(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】心理状態学習装置及び心理状態推定装置
(51)【国際特許分類】
G06N 7/01 20230101AFI20240930BHJP
G16H 10/00 20180101ALI20240930BHJP
【FI】
G06N7/01
G16H10/00
(21)【出願番号】P 2021000966
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 勇志
(72)【発明者】
【氏名】西田 恵
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 貴志
【審査官】山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/032787(WO,A1)
【文献】特開2020-52748(JP,A)
【文献】特開2020-8730(JP,A)
【文献】大田 健紘ほか,隠れマルコフモデルを用いた心拍変動からのQoE推定の一検討,電子情報通信学会2018年総合大会講演論文集 通信2,一般社団法人電子情報通信学会,2018年03月06日,p.255,ISSN:1349-1369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G16H 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの心理に関する質問の結果を表す学習用の心理データのモードと、前記ユーザの生理状態を表す学習用の生理データのモードとの組み合わせを表す学習用データを取得する学習用データ取得部と、
前記学習用データ取得部により取得された前記学習用データに基づいて、前記ユーザの心理状態が潜在状態へ対応付けられた隠れマルコフモデルを機械学習させることにより、
複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から前記生理データのモードが出現する出現確率とが求められた第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成し、
複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から前記心理データのモードが出現する出現確率とが求められた第2の学習済みの隠れマルコフモデルであって、かつ前記遷移確率が前記第1の学習済みの隠れマルコフモデルの前記遷移確率と同一である第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する学習部と、
を含む心理状態学習装置。
【請求項2】
心理を推定する対象のユーザの生理状態を表す対象生理データを取得する取得部と、
請求項1に記載の心理状態学習装置によって生成された前記第1の学習済みの隠れマルコフモデルの前記出現確率と、前記第2の学習済みの隠れマルコフモデルの前記出現確率と、前記取得部により取得された前記対象生理データとに基づいて、前記対象生理データに対する複数の前記心理データのモードのスコアを計算することにより、前記対象のユーザの心理を推定する推定部と、
を含む心理状態推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、複数の前記スコアのうちの最も高いスコアに相当する前記心理データのモードに前記対象生理データが該当すると特定することにより、前記心理を推定する、
請求項2に記載の心理状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心理状態学習装置及び心理状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の状態を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1)。例えば、特許文献1の技術は、人の活動量(キロカロリー)、歩数、及び心拍数(1分当たりの拍動数に換算された値)を用いて、その人の状態を推定する技術である(例えば、特許文献1の段落[0021])。
【0003】
また、睡眠状態の判定を行う技術が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2の技術は、睡眠の1サイクルを含む時間枠内の単位時間ごとに脳活動計測手段が計測した脳活動を反映する指標に基づいて、当該時間枠に含まれる任意の時刻における睡眠状態を判定する(特許文献2の[要約])。
【0004】
また、学習処理によって調製された関数を用いて、被検者の睡眠状態が、覚醒段階を含む睡眠状態に於ける複数の睡眠段階のうちのいずれに属するかを判定する技術が知られている(例えば、特許文献3)。
【0005】
また、入眠のしやすさ、入眠の円滑性、冷え性や火照り性による入眠の阻害といった主観的な質問に対応する回答に基づいた睡眠状況の評価と、生体情報に基づいた睡眠状況の評価とを所定の割合で足し合わせることにより、睡眠状況を評価する技術が知られている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-032676号公報
【文献】特開2006-192152号公報
【文献】特許第6439729号公報
【文献】特許第5046364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人の心理状態を推定する際には、対象の人の生理状態を表すデータに限らず、対象の人に心理状態に関する質問を投げかけ、その回答結果を利用することも有用であると考えられる。
【0008】
