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特許7562589グラウト材添加繊維、それを含むグラウト材、及びグラウト材の製造方法
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  • 特許-グラウト材添加繊維、それを含むグラウト材、及びグラウト材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】グラウト材添加繊維、それを含むグラウト材、及びグラウト材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 16/06 20060101AFI20240930BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240930BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20240930BHJP
   E04C 5/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C04B16/06 E
C04B16/06 D
C04B16/06 F
C04B16/06 A
C04B28/02
B28C7/04
E04C5/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022042603
(22)【出願日】2022-03-17
(65)【公開番号】P2022145645
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2021046231
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山下 憲司
(72)【発明者】
【氏名】山本 基由
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117432(JP,A)
【文献】特開平05-345652(JP,A)
【文献】特開2004-345898(JP,A)
【文献】特開2018-203557(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133763(WO,A1)
【文献】特開2011-144103(JP,A)
【文献】特開昭60-013510(JP,A)
【文献】特開2008-180076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 7/00-7/16
E04C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含むグラウト材添加繊維であって、
前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、
前記凸部は、長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下であり、
下記(1)及び/又は(2)を満たす、グラウト材添加繊維。
(1)前記グラウト材添加繊維の繊維径Dが、20μm以上80μm以下である
(2)前記グラウト材添加繊維は、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dで表されるアスペクト比が190以上850以下である
【請求項2】
記凸部は、繊維の中心に向かってくびれた部分を有し、最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.0を超える、請求項1に記載のグラウト材添加繊維。
【請求項3】
前記凸部は、最大幅Wtが4.0μm以上30.0μm以下であり、長さLtが7.5μm以上41μm以下である、請求項1又は2に記載のグラウト材添加繊維。
【請求項4】
前記凸部は、繊維の中心に向かってくびれた部分を有し、長さLtと根元部分の幅Wbの比Lt/Wbが1.0以上3.5以下であり、かつ最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.3以上3.5以下である、請求項1~のいずれかに記載のグラウト材添加繊維。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を含む、請求項1~のいずれかに記載のグラウト材添加繊維。
【請求項6】
前記グラウト材添加繊維は、付着水分率が10%以上80%以下である、請求項1~のいずれかに記載のグラウト材添加繊維。
【請求項7】
前記グラウト材添加繊維は、複数本のグラウト材添加繊維の単繊維が集束剤で集束された集束繊維を含み、
前記集束繊維には、繊維質量に対して1.0質量%以上の集束剤が付着している、請求項1~のいずれかに記載のグラウト材添加繊維。
【請求項8】
前記集束繊維は、付着水分率が0.5%以上5.0%以下である、請求項に記載のグラウト材添加繊維。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のグラウト材添加繊維を0.03vol%以上0.9vol%以下含む、グラウト材。
【請求項10】
請求項又はに記載のグラウト材添加繊維を0.03vol%以上0.9vol%以下含む、プレミックスグラウト材。
【請求項11】
グラウト材添加繊維を含むグラウト材の製造方法であって、
前記グラウト材添加繊維を水中に添加する工程、及び
得られたグラウト材添加繊維の水分散液を、グラウト組成物を構成するセメント粒子を含む粉体成分と混合して、グラウト材を得る工程を含み、
前記グラウト材添加繊維はポリオレフィン系樹脂を含み、
前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、
前記凸部は、長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下であり、
前記グラウト材添加繊維は、下記(1)及び/又は(2)を満たし、
前記グラウト材添加繊維は、付着水分率が10%以上80%以下であり、
前記グラウト材添加繊維は、グラウト材中の含有量が0.03vol%以上0.9vol%以下となるように水中に添加されることを特徴とする、グラウト材の製造方法。
(1)前記グラウト材添加繊維の繊維径Dが、20μm以上80μm以下である
(2)前記グラウト材添加繊維は、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dで表されるアスペクト比が190以上850以下である
【請求項12】
グラウト材添加繊維を含むグラウト材の製造方法であって、
前記グラウト材添加繊維をグラウト組成物と混合して、プレミックスグラウト材を得る工程、及び
前記プレミックスグラウト材に水を添加してグラウト材を得る工程を含み、
前記グラウト材添加繊維は複数本のグラウト材添加繊維の単繊維が集束剤で集束された集束繊維を含み、
前記グラウト材添加繊維はポリオレフィン系樹脂を含み、
前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、
