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特許7562594車両通信システム、車両通信方法、および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】車両通信システム、車両通信方法、および制御装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/28 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
H04L12/28 200Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022061063
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023151454
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】西野 知也
(72)【発明者】
【氏名】伯川 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】西垣 空
【審査官】速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-132336(JP,A)
【文献】特開2004-254196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0321729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、前記通信ネットワークにより接続された複数のECUと、を備える、車両に搭載される車両通信システムであって、
前記ECUのそれぞれは、
入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記ECUである1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記ECUである中継ECUと、を特定する特定部と、
前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記ECUである前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、
直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、
を備える、
車両通信システム。
【請求項2】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、前記通信ネットワークにより接続された複数のECUと、を備える、車両に搭載される車両通信システムであって、
前記ECUは、
入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記ECUであるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記ECUである中継ECUと、を特定する特定部と、
前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUへ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、
直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、
を備え、
前記通信伝送路は、
接続されている全ての前記ECUの間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、
接続されている前記ECUの間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、
を含み、
前記通信部は、
直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他のECUに対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、
他の前記ECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記ECUに、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、
車両通信システム。
【請求項3】
前記通信伝送路は、
接続されている全ての前記ECUの間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、
接続されている前記ECUの間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、
を含む、請求項1に記載の車両通信システム。
【請求項4】
直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記通信部は、前記直近の他のECUに対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出する、
請求項3に記載の車両通信システム。
【請求項5】
他の前記ECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記通信部は、前記受信した起動指示の送信元である前記ECUに、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、
請求項4に記載の車両通信システム。
【請求項6】
前記待機時間決定部は、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUの起動時間に基づいて、前記送信待機時間を決定する、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の車両通信システム。
【請求項7】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する車両に搭載される制御装置のコンピュータが実行する車両通信方法であって、
入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記制御装置である1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定するステップと、
前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記制御装置である前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定するステップと、
直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信するステップと、
を有する、
車両通信方法。
