(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】航空機のピッチ軸エンベロープ制限のシステムと方法
(51)【国際特許分類】
B64C 13/18 20060101AFI20240930BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B64C13/18 G
G05B11/36 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020152282
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-09-07
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フランツァー, トリスタン シー.
(72)【発明者】
【氏名】リ, ウイ-ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ナジマバディ, キウマルス
(72)【発明者】
【氏名】ミルズ, ニコス ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ハウゲバーグ, ハイディ エム.
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0062973(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0292409(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106394871(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 13/18
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機をピッチ軸エンベロープに制限する方法であって、
航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられた航空機状態制限値を決定することであって、前記航空機状態制限値が前記航空機の境界ピッチ軸エンベロープを定義する、前記航空機状態制限値を決定すること;
前記航空機の現在のピッチ軸変数と前記現在のピッチ軸変数に関連付けられた変化量とに基づいて予測される航空機状態を決定することであって、前記予測される航空機状態が将来の時点の航空機状態を示す、前記予測される航空機状態を決定すること;
前記予測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較して、前記複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成すること;
前記航空機状態誤差を正及び負の制限昇降舵コマンドのセットに変換することであって、各制限昇降舵コマンドが前記各航空機状態制限値の超過を防止するような前記航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す、前記航空機状態誤差を変換すること;
前記正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択すること;
前記負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択すること;
前記航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、前記最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であり且つ前記最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限すること;及び
前記値に制限された前記一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って、前記航空機を制御すること
を含
み、
前記航空機状態制限値を決定することが、前記航空機の迎え角、前記航空機の荷重倍数、前記航空機のピッチ姿勢、及び前記航空機の較正対気速度に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することを含み、
前記予測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較することが、迎え角の差、荷重倍数の差、及び速度の差を生成することを含む、方法。
【請求項2】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記迎え角の差を等価な荷重倍数の航空機状態制限値に変換すること;及び
荷重倍数の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記荷重倍数に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することは、前記荷重倍数の航空機状態制限値と前記等価な荷重倍数の航空機状態制限値との間で最優先の制限値を選択することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記荷重倍数の差を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換すること;及び
迎え角の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記迎え角に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記迎え角の航空機状態制限値と前記等価な迎え角の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記速度の差を等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値に変換すること;及び
ピッチ姿勢の航空機状態下限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記ピッチ姿勢に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記ピッチ姿勢の航空機状態下限値と前記等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
制限されているピッチ軸変数ごとに制約フラグを決定すること;
そのピッチ軸変数に関連付けられた制限昇降舵コマンドによって前記一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドが制限されている場合に、前記制約フラグを真に設定すること;及び
そのピッチ軸変数に関連付けられた前記制限昇降舵コマンドによって前記一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドが制限されていない場合に、前記制約フラグを偽に設定すること
を更に含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
制限されているピッチ軸変数ごとに積分器を提供することであって、積分器入力値が前記制約フラグに基づいて設定されている、前記積分器を提供することを更に含み、
前記制約フラグが真である場合、前記積分器入力値が前記航空機状態誤差に比例し、且つ、
前記制約フラグが偽である場合、前記積分器入力値がフィルタリングされた昇降舵位置からフィードフォワード昇降舵コマンドを差し引いたものを提供するように設定され、前記フィードフォワード昇降舵コマンドはパイロット又はオートパイロットが提供する昇降舵コマンドである、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記最優先の正の制限昇降舵コマンドを前記最優先の負の制限昇降舵コマンドと比較すること;
前記最優先の正の制限昇降舵コマンドと前記最優先の負の制限昇降舵コマンドの間の競合に基づいて、両者間で最も優先度の高い制限昇降舵コマンドを選択すること;及び
選択した前記最も優先度の高い制限昇降舵コマンドを前記昇降舵コマンドとして設定すること
を更に含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記最優先の正の制限昇降舵コマンドと前記最優先の負の制限昇降舵コマンドがパイロット・インセプタ・コマンドで表され、
前記最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ前記最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値を前記パイロット・インセプタ・コマンドに適用することを更に含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
複数の実行可能な命令が格納された非一過性コンピュータ可読媒体と、
プロセッサであって:
航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられている航空機状態制限値であり、境界ピッチ軸エンベロープを定義する航空機状態制限値を決定するために;
前記航空機の現在のピッチ軸変数と前記現在のピッチ軸変数の変化量とに基づいて予測される航空機状態を決定するためであって、前記予測される航空機状態が将来の時点の航空機状態を示す、前記予測される航空機状態を決定するために;
前記予
測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較して、前記複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成するために;
前記航空機状態誤差を正及び負の制限昇降舵コマンドのセットに変換するためであって、各制限昇降舵コマンドが、前記航空機状態制限値の超過を防止するような前記航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す、前記航空機状態誤差を変換するために;