これに関し、上記特許文献1~3の技術は、人から得られた生理状態に関するデータを用いているのみであり、質問の回答等は利用していない。一方で、特許文献4の技術は、主観的な質問に対応するユーザの回答に基づいて睡眠状況の評価を行っている。しかし、特許文献4の技術は、睡眠状況を評価する毎に主観的な質問を実施する必要があり、手間がかかると共にユーザにとって利用しにくいという点がある。
【0009】
そのため、上記特許文献1~4の技術は、心理に関する質問の結果を利用して心理を推定する場合に、人の心理を簡易に推定することができない、という課題がある。
【0010】
本発明は上記事実を考慮して、心理に関する質問の結果を利用しつつ、人の心理を簡易に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1の態様は、ユーザの心理に関する質問の結果を表す学習用の心理データのモードと、前記ユーザの生理状態を表す学習用の生理データのモードとの組み合わせを表す学習用データを取得する学習用データ取得部と、前記学習用データ取得部により取得された前記学習用データに基づいて、前記ユーザの心理状態が潜在状態へ対応付けられた隠れマルコフモデルを機械学習させることにより、複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から前記生理データのモードが出現する出現確率とが求められた第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成し、複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から前記心理データのモードが出現する出現確率とが求められた第2の学習済みの隠れマルコフモデルであって、かつ前記遷移確率が前記第1の学習済みの隠れマルコフモデルの前記遷移確率と同一である第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する学習部と、を含む心理状態学習装置である。
【0012】
また、本発明に係る第2の態様である心理状態推定装置は、心理を推定する対象のユーザの生理状態を表す対象生理データを取得する取得部と、上記の心理状態学習装置によって生成された前記第1の学習済みの隠れマルコフモデルの前記出現確率と、前記第2の学習済みの隠れマルコフモデルの前記出現確率と、前記取得部により取得された前記対象生理データとに基づいて、前記対象生理データに対する複数の前記心理データのモードのスコアを計算することにより、前記心理を推定する対象のユーザの心理を推定する推定部と、を含む心理状態推定装置である。
【0013】
また、本発明に係る第3の態様である心理状態推定装置の前記推定部は、複数の前記スコアのうちの最も高いスコアに相当する前記心理データのモードに前記対象生理データが該当すると特定することにより、前記心理を推定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、心理に関する質問の結果を利用しつつ、人の心理を簡易に推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る心理状態推定システムを示すブロック図である。
【
図4】ユーザの心理を表す因子を説明するための図である。
【
図5】因子分析結果に基づく心理データの分布を表す図である。
【
図7】実施形態の学習用データを説明するための図である。
【
図8】隠れマルコフモデルを説明するための図である。
【
図9】第1の学習済みの隠れマルコフモデルの一例を示す図である。
【
図10】第2の学習済みの隠れマルコフモデルの一例を示す図である。
【
図11A】ウェルネス状態W
iと生理データs
kと生理モードPh
jと心理データe
kと心理モードPs
lとの関係を説明するための図である。
【
図11B】対象生理データs’と生理モードPh
qとウェルネス状態W
iとの関係を説明するための図である。
【
図12】データ収集処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図13】生理モード生成処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図14】心理モード生成処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図15】学習処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図16】対象データ取得処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図17】推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
<本実施形態の心理状態推定システムの構成>
【0018】
図1は、実施形態に係る心理状態推定システム1の構成の一例を示すブロック図である。心理状態推定システム1は、機能的には、
図1に示されるように、ユーザ端末10と、心理状態推定装置20とを含んだ構成で表すことができる。なお、ユーザ端末10と心理状態推定装置20とは、インターネット等のネットワーク15を介して接続されている。
【0019】
図2に、ユーザ端末10の一例を示す。
図2に示されるように、本実施形態のユーザ端末10は、ユーザUの心拍数等の生理データを逐次計測可能な端末である。ユーザ端末10は、計測した生理データを心理状態推定装置20へ送信する。本実施形態のユーザ端末10は、睡眠中のユーザUの心拍数を生理データとして計測する場合を例に説明する。
【0020】
(ユーザ端末)
【0021】
ユーザ端末10は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータにより実現される。
