(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電源装置、電源制御方法、及び記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240930BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020173609
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木元 鴻太郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 真也
(72)【発明者】
【氏名】仲 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】新澤津 祐太
(72)【発明者】
【氏名】植木 秀行
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0205957(US,A1)
【文献】特開2017-149098(JP,A)
【文献】特開2012-240280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電源装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、
前記FETのON/OFFを制御するためのゲート制御手段と、
前記FETがOFFの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETがONの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定しない判定手段と、
前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電源装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、
前記FETのON/OFFを制御するためのゲート制御手段と、
前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が所定の値以下の場合、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が前記所定の値より大きい場合、前記ゲート電圧が異常であるか否かの判定を行わない判定手段と、
前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差がない場合、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差がある場合、前記ゲート電圧が異常であるか否かの判定を行わないことを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記FETのゲートに接続されるべき抵抗素子がオープン状態にあるときに発生するゲート電圧を異常として判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記ゲート電圧と閾値とを比較し、前記ゲート電圧が前記閾値以下となった場合に、前記ゲート電圧が異常であると判定することを特徴とする請求項4に記載の電源装置。
【請求項6】
前記閾値は、前記FETのゲートに接続されるべき抵抗素子が正常な接続状態にある場合に得られるゲート電圧と、前記抵抗素子がオープン状態にあるときに生じるゲート電圧との間に定めた電圧値であることを特徴とする請求項5に記載の電源装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記FETのゲートに接続されるべき抵抗素子がオープン状態にあるときに発生するゲート電圧を異常として判定し、
前記判定手段は、前記ゲート電圧と閾値とを比較し、前記ゲート電圧が前記閾値以下となった場合に、前記ゲート電圧が異常であると判定し、
前記判定手段は、前記閾値として、第1閾値と当該第1閾値より小さい第2閾値とを少なくとも有し、
前記FETがOFFのときには前記ゲート電圧と前記第1閾値とを比較し、前記ゲート電圧が前記第1閾値以下となった場合に前記ゲート電圧が異常であると判定し、
前記FETがONのときには前記ゲート電圧と前記第2閾値とを比較し、前記ゲート電圧が前記第2閾値以下となった場合に前記ゲート電圧が異常であると判定することを特徴とする請求項
2に記載の電源装置。
【請求項8】
前記エラー処理は、前記記録ヘッドへの電力供給を遮断する処理を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項9】
前記エラー処理は、電源の異常を通知する通知手段を駆動させる処理を含むことを特徴とする請求項8に記載の電源装置。
【請求項10】
前記FETのドレインと記録ヘッドとの間の電源供給線に接続され、前記記録ヘッドを駆動するための電力を供給するコンデンサと、
前記コンデンサに電荷を充電するための充電回路と、
前記充電回路に充電された電荷を放電するための放電回路と、をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項11】
前記エラー処理は、前記放電回路によって前記コンデンサに蓄積された電荷を放電する処理を含むことを特徴とする請求項10に記載の電源装置。
【請求項12】
記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETを備えた電源装置の制御方法であって、
前記FETのON/OFFを制御する制御工程と、
前記FETがOFFの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETがONの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定しない判定工程と、
前記判定工程によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う工程と、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項13】
記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETを備えた電源装置の制御方法であって、
前記FETのON/OFFを制御する制御工程と、
前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が所定の値以下の場合、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が前記所定の値より大きい場合、前記ゲート電圧が異常であるか否かの判定を行わない判定工程と、
前記判定工程によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御工程と、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項14】
記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに電力を供給する電源装置と、
を備える記録装置であって、
前記電源装置は、
前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、
