(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ピボット構造
(51)【国際特許分類】
F16C 11/08 20060101AFI20240930BHJP
B60R 1/06 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
F16C11/08 E
B60R1/06 D
(21)【出願番号】P 2021097704
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000148689
【氏名又は名称】株式会社村上開明堂
(74)【代理人】
【識別番号】100090228
【氏名又は名称】加藤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 和成
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178216(JP,A)
【文献】実開平06-022084(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
B60R 1/06-1/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピボット構造において、
前記ピボット構造は、
凹球面と、
前記凹球面に当接して該凹球面と相互に摺動する凸球面と、
前記凹球面と前記凸球面の間にスプリング荷重を印加して該両球面の相互の当接面間に押圧力を付与するスプリングとを具え、
前記両球面は、該両球面が属する仮想球面を構成する仮想球体の中心を通りかつ前記スプリング荷重の方向に延びる仮想直線の周り方向に相互に回動可能にかつ該仮想球体の中心の周り方向に相互に傾動可能に配置されており、
前記仮想直線が前記仮想球面と交差する点を緯度θが0度の極位置、該極位置から前記仮想球体の中心の周り方向に該仮想球面を緯度方向に90度移動した位置を緯度θが90度の赤道位置とそれぞれ定義して、前記相互の当接面は前記仮想球面の前記極位置から前記赤道位置の間の特定の緯度範囲に配置されており、
前記凹球面と前記凸球面のうち前記傾動の際に前記仮想直線を伴って傾動する側の球面は、前記特定の緯度範囲を該特定の緯度範囲の範囲外から区画する径方向に突出した突出面を有し、前記凹球面と前記凸球面は前記突出面において相互に当接して前記当接面を構成し、
前記特定の緯度範囲の前記極位置側の端部の緯度をθ1、該特定の緯度範囲の前記赤道位置側の端部の緯度をθ2とそれぞれ定義し、かつ、
緯度係数Cを
【数11】
と定義して、
前記緯度θ1,θ2は、C値すなわち前記緯度係数Cの値を0.45≦C<0.5にする角度に設定され、かつ
前記緯度θ1は、θ2-θ1=5度に設定したときに前記C値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定されているピボット構造。
【請求項2】
前記緯度θ1,θ2の値が、
30度≦θ1≦55度、
35度≦θ2≦60度、
5度≦θ2-θ1≦30度、
の全ての条件を満たすように設定されている請求項1に記載のピボット構造。
【請求項3】
前記緯度θ1,θ2の値が、
40度≦θ1≦55度、
45度≦θ2≦60度、
5度≦θ2-θ1≦20度、
の全ての条件を満たすように設定されている請求項1に記載のピボット構造。
【請求項4】
前記緯度θ1,θ2の値が、
40度≦θ1≦45度、
45度≦θ2≦55度、
5度≦θ2-θ1≦15度、
の全ての条件を満たすように設定されている請求項1に記載のピボット構造。
【請求項5】
前記凹球面と前記凸球面のうち前記傾動の際に前記仮想直線を伴って傾動する側の球面を構成する前記突出面の全体が、該傾動によっても該相手側の球面との当接を維持するように、該相手側の球面の領域の大きさが設定されている請求項1から4のいずれか1つに記載のピボット構造。
【請求項6】
所定の板厚を有する板の一方の面に第1凹球面、他方の面に第1凸球面を同心状に有する第1部品と、
前記第1凸球面に当接する第2凹球面を有する第2部品と、
前記第1凹球面に当接する第2凸球面を有する第3部品と、
前記第1凸球面と前記第2凹球面とが当接して第1当接面を構成し、かつ前記第1凹球面と前記第2凸球面とが当接して第2当接面を構成した状態で、前記第1部品および前記第2部品および前記第3部品を貫通して配設され、かつ前記スプリングが係止されて、前記第1当接面の当接面相互間および前記第2当接面の当接面相互間に前記スプリング荷重を印加した状態に前記第1部品および前記第2部品および前記第3部品を組み付ける第4部品を有し、
前記特定の緯度範囲に配置される前記当接面は、前記第1当接面および前記第2当接面のいずれか一方または両方に構成されている請求項1から5のいずれか1つに記載のピボット構造。
【請求項7】
前記第1部品、前記第2部品、前記第3部品の少なくとも1つは、前記第1凹球面、前記第1凸球面、前記第2凸球面、前記第2凹球面の少なくとも1つを構成する摺動部品を別体で有する請求項6に記載のピボット構造。
【請求項8】
前記ピボット構造は、手動格納式車両用アウターミラーにおいて、ミラーベースにミラーボデーを格納および展開可能かつ傾動可能に連結支持するピボットの構造である請求項1から7のいずれか1つに記載のピボット構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、凹球面と凸球面どうしをスプリング荷重で押圧当接して当接面間に摺動抵抗を生じさせ、該摺動抵抗に抗する外力により該当接面間が摺動して凹球面と凸球面が相互に回動および傾動可能となるように構成したピボット(以下「本発明対象ピボット」という場合がある)の構造に関し、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
本発明対象ピボットが特許文献1~3に記載されている。これら文献に記載のピボットにおいては、スプリング荷重(スプリングの撓みにより発生する力)を両球面の当接面で支持することにより該当接面間に押圧力を付与して摺動抵抗(当接面どうしの摺動を阻止する摩擦力)を生じさせる。これにより、該ピボットにおいては、外力により該摺動抵抗以下の摺動力(摺動させる力)が両球面間に掛かっても両球面どうしは摺動しない。一方、外力により該摺動抵抗よりも大きい摺動力が両球面間に掛かかると両球面どうしが摺動して、凹球面と凸球面は相互に回動(球の中心を通る所定の仮想直線の周り方向の運動)または傾動(球の中心の周り方向の運動、「揺動」ともいう)する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-180380号公報
【文献】実開昭61-026647号公報
