(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】フロントガラスワイパーブレードインサート用低吸収撥水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240930BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240930BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240930BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240930BHJP
B60S 1/02 20060101ALN20240930BHJP
B60J 1/02 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/20
B60S1/02
B60J1/02 L
(21)【出願番号】P 2021566200
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 US2020033036
(87)【国際公開番号】W WO2020232323
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-15
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591203428
【氏名又は名称】イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】チアフー ファン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526686(JP,A)
【文献】米国特許第06461537(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第107099400(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105925388(CN,A)
【文献】特表2013-520368(JP,A)
【文献】特表2016-508090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
B60J1/00-1/20
B60S1/00-1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントガラス
に疎水性皮膜を形成する方法であって、
第四級アンモニウムシラン塩、溶媒、及びミネラルスピリットを含む疎水性コーティング組成物を提供すること、
前記疎水性コーティング組成物をワイパーブレードインサートに適用すること、
前記ミネラルスピリットを蒸発させて、0.5~500ミクロンの厚さを有する不揮発性層を前記ワイパーブレードインサート上に形成すること、及び
ウェット、ドライ、又はウェットとドライとの組合せでワイピングして、
前記ワイパーブレードインサートからフロントガラスへ前記疎水性コーティング組成物を転写し、2000回のワイピングサイクル内で、前記フロントガラス
に60度超の水接触角の撥水性を付与すること、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本願は、2019年5月15日に出願された米国仮特許出願第62/848,249号の優先権の利益を主張する。上記米国仮特許出願の内容は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、概して、ワイパーの使用によって接触窓ガラスに疎水性皮膜を付与するワイパーブレード用の疎水性コーティング組成物、特にワイパーブレードインサート表面への吸収に耐える疎水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
雨、みぞれ、及び雪は、常に車両の運転者にとって視界の問題を提示してきた。フロントガラスを横切るワイパーブレードインサートの機械的な動きは、フロントガラスから水及び雪を移動させるための機械的スキージとして部分的に有効であるが、従来のワイパーブレードの操作は、有機エラストマー製かシリコーンゴム製かにかかわらず、フロントガラスからの水及び雪の除去において部分的に有効であるにすぎない。フロントガラスを横切って動くワイパーブレードインサートは、視界を部分的に損なう薄い水膜を残し、更なる液体水又は雪のフロントガラスへの付着を促進する。さらに、ワイパーブレードインサートは環境に曝されて劣化するため、ワイパーブレードインサートとフロントガラスとの接触の均一性が低下する。これらの問題は、一般的に破片(debris)がフロントガラスに付着して、ワイパーブレードインサートとフロントガラスの表面との間に隙間ができる領域が生じ、視界がぼやける筋及び水滴につながることによって更にひどくなる。
