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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】原子核粒子を生成するための液体標的
(51)【国際特許分類】
   H05H 6/00 20060101AFI20240930BHJP
   H05H 3/06 20060101ALI20240930BHJP
   G21K 5/08 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
H05H6/00
H05H3/06
G21K5/08 N
G21K5/08 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021574756
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2020065875
(87)【国際公開番号】W WO2020249524
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】1906353
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】521546371
【氏名又は名称】インスティテュート ポリテクニーク ドゥ グルノーブル
(73)【特許権者】
【識別番号】516065504
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ゲッタ、ヴェロニク
(72)【発明者】
【氏名】ジロー、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】サントス、ダニエル
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05870447(US,A)
【文献】特表2018-520368(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142459(WO,A1)
【文献】特開2002-305097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 6/00
H05H 3/06
G21K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子核粒子を生成するための標的(20、40)であって、
-回転軸の周りに回転するように、回転面により形成され設置されたシェル(24、34)と、
-動作中、液体である標的物質を含むリザーバ(46)と、
-動作中、前記標的物質を、前記リザーバから前記シェルの上面(244、344)に向けて運ぶように構成された標的物質上昇装置(47)と、
-前記シェルの外周面(345)に沿って形成され、動作中、標的材料のフィルムから発し前記シェルの回転中に遠心力によって前記シェルの上面に導かれた小滴を受け取るように構成された側溝(457)と、
-前記側溝(457)と前記リザーバ(46)との間の流体接続を形成する少なくとも1つのリターンパイプ(43)と、
-動作中、加速粒子ビーム(50)を前記シェルとの衝突領域に導くように構成された入口パイプ(49)と、を備え、
前記標的物質は前記原子核粒子を生成するのに適し、
前記衝突領域は前記シェルの上面に位置し、
前記シェルの上面上に前記標的物質のフィルムが生成され、
前記加速粒子ビームと、前記シェルの上面上を循環する前記標的との直接相互作用は、前記原子核粒子を生成することを特徴とする標的(20、40)。
【請求項2】
前記シェルの上面を少なくとも部分的に覆うように構成された、固定された上側ケーシング(45)をさらに備え、
前記加速粒子ビームを前記シェルとの衝突領域に導くように構成された前記入口パイプが、前記上側ケーシングを横断することを特徴とする請求項1に記載の標的(40)。
【請求項3】
前記側溝(457)は、
前記上側ケーシングに取付けられ、
前記シェルの外周面を取り巻き、
前記シェルの上面(344)の反対側の下面(346)の下でカールするように形成されることを特徴とする請求項2に記載の標的(40)。
【請求項4】
前記シェルの上面の反対側の下面を少なくとも部分的に覆うように構成された、固定された下側ケーシング(451)をさらに備え、
前記下側ケーシングは、前記リザーバに取付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の標的(40)。
【請求項5】
前記標的物質上昇装置(47)は、前記シェルの回転軸と一体化した回転軸周りに回転駆動されるように構成された、1つ以上の羽根または遠心ロータを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の標的(40)。
【請求項6】
前記シェルは、少なくとも1つの第1円錐台部(242、342)を備え、
前記第1円錐台部の頂点は、前記シェルの回転軸上に位置し、所定の半頂角(α)を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の標的(40)。
【請求項7】
前記半頂角(α)は、40°以上50°以下であることを特徴とする請求項6に記載の標的(40)。
【請求項8】
前記シェルは、前記シェルの回転軸を含む子午面内で変化する曲率を持つ第1部分を少なくとも1つ備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の標的(40)。
【請求項9】
前記標的物質はリチウムであり、生成される原子核粒子は中性子であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の標的(30)。
【請求項10】
遠心力作用によって生成されるリチウムのフィルムの厚さは、80μm以上140μm以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の標的(30)。
【請求項11】
前記衝突領域内に、前記原子核粒子を生成するのに適した真空を生成するように構成されたチェンバ(42)をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の標的(30)。
【請求項12】
原子核粒子を生成するためのシステム(10)であって、
-標的物質と相互作用することにより前記原子核粒子を生成するのに適した粒子の粒子源(11)と、
-前記粒子源からの粒子ビームを受け、加速粒子ビームを形成するように構成された粒子加速器(13)と、
-請求項1から11のいずれかに記載の標的(40)と、を備え、
前記標的は、前記入口パイプで前記加速粒子ビームを受け、前記衝突領域で前記原子核粒子を生成するように構成されることを特徴とするシステム(10)。
【請求項13】
前記標的物質はリチウムであり、
生成される原子核粒子は中性子であり、
前記標的の周囲に配置された中性子減速材をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
請求項12または13に記載のシステム(10)を用いて原子核粒子を生成する方法であって、
-前記シェル(34)を回転させるステップと、
