IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝ソリューション株式会社の特許一覧

特許7562508情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム
<>
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図1
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図2
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図3
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図4
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図5
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図6
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図7
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図8
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図9
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図10
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図11
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図12
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図13
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図14
  • 特許-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/10 20060101AFI20240930BHJP
   G06N 99/00 20190101ALI20240930BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20240930BHJP
【FI】
G06F17/10 Z
G06N99/00 180
G16Z99/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021509658
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014156
(87)【国際公開番号】W WO2020196862
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019064587
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】301063496
【氏名又は名称】東芝デジタルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100202429
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 信人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隼人
(72)【発明者】
【氏名】辰村 光介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 良哲
【審査官】田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145010(JP,A)
【文献】金丸翔ほか,イジング計算機によるスロット配置問題の解法,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2018年06月07日,第118巻, 第82号,pp.161-166,ISSN 0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/10
G06N 99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ベクトルの要素である第1変数および第2ベクトルの要素である第2変数を記憶するように構成された記憶部と、
前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新し、前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算し、複数の前記第1変数を用いて問題項を計算し、前記問題項を前記第2変数に加算し、制約項と第2係数との積を含む第1補正項を計算し、前記第1補正項を前記第2変数に加算し、更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすように構成された処理回路とを備え、
前記制約項は、制約条件を表した制約関数に基づいており、前記第1変数を引数として有し、
前記問題項は、対象の問題に応じて決定されるイジングエネルギーに由来する項である、
情報処理装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記制約関数と前記制約関数をいずれかの前記第1変数について微分した導関数との積を含む前記制約項を計算するように構成されている、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記処理回路は、複数の前記制約条件のそれぞれについて、前記制約関数と前記導関数との積を計算し、複数の前記制約関数と前記導関数との積を加算し前記制約項を計算するように構成されている、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記処理回路は、第3係数と前記制約関数をいずれかの前記第1変数について微分した導関数との積を含む第2補正項を計算し、前記第2補正項を前記第2変数に加算するように構成されている、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記処理回路は、複数の前記制約条件のそれぞれについて、前記第3係数と前記導関数との積を計算し、複数の前記第3係数と前記導関数との積を加算し前記第2補正項を計算するように構成されている、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記処理回路は、更新回数に応じて前記第3係数の絶対値を増やすように構成されている、
請求項4または5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記処理回路は、一部の更新回において前記第3係数の絶対値を増やすように構成されている、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記処理回路は、目的関数の局所解に相当する前記第1変数を前記制約関数に代入することによって前記制約関数の評価値を計算し、前記第2係数と前記評価値との積を前記第3係数に加算するように構成されている、
請求項6または7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記処理回路が計算する前記問題項は、イジングモデルに基づいている、
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記処理回路が計算する前記問題項は、多体相互作用の項を含んでいる、
請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記処理回路を複数備え、
それぞれの前記処理回路は、並列的に前記第1ベクトルの少なくとも一部および前記第2ベクトルの少なくとも一部を更新するように構成されている、
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記処理回路は、正値である前記第1変数を第1値に変換し、負値である前記第1変数を前記第1値より小さい第2値に変換することによって解を計算するように構成されている、
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記処理回路は、前記第1係数の値、または前記第1ベクトルおよび前記第2ベクトルの更新回数に基づき解を計算するか否かを判定するように構成されている、
請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項14】
第1ベクトルの要素である第1変数および第2ベクトルの要素である第2変数を記憶するように構成された記憶装置と、
前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新し、前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算し、複数の前記第1変数を用いて問題項を計算し、前記問題項を前記第2変数に加算し、制約項と第2係数との積を含む第1補正項を計算し、前記第1補正項を前記第2変数に加算し、更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすように構成された情報処理装置とを備え、
前記制約項は、制約条件を表した制約関数に基づいており、前記第1変数を引数として有し、
前記問題項は、対象の問題に応じて決定されるイジングエネルギーに由来する項である、
情報処理システム。
【請求項15】
複数の前記情報処理装置を備え、
それぞれの前記情報処理装置は、並列的に前記第1ベクトルの少なくとも一部および前記第2ベクトルの少なくとも一部を更新するように構成されている、
請求項14に記載の情報処理システム。
【請求項16】
第1変数を要素とする第1ベクトルおよび前記第1変数に対応する第2変数を要素とする第2ベクトルを繰り返し更新する情報処理方法であって、
コンピュータが、
前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新するステップと、
前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算するステップと、
複数の前記第1変数を用いて問題項を計算するステップと、
前記問題項を前記第2変数に加算するステップと、
制約条件に基づいており、前記第1変数を引数として有する制約項を計算するステップと、
第2係数と前記制約項との積を含む第1補正項を計算するステップと、
前記第1補正項を前記第2変数に加算するステップと、
更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすステップと
実行することをみ、
前記問題項は、対象の問題に応じて決定されるイジングエネルギーに由来する項である、
情報処理方法。
【請求項17】
コンピュータに第1変数を要素とする第1ベクトルおよび前記第1変数に対応する第2変数を要素とする第2ベクトルを繰り返し更新させるプログラムであって、
前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新するステップと、
前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算するステップと、
複数の前記第1変数を用いて問題項を計算するステップと、
前記問題項を前記第2変数に加算するステップと、
制約条件に基づいており、前記第1変数を引数として有する制約項を計算するステップと、
第2係数と前記制約項との積を含む第1補正項を計算するステップと、
前記第1補正項を前記第2変数に加算するステップと、
更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすステップとをコンピュータに実行させるプログラムを格納し
前記問題項は、対象の問題に応じて決定されるイジングエネルギーに由来する項である、
非一時的なコンピュータ可読な記憶媒体。
【請求項18】
コンピュータに第1変数を要素とする第1ベクトルおよび前記第1変数に対応する第2変数を要素とする第2ベクトルを繰り返し更新させるプログラムであって、
前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新するステップと、
前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算するステップと、
複数の前記第1変数を用いて問題項を計算するステップと、
前記問題項を前記第2変数に加算するステップと、
制約条件に基づいており、前記第1変数を引数として有する制約項を計算するステップと、
第2係数と前記制約項との積を含む第1補正項を計算するステップと、
前記第1補正項を前記第2変数に加算するステップと、
更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすステップとを含み、
前記問題項は、対象の問題に応じて決定されるイジングエネルギーに由来する項である、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
組合せ最適化問題とは、複数の組合せの中から目的に最も適した組合せを選ぶ問題である。組合せ最適化問題は、数学的には、「目的関数」と呼ばれる、複数の離散変数を有する関数を最大化させる問題、または、当該関数を最小化させる問題に帰着される。組合せ最適化問題は、金融、物流、交通、設計、製造、生命科学など各種の分野において普遍的な問題であるが、組合せ数が問題サイズの指数関数のオーダーで増える、いわゆる「組合せ爆発」のため、必ず最適解を求めることができるとは限らない。また、最適解に近い近似解を得ることすら難しい場合が多い。
【0003】
各分野における問題を解決し、社会のイノベーションおよび科学技術の進歩を促進するために、組合せ最適化問題の解を実用的な時間内で計算する技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-73106号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Goto, K. Tatsumura, A. R. Dixon, Sci. Adv. 5, eaav2372 (2019).
【文献】H. Goto, Sci. Rep. 6, 21686 (2016).