【文献】実開平1-089247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1に記載の手動格納式車両用アウターミラーにおいては、車両のドアに固定されたミラーベースに、ピボットを介してミラーボデー(ミラー板を保持する部分)が回動および傾動可能に支持された構成を有する。ミラーベースに対してミラーボデーを摺動抵抗に抗して手動操作で回動させることにより、ミラーボデーを展開位置(使用位置)または格納位置(非使用位置)に変位させ、該変位させた位置で手動操作を解除することにより、摺動抵抗によりミラーボデーを該変位した位置に停止させた状態を維持することができる。また、展開位置では、ミラーボデーを摺動抵抗に抗して手動操作で微回動および微傾動させてミラー角度を調整し、該調整した位置で手動操作を解除することにより、摺動抵抗によりミラー角度を該調整した角度に維持することができる。
【0005】
本発明対象ピボットにおいては、凹球面と凸球面の当接位置について、適切な当接位置が理論的に解明されてなく、当接位置の設計は設計者の経験に基づくカンとコツに依存して行われていた。このような従来設計は、摺動トルク(摺動抵抗に抗して当接面を摺動させるのに必要な外力によるトルク)が製造誤差や経年変化の影響を受けやすかった。このため、ピボットを組み付けたときに、必要な摺動トルクが得られなかったり、経年変化によって摺動トルクが低下する等の不具合が生じることがあった。これらの不具合は、例えば手動格納式車両用アウターミラーにおいては、走行時の風圧でミラーボデーが展開位置から格納位置方向にひとりでに回転してしまう等の問題を引き起こす。そこで、従来はこれらの不具合に対して、その都度設計変更や不具合品の修正(修理)を行っていた。あるいは、製造誤差や経年変化を見越してスプリング荷重を高めに設定して、製造誤差や経年変化があっても走行時の風圧でミラーボデーがひとりでに回転しないようにすることも考えられる。しかし、スプリング荷重を高めに設定すると、手動操作に大きな力が必要になったり部品の強度を高める必要が生じる等の不都合をもたらす。
【0006】
この発明は、本発明対象ピボットについて、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できる凹球面と凸球面の当接位置を理論的に解明するとともに、該解明された当接位置を有するピボット構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のピボット構造は、凹球面と、前記凹球面に当接して該凹球面と相互に摺動する凸球面と、前記凹球面と前記凸球面の間にスプリング荷重を印加して該両球面の相互の当接面間に押圧力を付与するスプリングとを具え、前記両球面は、該両球面が属する仮想球面を構成する仮想球体の中心を通りかつ前記スプリング荷重の方向に延びる仮想直線の周り方向に相互に回動可能にかつ該仮想球体の中心の周り方向に相互に傾動可能に配置されており、前記仮想直線が前記仮想球面と交差する点を緯度θが0度の極位置、該極位置から前記仮想球体の中心の周り方向に該仮想球面を緯度方向に90度移動した位置を緯度θが90度の赤道位置とそれぞれ定義して、前記相互の当接面は前記仮想球面の前記極位置から前記赤道位置の間の特定の緯度範囲に配置されており、前記凹球面と前記凸球面のうち前記傾動の際に前記仮想直線を伴って傾動する側の球面は、前記特定の緯度範囲を該特定の緯度範囲の範囲外から区画する径方向に突出した突出面を有し、前記凹球面と前記凸球面は前記突出面において相互に当接して前記当接面を構成し、前記特定の緯度範囲の前記極位置側の端部の緯度をθ1、該特定の緯度範囲の前記赤道位置側の端部の緯度をθ2とそれぞれ定義し、かつ、緯度係数Cを後述する式(9)のように定義して、前記緯度θ1,θ2は、C値すなわち前記緯度係数Cの値を0.45≦C<0.5にする角度に設定され、かつ前記緯度θ1は、θ2-θ1=5度に設定したときに前記C値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定されているものである。
【0008】
これによれば、凹球面と凸球面のうち傾動の際に仮想直線を伴って傾動する側の球面は、特定の緯度範囲を該特定の緯度範囲の範囲外から区画する径方向に突出した突出面を有し、凹球面と凸球面は該突出面において相互に当接して当接面を構成する。しかもこの発明の要件を満たす凹球面と凸球面の相互の当接面の緯度範囲θ2-θ1は比較的狭い。したがって、多少の製造誤差があっても、ピボットを組み付けたときに、凹球面と凸球面を該緯度範囲で当接させるのが容易になり、摺動トルクの設計値からのずれを抑制することができる。また、緯度θ1,θ2は、C値を0.45≦C<0.5にする角度に設定されているので、仮想直線の周り方向について比較的大きな摺動トルクが得られる。しかも、θ1は、θ2-θ1=5度に設定したときにC値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定されているので、経年変化による摺動トルクの変動を抑制することができる。すなわち、本発明者の解析によれば、経年変化による摺動トルクの変動は、後述するように、スプリング荷重を支持する相互の当接面の移動(該当接面の緯度の変化)によって生じることがわかった。すなわち、該当接面の移動は、該当接面の極位置側の端部が基点(固定点)となって赤道位置側の端部が極位置側に移動するようにして生じる。このため、経年変化によって、該当接面の極位置側の端部の緯度は設計値(当初設定された値)θ1から変化せず、該当接面の赤道位置側の端部の緯度は設計値θ2からθ1に近づくように変化する。したがって、緯度θ1は、当接面の緯度範囲θ2-θ1がある程度小さくてもC値を0.45以上に維持できるような値に設定するのが望ましい。例えば、緯度θ1を、θ2-θ1=5度に設定したときにC値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定すれば、スプリング荷重を支持する該当接面の赤道位置側の端部の緯度が当初設定したθ2から経年変化によってθ1に近づいても、少なくとも、θ2-θ1=5度に到達するまで(当初にθ2-θ1=5度に設定した場合を含む)、C値を0.45以上に維持することができる。その結果、経年変化による摺動トルクの変動を抑制することができる。また、経年変化により当接面の赤道位置側の端部の緯度が設計値θ2からθ1に近づくといっても、該当接面がなくなるまでは(つまり、θ2=θ1となるまでは)近づくことはできない。したがって、例えば、当初に当接面の緯度範囲θ2-θ1を5度以上に設定した場合に、経年変化があっても当接面の緯度範囲θ2-θ1が5度未満に低下しない場合には、緯度θ1を、θ2-θ1=5度に設定したときにC値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定することにより、C値を0.45以上に維持し続けることができる。
【0009】
