(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合線
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20240930BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20240930BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240930BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240930BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240930BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M10/00 A
C01B32/168
B22F1/00 K
B22F7/08 E
H01B1/04
(21)【出願番号】P 2020181997
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 栄次
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053408(JP,A)
【文献】特公昭49-35116(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/155834(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0094005(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109777335(CN,A)
【文献】特開2017-069175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-11/84、16/00、19/00-23/18、
C01B32/00-32/991、
H01B1/00-1/24、
B22F1/00-8/00、10/00-12/90、C22C1/04-1/059、33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、このカーボンナノチューブの表面に付着した焼結層とを備えており、
上記焼結層が多数の銀フレークを含んでおり、
これらの銀フレークが、互いに焼結によって結合している、カーボンナノチューブ複合線。
【請求項2】
多数のカーボンナノチューブと、それぞれのカーボンナノチューブの表面に付着した焼結層とを備えており、
上記焼結層が多数の銀フレークを含んでおり、
これらの銀フレークが、互いに焼結によって結合している、カーボンナノチューブ複合線。
【請求項3】
ヤーンと、このヤーンの表面に付着した焼結層とを備えており、
上記ヤーンが、多数のカーボンナノチューブを有しており、
上記焼結層が多数の銀フレークを含んでおり、
これらの銀フレークが、互いに焼結によって結合している、カーボンナノチューブ複合線。
【請求項4】
ヤーンと、このヤーンの表面に付着した第二焼結層とを備えており、
上記ヤーンが、多数のフィラメントを有しており、
それぞれのフィラメントが、カーボンナノチューブと、このカーボンナノチューブの表面に付着した第一焼結層とを有しており、
上記第一焼結層及び上記第二焼結層のそれぞれが、多数の銀フレークを含んでおり、
これらの銀フレークが、互いに焼結によって結合している、カーボンナノチューブ複合線。
【請求項5】
多数のカーボンナノチューブを含むウェブ又はヤーンを得る工程、
上記カーボンナノチューブに、多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
上記銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む、カーボンナノチューブ複合線の製造方法。
【請求項6】
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
上記カーボンナノチューブに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
上記カーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
及び
上記銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
上記カーボンナノチューブに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
上記カーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
上記ヤーンに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
上記ヤーンに含まれる銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
上記カーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
