(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】発光デバイス、発光装置、発光モジュール、電子機器、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/125 20230101AFI20240930BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240930BHJP
H10K 59/95 20230101ALI20240930BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240930BHJP
H10K 101/25 20230101ALN20240930BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20240930BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240930BHJP
【FI】
H10K50/125
H10K59/10
H10K59/95
H10K85/60
H10K101:25
H10K101:30
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2021523128
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 IB2020054668
(87)【国際公開番号】W WO2020240333
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2019102037
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】植田 藍莉
(72)【発明者】
【氏名】渡部 剛吉
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信晴
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 哲史
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186311(WO,A1)
【文献】特開2012-195573(JP,A)
【文献】特開2012-186461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/125
H10K 85/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を有する発光デバイスであり、
前記発光層は、発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、
前記発光デバイスの発光スペクトルの最大ピーク波長は、750nm以上900nm以下であり、
前記ホスト材料は、第1の有機化合物及び第2の有機化合物を有し、
前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する組み合わせであり、
前記第1の有機化合物のHOMO準位は、前記第2の有機化合物のHOMO準位よりも高く、
前記第1の有機化合物のHOMO準位は、前記発光性の有機化合物のHOMO準位よりも高く、
前記第1の有機化合物のHOMO準位と前記第2の有機化合物のLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であり、
前記励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、前記発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.20eV以上大きく、
可視光及び近赤外光の双方を発する機能を有する、発光デバイス。
【請求項2】
請求項
1において、
前記PLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、前記吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.30eV以上大きい、発光デバイス。
【請求項3】
発光層を有する発光デバイスであり、
前記発光層は、発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、
前記ホスト材料は、第1の有機化合物及び第2の有機化合物を有し、
前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する組み合わせであり、
前記第1の有機化合物のHOMO準位は、前記第2の有機化合物のHOMO準位よりも高く、
前記第1の有機化合物のHOMO準位は、前記発光性の有機化合物のHOMO準位よりも高く、
前記第1の有機化合物のHOMO準位と前記第2の有機化合物のLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であり、
前記発光デバイスの発光スペクトルは、750nm以上900nm以下に第1のピークを有し、
かつ、450nm以上650nm以下に第2のピークを有し、
前記第1のピークは、前記第2のピークよりも強度が高く、
前記第2のピークのエネルギーは、前記発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.35eV以上大きい、発光デバイス。
【請求項4】
請求項
3において、
前記第1のピークの強度は、前記第2のピークの強度の10倍以上10000倍以下である、発光デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項
4のいずれか一において、
前記発光層における前記発光性の有機化合物の濃度は、0.1wt%以上10wt%以下である、発光デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のいずれか一において、
前記発光スペクトルにおける最大ピークの短波長側の立ち上がり波長は、650nm以上である、発光デバイス。
【請求項7】
請求項1乃至請求項
6のいずれか一において、
前記発光性の有機化合物は、溶液におけるPLスペクトルの、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長が650nm以上である、発光デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至請求項
7のいずれか一において、
外部量子効率は、1%以上である、発光デバイス。
【請求項9】
請求項1乃至請求項
8のいずれか一において、
第1の放射輝度におけるCIE色度座標(x1、y1)と、第2の放射輝度におけるCIE色度座標(x2、y2)と、は、x1>x2、及び、y1>y2の一方または双方を満たし、
前記第1の放射輝度は、前記第2の放射輝度よりも低い、発光デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至請求項
9のいずれか一に記載の発光デバイスと、
トランジスタ及び基板の一方または双方と、を有する、発光装置。
【請求項11】
請求項
10に記載の発光装置と、
コネクタ及び集積回路の一方又は双方と、を有する、発光モジュール。
【請求項12】
請求項
11に記載の発光モジュールと、
アンテナ、バッテリ、筐体、カメラ、スピーカ、マイク、及び操作ボタンのうち少なくとも一つと、を有する、電子機器。
【請求項13】
請求項
10に記載の発光装置と、
筐体、カバー、及び支持台のうち少なくとも一つと、を有する、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、発光デバイス、発光装置、発光モジュール、電子機器、及び照明装置に関する。
【0002】
なお、本発明の一態様は、上記の技術分野に限定されない。本発明の一態様の技術分野としては、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、記憶装置、電子機器、照明装置、入力装置(例えば、タッチセンサなど)、入出力装置(例えば、タッチパネルなど)、それらの駆動方法、又はそれらの製造方法を一例として挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electro Luminescence)現象を利用した発光デバイス(有機ELデバイス、有機EL素子ともいう)の研究開発が盛んに行われている。有機ELデバイスの基本的な構成は、一対の電極間に発光性の有機化合物を含む層(以下、発光層とも記す)を挟んだものである。この有機ELデバイスに電圧を印加することにより、発光性の有機化合物からの発光を得ることができる。
【0004】
発光性の有機化合物としては、例えば、三重項励起状態を発光に変換できる化合物(燐光性化合物、燐光材料ともいう)が挙げられる。特許文献1では、燐光材料として、イリジウムなどを中心金属とする有機金属錯体が開示されている。
【0005】
また、個人認証、不良解析、医療診断、セキュリティ関連など、様々な用途でイメージセンサが用いられている。イメージセンサは、用途に応じて、用いる光源の波長が使い分けられている。イメージセンサでは、例えば、可視光、X線などの短波長の光、近赤外光などの長波長の光など、様々な波長の光が用いられている。
【0006】
発光デバイスは、表示装置に加え、上記のようなイメージセンサの光源としての応用も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様では、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスを提供することを課題の一つとする。本発明の一態様では、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスの発光効率を高めることを課題の一つとする。本発明の一態様では、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスの信頼性を高めることを課題の一つとする。
【0009】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。本発明の一態様は、必ずしも、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、発光層に発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、発光スペクトルの最大ピーク波長は、750nm以上900nm以下であり、発光スペクトルは、450nm以上650nm以下にさらにピークを有し、輝度A[cd/m2]と、放射輝度B[W/sr/m2]とは、A/B≧0.1[cd・sr/W]を満たす、発光デバイスである。
【0011】
ホスト材料のHOMO準位とLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eVであることが好ましい。ホスト材料の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位との差は、0.2eV以内であることが好ましい。ホスト材料は、熱活性化遅延蛍光を示すことが好ましい。
【0012】
ホスト材料は、第1の有機化合物及び第2の有機化合物を有することが好ましい。第1の有機化合物のHOMO準位は、第2の有機化合物のHOMO準位よりも高いことが好ましい。第1の有機化合物のHOMO準位と第2の有機化合物のLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eVであることが好ましい。第1の有機化合物と第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する物質であることが好ましい。励起錯体は、熱活性化遅延蛍光を示すことが好ましい。
【0013】
本発明の一態様は、発光層に発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、発光スペクトルの最大ピーク波長は、750nm以上900nm以下であり、ホスト材料のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.20eV以上大きく、可視光及び近赤外光の双方を発する機能を有する、発光デバイスである。PLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収端のエネルギーよりも、0.30eV以上大きいことが好ましい。
【0014】
本発明の一態様は、発光層に発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、発光スペクトルは、750nm以上900nm以下に第1のピークを有し、かつ、450nm以上650nm以下に第2のピークを有し、第1のピークは、第2のピークよりも強度が高く、第2のピークのエネルギーは、発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.35eV以上大きい、発光デバイスである。第1のピークの強度は、第2のピークの強度の10倍以上10000倍以下であることが好ましい。
【0015】
ホスト材料のHOMO準位とLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eVであることが好ましい。
【0016】
ホスト材料の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位との差は、0.2eV以内であることが好ましい。
【0017】
ホスト材料は、熱活性化遅延蛍光を示すことが好ましい。
【0018】
本発明の一態様は、発光層に発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、発光スペクトルの最大ピーク波長は、750nm以上900nm以下であり、ホスト材料は、第1の有機化合物及び第2の有機化合物を有し、第1の有機化合物と第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する物質であり、励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.20eV以上大きく、可視光及び近赤外光の双方を発する機能を有する、発光デバイスである。PLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.30eV以上大きいことが好ましい。
【0019】
本発明の一態様は、発光層に発光性の有機化合物及びホスト材料を有し、ホスト材料は、第1の有機化合物及び第2の有機化合物を有し、第1の有機化合物と第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する物質であり、発光スペクトルは、750nm以上900nm以下に第1のピークを有し、かつ、450nm以上650nm以下に第2のピークを有し、第1のピークは、第2のピークよりも強度が高く、第2のピークのエネルギーは、発光性の有機化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.35eV以上大きい、発光デバイスである。第1のピークの強度は、第2のピークの強度の10倍以上10000倍以下であることが好ましい。
【0020】
第1の有機化合物のHOMO準位は、第2の有機化合物のHOMO準位よりも高いことが好ましい。第1の有機化合物のHOMO準位と第2の有機化合物のLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eVであることが好ましい。
【0021】
発光層における発光性の有機化合物の濃度は、0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。
【0022】
発光スペクトルにおける最大ピークの短波長側の立ち上がり波長は、650nm以上であることが好ましい。
【0023】
発光性の有機化合物は、溶液におけるPLスペクトルの、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長が650nm以上であることが好ましい。
【0024】
発光デバイスの外部量子効率は、1%以上であることが好ましい。特に、発光性の有機化合物が発する光より算出した外部量子効率が、1%以上であることが好ましい。
【0025】
発光デバイスにおいて、第1の放射輝度が、第2の放射輝度よりも低いとき、第1の放射輝度におけるCIE色度座標(x1、y1)と、第2の放射輝度におけるCIE色度座標(x2、y2)と、は、x1>x2、及び、y1>y2の一方または双方を満たすことが好ましい。
【0026】
発光性の有機化合物は、金属-炭素結合を有する有機金属錯体であることが好ましい。
【0027】
有機金属錯体は、2環以上5環以下の縮合複素芳香環を有することが好ましい。縮合複素芳香環は、金属に配位していることが好ましい。
【0028】
発光性の有機化合物は、シクロメタル錯体であることが好ましい。発光性の有機化合物は、オルトメタル錯体であることが好ましい。発光性の有機化合物は、イリジウム錯体であることが好ましい。
【0029】
本発明の一態様は、上記いずれかの構成の発光デバイスと、トランジスタ及び基板の一方または双方と、を有する発光装置である。
【0030】
本発明の一態様は、上記の発光装置を有し、フレキシブルプリント回路基板(Flexible Printed Circuit、以下、FPCと記す)もしくはTCP(Tape Carrier Package)等のコネクタが取り付けられたモジュール、またはCOG(Chip On Glass)方式もしくはCOF(Chip On Film)方式等により集積回路(IC)が実装された発光モジュール等の発光モジュールである。なお、本発明の一態様の発光モジュールは、コネクタ及びICのうち一方のみを有していてもよく、双方を有していてもよい。
【0031】
