(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】エクソソームの測定方法およびエクソソームの測定キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240930BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240930BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 575
G01N33/543 595
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2021527640
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024585
(87)【国際公開番号】W WO2020262374
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019119824
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 高敏
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0334398(US,A1)
【文献】特開2016-125937(JP,A)
【文献】特開2019-050737(JP,A)
【文献】特表2014-522993(JP,A)
【文献】ZHU, Ling et al.,Label-Free Quantitative Detection of Tumor-Derived Exosomes through Surface Plasmon Resonance Imagin,Analytical Chemistry,2014年,86(17),8857-8864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜と、前記金属膜に固定化された、エクソソームに結合する第1の結合物質とを含む測定チップを準備する工程と、
前記金属膜上にエクソソームを含む検体を提供して、前記検体に含まれる前記エクソソームを前記第1の結合物質に結合させる工程と、
前記第1の結合物質に結合する前または結合した後の前記エクソソームを、前記エクソソームに結合する第2の結合物質を介して蛍光物質で標識する工程と、
前記蛍光物質で標識された前記エクソソームが前記第1の結合物質に結合している状態で、前記金属膜で表面プラズモン共鳴が生じるように前記金属膜に励起光を照射し、前記蛍光物質から放出される蛍光を検出する工程と、
を含
み、
前記励起光の照射エネルギーは、7.5μW/mm
2
以上30mW/mm
2
以下である、
エクソソームの測定方法。
【請求項2】
前記第1の結合物質は前記エクソソームが有する第1の結合決定基に結合するものであり、前記第2の結合物質は前記エクソソームが有する第2の結合決定基に結合するものであり、前記第1の結合決定基と前記第2の結合決定基とは異なる、請求項1に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項3】
前記第1の結合決定基および前記第2の結合決定基の少なくとも一方が、前記エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基である、請求項2に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項4】
前記第1の結合決定基および前記第2の結合決定基の少なくとも一方が、前記エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基である、請求項2または3に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項5】
前記標識する工程において、前記第2の結合物質に対して結合する第3の結合物質を用いて前記エクソソームを蛍光物質で標識する、請求項1~4のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項6】
前記励起光の照射エネルギーは、7.5μW/mm
2以上10mW/mm
2以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項7】
前記金属膜上にエクソソームを含む検体を提供する前に、前記検体に界面活性剤を添加する、請求項1~6のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、Tween20、デオキシコール酸ナトリウム、およびTriton-X100からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項9】
前記検体が、血清、血漿、全血またはこれらの希釈物である、請求項1~8のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項10】
前記検体が、エクソソーム抽出物である、請求項1~8のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項11】
前記金属膜は、プリズムの上に配置されており、
前記励起光は、プリズムを介して前記金属膜に照射される、
請求項1~10のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項12】
前記金属膜は、回折格子を含み、
前記第1の結合物質は、前記回折格子の上に固定化されており、
前記励起光は、前記回折格子に照射される、
請求項1~10のいずれか一項に記載のエクソソームの測定方法。
【請求項13】
金属膜と、前記金属膜に固定化された、エクソソームに結合する第1の結合物質とを含む測定チップと、
エクソソームを蛍光物質で標識するための標識試薬と、
を含み、
前記標識試薬が、前記エクソソームに結合する第2の結合物質を含
み、
前記蛍光物質で標識された前記エクソソームが前記第1の結合物質に結合している状態で、前記金属膜で表面プラズモン共鳴が生じるように前記金属膜に励起光を照射し、前記蛍光物質から放出される蛍光を検出する工程において、
前記励起光の照射エネルギーは、7.5μW/mm
2
以上30mW/mm
2
以下である、
エクソソームの測定キット。
【請求項14】
前記第1の結合物質は前記エクソソームが有する第1の結合決定基に結合するものであり、前記第2の結合物質は前記エクソソームが有する第2の結合決定基に結合するものであり、前記第1の結合決定基と前記第2の結合決定基とは異なる、請求項13に記載のエクソソームの測定キット。
【請求項15】
前記第1の結合決定基および前記第2の結合決定基の少なくとも一方が、前記エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基である、請求項14に記載のエクソソームの測定キット。
【請求項16】
前記第1の結合決定基および前記第2の結合決定基の少なくとも一方が、前記エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基である、請求項14または15に記載のエクソソームの測定キット。
【請求項17】
前記標識試薬が、前記第2の結合物質に対して結合する第3の結合物質をさらに含む、請求項13~16のいずれか一項に記載のエクソソームの測定キット。
【請求項18】
検体に添加するための界面活性剤をさらに含む、請求項13~17のいずれか一項に記載のエクソソームの測定キット。
【請求項19】
前記界面活性剤が、Tween20、デオキシコール酸ナトリウム、およびTriton-X100からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項18に記載のエクソソームの測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームの測定方法およびエクソソームの測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、細胞により産生されて細胞外に放出される、直径40nm~150nm程度の膜小胞である。エクソソームは、リン脂質二重膜で覆われており、膜タンパク質やマイクロRNA(miRNA)といった多様な細胞成分を含む。細胞の種類や状態によって異なるエクソソームが細胞から放出されることから、エクソソームは細胞間や臓器間のコミュニケーションを仲介すると考えられている。
【0003】