前記FETのON/OFFを制御するゲート制御手段と、
前記FETがOFFの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETがONの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定しない判定手段と、
前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項15】
記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに電力を供給する電源装置と、
を備える記録装置であって、
前記電源装置は、
前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、
前記FETのON/OFFを制御するためのゲート制御手段と、
前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が所定の値以下の場合、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が前記所定の値より大きい場合、前記ゲート電圧が異常であるか否かの判定を行わない判定手段と、
前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置に搭載される記録ヘッドに電力を供給する電源装置、電源制御方法、及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置では、電源回路から記録ヘッドとの間の電源供給線に接続されたFET(電界効果トランジスタ/Field Effect Transistor)をON/OFFすることによって、記録ヘッドに供給する電力の供給を制御することが行われている。
【0003】
特許文献1には、電源部から記録ヘッドへの電源供給線に設けられたFETのON/OFFを制御することによって、記録装置の記録ヘッドに供給する電力を充電する電解コンデンサに対し、電力の供給、遮断を制御する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、FETを有する装置が普及するにつれ、FETのゲートに印加されるゲート電圧の異常を適切に検知することが求められている。そこで本発明では、FETのゲートに印加されるゲート電圧の異常を適切に検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電源装置であって、前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、前記FETのON/OFFを制御するためのゲート制御手段と、前記FETがOFFの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETがONの場合に、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定しない判定手段と、前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また本発明は、記録装置に搭載される記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電源装置であって、前記記録ヘッドを駆動するための電力の供給、遮断を制御するFETと、前記FETのON/OFFを制御するためのゲート制御手段と、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が所定の値以下の場合、前記FETのゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを判定し、前記FETのソース・ドレイン間に電圧差が前記所定の値より大きい場合、前記ゲート電圧が異常であるか否かの判定を行わない判定手段と、前記判定手段によってゲート電圧が異常であると判定された場合にエラー処理を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、FETのゲートに印加されるゲート電圧の異常を適切に検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る記録装置の概略構成を示す斜視図。
【
図2】
図1に示す記録装置に適用可能な記録ヘッドの説明図。
【
図4】第1実施形態における電源制御を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態における電源制御時の各部の電圧を示すタイミングチャート。
【
図7】第2実施形態における電源制御を示すフローチャート。
【
図8】第2実施形態における電源制御時のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、本発明を適用可能な代表的な記録装置として、記録ヘッドよりインクを吐出して記録(印刷)を行うインクジェット記録方式の記録装置を例に採り説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る記録装置100の概略構成を示す斜視図である。
図1において、記録装置100は、自動給送部101、搬送部103、及び回復部108等を含む。自動給送部101は、紙等のシート状の記録媒体を装置本体内へと自動的に給送する。搬送部103は、自動給送部101から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くと共に、記録媒体を記録位置から排出部102へと間欠的に搬送する。回復部108は、記録位置に搬送された記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録部(
図1では図示せず)に対し、インクの吐出性能を回復させるための回復処理を行う。記録部は、キャリッジ軸104によって矢印Xの主走査方向に移動可能に支持されたキャリッジ105と、キャリッジ105に着脱可能に搭載される記録ヘッド201とを備える。記録ヘッド201は、主走査方向に移動しつつ記録媒体にインクを吐出して記録を行う。その後、搬送部103が記録媒体を所定量搬送し、再び記録ヘッド201が主走査を行いつつ記録媒体への記録を行う。このように、
図1に示す記録装置100は、記録ヘッドによる主走査と記録媒体の搬送動作とを繰り返すことにより記録媒体全体に対して記録を行う、所謂シリアル型の記録装置となっている。
【0012】
図2は、
図1に示す記録装置100に適用可能な記録ヘッドの説明図である。ここで、
図2(a)は、キャリッジ105に搭載される記録ヘッド201及びインクカートリッジ202を示す説明図である。また、
図2(b)は記録ヘッド201に設けられた吐出口列204Aを示す説明図、
図2(c)は
図2(b)に示した吐出口列204Aの一部を拡大して示す説明図である。
図2(a)に示すように、キャリッジ105には、インクを吐出する記録ヘッド201と、記録ヘッド201に供給するインクを貯留したインクカートリッジ202とが着脱可能に搭載される。
【0013】
図2(b)、(c)に示すように、記録ヘッド201には、インクを吐出する複数の吐出口204からなる吐出口列204Aが形成されている。吐出口列204Aは、キャリッジ105に搭載された状態で、X方向と交差するY方向に延在している。なお、
