(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ガスセンサ装置、及び酸素情報取得方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/41 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
G01N27/41 325N
(21)【出願番号】P 2021170854
(22)【出願日】2021-10-19
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-055862(JP,A)
【文献】特開昭63-262557(JP,A)
【文献】特開平6-281620(JP,A)
【文献】特開2015-031604(JP,A)
【文献】特開2007-147386(JP,A)
【文献】特開2021-162580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する第1固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されかつ他方が基準雰囲気に晒されるように前記第1固体電解質体上に配置された一対の第1電極を含む酸素濃度検出セルと、前記検出室に面する第2固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記第2固体電解質体上に配置された一対の第2電極を含み、前記第2電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、
前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得部とを備えるガスセンサ装置であって、
前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記第2電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御部を備えるガスセンサ装置。
【請求項2】
外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記固体電解質体上に配置された一対の電極を含み、前記電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、
前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得部とを備えるガスセンサ装置であって、
前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御部を備えるガスセンサ装置。
【請求項3】
外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する第1固体電解質体、及び一方が前記検出室に収容されかつ他方が基準雰囲気に晒されるように前記第1固体電解質体上に配置された一対の第1電極を含む酸素濃度検出セルと、前記検出室に面する第2固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記第2固体電解質体上に配置された一対の第2電極を含み、前記第2電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサにおいて、前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得工程を備える酸素情報取得方法であって、
前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記第2電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御工程を備える酸素情報取得方法。
【請求項4】
外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記固体電解質体上に配置された一対の電極を含み、前記電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサにおいて、前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得工程を備える酸素情報取得方法であって、
前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値となるように、前記ポンプ電流又は前記電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御工程を備える酸素情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ装置、及び酸素情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の酸素マスクや、酸素濃縮装置等の技術分野(例えば、特許文献1参照)では、高濃度の酸素ガスを測定するガスセンサが使用される。この種のガスセンサは、限界電流方式によって酸素濃度を検出する酸素センサ素子を含む酸素ポンプセルを備えている。酸素ポンプセルは、主として、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、その表面及び裏面に形成される一対の電極とを備えている。なお、一方の電極は、外部に晒され、他方の電極は、ガス測定室に晒される。
【0003】