上記ヤーンに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
上記銀フレーク同士を焼結によって結合する工程を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
上記焼結が、500℃以上の温度下かつ60秒以下の時間でなされる請求項5から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
上記銀粉の平均粒子直径D50が0.10μm以上0.50μm以下である請求項5から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
上記銀粉の平均アスペクト比が20以上である請求項5から10のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀フレークとカーボンナノチューブとを含む複合線(Composite Wire)に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性及び比強度に優れる。種々の分野にて、カーボンナノチューブの利用が検討されている。個々のカーボンナノチューブは、微細である。従って、構造の要素として、多数のカーボンナノチューブの集合物の使用が、検討されている。集合物として、ウェブ(Web)及びヤーン(Yarn)が知られている。
【0003】
カーボンナノチューブは、化学気相成長法にて製造されうる。この方法により、カーボンナノチューブのアレイが得られる。このアレイでは、多数のカーボンナノチューブが、所定の方向に配向している。このアレイから、カーボンナノチューブが、徐々に引き出される。これらのカーボンナノチューブは、ウェブを形成する。ウェブは、シート状である。このウェブが撚られることで、ヤーンが製造される。
【0004】
カーボンナノチューブの集合物であるヤーンの導電性は、不十分である。このヤーンの導電性の改良が、種々提案されている。
【0005】
特開2011-38203公報には、カーボンナノチューブと、金、銀又は銅の粒子とを含む複合線が記載されている。この複合線では、多数のカーボンナノチューブが撚られている。金、銀又は銅の粒子は、これらのカーボンナノチューブに分散している。これらの粒子は、複合線の導電性に寄与しうる。
【0006】
特開2018-53408公報には、カーボンナノチューブと銀粒子とを含む複合線が記載されている。この複合線では、カーボンナノチューブに多数の銀粒子の層が付着している。銀粒子同士は、焼結によって結合している。銀粒子の層は、複合線の導電性に寄与しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-38203公報
【文献】特開2018-53408公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2011-38203公報に記載された複合線では、金属粉末による導電効果は、限定的である。
【0009】
特開2018-53408公報に記載された複合線の導電性も、十分ではない。しかもこの複合線では、銀粒子の焼結層は、柔軟性に欠ける。この複合線が曲げて使用されると、焼結層が損傷する。
【0010】
本発明の目的は、導電性及び柔軟性に優れた、カーボンナノチューブ複合線の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合線は、カーボンナノチューブと、このカーボンナノチューブの表面に付着した焼結層とを有する。この焼結層は、多数の銀フレークを含む。これらの銀フレークは、互いに焼結によって結合している。
【0012】
他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線は、多数のカーボンナノチューブと、それぞれのカーボンナノチューブの表面に付着した焼結層とを有する。この焼結層は、多数の銀フレークを含む。これらの銀フレークは、互いに焼結によって結合している。
【0013】
さらに他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線は、ヤーンと、このヤーンの表面に付着した焼結層とを有する。このヤーンは、多数のカーボンナノチューブを有する。焼結層は、多数の銀フレークを含む。これらの銀フレークは、互いに焼結によって結合している。
【0014】
さらに他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線は、ヤーンと、このヤーンの表面に付着した第二焼結層とを有する。このヤーンは、多数のフィラメントを有する。それぞれのフィラメントは、カーボンナノチューブと、このカーボンナノチューブの表面に付着した第一焼結層とを有する。第一焼結層及び第二焼結層のそれぞれは、多数の銀フレークを含む。これらの銀フレークは、互いに焼結によって結合している。
【0015】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合線の製造方法は、
多数のカーボンナノチューブを含むウェブ又はヤーンを得る工程、
