(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】振動型駆動装置およびこれを備えた装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/04 20060101AFI20240930BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20240930BHJP
【FI】
H02N2/04
G02B7/04 E
(21)【出願番号】P 2020166207
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】浅野 幸太
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236522(JP,A)
【文献】特開2019-039997(JP,A)
【文献】特開2019-140764(JP,A)
【文献】特開2019-037054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/04
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気-機械エネルギ変換素子により振動が励起される振動体および該振動体を保持する保持部材により構成された振動体ユニットと、前記振動体が接触する接触体と
、前記振動体を前記接触体に接触させるように加圧する加圧部とを有し、前記振動体に可聴域より高い周波数の振動が励起されることにより該振動体と前記接触体とが相対移動する振動型駆動装置であって、
前記振動体は、弾性体と該弾性体に接着された圧電素子とにより構成され、
前記加圧部は、
第1の加圧板と、
該第1の加圧板と前記振動体との間に設けられた振動絶縁部材と、
前記第1の加圧板に対して前記振動絶縁部材とは反対側において対向し、前記第1の加圧板に当接する突起部を有する第2の加圧板と、
前記第2の加圧板に加圧力を与える加圧部材とにより構成され、
前記弾性体は、前記保持部材に接触しており、
前記弾性体と前記第2の加圧板との間に前記圧電素子が配置されており、
前記振動体の駆動周波数をf
D、前記振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域での振動モードの周波数をf
SMN(Nは整数)、前記接触体に発生する面外振動の周波数をf
SLとするとき、前記接触体は、
f
D±f
SMN≠f
SL
なる条件を満足する形状を有することを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
f
D±f
SMNとf
SLが、0.4kHz以上の差を有することを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記接触体は、f
D±f
SMNに最も近いf
SLでの面外振動の腹部における面外方向の剛性と前記腹部以外の部分における前記面外方向の剛性とが互いに異なる形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記接触体は、前記腹部と前記腹部以外の部分の前記面外方向での厚みが互いに異なる形状を有することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記接触体は、前記振動体との接触面とは反対側の面に凹凸が設けられることで前記腹部と前記腹部以外の部分の前記厚みが互いに異なることを特徴とする請求項4に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記接触体は、前記振動体が前記接触体に接触する方向から見たときに前記振動体が移動する範囲に重なる第1の範囲と前記振動体が移動する範囲に重ならない第2の範囲
の面外方向での剛性が互いに異なる形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
前記接触体は、前記振動体との接触面とは反対側の面における前記第1の範囲と前記第2の範囲に段差が設けられることで前記第1の範囲と前記第2の範囲
の厚みが互いに異なることを特徴とする請求項6に記載の振動型駆動装置。
【請求項8】
前記振動体は、前記接触体に接触する2つの駆動突起部を有し、
