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特許7562524血液成分測定システム、血液成分測定方法、および血液成分測定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】血液成分測定システム、血液成分測定方法、および血液成分測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20240930BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61B5/1455
A61B5/02 310A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021527670
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024736
(87)【国際公開番号】W WO2020262431
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019117598
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 克己
(72)【発明者】
【氏名】加藤 央大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 京
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-088105(JP,A)
【文献】特開2010-121961(JP,A)
【文献】特開2013-212320(JP,A)
【文献】特表2014-522682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定システムであって、
前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行う処理部と、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出する算出部と、
を備え、
前記処理部は、前記測定部位に対する圧迫値を数値化する解析を行うことによって前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲であるか否かを判定し、
前記算出部は、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である期間に取得した前記脈波信号を選択的に用いて、前記血液成分の濃度を算出する、
こと特徴とする血液成分測定システム。
【請求項2】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定システムであって、
前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行う処理部と、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出する算出部と、
を備え、
前記算出部は、所定期間において取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出するとともに前記所定期間中の前記処理の結果に基づいて前記血液成分の濃度の信頼度を算出し、
前記信頼度が所定値以上である場合には前記血液成分の濃度を報知し、前記信頼度が前記所定値未満である場合には前記血液成分の濃度の再測定を報知する報知部を更に備える、
ことを特徴とする血液成分測定システム。
【請求項3】
前記処理部は、
前記処理を行うことによって、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であるか否
かを判定し、
前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号に対して前記処理を引き続き行い、
前記算出部は、前記処理部が前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液成分測定システム。
【請求項4】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定方法であって、
前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行い、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出
前記測定部位に対する圧迫値を数値化する解析を行うことによって前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲であるか否かを判定し、
前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である期間に取得した前記脈波信号を選択的に用いて、前記血液成分の濃度を算出する、
こと特徴とする血液成分測定方法。
【請求項5】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定方法であって、
前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行い、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出し、
所定期間において取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出するとともに前記所定期間中の前記処理の結果に基づいて前記血液成分の濃度の信頼度を算出し、
前記信頼度が所定値以上である場合には前記血液成分の濃度を報知し、前記信頼度が前記所定値未満である場合には前記血液成分の濃度の再測定を報知する、
ことを特徴とする血液成分測定方法。
【請求項6】
前記処理を行うことによって、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であるか否かを判定し、
前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号に対して前記処理を引き続き行い、
前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の血液成分測定方法。
【請求項7】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定システムで実行される血液成分測定プログラムであって、
コンピュータに
前記脈波信号を解析させて前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行わせ、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出させ、
前記測定部位に対する圧迫値を数値化する解析を行うことによって前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲であるか否かを判定させ、
前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である期間に取得した前記脈波信号を選択的に用いて、前記血液成分の濃度を算出させる、
ことを特徴とする血液成分測定プログラム。
【請求項8】
生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定システムで実行される血液成分測定プログラムであって、
コンピュータに
前記脈波信号を解析させて前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行わせ、
前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出させ、
所定期間において取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出させるとともに前記所定期間中の前記処理の結果に基づいて前記血液成分の濃度の信頼度を算出させ、
前記信頼度が所定値以上である場合には前記血液成分の濃度を報知させ、前記信頼度が前記所定値未満である場合には前記血液成分の濃度の再測定を報知させる、
ことを特徴とする血液成分測定プログラム。
【請求項9】
前記コンピュータに、
前記処理を行わせることによって、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であるか否かを判定させ、
前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号に対して前記処理を引き続き行わせ、