これらのカーボンナノチューブに、多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
これらの銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む。
【0016】
他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線の製造方法は、
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
これらのカーボンナノチューブに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
これらのカーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
及び
これらの銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む。
【0017】
さらに他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線の製造方法は、
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
これらのカーボンナノチューブに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
これらのカーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
このヤーンに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
このヤーンに含まれる銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む。
【0018】
さらに他の観点によれば、本発明に係るカーボンナノチューブ複合線の製造方法は、
多数のカーボンナノチューブを含むウェブを得る工程、
これらのカーボンナノチューブを束ねてヤーンを得る工程、
このヤーンに多数の銀フレークを含む銀粉を付着させる工程、
及び
これらの銀フレーク同士を焼結によって結合する工程
を含む。
【0019】
好ましくは、焼結は、500℃以上の温度下かつ60秒以下の時間でなされる。
【0020】
好ましくは、銀粉の平均粒子直径D50は、0.10μm以上0.50μm以下である。好ましくは、銀粉の平均アスペクト比は、20以上である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合線では、銀フレークのネットワークを通じて電子が伝導する。銀フレーク同士の結合は焼結によって達成されているので、複合線の曲げ歪みによっても、焼結層に損傷が生じにくい。この複合線は、導電性及び柔軟性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合線の一部が示された正面図である。
【
図2】
図2は、
図1のカーボンナノチューブ複合線の一部が示された模式的な拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のカーボンナノチューブ複合線の焼結層に含まれる銀フレークが示された模式的な拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1のカーボンナノチューブ複合線の製造方法に使用される設備が示された概念図である。
【
図5】
図5は、
図4の設備による製造方法に使用されるアレイが示された斜視図である。
【
図6】
図6は、
図4の設備が用いられたカーボンナノチューブ複合線の製造方法が示されたフロー図である。
【
図7】
図7は、
図6の製造方法の一工程が示された正面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例1に係るカーボンナノチューブ複合線が示された顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、
図9のカーボンナノチューブ複合線の焼結層が示された顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、
図9のカーボンナノチューブ複合線の焼結層が示された顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合線2が示されている。この複合線2は、多数のフィラメント4を有している。これらのフィラメント4が束ねられることで、複合線2が形成されている。フィラメント4が撚られることで、複合線2が形成されてもよい。複数の複合線2が撚り合わされてもよい。
【0025】
図2には、カーボンナノチューブ複合線2の一部が模式的に示されている。
図2では、複合線2の表面に露出したフィラメント4が示されている。
図2において矢印Aは、このフィラメント4の長さ方向を表す。このフィラメント4は、カーボンナノチューブ6と焼結層8とを有している。
【0026】