前記振動体に、前記駆動突起部の先端を前記振動体と前記接触体との相対移動方向および前記振動体が前記接触体に接触する方向を含む面内で楕円運動させる振動が励起されることを特徴とする請求項1から
7のいずれか一項に記載の振動型駆動装置。
【請求項9】
前記振動体ユニットが有する可聴域での振動モードの周波数f
SMN(Nは整数)のうち、f
SMNは前記振動体が前記接触体に接触する方向振動の最低次の振動モードと、前記振動体と前記接触体との相対移動方向と前記振動体が前記接触体に接触する方向の両方に直交する方向の軸回りの回転を主とする振動の最低次の振動モードであることを特徴とする請求項1から
8のいずれか一項に記載の振動型駆動装置。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の振動型駆動装置と、
前記振動型駆動装置によって駆動される被駆動部材とを有することを特徴とする装置。
【請求項11】
前記被駆動部材としてのレンズを有する光学機器であることを特徴とする請求項1
0に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動が励起される振動体とこれに接触する接触体とを相対移動させる振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子により励起される振動を利用して駆動力を発生させる振動型モータ等の振動型駆動装置として、特許文献1には、振動体を保持する保持部材と、該保持部材と一体に移動可能であってガイド部材(ボール)により移動方向にガイドされる移動板とを有する振動型駆動装置が開示されている。この振動型駆動装置では、保持部材と移動板との間に振動減衰部材を配置して、加減速時や高速での往復駆動時に移動板とガイド部材との衝突の繰り返しによる異音の発生を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように振動減衰部材を用いると、振動減衰部材の追加により組み立て工数の増加や装置の大型化を招く。また特許文献1では、振動体の振動に起因で接触体に発生する可聴域の異音については考慮されていない。すなわち、振動体が振動すると、これに接触する接触体も振動する。振動体が最も振動しやすい可聴域の振動の周波数と接触体の振動の周波数、さらには振動体の駆動周波数との関係により、振動体が共振することがある。振動体が共振すると、可聴域の異音が発生する。
【0005】
本発明は、新たな部材を追加することなく、可聴域の異音の発生を抑制できるようにした振動型駆動装置およびこれを用いた光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての振動型駆動装置は、電気-機械エネルギ変換素子により振動が励起される振動体および該振動体を保持する保持部材により構成された振動体ユニットと、振動体が接触する接触体と、振動体を接触体に接触させるように加圧する加圧部とを有し、振動体に可聴域より高い周波数の振動が励起されることにより該振動体と接触体とが相対移動する。振動体は、弾性体と該弾性体に接着された圧電素子とにより構成され、加圧部は、第1の加圧板と、該第1の加圧板と振動体との間に設けられた振動絶縁部材と、第1の加圧板に対して振動絶縁部材とは反対側において対向し、第1の加圧板に当接する突起部を有する第2の加圧板と、第2の加圧板に加圧力を与える加圧部材とにより構成され、弾性体は、保持部材に接触しており、弾性体と、第2の加圧板との間に圧電素子が配置されており、振動体の駆動周波数をfD、振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域での振動モードの周波数をfSMN(Nは整数)、接触体に発生する面外振動の周波数をfSLとするとき、接触体は、
fD±fSMN≠fSL
なる条件を満足する形状を有することを特徴とする。なお、上記振動型駆動装置により被駆動部材を駆動する各種装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、振動型駆動装置において、新たな部材を追加することなく可聴域の異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例における振動体の構成と動作を示す図。
【
図4】実施例における振動体と摩擦部材の振動モードを示す図。
【