前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出させる、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の血液成分測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分測定システム、血液成分測定方法、および血液成分測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光を生体の測定部位に照射して当該測定部位から受光した光に基づいて脈波信号を取得し、脈波信号から血液成分の濃度を測定する技術がある。特許文献1には、生体の測定部位を押圧した状態で当該測定部位に光を照射して容積脈波を検出し、容積脈波の振幅が最大値をとる押圧力を最適押圧力に決定し、次いで、最適押圧力で押圧した測定部位に測定光を照射し受光結果に基づいて血糖値を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-112042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脈波は日周期の影響を受け、時々刻々変化している。脈波信号の測定結果は、測定部位を圧迫する力の大きさに応じて変化し、この力が強過ぎても弱過ぎても良好な脈波信号は得られない。また、測定部位に対する最適押圧力を決定してから脈波信号を取得して血液成分の濃度を測定する場合には、例えば、外部からの衝撃等により測定中に押圧力が変化してしまうと、測定中の押圧力の変化に対応できず、正確な脈波信号を取得できなくなってしまう。正確な脈波信号を取得できないと、血液成分の濃度の測定精度が低下してしまう。
【0005】
上記の実情に鑑み、本件開示は、血液成分の濃度の測定精度を向上し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件開示の血液成分測定システムは、生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定システムであって、前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行う処理部と、前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出する算出部と、を備える。本件開示の血液成分測定システムによれば、測定部位に対する圧迫値が適切な脈波信号を所定の血液成分の濃度算出に用いることができるので、血液成分の濃度の測定精度を向上できる。
【0007】
上記血液成分測定システムにおいて、前記算出部は、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である期間に取得した前記脈波信号を選択的に用いて、前記血液成分の濃度を算出してもよい。
【0008】
また、上記血液成分測定システムにおいて、前記算出部は、所定期間において取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出するとともに前記所定期間中の前記処理の結果に基づいて前記血液成分の濃度の信頼度を算出し、前記信頼度が所定値以上である場合には前記血液成分の濃度を報知し、前記信頼度が前記所定値未満である場合には前記血液成分の濃度の再測定を報知する報知部を更に備えていてもよい。
【0009】
また、上記血液成分測定システムにおいて、前記処理部は、前記処理を行うことによって、前記測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であるか否かを判定し、前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号に対して前記処理を引き続き行い、前記算出部は、前記処理部が前記測定部位に対する圧迫値が前記所定範囲内であると判定した以降に取得した前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出してもよい。
【0010】
また、本件開示は血液成分測定方法または血液成分測定プログラムの側面からも捉えることができる。例えば、本件開示の血液成分測定方法は、生体の測定部位を圧迫しながら前記測定部位に光を照射し、前記測定部位から受光した光に基づいて取得した脈波信号に基づいて、所定の血液成分の濃度を算出する血液成分測定方法であって、前記脈波信号を解析して前記測定部位の圧迫状態を把握する処理を行い、前記圧迫状態が把握されている期間の前記脈波信号を用いて前記血液成分の濃度を算出してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本件開示の技術によれば、血液成分の濃度の測定精度を向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る血液成分測定システムの構成の一例を示す図である。
図2】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号測定装置を模式的に示す図である。
図3】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号測定装置の一部を模式的に示す図である。
図4】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号測定装置の一部を模式的に示す図である。
図5】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号測定装置の一部の回路図である。
図6】脈波信号の一例を示すグラフである。
図7】測定部位に対する圧迫値の適切な範囲について説明するグラフである。
図8】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける圧迫値のモニタリング方法について説明するグラフである。
図9】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号の周波数解析について説明するグラフである。
図10】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号の周波数解析について説明するグラフである。
図11】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける脈波信号の変曲点カウントについて説明するグラフである。
図12】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける複数拍動の形状から得られた基準パターンとの比較方法について説明するグラフである。
図13】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける単一拍動の形状から得られた鋸波との比較方法について説明するグラフである。
図14】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける単一拍動の形状から得られた鋸波との比較方法について説明するグラフである。
図15】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける単一拍動の形状から得られた鋸波との比較方法について説明するグラフである。
図16】一実施形態に係る血液成分測定システムにおける単一拍動の形状から得られた鋸波との比較方法について説明するグラフである。
図17】一実施形態に係る血液成分測定システムを用いた血液成分測定処理に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施形態の構成に限定されるものではない。
【0014】
まず、本実施形態に係る血液成分測定システムについて説明する。図1は、本実施形態に係る血液成分測定システム1の概略構成を示す図である。図1に示すように、血液成分測定システム1は、脈波信号測定装置100と、端末装置200と、を備える。
【0015】
脈波信号測定装置100は、血液を含む生体の身体の一部である測定部位にLight-Emitting Diode(LED)によって近赤外光を照射して、測定部位内の血液を通過した近赤外光をPhotodiode(PD)で受光して受光データを取得する。生体は眼球などの例外を除いて透明ではないので光は透過しない。しかしながら、例えば、ヒトの指の内部に侵入した光は組織、血液などに散乱されて直進しないが、侵入した光のごく一部がPDに到達して検出される。この検出された光の強度のうち、周期的に変動する成分は血液を通過してきた光の受光データによって検出される脈波信号である。
【0016】
