(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ODS合金粉末、プラズマ処理によるその生産方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
B22F 9/14 20060101AFI20240930BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240930BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20240930BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20240930BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240930BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240930BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240930BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
B22F1/14 400
B22F1/142
C22C1/05 C
C22C1/05 D
C22C1/05 E
C22C19/05 Z
C22C21/00 Z
C22C33/02 103
C22C38/00 302Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022143945
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2020561784の分割
【原出願日】2019-05-03
【審査請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エロディー・ヴァスケス
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-フランソワ・ジルー
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンド・ロメロ
(72)【発明者】
【氏名】イシャム・マスクロ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ルコント
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・シュスター
(72)【発明者】
【氏名】ハリル・アブデルケビル
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-521344(JP,A)
【文献】特開2014-198900(JP,A)
【文献】特開2003-139273(JP,A)
【文献】特表2016-532773(JP,A)
【文献】国際公開第2018/049051(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102251131(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103060591(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末の粒子を形成する結晶粒が、金属マトリックスを構成し、その体積中に結晶質酸化物粒子を分散させた強化合金の粉末を生産する方法であって、以下の連続する工程、
i)- 前記金属マトリックスを形成するための母合金を含み、前記母合金が、鉄基合金、ニッケル基合金、又はアルミニウム基合金から選択される、母材金属粉末
であって、1μm~200μmの間のメジアン径を有する母材金属粉末と、
- 分散した前記酸化物粒子を形成するための原子を、前記金属マトリックスに組み込むことを目的とした、少なくとも1種の中間体を含み、分散した前記酸化物粒子を形成するための前記中間体が、YFe
3、Y
2O
3、Fe
2O
3、Fe
2Ti、FeCrWTi、TiH
2、TiO
2、Al
2O
3、HfO
2、SiO
2、ZrO
2、ThO
2、MgO、又はそれらの混合物から選択される、補助粉末と
を含む、粉砕される粉末混合物を用意する工程と、
ii)前記原子を組み込んだ金属マトリックスを含む前駆体粉末を作製するための機械的合成方法に従って、ガス状粉砕媒体中で前記粉末混合物を粉砕する工程と、
iii)前記強化合金粉末を得るために、プラズマガスを含むプラズマトーチによって発生する熱プラズマに、前記前駆体粉末をさらす工程であって、前記前駆体粉末が、10グラム/分~30グラム/分の間の流速で、前記プラズマトーチに注入され、前記プラズマトーチの出力が、20kW~40kWの間であり、前記プラズマトーチの反応器内圧が、25kPa~100kPaの間である、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記鉄基合金が10~30質量%のクロムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項3】
前記鉄基合金が10~30質量%のアルミニウムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項4】
前記鉄基合金が、8~25質量%のクロム、及び3~8質量%のアルミニウムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項5】
前記鉄基合金が鋼である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項6】
前記ニッケル基合金が10~40質量%のクロムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項7】
前記ニッケル基合金が、質量で、10%~40%のクロム、0.2%~5%のアルミニウム、0.3%~5%のチタン、0%~5%のタングステン、0%~2%のモリブデン、及び0%~2%のタンタルを含む、請求項6に記載の粉末を生産する方法。
【請求項8】
前記ニッケル基合金が10~30質量%のアルミニウムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項9】