図5】実施例における振動体と摩擦部材の振動モードを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1である振動型駆動装置としてのリニア振動型モータユニット100を備えた光学機器としての撮像装置の構成を示している。撮像装置は、撮像レンズ部300と該撮像レンズ部300が着脱可能または一体に設けられたカメラボディ400とにより構成されている。撮像レンズ部300内には、リニア振動型モータユニット100と、該振動型モータユニット100により撮像レンズ部300の光軸Oが延びる方向(光軸方向)に駆動される被駆動部材としてのフォーカスレンズ200とが配置されている。
【0011】
カメラボディ400内には、撮像レンズ部300内のフォーカスレンズ200を含む撮像光学系により形成された被写体像を撮像(光電変換)するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子500が配置されている。フォーカスレンズ200は、光軸方向に移動して被写体像のピントが撮像素子500上で合うようにフォーカシングを行う。
【0012】
なお、振動型駆動装置は撮像装置以外の光学機器や、光学機器以外の各種装置に搭載されてもよい。
【0013】
図2(A)、(B)は、リニア振動型モータユニット100が有する振動体1を示している。
図2(A)、(B)において、振動体1が後述する接触体としての摩擦部材11に接触する方向かつ振動体1が後述する加圧部により摩擦部材11に対して圧接するように加圧される方向が+z方向であり、振動体1と摩擦部材11の相対移動方向がx方向である。x方向とz方向に直交する方向がy方向である。
図2(A)は+z方向から見た振動体1を示し、
図2(B)は+y方向から見た振動体1を示している。
【0014】
振動体1は、弾性体2とこれに接着された圧電素子(電気-機械エネルギ変換素子)3とにより構成されている。弾性体2は、互いにx方向に離間した駆動突起部2a、2bと、x方向の両端に設けられた固定腕部2c、2dとを有する。圧電素子3には、不図示のフレキシブルプリント基板を介して2相の高周波電圧が印加される。2相の高周波電圧が圧電素子3に印加されると、圧電素子3の電気-機械エネルギ変換(電歪)作用により弾性体2に振動が励起される。このとき、弾性体2には、
図2(C)に示すようなx方向の振動と
図2(D)に示すようなz方向の振動が励起される。この結果、
図2(B)に示すように、駆動突起部2a、2bの先端は、x方向の送り振動とz方向の突き上げ振動とが合成されてxz面内で楕円運動する。
【0015】
本実施例では、圧電素子3に印加する高周波電圧の周波数(駆動周波数)は89kHzであり、この駆動周波数での正常な振動状態(振動モード)が
図2(C)、(D)に示す通りとなる。この振動モードで駆動突起部2a、2bが後述する摩擦部材11に圧接することで、両者間の摩擦力により振動体1と摩擦部材11は相対移動する。
【0016】
図3は、+y方向から見たリニア振動型モータユニット100を示している。固定部材12は、ビスにより
図1に示したフォーカスレンズ200に固定されるとともに、摩擦部材11をビスを用いて固定保持する。摩擦部材11は、不図示の可動板に接続された加圧部材10による加圧力を第2の加圧板7に伝える。加圧部材10は、xy面内における振動体1の周囲に4つ配置されている。
【0017】
第2の加圧板7の下面におけるx方向での同じ位置にy方向に互いに離間して設けられた半球状の2つの突起部7Bは、第2の加圧板7に対向する第1の加圧板としての金属等の高剛性板6の上面(後述する振動絶縁部材5とは反対側の面)に当接している。
【0018】
高剛性板6の下面と
図2(A)、(B)に示した振動体1の圧電素子3との間には、振動絶縁部材5が配置されている。これにより、加圧部材10の加圧力が、第2の加圧板7、高剛性板6および振動絶縁部材5を介して振動体1に作用してこれを摩擦部材11に対して押圧する。この結果、振動体1の駆動突起部2a、2bが摩擦部材11に圧接する。
振動絶縁部材5は、振動体1に励起される振動を阻害せずに、振動体1に加圧力を伝える。振動絶縁部材5には、フェルト、ブチルゴムまたはゲルを用いることができる。
【0019】
本実施例において、高剛性板6と振動絶縁部材5とにより加圧伝達部材4が構成され、加圧伝達部材4、加圧板7、加圧部材10および可動板により加圧部が構成される。また本実施例では、加圧部材10として引っ張りコイルバネを用いているが、圧縮コイルバネを用いてもよい。