前記凸部は、長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下であり、
前記グラウト材添加繊維は、下記(1)及び/又は(2)を満たし、
前記集束繊維は、付着水分率が0.5%以上5.0%以下であり、
グラウト材中のグラウト材添加繊維の体積含有量が0.03vol%以上0.9vol%以下となるようにプレミックスグラウト材に水を添加することを特徴とする、グラウト材の製造方法。
(1)前記グラウト材添加繊維の繊維径Dが、20μm以上80μm以下である
(2)前記グラウト材添加繊維は、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dで表されるアスペクト比が190以上850以下である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木関連分野で使用されるグラウト材に添加する、グラウト材添加繊維、それを含むグラウト材、及びグラウト材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木関連分野で、コンクリート構造物の隙間やひび割れ部に充填して補修する、もしくは構造物の一体化を図る目的でグラウト材が使用されている。グラウト材の強度及び靱性を向上するために、繊維を添加することが提案されている。例えば、特許文献1には、繊維長が4~20mmの非金属単繊維を含有するグラウト材が記載されている。特許文献2には、直径8~80μm、繊維長1~20mm、強度4cN/dtexの繊維(主としてビニロン)を含有するグラウト材が記載されている。特許文献3には、直径12~40μm、繊維長3~12mmの有機短繊維又は無機短繊維を含有するグラウト材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2566099号公報
【文献】特開2001-253738号公報
【文献】特許第5311584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラウト材は、細かい隙間に充填されるため、高い流動性が求められる。一方、高流動性に伴い、例えば、施工後に型枠の僅かな隙間や、コンクリートの間隙充填時の隙間等からグラウト材が漏出する恐れや、地盤改良時にグラウト材が浸透しすぎる恐れがあり、このようなグラウト材の隙間からの漏出や地盤への過度な浸透を抑制するための漏れ抑制性が求められる。また、強度や靱性、あるいは施工性を向上させるためには、繊維の高い分散性も求められる。
特許文献1~3では、繊維の繊維径や繊維長に着目しており、繊維の断面形状については検討されておらず、グラウト材の流動性、繊維の分散性、及び漏れ抑制性をさらに改善する余地があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するため、異形断面形状を有しながら、グラウト材における分散性が良好であり、グラウト材の流動性を損なわず、グラウト材に漏れ抑制性を付与するグラウト材添加繊維、それを含むグラウト材、及びグラウト材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂を含むグラウト材添加繊維であって、前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、前記凸部は、長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下である、グラウト材添加繊維に関する。
【0007】
本発明は、また、ポリオレフィン系樹脂を含むグラウト材添加繊維であって、前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、前記凸部は、繊維の中心に向かってくびれた部分を有し、最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.0を超える、グラウト材添加繊維に関する。
【0008】
本発明は、また、前記グラウト材添加繊維を0.03vol%以上0.9vol%以下含む、グラウト材に関する。
【0009】
本発明は、また、前記グラウト材添加繊維を0.03vol%以上0.9vol%以下含む、プレミックスグラウト材に関する。
【0010】
本発明は、また、グラウト材添加繊維を含むグラウト材の製造方法であって、前記グラウト材添加繊維を水中に添加する工程、及び得られたグラウト材添加繊維の水分散液を、グラウト組成物と混合して、グラウト材を得る工程を含み、前記グラウト材添加繊維はポリオレフィン系樹脂を含み、前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、前記凸部は、下記(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一つを満たし前記グラウト材添加繊維は、付着水分率が10%以上80%以下であり、前記グラウト材添加繊維は、グラウト材中の体積含有量が0.03vol%以上0.9vol%以下となるように水中に添加されることを特徴とする、グラウト材の製造方法に関する。
(1)長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下である
(2)繊維の中心に向かってくびれた部分を有し、最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.0を超える
【0011】
本発明は、また、グラウト材添加繊維を含むグラウト材の製造方法であって、前記グラウト材添加繊維をグラウト組成物と混合して、プレミックスグラウト材を得る工程、及び前記プレミックスグラウト材に水を添加してグラウト材を得る工程を含み、前記グラウト材添加繊維は、複数本のグラウト材添加繊維の単繊維が集束剤で集束された集束繊維を含み、前記グラウト材添加繊維はポリオレフィン系樹脂を含み、前記グラウト材添加繊維は、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、前記凸部は、下記(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一つを満たし、前記集束繊維は、付着水分率が0.5%以上5.0%以下であり、グラウト材中のグラウト材添加繊維の体積含有量が0.03vol%以上0.9vol%以下となるようにプレミックスグラウト材に水を添加することを特徴とする、グラウト材の製造方法に関する。
(1)長さLtと最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下である
(2)繊維の中心に向かってくびれた部分を有し、最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.0を超える
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異形断面形状を有しながら、グラウト材における分散性が良好であり、グラウト材の流動性を損なわず、グラウト材に漏出や浸透を抑制する漏れ抑制性を付与し、及びグラウト材を硬化して得られるセメント硬化体に対して補強効果を有するグラウト材添加繊維を提供することができる。