前記正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択するために;
前記負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択するために;
前記航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、前記最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であり且つ前記最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限するために;且つ
前記値に制限された前記一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って、前記航空機を制御するために、
前記複数の実行可能な命令を実行するように適合されたプロセッサ
とを備え
、
前記航空機状態制限値を決定することが、前記航空機の迎え角、前記航空機の荷重倍数、前記航空機のピッチ姿勢、及び前記航空機の較正対気速度に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することを含み、
前記予測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較することが、迎え角の差、荷重倍数の差、及び速度の差を生成することを含む、システム。
【請求項10】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記迎え角の差を等価な荷重倍数の航空機状態制限値に変換すること;及び
荷重倍数の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記荷重倍数に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記荷重倍数の航空機状態制限値と前記等価な荷重倍数の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記荷重倍数の差を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換すること;及び
迎え角の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記迎え角に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記迎え角の航空機状態制限値と前記等価な迎え角の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
9に記載のシステム。
【請求項12】
複数の実行可能命が格納された非一過性コンピュータ可読媒体であって、命令が、プロセッサを有するコンピューティングデバイスによって実行されると、コンピューティングデバイスに、
航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられた航空機状態
制限値を決定することであって、前記航空機状態制限値が境界ピッチ軸エンベロープを定義する、前記航空機状態
制限値を決定すること;
前記航空機の現在のピッチ軸変数と前記現在のピッチ軸変数の変化量とに基づいて予測される航空機状態を決定することであって、前記予測される航空機状態が将来の時点の航空機状態を示す、前記予測される航空機状態を決定すること;
前記予測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較して、前記複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成すること;
前記航空機状態誤差を正及び負の制限昇降舵コマンドのセットに変換することであって、各制限昇降舵コマンドが、前記航空機状態制限値の超過を防止するような前記航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す、前記航空機状態誤差を変換すること;
前記正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択すること;
前記負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較し、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択すること;
前記航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、前記最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ前記最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限すること;及び
前記値に制限された前記一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って、前記航空機を制御すること
を含む機能を実行させ
、
前記航空機状態制限値を決定することが、前記航空機の迎え角、前記航空機の荷重倍数、前記航空機のピッチ姿勢、及び前記航空機の較正対気速度に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することを含み、
前記予測される航空機状態を前記航空機状態制限値と比較することが、迎え角の差、荷重倍数の差、及び速度の差を生成することを含む、非一過性コンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記迎え角の差を等価な荷重倍数の航空機状態制限値に変換すること;及び
荷重倍数の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記荷重倍数に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記荷重倍数の航空機状態制限値と前記等価な荷重倍数の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
12に記載の非一過性コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記航空機状態誤差を変換することが、
前記荷重倍数の差を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換すること;及び
迎え角の航空機状態制限値を受信すること
を含み、
前記航空機の前記迎え角に関連付けられた前記航空機状態制限値を決定することが、前記迎え角の航空機状態制限値と前記等価な迎え角の航空機状態制限値との間で最も優先度の高い制限値を選択することを含む、請求項
12に記載の非一過性コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、航空機をピッチ軸エンベロープに制限する方法に関し、より詳細には、動的な昇降舵コマンド制限値を使用して、航空機を所望のピッチ軸エンベロープ内に留めるように制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の飛行制御システムをエンベロープ保護及びエンベロープ制限制御則の形で使用して、航空機の運用を支援することができる。エンベロープ制限制御則は、航空機に安全性が著しく低下する可能性のある飛行エンベロープパラメータを超えた飛行をさせないように機能する。
【0003】
エンベロープ制限制御則は、通常、航空機が境界飛行エンベロープを超えた場合、又は超えしようとしている場合にのみアクティブになるように設計されている。このアクティブ化の方法により、ロバストな制限と、航空機乗組員が感知できないエンベロープ制限制御則モードの内外への遷移の両方が可能になる。
【発明の概要】
【0004】
一例では、航空機をピッチ軸エンベロープに制限する方法が説明され、これは、航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられている航空機状態制限値を決定することを含み、航空機状態制限値は境界ピッチ軸エンベロープを定義する。この方法はまた、航空機の現在のピッチ軸変数と現在のピッチ軸変数に関連付けられた変化量に基づいて予測される航空機状態を決定することを含み、予測される航空機状態は将来の時点の航空機状態を示す。この方法はまた、予測される航空機状態誤差を生成することと、航空機状態誤差を正と負の制限昇降舵コマンドのセットに変換することとを含む。各制限昇降舵コマンドは、各航空機状態制限値の超過を防止するような航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す。この方法はまた、正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択することと、負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択することとを含む。この方法はまた、航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することと、その値に制限された一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って航空機を制御することとを含む。
【0005】