【請求項8】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する、車両に搭載される制御装置であって、
前記制御装置は、
入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記制御装置である1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定する特定部と、
前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記制御装置である前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、
直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、
を備える、
制御装置。
【請求項9】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する車両に搭載される複数の制御装置のそれぞれのコンピュータが実行する車両通信方法であって、
入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定するステップと、
前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定するステップと、
直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信するステップと、
を有し、
前記通信伝送路は、
接続されている全ての前記制御装置の間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、
接続されている前記制御装置の間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、
を含み、
前記送信するステップでは、
直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他の制御装置に対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、
他の前記制御装置が送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記制御装置に、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、
車両通信方法。
【請求項10】
複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する、車両に搭載される制御装置であって、
前記制御装置は、
入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定する特定部と、
前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、
直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、
を備え、
前記通信伝送路は、
接続されている全ての前記制御装置の間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、
接続されている前記制御装置の間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、
を含み、
前記通信部は、
直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他の制御装置に対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、
他の前記制御装置が送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記制御装置に、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両通信システム、車両通信方法、および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バス型ネットワークで結ばれたマスタ局とスレーブ局との間に少なくとも一つの中継局が介在する通信システムが開示されている(特許文献1)。この通信システムでは、スレーブ局は、上記介在する中継局の台数に基づいて設定されたリピータ遅延時間に基づいて、スレーブ局からマスタ局への応答フレームの返信タイミングを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-97157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のように、介在する中継局の数に応じて一律に遅延時間を設定する構成では、中継局の数が増えるほど遅延時間に含まれる余剰時間(マージン)も増加することとなり、応答性の高い通信システムを構成することが困難となり得る。
本発明の目的は、通信を中継する装置を介して信号の授受を行う制御装置間での通信遅延時間を低減して、応答性の高い通信システムを実現することである。
本願は、上記課題を解決して、例えば車両の操作性の向上を図り、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、前記通信ネットワークにより接続された複数のECUと、を備える、車両に搭載される車両通信システムであって、前記ECUのそれぞれは、入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記ECUである1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記ECUである中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記ECUである前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備える、車両通信システムである。
本発明の他の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、前記通信ネットワークにより接続された複数のECUと、を備える、車両に搭載される車両通信システムであって、前記ECUは、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記ECUであるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記ECUである中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUへ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備え、前記通信伝送路は、接続されている全ての前記ECUの間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、接続されている前記ECUの間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、を含み、前記通信部は、直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他のECUに対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、他の前記ECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記ECUに、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、車両通信システムである。