本発明の一態様は、上記の発光モジュールと、アンテナ、バッテリ、筐体、カメラ、スピーカ、マイク、及び操作ボタンのうち少なくとも一つと、を有する電子機器である。
【0032】
本発明の一態様は、上記の発光装置と、筐体、カバー、及び支持台のうち少なくとも一つと、を有する、照明装置である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様により、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスを提供できる。本発明の一態様により、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスの発光効率を高めることができる。本発明の一態様により、近赤外光及び可視光の双方を発する発光デバイスの信頼性を高めることができる。
【0034】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1A~
図1Cは、発光デバイスの一例を示す図である。
図2Aは、発光装置の一例を示す上面図である。
図2B、
図2Cは、発光装置の一例を示す断面図である。
図3Aは、発光装置の一例を示す上面図である。
図3Bは、発光装置の一例を示す断面図である。
図4A~
図4Eは、電子機器の一例を示す図である。
図5は、実施例の発光デバイスを示す断面図である。
図6は、実施例1の発光デバイスの発光スペクトルを示す図である。
図7は、実施例1の発光デバイスの発光スペクトルを示す図である。
図8は、実施例1の発光デバイス及び混合膜の発光スペクトルを示す図である。
図9は、実施例1の発光デバイス及び混合膜の発光スペクトルを示す図である。
図10は、実施例1の発光デバイス及び混合膜の発光スペクトルを示す図である。
図11は、実施例1の発光デバイス及び混合膜の発光スペクトルを示す図である。
図12は、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]の吸収スペクトルを示す図である。
図13は、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]の発光スペクトルを示す図である。
図14は、実施例1の発光デバイスの放射輝度に応じた分光放射輝度の変化を示す図である。
図15は、実施例1の発光デバイスの放射輝度とCIE色度座標(x、y)との関係を示す図である。
図16は、実施例1の発光デバイスの信頼性試験の結果を示す図である。
図17は、実施例2の発光デバイス及び混合膜の発光スペクトルを示す図である。
図18は、実施例2の発光デバイスの発光スペクトルを示す図である。
図19は、実施例2に係る、ゲスト材料の濃度と、発光デバイスの輝度/放射輝度と、の関係を示す図である。
図20は、実施例2に係る、ゲスト材料の濃度と、発光デバイスの外部量子効率と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0037】
なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0038】
また、図面において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0039】
なお、「膜」という言葉と、「層」という言葉とは、場合によっては、又は、状況に応じて、互いに入れ替えることが可能である。例えば、「導電層」という用語を、「導電膜」という用語に変更することが可能である。または、例えば、「絶縁膜」という用語を、「絶縁層」という用語に変更することが可能である。
【0040】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光デバイスについて
図1を用いて説明する。
【0041】
本発明の一態様の発光デバイスは、発光層に発光性の有機化合物(ゲスト材料ともいえる)及びホスト材料を有する。
【0042】
本発明の一態様の発光デバイスは、近赤外光及び可視光の双方を発する機能を有する。
【0043】
具体的には、本発明の一態様の発光デバイスは、ゲスト材料に由来する近赤外光と、ホスト材料に由来する可視光を発する機能を有する。そのため、可視光を発する発光性の有機化合物を添加しなくても、近赤外光と可視光の双方を発する機能を有する発光デバイスを実現することができる。
【0044】
本発明の一態様の発光デバイスにおいて、発光スペクトル(エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトル)の最大ピーク波長(ピーク強度が最も高い波長)は、750nm以上900nm以下であり、780nm以上であることが好ましく、また、880nm以下であることが好ましい。
【0045】
当該発光スペクトルは、さらに、可視光領域にピークを有する。可視光領域のピーク波長は、450nm以上650nm以下が好ましい。
【0046】
近赤外光を用いたセンシング等で可視光がノイズとなる場合、可視光の発光強度を高めて可視光の発光を視認しやすくしようとすると、当該センシングの精度が極めて低下する恐れがある。そこで、可視光の発光強度が比較的低くても、可視光の発光を視認しやすくするために、可視光として、視感度の高い波長の光を用いることが好ましい。発光デバイスが発する可視光が視感度の高い波長であると、当該可視光の発光強度が近赤外光の発光強度に比べて低くても、可視光の発光が視認されやすくなる。
【0047】
具体的には、可視光領域のピーク波長は、450nm以上550nm以下がより好ましい。これにより、可視光の視感度を高めることができる。
【0048】
本発明の一態様の発光デバイスにおいて、輝度A[cd/m2]と、放射輝度B[W/sr/m2]とは、A/B≧0.1[cd・sr/W]を満たすことが好ましく、A/B>1[cd・sr/W]を満たすことがより好ましい。
【0049】
輝度と放射輝度が上述の式を満たすことで、可視光の発光が視認されやすく、かつ、近赤外光を効率よく発する発光デバイスを実現することができる。
【0050】
本発明の一態様の発光デバイスは、近赤外光を効率よく発することができる。このような発光デバイスを用いて、近赤外光を用いた認証、解析、診断等を行う電子機器を実現することができる。本発明の一態様の発光デバイスは、さらに、可視光を発することができる。したがって、電子機器において近赤外光を用いた認証、解析、診断等を行っている間、使用者が可視光を視認することができる。可視光の発光強度は近赤外光の発光強度よりも十分に弱いため、発光デバイスが発する可視光が、近赤外光を用いた認証、解析、診断等におけるノイズとなることを抑制できる。これにより、認証、解析、診断等の精度を高めることができる。
【0051】
ホスト材料のHOMO準位とLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eV以下であることがより好ましい。これにより、ホスト材料が発する可視光の視感度を高めることができる。
【0052】
なお、材料のLUMO準位及びHOMO準位は、サイクリックボルタンメトリ(CV)測定によって測定される材料の電気化学特性(還元電位及び酸化電位)から導出することができる。
【0053】
ここで、ゲスト材料が燐光を発する物質(燐光材料)の場合、最も発光に強く寄与すると考えられている吸収帯は、一重項基底状態から三重項励起状態への直接遷移に相当する吸収波長とその近傍であり、それは最も長波長側(低エネルギー側)に現れる吸収帯である。このことから、ホスト材料の発光スペクトル(蛍光スペクトル及び燐光スペクトル)が、燐光材料の吸収スペクトルの最も長波長側(低エネルギー側)の吸収帯と大きく重なることが好ましいとされる。これにより、ホスト材料からゲスト材料への励起エネルギーの移動が円滑に行われる。そして、ホスト材料の励起エネルギーがゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで、ゲスト材料が効率よく発光する。
【0054】
したがって、ゲスト材料が近赤外光を効率よく発するためには、ホスト材料の発光が長波長であることが好ましい。しかし、本発明の一態様の発光デバイスからは、ゲスト材料だけでなく、ホスト材料からの発光も取り出す。このとき、ホスト材料の発光波長が長すぎると、バンドギャップが狭くなり、ホスト材料の発光量子収率が低下してしまう。また、ホスト材料の発光波長が、視感度の高い波長域よりもさらに長いと、ホスト材料の発光の視感度が低下してしまう。
【0055】
そのため、ホスト材料の発光スペクトル(フォトルミネッセンス(PL)スペクトル)の最大ピークは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側(長波長側)に位置する吸収帯のピークよりも高エネルギー側(短波長側)で、当該吸収スペクトル(または当該吸収帯)と重なることが好ましい。これにより、ホスト材料が発する光の視感度を高めることができ、かつ、ホスト材料の発光量子収率の低下を抑制できる。したがって、発光デバイスから近赤外光及び可視光の双方を取り出すことができる。
【0056】
ホスト材料のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収端のエネルギーよりも大きいことが好ましい。また、ホスト材料のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0057】
ホスト材料のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも、0.20eV以上大きいことが好ましく、0.30eV以上大きいことがより好ましく、0.40eV以上大きいことがさらに好ましい。
【0058】
ホスト材料のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収端のエネルギーよりも0.30eV以上大きいことが好ましく、0.40eV以上大きいことがより好ましく、0.50eV以上大きいことがさらに好ましい。
【0059】
また、本発明の一態様の発光デバイスの発光スペクトルが、750nm以上900nm以下に第1のピーク(最大ピーク)を有し、かつ、450nm以上650nm以下に第2のピークを有するとき、第2のピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも0.35eV以上大きいことが好ましく、0.45eV以上大きいことがより好ましい。
【0060】
ここで、ゲスト材料に燐光材料を用いる場合、ゲスト材料のT1準位(最も低い三重項励起状態のエネルギー準位)よりも、ホスト材料のT1準位の方が高いと、発光デバイスの発光効率を高めることができる。一方で、ホスト材料は、一重項励起エネルギーを発光に変換することができる。可視光の発光を視認されやすくするためには、可視光の発光効率が高いことが好ましい。ホスト材料が、視感度及び発光効率の高い可視光を発することで、多くの励起エネルギーを、ホスト材料からゲスト材料に移動させることができ、可視光の発光が視認されやすく、かつ、近赤外光を効率よく発する発光デバイスを実現できる。そのためには、ホスト材料として、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)材料を用いることが好ましい。TADF材料は、は、S1準位(最も低い一重項励起状態のエネルギー準位)とT1準位の差が小さいため、ホスト材料に用いることで、ホスト材料の発光効率を高めることができる。例えば、ホスト材料の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位との差は、0.2eV以内であることが好ましい。
【0061】
または、励起錯体を形成させるべく、ホスト材料として、第1の有機化合物と第2の有機化合物を用いてもよい。第1の有機化合物と第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する組み合わせである。この場合、ホスト材料は、第1の有機化合物と第2の有機化合物の混合材料ということもできる。ホスト材料に第1の有機化合物と第2の有機化合物を用いることで、発光デバイスでは、一対の電極間に電圧を印加した際に、励起錯体が形成される。
【0062】
2種類の物質で励起状態を形成する励起錯体は、S1準位とT1準位との差が極めて小さく、三重項励起エネルギーを一重項励起エネルギーに変換することが可能なTADF材料としての機能を有する。
【0063】
ホスト材料が、第1の有機化合物と第2の有機化合物を有する場合、本発明の一態様の発光デバイスからは、第1の有機化合物と第2の有機化合物により形成された励起錯体に由来する発光が確認される。したがって、励起錯体の発光を視認されやすくするためには、励起錯体の発光が、視感度の高い光であることが好ましい。
【0064】
ここで、エネルギー準位の高さが、第2の有機化合物のHOMO準位<第1の有機化合物のHOMO準位<第2の有機化合物のLUMO準位<第1の有機化合物のLUMO準位となる場合を考える。このとき、2つの有機化合物により形成される励起錯体において、LUMO準位は、第2の有機化合物に由来し、HOMO準位は、第1の有機化合物に由来する。
【0065】
したがって、第1の有機化合物のHOMO準位と第2の有機化合物のLUMO準位との差は、1.90eV以上2.75eV以下であることが好ましく、2.25eV以上2.75eV以下であることがより好ましい。これにより、励起錯体が発する可視光の視感度を高めることができる。
【0066】
励起錯体の発光ピークは、第1の有機化合物の発光ピーク、第2の有機化合物の発光ピークに比べて、低エネルギー側(長波長側)にある。したがって、励起錯体のPLスペクトルは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯と重ねることが比較的容易である。したがって、ゲスト材料由来の近赤外光を効率よく発光することができる。一方で、本発明の一態様の発光デバイスは、ゲスト材料だけでなく、励起錯体からの発光も取り出す。
【0067】
そのため、励起錯体のPLスペクトルの最大ピークは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側(長波長側)に位置する吸収帯のピークよりも高エネルギー側(短波長側)で、当該吸収スペクトル(または当該吸収帯)と重なることが好ましい。これにより、発光デバイスから近赤外光及び可視光の双方を取り出すことができる。
【0068】
励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収端のエネルギーよりも大きいことが好ましい。また、励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0069】
励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収帯のピークのエネルギーよりも、0.20eV以上大きいことが好ましく、0.30eV以上大きいことがより好ましく、0.40eV以上大きいことがさらに好ましい。
【0070】
励起錯体のPLスペクトルの最大ピークのエネルギーは、ゲスト材料の吸収スペクトルの最も低エネルギー側に位置する吸収端のエネルギーよりも0.30eV以上大きいことが好ましく、0.40eV以上大きいことがより好ましく、0.50eV以上大きいことがさらに好ましい。
【0071】
本発明の一態様の発光デバイスにおいて、近赤外光の発光ピーク強度は、可視光の発光ピーク強度の10倍以上10000倍以下であることが好ましい。本発明の一態様の発光デバイスは、視感度の高い波長の可視光を発するため、近赤外光の発光強度に比べて、可視光の発光強度が低くても、可視光を十分に視認することができる。
【0072】
発光層におけるゲスト材料の濃度は、0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。ゲスト材料の濃度が低いほど、発光デバイスの輝度/放射輝度(輝度の値を放射輝度の値で割った値)を大きくすることができる。つまり、ゲスト材料の濃度が低いほど、近赤外光の発光強度に対して可視光の発光強度を高くすることができる。
【0073】
また、ゲスト材料は、可視光領域の発光強度が低いことが好ましい。そこで、本発明の一態様の発光デバイスは、発光スペクトルにおける最大ピークの短波長側の立ち上がり波長は、650nm以上であることが好ましい。
【0074】
本明細書等における、立ち上がり波長の求め方を説明する。まず、リニアスケールの発光スペクトルの短波長側の点から順に、スペクトルの極大点のうち、最も短波長側の極大点まで、曲線上の各点における接線を引く。この接線は、曲線が立ち上がる(縦軸の値が大きくなる)につれ、傾きが大きくなる。最も短波長側でこの傾きが極大値をとる点において引いた接線が原点と交差する波長を、立ち上がり波長とする。なお、縦軸の値が、最大ピークの10%以下である極大点は、上述の最も短波長側の極大点から除く。
【0075】
また、ゲスト材料は、溶液におけるPLスペクトルの、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長が650nm以上であることが好ましい。
【0076】
本発明の一態様の発光デバイスの外部量子効率は、1%以上であることが好ましい。
【0077】
特に、発光デバイスにおける、ゲスト材料由来の発光より算出した外部量子効率、または、発光デバイスにおける、近赤外発光より算出した外部量子効率が、1%以上であることが好ましい。
【0078】
ゲスト材料由来の発光もしくは近赤外発光から外部量子効率を算出するために、例えば、所定の波長域のデータを用いて、外部量子効率を算出してもよい。具体的には、波長600nm以上1030nm以下の範囲のデータから、外部量子効率を算出してもよい。
【0079】
なお、本発明の一態様の発光デバイスにおいて、ホスト材料または励起錯体の発光強度は、ゲスト材料の発光強度に比べて十分に低いため、当該外部量子効率は、発光デバイスにおける、ゲスト材料由来の発光より算出した外部量子効率、または、発光デバイスにおける、近赤外発光より算出した外部量子効率とみなすことができる。
【0080】
