(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】農業用止水シート
(51)【国際特許分類】
A01G 9/14 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
A01G9/14 M
A01G9/14 S
(21)【出願番号】P 2021123257
(22)【出願日】2021-07-28
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西橋 次郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 良輔
(72)【発明者】
【氏名】北里 辰範
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-089390(JP,A)
【文献】登録実用新案第3223238(JP,U)
【文献】実開平04-003544(JP,U)
【文献】特開2015-231333(JP,A)
【文献】登録実用新案第3035142(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に沿った一方向に線状に延び、前記表面の一部が厚み方向に折り曲げ容易に加工された加工部である第一の折曲部、第二の折曲部及
び第三の折曲部を備え、
一の端辺側から順に前記第一の折曲部、第二の折曲部及び第三の折曲部がそれぞれ平行に配列されて
おり、
前記第一折曲部、第二折曲部及び第三折曲部のそれぞれが、一方の面側から突出した、3以上の平行な凸状部から構成されている、農業用止水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスに用いられる農業用止水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の生育設備として、例えば、骨材に囲まれた内部空間をガラス板や軟質シート等で覆うことにより構成された農業用ハウスが知られている。この農業用ハウスには、農作物を保温すると共に地表付近から水等が内部空間へ浸入するのを防止する目的で、側部や妻部の下側に、特許文献1に開示されるように農業用止水シートが設けられる場合がある。
【0003】
農業用止水シートを農業用ハウスに設ける場合、例えば、溝部を有する長尺状のフレーム部材を骨材に取付け、当該フレーム部材の溝部に農業用止水シートの一部を入れた状態で、スプリングにより農業用止水シートを溝部の溝幅方向の内壁に押圧する。これにより、農業用止水シートがフレーム部材に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
農業用止水シートは、長期間の使用に耐えうる耐久性を持たせるため、例えば、ある程度の厚み寸法を有するように製造されて強度が高められる。これにより、農業用止水シートのコシが強くなることで、農業用止水シートをフレーム部材の溝部内でフレーム部材に固定する際の作業性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、農業用止水シートをフレーム部材に固定する際の作業性が低下するのを良好に防止可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る農業用止水シートは、表面に沿った一方向に線状に延び、前記表面の一部が厚み方向に折り曲げ容易に加工された加工部である第一の折曲部、第二の折曲部及び前記第三の折曲部を備え、一の端辺側から順に前記第一の折曲部、第二の折曲部及び第三の折曲部がそれぞれ平行に配列されている。
【0008】
上記構成によれば、農業用止水シートは、第一~第三の折曲部において厚み方向に折り曲げ容易に加工されているため、小さい力でも各折曲部において容易に折り曲げることができる。従って、例えば、フレーム部材の溝部に農業用止水シートの一部を入れる際、農業用止水シートの第一~第三の折曲部が形成された部分を溝部の内部の角部分に配置し、第一~第三の折曲部で折り曲げることで、農業用止水シートの一部を溝部内に容易に配置できる。これにより、農業用止水シートが折り曲げられた反発で溝部から飛び出すのを防止できる。よって、農業用止水シートをフレーム部材の溝部内でフレーム部材に固定し易くできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、農業用止水シートをフレーム部材に固定する際の作業性が低下するのを良好に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)は、本発明に係る農業用止水シートを模式的に示す正面図であり、(B)は、(A)に示した本発明に係る農業用止水シートのA-A線断面図である。
【
図2】
図1の農業用止水シートのフレーム部材の溝部に固定した状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図1に示した農業用止水シートの一部をフレーム部材の溝部に入れたときの農業用止水シート及びフレーム部材の状態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】本発明に係る農業用止水シートに折曲部を形成する様子を示す模式図である。
【
図5】従来の農業用止水シートの一部をフレーム部材の溝部に入れたときの農業用止水シート及びフレーム部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、各図を参照して説明する。