本発明の他の態様によると、前記通信伝送路は、接続されている全ての前記ECUの間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、接続されている前記ECUの間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、を含む。
本発明の他の態様によると、直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記通信部は、前記直近の他のECUに対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出する。
本発明の他の態様によると、他の前記ECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記通信部は、前記受信した起動指示の送信元である前記ECUに、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる。
本発明の他の態様によると、前記待機時間決定部は、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUの起動時間に基づいて、前記送信待機時間を決定する。
本発明の他の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する車両に搭載される制御装置のコンピュータが実行する車両通信方法であって、入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記制御装置である1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定するステップと、前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記制御装置である前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定するステップと、直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信するステップと、を有する、車両通信方法である。
本発明の更に他の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する、車両に搭載される制御装置であって、前記制御装置は、入力信号又は入力情報に基づいて、制御信号を送信すべき他の前記制御装置である1つのターゲットECUと、前記ターゲットECUへの前記制御信号が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の1つの前記制御装置である前記中継ECU又は前記ターゲットECUについての、起動指示を送信してから前記制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近でない前記中継伝送路へは前記起動指示を送信することなく、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備える、制御装置である。
本発明の他の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する車両に搭載される複数の制御装置のそれぞれのコンピュータが実行する車両通信方法であって、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定するステップと、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定するステップと、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信するステップと、を有し、前記通信伝送路は、接続されている全ての前記制御装置の間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、接続されている前記制御装置の間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、を含み、前記送信するステップでは、直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他の制御装置に対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、他の前記制御装置が送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記制御装置に、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、車両通信方法である。
本発明の更に他の態様は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する、車両に搭載される制御装置であって、前記制御装置は、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備え、前記通信伝送路は、接続されている全ての前記制御装置の間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、接続されている前記制御装置の間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、を含み、前記通信部は、直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記直近の他の制御装置に対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出し、他の前記制御装置が送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記受信した起動指示の送信元である前記制御装置に、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、制御装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、通信を中継する装置を介して信号の授受を行う制御装置間での通信遅延時間を低減して、応答性の高い通信システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る車両通信システムの構成を示す図である。