この発明は、前記緯度θ1,θ2の値が、30度≦θ1≦55度、35度≦θ2≦60度、5度≦θ2-θ1≦30度、の全ての条件を満たすように設定されているものとすることができる。これによれば、緯度θ1,θ2は0.45≦C<0.5を満たす角度となり、かつ緯度θ1は、θ2-θ1=5度であるときにC値を0.45≦C<0.5にする角度となる。したがって、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制することができる。また、相互の当接面の緯度範囲θ2-θ1が5度以上に設定されているので、該当接面の緯度範囲θ2-θ1がより狭く設定される場合に比べて、該当接面の面圧(スプリング荷重により該当接面の単位面積当たりに加わる圧力)が過大になって当接面に摩耗、欠け等の破損が生じるのを抑制できる。
【0010】
この発明は、前記緯度θ1,θ2の値が、40度≦θ1≦55度、45度≦θ2≦60度、5度≦θ2-θ1≦20度、の全ての条件を満たすように設定されているものとすることができる。これによれば、緯度θ1,θ2は0.45≦C<0.5を満たす角度となり、かつ緯度θ1は、θ2-θ1=5度であるときにC値を0.45≦C<0.5にする角度となる。しかも、緯度θ1,θ2の値が、30度≦θ1≦55度、35度≦θ2≦60度、5度≦θ2-θ1≦30度、の全ての条件を満たすように設定されている場合に比べて、経年変化による摺動トルクの低下をさらに抑制することができる。
【0011】
この発明は、前記緯度θ1,θ2の値が、40度≦θ1≦45度、45度≦θ2≦55度、5度≦θ2-θ1≦15度、の全ての条件を満たすように設定されているものとすることができる。これによれば、緯度θ1,θ2は0.45≦C<0.5を満たす角度となり、かつ緯度θ1は、θ2-θ1=5度であるときにC値を0.45≦C<0.5にする角度となる。しかも、緯度θ1,θ2の値が、40度≦θ1≦55度、45度≦θ2≦60度、5度≦θ2-θ1≦20度、の全ての条件を満たすように設定されている場合に比べて、経年変化による摺動トルクの変動をさらに抑制することができる。
【0012】
この発明は、前記凹球面と前記凸球面のうち前記傾動の際に前記仮想直線を伴って傾動する側の球面を構成する前記突出面の全体が、該傾動によっても該相手側の球面との当接を維持するように(すなわち、傾動によって突出面の一部の領域が相手側の球面との当接を外れることがないように)、該相手側の球面の領域の大きさが設定されているものとすることができる。これによれば、傾動によって当接面の緯度(仮想球面上の緯度)は変動しないので、傾動角度による摺動トルクの変動を抑制することができる。
【0013】
この発明は、所定の板厚を有する板の一方の面に第1凹球面、他方の面に第1凸球面を同心状に有する第1部品と、前記第1凸球面に当接する第2凹球面を有する第2部品と、前記第1凹球面に当接する第2凸球面を有する第3部品と、前記第1凸球面と前記第2凹球面とが当接して第1当接面を構成し、かつ前記第1凹球面と前記第2凸球面とが当接して第2当接面を構成した状態で、前記第1部品および前記第2部品および前記第3部品を貫通して配設され、かつ前記スプリングが係止されて、前記第1当接面の当接面相互間および前記第2当接面の当接面相互間に前記スプリング荷重を印加した状態に前記第1部品および前記第2部品および前記第3部品を組み付ける第4部品を有し、前記特定の緯度範囲に配置される前記当接面は、前記第1当接面および前記第2当接面のいずれか一方または両方に構成されているものとすることができる。これによれば、特許文献1~3に記載されたような、同心で当接面の半径が異なる内外2組のピボットを有する機構について、この発明を適用することができる。
【0014】
前記第1部品、前記第2部品、前記第3部品の少なくとも1つは、前記第1凹球面、前記第1凸球面、前記第2凸球面、前記第2凹球面の少なくとも1つを構成する摺動部品を別体で有するものとすることができる。これによれば、第1凹球面、第1凸球面、第2凸球面、第2凹球面の少なくとも1つをスペーサ等の摺動部品で構成することができる。
【0015】
この発明は、前記ピボット構造は、手動格納式車両用アウターミラーにおいて、ミラーベースにミラーボデーを格納および展開可能かつ傾動可能に連結支持するピボットの構造であるものとすることができる。これによれば、製造誤差や経年変化が原因となって、走行時の風圧でミラーボデーが展開位置から格納位置方向にひとりでに回転するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】この発明のピボット構造を手動格納式車両用アウターミラーの第1当接面および第2当接面の両方に適用した実施の形態1を示す断面図であり、ミラーボデーが展開位置にあり、かつミラーボデーの傾動角度が0度の状態で、仮想直線が属する平面で切断した断面図である。
【
図1B】
図1Aの手動格納式車両用アウターミラーについて、ミラーボデーを左方向に最大角度まで傾動させた状態を示す断面図であり、
図1Aと同じ位置の断面を示す。
【
図1C】
図1Aの手動格納式車両用アウターミラーについて、ミラーボデーを右方向に最大角度まで傾動させた状態を示す断面図であり、
図1Aと同じ位置の断面を示す。
【
図2】ピボットの凹球面および凸球面が属する仮想球面上の当接面を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図2の当接面の微小面積における摺動トルクの説明図である。
【
図4】
図2の当接面のθ1,θ2の角度の組合せごとに算出した緯度係数Cの値を示す図表である。
【
図6A】
図6A~
図6Cは、ピボットにおける凹球面および凸球面の当接面の設定例および本発明者の解析による該当接面の経年変化を説明する模式図である。このうち、
図6Aは凹球面と凸球面の製造後・組付け前(嵌合して当接する直前)の状態を示す図である。
【
図6B】
図6Aの状態に続いて、凹球面と凸球面を嵌合させて組付けて、スプリング荷重を該凹球面と該凸球面の当接面に印加した状態を示す図である。
【
図6C】
図6Bの状態に続いて、実使用により当接面に経年変化が生じた状態を示す図である。
【
図7】
図5の一部のグラフについて、一部の領域を拡大して示す図である。
【
図8】
図7の一部のグラフの一部の領域を示す図である。
【
図9A】
図1Aに示すこの発明の実施の形態1に係る手動格納式車両用アウターミラーの分解斜視図である。
【
図10】この発明の実施の形態2を示す断面図で、
図1Aに示す構成について、第1当接面および第2当接面のうちの第1当接面のみにこの発明のピボット構造を適用するように変更した構成を示す。
【
図11】この発明の実施の形態3を示す断面図で、
図1Aに示す構成について、第1当接面および第2当接面のうちの第2当接面のみにこの発明のピボット構造を適用するように変更した構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を説明する。はじめに、本発明対象ピボットの一例について、本発明者の解析による凹球面と凸球面の適切な当接位置、すなわち製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できる凹球面と凸球面の当接位置について説明する。
