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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】正極、二次電池、電池パック及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240930BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240930BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240930BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240930BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240930BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240930BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240930BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/485
H01M10/0525
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021126657
(22)【出願日】2021-08-02
(65)【公開番号】P2023021654
(43)【公開日】2023-02-14
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 有紗
(72)【発明者】
【氏名】笹川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186854(JP,A)
【文献】特開2017-091697(JP,A)
【文献】特表2020-528393(JP,A)
【文献】特開2002-358959(JP,A)
【文献】特開2002-008639(JP,A)
【文献】特開2020-047576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備え、
前記正極活物質粒子は、
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、
前記リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含み、
前記リチウム複合酸化物粒子の質量に対する前記導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にあり、
前記水溶性ポリマーはアルギン酸ポリマーを含む正極。
【請求項2】
前記導電性ポリマーは、ポリアニリン類、ポリピロール類及びポリチオフェン類からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物粒子の質量に対する前記導電性ポリマーの質量の割合は、1.0質量%~4.0質量%の範囲内にある請求項1又は2に記載の正極。
【請求項4】
前記水溶性ポリマーのHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は、8以上20以下の範囲内にある請求項1~3の何れか1項に記載の正極。
【請求項5】
前記正極活物質含有層に占める前記水溶性ポリマーの質量の割合は、1質量%~10質量%の範囲内にある請求項1~4の何れか1項に記載の正極。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物は、リチウムニッケルマンガン酸化物及びリチウムリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1~の何れか1項に記載の正極。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の正極と、
負極と、
電解質とを具備する二次電池。
【請求項8】
前記負極は、負極活物質を含む負極活物質含有層を備えており、
前記負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む請求項に記載の二次電池。
【請求項9】
請求項に記載の二次電池を具備する電池パック。
【請求項10】
通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む請求項に記載の電池パック。
【請求項11】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項又は1に記載の電池パック。
【請求項12】
請求項~1の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項13】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項1に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、正極、二次電池、電池パック、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが電荷の担い手となるリチウムイオン電池に代表される非水電解質電池は、高エネルギー密度・高出力が得られる利点を生かし、携帯電子機器などの小型用途から電気自動車や電力需給調整などの大型用途まで広く適用が進められている。これまでに非水電解質電池として、その正極活物質にはコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)などのリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。また、負極活物質に炭素材料が用いられているものが上市されている。
【0003】
負極活物質としては、炭素材料の代わりに、リチウム吸蔵放出電位が金属リチウム基準で約1.55Vと高いリチウムチタン複合酸化物を用いた非水電解質電池も実用化されている。リチウムチタン複合酸化物は、充放電に伴う体積変化が少ないためサイクル特性に優れている。また、リチウムチタン複合酸化物を含む負極は、リチウム吸蔵・放出時にリチウム金属が析出しないため、この負極を備えた二次電池は大電流での充電が可能になる。
【0004】
正極活物質については、マンガン酸リチウム(LiMn)の資源が豊富で、安価且つ環境負荷も少なく、過充電状態の安全性が高いという利点がある。そのため、マンガン酸リチウムはコバルト酸リチウム(LiCoO)の代替材料として検討されている。一方で、マンガン酸リチウムの平均作動電位は、金属リチウム基準で4.0V程度である。そのため、高い電池電圧を達成するのが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、金属リチウム基準で4.5V~5.0V程度の高い正極電位を示す正極材料を用いて電池電圧を高める試みがなされている。しかしながら、高い正極電位を示す正極においては、ガス発生及びフッ酸発生に伴う金属の溶出が課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-263026号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hongyu Dong et al. "Improved High Temperature Performance of a Spinel LiNi0.5Mn1.5O4 Cathode for High-Voltage Lithium-Ion Batteries by Surface Modification of a Flexible Conductive Nanolayer" ACS Omega 2019, 4, 185-194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を実現可能な正極、この正極を具備する二次電池、この二次電池を具備する電池パック、及び、この電池パックを備える車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備える。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含む。リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。水溶性ポリマーはアルギン酸ポリマーを含む。
【0010】
他の実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、実施形態に係る正極と、負極と、電解質とを具備する。
【0011】
他の実施形態によると、電池パックが提供される。電池パックは、実施形態に係る二次電池を含む。
【0012】
他の実施形態によると、車両が提供される。車両は、実施形態に係る電池パックを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る正極の一例を概略的に示す断面図。
図2】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図3図2に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
図4】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
図5図4に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
図6】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図7】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図8図7に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図9】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図。
図10】実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0015】
二次電池において、正極活物質として4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位を有するリチウム複合酸化物を用いた場合、水素ガスをメインとするガスが発生する。或いは、バインダ及び電解質塩などにフッ素原子が含まれている場合、フッ酸が発生する。正極活物質では、水素ガス及びフッ酸の発生に伴って金属が溶出するため、充放電サイクルを繰り返すことにより放電容量が低下する問題がある。
【0016】
ポリアニリン等の導電性ポリマーを正極活物質粒子に被覆させることにより、正極活物質からの金属溶出を抑制できることが報告されている。しかしながら、高分子としての導電性ポリマー自体は水又は有機溶媒には溶けにくいため、導電性ポリマー自体を直接的に正極活物質粒子に被覆させることは困難である。また、導電性ポリマーを構成するモノマーを、重合開始剤を用いて重合させつつ活物質粒子表面を覆う手法も報告されている。しかしながら、この場合には、活物質粒子表面上に十分な量の導電性ポリマーをコートすることは困難である。