【0020】
振動体1の固定腕部2c、2dは、振動体保持部材8に接着等により固定されている。これにより、振動体1と振動体保持部材8とが一体化された振動体ユニットが構成される。可動支持部材9は、ビスにより不図示の可動板と一体化されている。摩擦部材11における駆動突起部2a、2bとの接触面と平行になるようにビスにより固定部材12に固定された不図示のガイド部材と可動板との間には不図示の転動ボールが配置されている。可動板がこれに接続された加圧部材10の加圧力を受けることで、ガイド部材と可動板は転動ボールをz方向にて挟持する。ガイド部材には、x方向に延びるV溝部としてのガイド溝部が設けられており、このガイド溝部内に転動ボールが配置されている。これにより、振動体ユニットがx方向に移動可能にガイドされる。
【0021】
本実施例では、振動体ユニット(1、8)、加圧伝達部材4(5、6)、第2の加圧板7、可動保持部材9、加圧部材10および可動板で構成される移動部が、摩擦部材11、固定部材12およびガイド部材により構成される固定部に対してx方向に移動する。
【0022】
次に、
図4(A)、(B)と
図5(A)、(B)、
図6(A)~(D)および
図7(A)~(D)を用いて、振動体ユニットに共振が生じることで可聴域の騒音が発生するメカニズムについて説明する。
図4(A)は、+y方向から見た振動体ユニットの振動体1と振動体保持部材8を示している。またこの図には、振動体ユニットに発生するZ方向の振動モードである、1次の面外振動を太実線SM
1と太破線SM
1′で示している。また
図5(A)は、+y方向から見た振動体ユニットの振動体1と振動体保持部材8を示している。またこの図には、振動体ユニットに発生するY軸回りの回転方向(ピッチ方向)への振動モードである、1次の回転振動を太実線SM
2と太破線SM
2′で示している。本実施例における振動体ユニットの振動周波数(固有周波数)は、
図4(A)では4.5kHz、
図5(B)では4.8kHzとなっている。これは、振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域の振動モードの周波数f
SM1、f
SM2、f
SM3、・・・、f
SMN(Nは整数)に相当する。ここでは、代表的な振動周波数であるf
SM1=4.5kHz、f
SM2=4.8kHzを例に示した。
【0023】
図4(A)から分かるように、振動体ユニットの振動モードは、
図2(B)~(D)で示した正常な振動モードとは異なる。前述の例で示した4.5kHz、4.8kHzの振動モードは毎秒20~20kHzの可聴域内の周波数であり、この振動モードにより振動体ユニットの振動が増大して可聴域の異音が発生する。この異音は、本実施例のリニア振動型モータユニット100を交換レンズや撮像装置等の光学機器のズーム駆動やフォーカス駆動に用いた場合にユーザに不快感を与えたり、動画撮像時に不要音として記録されたりする。
【0024】
図4(B)と
図5(B)は、振動体1の駆動突起部2a、2bの先端にxz面内での楕円運動が励起され、振動が摩擦部材11に伝わった際に、摩擦部材11で発生する6次の固有振動モードである面外振動を太実線SL
b6と太破線SL
b6′で示している。本実施例における摩擦部材11の6次の固有振動モードの振動数(固有周波数)は84.5kHzとなっており、これが摩擦部材11に発生する面外振動の周波数f
SL(f
SLb6)に相当する。
【0025】
また、前述したように、本実施例において圧電素子3に印加される高周波電圧の周波数は89kHzであり、これが振動体1の駆動周波数fDに相当する。89kHzは毎秒20kHz以上の可聴域より高い超音波域の周波数である。
【0026】
図6(A)は、
図3に示したリニア振動型モータユニット100のうち、+y方向から見た振動体1、振動体保持部材8、摩擦部材11および固定部材12を示している。
図6(B)は、圧電素子3に2相の高周波電圧が印加されて駆動突起部2a、2bの先端にxz面内での楕円運動が励起された状態を示している。この状態で圧接している駆動突起部2a、2bと摩擦部材11との間には摩擦があるので、振動体1の振動が摩擦部材11に伝わる。
【0027】
図6(C)は、
図6(B)の状態から摩擦部材11がその固有振動数で振動する様子を示している。ここでは摩擦部材11が6次の固有振動モードでかつ面外方向に振動している様子を示している。固有振動モードには1次、2次、・・・と多数存在し、振動方向にも面内と面外等、様々あるが、ここでは6次の固有振動モードの面外振動を示している。