また、発光スペクトルの波形分離を実施し、ゲスト材料由来の発光と、ホスト材料由来または励起錯体由来の発光と、を区別してから、外部量子効率を求めてもよい。このとき、本発明の一態様の発光デバイスにおける、ゲスト材料由来の発光より算出した外部量子効率が、1%以上であることが好ましい。または、本発明の一態様の発光デバイスにおける、近赤外発光より算出した外部量子効率が、1%以上であることが好ましい。
【0081】
また、本発明の一態様の発光デバイスは、放射輝度の高さに応じて、ホスト材料由来の発光と励起錯体由来の発光の強度比が変化することで、可視光の発光色が変化することがある。これにより、可視光の発光色によって、発光デバイスにおける近赤外光の発光強度の見当をつけることができる。
【0082】
具体的には、第1の放射輝度が第2の放射輝度よりも低い場合、第1の放射輝度におけるCIE色度座標(x1、y1)と、第2の放射輝度におけるCIE色度座標(x2、y2)と、は、x1>x2、及び、y1>y2の一方または双方を満たすことが好ましい。
【0083】
発光性の有機化合物は、燐光を発すると、発光デバイスにおける発光効率を高めることができるため、好ましい。特に、発光性の有機化合物は、金属-炭素結合を有する有機金属錯体であることが好ましい。その中でも、発光性の有機化合物は、シクロメタル錯体であることがより好ましい。さらに、発光性の有機化合物は、オルトメタル錯体であることが好ましい。これらの有機化合物は、燐光を放出しやすいため、発光デバイスにおける発光効率を高めることができる。したがって、本発明の一態様の発光デバイスは、燐光を発することが好ましい。
【0084】
さらに、金属-炭素結合を有する有機金属錯体は、ポルフィリン系の化合物などに比べて、発光効率が高く、化学的安定性が高いため、発光性の有機化合物として好適である。
【0085】
また、発光層に、ゲスト材料として発光性の有機化合物を用い、ホスト材料として他の有機化合物を用いる場合、発光性の有機化合物の吸収スペクトルに大きな谷が生じる(強度の低い部分が生じる)と、ホスト材料の励起エネルギーの値によっては、ホスト材料からゲスト材料への励起エネルギーの移動が円滑に行われず、エネルギー移動効率が低下してしまう。ここで、金属-炭素結合を有する有機金属錯体の吸収スペクトルでは、三重項MLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)遷移に由来する吸収帯、一重項MLCT遷移に由来する吸収帯、及び三重項π-π*遷移に由来する吸収帯など、数多くの吸収帯が重なるため、当該吸収スペクトルに大きな谷が生じにくい。したがって、ホスト材料として用いることができる材料の励起エネルギーの値の幅を広くすることができ、ホスト材料の選択の幅を広げることができる。
【0086】
また、発光性の有機化合物は、イリジウム錯体であることが好ましい。例えば、発光性の有機化合物は、中心金属にイリジウムを用いた、シクロメタル錯体であることが好ましい。イリジウム錯体は白金錯体などに比べて化学的安定性が高いため、発光性の有機化合物としてイリジウム錯体を用いることで、発光デバイスの信頼性を高めることができる。このような安定性の観点で、イリジウムのシクロメタル錯体が好ましく、イリジウムのオルトメタル錯体がより好ましい。
【0087】
なお、近赤外発光を得る観点から、上記有機金属錯体における配位子は、2環以上5環以下の縮合複素芳香環が金属に配位した構造を有することが好ましい。縮合複素芳香環は3環以上が好ましい。また、縮合複素芳香環は、4環以下が好ましい。縮合複素芳香環が有する環が多いほど、LUMO準位を下げることができ、有機金属錯体の発光波長を長波長化させることができる。また、縮合複素芳香環が少ないほど、昇華性を高めることができる。そのため、2環以上5環以下の縮合複素芳香環を採用することで、配位子のLUMO準位が適切に低下し、高い昇華性を維持しつつ、(三重項)MLCT遷移に由来する有機金属錯体の発光波長を近赤外まで長波長化させることができる。また、縮合複素芳香環が有する窒素原子(N)の数が多いほど、LUMO準位を下げることができる。したがって、縮合複素芳香環が有する窒素原子(N)の数は、2つ以上が好ましく、2つが特に好ましい。
【0088】
本発明の一態様の発光デバイスは、膜状に形成することができ、大面積化が容易であるため、近赤外光を発する面光源として用いることができる。
【0089】
[発光デバイスの構成例]
≪発光デバイスの基本的な構造≫
図1A~
図1Cに、一対の電極間にEL層を有する発光デバイスの一例を示す。
【0090】
図1Aに示す発光デバイスは、第1の電極101と第2の電極102との間にEL層103が挟まれた構造(シングル構造)を有する。EL層103は、少なくとも発光層を有する。
【0091】
発光デバイスは、一対の電極間に複数のEL層を有していてもよい。
図1Bに、一対の電極間に2層のEL層(EL層103a及びEL層103b)を有し、2層のEL層の間に電荷発生層104を有する、タンデム構造の発光デバイスを示す。タンデム構造の発光デバイスは、低電圧駆動が可能で消費電力を低くすることができる。
【0092】
電荷発生層104は、第1の電極101と第2の電極102に電圧を印加したときに、EL層103a及びEL層103bのうち、一方に電子を注入し、他方に正孔(ホール)を注入する機能を有する。従って、
図1Bにおいて、第1の電極101に第2の電極102よりも電位が高くなるように電圧を印加すると、電荷発生層104からEL層103aに電子が注入され、EL層103bに正孔が注入される。
【0093】
なお、電荷発生層104は、光の取り出し効率の点から、可視光及び近赤外光を透過する(具体的には、電荷発生層104の可視光の透過率及び近赤外光の透過率が、それぞれ40%以上である)ことが好ましい。また、電荷発生層104は、第1の電極101や第2の電極102よりも低い導電率であっても機能する。
【0094】
図1Cには、EL層103の積層構造の一例を示す。本実施の形態では、第1の電極101が陽極として機能し、第2の電極102が陰極として機能する場合を例に挙げて説明する。EL層103は、第1の電極101上に、正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、電子注入層115が順次積層された構造を有する。正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、及び電子注入層115は、それぞれ、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。なお、
図1Bに示すタンデム構造のように複数のEL層を有する場合であっても、各EL層に、
図1Cに示すEL層103と同様の積層構造を適用することができる。また、第1の電極101が陰極で、第2の電極102が陽極の場合、積層順は逆になる。
【0095】
発光層113は、発光物質や複数の物質を適宜組み合わせて有しており、所望の波長の蛍光発光や燐光発光が得られる構成とすることができる。
図1Bに示すEL層103a及びEL層103bは、互いに異なる波長を発する構成であってもよい。
【0096】
本発明の一態様の発光デバイスにおいて、EL層で得られた発光を一対の電極間で共振させることにより、得られる発光を強める構成としてもよい。例えば、
図1Cにおいて、第1の電極101を反射電極(可視光及び近赤外光に対して反射性を有する電極)とし、第2の電極102を半透過・半反射電極(可視光及び近赤外光に対して透過性及び反射性を有する電極)とすることにより、微小光共振器(マイクロキャビティ)構造を形成することで、EL層103から得られる発光を強めることができる。
【0097】
なお、発光デバイスの第1の電極101が、近赤外光に対して反射性を有する導電膜と近赤外光に対して透光性を有する導電膜との積層構造からなる反射電極である場合、当該透光性を有する導電膜の膜厚を制御することにより光学調整を行うことができる。具体的には、発光層113から得られる光の波長λに対して、第1の電極101と、第2の電極102との電極間距離がmλ/2(ただし、mは自然数)近傍となるように調整するのが好ましい。
【0098】
また、発光層113から得られる所望の光(波長:λ)を増幅させるために、第1の電極101から発光層113の所望の光が得られる領域(発光領域)までの光学距離と、第2の電極102から発光層113の所望の光が得られる領域(発光領域)までの光学距離と、をそれぞれ(2m’+1)λ/4(ただし、m’は自然数)近傍となるように調節するのが好ましい。なお、ここでいう発光領域とは、発光層113における正孔と電子との再結合領域を示す。
【0099】
このような光学調整を行うことにより、発光層113から得られる光のスペクトルを狭線化させ、所望の波長の発光を得ることができる。
【0100】
但し、上記の場合、第1の電極101と第2の電極102との光学距離は、厳密には第1の電極101における反射領域から第2の電極102における反射領域までの総厚ということができる。しかし、第1の電極101や第2の電極102における反射領域を厳密に決定することは困難であるため、第1の電極101と第2の電極102の任意の位置を反射領域と仮定することで充分に上述の効果を得ることができるものとする。また、第1の電極101と、所望の光が得られる発光層との光学距離は、厳密には第1の電極101における反射領域と、所望の光が得られる発光層における発光領域との光学距離であるということができる。しかし、第1の電極101における反射領域や、所望の光が得られる発光層における発光領域を厳密に決定することは困難であるため、第1の電極101の任意の位置を反射領域、所望の光が得られる発光層の任意の位置を発光領域と仮定することで充分に上述の効果を得ることができるものとする。
【0101】
第1の電極101と第2の電極102の少なくとも一方は、可視光及び近赤外光に対して透光性を有する電極とする。可視光及び近赤外光に対して透光性を有する電極の可視光の透過率及び近赤外光の透過率は、それぞれ40%以上とする。なお、可視光及び近赤外光に対して透光性を有する電極が、上記半透過・半反射電極の場合、当該電極の可視光の反射率及び近赤外光の反射率は、20%以上、好ましくは40%以上であり、また、100%未満、好ましくは95%以下であり、80%以下または70%以下であってもよい。例えば、当該電極の近赤外光の反射率は、それぞれ20%以上80%以下、好ましくは40%以上70%以下とする。また、当該電極の抵抗率は、1×10-2Ωcm以下が好ましい。
【0102】
第1の電極101または第2の電極102が、反射電極である場合、反射電極の可視光の反射率及び近赤外光の反射率は、それぞれ40%以上100%以下、好ましくは70%以上100%以下とする。また、この電極の抵抗率は、1×10-2Ωcm以下が好ましい。
【0103】
≪発光デバイスの具体的な構造及び作製方法≫
次に、発光デバイスの具体的な構造及び作製方法について説明する。ここでは、
図1Cに示すシングル構造を有する発光デバイスを用いて説明する。
【0104】
<第1の電極及び第2の電極>
第1の電極101及び第2の電極102を形成する材料としては、上述した両電極の機能が満たせるのであれば、以下に示す材料を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを適宜用いることができる。具体的には、In-Sn酸化物(ITOともいう)、In-Si-Sn酸化物(ITSOともいう)、In-Zn酸化物、In-W-Zn酸化物が挙げられる。その他、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)などの金属、及びこれらを適宜組み合わせて含む合金を用いることもできる。その他、上記例示のない元素周期表の第1族または第2族に属する元素(例えば、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr))、ユウロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)などの希土類金属及びこれらを適宜組み合わせて含む合金、グラフェン等を用いることができる。
【0105】
なお、マイクロキャビティ構造を有する発光デバイスを作製する場合は、第1の電極101を反射電極として形成し、第2の電極102を半透過・半反射電極として形成する。したがって、所望の導電性材料を単数または複数用い、単層または積層して形成することができる。なお、第2の電極102は、EL層103を形成した後、上記と同様に材料を選択して形成する。また、これらの電極の作製には、スパッタリング法や真空蒸着法を用いることができる。
【0106】
図1Cに示す発光デバイスにおいて、第1の電極101が陽極である場合、第1の電極101上に正孔注入層111及び正孔輸送層112が真空蒸着法により順次積層形成される。
【0107】
<正孔注入層及び正孔輸送層>
正孔注入層111は、陽極である第1の電極101からEL層103に正孔を注入する層であり、正孔注入性の高い材料を含む層である。
【0108】
正孔注入性の高い材料としては、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の遷移金属酸化物、フタロシアニン(略称:H2Pc)や銅フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物等を用いることができる。
【0109】
正孔注入性の高い材料としては、4,4’,4’’-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0110】
正孔注入性の高い材料としては、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4-ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N-(4-{N’-[4-(4-ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル-N’-フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly-TPD)等を用いることができる。または、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(略称:PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物等を用いることもできる。
【0111】
正孔注入性の高い材料としては、正孔輸送性材料とアクセプター性材料(電子受容性材料)とを含む複合材料を用いることもできる。この場合、アクセプター性材料により正孔輸送性材料から電子が引き抜かれて正孔注入層111で正孔が発生し、正孔輸送層112を介して発光層113に正孔が注入される。なお、正孔注入層111は、正孔輸送性材料とアクセプター性材料とを含む複合材料からなる単層で形成してもよく、正孔輸送性材料とアクセプター性材料とをそれぞれ別の層で積層して形成してもよい。
【0112】
正孔輸送層112は、正孔注入層111によって、第1の電極101から注入された正孔を発光層113に輸送する層である。正孔輸送層112は、正孔輸送性材料を含む層である。正孔輸送層112に用いる正孔輸送性材料は、特に正孔注入層111のHOMO準位と同じまたは近いHOMO準位を有するものを用いることが好ましい。
【0113】
正孔注入層111に用いるアクセプター性材料としては、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を用いることができる。具体的には、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムが挙げられる。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。その他、キノジメタン誘導体、クロラニル誘導体、ヘキサアザトリフェニレン誘導体などの有機アクセプターを用いることができる。電子吸引基(ハロゲン基やシアノ基)を有するものとしては、7,7,8,8-テトラシアノ-2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(略称:F4-TCNQ)、クロラニル、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT-CN)、1,3,4,5,7,8-ヘキサフルオロテトラシアノ-ナフトキノジメタン(略称:F6-TCNNQ)等を挙げることができる。特に、HAT-CNのように複素原子を複数有する縮合芳香環に電子吸引基が結合している化合物が、熱的に安定であり好ましい。また、電子吸引基(特にフルオロ基のようなハロゲン基やシアノ基)を有する[3]ラジアレン誘導体は、電子受容性が非常に高いため好ましく、具体的にはα,α’,α’’-1,2,3-シクロプロパントリイリデントリス[4-シアノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼンアセトニトリル]、α,α’,α’’-1,2,3-シクロプロパントリイリデントリス[2,6-ジクロロ-3,5-ジフルオロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゼンアセトニトリル]、α,α’,α’’-1,2,3-シクロプロパントリイリデントリス[2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンアセトニトリル]などが挙げられる。
【0114】
正孔注入層111及び正孔輸送層112に用いる正孔輸送性材料としては、10-6cm2/Vs以上の正孔移動度を有する物質が好ましい。なお、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものも用いることができる。
【0115】
正孔輸送性材料としては、π電子過剰型複素芳香族化合物(例えばカルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フラン誘導体など)や芳香族アミン(芳香族アミン骨格を有する化合物)等の正孔輸送性の高い材料が好ましい。
【0116】
カルバゾール誘導体(カルバゾール骨格を有する化合物)としては、ビカルバゾール誘導体(例えば、3,3’-ビカルバゾール誘導体)、カルバゾリル基を有する芳香族アミン等が挙げられる。
