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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/093 20060101AFI20240930BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20240930BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240930BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G03G9/093
G03G9/083 302
G03G9/087 331
G03G9/097 365
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020199152
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086883
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 禎崇
(72)【発明者】
【氏名】野崎 大
(72)【発明者】
【氏名】海野 知浩
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059949(JP,A)
【文献】特開2020-187224(JP,A)
【文献】特開2017-040845(JP,A)
【文献】特開2009-063969(JP,A)
【文献】特開2017-044952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、および着色剤を含有するコアと、シェルからなるコアシェル構造のトナー粒子を含有するトナーであって、
該着色剤は表面をシランカップリング剤で疎水化処理された疎水化磁性体であり、
該疎水化磁性体は吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を用い、全電子収量法(TEY)に基づき得られたSiのスペクトルが、1844.4eV以上1844.8eV以下の範囲にピークAを有するとともに1846.1eV以上1846.6eV以下の範囲にピークBを有し、ピークAの面積をI 、ピークBの面積をI とし、疎水化磁性体1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をM Si としたとき、I /(I +I )/M Si が、40以上55以下を満たし、
該トナーは結晶性材料を含有し、
該シェルは非晶性の熱可塑性樹脂を含有し、
該結晶性材料のFedors法により算出されるSP値をSPc(J/cm0.5、該非晶性の熱可塑性樹脂のFedors法により算出されるSP値をSPa(J/cm0.5としたとき、SPcとSPaとが下記式(1)を満たし、
該トナーを500PaのRuO(四酸化ルテニウム)ガス雰囲気中で15分間処理することによりルテニウム染色した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されるトナーにおける、該トナーの面積当たりの該結晶性材料が占める面積の割合をS2(%)としたとき、該S2(%)が下記式(2)を満たすことを特徴とするトナー。
2.50≦SPa-SPc≦4.50 式(1)
1.0≦S2≦20.0 式(2)
【請求項2】
前記トナーのフローテスター昇温法により測定される100℃粘度が0.5×10Pa・s以上9.0×10Pa・s以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記SPaが11.60(J/cm0.5以上12.40(J/cm0.5以下である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記非晶性の熱可塑性樹脂が非晶性ポリエステルである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記非晶性ポリエステルが式(3)で示されるイソソルビドユニットを有する請求項4に記載のトナー。
【化1】
【請求項6】
前記非晶性ポリエステルが、二価及び三価以上のアルコールからなる群から選択される少なくとも一のアルコール成分、並びに、芳香族の多価カルボン酸、脂肪族の多価カルボン酸及びそれらの無水物からなる群から選択される少なくとも一のカルボン酸成分のみの縮合物であり、前記アルコール成分は少なくともイソソルビドを含み、前記アルコール成分及び前記カルボン酸成分はエステル基を有さず、前記非晶性ポリエステルが、前記イソソルビドに由来する前記式(3)で示されるイソソルビドユニットを、前記アルコール成分に由来するモノマーユニットおよび前記カルボン酸成分に由来するモノマーユニットの全てを基準として、0.10mol%以上30.00mol%以下含有する請求項5に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法などの画像形成方法に使用されるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンター等の画像形成装置は、使用目的及び使用環境の多様化が進むと共に、更なる高速化、高画質化、高安定化が求められている。
電子写真法においては、静電潜像担持体(以下、「感光体」と呼ぶ。)を帯電手段により帯電する帯電工程、帯電された静電潜像担持体を露光して静電潜像を形成する露光工程、前記静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像工程を経る。次いで、トナー像を中間転写体を介して、又は介さずに記録材へ転写する転写工程、トナー像を担持する記録材を加圧部材と回転可能な像加熱部材とで形成されるニップ部を通過させることにより加熱加圧定着する定着工程を経て画像として出力される。
【0003】
近年の高画質化、更に省エネ化に対応するためには、各工程の最適化が重要となるが、その中でも特に画質に対しては従来から静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像工程、省エネ化に対しては、低温で十分な定着を行うことが重要となる。
この定着性改善の手段として、トナーの結着樹脂に迅速に相溶し、トナー粒子の溶融変形を促すための結晶性材料の検討が進められてきた。
特許文献1には、低温定着性と保存性に優れたトナーが開示されている。
特許文献2には、低温定着性と耐久性に優れたトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6584218号公報
【文献】特開2020-34714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係るトナーは、低温定着性と保存性に優れていることを確認した。しかしながら、近年の画像形成プロセスの高速化には、いまだ改善の余地があるとの認識を得た。具体的には、定着工程を経たトナー画像の離型性にムラが発生する現象が見られた。これにより、メディアを搬送する部材の汚染が悪化してしまう場合があった。
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献2に係るトナーは、低温定着性と耐久性に優れていることを確認した。しかしながら、近年の画像形成プロセスの高速化には、いまだ改善の余地があるとの認識を得た。具体的には、定着工程を経たトナー画像の離型性にムラが発生する現象が見られた。これにより、メディアを搬送する部材の汚染が悪化してしまう場合があった。
【0007】
本発明の一態様は、高速の電子写真画像形成プロセスに適用した場合にも、低温定着性及び高品位な電子写真画像の形成に優れたトナーの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
結着樹脂、および着色剤を含有するコアと、シェルからなるコアシェル構造のトナー粒子を含有するトナーであって、
前記着色剤は表面をシランカップリング剤で疎水化処理された疎水化磁性体であり、
前記疎水化磁性体は吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を用い、全電子収量法(TEY)に基づき得られたSiのスペクトルが、1844.4eV以上1844.8eV以下の範囲にピークAを有するとともに1846.1eV以上1846.6eV以下の範囲にピークBを有し、ピークAの面積をI 、ピークBの面積をI とし、疎水化磁性体1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をM Si としたとき、I /(I +I )/M Si が、40以上55以下を満たし、
前記トナーは結晶性材料を含有し、前記シェルは非晶性の熱可塑性樹脂を含有し、
前記結晶性材料のFedors法により算出されるSP値をSPc(J/cm0.5、前記非晶性の熱可塑性樹脂のFedors法により算出されるSP値をSPa(J/cm0.5としたとき、SPcとSPaとが下記式(1)を満たし、
前記トナーを500PaのRuO(四酸化ルテニウム)ガス雰囲気中で15分間処理することによりルテニウム染色した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されるトナー表面における、前記トナー表面の面積当たりの該結晶性材料が占める面積の割合をS2(%)としたとき、前記S2(%)が下記式(2)を満たすことを特徴とするトナー、に関する。
2.50≦SPa-SPc≦4.50 式(1)
1.0≦S2≦ 20.0 式(2)
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、高速の電子写真画像形成プロセスに適用した場合にも、低温定着性、耐久性、搬送部材汚染防止に優れたトナーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子写真方式の画像形成装置の一例を示す図である。
図2】本発明のコアシェル構造の一例を示す図である。
図3】本発明のコアシェル構造の一例を示す図である。
図4】本発明のコアシェル構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
トナーの低温定着性と、保存性や耐久性との両立のためには、コアシェル構造のトナーが適している。具体的には、シェルを有するトナーは、低温定着性に優れた低温で軟化するコアを有した場合であっても、シェルにより熱や機械的衝撃からコアを防ぐことに適している。しかし、定着工程の際に、コアに含まれる可塑剤や離型剤のトナー表面への流出が、シェルにより妨害されてしまうため、定着工程を経たトナー画像の表面は、離型性が劣りやすい。このため、定着工程を経たメディアを搬送する部材に、離型性に劣るトナー画像が付着しやすくなり、部材汚染が発生する。これにより、汚染部材に付着したトナー画像が、メディアに移行してしまい、縦スジが発生してしまう。特に、高速の電子写真画像形成プロセスにおいては、定着工程にかかる時間が非常に短い。これにより、結晶性材料がトナー画像の表面に移行しにくいため、トナー画像の離型性が上がりにくい。そのため、コアシェル構造を有するトナーにおいて、メディアを搬送する部材の汚染という課題が生じている。
【0012】
そこで本発明者らは、定着工程における結晶性材料のトナー画像表面の染み出しを促進するために、検討を重ねた。その結果、溶解度パラメーターの差が大きい結晶性材料とシェルを、トナーの表面に共存させることにより、上記の要求によく応え得ることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は以下の通りである。
結着樹脂、および着色剤を含有するコアと、シェルからなるコアシェル構造のトナー粒子を含有するトナーであって、
前記着色剤は表面をシランカップリング剤で疎水化処理された疎水化磁性体であり、
前記疎水化磁性体は吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を用い、全電子収量法(TEY)に基づき得られたSiのスペクトルが、1844.4eV以上1844.8eV以下の範囲にピークAを有するとともに1846.1eV以上1846.6eV以下の範囲にピークBを有し、ピークAの面積をI 、ピークBの面積をI とし、疎水化磁性体1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をM Si としたとき、I /(I +I )/M Si が、40以上55以下を満たし、
前記トナーは結晶性材料を含有し、前記シェルは非晶性の熱可塑性樹脂を含有し、
前記結晶性材料のFedors法により算出されるSP値をSPc(J/cm0.5、前記非晶性の熱可塑性樹脂のFedors法により算出されるSP値をSPa(J/cm0.5としたとき、SPcとSPaとが下記式(1)を満たし、