図2(b)には、単一の吐出口列204Aのみを示しているが、本実施形態に使用する記録ヘッド201には、インクカートリッジ202に貯留される複数種のインクに対応した複数の吐出口列204Aが設けられている。インクカートリッジ202に貯留されているインクの種類としては、例えば、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などがあり、これらがインクカートリッジ202内に画成された貯留室に貯留されている。
【0014】
キャリッジ105に搭載された記録ヘッド201は、キャリッジ105と共に走査方向(矢印Xに示す方向)に沿って走査しつつ、記録データに従って各吐出口204からインクを吐出し、記録媒体への記録を行う。吐出口204からのインクの吐出は、吐出口に連通する圧力室に設けられた吐出素子によって行われる。本実施形態では、吐出素子として、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電気熱変換素子(ヒータ)によって構成されている。圧力室に供給されたインクは、ヒータによって加熱されて発泡し、その発泡時の圧力によって吐出口から吐出される。ヒータに供給される電気エネルギー(電力)は、後述の電源装置によって供給される。
【0015】
図3は、記録ヘッド201に電力を供給する電源装置300の主要な回路構成を示すブロック図である。
図3において、電源装置300は、電源回路301、制御部302、ヘッド電源制御ブロック306、FET(電界効果トランジスタ/Field Effect Transistor)315、電解コンデンサ314等を備える。さらに、電源装置300は、FET315にゲート電圧を供給するための抵抗R1、R2と、電解コンデンサ314の充電電圧を検出するための抵抗R3、R4を備える。
【0016】
電源回路301は、電源部として動作し、電源装置300外部のAC電源から電源装置300が受給する電力を、記録ヘッド201を駆動するためのDC電力(ヘッド電源)として記録ヘッド201に供給する。以下、この電源回路301から記録ヘッド201側に出力される電圧、すなわちヘッド電源に用いられるDC電圧を電源電圧VMと表記する。
【0017】
制御部302は、CPU303、ROM304及びRAM305を備える。CPU303は、記録装置100の全体を統括的に制御する制御手段としての機能を果す。ROM304は、不揮発性の記憶領域であり、記録装置100を統括的に制御するプログラムや設定パラメータ等が格納される。RAM305は、揮発性の記憶領域であり、印刷ジョブの印刷用データへの変換やプログラムの展開等を行う際のワークエリアとしても使用される。
【0018】
ヘッド電源制御ブロック306は、記録ヘッドに供給されるヘッド電源を制御する部分である。このヘッド電源制御ブロック306は、ゲート電圧異常検出回路307、ゲート電圧異常判定部308、ゲート電圧制御部309、電圧検出回路310、充放電回路311、ヘッド電源制御シーケンサ312及びトランジスタ313等を備える。また、ヘッド電源制御ブロック306は、出力端子PO1、PO2、PO3と、入力端子PI1、PI2を有する。
【0019】
充放電回路311は、電源回路301から記録ヘッド201に至る電源供給線に接続される電解コンデンサ314を、充電及び放電する際に用いられる回路である。電解コンデンサ314は、記録ヘッド201への電力の供給を行う素子である。充放電回路311によって行われる電解コンデンサ314の充電及び放電は、ヘッド電源制御シーケンサ312によって制御される。なお、電解コンデンサ314の充電電圧をVchgと表記する。
【0020】
電圧検出回路310は記録ヘッド201に供給される電圧、すなわち電解コンデンサ314の充電電圧Vchgを検出する回路である。電解コンデンサ314の充電電圧Vchgは、抵抗R3と抵抗R4とによって分圧されて電圧検出回路310に入力される。電圧検出回路310は、入力された充電電圧Vchgを検出し、その充電電圧Vchgをヘッド電源制御シーケンサ312に送信する。ヘッド電源制御シーケンサ312は、入力された充電電圧Vchgと所定の閾値電圧とを比較することによって充電電圧Vchgが記録ヘッド201を駆動するために必要な電圧に達しているか否かを判定する。例えば、記録ヘッド201を駆動するために必要な電圧を閾値電圧Vchg_errorとすると、閾値電圧Vchg_error以下の充電電圧Vchgが入力された場合に、ヘッド電源制御シーケンサ312は、充電電圧Vchgが不十分であることを示す通知をCPU303に送信する。なお、電圧検出回路310はAD変換器でもよいし、複数のコンパレータを並べて複数の閾値を持たせた回路でもよい。
【0021】
ゲート電圧異常検出回路307は、FET315のゲート電圧の異常を検出するための回路であり、抵抗R5、スイッチ316、定電流源317、コンパレータ318を備える。ゲート電圧異常検出回路307は、FET315のゲート電圧の異常を検出した場合、異常検出信号をゲート電圧異常判定部308に出力する。ゲート電圧異常判定部308は、異常検出信号を受けて、ヘッド電源制御シーケンサ312に対し異常の発生を示す通知を行う。本実施形態では、ゲート電圧異常検出回路307とゲート電圧異常判定部308とによって、FET315のゲートに印加されるゲート電圧が異常であるか否かを定めるための異常判定を行う判定手段が構成されている。ゲート電圧が異常であることを示す通知を受けたヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定する。そして、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧制御部309に対し、FET315をONさせないような制御、すなわち記録ヘッド201への電源電力の供給を遮断する制御を行う。さらに、ヘッド電源制御シーケンサ312は、CPU303に対してゲート電圧の異常を示す通知を行う。なお、ゲート電圧異常検出回路307の動作の詳細については後述する。
【0022】
FET315は、記録ヘッド201を駆動するために必要とされる電源電力の供給/遮断を制御する素子であり、電源回路301から記録ヘッド201に至る電源供給線に接続されている。FET315には、抵抗R1と抵抗R2が接続されている。抵抗R1は、FET315の抵抗のソースとゲートとの間に接続されている。また、抵抗R2は、FET315のゲートに接続されると共に、ヘッド電源制御ブロック306の出力端子PO2を介してトランジスタ313のコレクタに接続されている。
【0023】
ゲート電圧制御部309によって、トランジスタ313がOFFのとき、FET315のゲートには電源電圧VMが印加され、FET315はOFFとなる。これにより、電源回路301から記録ヘッド201への電源電力の供給は遮断される。また、ゲート電圧制御部309によって、トランジスタ313がONのとき、FET315のゲートには、抵抗R1と抵抗R2とにより電源電圧VMを分圧した電圧が印加され、FET315のゲート・ソース間電圧は大きくなる。その結果、FET315はONとなり、これによって電源回路301から記録ヘッド201への電源電力の供給が行われる。このように、トランジスタ313は、FET315のON/OFFを制御するゲート制御手段としての機能を果す。
【0024】
<ゲート電圧異常検出回路307の動作>