カーボンナノチューブ6は、中空である。カーボンナノチューブ6は、カーボン層10と内腔12とを有している。カーボンナノチューブ6の断面形状は、概して円である。このカーボンナノチューブ6の外径は、通常は0.5nm以上100nm以下である。このカーボンナノチューブ6の長さは、通常は0.5μm以上10mm以下である。カーボンナノチューブ6が、単層構造を有してもよく、二層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。
【0027】
焼結層8は、カーボンナノチューブ6の表面に付着している。
図2では、焼結層8はカーボンナノチューブ6の外周面の一部を覆っている。従ってカーボンナノチューブ6は、部分的に露出している。焼結層8が、カーボンナノチューブ6の外周面の全体を覆ってもよい。
【0028】
図2に示されるように、焼結層8は多数の銀フレーク14を含んでいる。それぞれの銀フレーク14は、概ね長さ方向Aに沿って延在している。従って、この銀フレーク14の厚さ方向は、カーボンナノチューブ6の径方向と概ね一致している。
【0029】
図3は、銀フレーク14が示された拡大斜視図である。この銀フレーク14は、薄い板の形状を有している。この銀フレーク14は、2つのフラット面16を有している。それぞれのフラット面16は、他のフラット面16と実質的に平行である。
図3において矢印Tは、銀フレーク14の厚さを表す。厚さTは、フラット面16と他のフラット面16との距離である。厚さTは、比較的小さい。換言すれば、フラット面16は他のフラット面16と近い。本発明では、顕微鏡観察によって、互いに近い2つのフラット面16が確認されうる形状が、「フレーク」と称される。
【0030】
この銀フレーク14の主成分は、銀である。銀フレーク14の組織は、銀の結晶である。この組織が単結晶であってよく、多結晶であってもよい。好ましくは、銀フレーク14の組織は、単結晶である。銀フレーク14が、銀のベースとこのベースの表面に付着する有機化合物とを有してもよい。この有機化合物は、ベースと化学的に結合している。銀フレーク14における銀の比率は、99.0質量%以上が好ましく、99.5質量%以上が特に好ましい。有機化合物を含まない銀フレーク14を、焼結層8が有してもよい。銀を主成分とする銀フレーク14の電気抵抗は、小さい。銀フレーク14に代えて、又は銀フレーク14と共に、銅を主成分とするフレークが用いられてもよい。
【0031】
図2から明らかなように、銀フレーク14のフラット面16は、隣接する他の銀フレーク14のフラット面16と、部分的に重なるか、又は部分的に接している。このような銀フレーク14の隣接により、導電のネットワークが形成されている。この銀フレーク14を含む焼結層8は、複合線2の導電性に寄与しうる。
【0032】
図2に示された焼結層8は、焼結によって形成されている。焼結により、銀フレーク14が、隣接する他の銀フレーク14と結合している。焼結では、銀フレーク14が加熱される。加熱によって銀原子が拡散し、銀フレーク14が隣接する他の銀フレーク14と結合しうる。加熱によって銀フレーク14が局所的に溶融してもよい。この溶融によって液相が形成され、この液相が凝固することで、銀フレーク14が隣接する他の銀フレーク14と結合しうる。焼結において、全てが液相となる銀フレーク14は、少ない。換言すれば、それぞれの銀フレーク14は、焼結によってもフレーク形状を概ね維持する。従って、焼結層8の顕微鏡写真において、それぞれの銀フレーク14の輪郭は、概ね視認されうる。
【0033】
前述の通り、銀フレーク14同士の結合は局所的である。しかも、
図2から明らかなように、焼結層8は、銀フレーク14に囲まれたスペースを有している。従ってこの焼結層8は、変形能に富む。この焼結層8は、柔軟性に優れる。複合線2が曲げられたとき、焼結層8には曲げ応力、圧縮応力、引張り応力等が発生する。これらの応力が生じても、亀裂等の損傷が焼結層8に生じにくい。この焼結層8は、カーボンナノチューブ6に追従して変形しうる。換言すれば、この複合線2は、柔軟性に優れる。導電性及び柔軟性に優れた複合線2は、電気ケーブルに適している。
【0034】
図4には、
図1のカーボンナノチューブ複合線2の製造方法に使用される設備18が示されている。この設備18は、第一散布機20、集束機22、第二散布機24及び加熱炉26を有している。
【0035】
図5には、
図4の設備18による製造方法に使用されるアレイ28が、基板30と共に示されている。アレイ28は、ブロック形状を有する。このアレイ28は、多数のカーボンナノチューブ6の集合体である。説明の便宜上、
図5において、カーボンナノチューブ6にハッチングが施されている。これらのカーボンナノチューブ6は、アレイ28の厚さ方向(Z方向)に配向している。換言すれば、個々のカーボンナノチューブ6は、基板30に対して概ね起立している。アレイ28の製造には、種々の方法が採用されうる。典型的な方法は、化学気相成長法である。この方法では、基板30から上方に向かって、カーボンナノチューブ6が徐々に成長する。
【0036】
図6は、
図4の設備18が用いられたカーボンナノチューブ複合線2の製造方法が示されたフロー図である。この製造方法では、まず、アレイ28からの、カーボンナノチューブ6の引き出し(ドローイング)が、開始される(STEP1)。
【0037】
