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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】木質板用エマルジョン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20240930BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20240930BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20240930BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240930BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240930BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240930BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L25/10
C08L33/00
C08L29/04 C
C08K3/013
C08K3/26
C08L31/04 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020162953
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055496
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-04-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 司
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-306383(JP,A)
【文献】特開2015-183124(JP,A)
【文献】特開昭60-055071(JP,A)
【文献】特開平10-121021(JP,A)
【文献】特開平11-279506(JP,A)
【文献】特開2002-206082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分100質量部のうち、EVAエマルジョン(A)を固形分で0.5~50質量部含み、SBRエマルジョン(B)を固形分で0.5~33質量部含み、アクリル系エマルジョン(C)を固形分で0.5~50質量部含み、保湿剤としてPVAを0.5~10質量部含む木質板用エマルジョン組成物の固形分100質量部に対し、クルードMDIを5~25質量部含む水性ビニルウレタン組成物。
【請求項2】
木質板用エマルジョン組成物の固形分100質量部のうち、充てん剤を30~70質量部、分散剤を0.05~1質量部含む請求項1に記載の水性ビニルウレタン組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の充てん剤が、炭酸カルシウムである請求項2に記載の水性ビニルウレタン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
最終的に水性ビニルウレタン(水ビ)組成物を作製した時、ヒノキ、オウシュウアカマツ等の材質を、5℃等の低温環境で作製した試験片を用いて耐久試験を行っても、良好な結果を得ることができるエマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に用いられる木質材料として、無垢材、集成材が挙げられる。集成材は、小さく切り分けた木材を接着剤貼り合わせて作製されるが、このような作製方法なので、無垢材と比較して、反りが発生しにくいメリットがあり、価格的にも無垢材よりも低価格帯で販売されており、各種建築物に多用されている。
集成材は、構造用集成材、造作用集成材、化粧貼り造作用集成材、化粧貼り構造用集成柱等が挙げられる。
【0003】
集成材の接着は、各種組成物で行われるが、その組成物として、水性ビニルウレタン(水ビ)が用いられる場合がある。水性ビニルウレタンとは、水酸基を含有する分子を有するエマルジョンと、イソシアネート化合物を混合し、水を蒸発させ固化すると同時に、水酸基を含有する分子とイソシアネート化合物と反応させ、元の分子量よりも分子量を大きくし、より大きなファンデルワールス力が得られるようにし、反応しないタイプと比較して、接着強度を高め、各種耐久試験を行っても剥離が生じない、接着性能を高めた組成物である。
【0004】
水を蒸発させ固化すると同時に、水酸基を含有する分子とイソシアネート化合物と反応させるので、23℃等の常温、或いはそれ以上の温度にて試験体を得た方が、水の蒸発は速くなり、水酸基を含有する分子とイソシアネート化合物との反応も速くなる。