【0004】
機械的スキージ動作によるフロントガラスのクリーニングの制限に対処するため、雨、みぞれ、又は雪の高湿度条件下で運転者の視界を改善するように疎水性ガラス処理溶液を車両のフロントガラスに塗布した。かかるガラス処理の代表は、特許文献1、特許文献2、特許文献3に詳述されるものである。かかるガラス処理は、水がビード(bead)になることで、フロントガラスに水膜を形成しないように、フロントガラスを疎水性にするのに有効であるが、これらの製品は、塗布するのに大きな労力を要するために受け入れ難く、疎水性のフロントガラスの表面を作り出すために幾分有毒な化学物質を扱う必要がある。さらに、フロントガラスが雨又はその他の降水に曝されている間にかかる疎水性ガラス処理を施すのは実用的ではない。
【0005】
従来の疎水性ガラス処理の限界を認識し、ワイパーブレードの動作中に、コーティング層の成分が、フロントガラスに対するワイパーブレードインサートの摩擦をとおして接触するフロントガラス上に付与されるように、シリコーンワックス(ワックスがシリコーン油に溶解している固形潤滑剤中のシリコーン油)を含むワイパーブレードインサート用のコーティング組成物が開発されている。かかる組成物は、特許文献4に詳述されている。かかるコーティングされたワイパーブレードインサートは、ワイパーブレードインサートの取り付け時にフロントガラスに疎水性コーティングを与えるのに有効であるが、フロントガラスにコーティング成分を転写する能力がワイパー製造から実際にブレードを車両に取り付けるまでの間に低下することで、フロントガラスにコーティングを転写する能力は急速に低下する。さらに、フロントガラスに付与されるコーティングは不規則になりがちであり、フロントガラスの表面に付与される疎水性が斑状になる傾向がある。
【0006】
この出願の譲受人に対する特許文献5(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)は、対象表面にシリコーン油若しくはフッ素ポリマー油のオイル、又はそれらの組合せ、樹脂、及び乾燥潤滑剤を含む疎水性皮膜を付与するためのコーティング組成物を教示する。オイル及び樹脂の溶液を形成するために溶媒が存在する。コーティングをアプリケーターに付与し、このアプリケーターは、次に該コーティングを疎水性皮膜としてガラスに転写することができる。コーティング組成物は安定であり、高温で数週間保管した後であっても疎水性皮膜を付与することができる。コーティング組成物は、特にシリコーンワックスを含む合成ワックスを排除することによって疎水性皮膜を付与する。また、ワイパーブレードが接触する車両のフロントガラスに疎水性皮膜を付与するためのワイパーブレードインサートを車両に固定するための使用説明書と共に、上記のコーティング組成物を適用したワイパーブレードインサートを含むキットも提供される。
【0007】
典型的な疎水性ガラス処理は、主にブレードスキージーが非シリコーンゴムで作られている場合、ワイパーブレードインサートによる摩耗のために、自動車のフロントガラスの表面で数ヶ月間しか持続しないことが観察されている。しかしながら、適切に配合されたポリシロキサン流体ベースの撥水性(WR)コーティング又は自動車のフロントガラス表面用の処理は、ワイパーブレードインサートがシリコーンゴムで構成されている場合、ワイパーブレードインサートの摩耗に耐える。
図1に示す従来技術の図表に示されるように、撥水性(WR)コーティングと、コーティングが施されたワイパーブレード材料との間に相乗作用がある。シリコーンベースのワイパーブレードにWRコーティングを施した場合、そのようにコーティングされたフロントガラス上の水の接触角(CA)は、100000回超のワイパーブレード摩耗サイクルにわたって90度を超えたままである。しかしながら、非シリコーンブレードにWRコーティングを施すと、およそ20000回のワイパーブレード摩耗サイクルで接触角が60度を下回る。60度は最小有効接触角と見なされる。WRコーティングとシリコーンゴムスキージとの間には強い相乗作用があることは明らかである。
【0008】