図2】車両通信システムにおける通信動作の第1の例を説明するための図である。
図3】車両通信システムにおける通信動作の第2の例を説明するための図である。
図4】車両通信システムを構成するECUの一例であるゾーンECUの構成を示す図である。
図5】車両通信システムを構成するECUにおける、通信開始時における通信動作の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態に係る車両通信システム1について説明する。
図1は、車両通信システム1の構成を示す図である。
車両通信システム1は、複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、通信ネットワークにより接続された複数の制御装置であるECU(Electronic Control Unit)と、を備える。通信ネットワークは、通信プロトコルの異なる複数の通信伝送路を含み得る。
【0009】
本実施形態では、車両通信システム1は、車両の全般的な制御および情報処理を行うセントラルECU2を備えている。セントラルECU2は、第1通信ライン3と、第2通信ライン4と、を含む通信ラインに接続される。セントラルECU2は、これらの通信ライン間における通信データの授受を管理するゲートウェイの機能を実現する。
【0010】
第1通信ライン3および第2通信ライン4は、CAN、Ethernet(登録商標)等の規格に準拠した通信を行うバス、若しくは、P2P(Peer to Peer)通信を行う通信ラインで構成されている。なお、第1通信ライン3は、同一の規格に準拠した通信を行う複数の通信ラインで構成されてもよいし、異なる規格に準拠した通信を行う複数の通信ラインで構成されてもよい。第2通信ライン4についても同様である。
【0011】
第1通信ライン3には、例えば、図示しないTCU(Telematics Control Unit)等の、一つ又は複数の他のECUが接続されている。
【0012】
第2通信ライン4には、ゾーンECU29が接続されている。ゾーンECU29には、通信ライン41aを介して、ESL(Electronic Steering Lock)34と、灯体30の点灯を制御する灯体ECU39と、が接続されている。灯体30は、本実施形態では、具体的にはハザードランプ30a、ヘッドランプ30b、テールランプ30c、方向指示灯30d、及びブレーキランプ30eを含む。
【0013】
また、ゾーンECU29には、通信ライン41bを介して、エントリECU36が接続されている。エントリECU36には、自車両の電子キーとの無線通信を行うLF/RFアンテナ37が接続されている。電子キーは、無線通信機能を有する電子デバイスであり、スマートキーやFOBキーと呼ばれる。エントリECU36は、他の車載ECUと連携して、車外からのユーザアクセスを処理し、いわゆるスマートエントリの動作を実現する。
【0014】
また、ゾーンECU29には、通信ライン40を介して、ウィンドウECU31aと、ドアセンサ32と、PTG-ECU38と、ドアロックECU33aと、空調ECU35aと、が接続されている。ドアセンサ32は、車両ドアへの操作を検知する。ウィンドウECU31a、ドアロックECU33a、および空調ECU35aは、それぞれ、車両窓を開閉するウィンドウモータ31の動作制御、車両のドアの施錠および解錠を行うドアロック機構33の動作制御、および空調装置35の動作制御を行う。また、PTG-ECU38は、図示しないパワーテールゲート(電動リアゲート)の動作を制御する。
以下、車両通信システム1を搭載した車両を自車両といい、自車両を利用するユーザを車両ユーザというものとする。
【0015】
ここで、セントラルECU2、ゾーンECU29、エントリECU36、灯体ECU39、ウィンドウECU31a、PTG-ECU38、ドアロックECU33a、および空調ECU35aは、本開示におけるECUまたは制御装置に相当する。
【0016】
また、第1通信ライン3及び第2通信ライン4、並びに、通信ライン40、41a、41bは、本開示における、通信ネットワークを構成する複数の通信伝送路に相当する。
【0017】
これらの通信伝送路は、通信プロトコルの異なる通信伝送路を含み得る。本実施形態では、例えば、第1通信ライン3は、イーサネット(登録商標)の通信バスを含む複数の通信伝送路で構成され、第2通信ライン4は、イーサネット通信バスで構成されている。通信ライン41a、41bは、例えば、CAN-FD通信規格に準拠した通信を行うCAN-FD通信バスである。また、通信ライン40は、例えば、CAN-B又はCAN-Cの通信規格に準拠した通信を行うCAN通信バスである。
【0018】
本実施形態では、CAN-FD通信バスは非同期通信を行うように設計され、CAN通信バスは同期通信を行うように設計されていることを前提とする。すなわち、CAN-FD通信バスである通信ライン41a、41bは、本開示における、接続されているECU間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスに相当する。また、CAN通信バスである通信ライン40は、接続されている全てのECU間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスに相当する。すなわち、車両通信システム1が有する通信伝送路には、同期通信バスと非同期通信バスとが含まれる。
【0019】
本実施形態に係る車両通信システム1では、通信ネットワークに接続されたECUは、それぞれ、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他のECUであるターゲットECUと、そのターゲットECUとの通信が経由する通信伝送路である中継伝送路および他のECUである中継ECUと、を特定する。また、ECUは、上記特定した中継ECUおよび中継伝送路の情報に基づき、上記中継伝送路に沿って直近の他のECU(すなわち、直近の中継ECU、または、直近の中継ECUがない場合はターゲットECU)へ起動指示を送信してからターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。そして、ECUは、直近の上記中継伝送路へ、起動指示を送信したのち、上記決定した送信待機時間の経過後に、上記制御信号を送信する。
【0020】
以下、本実施形態に係る車両通信システム1における、2つの通信動作の例について説明する。
通信動作の第1の例は、PTG-ECU38から灯体ECU39への通信である。
PTG-ECU38から灯体ECU39への通信は、例えば、自車両のテールゲートドアのロックボタン(いずれも不図示)が押されたときにハザードランプ30aを点滅させる、いわゆるハザードアンサーバック動作の際に行われる。
【0021】
図2は、上記第1の例における通信動作について説明するための図である。
