、及び、無機顔料が挙げられる。
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、及び、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。
マゼンタ系着色剤としては、以下のものが挙げられる。縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及び、ペリレン化合物。
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及び、アリルアミド化合物が挙げられる。
黒色着色剤としては、カーボンブラック、及び、上記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、シアン系着色剤、および磁性粉体を用いて黒色に調色されたものが挙げられる。
これらの着色剤は、単独又は混合し更には固溶体の状態で用いることができる。本発明に用いられる着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、及び、トナー粒子中の分散性の点から選択される。
着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
【0068】
(磁性粒子)
黒色の着色剤として磁性粒子を用いてもよい。
磁性粒子を用いる場合は、磁性酸化鉄粒子を含むコア粒子と、コア粒子の表面に設けられた被覆層を有することが好ましい。
磁性酸化鉄粒子を含むコア粒子としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトのような磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む磁性酸化鉄;Fe、Co、Niのような金
属、あるいは、これらの金属とAl、Co、Cu、Pb、Mg、Ni、Sn、Zn、Sb、Be、Bi、Cd、Ca、Mn、Ti、W、Vのような金属との合金、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0069】
被覆層は、コア粒子の表面の全域を均一に被覆していてもよいし、コア粒子の表面が一部露出した状態で被覆していてもよい。いずれの被覆態様であっても、被覆層は、最外層であることが好ましく、コア粒子の表面を薄く被覆していることが好ましい。被覆層を形成する元素としては、Si及びAlを含有することが好ましい。
被覆層の形成方法は、特に限定されることなく、公知の方法を用いるとよい。例えば、マグネタイトを含むコア粒子を製造した後、硫酸第一鉄水溶液に、ケイ酸ナトリウムや硫酸アルミニウムなどの、ケイ素源やアルミニウム源を添加する。その後、混合液のpH及び温度を調整しつつ空気を吹き込むことで、コア粒子表面に特定の酸化物を含有する被覆層を形成するとよい。
また、硫酸第一鉄水溶液、ケイ酸ナトリウム及び硫酸アルミニウムなどの添加量などを調整することで被覆層の厚みを制御することができる。
【0070】
また、上述した被覆層を形成しやすく、磁気特性や着色力がより良化するという観点から、磁性粒子は八面体形状であることが好ましい。
磁性粒子の形状を制御する方法は従来公知の方法を採用することができる。磁性粒子を八面体形状にする方法としては、例えばコア粒子の製造において湿式酸化反応時のpHを9以上にすることが挙げられる。
低温定着性の観点から、磁性粒子の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは25質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは30質量部以上90質量部以下である。
【0071】
(トナーのその他の構成材料)
トナーに離型性を与えるためにトナー粒子が、離型剤(ワックス)を含むことが好ましい。
ワックスの具体例としては、以下のものが挙げられる。
酸化ポリエチレンワックスのような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、又はそれらのブロック共重合物;カルナバワックス、サゾールワックス、モンタン酸エステルワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸のような飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸のような不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールのような飽和アルコール類;長鎖アルキルアルコール類;ソルビトールのような多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドのような脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドのような飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N-ジオレイルセバシン酸アミドのような不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N-ジステアリルイソフタル酸アミドのような芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムのような脂肪酸金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸のようなビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドのような脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシ基を有するメチルエステル化合物。
【0072】
より具体的には、以下のものが挙げられる。ビスコール(登録商標)330-P、550-P、660-P、TS-200(三洋化成工業株式会社);ハイワックス400P、200P、100P、410P、420P、320P、220P、210P、110P(三井化学株式会社);サゾール H1、H2、C80、C105、C77(サゾール社);HNP-1、HNP-3、HNP-9、HNP-10、HNP-11、HNP-12(日本精蝋株式会社)、ユニリン(登録商標)350、425、550、700、ユニシッド(登録商標)350、425、550、700(東洋ペトロライト社);木ろう、蜜ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス(株式会社セラリカNODA)。
【0073】
ワックスの融点は、低温定着性の観点から、65.0℃以上120.0℃以下であることが好ましい。さらに、ワックスの融点と結晶性ポリエステル樹脂の融点の差が0℃以上25℃以下であることが好ましく、0℃以上35℃以下であることがより好ましい。
ワックスは結晶性ポリエステル樹脂と比較して常温ではトナー粒子中において結晶化しやすい。これらの融点の差を近くすることにより、ワックスの結晶化に伴って結晶性ポリエステル樹脂の結晶化も促進されるため、下記Tg1を特定の範囲に制御しやすくなる。
【0074】
トナーの摩擦帯電性を安定化させるために、トナーは電荷制御剤を含有してもよい。電荷制御剤の含有量は、その種類や他のトナーの構成材料の物性によっても異なるが、一般に、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
電荷制御剤は、トナーを負帯電性に制御するものと、正帯電性に制御するものとが知られており、トナーの種類や用途に応じて種々のものを一種又は二種以上用いることができる。
トナーを負帯電性に制御するものとしては、以下のものが挙げられる。
有機金属錯体(モノアゾ金属錯体;アセチルアセトン金属錯体);芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の金属錯体又は金属塩;芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩や無水物;エステル類やビスフェノールなどのフェノール誘導体。
【0076】
トナーを正帯電性に制御するものとしては、以下のものが挙げられる。
ニグロシン及び脂肪酸金属塩による変性物;トリブチルベンジルアンモニウム-1-ヒドロキシ-4-ナフトスルホン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどの四級アンモニウム塩、及びこれらの類似体;ホスホニウム塩のようなオニウム塩及びこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン酸、フェロシアン化合物など);高級脂肪酸の金属塩。
これらの中でもニグロシン系化合物、四級アンモニウム塩などが好ましい。
【0077】
また、電荷制御樹脂も用いることができ、上述の電荷制御剤と併用することもできる。