図7及び8に、この引き出しの様子が示されている。引き出しは、アレイ28の側面32からなされる。1本又は少数本数のカーボンナノチューブ6がチャックされ、引き出される。引き出されたカーボンナノチューブ6に追従して、アレイ28から、他のカーボンナノチューブ6が順次引き出される。このときのカーボンナノチューブ6同士は、ファンデルワールス力によって結合している。カーボンナノチューブ6は、下流側(
図7における右側)へと進行する。
【0038】
この引き出しが継続されることにより、ウェブ34が形成される(STEP2)。
図7に示されるように、ウェブ34の厚さ(Z方向のサイズ)は小さい。
図8に示されるように、ウェブ34の幅(Y方向のサイズ)は大きい。換言すれば、ウェブ34は、シート状である。
【0039】
このウェブ34は、第一散布機20へと送られる。第一散布機20は、銀粉の分散液36をウェブ34に噴霧(又は散布)する(STEP3)。この分散液36では、溶剤に多数の銀粒子が分散している。これらの銀粒子には、銀フレーク14が含まれている。好ましい溶剤は、有機溶剤、水又は水溶液である。揮発性の有機溶剤が、好ましい。好ましい有機溶剤として、メタノール及びエタノールのようなアルコール、アセトン並びにジメチルスルホキシドが例示される。好ましい水溶液として、ポリビニルアルコール水溶液が例示される。噴霧の後、溶剤は揮発する。乾燥機により、揮発が促進されてもよい。溶剤の揮発により、銀粒子がウェブ34に残存する。この銀粒子は、カーボンナノチューブ6の表面に付着する。
【0040】
このウェブ34は、集束機22へと送られる。この集束機22は、第一ローラ40a及び第二ローラ40bを有している。このウェブ34は、第一ローラ40aと第二ローラ40bとの間を通される。第一ローラ40aのトップ42は第二ローラ40bのボトム44よりも上方に位置している。従って
図7では、ウェブ34は、第一ローラ40aのトップ42の近傍と当接し、かつ第二ローラ40bのボトム44の近傍とも当接している。この状態のウェブ34には、張力がかかっている。
【0041】
この集束機22において、第二ローラ40bに対して第一ローラ40aが、相対的に移動する。この移動の方向は、第一ローラ40aの軸方向(Y方向)である。第一ローラ40aの移動により、カーボンナノチューブ6は、第一ローラ40a及び第二ローラ40bと擦動する。この擦動により、カーボンナノチューブ6同士が絡み合う。第一ローラ40a及び第二ローラ40bは、相対的な往復移動を繰り返す。この繰り返しにより、カーボンナノチューブ6が密に集束される(STEP4)。集束により、ヤーン45が得られる。このヤーン45では、表面から内部にまで、銀粒子が分散している。これらの銀粒子には、銀フレーク14が含まれている。他の方法により、カーボンナノチューブ6が集束されてもよい。他の方法として、ダイスによる引き抜きが例示される。集束によって得られたヤーン45が、撚られてもよい。集束されていない多数のカーボンナノチューブ6が、撚られてもよい。
【0042】
このヤーン45は、第二散布機24へと送られる。第二散布機24は、銀粉の分散液36をウェブ34に噴霧(又は散布)する(STEP5)。この分散液36の成分は、第一散布機20で噴霧された分散液36の成分と同等である。換言すれば、第二散布機24において、溶剤に多数の銀粒子が分散している分散液36が噴霧される。噴霧の後、溶剤は揮発する。乾燥機により、揮発が促進されてもよい。溶剤の揮発により、銀粒子がヤーン45に残存する。銀粒子は、ヤーン45の表面に付着する。第一散布機20で噴霧された分散液36の成分とは異なる成分を有する分散液36が、第二散布機24で噴霧されてもよい。第一散布機20で噴霧された分散液36の濃度とは異なる濃度を有する分散液36が、第二散布機24で噴霧されてもよい。噴霧に代えて、分散液36へのヤーン45の浸漬により、ヤーン45の表面に銀粒子が付着させられてもよい。
【0043】
このヤーン45は、加熱炉26へと送られる。加熱炉26においてヤーン45は、加熱される(STEP6)。加熱により、銀フレーク14が隣接する銀フレーク14と焼結される。この焼結により、焼結層8が形成され、カーボンナノチューブ複合線2が得られる。焼結層8における銀フレーク14のネットワークは、カーボンナノチューブ複合線2の導電性に寄与する。加熱炉26の内部は、不活性雰囲気でもよく、大気雰囲気であってもよい。
図7及び8では、ヤーン45が連続的に加熱炉26に供給されている。ヤーン45がバッチ式で加熱されてもよい。
【0044】
比較的高温で、かつ比較的短時間で加熱がなされることにより、銀フレーク14が完全に溶融することを防ぎつつ、銀フレーク14同士の結合が達成されうる。この観点から、加熱炉26における温度は100℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、500℃以上が特に好ましい。加熱によるカーボンナノチューブ6の揮散の抑制の観点から、加熱炉26における温度は800℃以下が好ましい。加熱の時間は、1秒以上が好ましく、60秒以下が好ましい。加熱が短時間なので、加熱炉26が大気雰囲気であっても、ヤーン45の酸化が生じにくい。大気雰囲気での加熱炉26により、低コストでカーボンナノチューブ複合線2が得られうる。
【0045】