別の例では、システムは、複数の実行可能な命令が格納された非一過性コンピュータ可読媒体と、航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられた航空機状態制限値を決定するために、複数の実行可能命令を実行するように適合されたプロセッサとを備えることが記載されている。この命令は、航空機の現在のピッチ軸変数と現在のピッチ軸変数に関連付けられた変化量とに基づいて予測される航空機状態を決定するために更に実行可能であり、予測される航空機状態は、将来の時点の航空機状態を示す。この命令は、予測される航空機状態を航空機状態制限値と比較して、複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成し、且つ、航空機状態誤差を正と負の制限昇降舵コマンドのセットに変換するために、更に実行可能である。各制限昇降舵コマンドは、各航空機状態制限値の超過を防止するような航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す。この命令は、正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択することと、負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択するために、更に実行可能である。この命令は、航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限し、且つ、その値に制限された一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って航空機を制御するために、更に実行可能である。
【0006】
別の例では、複数の実行可能命令が格納された非一過性コンピュータ可読媒体が記載されており、この命令は、プロセッサを有するコンピューティングデバイスによって実行されると、コンピューティングデバイスに、航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられた航空機状態制限値を決定することを含む機能を実行させる。この機能はまた、航空機の現在のピッチ軸変数と現在のピッチ軸変数に関連付けられた変化量に基づいて予測される航空機状態を決定することを含み、予測される航空機状態は将来の時点の航空機状態を示す。この機能はまた、予測される航空機状態を航空機状態制限値と比較して、複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成することと、航空機状態誤差を正と負の制限昇降舵コマンドのセットに変換することとを含む。各制限昇降舵コマンドは、各航空機状態制限値の超過を防止するような航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す。この機能はまた、正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択することと、負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較して、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択することとを含む。この機能はまた、一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することを含む。この機能はまた、上記値に制限された一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って航空機を制御することを含む。
【0007】
上述の特徴、機能及び利点は、様々な例において個別に実現可能であるか、又は、更に別の例において組み合わされうる。例の更なる詳細は、下記の説明及び図面を参照することで理解されうる。
【0008】
例示的な実施例の特徴と考えられる新規の特性は、添付の特許請求の範囲に明記される。ただし、例示的な実施例、並びに好適な使用態様、そのさらなる目的及び説明は、添付の図面と併せて、本開示の例示的な実施例についての以下の詳細な説明を参照することによって、最もよく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例示的な実施形態による、航空機の略図を示す。
【
図2】例示的な実施形態による、航空機で使用するためのシステムのブロック図である。
【
図3】例示的な実施形態による、航空機をピッチ軸エンベロープに制限するための機能を示すブロック図である。
【
図4】例示的な実施形態による、荷重倍数の航空機状態制限値を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換するための機能を示すブロック図である。
【
図5】例示的な実施形態による、荷重倍数の航空機状態制限値を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換するための機能を示すブロック図である。
【
図6】例示的な実施形態による、対気速度の航空機状態制限値を等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値に変換するための機能を示すブロック図である。
【
図7】例示的な実施形態による、エンベロープ制限制御則のための機能を示すブロック図である。
【
図8】例示的な実施形態による、航空機をピッチ軸エンベロープに制限する方法の別の例を示すフロー図である。
【
図9】例示的な実施形態による、航空機をピッチ軸エンベロープに制限する方法の別の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本書ではこれより、添付図面を参照しつつ開示されている例についてより網羅的に説明する。添付図面には、開示されている例の一部(全てではない)が示されている。実際には、いくつかの異なる例について説明することがあるが、これらの例は、本書に明記されている例に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの例は、本開示が網羅的で包括的なものになるよう、且つ、本開示の範囲が当業者に十分に伝わるように記述されている。
【0011】
エンベロープ制限制御則は、安全性が著しく低下する可能性のある飛行エンベロープパラメータを超える飛行から航空機を保護することを目的としている。本明細書に記載の例は、迎え角、荷重倍数、ピッチ姿勢及び対気速度を含むがこれらに限定されないピッチ軸状態を制限するための制御則を包含する。したがって、例の中では、航空機のピッチ軸エンベロープを制限するためのシステム及び方法が記載されている。複数のピッチ軸変数と航空機状態制限値の近さを使用して昇降舵制限コマンドを計算しており、これが制限値として一次ピッチ軸制御則の昇降舵コマンドに適用されると、航空機は航空機状態制限値超えないことが確実になる。
【0012】
以下で説明する例では、現在の航空機状態をピッチ軸制限値のセットと比較することにより、相対的な差のセットを生成する。その差分が制限昇降舵コマンドに変換され、それらの制限昇降舵コマンドに優先順位をつけて、ピッチ軸エンベロープ内で航空機を操作するために必要な角度の昇降舵コマンドが選択される。したがって、以下に記載される例は、迎え角、荷重倍数(n=L/W、式中、nは荷重倍数、Lは揚力、Wは重量である;荷重倍数は、航空機の重量に対する航空機の揚力の比であり、航空機の構造物が受ける応力の尺度を表す)、ピッチ姿勢、及び較正対気速度又はマッハ数を含む複数のピッチ軸変数の、優先的なエンベロープ制限を提供するための方法を提供する。
【0013】
本開示の実施形態は、コンピュータ技術に特有の技術的改良、例えば、航空機の運用のためのコンピュータ支援に関する技術的改良を提供する。航空機の運用のためのエンベロープ制限制御則を提供するなどのコンピュータ固有の技術的問題は、本開示の実施形態によって全体的又は部分的に解決することができる。例えば、本開示の実施形態では、航空機がパイロットコマンドに基づいてピッチ軸エンベロープ内で操作されることを可能にし、パイロットは、ピッチ軸エンベロープ境界まで航空機を操作することができ、その際、コンピュータは、ピッチ軸エンベロープを超えることを防止する。一部の既存のエンベロープ制限制御則とは異なり、本開示は、最終的な昇降舵コマンドを直接制限することを提案する。その結果、さもなければ大きくて望ましくないピッチ応答を生成するであろう昇降舵コマンドが、最終的な昇降舵コマンドの設定が許可される前に傍受される。ピッチ軸の状態が閾値を超えたときに厳密に関与する他の制御則のアーキテクチャは、提案された手法と比較してより反動的である。反動的設計は、上記提案された方法と同等の性能を達成するために、より積極的に応答する必要があり、その結果、好ましくないハンドリング品質をもたらす可能性があるあまり望ましくない航空機の応答及び知覚可能な過渡挙動をもたらす。本開示で提案されるエンベロープ制限制御アーキテクチャの特徴は、一次ピッチ軸制御則アーキテクチャから独立していることである。本開示の実施形態の別の利点は、一次ピッチ軸制御則と複数のエンベロープ制限制御モードとの間の遷移を管理するための複雑なロジックがないことである。更に、別の利点は、制限がアクティブ化及び非アクティブ化するときに航空機乗組員によって知覚される可能性のある顕著な過渡状態が存在しないことである。
【0014】
ここで図を参照するに、
図1は、例示的な実施形態による、航空機100の略図を示す。幾つかの例では、航空機100は、ロングボディの商用機である。他の例では、航空機100は、如何なる航空機であってもよい。
図1に示されるように、航空機は、水平線106に対して正の(例えば+)ピッチ姿勢104に向けられた胴体102を含む。正のピッチ姿勢104は、航空機100の機首上げに対応していてもよい。更に、航空機100は、縦方向のピッチング・モーメント110で空力中心108に対応する重力位置を中心に回転してもよい。航空機100には昇降舵112が含まれており、ピッチ・モーメント(pitch moment)110は少なくとも部分的に、負の昇降舵のたわみ114及び/又は正の昇降舵のたわみ116の変化の大きさに依存する。
【0015】
幾つかの例では、航空機の操縦士及び/又は副操縦士は、コントロール・カラムに力を加えて、昇降舵112を調整するための昇降舵のたわみコマンド信号(