ここで、脈波信号測定装置100による脈波信号の測定対象の生体としては、ヒトが挙げられる。測定対象がヒトである場合、測定部位は、近赤外光により容易に脈動を検出できる部位であればよく、手の指、手のひら、手首、肘の内側、膝の裏側、足の裏、足の指、耳たぶ、耳の前側、唇、みぞおちなどが好ましく、脈動を明瞭に検出できる親指、人差し指、中指がより好ましい。以下では、測定対象の生物をヒトとし、測定部位を親指として説明する。なお、測定対象の生物および測定部位はこれらに限られない。
【0017】
脈波信号測定装置100は、制御部110、記憶部120、照射部130、受光部140、通信部150、操作部160を備える。制御部110は、Central Processing Unit(CPU)を含み、脈波信号測定装置100内の各部を制御する。記憶部120は、フラッシュメモリやElectrically Erasable Programmable Read-Only Memory(EEPROM)などの不揮発性メモリとRandom Access Memory(RAM)を含む。記憶部120は、脈波信号測定装置100における制御プログラム、および種々の処理を実行した際に得られるデータを記憶する。
【0018】
照射部130は、生体の測定部位に近赤外光を照射する。本実施形態において、脈波信号測定装置100は、測定対象であるヒトの親指に照射部130によって近赤外光を照射することにより、脈波信号を測定する。
【0019】
ヒトの指の血管内における血液を通過した光の強度は、血液の脈動によって周期的に変動する。本実施形態に係る血液成分測定システム1は、ヒトの親指の血管内における血液を通過した光強度の経時変化である脈波信号を利用して、複数の波長における血液の吸光度を非侵襲的に測定することによって、血液中のトリグリセライド(Triglyceride)の値(以下、「血中TG値」と称する)、および血液中に含まれる総ヘモグロビン濃度に占める糖化ヘモグロビンの割合をパーセントで表した値(以下、「HbA1c値」と称する)を測定する。
【0020】
血中TG値の濃度が上昇して血液の濁度が大きくなると、波長1050nm付近の近赤外光における吸光度が大きくなる。そこで、本実施形態では、波長1050nmにおける血液の吸光度と、波長1300nmにおける血液の吸光度との差分に基づいて血中TG値を測定する。
【0021】
また、本願発明の発明者達によって、HbA1c値に応じて波長1450nm付近の吸光度が他波長に比べて大きく変化することが見出されている。更に、血液中の総ヘモグロビン濃度に応じて波長900nm~1300nm付近の吸光度が変化することから、本実施形態では、1450nmの吸光度と、波長1050nmまたは波長1300nmの吸光度とを用いてHbA1c値を測定する。
【0022】
脈波信号測定装置100の照射部130は、上記波長の近赤外光をヒトの指に照射することで非侵襲的に血中TG値およびHbA1c値を測定するために、第1発光素子としてピーク波長が1050nmであるLED、第2発光素子としてピーク波長が1300nmであるLED、第3発光素子としてピーク波長が1450nmであるLEDを有している。なお、これらのLEDの詳細、および血中TG値、HbA1c値の測定方法の詳細については後述する。
【0023】
受光部140は、測定部位における血液を通過した光を受光する。照射部130によって照射された近赤外光は、生体の測定部位に含まれる血液を通過し、受光部140によって受光される。受光部140は、PD(フォトダイオード)を有しており、血液を通過した光をPDによって検出してその強さを電圧信号として出力する。また、脈波信号測定装置100は、AD(Analog Digital)変換器(不図示)を有しており、受光部140のPDからの受光データとしての出力信号をAD変換した後、制御部110に出力する。制御部110は、受光データを脈波信号として記憶部120に記憶する。なお、照射部130と受光部140の位置関係については後述する。
【0024】
通信部150は、Bluetooth(登録商標)、Bluetooth Low Energy(BLE)、Wi-Fiなどの公知の近距離無線通信によって端末装置200と無線通信を行う。脈波信号測定装置100は、脈波信号等の各種データを端末装置200に送信したり、制御信号を端末装置200から受信したりすることができる。
【0025】
操作部160は、例えば、ボタンやタッチパネル等で構成される。操作部160が操作されることにより、電源のオンオフや端末装置200との通信設定などが行われる。
【0026】
次に、本実施形態に係る血液成分測定システム1が備える端末装置200について説明する。端末装置200としては、スマートフォン、フィーチャーフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、その他の各種電子機器が挙げられる。また、端末装置200には、以下に説明する血液成分測定における種々の処理(図17参照)を実行する。本実施形態において、端末装置200はコンピュータの一例である。本実施形態に係る血液成分測定システム1において、脈波信号測定装置100によって取得した脈波信号に基づいて端末装置200が血中TG値およびHbA1c値を算出する。
【0027】
端末装置200は、制御部210、記憶部220、表示部230、通信部240、操作部250を備える。制御部210は、CPUを含み、端末装置200内の各部を制御する。記憶部220は、Hard Disk Drive(HDD)、フラッシュメモリやEEPROMなどの不揮発性メモリとRAMを含む。記憶部220は、端末装置200における血液成分測定プログラム、制御プログラム、および種々の処理を実行した際に得られるデータを記憶する。制御部210では、記憶部220に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、処理部211および算出部212の各機能部が実現される。処理部211は、脈波信号を解析して測定部位の圧迫状態を把握する処理を行う。算出部212は、脈波信号を用いて血液成分の濃度を算出したり、血液成分の濃度の信頼度を算出したりする。
【0028】
表示部230(「報知部」の一例)は、液晶表示装置や有機EL表示装置などで構成される。端末装置200は、血中TG値およびHbA1c値の測定値や、この測定値の信頼度を表示部230に表示する。
【0029】
通信部240は、Bluetooth、BLE、Wi-Fiなどの公知の近距離無線通信によって脈波信号測定装置100と無線通信を行い、脈波信号等の各種データを脈波信号測定装置100から受信したり、制御信号を脈波信号測定装置100に送信したりすることができる。
【0030】
操作部250は、例えば、ボタンやタッチパネル等で構成される。操作部250が操作されることにより、脈波信号の測定開始や脈波信号測定装置100との通信設定などが行われる。
【0031】
次に図2を用いて、本実施形態に係る脈波信号測定装置100の構成例について更に詳細に説明する。図2は、脈波信号測定装置100の外観斜視図である。脈波信号測定装置100は、筐体170と、筐体170の上部を覆う上部カバー171とを備える。また、脈波信号測定装置100において筐体170と上部カバー171との間には測定対象である被検者の指を挿入するための開口部172が設けられている。開口部172内に被検者が指を挿入した場合に、筐体170において当該指と当接する当接面170aには照射部130と受光部140が設けられている。
【0032】
上部カバー171には、被検者の指を当接面170aに押し当てる力を調節するためのつまみ173が設けられている。本実施形態では、つまみ173は上部カバー171を貫通する螺子(不図示)と接合されている。当該螺子の先端には被検者の指を押圧する押圧板(不図示)が接合されている。つまみ173が右に回されると螺子および押圧板が当接面170a側に降りて当該押圧板が被検者の指を押圧する押圧力が増加する。一方、つまみ173が左に回されると螺子および押圧板が上部カバー171側に上がって当該押圧板が被検者の指を押圧する押圧力が減少する。被検者は、つまみ173を左右いずれかに回すことによって指を当接面170aに押し当てる力を調節できる。
【0033】
図3は、図2に示す脈波信号測定装置100において、被検者が親指300を開口部172に挿入した状態を模式的に示す図である。本実施形態に係る血液成分測定システムにおいて、脈波信号測定装置100には、照射部130が親指300の腹側に光を照射し、血液を通過した当該光を当該指の腹側に配置されている受光部140で受光する反射光方式が採用されている。
【0034】
図4は、脈波信号測定装置100において照射部130および受光部140が配置される当接面170aを示す平面図である。照射部130は、第1LED131と、第2LED132と、第3LED133と、を有する。第1LED131は、波長1050nmにピーク波長を有する光を照射する。第2LED132は、波長1300nmにピーク波長を有する光を照射する。第3LED133は、波長1450nmにピーク波長を有する光を照射する。