【0017】
本発明者らは、4.4V(vs.Li/Li+)以上の高い作動電位を有するリチウム複合酸化物粒子の表面上に導電性ポリマーをコートするに際して、粒子間に水溶性ポリマーが存在することにより、導電性ポリマーが活物質粒子表面上に保持され易いことを見出した。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備える。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含む。リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。
【0019】
実施形態に係る正極に含まれるリチウム複合酸化物粒子には、0.5質量%~5.0質量%の量で導電性ポリマーがコートされている。導電性ポリマーは、例えば膜状にリチウム複合酸化物粒子を被覆している。上記割合が0.5質量%以上であるため、高い作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子においても金属溶出を抑制することができる。これは、リチウム複合酸化物粒子と電解質とが直接接触しにくくなることが一因と考えられる。一方、この割合が5.0質量%を超えると、電池抵抗が過剰に高まる上に、重量エネルギー密度及び/又は体積エネルギー密度が低下するため好ましくない。リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、1.0質量%~4.0質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
導電性ポリマーの電気伝導率は、例えば1S/cm~200S/cmの範囲内にあり、好ましくは10S/cm~200S/cmの範囲内にある。活物質粒子表面を導電性ポリマーにより被覆することによる電気抵抗の上昇を抑制するためには、導電性ポリマーの電気伝導率は高い方が好ましい。導電性ポリマーは、例えば、非水溶性である。
【0021】
導電性ポリマーは、電子伝導性を有するポリマーであれば特に制限されないが、例えば、ポリアニリン類、ポリピロール類及びポリチオフェン類からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。ポリアニリン類の電気伝導率は、例えば、10S/cm~50S/cmの範囲内にある。ポリピロール類の電気伝導率は、例えば、50S/cm~100S/cmの範囲内にある。ポリチオフェン類の電気伝導率は、例えば、50S/cm~150S/cmの範囲内にある。
【0022】
ポリアニリン類の例に、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、及び、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が含まれる。
【0023】
ポリピロール類の例に、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、及び、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が含まれる。
【0024】
ポリチオフェン類の例に、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)、ポリ(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、及び、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム)が含まれる。
【0025】
正極活物質含有層に含まれる水溶性ポリマーは、非水電解質に対して不溶性が高い。それ故、正極に対して非水電解質が含浸した場合であっても正極活物質含有層の構造を安定的に保つことができる。この結果、導電性ポリマーがコートされた活物質粒子は、充放電サイクルが繰り返された場合にも正極活物質含有層から脱落し難い。また、コートされたリチウム複合酸化物粒子表面又は導電性ポリマーコート表面が、非水電解質に対して過剰に晒されるのを防ぐことができるため、金属の溶出及びガス発生を抑制して優れた容量維持率を達成することができる。
【0026】
水溶性ポリマーのHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は、例えば8以上20以下の範囲内にあり、好ましくは10以上20以下の範囲内にある。水溶性ポリマーのHLB値は、15以上19以下の範囲内にあり得る。HLB値とは、界面活性剤の、親水性及び疎水性の比率を表す指標である。HLB値は0~20の間の値を取り、0に近いほど疎水性であることを示しており、20に近いほど親水性であることを示している。
【0027】
本願明細書及び特許請求の範囲において、水に溶解するポリマーを水溶性ポリマーと呼ぶ。正極が水溶性ポリマーを含んでいるか否かは、以下の手順で調べる。まず、正極を水に晒して正極活物質含有層が溶解するか否かを調べる。次に、正極活物質含有層が水に溶解した場合には、その溶液を、GC-MS(Gas Chromatography - Mass Spectrometry:ガスクロマトグラフィー質量分析法)、LC-MS(Liquid Chromatography - Mass Spectrometry:液体クロマトグラフィー質量分析法)、FT-IR(Fourier Transform - Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴装置)等により分析して、水溶性ポリマーの種類を同定することができる。
【0028】
水溶性ポリマーのHLB値は、例えば、8以上20以下の範囲内にある。水溶性ポリマーは、後述する正極の製造時において水系バインダとして用いられる材料である。正極活物質含有層に含まれる水溶性ポリマーのHLB値を測定する方法は後述する。水溶性ポリマーのHLB値は10以上であることが好ましい。この場合、正極活物質含有層に非水電解質が含浸した場合であっても、正極活物質含有層を構成する電極材料が分解せず安定に存在し易い。
【0029】
水溶性ポリマーは、例えば、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ポリマー、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル、及び、ジカルボキシル化多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である。中でも、集電体から正極活物質含有層が剥がれないように高いピール強度を保つ観点から、アクリルポリマー、CMC及びアルギン酸ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0030】
正極活物質含有層に占める水溶性ポリマーの質量の割合は、例えば1質量%~10質量%の範囲内にあり、好ましくは2質量%~8質量%の範囲内にある。正極活物質含有層に含まれる水溶性ポリマーの質量が過剰に少ない場合、当該層を構成する電極材料同士の結着力が不足し、電極強度が不足する可能性がある。その結果、充放電中に正極活物質含有層が集電体から剥がれ、容量が低下する恐れがある。一方、正極活物質含有層に含まれる水溶性ポリマーの質量が過剰に多い場合、内部抵抗が上昇するため好ましくない。
【0031】
以下、実施形態に係る正極について詳細に説明する。
【0032】
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、結着材として、少なくとも上記水溶性ポリマーを含有する。正極活物質含有層は、任意に導電材を含むことができる。
【0033】
実施形態に係る正極は、例えば、電池用正極、二次電池用正極、非水電解質二次電池用正極又はリチウム二次電池用正極である。
【0034】
正極活物質粒子は、活物質として、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子を含む。リチウム複合酸化物粒子の数は、1個又は複数個でありうる。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子のみで構成され得る。但し、1個又は複数個の当該リチウム複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部は、導電性ポリマーにより被覆されている。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子を、1種類のみ含んでいてもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0035】
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物の一例として、例えば、下記一般式(A)で表される酸化物が挙げられる。
LiuM1xMn2-x4・・・(A)
一般式(A)において、M1は、Mn,Ni,Fe,Co,Cr,Mg,Zn,Al及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、uは0<u≦1を満たし、xは0<x≦1を満たす。
【0036】
一般式(A)で表されるリチウム複合酸化物の具体例として、例えば、LiNi0.5Mn1.54及びLiCu0.5Mn1.54を挙げることができる。
【0037】
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムニッケルマンガン酸化物及びリチウムリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む。上記リチウム複合酸化物のうち、電子伝導性が高く、5V付近まで電圧を高くしても構造が安定している理由から、正極活物質粒子は、リチウムニッケルマンガン酸化物を含むことが好ましい。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えばスピネル構造の結晶構造を有する。
【0038】
リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えば、下記一般式(I)で表される。この場合、上述の通り、電圧を高くしても構造が安定していることから、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性が得られやすい。
LiuNixMn2-x4・・・(I)
一般式(I)において、uは0<u≦1を満たし、xは0<x≦1を満たす。
【0039】
リチウムリン酸化合物は、例えば、下記一般式(II)で表される。
【0040】
LiwM2yCo1-yPO4・・・(II)
一般式(II)において、M2は、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、wは0<w≦1を満たし、yは0≦y≦1を満たす。リチウムリン酸化合物は、例えばオリビン構造の結晶構造を有する。
【0041】
一般式(II)で表されるリチウムリン酸化合物の具体例として、例えば、LiNiPO4及びLiCoPO4を挙げることができる。
【0042】