-前記上昇装置を用いて前記液体を循環させるステップと、
-前記粒子加速器(13)から発した加速粒子ビーム(50)を前記入口パイプ(49)に導くステップと、を備える方法。
【請求項15】
前記シェルの回転軸は垂直であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子核粒子を生成するための液体標的およびそのような標的を含むシステムに関し、特に中性子場を生成するための標的に関する。
【背景技術】
【0002】
原子核粒子(例えば、中性子、陽子、アルファ粒子、等)は、入射粒子(例えば、陽子、重水素、その他の原子核)のビームの、標的(こうした標的は、特定の原子核反応が可能な物質によって形成される)上での相互作用による、特定の原子核反応により生成することができる。こうした原子核粒子の生成自体は既知である。
【0003】
特に、生成された高フラックスの中性子場(すなわち、1012n・cm-2・s-1を超えるフラックスの場)は、広範囲に応用できる(例えば、非破壊検査、物質分析、パワーエレクトロニクスにおけるドーピング、医療分野など)。医療の分野では、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)と呼ばれる応用において、特別な関心を引く。この治療法では、がん細胞に向けてベクトル化された中性子が、ホウ素10(10B)によって捕獲される。この応用では、患者に照射される中性子のエネルギーは、約0.5eV以上10keV以下であることが望ましい。
【0004】
中性子場の生成を目的とするものとしては、エネルギーE>1.88eVにおける、Li(p、n)Be陽子の、リチウム(標的物質)との原子核反応がよく知られている。この反応では、陽子(または重水素)がリチウム(Li)原子核と衝突し、ベリリウム(Be)原子核を生成する。このとき、25keV以上785keV以下のエネルギーを持つ中性子が放出される。その後中性子のエネルギーを低減させるために、減速材が使われる。原子核反応で生成されたBe原子核は、半減期が53日と不安定である。このBe原子核は、電子捕獲により崩壊し、478keVのガンマ線を放出する。このガンマ線は、放射線防護の観点から見て危険である。従って、標的内に存在するBeの量を制御する必要がある。
【0005】
標的物質内への侵入の深さは、使用する粒子の入射ビームのエネルギーによって変えることができる。低エネルギーの場合この侵入は浅く、ビームからのエネルギー移動は、表面下で起きる。これにより、標的物質は著しく加熱される。従って、入射粒子ビームから標的物質に供給された熱を拡散させるためには、薄い標的材料を使うことが好ましい。固体の薄層には、ビームに起因する安定性と劣化の問題がある。このため、「液体」標的は、高強度ビームのための魅力的な解決手段となっている。
【0006】
固体リチウムベースの標的を用いて、上記のLi(p、n)反応を得ることができる。このような標的は、支持部に配置された固体リチウムの薄層を備える。この標的に、粒子加速器から発した粒子ビームが衝突する。実際には、3kW/cmを超える熱出力による連続的な除去により、この薄層を一体化して支持部に接着する必要がある。リチウムの融点は180.5℃と低いため、固体リチウムベースの標的の寿命には限界があることから、標的は非常に頻繁に交換されなければならない。液体リチウムベースの標的も開発されてきた。液体リチウムは、固体リチウムより高温に耐えることができる。その結果、固体リチウムベースの標的に比べ、層の一体化、支持部への接着および超低温(<180℃)での保持に関する問題を解決することができる。
【0007】
液体リチウムベースの標的の例は、特に非特許文献1および非特許文献2に開示されている。上記に記載された液体リチウムベースの標的は、粒子ビームの入口にある閉じたパイプの中で循環する液体リチウムを備える。このパイプは開口領域と曲線領域とを有し、リチウムはここで厚さが数100ミクロンから1.5mmまでのフィルムを形成する。パイプ内でのリチウムの流量は、ビームの近くで液体の薄いフィルムの高速な流れ(非特許文献1の例では7m/s、非特許文献2の例では30m/s以下)を作るのに十分なほど大きい。これによりフィルムの温度は、リチウムの蒸発を抑えるのに必要な高さに保たれる。
【0008】
上記の通り、Li(p、n)Beによって生成されるBeの反応は、少なからぬ量の放射性種(Be)を作り出す原因となる。従って、循環するリチウムを含む回路の材料を活性化させる可能性がある。生成されたBeの放射性毒性の問題を解決する方法の1つに、リチウムリザーバでコールドトラップを使うものがある(これは非特許文献1に開示されている)。これは、リザーバ内でBeを固体にまで凝縮することを目的とする。放射線学上の観点から見れば、この方法は、リザーバをより厳重に保護する必要がある。
【0009】
このように液体リチウムは、BNCT利用に適した中性子場を生成することができる。しかし実際には、上記の先行技術に開示された循環する標的内での液体リチウムの使用は、液体リチウムの必要量および設置容量によって制限される上に、Beに関連する放射性毒の管理の必要性からより複雑なものとなる。
【0010】
特許文献1は、回転する円盤と、液体リチウム(これはポンプを用いて再循環される)のための回路と、を含む標的を開示する。この技術では、液体リチウムは、円盤の中心から円周に向かう遠心力により、小滴の形でスプレーされる。ある実施の形態では、このようにスプレーされる非常に細かいリチウム小滴により、液体リチウム(この上に、中性子場を生成するための陽子ビームが照射される)が散布される。しかしながら、小滴上で生成される中性子の量は非常に少ない。なぜなら、陽子ビームとリチウムとの衝突断面積が小さいからである。さらに、小滴が受ける熱出力により、小滴が蒸発する可能性がある。これは特に、この実施の形態における自由表面/体積比が非常に大きいことによる。代替的に、非特許文献1は、液体のリチウムの薄層が円盤の周辺で、非常に薄い(厚さが1ミクロンオーダーの)支持フォイル(例えば、リチウムと相互作用するための陽子ビームが透過可能なベリリウムフォイル)で支えられる構成を開示する。しかしながら、このような薄いフォイルでの伝導による熱の除去量は非常に少ない。従って、特許文献1に開示された高速で回転する円盤は加熱し、すぐに壊れるだろう。さらに接着機構は、このような薄い支持フィルムの周辺に働く力に耐えることができない。さらに、特許文献1に開示された薄い支持フィルムは、耐久性の高い形状を構成するには機械的に複雑であることに加え、陽子ビームの通過によるエネルギー損失や、他の二次的な原子核粒子の生成が起きる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第5870447号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】Halfon et al. "Demonstration of a high-intensity neutron source based on a liquid-lithium target for Accelerator based Boron Neutron Capture Therapy" Applied Radiation and Isotopes 106 (2015) pp 57-62.