ゲート電圧異常検出回路307の詳細な動作を説明する。ヘッド電源制御シーケンサ312が、スイッチ316をON(閉状態)にすると、定電流源317により電流I1がGNDに流れる。このとき、FET315のゲート電圧VGは、電源電圧VMより低くなる。このときのゲート電圧VGの電圧値をVG1とすると、
VG1=VM-(I1×R1×R5/(R1+R5))
となる。なお、抵抗R5は、抵抗R1と並列に接続された抵抗であり、電源供給線とコンパレータ入力端子PI1とに接続されている。ゲート電圧値は、ヘッド電源制御ブロック306の入力端子PI1を介してコンパレータ318に入力される。
【0025】
一方、抵抗R1が何らかの原因によりオープン(開放状態)となり、その状態でスイッチ316がONされたとする。このときのゲート電圧VGの電圧値をVG2とすると、
VG2=VM-(I1×R5)
となる。
【0026】
ここで、電圧VG1と電圧VG2とは、
VG1―VG2=I1×(R5)2/(R1+R5)>0
の関係にある。このため、両電圧値の大小関係は、VG1>VG2となる。つまり、抵抗R1がオープン状態となっている場合には、抵抗R1が適正に接続されている場合より、ゲート電圧の値が小さくなる。ゲート電圧異常検出回路307は、このようなゲート電圧の大きさの違いを利用して、抵抗R1がオープン状態であるか否かの判定を行う。なお、抵抗R1のオープン状態とは、FET315に接続されるべき抵抗素子(抵抗R1)が断線あるいは故障した状態を指す。抵抗R1がオープン状態となることによってFET315のゲート電圧は不定状態となる。
【0027】
抵抗R1がオープン状態であるか否かの判定は、コンパレータ318が、当該コンパレータ318に予め設定した閾値VGthと入力されたゲート電圧VGとを比較することにより行う。具体的には、閾値VGthを、抵抗R1が適正に接続されている正常時のゲート電圧VG1と、抵抗R1にオープン異常が発生している時のゲート電圧VG2の間に設定する(VG2≦VGth<VG1)。そして、コンパレータ318に入力されるゲート電圧VGが、閾値以下(VGth以下)である場合には、抵抗R1がオープン状態にあると判定し、閾値VGthを超える場合には抵抗R1が適正に接続されていると判定する。
【0028】
また、抵抗R5を抵抗R1に対して十分に大きい値にすれば、
VG1―VG2≒I1×R5
となる。従って、抵抗R1の値によらず、VG1とVG2の電圧差がほぼ一定となるため、コンパレータ318における閾値VGthの設定が容易になる。また、抵抗R5は、抵抗R1がオープン状態の場合にゲート電圧をVMに固定する役割も果たしている。
【0029】
ゲート電圧異常検出回路の駆動タイミングについて、FET315がONの状態で、ゲート電圧異常検出回路307によるゲート電圧の検出を行うと、ゲート電圧VGが抵抗R1と抵抗R2とに分圧された電圧となるため、
VG≦VG2≦VGth
となる。その結果、抵抗R1がオープンでなくとも、ゲート電圧VGがコンパレータ318の閾値VGthを下回ってしまい、抵抗R1がオープンであると判定されてしまうこととなる。つまり、誤判定が生じることとなる。
【0030】
従って、本実施形態においては、FET315がONの状態では、ゲート電圧検出を行わないように制御する。すなわち、スイッチ316をONさせないようにする。これにより、抵抗R1のオープン故障を確実に判定することが可能になる。なお、スイッチ316のON、OFF制御は、ヘッド電源制御シーケンサ312によって行われる。
【0031】
また、スイッチ316をONさせることによりゲート電圧異常検出回路307によるゲート電圧の検出を行うと、FET315が不完全にONする可能性がある。このとき、さらに、FET315のソース・ドレイン間に電圧差がある状態である場合、FET315の内部や記録ヘッド201に突入電流が生じ、発熱等が引き起こされることがある。従って、本実施形態では、FET315のソース・ドレイン間に電圧差がある状態では、ゲート電圧の検出を行わないように制御している。具体的には、FET315のドレイン側に接続された電解コンデンサ314の充電電圧が十分に高い状態で、ゲート電圧の検出を行うようにしている。
【0032】
<第1実施形態における制御シーケンス>
次に、
図3ないし
図5を用いて、本実施形態における制御シーケンスを説明する。
図4は、記録装置100が印刷指令を受け取り、記録ヘッド201に電源電圧VMが印加されていない状態から記録ヘッド201に電源を投入して印刷動作を行う際の処理の流れを示している。また、
図5は、
図4の制御シーケンスに伴うタイミングチャートを示している。
図5(a)の縦軸は電解コンデンサ314の電圧Vchg[V]を示し、横軸は時間の経過を示す。
図5(b)の縦軸はFET315のゲート電圧VG[V]を示し、横軸は時間の経過を示す。
図5(c)の縦軸はヘッド電源制御ブロック306の出力端子PO2の電圧レベルを示し、横軸は時間の経過を示す。なお、
図5(a)~
図5(c)の時間経過のタイミングは互いに対応しているものとする。
【0033】
図4に示す制御シーケンスは、大きく分けると、電解コンデンサ314の充電動作に関する工程S402~S406、印刷動作に関する工程S407~S413、電解コンデンサ314の放電動作に関する工程S414~S417に分かれる。なお、
図4に示す各工程番号に付した「S」はステップを意味する。
【0034】
図4において、CPU303からヘッド電源制御シーケンサ312に対して通知が実行されると、S402において、ヘッド電源制御ブロック306は、充放電回路311の充電回路を駆動し、電解コンデンサ314に対して充電を開始する。これは
図5のタイミング501に相当する。なお、電解コンデンサ314の充電電圧は、電圧検出回路310によって検出され、検出された電圧値はヘッド電源制御シーケンサ312に送信される。
【0035】
電解コンデンサ314が十分に充電され、充電電圧Vchgと電源電圧VMとの電位差が小さくなった状態、例えば電源電圧VMの95%以上となる電圧をVchg_fullと表記する。なお、電圧Vchg_fullは、FET315をONさせてもソース・ドレイン間に流れる突入電流が、FET315の定格内に十分に収まる程度の電圧であればよく、必ずしも電源電圧VMの95%の電圧に限定されない。
【0036】
S403において、ヘッド電源制御ブロック306は、電解コンデンサ314の電圧VchgがVchg_fullを超えるか否かを判定する。Vchg_fullを超えるまでは、ヘッド電源制御ブロック306は、スイッチ316をONさせず、ゲート電圧の判定は行わない。
【0037】
S403において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、充電電圧が電圧Vchg_fullを超えたことを確認すると、S404において、スイッチ316をONとし、ゲート電圧異常判定を開始する。これは
図5のタイミング502に相当する。
【0038】
この後、S405において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧異常判定部308からの通知に基づきゲート電圧VGが、
図5(b)に示す閾値VGth以下であるか否かを判定する。そして、ゲート電圧値が閾値VGth以下となっておりゲート電圧に異常が発生していると判定した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定し、CPU303に対してエラー通知を行う。このエラー通知を受けたCPU303は、S418においてエラー処理を実行した後、制御シーケンスを終了する。