図3の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドなど)を生成することができる。他の例では、オートパイロットが、昇降舵112を調整するための昇降舵のたわみコマンド信号を生成することがある。この昇降舵コマンド信号は、昇降舵112に、正の(例:機首上げの)ピッチング・モーメント110を生成する負の昇降舵のたわみ114で応答するように命令することができる。ある昇降舵コマンド信号は、昇降舵112に、負の(例:機首下げの)ピッチング・モーメント110を生成する正の昇降舵のたわみ116で応答するように命令することができる。
【0016】
図1に示すように、負の飛行パス角120は、航空機100が降下しているときの水平線106からの航空機対気速度124の角度として決定されてもよい。幾つかの例では、対気速度124は、航空機100の較正対気速度であってもよい。迎え角122は、対気速度124と胴体基準線(mid-body reference)126との間の角度として決定されてもよい。
【0017】
航空機100は、翼130上のセンサ、エンジン上のセンサ、及び/又は垂直安定板132上のセンサなど、航空機100上に配置された複数のセンサを含む。航空機100は、多数のセンサ(図示せず)を含んでいてもよく、航空機100の全体にわたって、外装又は内装部品のいずれかに配置されている。複数のセンサは、対気速度又は対地速度、操縦翼面の位置、迎え角、航空機の加速度、航空機の姿勢等を示すデータなどの出力を提供する。
【0018】
図2は、例示的な実施形態による、航空機100で使用するためのシステム200のブロック図である。本システム200は、システム200内の様々なセンサからセンサ測定信号を受信して、航空機パラメータの中でもとりわけ航空機のピッチ姿勢104、迎え角122及び対気速度124を決定するために使用されうる。本システム200は、本明細書に記載されている様々な技術に従って、正の制限昇降舵コマンドと負の制限昇降舵コマンドのセットを計算して、一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であり且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上の値に制限するために使用されうる。一例では、本システム200の様々なコンポーネントは、航空機100内に分散していてもよい。
図2は、コンピューティングデバイス202、パイロットコントロール214、ディスプレイ216、加速度計、ジャイロスコープなどを含む慣性データセンサ222、迎え角センサ224、空気データセンサ226、操縦翼面アクチュエータ218、及びその他のコンポーネント220を含むシステム200を示す。
【0019】
コンピューティングデバイス202は、1又は複数のプロセッサ204と、命令208を格納した非一過性コンピュータ可読媒体206とを有し、命令208は、1又は複数のプロセッサ204によって実行されると、コンピューティングデバイス202に機能を実行させる。この機能は、以下で詳細に説明するが、例えば、一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することを含む。
【0020】
コンピューティングデバイス202は、航空機100に搭載されていてもよいし、地上コンピューティングシステム内に配置されていてもよい。上記の機能を実行するために、コンピューティングデバイス202は、通信インタフェース210、出力インタフェース212を含み、コンピューティングデバイス202の各コンポーネントは、通信バス213に接続されている。コンピューティングデバイス202は、コンピューティングデバイス202内の通信及びコンピューティングデバイス202と他のデバイス(図示せず)との間の通信を可能にするハードウェアを更に含んでもよい。ハードウェアは、例えば、送信器、受信器、及びアンテナを含んでもよい。
【0021】
通信インタフェース210は、1若しくは複数のネットワーク又は1若しくは複数の遠隔デバイスとの短距離通信と長距離通信の両方を可能にする無線インタフェース及び/又は1若しくは複数の有線インタフェースでありうる。上記無線インタフェースは、1又は複数の無線通信プロトコル、Bluetooth、WiーFi(例えば、米国電気電子学会(IEEE)802.11プロトコル)、ロングタームエボリューション(LTE)、セルラ通信、近距離無線通信(NFC)、及び/又はその他の無線通信プロトコルの下での通信を提供してもよい。上記有線インタフェースには、イーサネットインタフェース、ユニバーサルシリアルバス(USB:Universal Serial Bus)インタフェースか、ケーブル、ツイストペアケーブル、同軸ケーブル、光リンク、光ファイバーリンク若しくは他の物理的接続を介して有線ネットワークと通信する同様のインタフェースが含まれうる。ゆえに、通信インタフェース210は、1又は複数のデバイスから入力データを受信するよう設定されてよく、その他のデバイスに出力データを送るようにも設定されうる。
【0022】
非一過性コンピュータ可読媒体206は、1若しくは複数のプロセッサ204によって読み取り若しくはアクセス可能な1若しくは複数のコンピュータ可読記憶媒体などのメモリを含むか、又はその形態をとってもよい。コンピュータ可読記憶媒体とは、1又は複数のプロセッサ204と全体的又は部分的に統合されうる、揮発性及び/又は非揮発性のストレージコンポーネント(光メモリ、磁気メモリ、有機メモリ若しくはその他のメモリ、又はディスクストレージ等)を含みうる。非一過性コンピュータ可読媒体206は、非一過性コンピュータ可読媒体の一種とみなされる。非一過性コンピュータ可読媒体206は、幾つかの例では、単一の物理デバイス(例えば、1つの光メモリ、磁気メモリ、有機メモリ若しくは他のメモリ、又はディスクストレージユニット)を使用して実施されうる一方、他の例では、2つ以上の物理デバイスを使用して実施されうる。
【0023】
したがって、非一過性コンピュータ可読媒体206は、コンピュータ可読媒体であり、命令208がそこに格納されている。命令208は、コンピュータ実行可能コードを含む。
【0024】
様々な例では、非一過性コンピュータ可読媒体206は、非一過性コンピュータ可読媒体206をシステム200に結合させることによって及び/又はシステム200が非一過性コンピュータ可読媒体206からの命令をダウンロードする(例:有線リンク又は無線リンクを介して)ことによってシステム200に提供される格納された命令と共に、システム200の一部として及び/又はシステム200とは別個のものとして含まれていてもよい。
【0025】
1又は複数のプロセッサ204は、汎用プロセッサ又は特殊用途プロセッサ(例えば、デジタル信号プロセッサ、特定用途向け集積回路など)でありうる。1又は複数のプロセッサ204は、通信インタフェース210からの入力と他のセンサからの出力を受信し、それらを処理して、非一過性コンピュータ可読媒体206に格納される出力を生成することができる。1又は複数のプロセッサ204は、非一過性コンピュータ可読媒体206に格納され、且つ、本明細書に記載のコンピューティングデバイス202の機能を提供するために実行可能である、実行可能命令208(例:コンピュータ可読プログラム命令)を実行するように設定されうる。
【0026】
出力インタフェース212は報告又は記憶のための情報を出力し、したがって、出力インタフェース212は、通信インタフェース210と同様に、無線インタフェース(例:送信器)であっても、有線インタフェースでもあってもよい。
【0027】
コンピューティングデバイス202は、本明細書に記載されているような方法及び処理ステップを実行するために、コンポーネント214、216、222、224及び226とインタフェースして通信するように適合されている。
【0028】
システム200のセンサは、慣性運動(例:センサ222からの慣性加速度及びジャイロ運動)、センサ224から航空機の迎え角、センサ226から対気速度を含む(但しこれに限定されない)大気データを検出する。幾つかの例では、センサ222、224及び/又は226は、個別のハードウェアデバイスとして実装され得る。センサは、現在のピッチ姿勢104、現在の荷重倍数、現在の迎え角122、及び現在の対気速度124等の航空機状態のセンサ測定信号(例:センサデータ)を提供してもよい。
【0029】
プロセッサ(複数可)204は、センサからセンサデータを受信し、センサデータを処理し、センサデータを非一過性コンピュータ可読媒体206に格納し、且つ/又は格納されたセンサデータを非一過性コンピュータ可読媒体206から取り出すように適合されていてもよい。様々な例では、センサは遠隔配置されてもよく、プロセッサ(複数可)204は、航空機100内の有線又は無線通信バスを介してセンサからのセンサ測定信号を遠隔で受信するように適合されてもよい。プロセッサ(複数可)204は、非一過性コンピュータ可読媒体206に格納されたセンサデータを処理して、ユーザが見るためにディスプレイ216にセンサデータを提供するように適合されてもよい。
【0030】
ディスプレイ216には、一例では、システム200と共に使用するためのディスプレイデバイス(例えば液晶ディスプレイ(LDC))又は様々な他のタイプの一般的に知られているビデオディスプレイ、モニタ及び/若しくはゲージが含まれる。プロセッサ(複数可)204は、ディスプレイ216にセンサデータと情報を表示するように適合されうる。プロセッサ(複数可)204は、非一過性コンピュータ可読媒体206からセンサデータと情報を取り出し、取り出されたセンサデータと情報をディスプレイ216に表示するように適合されてもよい。ディスプレイ216は、センサデータ及び情報を表示するためにプロセッサ(複数可)204によって利用されるディスプレイエレクトロニクスを含んでもよい。ディスプレイ216がプロセッサ204を介して1若しくは複数のセンサ(例:センサ222、224及び226)から直接センサデータと情報を受信してもよいし、センサデータ及び情報がプロセッサ204を介して非一過性コンピュータ可読媒体206から転送されてもよい。
【0031】