【0117】
ビカルバゾール誘導体(例えば、3,3’-ビカルバゾール誘導体)としては、具体的には、3,3’-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール)(略称:PCCP)、9,9’-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-3,3’-ビ-9H-カルバゾール、9,9’-ビス(1,1’-ビフェニル-3-イル)-3,3’-ビ-9H-カルバゾール、9-(1,1’-ビフェニル-3-イル)-9’-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール(略称:mBPCCBP)、9-(2-ナフチル)-9’-フェニル-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール(略称:βNCCP)などが挙げられる。
【0118】
カルバゾリル基を有する芳香族アミンとしては、具体的には、4-フェニル-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)、N-(4-ビフェニル)-N-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)-9-フェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCBiF)、N-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-アミン(略称:PCBBiF)、4,4’-ジフェニル-4’’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)、4-(1-ナフチル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBANB)、4,4’-ジ(1-ナフチル)-4’’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)、4-フェニルジフェニル-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)アミン(略称:PCA1BP)、N,N’-ビス(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N,N’-ジフェニルベンゼン-1,3-ジアミン(略称:PCA2B)、N,N’,N’’-トリフェニル-N,N’,N’’-トリス(9-フェニルカルバゾール-3-イル)ベンゼン-1,3,5-トリアミン(略称:PCA3B)、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]フルオレン-2-アミン(略称:PCBAF)、N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:PCBASF)、PCzPCA1、PCzPCA2、PCzPCN1、3-[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzDPA1)、3,6-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzDPA2)、3,6-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-(1-ナフチル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzTPN2)、2-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称:PCASF)、N-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-(4-フェニル)フェニルアニリン(略称:YGA1BP)、N-N’-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニル-9,9-ジメチルフルオレン-2,7-ジアミン(略称:YGA2F)、4,4’,4’’-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)などが挙げられる。
【0119】
カルバゾール誘導体としては、上記に加えて、3-[4-(9-フェナントリル)-フェニル]-9-フェニル-9H-カルバゾール(略称:PCPPn)、3-[4-(1-ナフチル)-フェニル]-9-フェニル-9H-カルバゾール(略称:PCPN)、1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン(略称:mCP)、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、3,6-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)-9-フェニルカルバゾール(略称:CzTP)、1,3,5-トリス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CzPA)等が挙げられる。
【0120】
チオフェン誘導体(チオフェン骨格を有する化合物)及びフラン誘導体(フラン骨格を有する化合物)としては、具体的には、4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベンゾチオフェン)(略称:DBT3P-II)、2,8-ジフェニル-4-[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBTFLP-III)、4-[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]-6-フェニルジベンゾチオフェン(略称:DBTFLP-IV)などのチオフェン骨格を有する化合物、4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベンゾフラン)(略称:DBF3P-II)、4-{3-[3-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]フェニル}ジベンゾフラン(略称:mmDBFFLBi-II)等が挙げられる。
【0121】
芳香族アミンとしては、具体的には、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)、4-フェニル-4’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)、4-フェニル-3’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:mBPAFLP)、N-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)-N-{9,9-ジメチル-2-[N’-フェニル-N’-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミノ]-9H-フルオレン-7-イル}フェニルアミン(略称:DFLADFL)、N-(9,9-ジメチル-2-ジフェニルアミノ-9H-フルオレン-7-イル)ジフェニルアミン(略称:DPNF)、2-[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称:DPASF)、2,7-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称:DPA2SF)、4,4’,4’’-トリス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:1’-TNATA)、TDATA、m-MTDATA、N,N’-ジ(p-トリル)-N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(略称:DTDPPA)、DPAB、DNTPD、DPA3B等が挙げられる。
【0122】
正孔輸送性材料としては、PVK、PVTPA、PTPDMA、Poly-TPDなどの高分子化合物を用いることもできる。
【0123】
正孔輸送性材料は、上記に限られることなく公知の様々な材料を1種または複数種組み合わせて、正孔注入層111及び正孔輸送層112に用いることができる。
【0124】
図1Cに示す発光デバイスにおいて、正孔輸送層112上に発光層113が真空蒸着法により形成される。
【0125】
<発光層>
発光層113は、発光物質を含む層である。
【0126】
本発明の一態様の発光デバイスは、発光物質として、発光性の有機化合物を有する。当該発光性の有機化合物は、近赤外光を発する。具体的には、発光性の有機化合物が発する光の最大ピーク波長は、750nmより大きく900nm以下である。
【0127】
発光性の有機化合物として、例えば、後述する実施例でゲスト材料(燐光材料)として示す有機金属錯体である、ビス{4,6-ジメチル-2-[3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ベンゾ[g]キノキサリニル-κN]フェニル-κC}(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:[Ir(dmdpbq)2(dpm)])を用いることができる。
【0128】
また、発光性の有機化合物として、例えば、テトラフェニルテトラベンゾポルフィリン白金(II)を用いることができる。
【0129】
発光層113は、1種または複数種の発光物質を有することができる。
【0130】
発光層113は、発光物質(ゲスト材料)に加えて、1種または複数種の有機化合物(ホスト材料)を有する。1種または複数種の有機化合物としては、本実施の形態で説明する正孔輸送性材料及び電子輸送性材料の一方または双方を用いることができる。また、1種または複数種の有機化合物として、バイポーラ性材料を用いてもよい。
【0131】
発光層113に用いることができる発光物質として、特に限定は無く、一重項励起エネルギーを近赤外光領域の発光に変える発光物質、または三重項励起エネルギーを近赤外光領域の発光に変える発光物質を用いることができる。
【0132】
一重項励起エネルギーを発光に変える発光物質としては、蛍光を発する物質(蛍光材料)が挙げられ、例えば、ピレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン誘導体、フルオレン誘導体、カルバゾール誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾキノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、フェナントレン誘導体、ナフタレン誘導体などが挙げられる。
【0133】
三重項励起エネルギーを発光に変える発光物質としては、例えば、燐光を発する物質(燐光材料)や熱活性化遅延蛍光を示すTADF材料が挙げられる。
【0134】
燐光材料としては、例えば、4H-トリアゾール骨格、1H-トリアゾール骨格、イミダゾール骨格、ピリミジン骨格、ピラジン骨格、またはピリジン骨格を有する有機金属錯体(特にイリジウム錯体)、電子吸引基を有するフェニルピリジン誘導体を配位子とする有機金属錯体(特にイリジウム錯体)、白金錯体、希土類金属錯体等が挙げられる。
【0135】
発光層113に用いるホスト材料としては、発光物質のエネルギーギャップより大きなエネルギーギャップを有する物質を、一種もしくは複数種選択して用いることができる。
【0136】
発光層113に用いる発光物質が蛍光材料である場合、発光物質と組み合わせて用いる有機化合物としては、一重項励起状態のエネルギー準位が大きく、三重項励起状態のエネルギー準位が小さい有機化合物を用いるのが好ましい。
【0137】
発光物質が蛍光材料である場合、発光物質と組み合わせて用いることができる有機化合物としては、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体等の縮合多環芳香族化合物が挙げられる。
【0138】
蛍光材料と組み合わせて用いる有機化合物(ホスト材料)の具体例としては、9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:PCzPA)、3,6-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:DPCzPA)、PCPN、9,10-ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、N,N-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:CzA1PA)、4-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(略称:DPhPA)、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)、N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCAPA)、N,9-ジフェニル-N-{4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]フェニル}-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCAPBA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:2PCAPA)、6,12-ジメトキシ-5,11-ジフェニルクリセン、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’-オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン-2,7,10,15-テトラアミン(略称:DBC1)、CzPA、7-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール(略称:cgDBCzPA)、6-[3-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン(略称:2mBnfPPA)、9-フェニル-10-{4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)ビフェニル-4’-イル}アントラセン(略称:FLPPA)、9,10-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:t-BuDNA)、9,9’-ビアントリル(略称:BANT)、9,9’-(スチルベン-3,3’-ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS)、9,9’-(スチルベン-4,4’-ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS2)、1,3,5-トリ(1-ピレニル)ベンゼン(略称:TPB3)、5,12-ジフェニルテトラセン、5,12-ビス(ビフェニル-2-イル)テトラセンなどが挙げられる。
【0139】
発光物質が燐光材料である場合、発光物質と組み合わせて用いる有機化合物としては、発光物質の三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)よりも三重項励起エネルギーの大きい有機化合物を選択すればよい。
【0140】
励起錯体を形成させるべく複数の有機化合物(例えば、第1のホスト材料、及び第2のホスト材料)を発光物質と組み合わせて用いる場合は、これらの複数の有機化合物を燐光材料(特に有機金属錯体)と混合して用いることが好ましい。
【0141】
このような構成とすることにより、励起錯体から発光物質へのエネルギー移動であるExTET(Exciplex-Triplet Energy Transfer)を用いた発光を効率よく得ることができる。なお、複数の有機化合物の組み合わせとしては、励起錯体が形成されやすいものがよく、正孔を受け取りやすい化合物(正孔輸送性材料)と、電子を受け取りやすい化合物(電子輸送性材料)とを組み合わせることが特に好ましい。なお、正孔輸送性材料及び電子輸送性材料の具体例については、本実施の形態で示す材料を用いることができる。この構成により、発光デバイスの高効率、低電圧、長寿命を同時に実現できる。
【0142】
発光物質が燐光材料である場合に発光物質と組み合わせて用いることができる有機化合物としては、芳香族アミン、カルバゾール誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、亜鉛やアルミニウム系の金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、ジベンゾキノキサリン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体等が挙げられる。
【0143】
なお、上記のうち、正孔輸送性の高い有機化合物である芳香族アミン(芳香族アミン骨格を有する化合物)、カルバゾール誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体(チオフェン誘導体)、ジベンゾフラン誘導体(フラン誘導体)の具体例としては、上記に示した正孔輸送性材料の具体例と同じものが挙げられる。
【0144】
電子輸送性の高い有機化合物である、亜鉛やアルミニウム系の金属錯体の具体例としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)(略称:Znq)など、キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等が挙げられる。
【0145】