前記トナーを500PaのRuO(四酸化ルテニウム)ガス雰囲気中で15分間処理することによりルテニウム染色した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されるトナーにおける、前記トナーの面積当たりの該結晶性材料が占める面積の割合をS2(%)としたとき、前記S2(%)が下記式(2)を満たす。
2.50≦SPa-SPc≦4.50 式(1)
1.0≦S2≦20.0 式(2)
【0014】
本発明者らが検討した結果、上記のトナーを用いることにより、低温定着性、耐久性、保存性に優れ、なおかつ、搬送部材の汚染を低減できるトナーを提供することができる。
上記式(1)は、結晶性材料のFedors法により算出されるSPc及び、非晶性の熱可塑性樹脂のFedors法により算出されるSPaの差が、比較的、離れていることを意味する。また、上記式(2)は、トナーの表面付近に、結晶性材料の存在量が比較的多いことを意味する。
【0015】
本発明者らが検討した結果、上述の構成のトナーは、定着工程において、トナーが溶融変形した際、非晶性の熱可塑性樹脂とSP値差の大きい結晶性材料が、トナーの表面に勢いよく流出することが分かった。これにより、定着工程を経たトナー画像の表面における結晶性材料の存在量を高めることができる。このため、トナー画像が十分な離型性を有するために、搬送部材の汚染を低減できることを見出した。
また、従来の想定されるトナーの保存性を試験する評価環境においても、非晶性の熱可塑性樹脂と結晶性材料のSP値差が十分に大きいため、トナーの性能の変化を防ぐことができる。
さらにまた、従来の想定される耐久試験においても、非晶性の熱可塑性樹脂と結晶性材料のSP値差が十分に大きいため、耐久試験を通して高品位の画像を得ることができる。
【0016】
トナーを500Paの四酸化ルテニウムガス雰囲気中で15分間処理することによりルテニウム染色した後に、SEMで観察されるトナー表面における、該トナー表面の面積当たりの該結晶性材料が占める面積の割合S2(%)が1.0%以上20.0%である。トナーを500Paの四酸化ルテニウムガス雰囲気下に長時間染色を行うことで、トナーの表面から深さ約100nmまでの領域が、四酸化ルテニウムガスにより染色される。この時、結晶性材料と非晶性材料は、四酸化ルテニウムにより染色されやすさが変わる。このような処理を事前に施したトナーをSEMやTEMで観察することにより、結晶性材料の存在状態を可視化することができる。
【0017】
また、結晶性材料単体を同様に処理した後にSEMやTEMの観察により確認される結晶性に由来するラメラの間隔と、S2として検出される結晶性材料のラメラの間隔を比較することにより、S2として検出される結晶性材料の同定を行うことが可能である。結晶性材料単体を得る方法としては、トナーの製造に用いる結晶性材料を用いてもよいし、結晶性材料をトナーから単離して得たものを用いてもよい。
結晶性材料が占める面積の割合S2を制御する手段として、後述する表面近傍に結晶性材料と親和性を有する疎水化磁性体を配置させる手法や、乳化させた結晶性材料を多段で凝集させる乳化凝集法等が挙げられる。
【0018】
本発明を示すトナーの模式図の例を図2~4に示す。
図2は、シェルが薄い状態を示しており、結晶性材料がコアに存在する。
図3は、シェルが厚い状態を示しており、結晶性材料がシェルに存在する。
図4は、シェルの厚みが中間を示しており、結晶性材料がコア及びシェルに存在する。
図2~4に示すいずれの構成をとっても、本発明の効果を得ることができる。
【0019】
図2に示すトナーの模式図を用いて、本発明の効果を説明する。符号301はシェル、符号302は結晶性材料、符号303はコア、符号304は四酸化ルテニウムにより染色される領域を示す。四酸化ルテニウムにより染色される領域304は、発明者らの検討によると、トナーの表面から約100nmである。トナーが定着する際、定着器の熱を受けて、シェル301及びコア303が変形する。その際、結晶性材料302がトナーの表面に向かって勢いよく流出する。これにより、トナー画像の表面における結晶性材料の存在量を高めることができるため、本発明の効果である搬送部材の汚染を大幅に低減できる。本発明の効果を得るためには、領域304に、シェルと結晶性材料を同時に存在させることが重要である。
【0020】
本発明において、結晶性材料のFedors法により算出されるSP値をSPc(J/cm0.5、非晶性の熱可塑性樹脂のFedors法により算出されるSP値をSPa(J/cm0.5としたとき、SPcとSPaとが下記式(1)を満たすことが好ましい。
2.50≦SPa-SPc≦4.50 式(1)
SPa-SPcが2.50未満の場合、トナー画像の離型性が足りない場合があるため、搬送部材の汚染を改善できないことがある。また、SPa-SPcが4.50を超える場合、非晶性の熱可塑性樹脂がシェルを形成しづらいため、耐久性や保存性に劣る可能性がある。
【0021】
本発明において、トナーを500PaのRuO(四酸化ルテニウム)ガス雰囲気中で15分間処理することによりルテニウム染色した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されるトナー表面における、前記トナー表面の面積当たりの該結晶性材料が占める面積の割合をS2(%)としたとき、前記S2(%)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
1.0≦S2≦20.0 式(2)
S2が1.0未満の場合、トナー画像の離型性が足りない場合があるため、搬送部材の汚染を改善できないことがある。また、S2が20.0を超える場合、非晶性の熱可塑性樹脂がシェルを形成しづらいため、耐久性や保存性に劣る可能性がある。
【0022】
本発明において、トナーのフローテスター昇温法により測定される100℃粘度が0.5×10Pa・s以上9.0×10Pa・s以下であることが好ましい。100℃粘度が上述の範囲を満たす場合、低温定着性に優れたトナーを提供できる。さらに、定着工程において、トナーの溶融変形が起こりやすくなるため、結晶性材料がトナー画像の表面に染み出しやすくなる。このため、搬送部材の汚染を改善しやすい。
【0023】
本発明において、SPaが11.60(J/cm0.5以上12.40(J/cm0.5以下であることが好ましい。SPaが上述の範囲を満たす場合、いずれの結晶性材料を用いた場合においても、本発明における前記式(1)及び式(2)を好適な範囲に制御しやすくなり、本発明の効果を発現しやすくなる。
【0024】
本発明において、非晶性の熱可塑性樹脂が非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルは、帯電性及び熱可塑性に優れるため、トナーの低温定着性と耐久性に優れる。さらに、非晶性ポリエステル樹脂のモノマーユニットを選択することにより、SPaや式(1)を本発明に好適な範囲に制御しやすくなる。
【0025】
本発明において、非晶性ポリエステルが式(3)で示されるイソソルビドユニットを有することが好ましい。
【化1】
イソソルビドユニットは、結晶性材料との相分離性が高い。このため、優れた保存性や耐久性を提供しやすくなる。さらには、定着工程における結晶性材料のトナー表面への染み出しを促進しやすくなるため、搬送部材の汚染を低減しやすくなる。
【0026】
本発明において、非晶性ポリエステルが、二価及び三価以上のアルコールからなる群から選択される少なくとも一のアルコール成分、並びに、芳香族の多価カルボン酸、脂肪族の多価カルボン酸及びそれらの無水物からなる群から選択される少なくとも一のカルボン酸成分のみの縮合物であり、前記アルコール成分は少なくともイソソルビドを含み、前記アルコール成分及び前記カルボン酸成分はエステル基を有さず、前記非晶性ポリエステルが、前記イソソルビドに由来する前記式(3)で示されるイソソルビドユニットを、前記アルコール成分に由来するモノマーユニットおよび前記カルボン酸成分に由来するモノマーユニットの全てを基準として、0.10mol%以上30.00mol%以下含有することが好ましい。イソソルビドユニットの含有量が上述の範囲を満たすことにより、優れた保存性や耐久性を提供しやすくなる。さらには、定着工程における結晶性材料のトナー表面への染み出しを促進しやすくなるため、搬送部材の汚染を低減しやすくなる。
【0027】
本発明において、着色剤は表面をシランカップリング剤で疎水化処理された着色剤であることが好ましい。シランカップリング剤で疎水化処理されたことにより、本発明に好適な製造方法である懸濁重合法において、上述のS2を本発明に好適な範囲に制御しやすくなる。
【0028】
本発明において、疎水化着色剤が疎水化磁性体であることが好ましい。疎水化磁性体であることにより、本発明に好適な製造方法である懸濁重合法において、疎水化磁性体がトナーの表面の近傍に存在しやすくなる。このため、懸濁重合法において、トナーの表面近傍の結晶性材料の存在量を制御しやすくなる。
【0029】
本発明において、疎水化磁性体は吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を用い、全電子収量法(TEY)に基づき得られたSiのスペクトルが、1844.4eV以上1844.8eV以下の範囲にピークAを有するとともに1846.1eV以上1846.6eV以下の範囲にピークBを有し、ピークAの面積をI、ピークBの面積をIとし、疎水化磁性体1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をMSiとしたとき、I/(I+I)/MSiが、40以上55以下であることが好ましい。
【0030】
NEXAFSによれば、磁性体におけるFe原子と結合しているシラン化合物の状態についての情報を得ることができる。そして、Siの吸収スペクトルにおけるピークAが大きいほど、磁性体の表面と結合しているシラン化合物が少ないと判断でき、逆にピークBが大きいほど、磁性体の表面と結合しているシラン化合物が多いと判断できる。
【0031】
上述したNEXAFSを用いてSiの吸収スペクトルを測定すれば、磁性体とシランカップリング剤の結合状態を再現性よく評価することができる。シラン化合物が所望の機能を発揮するためには、下記式(5)を満たすことが重要であることが判明した。
/(I+I)/MSi=40~55 (5)
式中、IはピークAの面積を表し、IはピークBの面積を表し、MSiは該疎水化磁性体1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数を表す。I/(I+I)の値をMSiの値で除す理由は、規格化のためである。
【0032】
式(5)の値が高いということは、疎水化処理剤のうち、磁性体と結合する処理剤よりも、処理剤同士が縮合した量が相対的に多いということを示す。疎水化処理剤が重縮合した化合物は、非常に疎水性が高くなるため、結晶性材料との親和性が向上しやすい。このため、磁性体の付近に多くの結晶性材料が存在しやすくなる。これにより、本発明に好適な製造方法である懸濁重合法において、疎水化磁性体がトナーの表面の近傍に存在しやすくなる。このため、懸濁重合法において、トナーの表面近傍の結晶性材料の存在量を制御しやすくなる。
【0033】
本発明のトナーは、結着樹脂、および着色剤を含有するコアと、シェルからなるコアシェル構造のトナー粒子を含有することを特徴とする。
コアシェル構造とは、コアをシェルによって被覆した構造である。本発明は、結晶性材料を含有するが、結晶性材料は、コアおよびシェルのいずれに含まれていても、本発明の効果を得ることができる。また、コアおよびシェルの両方に含まれていても、本発明の効果を得ることができる。
【0034】
(シェル)
本発明において、シェルは非晶性の熱可塑性樹脂を含有する。
熱可塑性樹脂とは、熱を受けた際に、溶融変形する樹脂を示す。
本発明において、熱可塑性樹脂が非晶性ポリエステルであることが好ましい。
本発明における非晶性ポリエステルとしては、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はその両者を適宜選択して使用することが可能である。
【0035】
本発明に使用される非晶性ポリエステルは、アルコール成分と酸成分から生成される公知のものが使用でき、両成分については以下に例示する。
【0036】
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、オクテンジオール、シクロヘキセンジメタノール、水素化ビスフェノールA、また下記(A)式で表わされるビスフェノール及びその誘導体;下記(B)式で示されるジオール類等が挙げられる。
【化2】
(式(A)において、Rは、エチレン又はプロピレン基である。x及びyは、それぞれ0以上の整数である。ただし、x+yの平均値は0~10である。なお、プロピレン基は,2-プロパンジオール由来の官能基である。)
【化3】
(式(B)において、R’は、上記(B1)~(B3)のいずれかである。x’及びy’は、0以上の整数である。ただし、x’+y’の平均値は0~10である。)
【0037】