本発明によれば、また、グラウト材添加繊維の分散性が良好であり、流動性と漏れ抑制性が両立したグラウト材を提供することができる。
本発明のグラウト材の製造方法によれば、グラウト材添加繊維の分散性が良好であり、流動性と漏れ抑制性が両立したグラウト材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】四葉断面を有するポリプロピレン繊維の繊維断面の模式図である。
図2】比較例で用いたビニロン繊維の繊維断面の模式図である。
図3】比較例で用いたポリプロピレン連結繊維の単糸の繊維断面の模式図である。
図4】比較例で用いたポリプロピレン割繊維の繊維断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来のグラウト材添加繊維では、特許文献1~3に記載のように、繊維の繊維径や繊維長に着目しているが、本発明者らは、これとは異なる発想で、繊維断面に着目し、上記従来の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、グラウト材添加繊維として、特定の断面形状を有し、ポリオレフィン系樹脂で構成されている繊維(以下において、単にポリオレフィン系繊維とも記す)を用いることで、グラウト材における繊維の分散性が良好であり、グラウト材の流動性を損なわないことを見出した。また、グラウト材の工程性、漏れ抑制性等を向上させており、グラウト材の様々な使用方法に対応し得ることを見出した。
本発明のグラウト材添加繊維は、グラウト材の様々な用途に対応することができる。特に、該グラウト材添加繊維は、グラウト材の漏れ抑制性に優れることから、各種構造物の空隙充填、鋼板巻き立て補強工事、建築耐震補強(ブレース工法、増壁工法)工事、鉄骨基礎、台座、機械基礎等の充填工事、床下地調整工事等に好適に用いることができる。
【0015】
具体的には、グラウト材添加繊維として、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有するポリオレフィン系繊維を用いるとともに、凸部における長さLtと最大幅Wtの比を0.5以上3以下にすること、あるいは、凸部に繊維の中心に向かってくびれた部分を形成し、最大幅Wtと根元部分の幅WbのWt/Wbが1.0を超えるようにすることで、グラウト材における繊維の分散性が良好であり、グラウト材の流動性を損なわず、グラウト材の様々な使用方法に対応し得る。
上述した特定の断面形状を有するポリオレフィン系繊維は、丸断面と比較して表面積が大きいが、凸部間に入り込んだグラウト組成物が大きく移動することがないために、見かけ上、丸断面に近い形状となり、流動性が丸断面の場合とほぼ変わらないと推測される。 また、上述した特定の断面形状を有するポリオレフィン系繊維は、丸断面と比較して表面積が大きく、グラウト材中の水分が凸部間に入り込みやすいことから、グラウト材における繊維の分散性が良好になると推測される。特に、凸部が繊維の中心に向かってくびれた部分を有する場合、凸部間に水分を保持しやすく、グラウト材における繊維の分散性がより良好になると推測される。
また、上述した特定の断面形状を有するポリオレフィン系繊維は、丸断面と比較して表面積が大きく、グラウト組成物が凸部間に入り込みやすい、すなわちポリオレフィン系繊維がグラウト組成物を捕捉しやすいことから、補強効果に優れ、グラウト材の様々な使用方法に対応し得る上、グラウト材を漏出や浸透を抑制し得ると推測される。
さらに、ポリオレフィン系繊維は、公定水分率が(20℃、65%RH)0%であり、親水化処理又は変性しても公定水分率が0.3%程度と低く、グラウト材中の水分を繊維自体(繊維を構成する樹脂自体)が吸収しないため、グラウト材の流動性を損なわない。
【0016】
本発明においては、特に記載がなければ繊維断面とは、当該繊維の長手方向に対し、垂直な面となるように切断した切断面(横断面)を指す。
【0017】
(グラウト材添加繊維)
グラウト材添加繊維において、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有する。凸部の数は、3個以上16個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以上8個以下であり、さらに好ましくは3個以上5個以下である。グラウト材添加繊維の断面形状が3つ以上の凸部を有することで、グラウト組成物と接触する表面積を増加し得るとともに、グラウト組成物が入り込むスペースを確保できる。本発明において、グラウト組成物とは、グラウト材を構成するセメント等を含む粉体混合物を意味する。
【0018】
グラウト材添加繊維の繊維断面において、凸部は繊維の中心に向かってくびれた部分を有することが好ましい。この場合、凸部の根元部分は、隣り合うくびれた部分で構成されることになる。これにより、隣り合う凸部間に水や粉体が入り込み易くなる。このような繊維断面の具体的な形状としては、例えば、3個の凸部を有する三葉状、4個の凸部を有する四葉状、8個の凸部を有する八葉状等が挙げられる。
【0019】
グラウト材添加繊維の繊維断面において、凸部の長さLtと凸部の最大幅Wtの比Lt/Wtが0.5以上3以下である。これにより、グラウト材におけるグラウト材添加繊維の分散性が良好になるとともに、グラウト材の流動性を損なわず、グラウト材の様々な使用方法に対応し得る。Lt/Wtは0.7以上2.8以下であることが好ましく、0.9以上2.6以下であることがより好ましく、1.1以上2.4以下であることがさらに好ましい。凸部の最大幅Wtとは、凸部の2つの根元を結ぶ線の中点から凸部の先端までを結ぶ線を引き、その線から凸部の外周に向けて垂線を引いたときの最大長さをいう。凸部の長さLtは、凸部の2つの根元を結ぶ線の中点から凸部の先端までを結ぶ線の長さをいう。凸部の最大幅Wt及び長さLtは、繊維束の繊維断面を電子顕微鏡等で拡大して、任意の繊維10本を選択し、個々の繊維断面における凸部の最大幅Wt及び長さLtを計測し、それらの値を平均して求めることができる。
【0020】
凸部の最大幅Wtは、4.0μm以上30.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは5.0μm以上28.0μm以下であり、さらに好ましくは6.0μm以上25μm以下である。上記範囲内にあると、隣り合う凸部間に形成される凹部に水が入り込みやく、分散性が高まりやすい。
【0021】
凸部の長さLtは、5.0μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは6.5μm以上45μm以下であり、さらに好ましくは7.5μm以上40μm以下である。上記範囲内であると、グラウト組成物を構成する粉体を捕捉しやすいことから、漏れ抑制性に優れる。
【0022】
凸部の長さLtと凸部の根元部分の幅Wbとの比Lt/Wbは1.0以上3.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.1以上3.0以下であり、さらに好ましくは1.2以上2.8以下であり、特に好ましくは1.3以上2.6以下である。Lt/Wbが前記範囲であると、凸部が根元から変形しやすく、補強効果が高い傾向にある。凸部の根元部分の幅Wbは、繊維束の繊維断面を電子顕微鏡等で拡大して、任意の繊維10本を選択し、個々の繊維断面における凸部の根元部分の幅Wbを計測し、それらの値を平均して求めることができる。