【0018】
図2は仮想球体10を示す。この仮想球体10は本発明対象ピボットの凹球面と凸球面が属する仮想球面12を構成する。仮想球体10の半径はrである。仮想球体10の中心14を通りかつスプリング荷重Wの方向に延びる仮想直線を直線16で表す。仮想直線16が仮想球面12と交差する点を極位置18とする。極位置18から仮想球面12を緯度方向に90度移動した位置を赤道位置20とする。極位置18を0度、赤道位置20を90度とする仮想球面12上の緯度方向の角度をθとする。すなわち、この緯度θは、地球の極位置(緯度90度)、赤道位置(緯度0度)の緯度の定義とは逆向きの角度である。仮想直線16の周り方向すなわち経度方向の角度をφとする。
【0019】
図2、
図3に基づいて本発明対象ピボットの摺動トルクTを説明する。ここでいう摺動トルクTは、スプリング荷重Wによってピボットの凹球面と凸球面の当接面(摺動面)間に生じる摩擦力(摺動抵抗)Fに抗して、該凹球面と該凸球面どうしを仮想直線16の周り方向すなわち経度方向に相対回転させるのに必要なトルクである。すなわち、前述した手動格納式車両用アウターミラーについていえば、摺動トルクTはミラーボデーを展開位置と格納位置との間で回動させるのに必要なトルク(可倒トルクともいう)である。
【0020】
図2において、仮想球面12上の微小面積dSは式(1)で表される。
【数1】
【0021】
ピボットの凹球面と凸球面どうしが
図2の当接面22(グレーで示した箇所)で当接するものとする。この当接面22は、緯度方向に極位置18側の端部の緯度θ1から赤道位置20側の端部の緯度θ2までの幅を有し、かつ仮想直線16の周り方向(経度方向)を一周する球帯の全面で構成される。当接面22の面積Sは、式(1)を緯度方向にθ1からθ2まで積分し、かつ仮想直線16の周り方向に全周積分して、式(2)として求められる。
【数2】
【0022】
図3は当接面22の微小面積dSにおける摺動トルクdTの説明図である。
図3において、z軸はスプリング荷重Wの方向(仮想直線16に沿った方向)、x軸およびy軸は相互に直交しかつ共に仮想球体10の中心14を原点としてz軸に直交する方向の軸である。ここで、当接面22の摩擦力Fに寄与するスプリング荷重Wの成分(当接面22に直交する方向の成分)をNとする。当接面22の微小面積dSに印加されるスプリング荷重dWは式(3)で表される。
【数3】
【0023】
また、微小面積dSにおける摩擦力dFに寄与するスプリング荷重dWの成分(微小面積dSに直交する方向の成分)dNは式(4)で表される。
【数4】
【0024】
微小面積dSにおける摩擦力dFは、当接面22の摩擦係数をμとして、
dF=μ・dN
で表されるから、摩擦力dFは式(1)(3)(4)を利用して、式(5)として求められる。
【数5】
【0025】
微小面積dSにおける摺動トルクdT(仮想直線16の周り方向すなわち経度φの方向に摺動させるのに必要なトルク)は、
dT=dF・r・sinθ
で表されるから、摺動トルクdTは式(5)を利用して式(6)として求められる。
【数6】
【0026】
当接面22の全体の摺動トルクTは、式(6)を緯度方向にθ1からθ2まで積分し、かつ仮想直線16の周り方向すなわち経度φの方向に全周積分して、式(7)として求められる。
【数7】
【0027】
ここで、t=sinθとおくと、dt=cosθdθであるから、式(7)は式(8)のように変形される(Aは積分定数)。
【数8】
【0028】
ここで、緯度係数Cとして式(9)を定義する。
【数9】
【0029】
式(8)は式(9)を利用して式(10)のように変形される。
【数10】
【0030】
式(10)においてr、μ、Wはそれぞれ定数であるから、摺動トルクTは緯度係数Cの関数であり、緯度係数Cが大きいほど摺動トルクTは大きくなる。また、緯度係数Cは式(9)のとおり緯度θ1,θ2の関数であるから、摺動トルクTは緯度θ1,θ2の関数である。そこで、緯度θが0度(極位置18)~90度(赤道位置20)の範囲について、式(9)により緯度θ1,θ2(θ1<θ2)の角度の組合せごとの緯度係数Cを算出した。算出結果を
図4に示す。
図5はこの算出結果を線グラフで示したものである。すなわち、
図5は、緯度θ2を横軸にとり、緯度θ1ごとの緯度係数Cの値(「C値」という場合がある)を線グラフで示している。
図4および
図5からわかるように、C値は0<C<0.5の範囲で変化する。当接面22が極位置18に近くにあるとき(θ1,θ2が0度に近いとき)は、摺動半径r・sinθが小さくなるのでC値は小さくなる(摺動トルクTが小さくなる)。当接面22が赤道位置20に近いとき(θ1,θ2が90度に近いとき)も、スプリング荷重Wの当接面22に直交する方向の成分が小さくなるのでC値は小さくなる(摺動トルクTが小さくなる)。当接面22が緯度45度付近にあるとき(θ1,θ2が45度に近いとき)がC値が最も高くなる(摺動トルクTが大きくなる)。なお、当接面22の面積Sは摺動トルクTに大きく影響しない。すなわち、当接面22の面積Sによって面圧(単位面積当たりに加わる圧力)が変わっても、当接面22の全体に掛かる荷重はWで一定なので、当接面22の面積Sが変化しても摺動トルクTは変化しない。ただし、当接面22の面積Sが変わると必然的に当接面22の緯度が変わるので、この緯度の変化による摺動トルクTの変化は生じる。
【0031】
ここで、
図6A~
図6Cを参照して、凹球面と凸球面どうしがスプリング荷重Wを受けて当接する構造を有するピボットの当接面の設定例および該当接面の経年変化について説明する。
図6Aはピボット23について、凹球面24と凸球面26の製造後・組付け前(嵌合して当接する直前)の状態を示す。ここでは、ピボット23が手動格納式車両用アウターミラーのピボットである場合を示す。凹球面24はミラーボデー28に構成され、凸球面26はミラーベース30に構成されている。凸球面26は概ね半球(球をその中心を通る平面で切断した球冠)で構成されている。凹球面24は凸球面26に対して球の中心の周り方向に傾動可能なように、凸球面26よりも高さが低い球冠で構成されている。凸球面26の頂部には、ピボット23を組み付けるためのシャフト(例えばボルト)を通すための開口部32が形成されている。ミラーボデー28およびミラーベース30の製造時のばらつきによらず凹球面24と凸球面26が赤道付近で当接するように、凹球面24の半径r2と凸球面26の半径r1は、僅かにr1>r2となるように設定されている。
【0032】
図6Bは、
図6Aの状態からスプリング力(スプリング荷重W)がミラーボデー28とミラーベース30の間に加わった状態を示す。この押圧力による凹球面24と凸球面26の弾性変形により凹球面24と凸球面26どうしが嵌合する。その結果、凹球面24と凸球面26どうしは相互に対向する面の全面で当接する。この当接面22は緯度方向にθ1~θ2の幅を有する。緯度θ1は、凹球面24を構成する球冠の極位置(θ=0度の頂点位置)に対する凸球面26の開口部32の外縁の緯度である。緯度θ2は、凹球面24を構成する球冠の下端位置(赤道側端部位置)の緯度である。なお、