電荷制御剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
Spilon Black TRH、T-77、T-95、TN-105(保土谷化学工業株式会社);BONTRON(登録商標)S-34、S-44、E-84、E-88(オリエント化学工業株式会社);TP-302、TP-415(保土谷化学工業株式会社);BONTRON(登録商標)N-01、N-04、N-07、P-51(オリエント化学工業株式会社);コピーブルーPR(クラリアント社)。
【0078】
トナーは、帯電安定性、耐久現像性、流動性、耐久性向上のために、シリカ微粒子などを外添剤として有していてもよい。
シリカ微粒子は、窒素吸着によるBET法による比表面積が30m2/g以上であるこ
とが好ましく、50m2/g以上400m2/g以下であることがより好ましい。また、シリカ微粒子の含有量は、トナー粒子100質量部に対して、0.01質量部以上8.00質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上5.00質量部以下であることがより好ましい。
【0079】
シリカ微粒子のBET比表面積は、例えば、比表面積測定装置オートソーブ1(湯浅アイオニクス社製)、GEMINI2360/2375(マイクロメティリック社製)、トライスター3000(マイクロメティリック社製)を用いてシリカ微粒子の表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いて算出することができる。
シリカ微粒子は、必要に応じ、摩擦帯電性コントロールの目的で未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシラン化合物又は、その他の有機ケイ素化合物のような処理剤で、或いは種々の処理剤を併用して処理されていることも好ましい。
【0080】
さらにトナーには、必要に応じて他の外添剤を添加してもよい。このような外添剤としては、例えば、帯電補助剤、導電性付与剤、流動性付与剤、ケーキング防止剤、熱ローラ定着時の離型剤、滑剤、研磨剤などの働きをする樹脂微粒子や無機微粒子が挙げられる。
滑剤としては、ポリフッ化エチレン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末が挙げられる。研磨剤としては、酸化セリウム粉末、炭化ケイ素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末が挙げられ、中でもチタン酸ストロンチウム粉末が好ましい。
【0081】
トナーは、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。キャリアとしては、通常のフェライト、マグネタイトなどのキャリアや樹脂コートキャリアを使用することができる。また、樹脂中に磁性体が分散されたバインダー型のキャリアも用いることができる。
【0082】
樹脂コートキャリアは、キャリアコア粒子とキャリアコア粒子表面を被覆(コート)する樹脂である被覆材からなる。被覆材に用いられる樹脂としては、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル系樹脂;アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有樹脂;シリコーン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリビニルブチラール;アミノアクリレート樹脂が挙げられる。
その他には、アイオモノマー樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は複数を併用して用いることができる。
【0083】
トナーの示差走査熱量計(DSC)測定において、
(i)降温時における40℃以上120℃以下の範囲での冷結晶化ピークの個数をX個とし、
(ii)2回目の昇温時における40℃以上120℃以下の範囲での吸熱ピークの個数をY個としたとき
X及びYが、下記式(7)及び(8)を満たすことが好ましい。より好ましくは下記式(7’)及び(8’)を満たし、さらに好ましくはX=1、Y=2である。
(7) X ≧ 1
(8) Y ≧ X+1
(7’) 2 ≧ X ≧ 1
(8’) Y = X+1
【0084】
上記構成とすることで、結晶性ポリエステル樹脂の結晶化速度が向上し、耐熱保存性が良好になる。その理由について、以下のように考察している。
上述したように結晶性ポリエステル樹脂は、結晶化するまでに要する時間が長い。一般的に、結晶化しきれなかった結晶性ポリエステル樹脂は、トナーのガラス転移温度(Tg)の低下を引き起こすため、耐熱保存性を低下させる傾向にある。
トナー粒子には、結晶性ポリエステル樹脂と配向しやすいワックスを含有させることが好ましい。該ワックスにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶化速度を促進できると考えている。X及びYが上記関係式を満たすことは、結晶性ポリエステル樹脂とワックスが配向していることを示すと考えている。
【0085】
トナー粒子は結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
そして、トナーの示差走査熱量測定において、
25℃から120℃まで1000℃/秒の速さで昇温し(第一の昇温過程)、
100m秒(0.100秒)の間、120℃で温度を保持し(高温保持過程)、25℃まで1000℃/秒の速さで冷却した後に(冷却過程)、
120℃まで1000℃/秒の速さで昇温し(第二の昇温過程)、
1度目の昇温におけるガラス転移温度をTg1(℃)とし、2度目の昇温におけるガラス転移温度をTg2(℃)としたとき、
下記式(9)及び(10)を満たすことが好ましい。
(9) 65℃≦Tg1≦85℃
(10) 7℃≦Tg1-Tg2≦30℃
【0086】
このようなDSCの測定条件は、トナーが定着器から受ける熱に相当する条件である。具体的には120℃で100m秒の間、熱を受けられるように、高温保持過程の温度と時間を調整した。その熱を受けた際の結晶性ポリエステル樹脂のトナーへの可塑の程度を、第二の昇温過程の測定で得られるガラス転移温度Tg2が示している。
すなわち、Tg1-Tg2が大きくなるということは、加熱が非常に短い時間であっても、結晶性ポリエステル樹脂がトナーを十分に可塑できていることを示す。
【0087】
ここで、高温保持過程以外の熱を減らすために、高温保持過程以外でトナーが熱を受けすぎないように、昇温速度を1000℃/秒と非常に早く設定した。さらに、結晶性ポリエステル樹脂のトナーへの可塑が、定着器を通過したときに近い状態にするために、冷却速度も1000℃/秒と非常に早く設定した。
これは、120℃で100m秒保持した際に結晶性ポリエステルがトナーを可塑するが、冷却速度が遅いと、結晶性ポリエステルが冷却過程で結晶化してしまう。このため、第二の昇温過程で得られるTg2に対して、高温保持過程の可塑及び冷却過程の結晶化の2つの影響が出てしまい、本来測定したい状態を測定できなくなる可能性が高いためである。
【0088】
このようなDSCの測定条件と比較した、従来よく測定に使われる測定条件を下記に示す。
25℃から120℃まで10℃/分の速さで昇温し(第一の昇温過程)、
5分の間、120℃で温度を保持し(高温保持過程)、
25℃まで10℃/分の速さで冷却した後に(冷却過程)、
120℃まで10℃/分の速さで昇温する(第二の昇温過程)。
この測定では、高温保持過程が本発明における条件よりも長いため、トナーへの可塑する速さが十分でないトナーの構成であったとしても、結晶性ポリエステル樹脂がトナーを十分に可塑する可能性が高い。
一方、本発明においては、非常に短い高温保持過程であったとしても、結晶性ポリエステルがトナーを可塑することができることを示す。
【0089】
式(9)は、第一の昇温過程におけるトナーのガラス転移温度Tg1(℃)が65℃以上85℃以下であることを示す。Tg1は、従来の測定条件である昇温速度10℃/分で測定したTgで得られる結果よりも高い。
Tg1が65℃以上であると、良好な保存性を有したトナーが得られる。また、Tg1が85℃以下であると、良好な低温定着性を有したトナーが得られる。Tg1は、好ましくは70℃以上80℃以下である。
【0090】
式(10)は、第二の昇温過程におけるトナーのガラス転移温度Tg2と第一の昇温過程におけるトナーのガラス転移温度Tg1の差が、7℃以上30℃以下であることを示す。式(10)を満たす場合、非常に短い高温保持時間であっても、結晶性ポリエステル樹脂がトナーを可塑できることを示す。
これにより、メディアが定着器を通過する非常に短い時間内でトナーが十分に可塑することができる。このため、良好な低温定着性とベタ画像濃度ムラの抑制を両立できるトナーが得られる。Tg1-Tg2は好ましくは、10℃以上30℃以下である。Tg1-Tg2は、例えば、トナー中の樹脂成分の組成や定着助剤の組成を変更することにより制御できる。