本発明において、非晶性ポリエステルは、式(A)のビスフェノール及びその誘導体が反応性の観点から好ましく、より好ましくは、式(A)のビスフェノール及びその誘導体のうちx+yの平均値が1~4である化合物である。
【0038】
非晶性ポリエステルの調製で用いることができる三価以上のアルコールとして、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0039】
非晶性ポリエステルの調製で用いることができる二価のカルボン酸として、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸などのベンゼンジカルボン酸類又はその無水物、低級アルキルエステル;こはく酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などのアルキルジカルボン酸類又はその無水物、低級アルキルエステル;n-ドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸などのアルケニルコハク酸類又はアルキルコハク酸類、又はその無水物、低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類又はその無水物、低級アルキルエステル;等のジカルボン酸類及びその誘導体が挙げられる。本発明においては、ハンドリング性や反応性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸等のようなベンゼンジカルボン酸類が好適に用いられる。
【0040】
非晶性ポリエステルの調製で用いることができる三価以上の多価カルボン酸成分として、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、エンポール三量体酸、及びこれらの無水物、低級アルキルエステル;下記式(C)
【化4】
(式(C)において、Xは、アルキレン基又はアルケニレン基を表す。ただし、Xは、炭素数3以上の側鎖を1個以上有する炭素数5~30の置換基である。)で表わされるテトラカルボン酸等、及びこれらの無水物、低級アルキルエステル等の多価カルボン酸類及びその誘導体が挙げられる。本発明においては反応性や樹脂酸価の調整し易さの点から、トリメリット酸が好適に用いられる。
【0041】
さらに、アルコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ノボラック型フェノール樹脂のオキシアルキレンエーテルの如き多価アルコールが挙げられ、酸成分としてトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物等の多価カルボン酸が挙げられる。
【0042】
非晶性ポリエステルは、式(3)で示されるイソソルビドユニットを、非晶性ポリエステルを構成する全モノマーユニットを基準として、0.10mol%以上30.00mol%以下含有することが好ましく、1.00mol%以上15.00mol%以下含有することがより好ましい。なお、「モノマーユニット」とは、ポリマー中のモノマー物質の反応した形態をいう。
【化5】
【0043】
上記式(3)のイソソルビドユニットを有する非晶性ポリステル樹脂は、結晶性材料との相分離性が強い。このため、本発明のトナーにおいて、定着工程の際に、トナー画像の表面に結晶性材料が移行しやすくなるため好ましい。式(3)のユニットが、非晶性ポリエステル中に0.1mol%以上30.0mol%以下含有されていると、本発明の効果が得られやすいため、さらに好ましい。
【0044】
本発明において、式(3)のイソソルビドユニットを構成成分として含む非晶性ポリエステルは、二価のカルボン酸又はその無水物と、下記式(4)で示されるイソソルビド及び二価のアルコールとを縮合させることで調製される。具体的には、カルボキシル基が残存する組成比率で、窒素雰囲気中、180~260℃の反応温度で脱水縮合する方法などにより調製することができる。また、必要に応じて下記式(4)のイソソルビド以外の一価又は二価以上のアルコールを併用してもよい。前記二価のアルコールとしては、上記記載の材料を用いることができる。また、一価や、三価以上のカルボン酸成分又はその無水物などを用いてもよい。前記記載の一価、二価、三価カルボン酸としては、上記記載の材料を用いることができる。
【化6】
また、非晶性ポリエステルのSP値は、11.60(J/cm0.5以上12.40(J/cm0.5以下であることが好ましい。
【0045】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤としては、以下の有機顔料、有機染料、及び、無機顔料が挙げられる。
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、及び、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。
マゼンタ系着色剤としては、以下のものが挙げられる。縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及び、ペリレン化合物。 イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及び、アリルアミド化合物が挙げられる。
黒色着色剤としては、カーボンブラック、及び、上記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、シアン系着色剤、および磁性粉体を用いて黒色に調色されたものが挙げられる。
これらの着色剤は、単独又は混合し更には固溶体の状態で用いることができる。本発明に用いられる着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、及び、トナー粒子中の分散性の点から選択される。
本発明において、着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である。
本発明において好適な製造方法である懸濁重合法に用いる場合、着色剤を疎水化処理して用いることが非常に好ましい。
【0046】
本発明のトナーに着色剤として磁性粉体を用いる場合、磁性粉体は、四三酸化鉄やγ-酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。これら磁性粉体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2から30m2/gであることが好ましく、3から28m2/gであることがより好ましい。また、モース硬度が5から7のものが好ましい。磁性粉体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
【0047】
着色剤の添加量は、結着樹脂又は結着樹脂を構成する重合性単量体100質量部に対し、好ましくは1質量部以上20質量部以下である。磁性粉体を用いる場合は、結着樹脂又は結着樹脂を構成する重合性単量体100質量部に対し、好ましくは20質量部以上200質量部以下、より好ましくは40質量部以上150質量部以下である。
【0048】
磁性粉体は、個数平均粒径が0.10μm以上0.40μm以下であることが好ましい。一般に磁性粉体の粒径は小さい方が着色力は上がるものの磁性粉体が凝集しやすくなり、トナー中での磁性粉体の均一分散性が劣るものとなり好ましくない。また、個数平均粒径が0.10μm未満では磁性粉体自身が赤味を帯びた黒となるために、特にハーフトーン画像において赤味の目立つ画像となり、高品位な画像とは言えず好ましくない。一方、個数平均粒径が0.40μmを超えるとトナーの着色力が不足すると共に、本発明の好適なトナーの製造方法である懸濁重合法(後述)においては均一分散が難しくなり好ましくない。
【0049】
なお、磁性粉体の個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、エポキシ樹脂中へ観察すべきトナー粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)において1万倍ないしは4万倍の拡大倍率の写真で視野中の100個の磁性粉体粒子径を測定する。そして、磁性粉体の投影面積に等しい円の相当径を基に、個数平均粒径の算出を行う。また、画像解析装置により粒径を測定することも可能である。
【0050】
本発明のトナーに用いられる磁性粉体は、例えば下記の方法で製造することができる。第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粉体の芯となる種晶をまず生成する。
【0051】
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5から10に維持しながら空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粉体を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性粉体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5未満にしない方が好ましい。このようにして得られた磁性体を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより磁性粉体を得ることができる。
【0052】
また、本発明において水系媒体中でトナーを製造する場合、磁性粉体表面を疎水化処理することが非常に好ましい。乾式にて表面処理をする場合、洗浄・ろ過・乾燥した磁性粉体にカップリング剤処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、又は酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄体を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、カップリング処理を行う。本発明においては、乾式法及び湿式法どちらも適宜選択出来る。
【0053】
本発明における磁性粉体の表面処理において使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。より好ましく用いられるのはシランカップリング剤であり、一般式(I)で示されるものである。
mSiYn (I)
[式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1から3の整数を示し、Yはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基などの官能基を示し、nは1から3の整数を示す。但し、m+n=4である。]
【0054】
一般式(I)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、n-ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。本発明においては、一般式(I)のYがアルキル基であるものが好ましく用いることが出来る。中でも好ましいのは、炭素数3以上6以下のアルキル基であり、特に好ましくは3又は4である。
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのカップリング剤で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
用いるカップリング剤の総処理量は磁性粉体100質量部に対して0.9から3.0質量部であることが好ましく、磁性粉体の表面積、カップリング剤の反応性等に応じて処理剤の量を調整することが重要である。
【0055】
本発明のトナーを製造するためには、着色剤と結晶性材料の親和性を向上することが好ましい。疎水化処理剤としてシランカップリング剤を用いる場合、結晶性材料との親和性を向上するために、着色剤へのシランカップリング剤の処理の条件を適宜調整する。
【0056】
具体的にI/(I+I)/MSi(式(5))を調整するための手法を下記に述べる。
シランカップリング剤を疎水化処理剤として用いる場合、一般的には、酸性の条件でシランンカップリング剤を加水分解して得たシラン化合物を、アルカリ性の条件で着色剤に縮合反応させる。さらに、上述の着色剤を洗浄・乾燥して、疎水化処理した着色剤を得ることができる。このような手順で疎水化処理した場合、疎水化処理剤の多くが着色剤と結合し、処理剤同士で縮合した成分が少ないため、I/(I+I)/MSiは小さくなる。
/(I+I)/MSiを高めるためには、シランカップリング剤を加水分解反応と縮合反応が同時に進行しやすい条件下で事前に処理したシラン化合物を用いて、着色剤を疎水化処理する。シランカップリング剤の加水分解と縮合を同時に行うことにより、シランカップリング剤同士が縮合したオリゴマーを多く含むシラン化合物が得られる。このシラン化合物を用いて着色剤を疎水化処理することにより、シラン化合物のうち、着色剤と直接結合するシラン化合物と、シラン化合物が縮合して末端が着色剤と結合するシラン化合物が存在する。このように、シラン化合物が縮合した量が多いほど、I/(I+I)/MSiが高い値を示す。このようにして得られた磁性体は、高い疎水性を示し、同じように高い疎水性を有する結晶性材料との親和性を向上することができる。