残念なことに、特許文献5の教示のように、従来のポリシロキサン流体ベースのWRコーティングがシリコーンゴムスキージ表面に直接、事前に適用されている場合、WRコーティング中の撥水成分は、経時的にシリコーンゴムにかなり迅速に吸収され、コーティング組成物の撥水材料をワイピングしたフロントガラス表面に転写して疎水性にする能力を失う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第3,579,540号
【文献】米国特許第5,688,864号
【文献】米国特許第6,432,181号
【文献】米国特許第8,258,219号
【文献】米国特許第9,540,552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、ワイパーブレードの動作中、及びコーティング組成物でコーティングされたワイパーブレードの長期保管期間後であっても、また高温であっても、コーティングされたワイパーブレードインサートが、フロントガラスの接触領域に疎水性皮膜を迅速に付与できるようにする、ワイパーブレードインサートに適用した後の貯蔵寿命が長いワイパーブレードコーティングが必要である。さらに、シリコーンゴムベースのワイパーブレード材料への吸収に耐える撥水性コーティングが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
自動車用ワイパーブレードのゴム要素からフロントガラスに撥水性を付与するためのコーティング組成物が提供され、該コーティングは、第四級塩化アンモニウムシランと、イソプロパノール等の極性溶媒又はシランを分散することができるミネラルスピリット等の非極性溶媒と、グラファイト粉末とを含む。
【0012】
疎水性皮膜を付与するための改良されたコーティング組成物が提供され、該コーティング組成物は、第四級塩化アンモニウムシランと、イソプロパノール等の極性溶媒又はシランを分散することができるミネラルスピリット等の非極性溶媒と、グラファイト粉末とを含み、改善点は、上記シランが、分子上に電荷を持ち、ワイパーブレードのゴム要素によって反発され、コーティング組成物がゴム要素に吸収されないようにすることである。
【0013】
表面に疎水性皮膜を作り出すキットが提供され、該キットは、アプリケーター表面及び上記の組成物から形成された不揮発性層を有するアプリケーターであって、不揮発性層が、アプリケーター表面に付着しているか、又は容器からアプリケーター表面に適用される、アプリケーターと、アプリケーター表面をフロントガラス表面と接触させて60度以上の水接触角を有する疎水性皮膜を製造するための使用説明書とを備える。
【0014】
フロントガラスを活性化する方法は、フロントガラスを、上記の組成物でコーティングされたワイパーブレードと接触させることと、2000ワイプサイクル以内で、ウェット、ドライ、又はウェットとドライとの組合せで水接触角60度超の撥水性までワイピングして、フロントガラスを活性化することとを含む。
【0015】
本発明を、以下の図面に関して更に詳述する。これらの図面は、本発明の範囲を限定するためのものではなく、その或る特定の属性を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】選択されたシリコーンワイパーブレードとRain-X(商標)撥水剤との間の相乗効果を示すために、自動車のフロントガラス上のワイパーブレードワイプサイクルの関数としての水接触角の度数を示す図である。
【
図2】選択されたシリコーンゴム製のワイパーブレードについて、ポリシロキサン流体ベースの撥水剤でコーティングされた同じ選択されたシリコーンゴムと比較した、本発明に開示される本発明の組成物のワイパーブレードサイクルの関数として水接触角の度数をプロットした撥水活性化のプロットである。
【
図3】60℃で36日間エイジングさせた後、室温で85日間保管したコーティングされたシリコーンゴムワイパーブレード、及び60℃で51日間エイジングさせた後、室温で19日間保管したコーティングされたシリコーンゴムワイパーブレードのワイパーブレードサイクルの関数として水接触角の度数をプロットした撥水摩耗耐久性のプロットである。
【