これらの電極間に所定の電圧が印加されると、それらの電極間に所定の電流Ipが流れる。そして、その電流Ipの向きと大きさに応じて、外部から測定室に酸素を汲み入れ、又は測定室から外部へ酸素を汲み出すように酸素ポンプセルが機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のガスセンサでは、例えば、酸素濃度100%の被検出ガス(酸素ガス)を検出しようとすると、酸素ポンプセルの電極間に印加される電圧(電極間を流れる電流Ip)が大きくなりすぎて、上手く測定できないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定可能なガスセンサ装置、及び酸素情報取得方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する第1固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されかつ他方が基準雰囲気に晒されるように前記第1固体電解質体上に配置された一対の第1電極を含む酸素濃度検出セルと、前記検出室に面する第2固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記第2固体電解質体上に配置された一対の第2電極を含み、前記第2電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得部とを備えるガスセンサ装置であって、前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記第2電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御部を備えるガスセンサ装置。
【0008】
<2> 外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記固体電解質体上に配置された一対の電極を含み、前記電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、 前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得部とを備えるガスセンサ装置であって、前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御部を備えるガスセンサ装置。
【0009】
<3> 外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する第1固体電解質体、及び一方が前記検出室に収容されかつ他方が基準雰囲気に晒されるように前記第1固体電解質体上に配置された一対の第1電極を含む酸素濃度検出セルと、前記検出室に面する第2固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記第2固体電解質体上に配置された一対の第2電極を含み、前記第2電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサにおいて、前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得工程を備える酸素情報取得方法であって、前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、前記ポンプ電流又は前記第2電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御工程を備える酸素情報取得方法。
【0010】
<4> 外部から被検出ガスが導入される検出室と、前記検出室に面する固体電解質体、及び一方が前記検出室内に収容されるように前記固体電解質体上に配置された一対の電極を含み、前記電極間を流れるポンプ電流に応じて、前記検出室内に導入された前記被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサにおいて、前記ポンプ電流に基づいて、前記被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する酸素情報取得工程を備える酸素情報取得方法であって、前記検出室内の酸素分圧が0.01atm以上の値となるように、前記ポンプ電流又は前記電極間に印加するポンプ電圧を制御する制御工程を備える酸素情報取得方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定可能なガスセンサ装置、及び酸素情報取得方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係るガスセンサシステムの概略構成を示す説明図
【
図2】ガスセンサが備えるガスセンサ素子を先端側から見た斜視図
【
図4】実施形態1の酸素情報取得方法の各工程を示す説明図
【
図5】被検出ガスの酸素濃度と、ポンプ電流との関係を示すグラフ
【
図6】被検出ガスの酸素濃度と、酸素ポンプセルの電極間に印加される電圧との関係を示すグラフ
【
図7】実施形態2に係るガスセンサシステムの概略構成を示す説明図
【
図8】実施形態2の酸素情報取得方法の各工程を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を、
図1~
図6を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態1に係るガスセンサシステム3の概略構成を示す説明図である。
【0014】
ガスセンサシステム(ガスセンサ装置の一例)3は、被検出ガス中に含まれる高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定するためのシステムであり、主として、ガスセンサ1と、ガスセンサ制御装置2とを備えている。このようなガスセンサシステム3は、酸素マスクや、酸素濃縮装置等の医療用装置に利用される。
【0015】
ガスセンサ1は、酸素濃度に応じてセンサ電流がリニアに変化するリニアラムダセンサ(限界電流方式のセンサ)である。ガスセンサ1としては、例えば、内燃機関(自動車エンジン等)の排気通路に取り付けられて、排気ガス中の酸素濃度を検出する排気ガス用酸素センサが利用される。
【0016】
ガスセンサ1は、ガスセンサ制御装置2に対して電気的に接続されており、ガスセンサ制御装置2によって通電制御されて酸素濃度を検出する。なお、ガスセンサ制御装置2は、バッテリ(不図示)から電力の供給を受けて作動する。