パイロットコントロール214には、一例では、スティック、ヨーク、及び/又は1つ以上のユーザ作動式入力制御信号を生成するように適合された他の制御装置のような、1又は複数のユーザ作動式コンポーネントを有するユーザ入力及び/又はインタフェースデバイスが含まれる。別の例では、パイロットコントロール214には、同じか又は類似の制御信号を提供するオートパイロットシステムが含まれる。プロセッサ(複数可)204は、パイロットコントロール214からの制御入力信号を検出し、受信した検出制御入力信号に応答するように適合されてもよい。例えば、パイロットコントロール214は、制御装置を介して制御入力信号を提供して、主操縦翼面を調整することができる。様々な例において、パイロットコントロール214は、ナビゲーション、通信、ピッチ制御、ロール制御、ヨー制御、推力制御、並びに/又は様々な他の特徴及び/若しくはパラメータなど、システム200の他の様々な制御操作を提供するために、1又は複数の他のユーザ作動式機構を含むように適合されていてもよいことが理解されるべきである。
【0032】
その他の種類のパイロットコントロール214としては、例えば、ユーザとインタフェースし、ディスプレイ216を介してユーザ入力制御信号を受信するように適合されたユーザ作動式機構(例えばボタン、ノブ、スライダ、又は他のもの)の1つ以上の画像を有する、ディスプレイ216(例えばユーザ作動式タッチスクリーン)の一部として統合されてもよいグラフィカルユーザインタフェース(GUI)が企図されてもよい。パイロットコントロール214は、例えば、ディスプレイ画面の様々な部分にユーザが触れていることからの入力信号を受信するように適合されたタッチスクリーン装置など、ユーザ入力デバイスとディスプレイデバイスの両方として動作するように、ディスプレイ216の一部として統合されるように適合されていてもよい。
【0033】
操縦翼面アクチュエータ218には、一例では、航空機100の主操縦翼面に対するアクチュエータが含まれる。主操縦翼面には、昇降舵112が含まれることがある。幾つかの例では、操縦士及び/又は副操縦士は、コントロール・カラムの力又は位置を利用して水平安定板118の昇降舵112を調整することにより、航空機100の縦方向のピッチ姿勢10を調整することができる。コントロール・カラムの力は、昇降舵のたわみ(例:昇降舵のたわみ114及び/又は116)を調整するための昇降舵コマンド信号を生成することができる。他の例では、(例えば、パイロットコントロール214の一部として提供される)オートパイロットシステムが昇降舵のたわみ114及び/又は116を調整するための昇降舵コマンド信号を生成してもよい。プロセッサ(複数可)204は、昇降舵コマンド信号を受信し、水平安定板118の昇降舵112を調整するための対応する昇降舵のたわみ信号を提供することができる。
【0034】
他の主操縦翼面は、翼130及び垂直安定板132に配置されうる。プロセッサ(複数可)204は、航空機100のロールへの変化を提供するために、パイロットコントロール214からコマンドを受信して、翼130に結合された補助翼128を調整することができる。プロセッサ(複数可)204は、航空機100のヨー制御を提供するために、パイロットコントロール214からコマンドを受信して、垂直安定板132を調整(例えば、垂直安定板132の一部としての可動方向舵の調整によって)することができる。
【0035】
他の例では、システム200には、検出されたアプリケーション又は実装に応じて、環境センサ及び/又は動作センサなどの他のコンポーネント220が含まれてもよく、これは、プロセッサ(複数可)204に情報を提供する(例えば、他のコンポーネント220の各々からセンサ測定信号を受信することによって)。様々な例では、他のコンポーネント220は、内部及び/若しくは外部温度条件、照明条件(例えば、翼130及び/又は胴体102に取り付けられたビーコン)、並びに/又は距離(例えば、レーザー距離計又は無線高度計)などの、運用条件及び/又は環境条件に関連する信号データ及び情報を提供するように適合されてもよい。したがって、他のコンポーネント220は、航空機100の様々な条件(例えば、環境条件、運用条件、航空機構成及び/又は航空機状態)を監視するための、当業者に知られている1又は複数の従来のセンサを含みうる。
【0036】
一例では、運用中に、命令208がコンピューティングデバイス202のプロセッサ(複数可)204によって実行されると、プロセッサ(複数可)204は、航空機をピッチ軸エンベロープに制限するための機能を実行させる。
【0037】
図3は、例示的な実施形態による、航空機をピッチ軸エンベロープに制限するための機能を示すブロック図である。
図3に示される機能は、例えば、システム200のプロセッサ(複数可)204によって実行される命令の形をとることができる。
【0038】
図3は、302と310の2つの信号処理サブシステムを示す。第1のサブシステムは、迎え角(AOA)及び荷重倍数(Nz)信号処理サブシステム302であり、このサブシステムでは、最初に、荷重倍数の上限及び下限値が提供され、ブロック304に示されるように等価なAOAに変換される。式1は、NzとAOAを次のように関連付ける。
n_(z,cg)W=q_dyn S(C_zα α+C_zother) (式1)
上式中、C_zαは、迎え角に対するz力係数C_zの変化率を表し、C_zotherは、航空機状態、操縦翼面のたわみ等を含む他の全ての項からのz力係数C_zへの寄与を表す。ギリシャ語の記号「α」は、迎え角を表す。航空機の重量は変数W、航空機の翼面積はS、動圧はq_dynで表される。重心での荷重倍数は、n_(z,cg)で表される。
【0039】
式1は、式2のように、荷重倍数が荷重倍数制限値n_(z,lim)と等しい迎え角を表すように再配置することができる。
α_nzlim=W/(q_dyn SC_zα)(nz_lim-nz_cg)+α (式2)
【0040】
逆に、式3のように、式1は、航空機の迎え角が臨界迎え角α_limと等しい荷重係数を表すように再配置することもできる。
n_(z,αlim)=(q_dyn SC_zα)/W(α_lim-α)+n_(z,cg) (式3)
【0041】
Nzから等価なAOAへの変換、又はAOAから等価なNzへの変換の更なる詳細については、
図4及び
図5を参照して以下に説明する。
【0042】
次に、ブロック306において、航空機のAOA制限値が受信され(
図3に示された例示的な実施形態では、これは、失速警報迎え角制限値である)、迎え角の角度に関して荷重倍数の制限値と比較されて(例:式2の出力)、これら2つの入力の最小値が選択される。荷重倍数の下限値から迎え角の角度への変換(例:式2)を
図3に示す。サブシステム302は、ブロック308に示すように、AOA-NZ状態の上限及び下限値をAOA制御則の内部ループに送信する。AOA制御則の内部ループの詳細については、
図7を参照して以下に説明する。
【0043】
第2のサブシステムは、ブロック312に示されるように、対気速度制限値が提供され、等価なピッチ姿勢状態制限値に変換される速度-ピッチ姿勢サブシステム310である。速度から等価ピッチ姿勢への変換の詳細は、
図6を参照して後述する。
【0044】
続いて、航空機のピッチ姿勢の下限値が受信され、対気速度に依存するピッチ姿勢の下限値と比較されて、ブロック314に示すように、これら2つの入力の最大値が選択される。例えば、航空機100が所定の対気速度制限値を超えている場合には、機首を上げて減速させる必要がある。更に、航空機100は、機首下げピッチ角の下限値を下回らないことが望ましく、したがって、これら2つの入力のうち、最も制限的な(すなわち最大の)ものが選択される。サブシステム310は、ブロック316に示すように、ピッチ姿勢制御則の内側ループに提供される、ピッチ姿勢の航空機状態上限及び下限値を生成する。ピッチ姿勢制御則内部ループの詳細については、
図7を参照して以下に説明する。
【0045】
迎え角及びピッチ姿勢内側ループ制御則の出力であるサブシステム308及び316は、制約(engagement)及び優先順位付けロジック318に提供される、昇降舵の上限及び下限コマンドである。制約ロジックは、昇降舵制限コマンドと一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドの連続比較に基づいている。
【0046】
最優先の正及び負の制限昇降舵コマンドは、制限された航空機状態間の優先順位に基づいて選択される。これらは、コンピューティングデバイス202がブロック320の出力に従って航空機の昇降舵112を動作させるように、ブロック320の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドの飽和限界として提供される。優先順位付けロジックの詳細については、
図8を参照して以下で説明する。
【0047】
図4は、例示的な実施形態による、荷重倍数制限値を等価の迎え角の航空機状態制限値に変換するための機能を示すブロック図である。
図4は、式2の計算を行っている。ブロック330は、C_zαの計算を表し、これは、航空機状態(例えばマッハ数)と構成データ(例えば航空機フラップ構成)の関数でありうる。積ブロック326は、動圧とC_zαを乗じた基準翼面積として、式2の第一項の分母を形成する。除算ブロック328は、航空機の重量を積ブロック326の出力で割ることにより、式2の第一項の計算を完成させる。加算合流点322では、航空機荷重倍数から荷重倍数制限値を差引き、積ブロック324でこれに除算ブロック328の出力を乗算する。現在の航空機迎え角は、加算ブロック332において、積ブロック324の出力に加算される。
図4は、
図3のサブシステム304の例示的な実施形態である。
【0048】
図5は、例示的な実施形態による、度単位の迎え角制限値を等価の荷重倍数の航空機状態制限値に変換するための機能を示すブロック図である。
図5は、式3の計算を行っている。ブロック336は、C_zαの計算を表し、これは、航空機状態(例えばマッハ数)と構成データ(例えば航空機フラップ構成)の関数でありうる。積ブロック338は、動圧とC_zαを乗じた基準翼面積として、式3の第一項の分子を形成する。除算ブロック340は、航空機の重量を積ブロック338の出力で割ることにより、式3の第一項の計算を完成させる。加算合流点334では、航空機迎え角から迎え角制限値を差し引き、積ブロック342でこれに除算ブロック340の出力を乗算する。現在の航空機荷重倍数は、加算ブロック344において、積ブロック342の出力に加算される。