図4】フロントガラスの状況でのワイパーブレードのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、接触ガラス表面に疎水性皮膜を付与しながら、シリコーンベースのワイパーブレードインサート材料への吸収に耐えるコーティングを有する車両フロントガラスワイパーとしての有用性を有する。本発明の撥水性(WR)コーティング組成物の実施形態は、本発明のWRコーティングが適用されるワイパーブレードインサートに非吸収性であるか、又はそうでなければ浸透しないため、コーティングされたワイパーブレードインサートが保管中に長期間エイジングされた後でもコーティングのWR原料をワイパーブレードインサートからワイパーブレードインサートが操作されるフロントガラス表面に転写する能力を維持する。エイジングされたワイパーブレードの性能は、製造後のワイパーブレードインサートがエンドユーザーに届いて対象となるフロントガラスと接触するまで数週間から数ヶ月かかる場合があるため、評価するのに重要なパラメータである。本発明は、WRコーティング組成物中の撥水成分を、それによってコーティングされたワイパーブレードインサートに吸収されない、又はそうでなければ浸透しないように配合することによってこの結果を達成する。
【0018】
本発明の撥水性コーティングの実施形態において、コーティング組成物の有効成分は、コーティングされたワイパーブレードインサート基材に対して非吸収性であり、WR成分とコーティングされるゴム表面との間で最小の親和性を示す。その結果、WRコーティング中の撥水成分は、取り付け前にワイパーブレードインサートに吸収されず、それによりコーティングの撥水材料をワイピングしたフロントガラス表面に転写してガラスを疎水性にする組成物の能力の喪失を防止する。
【0019】
本発明のコーティング組成物は、主にシリコーンで形成されたワイパーブレードインサートに関して以下で詳述されているが、本発明のコーティングは、ワイパーブレード業界で一般的に使用される種々の非シリコーンゴム材料にも優れた性能を提供することが理解される。これらの他の材料としては、限定されるものではないが、天然ゴム、合成ゴム、例えばCRゴム(クロロプレンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンターポリマー)ゴム、天然ゴムと合成ゴムとの混合物、シリコーンゴム、及びシリコーンゴムと非シリコーンゴムとの混合物が挙げられる。
【0020】
さらに、本発明のコーティング組成物は、主にフロントガラスに関して詳述されているが、本発明が使用される他の適切な対象表面としては、例示的には、バフ研磨パッド、バフ研磨クロス、セーム革、手動スキージ、車両後部窓、航空機外面、及び撥水性が望まれる他の外面が挙げられることが理解される。本明細書において使用される場合、「ワイパーブレード」という用語は、これらの前述のアプリケーターも包含することを意図する。本発明は、貯蔵後でも接触表面に疎水性皮膜を付与する能力と相まって、周囲条件で6ヶ月超の長期貯蔵安定性の特性を有する。
【0021】
本明細書において引用される数値範囲は、かかる範囲の終了値だけでなく、範囲内に包含され、最後の有効数字の単一単位で変化する個々の値も記述することを意図する。例えば、本発明による任意の単位で0.1~1.0の範囲は、それぞれ範囲の下限値及び上限値として独立して0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、及び0.9も包含する。
【0022】
本発明のコーティング組成物は、下記式:
[(RO)3-aSi-R2-N(R1)(R1)(R3)]X- (I)、又は、
(HO)2-Si(R4)-O-(R4)Si-(OH)2 (II)
(Rはそれぞれ独立してC1~C4アルキル、R4、又はHであり、aは0、1、又は2を含む整数値であり、R1及びR2はそれぞれ独立してC1~C8のアルキル基又はアルケニル基であり、R3はC1~C22アルキル基であり、Xはアニオンを表し、第四級アンモニウムカチオンにより塩が形成されることを条件として、F-、Cl-、Br-、I-、2価及び3価のアニオンを含み、R4はそれぞれN(R1)(R1)(R3)]X-である)を有する皮膜形成性の第四級アンモニウムシリコーン化合物を含む。式(I)に存在する任意のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でもよく分岐鎖でもよいことが理解される。さらに、少なくともC3を有する任意のアルキル基は、溶解性及び皮膜形成特性を変更するのに役立つペンダント基を更に含むことができることが理解される。本明細書において有効なペンダント基としては、例示的には、-OH、-SO4
2-、又は-SO3
-が挙げられる。
【0023】
本明細書において有効な、典型的な第四級アンモニウムシリコーンとして、例示的には以下が挙げられる:(CH3O)3Si(CH2)3N+(CH3)2Ci8H37Cl-、(CH3CH2O)3Si(CH2)3N+(CH3)2C18H37Cl-、(CH3O)3Si(CH2)3N+(CH3)2C18H37Br-、(CH3O)3Si(CH2)3N+(C10H21)2CH3Cl-(CH3O)3Si(CH2)3N+(CH3)2C14H29Cl-、(CH3O)3Si(CH2)3N+(CH3)2C14H29Br-、(CH3O)3Si(CH2)3N+(CH3)2C16H23Cl-、及びそれらの組合せ。