近年、癌や感染症といった様々な疾患の診断マーカーとして、血液や唾液といった体液中に分泌されたエクソソームが着目されている。例えば、特許文献1には、腫瘍マーカーとなるエクソソームを検出するための分析方法、分析試薬および分析装置が開示されている。この方法では、エクソソームが有する抗原に対する抗体と、エクソソームを分泌する細胞が有する抗原に対する抗体とを使用し、アビジン-ビオチン相互作用に基づき、エクソソームを検出している。また、特許文献2には、凹凸構造を有する合性樹脂などからなるベース部の凹部にエクソソームに対する抗体を固定し、凹部にエクソソームを捕捉する、エクソソーム分析用デバイスおよびエクソソームの捕捉方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/094307号
【文献】特開2014-219384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、これまでに様々なエクソソームの分析方法が開発されてきたが、より高感度かつより高い再現性でエクソソームを測定できる方法が求められている。
【0006】
本発明は、従来の測定方法よりも高感度かつ簡便に検体中のエクソソームの濃度を測定できる、エクソソームの測定方法およびエクソソームの測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの測定方法は、金属膜と、前記金属膜に固定化された、エクソソームに結合する第1の結合物質とを含む測定チップを準備する工程と、前記金属膜上にエクソソームを含む検体を提供して、前記検体に含まれる前記エクソソームを前記第1の結合物質に結合させる工程と、前記第1の結合物質に結合する前または結合した後の前記エクソソームを、前記エクソソームに結合する第2の結合物質を介して蛍光物質で標識する工程と、前記蛍光物質で標識された前記エクソソームが前記第1の結合物質に結合している状態で、前記金属膜で表面プラズモン共鳴が生じるように前記金属膜に励起光を照射し、前記蛍光物質から放出される蛍光を検出する工程と、を含む。
【0008】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの測定キットは、金属膜と、前記金属膜に固定化された、エクソソームに結合する第1の結合物質とを含む測定チップと、エクソソームを蛍光物質で標識するための標識試薬と、を含み、前記標識試薬が、前記エクソソームに結合する第2の結合物質を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の測定方法よりも高感度かつ簡便に検体中のエクソソームの濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図1B】
図1Bは、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法の他の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2Aは、PC-SPFS用の測定チップの構成を説明するための断面模式図であり、
図2Bは、GC-SPFS用の測定チップの構成を説明するための断面模式図である。
【
図3A】
図3Aは、PC-SPFS用の測定チップの一例を示す断面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、PC-SPFS用の測定チップの他の一例を示す斜視模式図である。
【
図3C】
図3Cは、PC-SPFS用の測定チップの他の一例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、エクソソームの個数と濃度との関係を示す検量線である。
【
図5】
図5は、CD9陽性CD63陽性エクソソーム検量線である。
【
図6】
図6は、CD9陽性CD63陽性エクソソームに関する、照射エネルギー、シグナル対ノイズ比(S/N)および検出限界の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、CD9陽性PSMA陽性エクソソームの検量線である。
【
図8】
図8は、CD9陽性PSMA陽性エクソソームに関する、照射エネルギー、シグナル対ノイズ比(S/N)および検出限界の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、LNCap細胞由来のCD9陽性CD63陽性エクソソームの検量線である。
【
図10】
図10は、LNCap細胞由来のCD9陽性CD63陽性エクソソームに関する、照射エネルギー、シグナル対ノイズ比(S/N)および検出限界の関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、エクソソーム上の糖鎖を認識するレクチンを用いた、LNCap細胞由来のCD9陽性糖鎖保有エクソソームの検量線である。
【
図12】
図12は、エクソソーム上の糖鎖を認識するレクチンを用いた、前立腺癌細胞に由来するCD9陽性糖鎖保有エクソソームの検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
[エクソソームの測定方法]
エクソソームは、正常な細胞によっても、癌細胞などの疾患関連細胞によっても分泌されるものである。よって、エクソソームを疾患のマーカーとして利用するためには、検体(例えば血液)中に存在する大量の正常細胞由来のエクソソームと、より少量の疾患関連細胞由来のエクソソームとを区別して検出することが可能な方法が必要となる。一般的に血清中に存在するエクソソームの濃度は1.0×1011個/ml(1.0×108個/μl)程度といわれており、その中から疾患(例えば癌)に関連するエクソソームを検出するには、1.0×106個/ml(1.0×103個/μl)以下のエクソソームを検出可能な方法が必要である。
【0013】
本実施の形態に係るエクソソームの測定方法では、測定感度を向上させるために、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy、以下「SPFS」ともいう)を利用してエクソソームを測定する。SPFSは、表面プラズモン共鳴(以下「SPR」ともいう)により増強された電場により蛍光物質を励起して蛍光を放出させるため、一般的な蛍光免疫測定法よりもターゲット(本実施の形態ではエクソソーム)を高感度に検出することができる。
【0014】
また、SPFSは、検体として全血も使用することができるため、血液中のエクソソームを精製することなく、少ない手順で簡便に疾患関連エクソソームを検出することができる。
【0015】
本発明者らは上記の考えのもとに、鋭意検討を重ねた結果、SPFSで高感度にエクソソームを測定できることを見出し、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法を完成させた。
【0016】
以下、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法について、具体的に説明する。
図1Aは、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法の一例である、1次反応および2次反応を用いる測定方法を示すフローチャートであり、
図1Bは、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法の一例である、1次反応、2次反応および3次反応を用いる測定方法を示すフローチャートである。
【0017】
(測定チップの準備)
まず、金属膜と、エクソソームに結合する第1の結合物質とを含む測定チップを準備する(工程S10)。SPFSでは、金属膜に光(本実施の形態では励起光)を照射したときに生じるエバネッセント波と表面プラズモンとを結合させてSPRを生じさせる。SPRを生じさせる手法としては、金属膜の一方の面上にプリズムを配置する手法(Kretschmann配置)や、金属膜に回折格子を形成する手法などが知られている。前者の手法を採用したSPFSは、プリズムカップリング(PC)-SPFSと称され、後者の手法を採用したSPFSは、格子カップリング(GC)-SPFSと称される。本実施の形態に係るエクソソームの測定方法は、PC-SPFSおよびGC-SPFSのどちらを採用してもよい。
【0018】
上述のとおり、金属膜は、励起光を照射されたときにSPRを生じさせる。金属膜を構成する金属の種類は、SPRを生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜を構成する金属の例には、金、銀、銅、アルミニウムおよびこれらの合金が含まれる。
【0019】