実施形態に係る正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V未満の作動電位を示す、他の活物質を含んでいてもよい。正極活物質粒子全体に占める他の活物質の割合は、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0043】
他の活物質として、例えば酸化物又は硫化物が挙げられる。このような化合物として、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0044】
正極活物質の一次粒径は、100nm以上10μm以下であることが好ましい。一次粒径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒径が10μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0045】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0046】
前述した水溶性ポリマーは、結着材として正極活物質含有層に含まれている。結着材は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させることができる。正極結着材としては、前述した水溶性ポリマーであれば、その種類は制限無く使用することができる。正極活物質含有層は、結着材として水溶性ポリマーのみを含んでいてもよく、他の結着材を更に含んでいてもよい。他の結着材の例として、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、及び、イミド化合物などが挙げられる。正極結着材に含まれる水溶性ポリマーの量は、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0047】
導電材は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電材の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電材として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電材として用いてもよい。また、導電材を省略することもできる。
【0048】
正極活物質含有層において、正極活物質粒子及び正極結着材は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び1質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0049】
結着材の量を1質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着材は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着材の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0050】
導電材を加える場合には、正極活物質、結着材及び導電材は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、1質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0051】
導電材の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電材の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電材の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0052】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0053】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0054】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0055】
正極の電極密度(集電体を含まず)は、2.0g/cm3以上4.0g/cm3以下であることが好ましい。正極活物質含有層の密度がこの範囲内にある正極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。正極の電極密度は、2.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であることがより好ましい。
【0056】
実施形態に係る正極の一例を、図面を参照しながら説明する。
【0057】
図1は、一例に係る正極を概略的に示す断面図である。正極5は、正極集電体5aと正極集電体5a上に設けられた正極活物質含有層5bとを備える。ここでは、正極集電体5aの片面上に正極活物質含有層5bが設けられた例を示しているが、正極活物質含有層5bは、正極集電体5aの両面上に設けられていてもよい。正極活物質含有層5bの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm~100μmの範囲内にある。
【0058】
正極活物質含有層5bは、1つ以上の正極活物質粒子5cと水溶性ポリマー5dとを含む。正極活物質粒子5cは、4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子51と、リチウム複合酸化物粒子51表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマー52とを備える。図1では、正極活物質含有層5bが正極導電材5eを含む場合を記載しているが、正極導電材5eは必ずしも添加される必要は無い。
【0059】
正極活物質含有層5b全体は、結着材として機能する水溶性ポリマー5dで結着されている。それ故、リチウム複合酸化物粒子51が非水電解質(図示せず)と直接的に接触するのが抑制されて、リチウム複合酸化物粒子51からの金属溶出及び/又はガス発生が抑制される。その結果、充放電サイクルによる正極劣化を抑制することができる。また、リチウム複合酸化物粒子51の質量に対する導電性ポリマー52の質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。それ故、実施形態に係る正極を備える二次電池は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を実現できる。
【0060】
<導電性ポリマーのコート量測定>
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子の質量に対する、導電性ポリマーの質量の割合は、以下のように測定することができる。
【0061】
正極をプロピレンカーボネートで洗浄し、乾燥後、集電体から正極活物質含有層を剥がす。剥がした正極活物質含有層を純水で十分に洗浄し、水溶性ポリマーを除去する。洗浄後の残渣について遠心分離を行って導電材を取り除いた後、真空乾燥する。その後得られた固体の質量を測定する。当該固体は、例えば、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、この粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含む正極活物質粒子である。次に、得られた固体に対して、800℃の温度で10時間以上に亘って燃焼処理を施す。この燃焼により導電性ポリマーが分解して、リチウム複合酸化物粒子のみを得ることができる。その後、得られた粒子の質量を測定し、前述の固体の質量から、粒子の質量を差し引くことにより、導電性ポリマーの質量が判明する。また、リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合を算出することができる。
【0062】
<導電性ポリマーの電気伝導率測定>
上記コート量測定において記載したのと同様に、正極活物質含有層を純水で十分に洗浄し、遠心分離によって導電材を取り除いて粒子を得る。得られた粒子を酸で処理し、活物質を溶解除去する。こうして得られたポリマー成分を交流インピーダンス法で測定することで、活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆していた導電性ポリマーの電気伝導率を求めることができる。
【0063】
<水溶性ポリマーのHLB値の測定>
水溶性ポリマーのHLB値は、デイビス法にて求めることができる。まず、以下に説明するように、正極が含む水溶性ポリマーの種類を同定して、親水基と疎水基とを特定する必要がある。
【0064】
正極活物質含有層から、水溶性ポリマーのみを溶解する溶媒により水溶性ポリマーを溶解抽出し、濾過して活物質及び導電剤などを除去する。水溶性ポリマーのみを溶解する溶媒としては、例えば、純水が上げられる。その後、濾液をGC-MS(Gas Chromatography - Mass Spectrometry:ガスクロマトグラフィー質量分析法)、LC-MS(Liquid Chromatography - Mass Spectrometry:液体クロマトグラフィー質量分析法)又はFT-IR(Fourier Transform - Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)などで分析することにより水溶性ポリマーの種類を同定することができる。或いは、正極表面を赤外分光法(ATR:Attenuated Total Reflectance)にて分析することにより水溶性ポリマーの種類を同定してもよい。
【0065】
デイビス法では、化合物が含む親水基及び疎水基に応じて、所定の基数が定められている。例えば、水酸基は親水基であり、その基数は1.9である。また、例えば、メチル基及びメチレン基は疎水基であり、その基数は-0.475である。対象の水溶性ポリマーのHLB値は、下記式(1)より算出する。
式(1): [HLB値]=7+SUM1-SUM2
式(1)中、SUM1は親水基の基数の総和を表し、SUM2は疎水基の基数の総和を表す。
【0066】
<水溶性ポリマー量の測定>
測定対象の活物質含有層を準備する。例えば、正極からスパチュラ等を用いて、一定量の活物質含有層を得る。得られた活物質含有層の質量を測定する。その後、前述のHLB値測定における前処理と同様に、純水等による水溶性ポリマーの溶解抽出及びろ過を行う。得られた溶液中の溶媒を蒸発させることで、固化した水溶性ポリマーが得られる。この水溶性ポリマーの質量を測定する。そして、水溶性ポリマーの質量を、先に測定した活物質含有層の質量で除して100を乗じることにより、正極活物質含有層に占める水溶性ポリマーの質量の割合を算出する。
【0067】
正極活物質の結晶構造及び元素組成は、例えば、以下に説明する粉末X線回折(XRD:X-ray diffraction)測定及び誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光法により確認することができる。また、後述する負極活物質の結晶構造及び元素組成も、以下に説明する方法で分析できる。
【0068】
<活物質の粉末X線回折測定>
活物質の粉末X線回折測定は、例えば次のように行うことができる。
まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、ひび割れ、空隙等が生じないように、過不足ない量の試料を充填するように注意する。次いで、外部から別のガラス板を押し付けて、ホルダー部分に充填された試料の表面を平らにする。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
【0069】
次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターン(XRDパターン;X‐Ray Diffraction pattern)を取得する。
【0070】
なお、試料の粒子形状により粒子の配向が大きくなる場合がある。試料の配向性が高い場合は、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、強度比が変化したりする可能性がある。このように配向性が著しく高い試料は、ガラスキャピラリを用いて測定する。具体的には、試料をキャピラリに挿入し、このキャピラリを回転式試料台に載置して測定する。このような測定方法により、配向性を緩和することができる。ガラスキャピラリとしては、直径1mm~6mmφのリンデマンガラス製キャピラリを用いることが好ましい。
【0071】
二次電池又は電極に含まれる活物質について粉末X線回折測定を行う場合は、例えば以下のように行うことができる。
まず、活物質の結晶状態を把握するために、活物質からリチウムイオンが完全に離脱した状態にする。例えば、活物質が負極において用いられている場合、電池を完全に放電状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。放電状態でも残留したリチウムイオンが存在することもある。
【0072】
次に、アルゴンを充填したグローブボックス中で電池を分解し、電極を取り出して、適切な溶媒で洗浄する。適切な溶媒としては、例えばエチルメチルカーボネートを用いることができる。電極の洗浄が不十分であると、電極中に残留したリチウムイオンの影響で、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。その場合は測定雰囲気を不活性ガス中で行える気密容器を用いるとよい。このとき、集電体である金属箔、導電剤及びバインダなどに由来するピークを、EDXを用いてあらかじめ測定して把握しておく。もちろん、これらを事前に把握できているのであれば、この操作は省略することができる。集電体のピークと活物質のピークとが重なる場合、集電体から活物質含有層を剥離して測定することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。活物質含有層を物理的に剥離しても良い。活物質含有層は、適切な溶媒中で超音波をかけると剥離しやすい。集電体から活物質含有層を剥離するのに超音波処理を行った場合、溶媒を揮発させることで、電極体粉末(活物質、導電剤、バインダを含む)を回収することができる。回収した電極体粉末を、例えばリンデマンガラス製キャピラリ等に充填して測定することで、活物質の粉末X線回折測定を行うことができる。なお、超音波処理を行って回収した電極体粉末は、粉末X線回折測定以外の各種分析に供することもできる。
【0073】
<ICP発光分光法>
活物質の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法を用いて分析することができる。このとき、各元素の存在比(モル比)は、使用する分析装置の感度に依存する。従って、測定されるモル比が、実際のモル比から測定装置の誤差分だけ数値がずれることがある。しかしながら、分析装置の誤差範囲で数値が逸脱したとしても、実施形態に係る活物質の性能を十分に発揮することができる。
【0074】
電池に組み込まれている活物質の組成をICP発光分光法により測定するには、具体的には以下の手順により行う。
【0075】
まず、粉末X線回折測定の項で説明した手順により、二次電池から、測定対象たる活物質を含んだ電極を取り出し、洗浄する。洗浄した電極から、活物質含有層など電極活物質が含まれている部分を剥離する。例えば、超音波を照射することにより電極活物質が含まれている部分を剥離することができる。具体例として、例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、電極集電体から電極活物質を含む活物質含有層を剥離させることができる。
【0076】
次に、剥離した部分を大気中で短時間加熱して(例えば、500℃で1時間程度)、バインダ成分やカーボンなど不要な成分を焼失させる。この残渣を酸で溶解することで、活物質を含む液体サンプルを作成できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などを使用できる。この液体サンプルをICP分析に供することで、活物質中の組成を知ることができる。
【0077】
<正極の製造方法>
実施形態に係る正極は、例えば次の方法により作製することができる。
【0078】
正極の製造方法は、
電解重合可能な、導電性ポリマーのモノマーを溶媒に溶解して、モノマー含有溶液を調製する工程と、
前記モノマー含有溶液中に、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子を添加した後、乾燥させて前記モノマーによりコートされた前記リチウム複合酸化物粒子を得る工程と、
前記モノマーによりコートされた前記リチウム複合酸化物粒子、及び、水を含む水系バインダを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥及びプレスに供して、未初充電状態の正極を得る工程と、
負極及び電解質を準備する工程と、
前記未初充電状態の正極の正極電位が、金属リチウム基準で4.4V以上となるように初充電を行う工程とを含む。
【0079】
正極作製用のスラリーを調製するのに先立ち、4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子を、予め、電解重合可能な、導電性ポリマーのモノマーで被覆する。電解重合可能な、導電性ポリマーのモノマーは、重合することにより導電性ポリマーを構成するモノマーである。電解重合可能な、導電性ポリマーのモノマーの例として、例えば、アニリン類、ピロール類及びチオフェン類が挙げられる。アニリン類として、上述したポリアニリン類の少なくとも1つを構成するモノマーを使用できる。ピロール類として、上述したポリピロール類の少なくとも1つを構成するモノマーを使用できる。チオフェン類として、上述したポリチオフェン類の少なくとも1つを構成するモノマーを使用できる。
【0080】
モノマー含有溶液に含まれる溶媒としては、使用するモノマーを溶解させることができれば、その種類は特に制限されない。しかしながら、リチウム複合酸化物粒子の表面上にモノマー含有溶液を塗布した後、溶媒を蒸発させる観点では、当該溶媒は有機溶媒であることが好ましい。モノマー含有溶液に含まれる溶媒として、例えばアセトンを使用することができる。
【0081】
モノマー含有溶液に含まれる、電解重合可能なモノマーの質量を調節することで、リチウム複合酸化物粒子にコートされるモノマーの質量を調節することができる。モノマー含有溶液中のモノマー質量は、目的とするコート量に応じて適宜変更することができるが、例えば0.5質量%~5.0質量%の範囲内とする。モノマー含有溶液に含まれるモノマーの全て又はほぼ全ては、リチウム複合酸化物粒子表面にコートされる。つまり、仕込み量としてのモノマー量を、作製される正極活物質におけるリチウム複合酸化物粒子表面上の導電性ポリマーコート量と見なすことができる。
【0082】
モノマー含有溶液が塗布されたリチウム複合酸化物粒子は、例えば、ホットプレート上で乾燥される。この乾燥は、例えば、80℃~120℃の温度に設定されたホットプレートで5分~60分に亘り行う。モノマー含有溶液が塗布されたリチウム複合酸化物粒子が乾燥されることで、溶媒が蒸発して、モノマーでコートされた複合粒子が得られる。乾燥方法は加熱に限定されるものではなく、例えば真空乾燥などを行っても構わない。
【0083】
次に、水系バインダを準備する。水系バインダは、溶媒としての水と、水溶性ポリマーとを含む。水溶性ポリマーは水に対して溶解しているため、水系バインダは、例えばエマルジョンの状態であり得る。
【0084】
先に作製した、モノマーでコートされたリチウム複合酸化物粒子を水系バインダ中に添加して、正極作製用スラリーを得る。スラリー中には、導電材を更に分散させてもよい。電解重合可能なモノマーは、水系バインダを構成する水に対して溶解し難い。従って、モノマーコートを備えるリチウム複合酸化物粒子は、コートされたままの状態でスラリー中に存在することができる。言い換えると、水系バインダは、正極活物質含有層を構成する材料を適切に結着させながらも、モノマーコートを備えるリチウム複合酸化物粒子のモノマーコートの保持性に優れている。仮に、水系バインダの代わりに有機溶媒系バインダを使用した場合には、モノマーコートが有機溶媒に溶出する。その場合、リチウム複合酸化物粒子が備えるモノマーコートを保持したまま正極を製造するのは困難である。
【0085】
正極作製用スラリーに含まれるリチウム複合酸化物粒子、導電材及び水系バインダ(水溶性ポリマー)の配合量は、製造される正極活物質含有層に含まれる各材料について、例えば前述した数値範囲内で適宜調節する。
【0086】
調製したスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、正極活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、未初充電状態の正極を作製する。別途、例えば後述する方法に従って負極及び電解質を準備する。
【0087】
少なくとも、上述した未初充電状態の正極、負極及び電解質を用いて、電池を組み立てる。その後、未初充電状態の正極の正極電位が金属リチウム基準で4.4V以上となるように初充電を行う。この初充電により、リチウム複合酸化物粒子表面上にコートされたモノマーが電解重合して導電性ポリマーとなる。こうして、実施形態に係る正極を製造することができる。
【0088】
電解重合可能なモノマーを適切に重合させて導電性ポリマーコートを作製するためには、二次電池の初充電の際に、正極を、少なくとも4.0V(vs.Li/Li+)以上、望ましくは4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位で作動させる必要がある。初充電時の正極作動電位が4.4V(vs.Li/Li+)未満の場合、均一な導電性ポリマーコートを作製できない可能性がある。ここで、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子として平均作動電位が4.4V(vs.Li/Li+)未満のものを使用すると、モノマーを重合させるための電池電圧にリチウム複合酸化物粒子が耐えられず、その結晶構造が壊れ、充放電できない構造に変化してしまう。
【0089】
初充電条件は、正極の作動電位が4.4V(vs.Li/Li+)以上であれば特に制限されないが、例えば、下記の条件とする。二次電池を25℃にて0.1C~2.0Cの電流値で、電池電圧が2.5V~4.0Vに達するまで充電する。なお、充電時の電流値は、二次電池をSOCが100%の状態から放電した場合に、1時間でSOCが0%になる電流値を1Cとして表す単位で示している。
【0090】