図6B、
図6Cは、凹球面24と凸球面26との間に傾動がない状態(両球面の頂点が一致した状態)を示している。
【0033】
図6Cは、
図6Bの状態から実使用による経年変化が生じた状態を示す。継続的なスプリング荷重Wの印加に加え、熱などによる許容応力の低下により、ミラーボデー28に塑性変形が生じる。本発明者の解析によれば、この塑性変形は、
図6Cに示すように、凹球面24の極位置側の端部(すなわち凸球面26の開口部32の外縁位置、緯度θ1)が基点(固定点)となって赤道側が外方に拡がる変形である。したがって、経年変化によって、当接面22の極位置側端部の緯度θ1は変化せず、当接面22の赤道側端部の緯度θ2が頂点側に移動していく。すなわち、当接面22が極位置側に集中してくる。その結果、摺動半径r・sinθ(仮想直線16の周り方向の半径)が小さくなるのでC値は小さくなり、摺動トルクが小さくなる。つまり、経年変化によってトルクダウンが生じる。その結果、走行時の風圧でミラーボデー28が展開位置から格納位置方向にひとりでに回転する現象が生じる。
【0034】
次に、
図4のC値の算出結果および該算出結果を線グラフで示した
図5、加えて
図6A~
図6Cで説明した当接面22の経年変化の現象に基づいて、凹球面と凸球面の適切な当接位置、すなわち製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できる凹球面と凸球面の当接位置を求める。
【0035】
図5によれば、C値が例えば0.45以上(0.45≦C<0.5)となるように緯度θ1,θ2を設定すれば、緯度θ1の値にかかわらず緯度θ2の変化に対するC値の変化勾配が小さいから、緯度θ1,θ2に多少の製造誤差があっても、C値の誤差を小さく抑えることができる。
図4の表において、グレーで塗り潰した領域は、C値が0.45以上となる緯度θ1,θ2の組合せを示す。ただし、経年変化によって緯度θ2がθ1に近づいてくることを考慮すると、緯度θ1は、当接面の緯度範囲θ2-θ1がある程度小さくてもC値を0.45以上に維持できるような値に設定するのが望ましい。例えば、緯度θ1を、θ2-θ1=5度に設定したときにC値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定すれば、経年変化があっても、少なくともθ2-θ1=5度に到達するまで(当初にθ2-θ1=5度に設定した場合を含む)、C値は0.45以上(0.45≦C<0.5)に維持される。また、経年変化によりθ2がθ1に近づくといっても、当接面22がなくなるまでは(つまり、θ2=θ1となるまでは)近づくことはできない。したがって、例えば、したがって、例えば、当初に当接面22の緯度範囲θ2-θ1を5度以上に設定した場合に、経年変化があっても当接面22の緯度範囲θ2-θ1が5度未満に低下しない場合には、緯度θ1を、θ2-θ1=5度に設定したときにC値を0.45≦C<0.5にするような角度に設定することにより、C値を0.45以上に維持し続けることができる。
図4において、太線枠内は、緯度θ1,θ2の組合せがC値を0.45以上(0.45≦C<0.5)にし、かつ緯度θ1が、θ2-θ1=5度のときにC値を0.45以上(0.45≦C<0.5)にする条件を満たす緯度θ1の角度範囲と緯度θ2の角度範囲の組合せの領域を示す。これによれば、緯度θ1,θ2の値を、以下の設定例1の全ての条件を満たすように設定すれば、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制することができる。なお、
図7は、
図5のθ1が30度~55度のグラフについて、C値が0.45~0.5、緯度θ2が35度~60度の領域を拡大して示す(
図7の太線枠内)。
《設定例1》
・30度≦θ1≦55度
・35度≦θ2≦60度
・5度≦θ2-θ1≦30度
【0036】
次に、
図8は、
図7のθ1が40度~55度のグラフについて、C値が0.45~0.5、緯度θ2が45度~60度の領域を示す(
図8の太線枠内)。これによれば、緯度θ1,θ2の値を、以下の設定例2の全ての条件を満たすように設定すれば、経年変化による緯度θ2の減少に対するC値の低下が概ねないので(むしろ経年変化による緯度θ2の減少に対してC値が増大する場合が多い)、設定例1(
図7)に比べて経年変化による摺動トルクの低下をより抑制することができる。
《設定例2》
・40度≦θ1≦55度
・45度≦θ2≦60度
・5度≦θ2-θ1≦20度
【0037】
さらに、
図8の破線枠内は、θ1が40度~45度のグラフについて、緯度θ2が45度~55度の領域を拡大して示す。これによれば、緯度θ1,θ2の値を、以下の設定例3の全ての条件を満たすように設定すれば、設定例2(
図8の太線枠内)に比べてC値の変動幅が小さいので、経年変化による摺動トルクの変動をより抑制することができる。
《設定例3》
・40度≦θ1≦45度
・45度≦θ2≦55度
・5度≦θ2-θ1≦15度
【0038】
《実施の形態1》
以上の解析に基づいて凹球面と凸球面の当接位置を設定したこの発明のピボット構造の実施の形態1を説明する。ここではこの発明を、手動格納式車両用アウターミラー(ドアミラー)においてミラーベースにミラーボデーを回動および傾動可能に支持するピボットに適用した場合について説明する。
図9Aは、この発明が適用された手動格納式車両用ドアミラー34(右側ドアミラー)を分解して示す。手動格納式車両用ドアミラー34は、車両のドアに固定されたミラーベース38に、この発明が適用されたピボット39を介してミラーボデー36が手動操作で回動および傾動可能に支持した構成を有する。すなわち、ミラーボデー36は一点鎖線16(仮想直線に相当)の周り方向に回動可能に、またピボット39の仮想球体の中心14の周りの全方向に傾動可能にミラーベース38に支持されている。ミラーベース38は強化樹脂(例えばガラス繊維強化ナイロン樹脂)または金属で作られている。ミラーボデー36はPP(ポリプロピレン樹脂)等で作られている。ミラーボデー36の前面開口部36aには図示しないミラー板が嵌め込み固定(いわゆる嵌め殺し)される。ミラーベース38に対してミラーボデー36を摺動抵抗に抗して手動操作で一点鎖線16の周り方向に回動させることにより、ミラーボデー36を展開位置または格納位置に変位させることができる。該変位させた位置で手動操作を解除することにより、摺動抵抗によりミラーボデー36を該変位した位置に停止した状態に維持することができる。また、展開位置では、ミラーボデー36を摺動抵抗に抗して手動操作で微回動(仮想直線16の周り方向)および微傾動(ピボット39の仮想球体の中心14の周り方向)させてミラー角度を調整することができる。該調整した位置で手動操作を解除することにより、摺動抵抗によりミラー角度を該調整した角度に維持することができる。