ところが、集成材を作製する環境は、ある程度クリーン度は保たれているものの、一年中ある一定温度に保たれていることは稀である。
おおよそ夏場は30℃等の高温環境、冬場は5℃等の低温環境にて集成材が作製されるのが一般的な条件である。特に、水の蒸発と、水酸基を含有する分子とイソシアネート化合物との反応が遅い冬場の5℃等の低温環境下に集成材を作製した場合でも、安定した接着性能を示すことが求められている。
【0005】
特許文献1は、環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含まず、揮発性化学物質(以下VOCと略称する)として指摘されているホルムアルデヒドやスチレンを放出しないものであって、接着力、耐水性、耐熱性、保存安定性に優れ、木工、合板、集成材などの接着、あるいは合板、パーチクルボードなど各種の基材に突き板、化粧紙などを接着するニ次加工用にも使用できる樹脂エマルジョンと接着剤用途に関する公報である。エマルジョンの種類については、改善の余地があった。
【0006】
特許文献2は、界面活性剤を使用することで、水性エマルジョン-イソシアネート系化合物またはイソシアネート系重合物の使用時間を大幅に延長することできる公報である。特許文献3は、粘着剤成分を含有する含水ボリウレタンからなるかさ高性を有し、弾性に富む粘着物に関する公報である。何れの公報も、各種エマルジョンが明細書中に挙げてあるが、実施例にてこれらを組み合わせた例は示されていない。
【0007】
特許文献4は、軽量弾性組成物に関し、さらに詳しくは、コンクリート構造物の補修材あるいはコンクリート構造物の継ぎ目の緩衝目地材として使用できる軽量弾性組成物に関する公報、特許文献5は、短時間接着が可能であり、構造用部材で必要とされる高耐水性にも優れた二液分別塗布型水性接着剤及び接着方法に関する公報である。何れの公報も、各種エマルジョンが実施例にて用いられているが、組み合わせには改善の余地があった。水性エマルジョン-イソシアネート系化合物またはイソシアネート系重合物の使用時間を大幅に延長することができる水性エマルジョン-イソシアネート系化合物またはイソシアネート系重合物の使用時間を大幅に延長することができる水性エマルジョン-イソシアネート系化合物またはイソシアネート系重合物の使用時間を大幅に延長することができる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-273889
【文献】特開昭50-069134
【文献】特開昭51-131546
【文献】特開2001-89678
【文献】特開2010-229397
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、最終的に水性ビニルウレタン(水ビ)組成物を作製した時、ヒノキ、オウシュウアカマツ等の材質を、5℃等の低温環境で作製した試験片を用いて耐久試験を行っても、良好な結果を得ることができるエマルジョン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、固形分100質量部のうち、EVAエマルジョン(A)を固形分で0.5~50質量部含み、SBRエマルジョン(B)を固形分で0.5~33質量部含み、アクリル系エマルジョン(C)を固形分で0.5~50質量部含むことを特徴とする、木質板用エマルジョン組成物を得ることに成功した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物は、最終的に水性ビニルウレタン(水ビ)組成物を作製した時、ヒノキ、オウシュウアカマツ等の材質を、5℃等の低温環境で作製した試験片を用いて、構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験(使用環境B)を行っても、合格するエマルジョン組成物であるので、集成材はもとより、各種木質板用接着用エマルジョン組成物として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
エチレンビニルアセテート(EVA)エマルジョン(A)としては、市販のものを使用することができる。添加量としては、固形分100質量部のうち、EVAエマルジョン(A)の固形分が0.5~50質量部、より好適には1~40質量部である。
【0014】
スチレン-ブタジエンラバー(SBR)エマルジョン(B)としては、市販のものを使用することができる。添加量としては、固形分100質量部のうち、SBRエマルジョン(B)の固形分が0.5~33質量部、より好適には1~20質量部である。
【0015】
アクリル系エマルジョン(C)としては、市販のものを使用することができる。尚、(メタ)アクリル酸(エステル)以外に、(メタ)アクリル酸(エステル)と共重合できる成分を含んでも構わない。添加量としては、固形分100質量部のうち、アクリル系エマルジョン(C)の固形分が0.5~50質量部、より好適には1~40質量部である。