第1実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備える。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含む。リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。この正極は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を実現できる。
【0091】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、第1実施形態に係る正極と、負極と、電解質とを含む二次電池が提供される。二次電池は、例えばリチウム二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
【0092】
二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することができる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
【0093】
また、二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
【0094】
さらに、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0095】
以下、正極、負極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0096】
(1)正極
第2実施形態に係る二次電池が備える正極として、第1実施形態に係る正極を使用することができる。
【0097】
(2)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極活物質含有層は、負極集電体の片面又は両面に形成され得る。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電材及び結着材を含むことができる。
【0098】
負極活物質は、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む。チタン含有酸化物としては、具体的には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi37、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi512、0≦x≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物、及び直方晶型(orthorhombic)チタン含有複合酸化物が挙げられる。中でも、高い容量と高いレート性能を両立できる観点から、負極活物質は、リチウムチタン複合酸化物及びニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。リチウムチタン複合酸化物は、スピネル型の結晶構造を有し得る。ニオブチタン複合酸化物は、単斜晶型の結晶構造を有し得る。
【0099】
上記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2z7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
【0100】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、Ti1-yM3y+zNb2-z7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦y<1、0≦z≦2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0101】
直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)d14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つでる。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti614(0≦a≦6)が挙げられる。
【0102】
導電材は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電材の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電材として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電材として用いてもよい。あるいは、導電材を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0103】
結着材は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体を結着させるために配合される。結着材の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着材として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着材として用いてもよい。
【0104】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電材及び結着材の配合割合は、負極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、負極活物質、導電材及び結着材を、それぞれ、70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電材の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着材の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電材及び結着材はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0105】
負極集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位、例えば、1.0V(vs.Li/Li)よりも貴である電位において、電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0106】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0107】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
【0108】
負極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、負極を作製する。
【0109】
或いは、負極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、負極を得ることができる。
【0110】
(3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下であることが好ましい。
【0111】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0112】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0113】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、アクリルポリマー、ポリアミド及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。電解質としてゲル状電解質を使用することにより、正極からの金属溶出を抑えると共に水素等のガス発生を抑制することができる。その結果、優れたサイクル寿命特性が得られる。
【0114】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0115】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0116】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0117】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0118】
(4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0119】
セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を、高分子材料を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0120】
高分子材料の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
【0121】
固体電解質のリチウムイオン伝導率は、25℃において1×10-10S/cm以上であることが好ましい。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導率が1×10-10S/cm以上であることで、固体電解質表面近傍のリチウムイオン濃度が高くなりやすいため、レート性能及び寿命特性を高めることができる。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、1×10-6S/cm以上であることがより好ましい。固体電解質のリチウムイオン伝導率の上限値は、一例によれば2×10-2S/cmである。
【0122】
固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。固体電解質は、具体的には、硫化物系のLiSeP系ガラスセラミックス、ペロブスカイト型構造を有する無機化合物であるリチウムランタンチタン複合酸化物(例えば、Li0.5La0.5TiO)、LISICON型構造を有する無機化合物(例えば、Li3.6Si0.60.4)、NASICON型骨格を有する無機化合物、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.46)、リチウムカルシウムジルコニウム酸化物(Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO)、及び、ガーネット型構造を有する無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。被覆層は、1種類の固体電解質を含んでいてもよく、2種類以上の固体電解質を含んでいてもよい。
【0123】
NASICON型骨格を有する無機化合物としては、一般式LiM2(PO43(Mは、Ti、Ge、Sr、Zr、Sn及びAlから選ばれる一種以上である)で表される無機化合物であることが好ましい。中でも、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(PO、Li1+xAlTi2-x(PO(LATP)は、イオン伝導性が高く、水に対する電気化学的安定性が高いため好ましい。上記において、xは0≦x≦0.5を満たすことが好ましい。
【0124】
