(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】コイル装置およびコイル装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20240930BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
H01F41/04 E
H01F17/00 G
(21)【出願番号】P 2020191817
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小池 信太朗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真史
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186492(JP,A)
【文献】実公昭44-022581(JP,Y1)
【文献】特開昭50-082552(JP,A)
【文献】特開昭55-113213(JP,A)
【文献】特開昭54-156162(JP,A)
【文献】特開平06-120062(JP,A)
【文献】特開平04-148515(JP,A)
【文献】特開2013-092973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00-5/06、17/00-19/08、27/28
H01F 30/00-30/16、37/00、41/04
H01C 3/00-3/20、7/00
H01B 7/00
H01Q 7/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性繊維の表面に導電層を形成した導電糸の
外周面にパターン加工を施し、コイルパターンを形成する工程と、
前記コイルパターンの端部に
接続されるように、前記導電糸の端面に前記導電層からなる端子部を設ける工程と、を有するコイル装置の製造方法。
【請求項2】
前記パターン加工を施した前記導電糸を所定の長さに切断し、前記導電糸の個片を形成する工程をさらに有する請求項1に記載のコイル装置の製造方法。
【請求項3】
前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された単一の前記絶縁性繊維の糸からなる請求項1または2に記載のコイル装置の製造方法。
【請求項4】
前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された束状の前記絶縁性繊維の糸からなる請求項1または2に記載のコイル装置の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁性繊維は合成樹脂からなる請求項1~4のいずれかに記載のコイル装置の製造方法。
【請求項6】
前記パターン加工を施した前記導電糸を樹脂で被覆する工程をさらに有する請求項1~5のいずれかに記載のコイル装置の製造方法。
【請求項7】
前記パターン加工をレーザトリミングにより行う請求項1~6のいずれかに記載のコイル装置の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁性繊維の耐熱温度は200℃以上である請求項1~7のいずれかに記載のコイル装置の製造方法。
【請求項9】
絶縁性繊維で構成された芯材
と、前記芯材の表面に形成された導電層とを有する導電糸と、
前記導電糸に電気的に接続された外部端子と、を有し、
前記導電層は、前記芯材の外周面に形成されたコイルパターンと、前記芯材の端面に形成された端子部とを有し、
前記端子部は、前記コイルパターンと前記外部端子とを電気的に接続するコイル装置。
【請求項10】
前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された単一の前記絶縁性繊維の糸からなる請求項
9に記載のコイル装置。
【請求項11】
前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された束状の前記絶縁性繊維の糸からなる請求項
9に記載のコイル装置。
【請求項12】
前記絶縁性繊維は合成樹脂からなる請求項9~
11のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項13】
前記コイルパターンが形成された前記導電糸は樹脂で被覆されている請求項
9~
12のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項14】
前記絶縁性繊維の耐熱温度は200℃以上である請求項9~
13のいずれかに記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の電子機器の高機能化および高周波数化の進展に伴い、これらの電子機器に搭載されるコイル装置等の電子部品に対して小型化の要求が高まっている。コイル装置の小型化を図る技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、セラミック磁性体からなる円柱状ロッドの表面にメッキ層を形成し、該メッキ層にレーザ加工を施すことによりスパイラルコイルを形成するコイル装置の製造方法が記載されている。このようにレーザ加工によりコイルパターンを形成する製造方法では、サイズの小さなコイルを形成することが可能であり、コイル装置の小型化を図ることができる。
【0003】
しかしながら、セラミック磁性体はその特性上折れや割れ等の損傷が生じやすく(強度が低く)、例えば長尺状のセラミック磁性体を切断し、複数の円柱状ロッドの個片を製造しようとした場合、撓み等に起因して該セラミック磁性体が損傷し、歩留まりが低下するおそれがある。そのため、特許文献1に記載の製造方法は、小型のコイル装置を大量生産することには不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、小型であり大量生産に適したコイル装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル装置の製造方法は、