【文献】Kobayashi et al. "Development of Liquid-Lithium Target of 7Li(p,n)7Be Reactions for BNCT" Applied Radiation and Isotopes Volume 88 (2014) pp 198-202. Ref. 3: US5,870,447
【文献】Halfon et al. "High power liquid-lithium jet target for neutron production" Review of Scientific Instruments 84, 123507 (2013).
【文献】Makarytchev et al. "On modeling fluid over a rotating conical surface" Chemical Engineering Science, vol.52, n°6, pp 1055-1057 (1997)
【文献】Makarytchev et al. "Thickness and velocity of wavy liquid films on rotating conical surfaces" Chemical Engineering Science, vol.56, pp 77-87 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示の目的は、特に中性子場の生成において、大量の熱除去を可能としつつ、よりコンパクトに実装でき、標的物質の量を低減することのできる、新たな液体標的を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の第1の態様は、原子核粒子を生成するための液体標的に関する。この標的は、以下を備える。
-回転軸の周りに回転するように、回転面により形成され設置されたシェルと、
-動作中、液体である標的物質を含むリザーバと、
-動作中、標的物質を、リザーバからシェルの上面に向けて運ぶように構成された標的物質上昇装置と、
-シェルの外周面に沿って形成され、動作中、標的材料のフィルムから発しシェルの回転中に遠心力によってシェルの上面に導かれた小滴を受け取るように構成された側溝と、
-側溝とリザーバとの間の流体接続を形成する少なくとも1つのリターンパイプと、
-動作中、加速粒子ビーム(50)をシェルとの衝突領域に導くように構成された入口パイプ。
標的物質は、原子核粒子を生成するのに適する。衝突領域は、シェルの上面に位置する。加速粒子ビームと、シェルの上面上を循環する標的との相互作用は、原子核粒子を生成する。
【0015】
本開示に係る標的により、遠心力作用を通して、閉鎖循環動作装置内に形成された液体標的物質のフィルムを得ることができる。その結果、特に従来の液体標的と比べ、標的の動作に必要な装置容積を減らすことができ、必要な液体の体積を制限することができる。
【0016】
さらに、加速粒子と標的(より具体的にはシェル)との衝突領域がシェルの上面上に位置することにより、標的物質のフィルム(加速粒子は、このフィルムと直接相互作用する)が本開示に係る標的内に生成される。このようにシェルの上面上に生成された標的物質のフィルムは、大量の熱除去ができるほど十分厚い。この熱除去は、シェルへの熱伝導と、液体の対流の両方によって実現される。その結果、強いパワーを持つ粒子ビームによる品質低下を招くことなく、高いフラックスの原子核粒子を生成することができる。
【0017】
本開示に係る標的は、使用中、「水平」配置で、すなわち垂直方向に配置されたシェルの回転軸周りに動作する。このような構成を取ることにより、付加的なエネルギーを用いることなく、重力効果により、側溝に運ばれた液体標的物質を直接リザーバ内に再注入することができる。
【0018】
ここで「原子核粒子」とは、原子核反応により生成することのできる任意の粒子のことであり、例えば中性子、陽子、アルファ粒子などである。
【0019】
本明細書における「加速粒子ビーム」とは、所定の標的物質と衝突したとき、原子核粒子を生成することのできる粒子(例えば陽子または重水素)のことをいう。
【0020】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的物質は、動作中、超低温では液体の流体(例えば水素、窒素、アルゴンまたはキセノン)を含む。
【0021】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的物質は、動作中、高温では液体である物質(例えばリチウム金属またはフッ化物溶融塩)を含む。
【0022】
従って、1つ以上の典型的な実施の形態では、液体標的は、中性子場を生成するのに適する。例えば標的物質は、動作中、液体であるリチウム金属である。
【0023】
中性子の生成の場合、一般に標的は中性子減速材によって取り囲まれる。本開示に係る標的はコンパクトであるため、すべてのリチウムを、周囲の減速材により後方散乱した熱中性子領域に置くことができる。これは、Be(nth、P)Li反応を用いて、Beを変換できることを意味する。これにより得られる生成物は、最初のLiのみである。従ってBeトラップが不要となり、液体リチウムの自動生成が可能となる。
【0024】
1つ以上の典型的な実施の形態では、特に標的材料がリチウムを含む場合、シェルはモリブデンまたはモリブデンベースの合金(例えば、モリブデン(99.5%)とジルコニウムおよびチタンの合金であるTZM)、あるいは金属またはこれら2つの材料の組み合わせで作られる。中性子以外の粒子生成の場合、シェルに別の材料が使われてもよい。この場合、材料は、使用温度で液体標的物質と反応しないものから選ばれる。例えば標的物質がフッ化物溶融塩を含む場合、シェルは炭素ベースの材料で作られてもよい。