【0024】
皮膜形成性の第四級アンモニウムシリコーン塩は、本発明の幾つかの実施形態において0.5総重量パーセント~75総重量パーセントで存在し、本発明の他の実施形態においては、塩は5総重量パーセント~60総重量パーセントで存在する。
【0025】
塩と溶液を形成することができる溶媒又は溶媒の組合せも提供される。本明細書において有効な溶媒としては、例示的には、塩の溶解に適した極性若しくは非極性の溶媒、又は極性若しくは非極性溶媒の混合物が挙げられ、これには例示的に、メチルエチルケトン、乳酸C1~C8アルキル、酢酸C1~C8アルキル、C1~C8アルコール、グリコール、グライム、ポリアルキルグリコール、エーテル、及びそれらの組合せが含まれる。本明細書において使用される場合、「アルキル」という用語は、それらの直鎖、分岐鎖、及び環状の形態を含むことを意図していることが理解される。本発明の或る特定の実施形態において、溶媒はアルコールであり、なかでもイソプロパノールが典型的である。本明細書において有効な溶媒の性質は、シリコーンオイル及び樹脂成分を溶解する能力にのみ大きく制限される。以下の説明から明らかなように、本発明の組成物は、本発明の或る特定の実施形態においてアプリケーターに適用される。
【0026】
本発明のコーティング組成物は、任意の粒子状潤滑剤も含む。本発明による粒子状潤滑剤は、アプリケーターに別々に適用されるか、又は塩と共に溶媒中のコロイド分散液として適用される。本発明の或る特定の実施形態における粒子状潤滑剤は、100ミクロン未満の粒径を有する微粒子をサイズガイドナンバー(SGN)によって決定される90を超える粒子数パーセントで有する。本発明の更に他の実施形態においては、100粒子数パーセントは100ミクロンよりも小さい。本発明の更に他の実施形態においては、微粒子は、50ミクロンよりも小さい平均粒径を有する。本発明の或る特定の実施形態においては、溶媒和形態のコーティング組成物は1総重量パーセント~10総重量パーセントの粒子状潤滑剤である。本発明において有効な粒子状潤滑剤としては、例示的にグラファイト、乱層構造カーボン(turbostratic carbon)、窒化ホウ素、ホウ酸、及びそれらの組合せが挙げられる。本発明の幾つかの実施形態においては、粒子状潤滑剤はグラファイトのみである。
【0027】
本発明の幾つかの実施形態において、ミネラルスピリット等の任意の非極性炭化水素溶媒が存在する。存在する場合、ミネラルスピリットは、ワイパーブレード等の疎水性アプリケーター表面への拡散を容易にする。本発明のコーティング組成物は、第四級アンモニウムシリコーン塩を含むことにより、ワイパーブレードインサート等のアプリケーター上の不揮発性層として優れた貯蔵安定性を有し、アプリケーターへの浸透を防止する。本発明のコーティング組成物は、ワイパーブレード、布、又はバフ研磨パッド等のアプリケーターに適用され、乾燥させてアプリケーター上で不揮発性層となる。アプリケーター上の本発明の配合物の層は、-50℃~70℃の範囲内の極端な温度でも数週間又は数ヶ月間保管することができ、それでも接触ガラス表面に疎水性皮膜を付与することができる。得られる皮膜は、アプリケーターを対象表面に擦り付けるだけで、少なくとも60度の水接触角を表面に付与する。
【0028】
ワイパーブレード等のアプリケーターが、
図4の10に全体として示されている。ワイパーブレード10は、フロントガラス等の基材Sと接触している。ワイパーブレード10は、中間関節14によってアーム16に結合されたブレード12を有する。ブレード12は、コーティング層20の形態で、その中に本発明の組成物を有する疎水性エラストマーワイパーブレードインサート18を支持する。コーティング20は、本発明の配合物がワイパーブレードインサート18のリップの1つ以上の側面と接触して乾燥させることで形成される。
【0029】
特定の理論に縛られることを意図するものではないが、固有の電荷を持つカチオン性第四級アンモニウムシリコーン塩は、少なくとも分子の電荷に近い部分では親水性であり、エラストマーワイパーブレード等の疎水性アプリケーターによって結果的に反発されると考えられている。その結果、本発明の配合コーティングがアプリケーター内部に吸収されるのを防ぎ、したがってWRコーティングの貯蔵寿命を延ばす。
【0030】