Tg2は、好ましくは40℃以上75℃以下であり、より好ましくは45℃以上70℃以下である。
【0091】
トナーの好ましい構成を以下に述べる。
式(9)及び(10)を満たすためには、非常に短い高温保持時間であっても結晶性ポリエステル樹脂がトナーを可塑することが好ましい。そのための手段として、熱を受けた際に、結晶性ポリエステル樹脂がトナーの結着樹脂に相溶しやすい構成にする方法が挙げられる。
具体的な手段としては、結晶性ポリエステル樹脂を構成する化合物の選定、結着樹脂を構成する化合物の選定、結晶性ポリエステル樹脂と結着樹脂の溶解度パラメータSP値を近づけること、トナー粒子中における結晶性ポリエステル樹脂の分散性を向上すること、及び結晶性ポリエステルの結晶化度を向上させることなどが挙げられる。これらを組み合わせることにより式(9)及び(10)を満足しうる。
【0092】
トナーの回転平板型レオメーターによる測定により、2.0℃/minで昇温した際に得られる、温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線において、貯蔵弾性率が1.0×103Paとなる温度をT1(℃)とし、
トナーの示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、30℃から120℃の範囲に吸熱ピークを有し、吸熱ピークの最も低温側に存在するピークのピーク温度をT2(℃)としたとき、下記式(11)を満たすことが好ましい。
(11) T1-T2≧40
【0093】
一般的に、結着樹脂(例えば非晶性樹脂)は、ガラス転移点(Tg)を有している。Tgを超えた結着樹脂は、徐々に粘度が低下していくが、粘度の低下速度は緩やかである。一方、結晶性材料(結晶性ポリエステル樹脂、ワックス等)は、材料固有の融点を有し、結晶性材料が融点以上に達した場合、急激に粘度が低下する。
この挙動は、トナー中に結晶性材料が含まれる場合も同様であり、結晶性材料と結着樹脂の粘度差が大き過ぎると、結晶性材料が結着樹脂と分離し、ベタ画像濃度ムラを発生する可能性がある。すなわち、結晶性材料の融点と、トナーが特定の粘度に到達する際の温度の差は、小さい方が好ましい。T1-T2が、式(11)の関係を満たすと、ベタ画像濃度ムラを抑制できる。
T1-T2は、0以上35以下であることがより好ましい。
【0094】
(トナーの製造方法)
トナーの製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の製造方法を採用することができる。以下、溶融混練工程及び粉砕工程を経てトナーを製造する方法を具体的に例示するがこれに限定されるものではない。
【0095】
例えば、結着樹脂並びに、必要に応じて結晶性ポリエステル樹脂、着色剤、離型剤、電荷制御剤及びその他の添加剤などを、ヘンシェルミキサー、ボールミルのような混合機により充分混合する(混合工程)。得られた混合物を二軸混練押出機、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーのような熱混練機を用いて溶融混練する(溶融混練工程)。
得られた溶融混練物を冷却固化した後、粉砕機を用いて粉砕(粉砕工程)し、分級機を用いて分級(分級工程)を行い、トナー粒子を得る。さらに必要に応じて、トナー粒子と外添剤をヘンシェルミキサーのような混合機により混合し、トナーを得る。
【0096】
混合機としては、以下のものが挙げられる。FMミキサ(日本コークス工業株式会社);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)。
【0097】
熱混練機としては、以下のものが挙げられる。KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸
混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);M秒式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)。
【0098】
粉砕機としては、以下のものが挙げられる。カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボ工業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング社製)。
【0099】
分級機としては、以下のものが挙げられる。クラッシール、マイクロンクラッシファイアー、スペディッククラシファイアー(セイシン企業社製);ターボクラッシファイアー(日清エンジニアリング社製);ミクロンセパレータ、ターボプレックス(ATP)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)、ディスパージョンセパレータ(日本ニューマチック工業社製);YMマイクロカット(安川商事社製)。
【0100】
また、粗粒子をふるい分けるために、以下の篩い装置を用いてもよい。
ウルトラソニック(晃栄産業社製);レゾナシーブ、ジャイロシフター(徳寿工作所社);バイブラソニックシステム(ダルトン社製);ソニクリーン(新東工業社製);ターボスクリーナー(ターボ工業社製);ミクロシフター(槙野産業社製);円形振動篩い。
【0101】
貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値を制御しやすくするために、アニール工程を行ってもよい。アニール工程とは、結晶性ポリエステル樹脂等の結晶性材料をトナー粒子中で結晶化させる工程である。
特に、結着樹脂を可塑しやすい結晶性ポリエステル樹脂を用いた場合は、常温での結晶性ポリエステル樹脂の結晶化を十分に進めるため、アニール工程により結晶化させることが好ましい。
【0102】
次に、各物性の測定方法に関して記載する。
<貯蔵弾性率G’(80℃)、及び貯蔵弾性率G’(120℃)の測定方法>
(1)測定試料の調製
測定試料は、トナー又はトナーのTHF不溶分約0.15g程度(試料の比重により可変する。)を、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機を用いて20MPaで、60秒間圧縮成形し、直径8mm、高さ2.0±0.3mmの円柱状のサンプルを作製する。
【0103】
(2)サンプルの取り付け
測定装置としては、回転平板型レオメーター「ARES」(TA INSTRUMENTS社製)を用いる。サンプルをパラレルプレートに装着し、Axial Forceを250~300に調整しHoldを行う。次に、室温(25℃)から65℃(トナーTg+5~10℃の範囲で適宜調整)に昇温し、10分間温度を維持した後、試料の形を整えて、30℃までサンプルを冷却する。
【0104】
(3)測定
測定は、以下の条件で行う。
・直径8mmのパラレルプレートを用いる。
・周波数(Frequency)は6.28rad/sec(1.0Hz)とする。
・印加歪初期値(Strain)を0.1%に設定する。
・50℃以上120℃以下の間を、昇温速度(Ramp Rate)2.0℃/minで、120℃以下50℃の間を、降温速度(Ramp Rate)2.0℃/minで測定を行う。尚、測定においては、以下の自動調整モードの設定条件で行う。自動歪み調整モード(Auto Strain)で測定を行う。
・最大歪(Max Applied Strain)を20.0%に設定する。
・最大トルク(Max Allowed Torque)200.0g・cmとし、最低トルク(Min Allowed Torque)0.2g・cmと設定する。
・歪み調整(Strain Adjustment)を 20.0% of Current Strain と設定する。測定においては、自動テンション調整モード(Auto Tension)を採用する。
・自動テンションディレクション(Auto Tension Direction)をコンプレッション(Compression)と設定する。
・初期スタティックフォース(Initial Static Force)を10.0g、自動テンションセンシティビティ(Auto Tension Sensitivity)を40.0gと設定する。
・自動テンション(Auto Tension)の作動条件は、サンプルモデュラス(Sample Modulus)が1.0×102(Pa)以上である。
上記の方法により得られた温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線から、貯蔵弾性率G’(80℃)、及び貯蔵弾性率G’(120℃)を求める。
また、連続する2プロットごとにdG’/dTを算出して、60℃から80℃の範囲における貯蔵弾性率G’の温度Tに対する変化量(dG’/dT)の極小値を求める。
また、得られた温度T(℃)-貯蔵弾性率G’(Pa)曲線から、貯蔵弾性率が1.0×103Paとなる温度をT1(℃)を読み取る。