図5は、
図3の実施形態には含まれないが、迎え角内部ループ制御則の代わりに荷重倍数内部ループ制御則を含む本開示の別の実施形態の一部でありうる。
【0049】
図6は、例示的な実施形態による、速度を等価のピッチ姿勢に変換する(
図3のブロック310に示されている)ための機能を示すブロック図である。最初に、航空機の対気速度率(例えば、航空機の対気速度の変化率)が受信され、KXVゲインがブロック346で適用される。KXVゲインは、対気速度制限まで急速に加速したときにエンベロープ制限制御則を早く作動するようにするための、対気速度リードゲインである。ブロック346の出力が、航空機対気速度と共に加算器348に供給され、合算出力が、対気速度制限値と共に加算器350に供給され、対気速度誤差を形成する。加算器350の出力は、対気速度比例誤差ゲインであるKPVゲインに供給され、その後シェーピングフィルタ(複数可)354に供給される。シェーピングフィルタ(複数可)354は、対気速度誤差にゲインと位相シフトを適用する。一実施形態では、シェーピングフィルタ354は、対気速度及びピッチ姿勢に関連する航空機のダイナミクスに基づいている。シェーピングフィルタ(複数可)354の出力は、加算器356において航空機ピッチ姿勢と合計され、ピッチ姿勢速度制限コマンドが得られる。
【0050】
図7は、例示的な実施形態に従ったエンベロープ制限内部ループ(
図3のブロック308に示されるAOA制御則内部ループ又は
図3のブロック316に示されるピッチ姿勢制御則内部ループ)のための機能を説明するブロック図である。アルゴリズムは、保護された各状態(例:荷重倍数、迎え角、ピッチ姿勢、対気速度等)に対して実行される。
【0051】
最初に、ブロック358で、KXゲイン(例:急速に制限値に近づいたときにエンベロープ制限制御則を早く作動させるために使用される、航空機状態リードゲイン)が航空機状態変化量に適用され、その後出力は、加算器360において航空機状態と合計される。航空機状態変化量は、航空機状態の変化率であり、航空機状態は、例えば迎え角、ピッチ変化量、対気速度、ピッチ姿勢等のピッチ軸変数である。
【0052】
加算器360の出力は、航空機状態のリードである。例えば、現在の迎え角、迎え角変化量及びKXを用いて航空機状態のリードを計算し、これをKX秒での予測迎え角とする。
【0053】
続いて、加算器362において航空機状態制限値が受信され、航空機状態リードから差し引かれ、航空機状態誤差が生成される。航空機状態制限値は、例えば、ブロック306又はブロック314の出力である。このようにして、予測される航空機状態が航空機状態制限値と比較され、複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差が生成される。
【0054】
パイロット・インセプタ・コマンド(例:パイロットが航空機100の機首を上げたり下げたりするために引いたり押したりするであろう、例えばコントロール・カラムの変位を表すコマンド)が受信され、KFFゲイン(例:パイロット・インセプタ・コマンドの変化と操縦翼面の変化との間に直接ギヤリングを提供するために使用されるフィードフォワード・ゲイン)が適用されて、フィードフォワード昇降舵コマンドが出力される。このようにして、パイロット・インセプタ・コマンドに比例するフィードフォワード昇降舵コマンドが決定される。フィードフォワード昇降舵コマンドは、加算器366に入力され、積分器ブロック372の出力を減じた昇降舵位置から差し引かれる。加算器366の出力に、ブロック368で適用されたゲインTAUを乗じ、スイッチ370への偽入力となる。
【0055】
制約フラグ(engagement flag)が受信され、これは、内部ループ・アーキテクチャにおけるスイッチ370の極性を設定する離散信号である。スイッチ370は、制約フラグが真又は偽であることに応じて、フィードフォワード昇降舵コマンドを減じた現在の昇降舵位置のフィルタリングされたバージョンを計算したものと、積分値の誤差を計算したものとの間で遷移する。制約フラグが偽である場合、ゲインTAU及び積分器372は、ブロック372に示されるように、フィードフォワード昇降舵コマンドを減じた昇降舵位置にラグフィルタを適用する。これにより、基準昇降舵位置が形成される(ゼロ以外の場合もあり)。定常運転又は準定常運転では、昇降舵位置からフィードフォワード項を差し引くと、航空機状態が航空機状態制限値を超えるときにのみ制限制御則がアクティブになることを確実にするのに役立つ。フィードフォワード昇降舵コマンドを差し引かなければ、制御則は適切なタイミングで作動しない。
【0056】
更に、ブロック374において、航空機状態誤差にKIゲイン(例えば、航空機状態積分誤差ゲイン)が適用され、このパスは、制約フラグが真であるときに積分器372に供給される。
【0057】
制限昇降舵コマンドは、2つのパスを合計することによって計算される。まず、航空機状態誤差は、ブロック376で適用されるKPゲイン(例:航空機状態比例誤差ゲイン)を有し、出力は、加算器380において、ブロック378からの航空機状態変化量及びKDゲイン(例:航空機状態変化量微分ゲイン)の出力と合計される。加算器380の出力は、加算器382において、フィードフォワード昇降舵コマンドとブロック372の出力とを合計して、制限昇降舵コマンドを生成する。
【0058】
したがって、エンベロープ制限内部ループ(
図3のブロック308に示されているAOA制御則内部ループ又は
図3のブロック316に示されているピッチ姿勢制御則内部ループ)のための
図7のブロック図の機能は、航空機状態誤差を、例えば、正及び負の制限昇降舵コマンドであってもよい制限昇降舵コマンドのセットに変換する。
【0059】
次に、
図3を参照して、制約及び優先順位付けロジック318は、正の制限昇降舵コマンドのセットが相互に比較されて、最優先の正の制限昇降舵コマンドが選択され、且つ、負の制限昇降舵コマンドのセットが相互に比較されて、最優先の負の制限昇降舵コマンドが選択される、両方の比較を行う。正と負の昇降舵制限コマンド間で競合が発生した場合、両者間で最も優先度の高いコマンドが選択され、選択された昇降舵コマンドが設定される。
【0060】
図3のロジック318の優先順位付けコンポーネントの例示的な実施形態として、1つはピッチ姿勢のための、1つは荷重倍数のための、2つの正の昇降舵制限コマンドがあるかどうかの例を検討する。ピッチ姿勢の下限昇降舵コマンドが+15°であり、荷重倍数の下限昇降舵コマンドが+25°である場合には、ピッチ姿勢の下限昇降舵コマンドが、最も厳しい制限値であるため、最優先の正の制限昇降舵コマンドとして選択される。
【0061】
図3のロジック318の制約コンポーネントの別の例示的な実施形態として、ブロック320から出力された選択された昇降舵コマンドが最優先の正又は負の制限昇降舵コマンドのいずれかによって制限されていない場合を検討する。この場合、ブロック318から出力される制約フラグは全て偽となる。
【0062】
図3のロジック318の制約コンポーネントの更に別の例示的な実施形態として、ブロック320から出力された選択された昇降舵コマンドが最優先の正の制限昇降舵コマンドによって制限されており、且つ、最優先の正の制限昇降舵コマンドがピッチ姿勢の下限昇降舵コマンドに対応する場合を検討する。低い方のピッチ姿勢内部ループ制御則316の制約フラグが真に設定され、それ以外の全ての制約フラグは偽に設定される。
【0063】
図3-7の制御アーキテクチャにより、競合する可能性のある複数の状態のロバストなピッチ軸エンベロープ制限が可能になる。まず、荷重倍数をAOAに変換し、速度をピッチ姿勢に変換して、管理する状態の数を削減する。誤差パスと変化量パスは、ラグ昇降舵基準と組み合わさって、制限コマンドを生成する。境界への接近速度は、KXパス(
図7)を介して判り、速い侵入速度の場合、制御則がより早くアクティブになる。これらの制限コマンドは、一次ピッチ軸制御則コマンドを制限し、エンベロープ境界の近くで動作しているときに、大きな望ましくない入力が昇降舵に到達するのを防ぐ。エンベロープ制限制御則は、制御則間の過渡現象を含まない(transient-free)切り替えを保証する飽和ブロック(例:
図3にブロック320として示されている)を介して機能する。エンベロープ制限制御則モード間の移行時には、モード間の移行時には、予測可能で容易に制御可能な航空機の応答を確実にするために、過渡現象を含まない動作が望まれる。制限されている航空機状態の優先順位付けは、個々の制限昇降舵コマンドパスの比較によって競合が発生したときに達成される。
【0064】
図8は、例示的な実施形態による、航空機100をピッチ軸エンベロープに制限する方法400の別の例を示すフロー図である。
図8に示す方法400は、例えば、
図1に示す航空機100、
図2に示すシステム200、又は
図2に示すコンピューティングデバイス2020及び/又はプロセッサ(複数可)で使用されうる方法の例を提示するものである。更に、デバイス又はシステムは、
図8に提示している論理的機能を実施するために使用されうるか、又は、かかる論理的機能を実行するよう構成されうる。場合によっては、デバイス及び/又はシステムのコンポーネントが上記機能を実行するように構成されてもよく、実際、かかる実行を可能にするため、コンポーネントは、(ハードウェア及び/又はソフトウェアと共に)設計及び構成される。他の例では、デバイス及び/又はシステムのコンポーネントは、例えば特定の方法で操作されたときに、上記機能の実行に適合するように配設されていてもよく、上記機能の実行が可能であるように配設されていてもよく、又は上記機能の実行が適切であるように配設されていてもよい。方法400には、ブロック402から426のうちの1つ又は複数のブロックで示されている1つ又は複数の動作、機能又はアクションが含まれうる。ブロックは順番に示されているが、これらのブロックは、並行して実行されてもよく、且つ/又は、本明細書に記載の順序とは異なる順序で実行されてもよい。また、様々なブロックは、ブロックの数を減らすよう組み合わされること、ブロックを追加するよう分割されること、及び/又は、望ましい実行形態に基づいて除去されることが可能である。
