(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】スラリを調製し、基板をスラリでコーティングするための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/34 20060101AFI20240930BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240930BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20240930BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240930BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240930BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B05D1/34
H01M4/04 Z
B01F23/50
B05D7/24 301E
B05D3/00 B
B05D3/12 A
B05D7/24 303A
B05D3/12 Z
(21)【出願番号】P 2021509964
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 US2019029241
(87)【国際公開番号】W WO2020023095
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-19
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】324006201
【氏名又は名称】イニション エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ウ
(72)【発明者】
【氏名】モレノ ボリス グラヘラ
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0120217(US,A1)
【文献】米国特許第06062722(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0172848(US,A1)
【文献】米国特許第04087209(US,A)
【文献】特開2020-151665(JP,A)
【文献】特開平09-171823(JP,A)
【文献】特開平06-170198(JP,A)
【文献】特開2011-258333(JP,A)
【文献】特開平11-185760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B01F 33/00-33/87
B05C 5/00-21/00
H01M 4/00-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板のコーティング方法であって、
スラリを少なくとも1つの通路を備える閉鎖空間中に提供するステップであって、前記閉鎖空間は、少なくとも1つの前記通路によって接続された2つのシリンダを含み、前記2つのシリンダは各々がピストンを備え、前記スラリは、溶媒、粉体、及びバインダを含み、前記基板に塗布されるとバッテリセルの電極を形成するために用いられる、ステップと、
前記ピストンの往復運動に基づいて、前記スラリを前記少なくとも1つの通路を通って第一の流動方向に、その後、再び前記少なくとも1つの通路を通って、前記第一の流動方向とは反対の第二の流動方向に高圧下で繰り返し強制的に移動させることによって、前記粉体及び前記バインダを前記溶媒中で均質に分散させるステップと、
前記スラリが前記少なくとも1つの通路を移動するように強制した後に前記閉鎖空間から押し出される前記スラリで前記基板の互いに向かい合わずに対向する両面を同時にコーティングするステップと、
前記基板上に塗布された少なくとも前記溶媒を凍結させるステップと、
前記基板上に凍結した少なくとも前記溶媒を昇華させるステップと、
昇華後、真空下で前記基板を少なくとも1つの前記溶媒の凝固点以上に加熱するステップと、
加熱後に前記基板をカレンダ処理するステップと、
カレンダ処理後の前記基板で電池セル電極を形成するステップと、を備え、
前記バインダと前記粉体の重量比は0.02:1~0.1:1であり、
前記粉体はカーボンブラック粉体であり、前記溶媒と前記カーボンブラック粉体の重量比は4.5:1~8:1であり、
前記スラリ中の前記粉体と前記バインダの分散系を形成するために、固体粉体1キログラム当たり10~15kWhのエネルギーが必要である方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの通路の各々において前記第一の流動方向への前記通路の断面は、前記ピストンのストローク方向への前記シリンダの断面より小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの通路の直径は1/16インチ(1.58ミリメートル)~1/2インチ(12.7ミリメートル)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スラリはn-メチル-2-ピロリドンを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒は水である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バインダはポリテトラフルオロエチレンエマルジョンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スラリは分散剤を含み、前記分散剤はアルコールである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1の前記方法によりコーティングされた電極。