本発明はまた、表面に疎水性皮膜を作り出すキットを提供する。キットは、ASTM C813により測定される接触角が60度を超える水滴接触角で表面に疎水性皮膜を作り出すようにコーティングされたアプリケーターを対象表面と接触させる使用説明書と共に、アプリケーターに付着したコーティング組成物の不揮発性層を有するアプリケーターを備えるか、又はアプリケーターへのユーザー適用のため別々のボトルに入ったコーティング組成物を備える。キットは、平均25℃で3ヶ月超、或る特定の実施形態においては1年超、更に或る特定の実施形態においては2年以上の貯蔵安定性を有する。
【0031】
ウェット条件、ドライ条件、又はウェット条件とドライ条件との組合せのもとでフロントガラスを2000ワイプサイクル以内に水接触角60度超の撥水性までワイピングすることにより、本発明の或る特定の実施形態によるアプリケーターとしてのワイパーブレードインサートでフロントガラスを活性化する方法が達成される。更に他の実施形態においては、ワイピングされたフロントガラス表面の撥水性を残しながら、コーティングされていないこと以外は上記ワイパーブレードと同じワイパーブレードのワイプ質の90%以内又は90%超のワイプ質を維持しながら、この度数の撥水性が達成される。ワイプ質は、典型的には、例えばAkron Rubber Development Laboratory(ARDL), Inc.社によって定義されているように、1~10のスケールで等級付けされる。
【0032】
表1は、ゴム材料への吸収に耐える本発明のWRコーティング組成物の実施形態の主な成分を示す。
【0033】
【0034】
アプリケーター上の本発明のコーティングは、塩、微粒子、添加剤、並びに場合によっては残留溶媒及び/又はミネラルスピリットで構成されるように、全てではなくても揮発によってほとんどの溶媒及び場合によってはミネラルスピリットを失った組成物の乾燥バージョンとなることが理解される。
【0035】
本発明を、以下の非限定な実施例に関して更に詳述する。これらの実施例は、発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の特定の実施形態の特性及び比較例に対して優れているその性能を強調するものである。
【実施例】
【0036】
実施例1
50総重量パーセントの第四級塩化アンモニウムシラン、30総重量パーセントのイソプロパノール、15総重量パーセントのミネラルスピリット、5総重量パーセントの90%が100ミクロン以下の粒径を有するグラファイト粉末、及び残部がイソプロパノールであるコーティング組成物を、60℃又は室温で様々な期間保管されたシリコーンゴムスキージに適用してから、濡れた状態で車両のフロントガラス及びそのワイパーシステムを使用してコーティングされたブレードからフロントガラスへと撥水(WR)特性(ワイピングしたフロントガラスの表面の水接触角によって測定される)を転写する能力を評価した。
図2の図表に示すように、水接触角データをフロントガラス表面について収集し、ワイパーブレードの摩耗サイクル数に対してプロットする。
【0037】
図2のプロットされた結果は、軽くエイジングしたシリコーンゴムスキージに適用された従来のポリシロキサン流体ベースのWRコーティングでは、ワイピングされた表面の水との接触が少なくとも60度の度数までフロントガラスの表面を疎水性にすることができないことを示しており、この度数は雨天時に運転する際の視界改善に有益とされる最小値である。比較すると、本発明のコーティング組成物の実施形態でコーティングされたシリコーンゴムスキージは、スキージがコーティングしたてであるか、又は周囲条件(20℃)で2年相当の長期間にわたってエイジングされたかにかかわらず、フロントガラス表面を迅速に疎水性にする(活性化する)ことができる。
【0038】
60℃で36日間エイジングさせた後、室温で85日間エイジングさせたコーティングされたワイパースキージは、周囲条件下で保管した場合、貯蔵寿命は661日以上になると予想され、60℃で51日間エイジングさせた後、室温で19日間エイジングさせたコーティングされたワイパースキージは、室温の周囲条件下で保管した場合、貯蔵寿命が835日以上になると予測される。
【0039】
実施例2
自動車技術者協会(SAE:Society for Automotive Engineers)J903の下でワイパースキージの撥水性コーティングの保管長及び周囲条件に関する耐久性を試験するための試験を実施する。第1のブレードを本発明の組成物でコーティングし、60℃で36日間エイジングさせた後、室温で85日間エイジングさせる。第2のブレードを60℃で51日間エイジングさせた後、室温で19日間エイジングさせる。