第1の結合物質は、エクソソームに結合することができ、検体中のエクソソームを捕捉するために金属膜上に固定化されている。通常、第1の結合物質は、金属膜上の所定の領域(反応場)に均一に固定化されている。金属膜に固定化される第1の結合物質の種類は、エクソソームに結合することができるもの、即ち、エクソソームが有する第1の結合決定基に結合するものであれば特に限定されない。結合物質の例には、エクソソームに結合できる抗体、エクソソームに結合できる核酸、エクソソームに結合できる脂質、およびエクソソームに結合できる抗体以外のタンパク質、例えば、エクソソーム上の糖鎖に結合できるレクチン、が含まれる。ここで、エクソソームが有する結合決定基とは、結合物質がエクソソームに結合する際に認識するエクソソームの一部分である。例えば、結合物質が抗体の場合、結合決定基は抗原の抗原決定基(エピトープ)であり、結合物質がリガンドの場合、結合決定基は対応する受容体の結合部位である。
【0020】
第1の結合物質が結合する、エクソソームが有する第1の結合決定基に特に限定はないが、エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基や、エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基が含まれる。エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基としては、CD9、CD63、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、アネキシン V(Annexin V)、LAMP1等が挙げられる。これら結合決定基に対する抗体は市販されており、当該抗体を第1の結合物質として使用することができる。エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基に結合する第1の結合物質に上記の物質と反応する物質(例えば抗体)を使用する場合、エクソソームにのみ結合するため、検体中のエクソソームを検出するのに有効である。
【0021】
エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基としては、カベオリン-1(Caveolin-1)、PSMA、EpCAM、グリピカン-1(Grypican-1)、サバイビン(Survivin)、CD91、Tspan8、CD147、EGFR、HER2、CD44、ガラクチン(Galactin)、インテグリン(Integrin)等が挙げられる。これら結合決定基に対する抗体も市販されており、当該抗体を第1の結合物質として使用することができる。第1の結合物質としてエクソソームを分泌する細胞マーカーとして知られる結合決定基に結合する結合物質(例えば抗体)を使用する場合は、特定の細胞およびそこから分泌されたエクソソームにのみ結合するため、検体中の特定の細胞由来のエクソソームを検出するのに有効である。
【0022】
第1の結合物質が抗体である場合、当該抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよいし、抗体の断片であってもよい。また、金属膜に固定化される第1の結合物質の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。たとえば、金属膜に固定化される第1の結合物質が抗体の場合、当該抗体は、1種類または2種類以上のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0023】
なお、第1の結合物質は、蛍光標識と関連して説明する第2の結合物質との組み合わせを考慮して選択することが好ましい。第1の結合物質と第2の結合物質との好ましい組み合わせについては後述する。
【0024】
結合物質の固定化方法は、特に限定されない。たとえば、金属膜上に、結合物質(例えば抗体)を結合させた自己組織化単分子膜(以下「SAM」という)または高分子膜を形成すればよい。SAMの例には、HOOC-(CH2)11-SHなどの置換脂肪族チオールで形成された膜が含まれる。高分子膜を構成する材料の例には、ポリエチレングリコールおよびMPCポリマーが含まれる。また、結合物質(例えば抗エクソソーム抗体)に結合可能な反応性基(または反応性基に変換可能な官能基)を有する高分子を金属膜に固定化し、この高分子に結合物質(例えば抗体)を結合させてもよい。
【0025】
測定チップは、好ましくは各片の長さが数mm~数cmの構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないより小型の構造物またはより大型の構造物であってもよい。
【0026】
図2Aは、PC-SPFS用の測定チップの構成を説明するための断面模式図であり、
図2Bは、GC-SPFS用の測定チップの構成を説明するための断面模式図である。説明の便宜上、これらの図において、各構成要素の大きさおよび形状は、正確ではない。また、これらの図では、第1の結合物質としてエクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体を使用する例を示している。
【0027】
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の測定チップ100は、プリズム110、金属膜120およびエクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)130(の層)を有する。プリズム110は、励起光L1に対して透明な誘電体からなり、励起光L1が入射する入射面111と、励起光L1が反射する成膜面112と、反射光L2が出射する出射面113とを有する。プリズム110の形状は、特に限定されない。
図2Aに示される例では、プリズム110の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面112であり、一方の脚に対応する面が入射面111であり、他方の脚に対応する面が出射面113である。プリズム110の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム110の材料は、好ましくは、励起光に対する屈折率が1.4~1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。金属膜120は、プリズム110の成膜面112上に配置されている。金属膜120の形成方法は、特に限定されない。金属膜120の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、めっきが含まれる。金属膜120の厚みは、特に限定されないが、30~70nmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
図2Aに示されるように、金属膜120においてSPRが生じるようにプリズム110を介して金属膜120に励起光L1を照射すると、SPRにより増強された電場が金属膜120近傍に生じる。このとき、金属膜120上のエクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)130に蛍光物質150で標識された第2の結合物質131と反応したエクソソーム140が結合していると、蛍光物質150が増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。
【0029】
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の測定チップ200は、回折格子211を形成された金属膜210およびエクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)130(の層)を有する。金属膜210の形成方法は、特に限定されない。金属膜210の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、めっきが含まれる。金属膜210の厚みは、特に限定されないが、30~500nmの範囲内であることが好ましい。回折格子211の形状は、エバネッセント波を生じさせることができれば特に限定されない。たとえば、回折格子211は、1次元回折格子であってもよいし、2次元回折格子であってもよい。たとえば、1次元回折格子では、金属膜210の表面に、互いに平行な複数の凸部が所定の間隔で形成されている。2次元回折格子では、金属膜210の表面に、所定形状の凸部が周期的に配置されている。凸部の配列の例には、正方格子、三角(六方)格子などが含まれる。回折格子211の断面形状の例には、矩形波形状、正弦波形状、鋸歯形状などが含まれる。回折格子211の形成方法は、特に限定されない。たとえば、平板状の基板(不図示)の上に金属膜210を形成した後、金属膜210に凹凸形状を付与してもよい。また、予め凹凸形状を付与された基板(不図示)の上に、金属膜210を形成してもよい。いずれの方法であっても、回折格子211を含む金属膜210を形成することができる。
【0030】