【0105】
<S2/S1×1/R1の測定方法>
80℃におけるトナーの投影面積S1、80℃におけるトナーの半径R1、及び120℃におけるトナーの投影面積S2を、以下の様にして測定した。
(1)測定試料の調製
Premium Presentation 120g Laser Paper(HP)を、10mm四方に切り出し、Premium Presentation 120
g Laser Paper(HP)上にトナーを付着させる。トナーの付着には綿棒を用い、Premium Presentation 120g Laser Paper(HP)上でトナーが1粒子毎にばらけるように付着させる。
(2)測定
トナーが付着したPremium Presentation 120g Laser
Paper(HP)を加熱プレート(リンカム顕微鏡用冷却加熱ステージTH-600PM)にセットする。さらに、加熱プレートを10℃/minで昇温させ、光学顕微鏡で観察しながら、80℃、及び120℃時点での静止画を撮影する。次に、撮影された静止画から、画像解析ソフト(Image J)を用いて、80℃におけるトナーの投影面積S1、80℃におけるトナーの半径R1、及び120℃におけるトナーの投影面積S2を算出する。
S1、R1、及びS2の算出は、100粒子の相加平均値とする。なお、トナーの形状が球形でない場合、トナー粒子の長軸と短軸の平均値をトナーの直径とし、トナー半径を算出する。
【0106】
<ガラス転移温度Tg1及びTg2の測定>
ガラス転移温度Tg1(℃)及びガラス転移温度Tg2(℃)は、示差走査熱量分析装置「Flash DSC1 STARe System」(METTLER TOLEDO社製)を用いて測定する。
【0107】
・測定手順
トナーを事前に温度補正を行った専用のチップセンサーに載せる。チップセンサーの温度コントロールは下記の通りとする。
25℃で10秒間維持した後、昇温速度1000℃/秒で120℃まで昇温する(第一の昇温過程)。120℃で100m秒間維持(高温保持過程)した後、冷却速度1000℃/秒で25℃まで冷却する(冷却過程)。25℃で100m秒間維持した後、昇温速度1000℃/秒で120℃まで昇温する(第二の昇温過程)。
以上の温度コントロールのうち、第一の昇温過程で得られる吸熱量を示す昇温カーブからガラス転移温度Tg1(℃)を算出する。
また、第二の昇温過程で得られる吸熱量を示す昇温カーブからガラス転移温度Tg2(℃)を算出する。
【0108】
<酢酸エチル不溶分の含有量の測定方法>
トナー約1.5gを精秤(W1[g])し、予め精秤した円筒濾紙(商品名:No.86R、サイズ28×100mm、アドバンテック東洋社製)に入れてソックスレー抽出器にセットする。溶媒として酢酸エチル200mLを用いて18時間抽出する。その際に溶媒の抽出サイクルが約5分に一回になるような還流速度で抽出を行う。
抽出終了後、円筒ろ紙を取り出して風乾した後、50℃で24時間真空乾燥し、抽出残分を含む円筒濾紙の質量を秤量し、円筒濾紙の質量を差し引くことにより、抽出残分の質量(W2[g])を算出する。
【0109】
次に、結着樹脂以外の成分の含有量(W3[g])を以下の手順で求める。
予め秤量した30mLの磁性るつぼに約2gのトナーを精秤(Wa[g])する。
磁性るつぼを電気炉に入れ、約900℃で約3時間加熱し、電気炉中で放冷し、常温下でデシケーター中に1時間以上放冷し、焼却残灰分を含むるつぼの質量を秤量し、るつぼの質量を差し引くことにより焼却残灰分(Wb[g])を算出する。
そして、下記式(A)により、試料W1[g]中の焼却残灰分の質量(W3[g])を算出する。
W3=W1×(Wb/Wa) (A)
この場合、結着樹脂中の酢酸エチル不溶分の含有量は、下記式(B)で求められる。
酢酸エチル不溶分(質量%)={(W2-W3)/(W1-W3)}×100 (B)
【0110】
<テトラヒドロフラン(THF)不溶分の含有量の測定方法>
上記「酢酸エチル不溶分の測定方法」において、溶媒をTHFに変更した以外は同様の方法で樹脂由来のTHF不溶分の含有量を求める。
なお、THF不溶分を得る過程で、ソックスレー抽出後、50℃で24時間真空乾燥したサンプルを用いて、前述の回転平板型レオメーターを用いる方法により、THF不溶分の貯蔵弾性率G’(120℃)を測定できる。
【0111】
<ピーク温度T2の測定>
トナーの示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、30℃から120℃の範囲の吸熱ピークのうち最も低温側に存在するピークのピーク温度T2(℃)は、以下のように測定する。
示差走査型熱量計「Q1000」(TA Instruments社製)を用い、ASTM D3418-82に準じて測定する。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、測定試料約5mgを精密に秤量し、これをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用いて、測定温度範囲30℃以上120℃以下の間で、昇温速度10℃/minで常温常湿下測定を行う。この昇温過程で得られるDSC曲線において、温度30℃以上120℃以下の範囲における吸熱ピークのうち、最も低温側に存在するピークトップの温度をT2(℃)とする。
【0112】
<DSC測定における、冷結晶化ピークの個数X及び2回目の昇温時の吸熱ピークの個数Yの測定>
冷結晶化ピークの個数X及び2回目の昇温時の吸熱ピークの個数Yの測定は以下のように行う。
示差走査型熱量計「Q1000」(TA Instruments社製)を用い、ASTM D3418-82に準じて測定する。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、測定試料約5mgを精密に秤量し、これをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用いて、測定温度範囲30℃以上180℃以下の間で、昇温速度10℃/minで常温常湿下測定を行う。なお、測定においては、一度180℃まで昇温させ、続いて30℃まで、速度10℃/minで降温し、その後に再度昇温を行う。
この降温過程で得られるDSC曲線において、温度40℃以上120℃以下の範囲における発熱ピークの個数を、冷結晶化ピークの個数Xとする。また、2回目の昇温過程で得られるDSC曲線において、温度40℃以上120℃以下の範囲における吸熱ピークの個数を、2回目の昇温時の吸熱ピークの個数Yとする。
【0113】
<トナーからのC1及びC2の測定>
結晶性ポリエステル樹脂の分子構造は、溶液又は固体によるNMR測定の他、X線回折、GC/MS、LC/MS、IR測定などの公知の分析方法により確認することができる。また、トナーから結晶性ポリエステル樹脂を単離する手法についても、公知の手法を使用することができる。
具体的には次のように単離作業を行う。まず、トナーに対する貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、結晶性ポリエステル樹脂の融点を超える温度まで、昇温する。この時、必要に応じて、加圧してもよい。この時点で、融点を超えた結晶性ポリエステル樹脂が溶融している。その後、固液分離することにより、トナーから、結晶性ポリエステル樹脂を採取できる。
【0114】
<トナーに含まれるハイブリッド樹脂のビニル重合体部位中の該アクリル酸エステル及び
メタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が重合した構造の含有量の測定>
固体によるNMR測定の他、X線回折、GC/MS、LC/MS、IR測定などの公知の分析方法により確認することができる。
【0115】
<トナーに含まれるハイブリッド樹脂中の非晶性ポリエステル部位の含有量の測定>
固体によるNMR測定の他、X線回折、GC/MS、LC/MS、IR測定などの公知の分析方法により確認することができる。
【実施例】
【0116】
以下実施例にもとづいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、これによって本発明がなんら限定されるものではない。なお、以下の処方において部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。以下、実施例3、7~18はそれぞれ参考例3、7~18とする。
【0117】
<長鎖アルキルモノマー(W-1)の製造例>
炭素数の平均値が35の鎖状飽和炭化水素1200部をガラス製の円筒型反応容器に入れ、硼酸38.5部を温度140℃で添加した。その後、直ちに空気50容量%と窒素50容量%の酸素濃度約10容量%の混合ガスを毎分20Lの割合で吹き込み、200℃で3.0時間反応させた。反応後、反応液に温水を加え、95℃で2時間加水分解を行い、静置後上層の反応物(変性品)を得た。