絶縁性繊維の表面に導電層を形成した導電糸の表面にパターン加工を施し、コイルパターンを形成する工程と、
前記コイルパターンの端部に端子部を設ける工程と、を有する。
【0007】
本発明に係るコイル装置の製造方法では、絶縁性繊維の表面に導電層を形成した導電糸の表面にパターン加工を施し、コイルパターンを形成する工程を有する。導電糸は絶縁性繊維を基に構成されているため、柔軟性に富んでおり、繰り返し曲げ等に対する耐久性(耐屈曲性)を有する。そのため、コイルパターンの形成段階等において、導電糸に撓みや折り曲げ等による負荷が加わったとしても、折れや割れ等の損傷が生じにくい(強度が高い)。したがって、導電糸の損傷に起因する歩留まりの低下を防止することが可能であり、例えば長尺状の導電糸を個片化することにより、コイルパターンが形成された導電糸の個片を大量に製造することが可能となる。よって、本発明に係るコイル装置の製造方法によれば、小型のコイル装置を高効率で大量生産することができる。
【0008】
また、従来技術では、セラミック磁性体を円柱状に成形する工程が行われるところ、その寸法精度を確保しようとした場合、工程面および設備面における管理上の負荷が高くなり、製造コストが高くなるおそれがある。これに対し、本発明に係るコイル装置では、従来技術とは異なり、セラミック磁性体を円柱状に成形する工程は行われず、上記のような問題が生じることはない。
【0009】
好ましくは、前記パターン加工を施した前記導電糸を所定の長さに切断し、前記導電糸の個片を形成する工程をさらに有する。このような構成とすることにより、1個の導電糸から導電糸の個片を複数得ることが可能となり、コイルパターンが形成された導電糸の個片を高効率で大量に製造することができる。
【0010】
好ましくは、前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された単一の前記絶縁性繊維の糸からなる。このような構成とすることにより、絶縁性繊維の表面に導電層を容易に形成することが可能となり、コイルパターンの形成が容易となる。
【0011】
前記導電糸は、表面に前記導電層が形成された束状の前記絶縁性繊維の糸で構成されていてもよい。このような導電糸は柔軟性および耐屈曲性に優れ、導電糸の損傷に起因する歩留まりの低下を効果的に防止することができる。
【0012】
好ましくは、前記絶縁性繊維は合成樹脂からなる。合成樹脂の一例としては、アラミド繊維が挙げられる。アラミド繊維は誘電率や誘電正接(tanδ)が比較的低く、耐熱温度が比較的高い。そのため、このような特性を有する合成樹脂を絶縁性繊維として用いることにより、良好な高周波特性を有し、耐熱性の高い小型のコイル装置を高効率で大量生産することができる。
【0013】
好ましくは、前記パターン加工を施した前記導電糸を樹脂で被覆する工程をさらに有する。このような構成とすることにより、導電糸を樹脂で有効に保護するとともに、コイル装置を外部回路に接続するための端子電極を樹脂被覆部に設けることができる。
【0014】
好ましくは、前記パターン加工をレーザトリミングにより行う。このような構成とすることにより、導電糸の表面に形成された導電層の表面を緻密にパターニングすることが可能となり、導電層の表面にコイルパターンを精度よく形成することができる。
【0015】
好ましくは、前記絶縁性繊維の耐熱温度は200℃以上である。このような構成とすることにより、ハンダのリフロー温度に耐え得る耐熱性の高いコイル装置を製造することができる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル装置は、絶縁性繊維で構成された芯材を有する。絶縁性繊維は、柔軟性および耐屈曲性に優れており、損傷が生じにくい。また、長尺状の絶縁性繊維は、個片化により、大量の絶縁性繊維の個片を生成することが可能である。したがって、上記特性を有する絶縁性繊維を芯材として用いることにより、コイル装置の製造工程において、芯材の損傷に伴う歩留まりの低下を防止することが可能となるとともに、小型の芯材を大量に生成することが可能となる。したがって、本発明に係るコイル装置によれば、小型であり大量生産に適したコイル装置を実現することができる。
【0017】
好ましくは、前記絶縁性繊維の表面に導電層が形成された導電糸と、前記導電層からなるコイルパターンと、を有する。
【0018】
上述したように、導電糸は、柔軟性および耐屈曲性に優れており、損傷が生じにくい。そのため、導電糸の損傷に起因する歩留まりの低下を防止することが可能であり、例えば長尺状の導電糸を個片化することにより、コイルパターンが形成された導電糸の個片を高効率で大量に製造し、この個片を基に小型のコイル装置を大量に得ることができる。
【0019】
また、本発明に係るコイル装置は、その柔軟性を利用してあらゆる形状に変形させることが可能である。例えば、用途に応じて、導電糸をC字形状やリング形状等の種々の形状となるように曲げ、該導電糸を有するコイル装置を基板上に配置し、外部回路に接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
【
図4A】
図4Aは
図2に示す導電糸の構成を示す斜視図である。なお、
図4Aでは、上方に芯材の構成を示し、下方に導電糸の横断面図を示している。
【
図4B】
図4Bは本発明の第2実施形態に係るコイル装置の導電糸の構成を示す斜視図である。なお、
図4Bでは、上方に芯材の構成を示し、下方に導電糸の横断面図を示している。
【
図4C】