【0035】
また、本実施形態では、照射部130は、生体の測定部位における生体透過性の低い波長順に光を照射する。ここで、生体透過性は、生体内での光の吸収率が低いほど高く、生体内での光の吸収率が高いほど低い。一般的に、波長850nm~1500nmにおける近赤外光は、生体内での吸収率が小さく、生体透過性が高い。上記波長の近赤外光において、ヒトの指における生体透過性は、低い順に、波長1450nm、波長1300nm、波長1050nmである。照射部130は、制御部110によって制御されることにより、生体透過性の低い波長順、すなわち、第3LED133、第2LED132、第1LED131の順で光を照射する。また、図4に示すように、生体透過性がこの3波長の中で相対的に低い波長1450nmにピーク波長を有する光を照射する第3LED133は、受光部40との距離が最も近くなるように、3つ並んだLED131~133の中央に配置されている。
【0036】
また、受光部140は、PD141を有する。PD141は、照射部130から指に照射されて血液を通過した光を受光する。PD141は光を受光することによって受光データとしての電圧信号を出力する。
【0037】
図5は、本実施形態に係る脈波信号測定装置100の一部の回路図である。脈波信号測定装置100は、制御部110および記憶部120を構成するマイコン180を備える。マイコン180は、脈波信号測定装置100が備える不図示の電源(例えば、二次電池)によって電力が供給されることによって作動する。PD141の一端側(出力端子)は抵抗器181とコンデンサ182が並列に接続されたRC並列回路(R=680kΩ、C=3nF)を介してマイコン180に接続され、PD141の他端側はグランドに接続(接地)されている。また、脈波信号測定装置100は、トランジスタ183(NPN型)を備える。トランジスタ183において、コレクタ端子がPD141の出力端子に接続され、エミッタ端子がグランドに接続され、ベース端子がマイコン180に接続されている。トランジスタ183は、PD141の出力端子がグランドに接続された接続状態と、PD141の出力端子がグランドから切り離された非接続状態とを切り替えるスイッチング素子の一例である。
【0038】
また、本実施形態に係る脈波信号測定装置100は、所定時間(100ミリ秒)内で第3LED133、第2LED132、第1LED131の順で異なる波長の光を照射することによって1サイクル分の受光データを取得する。トランジスタ183によって、あるサイクルにおける第1LED131による光照射後にPD141の出力端子がグランドに接続され、あるサイクルの次のサイクルにおける第3LED133による光照射前にPD141の出力端子がグランドから切り離される。これにより、サイクル毎でPD141の出力信号を一旦リセットすることができる。なお、トランジスタ183のスイッチング制御は、マイコン180によって実行される。この制御を実行するための制御プログラムは、マイコン180の記憶部(図1に示す記憶部120)に格納されている。
【0039】
また、図5に示すように、第1LED131、第2LED132、第3LED133のアノード端子は3.3Vの直流電圧を印加する電源回路(不図示)に接続されており、それらのカソード端子は抵抗器を介してトランジスタ184~186(NPN型)のコレクタ端子に接続されている。トランジスタ184~186のいずれのエミッタ端子もグランドに接続されており、また、トランジスタ184~186のいずれのベース端子も抵抗器を介してマイコン180に接続されている。マイコン180が第1LED131、第2LED132、および第3LED133による光照射タイミングに応じてトランジスタ184~186の各ベース端子に電圧を印加することによって、3.3Vの直流電圧が各LEDに印加される。これにより、脈波信号測定装置100は、所定のタイミングで第1LED131、第2LED132、および第3LED133による光照射を実行することができる。なお、この制御を実行するための制御プログラムは、マイコン180の記憶部(図1に示す記憶部120)に格納されている。
【0040】
次に、図6(a)、図6(b)を用いて、脈波信号測定装置100が測定する脈波信号について説明する。脈波信号測定装置100で脈波を測定する際、測定部位を圧迫する力の大きさ(以下、単に「圧迫値」と称する)が測定結果に影響する。本実施形態では、脈波信号測定装置100は、親指の腹側に光を照射し、親指の腹側で光を受光するので、親指の腹側に対する圧迫値が測定結果に影響する。
【0041】
図6(a)は、測定部位に対する圧迫値が適切である場合に測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図6(b)は、測定部位に対する圧迫値が不適切である場合に測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図6(a)および図6(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表している。図6(a)および図6(b)に示すように、測定部位に対する圧迫値が適切である場合の方が、拍動状態が良好な脈波信号を測定できることが分かる。
【0042】
次に、図7を用いて、測定部位に対する圧迫値の適切な範囲について説明する。図7は、測定部位に対する圧迫値の適切な範囲(以下、「所定範囲」と称する)を説明するグラフである。図7のグラフは測定部位を圧迫しながらピーク波長が1050nmの光を照射し、測定部位から受光した光の強度と振幅の大きさを示している。図7のグラフにおいて、横軸は圧迫値(N)を表し、左側縦軸は受光した光の光強度の平均値(任意単位)を表し、右側縦軸は受光した光の振幅(任意単位)を表している。また、図7のグラフにおいて、線a1は圧迫値に対する光強度の平均値の変化を示し、線a2は圧迫値に対する振幅の変化を示す。
【0043】
心臓の拍動により血管は収縮および拡張を繰り返し、この収縮および拡張に伴って血管内の血液容積が変動する。脈波信号は、測定部位に対して光を照射し、血液容積の変動によって測定部位内の血管を通過した光強度の変化を表す。血管を通過した光強度は、光が通過した血液容積が大きいほど小さくなり、光が通過した血液容積が小さいほど大きくなる。このため、拍動に応じて変化する血管内の血液容積の最大値と最小値の差が相対的に大きくなるように圧力を測定部位に対して加えることで良好な脈波信号を測定することができる。
【0044】
本実施形態では、圧迫値の所定範囲を振幅が2以上となる範囲に設定した。図7のグラフに示すように、圧迫値の所定範囲は、例えば、約2.7N~約4.7Nである。このように、圧迫値の所定範囲は、受光した光の振幅(脈波信号の振幅)に基づいて監視することができる。本実施形態に係る血液成分測定システム1では、脈波信号測定装置100は測定した脈波信号をリアルタイムで端末装置200に送信する。端末装置200は、脈波信号測定装置100から受信した脈波信号を解析することで測定部位に対する圧迫状態を把握する処理を行う。
【0045】
次に、図8(a)~図8(c)を用いて、圧迫値のモニタリング方法について説明する。図8(a)は、本実施形態における圧迫値のモニタリング方法の一例を概念的に説明するグラフである。図8(a)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、線b1は脈波信号を示している。本例では、測定部位に対する圧迫値が所定範囲となるまでの脈波信号測定期間としてモニタリング期間1が設けられている。モニタリング期間1では、脈波信号測定装置100は、第1LED131を点灯させて被検者の親指にピーク波長が1050nmの光を照射し、当該親指内の血液を通過した光をPD141で受光して脈波信号を測定する。また、脈波信号測定装置100は、測定した脈波信号をリアルタイムで端末装置200に送信し、端末装置200は、脈波信号を解析して測定部位に対する圧迫値が所定範囲となったか否かを判定する。端末装置200は、測定部位に対する圧迫値が所定範囲になったと判定すると、脈波信号測定装置100に血液成分測定用の脈波信号の測定を開始させることで、モニタリング期間2(「所定期間」の一例)を開始する。モニタリング期間2は血液成分測定用のデータ取得期間(約20秒)であり、脈波信号測定装置100はモニタリング期間2において第1LED131~第3LED133を順次点灯させて脈波信号を測定する。端末装置200は、モニタリング期間2に取得した脈波信号に基づいて、血中TG値およびHbA1c値を算出する。本実施形態に係る血液成分測定システム1によれば、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号に基づいて血中TG値およびHbA1c値を算出するので、血液成分の濃度の測定精度を向上することができる。