【0017】
図2は、ガスセンサ1が備えるガスセンサ素子10を先端側から見た斜視図であり、
図3は、
図2のA-A線断面図である。ガスセンサ1は、ガスセンサ素子10と、そのガスセンサ素子10を内部で保持するハウジング(不図示)とを備えている。本実施形態のガスセンサ素子10は、2セル式であり、後述するように酸素ポンプセル40と、酸素濃度検出セル50とを備えている。
【0018】
ここで、先ず、ガスセンサ素子10の構造について説明する。ガスセンサ素子10は、
図2に示されるように、全体的に細長く延びた板状をなしており、その先端側に、被検出ガス中の酸素濃度を検出する検出部が設けられている。ガスセンサ素子10の先端側は、多孔質体からなる保護層Mによって覆われている。なお、保護層Mは、説明の便宜上、
図3等において適宜、省略されている。
【0019】
ガスセンサ素子10は、ジルコニアを主体とする固体電解質体11,13と、アルミナを主体とする絶縁基体12,17,18,24とを備える。それらは、何れも細長い板状に形成されており、絶縁基体18、絶縁基体17、固体電解質体13、絶縁基体12,固体電解質体11、及び絶縁基体24の順に積層された構造となっている。なお、固体電解質体13は、本発明の「第1固体電解質体」に対応し、固体電解質体11は、「第2固体電解質体」に対応する。
【0020】
固体電解質体11の両面に、白金を主体とする一対の電極19,20がそれぞれ形成されている。また、同様に、固体電解質体13の両面にも一対の電極21,22がそれぞれ形成されている。電極22は、固体電解質体13と絶縁基体17との間で挟まれた状態で埋設されている。
【0021】
絶縁基体12の長手方向の一端側には、固体電解質体11,13を一壁面としつつ、被検出ガスを導入可能な中空のガス検出室(検出室)23が形成されている。なお、ガス検出室(検出室)23は、固体電解質体(第1固体電解質体)13と、固体電解質体(第2固体電解質体)11との間に形成される。ガス検出室23の幅方向の両端には、ガス検出室23内に被検出ガスを導入する際の導入量(流入量)を規制するための多孔質状の拡散律速部(多孔質拡散層)15が設けられている。拡散律速部15は、ガスセンサ素子10の厚み方向(積層方向)において、固体電解質体13と固体電解質体11との間に介在されている。ガス検出室23は、拡散律速部15に面しており、外部の被検出ガスが、拡散律速部15を通過して、ガス検出室23内に導入される。なお、固体電解質体11上の電極20と、固体電解質体13上の電極21とは、ガス検出室23内にそれぞれ露出されている。
【0022】
また、絶縁基体17,18の間には、白金を主体とする発熱抵抗体26がそれらに挟まれた状態で埋設されている。絶縁基体17,18及び発熱抵抗体26は、固体電解質体11,13を加熱して活性化させるためのヒータとして機能する。
【0023】
固体電解質体11上の電極19は、その表面がセラミックス(例えば、アルミナ)からなる多孔質性の保護層25によって覆われている。電極19は、被検出ガスに含まれる被毒成分(例えば、シリコン等)によって劣化しないように、保護層25によって保護されている。固体電解質体11上に積層された絶縁基体24は、電極19を覆わないように開口24aが設けられており、その開口24a内に保護層25が配設されている。
【0024】
このように構成されたガスセンサ素子10において、固体電解質体11とその両面に設けられた一対の電極19,20は、外部からガス検出室23内に酸素を汲み入れ、又はガス検出室23から外部へ酸素を汲み出す酸素ポンプセル40として機能する。本明細書において、酸素ポンプセル40の一対の電極19,20が、本発明の「一対の第2電極」に対応する。一対の電極19,20は、固体電解質体(第2固体電解質体)11を挟む形で配置される。一方の電極20は、ガス検出室23に配置され、他方の電極19は、絶縁基体24の開口24a内に配置されている。
【0025】
また、固体電解質体13とその両面に設けられた一対の電極21,22は、両電極間の酸素濃度に応じて起電力を発生させる酸素濃度検出セル50として機能する。電極22は、ガス検出室23内の酸素濃度の検出のための基準となる酸素濃度を維持する酸素基準電極(基準室)として機能する。本明細書において、酸素濃度検出セル50の一対の電極21,22が、本発明の「一対の第1電極」に対応する。一対の電極21,22は、固体電解質体(第1固体電解質体)13を挟む形で配置される。一方の電極21は、ガス検出室23に配置され、他方の電極22は、後述する基準雰囲気に晒される。
【0026】
なお、
図3に示されるように、本明細書において、ガスセンサ素子10の幅方向における拡散律接部15の長さを「L」と表す。また、ガスセンサ素子10の幅方向から見た拡散律速部15の断面積を、「S」と表す。
【0027】
以上のように、本実施形態のガスセンサ1は、外部から被検出ガスが導入されるガス検出室(検出室)23と、ガス検出室23に面する固体電解質体(第1固体電解質体)13、及び一方がガス検出室23内に収容されかつ他方が基準雰囲気に晒されるように固体電解質体(第1固体電解質体)13上に配置された一対の第1電極21,22を含む酸素濃度検出セル50と、ガス検出室23に面する固体電解質体(第2固体電解質体)11、及び一方がガス検出室23内に収容されるように固体電解質体(第2固体電解質体)11上に配置された一対の第2電極19,20を含み、第2電極19,20間を流れるポンプ電流Ipに応じて、ガス検出室23内に導入された被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセル40と、を有する。
【0028】
次に、ガスセンサ制御装置2について説明する。ガスセンサ制御装置2は、マイクロコンピュータ9、回路部30及び表示部60を構成主体としている。マイクロコンピュータ9は、CPU6、ROM7、RAM8等を搭載した公知の構成のマイコンチップからなる。なお、ROM7には、CPU6に各処理を実行させるための制御プログラム等が記憶されている。