【請求項9】
請求項1の前記方法によりコーティングされた電極を有するバッテリ。
【請求項10】
複数のバッテリセルを有するバッテリシステムであって、前記バッテリセルの各々は請求項1の前記方法に従ってコーティングされた電極を有するバッテリシステム。
【請求項11】
前記カレンダ処理するステップは、前記基板を冷間カレンダ処理して、前記基板上の前記コーティングを安定化させ、その後、前記基板を熱間圧延するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
基板のコーティング方法であって、
スラリを少なくとも1つの通路を備える閉鎖空間中に提供するステップであって、前記スラリは、溶媒、粉体、及びバインダを含むステップと、
前記スラリを前記少なくとも1つの通路を通って第一の流動方向に、その後、再び前記少なくとも1つの通路を通って、前記第一の流動方向とは反対の第二の流動方向に高圧下で繰り返し強制的に移動させることによって、前記粉体及び前記バインダを前記溶媒中で均質に分散させるステップと、
前記閉鎖空間に真空を付与して前記スラリからガスを除去するステップと、
前記強制的に移動させるステップの後に前記閉鎖空間から押し出される前記スラリで前記基板の両面を同時にコーティングするステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記バインダ対前記粉体の比率は重量で0.02:1~0.1:1である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記粉体は炭素ではない非炭素粉体からなり、前記溶媒対前記非炭素粉体の比は重量で0.6:1~1.25:1である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記粉体は炭素粉体からなり、前記溶媒対前記炭素粉体との比は重量で4.5:1~8:1である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記閉鎖空間は、前記少なくとも1つの通路により接続される2つのシリンダを含み、前記2つのシリンダの各々はピストンを含み、前
記ピストンの往復動作が前記スラリを前記第一の流動方向及び第二の流動方向に強制的に流す、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記スラリ中の前記粉体と前記バインダの分散系を形成するために、固体粉体1キログラム当たり10~15kWhのエネルギーが必要である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒は水である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記粉体はカーボンブラック粉体であり、前記基板はバッテリセル用電極を形成する、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記バインダはポリテトラフルオロエチレンエマルジョンである、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記スラリはn-メチル-2-ピロリドンを含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記スラリは、分散剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記スラリは前記分散剤を0.01~2wt%含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記分散剤はアルコールである、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2018年4月26日に出願された米国特許出願第15/964,651号の優先権を主張するものであり、同出願の全体を参照によって本願に援用する。
【0002】
本開示は、スラリを調製し、基板をスラリでコーティングするための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
溶媒中に分散させた粉体と任意選択によりバインダを含むスラリの形成には、多大なエネルギーと設備が関わる。これは、バッテリ用電極を形成する際に使用される基板の製造のためのスラリを形成する場合に当てはまる。例えば、従来の電極ウェットコーティングプロセスでは、カーボンブラック粉体又はその他の活性/不活性材料等の粉体と、バインダとして有機ポリマを含む粘性の高いスラリが、ドクタブレード、ロール・ツー・ロールコータ等の様々な方法によってスラリ又は基板の何れかを繰り出し、又は送給することによって基板上に塗布され、集電体が形成される。ウェットコーティングで使用される従来の装置は、ドクタブレード、ロール・ツー・ロールコータ等の使用が必要であるため、大きなスペースを要する。従来の混合、混錬、コーティング、及び乾燥に関係する装置やワークステーションはすべて、大規模である。
【0004】
従来の遊星型ミキサを用いたスラリの混合には、時間も長くかかる。また、従来のウェットコーティングの場合、基板へのスラリの形成と塗布を支援するために、典型的にスラリ中に大量の毒性溶媒も使用される。このような毒性溶媒としては、例えば、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が含まれる。スラリを基板にコーティングした後、毒性溶媒を除去しなければならない。除去には、環境汚染及び爆発を防止するために、乾燥プロセス中に高度な蒸発技術が必要となる。毒性溶媒を蒸発させる乾燥工程は、長いベルトコンベヤと加熱システムの組合せを含む大型の乾燥機を必要とする。乾燥システムと共に、環境汚染防止のために、蒸発した毒性溶媒を回収するシステムを取り付ける必要もある。
【0005】