【0065】
本明細書で開示している本プロセス及び方法、並びに他のプロセス及び方法について、フロー図は本例の1つの可能な実施形態の機能及び動作を示しているものと理解されたい。これに関して、各ブロック又は各ブロックの部分は、プロセス内の特定の論理的機能又はステップを実行するためにプロセッサによって実行可能な一又は複数の命令を含むモジュール、セグメント、又はプログラムコードの一部を表すことができる。プログラムコードは、任意の種類のコンピュータ可読媒体又はデータストレージ(例えば、ディスクドライブ又はハードドライブを含むストレージデバイスなど)に記憶されうる。更に、プログラムコードは、コンピュータ可読記憶媒体で機械可読形式にコード化されうるか、又は他の非一過性媒体若しくは製造品でコード化されうる。このコンピュータ可読媒体は、例えば、レジスタメモリ、プロセッサキャッシュ及びランダムアクセスメモリ(RAM)のようにデータを短期間記憶するコンピュータ可読媒体といった、非一過性コンピュータ可読媒体又はメモリを含んでいてよい。コンピュータ可読媒体は、例えば、読み出し専用メモリ(ROM)、光学又は磁気ディスク、コンパクトディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)のような二次的又は永続的なロングタームストレージといった非一過性媒体をさらに含んでいてもよい。また、コンピュータ可読媒体は、他の任意の揮発性又は非揮発性のストレージシステムでもあってもよい。コンピュータ可読媒体は、例えば、有形のコンピュータ可読記憶媒体と考えられうる。
【0066】
加えて、
図8の各ブロック又は各ブロックの一部、並びに本明細書に開示のその他のプロセス及び方法内の各ブロック又は各ブロックの一部は、プロセス内の特定の論理的機能を実行するよう配線された回路を表しうる。代替実施形態は本開示の例の範囲内に含まれ、本開示の例において機能は、当業者であれば理解しうるように、関係する機能に応じて、実質的に同時又は逆の順序を含めて、図示されているか又は記載されている順序を逸脱して実行されうる。
【0067】
ブロック402において、方法400は、制限された各航空機状態にわたってForループに入り、このループの一部としてブロック404から420を実行する。一例では、このような制限された航空機状態には、航空機100の迎え角及びピッチ姿勢が含まれる。
【0068】
ブロック404において、方法400には、ブロック402で決定された制限された航空機状態に関連付けられた航空機状態制限値を決定することが含まれる。これらの航空機状態制限値は、予め決定された定数値であってもよいし、
図4から6に示すように、等価な航空機状態制限値を計算したものであってもよい。一例では、ブロック404には、航空機100の迎え角、航空機100の荷重倍数、航空機100のピッチ姿勢、及び航空機100の較正対気速度に関連付けられた航空機状態制限値を決定することが含まれる。
【0069】
一例では、ブロック404には、荷重倍数の差を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換することが含まれる(例:
図4に示すように)。これにより、
図7の航空機状態制限値が設定される。
【0070】
別の例では、ブロック404には、迎え角の差を等価な荷重倍数の航空機状態制限値に変換することが含まれる(例:
図5に示すように)。これにより、
図7の航空機状態制限値が設定される。
【0071】
別の例では、ブロック404には、対気速度の差を等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値に変換することが含まれる(例:
図6に示すように)。これにより、
図7の航空機状態制限値が設定される。
【0072】
別の例では、ブロック404は、ピッチ軸変数に対して最も優先度の高い航空機状態制限値を選択することを含む。例えば、失速警報に関連付けられた迎え角の航空機状態制限値と、荷重倍数に基づく迎え角の状態制限値とが与えられると、両者間で最も優先度の高い、航空機状態制限値が選択される。
図3のブロック306は、最小選択ブロックを介したこの優先順位付けを示している。
【0073】
更に別の例では、(機首下げ)ピッチ姿勢の航空機状態下限値と、対気速度に基づくピッチ姿勢の航空機状態下限値とが与えられると、両者間で最も優先度の高い航空機状態制限値が選択される。
図3のブロック314は、最大選択ブロックを介したこの優先順位付けを示している。
【0074】
ブロック406において、方法400には、航空機の現在のピッチ軸変数及び現在のピッチ軸変数の変化量に基づいて予測される航空機状態を決定することが含まれる。予測される航空機状態は、将来の時点の航空機状態を示している。これは、航空機100が保護エンベロープを超える可能性のある運用に傾いているか否かを推定するのに役立つ。
【0075】
ブロック408において、方法400には、予測される航空機状態を航空機状態制限値と比較して、複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成することが含まれる。一例では、ブロック408には、迎え角誤差及びピッチ姿勢誤差を生成することが含まれる。これらの誤差は、航空機100が保護エンベロープを超えることにどの程度近づいているかを識別するために使用される。
【0076】
ブロック410において、方法400には、航空機状態変化量の減衰項を決定することが含まれる。一例では、この減衰項は、航空機状態変化量にゲインを乗じて計算され、制限昇降舵コマンドの一部として含まれる。
【0077】
ブロック412において、方法400には、昇降舵フィードフォワードコマンドを決定することが含まれる。一例では、この昇降舵フィードフォワードコマンドは、パイロット・インセプタの変位にゲインを乗じることによって計算される。この項は、パイロットコマンドに対して、航空機の迅速な応答を提供するために使用される。
【0078】
ブロック414において、方法400には、制約フラグ変数が真か偽かを評価することが含まれる。
図7では、これは、ブロック370に相当する。制約フラグの極性は、どの項がブロック416又はブロック418のいずれかに積分されるかを設定する。
【0079】
ブロック416において、方法400には、遅れた昇降舵フィードバックからフィードフォワード昇降舵コマンドを差し引いた値を積分することが含まれる。それは、制約フラグが偽の場合にのみアクティブになる。このパスは、
図7のブロック366と368に相当する。この計算の結果、
図7のブロック372の積分器の出力は、
図7のゲインブロック368によって与えられた周波数を有するフィードフォワード昇降舵コマンドを差し引いた、昇降舵位置のフィルタリングされたバージョンに相当する。
【0080】
ブロック418において、方法400には、航空機状態の積分誤差を積分することが含まれる。それは、制約フラグが真の場合にのみアクティブになる。このパスは、
図7のブロック374に相当する。このパスが選択されると、ブロック404から選択された航空機状態制限値の定常状態トラッキングを確実にするために積分制御が提供される。
【0081】
ブロック420において、方法400には、ブロック402で選択された制限された航空機状態に対する制限昇降舵コマンドを決定することが含まれる。この計算には、直接昇降舵フィードフォワードコマンド、積分器出力、比例的誤差パス、及び航空機状態変化量減衰項を積分する、
図7の加算器380と382が含まれている。
【0082】
ブロック422において、方法400には、正及び負の制限昇降舵コマンドのセットを比較することと、最優先の正及び負の制限昇降舵コマンドを選択することが含まれる。一例では、ブロック422には、最も制限的な正の制限昇降舵コマンドを選択することが含まれる。別の例では、ブロック422には、最も制限的な負の制限昇降舵コマンドを選択することが含まれる。特定の例では、航空機100が機種上げ迎え角とピッチ姿勢制限の両方を超えている場合、プロセッサは、この例では、2つの間で最大の機首下げコマンドを選択するようにプログラムされている。
【0083】
更なる例では、ブロック422において、方法400には、最優先の正の制限昇降舵コマンドを最優先の負の制限昇降舵コマンドと比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドと最優先の負の制限昇降舵コマンドとの間の競合に基づいて、両者間で最も優先度の高い制限昇降舵コマンドを選択するための機能が更に含まれうる。その後、この最優先の制限昇降舵コマンドは選択された昇降舵コマンドになる。例えば、正の昇降舵制限値と負の昇降舵制限値とを同時に満たすことができない場合がある。例としては、航空機100がかなりの対気速度を失っており且つ高迎え角にある場合、制御則の迎え角制限部分は、航空機100の機首を下げる必要があるであろう。しかしながら、迎え角を守るために航空機100の機首を下げると、航空機100が荷重倍数又はピッチ姿勢下限値に違反する可能性がある。それに応じて、これらの正の昇降舵制限コマンドは、航空機100の機首を上げようとする。両方の制限値を同時に満たすことはできないため、より優先度の高いコマンドを選択することが決定される。最優先コマンドの選択は、各状況でどの状態制限値が最も重要であるか、飛行力学に基づいてプログラムされている。例えば、迎え角を適切な範囲に保つことは、失速を防ぐために必要であり、アップセットからの回復時の最優先状態とされることが多い。
【0084】
ブロック424において、方法400には、制限された航空機状態.ごとに制約フラグの極性を決定することを含む。特定の例では、一次ピッチ軸昇降舵コマンドが最優先の正の制限昇降舵コマンドよりも小さく、最優先の負の制限昇降舵コマンドよりも大きい場合、各状態の制約フラグは偽になる。別の特定の例では、最優先の負の制限昇降舵コマンドは迎え角状態に関連付けられており、一次ピッチ軸昇降舵コマンドがこの制限昇降舵コマンドより小さい場合、迎え角航空機状態に関連付けられている制約フラグは真に設定され、他の全ての制約フラグは偽になる。