【0029】
回路部30は、ガスセンサ1を駆動させる回路(例えば、ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、によって実現される。このような回路部30は、ポンプ電流供給部31、基準電圧生成部32、微小電流供給部33、AD変換部34、PID演算部35、Rpvs演算部36、デューティ演算部37、ヒータ駆動部38を備える。また、回路部30は、酸素ポンプセル40の正極側に電気的に接続されるポンプ電流端子TIp、酸素ポンプセル40の負極側と酸素濃度検出セル50の負極側とに電気的に接続される共通端子TCOM、酸素濃度検出セル50の正極側に電気的に接続される電圧検出端子TVs、ヒータ端子THを備える。
【0030】
基準電圧生成部32は、共通端子TCOMに印加される基準電圧を発生させる。本実施形態において、基準電圧は、2.7Vである。微小電流供給部33は、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル50の電極22に接続されている。微小電流供給部33は、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル50に微小電流Icpを供給することにより、電極22側に酸素イオンを移動させて基準となる基準雰囲気(酸素分圧:約2atm)を生成する。これにより、電極22は、被検出ガス中の酸素濃度を検出するための基準となる酸素基準電極として機能する。また、微小電流供給部33は、酸素濃度検出セル50の内部抵抗値を検出するためのパルス電流Irpvsを、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル50に供給する。微小電流供給部33は、微小電流Icp及びパルス電流Irpvsを常時供給するのではなく、マイクロコンピュータ9からの指令に基づいて、微小電流Icp及びパルス電流Irpvsを、それぞれ適切な時期に供給する。
【0031】
ポンプ電流供給部31は、ポンプ電流端子TIpを介して、酸素ポンプセル40の電極19に接続されている。ポンプ電流供給部31は、酸素ポンプセル40に大きさ及び向きが調整されたポンプ電流Ipを供給する。
【0032】
AD変換部34は、電圧検出端子TVsから入力されるアナログ信号の電圧値をデジタル信号へ変換し、PID演算部35とRpvs演算部36とに出力する。
【0033】
PID演算部(制御部の一例)35は、ガス検出室23内の酸素分圧が0.01atm以上の値となるように、ポンプ電流Ipを制御する。具体的には、PID演算部35は、AD変換部34から入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsにおける電圧と、共通端子TCOMにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、75mV)となるように、ポンプ電流Ipを調整するフィードバック制御を行う。PID演算部35は、前記電圧差が、前記目標電圧となるように、PID(Proportional-Integral-Differential)演算を行うと共に、PID演算で得られた結果(デジタル信号の電流値)を、ポンプ電流供給部31へ出力する。なお、ポンプ電流供給部31は、PID演算部35から入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換して、上記のように、酸素ポンプセル40にポンプ電流Ipを供給する。
【0034】
Rpvs演算部36は、微小電流供給部33がパルス電流Irpvsを供給しているときにAD変換部34から入力されるデジタル信号に基づいて、酸素濃度検出セル50の内部抵抗値Rpvsを算出するための演算を実行し、この内部抵抗値Rpvsを示すデジタル信号をデューティ演算部37へ出力する。
【0035】
デューティ演算部37は、Rpvs演算部36から入力されるデジタル信号に基づいて、ガスセンサ素子10の温度を予め設定された目標温度に維持するために必要な発熱抵抗体26の発熱量を算出する。そしてデューティ演算部37は、算出した発熱抵抗体26の発熱量に基づいて、発熱抵抗体26に供給する電力のデューティ比を算出し、算出したデューティ比に応じたPWM(Pulse Width Modulation)制御信号をヒータ駆動部38へ出力する。ヒータ駆動部38は、デューティ演算部37から入力されるPWM制御信号に基づいて、発熱抵抗体26の両端に供給される電圧VhをPWM制御して、発熱抵抗体26を発熱させる。
【0036】
表示部60は、液晶パネル等の表示パネルを備えており、取得された被検出ガス中の酸素濃度等の情報を、表示する。なお、表示部60の表示制御は、マイクロコンピュータ9によって行われる。
【0037】
マイクロコンピュータ9のCPU6は、ROM7に記憶されたプログラムに基づいて、ガスセンサ素子10を制御する処理を実行する。
【0038】
また、CPU6は、酸素情報取得部として機能する。つまり、CPU(酸素情報取得部)6は、ポンプ電流Ipの流れる向き及びポンプ電流Ipの大きさに基づいて、被検出ガス中の酸素濃度(酸素情報の一例)を算出する処理を実行する。酸素濃度を算出するためのプログラムは、予め、ROM7に記憶されている。CPU6は、予め設定された取得周期(例えば、1ms)が経過する毎に、回路部30から、ポンプ電流Ipの流れる向き及びポンプ電流Ipの大きさに関する値を示すデジタルデータを取得すると共に、取得された前記デジタルデータより、被検出ガス中の酸素濃度を算出する。
【0039】
以上のような、本実施形態のガスセンサシステム3は、被検出ガス中の酸素ガスの濃度を測定することができる。特に、本実施形態のガスセンサシステム3は、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。測定原理等については、後述する。
【0040】
次いで、