図2において、図示上から1段目(最上段)の横軸は時刻を示し、2段目はPTG-ECU38の状態を示している。3段目は通信ライン40が伝送するフレームまたはメッセージを示し、4段目はゾーンECU29の状態を示している。また、5段目は通信ライン41aが伝送するフレームまたはメッセージを示し、6段目は灯体ECU39の状態を示している。また、図2において、時間は左から右へ向かって流れるものとする。また、図2において、PTG-ECU38、ゾーンECU29、及び灯体ECU39は、いずれも、初期状態としてスリープ状態にあるものとする。
【0022】
まず、PTG-ECU38は、時刻t0においてテールゲートのロックボタンから、当ロックボタンが押下されたことを示す検知信号を受信し、これに応じて起動を開始する。この検知信号は、本開示における入力信号または入力情報に相当する。
【0023】
PTG-ECU38は、時刻t1において起動を完了すると、ロックボタン押下への応答として予め定められたハザードアンサーバックを実行すべく、灯体ECU39をターゲットECUとして定める。また、PTG-ECU38は、灯体ECU39への通信に係る中継伝送路として通信ライン40および通信ライン41aを特定し、中継ECUとしてゾーンECU29を特定する。これらの中継伝送路および中継ECUの特定は、例えば、PTG-ECU38がメモリ内に記憶する通信ネットワーク情報に基づいて行われ得る。中継伝送路の特定に際し、PTG-ECU38は、その中継伝送路が同期通信バスか非同期通信バスか(より具体的には、CAN通信バスかCAN-FD通信バスか)も特定するものとする。上述したように、本実施形態では、通信ライン40は、同期通信バスであるCAN通信バスであり、通信ライン41aは、非同期通信バスであるCAN-FD通信バスである。
【0024】
また、PTG-ECU38は、中継伝送路である通信ライン40、41aに沿って直近の中継ECUであるゾーンECU29の起動時間に基づき、ゾーンECU29へ起動指示を送信してから制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。ゾーンECU29の起動時間は、PTG-ECU38において予め記憶されているものとすることができる。
【0025】
そして、PTG-ECU38は、時刻t1における起動の完了後に、直近の中継伝送路である通信ライン40へ、CAN通信プロトコルに準拠した起動指示であるウェイクアップフレームの送信を開始する。ここで、PTG-ECU38が送信する上記ウェイクアップフレームには、PTG-ECU38が灯体ECU39を通信相手(すなわち、ターゲットECU)とする旨の情報が含まれるものとする。
【0026】
同期通信バスである通信ライン40に接続されたゾーンECU29は、通常は最初のウェイクアップフレームを受信したことに応じて起動を開始し、時刻t2で起動を完了する。
その後、PTG-ECU38は、上記決定した送信待機時間が経過する時刻t3に、灯体ECU39にハザードランプ30aの点滅を指示するための制御信号を送信する。
【0027】
ゾーンECU29は、時刻t2の起動完了の直後に、ターゲットECUである灯体ECU39への通信に係る中継伝送路として通信ライン41aを特定する。また、ゾーンECU29は、中継伝送路である通信ライン41aに沿って直近の、ターゲットECUである灯体ECU39の起動時間に基づき、灯体ECU39へ起動指示を送信してから制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。
【0028】
そして、ゾーンECU29は、時刻t2の起動完了後に、ターゲットECUである灯体ECU39に向けて、直近の中継伝送路である通信ライン41aへ、CAN-FD通信プロトコルに準拠した起動指示を送信する。この起動指示は、CAN-FD通信プロトコルに準拠したNM(network management)メッセージフレーム(以下、NMメッセージ)として送信される。本実施形態では、特に、ゾーンECU29は、通信ライン41aが非同期通信バスであることから、起動指示であるNMメッセージ(以下、起動NMメッセージ)を、所定の時間間隔で繰り返し送信する。なお、この時間間隔は、例えば、灯体ECU39の起動に必要な時間に基づいて決定され得る。これに代えて、上記時間間隔は、予め定めておくものとすることができる。
起動が完了したゾーンECU29は、その後の時刻t3において、PTG-ECU38が送信した制御信号を正常に受信し得る。
【0029】
非同期通信バスである通信ライン41aに接続された灯体ECU39は、非同期通信であることに起因して、必ずしも最初のNMメッセージを受信できるとは限らない。本実施形態では、ゾーンECU29は、起動NMメッセージを所定時間間隔で複数回に亘り繰り返し送信するので、ターゲットECUである灯体ECU39は、確実に起動NMメッセージを受信することができる。
【0030】
図2の例では、灯体ECU39は、2つ目の起動NMメッセージを受信して起動を開始し、時刻t4に起動を完了する。その後、ゾーンECU29は、自身が定めた送信待機時間が経過する時刻t5に、PTG-ECU38から時刻t3に受信していた制御信号を灯体ECU39へ送信する。起動が完了している灯体ECU39は、この制御信号を正常に受信して、ハザードランプの制御を開始する。
【0031】
上記第1の例に示すように、本実施形態では、通信ライン41aを直近の中継伝送路とするゾーンECU29は、非同期通信バスである通信ライン41aに起動NMメッセージを繰り返し送信する。このため、本実施形態では、非同期通信バスである通信ライン41aに接続されたターゲットECUである灯体ECU39は、受信ミスを生じさせることなく、起動NMメッセージを確実に受信して起動を開始することができる。また、PTG―ECU38及びゾーンECU29は、それぞれ、直近の通信相手であるゾーンECU29および灯体ECU39の起動時間に基づいて定めた送信待機時間の経過後に、制御信号を送信する。このため、本実施形態では、中継局(又は中継装置)の台数に基づいて一律に設定されたリピータ遅延時間を用いて通信を行う従来の通信システムに比べて、最初に起動を開始したECU(第1の例では、PTG-ECU38)が送信する制御信号がターゲットECU(第1の例では、灯体ECU39)により受信されるまでの時間を短縮して、応答性の高い通信システムを実現することができる。
【0032】
通信動作の第2の例は、エントリECU36から灯体ECU39への通信である。
エントリECU36から灯体ECU39への通信は、例えば、車両ユーザが電子キー(不図示)により車両ドアを解錠又は施錠したときにハザードランプ30aを点滅させるハザードアンサーバック動作の際に行われる。
【0033】
図3は、上記第2の例における通信動作について説明するための図である。