図4Cは本発明の第3実施形態に係るコイル装置の導電糸の構成を示す斜視図である。なお、
図4Cでは、上方に芯材の構成を示し、下方に導電糸の横断面図を示している。
【
図5】
図5は
図1に示すコイル装置の製造方法を示す図である。
【
図6】
図6は
図1に示すコイル装置の変形例を示す縦断面図である。
【
図8】
図8は
図7に示す工程の続きの工程を示す断面図である。
【
図9】
図9は
図8に示す工程の続きの工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0022】
第1実施形態
図1および
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係るコイル装置10は、略直方体形状を有し、コア部20と、第1外部端子31と、第2外部端子32と、コイル部40と、を有する。コイル装置10は、スマートフォン等の電子機器に搭載されるインダクタ素子であり、特に高周波帯において好適に用いられる。
【0023】
コイル装置10のX軸方向の長さは好ましくは0.2~5.0mmであり、Y軸方向の長さは好ましくは0.1~2.5mmであり、Z軸方向の長さは好ましくは0.1~2.5mmである。ただし、コイル装置10の大きさはこれに限定されるものではなく、上記の大きさよりも大きくてもよい(あるいは小さくてもよい)。本実施形態におけるコイル装置10は、例えば平面寸法が0.4mm×0.2mmである0402サイズ、あるいは平面寸法が0.6mm×0.3mmである0603サイズからなる。
【0024】
図2に示すように、コア部20は、樹脂を含む外装材で構成されており、コイル部40の周囲を取り囲むように覆っている(被覆している)。コア部20は、X軸方向に長辺を有する略直方体形状の外形状を有しており、その内部に貫通孔(空洞)を有している。この貫通孔の内部には、コイル部40を収容することが可能となっている。なお、貫通孔の内部には、コイル部40が出入可能(挿入可能)に設けられていてもよく、あるいはコイル部40がコア部20に対して一体となるように設けられていてもよい。
【0025】
コア部20は、樹脂のみで構成されていてもよく、あるいは磁性材料を含んでいてもよい。コア部20に含有される樹脂としては、特に限定されないが、フッ素樹脂(PTFE等)、アクリル樹脂、液晶ポリマー、ポリアミド等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂あるいはポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が例示される。
【0026】
コア部20に磁性材料を包含させる場合、コア部20に含有される磁性材料としては、特に限定されないが、金属磁性材料やフェライト等が例示される。金属磁性材料としては、特に限定されないが、たとえばFe-Ni合金粉、Fe-Si合金粉、Fe-Si-Cr合金粉、Fe-Co合金粉、Fe-Si-Al合金粉、アモルファス鉄などが例示される。フェライトとしては、Ni-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライトなどが例示される。
【0027】
図1に示すように、第1外部端子31はコア部20のX軸方向の一方側に設けられており、第2外部端子32はコア部20のX軸方向の他方側に設けられている。第1外部端子31は、略L字形状の金属端子からなり、コア部20に対して、そのX軸方向の一方側の端面と底面の一部とに跨るように取り付けられている。第2外部端子32は、略L字形状の金属端子からなり、コア部20に対して、そのX軸方向の他方側の端面と底面の一部とに跨るように取り付けられている。
【0028】
図2に示すように、コイル部40は、導電糸50からなる。本実施形態では、コイル部40は、導電糸50の表面にパターン加工を施すことにより形成される。導電糸50は、フレキシブルであり高強力および低抵抗を有する細い導電糸からなり、X軸方向に長い略円柱形状を有する。導電糸50は、耐屈曲性と柔軟性に優れており、X軸方向に垂直な方向に向けて屈曲自在(折り曲げ自在)に構成されている。
【0029】
導電糸50は、芯材51と、導電層52と、端子部53とを有する。芯材51は不織布からなる絶縁性繊維で構成され、絶縁性繊維は合成樹脂で構成される。本実施形態では、絶縁性繊維としてアラミド樹脂からなるアラミド繊維が用いられている。
【0030】
アラミド繊維は、高強度、高弾性(弾性限界が大きく、弾性率が小さい)および高耐熱性等を有し、優れた繊維特性を発現する材料として知られている。また、アラミド樹脂は誘電率および誘電正接(tanδ)ともに小さく、本実施形態におけるコイル装置10のように、高周波帯にて使用が想定される電子部品の基材として好適に用いることができる。さらに、アラミド樹脂からなるアラミド繊維は、透明に近い色を有するため、後述するようにアラミド繊維の表面に形成される導電層52にレーザトリミングを行ったときに、レーザ光が透過しやすく、レーザ光による損傷を受けにくい。
【0031】
芯材51を構成する絶縁性繊維はアラミド繊維に限定されるものではなく、他の合成樹脂からなる絶縁性繊維を用いてもよい。他の合成樹脂の材料としては、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、フェノール、ポリエステル、ナイロン等が挙げられる。耐熱性の観点からは、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、フェノールが好適である。ポリイミド樹脂としてはビスマレイド、フェノールとしてはノボロイド等を用いても良い。これらの材料は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。上記のような材料からなる合成樹脂を用いて絶縁性繊維を構成することにより、誘電率および誘電正接(tanδ)ともに小さく、引張強度や引張弾性率が高い芯材51を構成することができる。なお、絶縁性繊維としては、後述するようにその表面に金属メッキ処理を行うことが可能なものが好ましい。