図4を参照しつつ、本実施形態のガスセンサシステム(ガスセンサ装置)3を用いて、被検出ガス中の酸素濃度を取得する酸素情報取得方法を説明する。
図4は、実施形態1の酸素情報取得方法の各工程を示す説明図(フローチャート)である。本実施形態の酸素情報取得方法は、主として、電流制御工程(制御工程の一例)S11、及び酸素情報取得工程S12とを備える。なお、酸素情報取得方法では、酸素濃度の検出が開始される前に、予め、加熱による酸素ポンプセル40及び酸素濃度検出セル50の活性化や、基準雰囲気の生成等の酸素濃度の検出に必要な準備工程が行われている。
【0041】
電流制御工程S11は、ガス検出室23内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、ポンプ電流Ipを制御する工程である。電流制御工程S11では、PID演算部(制御部の一例)35が、AD変換部34から入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsにおける電圧と、共通端子TCOMにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、75mV)となるように、PID演算を行うと共に、そのPID演算で得られた結果(デジタル信号の電流値)を、ポンプ電流供給部31へ出力する。ポンプ電流供給部31は、PID演算部35から入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換して、酸素ポンプセル40にポンプ電流Ipを供給する。
【0042】
酸素情報取得工程S12は、ポンプ電流Ipに基づいて、被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する工程である。酸素情報取得工程S12では、具体的には、マイクロコンピュータ9に入力されたポンプ電流Ipの情報(ポンプ電流Ipの流れる向き、及びポンプ電流Ipの大きさ)に基づいて、マイクロコンピュータ9のCPU(酸素情報取得部)6が、被検出ガス中の酸素濃度(酸素情報の一例)を算出する処理を実行する。このようにして、被検出ガス中の酸素濃度が得られる。
【0043】
以上のように、本実施形態の酸素情報取得方法によって、被検出ガス中の酸素濃度を検出することができる。このような本実施形態の酸素情報取得方法によれば、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。なお、酸素情報取得工程S12で得られた酸素情報は、表示部60において適宜、表示されてもよい。
【0044】
次いで、本実施形態のガスセンサシステム3及び酸素情報取得方法により、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定できる原理等について説明する。
【0045】
ガスセンサ素子10において、酸素ポンプセル40の第2電極19,20間を流れるポンプ電流Ipは、以下に示される理論式(1)により表される。
【0046】
【0047】
式(1)における「F」はファラデー定数[C/mol]、「R」は気体定数[J/K/mol]、「T」は絶対温度[K]、「D」は拡散係数[m2/s]、「S」は、拡散律速部15の断面積[m2]、「L」は拡散律速部15の長さ[m]、「Po2」は被検出ガスの酸素分圧[Pa]、「Pt」は被検出ガスの全圧[Pa]である。
【0048】
上記式(1)において、例えば被検出ガスの酸素濃度が100%の場合、Po2/Pt=1となるため、ポンプ電流Ipの値は無限大に発散してしまうことが理解される。
【0049】
例えば、ここで仮想的に、酸素濃度が100%の雰囲気下(ただし、全圧は1atm)において、酸素濃度検出セル50の電極21,22間における基準電圧を450mVに設定した場合を検討する。この場合、被測定ガスを検出する前の状態において、ガス検出室23内の酸素濃度は略0%(酸素分圧:略0atm)となっている。そして、検出が開始されると、ガス検出室23の内外の圧力差(全圧差)が無くなるように、外部から拡散律速部15を通ってガス検出室23内へ酸素ガスが流入する。その一方で、酸素ポンプセル40は、ガス検出室23内の酸素濃度が略0%となるように(電極21,22間が450mVの基準電圧となるように)、ガス検出室23内の酸素ガスを外部へ汲み出すように作動する。しかしながら、酸素ポンプセル40による酸素ガスの汲み出しをいくら行っても、外部からガス検出室23内への酸素ガスの流入がいつまでも継続してしまうため、この場合のポンプ電流Ipの値は、無限大に発散してしまう。なお、このような場合、通常は、ポンプ電流Ipを流すために酸素ポンプセル40の電極19.20間に印加される電圧Vpが、過大(例えば、1.3V以上)とならないように、ガスセンサ1による検出が、回路部30が備える回路保護機能により、停止される。
【0050】
これに対して、本実施形態のガスセンサシステム3及び酸素情報取得方法では、ガス検出室23内の酸素分圧が、略0atmではなく、0.01atm以上の値となるように制御される。ここでは、酸素濃度が100%の雰囲気下(ただし、全圧は1atm)において、酸素濃度検出セル50の電極21,22間における基準電圧を75mVに設定した場合を例に挙げて説明する。
【0051】
この場合、被測定ガスを検出する前の状態において、ガス検出室23内の酸素分圧は、約0.085atm(0.01atm以上)となっている。そして、検出が開始されると、この場合も、ガス検出室23の内外の圧力差(全圧差)が無くなるように、外部から拡散律速部15を通ってガス検出室23内へ酸素ガスが流入する。また、その一方で、酸素ポンプセル40は、ガス検出室23内の酸素ガスを外部へ汲み出すように作動する。ただし、ガス検出室23内の酸素分圧が、略0atmではなく、0.01atm以上に制御されていると、外部からガス検出室23内に流入する酸素の量と、ガス検出室23から外部へ汲み出される酸素の量とが釣り合うことが可能となり、ポンプ電流Ipが有限の値をとることができる。このように、ガス検出室23内の酸素分圧を、0.01atm以上に制御することで、ポンプ電流Ipを流すための電圧Vpが過大とならないように抑制できる。