前記母合金が、鉄基合金又はニッケル基合金であるとき、前記粉末混合物が、0.1~2.5質量%の前記補助粉末を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項10】
前記アルミニウム基合金が、質量で、0%~0.5%の鉄、0%~0.3%のケイ素、及び0%~1%のマグネシウムを含む、請求項1に記載の粉末を生産する方法。
【請求項11】
前記母合金が、アルミニウム基合金であるとき、前記粉末混合物が、0.2~5質量%の前記補助粉末を含む、請求項1又は10に記載の粉末を生産する方法。
【請求項12】
前記粉末混合物が、0.1質量%~0.3質量%の前記補助粉末を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項13】
分散した前記酸化物粒子を形成するための前記原子が、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、アルミニウム、又はハフニウムから選択される、少なくとも1種の金属原子を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項14】
前記プラズマトーチが誘導結合高周波プラズマトーチ、吹出アークトーチ、又は移行式アークトーチである、請求項1から13のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項15】
前記プラズマガスが、アルゴン、ヘリウム、窒素、又はそれらの混合物から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【請求項16】
前記プラズマガスが、10リットル/分~40リットル/分の間の流速で、前記プラズマトーチに注入される、請求項1から15のいずれか一項に記載の粉末を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物が、分散している金属マトリックスの強化材を構成する、酸化物分散強化合金(「Oxides Dispersion Strengthened」の英語の頭文字により「ODS」合金と呼ばれる)の分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、ODS合金粉末、並びにその生産方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アトマイズ法は、金属粉末を作製する最も一般的な方法である。アトマイズ法は、粉末を得るために、高圧のガスジェット又は水ジェットに曝露された溶融金属流を微細な液滴として噴霧することからなる。
【0004】
しかしながら、アトマイズ法は、ODS合金粉末の作製に適していない。アトマイズ法に不可欠である原料が、塊状のベースメタル(例えば鋳塊等)であり、更にその中に、多少とも均一に分散する酸化物強化材を含むべきであると、その原料を用意することがしばしば不可能なためである。
【0005】
実際には、酸化物強化材は、ベースメタルと同じ温度で溶融しない。酸化物強化材は、その場合、溶融ベースメタルにおける強化材の濡れ性の問題、及び強化材と金属間の密度の違いにより、凝集する。したがって、実際には、鋳造法は、ODS合金の形成に使用されない。
【0006】
ODS合金の形成には、現在、機械的合成による生産方法が好ましい。この粉末冶金技術は、例えば、C. Suryanarayana、「Mechanical alloying and milling」、Progress in Materials Science、2001年、46巻、1~184頁(参考文献1)の研究で説明されている。これは、アトマイズ法によって事前に得られ、金属マトリックスを形成するための第1のベースメタル粉末(任意選択によりプレアロイ枌)を、少なくとも1種の、金属マトリックス中に酸化物強化材を形成するための第2の金属粉末と、高エネルギー共粉砕することに基づく。粉砕中に、第2の金属粉末を構成する原子の一部又は全てが、任意選択により、及びほとんどの場合、固溶体の形態で金属マトリックスに組み込まれる。
【0007】
しかしながら、この機械的合成方法の段階では、酸化物は形成されないが(良くても、酸化物の一部は、アモルファス酸化物の形態、すなわち結晶質ではないことがある。しかしながら、この非結晶質酸化物が、金属マトリックス中の固溶体の中にあると思われる、対応する構成原子に部分的に対応するかどうか、対応する強化材が、粉砕粉末粒子内に播種されたかどうかに関する議論が科学界内にある)。追加の緻密化工程(例えば熱間押出法又は熱間等方圧加圧法による)のみが、ODS合金を最終的に得るために、金属マトリックス内に酸化物強化材を増加させる。
【0008】
真の強化合金が形成されるのは、金属マトリックス中に分散した十分な量の強化材を構成する酸化物粒子の形成後のみであり、こうして、「ODS合金」という名称は完全に正当化される。
【0009】
ここで、こうして得られたODS合金粉末の形成、特にその組成、サイズ、形態、及び金属マトリックス中の酸化物強化材の分布を制御することは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】C. Suryanarayana、「Mechanical alloying and milling」、Progress in Materials Science、2001年、46巻、1~184頁
【文献】D.J. Lloyd、「Particle reinforced aluminium and magnesium matrix composites」、International materials reviews、1994年、39巻、1号、1~23頁
【文献】Fan, X.、Gitzhofer, F.、Boulos, M.、「Statistical Design of Experiments for the Spheroidization of Powdered Alumina by Induction Plasma Processing」、J Therm Spray Tech、1998年、7(2)、247~253頁