【0039】
ミラーベース38(第1部品に相当)の先端部には半球部40が上方に突出して一体に形成されている。半球部40は所定の板厚を有し、上面(オモテ面)が第1凸球面42を構成し、下面(ウラ面)が第1凹球面44を構成する。第1凸球面42と第1凹球面44は仮想球体の中心14を中心として同心状に配置されている。第1凸球面42と第1凹球面44はいずれも凹凸のない平滑面で構成されている(
図1A)。半球部40の頂部には、ピボット39を組み付けるためのボルト46(シャフト、軸棒)を差し込む開口部48が形成されている。ボルト46の中心軸は仮想直線16を構成する。開口部48は、ミラーベース38に対してミラーボデー36を回動および傾動可能にするために、ボルト46の軸部46Bの径よりも大径に形成されている。
【0040】
ミラーボデー36の下面の左コーナー部には、下方に開口した凹所50が形成されている。ミラーボデー36の内部空間51(前面開口部36aをミラー板で塞いで閉じられる空間)の底部には凹所50を反映した平面円形の山部53が形成されている(
図1A)。凹所50にはスペーサ52(第2部品に相当)が収容される。スペーサ52は例えばミラーボデー36と同じ樹脂材料(例えばPP)の薄板で作られ、摺動部品を構成する。スペーサ52はミラーベース38の半球部40よりも高さが低い半球状に構成されている。スペーサ52の上面頂部には平面四角形状の凸部54が突出形成されている。スペーサ52をミラーボデー36の凹所50に収容したときに、凸部54は凹所50の天井面に形成された平面四角形状の凹部50a(
図1A)に嵌め込まれる。これにより、スペーサ52はミラーボデー36に不動に組み付けられて一体化される。スペーサ52を組み付けたミラーボデー36は第2部品に相当する。ミラーボデー36の凹所50の天井面の頂部(山部53の頂部)には角穴56が形成されている。一方、スペーサ52の頂部には丸穴58が形成されている。スペーサ52をミラーボデー36に取り付けた状態で角穴56と丸穴58は相互に連通し、ボルト46の軸部46Bを挿通させる(
図1A)。このとき、ボルト46の軸部46Bは角穴56に対し軸回り方向に係合する。これにより、ミラーボデー36とボルト46の軸周り方向(仮想直線16の周り方向)の相対回転は係止される。なお、ボルト46の軸部46Bはスペーサ52の丸穴58に対し軸回り方向に係合していないが、スペーサ52はその平面四角形状の凸部54がミラーボデー36の平面四角形状の凹部50aに嵌め込まれているので、スペーサ52とボルト46の軸周り方向(仮想直線16の周り方向)の相対回転も禁止されている。
【0041】
図9Bはスペーサ52の底面図を示す。スペーサ52の裏面52aは全体として半球状の凹面に形成されている(
図1A)。裏面52aには、半球の頂点位置(仮想直線16の位置)を極位置として緯度方向の途中位置に球帯状の突出面60が極位置の周り方向の全周に連続して突出形成されている。突出面60は第2凹球面を構成し、その全面でムラなくミラーベース38の第1凸球面42に当接して摺動する(
図1A)。第2凹球面60と第1凸球面42の組合せは第1当接面62を構成する。
【0042】
図9Aにおいて、キャップ64(第3部品に相当)はPOM(ポリアセタール樹脂)等の摺動性の高い材料で作られている。キャップ64は球体を半球よりも高さを低く切断した球冠で構成される。キャップ64にはその中心軸に沿って貫通する角穴66が形成されている。角穴66にはボルト46が挿通される。ボルト46の軸部46Bは角穴66に対し軸回り方向に係合する。これにより、ボルト46とキャップ64の軸周り方向(仮想直線16の周り方向)の相対回転は係止される。キャップ64の上面64aには、球冠の頂点位置を極位置として緯度方向の途中位置に球帯状の突出面68が極位置の周り方向の全周に連続して突出形成されている。突出面68は第2凸球面を構成し、その全面でムラなくミラーベース38の第1凹球面44に当接して摺動する(
図1A)。第1凹球面44と第2凸球面68の組合せは第2当接面70を構成する。
【0043】
上プレート72は下向きの円形皿状に構成された金属部品で、キャップ64の下側に配置されて、スプリング76(コイルスプリング)の上端面を受ける。上プレート72の平面中央部には角穴74が形成されている。角穴74にはボルト46が挿通される。ボルト46の軸部46Bは角穴74に対し軸回り方向に係合する。これにより、ボルト46と上プレート72の軸周り方向(仮想直線16の周り方向)の相対回転は係止される。
【0044】
下プレート78は円形平板状の金属部品で、スプリング76の下側に配置されて、スプリング76の下端面を受ける。下プレート78の平面中央部には丸穴80が形成されている。丸穴80にはボルト46が挿通される。ボルト46の軸部46Bは丸穴80に対し軸周り方向に係合しない。下プレート78の下側にはナット82が配置される。ナット82にはボルト46の軸部46Bの先端のねじ部46Bdがねじ込まれる(
図1A)。ボルト46、上プレート72、下プレート78、ナット82は第4部品に相当する。
【0045】
図9Cは斜め下側から見たボルト46の構造を示す。ボルト46は次のように構成されている。ボルト46は金属製で全体が一体に構成されている。ボルト46は頭部46Aと軸部46Bを有する。頭部46Aは下向きの円形皿状に構成され、ミラーボデー36の内部の山部53の頂部に被さる(
図1A)。軸部46Bは、頭部46Aに近い側から、大角柱部46Ba、円柱部46Bb、小角柱部46Bc、ねじ部46Bdを同軸上に順次配列して構成されている。
【0046】
以上説明した
図9Aの手動格納式車両用ドアミラー34は次のようにして組み立てられる。ミラーボデー36の下面の凹所50にスペーサ52を装着する。ミラーベース38の半球部40の上面側にスペーサ52を位置決めしてミラーベース38にミラーボデー36を載置支持する。相互に連通した山部53の角穴56、スペーサ52の丸穴58、半球部40の開口部48に上方からボルト46の軸部46Bを挿通させる。ボルト46の頭部46Aは山部53に被さって係止される。ボルト46の軸部46Bは半球部40の裏面側に突出する。この突出した軸部46Bにキャップ64、上プレート72、スプリング76、下プレート78を順次差し込む。さらに、下プレート78から下方に突出したねじ部46Bdにナット82をねじ込み、スプリング76を所定の状態(所定の摺動抵抗が得られる状態)に圧縮する。これで手動格納式車両用ドアミラー34の組立は完了する。
【0047】
図1Aは以上のようにして組み立てられた手動格納式車両用ドアミラー34を示す。