【0023】
凸部の最大幅Wtと根元部分の幅Wbとの比Wt/Wbは、好ましくは1.3以上3.5以下であり、より好ましくは1.4以上3.0以下であり、さらに好ましくは1.5以上2.5以下である。Wt/Wbが上記範囲を満たすと、補強効果が高い傾向にある。
【0024】
凸部の根元部分の幅Wbは、1.0μm以上22.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.2μm以上18.0μm以下であり、さらに好ましくは2.8μm以上15.0μm以下である。凸部の根元部分の幅Wbが前記範囲内にあると、隣り合う凸部間に形成される凹部にグラウト材が入り込みやすくなり、補強効果が高い傾向にある。
【0025】
凸部は、繊維の長さ方向(繊維側面)に対して、連続、不連続のいずれであってもよいが、製造工程性を考慮すると、凸部は繊維側面において連続して存在していることが好ましい。
【0026】
グラウト材添加繊維は、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dで表されるアスペクト比が190以上850以下であることが好ましく、195以上800以下であることがより好ましく、198以上750以下であることがさらに好ましく、200以上700以下であることが特に好ましい。L/Dが前記範囲であると、グラウト材におけるグラウト材添加繊維の分散性が向上するとともに、グラウト材添加繊維とグラウト組成物のなじみが良好になり、補強効果が向上し、例えば、漏れ抑制性が良好となる。本発明において、繊維径は、繊維断面の外接円の直径(最大差し渡し長さ)を意味する。なお、本発明において、繊維断面の外接円が存在しない場合は、繊維径は、最小包含円の最大差し渡し長さを意味する。
【0027】
グラウト材添加繊維は、繊維径Dが8μm以上120μm以下であることが好ましく、15μm以上100μm以下であることがより好ましく、18μm以上80μm以下であることがさらに好ましく、20μm以上60μm以下であることが特に好ましい。繊維径が前記範囲であると、グラウト材におけるグラウト材添加繊維の分散性が向上するとともに、グラウト材添加繊維とグラウト組成物とのなじみが良好になり、補強効果が向上する傾向にある。
【0028】
グラウト材添加繊維は、繊維長Lが2mm以上20mm以下であることが好ましく、3mm以上15mm以下であることがより好ましく、3mm以上10mm以下であることが特に好ましい。繊維長が前記範囲であると、グラウト材におけるグラウト材添加繊維の分散性が向上するとともに、グラウト組成物となじみが良好になり、補強効果が向上する傾向にある。
【0029】
グラウト材添加繊維は、単繊維繊度が0.5dtex以上35.0dtex以下であることが好ましく、0.8dtex以上20.0dtex以下であることがより好ましく、1.0dtex以上8.0dtex以下であることがさらに好ましく、1.0dtex以上6.0dtex以下であることが特に好ましい。単繊維繊度が前記範囲であると、グラウト材におけるグラウト材添加繊維の分散性が向上するとともに、グラウト材添加繊維とグラウト組成物とのなじみが良好になり、補強効果が向上する傾向にある。
【0030】
グラウト材添加繊維は、ポリオレフィン系樹脂で構成されていればよく、特に限定されない。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂等が挙げられる。耐熱性及び汎用性の観点から、グラウト材添加繊維は、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含む合成繊維であることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂を60質量%以上含む合成繊維であることがより好ましく、ポリオレフィン系樹脂を75質量%以上含む合成繊維であることがさらに好ましく、ポリオレフィン系樹脂を85質量%以上含む合成繊維であることがさらにより好ましく、実質的にポリオレフィン系樹脂からなることが特に好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、耐アルカリ性の観点から、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体でもよく、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの共重合体でもよい。
【0031】
グラウト材添加繊維は、2以上の成分からなる複合繊維であってよい。具体的には、同心芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、分割型複合繊維及び海島型複合繊維のいずれであってもよい。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂(以下において、単に「PP」とも記す)としては、特に限定されないが、立体規則性の点で高強度繊維が得られるということから、アイソタクチックペンタッド分率(IPF:モル%)が、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上のポリプロピレン樹脂を用いることができる。なおIPFは、n-ヘプタン不溶分成分について「マクロモレキュラーズ」(Macromoleculer,Vol.6,925(1973)及びMacromoleculer,Vol.8,687(1975))に準じて測定するとよい。
【0033】
グラウト材添加繊維の公定水分率は、グラウト材への分散性の観点から0.5%以下が好ましい。なお公定水分率は、JIS L 0105に準じて、算出される。
【0034】
グラウト材添加繊維は、付着水分率が10%以上80%以下であることが好ましく、20%以上70%以下であることがより好ましく、30%以上60%以下であることがさらに好ましい。これにより、水中やグラウト材中の分散性が良好になる。本発明において、付着水分率は、公定水分率が0%の合成繊維に適用されるJIS L 1015 8.1.2(付着水分率)に準じて測定する。
【0035】
グラウト材添加繊維は、繊維表面が親水化されていてもよい。これにより、グラウト材添加繊維の付着水分率を高めることができ、水中やグラウト材中の分散性が向上する。親水化処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、フッ素ガス処理(例えば、フッ素ガスと酸素ガスを含む混合ガスや、フッ素ガスと亜硫酸ガスを含む混合ガスを用いた処理が挙げられる。)、オゾン処理(例えば、オゾン水溶液による処理や、オゾンガス処理等が挙げられる。)、スルホン化処理(無水硫酸ガスを用いたスルホン化処理の他、発煙硫酸を用いたスルホン化処理、亜硫酸ガスを用いたスルホン化処理、熱濃硫酸を用いたスルホン化処理等が挙げられる。)等が挙げられる。中でも、コロナ放電処理やプラズマ処理が好ましい。
【0036】
グラウト材添加繊維は、熱可塑性樹脂に無機物粒子を混合する方法、熱可塑性樹脂に親水化剤等を混合する方法、熱可塑性樹脂に極性基を有する変性ポリオレフィンを混合する方法、繊維表面に界面活性剤等を付着する方法等により、グラウト材中の他の粉体材料との親和性を向上させてもよい。