この他、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnPBO)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnBTZ)などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。
【0146】
電子輸送性の高い有機化合物である、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、ジベンゾキノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体の具体例としては、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(略称:OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CO11)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-(4-エチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール(略称:p-EtTAZ)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(略称:TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(略称:mDBTBIm-II)、4,4’-ビス(5-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベン(略称:BzOs、バソフェナントロリン(略称:Bphen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、2,9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(略称:NBphen)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq-II)、2-[3’-(ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTBPDBq-II)、2-[3’-(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mCzBPDBq)、2-[4-(3,6-ジフェニル-9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2CzPDBq-III)、7-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:7mDBTPDBq-II)、及び6-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:6mDBTPDBq-II)などが挙げられる。
【0147】
電子輸送性の高い有機化合物である、ジアジン骨格を有する複素環化合物、トリアジン骨格を有する複素環化合物、ピリジン骨格を有する複素環化合物の具体例としては、4,6-ビス[3-(フェナントレン-9-イル)フェニル]ピリミジン(略称:4,6mPnP2Pm)、4,6-ビス[3-(4-ジベンゾチエニル)フェニル]ピリミジン(略称:4,6mDBTP2Pm-II)、4,6-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリミジン(略称:4,6mCzP2Pm)、2-{4-[3-(N-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-カルバゾール-9-イル]フェニル}-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(略称:PCCzPTzn)、9-[3-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]-9’-フェニル-2,3’-ビ-9H-カルバゾール(略称:mPCCzPTzn-02)、2-[3’-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)-1,1’-ビフェニル-3-イル]-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(略称:mFBPTzn)、2-[(1,1’-ビフェニル)-4-イル]-4-フェニル-6-[9,9’-スピロビ(9H-フルオレン)-2-イル]-1,3,5-トリアジン(略称:BP-SFTzn)、2-{3-[3-(ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン-8-イル)フェニル]フェニル}-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(略称:mBnfBPTzn)、2-{3-[3-(ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン-6-イル)フェニル]フェニル}-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(略称:mBnfBPTzn-02)、3,5-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジン(略称:35DCzPPy)、1,3,5-トリ[3-(3-ピリジル)フェニル]ベンゼン(略称:TmPyPB)などが挙げられる。
【0148】
電子輸送性の高い有機化合物としては、ポリ(2,5-ピリジンジイル)(略称:PPy)、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(ピリジン-3,5-ジイル)](略称:PF-Py)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジイル)](略称:PF-BPy)のような高分子化合物を用いることもできる。
【0149】
TADF材料とは、S1準位とT1準位との差が小さく、逆項間交差によって三重項励起エネルギーから一重項励起エネルギーへエネルギーを変換することができる機能を有する材料である。そのため、三重項励起エネルギーをわずかな熱エネルギーによって一重項励起エネルギーにアップコンバート(逆項間交差)が可能で、一重項励起状態を効率よく生成することができる。また、三重項励起エネルギーを発光に変換することができる。熱活性化遅延蛍光が効率良く得られる条件としては、S1準位とT1準位のエネルギー差が0eV以上0.2eV以下、好ましくは0eV以上0.1eV以下であることが挙げられる。また、TADF材料における遅延蛍光とは、通常の蛍光と同様のスペクトルを持ちながら、寿命が著しく長い発光をいう。その寿命は、10-6秒以上、好ましくは10-3秒以上である。
【0150】
T1準位の指標としては、低温(例えば77Kから10K)で観測される燐光スペクトルを用いればよい。TADF材料としては、その蛍光スペクトルの短波長側の裾において接線を引き、その外挿線の波長のエネルギーをS1準位とし、燐光スペクトルの短波長側の裾において接線を引き、その外挿線の波長のエネルギーをT1準位とした際に、そのS1準位とT1準位の差が0.3eV以下であることが好ましく、0.2eV以下であることがさらに好ましい。
【0151】
TADF材料は、ゲスト材料として用いてもよく、ホスト材料として用いてもよい。
【0152】
TADF材料としては、例えば、フラーレンやその誘導体、プロフラビン等のアクリジン誘導体、エオシン等が挙げられる。また、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、白金(Pt)、インジウム(In)、もしくはパラジウム(Pd)等を含む金属含有ポルフィリンが挙げられる。金属含有ポルフィリンとしては、例えば、プロトポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Proto IX))、メソポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Meso IX))、ヘマトポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Hemato IX))、コプロポルフィリンテトラメチルエステル-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Copro III-4Me))、オクタエチルポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(OEP))、エチオポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Etio I))、オクタエチルポルフィリン-塩化白金錯体(略称:PtCl2OEP)等が挙げられる。
【0153】
その他にも、2-(ビフェニル-4-イル)-4,6-ビス(12-フェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(略称:PIC-TRZ)、PCCzPTzn、2-[4-(10H-フェノキサジン-10-イル)フェニル]-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(略称:PXZ-TRZ)、3-[4-(5-フェニル-5,10-ジヒドロフェナジン-10-イル)フェニル]-4,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール(略称:PPZ-3TPT)、3-(9,9-ジメチル-9H-アクリジン-10-イル)-9H-キサンテン-9-オン(略称:ACRXTN)、ビス[4-(9,9-ジメチル-9,10-ジヒドロアクリジン)フェニル]スルホン(略称:DMAC-DPS)、10-フェニル-10H,10’H-スピロ[アクリジン-9,9’-アントラセン]-10’-オン(略称:ACRSA)、等のπ電子過剰型複素芳香環及びπ電子不足型複素芳香環を有する複素環化合物を用いることができる。なお、π電子過剰型複素芳香環とπ電子不足型複素芳香環とが直接結合した物質は、π電子過剰型複素芳香環のドナー性とπ電子不足型複素芳香環のアクセプター性が共に強くなり、一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差が小さくなるため、特に好ましい。
【0154】
なお、TADF材料を用いる場合、他の有機化合物と組み合わせて用いることもできる。特に、上述したホスト材料、正孔輸送材料、電子輸送材料と組み合わせることができる。
【0155】
また、上記の材料は、低分子材料や高分子材料と組み合わせることにより発光層113の形成に用いることができる。また、成膜には、公知の方法(蒸着法や塗布法や印刷法など)を適宜用いることができる。
【0156】
図1Cに示す発光デバイスにおいて、発光層113上に電子輸送層114が形成される。
【0157】
<電子輸送層>
電子輸送層114は、電子注入層115によって、第2の電極102から注入された電子を発光層113に輸送する層である。なお、電子輸送層114は、電子輸送性材料を含む層である。電子輸送層114に用いる電子輸送性材料は、1×10-6cm2/Vs以上の電子移動度を有する物質が好ましい。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものも用いることができる。
【0158】
電子輸送性材料としては、キノリン骨格を有する金属錯体、ベンゾキノリン骨格を有する金属錯体、オキサゾール骨格を有する金属錯体、チアゾール骨格を有する金属錯体等の他、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリン配位子を有するキノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジベンゾキノキサリン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、その他含窒素複素芳香族化合物を含むπ電子不足型複素芳香族化合物等の電子輸送性の高い材料を用いることができる。
【0159】
電子輸送性材料の具体例としては、上記に示した材料を用いることができる。
【0160】
次に、
図1Cに示す発光デバイスにおいて、電子輸送層114上に電子注入層115が真空蒸着法により形成される。
【0161】
<電子注入層>
電子注入層115は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層115には、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)、リチウム酸化物(LiOx)等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を用いることができる。また、フッ化エルビウム(ErF3)のような希土類金属化合物を用いることができる。また、電子注入層115にエレクトライドを用いてもよい。エレクトライドとしては、例えば、カルシウムとアルミニウムの混合酸化物に電子を高濃度添加した物質等が挙げられる。なお、上述した電子輸送層114を構成する物質を用いることもできる。
【0162】
また、電子注入層115に、電子輸送性材料とドナー性材料(電子供与性材料)とを含む複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性及び電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層114に用いる電子輸送性材料(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0163】
<電荷発生層>
図1Bに示す発光デバイスにおいて、電荷発生層104は、第1の電極101(陽極)と第2の電極102(陰極)との間に電圧を印加したときに、EL層103aに電子を注入し、EL層103bに正孔を注入する機能を有する。
【0164】
電荷発生層104は、正孔輸送性材料とアクセプター性材料(電子受容性材料)とを含む構成であっても、電子輸送性材料とドナー性材料とを含む構成であってもよい。このような構成の電荷発生層104を形成することにより、EL層が積層された場合における駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0165】
正孔輸送性材料、アクセプター性材料、電子輸送性材料、及びドナー性材料は、それぞれ上述の材料を用いることができる。
【0166】
なお、本実施の形態で示す発光デバイスの作製には、蒸着法などの真空プロセスや、スピンコート法やインクジェット法などの溶液プロセスを用いることができる。蒸着法を用いる場合には、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、分子線蒸着法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD法)や、化学蒸着法(CVD法)等を用いることができる。特にEL層に含まれる機能層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層)及び電荷発生層については、蒸着法(真空蒸着法等)、塗布法(ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等)、印刷法(インクジェット法、スクリーン(孔版印刷)法、オフセット(平版印刷)法、フレキソ(凸版印刷)法、グラビア法、マイクロコンタクト法等)などの方法により形成することができる。
【0167】
EL層103を構成する機能層及び電荷発生層の材料は、それぞれ、上述の材料に限定されない。例えば、機能層の材料として、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)、中分子化合物(低分子と高分子の中間領域の化合物:分子量400乃至4000)、無機化合物(量子ドット材料等)等を用いてもよい。なお、量子ドット材料としては、コロイド状量子ドット材料、合金型量子ドット材料、コア・シェル型量子ドット材料、コア型量子ドット材料などを用いることができる。
【0168】
本発明の一態様の発光デバイスは、ホスト材料の発光、またはホスト材料が形成する励起錯体の発光が視認されやすい。当該発光は、視認度が高い波長域であるため、ゲスト材料が発する近赤外光に比べて発光強度が低くても、十分に視認することができる。したがって、可視光の発光が視認されやすく、かつ、近赤外光を効率よく発する発光デバイスを実現することができる。
【0169】
本発明の一態様の発光デバイスにおいて、輝度A[cd/m2]と、放射輝度B[W/sr/m2]とは、A/B≧0.1[cd・sr/W]を満たす。したがって、可視光の発光が視認されやすく、かつ、近赤外光を効率よく発する発光デバイスを実現することができる。
【0170】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。また、本明細書において、1つの実施の形態の中に、複数の構成例が示される場合は、構成例を適宜組み合わせることが可能である。
【0171】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光装置について
図2及び
図3を用いて説明する。
【0172】
本実施の形態の発光装置は、実施の形態1に示す発光デバイスを有する。したがって、近赤外光と可視光との双方を発する発光装置を実現できる。
【0173】
[発光装置の構成例1]
図2Aに発光装置の上面図を示し、
図2B、
図2Cに、
図2Aの一点鎖線X1-Y1間及びX2-Y2間の断面図を示す。
図2A~
図2Cに示す発光装置は、例えば、照明装置に用いることができる。発光装置は、ボトムエミッション、トップエミッション、デュアルエミッションのいずれであってもよい。
【0174】
図2Bに示す発光装置は、基板490a、基板490b、導電層406、導電層416、絶縁層405、有機ELデバイス450(第1の電極401、EL層402、及び第2の電極403)、及び接着層407を有する。有機ELデバイス450には、実施の形態1に示す発光デバイスを用いることができる。