【0032】
芯材51を構成する合成樹脂の特性として、1GHz以上90GHz以下における比誘電率は好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.5以下であり、特に好ましくは3.0以下である。また、1GHz以上90GHz以下における誘電正接(tanδ)は好ましくは0.03以下であり、さらに好ましくは0.02以下であり、特に好ましくは0.01以下である。
【0033】
また、芯材51のアスペクト比(長さ/幅、あるいは長さ/直径)は、好ましくは100以上である。
【0034】
絶縁性繊維の耐熱温度(あるいは、分解温度または溶解温度)は、ハンダのリフロー温度に耐え得る温度であることが好ましく、好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは230℃以上である。
【0035】
図4Aに示すように、導電糸50は、表面に導電層52が形成された1本の絶縁性繊維の糸(芯材51)からなる。芯材51は、右撚または左撚がかけられた片撚糸であってもよい。芯材51は、合成樹脂からなる糸で構成されているため、その長手方向に沿う各位置において、安定した形状(欠陥が少ない形状)を有し、一定の直径を有する。
【0036】
芯材51の直径Lは、コイル装置10の外形寸法に応じて適宜決定されてもよく、例えば芯材51として100μm程度のものを用いることができる。本発明は、例えばコイル装置10の平面寸法が0.4mm×0.2mmである0402サイズ、あるいはコイル装置10の平面寸法が0.6mm×0.3mmである0603サイズといった、いわゆる極小サイズ部品において好適であり、これら極小サイズ部品に適用する芯材51の直径は、好ましくは5~15μmであり、さらに好ましくは8~12μmである。芯材51は、例えば長尺状の糸を所定の長さに切断することにより得られる。芯材51のX軸方向の長さは、コイル装置10のX軸方向の長さと略同一であるか、それよりも短い。
【0037】
導電層52は、芯材51(絶縁性繊維)の表面に形成されている。導電層52は、芯材51の外周面を覆っており、断面略リング形状を有する。
図2に示すように、導電層52は芯材51の長手方向の一端から他端にわたって、芯材51の外周面全体を覆っている。
【0038】
導電層52は、薄膜(本実施形態では、2層構造のメッキ膜)からなり、芯材51の表面にPd等の触媒を用いて無電解メッキを施すとともに、無電解メッキが施された芯材51に電解メッキを施すことにより形成される。
図4Aに示すように、無電解メッキ膜および電解メッキ膜からなる導電層52の厚みTは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上である。導電層52を構成する材料としては、例えばCu、Ni、Sn、Ni-Sn、Cu-Ni-Sn、Ni-Au、Au等が挙げられる。なお、導電層52は、薄膜を形成するための他の手段(例えば、スパッタリング法等)により形成されてもよい。
【0039】
図2に示すように、導電層52には、コイルパターン520が形成されている。コイルパターン520は、螺旋状(コイル状)の形状を有し、導電層52のX軸方向一端から他端にわたって形成されている。コイルパターン520は、芯材51の表面に形成されたメッキ層(導電層)に対して、パターン加工を螺旋状に施し、これによりメッキ層を螺旋状に除去することにより形成される。
【0040】
図3に示すように、コイルパターン520の一端は芯材51のX軸方向の一端に配置されており、コイルパターン520の他端は芯材51のX軸方向の他端に配置されている。コイルパターン520における各ターン間の間隔は、コイル装置10のサイズが0402サイズの場合、好ましくは3~11μmであり、さらに好ましくは5~9μmである。
【0041】
図2に示すように、端子部53は、芯材51のX軸方向の一方側の端面および他方側の端面にそれぞれ形成されている。芯材51のX軸方向の一方側の端面に形成された端子部53は、コイルパターン520の一方側の端部に設けられており、当該端部に電気的に接続されている。芯材51のX軸方向の他方側の端面に形成された端子部53は、コイルパターン520の他方側の端部に設けられており、当該端部に電気的に接続されている。端子部53は、各端面の全体を覆っているが、各端面の一部のみを覆っていてもよい。
【0042】
コイル部40がコア部20の内部に配置されたとき、第1外部端子31の内面(Y-Z平面に平行な面)は、芯材51のX軸方向の一方側の端面に形成された端子部53に電気的に接続され、第2外部端子32の内面(Y-Z平面に平行な面)は、芯材51のX軸方向の他方側の端面に形成された端子部53に電気的に接続される。これにより、端子部53を介して、コイルパターン52を第1外部端子31および第2外部端子32に電気的に接続することが可能となっている。
【0043】
端子部53は、Cu、Ni、Sn、Ni-Sn、Cu-Ni-Sn、Ni-Au、Au等からなる無電解メッキ膜または電解メッキ膜(導電膜)により形成されている。端子部53の厚みは、コイルパターン520の各端部と外部端子31,32との間の電気的接続を十分に確保できる範囲で決定設定される。
【0044】
次に、
図5を参照しつつ、コイル装置10の製造方法について説明する。コイル装置10の製造では、まず長尺状の芯材51A(以下、長尺状芯材51Aと表記)を準備する。長尺状芯材51Aは、
図2に示す芯材51と同様の材料で構成されたものであり、芯材51よりもX軸方向に十分に長い形状を有する。
【0045】