【0039】
CPU303により実行されるエラー処理としては、例えば、次のような処理がある。すなわち、FET315をOFFとして記録ヘッド201への電源の供給を遮断する電源遮断処理、電解コンデンサ314に蓄積されている電荷を放電する放電処理、記録装置100に設けられた通知手段によってユーザへの通知を行う通知処理等がある。本実施形態では、エラー処理として、少なくとも電源を遮断する処理を実行し、さらに放電処理、及び通知処理などを適宜実行する。
【0040】
また、S405において、ゲート電圧VGが閾値VGthを超える正常な値であることを確認した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、スイッチ316をOFFとし、ゲート電圧異常判定を終了させる(S406)。これは
図5のタイミング503に相当する。
【0041】
この後、S407において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、電圧検出回路310によって検出された電圧値に基づき、電解コンデンサ314の充電電圧Vchgの電圧値が、閾値電圧Vchg_error以下であるか否かを判定する。電圧検出回路310により検出された電圧値がVchg_error以下であると判定した場合(S407にてYES)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、充電処理が実行できない状態にあると判定し、CPU303へのエラー通知を行う。エラー通知を受けたCPU303は、前述のエラー処理を実行し(S418)、制御シーケンスを終了する。
【0042】
また、S407において、電解コンデンサ314の充電電圧VchgがVchg_errorを超える場合(S407においてNO)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、は、印刷動作を開始するか否かを判定する(S408)。具体的には、記録装置100において印刷データの準備が完了し、CPU303から印刷動作の開始指示を受けた場合に、ヘッド電源制御シーケンサ312は、印刷動作を開始する判定を下す。また、CPU303から印刷動作の開始指示がない場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は印刷動作を開始しないと判定し(S408においてNO)、S407へ戻り、印刷動作の開始指示を受けるまで待機する。
【0043】
CPU303から印刷動作を開始する指示を受けた場合(S408においてYES)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、トランジスタ313をONにする(S409)。これにより、ヘッド電源制御ブロック306の出力PO端子2はグランドに接続され、出力電圧は0Vとなる。トランジスタ313をONすることは、
図3に示すFET315をONにすることに相当し、
図5(c)のタイミング504に相当する。なお、FET315をONにすることで、電源回路301から記録ヘッド201に対して印刷動作に必要な電力が供給される。
【0044】
次いで、CPU303は、記録データに従い、記録ヘッド201を駆動して印刷動作を開始させる。印刷動作が開始されると、CPU303は、ヘッド電源制御ブロック306からの通知に基づいて、電解コンデンサ314の充電電圧Vchgが閾値電圧Vchg_error以下であるか否かを監視する(S411)。ここでの監視は、印刷動作が完了するまで継続される。充電電圧Vchgの監視中、電解コンデンサ314の充電電圧VchgがVchg_error以下であると判定した場合(S412においてYES)、CPU303は、印刷動作を継続できないと判定する。そして、CPU303は、S418において前述のエラー処理を行い、制御シーケンスを終了する。
【0045】
印刷動作が完了すると(S412にてYES)、CPU303からの印刷動作完了を示す指令を受けて、ヘッド電源制御シーケンサ312は、トランジスタ313をOFFにする(S413)。これにより、PO2の出力電圧が電源電圧VMとなる。これはFET315をOFFにすることに相当し、
図5(c)のタイミング505に相当する。なお、一連の印刷動作が終了したとき、さらに、後続の印刷動作を実行するか否かを判定し、後続の印刷動作が必要であれば、S409に戻って前述の処理を繰り返すようにしてもよい。
【0046】
S413においてFET315がOFFになった後、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S414において、前述のS404と同様にスイッチ316をONとし、ゲート電圧の異常判定を開始する。これは
図5のタイミング506に相当する。ゲート電圧の異常判定において、ゲート電圧が
図5(b)に示す閾値VGth以下である場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定し(S415)、CPU303に対してエラーを通知する。この場合、CPU303はS418へと進み、エラー処理を実行した後、制御シーケンスを終了する。
【0047】
また、S415において、FET315のゲート電圧が正常であることを確認した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、スイッチ316をOFFとし、ゲート電圧異常判定を終了させる。これは
図5のタイミング507に相当する。
【0048】
その後、S417において、CPU303は、ヘッド電源制御シーケンサ312に対して、電解コンデンサ314の放電を指示する指令を送る。この指令を受けたヘッド電源制御シーケンサ312は、充放電回路311の放電回路を駆動し、電解コンデンサ314に対して放電を開始させ、放電が完了すると制御シーケンスを終了する。なお、本実施形態では、印刷動作を実施する前のS414~S416において、FET315をONする前に少なくとも1回のゲート電圧異常を判定している。従って、印刷動作が終了した後のS414~S416における電圧異常判定処理は省略することも可能である。
【0049】
上記実施形態では、FET315がOFFとなっている印刷動作前の状態において、FET315のゲート電圧を検出し、その検出結果に基づいてゲート電圧が異常であるか否かの判定処理を行う。従って、例えば、FET315にゲート電圧を供給するための抵抗R1の実装不良や故障などにより、ゲート電圧が不定な状態になる虞がある場合には、これを判定することが可能になる。そして、ゲート電圧に異常が発生している場合には、電源回路301から記録ヘッド201への電力供給の遮断を行うと共に、電解コンデンサ314の放電やユーザへのエラー通知などを行う。このため、FET315のゲート電圧が不定な状態において記録ヘッドに予期しない大電流が流れるのを抑制することが可能になる。
【0050】
