(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ゴム製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20240930BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20240930BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240930BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C08L27/12
C08J7/00 305
C08J7/00 CEW
C08K5/14
C08L27/16
(21)【出願番号】P 2021060302
(22)【出願日】2021-03-31
(62)【分割の表示】P 2018064987の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-03-31
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隆男
(72)【発明者】
【氏名】浜村 武広
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕明
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】植前 充司
【審判官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098338(WO,A1)
【文献】特表2014-521820(JP,A)
【文献】特開平5-117478(JP,A)
【文献】特開昭61-206114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/12
C08J 7/00
C08K 5/14
C08L 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン以外の水素含有フッ素ゴムをゴム成分
とし、有機過酸化物と、架橋助剤と、
前記ゴム成分に分散したパウダー状のポリフッ化ビニリデンと、
分子内にアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、又は、分子内にアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物とを含有する未架橋ゴム組成物
が、所定の温度に加熱されることにより、前記ゴム成分が前記有機過酸化物により架橋し、その後、放射線が照射されることにより、前記ゴム成分の炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに、前記パーフルオロ骨格の化合物のアルケニル基、又は、前記シロキサン骨格の化合物のアルケニル基が結合したゴム組成物で形成されたゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物において、
前記有機過酸化物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上2.5質量部以下であり、
前記架橋助剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、
前記パウダー状のポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下であり、
前記パウダー状のポリフッ化ビニリデンの含有量の前記有機過酸化物の含有量及び前記架橋助剤の含有量の和に対する比が0.9以上2以下であり、
前記パーフルオロ骨格の化合物、又は、前記シロキサン骨格の化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である
ゴム製品。
【請求項2】
請求項1に記載された
ゴム製品において、
前記
パウダー状のポリフッ化ビニリデンの平均粒
子径が1μm以上100μm以下である
ゴム製品。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載されたゴム製品において、
前記ゴム製品がシール材であるゴム製品。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかに記載された
ゴム製品の製造方法において、
前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱
することにより、前記ゴム成分を前記有機過酸化物により架橋させ、前記加熱した後のものに対して放射線を照射する
ことにより、前記ゴム成分の炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに、前記パーフルオロ骨格の化合物のアルケニル基、又は、前記シロキサン骨格の化合物のアルケニル基を結合させて前記ゴム組成物を形成するゴム製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未架橋ゴム組成物並びにそれを用いて製造されるゴム製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセス装置等の分野において、フッ素ゴム製のシール材を使用することが知られている(例えば特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4381087号公報
【文献】特許第4628814号公報
【文献】特許第4778782号公報
【文献】特許第6134391号公報
【文献】特開2001-348462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素ゴム製のシール材等のゴム製品を製造するための未架橋ゴム組成物の調製において、ゴム成分のフッ素ゴムに有機過酸化物及び架橋助剤を添加してロールで混練するとき、有機過酸化物及び架橋助剤が液状となり、また、有機過酸化物及び架橋助剤のフッ素ゴムとの相溶性が低いため、それらの添加速度を低くしなければ、フッ素ゴムに吸収されなかったものがロール表面に付着して滑剤のように機能し、スリップを生じて混練がスムーズに進行しないといったことがある。また、フッ素ゴムが液体の有機過酸化物及び架橋助剤を吸収することにより脆化するため、未架橋ゴム組成物のロールへの巻き付け維持が困難となり、未架橋ゴム組成物がロールから落下して混練が中断するといったこともある。したがって、フッ素ゴム製のゴム製品には、それを製造するための未架橋ゴム組成物の調製において、このように混練加工性が劣るという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、混練加工性が優れる未架橋ゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の未架橋ゴム組成物は、ポリフッ化ビニリデン以外の水素含有フッ素ゴムをゴム成分の主体として含有するとともに、有機過酸化物と、架橋助剤と、ポリフッ化ビニリデンと、放射線が照射されたとき、前記ゴム成分の炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である水素サイト保護剤とを含有し、前記有機過酸化物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上2.質量部以下であり、前記架橋助剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、前記ポリフッ化ビニリデンが、パウダー状であるとともに、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下であり、前記水素サイト保護剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である。