【0022】
図1に示されるように、ユーザ端末10は、機能的には、センサ100と、制御部102と、表示部104と、入力部106と、記憶部108とを備えている。
【0023】
センサ100は、ユーザ端末10を利用する人の生理状態を表す生理データを逐次取得する。本実施形態では、ユーザが睡眠している際に得られる心拍データが生理データである場合を例に説明する。
【0024】
制御部102は、ユーザ端末10の動作を制御する。例えば、制御部102は、入力部106により受け付けたユーザの操作情報に応じて、ユーザ端末10を動作させる。
【0025】
表示部104は、制御部102による制御に応じて、各種画面を表示する。
【0026】
入力部106は、ユーザから入力された操作情報を受け付ける。
【0027】
記憶部108は、各種情報を記憶する。
【0028】
なお、制御部102は、ユーザが入眠した直後にセンサ100による心拍データの計測が開始されるようにセンサ100を制御する。
【0029】
また、制御部102は、ユーザが起床した直後に、現在の気分に関するアンケートを表示部104に表示させるように制御する。例えば、表示部104には、
図3に示されるようなアンケートが表示される。なお、アンケート内容は、例えば、既知のDAMS(Depression and Anxiety Mood Scale)又はPOMS(Profile of Mood States)と称される手法等に基づき予め作成される。
【0030】
表示部104にアンケートが表示されると、ユーザはそのアンケートに回答する。例えば、
図3に示されるようなアンケートが表示部104に表示された場合には、ユーザはスクロールバーを移動させることにより現在の気分を表すスコアを入力する。このようにして、ユーザの心理に関する質問の結果を表す心理データが得られる。
【0031】
制御部102は、心理モードと生理データとを対応付けて、記憶部108に一旦格納する。そして、制御部102は、心理状態推定装置20から送信された指示信号を受け付けると、心理モードと生理データとの組を、心理状態推定装置20へ送信する。
【0032】
(心理状態推定装置)
【0033】
心理状態推定装置20は、CPU、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、記憶手段としてのメモリ、及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータにより実現される。
【0034】
図1に示されるように、心理状態推定装置20は、機能的には、データ収集部200と、データ記憶部202と、学習用データ生成部204と、学習用データ記憶部206と、学習用データ取得部208と、学習部212と、学習済みモデル記憶部210と、取得部214と、推定部216とを備えている。
【0035】
データ収集部200は、ユーザ端末10から送信された心理データと生理データとの組を受け付ける。なお、心理データ及び生理データはユーザ端末10により日々計測されるため、データ収集部200は、日々の心理データ及び生理データを受け付け、データ記憶部202へ格納する。
【0036】
データ記憶部202には、ユーザ端末10から送信された各日の心理データ及び生理データが格納される。
【0037】
学習用データ生成部204は、心理データのモードを表す心理モードと、生理データのモードを表す心理モードとの組み合わせを表す学習用データを生成する。本実施形態では、心理データを複数のモードへ割り当てると共に、生理データも複数のモードへ割り当てる。以下、具体的に説明する。
【0038】
(心理モードの生成)
【0039】
まず、心理モードの生成方法について説明する。
【0040】
例えば、
図3に示されるようなアンケートが21項目実施されたとする。この場合には、1つのアンケートの項目に対して1つの数値データが得られる。
【0041】
ユーザに対する1回のアンケートにて21項目に対する数値データの回答が得られるため、これら各数値データを要素として持つベクトルを生成することができる。各日に得られた複数のベクトルに対して既知の因子分析を実行することにより、ユーザの心理を表す主要な因子を得ることが可能である。
【0042】
図4に、ユーザの心理を表す因子を説明するための図を示す。
図4に示されるように、「不安な」「心配な」といったアンケートの項目に対して、ユーザが
図3に示されるような画面に数値データを入力することにより、「不安な」度合い及び「心配な」度合いを表す数値データが得られる。
【0043】
複数の日に得られた心理データの各々についてベクトルを生成し、それらのベクトル(以下、単に心理特徴ベクトルと称する。)を因子分析することにより、例えば、
図4に示されるような3つの主要な因子が特定される。
図4では、1つめの因子として「Negative」が特定され、2つめの因子として「Positive」が特定され、3つめの因子として「Pain」が特定された例が示されている。なお、「Negative」「Positive」「Pain」といった名称は任意に付けられる名称である。
【0044】
この場合、
図4に示されるように、「Negative」因子は[0.848,0.822,0.812,・・・]といったベクトルであり、「Positive」因子は[0.064,0.083,0.113,・・・]といったベクトルであり、「Pain」因子は[0.009,-0.05,0.022,・・・]といったベクトルである。
【0045】
これらの3因子を3次元空間の各軸として設定すると、
図5に示されるような空間が構成される。なお、
図5の3次元空間にプロットされている1点は、1つのアンケート結果から得られる心理特徴ベクトルを表している。
【0046】
