(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】導電性不織布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
D06M11/83
(21)【出願番号】P 2022098320
(22)【出願日】2022-06-17
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 里佳
(72)【発明者】
【氏名】本江 聡子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-338329(JP,A)
【文献】特開2005-232634(JP,A)
【文献】特開平05-098551(JP,A)
【文献】特開2020-056149(JP,A)
【文献】特開2007-254764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00 - 20/08
D04H 1/00 - 18/04
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不規則方向に延びて積層される複数の第1繊維によって構成されるフェルト部と前記フェルト部を構成する前記第1繊維に対して施された金属めっきとを有するめっきフェルト部と、
複数の第2繊維によって構成される縦糸と、前記縦糸を構成する前記第2繊維に対して施された金属めっきとを有し、
前記縦糸を構成する前記第2繊維が前記フェルト部の前記第1繊維
よりも繊維間の隙間が狭くされた密集状態となっており、前記めっきフェルト部に対して特定方向に延びて形成された1本以上のめっき縦糸と、
を備えることを特徴とする導電性不織布。
【請求項2】
前記特定方向における引張強度が0.5MPa以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性不織布。
【請求項3】
前記縦糸を複数有し、
複数の前記縦糸は、隣り合う前記縦糸の間隔が2.5mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性不織布。
【請求項4】
前記縦糸を構成する前記第2繊維は、前記フェルト部を構成する前記第1繊維よりも結晶化度が高い
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性不織布。
【請求項5】
不規則方向に延びる複数の第1繊維が積層されて形成されたフェルト部と、複数の第2繊維によって構成され、
前記第2繊維が前記フェルト部の前記第1繊維
よりも繊維間の隙間が狭くされた密集状態となっており、前記フェルト部に対して特定方向に延びて形成された1本以上の縦糸と、を有した不織布を、処理槽内に投入し、当該不織布をめっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程を経た不織布に対して金属めっきを施すめっき工程と、
を備えることを特徴とする導電性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布と、不織布に対して形成された金属層とを有する導電性不織布が提案されている(例えば特許文献1参照)。このような導電性不織布は、例えば電線の外周に巻き付けられてシールドケーブルの一部として用いられる。このシールドケーブルは、導電性不織布の金属層によって電磁シールド効果を発揮しつつも、不織布が素材の特性上比較的伸張圧縮に優れており電線曲げに対して追従することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の導電性不織布は、めっき析出性が決して良いものではなかった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、めっき析出性を高めることができる導電性不織布及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る導電性不織布は、不規則方向に延びて積層される複数の第1繊維によって構成されるフェルト部と前記フェルト部を構成する前記第1繊維に対して施された金属めっきとを有するめっきフェルト部と、複数の第2繊維によって構成される縦糸と、前記縦糸を構成する前記第2繊維に対して施された金属めっきとを有し、前記縦糸を構成する前記第2繊維が前記フェルト部の前記第1繊維よりも繊維間の隙間が狭くされた密集状態となっており、前記めっきフェルト部に対して特定方向に延びて形成された1本以上のめっき縦糸と、を備える。
【0007】
本発明に係る導電性不織布の製造方法は、不規則方向に延びる複数の第1繊維が積層されて形成されたフェルト部と、複数の第2繊維によって構成され、前記第2繊維が前記フェルト部の前記第1繊維よりも繊維間の隙間が狭くされた密集状態となっており、前記フェルト部に対して特定方向に延びて形成された1本以上の縦糸と、を有した不織布を、処理槽内に投入し、当該不織布をめっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程を経た不織布に対して金属めっきを施すめっき工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、めっき析出性を高めることができる導電性不織布及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る導電性不織布を示す平面図である。
【
図3】
図1に示した一部拡大図であり、(a)は
図1に示したBM部の拡大図であり、(b)は
図3(a)の一部構成の拡大図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る導電性不織布を構成する不織布を示す平面図である。
【
図6】
図4に示した一部拡大図であり、(a)は
図4に示したB部の拡大図であり、(b)は
図6(a)の一部構成の拡大図である。