シラン化合物を生成する際の好ましいpHの範囲は、7.0~10.0であり、より好ましくは、8.0~9.5である。シラン化合物を用いて着色剤を疎水化処理する際の好ましいpHの範囲は、7.0~11.0であり、より好ましくは、8.0~9.5である。
【0057】
(結晶性材料)
結晶性材料について述べる。結晶性材料としては特に制限されず、公知の材料を用いることができる。結晶性材料とは、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、明瞭な融点を示すものをいう。
本発明において、低温定着性及び離型性の観点から、エステルワックス、炭化水素系ワックス、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
エステルワックスとは、脂肪酸エステルを主成分とするワックスである。
【0058】
以下に、好ましいエステルワックスについて説明する。なお、以下で述べる官能数は、1分子中に含まれるエステル基の数を示している。例えば、ベヘン酸ベヘニルであれば1官能のエステルワックスであり、ジペンタエリスリトールヘキサベヘネートであれば6官能のエステルワックス、と呼ぶ。
1官能のエステルワックスとしては、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸の縮合物が好ましい。このとき、脂肪族の炭素数としては炭素数6~26が好ましい。
【0059】
脂肪族アルコールの例としては、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコールが挙げられる。また、脂肪族カルボン酸の例としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸が挙げられる。
【0060】
2官能のエステルワックスとしては、ジカルボン酸とモノアルコール、ジオールとモノカルボン酸の組み合わせが使用出来る。
【0061】
ジカルボン酸としてアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が挙げられる。
【0062】
ジオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
【0063】
ジカルボン酸と縮合させるモノアルコールとしては、脂肪族アルコールが好ましい。具体的には、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール等が挙げられる。中でも、ドコサノールは定着性や現像性の観点で好ましい。
【0064】
ジオールと縮合させるモノカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が好ましい。具体的には、脂肪酸としてラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等が挙げられる。中でも、ベヘン酸は定着性や現像性の観点で好ましい。
【0065】
なお、ここでは直鎖脂肪酸、直鎖アルコールを例示したが、分岐構造を有していても構わない。
【0066】
以下、結晶性ポリエステル樹脂について述べる。結晶性ポリエステル樹脂は、特に限定されず、公知のものを使用できるが、飽和ポリエステルであることが好ましい。
さらに、結晶性ポリエステル樹脂は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール、並びに脂肪族モノカルボン酸及び/又は脂肪族モノアルコールの縮合物であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール、並びに脂肪族モノカルボン酸の縮合物である。結晶性ポリエステル樹脂の構成成分として脂肪族モノカルボン酸及び/又は脂肪族モノアルコールを含有させることは、結晶性ポリエステル樹脂の分子量や水酸基価の調整がしやすくなる。
【0067】
以下に使用できるモノマーを例示する。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸などが挙げられる。
【0068】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールなどが挙げられる。
【0069】
脂肪族モノカルボン酸としては、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)などが挙げられる。
【0070】
脂肪族モノアルコールとしては、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。
【0071】
このようなモノカルボン酸及びモノアルコールを用いることで、末端に(好ましくは炭素数2以上24以下の)アルキル基を有する結晶性ポリエステル樹脂を得ることができる。
ここで、モノカルボン酸はカルボン酸が一つであるため、モノカルボン酸由来の構造は結晶性ポリエステル樹脂の分子鎖の末端に位置する。
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、5000以上60000以下であることが好ましい。
【0072】
上記結晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル合成法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分をエステル化反応、又はエステル交換反応した後、減圧下又は窒素ガスを導入して常法に従って重縮合反応させることによって得ることができる。
【0073】
炭化水素系ワックスとは、脂肪族炭化水素系ワックスであり、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックスなどである。
【0074】
本発明において、複数の結晶性材料を併用して使用することができる。その場合、S2として検出される結晶性材料のSP値を、本発明のSPcとする。
【0075】
(結着樹脂)
本発明のトナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレン-アクリル酸ブチルに代表されるスチレンアクリル系樹脂が現像特性、定着性等の点で好ましい。
【0076】
上記スチレンアクリル系樹脂を形成する重合性単量体としては、以下のものが例示できる。
スチレン系重合性単量体としては、スチレン;α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレンの如きスチレン系重合性単量体が挙げられる。
アクリル系重合性単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、iso-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートの如きアクリル系重合性単量体が挙げられる。
メタクリル系重合性単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレートの如きメタクリル系重合性単量体が挙げられる。
【0077】
なお、スチレンアクリル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、結着樹脂はその他公知の樹脂を組み合わせて使用することもできる。
【0078】
本発明のトナーは、トナーの帯電性を環境によらず安定に保つために、荷電制御剤を用いてもよい。
負荷電性の荷電制御剤としては、以下のものが挙げられる。モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ダイカルボン酸、オキシカルボン酸及びダイカルボン酸系の金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩、無水物、エステル類、ビスフェノール等のフェノール誘導体類、尿素誘導体、含金属サリチル酸系化合物、含金属ナフトエ酸系化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーン、樹脂系帯電制御剤が挙げられる。
正荷電性の荷電制御剤としては、以下のものが挙げられる。ニグロシン及び脂肪酸金属塩等によるニグロシン変性物;グアニジン化合物;イミダゾール化合物;トリブチルベンジルアンモニウム-1-ヒドロキシ-4-ナフトスルフォン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート等の4級アンモニウム塩、及びこれらの類似体であるホスホニウム塩等のオニウム塩及びこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、りんタングステン酸、りんモリブデン酸、りんタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン化物、フェロシアン化物など);高級脂肪酸の金属塩;ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ジシクロヘキシルスズオキサイド等のジオルガノスズオキサイド;ジブチルスズボレート、ジオクチルスズボレート、ジシクロヘキシルスズボレートの如きジオルガノスズボレート類;樹脂系帯電制御剤が挙げられる。
これらを単独で或いは2種類以上組み合わせて用いることができる。
中でも、樹脂系帯電制御剤以外の荷電制御剤としては、含金属サリチル酸系化合物が良く、特にその金属がアルミニウムもしくはジルコニウムのものが良い。特に好ましい制御剤は、サリチル酸アルミニウム化合物である。
樹脂系帯電制御剤としては、スルホン酸基、スルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基、サリチル酸部位、安息香酸部位を有する重合体又は共重合体を用いることが好ましい。
荷電制御剤の好ましい配合量は、重合性単量体10.0質量部に対して0.01質量部乃至20.質量部、より好ましくは0.05質量部乃至10.質量部である。
【0079】
本発明によって製造されるトナーの重量平均粒径(D4)は4.0μm以上11.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは5.0μm以上10.0μm以下である。重量平均粒径(D4)が4.0μm以上11.0μm以下であると特に良好な流動性が得られ、潜像に忠実に現像することが出来る。
【0080】
(トナーの製造方法)
本発明のトナーは、公知のいずれの方法によっても製造することが可能である。まず、粉砕法により製造する場合は、例えば、結着樹脂、着色剤、ワックス、場合により、荷電制御剤等のトナーとして必要な成分及びその他の添加剤等をヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合器により十分混合する。その後、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーの如き熱混練機を用いて溶融混練してトナー材料を分散又は溶解させ、冷却固化、粉砕後、分級、必要に応じて表面処理を行ってトナー粒子を得ることができる。分級及び表面処理の順序はどちらが先でもよい。分級工程においては生産効率上、多分割分級機を用いることが好ましい。
【0081】
粉砕工程は、機械衝撃式、ジェット式等の公知の粉砕装置を用いた方法により行うことができる。また、更に熱をかけて粉砕したり、補助的に機械的衝撃を加える処理を行ったりすることが好ましい。また、微粉砕(必要に応じて分級)されたトナー粒子を熱水中に分散させる湯浴法、熱気流中を通過させる方法などを用いても良い。
機械的衝撃力を加える手段としては、例えば川崎重工社製のクリプトロンシステムやターボ工業社製のターボミル等の機械衝撃式粉砕機を用いる方法が挙げられる。また、ホソカワミクロン社製のメカノフージョンシステムや奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステム等の装置も使用可能である。これらの装置は、高速回転する羽根によりトナーをケーシングの内側に遠心力により押しつけ、圧縮力、摩擦力等の力によりトナーに機械的衝撃力を加える方法である。
【0082】
本発明のトナーを粉砕法により製造する場合は、所望のコアシェル構造を有するトナーを得るために、シェルを形成する工程を行う必要がある。
本発明のトナーは、上述のように粉砕法によって製造することも可能である。しかし、本発明のトナーは、トナー表面において結晶性材料が一定量存在しているとともに、SP値差の大きい非晶質樹脂でシェルを形成する必要があるため、水系媒体中でトナーを製造することが好ましい。
【0083】