図5に示されるように、3因子を各軸とした3次元空間に対して心理特徴ベクトルがプロットされた場合、複数の心理特徴ベクトルをクラスタリングすることにより、各心理特徴ベクトルに対してモードを割り当てることができる。例えば、既知のBayesian Gaussian Mixture、K-means、又はGaussian mixture model等の手法によってクラスタリングが行われる。
【0047】
図6は、複数の心理特徴ベクトルのクラスタリング結果の一例を示す図である。
図6に示される例では、7つのラベル(Label0~6)によってクラスタリングがなされている。例えば、Label3はPainが高いクラスタであり、Label4はNegativeが低くかつPositiveが高いクラスタであり、Label6はNegativeが高くかつPositiveが低いクラスタである。1つのクラスタが1つのモードに相当する。
【0048】
このようにして、学習用データ生成部204は、複数の日の各々について得られた心理特徴ベクトルをクラスタリングすることにより、学習用の心理モードを生成する。
【0049】
(生理モードの生成)
【0050】
次に、生理モードの生成方法について説明する。
【0051】
学習用データ生成部204は、生理データに基づいて、入眠時刻、推定した最低心拍時刻、実際の最低心拍時刻、起床時刻、及び睡眠時間を生成する。また、学習用データ生成部204は、生理データに基づいて、入眠時の心拍数、推定した最低心拍数、実際の最低心拍数、起床時の心拍数、睡眠中の心拍数の平均、及び睡眠中の心拍数の標準偏差を生成する。そして、学習用データ生成部204は、上記により生成された各値を要素に持つ生理特徴ベクトルを生成する。
【0052】
次に、学習用データ生成部204は、生理特徴ベクトルを次元圧縮することにより、次元圧縮がされた生理特徴ベクトルを生成する。例えば、学習用データ生成部204は、既知のUMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)と称される手法を用いて、生理特徴ベクトルを次元圧縮することにより、3次元ベクトルを生成する。なお、次元圧縮手法はどのような手法を用いてもよく、PCA、isomap、t-SNE、又は深層学習により得られた機械学習モデル等が用いられてもよい。
【0053】
そして、学習用データ生成部204は、複数の日の各々について得られた生理特徴ベクトルをクラスタリングすることにより各生理特徴ベクトルに対してモードを割り当てて、学習用の生理モードを生成する。例えば、既知のBayesian Gaussian Mixture、K-means、又はGaussian mixture model等の手法によってクラスタリングが行われる。
【0054】
(学習用データの生成)
【0055】
学習用データ生成部204は、上記のようにして生成された、学習用の心理モードと学習用の生理モードとを対応付けて1つの学習用データとする。そして、学習用データ生成部204は、学習用データを学習用データ記憶部206へ格納する。
【0056】
学習用データ記憶部206には、複数の学習用データが格納される。
図7に、本実施形態の学習用データを説明するための図を示す。
図7に示されるように、学習用データは、データ毎に、学習用の心理モードと、学習用の生理モードとが対応付けられて格納される。
図7に示されるデータID「00001」の学習用データは、あるユーザの心理モードが「A1」であった場合に、そのユーザの学習用の生理モードが「B1」であったことが示されている。
【0057】
学習用データ取得部208は、学習用データ記憶部206に格納されている複数の学習用データを取得する。
【0058】
学習部212は、学習用データ取得部208により取得された複数の学習用データに基づいて、ユーザの心理状態が潜在状態へ対応付けられた隠れマルコフモデルを機械学習させる。
【0059】
図8に、隠れマルコフモデルを説明するための図を示す。
図8に示されるように、本実施形態では、第1の隠れマルコフモデルM1と、第2の隠れマルコフモデルM2とを用いて、ユーザの心理モードを推定する。
図8に示されるように、第1の隠れマルコフモデルM1及び第2の隠れマルコフモデルモデルM2の潜在状態をウェルネス状態W
iとし、生理モードをPh
jとし、心理モードをPs
lとする。なお、iはウェルネス状態を識別するためのインデックスであり、jは生理モードを識別するためのインデックスであり、lは心理モードを識別するためのインデックスである。
図8に示されるように、第1の隠れマルコフモデルM1と、第2の隠れマルコフモデルM2との間において、複数のウェルネス状態W
i間の遷移確率P1は共通している。さらに、複数のウェルネス状態W
i間の遷移確率P1と、ウェルネス状態W
iから生理モードPh
jが出現する出現確率P2と、ウェルネス状態W
iから心理モードPs
lが出現する出現確率P3とが、
図8に示されるように紐づけられいる。このため、
図8に示されるようなモデル間の関係に基づいて、心理を推定する対象のユーザの生理状態を表す対象生理データs’に応じて、ユーザの心理モードが推定される。
【0060】
まず、学習部212は、既知の学習アルゴリズムを用いて、学習用データ取得部208により取得された複数の学習用データに基づいて、複数のウェルネス状態Wi間の遷移確率と、ウェルネス状態Wiから生理モードPhjが出現する出現確率p(Phj|Wi)とが求められた第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。出現確率p(Phj|Wi)は、ウェルネス状態Wiのときに生理モードPhjが出現する確率である。
【0061】
図9は、第1の学習済みの隠れマルコフモデルの一例を示す図である。