次に、長尺状芯材51Aの表面にPd等の触媒を用いて無電解メッキを施し、Cu等からなる無電解メッキ層521を形成する。次に、無電解メッキ層521の表面に電解メッキを施し、Cu等からなる電解メッキ層522を形成する(メッキ工程)。これにより、長尺状芯材510Aの表面に無電解メッキ層521および電解メッキ層522からなる導電層52が形成され、長尺状芯材510Aを芯材とする長尺状の導電糸50A(以下、長尺状導電糸50Aと表記)が形成される。
【0046】
次に、表面に導電層52が形成された長尺状導電糸50Aの表面にパターン加工を施し、コイルパターン520を形成する(パターン加工工程)。パターン加工工程では、レーザトリミングにより、導電層52の一部を螺旋状に除去し、導電層52の下の長尺状芯材51A(絶縁性繊維)を露出させる。これにより、導電層52に螺旋状の溝(周回溝)が形成されるとともに、周回溝以外の部分、すなわちトリミングされずに残った導電層52でコイルパターン520が形成される。なお、レーザトリミング以外にも、例えばレジストを用いてフォトリソグラフィ(ポジ型およびネガ型のいずれも可)を行うことによりパターン加工を行ってもよく、あるいはエッチング(物理エッチングあるいは化学エッチング)等によってパターン加工を行ってもよい。
【0047】
周回溝の形成にあたっては、長尺状導電糸50AのX軸方向の一端を始点として、長尺状導電糸50AのX軸方向の他端に向かって連続的にレーザトリミングを行う。レーザトリミングは、レーザ照射装置(図示略)を用い、長尺状導電糸50AのX軸方向に沿って長尺状導電糸50Aを移動させ、同時に、長尺状導電糸50Aの軸心Oを中心とする回転方向に長尺状導電糸50Aを回転させながら行う。周回溝の深さは好ましくは2~10μmである。
【0048】
次に、パターン加工を施した長尺状導電糸50AをY-Z平面に沿ってX軸方向に所定の切断間隔で切断し、表面にコイルパターン520が形成された長尺状導電糸50Aの個片(導電糸50)を複数得る(切断工程)。導電糸50の長さ(上記切断間隔)は、製造するコイル装置10のサイズに応じて適宜決定すればよい。
【0049】
次に、導電糸50のX軸方向の各端面に端子部53を形成し、導電糸50の表面に形成されたコイルパターン520の各端部に端子部53を設ける(接続する)ことにより、コイル部40を構成する(端子部形成工程)。端子部53の形成方法は、前述の導電層52の形成方法と同様であり、導電糸50のX軸方向の各端面に無電解メッキおよび電解メッキを施すことにより行う。ただし、端子部53の形成方法はこれに限定されるものではなく、例えば上記各端面に導電性接着剤等を塗布してもよく、あるいは端子部53を金属端子やリードフレームで構成してもよい。
【0050】
次に、端子部53が形成された導電糸50(コイル部40)を樹脂で被覆(封止)することにより、コア部20を形成する(樹脂封止工程)。用いる樹脂としては、長尺状芯材51Aを構成する絶縁性繊維よりも誘電率が低いものであることが好ましい。樹脂封止工程では、導電糸50を金型の内部に収容し、金型内でコア部20を圧縮成型により形成する。圧縮成型時には、樹脂を金型のキャビティ内に充填し、全体を加熱圧縮する。このとき、コイル部40のX軸方向の各端面に形成された端子部53が外部に露出するように圧縮成型を行う。圧縮成形するための方法としては、金型を用いてもよいし、油圧や水圧を利用してもよい。なお、樹脂の内部に磁性粉末を混合してもよい。
【0051】
次に、コア部20のX軸方向の各端面から露出した端子部53に外部端子51,52を機械的および電気的に接続し(外部端子接続工程)、
図1に示すコイル装置10を得る。端子部53に対する外部端子51,52の接続は、例えばはんだや導電性接着剤等の導電性の接続部材を用いて行う。以上のようにして得られたコイル装置10は、その下面を実装面として回路基板に実装することができる。
【0052】
なお、上述した製造方法において、切断工程を実行するタイミングについては適宜変更してもよい。例えば、メッキ工程を行う前に、長尺状芯材51Aに対して切断工程を実行してもよい。あるいは、パターン加工工程を行う前に、長尺状芯材51Aに対して切断工程を実行してもよい。この場合、導電糸50(長尺状導電糸50Aの個片)に対して、パターン加工を実行することになる。
【0053】
本実施形態に係るコイル装置10の製造方法では、
図5に示すように、絶縁性繊維(直尺状芯材51A)の表面に導電層52を形成した長尺状導電糸50Aの表面にパターン加工を施し、コイルパターン520を形成する工程を有する。長尺状導電糸50Aは絶縁性繊維を基に構成されているため、柔軟性に富んでおり、繰り返し曲げ等に対する耐久性(耐屈曲性)を有する。そのため、コイルパターン520の形成段階等において、長尺状導電糸50Aに撓みや折り曲げ等による負荷が加わったとしても、折れや割れ等の損傷が生じにくい(強度が高い)。したがって、長尺状導電糸50Aの損傷に起因する歩留まりの低下を防止することが可能であり、例えば長尺状導電糸50Aを個片化することにより、コイルパターン520が形成された長尺状導電糸50Aの個片(導電糸50)を大量に製造することが可能となる。よって、本実施形態に係るコイル装置10の製造方法によれば、小型のコイル装置10を高効率で大量生産することができる。
【0054】
また、本実施形態では、パターン加工を施した長尺状導電糸50Aを所定の長さに切断し、長尺状導電糸50Aの個片(導電糸50)を形成する工程をさらに有する。そのため、1個の長尺状導電糸50Aから長尺状導電糸50Aの個片を複数得ることが可能となり、コイルパターン520が形成された長尺状導電糸50Aの個片を高効率で大量に製造することができる。
【0055】
また、本実施形態では、導電糸50は、表面に導電層52が形成された単一の絶縁性繊維の糸からなる。そのため、絶縁性繊維(芯材51)の表面に導電層52を容易に形成することが可能となり、コイルパターン520の形成が容易となる。