ドライコーティングプロセスは、電極製造のためのウェットコーティングに代わる工程である。しかしながら、ドライコーティングには幾つかの欠点がある。例えば、乾燥炭素複合材粉体をコーティング用の微粉体に粉砕することが必要であり、これには微粉体を粉砕するため及びそれを基板上に散布するための2つの機械が必要となる。特殊なホッパ及び複雑な配置のコータもまた、基板上に微粉体を分散させるのに必要である。
【0006】
ドライコーティングにはまた、基板上の微粉体の不規則な分布によって、得られるバッテリ性能が一貫しない問題もある。その結果として基板上の粉体密度が不均一になることが、コーティングと基板との間の接着力や気孔の均一性その他の多くの問題に直接影響を与え、最終的にそれが均一な反応の欠如につながる。高度な分散装置を備える、特別に設計されたコーティングマシンであっても、一貫しないセル性能という同じ種類の問題が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、スラリ形成における上述の問題を全体的に軽減させた、バッテリ電極の製造に応用されるコーティング装置及びプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある態様は、電極を形成するために基板をスラリでコーティングするプロセスを含む。スラリは粉体を含む。幾つかの態様において、粉体はカーボンブラック粉体又は、何れの導電性/非導電性材料若しくそれらの混合物で形成することもできる。スラリは1種又は複数の溶媒及びバインダをさらに含む。スラリは、任意選択により、1種又は複数の分散剤を含むことができる。プロセスは、コーティング基板を凍結乾燥させるステップと、凍結乾燥されたコーティング基板を高温の真空下で加熱させて残留溶媒を除去するステップをさらに含む。プロセスは、得られたコーティング基板をバッテリ電極用とするようにカレンダ処理するステップをさらに含む。
【0009】
本開示のさらなる態様は、スラリを混合、混錬し、その後、スラリを基板の両面に同時にコーティングするように構成された装置である。装置は、細管を介して接続された2つのシリンダを含み、各シリンダ内のピストンは、シリンダ間で、及び管内で、スラリを繰り返し強制的に前後に移動させるように構成される。管を通るスラリの繰返し運動は、スラリにせん断力を加え、それがスラリを混合し、混錬する。幾つかの態様において、装置は、スラリを基板上へと、スラリが基板の両面と同時に接触するように押し出すように構成されたダイを含む。
【0010】
本開示の他の態様は、基板をコーティングする方法を含み、これは、少なくとも1つの通路を有する閉鎖空間内にスラリを提供するステップを含む。スラリは、溶媒、粉体、バインダ、及び分散剤を含む。方法は、少なくとも1つの通路内で第一の流動方向に、その後再び、少なくとも1つの通路内で第一の流動方向とは反対の第二の流動方向に繰り返し高圧下で強制的に移動させて、粉体とバインダを溶媒内で均一に分散させるステップをさらに含む。方法は、強制的に移動させるステップの後に、閉鎖空間から押し出されるスラリで基板の両面を同時にコーティングするステップをさらに含む。
【0011】
本開示の態様はまた、上記の方法に従ってコーティングされた電極、上記の方法に従ってコーティングされた電極を有するバッテリ、及び複数のバッテリセルであって、各バッテリセルが上記の方法に従ってコーティングされた電極を有する複数のバッテリセルを有するバッテリシステムも含む。
【0012】
本開示の別の態様は、コーティング基板を硬化させる方法を含み、これは、両面がスラリでコーティングされた基板を提供するステップを含む。スラリは、溶媒、粉体、バインダ、及び分散剤を含む。方法は、基板上にコーティングされた少なくとも溶媒と分散剤を凍結させるステップと、基板上で凍結した少なくとも溶媒と分散剤を昇華させるステップをさらに含む。方法は、昇華させるステップの後に、基板を真空下で、少なくとも1つの溶媒及び分散剤の凝固点より高い温度まで加熱するステップと、加熱するステップの後に基板をカレンダ処理するステップと、をさらに含む。
【0013】
本開示のさらなる態様は、第一のシリンダと第一のピストンを備える第一のシリンダアセンブリを有するシステムを含む。第一のピストンは、第一のシリンダ内で往復運動するように構成される。システムはまた、第二のシリンダと第二のピストンを備える第二のシリンダアセンブリを含む。第二のピストンは、第二のシリンダ内で往復運動するように構成される。システムはまた、第一のシリンダアセンブリを第二のシリンダアセンブリに接続する通路も含む。システムの動作中、第一のシリンダアセンブリと第二のシリンダアセンブリは、第一のシリンダ及び第二のシリンダ内のスラリに圧縮と吸引を交互に加えて、スラリに通路内で往復運動させるように構成される。
【0014】
開示されている装置、システム、及び方法の上記及びその他の能力は、以下の図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲を参照すれば、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の態様による、スラリの調製に使用される装置の断面図を示す。
【
図2A】本開示の態様による、ダイアセンブリの斜視図を示す。
【
図2B】本開示の態様による、2つのダイ部品を有する
図2Aのダイアセンブリの分解図を示す。
【
図2C】本開示の態様による
図2Aのダイアセンブリの上面図を示す。
【
図2D】本開示の態様による
図2Aのダイアセンブリの底面図を示す。
【
図3A】本開示の態様による、スラリを基板に塗布するように構成された
図1の装置の断面図を示す。
【
図3B】本開示の態様による、スラリを基板に塗布する
図3Aのダイの光学的に透明な斜視図を示す。
【
図3C】本開示の態様による、スラリでコーティングされている
図3Bの基板の、線3B-3Bに沿った断面図を示す。
【