図9に示される第1の学習済みの隠れマルコフモデルにおいては、例えば、ウェルネス状態W
0からウェルネス状態W
1へ遷移する遷移確率は0.27であり、ウェルネス状態W
0のときに生理モードPh
1が出現する出現確率p(Ph
1|W
0)は0.35である。なお、
図9の例では、8つの生理モードが示されている。なお、
図9の例においては、ウェルネス状態W
iから生理モードPh
1,Ph
7への遷移については、図が複雑となるため省略されている。
【0062】
まず、学習部212は、
図9に示されるような第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。
【0063】
次に、学習部212は、既知の学習アルゴリズムを用いて、複数のウェルネス状態Wi間の遷移確率と、ウェルネス状態Wiから心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|Wi)とが求められた第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。
【0064】
図10は、第2の学習済みの隠れマルコフモデルの一例を示す図である。
図10に示される第2の学習済みの隠れマルコフモデルにおいては、例えば、ウェルネス状態W
0からウェルネス状態W
1へ遷移する遷移確率は0.27であり、ウェルネス状態W
0のときに生理モードPs
1が出現する出現確率p(Ps
1|W
0)は0.28である。なお、
図10の例では、5つの心理モードが示されている。
【0065】
なお、ウェルネス状態Wiから心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|Wi)は、以下の式(1)によって表される。
【0066】
【0067】
なお、上記式(1)におけるekは心理データを表し、skは生理データを表し、kは日付を識別するためのインデックスを表し、Nは日数である。
【0068】
図11Aに、ウェルネス状態W
iと、生理データs
kと、生理モードPh
jと、心理データe
kと、心理モードPs
lとの関係を説明するための説明図を示す。
図11Aに示されるように、ウェルネス状態W
iと生理モードPh
jとは出現確率p(Ph
j|W
i)によって紐づけられており、生理モードPh
jと生理データs
kとは確率p(s
k|Ph
j)によって紐づけられている。また、心理データe
kと心理モードPs
lとは確率p(Ps
l|e
k)によって紐づけられている。
【0069】
なお、生理モードPhjのときに生理データskが出現する出現確率p(sk|Phj)は、以下の式(2)によって表される。
【0070】
【0071】
なお、上記式(2)におけるN(sk|μj,Σj)は、j番目の生理モードに含まれる生理データの多変量正規分布であり、μjはj番目の生理モードに含まれる生理データの平均ベクトルであり、Σjはj番目の生理モードに含まれる生理データの分散共分散行列である。
【0072】
また、心理データekが得られたときに心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|ek)は、以下の式(3)によって表される。
【0073】
【0074】
なお、上記式(3)におけるπは心理モードのクラスタリング時に求まる混合係数である。また、p(ek|Psl)は、心理モードPslから心理データekが出現する確率であり、以下の式(4)によって表される。
【0075】
【0076】
なお、上記式(4)におけるN(ek|μl,Σl)は、l番目の心理モードに含まれる心理データの多変量正規分布であり、μlはl番目の心理モードに含まれる心理データの平均ベクトルであり、Σlはl番目の心理モードに含まれる心理データの分散共分散行列である。
【0077】
学習部212は、上記式(1)~(4)に示される関係式と既知の学習アルゴリズムとに基づいて、第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。そして、学習部212は、ウェルネス状態Wi間の遷移確率が第1の学習済みの隠れマルコフモデルの遷移確率と同一である、第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。
【0078】
学習済みモデル記憶部210には、学習済みの第1の隠れマルコフモデル及び学習済みの第2の隠れマルコフモデルが格納される。後述するように、学習済みの第1の隠れマルコフモデル及び学習済みの第2の隠れマルコフモデルを利用することにより、ユーザによるアンケート結果を取得することなくユーザの心理モードを推定することが可能となる。
【0079】
以下、学習済みの第1の隠れマルコフモデル及び学習済みの第2の隠れマルコフモデルを用いてユーザの心理モードを推定する処理について説明する。
【0080】
取得部214は、心理を推定する対象のユーザの生理状態を表す対象生理データs’を取得する。具体的には、取得部214は、ユーザ端末10から送信された対象生理データs’を取得する。なお、対象生理データs’が得られた直後にはユーザに対してアンケートは実施されない。
【0081】
推定部216は、学習済みモデル記憶部210に格納された、第1の学習済みの隠れマルコフモデルの出現確率p(Phj|Wi)と、第2の学習済みの隠れマルコフモデルの出現確率p(Psl|Wi)と、取得部214により取得された対象生理データs’とに基づいて、対象生理データs’に対する複数の心理モードのスコアを計算することにより、心理を推定する対象のユーザの心理状態を推定する。
【0082】
具体的には、推定部216は、以下の式(5)に従って、対象生理データs’が得られたときに心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|s’)を計算する。