得られた変性品20部をn-ヘキサン100部に加え、精製して未変性成分の一部を溶解除去して長鎖アルキルモノマー(W-1)を得た。長鎖アルキルモノマー(W-1)は、変性率93.6質量%であり、すなわち6.4質量%の脂肪族炭化水素を含んでいた。諸物性を表1に示す。
【0118】
【表1】
表1中、W-2(※)は、ユニリン700(東洋ペトロライト社製)である。
【0119】
<樹脂組成物(A-1)の製造例>
・ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2.0mol付加) 20.0mol部・ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(2.3mol付加)80.0mol部・テレフタル酸 67.0mol部
・ドデカン二酸 7.0mol部
上記ポリエステルモノマー96部に加えて、長鎖アルキルモノマー(W-1)をポリエステル系樹脂組成物全体に対して5.0質量%になるように添加した。得られた混合物を4口フラスコに仕込み、減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置及び攪拌装置を装着して窒素雰囲気下にて160℃で攪拌した。
そこに、ビニル重合体部位を構成するビニル系重合モノマー(スチレン:10.0mo
l部、ブチルアクリレート:90.0mol部)4部と重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド0.7部を混合したものを滴下ロートから4時間かけて滴下した。
その後、160℃で5時間反応した後、200℃まで昇温して、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネートを0.15部、及び没食子酸を0.01部添加した後、230℃で6時間重縮合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。180℃まで冷却した後、tert-ブチルカテコール0.01部、及び上記ポリエステルモノマーに対し15.0mol部の無水トリメリット酸を投入し、所望の粘度となるように反応時間を調節した。反応終了後、容器から取り出し、冷却、粉砕して樹脂組成物(A-1)を得た。諸物性を表2に示す。
【0120】
<樹脂組成物(A-2)~(A-12)の製造例>
表3に記載のモノマー処方に変更した以外は、樹脂組成物(A-1)の製造例と同様にして、樹脂組成物(A-2)~(A-12)を得た。諸物性を表2に示す。
【0121】
<樹脂組成物(A-13)の製造例>
表3に記載のアルコール成分及び無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分合計6550gと、2-エチルヘキサン酸錫(II)45g及び没食子酸5gとを、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hで昇温し、その後230℃で6時間重縮合反応させた。
230℃8.0kPaで1時間反応させた後、さらに無水トリメリット酸を210℃で反応させ、所望の粘度となるように反応時間を調節した。反応終了後、容器から取り出し、冷却、粉砕して樹脂組成物(A-13)を得た。諸物性を表2に示す。
【0122】
<樹脂組成物(A-14)の製造例>
表3に記載のモノマーのうち、フマル酸及び無水トリメリット酸以外のポリエステル樹脂の原料モノマーを、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、マントルヒーター中で160℃まで昇温した。
その後、ビニル樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃まで上昇させ、表3に記載のモノマー100部に対し、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート0.15部、及び没食子酸0.015部を入れた。その後、235℃で6時間重縮合反応させ、さらに235℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。
180℃まで冷却した後、表3に示すフマル酸、及び無水トリメリット酸と表3に記載のモノマー100部に対し、0.015部のtert-ブチルカテコールを投入し、180℃から210℃まで10℃/hで昇温し、所望の粘度となるように反応時間を調節した。反応終了後、容器から取り出し、冷却、粉砕して樹脂組成物(A-14)を得た。諸物性を表2に示す。
【0123】
【0124】
【表3】
表3中において、略称は以下の通りである。
BPA-PO:ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(2.3mol付加)
BPA-EO:ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2.0mol付加)
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMA:無水トリメリット酸
St:スチレン
BA:ブチルアクリレート
表中、長鎖アルキルモノマー以外のモノマーの数値は、mol部を表す。
*1:モノマーのmol部は、アルコール成分(長鎖アルキルモノマーを除く)の総モノマー量を100mol部とした時の比率を示す
*2:モノマーのmol部は、ビニル重合体部位の総モノマー量を100mol部とした時の、比率を示す
*3:PES/StAc比率は、ポリエステル部位(長鎖アルキルモノマーを除く)/ビニル重合体部位(質量基準)である
【0125】
<ポリエステル系樹脂組成物(B-1)の製造例>
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、表4に記載の原料モノマーを表4に示す配合量(モル部)で投入した後、触媒としてジブチル錫オキシドを原料モノマー総量100部に対して1.0部添加した。このとき長鎖アルキルモノマーとしては、W-2(ユニリン700、東洋ペトロライト社製)を用いた。
そして、窒素雰囲気下にて授拌しながら槽内温度を150℃に昇温した後、150℃から200℃まで10℃/時間の昇温速度で加熱しながら水を留去して重合を行った。
200℃に到達してから反応槽内を5kPa以下まで減圧し、200℃、5kPa以下の条件下にて3時間重縮合を行った。
反応終了後、容器から取り出し、冷却、粉砕してポリエステル系樹脂組成物(B-1)を得た。諸物性を表5に示す。
【0126】
<ポリエステル系樹脂組成物(B-2)の製造例>
表4に示すアルコール成分、及びアジピン酸、無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分に加え、表4に記載のモノマー100部に対し、2-エチルヘキサン酸錫(II)0.02部及び没食子酸0.025部とを、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れた。窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hで昇温し、その後230℃で6時間重縮合反応させた。
230℃8.0kPaで1時間反応させた後、さらにアジピン酸、及び無水トリメリット酸を210℃で反応させ、所望の粘度となるように反応時間を調節した。反応終了後、容器から取り出し、冷却、粉砕して樹脂組成物(B-2)を得た。諸物性を表5に示す。
【0127】
【表4】
表4中において、略称は以下の通りである。
BPA-PO:ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(2.0mol付加)
BPA-EO:ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2.0mol付加)
EG:エチレングリコール
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMA:無水トリメリット酸
表中、長鎖アルキルモノマー以外のモノマーの数値は、mol部を表す。
*1:モノマーのmol部は、アルコール成分(長鎖アルキルモノマーを除く)の総モノマー量を100mol部とした時の比率を示す
【0128】
【0129】
<結晶性ポリエステル(C-1)の製造例>
・エチレングリコール 100.0mol部
・テトラデカン二酸 90.0mol部
・ラウリン酸 20.0mol部
上記モノマー及び前記モノマー総量に対して、0.2質量%のジブチル錫オキシドを窒素導入管、脱水管、攪拌装置及び熱電対を装備した10Lの四つ口フラスコに入れ、180℃で4時間反応させた。その後、10℃/1時間で210℃まで昇温、210℃で8時間保持した後、8.3kPaにて1時間反応させることにより、結晶性ポリエステル(C-1)を得た。諸物性を表6に示す。
【0130】
<結晶性ポリエステル(C-2)~(C-11)の製造例>
表6に記載のモノマー処方に変更した以外は、結晶性ポリエステル(C-1)の製造例と同様にして、樹脂組成物(C-2)~(C-11)を得た。諸物性を表6に示す。