図4】本開示の態様による、基板をコーティングするプロセスのフローチャートである。
【
図5】本開示の態様によるコーティング基板を硬化するプロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載の装置、システム、及び方法には、各種の改良や代替的形態が可能であるが、図面には具体的な実施形態が例として示されている。しかしながら、説明は開示されている特定の形態に限定されるものではないと理解すべきである。むしろ、説明は付属の特許請求の範囲により定義される本開示の主旨と範囲に含まれるすべての改良、等価物、及び代替物をカバーするものである。
【0017】
装置、システム、及び方法の1つ又は複数の実施形態が図面に示され、本明細書で詳しく説明されているが、本開示は本明細書において開示されている原理の例示と考えられ、広い態様を例示されている実施形態のみに限定することは意図されていないと理解されたい。この詳細な説明の目的のために、単数形は複数形を含み、またその逆もあり(明確に否認されている場合を除く)、「又は」という単語は合接的及び離接的両方であり、「すべて」という単語は「あらゆるすべて」を意味し、「何れかの」という単語は「あらゆるすべての」を意味し、「~を含む」という単語は、「~を含み、これに限定されない」を意味する。また、単数形の用語(a、an、the)は、文脈上、明らかに他の解釈が必要である場合を除き、複数形も含む。本明細書において開示される数の範囲はすべて、上限と下限の数及びそれらの間の、すべての整数を含むすべての有理数を含む。
【0018】
スラリを調製し、その後、スラリを基板に塗布するための装置とプロセスが開示される。本開示の装置とプロセスによれば、スラリを形成し、それを基板に塗布するのに必要な複雑さと時間が大幅に軽減、短縮される。スラリでコーティングされた基板を硬化するプロセスも開示される。開示される装置とプロセスは、バッテリ用電極の製造において使用できる。しかしながら、装置とプロセスは何れの種類のスラリの形成及び何れの種類の基板へのその塗布にも使用でき、電極用とされる基板に特に限定されない。
【0019】
バッテリ用電極の製造に塗布される際、本開示の装置及び方法により、電極用のスラリの形成において、溶媒及び/又は分散剤としてのNMP、DMF、アセトン等の毒性化学物質の使用が低減又は排除される。装置及び方法はまた、スラリの調製、基板の処理、機器の操作等における複雑な従来のプロセスを排除することによって、バッテリ電極の製造のプロセス全体も短縮され、簡素化される。装置及び方法によれば、また、上の背景の項で述べたプロセスのための濃縮、粉砕、及び粉体散布に使用される高額で大型の装置が小型化され、その使用が排除される。
【0020】
特に、本開示の方法は1つの装置のみを使用し、それが混合、混錬、及びコーティングのすべてを行う。装置は、スラリを基板にその場で直接コーティングし、例えばスラリを混合装置からコーティング装置に輸送する面倒がなくなる。装置はまた、基板の両面を同時にコーティングする。方法はまた、コーティング基板を凍結乾燥するステップを含み、それによって溶媒が不要となる。凍結乾燥するステップは、コーティング中に、形成されたスラリと基板の気孔構造の損傷や変化を低減させるのに役立つ。本開示はまた、電気化学セル用電極を製造するためのスラリコーティングプロセスをコーティング装置と共に提供する。電極セルは、例えば、リチウムセル又は燃料セル等の一次セル又は二次セルとすることができる。
【0021】
本開示のスラリは、溶媒、粉体、及びバインダで形成される。スラリはまた、分散剤も含むことができる。1つ又は複数の実施形態において、溶媒はバインダを溶解させることのできる何れの化学薬品とすることもでき、所望のバインダの特性に応じて何れの化学薬品でも選択できる。例えば、溶媒は、水溶性バインダ、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む水とすることができる。代替的に、溶媒はアセトン(又は、ほぼ純粋なアセトン)、NMP、又はDMF及び、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉体又は樹脂等の非水溶性バインダとすることができる。1つ又は複数の代替的実施形態において、溶媒は、バインダ及び粉体の分散系を形成できる何れの化学薬品とすることもできる。
【0022】
粉体は、分散系の製造において使用される何れの粉体とすることもできる。1つ又は複数の実施形態において、粉体は電極の製造において使用される何れの粉体とすることもできる。例えば、粉体は、電気化学的に活性可能な、活性の、又は不活性の何れの無機若しくは有機材料、又はそれらの組合せとすることもできる。粉体が導電性粉体である場合、導電性粉体は、電気化学セルのための電極又は電極内の導電性添加物としての役割を果たす。導電性粉体は、カーボンブラック粉体、黒鉛、カーボンファイバ等、又はそれらの混合物とすることができる。その他の非炭素粉体は、例えば炭化ケイ素(SiC)、硫酸バリウム(BaSO4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸鉄マンガンリチウム(LiMnFePO4)及び、例えば二酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNiCoMnO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガンスピネル(LiNi0.5Mn1.5O4)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)等の各種の酸化物、及びその他の天然鉱物、並びにそれらの組合せとすることができる。
【0023】