乳化凝集法でトナーを製造する場合、トナーの表面に結晶性材料を露出するように凝集させた後、結晶性材料とSP値差の大きい非晶質樹脂を用いた場合、シェルの形成が阻害されやすい課題がある。これを解決するために、結晶性材料とSP値差が比較的小さい非晶質樹脂を少量、トナーの表面に凝集させた後、SP値差の比較的大きい別の非晶質樹脂を用いてシェルを形成することで、本発明のトナーを得ることができる。
【0084】
以下に、懸濁重合法について述べる。
懸濁重合法とは、重合性単量体及び着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を分散剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行なわせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この懸濁重合法で得られるトナー(以後「重合トナー」ともいう)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、帯電量の分布も比較的均一となるために画質の向上が期待できる。
【0085】
本発明に関わる重合トナーの製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
重合性単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-エチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類;その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレンを単独で、或いは他の単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
【0086】
本発明のトナーの重合法による製造において使用される重合開始剤としては、重合反応時における半減期が0.5から30時間であるものが好ましい。また、重合性単量体100質量部に対して0.5から20質量部の添加量で用いて重合反応を行うと、分子量5,000から50,000の間に極大を有する重合体を得、トナーに望ましい強度と適当な溶融特性を与えることができる。
具体的な重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
【0087】
本発明のトナーを重合法により製造する際は、架橋剤を添加しても良い。架橋剤の増量により、本発明における120℃粘度を高めることができる。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001から15質量部である。
ここで架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物;例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;及び3個以上のビニル基を有する化合物;が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【0088】
本発明のトナーを重合法で製造する方法では、一般に上述のトナー組成物等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を、分散剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行なえば良い。
【0089】
本発明のトナーを製造する場合には、分散剤として公知の界面活性剤や有機分散剤・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイト等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。
【0090】
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.2から20質量部を使用することが望ましい。また、上記分散剤は単独で用いても良いし、複数種を併用してもよい。更に、0.001から0.1質量部の界面活性剤を併用しても良い。
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて該無機分散剤粒子を生成させて用いることができる。例えば、燐酸三カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。
【0091】
界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等が挙げられる。
上記重合性単量体を重合する工程において、重合温度は40℃以上、一般には50℃から90℃の温度に設定される。
【0092】
本発明のコアシェル構造を有するトナーを製造する場合、結晶性材料とSP値差の大きい非晶性の熱可塑性樹脂を用いることで、結晶性材料がトナーの内部に内包化されやすくなる。このため、S2が1%未満になりやすい課題が生じる。これを解決するために、結晶性材料と親和性が高く、さらにトナーの表面付近に偏在しやすい材料を同時に用いることにより、本発明の式(1)及び式(2)を達成しやすくなる。具体的には、懸濁重合法で本発明のトナーを製造するためには、疎水化処理した磁性体、疎水化処理した顔料を用いることが好ましい。特に好ましいのは、結晶性材料と親和性を向上するために、I/(I+I)/MSiが高い値を示す疎水化磁性体を用いることが好ましい。磁性体は、疎水化処理されていても、多少の親水性を有しており、そのため、懸濁重合法でトナーを製造する場合、トナーの表面近傍に偏在する。さらに、I/(I+I)/MSiが高い処理磁性体を用いることにより、磁性体の付近に結晶性材料が存在しやすい。その結果、結晶性材料も表面近傍に存在しやすい。このため、結晶性材料とSP値差の大きい非晶性の熱可塑性樹脂を用いた場合であっても、S2を本発明の範囲に制御することができるため、本発明のコアシェル構造のトナーを得ることができる。
【0093】
得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することによりトナー粒子が得られる。このトナー粒子に、後述するような無機微粉体を必要に応じて混合して該トナー粒子の表面に付着させることで、本発明のトナーを得ることができる。また、製造工程(無機微粉体の混合前)に分級工程を入れ、トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
【0094】
本発明のトナーは上述したような製造方法によって得たトナー粒子に対して、必要に応じて流動化剤等の添加剤を混合し、トナーとする。混合方法に関しては、公知の手法を用いることが出来、例えばヘンシェルミキサーは好適に用いることのできる装置である。
【0095】
本発明のトナーは、流動化剤として個数平均一次粒径が4から80nm、より好ましくは6から40nmの無機微粉体がトナー粒子に添加されることが好ましい形態である。無機微粉体は、トナーの流動性改良及びトナー粒子の帯電均一化のために添加されるが、無機微粉体を疎水化処理するなどの処理によってトナーの帯電量の調整、環境安定性の向上等の機能を付与することも好ましい形態である。無機微粉体の個数平均一次粒径の測定法は、走査型電子顕微鏡により拡大撮影したトナーの写真を用いて行う。
【0096】
本発明で用いられる無機微粉体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナなどが使用できる。シリカ微粉体としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法又はヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。しかし、表面及びシリカ微粉体の内部にあるシラノール基が少なく、またNa2O、SO3 2-等の製造残滓の少ない乾式シリカの方が好ましい。また乾式シリカにおいては、製造工程において例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン等他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによって、シリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、それらも包含する。
【0097】
個数平均1次粒径が4から80nmの無機微粉体の添加量は、トナー粒子に対して0.1から3.0質量%であることが好ましく、添加量が0.1質量%未満ではその効果が十分ではなく、3.0質量%以上では定着性が悪くなる。無機微粉体の含有量は、蛍光X線分析を用い、標準試料から作成した検量線を用いて定量できる。
【0098】
本発明において無機微粉体は疎水化処理された物であることが、トナーの環境安定性を向上させることができるため好ましい。トナーに添加された無機微粉体が吸湿すると、トナー粒子の帯電量が著しく低下し、帯電量が不均一になり易く、トナー飛散が起こり易くなる。無機微粉体の疎水化処理に用いる処理剤としては、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機硅素化合物、有機チタン化合物等の処理剤を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0099】
本発明のトナーには、実質的な悪影響を与えない範囲内で更に他の添加剤、例えばフッ素樹脂粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末;酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤;例えば酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末などの流動性付与剤;ケーキング防止剤;または逆極性の有機微粒子及び無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。これらの添加剤の表面を疎水化処理して用いることも可能である。
【0100】
次に、本発明のトナーを好適に用いることのできる電子写真方式の画像形成装置の一例を図1に沿って具体的に説明する。図1において、100は感光ドラムであり、その周囲に一次帯電ローラー117、現像スリーブ102および現像ブレード103を有する撹拌部材141を備えた現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー116、レジスタローラー124等が設けられている。感光ドラム100は一次帯電ローラー117によって例えば-600Vに帯電される(印加電圧は例えば交流電圧1.85kVpp、直流電圧-620Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を感光ドラム100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。感光ドラム100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して感光ドラム100に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部感光体上に残されたトナーはクリーナー116によりクリーニングされる。
なお、ここでは磁性一成分ジャンピング現像の画像形成装置を示したが、ジャンピング現像又は接触現像のいずれの方法に用いられるものであってもよい。
【0101】
次に、本発明のトナーに係る各物性の測定方法に関して記載する。
(結晶性材料の融点の測定)
結晶性材料の融点はDSCにて測定した際の、吸熱ピークのピークトップ温度として求めることが出来る。必要に応じてトナーから前述の方法で単離する。測定はASTM D 3417-99に準じて行う。これらの測定には、例えばパーキンエルマー社製DSC-7、TAインストルメント社製DSC2920、TAインストルメント社製Q1000を用いることができる。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。測定サンプルにはアルミニウム製のパンを用い、対照用に空パンをセットし測定する。
【0102】
(トナー(粒子)の重量平均粒径(D4)及び個数平均粒径(D1)の測定)
トナー(粒子)の重量平均粒径(D4)及び個数平均粒径(D1)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0103】
尚、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0104】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー(粒子)約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー(粒子)を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)であり、専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0105】