【0037】
グラウト材添加繊維は、ポリオレフィン系樹脂を含む、複数本のグラウト材添加繊維の単繊維が集束剤で集束された集束繊維を含んでもよい。集束剤としては、例えば、スルホサクシネート塩、アルキルホスフェートアルカリ金属塩等を含む集束剤を用いることができる。集束剤を繊維質量に対して、1.0質量%以上になるように集束繊維に付着させることで、水を含まないグラウト材、すなわちプレミックスグラウト材中の分散性が良好となるため、好適に用いられる。プレミックスグラウト材中の分散性をより高める観点から、前記集束繊維の付着水分率は0.5%以上5.0%以下であることが好ましく、0.8%以上3.0%以下であることがより好ましい。
【0038】
前記アルキルホスフェートアルカリ金属塩は、グラウト材が水を含む場合、グラウト材中に存在するセメント由来のカルシウムイオンとイオン結合を形成して、繊維の親水性及び繊維とセメント組成物の親和性を向上させることができる。なかでもノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩は、スラリー中で繊維表面に持続的なセメントに対する親和性を与えるので分散性を持続することができ、好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩は、モノアルキルエステル及びジアルキルエステルのいずれでもよい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩において、アルキル基の炭素数は、8以上18以下であることが好ましく、10以上18以下であることがより好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられ、カリウム塩が好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩としては、例えば、オクチルホスフェートカリウム塩、オクチルホスフェートナトリウム塩、デシルホスフェートカリウム塩、デシルホスフェートナトリウム塩、ラウリルホスフェートカリウム塩、ラウリルホスフェートナトリウム塩、トリデシルホスフェートカリウム塩、トリデシルホスフェートナトリウム塩、ミリスチルホスフェートカリウム塩、ミリスチルホスフェートナトリウム塩、セチルホスフェートカリウム塩、セチルホスフェートナトリウム塩、ステアリルホスフェートカリウム塩及びステアリルホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。前記アルキルホスフェートアルカリ金属塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記集束剤は、前記スルホサクシネート塩やアルキルホスフェートアルカリ金属塩以外に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲内で、例えば、水溶性糊剤、非水溶性糊剤、アルキルホスフェートアルカリ金属塩以外の他の界面活性剤等を用いることができる。水溶性糊剤としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ、植物性小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、植物性ガム類、アルファ澱粉、澱粉誘導体の酢酸澱粉、燐酸澱粉、酵素性澱粉、カチオン化澱粉、焙焼澱粉、カルボキシメチルスターチ、カルボキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、陽性澱粉、シアノエチル化澱粉及びジアルデヒドデンプン等の澱粉類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、フノリ、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、並びにポリアクリル酸等を挙げることができる。また、非水溶性糊剤としては、例えば、酢酸ビニル系、酢酸ビニル-エチレン系、プロピレン系等を挙げることができる。他の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、炭素数8以上22以下の高級脂肪酸金属塩、高級アルコール硫酸エステル金属塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンナフタレンスルホン酸金属塩、パラフィンスルホン酸金属塩、アルキルアミン塩、及びアルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0040】
グラウト材添加繊維としては、例えば、大和紡績株式会社製の「マーキュリー(登録商標)C」等のポリプロピレン単一繊維等を用いてもよい。
【0041】
(グラウト材)
グラウト材は、グラウト組成物に加えて、上述したグラウト材添加繊維を0.03vol%以上0.9vol%以下含む。これにより、グラウト材添加繊維が均一に分散されており、流動性を有するグラウト材が得られる。グラウト材は、グラウト材添加繊維を0.05vol%以上0.8vol%以下含むことが好ましく、0.1vol%以上0.7vol%以下含むことがより好ましく、0.15vol%以上0.6vol%以下含むことがさらに好ましい。ここで、グラウト材添加繊維の含有量は、グラウト材において、グラウト材添加繊維を除くその他の成分の合計体積を100体積%とした場合の体積含有量(vol%)である。
【0042】
グラウト材は、プレミックスタイプでもよく、水を含むグラウト材(以下において、生タイプとも記す)でもよい。上述した集束繊維を含むグラウト材添加繊維を用いた場合、プレミックスグラウト材を好適に得ることができる。グラウト組成物を構成する成分は、特に限定されず、一般的にグラウト材に用いられるものを適宜用いることができる。グラウト組成物は、例えば、セメント、細骨材、及び膨張材等を含んでもよい。
【0043】
セメントは、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0044】
細骨材は、特に限定されず、例えば、珪砂、川砂、海砂、浜砂、砕石等が挙げられるほか、高炉スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ及び電気炉酸化スラグといった各種スラグ等を使用することができる。
【0045】
膨張材は、特に限定されず、例えば、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)を適宜用いることができる。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、及び遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材等が挙げられる。
【0046】
混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、高機能AE減水剤、流動化剤、硬化促進剤、防錆剤、凝結遅延剤、急結剤、及び収縮低減剤等が挙げられる。