図3において、図示上から1段目(最上段)の横軸は時刻を示し、2段目はエントリECU36の状態を示している。3段目は通信ライン41bが伝送するフレームまたはメッセージを示し、4段目はゾーンECU29の状態を示している。また、5段目は通信ライン41aが伝送するフレームまたはメッセージを示し、6段目は灯体ECU39の状態を示している。また、図3において、時間は左から右へ向かって流れるものとする。また、図3において、エントリECU36、ゾーンECU29、及び灯体ECU39は、いずれも、初期状態としてスリープ状態にあるものとする。
【0034】
まず、エントリECU36は、時刻t10において電子キーから車両ドアの施錠命令または解錠命令(以下、施解錠命令)を受信し、これに応じて起動を開始する。この施解錠命令は、本開示における入力信号または入力情報に相当する。
【0035】
エントリECU36は、時刻t11において起動を完了すると、施解錠命令への応答として予め定められたハザードアンサーバックを実行すべく、灯体ECU39をターゲットECUとして定める。また、エントリECU36は、灯体ECU39への通信に係る中継伝送路として通信ライン41bおよび41aを特定し、中継ECUとしてゾーンECU29を特定する。第1の例と同様に、これらの中継伝送路および中継ECUの特定は、例えば、エントリECU36がメモリ内に記憶する通信ネットワーク情報に基づいて行われ得る。中継伝送路の特定に際し、エントリECU36は、その中継伝送路が同期通信バスか非同期通信バスかも特定する。
【0036】
また、エントリECU36は、中継伝送路である通信ライン41bおよび41aに沿って直近のECUであるゾーンECU29の起動時間に基づき、ゾーンECU29へ起動指示を送信してから制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。ゾーンECU29の起動時間は、エントリECU36において予め記憶されているものとすることができる。
【0037】
そして、エントリECU36は、時刻t11における起動の完了後に、直近の中継伝送路である通信ライン41bへ、CAN-FD通信プロトコルに準拠した起動指示である起動NMメッセージの送信を開始する。上記第1の例と同様に、本実施形態では、特に、エントリECU36は、通信ライン41bが非同期通信バスであることから、起動NMメッセージを、所定の時間間隔で繰り返し送信する。この起動NMメッセージには、エントリECU36が灯体ECU39を通信相手(すなわち、ターゲットECU)とする旨の情報が含まれるものとする。
【0038】
通信ライン41aに関して上述したように、非同期通信バスである通信ライン41bに接続されたゾーンECU29は、非同期通信であることに起因して、必ずしも最初のNMメッセージを受信できるとは限らない。本実施形態では、エントリECU36は、起動NMメッセージを繰り返し送信するので、ゾーンECU29は、確実に起動NMメッセージを受信することができる。
【0039】
図3の例では、ゾーンECU29は、2つ目の起動NMメッセージを受信して起動を開始し、時刻t12に起動を完了する。その後、エントリECU36は、自身が定めた送信待機時間が経過する時刻t13に、灯体ECU39にハザードランプ30aの点滅を指示するための制御信号を送信する。
【0040】
ゾーンECU29は、時刻t12の起動完了の直後に、ターゲットECUである灯体ECU39への通信に係る中継伝送路として通信ライン41aを特定する。また、ゾーンECU29は、中継伝送路である通信ライン41aに沿って直近の、ターゲットECUである灯体ECU39の起動時間に基づき、灯体ECU39へ起動指示を送信してから制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。
【0041】
そして、ゾーンECU29は、上記第1の例と同様に、時刻t12の起動完了後に、ターゲットECUである灯体ECU39に向けて、直近の中継伝送路である通信ライン41aへ、CAN-FD通信プロトコルに準拠した起動指示である起動NMメッセージを所定の時間間隔で繰り返し送信する。
起動が完了したゾーンECU29は、その後の時刻t13において、エントリECU36が送信した制御信号を正常に受信し得る。
【0042】
灯体ECU39は、例えば、2つ目の起動NMメッセージを受信して起動を開始し、時刻t14に起動を完了する。その後、ゾーンECU29は、自身が定めた送信待機時間が経過する時刻t15に、エントリECU36から時刻t13に受信していた制御信号を灯体ECU39へ送信する。起動が完了している灯体ECU39は、この制御信号を正常に受信して、ハザードランプの制御を開始する。
【0043】
上述した第1の例と同様に、上記第2の例では、通信ライン41bを直近の中継伝送路とするエントリECU36、および通信ライン41aを直近の中継伝送路とするゾーンECU29は、それぞれ、非同期通信バスである通信ライン41b、41aに起動NMメッセージを繰り返し送信する。このため、本実施形態では、通信ライン41bに接続されたゾーンECU29、および通信ライン41aに接続された灯体ECU39は、それぞれ、受信ミスを生じさせることなく、起動NMメッセージを確実に受信して起動を開始することができる。
【0044】
また、エントリECU36及びゾーンECU29は、それぞれ、直近の通信相手であるゾーンECU29および灯体ECU39の起動時間に基づいて定めた送信待機時間の経過後に、制御信号を送信する。このため、本実施形態では、一律に設定されたリピータ遅延時間を用いて通信を行う従来の通信システムに比べて、最初に起動を開始したECU(第2の例では、エントリECU36)が送信する制御信号がターゲットECU(第2の例では、灯体ECU39)により受信されるまでの時間を短縮して、応答性の高い通信システムを実現することができる。
【0045】
次に、ECUの構成について説明する。
図4は、ECUの一例としてのゾーンECU29の構成を示す図である。
ゾーンECU29は、プロセッサ50と、メモリ51と、通信装置52と、を有する。メモリ51は、例えば、揮発性及び又は不揮発性の半導体メモリで構成される。メモリ51には、図1に示す車両通信システム1に含まれるECU等の各車載装置と、それらの車載装置を接続する通信伝送路と、についての情報である通信ネットワーク情報57が予め保存されている。また、メモリ51には、車両通信システム1に含まれるECU等の各車載装置の起動時間についての情報である起動時間情報58が、予め保存されている。
【0046】
通信装置52は、通信ネットワークを介して他のECUと通信するための送受信機である。
通信装置52は、例えば、同期通信バスであるCAN通信バスで構成される通信ライン40を介した通信を行うCANトランシーバ、および、非同期通信バスであるCAN-FD通信バスで構成される第2通信ライン4および通信ライン41a、41bを介した通信を行うCAN-FDトランシーバを含む。
【0047】