【0007】
本発明のゴム製品は、本発明の未架橋ゴム組成物における前記ゴム成分が架橋して構成されるとともに、前記ゴム成分の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されている。
【0008】
本発明のゴム製品の製造方法は、本発明の未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記ゴム成分を前記有機過酸化物により架橋させ、前記加熱した後のものに対して放射線を照射するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の未架橋ゴム組成物によれば、有機過酸化物及び架橋助剤との相溶性が比較的高いポリフッ化ビニリデンを含有することにより、ポリフッ化ビニリデンが有機過酸化物及び架橋助剤を吸収してゴム成分とスムーズに混練されるとともに、ポリフッ化ビニリデンにより脆化が抑制されて補強され、その結果、優れた混練加工性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という。)以外の水素含有フッ素ゴムをゴム成分の主体として含有するとともに、有機過酸化物と、架橋助剤と、PVDFとを含有する。この実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、ゴム製品、特に、例えば半導体のエッチング装置やプラズマCVD装置のようなプラズマを使用する半導体プロセス装置に使用されるOリング等のシール材の製造に好適に用いられる。
【0012】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物によれば、有機過酸化物及び架橋助剤との相溶性が比較的高いPVDFを含有することにより、PVDFが有機過酸化物及び架橋助剤を吸収してゴム成分とスムーズに混練されるとともに、PVDFにより脆化が抑制されて補強され、その結果、優れた混練加工性を得ることができる。
【0013】
ここで、ゴム成分は、PVDF以外の水素含有フッ素ゴムを主体として含有する。本出願における「水素含有フッ素ゴム」とは、高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれたフッ素ゴムである。ゴム成分におけるPVDF以外の水素含有フッ素ゴムの含有量は、50質量%よりも多く、優れた物性を得る観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。なお、ゴム成分は、PVDF以外の水素含有フッ素ゴムの他、テトラフルオロエチレン(TFE)の重合体(PTFE)のような水素不含有フッ素ゴムやシリコーンゴムを含有していてもよい。
【0014】
PVDF以外の水素含有フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(二元系FKM)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(三元系FKM)、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との共重合体(FEP)、ビニリデンフルオライド(VDF)とプロピレン(Pr)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(ETFE)、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体等が挙げられる。PVDF以外の水素含有フッ素ゴムは、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、優れた物性を得る観点から、単量体としてビニリデンフルオライド(VDF)を含むものを用いることがより好ましく、三元系FKMを用いることが更に好ましい。PVDF以外の水素含有フッ素ゴムは、優れた物性を得る観点から、分子中にヨウ素や臭素を有することが好ましい。
【0015】
有機過酸化物は、所定の温度に加熱されたときにゴム成分を架橋させる熱架橋剤である。有機過酸化物としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト等が挙げられる。有機過酸化物は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、優れた物性を得る観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを用いることがより好ましい。
【0016】
有機過酸化物の含有量(A)は、優れた物性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上2.5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下である。
【0017】
架橋助剤は、ゴム成分が有機過酸化物により架橋するときに、ゴム成分の分子間に介在するように結合する化合物である。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイト等が挙げられる。架橋助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、優れた物性を得る観点から、トリアリルイソシアヌレートを用いることがより好ましい。
【0018】
架橋助剤の含有量(B)は、優れた物性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である。架橋助剤の含有量(B)は、優れた物性を得る観点から、有機過酸化物の含有量(A)よりも多いことが好ましい。架橋助剤の含有量(B)の有機過酸化物の含有量(A)に対する比(B/A)は、架橋助剤を過不足なく反応させるとともに、優れた物性を得る観点から、好ましくは1.0以上4.0以下、より好ましくは2.0以上3.0以下である。
【0019】