上記の非炭素粉体はすべて、水溶性であり、親水性である。それゆえ、上述のような水溶性の親水性粉体の使用において、スラリ内の水性溶媒と粉体の比は重量で約0.6:1までさらに下げることができ、これは、後述のような混合ステップと材料の親水性による。これは、従来の湿式方法における疎水性粉体と水性溶媒の約1.25:1の重量比と対照的である。炭素系粉体の場合、スラリ内の溶媒対粉体の重量比は約4.5~8:1とすることができる。これによって、約24~27:1の溶媒対粉体の重量比を必要とする従来のスラリに対する利点が提供される。それゆえ、本開示の方法では有意に少ない溶媒を使用すればよく、これによって硬化中に除去しなければならない溶媒の量が減少する。
【0024】
バインダは、コーティング及び硬化後に、粉体を基板に付着させるのを支援する。1つ又は複数の実施形態において、バインダは樹脂バインダとすることができる。バインダは、溶媒中に溶解可能、例えば水溶性とすることができ、又は分散系、例えば水性ポリテトラフルオロエチレンエマルジョンの形態とすることができる。バッテリ製造において使用可能な具体的なバインダには、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(Na-CMC)、ポリ(アクリル酸ナトリウム)(PAA-Na)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、水溶性アクリレート(Acryl S020)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド及びポリメチルアクリルアミド、ジビニル(divyinly)エーテル無水マレイン酸、ポリオキサゾリン、ティッシュエンジニアリングで使用される各種のポリリン酸塩、でんぷん、液体グルコース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルナウバロウ、グアガム、キサンタンガム(XG)、ペクチン等、並びにそれらの組合せが含まれる。
【0025】
電極の製造において、スラリで使用されるバインダの量は、バインダが最終的な電極の導電性にどのように影響を与えるかによって決まる。1つ又は複数の実施形態において、スラリ中のバインダ対粉体の比は約0.02:1~約0.1:1とすることができる。しかしながら、バインダと粉体の総重量に関して約10wt%を超えるバインダ含有量は、粘性とエネルギー密度を考慮して、大規模電極生産には適していない。
【0026】
分散剤は、疎水性無機成分、例えば炭素粉体を水性溶媒及びバインダと混合するのを支援する。1つ又は複数の好ましい実施形態において、分散剤は、液体の状態で、溶媒と同程度又はそれ以下の物性、例えばより低い融点/沈殿温度を有するように選択される。溶媒と比較して分散剤の物性が同程度又はそれ以下であることによって、分散剤は溶媒と共に、又は溶媒より前に蒸発し、それによって、凍結乾燥後に基板上に残る薄膜は主として粉体を含む。一例として、沈殿温度が-89℃のイソプロピルアルコールは、水と共に溶媒として使用できる。非水溶媒を含む余剰の溶媒残留物は、凍結乾燥中、例えば-60℃~-80℃の凍結乾燥凝縮器の中で、又はコーティング基板のその後のより高温での加熱中に抽出でき、これについてはさらに後述する。
【0027】
スラリ中に使用できる分散剤は、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、酢酸、アセトニトリル、アセトン、NMP、DMF等が含まれる。さらに、1つ又は複数の実施形態において、幾つかの分散剤はまた、分散剤と溶媒の両方として機能することもできる。さらに、NMP及びDMF等の分散剤は、その毒性から使用されないことが好ましいが、本開示のスラリにおいては、必要な濃度がはるかに低いことから、これらも依然として使用できる。例えば、混合及びそれに関連する後述の装置の利点により、これらの分散剤の量は従来の湿式方法よりはるかに少なくすることができ、これはこの使用に関係するコストをさらに低減させる。
【0028】
スラリ中に使用される分散剤の量は、溶媒等、スラリ中のその他の成分に依存する。しかしながら、スラリの分散剤は0.01重量パーセント(wt%)程度と低くすることができる。これは、水性溶媒中の分散剤を最高30wt%とする必要のある従来の方法を用いて混合される従来のスラリと対照的である。例えば、炭素粉末、溶媒として水、及びバインダとしてPTFEエマルジョンの本開示のスラリの中で、イソプロピルアルコールが分散剤として使用される場合、スラリのイソプロピルアルコール含有量は約1wt%である。分散剤としてNMPを使用する場合、スラリのNMP含有量は0.01wt%と低くすることができる。
【0029】
図1を参照すると、本開示の態様による、スラリ102を調製し、スラリ102を基板上にコーティングするために使用される装置100の断面図が示されている。装置100は、1対のシリンダ104a、104bと1対のピストン106a、106bを含む。各ピストン106a、106bは、シリンダ104a、104bの一方の中にある(例えば、ピストン106aはシリンダ104aの中にあり、ピストン106bはシリンダ104bの中にある)。ピストン106a、106bは、1つ又は複数の装置(図示せず)に接続され、これらは、ピストン106a、106bを、シリンダ104a、104bの長さ(例えば、ストローク長さ又は方向)に沿って、線Aにより示されるように線形往復運動させるように構成される。1つ又は複数の実施形態において、ピストン106a、106bを駆動する1つ又は複数の装置は、プログラム可能な装置により制御できる1つ又は複数のリニアアクチュエータとすることができる。しかしながら、1つ又は複数の装置は、ピストン106a、106bに往復直線運動を付与することのできる何れの種類の機械的及び/又は電気機械的装置とすることもできる。ピストン106a、106bの作動は、一方のピストンがスラリ102に圧縮力を加えているときに他方のピストンが吸引力を加えるように同期される。
【0030】