【0056】
また、本実施形態では、絶縁性繊維(芯材51)は合成樹脂からなり、合成樹脂としてアラミド繊維が用いられている。アラミド繊維は誘電率や誘電正接(tanδ)が比較的低く、耐熱温度が比較的高い。そのため、このような特性を有する合成樹脂を絶縁性繊維として用いることにより、良好な高周波特性を有し、耐熱性の高い小型のコイル装置10を高効率で大量生産することができる。
【0057】
また、本実施形態では、パターン加工を施した導電糸50を樹脂で被覆する工程をさらに有する。そのため、導電糸50を樹脂で有効に保護するとともに、コイル装置10を外部回路に接続するための外部端子31,32をコア部20(樹脂被覆部)に設けることができる。
【0058】
また、本実施形態では、パターン加工をレーザトリミングにより行う。そのため、導電糸50の表面に形成された導電層52の表面を緻密にパターニングすることが可能となり、導電層52の表面にコイルパターン520を精度よく形成することができる。
【0059】
また、本実施形態では、絶縁性繊維の耐熱温度が200℃以上である。そのため、ハンダのリフロー温度に耐え得る耐熱性の高いコイル装置10を製造することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るコイル装置10は、絶縁性繊維で構成された芯材51を有する。絶縁性繊維は、柔軟性および耐屈曲性に優れており、損傷が生じにくい。また、長尺状の絶縁性繊維は、個片化により、大量の絶縁性繊維の個片を生成することが可能である。したがって、上記特性を有する絶縁性繊維を芯材51として用いることにより、コイル装置10の製造工程において、芯材51の損傷に伴う歩留まりの低下を防止することが可能となるとともに、小型の芯材51を大量に生成することが可能となる。したがって、本実施形態に係るコイル装置10によれば、小型であり大量生産に適したコイル装置10を実現することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るコイル装置10は、絶縁性繊維(芯材51)の表面に導電層52が形成された導電糸50と、導電層52からなるコイルパターン520とを有する。上述したように、導電糸50は、柔軟性および耐屈曲性に優れており、損傷が生じにくい。そのため、導電糸50の損傷に起因する歩留まりの低下を防止することが可能であり、例えば長尺状導電糸50Aを個片化することにより、コイルパターン520が形成された長尺状導電糸50Aの個片(導電糸50)を高効率で大量に製造し、この個片を基に小型のコイル装置10を大量に得ることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るコイル装置10は、その柔軟性を利用してあらゆる形状に変形させることが可能である。例えば、用途に応じて、導電糸50をC字(U字)形状やリング形状等の種々の形状となるように曲げ、該導電糸50を有するコイル装置10を基板上に配置し、外部回路に接続してもよい。この場合、コア部20を柔軟性を有する材料で構成しておき、上記のような導電糸50(コイル部20)の形状に追随するように、コア部20を自在に変形できるようにしてもよい。
【0063】
第2実施形態
図4Bに示す第2実施形態に係るコイル装置は、以下に示す点を除いて、第1実施形態に係るコイル装置10と同様な構成を有し、同様な作用効果を奏する。
図4Bにおいて、第1実施形態のコイル装置10における各部材と共通する部材には、共通の符号を付し、その説明は一部省略する。
【0064】
図4Bに示すように、本実施形態におけるコイル装置には、第1実施形態における導電糸50に代えて導電糸150が具備されている。導電糸150は、表面に導電層が形成された束状の(複数の)絶縁性繊維の糸(芯材51)からなる。換言すれば、導電糸150は、複数の絶縁性繊維からなる芯材51の各々を束状に寄せ集めて結合した束状糸である。本実施形態では、各芯材51は、直線状に延びており、撚られてはいない。
【0065】
各芯材51の太さは、第1実施形態における芯材51の太さよりも細くなっているが、コイル装置の寸法に応じて適宜変更してもよい。図示の例では、導電糸150は10本の芯材51により構成されているが、導電糸150を構成する芯材51の本数はこれに限定されるものではなく、2本以上9本以下でもよく、11本以上であってもよい。
【0066】
導電層52は、束状糸の周囲を取り囲むように形成されている。導電層52は、束状糸の表面に形成されており、束状糸の内部に入り込んではいない。
【0067】
次に、
図7~
図11を参照しつつ、本実施形態におけるコイル装置の製造方法について説明する。本実施形態においても、第1実施形態と同様の製造方法により、コイル装置を製造することができるが、以下では、第1実施形態で示した製造方法とは異なる製造方法について説明する。以下に示すように、本実施形態では、射出成形によって、コイル装置の製造を行う。
【0068】
まず、
図7に示すように、リードフレーム60と、第1実施形態で示したパターン加工が施された長尺状導電糸50A(
図5(d)参照)と、を準備する。本実施形態における長尺状導電糸50Aは、
図4Bに示すような芯材41を束状に寄せ集めたものであるが、図面が煩雑になるのを防止するために、その詳細形状については図示省略する。リードフレーム60は、金属板(例えば、Snメッキ金属板等)等の導電性を有する板材からなり、フレーム本体部61と、フレーム本体部61に形成された複数(図示の例では、4つ)のフレーム開口部62とを有する。
【0069】