【文献】土屋、西山、辻田:分岐特性を用いた組合せ最適化問題の近似解法URL:http://www.ynl.t.u-tokyo.ac.jp/project/RobotBrainCREST/publications/pdf/tsuchiya/4_01.pdf
【文献】土屋、西山、辻田:決定論的アニーリングアルゴリズムの解析URL:http://www.ynl.t.u-tokyo.ac.jp/project/RobotBrainCREST/publications/pdf/tsuchiya/4_02.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、組合せ最適化問題の解を実用的な時間内で計算する情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態としての情報処理装置は、記憶部と、処理回路とを備えている。前記記憶部は、第1ベクトルの要素である第1変数および第2ベクトルの要素である第2変数を記憶するように構成されている。前記処理回路は、前記第1変数を対応する前記第2変数に基づいて更新し、前記第1変数を第1係数で重み付けし対応する前記第2変数に加算し、複数の前記第1変数を用いて問題項を計算し、前記問題項を前記第2変数に加算し、制約項と第2係数との積を含む第1補正項を計算し、前記第1補正項を前記第2変数に加算し、更新回数に応じて前記第1係数および前記第2係数の絶対値を増やすように構成されている。前記制約項は、制約条件に基づいており、前記第1変数を引数として有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】情報処理システムの構成例を示した図。
図2】管理サーバの構成例を示したブロック図。
図3】管理サーバの記憶部に保存されるデータの例を示す図。
図4】計算サーバの構成例を示したブロック図。
図5】計算サーバのストレージに保存されるデータの例を示す図。
図6】時間発展によってシミュレーテッド分岐アルゴリズムの解を計算する場合における処理の例を示したフローチャート。
図7】等式制約の例を示したテーブル。
図8】不等式制約の例を示したテーブル。
図9】不等式制約の例を示したテーブル。
図10】第1補正項を含む拡張ハミルトニアンにおける求解処理の例を示したフローチャート。
図11】さらに第2補正項を含む拡張ハミルトニアンにおける求解処理の例を示したフローチャート。
図12】係数λの更新処理の一部がスキップされる場合における求解処理の例を示したフローチャート。
図13】マルチプロセッサ構成の例を概略的に示した図。
図14】GPUを使った構成の例を概略的に示した図。
図15】組合せ最適化問題を解くために実行される全体的な処理の例を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。また、図面において同一の構成要素は、同じ番号を付し、説明は、適宜省略する。
【0010】
図1は、情報処理システム100の構成例を示したブロック図である。図1の情報処理システム100は、管理サーバ1と、ネットワーク2と、計算サーバ(情報処理装置)3a~3cと、ケーブル4a~4cと、スイッチ5と、記憶装置7を備えている。また、図1には、情報処理システム100と通信可能なクライアント端末6が示されている。管理サーバ1、計算サーバ3a~3c、クライアント端末6および記憶装置7は、ネットワーク2を介して互いにデータ通信をすることができる。例えば、計算サーバ3a~3cは、記憶装置7にデータを保存したり、記憶装置7よりデータを読み出したりすることができる。ネットワーク2は、例えば、複数のコンピュータネットワークが相互に接続されたインターネットである。ネットワーク2は、通信媒体として有線、無線、または、これらの組合せを用いることができる。また、ネットワーク2で使われる通信プロトコルの例としては、TCP/IPがあるが、通信プロトコルの種類については特に問わない。
【0011】
また、計算サーバ3a~3cは、それぞれケーブル4a~4cを介してスイッチ5に接続されている。ケーブル4a~4cおよびスイッチ5は、計算サーバ間のインターコネクトを形成している。計算サーバ3a~3cは、当該インターコネクトを介して互いにデータ通信をすることも可能である。スイッチ5は、例えば、Infinibandのスイッチである。ケーブル4a~4cは、例えば、Infinibandのケーブルである。ただし、Infinibandのスイッチ/ケーブルの代わりに、有線LANのスイッチ/ケーブルを使ってもよい。ケーブル4a~4cおよびスイッチ5で使われる通信規格および通信プロトコルについては、特に問わない。クライアント端末6の例としては、ノートPC、デスクトップPC、スマートフォン、タブレット、車載端末などが挙げられる。
【0012】
組合せ最適化問題の求解では、処理の並列化および/または処理の分散化を行うことができる。したがって、計算サーバ3a~3cおよび/または計算サーバ3a~3cのプロセッサは、計算処理の一部のステップを分担して実行してもよいし、異なる変数について同様の計算処理を並列的に実行してもよい。管理サーバ1は、例えば、ユーザによって入力された組合せ最適化問題を各計算サーバが処理可能な形式に変換し、計算サーバを制御する。そして、管理サーバ1は、各計算サーバから計算結果を取得し、集約した計算結果を組合せ最適化問題の解に変換する。こうして、ユーザは、組合せ最適化問題の解を得ることができる。組合せ最適化問題の解は、最適解と、最適解に近い近似解とを含むものとする。
【0013】
図1には、3台の計算サーバが示されている。ただし、情報処理システムに含まれる計算サーバの台数を限定するものではない。また、組合せ最適化問題の求解に使われる計算サーバの台数についても特に問わない。例えば、情報処理システムに含まれる計算サーバは1台であってもよい。また、情報処理システムに含まれる複数の計算サーバのうち、いずれかの計算サーバを使って組合せ最適化問題の求解を行ってもよい。また、情報処理システムに、数百台以上の計算サーバが含まれていてもよい。計算サーバは、データセンターに設置されたサーバであってもよいし、オフィスに設置されたデスクトップPCであってもよい。また、計算サーバは異なるロケーションに設置された複数の種類のコンピュータであってもよい。計算サーバとして使われる情報処理装置の種類については特に問わない。例えば、計算サーバは、汎用的なコンピュータであってもよいし、専用の電子回路または、これらの組合せであってもよい。
【0014】
図2は、管理サーバ1の構成例を示したブロック図である。図2の管理サーバ1は、例えば、中央演算処理装置(CPU)とメモリとを含むコンピュータである。管理サーバ1は、プロセッサ10と、記憶部14と、通信回路15と、入力回路16と、出力回路17とを備えている。プロセッサ10、記憶部14、通信回路15、入力回路16および出力回路17は、互いにバス20を介して接続されているものとする。プロセッサ10は、内部の構成要素として、管理部11と、変換部12と、制御部13とを含んでいる。
【0015】
プロセッサ10は、演算を実行し、管理サーバ1の制御を行う電子回路である。プロセッサ10として、例えば、CPU、マイクロプロセッサ、ASIC、FPGA、PLDまたはこれらの組合せを用いることができる。管理部11は、ユーザのクライアント端末6を介して管理サーバ1の操作を行うためのインタフェースを提供する。管理部11が提供するインタフェースの例としては、API、CLI、ウェブページなどが挙げられる。例えば、ユーザは、管理部11を介して組合せ最適化問題の情報の入力を行ったり、計算された組合せ最適化問題の解の閲覧および/またはダウンロードを行ったりすることができる。変換部12は、組合せ最適化問題を各計算サーバが処理可能な形式に変換する。制御部13は、各計算サーバに制御指令を送信する。制御部13が各計算サーバから計算結果を取得した後、変換部12は、複数の計算結果を集約し、組合せ最適化問題の解に変換する。また、制御部13は、各計算サーバまたは各サーバ内のプロセッサが実行する処理内容を指定してもよい。
【0016】
記憶部14は、管理サーバ1のプログラム、プログラムの実行に必要なデータ、およびプログラムによって生成されたデータを含む各種のデータを記憶する。ここで、プログラムは、OSとアプリケーションの両方を含むものとする。記憶部14は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、またはこれらの組合せであってもよい。揮発性メモリの例としては、DRAM、SRAMなどがある。不揮発性メモリの例としては、NANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、ReRAM、またはMRAMが挙げられる。また、記憶部14として、ハードディスク、光ディスク、磁気テープまたは外部の記憶装置を使ってもよい。
【0017】
通信回路15は、ネットワーク2に接続された各装置との間でデータの送受信を行う。通信回路15は、例えば、有線LANのNIC(Network Interface Card)である。ただし、通信回路15は、無線LANなど、その他の種類の通信回路であってもよい。入力回路16は、管理サーバ1へのデータ入力を実現する。入力回路16は、外部ポートとして、例えば、USB、PCI-Expressなどを備えているものとする。図2の例では、操作装置18が入力回路16に接続されている。操作装置18は、管理サーバ1に情報を入力するための装置である。操作装置18は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、音声認識装置などであるが、これに限られない。出力回路17は、管理サーバ1からのデータ出力を実現する。出力回路17は、外部ポートとしてHDMI、DisplayPortなどを備えているものとする。図2の例では、表示装置19が出力回路17に接続されている。表示装置19の例としては、LCD(液晶ディスプレイ)、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、またはプロジェクタがあるが、これに限られない。
【0018】
管理サーバ1の管理者は、操作装置18および表示装置19を使って、管理サーバ1のメンテナンスを行うことができる。なお、操作装置18および表示装置19は、管理サーバ1に組み込まれたものであってもよい。また、管理サーバ1に必ず操作装置18および表示装置19が接続されていなくてもよい。例えば、管理者は、ネットワーク2と通信可能なクライアント端末を用いて管理サーバ1のメンテナンスを行ってもよい。
【0019】
図3は、管理サーバ1の記憶部14に保存されるデータの例を示している。図3の記憶部14には、問題データ14Aと、計算データ14Bと、管理プログラム14Cと、変換プログラム14Dと、制御プログラム14Eとが保存されている。例えば、問題データ14Aは、組合せ最適化問題のデータを含む。例えば、計算データ14Bは、各計算サーバから収集された計算結果を含む。例えば、管理プログラム14Cは、上述の管理部11の機能を実現するプログラムである。例えば、変換プログラム14Dは、上述の変換部12の機能を実現するプログラムである。例えば、制御プログラム14Eは、上述の制御部13の機能を実現するプログラムである。