【0131】
【0132】
<磁性粒子1の製造例>
(1)コア粒子の製造
Fe2+濃度が1.60mol/Lの硫酸第一鉄水溶液92Lと、3.50mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液88Lを加えて混合撹拌した。この溶液のpHは6.5であった。この溶液を温度89℃、pH9~12に維持しながら、20L/minの空気を吹き込み、酸化反応を起こさせてコア粒子を生成させた。水酸化第一鉄が完全に消費された時点で、空気の吹き込みを停止し、酸化反応を終了させた。得られたマグネタイトからなるコア粒子は八面体形状を有するものであった。
(2)被覆層の形成
0.7mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液2.50Lと0.90mol/Lの硫酸第一鉄水溶液2.00Lを混合した後、水1.00Lを加え、5.00Lの水溶液とし、13500gのコア粒子を含む上記反応後のスラリーにpH7~9を維持しながら添加した。その後、スラリー中のFe2+が残存しなくなるまで10L/minの空気を吹き込んだ。
続いて、1.50mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液0.70Lと0.90mol/Lの硫酸第一鉄水溶液2.00Lを混合した後、水1.00Lを加え、5.00Lの水溶液とし、コア粒子を含む上記反応後のスラリーにpH7~9を維持しながら添加した。その後、スラリー中のFe2+が残存しなくなるまで10L/minの空気を吹き込んだ。スラリーの温度は89℃に維持した。30分間、混合撹拌後にスラリーを濾過して、洗浄、乾燥させて、磁性粒子1を得た。
磁性粒子1の形状は八面体であり、磁性粒子1の一次粒子の個数平均粒径(D1)は110nmであった。得られた磁性粒子1の諸物性を表7示す。
【0133】
【0134】
<離型剤1~4>
表8に記載の離型剤を使用した。
【0135】
【0136】
<実施例1>
・ポリエステル系樹脂組成物(A-1) 100.0部
・結晶性ポリエステル(C-1) 12.0部
・磁性粒子1 50.0部
・離型剤-1 2.0部
・電荷制御剤(T-77、保土谷化学工業社製) 1.0部
上記材料をヘンシェルミキサーで前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM-30型))によって、設定温度120℃で溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、温度50℃、相対湿度95%環境下で1日間アニール処理を行った。
その後、粗粉砕物を機械式粉砕機(ターボ工業(株)製T-250)で粉砕し、得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)7.0μmの負帯電性のトナー粒子を得た。
トナー粒子100部に対し、疎水性シリカ微粒子1[BET比表面積150m2/g、シリカ微粒子100部に対しヘキサメチルジシラザン(HMDS)30部及びジメチルシリコンオイル10部で疎水化処理したもの]1.0部をヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製FM-75型)で外添混合し、目開き150μmのメッシュで篩い、トナー(T-1)を得た。得られたトナー(T-1)の諸物性を表9に示す。
【0137】
得られたトナーを用いて、以下の評価を行った。
<試験>
HP LaserJet Enterprise M609dnを、プリンタの将来的な更なる高速化を考慮して、プロセススピードを450mm/secに改造して使用した。評価を行った結果を、表10に示す。
【0138】
<低温定着性1;擦り濃度低下率>
擦り濃度低下率は、上記評価機の定着器を外部に取り出し、定着器の温度を任意に設定可能にし、プロセススピードを450mm/secとなるように改造した外部定着器を用いた。
上記装置を用い、低温低湿環境下(温度15℃、湿度10%RH)において、単位面積当たりのトナー載り量を0.5mg/cm2に設定した未定着画像を、200℃に設定した上記定着器に通した。なお、評価紙には「PB PAPER」(キヤノンマーケティングジャパン社製、坪量66g/cm2、レター)を用いた。得られた定着画像を4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけたシルボン紙で摺擦し、摺擦前後での画像濃度の低下率(%)で評価した。画像濃度は、反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して測定した。A、Bランクを合格とした。
A:画像濃度の低下率が10.0%未満である。
B:画像濃度の低下率が10.0%以上15.0%未満である。
C:画像濃度の低下率が15.0%以上20.0%未満である。
D:画像濃度の低下率が20.0%以上である。
【0139】
<低温定着性2;定着ポツ抜け>
定着ポツ抜けは、上記評価機の定着器を外部に取り出し、定着器の温度を任意に設定可能にし、プロセススピードを480mm/secとなるように改造した外部定着器を用いた。
上記装置を用い、低温低湿環境下(温度15℃、湿度10%RH)において、単位面積当たりのトナー載り量を1.0mg/cm2に設定した全面ベタの未定着画像を、200℃に設定した定着器に通した。なお、評価紙には「PB PAPER」(キヤノンマーケティングジャパン社製、坪量66g/cm2、レター)を用いた。
得られた画像を目視にて確認し、トナーの定着が不十分でトナーがポツ抜けしている箇所の個数を数え、以下の基準により定着ポツ抜けを評価した。A、Bランクを合格とした。
A:ポツ抜け個数が3個未満である。
B:ポツ抜け個数が3個以上6個未満である。
C:ポツ抜け個数が6個以上9個未満である。
D:ポツ抜け個数が9個以上である。
【0140】
<ベタ画像濃度ムラ>
ベタ画像濃度ムラは、上記評価機の定着器を外部に取り出し、定着器の温度を任意に設定可能にし、プロセススピードを480mm/secとなるように改造した外部定着器を用いた。高温高湿環境(温度32.5℃、湿度85%RH)において、単位面積当たりのトナー載り量を1.0mg/cm2に設定した全面ベタの未定着画像を、200℃に温調した定着器に通した。
なお、評価紙にはVitality(Xerox社製、坪量75g/cm2、レター)のうち後述の表面粗さ測定においてSa(算術平均高さ)が3.00μm以上の記録媒体で評価を行った。
得られた画像の濃度を無作為に20点測定し、測定濃度の最大値と最小値の差で評価を行った。画像濃度は反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)の測定スポット径を3mmに変更し、SPIフィルターを使用して、以下の基準で評価した。A、Bランクを合格とした。
A:濃度差が0.10未満である。
B:濃度差が0.10以上0.20未満である。
C:濃度差が0.20以上0.30未満である。
D:濃度差が0.30以上である。
【0141】
<かぶりの評価>
高温高湿環境(温度32℃、相対湿度80%)で、印字比率が1%の画像を出力する動作を繰り返し、出力枚数が500枚に到達する毎に1晩放置した。その後、上記の様にして500枚出力し1晩放置する工程を繰り返し、最終的には5000枚の画像出力を行い、以下の方法で評価を行った。なお、評価紙には「PB PAPER」(キヤノンマーケティングジャパン社製、坪量66g/cm2、レター)を用いた。
上記の画像出力試験において、毎回白地部分を有する画像を1枚ずつ出力した。その後、すべての白地部分を有する画像について、白地部分を有する画像の白地部分の白色度(反射率Ds(%))と転写紙の白色度(平均反射率Dr(%))の差から、かぶり濃度(%)(=Dr(%)-Ds(%))を算出した。なお、白色度は、「REFLECTMETER MODEL TC-6DS」(東京電色社製)により測定した。フィルターは、アンバーライトフィルターを用いた。かぶり濃度が最悪であったものについて、以下のランク付けを行った。A~Cランクを合格とした。
A:かぶり濃度が2.5%未満である。
B:かぶり濃度が2.5%以上4.5%未満である。
C:かぶり濃度が4.5%以上6.5%未満である。
D:かぶり濃度が6.5%以上である。
【0142】
<耐久後の画像濃度>
上記改造機を用いて評価を行った。カートリッジのトナーを空にした後、トナー(T-1)をカートリッジに700g充填した。
印字率が1.5%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンが一旦停止してから次のジョブが始まるように設定したモードで、25000枚の画出し試験を実施した。評価は高温高湿環境(温度32.5℃、湿度85%RH)で行った。評価紙はPB PAPER(キヤノンマーケティングジャパン社製、坪量66g/cm2、レター)を用いた。