なお、ゲートに対して電源電圧を分圧して供給する分圧抵抗(本実施形態の抵抗R1、R2に相当)のオープン故障による影響を低減する他の方法として、各々の分圧抵抗を、2つの並列接続した抵抗素子によって構成することも考えられる。これによれば並列接続された各抵抗素子のうち、一方にオープン故障が発生したとしても、他方によって補うことが可能であり、オープン故障による影響を低減することができる。しかし、並列接続された2つの分圧抵抗が共にオープンになる可能性もあり、その場合には、それぞれの分圧抵抗を単一の抵抗素子によって構成した場合と同様に、FETのゲート電圧が不定状態になることを回避できない。また、抵抗の実装数が増える分、実装面積や実装コストが増大すること、ゲート電圧値を適正な値に調整するのが難しくなること、などの課題もある。
【0051】
これに対し、本実施形態では、各分圧用の抵抗R1、R2を単一の抵抗素子によって構成した場合にも、オープン故障による影響を抑制することが可能である。このため、抵抗素子の実装数を増大させる必要がなく、抵抗素子の実装コストが増大したり、ゲート電圧値の調整が困難になったりすることもない。但し、実装コストの増大、ゲート電圧値の調整などの点を解消できる場合には、本実施形態においても、各分圧用の抵抗R1、R2を、並列接続された複数の抵抗素子によって構成してもよい。これによれば、オープン故障の発生時に記録ヘッド201に大電流が流れるのを抑制することが可能になるという、上記実施形態の特有の効果に加え、オープン故障の発生自体を抑制することも可能になり、装置としての信頼性はさらに高まる。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る電源装置300によれば、FETのゲート電圧が不定状態となることに起因してFETを通じて記録ヘッドに大電流が流れるという事態の発生を抑制することが可能になる。このため、FET315や記録ヘッド201及び周辺部品等の性能・寿命の維持向上を図ることが可能になり、記録装置100の信頼性を高めることができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、FETがOFFの状態でゲート電圧の検出を行うことにより、ゲート電圧が異常であるか否かの判定を正確に行うことが可能になる。
【0054】
また、本実施形態では、FET315のソース・ドレイン間に電位差が生じていない状態でゲート電圧の検出を行うため、ゲート電圧の検出時において、電源回路301からFET315及び記録ヘッド201への突入電流を抑制することが可能になる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、
図6ないし
図8を参照しつつ説明する。
【0055】
第1実施形態においては、「ゲート電圧異常検出回路307の動作」において説明したように、FET315がONの状態でゲート電圧の検出を行うと、ゲート電圧VGが閾値VGthを下回り、ゲート電圧の異常判定において誤判定が生じる可能性がある。このため、ゲート電圧の検出及び異常判定は、FET315がOFFの状態で行うようにしている。
【0056】
これに対し、第2実施形態では、FET315がONとなっている場合にも、ゲート電圧の検出を可能にする。すなわち、FET315がONとなって印刷動作が行われている間に抵抗R1のオープン故障が発生し、ゲート電圧が不定状態となった場合にも、ゲート電圧の異常判定を正確に行うことができる。
【0057】
以下、第2実施形態における電源装置600の構成を説明する。なお、上記第1実施形態同一部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0058】
図6に示すように、第2実施形態における電源装置600のヘッド電源制御ブロック606には、第1実施形態におけるゲート電圧異常検出回路307とは異なる構成のゲート電圧異常検出回路607が設けられている。本実施形態におけるゲート電圧異常検出回路307は、抵抗R10、スイッチ620、スイッチ616、定電流源617、コンパレータA618、及びコンパレータB619を備える。コンパレータA618(第1コンパレータ)は、FET315がOFFのときにゲート電圧を検出するためのコンパレータである。また、コンパレータB619(第2コンパレータ)は、FET315がONのときにゲート電圧を検出するためのコンパレータである。
【0059】
スイッチ620は、FET315のゲートに接続されている入力端子PI1に対して、コンパレータA618とコンパレータB619とを選択的に接続させることが可能である。すなわち、スイッチ620を接点aに接続させた場合には、コンパレータA618が入力端子PI1に接続され、スイッチ620を接点bに接続した場合には、コンパレータB619が入力端子PI1に接続される。また、定電流源617は、スイッチ616に接続されており、スイッチ616がON(閉状態)となることにより、接点aに接続される。また、抵抗R10は、第1実施形態に示したR5と同様に、FET315のゲートに、抵抗R1及びR2に対して十分大きい抵抗値を有している。なお、その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0060】
<ゲート電圧異常検出回路607の動作>
ここで、
図6に示す本実施形態のゲート電圧異常検出回路607の動作を説明する。なお、以下の説明において、スイッチ620が接点a、接点bのいずれにも接続されていない状態をOFF状態と定義する。また、スイッチ620が接点aを介してコンパレータA618に接続されている状態をON_Aと定義し、接点bを介してコンパレータB619に接続されている状態をON_Bと定義する。
【0061】
(1) FET315がOFF時のゲート電圧の異常検出
まず、FET315がOFFの状態で行うゲート電圧の異常検出について説明する。この場合、スイッチ620は、ヘッド電源制御シーケンサ312によってOFFからON_Aとなり、コンパレータA618側に接続される。この状態でスイッチ616が、ヘッド電源制御シーケンサ312によってOFFからONになると、第1実施形態と同様の原理により、抵抗R1が正常に接続されている状態(正常状態)にあるか、オープン故障の状態(オープン状態)にあるかの判定が可能になる。
【0062】
すなわち、抵抗R1が正常状態にあるときのゲート電圧をVG3、抵抗R1がオープン状態にあるときのゲート電圧をVG4としたとき、コンパレータA618の閾値VGth_A(第1閾値)は、
VG4<VGth_A≦VG3
となるように設定されている。そして、入力端子PI1に入力されるゲート電圧VGが閾値VGth_Aを下回った場合に、コンパレータA618は、ゲート電圧の異常を示す異常検出信号をゲート電圧異常判定部608に出力する。ゲート電圧異常判定部308は、異常検出信号を受けて、ヘッド電源制御シーケンサ312に対し異常の発生を示す通知を行う。この通知を受けたヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定し、ゲート電圧制御部309に対し、FET315をONさせないような制御を行う一方、CPU303に対してゲート電圧の異常を示す通知を行う。また、FET315がOFF時のゲート電圧異常検出が終了すると、スイッチ620及びスイッチ616はOFFに戻る。
【0063】
(2) FET315がON時のゲート電圧の異常検出
次に、FET315がONの状態で行うゲート電圧の異常検出について説明する。この場合、スイッチ620は、ヘッド電源制御シーケンサ312によってOFFからON_Bとなり、コンパレータB619側に接続される。
【0064】