【0020】
図4は、計算サーバの構成例を示したブロックである。図4には、例示的に計算サーバ3aの構成が示されている。他の計算サーバは、計算サーバ3aと同様の構成であってもよいし、計算サーバ3aと異なる構成であってもよい。計算サーバ3aは、例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルの計算を単独で、または、他の計算サーバと分担して実行する情報処理装置である。また、少なくともいずれかの計算サーバは、第1ベクトルの要素間の問題項を計算してもよい。ここで、問題項は、後述するイジングモデルに基づいて計算されるものであってもよい。また、問題項は、後述する多体相互作用を含むものであってもよい。
【0021】
例えば、第1ベクトルは、変数x(i=1、2、・・・、N)を要素とするベクトルである。例えば、第2ベクトルは、変数y(i=1、2、・・・、N)を要素とするベクトルである。
【0022】
計算サーバ3aは、例えば、通信回路31と、共有メモリ32と、プロセッサ33A~33Dと、ストレージ34と、ホストバスアダプタ35とを備えている。通信回路31、共有メモリ32、プロセッサ33A~33D、ストレージ34、ホストバスアダプタ35は、バス36を介して互いに接続されているものとする。
【0023】
通信回路31は、ネットワーク2に接続された各装置との間でデータの送受信を行う。通信回路31は、例えば、有線LANのNIC(Network Interface Card)である。ただし、通信回路31は、無線LANなど、その他の種類の通信回路であってもよい。共有メモリ32は、プロセッサ33A~33Dからアクセス可能なメモリである。共有メモリ32の例としては、DRAM、SRAMなどの揮発性メモリが挙げられる。ただし、共有メモリ32として、不揮発性メモリなどその他の種類のメモリが使われてもよい。共有メモリ32は、例えば、第1ベクトルの要素および第2ベクトルの要素を記憶するように構成されていてもよい。ここで、共有メモリ32および後述するストレージ34は、情報処理装置の記憶部の一例である。プロセッサ33A~33Dは、共有メモリ32を介してデータの共有を行うことができる。なお、必ず計算サーバ3aのすべてのメモリが共有メモリとして構成されていなくてもよい。例えば、計算サーバ3aの一部のメモリは、いずれかのプロセッサのみからアクセスできるローカルメモリとして構成されていてもよい。
【0024】
プロセッサ33A~33Dは、計算処理を実行する電子回路である。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)のいずれであってもよいし、これらの組合せであってもよい。また、プロセッサは、CPUコアまたはCPUスレッドであってもよい。プロセッサがCPUである場合、計算サーバ3aが備えるソケット数については、特に問わない。また、プロセッサは、PCI expressなどのバスを介して計算サーバ3aのその他の構成要素に接続されていてもよい。
【0025】
図4の例では、計算サーバが4つのプロセッサを備えている。ただし、1台の計算サーバが備えているプロセッサの数はこれとは異なっていてもよい。例えば、計算サーバに実装されているプロセッサの数および/または種類が異なっていてもよい。
【0026】
情報処理装置は、例えば、第1変数x(i=1、2、・・・、N)を要素とする第1ベクトルおよび第1変数に対応する第2変数y(i=1、2、・・・、N)を要素とする第2ベクトルを繰り返し更新するように構成されている。情報処理装置の記憶部は、第1ベクトルの要素である第1変数および第2ベクトルの要素である第2変数を記憶するように構成されていてもよい。
【0027】
情報処理装置の処理回路は、例えば、第1変数を対応する第2変数に基づいて更新し、第1変数を第1係数で重み付けし対応する第2変数に加算し、複数の第1変数を用いて問題項を計算し、問題項を第2変数に加算し、制約項と第2係数との積を含む第1補正項を計算し、第1補正項を第2変数に加算し、更新回数に応じて第1係数および第2係数の絶対値を増やすように構成された処理回路とを備える。ここで、制約項は、制約条件を表した制約関数に基づいており、第1変数を引数として有する。ここで、上述のプロセッサ33A~33Dは、処理回路の一例である。このように、情報処理装置は、複数の処理回路を備えていてもよい。この場合、それぞれの処理回路は、並列的に第1ベクトルの少なくとも一部および第2ベクトルの少なくとも一部を更新するように構成されていてもよい。
【0028】
以下では、第1係数および第2係数が正値であり、更新回数に応じて第1係数および第2係数の値が大きくなる場合を例に説明する。ただし、以下で提示するアルゴリズムの符号を反転させることによって、負値の第1係数および第2係数を使うことも可能である。この場合、更新回数に応じて第1係数および第2係数の値は小さくなりうる。ただし、いずれの場合も、更新回数に応じて第1係数および第2係数の絶対値が増えているといえる。なお、処理回路が計算する問題項は、イジングモデルに基づいていてもよい。また、処理回路が計算する問題項は、多体相互作用を含んでいてもよい。
【0029】
ここでは、プロセッサ単位に処理内容の割り当てが行われる場合を例に説明した。ただし、処理内容の割り当てが行われる計算資源の単位を限定するものではない。例えば、計算機単位で処理内容の割り当てを行ってもよい。
【0030】
以下では、再び図4を参照し、計算サーバの構成要素を説明する。
【0031】
ストレージ34は、計算サーバ3aのプログラム、プログラムの実行に必要なデータ、およびプログラムによって生成されたデータを含む各種のデータを記憶する。ここで、プログラムは、OSとアプリケーションの両方を含むものとする。ストレージ34は、例えば、第1ベクトルの要素および第2ベクトルの要素を記憶するように構成されていてもよい。ストレージ34は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、またはこれらの組合せであってもよい。揮発性メモリの例としては、DRAM、またはSRAMなどがある。不揮発性メモリの例としては、NANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、ReRAM、またはMRAMが挙げられる。また、ストレージ34として、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、または外部の記憶装置が使われてもよい。
【0032】
ホストバスアダプタ35は、計算サーバ間のデータ通信を実現する。ホストバスアダプタ35は、ケーブル4aを介してスイッチ5に接続されている。ホストバスアダプタ35は、例えば、HCA(Host Channel Adaptor)である。ホストバスアダプタ35、ケーブル4a、スイッチ5で高スループットを実現可能なインターコネクトを形成することにより、並列的な計算処理の速度を向上させることができる。
【0033】
図5は、計算サーバのストレージに保存されるデータの例を示している。図5のストレージ34には、計算データ34Aと、計算プログラム34Bと、制御プログラム34Cとが保存されている。計算データ34Aは、計算サーバ3aの計算途中のデータまたは計算結果を含んでいる。なお、計算データ34Aの少なくとも一部は、共有メモリ32、プロセッサのキャッシュ、またはプロセッサのレジスタなど、異なる記憶階層に保存されていてもよい。計算プログラム34Bは、所定のアルゴリズムに基づき、各プロセッサにおける計算処理および、共有メモリ32およびストレージ34へのデータの保存処理を実現するプログラムである。制御プログラム34Cは、管理サーバ1の制御部13から送信された指令に基づき、計算サーバ3aを制御し、計算サーバ3aの計算結果を管理サーバ1に送信するプログラムである。
【0034】
次に、組合せ最適化問題の求解に関連する技術について説明する。組合せ最適化問題を解くために使われる情報処理装置の一例として、イジングマシンが挙げられる。イジングマシンとは、イジングモデルの基底状態のエネルギーを計算する情報処理装置のことをいう。これまで、イジングモデルは、主に強磁性体や相転移現象のモデルとして使われることが多かった。しかし、近年、イジングモデルは、組合せ最適化問題を解くためのモデルとしての利用が増えている。下記の式(1)は、イジングモデルのエネルギーを示している。
【数1】
ここで、s、sはスピンである、スピンは、+1または-1のいずれかの値をとる2値変数である。Nは、スピンの数である。hは、各スピンに作用する局所磁場である。Jは、スピン間における結合係数の行列である。行列Jは、対角成分が0である実対称行列となっている。したがって、Jijは行列Jのi行j列の要素を示している。なお、式(1)のイジングモデルは、スピンについての2次式となっているが、後述するように、スピンの3次以上の項を含む拡張されたイジングモデル(多体相互作用を有するイジングモデル)を使ってもよい。
【0035】
式(1)のイジングモデルを使うと、エネルギーEIsingを目的関数とし、エネルギーEIsingを可能な限り小さくする解を計算することができる。イジングモデルの解は、スピンのベクトル(s、s、・・・、s)の形式で表される。特に、エネルギーEIsingが最小値となるベクトル(s、s、・・・、s)は、最適解とよばれる。ただし、計算されるイジングモデルの解は、必ず厳密な最適解でなくてもよい。以降では、イジングモデルを使ってエネルギーEIsingが可能な限り小さくなる近似解(すなわち、目的関数の値が可能な限り最適値に近くなる近似解)を求める問題をイジング問題とよぶものとする。
【0036】
式(1)のスピンsは2値変数であるため、式(1+s)/2を使うことにより、組合せ最適化問題で使われる離散変数(ビット)との変換を容易に行うことができる。したがって、組合せ最適化問題をイジング問題に変換し、イジングマシンに計算を行わせることにより、組合せ最適化問題の解を求めることが可能である。0または1のいずれかの値をとる離散変数(ビット)を変数とする2次の目的関数を最小化する解を求める問題は、QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization、制約なし2値変数2次最適化)問題とよばれる。式(1)で表されるイジング問題は、QUBO問題と等価であるといえる。
【0037】
例えば、量子アニーラ、コヒーレントイジングマシン、または量子分岐マシンなどがイジングマシンのハードウェア実装として提案されている。量子アニーラは、超伝導回路を使って量子アニーリングを実現する。コヒーレントイジングマシンは、光パラメトリック発振器で形成されたネットワークの発振現象を利用する。量子分岐マシンは、カー効果を有するパラメトリック発振器のネットワークにおける量子力学的な分岐現象を利用する。これらのハードウェア実装は、計算時間の大幅な短縮を実現する可能性がある一方、大規模化や安定的な運用が難しいという課題もある。
【0038】