フレーム本体部61は、略長方形状を有するが、その形状は図示の形状に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。また、各フレーム開口部62は、長方形状を有するが、その形状は図示の形状に限定されるものではなく、例えば円形とする等、適宜変更してもよい。4つのフレーム開口部62の各々は、フレーム本体部61において、X軸方向およびY軸方向に所定の間隔で配置されている。後述するように、各フレーム開口部62は、各長尺状導電糸50Aの配置位置に対応するように、フレーム本体部61に形成されている。なお、フレーム開口部62の数は4つに限定されるものではなく、後述するようにフレーム本体部61に配置する長尺状導電糸50Aに数に応じて、1~3つあるいは5つ以上とする等、適宜変更してもよい。
【0070】
次に、複数(図示の例では、4つ)の長尺状導電糸50Aの各々をフレーム本体部61に配置する。より詳細には、長尺状導電糸50AのX軸方向の両端部をフレーム開口部62の周縁部に配置し、X軸方向に沿ってフレーム開口部62を跨ぐように、長尺状導電糸50Aをフレーム開口部62の上方に配置する。なお、長尺状導電糸50Aに代えて、長尺状導電糸50Aの個片(
図5(e),(f)参照)をフレーム本体部61に配置してもよい。
【0071】
次に、
図8に示すように、長尺状導電糸50Aが配置されたリードフレーム60を金型70に設置する。ここで、金型70は、上金型71と、下金型72とを有し、これらは上下方向(Z軸方向)に組み合わせ可能(接続可能)に構成されている。上金型71は上凹部73と注入孔75とを有し、下金型72は下凹部74を有する。詳細な図示は省略するが、
図7に示す4つのフレーム開口部62の各々に対応するように、上金型71には4つの上凹部73が形成されており、下金型72には4つの下凹部74が形成されている。
【0072】
図7に示す長尺状導電糸50Aが配置されたリードフレーム60を金型70に設置するときには、
図8に示すように、当該リードフレーム60を下金型72の上に設置する。このとき、フレーム開口部62と下凹部74の開口部とが連通するよう、フレーム開口部62の位置と下凹部74の位置とが略一致するように位置合わせしておく。好ましくは、長尺状導電糸50Aは、下凹部74の上方において、X軸方向に関して略中心部に配置される。なお、フレーム開口部62の開口面積は、下凹部74の開口面積と略等しくてもよく、あるいは下凹部74の開口面積よりも小さくてもよい。
【0073】
図9に示すように、上金型71と下金型72とを上下方向に組み合わせた状態では、上凹部73と下凹部74とが同方向に接続され、金型70の内部に樹脂充填空間(キャビティ)76が形成される。樹脂充填空間76には、
図1に示すコア部20を構成する成形用樹脂(外装樹脂)90を充填することが可能となっている。注入孔75は、樹脂充填空間76に成形用樹脂90を注入するための孔であり、注入機80を用いることにより、注入孔75を介して、樹脂充填空間76へ成形用樹脂90を注入することが可能となっている。なお、注入孔75については、上金型71に代えて、下金型72に形成されていてもよい。
【0074】
次に、上金型71を下金型72に上下方向に組み合わせる。これにより、金型70の内部に樹脂充填空間76が形成されるとともに、樹脂充填空間76の内部に長尺状導電糸50Aが配置される。樹脂充填空間76の内部は、樹脂充填空間76の外部に対して封止されている。リードフレーム60は、上金型71と下金型72とで上下方向に挟まれる形で、上金型71と下金型72との間に固定される。
【0075】
次に、注入機80を用いて、注入孔75を介して、樹脂充填空間76の内部に成形用樹脂90を充填する。成形用樹脂90としては、第1実施形態で例示したコア部20を構成する各種の樹脂を用いることができる。
【0076】
ここで、
図7に示すように、フレーム開口部62のY軸方向幅は長尺状導電糸50AのY軸方向幅よりも十分に大きいため、フレーム本体部61に長尺状導電糸50Aを配置した状態において、フレーム開口部62が長尺状導電糸50Aで完全に塞がれることがない。そのため、
図9に示すように、樹脂充填空間76の内部に長尺状導電糸50Aを配置したとき、樹脂充填空間76のうち、フレーム開口部62よりも下側に位置する空間(下凹部74)と、フレーム開口部62よりも上側に位置する空間(上凹部73)とは、フレーム開口部62(より詳細には、長尺状導電糸50Aが配置されていない部分)を介して連通した状態となる。したがって、注入孔75を介して成形用樹脂90を樹脂充填空間76に注入したとき、成形用樹脂90は、フレーム開口部62を介して、フレーム開口部62よりも下側に位置する樹脂充填空間76の下部にまで回り込むようになっている。
【0077】
次に、樹脂充填空間76の内部が成形用樹脂90で満たされたところで、成形用樹脂90の注入を停止する。次に、樹脂充填空間76の内部に充填した成形用樹脂90を硬化させる。例えば成形用樹脂90として熱硬化性樹脂を用いる場合には、成形用樹脂90を加熱することにより硬化させる。また、成形用樹脂90として熱可塑性樹脂を用いる場合には、成形用樹脂90を冷却させることにより硬化させる。
【0078】
成形用樹脂90を硬化させた後、上金型71と下金型72とを分離する。これにより、
図10に示すように、複数(図示の例では、4つ)の樹脂成形体100が得られる。樹脂成形体100は、長尺状導電糸50Aを成形用樹脂90で被覆してなる。樹脂成形体100の全体形状は
図9に示す樹脂充填空間76の空間形状に対応しており、樹脂成形体100の内部には長尺状導電糸50Aが埋設されている。なお、
図10では、樹脂成形体100は、リードフレーム60の上側にのみ形成されているように見えるが、実際には、リードフレーム60の上側および下側に跨るように形成されている。
【0079】