【0083】
【0084】
なお、上記式(5)における出現確率p(Wi|s’)は、対象生理データs’が得られたときにウェルネス状態Wiが出現する出現確率であり、以下の式(6)によって表される。
【0085】
【0086】
なお、推定部216による推定処理においては、生理モードを識別するためのインデックスjに代えてqを用いる。上記式(6)におけるp(Phq|s’)は、対象生理データs’が得られたときに生理モードPhqが出現する出現確率であり、以下の式(7)によって表される。
【0087】
【0088】
なお、上記式(7)におけるπは生理モードのクラスタリング時に求まる混合係数である。また、p(s’|Phq)は、生理モードPhqから生理データs’が出現する確率であり、以下の式(8)によって表される。
【0089】
【0090】
なお、上記式(8)におけるN(s’|μq,Σq)は、q番目の生理モードに含まれる生理データの多変量正規分布であり、μqはq番目の生理モードに含まれる生理データの平均ベクトルであり、Σqはq番目の生理モードに含まれる生理データの分散共分散行列である。
【0091】
また、上記式(6)におけるp(Wi|Phq)は、生理モードPhqが得られたときにウェルネス状態Wiが出現する出現確率であり、以下の式(9)によって表される。
【0092】
【0093】
なお、上記式(9)における出現確率p(Phq|Wi)は、ウェルネス状態Wiが得られたときに生理モードPhqが出現する確率であり、予め求められる。また、確率p(Wi)はウェルネス状態Wiが出現する出現確率であり、予め求めることが可能である。確率p(Wi)は、出現数を全体数で除することにより得られる。
【0094】
図11Bに、対象生理データs’と、生理モードPh
qと、ウェルネス状態W
iとの関係を説明するための説明図を示す。
図11Bに示されるように、対象生理データs’と生理モードPh
qとは、出現確率p(Ph
q|s’)によって紐づけられており、生理モードPh
qとウェルネス状態W
iとは確率p(W
i|Ph
q)によって紐づけられている。
【0095】
推定部216は、対象生理データs’が得られたときに心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|s’)の計算結果に基づいて、各心理モードPslの出現確率p(Psl|s’)の総和が1となるように正規化をする。例えば、推定部216は、対象生理データs’が得られたときの正規化された確率を以下の式(10)に従って計算する。以下の式(10)により計算される確率は、対象生理データs’に対する複数の心理モードPslのスコアに相当する。
【0096】
【0097】
なお、この場合には、現在のユーザのウェルネス状態を得点化するようにしてもよい。例えば、以下の式(11)に示されるように、3つの因子の得点を各々positivel、negativel、painlと設定し、その得点と正規化された確率とを掛け合わせることにより、ユーザがpositiveであることを表すスコア、ユーザがnegativeであることを表すスコア、及びユーザがpainであることを表すスコアを算出するようにしてもよい。
【0098】
【0099】
また、推定部216は、上記式(5)によって得られる複数のスコアのうちの最も高いスコアに相当する心理モードに、対象生理データs’が該当すると特定することにより、ユーザの心理を推定するようにしてもよい。
【0100】
このように、本実施形態によれば、ユーザの生理データが得られたときのアンケート結果である心理データを用いて隠れマルコフモデルを学習させた後、学習済みの隠れマルコフモデルを用いて新たに得られたユーザの対象生理データが何れの生理モードに相当するのかを特定する。本実施形態によれば、隠れマルコフモデルを学習させる際にはアンケート結果を利用するものの、対象生理データの心理モードを特定する際にはアンケートは必要ないため、心理に関する質問の結果を利用しつつ、人の心理を簡易に推定することができる。
【0101】
<心理状態推定システムの作用>
【0102】
次に、図を参照して、心理状態推定システム1の作用を説明する。まず、心理状態推定システム1の心理状態推定装置20は、生理データの計測と心理データの取得とを指示する指示信号をユーザ端末10に対して出力する。ユーザ端末10は、心理状態推定装置20から出力された指示信号を受け付けると、入眠前のユーザからの操作情報に応じて、
図12に示されているデータ収集処理ルーチンを実行する。
【0103】
ステップS100において、ユーザ端末10の制御部102は、睡眠時のユーザの生理データを取得する。
【0104】
ステップS102において、ユーザ端末10の制御部102は、ユーザが起床したか否かを判定する。例えば、ユーザ端末10の制御部102は、操作情報を受け付けた場合に、ユーザが起床したと判定する。ユーザが起床したと判定された場合には、ステップS104へ進む。一方、ユーザは起床していないと判定された場合には、ステップS100へ戻り、ユーザの生理データの計測が継続される。
【0105】
ステップS104において、ユーザ端末10の制御部102は、表示部104に対してアンケートを表示させるように制御する。
【0106】
ユーザ端末10の表示部104にアンケートが表示されると、ユーザは、アンケートに対する回答をユーザ端末10へ入力する。
【0107】
ステップS106において、ユーザ端末10の制御部102は、ユーザから入力されたアンケート結果を心理データとして取得する。
【0108】
ステップS108において、ユーザ端末10の制御部102は、上記ステップS100で取得された生理データと上記ステップS106で取得された心理データとを対応付けて、心理状態推定装置20へ送信する。