(結晶性材料及びの分子量の測定方法)
結晶性材料及び非晶性の熱可塑性樹脂の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
まず、室温で検体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。尚、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:高速GPC装置「HLC-8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:LF-604の2連
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
オーブン温度:40℃
試料注入量 :0.020ml
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソ-社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0106】
(樹脂及びトナーのガラス転移温度の測定)
非晶性の熱可塑性樹脂及びトナーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
測定試料として、非晶性飽和ポリエステル樹脂又はトナー3.0mgを精密に秤量する。
これをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用い、測定温度範囲30~200℃の間で、昇温速度10℃/min、常温常湿下で測定を行う。
この昇温過程で、温度40℃~100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、ガラス転移温度(Tg)とする。
【0107】
<SP値の測定方法>
本発明で用いられるSP値は一般的に用いられているFedors法[Poly.Eng.Sci.,14(2)147 (1974)]により、樹脂を構成するモノマーの種類と比率から算出する。SP値は、モノマーの種類と量によって制御することができる。SP値を大きくするためには、例えば、SP値の大きいモノマーを使用すればよい。一方、SP値を小さくするためには、例えば、SP値の小さいモノマーを使用すればよい。本発明におけるSP値の単位は、(cal/cm0.5である。
【0108】
<結晶性材料が占める面積の割合S2算出方法>
トナーの面積当たりの結晶性材料が占める面積の割合をS2(%)の算出には、真空電子染色装置(filgen社、VSC4R1H)を用いて500PaのRuOガス雰囲気中で15分間染色したトナーを、電界放出形走査電子顕微鏡S-4800(日立ハイテクノロジーズ)を用いて反射電子像観察により得られた画像を用いて行う。
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し、実行する。フラッシングによるエミッション電流が20~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[5.0kV]、エミッション電流を[20μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[上(U)]および[+BSE]を選択し、[+BSE]の右の選択ボックスで[L.A.100]を選択し、反射電子像で観察するモードにする。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[3.0mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。上記観察条件で黒く観察される結晶性材料のドメインにピントを合わせ、SEM画像を保存する。
得られた画像に対し、画像処理ソフト「Image-Pro Plus (Media Cybernetics社製)」を用い、結晶性材料が占める面積の割合を算出する。
結晶性材料が占める面積の割合は、100個のトナー粒子について実施する。結晶性材料が占める面積の割合は、トナーの面積当たりの、結晶性材料の面積の割合とする。
【0109】
<トナーの粘度の測定方法>
上記トナーの温度120℃の溶融粘度は、フローテスター昇温法を用い、トナーの粘度の値により求めたものである。装置としては、フローテスターCFT-500D(株式会社島津製作所製)を用い、下記の条件で測定を行う。
・サンプル:約1.1gのトナーを秤量し、これを加圧成型器で成型してサンプルとする。
・ダイ穴径:0.5mm
・ダイ長さ:1.0mm
・シリンダ圧力:9.807×105(Pa)
・測定モード:昇温法
・昇温速度:4.0℃/min
上記の方法により、温度50℃乃至200℃におけるトナーの粘度を測定し、温度120℃粘度での粘度を求める。
【0110】
また、本発明のトナーを用いることにより、低温定着性、耐久性、搬送部材汚染防止に優れた電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジを得ることができる。また、本発明のトナーを用いることにより、低温定着性、耐久性、搬送部材汚染防止に優れた電子写真画像を形成することのできる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【実施例
【0111】
以下、本発明を製造例及び実施例により更に具体的に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。なお、以下の配合における部数は全て質量部を示す。
【0112】
<磁性体1の製造例>
(磁性酸化鉄の製造)
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.00から1.10当量の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量のP、鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量のSiOを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化鉄を含むスラリー液を得た。
【0113】
(シラン化合物の製造)
iso-ブチルトリメトキシシラン30質量部をイオン交換水70質量部に攪拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH9.0、温度45℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて、加水分解及び縮合反応を進めた。その後、pHを9.0にした後、すぐに10℃に冷却して加水分解及び縮合反応を停止させた。こうしてシラン化合物を含有する液を得た。ここで、シランカップリング剤の加水分解及び縮合反応を進めるpH(pH1)は、9.0であった。
【0114】
(磁性体1の製造)
上述の酸化鉄を含むスラリー液を、ピンミルで分散しながら、磁性酸化鉄100質量部に対して、4.7質量部の上述のシラン化合物を含有する液を添加した。その際、pH9.0、温度55℃に保持して、60分間分散させて、磁性体への疎水化処理を進めた。その後、上述の分散液を、フィルタープレスを用いてろ過し、多量の水で洗浄した。さらに、120℃で2時間乾燥し、得られた粒子を解砕処理し、目開き100μmの篩を通過させ、個数平均粒径が230nmの磁性体1を得た。ここで、シラン化合物の磁性体への反応を進めるpH(pH2)は、9.0であった。
【0115】
<磁性体2~5の製造例>
疎水化処理剤および処理条件(疎水化処理剤、pH1、及びpH2)を表1に示す条件に変更する以外は磁性体1を製造した場合と同じ装置、条件で磁性体2~5を得た。
【0116】
【表1】
【0117】
<非晶性の熱可塑性樹脂1の製造例>
無水トリメリット酸以外の原材料モノマーを、下記表2に示した仕込み量で混合した混合物100質量部と、触媒であるジ(2-エチルヘキサン酸)錫0.52質量部と、を窒素導入ラインと、脱水ラインと、攪拌機と、を装備した重合タンクに入れた。次に、重合タンク内を窒素雰囲気にした後、200℃で加熱しながら6時間かけて重縮合反応を行った。更に、210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を添加し、重合タンク内を40kPaまで減圧した後で更に縮合反応を行った。得られた樹脂の酸価、水酸基価、分子量は表2のようになった。この樹脂を非晶性の熱可塑性樹脂1とする。
なお、表中のイソソルビドとは、上記式(4)の構造を持つ化合物である。
【0118】
(非晶性の熱可塑性樹脂2~9の製造例)
下記表2の原材料モノマー仕込み量にて、非晶性の熱可塑性樹脂1と同様の操作を行い、非晶性の熱可塑性樹脂2~9を製造した。その際、逐次サンプリング及び測定を行い、所望の分子量になったところで重合反応を停止させ、重合タンクから取り出した。得られた樹脂の物性を下記表2に示す。なお、非晶性の熱可塑性樹脂8の製造において、BPAは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物とビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物をモル比で45.0対44.2の比率で用いた。非晶性の熱可塑性樹脂9の製造において、BPAは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物とビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物をモル比で29.8対33.0の比率で用いた。BPAについて指定がない場合、ビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物を用いた。
【0119】
【表2】
※モノマー組成の表記はアルコール成分のトータルモル数を100としたときのモル比を示す。
上記表中の略号はそれぞれ、
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMA:トリメリット酸
BPA:ビスフェノースA
EG:エチレングリコール
を示す。
【0120】
<トナー1の製造例>
高速撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を備えた容器中に、0.1mol/L-Na3PO4水溶液850質量部を添加し、回転周速33m/sで撹拌しつつ60℃に加温した。ここに1.0mol/L-CaCl2水溶液68質量部を添加し、微少な難水溶性分散剤Ca3(PO42を含む水系媒体を調製した。
また、下記の材料を、プロペラ式攪拌装置を用いて混合・溶解することで溶解液を調製した。なお、下記材料を混合する際に、攪拌機の回転速度を100r/minとした。
・スチレン 75.0質量部
・n-ブチルアクリレート 25.0質量部
・非晶性ポリエステル-1 3.0質量部
・疎水化磁性体1 90.0質量
・モノアゾ染料の鉄錯体(T-77:保土ヶ谷化学社製) 1.0質量部
・1,6-ヘキサンジオールジアクリレート 0.5質量部
・結晶性材料1 20.0質量部
その後、混合液を温度60℃に加温した後に、TK式ホモミキサー(プライミクス株式会社(旧特殊機化工業(株))製)にて、攪拌機の回転速度を9000r/minに設定したうえで攪拌し、固形分を溶解、分散させた。
これに重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を10.0質量部投入して混合液内で溶解させることで、重合性単量体組成物を調製した。次に、上記水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、温度60℃に加熱してからクレアミックスを回転周速33m/sで回転させながら15分間造粒させた。
その後、プロペラ式攪拌装置に移して100回転/minで攪拌しつつ、温度70℃で5時間反応させた後、温度85℃まで昇温し、更に4時間反応を行い、磁性トナー粒子を製造した。重合反応が終了した後、懸濁液を室温まで冷却した。冷却後に塩酸を添加してpHを2.0以下まで低下させることで無機微粒子を溶解させた。さらに水洗浄を数回繰り返した後、乾燥機を用いて40℃にて72時間乾燥し、その後、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級することで、トナー粒子1を得た。
得られたトナー粒子1(100質量部)に対して、BET法による比表面積が200m2/gである疎水性シリカ1.0部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社(旧三井三池化工機(株)))にて外添を行なうことで、重量平均粒径(D4)が7.1μmのトナー1を得た。トナー1の物性を下記表3に示す。
【0121】
<トナー2~12及び比較用トナー1~4の製造例>