図2Bに示されるように、金属膜210(回折格子211)においてSPRが生じるように金属膜210(回折格子211)に励起光L1を照射すると、SPRにより増強された電場が金属膜210(回折格子211)近傍に生じる。このとき、金属膜210(回折格子211)上のエクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)130に蛍光物質150で標識された第2の結合物質131と反応したエクソソーム140が結合していると、蛍光物質150が増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。
【0031】
図3A~3Cは、PC-SPFS用の測定チップの一例を示す断面模式図である。
図3Aに示されるように、測定チップ300は、入射面111、成膜面112および出射面113を有するプリズム110と、プリズム110の成膜面112に形成された金属膜120と、プリズム110の成膜面112または金属膜120上に配置された流路蓋310とを有する。
図3において、入射面111および出射面113は、紙面の手前および奥にそれぞれ存在している。測定チップ300は、さらに、流路320と、流路320の一端に接続された液体注入部330と、流路320の他端に接続された貯留部340も有する。本実施の形態では、流路蓋310は、両面テープなどの接着層350を介して金属膜120(またはプリズム110)に接着されており、接着層350は流路320の側面形状を規定する役割も担っている。
図3では省略しているが、流路320内に露出している金属膜120の一部の領域(反応場)には、エクソソーム上の抗原を認識する抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)130が固定化されている。液体注入部330は、液体注入部被覆フィルム331により塞がれ、貯留部340は、貯留部被覆フィルム341により塞がれている。貯留部被覆フィルム341には、通気孔342が設けられている。
【0032】
流路蓋310は、蛍光L3に対して透明な材料で形成されている。ただし、蛍光L3の取り出しの妨げにならない限り、流路蓋310の一部は蛍光L3に対して不透明な材料で形成されていてもよい。蛍光L3に対して透明な材料の例には、樹脂が含まれる。流路蓋310は、接着層350を用いずに、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより、金属膜120(またはプリズム110)に接合されていてもよい。この場合は、流路320の側面形状は、流路蓋310により規定される。
【0033】
液体注入部330には、ピペットチップが挿入される。このとき、液体注入部330の開口部(液体注入部被覆フィルム331に設けられた貫通孔)はピペットチップの外周に隙間なく接触する。このため、ピペットチップから液体注入部330内に液体を注入することで流路320内に液体を導入することができ、液体注入部330内の液体をピペットチップに吸引することで流路320内の液体を除去することができる。また、液体の注入および吸引を交互に行うことで、流路320内において液体を往復送液することもできる。
【0034】
液体注入部330から流路320内に流路320の容積を超える量の液体が導入された場合、貯留部340には流路320から液体が流入する。また、流路320内において液体を往復送液するときにも、貯留部340には液体が流入する。貯留部340に流入した液体は、貯留部340内で攪拌される。貯留部340内で液体が攪拌されると、流路320を通過する液体(検体や洗浄液など)の成分(例えばエクソソームや洗浄成分など)の濃度が均一になり、流路320内で各種反応が生じやすくなったり、洗浄効果が高まったりする。
【0035】
図3Bおよび
図3Cは、それぞれ、ウェル形状の測定チップの一例を示す模式図である。
図3Bは、反応検出部が底面にあるウェル形状の測定チップ400の模式図である(例えば、国際公開第2012/157403号を参照)。このチップにおいては、誘電体部材412が断面略台形形状の六面体(截頭四角錐形状)であり、ウェル部材418が誘電体部材412の形状に合わせて方形に構成されている。そしてセンサ構造体22の金属薄膜414上のリガンド固定領域416に検出対象となるエクソソームと結合する第1の結合物質を固定した状態で、エクソソームを含んだ試料溶液を貫通穴420内に供給し、センサ構造体422を撹拌する。
【0036】
また、
図3Cは、反応検出部が側壁面にあるウェルである(例えば、国際公開第2018/021238号を参照)。検出チップ500は、ウェル本体510および側壁部材520を有する。ウェル本体510は、その内部に収容部(ウェル)511を有している。収容部511は、液体を収容できるように構成された有底の凹部であり、上部に設けられた第1開口512および側部に設けられた第2開口513により外部に開放されている。側壁部材520は、光学素子としてのプリズム521、金属膜525および反応場526を有している。プリズム521は、励起光に対して透明な誘電体からなる光学素子であり、入射面(図示せず)、反射面523および出射面(図示せず)を有する。プリズム521は、収容部511を構成する側壁としても機能する。金属膜525上には捕捉領域があり、捕捉領域は、検体中のエクソソームを捕捉するための第1の結合物質が固定化される領域である。
【0037】
検体の種類は、エクソソームを含むものである限り、特に限定されない。検体の例には、血液(血清、血漿、全血)、尿、汗、唾液、母乳、精液、リンパ液、脳脊髄液、涙液等の体液、ならびにこれら体液を生理食塩水や緩衝液などで希釈した希釈液が含まれる。本実施の形態に係るエクソソームの検出方法では、SPFSを利用してエクソソームを検出するため、検体として全血も使用することができる。よって、入手の容易性等の観点から、血清、血漿、全血またはこれらの希釈液が、検体として好ましい。これらの検体にはエクソソーム以外にマイクロベシクルや夾雑物等も含まれている場合もある。本発明においては、遠心処理やフィルタリングによる除去などをせずに検体をそのまま測定に使用することが可能であるが、遠心処理やフィルタリングを行い、マイクロベシクルや夾雑物を除去または沈降させてから精製した液を測定に使用しても問題はない。また、イクロベシクルや夾雑物等の除去の方法についてはこれらに限定されない。
【0038】
また、検体は、体液から調製したエクソソーム抽出物であってもよい。体液からエクソソームを抽出して検体とすることで、体液そのものでは検出の難しかった極微量のエクソソームも検出して定量することが可能となる。エクソソームの抽出方法に特に限定はなく、従来から知られているエクソソームの抽出方法を採用することができる。例えば、超遠心分離法、免疫沈降法やポリマー沈殿法で、体液からエクソソームを抽出することができる。
【0039】
検体には、界面活性剤をさらに添加してもよい。界面活性剤を添加することでエクソソームの凝集を防止し、バックグラウンドノイズや測定値のバラツキを低減することが可能となる。界面活性剤は、生物・医学の分野で広く使用されている界面活性剤が好ましく、例えば、Tween20、デオキシコール酸ナトリウム、およびTriton-X100が含まれる。界面活性剤は、エクソソームを破壊することはないが、その凝集を防止する程度の濃度で使用すればよい。例えば、Tween20の場合、0.001%~5%以下、好ましくは0.005%~1%以下、より好ましくは0.010%~0.05%以下の濃度で使用することができる。また、デオキシコール酸ナトリウムの場合、0.001%~0.025%以下、好ましくは0.002%~0.020%以下、より好ましくは0.003%~0.010%以下の濃度で使用することができる。また、Triton-X100の場合、0.001%~0.010%以下、好ましくは0.002%~0.007%以下、より好ましくは0.003%~0.005%以下の濃度で使用することができる。
【0040】
(1次反応)
次に、測定チップの金属膜上に検体を提供して、金属膜に固定化された第1の結合物質に、検体に含まれるエクソソームを結合させる(1次反応;工程S20)。検体を提供する方法は、特に限定されない。たとえば、ピペットチップを先端に装着したピペットを用いて金属膜上に検体を提供すればよい。1次反応の反応時間に特に限定はないが、エクソソームと第1の結合物質との反応効率を上げるという観点からは、反応時間は長い方が好ましく、通常、5分以上180分以下、好ましくは60分以上150分以下、より好ましくは100分以上120以下である。通常は、1次反応を終えた後、金属膜の表面を緩衝液などで洗浄して、第1の結合物質に結合していない成分を除去する(洗浄;工程S21)。
又、洗浄後には、光学ブランクを測定することができる(光学ブランクを測定;工程S2)。
【0041】
(2次反応)