25001枚目において、先端余白5mm、左右余白5mmで、左、右、中央の3箇所、さらにこれを長手方向に30mm間隔で3箇所、合計で9個に5mm×5mmのベタ黒パッチ画像を有するチェック画像を出力した。
このチェック画像の9箇所のベタ黒パッチ画像部分の画像濃度を測定し、平均値を求めた。画像濃度は反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを
使用して測定し、以下の基準で評価を行った。
A、Bランクを合格とした。
A.画像濃度が1.30以上。
B.画像濃度が1.10以上1.30未満。
C.画像濃度が0.90以上1.10未満。
D.画像濃度が0.90未満。
【0143】
<苛酷保存性>
カートリッジのトナーを空にした後、トナー(T-1)を700g充填した。まず駆動側を下として、300回タッピングを行い、トナーを圧密充填させた状態とした。その後、前記前記カートリッジを、駆動側を下とした状態で、苛酷環境下(温度40℃、湿度95%RH)に90日間放置することで、厳しい状態で苛酷保存性の評価を行った。
カートリッジを取り出した後、上記改造機を用いて、高温高湿環境(温度32.5℃、湿度85%RH)にて画出し試験を実施し、苛酷保存性の評価を行った。
画出し試験は、まず印字率が2.0%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンが一旦停止してから次のジョブが始まるように設定したモードで、20000枚の画出しを行った。その後、同環境にてチェック画像を出力した。
チェック画像としては、200mm×280mmのハーフトーン画像(ドット印字率23%)を出力し、チェック画像に縦スジが発生しているかどうかを目視にて観察し、下記の基準から評価を行った。A、Bランクを合格とした。
A:スジは発生していない。
B:1mm未満のスジが1本以上5本以下発生し、1mm以上のスジは発生していない。C:1mm未満のスジが6本以上発生し、1mm以上のスジは発生していない。
D:1mm以上のスジが発生している。
【0144】
<実施例2~18>
表10に記載の処方とする以外は、実施例1と同様にして、トナー(T-2)~(T-18)を得た。諸物性を表9に示す。
また、実施例1と同様にして評価を行った結果を表11に示す。
【0145】
<比較例1~2>
表10に記載の処方とする以外は、実施例1と同様にして、トナー(T-19)~(T-20)を得た。の諸物性を表9に示す。
また、実施例1と同様にして評価を行った結果を表11に示す。
【0146】
<比較例3、及び比較例6>
表10に記載の処方に変更し、アニール処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、トナー(T-21)及び(T-24)を得た。諸物性を表9に示す。
また、実施例1と同様にして評価を行った結果を表11に示す。
【0147】
<比較例4>
(結晶性ポリエステル樹脂の分散液作製)
金属製2L容器に結晶性ポリエステル(C-9)を100g、酢酸エチル400gを入れ、75℃で加熱溶解させた後、氷水浴中で27℃/分の速度で急冷した。これにガラスビーズ(3mmφ)500mlを加え、バッチ式サンドミル装置(カンペハピオ社製)で10時間粉砕を行い、[結晶性ポリエステル分散液1]を得た。
【0148】
(非晶性ポリエステル(低分子非晶性ポリエステル)樹脂の合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに、ビ
スフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物229部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物529部、イソフタル酸100部、テレフタル酸108部、アジピン酸46部及びジブチルチンオキサイド2部を入れた。これを、常圧で230℃で10時間反応させ、さらに10~15mmHgの減圧で5時間反応させた後、反応容器に無水トリメリット酸30部を入れ、180℃、常圧で3時間反応させ、[非晶性ポリエステル1]を得た。
[非晶性ポリエステル1]は、数平均分子量1800、重量平均分子量5500、Tg50℃、酸価20mgKOH/gであった。
【0149】
(ポリエステルプレポリマー(結着樹脂前駆体)の合成)
冷却管、撹拌機及び窒索導入管の付いた反応容器中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物682部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物81部、テレフタル酸283部、無水トリメリット酸22部及びジブチルチンオキサイド2部を入れた。これを、常圧、230℃で8時間反応させ、さらに10~15mmHgの減圧で5時間反応させて[中間体ポリエステル1]を得た。
[中間体ポリエステル1]は、数平均分子量2100、重量平均分子量9500、Tg55℃、酸価0.5mgKOH/g、水酸基価51mgKOH/gであった。
次に、冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応容器中に、[中間体ポリエステル1]410部、イソホロンジイソシアネート89部、酢酸エチル500部を入れ100℃で5時間反応し、[プレポリマー1]を得た。[プレポリマー1]の遊離イソシアネート量は、1.53質量%であった。
【0150】
(ケチミンの合成)
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、イソホロンジアミン170部とメチルエチルケトン75部を仕込み、50℃で5時間反応を行い、[ケチミン化合物1]を得た。
[ケチミン化合物1]のアミン価は418mgKOH/gであった。
【0151】
(マスターバッチ(MB)の合成)
水1200部、磁性粒子1: 1200部、非晶性ポリエステル樹脂1: 1200部を加え、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で混合し、混合物を2本ロールを用いて150℃で30分混練後、圧延冷却しパルペライザーで粉砕し、[マスターバッチ1]を得た。
【0152】
(油相の作成)
撹拌棒及び温度計をセットした容器に、[非晶性ポリエステル1]378部、カルナバWAX110部、CCA(サリチル酸金属錯体E-84:オリエント化学工業)22部、酢酸エチル947部を仕込み、撹拌下80℃に昇温し、80℃のまま5時間保持した後、1時間で30℃に冷却した。次いで容器に[マスターバッチ1]690部、酢酸エチル500部を仕込み、1時間混合し[原料溶解液1]を得た。
[原料溶解液1]1324部を容器に移し、ビーズミル(ウルトラビスコミル、アイメックス社製)を用いて、送液速度1kg/hr、ディスク周速度6m/秒、0.5mmジルコニアビーズを80体積%充填、3パスの条件で、磁性粒子1、WAXの分散を行った。次いで、[非晶性ポリエステル1]の65%酢酸エチル溶液1042.3部加え、上記条件のビーズミルで1パスし、[顔料・WAX分散液1]を得た。[顔料・WAX分散液1]の固形分濃度(130℃、30分)は50%であった。
【0153】
(有機微粒子エマルションの合成)
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、水683部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩(エレミノールRS-30:三洋化成工業製)11部、スチレン138部、メタクリル酸138部、過硫酸アンモニウム1部を仕込み、4
00回転/分で15分間撹拌したところ、白色の乳濁液が得られた。加熱して、系内温度75℃まで昇温し、5時間反応させた。
さらに、1%過硫酸アンモニウム水溶液30部加え、75℃で5時間熟成してビニル系樹脂(スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩の共重合体)の水性分散液[微粒子分散液1]を得た。[微粒子分散液1]をLA-920で測定した体積平均粒径は、0.14μmであった。[微粒子分散液1]の一部を乾燥して樹脂分を単離した。
【0154】
(水相の調整)
水990部、[微粒子分散液1]83部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5%水溶液(エレミノールMON-7:三洋化成工業製)37部、酢酸エチル90部を混合撹拌し、乳白色の液体を得た。これを[水相1]とした。
【0155】
(乳化・脱溶剤)
[顔料・WAX分散液1]664部、[プレポリマー1]を109.4部、[結晶性ポリエステル分散液1]を73.9部、[ケチミン化合物1]4.6部を容器に入れ、TKホモミキサー(特殊機化製)で5,000rpmで1分間混合した後、容器に[水相1]1200部を加え、TKホモミキサーで、回転数13,000rpmで20分間混合し[乳化スラリー1]を得た。