【0016】
本願の木質板用エマルジョン組成物には、保湿剤としてポリビニルアルコール(PVA)を添加することができる。PVAは、市販のものを使用することができる。PVAを添加する場合の添加量は、固形分100質量部のうち、0.5~20質量部、より好適には1~7質量部である。
【0017】
本願の木質板用エマルジョン組成物は、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カオリン、焼成カオリン、クレー、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、ゼオライト、ガラスビーズ、シラスバルーン等の無機系充填材を添加する事が出来る。
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート 、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート等の有機系充填材を添加する事も出来る。
より好適な充てん剤は炭酸カルシウムで、市販の炭酸カルシウムを使用することができる。市販品としては、白石カルシウム社より、商品名:ソフトン1200白、商品名:白艶華CC、商品名:ライトンA等が、丸尾カルシウム社より、商品名:スーパーS商品名:スーパーSS、商品名:スーパーSSS等が販売されている。炭酸カルシウムを添加する場合の添加量は、固形分100質量部のうち、30~70質量部、より好適には35~65質量部である。
【0018】
本願の木質板用エマルジョン組成物は、充てん剤の分散性を向上させる為、分散剤を添加することができる。分散剤は、市販のものを添加することができ、市販品としては、サンノプコ社より、商品名:SNディスパーサント2060、商品名:ノプコサントR、商品名:ノプコスパース6150等が販売されている。添加量としては、固形分100質量部のうち、0.05~1質量部、より好適には0.2~0.8質量部である。
【0019】
本願の木質板用エマルジョン組成物は、消泡剤を添加することができる。消泡剤は、市販のものを使用することができる。市販品としては、サンノプコ社より、商品名:SNデフォーマーAP、商品名:SNデフォーマーS、商品名:ノプコ267-A等が販売されている。添加量としては、木質板用エマルジョン組成物合計約164質量部に対し、0.05~0.5質量部、より好適には0.1~0.3質量部である。尚、消泡剤は、固形分としては算入しない。
【0020】
本願の木質板用エマルジョン組成物は、防腐剤を添加することができる。防腐剤は、市販のものを使用することができる。市販品としては、ソージャパン社より、商品名:ACTICIDE MV4、商品名:ACTICIDE MBS、商品名:ACTICIDE MBZ等が販売されている。添加量としては、木質板用エマルジョン組成物合計約164質量部に対し、0.05~0.5質量部、より好適には0.1~0.3質量部である。尚、防腐剤は、固形分としては算入しない。
【0021】
木質板用エマルジョン組成物を得る添加順であるが、PVA溶解用の水に、PVAを溶解させ、充てん剤を分散させた後、EVAエマルジョン(A)、SBRエマルジョン(B)、アクリル系エマルジョン(C)を添加し撹拌する。その後、消泡剤、防腐剤、粘度調整用の水を添加し、撹拌することによって、木質板用エマルジョン組成物を得ることができる。
【0022】
木質板用エマルジョン組成物は、最終的にはイソシアネート成分を添加撹拌し、水性ビニルウレタンとして集成材が作製される。
イソシアネート成分は、市販のイソシアネート化合物を使用することができる。どのようなイソシアネート化合物でも構わないが、入手容易性の観点より、より好適にはクルードMDIを使用した方が良い。木質板用エマルジョン組成物とイソシアネート化合物の量は、木質板用エマルジョン組成物の固形分100質量部に対し、10~20質量部、より好適には12~18質量部である。
【0023】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0024】
エチレンビニルアセテート(EVA)エマルジョン(A)として、市販の固形分65%であるEVAエマルジョン1を準備した。
スチレン-ブタジエンラバー(SBR)エマルジョン(B)として、市販の固形分50%であるSBRエマルジョン1、市販の固形分50%であるSBRエマルジョン2を準備した。
アクリル系エマルジョン(C)として、市販の固形分50%であるアクリル系エマルジョン1、市販の固形分50%であるアクリル系エマルジョン2を準備した。
この他、市販のPVAと、市販のクルードMDIを準備した。
【0025】
実施例1の木質板用エマルジョン組成物の作製