FET315がONの状態において、抵抗R1が正常状態にあるときのゲート電圧をVG5とすると、
VG5=VM×R2/(R1+R2)
となる。
【0065】
一方、抵抗R1がオープン状態にあるときのゲート電圧をVG6とすると、抵抗R10が抵抗R2より十分に大きな抵抗値を有しているため、
VG6≒0
となる。
【0066】
従って、コンパレータB619に設定する閾値VGth_B(第2閾値)を、
0<VGth_B≦VG5
とすることで、ゲート電圧の異常時の検出を行うことができる。すなわち、入力端子PI1に入力されるゲート電圧VGが閾値VGth_B以下となった場合に、コンパレータB619は、ゲート電圧の異常を示す異常検出信号をゲート電圧異常判定部608に出力する。そして、FET315がON時のゲート電圧異常検出が終了すると、スイッチ620はOFFに戻る。
【0067】
以上説明した(1)と(2)の動作を繰り返すことによって、記録ヘッド201に電圧が印加されている間、ゲート電圧の異常を判定することができる。但し、本実施形態においても、上記の第1実施形態と同様に、FET315のソース・ドレイン間に大きな電圧差がある状態では、突入電流の影響を避けるためゲート電圧の異常判定は行わない。
【0068】
<第2実施形態における制御シーケンス>
図6~
図8を用いて、FET315の制御シーケンスを説明する。
図7は、記録装置100が印刷指令を受け取り、記録ヘッド602に電源電圧VMが印加されていない状態から記録ヘッド201に電源を投入して印刷動作を行う際の処理の流れを示している。また、
図7は、
図6の制御シーケンスに伴うタイミングチャートを示している。
図7(a)の縦軸は電解コンデンサ614の電圧Vchg[V]を示し、横軸は時間の経過を示す。
図7(b)の縦軸はFET315のゲート電圧VG[V]を示し、横軸は時間の経過を示す。
図7(c)の縦軸はヘッド電源制御ブロック606の出力端子PO2の電圧レベルを示し、横軸は時間の経過を示す。なお、
図8(a)~
図8(c)の時間経過のタイミングは互いに対応しているものとする。
【0069】
図7に示す制御シーケンスは、大きくは、次のように分けることができる。すなわち、電解コンデンサ314の充電期間(充電動作時)に関する工程S702~S706、印刷動作期間(記録動作時)に関する工程S707~S719、電解コンデンサ614の放電期間(放電動作時)に関する工程S720~S721に分けることができる。なお、
図7に示す各工程番号に付した「S」はステップを意味する。
【0070】
図7において、CPU603からヘッド電源制御シーケンサ312に対して通知が実行されると、S702において、ヘッド電源制御ブロック606は、充放電回路611の充電回路を駆動し、電解コンデンサ614に対して充電を開始する。これは
図8のタイミング801に相当する。
【0071】
本実施形態においても、電解コンデンサ614が十分充電され、充電電圧VchgとVM電圧との電位差が小さくなった電圧をVchg_fullと表記する。この電圧Vchg_fullは、FET315をONさせてもソース・ドレイン間に流れる突入電流が十分にFET315の定格内に収まる程度の電圧を指す。
【0072】
S703において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、電解コンデンサ314の電圧VchgがVchg_fullを超えるか否かを判定する。Vchg_fullを超えるまでは、ヘッド電源制御ブロック306は、スイッチ616、620をOFFとし、ゲート電圧の検出は行わない。
【0073】
ヘッド電源制御シーケンサ312は、S703において、充電電圧が電圧Vchg_fullを超えたことを確認すると、S704に進む。S704において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、スイッチ616をON、スイッチ620をON_Aとして、FET315のOFF時におけるゲート電圧の異常判定を開始する。これは
図8のタイミング802に相当する。
【0074】
S705において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧VGが
図8(b)に示す閾値VGth_A以下であるか否かを確認する。ここで、ゲート電圧値が閾値VGth_A以下であることを確認した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判断し、CPU603に対してエラー通知を行う。エラー通知を受けたCPU303は、第1実施形態と同様のエラー処理を実行し(S724)、制御シーケンスを終了する。
【0075】
また、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧VGが閾値VGth_Aを超える正常な値であることを確認すると、S706において、FET315のOFF時のゲート電圧異常判定を終了する。これは
図8のタイミング803に相当する。なお、このとき、ヘッド電源制御シーケンサ312は、CPU303へのエラー通知を行う。
【0076】
S707において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、電圧検出回路310によって検出された電解コンデンサ614の充電電圧Vchgが、閾値電圧Vchg_error以下であるか否かを判定する。ここで、充電電圧Vchgが閾値電圧Vchg_error以下であると判定した場合(S707にてYES)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、処理が実行できない状態にあると判定し、CPU303へのエラー通知を行う。エラー通知を受けたCPU303は、エラー処理を実行し(S724)、制御シーケンスを終了する。
【0077】
S707において、電解コンデンサ614の充電電圧VchgがVchg_errorを超える場合(S707においてNO)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、印刷動作を開始するか否かを判定する(S708)。具体的には、印刷データの準備が完了し、CPU303から印刷動作の開始指示を受け付けた場合に、ヘッド電源制御シーケンサ312は、印刷動作を開始すると判定する。また、CPU303から印刷動作を開始する指示がない場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は印刷動作を開始しないと判定し(S708においてNO)、S707へ戻り、印刷動作の開始指示を受けるまで待機する。
【0078】
CPU303から印刷動作を開始する指示を受けた場合(S708においてYES)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、トランジスタ313をONにする(S709)。これにより、ヘッド電源制御ブロック306の出力PO端子2はグランドに接続され、出力電圧は0Vとなる。トランジスタ313をONすることは、
図6に示すFET315をONにすることに相当し、
図8(c)のタイミング804に相当する。なお、FET315をONにすることで、電源回路301から記録ヘッド602に対して印刷動作に必要な電力が供給される。
【0079】