次に、測定チップの金属膜上に標識試薬を提供して、結合物質に結合したエクソソームを、エクソソームに結合する第2の結合物質を介して蛍光物質で標識する。標識試薬の種類は、第1の結合物質に結合したエクソソームに蛍光物質で標識された第2の結合物質が反応できれば特に限定されない。たとえば、標識試薬は、蛍光物質で標識された、エクソソームが有する第2の結合決定基に結合する第2の結合物質である(
図1Aの2次反応+蛍光標識;工程S30)。あるいは、標識試薬は、エクソソームが有する第2の結合決定基に結合する第2の結合物質、およびエクソソームに結合した第2の結合物質に結合する、蛍光物質で標識された第3の結合物質の両方を含む[
図1Bの2次反応;工程S30および蛍光標識(3次反応);工程S35]。
【0042】
標識試薬を提供する方法は、特に限定されない。たとえば、ピペットチップを先端に装着したピペットを用いて金属膜上に標識試薬を提供すればよい。通常は、2次反応および/または3次反応を終えた後、金属膜の表面を緩衝液などで洗浄して、エクソソームに結合していない第2の結合物質(または第3の結合物質)を除去する(洗浄;工程S31および工程S36)。
【0043】
標識試薬に含まれる第2の結合物質の種類は、エクソソームに結合することができれば特に限定されない。第2の結合物質の例には、エクソソームに結合できる抗体、エクソソームに結合できる核酸、エクソソームに結合できる脂質、およびエクソソームに結合できる抗体以外のタンパク質、例えば、エクソソーム上の糖鎖に結合できるレクチン、が含まれる。
【0044】
第2の結合物質が結合する、エクソソームが有する第2の結合決定基に特に限定はないが、エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基や、エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基が含まれる。エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基としては、CD9、CD63、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、アネキシン V(Annexin V)、LAMP1等が挙げられる。これら結合決定基に対する抗体は市販されており、当該抗体を第2の結合物質として使用することができる。エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基に結合する第2の結合物質に上記の物質と反応する物質(例えば抗体)を使用する場合、エクソソームにのみ結合するため、たとえ金属膜上にエクソソーム以外のもの(細胞など)が結合していても、エクソソームのみを検出するのに有効である。
【0045】
エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基としては、カベオリン-1(Caveolin-1)、PSMA、EpCAM、グリピカン-1(Grypican-1)、サバイビン(Survivin)、CD91、Tspan8、CD147、EGFR、HER2、CD44、ガラクチン(Galactin)、インテグリン(Integrin)等が挙げられる。これら結合決定基に対する抗体も市販されており、当該抗体を第2の結合物質として使用することができる。第2の結合物質としてエクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基に結合する結合物質(例えば抗体)を使用する場合は、特定の細胞およびそこから分泌されたエクソソームにのみ結合するため、金属膜上に結合した種々のエクソソームの中から特定の細胞由来のエクソソームのみを検出するのに有効である。
【0046】
第2の結合物質が抗体である場合、当該抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよいし、抗体の断片であってもよい。また、標識試薬に含まれる第2の結合物質の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。たとえば、蛍光物質で標識された抗エクソソーム抗体は、1種類または2種類以上の抗エクソソームモノクローナル抗体または抗エクソソームポリクローナル抗体である。この場合、蛍光物質で標識された抗エクソソームモノクローナル抗体および抗エクソソームポリクローナル抗体は、金属膜に固定化されている1種類または2種類以上の抗エクソソームモノクローナル抗体とは異なるものであることが好ましい。
【0047】
標識試薬に含まれる第2の結合物質の種類は、金属膜に固定化される第1の結合物質の種類と同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、第1の結合物質および第2の結合物質が共に抗体であってもよいし、一方が抗体で、他方が抗体以外のタンパク質でもよい。
【0048】
金属膜に固定化されている第1の結合物質と、標識試薬に含まれる第2の結合物質は、それぞれがエクソソームが有する結合決定基に結合するものであるが、第1の結合物質の結合する第1の結合決定基と、第2の結合物質の結合する第2の結合決定基とは異なることが好ましい。第1の結合物質と第2の結合物質とが同じ結合決定基を奪い合うのではなく、異なる結合決定基に結合することで、エクソソームの金属膜への固定および標識物質による標識をより確実に実施することが可能となる。また、第1の結合物質の結合する第1の結合決定基と、第2の結合物質の結合する第2の結合決定基とが異なることによって、第1の結合物質の結合に基づき検体から検出したエクソソームの中から、第2の結合物質の結合に基づきさらに測定すべきエクソソームを絞り込むことができる。
【0049】
第1の結合物質および第2の結合物質について、第1の結合決定基および第2の結合決定基の少なくとも一方が、エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基であることが好ましい。エクソソームのマーカーとして知られる結合決定基に結合する結合物質を使用することによって、検体中の物質からエクソソームのみを検出することができる。また、第1の結合決定基および第2の結合決定基の少なくとも一方が、エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基であることが好ましい。エクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基に結合する結合物質を使用することによって、特定の細胞由来のエクソソームを検出することができる。本発明においては、第1の結合物質および第2の結合物質の一方をエクソソームのマーカーとして知られる結合決定基に結合するものとし、他方をエクソソームを分泌する細胞のマーカーとして知られる結合決定基に結合するものとすることがより好ましい。このような2種の結合物質を組み合わせて使用することによって、特定の細胞の分泌するエクソソームを特異的に検出することができる。例えば、癌細胞は正常細胞とは異なるエクソソームを分泌することが知られており、体液中の癌細胞由来のエクソソームを検出することで、エクソソームを癌マーカーとして使用することが可能となる。
【0050】
標識試薬に含まれる第3の結合物質は、蛍光物質で標識することができ、且つ第2の結合物質に結合できるものであれば特に限定されない。第3の結合物質の例には、第2の結合物質として使用する抗体、核酸、脂質、抗体以外のタンパク質等に結合できる抗体、核酸、脂質、および抗体以外のタンパク質(例えば、レクチン)が含まれる。たとえば、1つの第2の結合物質に対して複数の第3の結合物質が結合するような第2および第3の結合物質の組み合わせを使用すると、第2の結合物質を直接蛍光標識して用いた場合よりも多くの蛍光物質をエクソソームに結合させて、測定感度を向上させることが可能となる。また、第2の結合物質を蛍光物質で直接標識するのが難しい場合や、蛍光標識によって第2の結合物質のエクソソームに対する結合性が変化、低下または失われる場合等にも、第3の結合物質を用いてエクソソームを標識することができる。
【0051】
第2または第3の結合物質を標識するための蛍光物質の種類は、SPFSで使用可能なものであれば特に限定されない。蛍光物質の例には、シアニン系色素、Thermo Scientific社のAlexa Fluor(登録商標)色素、およびBiotium社のCF色素が含まれる。Alexa Fluor色素およびCF色素は、市販されている蛍光色素の中では、SPFSで使用する励起光の波長についての量子効率が高い。また、CF色素は、蛍光検出時における退色があまり生じないため、安定して蛍光検出を行うことができる。結合物質を蛍光物質で標識する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択されうる。たとえば、結合物質(例えば抗エクソソーム抗体)のアミノ基またはスルフヒドリル基に蛍光物質を結合させればよい。
【0052】