【0028】
図6(D)は、摩擦部材11が
図6(C)に示したように6次の固有振動モードで振動している状態から、該振動が伝わった振動体ユニットが
図4(A)に示したようにZ方向の振動モードである、1次の面外振動を太実線SM
1と太破線SM
1′で振動する様子を示している。
【0029】
このように、振動体1が駆動周波数で振動すると、振動体ユニットと摩擦部材11が互いの振動を受け、その振動がそれぞれの固有振動数に近づくにつれて振動の振幅が増大し、やがて共振状態となる。
共振が強い状態となる条件は、以下の式(1)により表される。
fD±fSMN=fSL (1)
前述したように、fDは振動体1の駆動周波数、fSMNは振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域の振動モードの周波数fSM1、fSM2、fSM3、・・・、fSMN(Nは整数)、fSLは摩擦部材11の面外振動の周波数であり、本実施例では6次の固有振動モードの周波数fSLb6である。
【0030】
例えば、式(1)に上述した周波数を代入すると、
89-4.5=84.5(fSLb6 )kHz
が成り立つ。本実施例では摩擦部材11の6次の固有振動モードの面外振動に着目しているが、例えば7次の固有振動モードの面外振動の周波数fSLb7が、
89+4.5=93.5kHz
である場合にも式(1)が成り立つ。すなわち、式(1)は、振動体1の駆動周波数fDと振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域の振動モードの周波数fSM1、fSM2、fSM3、・・・、fSMN(Nは整数)とを加算または減算した周波数(fD±fSMN)と、摩擦部材11の面外振動の周波数fSLとが一致することを示す。この状態では、前述したように可聴域の異音が発生しやすい状態となるため、これを回避するには、
fD±fSMN≠fSL (2)
なる条件を満足する必要がある。
なお、fD±fSMとfSLは、0.4kHz以上の差があることが好ましく、さらに1.0kHz以上の差があることが望ましい。
【0031】
具体例を以下に説明する。
図7(A)は、
図3に示したリニア振動型モータユニット100のうち、+y方向から見た振動体1、振動体保持部材8、摩擦部材11および固定部材12を示している。
【0032】
図7(B)は、圧電素子3に2相の高周波電圧が印加されて駆動突起部2a、2bの先端にxz面内での楕円運動が励起された状態を示している。この状態で圧接している駆動突起部2a、2bと摩擦部材11との間には摩擦があるので、振動体1の振動が摩擦部材11に伝わる。
【0033】
図7(C)は、
図7(B)の状態から摩擦部材11がその固有振動数で振動する様子を示している。ここでは摩擦部材11が6次の固有振動モードでかつ面外方向に振動している様子を示している。固有振動モードには1次、2次、・・・と多数存在し、振動方向にも面内と面外等、様々あるが、ここでは6次の固有振動モードの面外振動を示している。
【0034】
図7(D)は、6次の固有振動モードで振動している状態から、該振動が伝わった振動体ユニットが
図5(A)に示したようにY軸回りの回転方向(ピッチ方向)への振動モードである、1次の回転振動を太実線SM
2と太破線SM
2′で振動する様子を示している。
【0035】
このように、振動体1が駆動周波数で振動すると、振動体ユニットと摩擦部材11が互いの振動を受け、その振動がそれぞれの固有振動数に近づくにつれて振動の振幅が増大し、やがて共振状態となり、条件式は、上述の式(1)の通りである。
【0036】
前述したように、fDは振動体1の駆動周波数、fSMNは振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域の振動モードの周波数fSM1、fSM2、fSM3、・・・、fSMN(Nは整数)、fSLは摩擦部材11の面外振動の周波数であり、本実施例では6次の固有振動モードの周波数fSLb6である。
ここで、式(1)に上述した周波数を代入すると、
89-4.8=84.2kHz