【0175】
有機ELデバイス450は、基板490a上の第1の電極401と、第1の電極401上のEL層402と、EL層402上の第2の電極403とを有する。基板490a、接着層407、及び基板490bによって、有機ELデバイス450は封止されている。
【0176】
第1の電極401、導電層406、導電層416の端部は絶縁層405で覆われている。導電層406は第1の電極401と電気的に接続し、導電層416は第2の電極403と電気的に接続する。第1の電極401を介して絶縁層405に覆われた導電層406は、補助配線として機能し、第1の電極401と電気的に接続する。有機ELデバイス450の電極と電気的に接続する補助配線を有すると、電極の抵抗に起因する電圧降下を抑制できるため、好ましい。導電層406は、第1の電極401上に設けられていてもよい。また、絶縁層405上等に、第2の電極403と電気的に接続する補助配線を有していてもよい。
【0177】
基板490a及び基板490bには、それぞれ、ガラス、石英、セラミック、サファイア、有機樹脂などを用いることができる。基板490a及び基板490bに可撓性を有する材料を用いると、表示装置の可撓性を高めることができる。
【0178】
発光装置の発光面には、光取り出し効率を高めるための光取り出し構造、ゴミの付着を抑制する帯電防止膜、汚れを付着しにくくする撥水性の膜、使用に伴う傷の発生を抑制するハードコート膜、衝撃吸収層等を配置してもよい。
【0179】
絶縁層405に用いることのできる絶縁材料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムなどの無機絶縁材料が挙げられる。
【0180】
接着層407としては、紫外線硬化型等の光硬化型接着剤、反応硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、嫌気型接着剤などの各種硬化型接着剤を用いることができる。これら接着剤としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、イミド樹脂、PVC(ポリビニルクロライド)樹脂、PVB(ポリビニルブチラル)樹脂、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂等の透湿性が低い材料が好ましい。また、二液混合型の樹脂を用いてもよい。また、接着シート等を用いてもよい。
【0181】
図2Cに示す発光装置は、バリア層490c、導電層406、導電層416、絶縁層405、有機ELデバイス450、接着層407、バリア層423、及び基板490bを有する。
【0182】
図2Cに示すバリア層490cは、基板420、接着層422、及びバリア性の高い絶縁層424を有する。
【0183】
図2Cに示す発光装置では、バリア性の高い絶縁層424とバリア層423との間に、有機ELデバイス450が配置されている。したがって、基板420及び基板490bに比較的防水性の低い樹脂フィルムなどを用いても、有機ELデバイスに水などの不純物が入り込み寿命が低減することを、抑制することができる。
【0184】
基板420及び基板490bには、それぞれ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン、アラミド等)、ポリシロキサン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ABS樹脂、セルロースナノファイバー等を用いることができる。基板420及び基板490bには、可撓性を有する程度の厚さのガラスを用いてもよい。
【0185】
バリア性の高い絶縁層424としては、無機絶縁膜を用いることが好ましい。無機絶縁膜としては、例えば、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜などを用いることができる。また、酸化ハフニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ガリウム膜、酸化タンタル膜、酸化マグネシウム膜、酸化ランタン膜、酸化セリウム膜、及び酸化ネオジム膜等を用いてもよい。また、上述の絶縁膜を2以上積層して用いてもよい。
【0186】
バリア層423には、少なくとも1層の無機膜を有することが好ましい。例えば、バリア層423には、無機膜の単層構造や、無機膜と有機膜との積層構造を適用することができる。無機膜としては、上記無機絶縁膜が好適である。当該積層構造としては、例えば、酸化窒化シリコン膜と、酸化シリコン膜と、有機膜と、酸化シリコン膜と、窒化シリコン膜と、を順に形成する構成などが挙げられる。バリア層を無機膜と有機膜との積層構造とすることで、有機ELデバイス450に入り込みうる不純物(代表的には、水素、水など)を好適に抑制することができる。
【0187】
バリア性の高い絶縁層424及び有機ELデバイス450は、可撓性を有する基板420上に直接形成することができる。この場合、接着層422は不要である。また、絶縁層424及び有機ELデバイス450は、硬質基板上に剥離層を介して形成した後、基板420に転置することができる。例えば、剥離層に、熱、力、レーザ光などを与えることにより、硬質基板から絶縁層424及び有機ELデバイス450を剥離した後、接着層422を用いて基板420を貼り合わせることで、基板420に転置してもよい。剥離層としては、例えば、タングステン膜と酸化シリコン膜とを含む無機膜の積層構造や、ポリイミド等の有機樹脂膜等を用いることができる。硬質基板を用いる場合、樹脂基板などに比べて、高温をかけて絶縁層424を形成することができるため、絶縁層424を緻密で極めてバリア性の高い絶縁膜とすることができる。
【0188】
[発光装置の構成例2]
本発明の一態様の発光装置は、パッシブマトリクス型またはアクティブマトリクス型とすることができる。アクティブマトリクス型の発光装置について
図3を用いて説明する。
【0189】
【0190】
図3A、
図3Bに示すアクティブマトリクス型の発光装置は、画素部302、回路部303、回路部304a、及び回路部304bを有する。
【0191】
回路部303、回路部304a、及び回路部304bは、それぞれ、走査線駆動回路(ゲートドライバ)または信号線駆動回路(ソースドライバ)として機能することができる。または、外付けのゲートドライバまたはソースドライバと、画素部302と、を電気的に接続する回路であってもよい。
【0192】
第1の基板301上には、引き回し配線307が設けられる。引き回し配線307は、外部入力端子であるFPC308と電気的に接続される。FPC308は、回路部303、回路部304a、及び回路部304bに外部からの信号(例えば、ビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等)や電位を伝達する。また、FPC308にはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていてもよい。
図3A、
図3Bに示す構成は、発光デバイス(または発光装置)及びFPCを有する発光モジュールということもできる。
【0193】
画素部302は、有機ELデバイス317、トランジスタ311、及びトランジスタ312を有する画素を、複数有する。有機ELデバイス317には、実施の形態1に示す発光デバイスを用いることができる。トランジスタ312は、有機ELデバイス317が有する第1の電極313と電気的に接続されている。トランジスタ311は、スイッチング用トランジスタとして機能する。トランジスタ312は、電流制御用トランジスタとして機能する。なお、各画素が有するトランジスタの数は、特に限定されることはなく、必要に応じて適宜設けることができる。
【0194】
回路部303は、トランジスタ309、トランジスタ310等を含む、複数のトランジスタを有する。回路部303は、単極性(N型またはP型のいずれか一方のみ)のトランジスタを含む回路で形成されてもよいし、N型のトランジスタとP型のトランジスタを含むCMOS回路で形成されてもよい。また、外部に駆動回路を有する構成としてもよい。
【0195】
本実施の形態の発光装置が有するトランジスタの構造は特に限定されない。例えば、プレーナ型のトランジスタ、スタガ型のトランジスタ、逆スタガ型のトランジスタ等を用いることができる。また、トップゲート型またはボトムゲート型のいずれのトランジスタ構造としてもよい。または、チャネルが形成される半導体層の上下にゲートが設けられていてもよい。
【0196】
トランジスタに用いる半導体材料の結晶性についても特に限定されず、非晶質半導体、結晶性を有する半導体(微結晶半導体、多結晶半導体、単結晶半導体、または一部に結晶領域を有する半導体)のいずれを用いてもよい。結晶性を有する半導体を用いると、トランジスタ特性の劣化を抑制できるため好ましい。
【0197】
トランジスタの半導体層は、金属酸化物(酸化物半導体ともいう)を有することが好ましい。または、トランジスタの半導体層は、シリコンを有していてもよい。シリコンとしては、アモルファスシリコン、結晶性のシリコン(低温ポリシリコン、単結晶シリコンなど)などが挙げられる。
【0198】
半導体層は、例えば、インジウムと、M(Mは、ガリウム、アルミニウム、シリコン、ホウ素、イットリウム、スズ、銅、バナジウム、ベリリウム、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びマグネシウムから選ばれた一種または複数種)と、亜鉛と、を有することが好ましい。特に、Mは、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、及びスズから選ばれた一種または複数種であることが好ましい。
【0199】
特に、半導体層として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む酸化物(IGZOとも記す)を用いることが好ましい。
【0200】
半導体層がIn-M-Zn酸化物の場合、In-M-Zn酸化物を成膜するために用いるスパッタリングターゲットは、Inの原子数比がMの原子数比以上であることが好ましい。このようなスパッタリングターゲットの金属元素の原子数比として、In:M:Zn=1:1:1、In:M:Zn=1:1:1.2、In:M:Zn=2:1:3、In:M:Zn=3:1:2、In:M:Zn=4:2:3、In:M:Zn=4:2:4.1、In:M:Zn=5:1:6、In:M:Zn=5:1:7、In:M:Zn=5:1:8、In:M:Zn=6:1:6、In:M:Zn=5:2:5等が挙げられる。
【0201】
回路部303、回路部304a、回路部304bが有するトランジスタと、画素部302が有するトランジスタは、同じ構造であってもよく、異なる構造であってもよい。回路部303、回路部304a、回路部304bが有する複数のトランジスタの構造は、全て同じであってもよく、2種類以上あってもよい。同様に、画素部302が有する複数のトランジスタの構造は、全て同じであってもよく、2種類以上あってもよい。
【0202】
第1の電極313の端部は、絶縁層314により覆われている。なお、絶縁層314には、ネガ型の感光性樹脂、ポジ型の感光性樹脂(アクリル樹脂)などの有機化合物や、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン等の無機化合物を用いることができる。絶縁層314の上端部または下端部には、曲率を有する曲面を有するのが好ましい。これにより、絶縁層314の上層に形成される膜の被覆性を良好なものとすることができる。
【0203】
第1の電極313上にはEL層315が設けられ、EL層315上には第2の電極316が設けられる。EL層315は、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層等を有する。
【0204】
複数のトランジスタ及び複数の有機ELデバイス317は、第1の基板301、第2の基板306、及びシール材305によって、封止されている。第1の基板301、第2の基板306、及びシール材305で囲まれた空間318は、不活性気体(窒素やアルゴン等)や有機物(シール材305を含む)で充填されていてもよい。
【0205】
シール材305には、エポキシ樹脂やガラスフリットを用いることができる。なお、シール材305には、できるだけ水分や酸素を透過しない材料を用いることが好ましい。シール材としてガラスフリットを用いる場合には、接着性の観点から第1の基板301及び第2の基板306はガラス基板であることが好ましい。
【0206】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0207】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光デバイスを用いることができる電子機器について
図4を用いて説明する。
【0208】
本発明の一態様の発光デバイスは、近赤外光及び可視光の双方を発する。したがって、電子機器において近赤外光を用いた認証、解析、診断等を行っている間、使用者が可視光を視認することができる。通常、近赤外光の発光は、専用の測定装置等を用いて確認する必要があるが、本発明の一態様の電子機器では、使用者自身が、可視光が見えるか否かによって、リアルタイムで、当該電子機器において近赤外光を用いた認証、解析、診断等を行っているかを確認することができる。また、放射輝度の高さに応じて、可視光の発光色が変化することがある。そのため、可視光の発光の強さや色によって、近赤外光の発光の強さの見当をつけることもできる。したがって、例えば、生体認証を行っている際に誤って指を離してしまうことを抑制する、電子機器で生体認証がうまく行えていないことに気づきやすくする、などの効果を奏する。また、可視光の発光強度は近赤外光の発光強度よりも十分に低いため、発光デバイスが発する可視光が、近赤外光を用いた認証、解析、診断等におけるノイズとなることを抑制できる。これにより、認証、解析、診断等の精度を高めることができる。
【0209】
図4Aは指の静脈を対象とした生体認証機器であり、筐体911、光源912、検知ステージ913等を有する。検知ステージ913に指を載せることにより静脈の形状を撮像することができる。検知ステージ913の上部には近赤外光を発する光源912が設置され、下部には撮像装置914が設置される。検知ステージ913は近赤外光を透過する材料で構成されており、光源912から照射され、指を透過した近赤外光を撮像装置914で撮像することができる。なお、検知ステージ913と撮像装置914の間に光学系が設けられていてもよい。上記機器の構成は、手のひらの静脈を対象とした生体認証機器に利用することもできる。
【0210】
本発明の一態様の発光デバイスを、光源912に用いることができる。本発明の一態様の発光デバイスは、湾曲した形状に設置することができ、対象物に対して均一性よく光を照射することができる。特に波長760nm以上900nm以下に最も強いピーク強度を有する近赤外光を発する発光デバイスであることが好ましい。指や手のひらなどを透過した光を受光して画像化することで静脈の位置を検出することができる。当該作用は生体認証として利用することができる。また、グローバルシャッタ方式と組み合わせることで、被写体に動きがあっても精度の高いセンシングが可能となる。
【0211】
また、光源912は、
図4Bに示す発光部915、916、917のように、複数の発光部を有することができる。発光部915、916、917のそれぞれは、発光する波長が異なっていてもよい、また、それぞれは、別のタイミングで光を照射することもできる。したがって、照射する光の波長や角度を変えることにより異なる画像を連続して撮像することができるため、複数の画像を認証に利用し、高いセキュリティを実現することができる。
【0212】
図4Cは手のひらの静脈を対象とした生体認証機器であり、筐体921、操作ボタン922、検知部923、近赤外光を発する光源924等を有する。検知部923上に手をかざすことにより手のひらの静脈の形状を認識することができる。また、操作ボタンにより暗証番号などを入力することもできる。検知部923の周囲には光源924が配置され対象物(手)を照射する。そして、対象物からの反射光が検知部923に入射される。本発明の一態様の発光デバイスを、光源924に用いることができる。検知部923直下には撮像装置925が配置され、対象物の像(手の全体像)を取り込むことができる。なお、検知部923と撮像装置925の間に光学系が設けられていてもよい。上記機器の構成は、指の静脈を対象とした生体認証機器に利用することもできる。
【0213】
図4Dは非破壊検査機器であり、筐体931、操作パネル932、搬送機構933、モニタ934、検知ユニット935、近赤外光を発する光源938等を有する。本発明の一態様の発光デバイスを、光源938に用いることができる。被検査部材936は搬送機構933で検知ユニット935の直下に運搬される。被検査部材936には光源938から近赤外光が照射され、その透過光を検知ユニット935内に設けられた撮像装置937で撮像する。撮像された画像は、モニタ934に映し出される。その後、筐体931の出口まで運搬され、不良品が分別されて回収される。近赤外光を用いた撮像により、非検査部材内部の欠陥や異物などの不良要素を非破壊で高速に検出することができる。
【0214】
図4Eは携帯電話機であり、筐体981、表示部982、操作ボタン983、外部接続ポート984、スピーカ985、マイク986、第1のカメラ987、第2のカメラ988等を有する。当該携帯電話機は、表示部982にタッチセンサを備える。筐体981及び表示部982は可撓性を有する。電話を掛ける、或いは文字を入力するなどのあらゆる操作は、指やスタイラスなどで表示部982に触れることで行うことができる。第1のカメラ987では可視光画像を取得することができ、第2のカメラ988では赤外光画像(近赤外光画像)を取得することができる。
図4Eに示す携帯電話機または表示部982は、本発明の一態様の発光デバイスを有していてもよい。
【0215】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0216】
本実施例では、本発明の一態様の発光デバイスを作製し、評価した結果について説明する。