なお、上記の説明では、金属膜に固定化された第1の結合物質にエクソソームを結合させてからエクソソームを標識試薬を用いて蛍光物質で標識したが、金属膜に固定化された第1の結合物質にエクソソームを結合させる前にエクソソームを標識試薬を用いて蛍光物質で標識してもよい。この場合は、検体を金属膜上に提供する前に、検体と標識試薬(第2の結合物質)とを混合すればよい。また、検体と標識試薬(第2の結合物質)との混合物に、さらに蛍光標識した第3の結合物質を加えることもできる。さらに、金属膜に固定化された結合物質にエクソソームを結合させる工程とエクソソームを蛍光物質で標識する工程を同時に行ってもよい。この場合は、検体と標識試薬(第2の結合物質、または第2および第3の結合物質)を金属膜上に同時に提供すればよい。
【0053】
(蛍光測定)
次に、SPFSによりエクソソームの量を示す蛍光を測定する(工程S40)。具体的には、蛍光物質で標識されたエクソソームが金属膜に固定化された結合物質に結合している状態で、金属膜でSPRが生じるように金属膜に励起光を照射し、これにより蛍光物質から放出される蛍光を測定する。通常は、測定された蛍光値から、予め測定された光学ブランク値を引いて、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出する。必要に応じて、予め作成しておいた検量線などにより、シグナル値をエクソソームの量(個数/ml)や濃度(μg/ml)などに換算してもよい。
【0054】
例えば、検量線は、市販のエクソソームを用いて希釈率の異なる検体を調製し、各検体中のエクソソームの個数や濃度を求めると共に、本発明の方法でシグナル値を求め、シグナル値をエクソソームの個数や濃度に対してプロットすることで、エクソソームの検量線を得ることができる。また、検体中のエクソソームの個数と濃度とをそれぞれ測定し、エクソソームの濃度に対してエクソソームの個数をプロットした検量線(
図4)を得ることもできる。このような検量線を用いることによって、個数として計数したエクソソーム量を濃度(μg/ml)に換算することができる。このような換算を行うことで、エクソソーム量を濃度(μg/ml)として検出する他社装置などとの比較も可能となる。
【0055】
なお、エクソソームの個数を測定する方法に特に限定はないが、例えば、qNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用することができる。エクソソームの濃度を測定する方法にも特に限定はないが、例えば、タンパク質定量(BCA法、ThermoFischer社製)によって測定することができる。
【0056】
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の測定チップ100を用いる場合は、励起光L1は、プリズム110を介して金属膜120に照射される。これにより、金属膜120においてSPRが生じ、金属膜120近傍に存在する蛍光物質150は、増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。金属膜120に対する励起光L1の入射角は、金属膜120でSPRが生じるように設定されるが、共鳴角または増強角であることが好ましい。ここで「共鳴角」とは、金属膜120に対する励起光L1の入射角を走査した場合に、反射光L2の光量が最小となるときの入射角を意味する。また、「増強角」とは、金属膜120に対する励起光L1の入射角を走査した場合に、金属膜120の上方(プリズム110の反対側)に放出される励起光L1と同一波長の散乱光(プラズモン散乱光)の光量が最大となるときの入射角を意味する。
【0057】
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の測定チップ200を用いる場合は、励起光L1は、金属膜210(回折格子211)に直接照射される。これにより、金属膜210(回折格子211)においてSPRが生じ、金属膜210(回折格子211)近傍に存在する蛍光物質150は、増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。金属膜210に対する励起光L1の入射角は、金属膜210でSPRが生じるように設定されるが、SPRにより形成される増強電場の強度が最も強くなる角度が好ましい。励起光L1の最適な入射角は、回折格子211のピッチや励起光L1の波長、金属膜210を構成する金属の種類などに応じて適宜設定される。
【0058】
励起光の種類は、特に限定されないが、通常はレーザー光である。たとえば、励起光は、出力が10μW~30mWのレーザー光源から出射されたレーザー光である。励起光の照射エネルギーとしては、7.5μW/mm2以上30mW/mm2以下であり、8.5μW/mm2以上10mW/mm2以下が好ましく、9.5μW/mm2以上5mW/mm2以下がより好ましい。励起光の照射エネルギーを30mW/mm2以下とすることで、蛍光強度を高めてシグナル対ノイズ比(S/N)を大きくし、より少量のエクソソームを検出することが可能となるため、検出限界を向上させることができる。励起光の波長は、使用する蛍光物質の励起波長に応じて適宜設定される。また、光量が30mW/mm2を超えると、照射熱による抗原抗体反応の解離が進むため、シグナル対ノイズ比が悪くなる。
【0059】
蛍光の検出器は、測定チップに対して蛍光の強度が最も高い方向に設置されることが好ましい。たとえば、
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の測定チップ100を用いる場合は、蛍光L3の強度が最も高い方向は金属膜120の法線方向であるので、検出器は、測定チップの直上に設置される。一方、
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の測定チップ200を用いる場合は、蛍光L3の強度が最も高い方向は金属膜120の法線に対してある程度傾斜した方向であるので、検出器は、測定チップの直上ではない位置に設置される。検出器は、例えば、光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)などである。
【0060】
以上の手順により、検体に含まれるエクソソームの濃度を測定することができる。
【0061】
[エクソソームの測定キット]
本実施の形態に係るエクソソームの測定キットは、上記の測定チップと、上記標識試薬(蛍光物質と、第2の結合物質とを含み、所望により第3の結合物質をさらに含むもの)と、をセットにしたものである。このように上記の測定チップおよび標識試薬を予めセットとしておくことで、ユーザー(医療従事者など)が上記のエクソソームの測定方法をより簡便に行うことが可能となる。また、測定キットは、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤をさらに使用することで、バックグラウンドノイズや測定値のバラツキを低減することが可能となる。
【0062】
[効果]
以上のように、本実施の形態に係るエクソソームの測定方法または測定キットによれば、SPFSを利用して検体中のエクソソームを高感度かつ簡便に測定することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0064】
実験1: 2種のエクソソームに対する抗体を用いた、健常者血液からのエクソソームの測定
図3に示される構成の測定チップ300を準備した。流路320内に露出している金属膜120(金薄膜)の特定の領域(反応部)に、第1の結合物質として抗CD9モノクローナル抗体を固定化した。
【0065】
コスモバイオ社から購入した健常人由来のスタンダードエクソソーム(凍結乾燥品)を水和し、検体サンプルとして使用した。希釈は10倍希釈系列とし、希釈には1%BSAを含むPBSを使用した。
なお、装置内での検体希釈液には界面活性剤を含み、界面活性剤の濃度は0.05%であった。
【0066】
希釈率の異なる検体のそれぞれについて、検体中のエクソソームの個数を測定した。測定にはqNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用した。
【0067】