【0025】
1つ以上の典型的な実施の形態では、シェルを形成する回転面は、少なくとも1つの第1円錐台部を備える。この第1円錐台部の頂点は、シェルの回転軸上に位置し、所定の半頂角を有する。この第1部分は別の形状であってもよく、例えば、子午面内(または、シェルの回転軸を含む面内)で変化する曲率を持つものであってもよい。
【0026】
1つ以上の典型的な実施の形態では、第1円錐台部を使う場合、当該第1円錐台部の半頂角は0°以上90°以下であり、好ましくは40°以上50°以下である。
【0027】
本開示では、第1部分(例えば円錐台部または曲面部)の所定の点における半径rは、シェルの回転軸と直交する平面内で、当該回転軸と当該点との間の距離として定義される。
【0028】
1つ以上の典型的な実施の形態では、衝突領域における第1部分の半径は、15cm以上45cm以下である。
【0029】
1つ以上の典型的な実施の形態では、シェルを形成する回転面は、少なくとも1つの第1部分と、第1部分が接続される基部を形成する第2部分と、を備える。例えば、この基部は、平板状または円錐台状である。
【0030】
1つ以上の典型的な実施の形態では、第1部分は、基部と第1部分との勾配が連続的に変化するようなフィレット半径で、基部に接続される。これにより、シェルの上面が、液体の流れがゆがむような接続を含まないようにすることができる。例えば、曲面のフィレット半径は5mm以上50mm以下である。
【0031】
1つ以上の典型的な実施の形態では、第1部分と基部とは1つの部品からなる。代替的に、第1部分と基部とは、ネジまたは溶接で接続された2つの部品からなるものであってもよい。
【0032】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的物質上昇装置は、シェルの回転軸と一体化した回転軸周りに回転駆動されるように構成された、1つ以上の羽根またはロータを備える。液体がシェルの上面に上昇するとすぐに、液体をポンピングする別のメカニズムを必要とせずに、シェルの回転による遠心力効果により、液体が循環することができる。
【0033】
1つ以上の典型的な実施の形態では、このような標的物質を上昇させるシステムは、リターンパイプの一端とリザーバとの間に設置されたポンプを備える。この装置はより複雑であるが、流量と回転速度との相関を排除することができる。
【0034】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、シェルの上に配置されたプレートをさらに備える。特にこのプレートにより、ビームの入口領域近辺で真空と直接導通する液体の全表面積を制限することができる。このプレートは、固定されてもよく、シェルに取付けられてもよい。
【0035】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、シェルの上面を少なくとも部分的に覆うように構成された、固定された上側ケーシングさらに備える。
【0036】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、シェルの上面と反対側の下面を少なくとも部分的に覆うように構成された、固定された下側ケーシングをさらに備える。
【0037】
1つ以上の典型的な実施の形態では、下側ケーシングはリザーバに取付けられる。
【0038】
上側および/または下側ケーシングにより、液体標的物質から発した蒸気を、壁面上に閉じ込め凝縮することができる。
【0039】
1つ以上の典型的な実施の形態では、加速粒子ビームをシェルとの衝突領域に導くように構成された入口パイプが、上側ケーシングを横断する。
【0040】
1つ以上の典型的な実施の形態では、上側ケーシングは、液体標的物質をポンピングするためのおよび/または(シェルが上側(すなわちシェルの上面側)から駆動される場合)シェルの回転駆動装置の通路のための、1つ以上の開口を備える。
【0041】
1つ以上の典型的な実施の形態では、側溝は、上側ケーシングに取付けられ、シェルの外周面を取り巻き、シェルの上面と反対側の下面の下でカールするように形成される。
【0042】
1つ以上の典型的な実施の形態では、上側ケーシングと下側ケーシングとは、少なくとも局所的に、側溝を用いて接続される。
【0043】
1つ以上の典型的な実施の形態では、リザーバは、シェルが下側(すなわちシェルの上面と反対側の下面側)から駆動される場合、シェルの回転駆動装置の通路のための、1つ以上の開口を備える。この開口は、回転駆動装置のための、液密な通路を構成することができる。
【0044】
1つ以上の典型的な実施の形態では、リザーバおよび/または上側および/または下側ケーシングは、モリブデン、ステンレススチールまたはこれら2つの組み合わせからなる材料で形成される。
【0045】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、側溝とリザーバとの間に、複数の(例えば2本以上8本以下の)リターンパイプを備える。リターンパイプまたはパイプは、様々な形状(環状、または卵型等の断面)を有し、様々な断面領域を持つ。
【0046】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、シェルの回転速度が300回転/分以上800回転/分以下の定常的な回転率を受容するように構成される。
【0047】