PVDFは、ゴム成分の一部を構成するように含有されていてもよいが、有機過酸化物及び加工助剤の吸収性を高めて優れた混練加工性を得るとともに、実施形態に係る未架橋ゴム組成物を用いたゴム製品の引き裂き強度を高めて優れた耐圧潰性を得る観点から、パウダー状であって、ゴム成分に分散して含有されていることが好ましい。
【0020】
ところで、例えば、半導体プロセス装置等で使用されるフッ素ゴム製のシール材では、プラズマ雰囲気で使用されてゴム成分が劣化すると、そこに分散していた耐プラズマ性の高いパウダー状材料が残り、そのパーティクルが放出されて装置内を汚染するという問題がある。しかしながら、PVDFは、ゴム成分におけるPVDF以外の水素含有フッ素ゴムと耐プラズマ性が同等程度であるため、パウダー状のPVDFがゴム成分に分散して含有されていても、かかるパーティクルの発生を抑制することができる。パウダー状のPVDFの平均粒子径は、ゴム製品の優れた耐圧潰性を得る観点から、好ましくは1μm以上100μm以下である。
【0021】
PVDFの含有量(C)は、優れた混練加工性を得るとともに、実施形態に係る未架橋ゴム組成物を用いたゴム製品において、ヒケを抑制し且つ優れた物理特性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上9.8質量部以下、好ましくは5質量部以上9.7質量部以下である。PVDFの含有量(C)は、優れた混練加工性を得る観点から、有機過酸化物の含有量(A)及び架橋助剤の含有量(B)の和と同等乃至それよりも多いことが好ましい。PVDFの含有量(C)の有機過酸化物の含有量(A)及び架橋助剤の含有量(B)の和に対する比(C/(A+B))は、好ましくは0.5以上6以下、より好ましくは0.9以上2以下である。
【0022】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、水素サイト保護剤を更に含有していてもよい。水素サイト保護剤は、ゴム製品の製造時に放射線が照射されたとき、ゴム成分の炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である。
【0023】
水素サイト保護剤は、分子内にゴム成分の炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内にゴム成分の炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。アルケニル基は、これらのうちのビニル基が好ましい。
【0024】
分子内にアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物としては、例えば、パーフルオロポリエーテル構造の化合物、パーフルオロアルキレン構造の化合物等が挙げられる。分子内にアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物としては、例えば、メチルビニルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとの共重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとメチルフェニルシロキサンとの共重合体等が挙げられる。その他、付加重合の液状シリコーンゴムである分子中にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。水素サイト保護剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0025】
水素サイト保護剤の含有量は、耐プラズマ性を高める観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量部以上15質量部以下である。
【0026】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、製造するゴム製品によっては、カーボンブラックやシリカなどの補強材、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を含有していてもよい。但し、プラズマ雰囲気下でのパーティクルの発生が問題となるようなゴム製品の製造に用いられる場合には、カーボンブラック、シリカ、金属酸化物等の粉状の無機充填剤の含有量は、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、最も好ましくは0質量部である。
【0027】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、オープンロールなどの開放式のゴム混練機、或いは、ニーダーなどの密閉式のゴム混練機を用いて調製することができる。これらのうち、特にオープンロールなどの開放式のゴム混練機において、優れた混練加工性を得ることができる。
【0028】
次に、実施形態に係る未架橋ゴム組成物を用いたゴム製品の製造方法について説明する。
【0029】
ゴム製品の製造方法では、まず、実施形態に係る未架橋ゴム組成物の所定量を、予熱した金型のキャビティに充填し、次いで型締めした後、その状態で、所定の成形温度及び所定の成形圧力で所定の成形時間だけ保持する。このとき、実施形態に係る未架橋ゴム組成物がキャビティの形状に成形されるとともに、ゴム成分が有機過酸化物により架橋して可塑性を喪失する。この成形は、プレス成形であってもよく、また、射出成形であってもよい。成形温度は、例えば150℃以上180℃以下である。成形圧力は、例えば0.1MPa以上25MPa以下である。成形時間は、例えば3分以上20分以下である。そして、金型を型開きし、内部から成形品を取り出して冷却することにより、ゴム製品を得ることができる。なお、金型から取り出した成形品に対しては、更に加熱温度150℃以上250℃以下及び加熱時間2時間以上6時間以下の熱処理を施してもよい。
【0030】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物にパウダー状のPVDFを含有させた場合に優れた耐圧潰性を発現させ、また、プラズマ雰囲気で使用するゴム製品を製造する場合にプラズマ雰囲気でのクラック発生を抑制する観点からは、加熱した後の成形品に対して放射線を照射することが好ましい。このとき、放射線が照射されることにより、クラック発生の起点となるゴム成分とPVDFとの界面に架橋が生じ、それらが一体化し、それによってクラックの成長が阻害されることとなる。
【0031】
放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、イオン等が挙げられる。放射線は、これらのうちの電子線又はγ線を用いることが好ましい。放射線の照射線量は、パーティクルの発生を抑制する観点から、好ましくは10kGy以上200kGy以下、より好ましくは20kGy以上80kGy以下である。
【実施例】
【0032】
(未架橋ゴム組成物の混練及び架橋ゴムシートの調製)
以下の実施例1~6、比較例、及び参考例のそれぞれにおいて、未架橋ゴム組成物を混練するとともに、それを用いて架橋ゴムシートを調製した。各構成については表1にも示す。