【0217】
本実施例では、発光デバイスとして、本発明の一態様が適用されたデバイス1と、比較用の比較デバイス2と、を作製し、評価した結果について説明する。
【0218】
本実施例で用いる発光デバイス1及び比較デバイス2の構造を
図5に示し、具体的な構成について表1に示す。また、本実施例で用いる材料の構造式を以下に示す。
【0219】
【0220】
【0221】
≪発光デバイスの作製≫
本実施例で示すデバイス1及び比較デバイス2は、
図5に示すように、基板800上に第1の電極801が形成され、第1の電極801上に、EL層802として、正孔注入層811、正孔輸送層812、発光層813、電子輸送層814、及び電子注入層815が順次積層され、電子注入層815上に第2の電極803が積層された構造を有する。
【0222】
まず、基板800上に第1の電極801を形成した。電極面積は、4mm2(2mm×2mm)とした。基板800には、ガラス基板を用いた。第1の電極801は、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法により成膜して形成した。第1の電極801の膜厚は、デバイス1では110nmとし、比較デバイス2では70nmとした。なお、本実施例において、第1の電極801は、陽極として機能する。
【0223】
ここで、前処理として、基板の表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。その後、1×10-4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板を30分程度放冷した。
【0224】
次に、第1の電極801上に正孔注入層811を形成した。正孔注入層811は、真空蒸着装置内を1×10-4Pa程度に減圧した後、1,3,5-トリ(ジベンゾチオフェン-4-イル)ベンゼン(略称:DBT3P-II)と酸化モリブデンとを、DBT3P-II:酸化モリブデン=2:1(重量比)とし、共蒸着して形成した。正孔注入層811の膜厚は、デバイス1では60nmとし、比較デバイス2では120nmとした。
【0225】
次に、正孔注入層811上に正孔輸送層812を形成した。正孔輸送層812は、N-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-アミン(略称:PCBBiF)を用い、膜厚が20nmになるように蒸着して形成した。
【0226】
次に、正孔輸送層812上に発光層813を形成した。
【0227】
デバイス1では、ホスト材料として、2-[3’-(ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTBPDBq-II)と、PCBBiFと、を用い、ゲスト材料(燐光材料)として、ビス{4,6-ジメチル-2-[3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ベンゾ[g]キノキサリニル-κN]フェニル-κC}(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:[Ir(dmdpbq)2(dpm)])を用い、重量比が2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:[Ir(dmdpbq)2(dpm)]=0.7:0.3:0.1となるように共蒸着した。なお、発光層813の膜厚は、40nmとした。
【0228】
比較デバイス2では、ホスト材料として、2,8-ビス[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ベンゾフロ[2,3-b]キノキサリン(略称:2,8mDBtP2Bfqn)と、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:m-MTDATA)と、を用い、ゲスト材料(燐光材料)として、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]を用い、重量比が2,8mDBtP2Bfqn:m-MTDATA:[Ir(dmdpbq)2(dpm)]=0.7:0.3:0.1となるように共蒸着した。なお、発光層813の膜厚は、40nmとした。
【0229】
次に、発光層813上に電子輸送層814を形成した。
【0230】
デバイス1の電子輸送層814は、2mDBTBPDBq-IIの膜厚が20nm、9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(略称:NBphen)の膜厚が70nmとなるように順次蒸着して形成した。
【0231】
比較デバイス2の電子輸送層814は、2,8mDBtP2Bfqnの膜厚が20nm、NBphenの膜厚が70nmとなるように順次蒸着して形成した。
【0232】
次に、電子輸送層814上に電子注入層815を形成した。電子注入層815は、フッ化リチウム(LiF)を用い、膜厚が1nmになるように蒸着して形成した。
【0233】
次に、電子注入層815上に第2の電極803を形成した。第2の電極803は、アルミニウムを蒸着法により、膜厚が200nmとなるように形成した。なお、本実施例において、第2の電極803は、陰極として機能する。
【0234】
以上の工程により、基板800上に一対の電極間にEL層802を挟んでなる発光デバイスを形成した。なお、上記工程で説明した正孔注入層811、正孔輸送層812、発光層813、電子輸送層814、電子注入層815は、本発明の一態様におけるEL層を構成する機能層である。また、上述した作製方法における蒸着工程では、全て抵抗加熱法による蒸着法を用いた。
【0235】
また、上記に示すように作製した発光デバイスは、別の基板(図示せず)により封止される。なお、別の基板(図示せず)を用いた封止の際は、窒素雰囲気のグローブボックス内において、紫外光により固化する接着剤を塗布した別の基板(図示せず)を基板800上に固定し、基板800上に形成された発光デバイスの周囲に接着剤が付着するよう基板同士を接着させた。封止時には365nmの紫外光を6J/cm2照射し接着剤を固化し、80℃にて1時間熱処理することにより接着剤を安定化させた。
【0236】
≪発光デバイスの動作特性≫
デバイス1及び比較デバイス2の動作特性について測定した。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0237】
図6及び
図7に、デバイス1及び比較デバイス2に50mA/cm
2の電流密度で電流を流した際の発光スペクトルを示す。発光スペクトルにおいて、波長380nm以上749nm以下の範囲は、分光放射輝度計(SR-UL1R、トプコン社製)を用いた測定結果であり、波長750nm以上1030nm以下の範囲は、近赤外分光放射計(SR-NIR、トプコン社製)を用いた測定結果である。なお、
図7は、縦軸が対数表示である点で、
図6と異なる。さらに、
図7には、暗所比視感度(CIE(1951)Scotopic V’(λ))に基づく視感度曲線も示す。
【0238】
また、表2に電流2mA(電流密度50mA/cm2)におけるデバイス1及び比較デバイス2の主な初期特性値を示す。なお、放射束及び外部量子効率は、発光デバイスの配光特性がランバーシアン型と仮定して、放射輝度を用いて算出した。
【0239】
【0240】
図6に示すように、デバイス1の発光スペクトルの最大ピーク波長は793nmであり、比較デバイス2の発光スペクトルの最大ピーク波長は801nmであり、どちらのデバイスも、発光層813に含まれる[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]に由来して、近赤外光を発していることがわかった。
【0241】
図6に示す、デバイス1の発光スペクトルにおける、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長は、751nmであった。比較デバイス2の発光スペクトルにおける、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長は、754nmであった。デバイス1及び比較デバイス2は、いずれも、最大ピークの短波長側の立ち上がり波長が十分に長波長であることがわかった。
【0242】
図7に示すように、デバイス1の発光スペクトルには、可視光の波長域に比較的大きな発光ピーク(ピーク波長523nm(2.37eV))が確認された。視感度曲線と比較することで、デバイス1が発する光には、可視光の中でも視感度の高い波長域の光が含まれることがわかった。一方、比較デバイス2は、デバイス1に比べて、可視光の波長域の分光放射輝度が低かった。また、比較デバイス2の可視光の波長域における最大ピーク波長は638nm(1.94eV)であり、デバイス1の発光スペクトルは、可視光の中でも視感度が低い波長域に発光のピークを有した。このことから、デバイス1は、比較デバイス2に比べて、視感度の高い波長域の可視光を発し、かつ、当該可視光の波長域では、発光強度が高いことがわかった。なお、デバイス1の発光スペクトルの最大ピーク(近赤外光の発光ピーク)は、可視光の発光ピークに比べて、10倍以上の強度を有しており、デバイス1は、主としては近赤外光を発光している。このように、デバイス1は、近赤外光を発し、かつ、可視光の発光が視認されやすいことがわかった。
【0243】
表2に示すように、デバイス1の輝度/放射輝度は2.1であり、比較デバイス2の輝度/放射輝度は0.05であった。このことから、デバイス1は、近赤外光の発光強度に対して、可視光の発光強度が高いことがわかった。このことからも、デバイス1は、近赤外光を発し、かつ、可視光の発光が視認されやすいといえる。一方で、比較デバイス2は、近赤外光を発し、かつ、可視光の発光が視認されにくいといえる。
【0244】
表2に示すように、デバイス1の外部量子効率は、3.1%であった。これは、近赤外光を発する発光デバイスの外部量子効率としては、高い値ということができる。なお、デバイス1の外部量子効率は、波長600nm以上1030nm以下の範囲の近赤外分光放射計(SR-NIR、トプコン社製)を用いた測定結果より算出した。当該範囲は、デバイス1における可視光領域の発光ピークよりも長波長側の領域である。当該外部量子効率は、デバイス1における主に近赤外光より算出した外部量子効率とみなすことができる。
【0245】
また、デバイス1に用いた2つのホスト材料の混合膜Aと、比較デバイス2に用いた2つのホスト材料の混合膜Bと、を、それぞれ作製し、発光スペクトル(PLスペクトル)を測定した。
【0246】
混合膜Aは、石英基板上に、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、を、2mDBTBPDBq-II:PCBBiF=0.7:0.3(重量比)とし、膜厚50nmとなるように共蒸着して形成した。ここで、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、は、励起錯体を形成する組み合わせである。
【0247】
混合膜Bは、石英基板上に、2,8mDBtP2Bfqnと、m-MTDATAと、を、2,8mDBtP2Bfqn:m-MTDATA=0.7:0.3(重量比)とし、膜厚50nmとなるように共蒸着して形成した。ここで、2,8mDBtP2Bfqnと、m-MTDATAと、は、励起錯体を形成する組み合わせである。
【0248】
各ホスト材料のHOMO準位及びLUMO準位を表3に示す。なお、当該HOMO準位及びLUMO準位は、サイクリックボルタンメトリ(CV)測定によって測定した材料の電気化学特性(還元電位及び酸化電位)から導出した。また、表3には、デバイス1及び比較デバイス2に用いたゲスト材料のHOMO準位及びLUMO準位も示す。
【0249】
【0250】
表3を用いて、デバイス1及び混合膜Aに用いた2つのホスト材料のHOMO準位及びLUMO準位について説明する。PCBBiFのHOMO準位は、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位及び2mDBTBPDBq-IIのHOMO準位のそれぞれよりも高いことがわかる。具体的には、PCBBiFのHOMO準位(-5.36eV)は、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位(-5.54eV)よりも、0.18eV高い。また、PCBBiFのHOMO準位(-5.36eV)と、2mDBTBPDBq-IIのLUMO準位(-2.94eV)と、の差は、2.42eVであり、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位(-5.54eV)とLUMO準位(-3.49eV)と、の差(2.05eV)に比べて大きい。
【0251】
次に、表3を用いて、比較デバイス2及び混合膜Bに用いた2つのホスト材料のHOMO準位及びLUMO準位について説明する。m-MTDATAのHOMO準位は、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位及び2,8mDBtP2BfqnのHOMO準位のそれぞれよりも高いことがわかる。具体的には、m-MTDATAのHOMO準位(-4.98eV)は、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位(-5.54eV)よりも、0.56eV高い。また、m-MTDATAのHOMO準位(-4.98eV)と、2,8mDBtP2BfqnのLUMO準位(-3.31eV)と、の差は、1.67eVであり、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位(-5.54eV)とLUMO準位(-3.49eV)と、の差(2.05eV)に比べて小さい。
【0252】
PLスペクトルは、室温で、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用いて測定した。
【0253】
図8及び
図9に、混合膜AのPLスペクトルと、デバイス1の発光スペクトル(
図6及び
図7と同様)と、を示す。なお、
図9は、縦軸が対数表示である点で、
図8と異なる。
【0254】
図10及び
図11に、混合膜BのPLスペクトルと、比較デバイス2の発光スペクトル(
図6と同様)と、を示す。なお、
図11は、縦軸が対数表示である点で、
図10と異なる。
【0255】
図8に示すように、混合膜AのPLスペクトルの最大ピーク波長は516nmであった。PCBBiFのHOMO準位と2mDBTBPDBq-IIのLUMO準位との差から、混合膜Aの発光は、これら2つの材料が形成する励起錯体に由来する発光であるといえる。
【0256】
図10に示すように、混合膜BのPLスペクトルの最大ピーク波長は678nmであった。m-MTDATAのHOMO準位と2,8mDBtP2BfqnのLUMO準位との差から、混合膜Bの発光は、これら2つの材料が形成する励起錯体に由来する発光であるといえる。
【0257】
デバイス1の可視光領域の発光ピーク波長は、混合膜AのPLスペクトルの最大ピーク波長と近いことから、デバイス1で確認された可視光の発光は、2つのホスト材料により形成された励起錯体に由来する発光であったことが示された。
【0258】
混合膜AのPLスペクトルの最大ピーク波長は、視感度の高い波長域に含まれる。そのため、混合膜Aに用いた2つのホスト材料によって形成される励起錯体に由来する発光は、視感度が高い発光である。したがって、デバイス1は、励起錯体に由来する可視光を視認しやすい発光デバイスである。
【0259】
上述の通り、混合膜Aに用いた、PCBBiFのHOMO準位と、2mDBTBPDBq-IIのLUMO準位と、の差は、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]のHOMO準位とLUMO準位と、の差に比べて大きく、また、視感度の高い範囲に含まれている。これにより、これら2つの材料で形成する励起錯体に由来する発光の視感度を高くすることができる。
【0260】
以上のように、本実施例から、2つのホスト材料により形成される励起錯体の発光を、視感度が高い波長の光とすることで、近赤外光を発し、かつ、可視光の発光が視認されやすい発光デバイスを作製できることがわかった。
【0261】
次に、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に「吸収スペクトル」という)及び発光スペクトル(PLスペクトル)を測定した結果を、
図12及び
図13に示す。
【0262】
吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.010mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。また、発光スペクトルの測定には、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用い、窒素雰囲気下でジクロロメタン脱酸素溶液(0.010mmol/L)を石英セルに入れ、密栓し、室温で測定を行った。
【0263】
図12に示す吸収スペクトルは、ジクロロメタン溶液(0.010mmol/L)を石英セルに入れて測定した吸収スペクトルから、ジクロロメタンのみを石英セルに入れて測定した吸収スペクトルを差し引いた結果を示す。
【0264】
図12から、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]の最も長波長側(最も低エネルギー側)に位置する吸収端は、810nm(1.53eV)であることがわかった。上述の通り、混合膜AのPLスペクトルの最大ピークは、516nm(2.40eV)であった。このことから、デバイス1における励起錯体の発光スペクトルの最大ピークは、当該吸収端よりも短波長である(エネルギーが大きい)ことがわかった。
【0265】
また、
図12から、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]の最も長波長側(最も低エネルギー側)に位置する吸収帯のピークは、757nm(1.64eV)であることがわかった。このことから、デバイス1における励起錯体の発光スペクトルの最大ピークは、当該吸収帯のピークよりも短波長側(高エネルギー側)にあることがわかった。具体的には、デバイス1における励起錯体の発光スペクトルの最大ピークは、当該吸収帯のピークのエネルギーよりも、0.76eV大きかった。