シリンダ104a、104bは、細管108を介して流体接続される。細管108によって、スラリ102は、ピストン106a、106bの作動により生成される圧縮力を受けて、シリンダ104a、104b間に流れることができる。シリンダ104a、104b内で往復運動するようにピストン106a、106bを作動させることによって、スラリ102は管108を繰り返し通過することができる。それゆえ、スラリ102は、シリンダ104aからの管108を通ってシリンダ104bへと、例えば
図1の線Aの方向に左から右への第一の流動方向に流れる。スラリ102はその後、シリンダ104bから管108を通ってシリンダ104aへと、例えば
図1の線Aの方向に右から左に流れる。第二の流動方向は第一の流動方向の反対である。
図1に示される流動方向は線Aに沿った線形であるが、1つ又は複数の実施形態において、流動方向は非線形とすることができる。例えば、管108は、U字型、S字形とすることができ、又はスラリ102が移動するための蛇行通路を作る、同じ及び/又は異なる屈曲部を幾つ有することもできる。
【0031】
スラリ102が管108を通って繰り返し移動すると、スラリ102が混合される。混合はさらに、ピストン106a、106bのストローク方向又は流れの方向(例えば、線A)において、例えばシリンダ104a、104bの直径と比較して管108が小径であることによっても支援される。管108を通るスラリ102は、ベルヌーイの定理に従って、管108の中央の粒子より低い速度となる管108の縁部の粒子に基づくスラリ102内の粒子の速度の不均一性から得られる高いせん断力を受ける。シリンダ104a、104bにスラリ102が充填され、及び/又はそこから排出される間に発せられるせん断力によって、混合効率が高くなり、大きな混錬効果が生じる。
【0032】
混合効率は、管108を通るスラリ102の流速、管108の直径、及び混合時間に依存する。管108の直径が小さく、管108を通るスラリ102の流速が速いほど、混合及び混錬の効果が高くなる。例えば、内径8分の3インチの管で毎秒430ミリメートルの流速の場合、混合に15分しかかからない。内径8分の3インチの管で毎秒380ミリメートルの流速の場合、混合に25分しかかからない。また、内径8分の1インチの管で毎秒170ミリメートルの流速の場合、混合に10分しかかからない。実際には、管108の直径は約1/16~1/2インチであり得る。それゆえ、装置100の構成は、従来の遊星型ミキサ等、従来の装置より高い混合効率を提供する。例えば、カーボンブラック粉体30グラムを混合するのに必要なエネルギーはわずか約0.3キロワット時(kWh)である。より大量の混合材料の場合、消費パワーは粉体1キログラムあたり最大で約10~15キロワット時となり得る。
【0033】
1つの例により、装置100を内径3インチのシリンダ(すなわち、シリンダ104a、104b)で形成した。シリンダを長さ7インチ、内径8分の1インチの管(すなわち、管108)で接続した。スラリ(すなわち、スラリ102)をピストン(すなわち、ピストン106a、106b)により、6インチのストロークを毎秒1ミリメートルのピストン速度によりシリンダ間で強制的に移動させた。カーボンブラックポリマの混合物で形成したスラリを、ピストンの往復運動によって完全に混合、混錬し、30分未満で管を通過させ、コーティングできる状態とした。しかしながら、実際の混合及び混錬時間は、粒子の大きさ、管108のサイズ(例えば、内径、長さ)及びピストン106a、106bの速度と、したがって管108を通過する最終的なスラリ102の速度に応じて様々とすることができる。
【0034】
1つの管108だけがシリンダ104a、104bを接続しているように示されているが、1つ又は複数の実施形態において、シリンダ104a、104bを接続する管108は複数とすることができる。複数の管108は、ストローク方向においてシリンダ104a、104bの直径が管108の直径に関してより大きい時に使用できる。
【0035】
装置100は、1種又は複数の金属、金属合金、又はその他の材料(例えば、プラスチック)で形成できる。装置100に使用される材料は、スラリを形成するために使用される溶媒に応じて決定することができる。スラリの主要溶媒として水を使用した場合、装置100は水及びその他の分散剤による腐食に対して耐性のある材料、例えば316ステンレス鋼で形成できる。
【0036】
1つ又は複数の実施形態において、装置100は第三のシリンダを含むことができる。第三のシリンダは、シリンダ104a、104b及び/又は管108のうちの1つに取り付けることができる。第三のシリンダは、スラリを基板にコーティングする前のスラリを収容するために使用でき、これについては後述する。1つの実施形態において、第三のシリンダの有効空間は、シリンダ104a又は104bのそれより大きくすることができ、それによって第三のシリンダは、混合の後、後でコーティングするためのスラリ102を収容でき、これについてはさらに後述する。
【0037】
図2A~2Dを参照すると、本開示の態様による、スラリ102を基板に塗布するために使用されるダイ200が示されている。
図2A及び2Bに示されるように、ダイ200は、2つのダイ部品202a、202bから形成される。ダイ部品202a、202bは、図のように対称又は同一とすることもできる。代替的に、ダイ部品202a、202bは非対称とすることができる。また、ダイ部品202a、202bは、各々が1つの部品であるように図示され、説明されているが、1つ又は複数の実施形態において、ダイ部品202a、202bは各々、複数の部品で形成することもできる。ダイ部品202a、202bは、スラリ102の薄い平坦な層を基板の両面に同時に塗布するように構成され、これについては後でさらに説明する。ダイ200は、ダイ200をシリンダ104a、104bに、又は管108に(又は第三のシリンダがある場合はそこに)接続するように構成される接合部204(