撹拌機および温度計をセットした容器に、[乳化スラリー1]を投入し、30℃で8時間脱溶剤した後、45℃で4時間熟成を行い、[分散スラリー1]を得た。
【0156】
(洗浄・乾燥)
[分散スラリー1]100部を減圧濾過した後、
(1):濾過ケーキにイオン交換水100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過する。
(2):(1)の濾過ケーキに10%水酸化ナトリウム水溶液100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで30分間)した後、減圧濾過する。
(3):(2)の濾過ケーキに10%塩酸100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過する。
(4):(3)の濾過ケーキにイオン交換水300部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過する。
という(1)~(4)の操作を2回行い[濾過ケーキ1]を得た。
[濾過ケーキ1]を循風乾燥機にて45℃で48時間乾燥し、目開き75μmメッシュで篩いトナー粒子を得た。
トナー粒子100部に対し、疎水性シリカ微粒子1[BET比表面積150m2/g、シリカ微粒子100部に対しヘキサメチルジシラザン(HMDS)30部及びジメチルシリコンオイル10部で疎水化処理したもの]1.0部をヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製FM-75型)で外添混合し、目開き150μmのメッシュで篩い、トナー(T-22)を得た。諸物性を表9に示す。
【0157】
<比較例5>
(非線状の非晶性ポリエステルの合成)
冷却管、撹拌機及び窒素導入管をセットした反応槽に、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アジピン酸及びトリメチロールプロパンを、カルボキシ基に対する水酸基のモル比[OH]/[COOH]が1.1となるように入れた。このとき、トリメチロールプロパンは、全モノマーに対して、1.5モル%となるようにし、チタンテトライソプロポキシドを全モノマーに対して、1000ppm加えた。
次に、4時間程度で200℃まで昇温した後、2時間で230℃まで昇温し、流出水がなくなるまで反応させた。さらに、10~15mmHgの減圧下で5時間反応させて、水
酸基を有する非線状の非晶性ポリエステルを得た。
【0158】
(線状の非晶性ポリエステルの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対をセットした反応槽に、ビスフェノールAのエチレンオキサイドサイド2モル付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物、イソフタル酸及びアジピン酸を、カルボキシル基に対する水酸基のモル比[OH]/[COOH]がが1.2となるように入れた。
このとき、ジオールは、ビスフェノールAのエチレンオキサイドサイド2モル付加物80モル%及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物20モル%からなり、ジカルボン酸は、イソフタル酸80モル%及びアジピン酸20モル%からなり、チタンテトライソプロポキシドを全モノマーに対して500ppm加えた。
次に、230℃で8時間反応させた後、10~15mmHgの減圧下で4時間反応させた。さらに、無水トリメリット酸を全モノマーに対して1モル%になるように加えた後、180℃で3時間反応させて、線状の非晶性ポリエステルを得た。重量平均分子量が5500、ガラス転移点が50℃であった。
【0159】
(マスターバッチの作製)
水1200部、DBP吸油量が42mL/100mg、pHが9.5のカーボンブラックPrintex35(デクサ社製)500部及び線状の非晶性ポリエステル500部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)を用いて混合した後、2本ロールを用いて150℃で30分間混練した。次に、圧延冷却した後、パルペライザーを用いて粉砕し、マスターバッチを得た。
【0160】
(離型剤分散液の調製)
撹拌棒及び温度計をセットした容器に、融点が75℃のパラフィンワックスHNP-9(日本精鑞社製)50部及び酢酸エチル450部を入れた後、撹拌しながら80℃まで昇温し、5時間保持した。次に、1時問で30℃まで冷却した後、ビーズミルのウルトラビスコミル(アイメックス社製)を用いて、送液速度を1kg/h、ディスクの周速度を6m/sとし、直径が0.5mmのジルコニアビーズを80体積%充填して、3パスの条件で分散させ、離型剤分散液を得た。
【0161】
(結晶性ポリエステル分散液の調製)
撹拌棒及び温度計をセットした容器に、結晶性ポリエステル(C-10)50部及び酢酸エチル450部を入れた後、撹拌しながら80℃まで昇温し、5時間保持した。次に、1時間で30℃まで冷却した後、ビーズミルのウルトラビスコミル(アイメックス社製)を用いて、送液速度を1kg/h、ディスクの周速度を6m/sとし、直径が0.5mmのジルコニアビーズを80体積%充填して、3パスの条件で分散させ、結晶性ポリエステル分散液を得た。
【0162】
(油相の調製)
離型剤分散液50部、非線状の非晶性ポリエステル200部、結晶性ポリエステル分散液500部、線状の非晶性ポリエステル700部、マスターバッチ50部及びケチミン化合物1: 2部を容器に入れた後、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、5000rpmで60分間混合し、油相を得た。
【0163】
(ビニル樹脂の水分散液の調製)
撹拌棒及び温度計をセットした反応槽に、水683部、メタクリル酸のエチレンオキサイド付加物の硫酸エステルのナトリウム塩(エレミノールRS-30(三洋化成工業社製))11部、スチレン138部、メタクリル酸138部及び過硫酸アンモニウム1部を入れた後、400rpmで15分間撹拌した。次に、75℃まで昇温して5時間反応させた
後、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液30部を加え、75℃で5時間熟成して、ビニル樹脂の水分散液を得た。
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、ビニル樹脂の水分散液の体積平均粒径を測定したところ、0.14μmであった。
【0164】
(水相の調製)
水990部、ビニル樹脂の水分散液83部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5質量%水溶液エレミノールMON-7(三洋化成工業社製)37部及び酢酸エチル90部を混合撹拌し、水相を得た。
【0165】
(乳化・脱溶剤)
油相1052部が入った容器に、水相1200部を加えた後、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、13000rpmで20分間混合し、乳化スラリーを得た。
撹拌機及び温度計をセットした容器に、乳化スラリーを入れ、30℃で8時間脱溶剤した後、45℃で4時間熟成し、分散スラリーを得た。
【0166】
(洗浄・乾燥)
分散スラリー100部を減圧濾過した。得られた濾過ケーキに対し、次の(1)~(4)の操作を2回繰り返した。
(1):濾過ケーキにイオン交換水100部を加え、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、12000rpmで10分間混合した後、濾過する。
(2):(1)の濾過ケーキに10質量%水酸化ナトリウム水溶液100部を加え、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、12000rpmで30分間混合した後、減圧濾過する。
(3):(2)の濾過ケーキに10質量%塩酸100部を加え、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、12000rpmで10分間混合した後、濾過する。
(4):(3)の濾過ケーキにイオン交換水300部を加え、TKホモミキサー(特殊機化社製)を用いて、12000rpmで10分間混合した後、濾過する。
得られた濾過ケーキを、循風乾燥機を用いて、45℃で48時間乾燥させた後、目開きが75μmメッシュで篩って、母体粒子を得た。
母体粒子100部及び疎水性シリカHDK-2000(ワッカー・ケミー社製)1.0部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)を用いて、周速30m/sで30秒間混合した後、1分間休止する処理を5回繰り返した後、目開きが35μmのメッシュで篩い、トナー(T-23)を得た。諸物性を表9に示す。
【0167】
【0168】
【0169】