第一散布機20による分散液36の噴霧(STEP3)によって導入された銀フレーク14に由来する焼結層8(第一焼結層)は、個々のカーボンナノチューブ6の表面に付着している。この第一焼結層は、主として複合線2の内部において、導電性に寄与する。第一焼結層が、カーボンナノチューブ6の表面の全体を覆ってもよく、一部を覆ってもよい。カーボンナノチューブ6の表面の一部を覆う第一焼結層は、製作が容易である。ヤーン45において、焼結層8が付着しているカーボンナノチューブ6と、焼結層8が付着してないカーボンナノチューブ6とが、混在してもよい。
【0046】
第二散布機24による分散液36の噴霧(STEP3)によって導入された銀フレーク14に由来する焼結層8(第二焼結層)は、ヤーン45の表面を覆っている。この第二焼結層は、主として複合線2の表面において、導電性に寄与する。第二焼結層が、ヤーン45の表面の全体を覆ってもよく、一部を覆ってもよい。導電性の観点から、第二焼結層がヤーン45の表面の全体を覆うことが好ましい。
【0047】
この複合線2では、第一焼結層と第二焼結層とが混在している。第一焼結層と第二焼結層とは、部分的に連続して存在している。従って、この複合線2において、両者の境界は明確には視認されにくい。
【0048】
第一散布機20による分散液36の噴霧(STEP3)が、省略されてもよい。この場合は、集束(STEP4)の後のヤーン45にのみ、銀粒子が供給される。この複合線2は、第一焼結層を有さず、第二焼結層を有する。
【0049】
第二散布機24による分散液36の噴霧(STEP5)が、省略されてもよい。この場合は、集束(STEP4)の前のウェブ34にのみ、銀粒子が供給される。この複合線2は、第一焼結層を有し、第二焼結層を有さない。
【0050】
集束(STEP4)の後にヤーンが加熱されて銀フレーク14が焼結され、このヤーン45に分散液36の噴霧(STEP5)がなされ、さらに加熱(STEP6)による焼結がなされてもよい。
【0051】
銀粉が銀フレーク14以外の銀粒子を含んでもよい。銀フレーク14以外の銀粒子として、塊状粒子、球状粒子、多面体状粒子及び螺旋状粒子が、例示される。
【0052】
導電性の観点から、複合線2におけるカーボンナノチューブ6と銀粒子との質量比は、50/50以下が好ましく、30/70以下がより好ましく、20/80以下が特に好ましい。この比は、5/95以上が好ましい。
【0053】
導電性の観点から、銀粉における銀フレーク14の比率は30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。理想的な比率は、100質量%である。
【0054】
銀粉の平均粒子直径D50は、0.50μm以下が好ましい。平均粒子直径D50が0.50μm以下である銀粉は、カーボンナノチューブ複合線2の導電性及び柔軟性に寄与しうる。この観点から、平均粒子直径D50は0.45μm以下がより好ましく、0.40μm以下が特に好ましい。銀粉の取り扱い性の観点から、平均粒子直径D50は0.10μm以上が好ましい。
【0055】
銀粉の累積95体積%粒子径D95は、1.00μm以下が好ましい。粒子径D95が1.00μm以下である銀粉は、カーボンナノチューブ複合線2の導電性及び柔軟性に寄与しうる。この観点から、粒子径D95は0.90μm以下がより好ましく、0.80μm以下が特に好ましい。
【0056】
銀粉の最大粒子径Dmaxは、3.00μm以下が好ましい。最大粒子径Dmaxが3.00μm以下である銀粉は、カーボンナノチューブ複合線2の導電性及び柔軟性に寄与しうる。この観点から、最大粒子径Dmaxは2.50μm以下がより好ましく、2.00μm以下が特に好ましい。
【0057】
平均粒子直径D50、累積95体積%粒子径D95及び最大粒子径Dmaxは、レーザー回折式粒度分布計によって測定される。測定器の例として、堀場製作所社の「LA-950V2」が挙げられる。
【0058】
銀粉の平均厚さTaveは、1nm以上100nm以下が好ましい。平均厚さTaveが1nm以上である銀粉は、容易に製造されうる。この観点から、平均厚さTaveは10nm以上がより好ましく、20nm以上が特に好ましい。平均厚さTaveが100nm以下である銀粉は、カーボンナノチューブ複合線2の導電性及び柔軟性に寄与しうる。この観点から、平均厚さTaveは80nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。無作為に抽出された100個の銀粒子の厚さT(
図3参照)が平均されることで、平均厚さTaveが算出される。それぞれの厚さTは、SEM写真に基づいて、目視で計測される。
【0059】
銀粉のアスペクト比(D50/Tave)は、20以上が好ましい。アスペクト比(D50/Tave)が20以上である銀粉は、カーボンナノチューブ複合線2の導電性及び柔軟性に寄与しうる。この観点から、アスペクト比(D50/Tave)は30以上が好ましく、35以上が特に好ましい。製造容易の観点から、アスペクト比(D50/Tave)は、1000以下が好ましい。
【0060】