そこで、広く普及しているデジタルコンピュータを使ってイジング問題の求解を行うことも可能である。デジタルコンピュータは、上述の物理的現象を使ったハードウェア実装と比べ、大規模化と安定運用が容易である。デジタルコンピュータでイジング問題の求解を行うためのアルゴリズムの一例として、シミュレーテッドアニーリング(SA)が挙げられる。シミュレーテッドアニーリングをより高速に実行する技術の開発が行われている。ただし、一般のシミュレーテッドアニーリングはそれぞれの変数が逐次更新される逐次更新アルゴリズムであるため、並列化による計算処理の高速化は難しい。
【0039】
上述の課題を踏まえ、デジタルコンピュータにおける並列的な計算によって、規模の大きい組合せ最適化問題の求解を高速に行うことが可能なシミュレーテッド分岐アルゴリズムが提案されている。以降では、シミュレーテッド分岐アルゴリズムを使って組合せ最適化問題を解く情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラムについて説明する。
【0040】
はじめに、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの概要について述べる。
【0041】
シミュレーテッド分岐アルゴリズムでは、それぞれN個ある2つの変数x,y(i=1、2、・・・、N)について、下記の(2)の連立常微分方程式を数値的に解く。N個の変数xのそれぞれは、イジングモデルのスピンsに対応している。一方、N個の変数yのそれぞれは、運動量に相当している。変数x,yは、いずれも連続変数であるものとする。以下では、変数x(i=1、2、・・・、N)を要素とするベクトルを第1ベクトル、変数y(i=1、2、・・・、N)を要素とするベクトルを第2ベクトルとそれぞれよぶものとする。
【数2】
【0042】
ここで、Hは、下記の式(3)のハミルトニアンである。
【数3】
【0043】
なお、(2)では、式(3)のハミルトニアンHに代わり、下記の式(4)に示した、制約条件を表すポテンシャル(制約ポテンシャル関数)項G(x、x、・・・x)を含めたハミルトニアンH´を使ってもよい。ハミルトニアンHだけでなく制約ポテンシャル関数も含む関数を拡張ハミルトニアンとよび、もとのハミルトニアンHと区別するものとする。
【数4】
例えば、組合せ最適化問題の制約条件より導かれる関数G(x、x、・・・x)を使うことができる。ただし、関数G(x、x、・・・x)の導出方法と形式を限定するものではない。また、式(4)では、もとのハミルトニアンHに関数G(x、x、・・・x)が加算されている。ただし、拡張ハミルトニアンに関数G(x、x、・・・x)を含める方法を限定するものではない。
【0044】
シミュレーテッド分岐アルゴリズムの時間発展を計算することにより、変数x,y(i=1、2、・・・、N)の値を繰り返し更新し、イジングモデルのスピンs(i=1、2、・・・、N)を求めることができる。すなわち、時間発展の計算が行われる場合、第1ベクトルの要素の値と、第2ベクトルの要素の値が繰り返し更新される。ここでは、時間発展の計算が行われると想定し、各係数を説明する。ただし、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算は、時間発展以外の方式で実行されてもよい。
【0045】
(2)および(3)において、係数Dは、離調(detuning)に相当する。係数p(t)は、ポンピング振幅(pumping amplitude)に相当する。シミュレーテッド分岐アルゴリズムの時間発展を計算する場合、係数p(t)は、更新回数に応じて値が単調増加する。係数p(t)の初期値は0に設定されていてもよい。係数Kは、正のカー係数(Kerr coefficient)に相当する。係数cとして、定数係数を使うことができる。例えば、係数cの値を、シミュレーテッド分岐アルゴリズムによる計算の実行前に決めてもよい。例えば、係数cをJ(2)行列の最大固有値の逆数に近い値に設定することができる。例えば、c=0.5D√(N/2n)という値を使うことができる。ここで、nは、組合せ最適化問題に係るグラフのエッジ数である。また、a(t)は、時間発展の計算時においてp(t)とともに増加する係数である。例えば、a(t)として、√(p(t)/K)を使うことができる。なお、(3)および(4)における局所磁場のベクトルhは、省略すること可能である。
【0046】
時間発展の計算を行う場合、係数p(t)の値が所定の値を超えた時に、第1ベクトルにおいて、正値である変数xを+1、負値である変数xを-1にそれぞれ変換すると、スピンsを要素とする解ベクトルを得ることができる。この解ベクトルは、イジング問題の解に相当する。なお、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数に基づき、上述の変換を実行し、解ベクトルを求めるか否かの判定を行ってもよい。
【0047】
シミュレーテッド分岐アルゴリズムの時間発展を計算する場合、シンプレクティック・オイラー法を使い、上述の(2)を離散的な漸化式に変換し、求解を行うことができる。下記の(5)は、漸化式に変換後のシミュレーテッド分岐アルゴリズムの例を示している。
【数5】
ここで、tは、時刻であり、Δtは、時間ステップ(時間刻み幅)である。なお、(5)では、微分方程式との対応関係を示すために、時刻tおよび時間ステップΔtが使われている。ただし、実際にアルゴリズムをソフトウェアまたはハードウェアに実装する際は、必ず時刻tおよび時間ステップΔtが明示的なパラメータとして含まれていなくてもよい。例えば、時間ステップΔtを1とすれば、実装時のアルゴリズムから時間ステップΔtを除去することが可能である。アルゴリズムを実装する際に、明示的なパラメータとして時間tを含めない場合には、(4)において、x(t+Δt)をx(t)の更新後の値であると解釈すればよい。すなわち、上述の(4)における“t”は、更新前の変数の値、“t+Δt”は、更新後の変数の値を示すものとする。
【0048】
シミュレーテッド分岐アルゴリズムの時間発展を計算する場合、p(t)の値を初期値(例えば、0)から所定の値まで増加させた後における変数xの符号に基づき、スピンsの値を求めることができる。例えば、x>0のときsgn(x)=+1、x<0のときsgn(x)=-1となる符号関数を使うと、p(t)の値が所定の値まで増加したとき、変数xを符号関数で変換することによってスピンsの値を求めることができる。符号関数として、例えば、x≠0のときに、sgn(x)=x/|x|、x=0のときにsgn(x)=+1または-1になる関数を使うことができる。組合せ最適化問題の解(例えば、イジングモデルのスピンs)を求めるタイミングについては、特に問わない。例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数または第1係数pの値がしきい値より大きくなったときに組合せ最適化問題の解(解ベクトル)を求めてもよい。
【0049】
このように、情報処理装置の処理回路は、正値である第1変数を第1値に変換し、負値である第1変数を第1値より小さい第2値に変換することによって解を計算するように構成されていてもよい。また、処理回路は、第1係数の値、または第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数に基づき解を計算するか否かを判定するように構成されていてもよい。ここで、第1値は、例えば、+1である。第2値は、例えば、-1である。ただし、第1値および第2値は、その他の値であってもよい。
【0050】
図6のフローチャートは、時間発展によってシミュレーテッド分岐アルゴリズムの解を計算する場合における処理の例を示している。以下では、図6を参照しながら処理を説明する。
【0051】
はじめに、計算サーバは、管理サーバ1より問題に対応する行列Jijおよびベクトルhを取得する(ステップS101)。そして、計算サーバは、係数p(t)およびa(t)を初期化する(ステップS102)。例えば、ステップS102で係数pおよびaの値を0にすることができるが、係数pおよびaの初期値を限定するものではない。次に、計算サーバは、第1変数xおよび第2変数yを初期化する(ステップS103)。ここで、第1変数xは、第1ベクトルの要素である。また、第2変数yは、第2ベクトルの要素である。ステップS103で計算サーバは、例えば、擬似乱数によってxおよびyを初期化してもよい。ただし、xおよびyの初期化の方法を限定するものではない。また、これとは異なるタイミングに変数の初期化を行ってもよいし、少なくともいずれかの変数を複数回初期化してもよい。
【0052】
次に、計算サーバは、第1ベクトルの要素xに対応する第2ベクトルの要素yを重み付け加算することによって第1ベクトルを更新する(ステップS104)。例えば、ステップS104では、変数xにΔt×D×yを加算することができる。そして、計算サーバは、第2ベクトルの要素yを更新する(ステップS105およびS106)。例えば、ステップS105では、変数yにΔt×[(p-D-K×x×x)×x]を加算することができる。ステップS106では、さらに変数yに-Δt×c×h×a-Δt×c×ΣJij×xを加算することができる。
【0053】
次に、計算サーバは、係数pおよびaの値を更新する(ステップS107)。例えば、係数pに一定の値(Δp)を加算し、係数aを更新後の係数pの正の平方根に設定することができる。ただし、後述するように、これは係数pおよびaの値の更新方法の一例にしかすぎない。そして、計算サーバは、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数がしきい値未満であるか否かを判定する(ステップS108)。更新回数がしきい値未満である場合(ステップS108のYES)、計算サーバは、ステップS104~S107の処理を再度実行する。更新回数がしきい値以上である場合(ステップS108のNO)、第1ベクトルの要素xに基づいて解ベクトルの要素であるスピンsを求める(ステップS109)。ステップS109では、例えば、第1ベクトルにおいて、正値である変数xを+1、負値である変数xを-1にそれぞれ変換し、解ベクトルを得ることができる。
【0054】
なお、ステップS108の判定において、更新回数がしきい値未満である場合(ステップS108のYES)に第1ベクトルに基づきハミルトニアンの値を計算し、第1ベクトルおよびハミルトニアンの値を記憶してもよい。これにより、ユーザは、複数の第1ベクトルより最適解に最も近い近似解を選択することが可能となる。
【0055】
なお、図6のフローチャートに示した少なくともいずれかの処理を並列的に実行してもよい。例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルのそれぞれが有するN個の要素の少なくとも一部が並列的に更新されるよう、ステップS104~S106の処理を並列的に実行してもよい。例えば、複数台の計算サーバを使って処理を並列化してもよい。複数のプロセッサによって処理を並列化してもよい。ただし、処理の並列化を実現するための実装および処理の並列化の態様を限定するものではない。
【0056】