【0109】
ユーザ端末10からデータが送信されると、心理状態推定装置20のデータ収集部200は、ユーザの生理データと心理データとの組み合わせをデータ記憶部202へ格納する。
【0110】
なお、上記
図12のデータ収集処理ルーチンは複数日に亘って実行され、各日のユーザの生理データとアンケート結果との組み合わせが心理状態推定装置20へ送信される。このため、心理状態推定装置20のデータ記憶部202には、複数日のユーザの生理データと心理データとの組み合わせが格納される。
【0111】
所定量の学習用の生理データと学習用の心理データとの組み合わせがデータ記憶部202へ格納されると、心理状態推定装置20は、
図13~
図14に示される各処理ルーチンを実行する。まず、心理状態推定装置20は、
図13に示される生理モード生成処理ルーチンを実行する。
【0112】
ステップS200において、学習用データ生成部204は、データ記憶部202に格納されている複数の学習用の生理データを読み出す。
【0113】
ステップS202において、学習用データ生成部204は、上記ステップS200で読み出された複数の学習用の生理データの各々について、生理データを表す特徴ベクトルである生理特徴ベクトルを生成する。
【0114】
なお、生理特徴ベクトルは、上述したように、入眠時刻、推定した最低心拍時刻、実際の最低心拍時刻、起床時刻、睡眠時間、入眠時の心拍数、推定した最低心拍数、実際の最低心拍数、起床時の心拍数、睡眠中の心拍数の平均、及び睡眠中の心拍数の標準偏差を要素として持つベクトルである。
【0115】
ステップS204において、学習用データ生成部204は、上記ステップS202で得られた複数の生理特徴ベクトルを次元圧縮する。上記の生理特徴ベクトルは11次元のベクトルであるが生理特徴ベクトルを次元圧縮することにより、例えば、3次元のベクトルが生成される。
【0116】
ステップS206において、学習用データ生成部204は、上記ステップS204で得られた圧縮された生理特徴ベクトルをクラスタリングすることにより複数の生理モードを生成する。この場合、1つのクラスタが1つの生理モードに対応する。
【0117】
次に、心理状態推定装置20は、
図14に示される心理モード生成処理ルーチンを実行する。
【0118】
ステップS300において、学習用データ生成部204は、データ記憶部202に格納されている複数の学習用の心理データを読み出す。
【0119】
ステップS302において、学習用データ生成部204は、上記ステップS300で読み出された複数の学習用の心理データの各々について、心理データを表す特徴ベクトルである心理特徴ベクトルを生成する。なお、心理特徴ベクトルは、「不安な」「心配な」といった21項目のアンケートに対してユーザから回答された数値データを要素として持つベクトルである。このため、心理特徴ベクトルは、21次元のベクトルである。
【0120】
ステップS304において、学習用データ生成部204は、上記ステップS302で得られた複数の心理特徴ベクトルに対して既知の因子分析を実行することにより、3因子「Negative」「Positive」「Pain」を特定する。そして、学習用データ生成部204は、3因子に対応するベクトルを各軸とする空間へ複数の心理特徴ベクトルをマッピングすることにより、複数の心理特徴ベクトルを次元圧縮する。
【0121】
ステップS306において、学習用データ生成部204は、上記ステップS304で得られた圧縮された心理特徴ベクトルをクラスタリングすることにより複数の心理モードを生成する。この場合、1つのクラスタが1つの心理モードに対応する。
【0122】
上述したように、複数の生理データの各々について生理モードが対応付けられ、複数の心理データの各々について心理モードが対応付けられると、学習用データ生成部204は、生理モードと心理モードとを対応付けて学習用データとして学習用データ記憶部206へ格納する。
【0123】
学習用データ記憶部206に複数の学習用データが格納されると、心理状態推定装置20は、
図15に示される学習処理ルーチンを実行する。
【0124】
ステップS400において、心理状態推定装置20の学習用データ取得部208は、学習用データ記憶部206に格納された複数の学習用データを取得する。
【0125】
ステップS402において、心理状態推定装置20の学習部212は、上記ステップS400で取得された複数の学習用データに基づいて、隠れマルコフモデルを機械学習させることにより、第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。
【0126】
ステップS404において、心理状態推定装置20の学習部212は、上記ステップS402で得られた第1の学習済みの隠れマルコフモデルのうちの複数の潜在状態間の遷移確率を、第2の学習済みの隠れマルコフモデルの複数の潜在状態間の遷移確率として設定した上で、上記ステップS400で取得された複数の学習用データに基づいて、第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。
【0127】
ステップS406において、心理状態推定装置20の学習部212は、上記ステップS402で生成された第1の学習済みの隠れマルコフモデルと、上記ステップS404で生成された第2の学習済みの隠れマルコフモデルとを、学習済みモデル記憶部210へ格納する。
【0128】
学習済みモデル記憶部210へ各学習済みモデルが格納されると、アンケート結果を利用することなくユーザの心理状態を推定することが可能となる。
【0129】
心理状態推定システム1の心理状態推定装置20は、対象生理データの計測を指示する指示信号をユーザ端末10に対して出力する。ユーザ端末10は、心理状態推定装置20から出力された指示信号を受け付けると、入眠前のユーザからの操作情報に応じて、