次に、各樹脂成形体100を切断する。より詳細には、Y軸方向に沿って延びる切断線Ly1およびLynに沿って樹脂成形体100を切断し、樹脂成形体100のX軸方向の各端部に位置する余剰部位を除去する。また、Y軸方向に沿って延びる切断線Ly2,・・・,Lyn-1に沿って、樹脂成形体100をX軸方向に関して所定の間隔で切断し、樹脂成形体100を複数個(Lyn-1-Ly2+1個)に個片化する。このとき、樹脂成形体100とともに、リードフレーム60についても切断する。
【0080】
なお、上述したように、フレーム本体部61に長尺状導電糸50Aを配置する時点(
図7参照)において、長尺状導電糸50Aに代えて、長尺状導電糸50Aの個片をフレーム本体部61に配置した場合には、切断線Ly
1,Ly
nに沿って、樹脂成形体100を切断する(樹脂成形体100のX軸方向の各端部に位置する余剰部位を除去する)のみでよい。
【0081】
次に、必要に応じて、X軸方向に沿って延びる切断線Lx
1,Lx
2に沿って樹脂成形体100をリードフレーム60とともに切断し、樹脂成形体100のY軸方向の各端部に位置する余剰部位を除去する。以上のような切断工程を経ることにより、
図11に示すように、X軸方向の端面からコイル部40(長尺状導電糸50Aの個片)が露出した樹脂成形体100の個片を得ることができる。必要に応じて、樹脂成形体100の個片に対して、バリ取りを行ってもよい。
【0082】
その後、樹脂成形体100の個片のX軸方向の各端面に、外部端子31,32(
図5(h))を接続する。外部端子31,32の接続は、樹脂成形体100の個片のX軸方向の各端面から露出するコイル部40の導電層52,52に直接接続してもよい。あるいは、第1実施形態と同様に、樹脂成形体100の個片のX軸方向の各端面に端子部53,53(
図5(g)参照)を形成し、端子部53,53に外部端子31,32を接続してもよい。
【0083】
以上のようにして、本実施形態におけるコイル装置を得ることができる。なお、本実施形態に係るコイル装置の製造方法については、第1実施形態に係るコイル装置10、あるいは後述する実施形態に係るコイル装置にも適用可能である。
【0084】
本実施形態においても第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、本実施形態における導電糸150は、表面に導電層52が形成された束状の芯材51で構成されているため、柔軟性および耐屈曲性に優れ、導電糸150の損傷に起因する歩留まりの低下を効果的に防止することができる。
【0085】
第3実施形態
図4Cに示す第3実施形態に係るコイル装置は、以下に示す点を除いて、第2実施形態に係るコイル装置と同様な構成を有し、同様な作用効果を奏する。
図4Cにおいて、第2実施形態のコイル装置における各部材と共通する部材には、共通の符号を付し、その説明は一部省略する。
【0086】
図4Cに示すように、本実施形態におけるコイル装置には、第2実施形態における導電糸150に代えて導電糸250が具備されている。導電糸250は、複数の芯材51の各々がスパイラル状に撚られた撚線であるという点において、第2実施形態における導電糸150とは異なる。図示の例では、導電糸250は2本の芯材51により構成されているが、導電糸250を構成する芯材51の本数はこれに限定されるものではなく、3本以上であってもよい。
【0087】
本実施形態においても第2実施形態と同様の効果が得られる。加えて、本実施形態では、各芯材51を撚ることにより、各芯材51同士が絡み合い締め付け合うため、引っ張っても各芯材51が抜けにくく、導電糸250の強度を高めることができる。
【0088】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0089】
上記各実施形態では、
図1に示すように、外部端子31,32は略L字形状を有する金属端子で構成されていたが、外部端子31,32の形状は特に限定されるものではなく、平板形状からなる金属端子で構成されていてもよい。また、外部端子31,32は、金属端子以外(例えば、電極膜等)で構成されていてもよい。
【0090】
上記各実施形態において、
図6に示すように、コイル部20の両端部をコア部20の端面と底面の一部とに沿うようにコア部20の外側に引き出しておき、この引き出した部分を端子部53として利用してもよい。この場合、コア部20の外側に引き出したコイル部20の両端部に外部端子31,32を接続してもよい。あるいは、この引き出した部分を外部端子として利用してもよい。
【0091】
上記各実施形態において、コア部20の形状は
図1に示す形状に限定されるものではなく、例えば三角柱形状、五角柱形状、その他の多角柱形状、あるいは略円柱形状等であってもよい。また、
図1に示す例では、コア部20はX軸方向にまっすぐ伸びる形状を有していたが、湾曲形状(例えば、略C字形状や略リング形状)あるいは屈曲形状としてもよい。
【0092】
上記各実施形態では、
図2に示すように、導電糸50(あるいは芯材51)の形状は円柱形状であったが、導電糸50(あるいは芯材51)の形状はこれに限定されるものではなく、例えば三角柱形状、直方体形状、五角柱形状、あるいはその他の多角柱形状等であってもよい。
【0093】
上記各実施形態において、コイルパターン520における各ターン間の間隔は、要求されるコイル装置10のインダクタンス値等に応じて適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0094】
10…コイル装置
20…コア部
31…第1外部端子
32…第2外部端子
40…コイル部
50,50A,150,250…導電糸
51…芯材
52…導電層
520…コイルパターン
521…無電解メッキ層
522…電解メッキ層
53…端子部
60…リードフレーム
61…フレーム本体部
62…フレーム開口部
70…金型
71…上金型
72…下金型
73…上凹部
74…下凹部
75…注入孔
76…樹脂充填空間
80…注入機
90…成形用樹脂
100…樹脂成形体