ガーネット型構造を有する無機化合物としては、例えば、Li5+xyLa3-y212(AはCa,Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、MはNb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1つである)、Li32-xZr212(MはTa及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1つである)、Li7-3xAlxLa3Zr312、及びLi7La3Zr212が挙げられる。上記において、xは、例えば0≦x<0.8であり、好ましくは、0≦x≦0.5である。yは、例えば0≦y<2である。ガーネット型構造を有する酸化物は、これら化合物のうちの1種からなっていてもよく、これら化合物の2種以上を混合して含んでいてもよい。これらの中でもLi6.25Al0.25La3Zr312及びLi7La3Zr212はイオン伝導性が高く、電気化学的に安定なため、放電性能とサイクル寿命性能に優れる。
【0125】
固体電解質が硫黄元素を含んでいると、硫黄成分が後述する有機電解質に溶解するため好ましくない。固体電解質は硫黄元素を含まないことが好ましい。
【0126】
好ましい固体電解質は、NASICON型骨格を有するLATP(Li1+xAlTi2-x(PO)、アモルファス状のLIPON、ガーネット型のリチウムランタンジルコニウム含有酸化物(例えば、LiLaZr12:LLZ)などの酸化物である。
【0127】
NASICON型骨格を有するLiM2(PO43で表される無機化合物の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、例えば1×10-3S/cm~1×10-5S/cmの範囲内にある。LIPON(Li2.9PO3.30.46)の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、3×10-6S/cmである。ガーネット型のLLZ(Li7La3Zr212)の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、3×10-4S/cmである。
【0128】
固体電解質は、これらの中でも、NASICON型骨格を有するLATPであることが好ましい。LATPは、リチウムイオン伝導率が高く、水で分解することがないため、空気中においても安定に存在することができる。
【0129】
(5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0130】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0131】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0132】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0133】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0134】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0135】
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0136】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0137】
次に、第2実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0138】
図2は、第2実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図3は、図2に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0139】
図2及び図3に示す二次電池100は、図2及び図3に示す袋状外装部材2と、図3に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0140】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0141】
図2に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図3に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0142】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図3に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0143】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0144】
図2に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0145】
第2実施形態に係る二次電池は、図2及び図3に示す構成の二次電池に限らず、例えば図4及び図5に示す構成の電池であってもよい。
【0146】
図4は、第2実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図5は、図4に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0147】
図4及び図5に示す二次電池100は、図4及び図5に示す電極群1と、図4に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0148】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0149】
電極群1は、図5に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0150】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0151】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図5に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0152】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0153】
第2実施形態に係る二次電池は、第1実施形態に係る正極を備える。それ故、この二次電池は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を達成することができる。
【0154】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、組電池が提供される。第3実施形態に係る組電池は、第2実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0155】
第3実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0156】
次に、第3実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0157】
図6は、第3実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図6に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第2実施形態に係る二次電池である。
【0158】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図6の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0159】
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0160】
第3実施形態に係る組電池は、第2実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を達成することができる。
【0161】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第3実施形態に係る組電池を具備している。電池パックは、第3実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第2実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0162】
第4実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0163】
また、第4実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0164】
次に、第4実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0165】
図7は、第4実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図8は、図7に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0166】
図7及び図8に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0167】
図7に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0168】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0169】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図8に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0170】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0171】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0172】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0173】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0174】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0175】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0176】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0177】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0178】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0179】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0180】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0181】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0182】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0183】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0184】