表面が平滑な銀フレーク14は、複合線2の導電性に寄与する。銀フレーク14の算術平均粗さRaは10.0nm以下が好ましく、7.0nm以下がより好ましく、5.0nm以下が特に好ましい。算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される。算術平均粗さRaは、フラット面16において測定される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0062】
[実験1]
[実施例1]
図7及び8に示された設備を用いて、
図6に示された手順で、カーボンナノチューブ複合線を得た。第一散布機及び第二散布機では、平均粒子直径D50が0.23μmである銀粉を含む分散液を、噴霧した。この銀粉は、銀フレークを含んでいる。この複合線では、カーボンナノチューブと銀粒子との質量比は、10/90であった。この複合線の直径は、約20μmであった。
図9に、この複合線の顕微鏡写真が示されている。
図10に、この複合線を半径方向から見たときの、さらに拡大された顕微鏡写真が示されている。
図11に、焼結層の断面がさらに拡大された顕微鏡写真が示されている。
【0063】
[実施例2-4]
下記の表1に示された平均粒子直径D50を有する銀粉を使用した他は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合線を得た。
【0064】
[比較例1]
加熱工程において長時間の加熱を行い、銀粉を完全に溶融させた他は実施例1と同様にして、複合線を得た。この複合線では、銀フレークは原形をとどめていない。
【0065】
[比較例2]
加熱炉による加熱を行わなかった他は実施例1と同様にして、複合線を得た。この複合線では、銀フレーク同士は焼結されていない。
【0066】
[比較例3]
球状銀粒子を使用した他は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合線を得た。
【0067】
[比較例4]
銀粉分散液を噴霧しなかった他は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブのヤーンを得た。
【0068】
[導電性]
複合線(又はヤーン)の電気抵抗率を測定した。この結果が、格付けと共に下記の表1及び2に示されている。
【0069】
[耐亀裂性]
複合線(又はヤーン)を円柱に巻き付けた後に復元し、この複合線の表面を観察した。下記の基準に従って、格付けした。この結果が、下記の表1及び2に示されている。
A:フィラメントに亀裂がない。
B:小数のフィラメントに微小な亀裂がある。
C:多数のフィラメントに微小な亀裂がある。
D:フィラメントに大きな亀裂がある。
【0070】
【0071】
【0072】
表1及び2に示されるように、各実施例のカーボンナノチューブ複合線は、導電性及び耐亀裂性に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0073】
[実験2]
[実施例5]
図7及び8に示された設備を用いて、カーボンナノチューブ複合線を得た。第一散布機では、平均粒子直径D50が0.23μmである銀粉を含む分散液を、噴霧した。この銀粉は、銀フレークを含んでいる。第二散布機による分散液の噴霧は、行わなかった。この複合線では、カーボンナノチューブと銀粒子との質量比は、50/50であった。この複合線の直径は、約100μmであった。
【0074】
[実施例6-8]
下記の表3に示された平均粒子直径D50を有する銀粉を使用した他は実施例5と同様にして、カーボンナノチューブ複合線を得た。
【0075】
[比較例5]
加熱工程において長時間の加熱を行い、銀粉を完全に溶融させた他は実施例5と同様にして、複合線を得た。この複合線では、銀フレークは原形をとどめていない。
【0076】
[比較例6]
加熱炉による加熱を行わなかった他は実施例5と同様にして、複合線を得た。この複合線では、銀フレーク同士は焼結されていない。
【0077】
[比較例7]
球状銀粒子を使用した他は実施例5と同様にして、カーボンナノチューブ複合線を得た。
【0078】
[導電性]
複合線(又はヤーン)の電気抵抗率を測定した。この結果が、格付けと共に下記の表3及び4に示されている。
【0079】
[耐亀裂性]
複合線(又はヤーン)を円柱に巻き付けた後に復元し、この複合線の表面を観察した。下記の基準に従って、格付けした。この結果が、下記の表3及び4に示されている。
A:フィラメントに亀裂がない。
B:小数のフィラメントに微小な亀裂がある。
C:多数のフィラメントに微小な亀裂がある。
D:フィラメントに大きな亀裂がある。
【0080】
【0081】
【0082】
表3及び4に示されるように、各実施例のカーボンナノチューブ複合線は、導電性及び耐亀裂性に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合線は、導電性が要求される種々の用途に適用されうる。
【符号の説明】
【0084】
2・・・カーボンナノチューブ複合線
4・・・フィラメント
6・・・カーボンナノチューブ
8・・・焼結層
12・・・カーボン層
14・・・銀フレーク
16・・・フラット面
20・・・第一散布機
22・・・集束機
24・・・第二散布機
26・・・加熱炉
28・・・アレイ
34・・・ウェブ
36・・・分散液
40a・・・第一ローラ
40b・・・第二ローラ
45・・・ヤーン