プロセッサ50は、例えば、CPUを備えるコンピュータである。プロセッサ50は、機能要素又は機能ユニットとして、制御部53と、特定部54と、待機時間決定部55と、通信部56と、を備える。これらの機能要素は、コンピュータであるプロセッサ50がプログラムを実行することにより実現され得る。なお、上記コンピュータ・プログラムは、コンピュータ読み取り可能な任意の記憶媒体に記憶させておくことができる。これに代えて、プロセッサ50が備える上記機能要素の全部又は一部を、それぞれ一つ以上の電子回路部品を含むハードウェアにより構成することもできる。
【0048】
制御部53は、そのECU(この例では、ゾーンECU29)が実行するものとして予め定められた所定の制御動作を行う。ゾーンECU29では、制御部53が行う制御動作には、例えば、通信装置52に接続された相異なる通信ライン間での通信フローを制御する通信中継動作が含まれ得る。
【0049】
特定部54は、通信装置52を介して受信される又は他のセンサやデバイス等(不図示)から直接的に受信される、入力信号又は入力情報に基づいて、上記制御動作に関連して通信相手とすべき他のECUであるターゲットECUを特定する。また、特定部54は、メモリ51に保存されている通信ネットワーク情報を参照し、上記特定したターゲットECUとの通信が経由する通信伝送路である中継伝送路および他のECUである中継ECUを特定する。
【0050】
待機時間決定部55は、特定部54が特定した中継ECUおよび中継伝送路の情報に基づき、中継伝送路に沿って直近の他のECU(すなわち、直近の中継ECU、または、直近の中継ECUがない場合はターゲットECU。以下、同じ。)へ起動指示を送信してからターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する。待機時間決定部55は、例えば、メモリ51に保存されている起動時間情報を参照し、上記中継伝送路に沿って直近の他のECUの起動時間に基づいて、上記送信待機時間を決定する。また、中継伝送路やターゲットECUに依らず、事前に定められた一律の送信待機時間としても良い。
【0051】
通信部56は、上記直近の中継伝送路へ、上記直近の他のECUに起動を指示する起動指示を送信する。また、通信部56は、上記起動指示の送信を開始したのち、当該起動指示の送信開始から上記送信待機時間の経過後に、ターゲットECUに向けた制御信号を送信する。これにより、本実施形態では、上記直近の他のECUが起動を完了した後に、上記制御信号が送信されることとなるので、送信された制御信号が上記直近の他のECUにおいて確実に受信されるようにすることができる。また、送信待機時間は、直近の他のECUの起動時間に基づいて定められるので、本実施形態に係る車両通信システム1では、中継装置の数に応じて一律に定められた遅延時間を用いる従来の通信システムに比べて、通信システムとしての応答性、例えばECU間での協働動作の応答性を、向上することができる。
【0052】
通信部56は、また、直近の中継伝送路が非同期通信バスであるときは、入力信号又は入力情報が受信されたのち、上記直近の他のECUに対する起動指示を、上記中継伝送路である非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出する。これにより、上記中継伝送路である非同期通信バスに接続されている上記直近の他のECUにおいて、起動指示が確実に受信されるようにすることができる。
【0053】
通信部56は、また、他のECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて上記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送出するときは、受信した起動指示の送信元であるECUに対し、上記非同期通信バスへ起動指示を送信してから送信待機時間が経過するまで、制御信号の送信を待機するよう指示するものとしてもよい。この指示は、例えば、通信部56が、入力信号又は入力情報である上記起動指示を送信した上記他のECUとの間の通信伝送路を介して、当該他のECUへ送信するものとすることができる。あるいは、この指示は、入力信号又は入力情報である上記起動指示を送信した上記他のECUとの間の通信伝送路をビジー状態に設定することが可能な場合には、通信部56が、当該通信伝送路をビジー状態に設定することにより行われ得る。
【0054】
なお、上述したように、図4に示すゾーンECU29はECUの一例であり、他のECUも、図4に示すゾーンECU29と同様の構成を有するものとすることができる。この場合には、制御部53は、それぞれのECUに与えられた制御機能に応じた制御動作を行うように構成される。また、特定部54は、上記制御機能に応じて定められた入力信号又は入力情報に基づいて、上記制御動作に関連して通信相手とすべきターゲットECUを特定するものとすることができる。
【0055】
次に、本発明に係る車両通信システム1を構成する車載のECU(制御装置)が実行する、他のECUとの通信開始時における通信動作の手順について説明する。図5は、上記通信動作の手順を示すフロー図である。この通信動作は、例えば、ECUの一例であるゾーンECU29により実行される。図5における通信動作においては、通信動作に関連するECUは、ゾーンECU29を含め、制御動作を停止したスリープ状態にあるものとする。
【0056】
処理を開始すると、特定部54は、スリープ状態において、入力信号又は入力情報を受信したか否かを判断する(S100)。入力信号又は入力情報は、他のECUから、及び又はセンサ等の車載のデバイスから、受信され得る。そして、入力信号及び入力情報を受信しないときは(S100、NO)、特定部54は、ステップS100に戻って処理を繰り返し、入力信号または入力情報を受信するのを待機する。
【0057】
一方、入力信号または入力情報を受信したときは(S100、YES)、特定部54は、受信した入力信号又は入力情報に基づいて、ターゲットECUと、ターゲットECUとの通信が経由すべき中継伝送路および中継ECUと、を特定する(S102)。上述したように、ターゲットECUとは、通信部56が通信相手とすべき他のECUをいう。また、中継伝送路とは、ターゲットECUとの通信が経由する通信伝送路をいい、中継ECUとは、ターゲットECUとの通信が経由する他のECUをいう。
【0058】
続いて、待機時間決定部55は、上記特定した中継ECUおよび中継伝送路の情報に基づき、送信待機時間を決定する(S104)。上述したように、送信待機時間とは、中継伝送路に沿って直近の他のECUへの起動指示を送信してからターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの待機時間をいう。本実施形態では、送信待機時間は、具体的には、上記起動指示の送信の開始から上記制御信号を送信するまでの待機時間をいう。
【0059】
次に、通信部56は、中継伝送路に沿って直近の通信伝送路へ起動指示を送信したのち(S106)、当該起動指示の送信開始から上記決定された送信待機時間が経過したか否かを判断する(S108)。そして、送信待機時間が経過していないときは(S108、NO)、通信部56は、ステップS108に戻って処理を繰り返し、送信待機時間が経過するのを待機する。
【0060】