図1Aは、ミラーボデー36がミラーベース38に対して展開位置にありかつミラーボデー36の傾動角度が0度の状態で、手動格納式車両用ドアミラー34を、ミラー面に平行でかつ仮想直線16が属する平面で切断した断面を示している。仮想直線16はピボット39の仮想球体の中心14を通りかつスプリング76によるスプリング荷重Wの方向(ここではボルト46の軸方向)に延びる直線に相当する。また、ミラーボデー36の傾動角度はピボット39の仮想球体の中心14を通りかつミラーベース38の所定の基準面31(ここでは、ミラーベース38の上向き平面が属する平面に該当、以下「ミラーベース基準面」という)に直交する垂線17(ミラーボデー36の傾動角度の基準線)に対する仮想直線16の角度(
図1Aでは0度)に相当する。スプリング76の付勢力すなわちスプリング荷重Wにより、ミラーベース38の半球部40をその厚み方向にスペーサ52とキャップ64で挟み付けることにより、ミラーボデー36はミラーベース38に立設支持されている。このとき、スペーサ52は突出面60(第2凹球面)において、半球部40の外周面を構成する第1凸球面42に押圧当接する。また、キャップ64は突出面68(第2凸球面)において、半球部40の内周面を構成する第1凹球面44に押圧当接する。つまり、半球部40の外周面側の第1当接面62はスペーサ52の突出面60でその領域が区画され、半球部40の内周面側の第2当接面70は突出面68でその領域が区画されている。ここでは、仮想球体の中心14から仮想直線16の方向(
図1Aの上方向)を緯度θ=0度として、第1当接面62および第2当接面70の緯度範囲を、いずれも緯度40度から緯度60度の範囲に限定して設定している。すなわち、第1当接面62および第2当接面70の極位置側の端部の緯度θ1=40度、第1当接面62および第2当接面70の赤道位置側の端部の緯度θ2=60度に設定されている。ただし、第1当接面62および第2当接面70の緯度範囲を相互に異ならせる(緯度範囲の一部または全部を異ならせる、つまり緯度範囲の一部の範囲を重複させるまたは一部の範囲も重複させない)こともできる。なお、第1当接面62が属する仮想球面の極位置18-1および第2当接面が属する仮想球面の極位置18-2は仮想直線16上にある。また、極位置18-1に対する赤道位置20-1、および極位置18-2に対する赤道位置20-2は、ミラーボデー36の傾動角度が0度である
図1Aの姿勢ではミラーベース基準面31上にある。また、第1当接面62が属する仮想球面を構成する仮想球体の中心と第2当接面70が属する仮想球面を構成する仮想球体の中心は点14で共通である。この仮想球体の中心14は、この実施の形態では、ミラーベース基準面31と仮想直線16および傾動角度の基準線17が交差する点に位置する。
【0048】
図1Aにおいて、ミラーボデー36の角穴56はボルト軸部46Bの大角柱部46Baに軸回り方向に係合し、キャップ64の角穴66および上プレート72の角穴74はボルト軸部46Bの小角柱部46Bcに軸回り方向に係合している。また、スペーサ52の頂部の平面四角形状の凸部54はミラーボデー36の凹所50の天井面の頂部の平面四角形状の凹部50aに嵌め込まれて軸回り方向に係合している。一方、ボルト46の軸部46Bはミラーベース38の開口部48に通されているが、開口部48に軸回り方向に係合していない。したがって、ミラーベース38に対しミラーボデー36を仮想直線16の周り方向に回動させると、スペーサ52、キャップ64、上プレート72、スプリング76、下プレート78、ボルト46、ナット82はミラーボデー36と一体に回動する。また、ミラーベース38に対しミラーボデー36を仮想球体の中心14の周り方向に傾動させると、スペーサ52、キャップ64、上プレート72、スプリング76、下プレート78、ボルト46、ナット82はミラーボデー36と一体に傾動する。これら回動時および傾動時に、第1当接面62(第1凸球面42と第2凹球面60との当接面)および第2当接面70(第2凸球面68と第1凹球面44との当接面)はそれぞれ摺動する。
【0049】
図1Aのピボット39によれば、この発明に基づき、第1当接面62および第2当接面70の極位置18-1,18-2側の端部の緯度θ1=40度、第1当接面62および第2当接面70の赤道位置20-1,20-2側の端部の緯度θ2=60度に設定しているので、手動操作でミラーボデー36を展開位置または格納位置に変位させるときまたは手動でミラーボデー36を操作してミラー面の左右方向の角度を調整するときの仮想直線16の周り方向の摺動トルクTは、製造誤差や経年変化にかかわらず、概ね設計値を維持することができる。なお、手動でミラーボデー36を操作してミラー面の上下方向の角度調整をするときの傾動動作は仮想球体の中心14を傾動の中心とした前後方向の傾動動作となるので、第1当接面62における摺動半径は仮想球体の中心14から第1当接面62までの距離で一定であり、第2当接面70における摺動半径は仮想球体の中心14から第2当接面70までの距離で一定である。したがって、ミラー面の上下方向の角度調整時の仮想球体の中心14の周り方向の摺動トルクは製造誤差や経年変化の影響を受けない。ミラーボデー36を手動で操作してミラーボデー36を左右方向に傾動させる動作についても同様に、仮想球体の中心14を傾動の中心とした動作となるので、摺動トルクは製造誤差や経年変化の影響を受けない。
【0050】
ここで、ミラーボデー36を傾動させた姿勢で仮想直線16の周り方向に回動させるときの仮想直線16の周り方向の摺動トルクを説明する。
図1Bは、
図1Aの姿勢からミラーボデー36を左方向に最大角度(10度)まで傾動させた状態を示す。傾動角度の最大角度は、全傾動方向について、ボルト軸部46Bの円柱部46Bbが半球部40の頂部の開口部48の周壁面48aに当接するときの傾動角度として設定されている。このとき、第1当接面62において第2凹球面60(突出面)は依然としてその全面で第1凸球面42に当接する。また、第2当接面70において第2凸球面68(突出面)は依然としてその全面で第1凹球面44に当接する。次に、
図1Cは、
図1Aの姿勢からミラーボデー36を右方向に最大角度(10度)まで傾動させた状態を示す。このとき、第1当接面62において第2凹球面60(突出面)は依然としてその全面で第1凸球面42に当接する。また、第2当接面70において第2凸球面68(突出面)は依然としてその全面で第1凹球面44に当接する。ミラーボデー36を前後方向に最大角度(例えば前後各方向に10度以上の角度)まで傾動させたときも、第1当接面62において第2凹球面60(突出面)は依然としてその全面で第1凸球面42に当接し、第2当接面70において第2凸球面68(突出面)は依然としてその全面で第1凹球面44に当接する。このように、ミラーボデー36がいずれの方向に傾動しても、第1当接面62において第2凹球面60(突出面)は依然としてその全面で第1凸球面42に当接し、第2当接面70において第2凸球面68(突出面)は依然としてその全面で第1凹球面44に当接した状態が維持される。すなわち、第2凹球面60(突出面)および第2凸球面68(突出面)は、その一部の領域も第1凸球面42、第1凹球面44との当接を外れない。したがって、ミラーボデー36が傾動しても、第1当接面62および第2当接面70に緯度変化は生じないから、仮想直線16の周り方向の摺動トルクは変化しない。