【0052】
ここで、実際に、本実施形態のガスセンサシステム(ガスセンサ装置)3を使用して、様々な酸素濃度を検出する試験を行った場合における、電圧Vp[V]及びポンプ電流Ip[mA]の各値について説明する。
図5は、被検出ガスの酸素濃度と、ポンプ電流Ipとの関係を示すグラフであり、
図6は、被検出ガスの酸素濃度と、酸素ポンプセル40の電極19,20間に印加される電圧Vpとの関係を示すグラフである。
図5の横軸は、被検出ガスの酸素濃度[%]であり、縦軸は、ポンプ電流Ip[mA]である。また、
図6の横軸は、被検出ガスの酸素濃度[%]であり、縦軸は、電圧Vp[V]である。なお、上記試験は、基準電圧を75mV(つまり、ガス検出室23内の酸素分圧が0.085atmとなるように)に設定した。また、電極22側の基準雰囲気(酸素分圧)を約2atmに設定した。
図6に示されるように、被検出ガスが酸素濃度100%であっても、電圧Vp[V]は過大とならず、0.2V程度に抑制されている。また、
図5に示されるように、被検出ガスが酸素濃度100%であっても、ポンプ電流Ip[mA]の値は無限大に発散せず、10mA程度に抑制されている。
【0053】
以上のように、本実施形態のガスセンサシステム(ガスセンサ装置)3、及び酸素情報取得方法によれば、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。
【0054】
特に、本実施形態の場合、ガスセンサ1として、排気ガス用酸素センサを使用するため、ポンプ電流Ipが大きな値(具体的には、mAオーダーの出力値)で得られる。そのため、本実施形態は、従来の酸素センサ(μAオーダーの出力値)と比べて、分解能が高く、しかもノイズに強いため、細かい濃度まで精度よく検出することができる。
【0055】
なお、実施形態1のガスセンサ1(2セル式のガスセンサ素子10を含む)において、ガス検出室23内の酸素分圧が0.01atmの場合、酸素濃度検出セル50の電極21,22間に生じる起電力は、126[mV]である。そのため、実施形態1において、ガス検出室23内の酸素分圧を0.01atm以上とするためには、酸素濃度検出セル50の電極21,22間を、基準電圧として、126[mV]以下の電圧で制御する要がある。起電力(EMF)は、以下に示される式(2)により求められる。
【0056】
【0057】
式(2)における「F」はファラデー定数[C/mol]、「R」は気体定数[J/K/mol]、「T」は絶対温度[K]、「Po2基準室」は電極22(基準室)における酸素分圧、「Po2検出室」はガス検出室23内の酸素分圧である。実施形態1では、「Po2基準室」が2atmであり、「Po2検出室」が0.01atmである。
【0058】
<実施形態2>
次いで、本発明の実施形態2を、
図7及び
図8を参照しつつ説明する。
図7は、実施形態2に係るガスセンサシステム(ガスセンサ装置)3Aの概略構成を示す説明図である。
【0059】
本実施形態では、上述した実施形態1とは異なり、1セル式のガスセンサ素子10Aを含むガスセンサ1Aが利用される。なお、本実施形態のガスセンサシステム3Aも、実施形態1と同様、酸素マスクや、酸素濃縮装置等の医療用装置に利用される。
【0060】
ガスセンサ1Aは、所謂、限界電流式センサであり、内部に細長で長尺な板状のガスセンサ素子10Aを備えている。ガスセンサ素子10Aは、所定のハウジング(不図示)内で保持された構成を備えている。ガスセンサ1Aは、ガスセンサ制御装置2Aと電気的に接続されている。ガスセンサ1Aとしては、例えば、実施形態1と同様、排気ガス用酸素センサが利用される。
【0061】
ガスセンサ素子10Aは、ジルコニアを主体とする酸素イオン伝導性の固体電解質体41Aと、その表面及び裏面にそれぞれ形成され、白金を主体とする一対の電極46A,47Aとを備える。ガスセンサ素子10Aは、その内部に、
図7に示されるような、ガス検出室42Aと、基準酸素室43Aとを備える。電極46Aは、ガス検出室42Aに対して露出し、電極47Aは、基準酸素室43Aに対して露出している。ガス検出室42Aには、ガスセンサ素子10Aの外部から、拡散律速部(多孔質拡散層)15Aを介して被検出ガスが導入される。拡散律速部(多孔質拡散層)15Aは、ガス検出室42A内に被検出ガスを導入する際の導入量(流入量)を規制する。基準酸素室43Aには、ガスセンサ素子10Aの外部から、基準ガスとしての大気が導入される。
【0062】
なお、ガス検出室42Aは、固体電解質体41Aと、拡散律速部(多孔質拡散層)15Aと、アルミナを主体とする絶縁基体44A等によって囲まれている。また、基準酸素室43Aは、固体電解質体41Aと、アルミナを主体とする絶縁基体45A等によって囲まれている。
図7には、長手方向と直交する方向(幅方向)におけるガスセンサ素子10Aの断面が示されている。
【0063】
また、ガスセンサ素子10Aは、白金を主体とする発熱抵抗体26Aを備えている。発熱抵抗体26は、後述するヒータ駆動部を介して電力が供給されて、ガスセンサ素子10Aの温度が活性化温度となるように発熱する。
【0064】
このように構成されたセンサ素子10Aにおいて、固体電解質体41Aとその両面に設けられた一対の電極46A,47Aは、基準酸素室43Aからガス検出室42A内に酸素を汲み入れ、又はガス検出室42Aから基準酸素室43Aへ酸素を汲み出す酸素ポンプセル40Aとして機能する。
【0065】
以上のように、本実施形態のガスセンサ1Aは、外部から被検出ガスが導入されるガス検出室(検出室)42Aと、ガス検出室42Aに面する固体電解質体41A、及び一方がガス検出室42A内に収容されるように固体電解質体41A上に配置された一対の電極46A,47Aを含み、電極46A,47A間を流れるポンプ電流Ipに応じて、ガス検出室42A内に導入された被検出ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセル40Aと、を有する。