さらに上記と同じ検体について、エクソソームの量に相関するシグナル値を測定した。ピペットチップにより、液体注入部330から流路320内に検体(希釈した血液のいずれか)を導入し、往復送液させた(1次反応)。1次反応の反応時間は100分とした。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、標識試薬(Alexa Fluor色素で標識された抗CD63モノクローナル抗体を液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。2次反応の反応時間は10分とした。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、液体注入部330から流路320内に測定液を導入した。この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出した。検出に用いた励起光の出力は5mWであり、照射エネルギー量は、3.8mW/mm2となった。得られた蛍光値から予め測定した光学ブランク値を引き、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。各検体について、同じ測定を6回行った。
【0068】
測定したシグナル値を、検体中のエクソソームの個数(個/μl)に対してプロットし、CD9陽性CD63陽性エクソソームの検量線(
図5)を得た。
【0069】
図5のプロットから明らかなように、検体中のエクソソームの個数とシグナル値との間には相関関係が存在し、検出限界は2.1×10
2個/μlと低かった。
【0070】
次に、検出に用いた励起光の出力を変える以外は上記と同様にして、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。検出に用いた励起光の出力は5mW、15mWまたは30mWとし、それぞれの照射エネルギー量は、3.8mW/mm2、11.3mW/mm2または22.6mW/mm2となった。各照射エネルギー量について、上記と同様にして検体からエクソソームを測定する際の検出限界を求めた。
【0071】
また、上記測定について、シグナル対ノイズ比(S/N)を次のようにして算出した。シグナル値(S)として、エクソソーム存在下における測定シグナルから光学ブランクを引いた値を求め、ノイズ値(N)として、エクソソーム非存在下における測定シグナルから光学ブランクを引いた値を求めた。次に、S/Nの比を計算した。
【0072】
照射エネルギー量に対して、算出したS/Nおよび検出限界をそれぞれプロットし、健常者由来のCD9陽性CD63陽性エクソソームエクソソームに関する、照射エネルギー、S/Nおよび検出限界の関係を示すグラフ(
図6)を得た。
【0073】
図6のプロットにおいては、検体からエクソソームを測定する際に使用する励起光の照射エネルギーが低い場合は、S/Nは大きくなり(即ち、シグナルに対するノイズが減少し)、検出限界も向上した。
【0074】
実験2: エクソソーム分泌細胞に対する抗体およびエクソソームに対する抗体を用いた、前立腺癌に関連するエクソソームの測定
【0075】
図3に示される構成の測定チップ300を準備した。流路320内に露出している金属膜120(金薄膜)の特定の領域(反応部)に、第1の結合物質として抗PSMAモノクローナル抗体を固定化した。
【0076】
コスモバイオ社から購入した前立腺がん細胞であるLNCap細胞由来のスタンダードエクソソーム(凍結乾燥品)を水和し、検体サンプルとして使用した。希釈は10倍希釈系列とし、希釈には1%BSAを含むPBSを使用した。
なお、装置内での検体希釈液には界面活性剤を含み、界面活性剤の濃度は0.05%であった。
【0077】
検体中のLNCap細胞由来エクソソームの個数を測定した。測定にはqNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用した。
【0078】
さらに上記と同じ検体について、LNCap細胞由来のCD9陽性PSMA陽性エクソソームの検量線を作成するために、希釈率の異なる検体のそれぞれについて、エクソソームの量に相関するシグナル値を測定した。ピペットチップにより、液体注入部330から流路320内に検体(希釈した培養上清のいずれか)を導入し、往復送液させた(1次反応)。1次反応の反応時間は100分とした。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、標識試薬(Alexa Fluor色素)で標識された抗CD9モノクローナル抗体を液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。2次反応の反応時間は10分とした。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、液体注入部330から流路320内に測定液を導入した。この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出した。検出に用いた励起光の出力は5mWであり、照射エネルギー量は、3.8mW/mm2となった。得られた蛍光値から予め測定した光学ブランク値を引き、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。各検体について、同じ測定を6回行った。
【0079】
測定したシグナル値を、検体中のエクソソームの個数(個/μl)に対してプロットし、CD9陽性PSMA陽性エクソソームの検量線(
図7)を得た。
【0080】
図7のプロットから明らかなように、上記方法によって特定の細胞(前立腺癌細胞)由来のエクソソーム(CD9陽性PSMA陽性エクソソーム)を検出することができた。また、CD9陽性PSMA陽性エクソソームの個数とシグナル値との間には相関関係が存在し、検出限界は1.7×10
2個//μlと低かった。
【0081】
次に、検出に用いた励起光の出力を変える以外は上記と同様にして、CD9陽性PSMA陽性エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。検出に用いた励起光の出力は5mW、15mWまたは30mWとし、それぞれの照射エネルギー量は、3.8mW/mm2、11.3mW/mm2または22.6mW/mm2となった。各照射エネルギー量について、上記と同様にして検体からエクソソームを測定する際の検出限界を求めた。
【0082】
また、上記測定について、実験1と同様に、シグナル対ノイズ比(S/N)を算出した。
【0083】
照射エネルギー量に対して、算出したS/Nおよび検出限界をそれぞれプロットし、CD9陽性PSMA陽性エクソソームに関する、照射エネルギー、S/Nおよび検出限界の関係を示すグラフ(
図8)を得た。
【0084】
図8のプロットにおいては、CD9陽性PSMA陽性エクソソームを測定する際に使用する励起光の照射エネルギーが低い場合は、S/Nは大きくなり(即ち、シグナルに対するノイズが減少し)、検出限界も向上した。
【0085】
実験3: 2種のエクソソームに対する抗体を用いた、前立腺癌細胞に由来するエクソソームの測定
【0086】
図3に示される構成の測定チップ300を準備した。流路320内に露出している金属膜120(金薄膜)の特定の領域(反応部)に、第1の結合物質として抗抗CD9モノクローナル抗体を固定化した。
【0087】
コスモバイオ社から購入した前立腺がん細胞であるLNCap細胞由来のスタンダードエクソソーム(凍結乾燥品)を水和し、検体サンプルとして使用した。希釈は10倍希釈系列とし、希釈には1%BSAを含むPBSを使用した。
なお、装置内での検体希釈液には界面活性剤を含み、界面活性剤の濃度は0.05%であった。
【0088】
LNCap細胞由来のCD9陽性CD63陽性エクソソームの検量線を作成するために、希釈率の異なる検体のそれぞれについて、エクソソームの量に相関するシグナル値を測定した。ピペットチップにより、液体注入部330から流路320内に検体(希釈した培養上清のいずれか)を導入し、往復送液させた(1次反応)。1次反応の反応時間は100分とした。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、標識試薬(Alexa Fluor色素で標識された抗CD63モノクローナル抗体)を液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。2次反応の反応時間は10分とした。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、液体注入部330から流路320内に測定液を導入した。この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出した。検出に用いた励起光の出力は5mWであり、照射エネルギー量は、3.8mW/mm2となった。得られた蛍光値から予め測定した光学ブランク値を引き、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。各検体について、同じ測定を6回行った。
【0089】
上記と同じ検体について、検体中のLNCap細胞由来エクソソームの個数を測定した。qNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用して、抽出したエクソソームの個数を測定した。重量はタンパク質定量(BCA法、ThermoFischer社製)によって実施した。