一方、送信待機時間が経過したときは(S108、YES)、通信部56は、ターゲットECUに向けて、当該ターゲットECUの制御動作に係る信号である制御信号を送信して(S110)、処理を終了する。
【0061】
[他の実施形態]
待機時間決定部55が決定する送信待機時間は、上述の実施形態では、起動指示の送信を開始してから制御信号を送信するまでの待機時間であるものとしたが、これには限られない。例えば、送信待機時間は、起動信号が繰り返し送信される場合には、最後の起動信号の送信を終了してからの待機時間であるものとすることができる。
【0062】
なお、本発明は上記の実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
例えば、上述した実施形態では、同期通信バスおよび非同期通信バスとしてCANバスおよびCAN-FDバスを例示したが、同期通信バスおよび非同期通信バスは、これらには限られない。
【0063】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0064】
(構成1)複数の通信伝送路を含む通信ネットワークと、前記通信ネットワークにより接続された複数のECUと、を備える、車両に搭載される車両通信システムであって、前記ECUは、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記ECUであるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記ECUである中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUへ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備える、車両通信システム。
構成1の車両通信システムによれば、複数のECUを経由する通信を行う場合でも、それぞれのECUは、中継伝送路に沿って直近の他のECUの情報を用いて送信待機時間を決定するので、通信開始元であるECUからターゲットECUまでの通信遅延時間を低減して、応答性の高い車両通信システムを実現することができる。
【0065】
(構成2)前記通信伝送路は、接続されている全ての前記ECUの間において通信の開始が同期して行われる同期通信バスと、接続されている前記ECUの間において通信の開始が非同期で行われる非同期通信バスと、を含む、構成1に記載の車両通信システム。
構成2の車両通信システムによれば、通信プロトコルの異なる複数の通信伝送路を含む場合にも、応答性の高い車両通信システムを実現することができる。
【0066】
(構成3)直近の前記中継伝送路が前記非同期通信バスであるときは、前記通信部は、前記直近の他のECUに対する前記起動指示を、前記非同期通信バスへ所定の時間間隔で繰り返し送出する、構成2に記載の車両通信システム。
構成3の車両通信システムによれば、非同期通信バスにより接続されたECUに対しても、確実に起動指示を受信させることができる。
【0067】
(構成4)他の前記ECUが送信した起動指示を入力信号又は入力情報として受信して、当該入力信号または入力情報に基づいて前記非同期通信バスへ起動指示を繰り返し送信するときは、前記通信部は、前記受信した起動指示の送信元である前記ECUに、前記非同期通信バスへ起動指示を送信してから前記送信待機時間が経過するまで、前記制御信号の送信を待機させる、構成3に記載の車両通信システム。
構成4の車両通信システムによれば、通信を開始したECUは、ターゲットECUの起動完了のタイミングに合わせて制御信号を送信し得るので、ECU間での協調動作を実行し易い。
【0068】
(構成5)前記待機時間決定部は、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記ECUの起動時間に基づいて、前記送信待機時間を決定する、構成1ないし4のいずれかに記載の車両通信システム。
構成5の車両通信システムによれば、中継伝送路に沿って直近の他のECUの起動時間に合わせて送信待機時間が決定されるので、複数のECUを経由する通信を行う場合でも、通信開始元であるECUからターゲットECUまでの通信遅延時間を容易に低減して、より応答性の高い車両通信システムを実現することができる。
【0069】
(構成6)複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する車両に搭載される制御装置のコンピュータが実行する車両通信方法であって、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定するステップと、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定するステップと、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信するステップと、を有する、車両通信方法。
構成6の車両通信方法によれば、複数のECUを経由する通信を行う場合でも、それぞれのECUは、中継伝送路に沿って直近の他のECUの情報を用いて送信待機時間を決定するので、通信開始元であるECUからターゲットECUまでの通信遅延時間を低減して、応答性の高い車両通信システムを実現することができる。
【0070】
(構成7)複数の通信伝送路を含む通信ネットワークにより互いに接続されて車両通信システムを構成する、車両に搭載される制御装置であって、前記制御装置は、入力信号又は入力情報に基づいて、通信相手とすべき他の前記制御装置であるターゲットECUと、前記ターゲットECUとの通信が経由する前記通信伝送路である中継伝送路および他の前記制御装置である中継ECUと、を特定する特定部と、前記中継伝送路に沿って直近の他の前記制御装置へ起動指示を送信してから前記ターゲットECUに向けた制御信号を送信するまでの送信待機時間を決定する待機時間決定部と、直近の前記中継伝送路へ、前記起動指示を送信したのち、前記送信待機時間の経過後に前記制御信号を送信する通信部と、を備える、制御装置。
構成7の制御装置によれば、応答性の高い車両通信システムを構成することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…車両通信システム、2…セントラルECU、3…第1通信ライン、4…第2通信ライン、29…ゾーンECU、30…灯体、30a…ハザードランプ、30b…ヘッドランプ、30c…テールランプ、30d…方向指示灯、30e…ブレーキランプ、31…ウィンドウモータ、31a…ウィンドウECU、32…ドアセンサ、33…ドアロック機構、33a…ドアロックECU、34…ESL、35…空調装置、35a…空調ECU、36…エントリECU、37…LF/RFアンテナ、38…PTG-ECU、39…灯体ECU、40、41a、41b…通信ライン、50…プロセッサ、51…メモリ、52…通信装置、53…制御部、54…特定部、55…待機時間決定部、56…通信部、57…通信ネットワーク情報、58…起動時間情報。
図1
図2
図3
図4
図5