【0266】
図13に示すように、[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]は、807nm(1.54eV)に発光ピークを示し、ジクロロメタン溶液からは近赤外の発光が観測された。また、当該発光ピークの立ち上がりは、754nm(1.64eV)であった。
【0267】
図14に、デバイス1の放射輝度に応じた分光放射輝度の変化を示す。
図14には、放射輝度(単位:W/sr/m
2)が、0.7、1.3、2.0、3.1、4.5、6.4、8.3、11.9のときの、分光放射輝度(単位:W/sr/m
2/nm)を示す。
図14に示す発光スペクトルにおいて、波長380nm以上749nm以下の範囲は、分光放射輝度計(SR-UL1R、トプコン社製)を用いた測定結果であり、波長750nm以上1030nm以下の範囲は、近赤外分光放射計(SR-NIR、トプコン社製)を用いた測定結果である。
【0268】
また、
図15に、デバイス1の放射輝度とCIE色度座標(x、y)との関係を示す。なお、
図15における色度の値には、波長380nm以上780nm以下の範囲の、分光放射輝度計(SR-UL1R、トプコン社製)を用いた測定結果を用いた。また、
図14及び
図15における放射輝度の値には、波長600nm以上1030nm以下の範囲の、近赤外分光放射計(SR-NIR、トプコン社製)を用いた測定結果を用いた。
【0269】
図14の2つの矢印で示す箇所を比較することで、放射輝度によって、ホスト材料由来の発光と励起錯体由来の発光との強度比に差が生じることがわかった。
【0270】
図15に示すように、放射輝度が高くなるほど、色度xと色度yの値はどちらも小さくなることがわかった。具体的には、緑色から白色へと変化していた。したがって、デバイス1の可視光の発光色を確認することで、放射輝度の高さの見当をつけられることがわかった。
【0271】
≪デバイス1の信頼性試験≫
次に、デバイス1に対する信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を
図16に示す。
図16において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は駆動時間(h)を示す。なお、信頼性試験は、電流密度を75mA/cm
2に設定し、デバイス1を駆動させた。
【0272】
図16に示すように、デバイス1は、輝度の劣化が小さく、高い信頼性を示すことがわかった。特に、ゲスト材料だけでなく、励起錯体も発光しているデバイスとして、高い信頼性が得られていることがわかった。これは、ゲスト材料のT
1準位が低いことが関係していると考えられる。具体的には、ゲスト材料の励起準位が低く、励起状態が安定しているため、ホスト材料の励起状態とゲスト材料の励起状態の間の反応などの副反応が生じにくく、発光デバイスの信頼性を高められたと考えられる。
【実施例2】
【0273】
本実施例では、本発明の一態様の発光デバイスを作製し、評価した結果について説明する。
【0274】
本実施例では、本発明の一態様の発光デバイスとして、発光層813中のゲスト材料の濃度がそれぞれ異なる4種類のデバイスを作製し、評価した結果について説明する。
【0275】
本実施例で用いる発光デバイスの構造を
図5に示し、具体的な構成について表4に示す。また、本実施例で用いる材料の構造式を以下に示す。なお、既に示した材料については省略する。
【0276】
【0277】
【0278】
≪発光デバイスの作製≫
本実施例で作製した発光デバイスは、実施例1で作製した発光デバイスと同様の構造を有する(
図5)。
【0279】
まず、基板800上に第1の電極801を形成した。電極面積は、4mm2(2mm×2mm)とした。基板800には、ガラス基板を用いた。第1の電極801は、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法により成膜して形成した。第1の電極801の膜厚は、70nmとした。なお、本実施例において、第1の電極801は、陽極として機能する。
【0280】
ここで、前処理として、基板の表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。その後、1×10-4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板を30分程度放冷した。
【0281】
次に、第1の電極801上に正孔注入層811を形成した。正孔注入層811は、真空蒸着装置内を1×10-4Pa程度に減圧した後、PCBBiFとALD-MP001Q(分析工房株式会社、材料シリアル番号:1S20180314)とを、PCBBiF:ALD-MP001Q=1:0.1(重量比)とし、膜厚が10nmになるように共蒸着して形成した。
【0282】
次に、正孔注入層811上に正孔輸送層812を形成した。正孔輸送層812は、PCBBiFを用い、膜厚が130nmになるように蒸着して形成した。
【0283】
次に、正孔輸送層812上に発光層813を形成した。ホスト材料として、9-[(3’-ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ナフト[1’,2’:4,5]フロ[2,3-b]ピラジン(略称:9mDBtBPNfpr)と、PCBBiFと、を用い、ゲスト材料(燐光材料)として、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]を用いた。重量比が9mDBtBPNfpr:PCBBiF:[Ir(dmdpbq)2(dpm)]=0.7:0.3:X(X=0.01、0.025、0.05、または0.1)となるように共蒸着した。つまり、本実施例の4つのデバイスにおける、ゲスト材料の濃度は、それぞれ、1.0wt%、2.4wt%、4.8wt%、9.1wt%である。なお、膜厚は、10nmとした。
【0284】
次に、発光層813上に電子輸送層814を形成した。電子輸送層814は、9mDBtBPNfprの膜厚が20nm、NBphenの膜厚が60nmとなるように順次蒸着して形成した。
【0285】
次に、電子輸送層814上に電子注入層815を形成した。電子注入層815は、LiFを用い、膜厚が1nmになるように蒸着して形成した。
【0286】
次に、電子注入層815上に第2の電極803を形成した。第2の電極803は、アルミニウムを蒸着法により、膜厚が200nmとなるように形成した。なお、本実施例において、第2の電極803は、陰極として機能する。
【0287】
以上の工程により、基板800上に一対の電極間にEL層802を挟んでなる発光デバイスを形成した。なお、上記工程で説明した正孔注入層811、正孔輸送層812、発光層813、電子輸送層814、電子注入層815は、本発明の一態様におけるEL層を構成する機能層である。また、上述した作製方法における蒸着工程では、全て抵抗加熱法による蒸着法を用いた。
【0288】
また、上記に示すように作製した発光デバイスは、別の基板(図示せず)により封止される。なお、別の基板(図示せず)を用いた封止の際は、窒素雰囲気のグローブボックス内において、紫外光により固化する接着剤を塗布した別の基板(図示せず)を基板800上に固定し、基板800上に形成された発光デバイスの周囲に接着剤が付着するよう基板同士を接着させた。封止時には365nmの紫外光を6J/cm2照射し接着剤を固化し、80℃にて1時間熱処理することにより接着剤を安定化させた。
【0289】
≪発光デバイスの動作特性≫
本実施例で作製した発光デバイスの動作特性について測定した。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。波長380nm以上749nm以下の範囲の測定には、分光放射輝度計(SR-UL1R、トプコン社製)を用いた。波長750nm以上1030nm以下の範囲の測定には、近赤外分光放射計(SR-NIR、トプコン社製)を用いた。
【0290】
図17及び
図18に、4つの発光デバイスに5.0mA/cm
2の電流密度で電流を流した際の発光スペクトルを示す。なお、
図18は、可視光領域を拡大したグラフである。
【0291】
さらに、
図17では、発光層813に用いた2つのホスト材料の混合膜の発光スペクトル(PLスペクトル)も示す。
【0292】
混合膜は、石英基板上に、9mDBtBPNfprと、PCBBiFと、を、9mDBtBPNfpr:PCBBiF=0.7:0.3(重量比)とし、膜厚50nmとなるように共蒸着して形成した。ここで、9mDBtBPNfprと、PCBBiFと、は、励起錯体を形成する組み合わせである。PLスペクトルは、室温で、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用いて測定した。
【0293】
また、表5に電流0.2mA(電流密度5.0mA/cm2)における本実施例のデバイスの主な初期特性値を示す。なお、放射束及び外部量子効率は、発光デバイスの配光特性がランバーシアン型と仮定して、放射輝度を用いて算出した。
【0294】
【0295】
図17に示すように、いずれの発光デバイスも、発光層813に含まれる[Ir(dmdpbq)
2(dpm)]に由来して、近赤外光を発していることがわかった。
【0296】
図17及び
図18に示すように、各発光デバイスの発光スペクトルには、可視光の波長域に比較的大きな発光ピークが確認された。各発光デバイスが発する光には、可視光の中でも視感度の高い波長域の光が含まれることがわかった。つまり、本実施例の各発光デバイスは、可視光の発光が視認されやすい。
【0297】
図17に示す混合膜のPLスペクトルの発光ピーク波長は542nm(2.29eV)であり、9mDBtBPNfprのLUMO準位(-3.05eV)とPCBBiFのHOMO準位(-5.36eV)との差のエネルギー(2.31eV)と近い値を示していることから、励起錯体に由来する発光が得られたことが示された。
【0298】
各発光デバイスの可視光領域の発光ピーク波長は、混合膜のPLスペクトルの発光ピーク波長と近いことから、本実施例の発光デバイスで確認された可視光の発光は、2つのホスト材料により形成された励起錯体に由来する発光であることが示された。
【0299】
ここで、
図19に、ゲスト材料の濃度と、発光デバイスの輝度/放射輝度と、の関係を示す。また、
図20に、ゲスト材料の濃度と、発光デバイスの外部量子効率と、の関係を示す。なお、本実施例の発光デバイスの外部量子効率は、波長600nm以上1030nm以下の範囲の測定結果より算出した。当該範囲は、本実施例の発光デバイスにおける可視光領域の発光ピークよりも長波長側の領域である。当該外部量子効率は、本実施例の発光デバイスにおける主に近赤外光より算出した外部量子効率とみなすことができる。
【0300】
図19に示すように、ゲスト材料の濃度が低いほど、発光デバイスの輝度/放射輝度は大きいことがわかった。つまり、ゲスト材料の濃度が低いほど、近赤外光の発光強度に対して可視光の発光強度が高くなることがわかった。
【0301】
励起錯体に由来する可視光の発光が強い場合、励起錯体からゲスト材料にエネルギー移動が十分にできていないと考えられる。しかし、
図20に示すように、ゲスト材料の濃度が2.4wt%、4.8wt%、9.1wt%の3つの発光デバイスにおいては、ゲスト材料の濃度が低い方が、外部量子効率が高くなった。これは、ゲスト材料の濃度が低いことで、ゲスト材料の濃度消光が抑制されたためと考えられる。
【0302】
以上のことから、ゲスト材料の濃度を低くすることで、可視光が視認しやすく、かつ、近赤外光の発光効率が高い、発光デバイスを実現できることがわかった。
【0303】
(参考例)
上記実施例1で用いたビス{4,6-ジメチル-2-[3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ベンゾ[g]キノキサリニル-κN]フェニル-κC}(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:[Ir(dmdpbq)2(dpm)])の合成方法について、具体的に説明する。[Ir(dmdpbq)2(dpm)]の構造を以下に示す。
【0304】
【0305】
<ステップ1;2,3-ビス-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ベンゾ[g]キノキサリン(略称:Hdmdpbq)の合成>
まず、ステップ1では、Hdmdpbqを合成した。3,3’,5,5’-テトラメチルベンジル3.20g、2,3-ジアミノナフタレン1.97g、エタノール60mLを、還流管を付けた三口フラスコに入れ、内部を窒素置換した後、90℃で7時間半撹拌した。所定時間経過後、溶媒を留去した。その後、トルエンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物を得た(黄色固体、収量3.73g、収率79%)。ステップ1の合成スキームを(a-1)に示す。
【0306】
【0307】
ステップ1で得られた黄色固体の核磁気共鳴分光法(1H-NMR)による分析結果を下記に示す。分析結果から、Hdmdpbqが得られたことがわかった。
【0308】
得られた物質の1H NMRデータを以下に示す。
1H-NMR.δ(CD2Cl2):2.28(s,12H),7.01(s,2H),7.16(s,4H),7.56-7.58(m,2H),8.11-8.13(m,2H),8.74(s,2H).
【0309】
<ステップ2;ジ-μ-クロロ-テトラキス{4,6-ジメチル-2-[3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ベンゾ[g]キノキサリニル-κN]フェニル-κC}ジイリジウム(III)(略称:[Ir(dmdpbq)2Cl]2)の合成>
次に、ステップ2では、[Ir(dmdpbq)2Cl]2を合成した。2-エトキシエタノール15mL、水5mL、ステップ1で得たHdmdpbq1.81g、及び、塩化イリジウム水和物(IrCl3・H2O)(フルヤ金属社製)0.66gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を2時間照射し、反応させた。所定時間経過後、得られた残渣をメタノールで吸引ろ過、洗浄し、目的物を得た(黒色固体、収量1.76g、収率81%)。ステップ2の合成スキームを(a-2)に示す。
【0310】
【0311】
<ステップ3;[Ir(dmdpbq)2(dpm)]の合成>
そして、ステップ3では、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]を合成した。2-エトキシエタノール20mL、ステップ2で得た[Ir(dmdpbq)2Cl]21.75g、ジピバロイルメタン(略称:Hdpm)0.50g、及び、炭酸ナトリウム0.95gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を3時間照射した。得られた残渣を、メタノールで吸引ろ過した後、水、メタノールで洗浄した。得られた固体を、ジクロロメタンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した後、ジクロロメタンとメタノールの混合溶媒にて再結晶することにより、目的物を得た(暗緑色固体、収量0.42g、収率21%)。得られた暗緑色固体0.41gを、トレインサブリメーション法により昇華精製した。昇華精製条件は、圧力2.7Pa、アルゴンガスを流量10.5mL/minで流しながら、300℃で暗緑色固体を加熱した。昇華精製後、暗緑色固体を収率78%で得た。ステップ3の合成スキームを(a-3)に示す。
【0312】
【0313】
ステップ3で得られた暗緑色固体の核磁気共鳴分光法(1H-NMR)による分析結果を下記に示す。分析結果から、[Ir(dmdpbq)2(dpm)]が得られたことがわかった。
【0314】
1H-NMR.δ(CD2Cl2):0.75(s,18H),0.97(s,6H),2.01(s,6H),2.52(s,12H),4.86(s,1H),6.39(s,2H),7.15(s,2H),7.31(s,2H),7.44-7.51(m,4H),7.80(d,2H),7.86(s,4H),8.04(d,2H),8.42(s,2H),8.58(s,2H).
【符号の説明】
【0315】
101:第1の電極、102:第2の電極、103:EL層、103a:EL層、103b:EL層、104:電荷発生層、111:正孔注入層、112:正孔輸送層、113:発光層、114:電子輸送層、115:電子注入層、301:基板、302:画素部、303:回路部、304a:回路部、304b:回路部、305:シール材、306:基板、307:配線、308:FPC、309:トランジスタ、310:トランジスタ、311:トランジスタ、312:トランジスタ、313:第1の電極、314:絶縁層、315:EL層、316:第2の電極、317:有機ELデバイス、318:空間、401:第1の電極、402:EL層、403:第2の電極、405:絶縁層、406:導電層、407:接着層、416:導電層、420:基板、422:接着層、423:バリア層、424:絶縁層、450:有機ELデバイス、490a:基板、490b:基板、490c:バリア層、800:基板、801:第1の電極、802:EL層、803:第2の電極、811:正孔注入層、812:正孔輸送層、813:発光層、814:電子輸送層、815:電子注入層、911:筐体、912:光源、913:検知ステージ、914:撮像装置、915:発光部、916:発光部、917:発光部、921:筐体、922:操作ボタン、923:検知部、924:光源、925:撮像装置、931:筐体、932:操作パネル、933:搬送機構、934:モニタ、935:検知ユニット、936:被検査部材、937:撮像装置、938:光源、981:筐体、982:表示部、983:操作ボタン、984:外部接続ポート、985:スピーカ、986:マイク、987:カメラ、988:カメラ、