【
図7】本実施形態に係る導電性不織布を示す透過電子顕微鏡(TEM)による写真であって、(a)はめっきフェルト部の第1繊維の表面付近を示し、(b)はめっき縦糸の第2繊維の表面付近を示している。
【
図8】本実施形態に係る導電性不織布を示す透過電子顕微鏡(TEM)による写真であって、(a)はめっきフェルト部の第1繊維の内部を示し、(b)はめっき縦糸の第2繊維の内部を示している。
【
図9】本実施形態に係る導電性不織布の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る導電性不織布を示す平面図であり、
図2は、
図1に示したAM部の拡大断面図である。また、
図3は、
図1に示した一部拡大図であり、(a)は
図1に示したBM部の拡大図であり、(b)は
図3(a)の一部構成の拡大図である。
図4は、本発明の実施形態に係る導電性不織布を構成する不織布を示す平面図であり、
図5は、
図4に示したA部の拡大断面図である。また、
図6は、
図4に示した一部拡大図であり、(a)は
図4に示したB部の拡大図であり、(b)は
図6(a)の一部構成の拡大図である。
【0012】
図1に示す導電性不織布1は、
図4に示す不織布10に対して金属めっきM(
図2及び
図3参照)を施したものであって、めっきフェルト部11Mと、複数のめっき縦糸12Mとを備えて構成されている。
【0013】
めっきフェルト部11Mは、フェルト部11(
図4参照)と金属めっきM(
図2参照)とによって構成されている。フェルト部11は、
図5に示すように、不規則方向に延びて、不織布10の厚み方向に積層される複数の第1繊維F1によって構成されている。第1繊維F1は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)によって構成されているが、これに限らず、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、及びポリアリレート繊維等によって構成されていてもよい。
【0014】
このようなフェルト部11を構成する複数の第1繊維F1に対して金属めっきMが施されることで、
図1及び
図2に示すめっきフェルト部11Mが形成される。
【0015】
複数のめっき縦糸12Mは、複数の縦糸12(
図4及び
図6参照)と金属めっきM(
図3(b)参照)とによって構成されている。縦糸12は、
図6(a)に示すように、フェルト部11に対して特定方向に延びて形成されている。この複数本の縦糸12は、隣り合う縦糸12との間隔D(
図4参照)が例えば2.5mm以下となるように形成されている。
【0016】
各縦糸12は、
図6に示すように複数の第2繊維F2によって構成されている。この第2繊維F2は、第1繊維F1と同じ素材によって構成されている。さらに、
図6に示す縦糸12は、第2繊維F2の密度が
図5に示す第1繊維F1の密度よりも高くされている。すなわち、第2繊維F2は第1繊維F1よりも密集状態となっている。
【0017】
このような縦糸12を構成する第2繊維F2に対して金属めっきMが施されることで、
図1及び
図3に示すめっき縦糸12Mが形成される。
【0018】
ここで、本実施形態に係る導電性不織布1は、繊維密度が高い複数本のめっき縦糸12Mを備えることで、特定方向(めっき縦糸12Mが延びる方向)における引張強度が0.5MPa以上とされている。これにより、通常の粘着テープと同等の引張強度が実現されている。
【0019】
金属めっきMは、不織布10を構成する第1及び第2繊維F1,F2を被覆する導電性金属であって、例えば化学反応を利用した無電解めっき処理によって第1及び第2繊維F1,F2に対して形成されている。この金属めっきMは、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、及び亜鉛からなる群より選択される1種以上の金属によって構成されている。
【0020】
また、導電性不織布1は、化学反応により上記の金属めっきMを析出させるためにめっき用触媒金属(例えばパラジウムやニッケル等)を有している。めっき用触媒金属は、めっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に不織布10を浸漬させることで、不織布10に付着した状態となる。
【0021】
図7は、本実施形態に係る導電性不織布1を示す透過電子顕微鏡(TEM)による写真であって、(a)はめっきフェルト部11Mの第1繊維F1の表面付近を示し、(b)はめっき縦糸12Mの第2繊維F2の表面付近を示している。なお、
図7において白点はめっき用触媒金属であるパラジウムを示している。
【0022】
図7(a)に示すように、めっきフェルト部11Mを構成する第1繊維F1の表面付近には、めっき用触媒金属であるパラジウムが点在している。同様に、
図7(b)に示すように、めっき縦糸12Mを構成する第2繊維F2の表面付近にも、めっき用触媒金属であるパラジウムが点在している。
【0023】
ここで、両者のパラジウム数を比較するとめっきフェルト部11Mよりもめっき縦糸12Mの方が多い。これは、縦糸12を構成する複数の第2繊維F2の密度がフェルト部11を構成する複数の第1繊維F1の密度よりも高いためである。すなわち、めっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に不織布10を浸漬させた際に、第2繊維F2については繊維密度が高いことから上記流体が通り抜け難くなり、結果として有機金属錯体が多く付着するためである。
【0024】
よって、本実施形態に係る導電性不織布1は、無電解めっき工程において縦糸12に金属めっきMが析出し易くなる。また、縦糸12に析出した金属めっきMを核として縦糸12の周辺のフェルト部11での金属めっきMの形成を促進させることもできる。
【0025】