上述のステップS105~S106に示した変数xおよびyの更新処理の実行順序は、一例にしかすぎない。したがって、これとは異なる順序で変数xおよびyの更新処理を実行してもよい。例えば、変数xの更新処理と変数yの更新処理が実行される順序が入れ替わっていてもよい。また、各変数の更新処理に含まれるサブ処理の順序も限定しない。例えば、変数yの更新処理に含まれる加算処理の実行順序が図6の例とは異なっていてもよい。各変数の更新処理を実行するための前提となる処理の実行順序およびタイミングも特に限定しない。例えば、問題項の計算処理が、変数xの更新処理を含むその他の処理と並行で実行されていてもよい。変数xおよびyの更新処理、各変数の更新処理に含まれるサブ処理および問題項の計算処理が実行される順序およびタイミングが限定されない点は、以降に示す各フローチャートの処理についても、同様である。
【0057】
[制約項を含む目的関数]
上述のように、ハミルトニアンHに代わり、ハミルトニアンHに制約ポテンシャル関数G(x、x、・・・x)を含めた拡張ハミルトニアンを使ってシミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算を行うことができる。以下では、関数G(x、x、・・・x)の詳細について説明する。
【0058】
関数G(x、x、・・・x)は、ひとつの制約条件を表すものであってもよい。また、以下で説明するように、関数G(x、x、・・・x)は、複数の制約条件を表すものであってもよい。ここで、g(x、x、・・・x)(m=1,2・・・M)は、M個の制約条件のそれぞれを表現する関数(制約関数)を示すものとする。この場合、複数の関数g(x、x、・・・x)を使って上述の関数G(x、x、・・・x)を定義することができる。
【0059】
制約条件を含む最適化問題の計算では、求解処理の精度および効率を低下させない関数G(x、x、・・・x)を使うことが好ましい。このため、制約条件は、g(x、x、・・・x)=0(m=1,2・・・M)のように、等式制約として表現されていることが望まれる。ただし、すべての制約条件が等式制約として表現されているとは限らない。このため、制約条件について、下記の(a)~(c)の規則に基づく制約関数の変換を行ってもよい。ここで、g (x、x、・・・x)は、変換前の制約関数である。
【0060】
(a)g (x、x、・・・x)=0のように、制約条件がもとから等式制約である場合、g(x、x、・・・x)=g (x、x、・・・x)となる。図7の制約x+x=0は、等式制約の一例を示している。図7のテーブルは、制約x+x=0における条件表をしめしている。図7のテーブルでグレーアウトされていない行は、制約条件を満たす変数の組合せに相当する。
【0061】
(b)もとの制約条件がg (x、x、・・・x)≦0のような不等式制約である場合、g(x、x、・・・x)=max(0,g (x、x、・・・x))とおくことができる。ここで、関数maxは、第1引数と第2引数のうち、大きい引数を値とする関数である。図8の制約x+x≦0は、不等式制約の一例を示している。図8のテーブルは、制約x+x≦0における条件表をしめしている。図8のテーブルでグレーアウトされていない行は、制約条件を満たす変数の組合せに相当する。
【0062】
(c)もとの制約条件がg (x、x、・・・x)≧0のような不等式制約である場合、g(x、x、・・・x)=min(0,g (x、x、・・・x))とおくことができる。ここで、関数minは、第1引数と第2引数のうち、小さい引数を値とする関数である。図9の制約x+x≧0は、不等式制約の一例を示している。図9のテーブルは、制約x+x≧0における条件表を示している。図9のテーブルでグレーアウトされていない行は、制約条件を満たす変数の組合せに相当する。
【0063】
制約条件に上述の(a)~(c)の変換規則を適用すると、下記の式(6)に示した拡張ハミルトニアンH´を使うことができる。
【数6】
式(6)のc(t)は、例えば、更新回数に応じて単調増加する係数である。
【0064】
この場合、下記の(7)の関数の値の効果は、更新回数とともに大きくなる。
【数7】
【0065】
式(6)の目的関数を使った場合、下記の(8)に示した連立常微分方程式をそれぞれN個ある2つの変数x,y(i=1、2、・・・、N)について、数値的に解く処理が実行される。
【数8】
【0066】
シンプレクティック・オイラー法を使い、上述の(8)を離散的な漸化式に変換し、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算を行うことができる。下記の(9)は、漸化式に変換後のシミュレーテッド分岐アルゴリズムの例を示している。
【数9】
【0067】
(9)のうち、下記の(10)の項は、イジングエネルギーに由来する。この項の形式は、解きたい問題に応じて決まるため、問題項(problem term)とよぶものとする。
【数10】
【0068】
一方、(9)のうち、下記の(11)の項は、変数yの第1補正項に相当する。
【数11】
【0069】
係数c(t)の初期値として比較的小さい値(0または0近傍)の値を使うことができる。これにより、第1ベクトルの各要素x(i=1、2、・・・、N)に設定される初期値によって(7)の項の値が大きくなりすぎてしまい、計算処理の安定性が損なわれることを防ぐことができる。また、特定の局所解の近傍だけでなく、より大域的な探索を行い、最適解またはそれに近い近似解を見つけられる確率を高めることができる。さらに、(9)のアルゴリズムの時間ステップΔtを小さい値に設定する必要がなくなるため、計算時間を抑制することができる。
【0070】
例えば、下記の式(12)に基づいて定義される係数c(t)を使うことができる。
【数12】
ここで、c(0)は、係数c(t)の初期値である。Δcは、更新回数またはカウンタ変数tに乗ずる係数である。c(0)およびΔcとして、正値を使うことができる。(12)に定義される係数c(t)を使うと、(11)の補正項の値が更新回数に応じて大きくなる。
【0071】
ここで説明した係数c(t)の初期値および更新回数に応じた係数c(t)の変化パターンは、例にしかすぎない。したがって、係数c(t)の初期値および更新回数に応じた係数c(t)の変化パターンは、上述とは異なっていてもよい。
【0072】
情報処理装置の処理回路は、制約関数と、制約関数を第1ベクトルのいずれかの要素(第1変数)について微分した導関数との積を含む関数(制約項)を計算するように構成されていてもよい。また、処理回路は、複数の制約条件のそれぞれについて、上述の積を計算し、複数の積を加算し制約項を計算するように構成されていていてもよい。ここで、上述の関数gは、制約関数の一例である。
【0073】
図10のフローチャートは、第1補正項を含む拡張ハミルトニアンにおける求解処理の例を示している。以下では、図10を参照しながら、処理を説明する。
【0074】
はじめに、計算サーバは、管理サーバ1より問題に対応する行列Jijおよびベクトルhを取得する(ステップS111)。そして、計算サーバは、係数p(t)およびa(t)を初期化する(ステップS112)。例えば、ステップS112で係数pおよびaの値を0にすることができるが、係数pおよびaの初期値を限定するものではない。次に、計算サーバは、対応する第2ベクトルの要素yに基づき第1ベクトルの要素xを更新する(ステップS113)。例えば、ステップS113では、変数xにΔt×D×yを加算することができる。そして、計算サーバは、第2ベクトルの要素yを更新する(ステップS114~S116)。例えば、ステップS114では、変数yにΔt×[(p-D-K×x×x)×x]を加算することができる。ステップS115では、さらに変数yに-Δt×c×h×a-Δt×c×ΣJij×xを加算することができる。ステップS116では、変数yにΔt×c×Σg(∂g)/(∂x)に加算することができる。
【0075】
次に、計算サーバは、係数p、cおよびaの値を更新する(ステップS117)。例えば、係数pに一定の値(Δp)を加算し、係数aを更新後の係数pの正の平方根に設定し、係数cにΔctを加算することができる。ただし、これは係数p、cおよびaの値の更新方法の一例にしかすぎない。そして、計算サーバは、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数がしきい値未満であるか否かを判定する(ステップS118)。更新回数がしきい値未満である場合(ステップS118のYES)、計算サーバは、ステップS113~S117の処理を繰り返し実行する。更新回数がしきい値以上である場合(ステップS118のNO)、第1ベクトルの要素xに基づいて解ベクトルの要素であるスピンsを求める(ステップS119)。ステップS119では、例えば、第1ベクトルにおいて、正値である変数xを+1、負値である変数xを-1にそれぞれ変換し、解ベクトルを得ることができる。
【0076】
なお、計算サーバは、任意のタイミングで第1ベクトルおよび第2ベクトルに基づいて目的関数の値を計算してもよい。計算サーバは、第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値を記憶部に保存することができる。これらの処理は、ステップS118の判定が肯定的である場合、毎回実行されてもよい。また、ステップS118の判定が肯定的となったタイミングのうち、一部のタイミングで実行されてもよい。さらに、上述の処理は、その他のタイミングで実行されてもよい。ユーザは、利用可能な記憶領域および計算資源の量に応じて、目的関数の値を計算する頻度を決めることができる。ステップS118のタイミングにおいて、記憶部に保存された第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値の組合せの数がしきい値を超えているか否かに基づきループ処理を継続するか否かの判定を行ってもよい。こうして、ユーザは、記憶部に保存された複数の第1ベクトルより、最適解に最も近い第1ベクトルを選択し、解ベクトルを計算することが可能となる。
【0077】
なお、図10のフローチャートに示した少なくともいずれかの処理を並列的に実行してもよい。例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルがそれぞれ有するN個の要素の少なくとも一部が並列的に更新されるよう、ステップS113~S116の処理を並列的に実行してもよい。例えば、複数台の計算サーバを使って処理を並列化してもよい。複数のプロセッサによって処理を並列化してもよい。ただし、処理の並列化の実装および態様を限定するものではない。
【0078】
図10のフローチャートに示した処理を実行することにより、制約条件を満たす最適解またはそれに近い近似解を比較的短時間で求めることが可能となる。
【0079】
[拡張ラグランジュ法による計算]
上述の式(6)は、制約条件を反映させることが可能な拡張ハミルトニアンの一例にしかすぎない。例えば、下記の式(13)のように、安定的な計算を行うために、拡張ハミルトニアンにさらに項を追加してもよい。
【数13】
式(13)に示した拡張ハミルトニアンH´´は、ペナルティ関数(2段目第1項)とラグランジュ関数(2段目第2項)の両方を含んでいる。このように、拡張ハミルトニアンにペナルティ関数とラグランジュ関数の両方を含める手法は、拡張ラグランジュ法とよばれる。
【0080】
式(13)の拡張ハミルトニアンを使った場合、下記の(14)に示した連立常微分方程式をそれぞれN個ある2つの変数x,y(i=1、2、・・・、N)について、数値的に解く処理が実行される。
【数14】
【0081】