図2A)を含む。接合部204は、2つのスラリ入口ポート206a、206b、すなわち各ダイ部品202a、202bにそれぞれ1つの入口ポート206a、206bを含む。入口ポート206a、206bは、装置100から押し出される、ダイ200がどこに取り付けられるかに応じてシリンダ104a、104bからの、又は管108からのスラリ102を受け入れるように構成される。
【0038】
図2Bを参照すると、各ダイ部品202a、202bは、スラリ出口ポート208a、208bをさらに含む。出口ポート208a、208bは、基板が出口ポート208a、208bを通過する際、スラリ102を基板上に均一に塗布するように構成される。出口ポート208a、208bは、基板とほぼ同じ幅であるが、基板より幅を広く、又は狭くすることもできる。
【0039】
通路210a、210bは、出口ポート208a、208bを入口ポート206a、206bに接続する。入口ポート206a、206bは、スラリ102を2つの別々のストリームに分割するように構成される。その後、通路210a、210bは、スラリ102を出口ポート208a、208bへと、基板へのスラリの後の分散のために均一に分散させるように構成される。
【0040】
図2C及び2Dを参照すると、ダイ部品202a、202bは一体に連結されてダイ200を形成し、ダイ200を通るスリット212を画定する。後でさらに説明するように、スリット212によって基板はダイ200を通過できる。基板がダイ200を通過する際、出口ポート208a、208bから押し出されるスラリ102がスリット212を通る基板の両面に同時に塗布される。
【0041】
図3Aを参照すると、本開示の態様による、スラリ102を基板300にコーティングするように構成された装置の断面図が示されている。装置100は、管108をシリンダ104aから切り離すことによって変更されている。管108の代わりに、ダイ200が接合部204を介してシリンダ104aに接続されている。しかしながら、1つ又は複数の実施形態において、ダイ200はその代わりに、管108又はシリンダ104b(又は第三のシリンダ)に接続することもできる。例えば、管108は、ダイ200の接合部204につながる接合部を有していてもよい。装置100を
図1の混合、混錬構成から
図3Aの塗布構成に再構成できることによって、コーティングが簡単にその場で直接行われるようにすることができ、スラリ102を1つの装置(すなわち、装置100)から別の装置に輸送しなくてよい。
【0042】
ダイ200を接続する前に、できるだけ多くのスラリ102をシリンダ104aの中に回収することができる。シリンダ104a内のスラリ102はその後、ピストン106aの作動を介してシリンダ104aから押し出される。押し出されたスラリ102は、ダイ200の中へと通過し、出口ポート208a、208bから基板300の両側に同時に塗布される。基板300は、電極を形成する際に使用される基板等、何れの基板とすることもできる。例えば、基板は発泡材、メッシュ、又は何れの種類の多孔性、半多孔性、又は無孔性材料とすることもできる。
【0043】
図3Bは、入口ポート206a、206bに入り、通路210a、210bへと案内され、出口ポート208a、208bを通ってダイ200から出て、その後、基板300へと通るスラリ102を示している。スラリ102が出口ポート208a、208bから出る圧力によって、スラリ102は基板300の中、例えば基板300の小孔の中へと押し流される。
【0044】
1つ又は複数の実施形態において、スラリ102を基板300に塗布することにより、基板300はスリット212を通ってダイ200の中に進められることにもなる。換言すれば、スラリ102を基板300に塗布することにより、基板300は所望の方向、例えば
図3Bの向きの下方に移動させることができる。代替的に、又はそれに加えて、基板300は、巻取り装置(図示せず)等の他の駆動力を使ってダイ200を通じて駆動できる。
【0045】
図3Cは、基板300上に塗布されたスラリ102を示す。具体的には、スラリ102は基板300の両面上に薄膜302a、302bを形成する。薄膜は、厚さ約8μm~約25μm(マイクロメートル)とすることができる。開示されているプロセスにより薄膜302a、302bを塗布することによって、基板300の両面上に均一な厚さが得られる。さらに、厚さは、ダイ200内を通り、スリット212を通過する基板300の速度と共に、シリンダ104aからスラリ102が押し出されている間のピストン106aの速度により制御できる。
【0046】
1つ又は複数の実施形態において、スラリ102の混合後、スラリ102を基板300にコーティングする前に、スラリ102を、シリンダ104a、104bの一方又は両方(又は第三のシリンダ)内の真空にさらすことができる。真空は、コーティングの前にスラリ102内のガスを除去するのを支援する。スラリ102内のガスは、基板300上でのスラリ102の最終的な薄膜302a、302bの表面の均一性と接着性に影響を与えることができる。それゆえ、ガスを除去することにより、スラリ102の均一性と接着性が改善される。
【0047】
図4は、本開示の態様による、基板をコーティングするプロセス400のフローチャートである。プロセス400は、前述の装置100を使って行われる。プロセス400はステップ402で、スラリが装置100の中にある状態から始まる。装置100は、前述のように、シリンダ104a、104b及び管108により画定される少なくとも1つの通路を備える閉鎖空間を有する。スラリは、本明細書に記載の何れのスラリとすることもでき、溶媒、粉体、バインダ、及び分散剤を含むことができる。1つ又は複数の実施形態において、スラリは分散剤を含まないようにすることができる。先に開示したように、スラリ中のバインダは、バインダと粉体の総重量に関して10wt%を超えることはできない。スラリ中の水性溶媒対粉体の比は重量で約4.5~8:1とすることができる。スラリ中の分散剤の量は、0.01wt%と低くすることができる。しかしながら、スラリ中に分散剤が含まれる場合、その量は一般に、約1~2wt%である。一例として、スラリは溶媒としての水、粉体としてのカーボンブラック、バインダとしてのポリテトラフルオロエチレンエマルジョン、及び分散剤としてのアルコールで形成できるが、先に開示された何れの成分を使用することもできる。重要な点として、スラリは、毒性分散剤を使用せずにスラリを分散させることのできる装置100の能力に基づいて、n-メチル-2-ピロリドン又はその他の毒性分散剤を必要としない。