本開示に係る液体標的物質の全容積は、システムのジオメトリおよび動作中の名目回転速度に応じて決定される。1つ以上の典型的な実施の形態では、閉鎖循環システム内の液体リチウムの容積は、2リットル以上5リットル以下である。これは、従来技術で必要とされた液体リチウムの容積の約3分の1である。
【0048】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、動作中、厚さが50μm以上5mm以下の液体標的物質のフィルムを生成するように構成される。液体リチウムの場合、厚さは80μm以上140μm以下(例えば80μm以上100μm以下)であることが望ましい。この場合、最大エネルルギー損失(すなわち最大発熱)は、液体リチウムのフィルム内ではなく、シェルの表面領域で発生する。さらに、リチウムが薄すぎると、シェルの表面上で、リチウムの局所的なディウェッティングが発生する恐れがある。
【0049】
1つ以上の典型的な実施の形態では、粒子ビームのための入口パイプは、シェルの回転軸を含む平面内に配置される。この構成は、ビームの衝突領域の変形が、当該ビームの断面に対して最小である場合に相当する。
【0050】
1つ以上の典型的な実施の形態では、粒子ビームのための入口パイプは、加速粒子ビームが、回転半径の外周に接する平面内に配置される。この構成は、ビームの衝突領域の変形が、当該ビームの断面に対して非常に大きい場合に相当する。
【0051】
一般に、入口パイプの衝突領域に対する方向を定義する角度の選択には広い自由度がある。これらの角度は、液体標的物質の加速ビームの下における滞留時間を最小化するように選ぶことができる。
【0052】
1つ以上の典型的な実施の形態では、加速粒子ビームのための入口パイプは、急速遮断システムを備える。1つ以上の典型的な実施の形態では、加速粒子ビームのための入口パイプは、凝縮装置を備える。
【0053】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、標的物質をリザーバ内で予熱する装置をさらに備える。
【0054】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、上側ケーシングおよび/または下側ケーシングおよび/またはリザーバの少なくとも一部を予熱する装置をさらに備える。
【0055】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は冷却システムをさらに備える。
【0056】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的は、衝突領域内に、原子核粒子を生成するのに適した真空を生成するように構成されたチェンバをさらに備える。
【0057】
本開示の第2の態様は、原子核粒子を生成するためのシステムに関する。このシステムは、以下を備える。
-標的物質と相互作用することにより原子核粒子を生成するのに適した粒子の粒子源と、
-粒子源からの粒子ビームを受け、加速粒子ビームを形成するように構成された粒子加速器と、
-第1の態様のいずれかに記載の標的。
標的は、入口パイプで加速粒子ビームを受け、衝突領域で原子核粒子を生成するように構成される。
【0058】
1つ以上の典型的な実施の形態では、中性子場生成の場合、このシステムは、標的の周囲に配置された中性子減速材をさらに備える。
【0059】
1つ以上の典型的な実施の形態では、粒子源は、陽子または重水素を発する。
【0060】
本開示の第3の態様は、第2の態様に係るシステムを用いて原子核粒子を生成する方法に関する。
【0061】
1つ以上の典型的な実施の形態では、この方法は以下を備える。
-シェルを回転させるステップと、
-上昇装置を用いて液体を循環させるステップと、
-粒子加速器から発した加速粒子ビームを入口パイプに導くステップ。
【0062】
1つ以上の典型的な実施の形態では、標的物質が常温で固体の場合、この方法は、標的物質を含むリザーバおよび/または標的の様々な要素を予熱するステップをさらに含む。標的物質が常温で固体の場合、この予熱するステップにより、加速粒子ビームによって伝達される温度パワーがなくても、液体は循環することができる。低温の流体の場合、代替的に、この方法は冷却の調整をするステップを含んでもよい。
【0063】
1つ以上の典型的な実施の形態では、この方法は、加速粒子ビームが存在するとき標的を冷却するステップをさらに含む。このステップは、予熱するステップを停止するステップに続くもので、システムに伝達される温度パワーに関連する。
【0064】
1つ以上の典型的な実施の形態では、シェルの回転速度は、300回転/分以上800回転/分以下である。
【0065】
1つ以上の典型的な実施の形態では、シェルの上面上での液体の流れの上昇速度は、1m/秒以上3m/秒以下である。この上昇速度は、液体フィルムのシェルに対する運動の速度として定義される。
【0066】
1つ以上の典型的な実施の形態では、衝突領域における液体の接線速度は、5m/秒以上40m/秒以下である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
本発明のその他の利点および特徴は、以下の図面を参照することにより明らかとなる。
図1】本開示に係る原子核粒子生成システムの例を示す模式図である。
図2】本開示に係る液体標的の原理を示す図である。
図3A】本開示に係る標的内シェルの第1の例を示す図である。
図3B】本開示に係る標的内シェルの第2の例を示す図である。
図4】本開示に係る標的の例を示す図である。
図5図4の標的における液体の循環を示す図である。