【0047】
プレミックスグラウト材(プレミックスタイプのグラウト材)は、グラウト材添加繊維と、セメント、細骨材、膨張材、及び混和剤等を含むグラウト組成物を混合することで得ることができる。生タイプのグラウト材は、グラウト材添加繊維;セメント、細骨材、膨張材、及び混和剤等を含むグラウト組成物;及び水を混合することで得ることができる。グラウト組成物としては、セメント、細骨材、膨張材、及び混和剤等を含む市販の無収縮モルタル等を用いてもよい。混合は、例えば、パン型ミキサー、オムニミキサー、グラウトミキサー、高速ハンドミキサー、モルタルミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー、及びホバートミキサー等の撹拌機を用いて行うことができる。
【0048】
生タイプのグラウト材は、グラウト材添加繊維を水中に添加してグラウト材添加繊維の水分散液を作製し、得られたグラウト材添加繊維の水分散液を、グラウト組成物と混合することで作製することが好ましい。この場合、付着水分率が10%以上80%以下のグラウト材添加繊維を用いることがより好ましい。グラウト材添加繊維の水中分散性が高いことから、作業性良く、グラウト材添加繊維が均一に分散し、流動性を有するグラウト材を得ることができる。
【0049】
プレミックスグラウト材は、集束繊維を含むグラウト材添加繊維をグラウト組成物と混合することで作製することが好ましい。この場合、付着水分率が0.5%以上5.0%以下の集束繊維を用いることがより好ましい。集束繊維のグラウト組成物中の分散性が高いことから、作業性良く、グラウト材添加繊維が均一に分散したプレミックスグラウト材を得ることができる。
【0050】
グラウト材は、流動性に優れる観点から、JSCE-F541-1999に準じてJ14漏斗を用いて測定した流下時間が7.0秒以上16.0秒以下であることが好ましく、7.0秒以上14.0秒以下であることがより好ましく、7.0秒以上13.0秒以下であることがさらに好ましい。
【0051】
グラウト材は、コンクリート構造物の隙間やひび割れ等の補修、構造物の一体化を図る場合、及び地盤の改良等において、好適に用いることができる。前記グラウト材をコンクリートの空隙目地やひび割れ等の細かい隙間をふさぐ役割で使用する場合、柱の付け根、沓座、支柱固定等無収縮が求められる部位に用いると、構造物との付着性が高まり一体化しやすく、構造物自体の耐震強度を高めることができる。無収縮グラウト用途としては、各種構造物の空隙充填、鋼板巻き立て補強工事、建築耐震補強(ブレース工法、増壁工法)工事、鉄骨基礎、台座、機械基礎等の充填工事、その他の補修補強工事等が挙げられる。プレストレストコンクリート(PC)グラウト材としては、各種構造物の小間隙充填、クラック注入工事、PCグラウト工事等が挙げられる。
【0052】
前記グラウト材を硬化することでセメント硬化体を得ることができる。具体的には、所定形状の型枠にグラウト材を充填し、グラウト材を打設した後、グラウト材の表面が乾燥しないよう十分に水分を与える。水分を与える方法としては、公知の方法、例えば湛水養生、散水養生、湿布養生、湿砂養生、噴霧養生といった方法で水分を補給し、グラウト材の表面に給水しながら養生してもよいし、型枠から脱型した後、水中で養生する水中養生といった方法で養生してもよい。また、養生を行う環境は気温が5℃以上35℃以下の空気中で行ってもよいし、水中養生の場合は、水温を5℃以上35℃以下に調整した水中で養生してもよい。空気中で養生を行う場合、グラウト材の表面の乾燥を防ぐためできるだけ相対湿度が高い雰囲気下で養生することが好ましい。養生期間は養生方法によって変化するが、前記養生方法で、グラウト材の表面が乾燥しないよう十分に水分を与え、グラウト材の表面を湿潤状態に保った状態で養生した場合、気温20℃以上30℃以下、湿度95%以上の状態で28日以上養生すれば、十分に水和反応が進んだセメント硬化体を得ることができる。
【0053】
前記セメント硬化体は、柱の付け根、沓座、及び支柱固定等無収縮が求められる部位に用いる場合、JIS A 1108に準じて測定した圧縮強度が50N/mm2以上であることが好ましく、60N/mm2以上であることがより好ましい。
【0054】
前記セメント硬化体は、トンネル覆工、道路及び橋梁等ひび割れが入った後にも耐久性を必要とする用途に用いる場合、日本コンクリート工学会のJCI-S-001-2003の切り欠きはりを用いたコンクリートの破壊エネルギー試験方法に基づいて測定した開口変位1.5mm時の破壊エネルギーが0.310N/mm以上であることが好ましく、0.330N/mm以上であることがより好ましく、0.350N/mm以上であることがさらに好ましく、0.370N/mm以上であることが特に好ましい。また、開口変位4mm時の破壊エネルギーが0.590N/mm以上であることが好ましく、0.61N/mm以上であることがより好ましく、0.630N/mm以上であることがさらに好ましく、0.650N/mm以上であることが特に好ましい。
【実施例
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(単繊維繊度)
JIS L 1015に準じて測定した。
【0057】
(付着水分率)
JIS L 1015 8.1.2に準じて付着水分率を測定した。具体的には、試料約5gを採り、その質量及び標準状態における質量を量り、次の式によって付着水分率(%)を算出し、2回の平均値をJIS-Z-8401によって小数点以下1桁に丸めた。
f=(m-m’)/m’×100
f:付着水分率(%)
m:試料の採取時の質量(g)
m':試料の標準状態における質量(g)
【0058】
(繊維径)
繊維束の繊維断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型番「SU3500」)で観察し、2次元画像計測ソフト(スカラ株式会社製、Micro Measure)で繊維径を算出した。具体的には、図1~4に示すように、繊維断面1の外接円2の直径(最大差し渡し長さ)を測定し、繊維径Dとした。
【0059】
(凸部のWt、Lt、及びWb)
繊維束の繊維断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型番「SU3500」)で観察し、2次元画像計測ソフト(スカラ株式会社製、Micro Measure)で、任意の繊維10本を選択し、個々の繊維における凸部のWt、Lt、及びWbを計測し、その平均値を求めた。個々の繊維において、凸部のWt、Lt、及びWbは、図1及び図3に示したとおりに計測した。
【0060】
(繊維の水中分散性)
水槽に水を80L入れ、繊維3gと分散剤水溶液(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル系分散剤、分散剤濃度2質量%)10mL投入し、2500rpmで2分間攪拌後に、下記の基準で目視判定した。
A:きれいに分散し、単繊維で存在する状態
B:未解繊が数個(5個以下)存在あるいは繊維が絡んで小塊(直径が約1mm程度以下)が存在する状態
C:未解繊が多数(5個を超える)存在あるいは繊維が絡んで大塊(直径が約1mmを超える)が存在する状態
【0061】
(繊維のグラウト材における分散性評価方法1)