FET315がONになった後、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S710において、スイッチ620をON_BとしてFET315のON時におけるゲート電圧の異常判定を開始する。これは
図8のタイミング805に相当する。
【0080】
S711において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧値が
図8(b)に示す閾値VGth_B以下であるか否かを確認する。ここで、ゲート電圧VGが
図8(b)に示す閾値VGth_B以下であることを確認した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定し、CPU603に対してエラー通知を行う。エラー通知を受けたCPU303は、S724においてエラー処理を行った後、制御シーケンスを終了する。
【0081】
また、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S711において、ゲート電圧が正常であることを確認した後、スイッチ620をOFFとし、FET315のON時におけるゲート電圧の異常判定を終了する(S712)。これは
図8のタイミング806に相当する。
【0082】
この後、CPU303は、記録データに従い、記録ヘッド201を駆動して印刷動作を開始させる。印刷動作が開始されると、CPU303は、ヘッド電源制御ブロック306からの通知に基づいて、電解コンデンサ314の充電電圧Vchgが閾値電圧Vchg_error以下であるか否かを監視する(S714)。ここでの監視は、印刷動作が完了するまで継続される。充電電圧Vchgの監視中、電解コンデンサ314の充電電圧VchgがVchg_error以下であると判定した場合(S714においてYES)、CPU303は、印刷動作を継続できないと判定する。そして、CPU303は、S724において前述のエラー処理を行い、制御シーケンスを終了する。
【0083】
印刷動作が完了すると(S715にてYES)、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S716において、スイッチ620をON_Bとして、FET315のON時におけるゲート電圧の異常判定を開始する。これは
図8のタイミング807に相当する。
【0084】
S717において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、ゲート電圧VGが
図8(b)に示す閾値VGth_B以下であるか否かを確認する。ゲート電圧値が
図8(b)に示す閾値VGth_B以下で場合、FET315のゲート部に不具合が生じていると判定し、ヘッド電源制御シーケンサ312は、CPU603に対してエラー通知を行う。このエラー通知を受けたCPU303は、エラー処理を実行し(S724)、制御シーケンスを終了する。
【0085】
またS717において、ゲート電圧VGが閾値VGth_Bを超える正常な電圧であることを確認した場合、ヘッド電源制御シーケンサ312は、スイッチ620をOFFとし、FET315のON時におけるゲート電圧の異常判定を終了する(S718)。これは
図8のタイミング808に相当する。
【0086】
S719において、ヘッド電源制御シーケンサ312は、トランジスタ313をOFFにする。これにより、出力端子PO2の出力電圧はVMとなる。これは
図6のFET315をOFFにすることに相当し、
図8(c)のタイミング809に相当する。このとき、後続の印刷動作をさらに行うか否かを判定し、印刷動作をさらに実行する必要があれば、S706に戻って処理を繰り返すようにしてもよい。
【0087】
S719において、FET315がOFFになった後、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S720において、FET315のOFF時におけるゲート電圧の異常判定を開始する。これは
図8のタイミング810に相当する。
【0088】
次に、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S721において、ゲート電圧VGが、
図8(b)に示す閾値VGth_A以下であるか否かを判定する。そして、ゲート電圧VGが、
図8(b)に示す閾値VGth_A以下である場合には、ヘッド電源制御シーケンサ312は、FET315のゲート部に不具合が生じていると判断し、CPU303に対してエラー通知を行う。エラー通知を受けたCPU303は、S724においてエラー処理を行い、制御シーケンスを終了する。
【0089】
S721において、ゲート電圧VGが正常であることを確認した後、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S722において、FET315のOFF時におけるゲート電圧の異常判定を終了する。これは
図8のタイミング811に相当する。なお、前述のように、FET315がONの前には、少なくとも1回のゲート電圧の異常判定(S704~S706)が実行されることから、S720~S722のゲート電圧の異常判定は省略してもよい。
【0090】
この後、CPU303からの指令を受けて、ヘッド電源制御シーケンサ312は、S723において、充放電回路611の放電回路を駆動し、電解コンデンサ314に蓄積されている電荷の放電を開始する。そして、放電が完了すると、ヘッド電源制御シーケンサ312からの通知を受けてCPU303は、制御シーケンスを終了する。
【0091】
以上のように、第2実施形態では、FET315がOFFとなっている場合だけでなく、FET315がONとなっている場合にも、ゲート電圧の検出を可能にする。従って、印刷動作前だけでなく、印刷動作中にあっても、抵抗R1のオープン故障等によりゲート電圧が不定状態になった場合には、その状態を確実に判定することが可能になる。そして、ゲート電圧の異常が発生した場合には、記録ヘッド201への電力の供給を遮断する。従って、予期しない大電流が記録ヘッド201に流れる虞をさらに抑制することができ、FET315や記録ヘッド201及び周辺部品等の性能・寿命をさらに向上させることが可能になり、延いては記録装置の信頼性をさらに高めることが可能になる。
【0092】
(他の実施形態)
上記実施形態において、ヘッド電源制御シーケンサ312によって実行される処理の一部または全ては、CPU303によって実行させるようにすることも可能である。また、CPU303によって実行される処理の一部または全てをヘッド電源制御シーケンサ312により実行させることも可能である。
【0093】
また、上記実施形態では、記録ヘッドの主走査と、記録媒体の搬送動作とを繰り返すシリアル型の記録装置を例に採り説明したが、本発明は、これに限定されない。本発明は、記録媒体を連続的に搬送しつつ、記録媒体の幅に対応する領域に吐出口を配列した記録ヘッドによって記録を行う、所謂フルライン型の記録装置にも適用可能である。
【0094】
さらに、インクを吐出する記録ヘッドを用いるインクジェット方式の記録装置に限らず、熱転写方式の記録装置等、記録ヘッドに電力を供給して記録を行う、他の記録装置にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
100 記録装置
201 記録ヘッド
300、600 電源装置
303 制御手段
307、607 ゲート電圧異常検出回路
308 ゲート電圧異常判定部
313 トランジスタ(ゲート制御手段)
315 FET