図6A】シェルの回転軸に対する、粒子ビームの入口の位置の参照角度(βおよびχ)を示す図である。
図6B】粒子ビームのための入力パイプが、回転軸を含む平面内に構成される特別な場合を示す図である(χ=0°)。
図6C】粒子ビームのための入力パイプが、回転半径に接する平面内に構成される特別な場合を示す図である(χ=90°)。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図1に、本開示に係る中性子生成システム10の要素の概略を示す。システム10は、粒子源11(例えば、陽子または重水素の源)と、粒子源11で発生した粒子から加速ビームを生成するための粒子加速器13と、標的15と、を備える。標的15により、液体状態で原子核粒子を生成するための、加速粒子ビームと標的物質フィルムとの相互作用が可能となる。さらに標的15の内部には、真空チェンバ(図示せず)が配置される。この真空チェンバ内では、粒子ビームに必要とされる真空度が保たれる。
【0069】
例えば中性子場を生成する場合、標的物質は、180℃より高温の液体状態のリチウム(Li)金属であってよい。ある実施例では、入射粒子は陽子であってもよい。陽子は、リチウム原子核と衝突する。その結果、原子核反応により、25keV以上785keV以下のエネルギーを持つ中性子放出を伴って、ベリリウム(Be)原子核が生成される。
【0070】
別の実施例では、入射粒子は重水素である。重水素は、リチウム(Li)原子核と衝突する。その結果、原子核反応により2つのHe原子核が生成される。
【0071】
リチウムを用いて中性子場が生成されるとき、システム10は、標的15全体を取り巻く減速材(図示せず)を備える。これは、生成された中性子場の中性子エネルギーを低減することを目的とする。減速材は例えば、水素化物質(ポリエチレン等)を備える。減速材は、中性子を減速する。これにより中性子は、標的15に向けて後方散乱する。これらの中性子は、Be(Li(p、n)Be反応の生成物)と相互作用する。低速中性子を非常に高効率の断面積で捕獲することにより、Be(nth、P)Li反応に従って、BeはLiに変化する。得られる生成物は最初のLiである。すなわちこれは、リチウムの自動生成に相当する。これによりBeトラップが不要となるので、放射線学的リスクを低減することができる。
【0072】
図2に、本開示の一例に係る液体標的20の動作の原理を示す。
【0073】
模式的に図示される標的20は、回転面により形成され、設置されたシェル24を備える。これは、回転軸21の周りに回転する。図2の例では、シェルは、円錐台状部242を備える。この円錐台部242の頂点は、シェルの回転軸上に位置し、所定の半頂角αを有する。
【0074】
標的20は、標的物質(これは動作中、液体である)、例えばリチウムを備えたリザーバ(図2には示さない)と、標的物質上昇装置(図2には示さない)と、をさらに備える。標的物質上昇装置は、動作中、液体の標的物質を、リザーバから回転するシェルの上面244に運ぶ。入口パイプ(図2には示さない)により、動作中、加速粒子ビームをシェルとの衝突領域に導くことができる。加速粒子ビームと、シェルの上面上を循環する標的物質との相互作用による原子核反応で、原子核粒子が生成される。
【0075】
図2に示されるように、所定の角速度ωでのシェル24の回転により、遠心力効果を通して、シェルの上面上で、液体の標的物質のフィルム22が生成される。このフィルム22は、例えば厚さがδ(r)の液体リチウムである。ここでrは、円錐台部242の半径である。遠心作用のおかげで、液体のフィルム22は、シェルの外周面245に向けて、円錐台部242に沿った上昇運動をする。これにより、この例では環状端部が形成される。その結果、液体が、流れまたは小滴の形で円錐台部の外に溢れ出す。その後、液体の標的物質は、1つ以上のリターンパイプ(図2には示さない)により直接リザーバに戻る。これは、図2の符号23で模式的に示されるように、閉鎖システム内での液体標的物質の再循環の実現を目的とする。
【0076】
リチウムを用いて中性子場が生成されるとき、中性子の生成は、金属表面の最初の数ミクロンのところで起きる。この領域を越えると、ビームの経路は陽子の減速のみに相当する。従ってこれはエネルギーの堆積に相当する。この点は、加熱を抑えるためにリチウム内のエネルギーを最小化するのに好ましいことである。エネルギー堆積を最大化するときの陽子ビームの侵入深さは140μm以上であることが知られている(例えば、非特許文献3参照)。従って、粒子ビームとの衝突領域におけるリチウムの厚さは、所定の値より薄いことが望ましい。これにより大半のエネルギーは、液体内でなくシェル内に堆積される。典型的には、衝突領域での液体リチウムの厚さは140μm未満であることが望ましい。これは、フィルムのディウェッティングと局所的乱れとが発生する領域への逸脱を防ぐのに十分な厚さである。好ましくは、この厚さは、100μm以上140μm以下である。
【0077】
図2の例では、シェルの断面は円錐台である。別の断面の例は後で説明する(図3Aおよび3B参照)。円錐台部を含むシェルの断面により、液体フィルム22の厚さを、パラメータの関数として解析計算することができる。このパラメータは、円錐台部の半頂角α、シェルの回転速度ω、衝突領域における円錐台部の半径rおよび液体の流量を含む。これらの計算は、非特許文献4および5の記載に基づいてもよい。特に標的が回転軸に接続された上昇装置をベースとした再循環機構を備える場合、流量は、独立パラメータではなくシェルの回転速度に依存する。
【0078】