なお、(14)の連立常微分方程式の計算において係数λを、下記の式(15)に基づいて更新することができる。
【数15】
【0082】
式(15)のベクトルxminは、局所解に相当するベクトル(x,x,・・・,x)である。この局所解xminは、例えば、計算途中の第1ベクトルに局所探索法または最良優先探索などの探索アルゴリズムを適用することによって求めることができる。局所探索法の例としては、負の山登り法が挙げられる。負の山登り法を使う場合、例えば、それぞれの変数x(i=1,2,・・・,N)について拡張ハミルトニアンH´´を偏微分し、下記の(16)の偏導関数を求める。
【数16】
そして、それぞれの偏導関数に基づき、第1ベクトルの近傍において拡張ハミルトニアンH´´の評価値がより小さくなるベクトルが探索する。例えば、第1ベクトルのそれぞれの要素に(16)の偏導関数とΔxの積を加算したベクトルを次のイタレーションにおいて使うことができる。次のイタレーションにおいても、上述の偏導関数の計算を行い、当該ベクトルの近傍において拡張ハミルトニアンH´´の評価値がより小さくなるベクトルが探索される。この処理は、(16)の偏導関数の値がいずれもほぼゼロとなるまで繰り返される。例えば、(16)の偏導関数の絶対値をしきい値と比較し、繰り返し処理を継続するか否かを判定してもよい。繰り返し処理後のベクトル(x,x,・・・,x)を局所解として使うことが可能である。ここで説明した局所解の探索方法は、一例にしかすぎない。このため、その他のアルゴリズムを使って局所解の探索を行ってもよい。
【0083】
シンプレクティック・オイラー法を使い、上述の(14)および(15)を離散的な漸化式に変換し、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算を行うことができる。下記の(17)は、漸化式に変換後のシミュレーテッド分岐アルゴリズムの例を示している。
【数17】
(17)のアルゴリズムにおいても、係数cが更新される。例えば、上述の式(12)に基づいて係数cを更新することができる。
【0084】
制約条件が満たされていない場合、gの値は、比較的大きくなる。このため、制約条件が満たされていない期間において(17)のラグランジュ項の係数λの増加率は大きくなる。したがって、ラグランジュ項の効果が大きくなり、制約条件が満たされる方向に第1ベクトルおよび第2ベクトルを変化させることができる。このため、ラグランジュ関数を含む(17)のアルゴリズムを使うと、係数cの初期値をより小さく設定したり、係数cの値をより緩やかに増やしたりすることが可能となる。拡張ハミルトニアンのポテンシャルの傾きが大きくなりすぎることを防ぐことができ、計算処理を安定化させることができる。
【0085】
情報処理装置の処理回路は、第3係数と制約条件をいずれかの第1変数について微分した導関数との積を含む第2補正項を計算し、第2補正項を第2変数に加算するように構成されていてもよい。また、処理回路は、複数の制約条件のそれぞれについて、上述の積を計算し、複数の積を加算し第2補正項を計算するように構成されていてもよい。ここで上述の係数λは、第3係数の一例である。上述のラグランジュ項は、第2補正項の一例である。
【0086】
また、処理回路は、更新回数に応じて第3係数の絶対値を増やすように構成されていてもよい。さらに、処理回路は、目的関数(拡張ハミルトニアン)の局所解に相当する第1ベクトルの要素を制約条件に代入することによって制約条件の評価値を計算し、第2係数と評価値との積を第3係数に加算するように構成されていてもよい。例えば、局所探索法によって計算したベクトルxminを関数gに代入し、評価値を得ることができる。
【0087】
図11のフローチャートは、さらに第2補正項を含む拡張ハミルトニアンにおける求解処理の例を示している。以下では、図11を参照しながら、処理を説明する。
【0088】
はじめに、計算サーバは、係数p(t)およびa(t)を初期化する(ステップS121)。例えば、ステップS121で係数pおよびaの値を0にすることができるが、係数pおよびaの初期値を限定するものではない。なお、図11に示されていないが、計算サーバが管理サーバ1より問題に対応する行列Jijおよびベクトルhを取得しているものとする。次に、計算サーバは、対応する第2ベクトルの要素yに基づき第1ベクトルの要素xを更新する(ステップS122)。例えば、ステップS122では、変数xにΔt×D×yを加算することができる。
【0089】
そして、計算サーバは、第2ベクトルの要素yを更新する(ステップS123~S126)。例えば、ステップS123では、変数yにΔt×[(p-D-K×x×x)×x]を加算することができる。ステップS124では、さらに変数yに-Δt×c×h×a-Δt×c×ΣJij×xを加算することができる。ステップS125では、変数yにΔt×c×Σg(∂g)/(∂x)に加算することができる。ステップS126では、変数yにΔt×Σλ×(∂g)/(∂x)に加算することができる。
【0090】
そして、計算サーバは、拡張ハミルトニアンH´´の局所解を計算する(ステップS127)。ステップS127では、上述のように負の山登り法で局所解を計算することができる。ただし、その他のアルゴリズムによって局所解を計算してもよい。次に、前ステップで計算した局所解に基づき係数λを更新する(ステップS128)。例えば、ステップS128では、
局所解を関数gに代入し、関数gの値を求めた後、係数λにΔt×c×gを加算することができる。
【0091】
次に、計算サーバは、係数p、cおよびaの値を更新する(ステップS129)。例えば、係数pに一定の値(Δp)を加算し、係数aを更新後の係数pの正の平方根に設定し、係数cにΔctを加算することができる。ただし、これは係数p、cおよびaの値の更新方法の一例にしかすぎない。そして、計算サーバは、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数がしきい値未満であるか否かを判定する(ステップS130)。更新回数がしきい値未満である場合(ステップS130のYES)、計算サーバは、ステップS122~S129の処理を繰り返し実行する。更新回数がしきい値以上である場合(ステップS130のNO)、第1ベクトルの要素xに基づいて解ベクトルの要素であるスピンsを求める(ステップS131)。ステップS131では、例えば、第1ベクトルにおいて、正値である変数xを+1、負値である変数xを-1にそれぞれ変換し、解ベクトルを得ることができる。
【0092】
なお、計算サーバは、任意のタイミングで第1ベクトルおよび第2ベクトルに基づいて目的関数の値を計算してもよい。計算サーバは、第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値を記憶部に保存することができる。これらの処理は、ステップS130の判定が肯定的である場合、毎回実行されてもよい。また、ステップS130の判定が肯定的となったタイミングのうち、一部のタイミングで実行されてもよい。さらに、上述の処理は、その他のタイミングで実行されてもよい。ユーザは、利用可能な記憶領域および計算資源の量に応じて、目的関数の値を計算する頻度を決めることができる。ステップS130のタイミングにおいて、記憶部に保存された第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値の組合せの数がしきい値を超えているか否かに基づきループ処理を継続するか否かの判定を行ってもよい。こうして、ユーザは、記憶部に保存された複数の第1ベクトルより、最適解に最も近い第1ベクトルを選択し、解ベクトルを計算することが可能となる。
【0093】
なお、図11のフローチャートに示した少なくともいずれかの処理を並列的に実行してもよい。例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルがそれぞれ有するN個の要素の少なくとも一部が並列的に更新されるよう、ステップS122~S126の処理を並列的に実行してもよい。例えば、複数台の計算サーバを使って処理を並列化してもよい。複数のプロセッサによって処理を並列化してもよい。ただし、処理の並列化の実装および態様を限定するものではない。
【0094】
図11のフローチャートに示した処理を実行することにより、制約条件を満たす最適解またはそれに近い近似解を比較的短時間で求めることが可能となる。
【0095】
[計算量の削減]
上述の図11に示したフローチャートでは、毎回係数λが更新されていた。ただし、本実施形態による情報処理装置では、必ず毎回係数λを更新しなくてもよい。例えば、一部のイタレーションで係数λの更新をスキップしてもよい。
【0096】
例えば、上述の(15)に代わり、下記の(18)に基づいて係数λを更新してもよい。例えば、W回(Wは、正の整数)に1回ごとに下記(18)の規則に基づく係数λの更新を行ってもよい。
【数18】
(18)のzは、固定値であってもよいし、変数であってもよい。例えば、Zとして、上述のWに等しい値を設定してもよい。また、Zとして、1/(c×g)を使ってもよい。
【0097】
係数λの更新処理が実行される頻度は、変動するものであってもよい。例えば、Wの値が1/(c×g)に比例するようにしてもよい。これにより、制約条件が充足され、gの値が小さくなるほど、係数λの更新頻度が減り、計算量を抑えることができる。
【0098】
係数λの更新処理がスキップされるイタレーションでは、拡張ハミルトニアンH´´の局所解の計算処理をスキップしてもよい。これにより、上述した計算処理の安定性を保ちつつ、必要な計算量を削減することが可能となる。
【0099】
このように、情報処理装置の処理回路は、一部の更新回において第3係数の絶対値を増やすように構成されていてもよい。
【0100】
図12のフローチャートは、係数λの更新処理の一部がスキップされる場合における求解処理の例を示している。以下では、図12を参照しながら、処理を説明する。
【0101】
はじめに、計算サーバは、係数p(t)およびa(t)を初期化する(ステップS141)。例えば、ステップS141で係数pおよびaの値を0にすることができるが、係数pおよびaの初期値を限定するものではない。後述するカウンタ変数cntは、0に初期化することができる。なお、図12に示されていないが、計算サーバが管理サーバ1より問題に対応する行列Jijおよびベクトルhを取得しているものとする。次に、計算サーバは、対応する第2ベクトルの要素yに基づき第1ベクトルの要素xを更新する(ステップS142)。例えば、ステップS142では、変数xにΔt×D×yを加算することができる。
【0102】
そして、計算サーバは、第2ベクトルの要素yを更新する(ステップS142~S146)。例えば、ステップS143では、変数yにΔt×[(p-D-K×x×x)×x]を加算することができる。ステップS144では、さらに変数yに-Δt×c×h×a-Δt×c×ΣJij×xを加算することができる。ステップS145では、変数yにΔt×c×Σg(∂g)/(∂x)に加算することができる。ステップS146では、変数yにΔt×Σλ×(∂g)/(∂x)に加算することができる。
【0103】