グラウト材における分散性を、下記の基準で目視判定した。
A:きれいに分散し、単繊維で存在する状態
B:未解繊が数個(5個以下)存在あるいは繊維が絡んで小塊(直径が約1mm程度以下)が存在する状態
C:未解繊が多数(5個を超える)存在あるいは繊維が絡んで大塊(直径が約1mmを超える)が存在する状態
【0062】
(繊維のグラウト材における分散性評価方法2)
グラウト材を小型抄紙機に6.4g(目付100g/m2)投入して手すき抄紙し、抄きムラ(地合い)を、下記基準で目視判定した。
A:繊維がムラなく均一に分散している
B:繊維が不均一に分散し、薄い部分がある
C:繊維が不均一に分散し、穴の開いた部分がある
【0063】
(繊維のグラウト材における分散性評価方法3)
プレミックス用グラウト組成物(太平洋マテリアル製「プレユーロックス」)と繊維をドライブレンドし、1日放置させた後、下記基準で目視判定した。
A:繊維が分散し、グラウト組成物もサラサラの状態
B:分散した繊維周辺のグラウト組成物が硬化し、小さな塊が存在している、あるいはグラウト組成物が硬化し、1つの塊となった状態
【0064】
(グラウト材の流動性)
JSCE-F-541-1999に規定の充填モルタルの流動性試験方法に準じてJ14漏斗を用いて評価した。
【0065】
(グラウト材の漏れ抑制性)
グラウト材の漏出や浸透の抑制性の指標として、以下の方法を用いた。
14漏斗を用いてグラウト材630mLを目開き5mmの篩に通して通過する量及び時間を測定した。
【0066】
(圧縮強度)
グラウト材を円柱状の型枠(直径50mm、高さ100mm)に充填し、打設した後、水中養生し、材齢28日で得られたセメント硬化体を供試体とし、JIS A 1108に準じて圧縮強度を測定した。
【0067】
(破壊エネルギー試験)
グラウト材を型枠(高さ40mm、幅40mm、長さ160mm)に充填し、打設した後、水中養生し、材齢28日で得られたセメント硬化体を供試体とし、日本コンクリート工学会のJCI-S-001-2003の切り欠きはりを用いて、切り欠きを幅5mm以下、深さ24mmとし、コンクリートの破壊エネルギー試験方法に基づいて破壊エネルギーを測定・算出した。
【0068】
(実施例A1)
単繊維繊度が1.3dtex、繊維長が6mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0069】
(実施例A2)
単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が6mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0070】
(実施例A3)
単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が12mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0071】
(実施例A4)
単繊維繊度が5.4dtex、繊維長が15mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0072】
参考例A5)
単繊維繊度が20dtex、繊維長が20mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0073】
(実施例A6)
単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が6mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)を、アルキル(C8~14)ホスフェートを含む水溶液(集束剤の処理液)に浸漬した後、マングルロールで絞り、80℃で5時間乾燥することで、アルキル(C8~14)ホスフェートを2.5質量%付着させて、ポリプロピレン単繊維が複数本集束した集束繊維を得た。
【0074】
(実施例A7)
ポリプロピレン単繊維として単繊維繊度が5.4dtex、繊維長が15mmの四葉断面のPP繊維(大和紡績株式会社「マーキュリー(登録商標)C」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)を用いた以外は、実施例A6と同様にして、集束繊維を得た。
【0075】
(比較例A1)
単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が6mmの丸断面のPP繊維(大和紡績株式会社「PNHC」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0076】
(比較例A2)
単繊維繊度が17dtex、繊維長が6mmの丸断面のPP繊維(大和紡績株式会社「PZ」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0077】
(比較例A3)
単繊維繊度が1.3dtex、繊維長が6mmの丸断面のPP繊維(大和紡績株式会社「PNHC」、プロピレン単独重合体からなる単一繊維)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0078】
(比較例A4)
PP繊維である連結繊維(商品名「バルリンク」、萩原工業株式会社製)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0079】
(比較例A5)
PP繊維である割繊維(商品名「タフライトRG」、株式会社テザック製)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は0.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)
【0080】
(比較例A6)
単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が6mmの略まゆ形断面のビニロン繊維(以下において、PVA繊維とも記す)をグラウト材添加繊維とした。公定水分率は5.0%(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)である。
【0081】
下記表1に、実施例A1~A4、参考例A5、比較例A1~A6のグラウト材添加繊維の繊維径D、アスペクト比、凸部寸法及び付着水分率を示した。なお、下記表1において、連結繊維の繊維径Dは、単糸の外接円径を測定したものである。
【0082】
(実施例B1~B4、参考例B5、比較例B3~B8)
容量10Lのオムニミキサーを用いて、水の配合量が346kg/m3、グラウト材添加繊維の配合量が1.82kg/m3(0.2vol%)になるように、水に下記表2示すグラウト材添加繊維(表2において、単に「添加繊維」と記す)を添加して撹拌し、グラウト材添加繊維の水分散液を得た。次に、グラウト材添加繊維の水分散液に、グラウト組成物として無収縮モルタル(太平洋マテリアル製プレユーロックス)を配合量が1923kg/m3になるように添加して撹拌し、グラウト材を作製した。
【0083】
(実施例B6)
グラウト材添加繊維の配合量を0.445kg/m3(0.05vol%)に変更した以外は、実施例B2と同様にしてグラウト材を作製した。
【0084】