【0046】
このように、モニタリング期間1では、第1LED131を点灯させる。これは、モニタリング期間1では、血液成分測定用の脈波信号ではなく圧迫値監視用の脈波信号を測定しており、複数のLEDを順次点灯させるよりも一つのLEDにより光を照射して受光データを取得することによって受光データ数を多くすることができ、以て、モニタリング期間2よりも詳細な圧迫値の解析を可能とするためである。また、端末装置200は、モニタリング期間2においても血液成分測定用の脈波信号のうち第1LED131の照射光から得られた脈波信号を解析することによって圧迫値を監視する。
【0047】
図8(b)は、本実施形態における圧迫値のモニタリング方法の一例を概念的に説明するグラフである。図8(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、線b2および線b3は脈波信号を示している。線b2および線b3は、説明の便宜上、上下2段に分けて描画されているが、ともに同じ脈波信号を示している。本例では、単位時間の評価区間を時間ごとにずらしながら、圧迫値の評価を繰り返し行い、圧迫値が所定範囲になった評価区間以降で血液成分測定用の脈波信号を取得する。なお、本例においても、圧迫値が所定範囲となる以前の評価区間においては、第1LED131を点灯させて圧迫値監視用の脈波信号を測定し、圧迫値が所定範囲内となった以降の評価区間においては、第1LED131~第3LED133を順次点灯させて血液成分測定用の脈波信号を測定する。また、図8(b)のグラフに示すように、評価区間1では圧迫値が所定範囲外であったが、評価区間N(Nは2以上の自然数)で圧迫値が所定範囲内になったと端末装置200が判定した場合、脈波信号測定装置100は評価区間Nの開始以降に血液成分測定用の脈波信号を例えば約20秒分(「所定期間」の一例)測定する。端末装置200は、約20秒分の血液成分測定用の脈波信号に基づいて、血中TG値およびHbA1c値を算出する。本実施形態に係る血液成分測定システム1によれば、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号に基づいて血中TG値およびHbA1c値を算出するので、血液成分の濃度の測定精度を向上することができる。
【0048】
図8(c)は、本実施形態における圧迫値のモニタリング方法の一例を概念的に説明するグラフである。図8(c)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、線b4は脈波信号を示している。本例では、血液成分測定用の脈波信号の取得が完了する前に圧迫値が変化した場合について説明する。なお、本例では、圧迫値が最初に所定範囲となる以前の期間においては、第1LED131を点灯させて圧迫値監視用の脈波信号を測定し、圧迫値が最初に所定範囲内となった以降の期間においては、第1LED131~第3LED133を順次点灯させて血液成分測定用の脈波信号を測定する。例えば、図8(c)のグラフに示すように、圧迫値監視用の脈波信号に基づいて圧迫値が最初に所定範囲内となったと端末装置200が判定すると、脈波信号測定装置100は血液成分測定用の脈波信号(図8(c)中、取得データA)を測定する。端末装置200は、取得データAに基づいて圧迫値の監視を継続し、取得データAの測定時間が所定期間(約20秒)に到達する前に圧迫値が所定範囲外になったと判定すると、次に、圧迫値が所定範囲内になったと判定した以降に取得した脈波信号(図8(c)中、取得データB)を血液成分測定用の脈波信号とする。端末装置200は、取得データAおよび取得データBの合計の測定時間が所定期間となるように血液成分測定用の脈波信号を脈波信号測定装置100に測定させ、取得データAおよび取得データBの脈波信号に基づいて、血中TG値およびHbA1c値を算出する。本例のように、血液成分測定用の脈波信号は、2以上に分割されて取得されてもよい。本実施形態に係る血液成分測定システム1は、所定範囲内の圧迫値が測定部位に加えられている間の脈波信号に基づいて血液成分の濃度を算出するために、常に圧迫値を監視する。これにより、血液成分測定システム1は、血液成分測定用の脈波信号の測定中に測定部位に対する圧迫値が所定範囲外に変化してしまった場合であっても、処理部211がこの圧迫値の変化を把握し、算出部212が測定部位に対する圧迫値が再度所定範囲内となった期間に取得した脈波信号を選択的に用いて、血液成分の濃度を算出する。これにより、血液成分測定システム1は、血液成分の濃度の測定精度を向上することができる。
【0049】
次に、測定部位の圧迫状態を把握する処理方法について詳細に説明する。本実施形態では、圧迫値を数値化する解析を行うことによって測定部位の圧迫状態を把握する。本実施形態では、圧迫値を数値化する解析方法として、脈波信号の周波数解析、脈波信号の変曲点カウント、脈波信号における複数拍動の形状から得られた基準パターンとの比較、および脈波信号における単一拍動の形状から得られた鋸波との比較の合計4つの方法を例に挙げて説明する。
【0050】
まず、周波数解析について説明する。図9(a)は、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に脈波信号測定装置100で測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図9(a)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表し、線c1は脈波信号を示している。図9(b)は、図9(a)に示す脈波信号を単位時間ごとにフーリエ変換し、当該脈波信号の周波数ごとの信号成分の振幅スペクトルを示すグラフである。図9(b)のグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)を表し、縦軸は振幅(任意単位)を表し、線c2は振幅スペクトルを示している。
【0051】
一方、図10(a)は、測定部位に対する圧迫値が所定範囲外である場合に脈波信号測定装置100で測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図10(a)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表し、線d1は脈波信号を示している。図10(b)は、図10(a)に示す脈波信号を単位時間ごとにフーリエ変換し、当該脈波信号の周波数ごとの信号成分の振幅スペクトルを示すグラフである。図10(b)のグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)を表し、縦軸は振幅(任意単位)を表し、線d2は振幅スペクトルを示している。
【0052】
図9(b)および図10(b)に示すように、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号の方が測定部位に対する圧迫値が所定範囲外である場合に測定した脈波信号よりもフーリエ変換後の最大振幅(脈動の周波数に対応する振幅)が大きくなる。このように測定部位に対する圧迫値と脈波信号のフーリエ変換後の最大振幅との間には相関関係があるので、圧迫値の所定範囲と脈波信号のフーリエ変換後の最大振幅との間の相関関係を予め測定しておき、脈波信号のフーリエ変換後の最大振幅から圧迫値を数値化することができる。なお、本実施形態における周波数解析では、脈波信号は、フーリエ変換される前に拍動の振幅によって正規化されていてもよい。このような正規化を行った場合であっても脈波信号のフーリエ変換後の最大振幅と測定部位に対する圧迫値との相関関係は変化しない。
【0053】
次に、脈波信号の変曲点カウントについて説明する。図11(a)は、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に脈波信号測定装置100で測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図11(b)は、測定部位に対する圧迫値が所定範囲外である場合に脈波信号測定装置100で測定した脈波信号の一例を示すグラフである。図11(a)および図11(b)では、拍動2回分の脈波信号を示している。
【0054】
脈波信号の拍動1回分には、変曲点として、一組の最小点および最大点と、ノッチが存在する。ここで、脈波信号は血液の駆出によって作られる順行性の駆出波と末梢からの反射によって作られる逆行性の反射波が重なり合いで形成されており、駆出波と反射波の境界部分にあたる窪みをノッチと定義する。
【0055】