【0051】
《実施の形態2》
この発明の実施の形態2を
図10に示す。実施の形態1(
図1A)では第1当接面62および第2当接面70の双方にこの発明による当接面の緯度範囲を適用したのに対し、実施の形態2では第1当接面にのみこの発明による当接面の緯度範囲を適用している。この相違点以外は実施の形態1,2の構成は同一である。実施の形態1,2に共通する箇所には共通の符号を用いる。
【0052】
図10において、スペーサ52の第2凹球面60は実施の形態1と同じく、極位置18-1に対して緯度40度から緯度60度の範囲の領域が突出面に形成されている。したがって、第1当接面62の緯度は、極位置側端部θ1=40度、赤道位置側端部θ2=60度である。一方、キャップ64’(第3部品に相当)の第2凸球面68’は、突出面のない面に形成されている。第2凸球面68’と第1凹球面44は相互に当接して第2当接面70’を構成する。極位置18-2に対する第2当接面70’の緯度範囲はこの発明に則らない。
【0053】
以上の構成により、
図10のピボット39’によれば、第1当接面、第2当接面のいずれにもこの発明による当接面の緯度範囲が適用されていないピボットに比べて、第1当接面62によりこの発明の、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できる効果が得られる。
【0054】
《実施の形態3》
この発明の実施の形態3を
図11に示す。実施の形態1(
図1A)では第1当接面62、第2当接面70の双方にこの発明による当接面の緯度範囲を適用したのに対し、実施の形態3では第2当接面にのみこの発明による当接面の緯度範囲を適用している。この相違点以外は実施の形態1,3の構成は同一である。実施の形態1,3に共通する箇所には共通の符号を用いる。
【0055】
図11において、キャップ64の第2凸球面68は実施の形態1と同じく、極位置18-2に対して緯度40度から緯度60度の範囲の領域が突出面に形成されている。したがって、第2当接面70の緯度は、極位置側端部θ1=40度、赤道位置側端部θ2=60度である。一方、スペーサ52’(第2部品に相当)の第2凹球面60’は、突出面のない面に形成されている。第2凹球面60’と第1凸球面42は相互に当接して第1当接面62’を構成する。極位置18-1に対する第1当接面62’の緯度範囲はこの発明に則らない。
【0056】
以上の構成により、
図11のピボット39”によれば、第1当接面、第2当接面のいずれにもこの発明による当接面の緯度範囲が適用されていないピボットに比べて、第2当接面70によりこの発明の、製造誤差による摺動トルクの設計値からのずれや経年変化による摺動トルクの変動を抑制できる効果が得られる。
【0057】
《変形例》
前記実施の形態では、ピボット構造の凹球面と凸球面の当接面を、緯度θ1からθ2までの幅を有し、かつ仮想直線の周り方向を一周する球帯の全面で(すなわちムラのない面で)構成したが、この発明は、C値がこの発明による条件に合致する限り、該球帯の一部に当接しない箇所が存在することを妨げるものではない。
【0058】
前記実施の形態では、ミラーボデー36に摺動部品としてのスペーサ52を装着して、スペーサ52で第2凹球面60を構成したが、摺動部品を装着せずに、ミラーボデー36に直接第2凹球面を形成することできる。すなわち、ミラーボデー36をPP樹脂等の摺動性の高い材料で作ることにより、そのような構成を容易に採用することができる。
【0059】
前記実施の形態では摺動部品を第2部品に組み付けたが、必要に応じて摺動部品を第1部品、第3部品に組み付けて凹球面、凸球面を構成することもできる。
【0060】
前記実施の形態では、ミラーベース38の半球部40がミラーベース基準面31から上向きに突出した凸形状に形成されている手動格納式車両用アウターミラーにこの発明を適用した場合について説明したが、この発明はミラーベースの半球部がミラーベース基準面から下向きに窪んだ凹形状に形成されている手動格納式車両用アウターミラーにも適用することができる。また、前記実施の形態ではスプリング76がミラーベース38の下側に配置されている手動格納式車両用アウターミラーにこの発明を適用した場合について説明したが、この発明はスプリングがミラーベースの上側に配置されている手動格納式車両用アウターミラーにも適用することができる。
【0061】
前記実施の形態では、この発明を手動格納式車両用アウターミラーとして手動格納式車両用ドアミラーに適用した場合について説明したが、この発明はサイドアンダーミラー(直前直左鏡)等の他の手動格納式車両用アウターミラー、車両用インナーミラーのピボット(車室天井とミラーステーを連結するピボット、ミラーステーとミラーハウジングを連結するピボット等)、その他の車載装置のピボット、車載装置以外の用途のピボットにも適用することができる。
【0062】
前記実施の形態では径が異なる同心の2組の凹球面と凸球面の組合せを有するピボットにこの発明を適用した場合について説明したが、この発明は凹球面と凸球面の組合せを1組のみ有するピボットにも適用することができる。また、この発明は、球の中心を挟んで対極側にそれぞれ凹球面と凸球面の組合せを有する2組のピボットのいずれか一方または両方のピボットに適用することもできる。
【符号の説明】
【0063】
10…仮想球体、12…仮想球面、14…仮想球体の中心、16…仮想直線、17…仮想球体の中心を通りかつミラーベース基準面に直交する垂線(ミラーボデーの傾動角度の基準線)、18,18-1,18-2…極位置、20,20-1,20-2…赤道位置、22…当接面、23…ピボット(ピボット構造)、24…凹球面、26…凸球面、28…ミラーボデー、30…ミラーベース、31…ミラーベース基準面、32…開口部、34…手動格納式車両用アウターミラー(手動格納式車両用ドアミラー)、36…ミラーボデー(第2部品)、36a…前面開口部、38…ミラーベース(第1部品)、39,39’,39”…ピボット(ピボット構造)、40…半球部、42…第1凸球面(凸球面)、44…第1凹球面(凹球面)、46…ボルト(第4部品)、46A…ボルトの頭部、46B…ボルトの軸部、46Ba…大角柱部、46Bb…円柱部、46Bc…小角柱部、46Bd…ねじ部、48…開口部、48a…開口部の周壁面、50…凹所、50a…凹部、51…内部空間、52,52’…スペーサ(摺動部品、第2部品)、52a…スペーサの裏面、53…山部、54…凸部、56…角穴、58…丸穴、60,60’…第2凹球面(凹球面、突出面)、62,62’…第1当接面、64,64’…キャップ(第3部品)、64a…キャップの上面、66…角穴、68…第2凸球面(凸球面、突出面)、68’…第2凸球面、70,70’…第2当接面、72…上プレート(第4部品)、74…角穴、76…スプリング、78…下プレート(第4部品)、80…丸穴、82…ナット(第4部品)、W…スプリング荷重