(実施例B7)
グラウト材添加繊維の配合量を3.64kg/m3(0.4vol%)に変更した以外は、実施例B2と同様にしてグラウト材を作製した。
【0085】
(比較例B1)
繊維を用いず、水に無収縮モルタルに添加し撹拌した以外は、実施例B1~B5と同様にしてグラウト材を作製した。
【0086】
(比較例B2)
グラウト材添加繊維の配合量を9.10kg/m3(1.0vol%)に変更した以外は、実施例B2と同様にしてグラウト材を作製した。
【0087】
(比較例B8)
グラウト材添加繊維として下記表2に示すグラウト材添加繊維を用い、グラウト材添加繊維の配合量を2.60kg/m3(0.2vol%)とした以外は、実施例B1~B5と同様にしてグラウト材を作製した。
【0088】
(比較例B9)
グラウト材添加繊維の配合量を5.20kg/m3(0.4vol%)とした以外は、比較例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0089】
実施例、参考例及び比較例で用いた繊維の水中分散性及びグラウト材における分散性を上述したとおりに評価した。また、実施例、参考例及び比較例のグラウト材の流動性及び漏れ抑制性を上述したとおりに評価した。これらの結果を下記表2に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表1及び表2から分かるように、グラウト材添加繊維として繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン系繊維を用いた実施例では、グラウト材における繊維の分散性が良好であり、グラウト材の流動性も低減せずに漏れを抑制し得る。
【0093】
実施例B1と比較例B5の対比、実施例B2と比較例B3~B4の対比から分かるように、3つ以上の凸部を有する特定の断面形状のPP繊維を用いた実施例の方が、丸断面のPP繊維を用いた比較例より、漏れ抑制性が高い。理由は定かではないが、3つ以上の凸部を有する特定の断面形状のPP繊維は、丸断面のPP繊維と比べて繊維表面積が大きく、グラウト組成物に対する捕捉性が優れるため、漏れ抑制性が高いと推定される。
【0094】
実施例B2~B4、参考例B5と比較例B6~B7の対比から分かるように、3つ以上の凸部を有する特定の断面形状のPP繊維を用いた実施例に対し、連結繊維又は割繊維を用いた比較例は、繊維分散性が劣り、漏れ抑制性も劣る。理由は定かではないが、連結繊維又は割繊維は、繊維の付着水分率が低く、均一に分散していないため、分散性が劣ると推定される。さらに、凸部のくびれ部分を持たないため、グラウト組成物に対する捕捉性が劣り、漏れ抑制性も劣ると推定される。
【0095】
実施例B2と比較例B8の対比、実施例B7と比較例B9の対比より分かるように、3つ以上の凸部を有する特定の断面形状のPP繊維を用いた実施例に対し、PVA繊維を用いた比較例では、流動性が低下する傾向がある。理由は定かではないが、PVA繊維はPP繊維と比べて公定水分率が高く、グラウト材中の水分を繊維自体(繊維を構成する樹脂自体)が吸収してしまうため、流動性が低下すると推定される。
【0096】
実施例B2及びB4、並びに比較例B3、B6~B8のグラウト材について、圧縮強度、曲げ強度、及び破壊エネルギーを上述したとおりに測定し、その結果を下記表3に示した。
【0097】
【表3】
【0098】
表3の実施例B2、B4と比較例B3、B6、及びB7の対比から分かるように、グラウト材を硬化して得られたセメント硬化体の開口変位1.5mm時の破壊エネルギー及び開口変位4mm時の破壊エネルギーについて、グラウト材添加繊維として繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン系繊維を用いた実施例の方が、丸断面のPP繊維、連結繊維、割繊維を用いた比較例より高い。理由は定かではないが繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン系繊維を用いた方が表面積が大きく、引抜時の抵抗が大きいためと推定される。また、表3の実施例B2、B4と比較例B8の対比から分かるように、グラウト材を硬化して得られたセメント硬化体の開口変位1.5mm時の破壊エネルギー及び開口変位4mm時の破壊エネルギーについて、3つ以上の凸部を有する特定の断面形状のPP繊維を用いた実施例の方が、PVA繊維を用いた比較例より高い。理由は定かではないが、PVA繊維は、ポリプロピレン系繊維よりセメントとの付着強度が高いが、開口時に繊維とセメントマトリックスとの層間が破壊され、繊維の引抜きもしくは破断が生じる一方、繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン系繊維は表面積が大きく、開口時に繊維を引抜きしにくいためと推定される。
特に開口変位1.5mm時の破壊エネルギーが高いということは、微細なひび割れに対してもグラウト材添加繊維として繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン系繊維は有効であることを意味する。
【0099】
(実施例B8)
卓上ミキサーを用いて、下記表4に示すグラウト材添加繊維(表4において、単に「添加繊維」と記す)を配合量0.455g/m3(0.05vol%)となるように、グラウト組成物(太平洋マテリアル製プレユーロックス)に添加して撹拌し、そこに水を配合量346kg/m3となるように、投入し、グラウト材を作製した。
【0100】
(実施例B9)
グラウト材添加繊維の配合量を1.82kg/m3(0.2vol%)に変更した以外は、実施例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0101】
(実施例B10)
グラウト材添加繊維の配合量を3.64kg/m3(0.4vol%)に変更した以外は、実施例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0102】
(実施例B11)
グラウト材添加繊維として実施例A7の繊維を用い、該繊維の配合量を1.82kg/m3(0.2vol%)に変更した以外は、実施例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0103】
(比較例B10)
繊維を用いず、グラウト組成物に水を添加し撹拌した以外は、実施例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0104】
(比較例B11)
グラウト材添加繊維の配合量を9.10kg/m3(1.0vol%)に変更した以外は実施例B8と同様にしてグラウト材を作製した。
【0105】
【表4】
【0106】
表4の実施例B8~B11と比較例B10の対比から分かるように、グラウト材添加繊維として繊維断面の形状が3つ以上の凸部を有し、凸部の寸法が特定の範囲を満たすポリプロピレン単繊維からなる集束繊維を用いることにより、プレミックスタイプのグラウト材における集束繊維の分散性(水中及びドライブレンド)が良好であり、グラウト材の流動性も低減せずに漏れを抑制し得る。比較例B11は実施例A6をグラウト材に過剰に添加したため、所定の流動性を得ることができなかった。
図1
図2
図3
図4