【0090】
測定したシグナル値を、検体中のエクソソームの個数(個/μl)に対してプロットし、CD9陽性CD63陽性エクソソームの検量線(
図9)を得た。
【0091】
図9のプロットから明らかなように、上記方法によって特定の細胞(前立腺癌細胞)由来のサンプルにおいてもCD9陽性CD63陽性エクソソームを検出することができた。また、CD9陽性CD63陽性エクソソームの個数とシグナル値との間には相関関係が存在し、検出限界は3.2×10
0個/μlと低かった。
【0092】
次に、検出に用いた励起光の出力を変える以外は上記と同様にして、CD9陽性CD63陽性エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。検出に用いた励起光の出力は5mW、15mWまたは30mWとし、それぞれの照射エネルギー量は、3.8mW/mm2、11.3mW/mm2または22.6mW/mm2となった。各照射エネルギー量について、上記と同様にして検体からエクソソームを測定する際の検出限界を求めた。
【0093】
また、上記測定について、実験1と同様に、シグナル対ノイズ比(S/N)を算出した。
【0094】
照射エネルギー量に対して、算出したS/Nおよび検出限界をそれぞれプロットし、CD9陽性CD63陽性エクソソームに関する、照射エネルギー、S/Nおよび検出限界の関係を示すグラフ(
図10)を得た。
【0095】
図10のプロットにおいては、CD9陽性CD63陽性エクソソームを測定する際に使用する励起光の照射エネルギーが低い場合は、S/Nは大きくなり(即ち、シグナルに対するノイズが減少し)、検出限界も向上した。
【0096】
実験4: エクソソームに対する抗体とエクソソーム上の糖鎖を認識するWFAレクチンを用いた、CD9陽性糖鎖保有エクソソームの測定
【0097】
図3に示される構成の測定チップ300を準備した。流路320内に露出している金属膜120(金薄膜)の特定の領域(反応部)に、第1の結合物質として抗CD9モノクローナル抗体を固定化した。
【0098】
コスモバイオ社から購入した前立腺がん細胞であるLNCap細胞由来のスタンダードエクソソーム(凍結乾燥品)を水和し、検体サンプルとして使用した。希釈は10倍希釈系列とし、希釈には1%BSAを含むPBSを使用した。
なお、装置内での検体希釈液には界面活性剤を含み、界面活性剤の濃度は0.05%であった。
【0099】
LNCap細胞由来のCD9陽性糖鎖保有エクソソームの検量線を作成するために、希釈率の異なる検体のそれぞれについて、エクソソームの量に相関するシグナル値を測定した。ピペットチップにより、液体注入部330から流路320内に検体(希釈した培養上清のいずれか)を導入し、往復送液させた(1次反応)。1次反応の反応時間は100分とした。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、標識試薬(Alexa Fluor色素で標識されたWFAレクチン)を液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。2次反応の反応時間は10分とした。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、液体注入部330から流路320内に測定液を導入した。この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出した。検出に用いた励起光の出力は5mWであり、照射エネルギー量は、3.8mW/mm2となった。得られた蛍光値から予め測定した光学ブランク値を引き、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。各検体について、同じ測定を6回行った。
【0100】
上記と同じ検体について、検体中のLNCap細胞由来エクソソームの個数を測定した。qNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用して、抽出したエクソソームの個数を測定した。
【0101】
測定したシグナル値を、検体中のエクソソームの個数(個/μl)に対してプロットし、CD9陽性糖鎖保有エクソソームの検量線(
図11)を得た。
【0102】
図11のプロットから明らかなように、上記方法によって特定の細胞(前立腺癌細胞)由来のサンプルにおいてもCD9陽性糖鎖保有エクソソームを検出することができた。また、CD9陽性糖鎖保有エクソソームの個数とシグナル値との間には相関関係が存在し、検出限界は9.9×10
1個/μlと低かった。
【0103】
実験5: エクソソーム分泌細胞に対する抗体とエクソソーム上の糖鎖を認識するレクチンを用いた、前立腺癌細胞に由来するエクソソームの測定
【0104】
図3に示される構成の測定チップ300を準備した。流路320内に露出している金属膜120(金薄膜)の特定の領域(反応部)に、第1の結合物質として抗PSMAモノクローナル抗体を固定化した。
【0105】
コスモバイオ社から購入した前立腺がん細胞であるLNCap細胞由来のスタンダードエクソソーム(凍結乾燥品)を水和し、検体サンプルとして使用した。希釈は10倍希釈系列とし、希釈には1%BSAを含むPBSを使用した。
なお、装置内での検体希釈液には界面活性剤を含み、界面活性剤の濃度は0.05%であった。
【0106】
検体中のLNCap細胞由来エクソソームの個数を測定した。測定にはqNano/ナノ粒子マルチアナライザー(メイワフォーシス株式会社製)を使用した。
【0107】
さらに上記と同じ検体について、LNCap細胞由来のPSMA陽性糖鎖保有エクソソームの検量線を作成するために、希釈率の異なる検体のそれぞれについて、エクソソームの量に相関するシグナル値を測定した。ピペットチップにより、液体注入部330から流路320内に検体(希釈した培養上清のいずれか)を導入し、往復送液させた(1次反応)。1次反応の反応時間は100分とした。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、標識試薬(Alexa Fluor色素)で標識されたWFAレクチンを液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。2次反応の反応時間は10分とした。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。次いで、液体注入部330から流路320内に測定液を導入した。この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出した。検出に用いた励起光の出力は5mWであり、照射エネルギー量は、3.8mW/mm2となった。得られた蛍光値から予め測定した光学ブランク値を引き、エクソソームの量に相関するシグナル値を算出した。各検体について、同じ測定を6回行った。
【0108】
測定したシグナル値を、検体中のエクソソームの個数(個/μl)に対してプロットし、PSMA陽性糖鎖保有エクソソームの検量線(
図12)を得た。
【0109】
図12のプロットから明らかなように、上記方法によって特定の細胞(前立腺癌細胞)由来のエクソソーム(PSMA陽性糖鎖保有エクソソーム)を検出することができた。また、PSMA陽性糖鎖保有エクソソームの個数とシグナル値との間には相関関係が存在し、検出限界は2.5×10
2個/μlと低かった。
【0110】
本出願は、2019年6月27日出願の特願2019-119824に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、全て本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本実施の形態に係るエクソソームの測定方法または測定キットを用いることで、エクソソームを高感度かつ簡便に測定することができる。したがって、本発明に係るエクソソームの検出方法および測定キットは、例えば臨床検査などに有用である。
【符号の説明】
【0112】
100、200、300,400,500 測定チップ
110 プリズム
111 入射面
112 成膜面
113 出射面
120 金属膜
130 抗エクソソーム抗体(第1の結合物質)
131 抗エクソソーム抗体(第2の結合物質)
140 エクソソーム
150 蛍光物質
210 金属膜
211 回折格子
310 流路蓋
320 流路
330 液体注入部
331 液体注入部被覆フィルム
340 貯留部
341 貯留部被覆フィルム
342 通気孔
350 接着層
412 誘電体部材
414 金属薄膜
416 リガンド固定領域
418 ウェル部材
420 貫通穴
422 センサ構造体
510 ウェル本体
511 収容部
520 側壁部材
521 プリズム
523 反射面
525 金属膜
526 反応場
L1 励起光
L2 反射光
L3 蛍光