【0066】
次に、ガスセンサ制御装置2Aについて説明する。ガスセンサ制御装置2Aは、実施形態1と同様、マイクロコンピュータ9A、回路部30A及び表示部60Aを構成主体としている。マイクロコンピュータ9Aは、CPU6A、ROM7A、RAM8A等を搭載した公知の構成のマイコンチップからなる。なお、ROM7Aには、CPU6Aに各処理を実行させるための制御プログラム等が記憶されている。
【0067】
回路部30Aは、ポンプ電流供給部31A、基準電圧生成部32A、微小電流供給部33A、AD変換部34A、PID演算部35A、Rpvs演算部36A、デューティ演算部37A、ヒータ駆動部38Aを備える。また、回路部30Aは、ポンプ電流端子TIpA、電圧検出端子TVsA、共通端子TCOMA、ヒータ端子THAを備える。
【0068】
基準電圧生成部32Aは、共通端子TCOMAに印加される基準電圧を発生させる。本実施形態において、基準電圧は、2.7Vである。
【0069】
微小電流供給部33Aは、酸素ポンプセル40Aの内部抵抗値を検出するためのパルス電流Irpvsを、電圧検出端子TVsAを介してガスセンサ素子10Aへ供給する。
【0070】
AD変換部34Aは、電圧検出端子TVsAから入力されるアナログ信号の電圧値をデジタル信号へ変換し、PID演算部35AとRpvs演算部36Aとに出力する。
【0071】
PID演算部(制御部の一例)35Aは、ガス検出室42A内の酸素分圧が0.01atm以上の値となるように、ポンプ電流Ipを制御する。具体的には、PID演算部35Aは、AD変換部34Aから入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsAにおける電圧と、共通端子TCOMAにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、50mV)となるように、ポンプ電流Ipを調整するフィードバック制御を行う。PID演算部35Aは、前記電圧差が、前記目標電圧となるように、PID演算を行うと共に、PID演算で得られた結果(デジタル信号の電流値)を、ポンプ電流供給部31Aへ出力する。
【0072】
ポンプ電流供給部31Aは、PID演算部35Aから入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換し、そのポンプ電流Ip(つまり、大きさ及び向きが調整されたポンプ電流Ip)を、ポンプ電流端子TIpAを介してガスセンサ素子10Aへ供給する。
【0073】
Rpvs演算部36Aは、微小電流供給部33Aがパルス電流Irpvsを供給しているときにAD変換部34Aから入力されるデジタル信号に基づいて、酸素ポンプセル40Aの内部抵抗値Rpvsを算出するための演算を実行し、この内部抵抗値Rpvsを示すデジタル信号をデューティ演算部37Aへ出力する。
【0074】
デューティ演算部37Aは、Rpvs演算部36Aから入力されるデジタル信号に基づいて、ガスセンサ素子10Aの温度を予め設定された目標温度に維持するために必要な発熱抵抗体26Aの発熱量を算出する。そしてデューティ演算部37Aは、算出した発熱抵抗体26Aの発熱量に基づいて、発熱抵抗体26Aに供給する電力のデューティ比を算出し、算出したデューティ比に応じたPWM(Pulse Width Modulation)制御信号をヒータ駆動部38Aへ出力する。ヒータ駆動部38Aは、デューティ演算部37Aから入力されるPWM制御信号に基づいて、発熱抵抗体26Aの両端に供給される電圧VhをPWM制御して、発熱抵抗体26Aを発熱させる。
【0075】
表示部60Aは、実施形態1と同様、液晶パネル等の表示パネルを備えており、取得された被検出ガス中の酸素濃度等の情報を、表示する。表示部60Aの表示制御は、マイクロコンピュータ9Aによって行われる。
【0076】
マイクロコンピュータ9AのCPU6Aは、ROM7Aに記憶されたプログラムに基づいて、ガスセンサ素子10Aを制御する処理を実行する。
【0077】
また、CPU6Aは、酸素情報取得部として機能する。つまり、CPU(酸素情報取得部)6Aは、ポンプ電流Ipの流れる向き及びポンプ電流Ipの大きさに基づいて、被検出ガス中の酸素濃度(酸素情報の一例)を算出する処理を実行する。酸素濃度を算出するためのプログラムは、予め、ROM7Aに記憶されている。CPU6Aは、予め設定された取得周期(例えば、1ms)が経過する毎に、回路部30Aから、ポンプ電流Ipの流れる向き及びポンプ電流Ipの大きさに関する値を示すデジタルデータを取得すると共に、取得された前記デジタルデータより、被検出ガス中の酸素濃度を算出する。
【0078】
以上のような、本実施形態のガスセンサシステム3Aは、被検出ガス中の酸素ガスの濃度を測定することができる。特に、本実施形態のガスセンサシステム3Aは、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。
【0079】
次いで、
図8を参照しつつ、本実施形態のガスセンサシステム(ガスセンサ装置)3Aを用いて、被検出ガス中の酸素濃度を取得する酸素情報取得方法を説明する。
図8は、実施形態2の酸素情報取得方法の各工程を示す説明図(フローチャート)である。本実施形態の酸素情報取得方法は、主として、電流制御工程(制御工程の一例)S21と、酸素情報取得工程S22とを備える。なお、本実施形態の酸素情報取得方法では、酸素濃度の検出が開始される前に、予め、加熱による酸素ポンプセル40Aの活性化等の酸素濃度の検出に必要な準備工程が行われている。
【0080】