そして、計算サーバは、カウンタ変数cntをインクリメントし、カウンタ変数cntがWの倍数であるか否かを判定する(S147)。カウンタ変数cntがWの倍数でない場合(S147のNO)、計算サーバは、係数p、cおよびaの値を更新する(ステップS150)。例えば、係数pに一定の値(Δp)を加算し、係数aを更新後の係数pの正の平方根に設定し、係数cにΔctを加算することができる。ただし、これは係数p、cおよびaの値の更新方法の一例にしかすぎない。
【0104】
カウンタ変数cntがWの倍数である場合(S147のYES)、計算サーバは、拡張ハミルトニアンH´´の局所解を計算する(ステップS148)。ステップS148では、上述のように負の山登り法で局所解を計算することができる。ただし、その他のアルゴリズムによって局所解を計算してもよい。次に、前ステップで計算した局所解に基づき係数λを更新する(ステップS149)。例えば、ステップS149では、局所解を関数gに代入し、関数gの値を求めた後、係数λにΔt×c×gを加算することができる。ステップS149の処理の後に、上述のステップS150の処理に進む。
【0105】
ステップS150の処理の後、計算サーバは、第1ベクトルおよび第2ベクトルの更新回数がしきい値未満であるか否かを判定する(ステップS151)。更新回数がしきい値未満である場合(ステップS151のYES)、計算サーバは、ステップS142以降の処理を再度実行する。更新回数がしきい値以上である場合(ステップS151のNO)、第1ベクトルの要素xに基づいて解ベクトルの要素であるスピンsを求める(ステップS152)。ステップS152では、例えば、第1ベクトルにおいて、正値である変数xを+1、負値である変数xを-1にそれぞれ変換し、解ベクトルを得ることができる。
【0106】
なお、計算サーバは、任意のタイミングで第1ベクトルおよび第2ベクトルに基づいて目的関数の値を計算してもよい。計算サーバは、第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値を記憶部に保存することができる。これらの処理は、ステップS151の判定が肯定的である場合、毎回実行されてもよい。また、ステップS151の判定が肯定的となったタイミングのうち、一部のタイミングで実行されてもよい。さらに、上述の処理は、その他のタイミングで実行されてもよい。ユーザは、利用可能な記憶領域および計算資源の量に応じて、目的関数の値を計算する頻度を決めることができる。ステップS151のタイミングにおいて、記憶部に保存された第1ベクトル、第2ベクトルおよび目的関数の値の組合せの数がしきい値を超えているか否かに基づきループ処理を継続するか否かの判定を行ってもよい。こうして、ユーザは、記憶部に保存された複数の第1ベクトルより、最適解に最も近い第1ベクトルを選択し、解ベクトルを計算することが可能となる。
【0107】
なお、図12のフローチャートに示した少なくともいずれかの処理を並列的に実行してもよい。例えば、第1ベクトルおよび第2ベクトルがそれぞれ有するN個の要素の少なくとも一部が並列的に更新されるよう、ステップS142~S146の処理を並列的に実行してもよい。例えば、複数台の計算サーバを使って処理を並列化してもよい。複数のプロセッサによって処理を並列化してもよい。ただし、処理の並列化の実装および態様を限定するものではない。
【0108】
図12のフローチャートに示した処理を実行することにより、計算量を抑えつつ、制約条件を満たす最適解またはそれに近い近似解を比較的短時間で求めることが可能となる。
【0109】
以下では、本実施形態による情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラムの例を説明する。
【0110】
情報処理システムは、記憶装置と、情報処理装置とを備えていてもよい。記憶装置は、例えば、第1ベクトルの要素である第1変数および第2ベクトルの要素である第2変数を記憶するように構成されている。情報処理装置は、例えば、第1変数を対応する第2変数に基づいて更新し、第1変数を第1係数で重み付けし対応する第2変数に加算し、複数の第1変数を用いて問題項を計算し、問題項を第2変数に加算し、制約項と第2係数との積を含む第1補正項を計算し、第1補正項を第2変数に加算し、更新回数に応じて第1係数および第2係数の絶対値を増やすように構成されている。ここで、制約項は、制約条件を表した制約関数に基づいており、第1変数を引数として有していてもよい。
【0111】
また、情報処理システムは、複数の情報処理装置を備えていてもよい。それぞれの情報処理装置は、並列的に第1ベクトルの少なくとも一部および第2ベクトルの少なくとも一部を更新するように構成されていてもよい。
【0112】
情報処理方法では、例えば、第1変数を要素とする第1ベクトルおよび第1変数に対応する第2変数を要素とする第2ベクトルを繰り返し更新する。例えば、情報処理方法は、第1変数を対応する第2変数に基づいて更新するステップと、第1変数を第1係数で重み付けし対応する第2変数に加算するステップと、複数の第1変数を用いて問題項を計算するステップと、問題項を第2変数に加算するステップと、制約条件に基づいており、第1変数を引数として有する制約項を計算するステップと、第2係数と制約項との積を含む第1補正項を計算するステップと、第1補正項を第2変数に加算するステップと、更新回数に応じて第1係数および第2係数の絶対値を増やすステップとを含んでいてもよい。また、プログラムは、上述の情報処理方法のステップをコンピュータに実行させるものであってもよい。さらに、記憶媒体は、当該プログラムを格納する非一時的なコンピュータ可読な記憶媒体であってもよい。
【0113】
[多体相互作用の項を含む計算]
シミュレーテッド分岐アルゴリズムを使うことにより、3次以上の目的関数を有する組合せ最適化問題を解くことも可能である。2値変数を変数とする3次以上の目的関数を最小化する変数の組合せを求める問題は、HOBO(Higher Order Binary Optimization)問題とよばれる。HOBO問題を扱う場合、高次へ拡張されたイジングモデルにおけるエネルギー式として、下記の式(19)を使うことができる。
【数19】
ここで、J(n)はn階テンソルであり、式(1)の局所磁場hと結合係数の行列Jを一般化させたものである。例えば、テンソルJ(1)は、局所磁場hのベクトルに相当する。n階テンソルJ(n)では、複数の添え字に同じ値があるとき、要素の値は0となる。式(15)では、3次の項までが示されているが、それより高次の項も式(19)と同様に定義することができる。式(19)は多体相互作用を含むイジングモデルのエネルギーに相当する。
【0114】
なお、QUBOと、HOBOはいずれも、制約なし多項式2値変数最適化(PUBO:Polynomial Unconstrained Binary Optimization)の1種であるといえる。すなわち、PUBOのうち、2次の目的関数を有する組合せ最適化問題は、QUBOである。また、PUBOのうち、3次以上の目的関数を有する組合せ最適化問題は、HOBOであるといえる。
【0115】
シミュレーテッド分岐アルゴリズムを使ってHOBO問題を解く場合、上述の式(3)のハミルトニアンHを下記の式(20)のハミルトニアンHに置き換えればよい。
【数20】
【0116】
また、式(20)より下記の式(21)に示した問題項が導かれる。
【数21】
(21)の問題項zは、(20)の2番目の式を、いずれかの変数x(第1ベクトルの要素)について偏微分した形式をとっている。偏微分される変数xは、インデックスiによって異なる。ここで、変数xのインデックスiは、第1ベクトルの要素および第2ベクトルの要素を指定するインデックスに相当する。
【0117】
多体相互作用の項を含む計算を行う場合、上述の(17)の漸化式は、下記の(22)の漸化式に置き換わる。
【数22】
(22)は、(17)の漸化式をさらに一般化したものに相当する。同様に、上述の(9)の漸化式においても、多体相互作用の項を使ってもよい。
【0118】
上述に示した問題項は、本実施形態による情報処理装置が使うことができる問題項の例にしかすぎない。したがって、計算で使われる問題項の形式は、これらとは異なるものであってもよい。
【0119】
[アルゴリズムの変形例]
ここでは、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの変形例について説明する。例えば、誤差の軽減または計算時間の短縮を目的に、上述のシミュレーテッド分岐アルゴリズムに各種の変形を行ってもよい。
【0120】
例えば、計算の誤差を軽減するために、第1ベクトルの要素の更新時に追加の処理を実行してもよい。例えば、更新によって第1ベクトルの要素xの絶対値が1より大きくなったとき、第1ベクトルの要素xの値をsgn(x)に置き換える。すなわち、更新によってx>1となったとき、変数xの値は1に設定される。また、更新によってx<-1となったとき、変数xの値は-1に設定される。これにより、変数xを使ってスピンsをより高い精度で近似することが可能となる。このような処理を含めることにより、アルゴリズムは、x=±1の位置に壁があるN粒子の物理モデルと等価になる。より一般的に述べると、演算回路は、値が第2値より小さい第1変数を第2値に設定し、値が第1値より大きい第1変数を第1値に設定するように構成されていてもよい。
【0121】
さらに、更新によってx>1となったとき、変数xに対応する変数yに係数rfを乗算してもよい。例えば、-1<r≦0の係数rfを使うと、上記の壁は、反射係数rfの壁となる。特に、rf=0の係数rfを使った場合、アルゴリズムは、x=±1の位置に完全非弾性衝突の起こる壁がある物理モデルと等価になる。より一般的に述べると、演算回路は、値が第1値より小さい第1変数に対応する第2変数、または、第2値より大きい第1変数に対応する第2変数を、もとの第2変数に、第2係数を乗じた値に更新するように構成されていてもよい。例えば、演算回路は、値が-1より小さい第1変数に対応する第2変数、または、値が1より大きい第1変数に対応する第2変数を、もとの第2変数に第2係数を乗じた値に更新するように構成されていてもよい。ここで、第2係数は上述の係数rfに相当する。
【0122】
なお、演算回路は、更新によってx>1となったとき、変数xに対応する変数yの値を擬似乱数に設定してもよい。例えば、[-0.1,0.1]の範囲の乱数を使うことができる。すなわち、演算回路は、値が第2値より小さい第1変数に対応する第2変数の値、または、値が第1値より大きい第1変数に対応する第2変数の値を、擬似乱数に設定するように構成されていてもよい。
【0123】
以上のようにして|x|>1となることを抑止するように更新処理を実行すれば、(5)、(9)および(22)の非線形項K×x を除去しても、xの値が発散することはなくなる。したがって、下記の(23)に示したアルゴリズムを使うことが可能となる。
【数23】
【0124】
(23)のアルゴリズムでは、問題項において、離散変数ではなく、連続変数xが使われている。このため、本来の組合せ最適化問題で使われている離散変数との誤差が生ずる可能性がある。この誤差を軽減するために、下記の(24)のように、問題項の計算において、連続変数xの代わりに、連続変数xを符号関数で変換した値sgn(x)を使うことができる。
【数24】
(24)において、sgn(x)は、スピンsに相当する。