【0048】
ステップ404で、スラリは少なくとも1つの通路を通って第一の流動方向に、その後再び、少なくとも1つの通路を通って、第一の流動方向と反対の第二の流動方向に高圧で繰り返し強制的に移動されて、粉体とバインダが溶媒中で均一に分散する。先に開示したように、2つのシリンダの各々はピストンを含み、2つのピストンの往復動作により、スラリは第一の流動方向と第二の流動方向に強制的に流される。シリンダは、2つのピストンのストローク方向に、少なくとも1つの通路の断面積がシリンダの断面積より小さくなるように構成される。これによって、管を通過するときのスラリに高いせん断力が付与され、それがスラリを混合させる。例えば、各通路の内径は、約1/16インチ~1/2インチとすることができ、シリンダの内径は、それよりはるかに大きく、例えば約3インチ以上とすることができる。1つ又は複数の実施形態において、内径は、シリンダ内のピストンの速度に応じて3インチより小さくすることができる。
【0049】
ステップ406で、基板の両面が、閉鎖空間から押し出されるスラリにより同時にコーティングされる。コーティングは、前述のように、所望の厚さのスラリの薄膜とすることができる。1つ又は複数の実施形態において、ステップ406の前で、ステップ404の後に装置100の中で真空をスラリにかけて、それ以前のプロセスステップ中にスラリ中に発生していたかもしれないガスを除去することができる。
【0050】
スラリの形成に使用された溶媒と分散剤によって、従来のプロセスとは異なる、基板上のスラリの硬化プロセスを使用できる。具体的には、前述のアルコール等の少量の揮発性有機溶剤が、水が大半を占める溶液中に炭素粉体等の疎水性物質を分散させるために使用されるため、溶媒及び分散剤を除去し、コーティングを乾燥させるために凍結乾燥ステップを使用することが可能である。凍結乾燥プロセスにより、従来の電極製造プロセスで見られる問題の可能性が低下する。これらの問題としては、乾燥中の気孔構造の制御不能な変形や薄膜の形態及び気孔の劣化が含まれる。
【0051】
図5は、本開示の態様による最終製品としてのコーティング基板を硬化させるプロセス500のフローチャートである。プロセス500は、ステップ502で始まり、基板の両面がスラリでコーティングされる。基板は、前述のプロセス400に従ってコーティングでき、スラリは、本開示の態様に基づく何れのスラリとすることもできる。
【0052】
ステップ504で、基板上にコーティングされた溶媒及び分散剤が凍結される。凍結は、溶媒及び分散剤の温度をそれらの凝固点より低く下げる何れのプロセスによって行うこともできる。しかしながら、1つ又は複数の実施形態において、使用される分散剤の量は溶媒の量に関して無視できる程度であるとき、例えば本発明の1wt%のイソプロピルアコールの場合等、分散剤を凍結させる必要はない。
【0053】
ステップ506で、溶媒と分散剤を凍結させた後、コーティング基板内の溶媒及び分散剤が昇華されて、基板が凍結乾燥される。昇華は、溶媒と分散剤を昇華させる何れのプロセスによって行うこともできる。
【0054】
ステップ508で、溶媒及び分散剤を昇華させた後、基板は真空下で溶媒及び分散剤の凝固点より高温まで加熱される。加熱及び真空はさらに、基板中に残留する溶媒及び分散剤のすべてを除去するのを助ける。
【0055】
ステップ510で、加熱後、基板がカレンダ処理される。1つ又は複数の実施形態において、カレンダ処理は、基板を冷間カレンダ処理して、基板上のコーティングを安定化させることを含む。1つ又は複数の実施形態において、カレンダ処理はまた、冷間カレンダ処理の後に基板を熱間圧延することも含む。熱間圧延は、約100℃~約150℃として、基板上への薄膜の接着を改善することができる。接着を改善することに加えて、熱間圧延はまた、接着の改善を通じて導電性も高める。
【0056】
カレンダ処理中に薄膜内の多孔性がなくなる可能性があるものの、凍結乾燥後の薄膜の気孔構造の特性は、バッテリ電極製造において従来の方法により作られる何れのコーティングについても、気孔の均等性及び均一性の点で依然として優れている。それゆえ、このコーティング方法により、基板上には、これまでの従来の方法により実現される気孔より優れた気孔を有する均一なコーティングが生成される。コーティングは、従来の方式と比較して比較的欠陥がなく、ピンホール、ブリスタ、ディボット、バリ、ストライピング、異物混入、過剰に不均一なコーティング領域、又はコーティング表面上への塊の発生が非常に低い。
【0057】
このように、本開示の方法と装置は、スラリの形成における毒性材料、例えばバッテリ用電極の生成中に望ましくない蒸気を発生させる毒性溶媒の使用若しくは量を減らし、又は完全に排除する。毒性材料の削減又は排除によって、毒性材料の環境中への放出及び爆発等のその他の問題を防止するために必要な専用の設備が縮小又は排除される。本開示の方法及び装置は、従来のプロセスと比較して、電極製造に必要な作業空間もまた縮小する。
【0058】
本開示は開示された1つ又は複数の特定の実施形態に関しているが、当業者であれば、本発明の主旨と範囲から逸脱せずにこれらに多くの変更を加えてよいことがわかるであろう。これらの実施形態及びその自明な変形型の各々は、本発明の主旨と範囲に含まれると想定される。また、本発明の態様による追加の実施形態では、本明細書で開示された実施形態の何れかの特徴を幾つでも組み合わせてよいことも想定される。