第4実施形態に係る電池パックは、第2実施形態に係る二次電池又は第3実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、低抵抗であり且つ高い容量維持率を達成することができる。
【0185】
(第5実施形態)
第5実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第4実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0186】
第5実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
【0187】
第5実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0188】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0189】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0190】
次に、第5実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0191】
図9は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0192】
図9に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図9に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0193】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0194】
図9では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0195】
次に、図10を参照しながら、第5実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0196】
図10は、第5実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。図10に示す車両400は、電気自動車である。
【0197】
図10に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0198】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図10に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0199】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0200】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0201】
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0202】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0203】
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0204】
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0205】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば図10に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0206】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0207】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0208】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0209】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0210】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0211】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0212】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0213】
第5実施形態に係る車両は、第4実施形態に係る電池パックを具備している。それ故、本実施形態によれば、低抵抗であり且つ高い容量維持率を達成可能な電池パックを搭載した車両を提供することができる。
【0214】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0215】
(実施例1)
以下の手順で二次電池を作製した。
【0216】
<正極の作製>
正極活物質として、スピネル型リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.5Mn1.5:LNMO)粉末を準備した。アニリンモノマーを、LNMOの質量に対して1質量%の量でアセトンに溶解してモノマー含有溶液を調製した。得られたモノマー含有溶液中に、LNMO粉末を添加して分散液を調製し、この分散液を10分間に亘り攪拌した後に加熱乾燥させて溶媒を除去した。こうして、アニリンモノマーによりコートされたLNMO粉末を作製した。
【0217】
得られた粉末100質量部、導電材としてのアセチレンブラック5質量部、及び、水系バインダとしてのアルギン酸バインダ5質量部を純水に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布して積層体を得て、この積層体を120℃の恒温槽内で乾燥した後、プレスに供して正極を得た。
【0218】
<負極の作製>
負極活物質としてのニオブチタン複合酸化物(Nb2TiO7:NTO)粉末100質量部、導電材としてアセチレンブラック4質量部、並びに、結着材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)2質量部、及び、スチレンブタジエンコポリマー(SBR)2質量部を、純水に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布して積層体を得て、この積層体を120℃の恒温槽内で乾燥した後、プレスに供して負極を得た。
【0219】
<電極群の作製>
正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順で積層し、積層体を得た。次いで、この積層体を渦巻き状に捲回した。これを80℃で加熱プレスすることにより偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、ナイロン層/アルミニウム層/ポリエチレン層の3層構造を有し、厚さが0.1mmであるラミネートフィルムからなるパックに収納し、120℃で16時間に亘り真空中で乾燥した。
【0220】
<非水電解質の調製>
プロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:2)に、電解質としてLiPFを1mol/L溶解させることで非水電解質を得た。電解質の調整は、アルゴンボックス内で実施した。
【0221】
<二次電池の作製、初充電及び充放電サイクル試験>
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に非水電解質を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉し、未初充電状態の二次電池を得た。
【0222】
作製した二次電池を、25℃環境下で充放電サイクル試験に供した。充放電では、まず、電池を3.6Vまで20mAで初充電し、その後2.3Vまで20mAで放電した。初充電時の正極の平均作動電位は4.7V(vs.Li/Li+)であった。その後、100mAで充放電を行った後、Ar雰囲気下でラミネートパック上部を開封し、内部のガスを真空下で排出させた。その後、ラミネートパック上部を再度ヒートシールにより完全密閉した。更に、3.6Vまで20mAで充放電を行い、電池の容量を確認した後、100mAで充放電を100サイクル繰り返した。そして、初回放電容量と、100サイクル目の放電容量とから容量維持率を算出した。また、100サイクル後の二次電池を、内部が真空状態の容器に封入した後に、外装部材を開封し、流出したガス量を測定した。
【0223】
(実施例2-5)
モノマー含有溶液に含まれるモノマー量を、表1の「導電性ポリマーコート量(質量%)」の列に応じて変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0224】
(実施例6)
電解重合可能なモノマーとしてピロールを使用したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0225】
(実施例7)
電解重合可能なモノマーとしてチオフェンを使用したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0226】
(実施例8)
正極活物質として、リチウムリン酸化合物(LiCoPO4:LCP)粉末を使用したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0227】
(実施例9)
正極活物質として、LCP粉末を使用したことを除いて、実施例6と同様の方法で二次電池を作製した。
【0228】
(実施例10)
正極活物質として、LCP粉末を使用したことを除いて、実施例7と同様の方法で二次電池を作製した。
【0229】
(実施例11)
正極用スラリー調製の際に、アルギン酸バインダの添加量を2質量部に変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0230】
(実施例12)
正極用スラリー調製の際に、アルギン酸バインダの添加量を8質量部に変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0231】
参考例13)
水系バインダの種類をカルボキシメチルセルロース(CMC)に変更したことを除いて、実施例11と同様の方法で二次電池を作製した。
【0232】
参考例14)
水系バインダの種類をカルボキシメチルセルロース(CMC)に変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0233】