表1~4に記載の磁性体、結晶性材料、非晶性の熱可塑性樹脂、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート以外は、トナー1の製造方法と同様にして、トナー2~12及び比較用トナー1~4を製造した。トナー2~12及び比較用トナー1~4の物性を下記表3に示す。トナー2の製造に関して、結晶性材料1を20.0質量部と、結晶性材料6を5.0質量部用いた。トナー2を分析したところ、S2は2.5%であった。S2として検出される結晶性材料を調査したところ、ステアリン酸ベヘネートであることを確認した。
【0122】
<トナー13の製造例>
(樹脂粒子分散液の調整)
〔樹脂粒子分散液(1)の調製〕
・テレフタル酸:30モル部
・フマル酸:70モル部
・ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物:5モル部
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物:95モル
攪拌装置、窒素導入管、温度センサ、及び精留塔を備えた内容量5リットルのフラスコに、上記の材料を仕込み、1時間を要して温度を210℃まで上げ、上記材料100部に対してチタンテトラエトキシド1部を投入した。生成する水を留去しながら0.5時間を要して230℃まで温度を上げ、該温度で1時間脱水縮合反応を継続した後、反応物を冷却した。こうして、重量平均分子量18,500、酸価14mgKOH/g、ガラス転移温度59℃のポリエステル樹脂(1)を合成した。
温度調節手段及び窒素置換手段を備えた容器に、酢酸エチル40部及び2-ブタノール25部を投入し、混合溶剤とした後、ポリエステル樹脂(1)100部を徐々に投入し溶解させ、ここに、10質量%アンモニア水溶液(樹脂の酸価に対してモル比で3倍量相当量)を入れて30分間攪拌した。
次いで、容器内を乾燥窒素で置換し、温度を40℃に保持して、混合液を攪拌しながらイオン交換水400部を2部/分の速度で滴下し、乳化を行った。滴下終了後、乳化液を室温(20℃乃至25℃)に戻し、攪拌しつつ乾燥窒素により48時間バブリングを行うことにより、酢酸エチル及び2-ブタノールを1,000ppm以下まで低減させ、体積平均粒径200nmの樹脂粒子が分散した樹脂粒子分散液を得た。該樹脂粒子分散液にイオン交換水を加え、固形分量を20質量%に調整して、樹脂粒子分散液(1)とした。
【0123】
(樹脂粒子分散液(2)の調整)
上記樹脂粒子分散液1の調整において、ポリエステル樹脂の代わりに非晶性の熱可塑性樹脂1を用いたこと以外は同様にして、樹脂粒子分散液(2)を得た。
【0124】
(樹脂粒子分散液(3)の調整)
上記樹脂粒子分散液1の調整において、ポリエステル樹脂の代わりに非晶性の熱可塑性樹脂6を用いたこと以外は同様にして、樹脂粒子分散液(3)を得た。
【0125】
(着色剤粒子分散液の調製)
〔着色剤粒子分散液(1)の調製〕
・シアン顔料 C.I.Pigment Blue 15:3(銅フタロシアニン DIC社製、商品名:FASTOGEN BLUE LA5380):70部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK):5部
・イオン交換水:200部
上記の材料を混合し、ホモジナイザー(IKA社製ウルトラタラックスT50)を用いて10分間分散した。分散液中の固形分量が20質量%となるようイオン交換水を加え、体積平均粒径190nmの着色剤粒子が分散された着色剤粒子分散液(1)を得た。
【0126】
(離型剤粒子分散液の調製)
〔離型剤粒子分散液(1)の調製〕
・結晶性材料1 100部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK) 1部
・イオン交換水 350部
上記材料を混合して100℃に加熱し、ホモジナイザー(IKA社製ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、体積平均粒径200nmの離型剤粒子が分散された離型剤粒子分散液(固形分量20質量%)(1)を得た。
【0127】
(トナー粒子の作製)
〔トナー粒子(13)の作製〕
丸型ステンレス製フラスコと容器AとをチューブポンプAで接続し、チューブポンプAの駆動により容器Aに収容した収容液をフラスコへ送液し、容器Aと容器BとをチューブポンプBで接続し、チューブポンプBの駆動により容器Bに収容した収容液を容器Aへ送液する装置を準備した。そして、この装置を用いて、以下の操作を実施した。
・樹脂粒子分散液(1):500部
・着色剤粒子分散液(1):40部
・アニオン性界面活性剤(TaycaPower):2部
上記材料を丸型ステンレス製フラスコに入れ、0.1Nの硝酸を添加してpHを3.5に調整した後、ポリ塩化アルミニウム濃度が10質量%の硝酸水溶液30部を添加した。続いて、ホモジナイザー(IKA社製ウルトラタラックスT50)を用いて30℃において分散した後、加熱用オイルバス中で1℃/30分のペースで温度を上げながら、凝集粒子の粒径を成長させた。
一方、ポリエステル製ボトルの容器Aに樹脂粒子分散液(3)50部を入れ、同じく容器Bに離型剤粒子分散液(1)を25部入れた。次に、チューブポンプAの送液速度を0.70部/1分、チューブポンプBの送液速度を0.14部/1分に設定し、凝集粒子形成中の丸型ステンレス製フラスコ内の温度が37.0℃に到達した時点からチューブポンプA及びBを駆動させ、各分散液の送液を開始した。これにより、離型剤粒子の濃度を次第に高めながら、樹脂粒子および離型剤粒子が分散された混合分散液を容器Aから凝集粒子形成中の丸型ステンレス製フラスコへ送液した。
そして、フラスコへの各分散液の送液が完了し、フラスコ内の温度が48℃になった時点から30分保持し、第2凝集粒子を形成させた。
その後、樹脂粒子分散液(2)50部を緩やかに追加して1時間保持し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.5に調整した後、攪拌を継続しながら85℃まで加熱し、5時間保持した。その後、20℃/分の速度で20℃まで冷却した。
上記分散液を濾過し、イオン交換水で充分に洗浄し、乾燥させることにより、体積平均粒径7.0μmのトナー粒子13を得た。得られたトナー粒子13の物性を表3に示す。
【0128】
<比較用トナー5の製造例>
(未処理磁性体の製造方法)
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.1モル当量の苛性ソーダ溶液と、鉄元素に対してケイ素元素換算で0.60質量%となる量のSiO2と、鉄元素に対してリン元素換算で0.15質量%となる量のリン酸ソーダと、を混合した。このようにして、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。次に、水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0モル当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた後、スラリー液のpHを7.5に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめることで、磁性酸化鉄を含むスラリー液を得た。このスラリーを濾過、洗浄、乾燥し解砕処理することで、個数平均一次粒径(D1)が0.21μmの未処理磁性体を得た。
【0129】
〔シラン化合物の調製〕
イソブチルトリメトキシシラン20質量部をイオン交換水80質量部に対して攪拌しながら滴下して水溶液を調製した。その後、この水溶液のpHを5.5とし、温度40℃に保持ながら、ディスパー翼を用いて0.46m/sで2時間分散させて加水分解を行うことで、加水分解物を含有する水溶液であるシラン化合物を得た。
【0130】
(疎水化磁性体6の製造)
未処理磁性体をヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社(旧三井三池化工機(株))製)に入れた後、回転速度34.5m/sで未処理磁性体を分散させた状態で、シラン化合物(3.8質量部)を噴霧させながら加えた。次に、そのまま10分間分散させた後、シラン化合物が吸着した磁性体を取り出し、160℃で2時間静かに置いた状態で処理後磁性体を乾燥すると共にシラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、目開き100μmの篩を通過させた磁性体を疎水化磁性体6として得た。得られた疎水化磁性体6の物性を表1に示す。
【0131】
(比較用トナー5の製造)
高速撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を備えた容器中に、0.1mol/L-Na3PO4水溶液850質量部を添加し、回転周速33m/sで撹拌しつつ60℃に加温した。ここに1.0mol/L-CaCl2水溶液68質量部を添加し、微少な難水溶性分散剤Ca3(PO42を含む水系媒体を調製した。
また、下記の材料を、プロペラ式攪拌装置を用いて混合・溶解することで溶解液を調製した。なお、下記材料を混合する際に、攪拌機の回転速度を100r/minとした。
・スチレン 75.0質量部
・n-ブチルアクリレート 25.0質量部
・非晶性ポリエステル-1 3.0質量部
・疎水化磁性体6 90.0質量部
・結晶性材料4(結晶性ポリエステル、1-9ノナンジオールとセバシン酸の縮合物、酸価2.0mg/KOH、重量平均分子量Mw20400、融点74.0°、SP値9.62) 8.0質量部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T-77:保土ヶ谷化学社製) 1.0質量部
・結晶性材料6 15.0質量部
その後、混合液を温度60℃に加温した後に、TK式ホモミキサー(プライミクス株式会社(旧特殊機化工業(株))製)にて、攪拌機の回転速度を9000r/minに設定したうえで攪拌し、固形分を溶解、分散させた。
これに重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を10.0質量部投入して混合液内で溶解させることで、重合性単量体組成物を調製した。次に、上記水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、温度60℃に加熱してからクレアミックスを回転周速33m/sで回転させながら15分間造粒させた。
その後、プロペラ式攪拌装置に移して100回転/minで攪拌しつつ、温度70℃で5時間反応させた後、温度85℃まで昇温し、更に4時間反応を行い、磁性トナー粒子を製造した。重合反応終了後、懸濁液を100℃まで昇温させ、2時間、保持し、加熱減圧下で残存モノマーを除去した。次いで、冷却工程として、懸濁液に氷を投入し、2分で懸濁液を100℃から20℃まで冷却した。冷却後に塩酸を添加してpHを2.0以下まで低下させることで無機微粒子を溶解させた。さらに水洗浄を数回繰り返した後、乾燥機を用いて40℃にて72時間乾燥し、その後、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級することで、比較用トナー粒子5を得た。
【0132】
得られた比較用トナー粒子5(100質量部)に対して、BET法による比表面積が200m2/gである疎水性シリカ1.0部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社(旧三井三池化工機(株))製)にて外添を行なうことで、重量平均粒径(D4)が8.1μmの比較用トナー5を得た。比較用トナー5の物性を下記表3に示す。得られたトナーのS2は0.2%であった。S2に検出された結晶性材料を確認したところ、セバシン酸ジベヘニルであった。
【0133】
<比較用トナー6の製造例>
(水系媒体の調製)
・イオン交換水:400.0部
・リン酸三ナトリウム:7.0部
上記混合物を高速撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)にて15,000rpmのスピードで撹拌しながら、60℃に保持した。次に塩化カルシウム4.1部を添加して、無機分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
【0134】
(重合性単量体組成物1の調製)
・スチレン: 40.0部
・銅フタロシアニン顔料(ピグメントブルー15:3):6.5部
・帯電制御剤LR-147(日本カーリット社製):0.3部
上記材料を混合し、アトライター(三井鉱山社製)にてジルコニアビーズ(3/16インチ)とともに200rpmで4時間撹拌し、ビーズを分離して顔料分散液を作製した(顔料分散工程)。
【0135】
(重合性単量体組成物2の調製)
・スチレン:35.0部
・n-ブチルアクリレート:25.0部
・非晶質樹脂8:4.0部
上記材料を混合し、2時間撹拌して非晶質樹脂8を溶解させ、重合性単量体組成物2を得た。
【0136】
(重合性単量体組成物3の調製:溶解工程)
重合性単量体組成物1及び2を混合した後、下記材料を添加した。