本実施形態における脈波信号の変曲点カウントにおいては、最小点、最大点およびノッチをカウント対象の変曲点から除外する。図11(a)に示すように、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定される脈波信号において、最小点、最大点およびノッチ以外の変曲点が存在せず、カウント対象の変曲点の数が「0」である。一方、図11(b)に示すように、測定部位に対する圧迫値が所定範囲外である場合に測定される脈波信号において、最小点、最大点およびノッチ以外に変曲点(図中、点1~点6)が存在しており、カウント対象の変曲点の数が「6」である。
【0056】
ここで、良好な脈波信号では、カウント対象の変曲点が少なく、理想的な脈波信号ではカウント対象の変曲点の数は「0」である。一方、不良な脈波信号では、カウント対象の変曲点が相対的に多くなる。このように、脈波信号の良好性とカウント対象の変曲点には相関関係が認められる。したがって、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号および当該圧迫値が所定範囲外である場合に測定した各脈波信号とカウント対象の変曲点には相関関係が認められる。本実施形態における脈波信号の変曲点カウントは、例えば、拍動5回分の脈波信号でのカウント対象の変曲点の数と脈波信号測定時の測定部位に対する圧迫値との相関関係を予め求めておき、当該変曲点の数によって圧迫値を数値化できる。
【0057】
次に、複数拍動の形状から得られた基準パターンとの比較(以下、単に「比較法1」と称する)について説明する。比較法1では、脈波信号を複数の拍動分に分割し、単位時間における拍動回数分を重ね合わせ、加算平均により基準拍動を算出する。これにより、比較法1では、基準拍動と、評価対象の拍動とのユークリッド距離の合計値を算出する。なお、比較法1では、基準拍動を算出する際の拍動および評価対象の拍動を一拍動ずつ順次ずらすことによって複数拍動分の脈波信号について解析を行うことができる。
【0058】
図12(a)は、脈波信号の一例を示すグラフである。図12(a)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表している。本例では、図12(a)に示す点線f1で囲んだ5回分の拍動を重ね合わせて基準拍動を算出し、図12(a)に示す点線f2で囲んだ拍動を評価する方法について例示する。
【0059】
図12(b)は、基準拍動と、評価対象の拍動を重ね合わせたグラフである。図12(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、点線g1は基準拍動を示し、線g2は、評価対象の拍動を示している。
【0060】
基準拍動と、評価対象の拍動とのユークリッド距離の合計値は、良好な脈波信号ほど小さくなり、不良な脈波信号ほど大きくなる。このように、脈波信号の良好性と当該ユークリッド距離の合計値には相関関係が認められる。したがって、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号および当該圧迫値が所定範囲外である場合に測定した各脈波信号と当該ユークリッド距離の合計値には相関関係が認められる。本実施形態における比較法1は、当該ユークリッド距離の合計値と脈波信号測定時の測定部位に対する圧迫値との相関関係を予め求めておき、当該ユークリッド距離の合計値によって圧迫値を数値化することができる。
【0061】
次に、単一拍動の形状から得られた鋸波との比較(以下、単に「比較法2」と称する)について説明する。比較法2では、脈波信号の谷と山を結んで得られる形状を最適な脈波のパターンとみなし、これを個々の拍動と比較して得られる差異であるユークリッド距離の大小を比較することによって脈波信号を評価する。
【0062】
図13(a)~図13(c)は、単位時間で区切った脈波信号を示している。ここで、図13(a)に示す脈波信号における、ある時刻のデータ(P)と、データ(P)を含む前後数点からなるデータ列(D)と、を比較する。ここでは、前後3点ずつの合計7点のデータをデータ列(D)とする。データ(P)がデータ列(D)の最大値と一致した場合はそのデータ(P)を個々の拍動における山とみなすことができる。
【0063】
次に、着目する時刻を順次動かしていくことにより拍動における谷を抽出することができる。例えば、図13(b)に示すデータ(P)がデータ列(D)の最小値と一致した場合はそのデータ(P)を個々の拍動における谷とみなすことができる。
【0064】
一方、図13(c)に示すように、データ(P)が図13(a)で抽出した山とも図13(b)で抽出した谷とも一致しない場合においては、そのデータ(P)が山および谷のいずれでもないとみなすことができる。
【0065】
このように着目する時刻を順次動かしていくことにより脈波信号から動的、且つ、ほぼ即時的に脈波信号における個々の拍動の山と谷を抽出することができる。このようにして抽出した山と谷とを結んで得られる矩形は脈波信号の形状を評価する際の比較パターンに用いることができる。
【0066】
上記の方法により得られた比較パターンを用いて測定部位に対する圧迫値を数値化することができる。以下の例では、測定して得られた脈波信号と比較パターンとのユークリッド距離の合計値により脈波信号について評価する。
【0067】
(比較法2-1)
図14(a)は、測定部位に対する圧迫値が適切である場合に測定した良好な脈波信号の一例を示すグラフである。図14(b)は、測定部位に対する圧迫値が不適切である場合に測定した不良な脈波信号の一例を示すグラフである。図14(a)および図14(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表し、実線h1、h3は測定した脈波信号を示し、点線h2、h4は比較パターンを示している。比較法2-1では、良好な脈波信号および不良な脈波信号と、各比較パターンとのユークリッド距離より、図14(a)および図14(b)の各グラフにおける実線h1、h3と点線h2、h4とで囲まれた面積(図中、右上がりハッチングで示す(本例では、1拍動分のみ図示している))を算出する。図14(a)のグラフと図14(b)のグラフとでは、図14(a)のグラフの方が当該面積値は大きい。拍動10回分の当該面積の平均値は、図14(a)に示すグラフでは1.11であり、図14(b)に示すグラフでは0.70である。実線h1と点線h2とのユークリッド距離の合計値は実線h3と点線h4とのユークリッド距離の合計値よりも小さいが、良好な脈波信号は不良な脈波信号よりも振幅が大きいため、図14(a)のグラフの方が当該面積値は大きくってしまっている。なお、個々の拍動における面積値は、図14(a)および図14(b)のグラフ中に示している。
【0068】
(比較法2-2)
図15(a)は、測定部位に対する圧迫値が適切である場合に測定した良好な脈波信号の一例を示すグラフである。図15(b)は、測定部位に対する圧迫値が不適切である場合に測定した不良な脈波信号の一例を示すグラフである。図15(a)および図15(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表し、実線i1、i3は測定した脈波信号を示し、点線i2、i4は比較パターンを示している。なお、図15(a)および図15(b)に示す各脈波信号は、拍動の振幅の大きさで正規化されている。
【0069】
比較法2-2では、比較法2-1と同様に、各脈波信号と各比較パターンとのユークリッド距離より、図15(a)および図15(b)の各グラフにおける実線i1、i3と点線i2、i4とで囲まれた面積(図中、右上がりハッチングで示す(本例では、1拍動分のみ図示している))を算出する。図15(a)のグラフと図15(b)のグラフとでは、図15(b)のグラフの方が当該面積値は大きい。10回分の拍動分の当該面積の平均値は、図15(a)に示すグラフでは0.14であり、図15(b)に示すグラフでは0.23である。比較法2-2は、当該面積の大きさを脈波信号の指標として用いることができる。なお、個々の拍動における面積値は、図15(a)および図15(b)のグラフ中に示している。
【0070】
ここで、比較法2-2では、拍動10回分の脈波信号から振幅を正規化することにより上記の比較法2-1における問題点を解消しているが、拍動10回分の脈波信号を取得するには、仮に心拍数が60回/分とした場合、脈波信号の測定時間が約10秒間必要であり、測定部位に対する圧迫状態をモニタリングする場合(例えば、図8(a)に示すモニタリング期間1)においてはこの正規化方法は望ましくない。このため、なるべく少ない数の拍動から脈波信号を正規化する方がよい。一方で、1回分の拍動から正規化すると、正規化の正確性に劣るため、正確性と即時性の両面から正規化に使用する拍動回数を決定するとよい。
【0071】
(比較法2-3)