【0012】
図1(A)は、本発明に係る農業用止水(遮水)シート1の正面図であり、(B)は、(A)に示した農業用止水シート1のA-A線断面図であり、
図2は、
図1の農業用止水シート1をフレーム部材2の溝部2aに固定したときの農業用止水シート1及びフレーム部材2の断面図である。
図3は、
図2に示した農業用止水シート1の一部をフレーム部材2の溝部2aに入れたときの農業用止水シート1及びフレーム部材2の状態を模式的に示す斜視図である。
【0013】
図1に示される農業用止水シート1は、農業用ハウスの被覆材として用いられる。農業用止水シート1は、例えば、農業用ハウスの側部及び妻部の下側に配置され、下部が地中に埋設された状態で使用されてもよく、この場合、農業用止水シート1の下部は、地中において鉛直方向に延び、地表から一定の深さまでの範囲において、農業用ハウスの外側と内側との土壌を区画する。これにより農業用止水シート1は、地表及びその付近から、水等の液体や小動物が農業用ハウスの内部空間に浸入するのを防止する。
【0014】
農業用止水シート1は、農業用ハウスの骨材に取り付けられた1以上のフレーム部材(軟質フィルム止め)2に固定される。フレーム部材2は、長尺状の板部である本体部2bと、本体部2bの幅方向両側から本体部2bの厚み方向一方側に突出する一対の側部2cとを有する。フレーム部材2には、本体部2bと一対の側部2cとにより形成されて本体部2bの長手方向に延びる溝部2aが設けられている。このようなフレーム部材2としては、例えば、東都興業株式会社製「ビニペット」を挙げることができるが、これに限定されない。
【0015】
本実施形態の農業用止水シート1は、農業用ハウスの内部に外光が入射するのを防止する遮光性を有することが好ましい。このような農業用止水シート1の色は、一例として銀色であるが、黒色や白色等でもよい。農業用止水シート1は、柔軟性及び高耐久性を有する材料(一例としてMCPE(メタロセン触媒ポリエチレン)等のポリオレフィンやEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体))により構成される。
【0016】
農業用止水シート1の最大厚み寸法は適宜設定可能であるが、一例として1mm以下(ここでは700μm以下)の範囲の値に設定される。農業用止水シート1には、虫忌避剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。また、農業用止水シート1は、2層以上のフィルムが積層されてなる積層体であってもよい。
【0017】
図1(A)に示すように、農業用止水シート1は、表面に沿った一方向(
図1(A)では横方向)に延びた第一の折曲部1a、第二の折曲部1b及び第三の折曲部1cを備える。折曲部1a、折曲部1b及び折曲部1c(以下、これらをまとめて単に「折曲部」ともいう)は、農業用止水シート1の表面の一部が厚み方向に折り曲げ容易に加工された加工部である。
【0018】
上記折曲部は、農業用止水シート1の一方の面側から突出した複数の平行な凸状部から構成されていることが好ましい。農業用止水シート1の耐久性を損なうことなく折り曲げ容易にできる。なお、
図1(B)に示した折曲部は、4本の凸状部が平行に配列された構成であるが、該凸状部は3本以下であってもよく5本以上であってもよい。
なお、凸状部を有する折曲部は、飛び出した部分を山頂とするように折り曲げ加工されることが好ましい。
【0019】
折曲部1a、折曲部1b及び折曲部1cを構成する凸状部の本数は同じであっても異なっていてもよいが、農業用止水シート1の強度に差がでることがなく折り曲げ加工時の折り曲げ易さの程度に差も生じ難いことから各折曲部を構成する凸状部の本数は同じであることが好ましい。
また、上記折曲部は、
図1(B)に示したように一方の面側から突出した凸状部を有する構造が耐久性等を得る上で好ましいが、例えば、農業用止水シート1をその表面に沿った一方向に断続的(ミシン目状)に貫通させることで形成されていても差し支えない。
【0020】
上記折曲部の凸部の高さL1は適宜設定可能であるが、例えば0.5mm以上1.5mm以下の範囲の値に設定されることが好ましい。0.5mm未満であると、折曲部での折り曲げ加工が難しくなることがあり、1.5mmを超えると凸状部に薄い部分が形成されて強度に劣ることがある。
【0021】
本発明に係る農業用止水シート1は、
図2に示したように折曲部1aがフレーム部材2の上側の本体部2bと側部2cとの角部分で折り曲げられ、折曲部1bがフレーム部材2の下側の本体部2bと側部2cとの角部分で折り曲げられ、折曲部1cがフレーム部材2の下側の側部2cの開口部分の角部で折り曲げられて地面に垂れ下げられる。このような状態で折り曲げ加工が可能なように、折曲部の幅は、1.8~2.5mmであることが好ましい。
【0022】
また、農業用止水シート1の端辺から折曲部1aまでの距離(N1)は、15~25mmであることが好ましい。15mm未満であると、フレーム部材2に取り付けた際にスプリング3により固定ができないことがあり、25mmを超えるとフレーム部材2の上方から飛び出しが多くなり見栄えが悪いだけでなく、地面と農業用止水シート1との間に隙間が形成される場合がある。
折曲部1aと折曲部1bとの距離(N2)及び折曲部1bと折曲部1cとの距離(N3)は、フレーム部材2のサイズに応じて適宜決定される。
【0023】
上記折曲部の長手方向に垂直な断面形状は、一例として矩形状である。折曲部の長手方向に垂直な断面形状は、これに限定されず、折曲部の外部への開放側から反対側に向けて溝幅寸法が減少する逆三角形状でもよいし、U字形状でもよい。