【0033】
<実施例1>
8インチオープンロールを用い、ゴム成分の3元系FKM(ダイエルG912 ダイキン工業社製)に、このゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物の2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日本油脂社製)1.5質量部、架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(タイク 日本化成社製)4質量部、パウダー状のPVDF(ダイキン工業社製、平均粒子径:7μm)5質量部、及び水素サイト保護剤(I)の分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590-N 信越化学工業社製)10質量部を添加して混練した未架橋ゴム組成物を調製した。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は2.0時間であった。
【0034】
続いて、この未架橋ゴム組成物を、成形温度165℃、成形圧力5MPa、及び成形時間15分としてプレス成形した後、加熱温度200℃及び加熱時間4時間で熱処理してシート状のゴム組成物を得た。
【0035】
そして、このシート状のゴム組成物に対して、照射線量30kGyのγ線を照射して架橋ゴムシートを得た。
【0036】
<実施例2>
γ線の照射を行わず、熱処理して得られたシート状のゴム組成物を架橋ゴムシートとしたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は2.0時間であった。
【0037】
<実施例3>
パウダー状のPVDFの添加量を、ゴム成分100質量部に対して10質量部としたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は1.5時間であった。
【0038】
<実施例4>
パウダー状のPVDFの添加量を、ゴム成分100質量部に対して30質量部としたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は1.0時間であった。
【0039】
<実施例5:参考例>
ゴム成分を、3元系FKM及びPVDF(ダイキン工業社製)をそれぞれ90質量%及び10質量%含有するブレンドゴムで構成した、つまり、PVDFを、ゴム成分の一部を構成するように含有させたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は2.5時間であった。
【0040】
<実施例6>
水素サイト保護剤(I)に代えて、水素サイト保護剤(II)の分子内にビニル基を有するシロキサン骨格の化合物(KE-1830 信越化学工業社製)を添加したことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は2.0時間であった。
【0041】
<比較例>
パウダー状のPVDFを添加しなかったことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は5.0時間であった。
【0042】
<参考例>
パウダー状のPVDFに代えて、パウダー状のPTFE(ダイキン工業社製、平均粒子径:27μm)を添加したことを除いて実施例1と同様の操作を行った。4kgの均一な未架橋ゴム組成物を得るまでに要した混練時間は2.0時間であった。
【0043】
【0044】
(試験方法)
<耐プラズマ性>
実施例1~6、比較例、及び参考例のそれぞれで調製した架橋ゴムシートについて、マイクロ波プラズマ発生機を用いて、伸張率10%として、O2プラズマ照射試験及びCF4プラズマ照射試験を行い、質量減量、クラックの有無、及びパーティクルの発生の有無を調べた。試験では、反応ガスとしてO2及びCF4を用い、O2プラズマ照射試験では、それらの流量比を50:1とし、CF4プラズマ照射試験では、それらの流量比を1:50とした。また、反応圧力を100Pa及びプラズマ照射時間を60分とした。
【0045】
<引張特性>
実施例1~6、比較例、及び参考例のそれぞれで調製した架橋ゴムシートについて、JISK6251に基づいて引張試験を行い、100%モジュラス(M100:100%伸び時における引張応力)、引張強さ(TB)、及び切断時伸び(EB)を測定した。
【0046】
<圧縮永久ひずみ>
実施例1~6、比較例、及び参考例のそれぞれで調製した架橋ゴムシートについて、JISK6262:2013に基づき、試験時間72時間及び試験温度200℃として圧縮永久ひずみの測定を行った。
【0047】
<40%圧潰割れ>
実施例1~6、比較例、及び参考例のそれぞれで調製した架橋ゴムシートについて、150℃で24時間の加熱処理を行った後、40%圧縮したときの亀裂の有無を目視確認した。
【0048】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
【0049】
表1によれば、PVDFを添加した実施例1~6は、PVDFを添加しなかった比較例よりも、未架橋ゴム組成物の混練時間が半分以下であり、したがって、混練加工性が優れることが分かる。
【0050】
実施例1及び2を比較すると、加熱成形後にγ線を照射した実施例1は、γ線の照射を行わなかった実施例2よりも、耐O2プラズマ性が優れ、また、耐圧潰性が優れることが分かる。これは、γ線の照射により、クラック発生の起点となるゴム成分の3元系FKMとPVDFとの界面に架橋が生じ、それらが一体化し、それによってクラックの成長が阻害されるためであると推察される。
【0051】
実施例1、3、及び4を比較すると、パウダー状のPVDFの含有量が多くなると、耐O2プラズマ性が低下する傾向が認められる。また、圧縮永久ひずみが大きくなる傾向も認められる。
【0052】
実施例3及び5を比較すると、パウダー状のPVDFを添加した実施例3は、PVDFを、ゴム成分の一部を構成するように含有させた実施例5よりも、混練時間が短いことから混練加工性が優れ、また、耐圧潰性が優れることが分かる。
【0053】
実施例1及び6を比較すると、水素サイト保護剤(I)及び水素サイト保護剤(II)のいずれを添加しても、混練加工性、耐プラズマ性、物理特性、及び耐圧潰性に影響がなく、優れた性能を示すことが分かる。
【0054】
なお、パウダー状のPTFEを添加した参考例では、優れた混練加工性を得ることができているが、耐プラズマ性及び耐圧潰性が低いことが分かる。これは、PTFEが、ゴム成分の3元系FKMよりも耐プラズマ性が高く、そのため3元系FKMが劣化したときにパウダー状のPTFEだけが残存し、また、γ線が照射されても、ゴム成分の3元系FKMと、炭素原子に結合した水素原子を含まないPTFEとの間に架橋が生じないためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、未架橋ゴム組成物並びにそれを用いて製造されるゴム製品及びその製造方法の技術分野について有用である。