図3に示すように、100000回のワイパーブレードサイクルの範囲にわたって2つの処理されたブレード間の性能に実質的に差はなく、ワイパーブレードの摩耗に対する堅牢性及び優れた寿命を示す。
【0040】
比較例
市販のCR-NRブレンドスキージを、米国特許出願公開第2010/0234489号の実施例1~実施例3に相当する組成物でコーティングし、製造後約3ヶ月間室温でエイジングさせる。フロントガラスWR試験は、これらのコーティングがフロントガラスを80度超の水接触角(CA)に活性化させることができないことを示す。ワイピングされた領域の撥水性は均一でないことが観察され、フロントガラスのワイピング領域が完全に活性化されていないことを示す。
【0041】
本明細書において言及される特許及び出版物は、本発明が属する技術分野の当業者の技術水準を示す。これらの特許及び出版物は、個々の特許又は出版物がそれぞれ引用することによって具体的かつ個別に本明細書の一部をなす場合と同じ程度に引用することによって本明細書の一部をなす。
【0042】
上記の記載は本発明の特定の実施形態を説明するものであり、実施に際する限定を意味するものではない。全ての均等物を含む添付の特許請求の範囲は発明の範囲を規定するものと意図される。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]-[17]に記載する。
[1]
第四級アンモニウムシラン塩と、
溶媒と、
を含む、ワイパーブレードインサートのエラストマー疎水性アプリケーターからフロントガラスに撥水性を付与するコーティング組成物。
[2]
ミネラルスピリットを更に含む、項目1に記載の組成物。
[3]
固形潤滑剤を更に含む、項目1に記載の組成物。
[4]
前記第四級アンモニウムシラン塩が塩化物である、項目1に記載の組成物。
[5]
前記第四級アンモニウムシランが0.5総重量パーセント~75総重量パーセントで存在する、項目1に記載の組成物。
[6]
前記溶媒がC
1
~C
4
アルコールを含む、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[7]
前記溶媒がイソプロパノールである、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[8]
前記溶媒が25総重量パーセント~99.5総重量パーセントで存在する、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[9]
前記1種以上のミネラルスピリットが15総重量パーセントで存在する、項目2に記載の組成物。
[10]
前記固形潤滑剤がグラファイト粉末である、項目3に記載の組成物。
[11]
前記固形潤滑剤が0総重量パーセント~30総重量パーセントで存在する、項目3に記載の組成物。
[12]
表面に疎水性皮膜を作り出すキットであって、
アプリケーター表面及び項目1~5のいずれか一項に記載の組成物から形成された不揮発性層を有するアプリケーターであって、前記不揮発性層が、前記アプリケーター表面に付着しているか、又は容器から前記アプリケーター表面に適用される、アプリケーターと、前記アプリケーター表面を前記表面と接触させて60度以上の水接触角を有する疎水性皮膜を作り出すための使用説明書と、
を備える、キット。
[13]
フロントガラスのワイパーアームに結合し、フロントガラスに係合するように適合されたワイパーブレードインサートとして成形された疎水性エラストマー基材と、
0.5ミクロン~500ミクロンの厚さを有し、項目1に記載の組成物から前記溶媒が蒸発することによって形成される不揮発性層と、
を備える、ワイパーブレード。
[14]
前記不揮発性層が、前記基材のワイピングリップの両側に、一辺当たり長さ1センチメートル当たり0.001g~0.1gの範囲の量で適用される、項目13に記載のワイパーブレード。
[15]
前記不揮発性層が-50℃~65℃の温度で1ヶ月超の貯蔵安定性を有する、項目13に記載のワイパーブレード。
[16]
前記基材が、少なくともクロロプレンゴム、天然ゴム、シリコーン、又はそれらの任意の組合せの材料で形成される、項目13に記載のワイパーブレード。
[17]
フロントガラスを活性化する方法であって、
前記フロントガラスを、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物でコーティングされたワイパーブレードインサートと接触させることと、
2000ワイプサイクル以内で、ウェット、ドライ、又はウェットとドライとの組合せで水接触角60度超の撥水性までワイピングして、前記フロントガラスを活性化することと、
を含む、方法。