【0024】
農業用止水シート1は、厚み寸法が薄い折曲部に沿って容易に折り曲げられるように構成されている。
図2に示すように、農業用止水シート1は、折曲部1aが形成された部分がフレーム部材2の溝部2aに入れられた状態で、折曲部1a、折曲部1b及び折曲部1cにおいて折り曲げられ、平面視において蛇行するように形成された金属線からなるスプリング3により、溝部2aの溝幅方向両側の内壁に押圧されて溝部2aに固定される。
【0025】
ここで、
図5は、従来の農業用止水シート101の一部をフレーム部材2の溝部2aに入れたときの農業用止水シート101及びフレーム部材2の断面図である。フレーム部材2に農業用止水シート101を固定する場合、施工者は、例えば、農業用止水シート101を窪ませてフレーム部材2の溝部2aに農業用止水シート101の一部を入れた状態で、溝部2aの溝幅方向に付勢されるスプリング3(
図3参照)を溝部2aの内部に入れ、農業用止水シート101を溝部2aの溝幅方向の内壁に押圧する。これにより、農業用止水シート101をフレーム部材2に固定する。
【0026】
しかしながら、農業用止水シート101はコシが強く、復元力が比較的大きい場合がある。
図5に示すように、この場合、農業用止水シート101を折り曲げてフレーム部材2の溝部2aに入れようとすると、農業用止水シート101が折り曲げられた反発でフレーム部材2の溝部2aから飛び出すおそれがある。従って施工者は、例えば、農業用止水シート101の一部をフレーム部材2の溝部2aの内部に押し留めながら、農業用止水シート101をスプリング3によりフレーム部材2の溝部2aに固定する作業が要求され、作業性が低下すると共に作業負担が増大する。このような作業性低下の問題は、例えば、農業用止水シート101の復元力が高いほど顕著となる。
【0027】
これに対して本発明に係る農業用止水シート1は、上記折曲部が形成されており、各折曲部で折り曲げられた場合には復元力が低減される。従って、農業用止水シート1の折曲部が形成された部分をフレーム部材2の溝部2aに入れ、溝部2a内で折曲部において農業用止水シート1を折り曲げることで、農業用止水シート1を比較的簡単に折り曲げることができ、フレーム部材2の溝部2a内に農業用止水シート1の一部が入れられた状態を保持し易くできる。このため、農業用止水シート1をスプリング3によりフレーム部材2の溝部2a内に固定する際の作業性を向上できる。
【0028】
また、コシが強い従来の農業用止水シート101をスプリング3によりフレーム部材2の溝部2a内に固定する際、農業用止水シート101が溝部2a内とその周辺において皺や撓みを生じたり、農業用止水シート101とフレーム部材2との間に隙間が生じたりするおそれがある。
【0029】
これに対して本発明に係る農業用止水シート1は、折曲部で折り曲げられることにより、農業用止水シート1に無理な力が及びにくく、皺や撓みを生じにくい。また、農業用止水シート1とフレーム部材2との間に隙間を生じにくい。このため、農業用止水シート1をスプリング3によりフレーム部材2の溝部2a内に適切に固定できると共に、農業用ハウスの美観が農業用止水シート1の皺や撓みにより低下するのを防止できる。また、農業用ハウスの保温性が上記隙間により低下するのを防止できる。
【0030】
農業用止水シート1は、例えば、
図4に示したようにTダイ押出成形法に基づき、Tダイを用いて樹脂材料からなるシート部材1’を連続的に製造すると共に、当該シート部材1’が冷却成形される前に当該シート部材1’の表面に回転刻印刃4a、4b及び4cを押圧して折曲部1a、折曲部1b及び折曲部1cを形成するように加工されることで製造される。なお、農業用止水シート1の製造方法は、これに限定されない。
【0031】
なお、回転刻印刃4a、4b及び4cを備えた折曲部形成装置4は、回転刻印刃4a、4b及び4cの相互間隔、凸状部の高さ等が好ましい範囲となるよう適宜調整することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る農業用止水シート1は、折曲部において厚み方向に折り曲げ容易に加工されているため、小さい力でも折曲部において容易に折り曲げることができる。従って、例えば、フレーム部材2の溝部2aに農業用止水シート1の一部を入れる際、農業用止水シート1の各折曲部が形成された部分を溝部2aの内部に配置することで、農業用止水シート1の一部を溝部2a内に容易に配置できる。これにより、農業用止水シート1が折り曲げられた反発で溝部2aから飛び出すのを防止できる。よって、農業用止水シート1をフレーム部材2の溝部2a内でフレーム部材2に固定し易くできる。
【0033】
また農業用止水シート1は、凸状部が複数平行に配列された構成の折曲部を有することで、折曲部において折り曲げ容易に構成されると共に、耐久性を良好に維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明によれば、農業用止水シートをフレーム部材に固定する際の作業性が低下するのを良好に防止できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる農業用止水シートとして広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0035】
1、101 農業用止水シート
1a、1b、1c 折曲部
2 フレーム部材
2a 溝部
2b 本体部
2c 側部
3 スプリング
4 折曲部形成装置