【0085】
ブロック426において、方法400は、一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することを含む。一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドは、コンピューティングデバイス202に記憶され、プログラムされてもよく、プロセッサ(複数可)204及び/又はコンピューティングデバイス202は、昇降舵コマンドに従って昇降舵112を作動させるために、操縦翼面アクチュエータ218に制御信号を送信してもよい。
【0086】
更なる例では、方法400は、制限コマンドをパイロット・インセプタ・コマンドで表すための追加の機能を含んでもよく、これらの制限コマンドは、選択された昇降舵コマンドの代わりにパイロット・インセプタ・コマンドに適用される。パイロット・インセプタ・コマンドは、パイロットが航空機の機首を上げたり下げたりするために押したり引いたりする、例えば、センター・カラムの変位を表すものである。
【0087】
更なる例では、方法400は、制限コマンドに従って任意の航空機操縦翼面及び航空機状態を制限するための更なる機能を含んでもよい。
【0088】
図9は、例示的な実施形態による、航空機100をピッチ軸エンベロープに制限する方法430の別の例を示すフロー図である。方法430は、
図8に示す方法400と類似しており、例えば、ピッチ軸エンベロープに対する航空機の制限を実行するための機能のより一般的方法を表す。
【0089】
ブロック432において、方法430は、航空機の複数のピッチ軸変数に関連付けられた航空機状態制限値を決定することを含み、これらの航空機状態制限値は、航空機の境界ピッチ軸エンベロープを定義する。一例では、航空機状態制限値を決定することには、航空機の迎え角、航空機の荷重倍数、航空機のピッチ姿勢、及び航空機の較正対気速度に関連付けられた航空機状態制限値を決定することが含まれる。
【0090】
ブロック434において、方法430は、航空機の現在のピッチ軸変数と現在のピッチ軸変数に関連付けられた変化量に基づいて予測される航空機状態を決定することを含み、予測される航空機状態は将来の時点の航空機状態を示す。
【0091】
ブロック436において、方法430には、予測される航空機状態を航空機状態制限値と比較して、複数のピッチ軸変数ごとに航空機状態誤差を生成することが含まれる。一例では、予測される航空機状態を航空機状態制限値と比較することは、迎え角の差、荷重倍数の差、及び速度の差を生成することを含む。
【0092】
ブロック438において、方法430は、航空機状態誤差を正及び負の制限昇降舵コマンドのセットに変換することを含み、各制限昇降舵コマンドは、各航空機状態制限値の超過を防止するような航空機の操縦翼面の昇降舵位置を表す。
【0093】
一例では、航空機状態誤差を変換することは、迎え角差を等価な荷重倍数の航空機状態制限値に変換すること、荷重倍数の航空機状態制限値を受信すること、及び荷重倍数の航空機状態制限値と等価な荷重倍数の航空機状態制限値との間で最優先の制限値を選択することを含む。
【0094】
別の例では、航空機状態誤差を変換することは、荷重倍数差を等価な迎え角の航空機状態制限値に変換すること、迎え角の航空機状態制限値を受信すること、及び迎え角の航空機状態制限値と等価な迎え角の航空機状態制限値との間で最優先の制限値を選択することとを含む。
【0095】
更に別の例では、航空機状態誤差を変換することは、速度差を等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値を変換すること、ピッチ姿勢の航空機状態下限値を受信すること、及びそのピッチ姿勢の航空機状態下限値と等価なピッチ姿勢の航空機状態制限値との間で最優先の制限値を選択することを含む。
【0096】
ブロック440において、方法430は、正の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較することと、最優先の正の制限昇降舵コマンドを選択することとを含む。
【0097】
ブロック442において、方法430は、負の制限昇降舵コマンドのセットを相互に比較することと、最優先の負の制限昇降舵コマンドを選択することとを含む。
【0098】
ブロック444において、方法430は、航空機の一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であって且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することを含む。
【0099】
ブロック448において、方法430は、上記値に制限された一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って航空機を制御することを含む。一例では、上記値に制限された一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って航空機を制御することは、任意の航空機操縦翼面に適用される一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドに従って任意の航空機状態について航空機を制御することを含む。
【0100】
更なる例では、方法430は、制限されているピッチ軸変数ごとに制約フラグを決定するための機能、そのピッチ軸変数に関連付けられた制限昇降舵コマンドによって一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドが制限されているときに制約フラグを真に設定するための機能、及びそのピッチ軸変数に関連付けられた制限昇降舵コマンドによって一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドが制限されていないときに制約フラグを偽に設定するための機能を更に含んでもよい。
【0101】
更なる例では、方法430は、制限されているピッチ軸変数ごとに積分器を提供するための機能を更に含んでもよく、ここで、積分器入力値が制約フラグに基づいて設定されており、制約フラグが真である場合、積分器入力値は航空機状態誤差に比例しており、且つ、制約フラグが偽である場合、積分器入力値は、フィルタリングされた昇降舵位置からフィードフォワード昇降舵コマンドを差し引いたものを提供するように設定され、ここでフィードフォワード昇降舵コマンドはパイロット又はオートパイロットが提供する昇降舵コマンドである。
【0102】
更なる例では、方法430は、最優先の正の制限昇降舵コマンドを最優先の負の制限昇降舵コマンドと比較し、最優先の正の制限昇降舵コマンドと最優先の負の制限昇降舵コマンドの間の競合に基づいて、両者間で最も優先度の高い制限昇降舵コマンドを選択し、その選択した最優先の制限昇降舵コマンドを昇降舵コマンドとして設定するための機能を更に含みうる。
【0103】
更なる例では、最優先の正の制限昇降舵コマンドと最優先の負の制限昇降舵コマンドは、パイロット・インセプタ・コマンドで表され、方法430は、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下で且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値をパイロット・インセプタ・コマンドに適用するための機能を更に含みうる。
【0104】
本明細書で使用されている「実質的に(substantially)」又は「約(about)」という語は、記載されている特性、パラメータ又は値が正確に得られる必要はないが、例えば許容誤差、測定誤差、測定精度限界値、及び当業者には既知のその他の要因を含む偏差又は変動が、特性によって得られるはずの効果を排除しない量で発生する可能性があることを意味している。
【0105】
本開示の観点から、本明細書に記載される様々な実施例に従って実施される、一次ピッチ軸制御則昇降舵コマンドを、最優先の正の制限昇降舵コマンド以下であり且つ最優先の負の制限昇降舵コマンド以上である値に制限することによって、航空機をピッチ軸エンベロープ内に制限するための改善された手法を提供うることが理解されるであろう。この点に関して、開示されている制御アーキテクチャは、ロバストな制限と、ピッチ軸保護モードを切り替えるための簡単な手段を提供する。さもなければ大きくて望ましくないピッチ応答を生成するであろう昇降舵コマンドが、最終的な昇降舵コマンドの設定が許可される前に傍受され、その結果、制限性能が向上する。
【0106】
本開示には、荷重倍数制限値を迎え角で表し、迎え角制限値を荷重倍数で表し、対気速度制限値をピッチ姿勢で表すための手法が記載されている。これらの手法によって、単一の制御則の内側ループが2つの航空機状態を調整して、これらの間をシームレスに移行することが可能になり、それにより複雑さを大幅に低減し、設計作業を軽減することができる。
【0107】
本明細書で開示されているシステム(複数可)、デバイス(複数可)、及び方法(複数可)の様々な例は、種々のコンポーネント、特徴及び機能を含む。本明細書で開示されているシステム(複数可)、デバイス(複数可)、及び方法(複数可)の様々な例は、本明細書で開示されているシステム(複数可)、デバイス(複数可)、及び方法(複数可)のその他の例のうちの任意のものの、任意のコンポーネント、特徴及び機能を、任意の組み合わせ又は任意の副組み合わせで含む可能性があり、かかる可能性は全て本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
【0108】
種々の有利な構成の説明は、例示及び説明を目的として提示されており、網羅的であること、または開示された形態の例に限定されることを意図するものではない。当業者には、多数の修正及び変形が自明であろう。更に、種々の有利な例は、他の有利な例と比べて異なる利点を説明していてもよい。選択された一又は複数の例は、それらの例の原理と実践的応用を最もよく解説するため、及び、様々な修正を伴う様々な例の開示内容は想定される特定の用途に適するものであると、他の当業者が理解することを可能にするために、選ばれ、記載されている。