(実施例15)
負極活物質の種類をニオブチタン複合酸化物(NTO)からリチウムチタン複合酸化物(Li4Ti512:LTO)に変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0234】
(比較例1)
電解重合可能なモノマーを使用しなかったことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。即ち、比較例1における正極活物質は、導電性ポリマーコートを有さないLNMO粉末であった。
【0235】
(比較例2)
モノマー含有溶液に含まれるモノマー量を、使用するLNMO粉末の質量に対して10質量%に変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0236】
(比較例3)
水系バインダの代わりに、有機溶媒系バインダとしてのPVDFを使用し、その添加量を、正極活物質100質量部に対して3質量部の量に変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。正極スラリーを作製する際に結着材として添加されるPVDFは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒に溶解した状態で添加される。それ故、当該スラリー中に、アニリンモノマーによるコートを有する正極活物質を投入すると、アニリンモノマーによるコートの少なくとも一部がスラリーに溶出する。スラリーに溶出したアニリンモノマーは電解液に溶解し、副反応成分となり、ガスが多量に発生する。
【0237】
(比較例4)
正極活物質として、LNMOの代わりに、平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li+)のLiMn24(LMO)粉末を用いたことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0238】
<直流(DC:Direct Current)抵抗測定>
各例で作製した二次電池に対して、以下の通りDC抵抗測定を行った。
二次電池を、電圧が2.5Vに達するまで、0.2Cの定電流(CC)で放電した。その後、二次電池を、電圧が3.6Vに達するまで、0.2Cの定電流(CC)で充電した。次いで、二次電池を、電流値が1/20Cとなるまで、3.11Vの定電圧(CV)で充電することで、二次電池の充電状態をSOC50%とした。SOC50%に調整した二次電池を、1C及び10Cの定電流(CC)で200msの間それぞれ放電し、この時の電圧値と電流値との差からDC抵抗[mΩ]を求めた。
【0239】
以上の結果を下記表1にまとめる。表1中、「導電性ポリマーコート量(質量%)」の列には、正極活物質として活物質含有層に含まれる、リチウム複合酸化物粒子の質量に対する、導電性ポリマーの質量の割合を示している。「水溶性ポリマー量(質量%)」の列には、正極活物質含有層に占める水溶性ポリマーの質量の割合を示している。
【0240】
【表1】
【0241】
表1から以下のことが分かる。
実施例1~12,15のそれぞれにおける正極が備える正極活物質含有層は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示す1つ以上のリチウム複合酸化物粒子を含む。また、これらリチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部は、導電性ポリマーで被覆されている。1つ以上のリチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。加えて、正極活物質含有層は、水溶性ポリマーを含む。従って、実施例1~12,15はいずれも、優れた容量維持率、低いDC抵抗及び少ないガス発生量を達成した。
【0242】
正極活物質としてリチウムニッケルマンガン酸化物(LNMO)を使用した実施例1-7及び11-12,15と、同じくLNMOを使用した比較例1-3とを対比すると、実施例1-7及び11-12,15については高い容量維持率と低抵抗を両立できていることが分かる。リチウムリン酸化合物であるLiCoPO4(LCP)を使用した実施例8-10についても、高い容量維持率と低抵抗を両立できた。
【0243】
比較例1は、LNMO粒子が導電性ポリマーでコートされていなかったため、LNMO粒子と非水電解質との接触を抑制することができず、ガス発生が増大したと考えられる。その結果、容量維持率が劣っていた。比較例2は、活物質としてのLNMO粒子が過剰量の導電性ポリマーでコートされていたため、DC抵抗が顕著に増大した。比較例3は、正極結着材として、有機溶媒系バインダとしてのPVDFを使用した例である。この場合、正極用スラリー作製時に、正極活物質粒子表面を覆っているアニリンモノマーが有機溶媒に溶出する。それ故、初充電を行っても活物質表面に導電性ポリマーがコートされなかったと考えられる。その結果、正極活物質としてのLNMO粒子表面での副反応を抑制できず、ガス発生が増大すると共に容量維持率が低下したと考えられる。
【0244】
比較例4は、正極活物質(リチウム複合酸化物)として、平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li+)のリチウムマンガン酸化物(LiMn24:LMO)を使用した例である。一方で、アニリンモノマーを十分に電解重合させるためには、正極電位を例えば4.4V以上まで高める必要がある。比較例4では、アニリンモノマーを重合させるべく正極電位を4.4V以上まで高めた結果、LMOがそのような使用電圧に耐えられず、その結晶構造が崩壊したと考えられる。その結果、リチウムイオンの挿入脱離が行われなくなった。
【0245】
実施例2~4に示すように、正極活物質としてのリチウム複合酸化物粒子の質量に対する、導電性ポリマーの質量の割合が1.0質量%~4.0質量%の範囲内にある場合、当該範囲を外れる場合と比較して、容量維持率及びDC抵抗がバランス良く優れていることが分かる。実施例1-12,15では、水溶性ポリマーとして、HLB値が15~19の範囲内にあるものを使用しているため、正極活物質含有層が非水電解質に対して安定であった。

【0246】
以上に述べた少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、正極が提供される。正極は、正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備える。正極活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含む。リチウム複合酸化物粒子の質量に対する導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある。この正極は、低抵抗であり且つ高い容量維持率を実現できる。
【0247】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 正極活物質粒子及び水溶性ポリマーを含む正極活物質含有層を備え、
前記正極活物質粒子は、
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物粒子と、
前記リチウム複合酸化物粒子表面の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーとを含み、
前記リチウム複合酸化物粒子の質量に対する前記導電性ポリマーの質量の割合は、0.5質量%~5.0質量%の範囲内にある正極。
[2] 前記導電性ポリマーは、ポリアニリン類、ポリピロール類及びポリチオフェン類からなる群より選択される少なくとも一種である[1]に記載の正極。
[3] 前記リチウム複合酸化物粒子の質量に対する前記導電性ポリマーの質量の割合は、1.0質量%~4.0質量%の範囲内にある[1]又は[2]に記載の正極。
[4] 前記水溶性ポリマーのHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は、8以上20以下の範囲内にある[1]~[3]の何れか1項に記載の正極。
[5] 前記正極活物質含有層に占める前記水溶性ポリマーの質量の割合は、1質量%~10質量%の範囲内にある[1]~[4]の何れか1項に記載の正極。
[6] 前記水溶性ポリマーは、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ポリマー、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル、及び、ジカルボキシル化多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である[1]~[5]の何れか1項に記載の正極。
[7] 前記リチウム複合酸化物は、リチウムニッケルマンガン酸化物及びリチウムリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む[1]~[6]の何れか1項に記載の正極。
[8] [1]~[7]の何れか1項に記載の正極と、
負極と、
電解質とを具備する二次電池。
[9] 前記負極は、負極活物質を含む負極活物質含有層を備えており、
前記負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む[8]に記載の二次電池。
[10] [9]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[11] 通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む[10]に記載の電池パック。
[12] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[10]又は[11]に記載の電池パック。
[13] [10]~[12]の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
[14] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む[13]に記載の車両。
【符号の説明】
【0248】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b、3c…負極集電タブ、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、5c…正極活物質粒子、5d…水溶性ポリマー、5e…正極導電材、6…負極端子、7…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、22a…他端、23…負極側リード、23a…他端、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、51…リチウム複合酸化物粒子、52…導電性ポリマー、100…二次電池、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、416…電流検出部、417…負極入力端子、418…正極入力端子、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。
図1
図2
図3
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図10