図3Aおよび3Bに、子午面内で異なる断面を持つシェル34の部分の2つの例を示す。これらの例では、シェルは、第1部分342および第2部分341を備える。第2部分341は、第1部分342が接続される基部を形成する。いずれの例でも、動作中、液体のフィルム(図3Aおよび3Bには示さない)は、シェルの上面344の上に形成され、シェルの外周面345に向けて、第1部分342に沿った上昇運動をする。以下、上面344と反対側の面346を、シェルの下面と呼ぶ。
【0079】
図3Aの例では、第1部分342は円錐台である。基部341と円錐台342とは、第1フィレット半径343で接続される。これにより、2つの部分の間の角度変化は穏やかなものとなる。これにより、液体の流れが途絶える可能性が低減される。フィレット半径343は、例えば5mm以上50mm以下の曲率で特徴づけられる。
【0080】
シェルは、円錐台の要素で形成される必要はなく、図3Bに示されるように曲率が一様に変化する回転面で形成されてもよい。図3Bの例では、第1部分342は、回転軸31を含む子午面内で曲面部を持つ。図3に示されるようなシェル状の標的では、円錐台のとき実行される厚さ計算の結果と、半頂角をαとしたときの衝突領域におけるシェルに対するタンジェントの平均値と、を用いて、衝突領域での液体フィルムの厚さの近似値を計算することができる。
【0081】
図4に、本開示の一例に係る標的40を示す。この例では標的は液体リチウムだが、これに限られない。
【0082】
標的40は、回転軸31の周りに回転する軸対称のシェル34を備える。シェル34は、図3Aに示されるような基部341に接続された円錐台部342を備える。この例では、シェルは、リザーバ46に浸される延長管を形成する第3部分440をさらに備える。リザーバ46は、動作中、液体の標的物質を含む。いくつかの実施の形態では、シェルは、モリブデンおよび/もしくは鉄またはこれらの組み合わせを含む材料で作られる。
【0083】
図4の例では、標的40は、固定された上側ケーシング452をさらに備える。上側ケーシング452は、シェル34の上面344(動作中、この上に液体標的物質のフィルムが形成される)を少なくとも部分的に覆うように構成される。上側ケーシング452は、動作中にシェルの上面344上に形成された液体フィルムから発した蒸気を閉じ込めることを目的とする。
【0084】
図4の例では、標的40は、固定された下側ケーシング451をさらに備える。下側ケーシング451は、シェル34の下面346(これは、液体フィルムが形成される上面344と反対の側にある)を覆う。
【0085】
図4の例では、液体標的物質を再生する装置は、シェルの外周面345上に配置された側溝457を備える。この液体標的物質を再生する装置は、動作中、標的材料のフィルムから発した小滴を受け取る。このフィルムは、遠心力作用により、シェルの上面344に生成される。このようにして、シェルの回転に起因して液体上に生じた遠心力作用により送られた液体は、側溝457に集められる。
【0086】
図4の例では、下側ケーシング451および上側ケーシング452は、側溝を介して接続される。この場合、側溝457は、上側ケーシング452に取付けられる。より具体的には、この例での側溝は、上側ケーシング452の一端の上部で折り曲げられて形成される。その結果、側溝は、シェルの外周面345を取り巻き、下面の下でカールする。
【0087】
標的40は、動作中、液体標的物質を含むように構成されたリザーバ46をさらに備える。
【0088】
図4の例では、リザーバ46は、下側ケーシング451の副産物として形成される。しかしリザーバ46は、下側ケーシング451と独立であると理解される。リザーバ46は、下側ケーシング451と異なる材料で作られてよい。リザーバ46と下側ケーシング451とは、接続部分462で互いに接続される。通常動作時は、液体のレベルは、シェル346の下面の遠心力作用の効果で引き上げられた場合も、接続部分462には届かない。
【0089】
この例では、下側ケーシング451と、上側ケーシング452と、リザーバ46と、を備えるアセンブリは、固定されたケーシング45を形成する。ケーシング45は、例えば、ステンレススチールおよび/またはモリブデンベースの合金で作られる。
【0090】
動作および加速粒子ビームとの衝突の前に標的物質を予熱するために、リザーバ46に予熱装置(図4には示さない)が与えられてもよい。予熱は、標的物質がリチウム金属のように液体で周辺温度より高い温度状態にある場合に有用である。
【0091】
標的40は、加速粒子ビーム50のための入口パイプ49をさらに備える。入口パイプ49は、上側ケーシング452を通して、開口部48の周囲に配置される。図6A-6Cに示されるように、入口パイプ49の方向によって、回転シェル上における衝突領域が定義される。入射ビームの形は、加速器13の上流で定義される(図1参照)。図4の例では、ケーシング45と入口パイプ49とは互いに固定される。
【0092】
いくつかの実施の形態では、衝突領域における真空と、標的周辺の大気とを分離するために、ウィンドウ(図4には示さない)が使われてもよい。こうしたウィンドウは、例えばビームのエネルギーが許すようなもの(すなわち、ビームがウィンドウを十分透過するもの)であってよい。別の典型的な実施の形態、例えば低エネルギーアプリケーションのためのリチウム標的の場合、ウィンドウの透過は不十分である。この場合、粒子ビームのための入口パイプ49は、急速遮断システムおよび/または凝縮装置を備えてもよい(図4には示さない)。
【0093】
標的40は、リザーバ46の液体をシェル34の上面に向けて上昇させるための上昇装置47をさらに備えてもよい。