容器に、PVA溶解用の水を25.69g、PVA5.37g秤取り、撹拌はね付きモーターで撹拌しPVAを溶解させた。次に炭酸カルシウムのソフトン1200白を50.81g秤取り、撹拌して均一に分散させた。次いで、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)のEVAエマルジョン1を51.02g、SBRエマルジョン(B)のSBRエマルジョン1を17.07g、アクリル系エマルジョン(C)のアクリル系エマルジョン1を5.30g添加し、撹拌して均一にした。次に、消泡剤のSNデフォーマーSを0.17g、防腐剤のACTICIDE MV4を0.17g、粘度調整用の水を5.52g添加し、撹拌して均一し、実施例1の木質板用エマルジョン組成物を得た。
【0026】
実施例2~6、比較例1~3の木質板用エマルジョン組成物の作製
表1、表2に示す割合で、実施例1の手順で、実施例2~6、比較例1~3の木質板用エマルジョン組成物を得た。尚、()書きで示した値は固形分であり、合計が100質量部になるようにしている。
【0027】
水性ビニルウレタン組成物1~9の作製
表3、表4に示すように、実施例1~6、比較例1~3の木質板用エマルジョンの固形分が100質量量部となる液と、クルードMDI15gを撹拌はね付きモーターで撹拌、均一にし、水性ビニルウレタン組成物として、構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験を行った。尚、この調整は、下記に示す試験片作製方法に示す、木材の温度調整終了後、試験片作製直前に行っている。
【0028】
試験片作製方法
5℃に調整した110mm×300mm×30mm厚みのオウシュウアカマツ材とヒノキ材を5枚準備した。試験片を23℃の室温に取り出し、4枚の試験片に、250g/m2となるように、それぞれの水性ビニルウレタンを塗布し、4枚を重ねた後、最後に水性ビニルウレタンを塗布していない試験片を重ね、1MPaにて20分間圧締して取り出した。その試験片を再び5℃の恒温槽に投入し、7日間養生して硬化させた。
養生後の試験片を、長辺の端部から75mmの位置で切断してから、構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験の試験片とした。
【0029】
構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験(使用環境B)
試験片を約23℃の水中に浸せきし、0.085MPaの減圧を5分間行い、更に0.51±0.03MPaの加圧を1時間行った。この処理を2回繰り返した後、試験片を水中から取り出した。
70±3℃の恒温乾燥器中に入れ、器中に湿気がこもらないようにして質量が試験前の質量の100~110%の範囲となるように乾燥させた。この操作を1回のみ行うのが、構造用集成材JAS規格の減圧加圧試験(使用環境B)の試験方法である。
【0030】
構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験判定基準
5枚の板材を重ねて貼り合わせているので、110mmの水性ビニルウレタン硬化物の接着層が、8本観察される。
110mm硬化物の線の合計880mmのうち、5%以上の剥離が観察されない場合は合格、5%以上の剥離が観察される場合は不合格である。3つの試験片(n=3)で行い、全て5%以上の剥離が観察されない場合は合格、一つでも5%以上の剥離が観察された場合は、不合格となる。
【0031】
オウシュウアカマツ材とヒノキ材とでは、オウシュウアカマツ材とヒノキ材の方が、試験結果が悪い傾向にある。
しかしながら、固形分100質量部のうち、EVAエマルジョン(A)を固形分で0.5~50質量部含み、SBRエマルジョン(B)を固形分で0.5~33質量部含み、アクリル系エマルジョン(C)を固形分で0.5~50質量部含むことを特徴とする、木質板用エマルジョン組成物である実施例1~6は、最終的に水性ビニルウレタン(水ビ)組成物を作製した時、ヒノキ、オウシュウアカマツ等の材質を、5℃等の低温環境で作製した試験片を用いて、構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験(使用環境B)を行っても、全て合格となった。
【0032】
EVAエマルジョン(A)、SBRエマルジョン(B)、アクリル系エマルジョン(C)のうち、アクリル系エマルジョン(C)を添加していない比較例1、SBRエマルジョン(B)を添加していない比較例2、(A)、SBRエマルジョンを添加していない比較例3は、最終的に水性ビニルウレタン(水ビ)組成物を作製した時、ヒノキ、オウシュウアカマツ等の材質を、5℃等の低温環境で作製した試験片を用いて、構造用集成材JAS規格の減圧加圧剥離試験(使用環境B)を行った場合、全て不合格となった。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】