電流制御工程S21は、ガス検出室42A内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、ポンプ電流Ipを制御する工程である。電流制御工程S21では、PID演算部(制御部の一例)35Aが、AD変換部34Aから入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsAにおける電圧と、共通端子TCOMAにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、50mV)となるように、PID演算を行うと共に、そのPID演算で得られた結果(デジタル信号の電流値)を、ポンプ電流供給部31Aへ出力する。ポンプ電流供給部31Aは、PID演算部35Aから入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換して、酸素ポンプセル40Aにポンプ電流Ipを供給する。
【0081】
酸素情報取得工程S22は、ポンプ電流Ipに基づいて、被検出ガス中の酸素濃度に関する情報を取得する工程である。酸素情報取得工程S22では、具体的には、マイクロコンピュータ9Aに入力されたポンプ電流Ipの情報(ポンプ電流Ipの流れる向き、及びポンプ電流Ipの大きさ)に基づいて、マイクロコンピュータ9AのCPU(酸素情報取得部)6Aが、被検出ガス中の酸素濃度(酸素情報の一例)を算出する処理を実行する。このようにして、被検出ガス中の酸素濃度が得られる。
【0082】
以上のように、本実施形態の酸素情報取得方法によって、被検出ガス中の酸素濃度を検出することができる。このような本実施形態の酸素情報取得方法によれば、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。
【0083】
本実施形態のガスセンサシステム3Aでは、実施形態1と同様、ガス検出室42A内の酸素分圧が、略0atmではなく、0.01atm以上の値となるように制御される。そのため、本実施形態のガスセンサシステム3Aは、実施形態1と同様、高濃度の酸素ガス(例えば、酸素濃度100%)を測定することができる。
【0084】
特に、本実施形態の場合、実施形態1と同様、ガスセンサ1Aとして、排気ガス用酸素センサを使用するため、ポンプ電流Ipが大きな値(具体的には、mAオーダーの出力値)で得られる。そのため、本実施形態は、従来の酸素センサ(μAオーダーの出力値)と比べて、分解能が高く、しかもノイズに強いため、細かい濃度まで精度よく検出することができる。
【0085】
なお、実施形態2のガスセンサ1A(1セル式のガスセンサ素子10Aを含む)において、ガス検出室42A内の酸素分圧が0.01atmの場合、酸素ポンプセル40Aの電極46A,47A間に生じる起電力は、71[mV]である。そのため、実施形態2において、ガス検出室42A内の酸素分圧を0.01atm以上とするためには、酸素ポンプセル40Aの電極46A,47A間を、71[mV]以下の電圧で制御する必要がある。起電力(EMF)は、上述した式(2)により求められる。この場合、式(2)の「Po2基準室」は電極46Aにおける酸素分圧、「Po2検出室」はガス検出室42A内の酸素分圧である。実施形態2では、「Po2基準室」が0.2atmであり、「Po2検出室」が0.01atmである。
【0086】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
(1)上記実施形態1において、ガスセンサ素子10の内部に形成されたガス検出室23は、固体電解質体(第2固体電解質体)11、固体電解質体(第1固体電解質体)13、拡散律速部15、絶縁基体12等によって区画された空間からなる。また、上記実施形態2において、ガスセンサ素子10Aの内部に形成されたガス検出室42Aは、固体電解質体41Aと、拡散律速部(多孔質拡散層)15Aと、絶縁基体44A等によって区画された空間からなる。このように実施形態1,2では、空間からなるガス検出室23,42Aを利用していたが、本発明はこれに限られず、他の実施形態においては、例えば、ガス検出室が、通気性を有する、連続気泡構造の多孔質体によって形成されてもよい。
【0088】
(2)上記実施形態1,2において、ガスセンサ制御装置を構成するマイクロコンピュータの数は1つであったが、本発明はこれに限られず、他の実施形態においては、例えば、マイクロコンピュータの数が2個以上であってもよい。また、本発明の目的を損なわない限り、マイクロコンピュータ(CPU)が実行する機能の一部又は全部を、1つ又は2個以上のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0089】
(3)上記実施形態1において、所謂2セル式のガスセンサ素子10におけるガス検出室23内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、ポンプ電流Ipを制御していたが、本発明はこれに限られない。例えば、他の実施形態においては、電極(第2電極)19,20間に印加する電圧(ポンプ電圧)を制御して、ガス検出室23内の酸素分圧を0.01atm以上の値としてもよい。
【0090】
(4)上記実施形態2において、所謂1セル式のガスセンサ素子10Aにおけるガス検出室42A内の酸素分圧が0.01atm以上の値になるように、ポンプ電流Ipを制御していたが、本発明はこれに限られない。例えば、他の実施形態においては、電極46A,47A間に印加する電圧(ポンプ電圧)を制御して、ガス検出室42内の酸素分圧を0.01atm以上の値としてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…ガスセンサ、2…ガスセンサ制御装置、3…ガスセンサシステム(ガスセンサ装置)、6…CPU、7…ROM、8…RAM、9…マイクロコンピュータ、10…ガスセンサ素子、11…固体電解質体(第2固体電解質体)、12…絶縁基体、13…固体電解質体(第1固体電解質体)、15…拡散律速部、17…絶縁基体、18…絶縁基体、19,20…第2電極、21,22…第1電極、23…ガス検出室(検出室)、24…絶縁基体、25…保護層、26…発熱抵抗体、30…回路部、31…ポンプ電流供給部、32…基準電圧生成部、33…微小電流供給部、34…AD変換部、35…PID演算部、36…Rpvs演算部、37…デューティ演算部、38…ヒータ駆動部、40…酸素ポンプセル、50…酸素濃度検出セル、60…表示部