・フィッシャートロプシュワックス: 10.0部
(融点78℃)
・ジビニルベンゼン:0.02部
添加後、混合物を60℃に加温し、10分間攪拌を継続し重合性単量体組成物3を得た。
【0137】
(造粒/重合工程)
得られた重合性単量体組成物3を上記水系媒体中に投入した。次いで、t-ブチルパーオキシピバレ-ト10.0部(25%トルエン溶液)を添加し、撹拌機の回転数を15000rpmに維持しつつ10分間造粒した。その後、高速撹拌機からプロペラ撹拌翼に撹拌機を変え、内温を70℃に昇温させ、ゆっくり撹拌しながら5時間反応させた。次いで、容器内を温度85℃に昇温し、さらに4時間重合反応を行った。
【0138】
(蒸留/洗浄/乾燥/分級/外添工程)
重合反応終了後、加熱減圧下でトルエン及び残存モノマーを留去し、次いで、冷却後に塩酸を添加してpHを2.0以下まで低下させ、無機分散安定剤を溶解させた。さらに濾別、水洗浄の後、乾燥機を用いて40℃にて72時間乾燥した。得られた乾燥品をエルボジェット分級機(日鉄鉱業社製)で、微粉及び粗粉を同時に分級除去して、シアン色の比較用トナー粒子6を得た。
比較用トナー粒子6 100.0部に対して、BET比表面積が200m/gである疎水性シリカ1.0部とBET比表面積が100m/gである酸化チタン0.3部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)にて300秒間外添処理を行い、比較用トナー6を得た。得られた比較用トナー6の物性を表3に示す。得られたトナーのS2は、0.2%であった。S2に検出される結晶性材料を確認したところ、フィッシャートロプシュワックスであった。
【0139】
<比較用トナー7の製造例>
比較用トナー6の製造において、非晶性の熱可塑性樹脂を表3に記載の通りに変更する以外は同様にして、比較用トナー7を製造した。得られた比較用トナー7の物性を表3に示す。得られたトナーのS2は、0.2%であった。S2に検出される結晶性材料を確認したところ、フィッシャートロプシュワックスであった。
【0140】
<比較用トナー8の製造例>
(磁性酸化鉄の製造)
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過・洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させ、リスラリーした。このリスラリー液に、コア粒子100質量部あたり珪素換算で0.20質量%となる珪酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することで珪素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過、洗浄、更にイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50g/L)に500g(磁性酸化鉄に対して10質量%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過・洗浄し、乾燥・解砕して個数平均径が0.23μmの磁性酸化鉄を得た。
【0141】
(シラン化合物の製造)
iso-ブチルトリメトキシシラン30質量部をイオン交換水70質量部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうしてシラン化合物を含有する水溶液を得た。
【0142】
(磁性体7の製造)
磁性酸化鉄の100質量部をハイスピードミキサー(深江パウテック社製 LFS-2型)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物を含有する水溶液8.0質量部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合・撹拌した。次いで、シラン化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して磁性体7を得た。
【0143】
(非晶性ポリエステル樹脂の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、テレフタル酸40mol%、トリメリット酸10mol%、ビスフェノールA-POmol付加物50mol%を入れた後、触媒としてジブチル錫をモノマー総量100質量部に対して1.5質量部添加した。次いで、窒素雰囲気下にて常圧で180℃まで素早く昇温した後、180℃から210℃まで10℃/時間の速度で加熱しながら水を留去して重縮合を行った。210℃に到達してから反応槽内を5kPa以下まで減圧し、210℃、5kPa以下の条件下にて重縮合を行い、非晶性ポリエステル樹脂を得た。その際、得られるポリエステル樹脂の軟化点が120℃となるように重合時間を調整した。
【0144】
(結晶性ポリエステルの製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、1,9-ノナンジオール49mol%、1,10-デカン二酸49mol%、n-オクタデカン酸2mol%を入れた後、触媒としてジオクチル酸錫をモノマー総量100質量部に対して1質量部添加し、窒素雰囲気下で140℃に加熱して常圧下で水を留去しながら6時間反応させた。次いで、200℃まで10℃/時間で昇温しつつ反応させ、200℃に到達してから2時間反応させた後、反応槽内を5kPa以下に減圧して200℃で3時間反応させ、結晶性ポリエステルを得た。結晶性ポリエステルの酸価は2.2、分子量(Mw)は34200、SP値SPaは、11.47であった。
【0145】
<比較用トナー8の製造例>
(第一水系媒体の調製)
イオン交換水353.8質量部にリン酸ナトリウム12水和物2.9質量部を投入してTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて撹拌しながら60℃に加温した後、イオン交換水11.7質量部に塩化カルシウム2水和物1.7質量部を添加した塩化カルシウム水溶液と、イオン交換水15.0質量部に塩化マグネシウム0.5質量部を添加した塩化マグネシウム水溶液を添加して撹拌を進め、分散安定剤Aを含む第一水系媒体を得た。
【0146】
(重合性単量体組成物の調製)
・スチレン 75.0質量部
・n-ブチルアクリレート 25.0質量部
・1、6-ヘキサンジオールジアクリレート 0.5質量部
・磁性体 95.0質量部
・非晶性ポリエステル樹脂 5.0質量部
上記材料をアトライター(三井三池化工機(株)製)を用いて均一に分散混合した後、60℃に加温し、そこにエステルワックスとしてステアリン酸ベヘネート(ステアリン酸ベヘニルワックス(融点68℃))15.0質量部、炭化水素ワックスとしてパラフィンワックス(日本精蝋社製、HNP-9)8.0質量部を添加混合し、溶解して重合性単量体組成物を得た。
【0147】
(第二水系媒体の調製)
イオン交換水166.8質量部にリン酸ナトリウム12水和物0.6質量部を投入してパドル撹拌翼を用いて撹拌しながら60℃に加温した後、イオン交換水2.3質量部に塩化カルシウム2水和物0.3質量部を添加した塩化カルシウム水溶液を添加して撹拌を進め、分散安定剤Bを含む第二水系媒体を得た。
【0148】
(造粒)
上記第一水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、この造粒液を、キャビトロン(ユーロテック社製)を用いて、回転子の周速を29m/sにて1時間処理を行い、均一に分散混合して、更に重合開始剤としてt-ブチルパーオキシピバレート7.0質量部を投入し、60℃、N2雰囲気下においてクレアミックス(エムテクニック社製)にて周速22m/sで10分間撹拌しながら造粒し、重合性単量体組成物の液滴を含む造粒液を得た。
【0149】
(重合/蒸留/乾燥/外添)
上記第二水系媒体中に上記造粒液を投入し、パドル撹拌翼で撹拌しながら74℃で3時間反応させた。反応終了後、98℃に昇温して3時間蒸留させ反応スラリーを得た。その後、冷却工程として、反応スラリーに0℃の水を投入し、100℃/分の速度で反応スラリーを98℃から45℃まで冷却した後、更に昇温して50℃で3時間保持した。その後、25℃まで室温で放冷した。放冷した反応スラリーを、塩酸を加えて洗浄し、濾過・乾燥して、重量平均粒径が7.4μmの比較用トナー粒子8を得た。
【0150】
得られた比較用トナー粒子8 100質量部に対して、下記材料をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)製FM-10型)で混合して、比較用トナー8を得た。得られた比較用トナー8の物性を表3に示す。得られたトナーのS2を確認したところ、0.2%であった。S2に検出される結晶性材料を確認したところ、パラフィンワックスであった。
【0151】
【表3】
【0152】
【表4】
【0153】
<実施例1>
(低温定着性の評価)
トナー1を用いて、以下の評価を行った。
評価は、23℃、50%RHの環境で実施した。定着メディアにはFOX RIVER BOND紙(110g/m2)を用いた。メディアを比較的表面の凹凸が大きく、厚紙であるメディアを用いることで、後述の白抜けが発生しやすくなり、低温定着性を厳しく評価することができる。画像形成装置としては、市販のLBP―3100(キヤノン製)を用い、印字速度を16枚/分を40枚/分に改造した改造機を使用した。さらに、メディアが定着器を通過する際の、メディアが定着器に触れている時間を150m秒から50m秒になるように、定着器のサイズを小さく改造した。この条件は、高速プリントや定着器の小型化を両立できる一方で、トナーに対しては、非常に定着性が厳しい評価となる。
定着器は室温(25℃)に冷えた状態で、ベタ黒を100枚、連続で印字し、95~100枚におけるベタ黒画像における白抜けの個数の平均値を計測した。ベタ黒を連続で印刷することにより、定着器の熱がメディアに奪われ、十分な熱を保持していない状態となるため、トナーの低温定着性について厳しい評価となる。トナーの定着性が足りない場合、未定着トナーが白く抜けるいわゆる白抜け画像が出力される。白抜けした個数により評価結果の判断を行う。その際、10倍以上に拡大できる顕微鏡等を用いて、目視により、発生した白抜けの平均個数により行う。少ないほど、トナーの低温定着性が良好であることを示す。本評価において、白抜けの個数が10個未満になる定着器の温度により、定着性の性能を評価した。この温度が低いほど、低温定着性に優れたトナーであることを示す。
【0154】
(搬送部材の汚れの評価)
トナー1を用いて、以下の評価を行った。
評価は、23℃、50%RHの環境で実施した。定着メディアにはキヤノン製A4サイズOceRedLabel紙(坪量80g/m)を用いた。画像形成装置としては、市販のLBP―3100(キヤノン製)を用い、印字速度を16枚/分を40枚/分に改造した改造機を使用した。さらに、メディアが定着器を通過する際の、メディアが定着器に触れている時間を150m秒から50m秒になるように、定着器のサイズを小さく改造した。
定着器の温度を、低温定着性の評価において得られた温度に設定し、印字率10%のハーフトーン画像を2000枚、連続で印刷した。搬送部材にトナーが付着した場合、印刷したベタ白画像に、縦スジが発生する。そのベタ白画像を顕微鏡で観察した時に、縦スジの幅を計測した。縦スジの幅が細いほど、搬送部材の汚れが良好であることを示す。
【0155】
(耐久評価)
トナー1を用いて、以下の評価を行った。
評価は、23℃、50%RHの環境で実施した。定着メディアにはキヤノン製A4サイズOceRedLabel紙(坪量80g/m)を用いた。画像形成装置としては、市販のLBP―3100(キヤノン製)を用い、印字速度を16枚/分を40枚/分に改造した改造機を使用した。さらに、メディアが定着器を通過する際の、メディアが定着器に触れている時間を150m秒から50m秒になるように、定着器のサイズを小さく改造した。
定着器の温度を、低温定着性の評価において得られた温度に設定し、印字率5%の横線画像を2000枚、間欠モードで印刷した。耐久前後のベタ画像の濃度を、マクベス濃度計(マクベス社製)を用いて測定した。濃度が高いほど、耐久性が良好であることを示す。
【0156】
<実施例2~13、比較例1~8>
実施例1にて、トナー1をトナー2~13、比較用トナー1~8に変更したこと以外は実施例1と同様に画出し試験を行った。なお、実施例13、比較例6、比較例7においては、画像形成装置を非磁性トナーが出力できるように改造したうえで評価を実施した。
これらの評価結果を表5に示す。
【0157】
【表5】
【符号の説明】
【0158】
100:静電潜像担持体(感光体)
102:トナー担持体
103:現像ブレード
114:転写部材(転写帯電ローラー)
116:クリーナー容器
117:帯電部材(帯電ローラー)
121:レーザー発生装置(潜像形成手段、露光装置)
123:レーザー
124:ピックアップローラー
125:搬送ベルト
126:定着器
140:現像器
141:撹拌部材
301:シェル
302:結晶性材料
303:コア
304:S2として検出される領域
図1
図2
図3
図4