図16(a)は、測定部位に対する圧迫値が適切である場合に測定した良好な脈波信号の一例を示すグラフである。図16(b)は、測定部位に対する圧迫値が不適切である場合に測定した不良な脈波信号の一例を示すグラフである。図16(a)および図16(b)のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振幅の強度(任意単位)を表し、実線j1、j3は測定した脈波信号を示し、点線j2、j4は比較パターンを示している。なお、図16(a)および図16(b)に示す各脈波信号は、拍動の振幅の大きさで正規化されている。
【0072】
比較法2-3では、比較法2-1および比較法2-2とは異なり、拍動の谷、山、谷の三点で形成される三角形(図16(a)および図16(b)中、ドットハッチングで示す領域)の面積を算出し、この面積(図中、右上がりハッチングで示す領域)の割合を算出することで比較パターンからのずれを数値化するができる。図16(a)および図16(b)において、比較法2-3で得られた個々の拍動が上記三角形に対してどれだけずれているかを数値化して示した。数値が大きいほど測定した脈波信号の比較パターンからのずれが大きくなる。また、拍動10回分から算出される測定した脈波信号の比較パターンからのずれの平均値は、図16(a)に示す場合は0.16、図16(b)に示す場合は0.30であった。
【0073】
比較法2-3の優位な点は、比較パターンがその拍動の谷と山から形成される1拍動の三角形であるために即時的に脈波信号の状態を数値化することができる点である。また、拍動の三角形からのずれの割合を数値化できるので、得られた数値を1から差し引くことにより脈波信号の状態を0から1の範囲または百分率として点数化することができる。例えば、図16(a)のグラフの場合、拍動10回分から得られた脈波信号の点数は0.84(84%)であり、図16(b)のグラフの場合、拍動10回分から得られた脈波信号の点数は0.70(70%)である。
【0074】
このように、脈波信号の良好性と比較パターンとのユークリッド距離の合計値には相関関係が認められる。したがって、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内である場合に測定した脈波信号および当該圧迫値が所定範囲外である場合に測定した各脈波信号と当該ユークリッド距離の合計値には相関関係が認められる。本実施形態における比較法2は、当該ユークリッド距離の合計値と脈波信号測定時の測定部位に対する圧迫値との相関関係を予め求めておき、当該ユークリッド距離の合計値によって圧迫値を数値化することができる。
【0075】
また、本実施形態では、脈波信号から谷および山を抽出する際に、着目する時刻の前3点、後3点の合計7点を用いて着目時刻のデータ(P)とデータ列(D)の最大値と最小値を比較する方法を例示したが、別の方法によっても最小点および最大点を抽出することもできる。例えば、ある時刻の前後のデータ点との大小関係または微分値の比較により谷と山を抽出してもよい。
【0076】
また、本実施形態では、ユークリッド距離は、比較パターンからの脈波信号のずれの値を両者の二乗和の平方根を取ることにより算出したが、当該値の絶対値の和をユークリッド距離の算出に用いてもよい。
【0077】
次に、図17を用いて本実施形態に係る血液成分測定システム1の測定処理について説明する。図17は、血液成分測定システム1が実行する測定処理に関するフローチャートである。被検者は、脈波信号測定装置100の開口部172に親指を挿入してつまみ173を回し、当接面170aに対する親指の押圧力を調整する。次いで、被検者は、端末装置200を操作して、血液成分測定を開始する。
【0078】
まず、端末装置200は、OP201において、脈波信号測定装置100に圧迫値判定に用いる脈波信号の測定指示を送信する。脈波信号測定装置100は、OP201における測定指示を受信するとOP101の処理を開始する。脈波信号測定装置100は、OP101において、第1LED131を点灯させて被検者の親指にピーク波長が1050nmの光を照射して、当該指内の血液を通過した光をPD141で受光して脈波信号を測定する。脈波信号測定装置100は、測定した脈波信号をリアルタイムで端末装置200に送信する。
【0079】
次いで、端末装置200の処理部211は、OP202(「圧迫状態を把握する処理」の一例)において、脈波信号を解析することにより測定部位に対する圧迫値が所定範囲であるか否かを判定する。この脈波信号の解析方法としては上述の圧迫値を数値化する解析方法が挙げられる。
【0080】
処理部211は、OP202において圧迫値が所定範囲でないと判定すると、OP203の処理に移行する。端末装置200は、OP203において、被検者に対し圧迫値修正を指示する。例えば、端末装置200は、表示部230に圧迫値修正を指示する文字や画像などを表示する。被検者は、表示部230に表示される文字や画像を参照しつつ、つまみ173を回して当接面170aに対する親指の押圧力を調整する。血液成分測定システム1は、OP101、OP202、OP203の処理を圧迫値が所定範囲となるまで繰り返し実行する。OP101、OP202、OP203の処理が繰り返し実行される期間は、図8(a)に示すモニタリング期間1である。
【0081】
一方、処理部211は、OP201において圧迫値が所定範囲であると判定すると、OP204の処理に移行する。次のOP204では、端末装置200は、血液成分測定用の脈波信号の測定指示を脈波信号測定装置100に送信する。
【0082】
脈波信号測定装置100は、OP204における測定指示を受信するとOP102の処理に移行する。OP102では、脈波信号測定装置100は、血液成分測定用の脈波信号を測定する。脈波信号測定装置100は、第3LED133、第2LED132、第1LED131の順で光を被検者の親指に照射して、当該指内の血液を通過した光をPD141で受光して受光データを取得する。脈波信号測定装置100は、例えば、20秒分(200サイクル分)の受光データを取得して、20秒分の受光データを脈波信号とする。また、脈波信号測定装置100は、測定した脈波信号をリアルタイムで端末装置200に送信する。この20秒分の脈波信号が測定される期間は、図8(a)に示すモニタリング期間2である。端末装置200は、OP205で脈波信号を受信するとともに、処理部211が血液成分測定用の脈波信号のうち第1LED131の照射光から得られた脈波信号を解析することによって測定部位に対する圧迫状態を把握する処理を行う。
【0083】
以上のとおり、OP201~205の処理では、端末装置200は、処理部211が測定部位の圧迫状態を把握する処理を行うことによって、測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であるか否かを判定する。そして、端末装置200は、処理部211が測定部位に対する圧迫値が所定範囲内であると判定した以降に取得した脈波信号に対して圧迫状態を把握する処理を引き続き行いつつ、OP206~OP208の処理において算出部212が血液成分の濃度を算出する。
【0084】
次のOP206では、端末装置200の算出部212は、脈波信号から各波長に対応する吸光度を算出する。例えば、各波長に対応する脈波信号の変化幅は適宜吸光度に変換できる。算出部212は、各波長の照射時に対応する脈波信号の変化幅から、波長1050nmの光照射に対応する血液の吸光度(以下、「第1吸光度」と称する)と、波長1300nmの光照射に対応する血液の吸光度(以下、「第2吸光度」を称する)と、波長1450nmの光照射に対応する血液の吸光度(以下、「第3吸光度」を称する)を算出する。
【0085】
次のOP207では、算出部212は、第1吸光度と第2吸光度から、血中TG値を算出する。端末装置200は、例えば、第1吸光度と第2吸光度との差分を行うことによって非侵襲血液吸光度を算出し、所定の変換テーブルを用いて非侵襲血液吸光度を血中TG値に変換する。これにより、血中TG値が算出される。
【0086】
次のOP208では、算出部212は、第3吸光度を規格化し、規格化された第3吸光度をHbA1c値に変換する。規格化の一例としては、例えば、第1吸光度または第2吸光度で第3吸光度を除算することが挙げられる。第3吸光度の規格化により、総ヘモグロビン濃度に依存することなくより正確にHbA1c値を算出することができる。また、規格化された第3吸光度をHbA1c値に変換する方法としては、例えば、端末装置200の記憶部220には予め作成された吸光度とHbA1c値の関係を表す検量線のデータが格納されており、規格化後の第3吸光度と検量線とを比較することでHbA1c値を算出することが挙げられる。なお、検量線の作成には、測定対象であるヒトのヘモグロビンおよび糖化ヘモグロビンを用いることが好ましい。
【0087】