特に、本実施形態に係る導電性不織布1において縦糸12の間隔Dが2.5mm以下となっている場合には、縦糸12の間(フェルト部11)を金属めっきMで埋め易くなる。すなわち、本実施形態に係る導電性不織布1は、縦糸12及びその周辺に金属めっきMが析出し易いことから、縦糸12の間隔Dを或る程度狭くすることで、金属めっきMが析出し難いフェルト部11にも適切に金属めっきMを形成することができる。
【0026】
図8は、本実施形態に係る導電性不織布1を示す透過電子顕微鏡(TEM)による写真であって、(a)はめっきフェルト部11Mの第1繊維F1の内部を示し、(b)はめっき縦糸12Mの第2繊維F2の内部を示している。なお、
図8においても白点はめっき用触媒金属であるパラジウムを示している。
【0027】
図8(a)に示すように、めっきフェルト部11Mを構成する第1繊維F1の内部には、粒径が大きく且つ多数のめっき用触媒金属であるパラジウムが点在している。これに対して、
図8(b)に示すように、めっき縦糸12Mを構成する第2繊維F2の内部には、多数のめっき用触媒金属であるパラジウムが点在しているが、その粒径は第1繊維F1のものよりも小さい。
【0028】
ここで、金属めっきMについては、めっき用触媒金属の粒径が小さい方が析出し易い。よって、本実施形態に係る導電性不織布1は、第2繊維F2の結晶化度を第1繊維F1の結晶化度よりも高くすることで、縦糸12で金属めっきMを析出させ易くすることができる。
【0029】
図9は、本実施形態に係る導電性不織布1の製造方法を示す工程図である。まず、
図9に示すように、不織布用意工程が行われる(S1)。不織布用意工程においては、
図4に示したように、フェルト部11に対して複数の縦糸12が形成された不織布10が用意される。不織布10は、上記したように縦糸12の繊維密度がフェルト部11よりも繊維密度が高く、且つ、縦糸12を構成する第2繊維F2はフェルト部11を構成する第1繊維F1よりも結晶化度が高い。
【0030】
次いで、浸漬工程が行われる(S2)。浸漬工程では、処理槽(不図示)内に不織布10が投入され、当該不織布10がめっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に浸漬させられる。この工程により、めっき用触媒金属の有機金属錯体が不織布10に付着する。特に、ステップS1の不織布用意工程において用意された不織布10は縦糸12の繊維密度が高いことから、めっき用触媒金属の有機金属錯体が縦糸12に多く付着することとなる。また、縦糸12を構成する第2繊維F2の結晶化度がフェルト部11を構成する第1繊維F1の結晶化度よりも高いことから、第2繊維F2の内部にはめっき用触媒金属の有機金属錯体のうち粒径が小さいもののみが入り込むこととなる。
【0031】
その後、無電解めっき工程が行われる(S3)。無電解めっき工程では、還元工程を経た不織布10が無電解めっき槽に供給され、化学反応を利用してめっき用触媒金属の周辺に金属めっき20が析出することとなる。このとき、不織布10の縦糸12については、めっき用触媒金属が多く、粒径が小さいものが内部に入り込んでいる。よって、縦糸12には、金属めっきMが良好に析出することとなる。また、縦糸12に析出した金属めっきMを核としてフェルト部11にも金属めっきMが良好に析出することとなる。以上により、本実施形態に係る導電性不織布1が得られることとなる。
【0032】
このようにして、本実施形態に係る導電性不織布1及びその製造方法によれば、縦糸12を構成する第2繊維F2はフェルト部11を構成する第1繊維F1よりも密度が高いことから、繊維密度を利用して有機金属錯体を第2繊維F2に多く付着させることができる。このため、少なくとも縦糸12については良好に金属めっきMを析出させることができ、縦糸12に析出した金属めっきMを核として縦糸12の周辺部での金属めっきMの形成を促進させることができる。従って、めっき析出性を高めることができる。
【0033】
また、特定方向における引張強度が0.5MPa以上であるため、一般的な塩化ビニルテープと同等の強度を確保することができる。
【0034】
また、複数の縦糸12は隣り合う縦糸12の間隔が2.5mm以下であるため、縦糸12に形成された金属めっきMを核として縦糸12間に良好に金属めっきMを形成し易くすることができる。
【0035】
また、めっき縦糸12Mは、めっきフェルト部11Mを構成する第1繊維F1よりも、結晶化度が高い第2繊維F2によって形成されているため、例えば有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に不織布10を浸漬させた場合に、繊維内部には粒径が小さい有機金属錯体のみが入り込むこととなり、めっき析出性の向上に寄与することができる。
【0036】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、周知及び公知の技術を組み合わせてもよい。
【0037】
例えば、上記実施形態においてめっき縦糸12M(縦糸12)は、導電性不織布1(不織布10)において途中で途切れることなく、特定方向の一端から他端まで延びているが、特にこれらに限らず、途中で途切れたものであってもよい。さらに、上記実施形態において導電性不織布1(不織布10)はめっき縦糸12M(縦糸12)を複数有しているが、特にこれに限らず、1本だけ有していてもよい。
【0038】
また、上記実施形態において第1繊維F1と第2繊維F2とは同じ素材によって構成されているが、これに限らず、異なる素材によって構成されていてもよい。さらに、本実施形態に係る導電性不織布1において、第2繊維F2の結晶化度は第1繊維F1の結晶化度よりも高くされているが、特にこれに限らず、金属めっきMの析出に問題がなければ双方の繊維F1,F2の結晶化度は同じであってもよいし、第2繊維F2の結晶化度の方が低くされていてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 :導電性不織布
10 :不織布
11 :フェルト部
11M :めっきフェルト部
12 :縦糸
12M :めっき縦糸
D :間隔
F1 :第1繊維
F2 :第2繊維
M :金属めっき