【0125】
(24)では、問題項の中の1階のテンソルを含む項の係数αを定数(例えば、α=1)にしてもよい。(24)のアルゴリズムでは、問題項で現れるスピンどうしの積が必ず-1または1のいずれかの値をとるため、高次の目的関数を有するHOMO問題を扱った場合、積演算による誤差の発生を防ぐことができる。上述の(24)のアルゴリズムのように、計算サーバが計算するデータは、さらに、変数s(i=1、2、・・・、N)を要素とするスピンのベクトル(s,s,・・・,s)を含んでいてもよい。第1ベクトルのそれぞれの要素を符号関数で変換することにより、スピンのベクトルを得ることができる。
【0126】
[変数の更新処理の並列化の例]
以下では、シミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算時における変数の更新処理の並列化の例について説明する。
【0127】
はじめに、PCクラスタへシミュレーテッド分岐アルゴリズムを実装した例について説明する。PCクラスタとは、複数台のコンピュータを接続し、1台のコンピュータでは得られない計算性能を実現するシステムである。例えば、図1に示した情報処理システム100は、複数台の計算サーバおよびプロセッサを含んでおり、PCクラスタとして利用することが可能である。例えば、PCクラスタにおいては、MPI(Message Passing Interface)を使うことにより、情報処理システム100のような複数の計算サーバにメモリが分散して配置されている構成でも並列的な計算を実行することが可能である。例えば、MPIを使って管理サーバ1の制御プログラム14E、各計算サーバの計算プログラム34Bおよび制御プログラム34Cを実装することができる。
【0128】
PCクラスタで利用するプロセッサ数がQである場合、それぞれのプロセッサに、第1ベクトル(x,x,・・・,x)に含まれる変数xのうち、L個の変数の計算を行わせることができる。同様に、それぞれのプロセッサに、第2ベクトル(y,y,・・・,y)に含まれる変数yのうち、L個の変数の計算を行わせることができる。すなわち、プロセッサ#j(j=1,2,・・・,Q)は、変数{x|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}および{y|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}の計算を行う。また、プロセッサ#jによる{y|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}の計算に必要な下記の(25)に示されたテンソルJ(n)は、プロセッサ#jがアクセス可能な記憶領域(例えば、レジスタ、キャッシュ、メモリなど)に保存されるものとする。
【数25】
【0129】
ここでは、それぞれのプロセッサが第1ベクトルおよび第2ベクトルの一定数の変数を計算する場合を説明した。ただし、プロセッサによって、計算する第1ベクトルおよび第2ベクトルの変数の数が異なっていてもよい。例えば、計算サーバに実装されるプロセッサによって性能差がある場合、プロセッサの性能に応じて計算対象とする変数の数を決めることができる。
【0130】
変数yの値を更新するためには、第1ベクトル(x,x,・・・,x)のすべての成分の値が必要となる。2値変数への変換は、例えば、符号関数sgn()を使うことによって行うことができる。そこで、Allgather関数を使い、第1ベクトル(x,x,・・・,x)のすべての成分の値をQ個のプロセッサに共有させることができる。第1ベクトル(x,x,・・・,x)については、プロセッサ間での値の共有が必要であるものの、第2ベクトル(y,y,・・・,y)およびテンソルJ(n)については、プロセッサ間での値の共有を行うことは必須ではない。プロセッサ間でのデータの共有は、例えば、プロセッサ間通信を使ったり、共有メモリにデータを保存したりすることによって実現することができる。
【0131】
プロセッサ#jは、問題項{z|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}の値を計算する。そして、プロセッサ#jは、計算した問題項{{z|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}の値に基づき、変数{y|m=(j-1)L+1,(j-1)L+2,・・・,jL}を更新する。
【0132】
上述の各式に示したように、問題項のベクトル(z,z,・・・,z)の計算では、テンソルJ(n)と、ベクトル(x,x,・・・,x)との積の計算を含む、積和演算が必要である。積和演算は、上述のアルゴリズムにおいて最も計算量の大きい処理であり、計算速度の向上においてボトルネックとなりうる。そこで、PCクラスタの実装では、積和演算を、Q=N/L個のプロセッサに分散して並列的に実行し、計算時間の短縮をはかることができる。
【0133】
図13は、マルチプロセッサ構成の例を概略的に示している。図13の複数の計算ノードは、例えば、情報処理システム100の複数の計算サーバに相当する。また、図13の高速リンクは、例えば、情報処理システム100のケーブル4a~4cおよびスイッチ5によって形成された計算サーバ間のインターコネクトに相当する。図13の共有メモリは、例えば、共有メモリ32に相当する。図13のプロセッサは、例えば、各計算サーバのプロセッサ33A~33Dに相当している。なお、図13には複数の計算ノードが示されているが、単一計算ノードの構成を用いることを妨げるものではない。
【0134】
図13には、各構成要素に配置されるデータおよび構成要素間で転送されるデータが示されている。各プロセッサでは、変数x、yの値が計算される。また、プロセッサと共有メモリ間では、変数xが転送される。各計算ノードの共有メモリには、例えば、第1ベクトル(x,x,・・・,x)、第2ベクトル(y,y,・・・,y)のL個の変数、およびテンソルJ(n)の一部が保存される。そして、計算ノード間を接続する高速リンクでは、例えば、第1ベクトル(x,x,・・・,x)が転送される。Allgather関数を使う場合、各プロセッサで変数yを更新するために、第1ベクトル(x,x,・・・,x)の全要素が必要となる。
【0135】
なお、図13に示したデータの配置および転送は一例にしかすぎない。PCクラスタにおけるデータの配置方法、転送方法および並列化の実現方法については、特に問わない。
【0136】
また、GPU(Graphics Processing Unit)を使ってシミュレーテッド分岐アルゴリズムの計算を行ってもよい。
【0137】
図14は、GPUを使った構成の例を概略的に示している。図14には、互いに高速リンクで接続された複数のGPUが示されている。それぞれのGPUには、共有メモリにアクセス可能な複数のコアが搭載されている。また、図14の構成例では、複数のGPUが高速リンクを介して接続されており、GPUクラスタを形成している。例えば、GPUが図1のそれぞれの計算サーバに搭載されている場合、高速リンクは、ケーブル4a~4cおよびスイッチ5によって形成された計算サーバ間のインターコネクトに相当する。なお、図14の構成例では、複数のGPUが使われているが、ひとつのGPUを使った場合にも、並列的な計算を実行することが可能である。すなわち、図14のそれぞれのGPUは、図13のそれぞれの計算ノードに相当する計算を実行できる。すなわち、情報処理装置(計算サーバ)のプロセッサは、Graphics Processing Unit(GPU)のコアであってもよい。
【0138】
GPUにおいて、変数xおよびy、ならびにテンソルJ(n)はデバイス変数として定義される。GPUは、変数yの更新に必要なテンソルJ(n)と第1ベクトル(x,x,・・・,x)の積を、行列ベクトル積関数によって並列的に計算することができる。なお、行列とベクトルの積演算を繰り返し実行することにより、テンソルとベクトルの積を求めることができる。また、第1ベクトル(x,x,・・・,x)の計算と、第2ベクトル(y,y,・・・,y)のうち、積和演算以外の部分については、それぞれのスレッドにi番目の要素(x,y)の更新処理を実行させ、処理の並列化を実現することができる。
【0139】
[組合せ最適化問題を解くための全体的な処理]
以下では、シミュレーテッド分岐アルゴリズムを用いて組合せ最適化問題を解くために実行される全体的な処理を説明する。
【0140】
図15のフローチャートは、組合せ最適化問題を解くために実行される全体的な処理の例を示している。以下では、図15を参照しながら、処理を説明する。
【0141】
はじめに、組合せ最適化問題を定式化する(ステップS201)。そして、定式化された組合せ最適化問題をイジング問題(イジングモデルの形式)に変換する(ステップS202)。次に、イジングマシン(情報処理装置)によってイジング問題の解を計算する(ステップS203)。そして、計算された解を検証する(ステップS204)。例えば、ステップS204では、制約条件が満たされているか否かの確認が行われる。また、ステップS204でエネルギー関数(ハミルトニアン)の値を参照し、得られた解が最適解またはそれに近い近似解であるか否かの確認を行ってもよい。
【0142】
そして、ステップS204における検証結果または計算回数の少なくともいずれかに応じて再計算をするか否かを判定する(ステップS205)。再計算をすると判定された場合(ステップS205のYES)、ステップS203およびS204の処理が再び実行される。一方、再計算をしないと判定された場合(ステップS205のNO)、解の選択を行う(ステップS206)。例えば、ステップS206では、制約条件の充足またはエネルギー関数の値の少なくともいずれかに基づき選択を行うことができる。なお、複数の解が計算されていない場合には、ステップS206の処理をスキップしてもよい。最後に、選択した解を組合せ最適化問題の解に変換し、組合せ最適化問題の解を出力する(ステップS207)。
【0143】
上述で説明した情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、記憶媒体およびプログラムを使うことにより、組合せ最適化問題の解を実用的な時間内で計算することが可能となる。これにより、組合せ最適化問題の求解がより容易となり、社会のイノベーションおよび科学技術の進歩を促進することが可能となる。
【0144】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0145】
1 管理サーバ
2 ネットワーク
3a、3b、3c 計算サーバ
4a、4b、4c ケーブル
5 スイッチ
6 クライアント端末
10 プロセッサ
11 管理部
12 変換部
13 制御部
14 記憶部
14A 問題データ
14B 計算データ
14C 管理プログラム
14D 変換プログラム
14E、34C 制御プログラム
15、31 通信回路
16 入力回路
17 出力回路
18 操作装置
19 表示装置
20 バス
32 共有メモリ
33A、33B、33C、33D プロセッサ
34 ストレージ
34A 計算データ
34B 計算プログラム
35 ホストバスアダプタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15