図16に示されている対象データ取得処理ルーチンを実行する。
【0130】
ステップS500において、ユーザ端末10の制御部102は、睡眠時のユーザの対象生理データを取得する。
【0131】
ステップS502において、ユーザ端末10の制御部102は、ユーザが起床したか否かを判定する。例えば、ユーザ端末10の制御部102は、操作情報を受け付けた場合に、ユーザが起床したと判定する。ユーザが起床したと判定された場合には、ステップS504へ進む。一方、ユーザは起床していないと判定された場合には、ステップS500へ戻り、ユーザの対象生理データの計測が継続される。
【0132】
ステップS504において、ユーザ端末10の制御部102は、上記ステップS500で取得された対象生理データを心理状態推定装置20へ送信する。
【0133】
ユーザ端末10から対象生理データが送信されると、心理状態推定装置20の推定部216は、
図17に示される推定処理ルーチンを実行する。
【0134】
ステップS600において、推定部216は、ユーザ端末10から送信された対象生理データs’を取得する。
【0135】
ステップS602において、推定部216は、学習済みモデル記憶部210に記憶された第1の学習済みの隠れマルコフモデルのうちの出現確率p(Phq|Wi)と、ウェルネス状態Wiが出現する出現確率p(Wi)とに基づいて、上記式(9)に従って、生理モードPhqが得られたときにウェルネス状態Wiが出現する出現確率p(Wi|Phq)を計算する。
【0136】
ステップS604において、推定部216は、上記ステップS600で取得された対象生理データs’に対して、上記式(7)及び式(8)に従って、対象生理データs’が得られたときに生理モードPhqが出現する出現確率p(Phq|s’)を計算する。
【0137】
ステップS606において、推定部216は、上記ステップS602で計算された出現確率p(Wi|Phq)と、上記ステップS604で計算された出現確率p(Phq|s’)とに基づいて、上記式(6)に従って、対象生理データs’が得られたときにウェルネス状態Wiが出現する出現確率p(Wi|s’)を計算する。
【0138】
ステップS608において、推定部216は、上記ステップS606で計算された出現確率p(Wi|s’)と、学習済みモデル記憶部210に記憶された第2の学習済みの隠れマルコフモデルのうちの出現確率p(Psl|Wi)とに基づいて、上記式(5)に従って、対象生理データs’が得られたときに心理モードPslが出現する出現確率p(Psl|s’)を計算する。
【0139】
ステップS610において、推定部216は、上記ステップS608で計算された出現確率p(Psl|s’)に基づいて、ユーザの心理は何れの心理モードに該当するかを推定する。例えば、推定部216は、ユーザは出現確率p(Psl|s’)が最も高い心理モードPslであると特定する。
【0140】
ステップS610において、推定部216は、上記ステップS610で特定された心理モードを、ユーザの心理であるとして出力する。
【0141】
以上詳細に説明したように、実施形態の心理状態推定装置は、ユーザの心理に関する質問の結果を表す学習用の心理モードと、ユーザの生理状態を表す学習用の生理モードとの組み合わせを表す学習用データに基づいて、ユーザの心理状態が潜在状態へ対応付けられた隠れマルコフモデルを機械学習させる。そして、心理状態推定装置は、複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から生理モードが出現する出現確率とが求められた第1の学習済みの隠れマルコフモデルを生成し、複数の潜在状態間の遷移確率と潜在状態から心理モードが出現する出現確率とが求められた第2の学習済みの隠れマルコフモデルであって、かつ遷移確率が第1の学習済みの隠れマルコフモデルの遷移確率と同一である第2の学習済みの隠れマルコフモデルを生成する。これにより、心理に関する質問の結果を利用しつつ、人の心理を簡易に推定するための学習済みモデルを得ることができる。
【0142】
また、実施形態の心理状態推定装置は、心理を推定する対象のユーザの生理状態を表す対象生理データを取得し、第1の学習済みの隠れマルコフモデルの出現確率と、第2の学習済みの隠れマルコフモデルの出現確率と、取得された対象生理データとに基づいて、対象生理データに対する複数の心理モードのスコアを計算することにより、対象のユーザの心理を推定する。これにより、心理に関する質問の結果を利用しつつ、人の心理を簡易に推定することができる。
【0143】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0144】
例えば、上記実施形態では、睡眠時の生理データに基づいてユーザの心理を推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、宇宙船内の閉鎖空間及び極限状態において、ユーザがどのような心理であるのかを推定するようにしてもよい。
【0145】
また、上記では本発明に係るプログラムが記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本発明に係るプログラムは、CD-ROM、DVD-ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0146】
1 心理状態推定システム
20 心理状態推定装置
100 センサ
102 制御部
104 表示部
106 入力部
108 記憶部
200 データ収集部
202 データ記憶部
204 学習用データ生成部
206 学習用データ記憶部
208 学習用データ取得部
210 学習済みモデル記憶部
212 学習部
214 取得部
216 推定部