となり、84.5(fSLb6)kHzと完全一致とは異なるが、近い結果となる。本実施例では摩擦部材11の6次の固有振動モードの面外振動に着目しているが、例えば7次の固有振動モードの面外振動の周波数fSLb7については、前述の通りであるため省略する。すなわち、式(1)は、駆動周波数fDと可聴域の振動モードの周波数fSMN(Nは整数)を加算または減算した周波数(fD±fSMN)と、摩擦部材11の面外振動の周波数fSLとが完全に一致しなくても成り立つとみなす。これは、振動と周波数との関係が尖鋭的ではなくある程度の裾野を持っており、固有振動数に近づくにつれて振動の振幅が増大する(共振に影響する周波数に幅がある)ためである。この状態では、可聴域の異音が発生しやすい状態となるため、これを回避するには、
fD±fSMN≠fSL (2)
なる条件を満足する必要があり、好ましくは0.4kHz以上の差、さらに1.0kHz以上の差があることがより望ましい。
【0037】
そこで本実施例では、
図3に示した摩擦部材11として、
図8に示す形状を有する摩擦部材110を用いている。
図8は、+y方向から見た摩擦部材110を示している。摩擦部材110は、
図4(B)および
図5(B)に示した6次の固有振動モードでの面外振動を示すSL
b6およびSL
b6′に対して、該面外振動のx方向での腹部における剛性とx方向での腹部以外の部分における面外方向(z方向)での剛性とを異ならせている。具体的には、摩擦部材110における面外振動の腹部でのz方向の厚みと腹部以外の厚みとを異ならせている。
【0038】
特に
図8では、腹部におけるz方向での剛性を腹部以外の部分におけるz方向での剛性よりも低くした例を示している。具体的には、摩擦部材110における振動体1(駆動突起部2a、2b)との接触面とは反対側の面に凹凸を設けることで、面外振動の腹部でのz方向の厚みを腹部以外の厚みよりも0.2mmだけ薄くしている。
【0039】
摩擦部材110がこのような形状を有することで、振動体1の駆動周波数fDと振動体ユニットが有する複数の振動モードのうち可聴域の振動モードの周波数fSM1、fSM2、fSM3、・・・、fSMN(Nは整数)とを加算または減算した周波数に最も近い摩擦部材110の6次と7次の固有振動モードの面外振動の周波数を、上記形状を有さない場合に比べて低くすることができる。この結果、式(2)に示した、
fD±fSMN≠fSL
が成り立つようになり、可聴域の異音の発生を抑制することができる。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、
図3に示した摩擦部材11として、
図9(A)に示す形状を有する摩擦部材111または
図9(B)に示す形状を有する摩擦部材112を用いている。本実施例では、各摩擦部材に振動体1が接触する方向から見て(z方向視において)、摩擦部材111、112のうち前述した移動部が移動する範囲と重なるx方向の範囲を第1の範囲、移動部の移動範囲と重ならない範囲を第2の範囲とする。そして、これら第1の範囲と第2の範囲におけるz方向での剛性を互いに異ならせている。具体的には、第1の範囲と第2の範囲におけるz方向の厚みを互いに異ならせている。より具体的には、摩擦部材111、112のうち振動体1との接触面とは反対側の面に第1の範囲と第2の範囲とに段差を設けている。
【0041】
摩擦部材111では、第1の範囲のz方向の厚みを第2の範囲の厚みよりも0.2mmだけ薄くしている。これにより、摩擦部材111のうち第1の範囲のz方向での剛性が第2の範囲のz方向での剛性よりも低くなる。
【0042】
また、摩擦部材112では、第2の範囲のz方向の厚みを第1の範囲の厚みよりも0.2mmだけ薄くしている。これより、摩擦部材112うち第2の範囲のz方向での剛性が第1の範囲のz方向での剛性よりも低くなる。
【0043】
摩擦部材111、112がこれらの形状を有することで、各摩擦部材の6次と7次の固有振動モードの面外振動の周波数が、上記形状を有さない場合に比べて低くなる。この結果、式(2)であるfD±fSM≠fSLが成り立つようになり、可聴域の異音の発生を抑制することができる。
【0044】
なお、上記各実施例では振動体と摩擦部材とが直線方向に相対移動する振動型駆動装置について説明したが、本発明を振動体と円環状の摩擦部材とが回転方向に相対移動する振動型駆動装置にも適用することができる。
【0045】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 振動体
8 振動体保持部材
11、110、111、112 摩擦部材(接触体)