次のOP209では、算出部212は、血中TG値およびHbA1c値の測定値の信頼度を算出する。算出部212は、例えば、上記で説明した比較法2-2または比較法2-3により、血液成分算出に用いた脈波信号を点数化することによって信頼度を算出する。
【0088】
次のOP210では、算出部212は、信頼度が所定値以上(例えば、0.8(80%)以上)であるか否かを判定する。算出部212は、信頼度が所定値未満であると判定すると、OP212の処理に移行する。端末装置200は、OP212では、表示部230によって被検者に血液成分の再測定を報知し、次いで、OP201の処理を再度実行する。これにより、血液成分測定システム1は、血液成分の濃度を再測定する。
【0089】
一方、算出部212は、OP210において、信頼度が所定値以上であると判定すると、OP211の処理に移行する。OP211では、端末装置200は、測定結果として血中TG値およびHbA1c値と、信頼度を表示部230に表示する。このように、端末装置200は、信頼度が所定値以上である場合には血液成分の濃度を報知し、信頼度が所定値未満である場合には血液成分の濃度の再測定を報知する表示部230を備える。これにより、被検者は血中TG値およびHbA1c値を知ることができる。
【0090】
本実施形態によれば、正確な脈波信号を検出することができるので、血液成分の濃度の測定精度を向上できる。
【0091】
以上が本実施形態に関する説明であるが、上記の脈波信号測定装置100の構成、血中TG値およびHbA1c値の算出処理などは、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想と同一性を失わない範囲内において種々の変更が可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態では、圧迫値が最初に所定範囲となる以前の期間においては、第1LED131を点灯させて圧迫値監視用の脈波信号が測定された。しかしながら、圧迫値が最初に所定範囲となる以前の期間において点灯されるLEDは、第1LED131に限定されず、第2LED132または第3LED133であってもよい。また、圧迫値が最初に所定範囲となる以前の期間であっても2以上のLEDが点灯されてもよい。
【0093】
また、図8(a)に示すモニタリング期間2において、端末装置200の処理部211は、第2LED132または第3LED133の照射光から得られた脈波信号を解析することによって測定部位に対する圧迫状態を把握する処理を行ってもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、生体の測定部位に対して生体透過性の低い波長順に光を照射しているが、生体やその測定部位によって生体透過性は異なる。このため、生体透過性の低い波長順は波長1450nm、波長1300nm、波長1050nmには限られない。なお、生体透過性の低い波長順に光を照射する制御は、端末装置200からの制御信号に基づいて実行されてもよい。例えば、端末装置200には種々の生体の測定部位における各波長の生体透過性情報が格納されており、端末装置200は、測定対象となる生体の測定部位における生体透過性の低い順に光を照射するように、脈波信号測定装置100を制御してもよい。
【0095】
また、上記本実施形態では、脈波信号測定装置100が測定した脈波信号に基づいて端末装置200が血液成分の濃度を算出しているがこれに限られない。脈波信号を測定する装置と、血液成分の濃度を算出する装置は、同じであってもよいし、一体的であってもよい。例えば、脈波信号を測定する装置と血液成分の濃度を算出する装置が同じである場合、脈波信号測定装置100が脈波信号を解析して測定部位の圧迫状態を把握する処理を行い、血液成分の濃度を算出する。この場合、脈波信号測定装置100が、本願におけるコンピュータの一例である。
【0096】
また、脈波信号測定装置100によって得た脈波信号を端末装置200が通信回線を介して外部サーバに送信し、この外部サーバが脈波信号に基づいて血中TG値およびHbA1c値を算出して血中TG値およびHbA1c値を含む情報を通信回線を介して端末装置200に送信し、端末装置200が血中TG値およびHbA1c値を表示してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では脈波信号測定装置100には、反射光方式が採用されているが、透過光方式が採用されてもよい。透過光方式の脈波信号測定装置100は、照射部130と受光部140が開口部172から挿入された被検者の親指300を挟むように例えば照射部130が上部カバー171に配置されており、親指300の背側(爪側)から照射部130が光を照射し、親指を通過した光を受光部140が受光する構成であってもよい。
【0098】
なお、照射部130が有するLEDの個数、各LEDの照射光のピーク波長および配置パターンは上記実施形態に限られない。例えば、血中TG値のみを測定する場合には、照射部130は第1LED131および第2LED132を有していればよい。また、HbA1c値のみを測定する場合には、照射部130は第1LED131または第2LED132のいずれかと、第3LED133とを有していればよい。
【0099】
また、上記実施形態における測定対象の生体はヒトであったが、測定対象の生体はヒトに限られない。具体的な測定対象の生体の一例としては、哺乳類、鳥類が挙げられる。このうち、高血糖による病気(例えば、糖尿病)の診断の可能性があるヒトや、ペットや家畜になり得る哺乳類や鳥類を測定対象とするのがより好ましい。
【0100】
また、上記実施形態においては血液成分の濃度として血中TG値およびHbA1c値が測定されているが、他の血液成分の濃度を測定してもよい。例えば、血液中のヘモグロビン、グルコース、コレステロール類(総コレステロール、HDL-またはLDL-コレステロール、遊離コレステロール)、尿素、ビリルビン、リポ蛋白質、リン脂質、エチルアルコール等を測定してもよい。この場合には、各血液成分の濃度によって吸光度が変化する波長の光を生体に対して照射して、当該吸光度から各血液成分の濃度を算出する。
【0101】
また、上記実施形態で説明した示した圧迫値の数値化の方法は一例であり、別の解析方法で圧迫値を数値化してもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、つまみ173を回すことによって被検者の指に対する押圧力を調整している。しかしながら、押圧力を調整する方法はこれに限定されない。例えば、面ファスナー製のバンドを設け、バンドを締め直すことにより押圧力を調整してもよい。また、被検者の力加減のみで押圧力を調整してもよい。あるいは、モータにより駆動される押圧機構を設け、端末装置200からの信号を受けて自動で押圧力を調整してもよい。
【0103】
また上記実施形態では、端末装置200は報知部として表示部230を備えているが、報知部はこれに限られない。端末装置200は、報知部としてスピーカを備えており、音声によって血液成分の濃度や、信頼度、再測定の報知を行ってもよい。また、端末装置200は、報知部として表示部230とスピーカの両方を備えていてもよい。
【0104】
なお、測定部位に対する圧迫値を安定させる見地から、上部カバー171と当接面170aの間で測定部位が挟持されるように、上部カバー171と筐体170との間に弾性部材を配置し、当接面170a対して当該測定部位が付勢力を作用させるようにしてもよい。
【0105】
また、血液成分の濃度の信頼度の許容範囲(所定値以上であること)は、測定対象の生体状態に応じて変更されてもよい。例えば、測定対象の生体が食前の状態である場合には信頼度の許容範囲は狭めに設定されてもよいし、測定対象の生体が食後の状態である場合には信頼度の許容範囲は広めに設定されてもよい。また、血液成分の濃度の信頼度の許容範囲は、測定対象の生体の食事時刻からの経過時間に応じて変更されてもよい。例えば、測定対象の生体の食事時刻からの経過時間が長い程、信頼度の許容範囲は狭めに設定されてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、発光波長の異なる3つのLEDを使用した例を示したが、測定対象の血液成分を変更したり、増加させたりすることで、必要なLEDの個数や、LEDの発光波長の種類は適宜変更される。また、脈波信号測定装置100において、照射部130には白色LEDやハロゲンランプが採用されてもよいし、受光部140には分光器が採用されてもよい。このような場合においても、本件開示の技術によれば、血液成分の濃度の測定精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 血液成分測定システム
100 脈波信号測定装置
200 端末装置
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