【0094】
図4の例では、上昇装置47は、部分的にまたは完全に、シェル34の環状の延伸部440に挿入され、リザーバ内に浸される。延伸部440は、シェルおよび上昇システムとともに回転する。延伸部440は、固定された管(図4には示さない)で取り囲まれてもよい。これにより、シェル34および上昇装置の回転運動による拡散が、リザーバ内の液体全体にわたり制限される。
【0095】
図4の例では、上昇装置47は、延伸部440に固定され、上昇動作を表すエンドレススクリューを形成する。上昇装置は、例えば、羽根471または遠心ロータを備える。このようにして、シェルの回転により、液体標的は自動的に上昇する。
【0096】
側溝457は、少なくとも1つのリターンパイプ43を用いて、リザーバ46に接続される。このリターンパイプ43は、2つの要素間の流体接続を形成する。従って、側溝に送られた液体の標的物質は、付加的なエネルギーを用いることなく、重力により直接リザーバ46内に再注入される。
【0097】
いくつかのリターンパイプ43は、リザーバ内で対称的な流れを作る。図4の例では、例えば4つのリターンパイプ43が、互いに90°に配置される。しかし、リターンパイプ43の数、それぞれのサイズおよびそれぞれの位置は、本開示の目的の範囲内で異なっていてもよい。全体(すなわち、シェル、リターンパイプおよびケーシング)を支持し固定するシステムは図示しない。
【0098】
上記の要素に加えて、標的40は、シェルの上部に配置されたプレート459を備えてもよい。特にプレート459により、ビーム入口領域の近くで真空と直接導通する液体の表面領域全体を制限することができる。このプレートは、固定されてもよいし、シェルに取付けられて回転してもよい。
【0099】
標的40は、1つ以上の予熱装置および/または冷却装置を備えてもよい。予熱装置および/または冷却装置は、使われる標的物質および/または1つ以上の凝縮装置(例えば、リチウム上記を凝縮する装置)に応じて、例えば、ケーシングおよびリターンパイプ43に配置されてもよい。
【0100】
動作中、上昇装置47は、液体標的物質(例えば、液体リチウム)をシェル34の中心まで運ぶ。これにより、図2を用いて説明した液体のフィルムが形成される。角速度ωでのシェル34の回転により、遠心力効果を通して、液体のフィルムが拡散される。従って、シェル34が回転した後、液体のフィルムは、円錐台部342の中心から外側に向けて流れる。
【0101】
このように形成されたフィルムは、シェル34の上面344全体に拡散する。回転によりフィルムは、シェル34の外周面345に向けて拡散し、側溝457内に送られる。側溝457内に送られた液体は、リターンパイプ43を用いて、付加的なエネルギーを用いることなく、重力効果により直接リザーバ内に再注入される。
【0102】
例えば図1を用いて説明した生成システム10に含まれる標的40により、原子核粒子を生成する方法(例えば、標的物質としてリチウムを使った中性子場の生成)を実行することができる。
【0103】
いくつかの典型的な実施の形態では、この方法は、真空チェンバを用いて標的40の周囲に十分高品質の真空を得る事前ステップを含む。次にこの方法は、液体フィルム(図2の22)を形成するために、シェル34および上昇装置47を回転するステップを含む。次に、粒子加速器13から来る加速粒子ビーム50が、入口パイプ49内に入射する。この方法は、リザーバ46および/またはケーシング45およびリターンパイプ43を予熱する事前ステップを含んでもよい。
【0104】
図5に、図4に示される標的の液体の循環をより詳細に示す。ここには、ビーム領域の下を通るフィルム22と、側溝457によるその後の流体の再生が示される。採用される条件(ジオメトリおよび回転速度)に応じて、支持シェルから分岐された後のフィルムは、そのままの状態であってもよいし、流れまたは小滴の形となってもよい。
【0105】
図6A-6Cに、様々な入力パイプの形態におけるビーム衝突領域の形状を、より具体的に示す。
【0106】
図6Aに示されるように、粒子ビームのための入力パイプは、加速粒子ビーム(これは、図6A-6Cでは太い矢印で表される)が、角度βおよびχで示されるように空間に入射するように構成される。
【0107】
図6Bに示される典型的な実施の形態では、粒子ビームのための入力パイプは、加速粒子ビームが、回転軸を含む平面に入射するように構成される(χ=0°)。この構成は、ビームの衝突領域の変形が、当該ビームの断面に対して最小である場合に相当する。
【0108】
図6Cに示される典型的な実施の形態では、粒子ビームのための入力パイプは、加速粒子ビームが、回転半径rの外周に接する平面に入射するように構成される(χ=90°)。この構成は、ビームの衝突領域の変形が、当該ビームの断面に対して非常に大きい場合に相当する。
【0109】
回転駆動システムの位置、使われる液体、動作温度および上流の粒子加速器の構成の選択に応じて、角度(βおよびχ)の選択には広い自由度がある。液体リチウムの場合、α<β<90°および45°<χ<90°となるように選ぶことが望ましい。これにより、ビームの下でのリチウムの滞留時間が最小となる。
【0110】
いくつかの典型的な実施の形態を通して、本開示に係る原子核粒子を生成するための標的を説明した。しかしこうした標的には、多くの変形、改造および改良がある。こうした変形、改造および改良もまた、以下の請求項で定義される本発明の一部であることは、当業者に明らかであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C