【文献】Jiang, X.-L.、Boulos, M.、「Induction Plasma Spheroidization of Tungsten and Molybdenum Powders」、Transactions of Nonferrous Metals Society of China、2006年、16(1)、13~17頁
【文献】Ye, R.、Ishigaki, T.、Jurewicz, J.、Proulx, P.、Boulos, M.I.、「In-Flight Spheroidization of Alumina Powders in Ar-H2 and Ar-N2 Induction Plasmas」、Plasma Chem Plasma Process、2004年、24(4)、555~571頁
【文献】P. Fauchais、「Plasmas thermiques: aspects fondamentaux」(「Thermal plasmas: basic aspects」)、Techniques de l’ingenieur、Part D2810 V1、2005年
【文献】G. Mollon、「Mecanique des materiaux granulaires」(Mechanics of granular materials)、INSA de Lyon、2015年、http://guilhem.mollon.free.fr/Telechargements/Mechanique_des_Materiaux_Granulaires.pdf
【文献】F. Laverneら、「Fabrication additive - Principes generaux」(Additive manufacturing - General Principles)、Techniques de l’ingenieur、Part BM7017 V2(2016年2月10日出版)
【文献】H. Fayazfaraら、「Critical review of powder-based additive manufacturing of ferrous alloys: Process parameters, microstructure and mechanical properties」、Materials & Design、144巻、2018年、98~128頁
【文献】T. DebRoyら、「Additive manufacturing of metallic components - Process, structure and properties」、Progress in Materials Science、92巻、2018年、112~224頁
【文献】Ministry of Economics and Finance、French Republic、「Prospective - future of additive manufacturing - final report」、2017年1月版、ISBN: 978-2-11-151552-9
【文献】D. Moinardら、「Procedes de frittage PIM」(PIM sintering techniques)、Techniques de l’ingenieur、Part M3320 VI(2011年6月10日出版)
【文献】A. Papyrin、「Cold Spray Technology」、ISBN-13: 978-0-08-045155-8、2007年版
【文献】A. Proner、「Revetements par projection thermique」(Hot spray coatings)、Techniques de l’ingenieur、Part M1645 V2(1999年9月10日出版)
【文献】Kim, K.S.、Moradian, A.、Mostaghimi, J、Soucy, G、「Modeling of Induction Plasma Process for Fullerene Synthesis: Effect of Plasma Gas Composition and Operating Pressure」、Plasma Chemistry and Plasma Processing、2010年、30巻、91~110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的の1つは、ODS合金粉末の新規な生産方法を提案することによって、より詳細には、最適化された、組成及び/又は微細構造の特性を有することによって、上記の1つ又は複数の欠点を回避又は減衰させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、粉末粒子を形成する結晶粒が、金属マトリックスを構成し、その体積中に結晶質酸化物粒子を分散させた強化合金(ODS合金)の粉末を生産する方法であって、以下の連続する工程、
i)- 金属マトリックスを形成するための母合金を含む母材金属粉末と、
- 任意選択により固溶体の形態で、分散酸化物粒子を形成するための原子を、金属マトリックスに組み込むことを目的とした、少なくとも1種の中間体を含む補助粉末と
を含む粉砕される粉末混合物を用意する工程と、
ii)任意選択により固溶体の形態で、前記原子を組み込んだ金属マトリックスを含む前駆体粉末を作製する機械的合成方法に従って、ガス状粉砕媒体中で、粉末混合物を粉砕する工程と、
iii)強化合金粉末を得るために、プラズマガスを含むプラズマトーチによって発生する熱プラズマに、前駆体粉末をさらす工程と
を含む、方法に関する。
【0013】
本発明の生産方法によれば、機械的合成による粉砕工程とプラズマ処理工程との組み合わせによって、金属マトリックスの強化材として結晶質酸化物粒子を含むODS合金粉末が生産される。
【0014】
そのような結果は、以下の理由によって、当業者には予想外である:
- 熱プラズマによる粉末の処理は、一般に前記粉末の融解を引き起こす。熱プラズマ(「高温プラズマ)とも呼ばれる)は、電子及びイオンが、プラズマの挙動に影響を与える、非常にエネルギーの高いプラズマである。熱プラズマは、よりエネルギーが低く、電子のみがプラズマの挙動に影響を与える低温プラズマと対照をなす。
【0015】
ここで、上述のように、ODS合金の形成に溶解法は絶対に推奨されない。そのため、先行技術を概説している論文、D.J. Lloyd、「Particle reinforced aluminium and magnesium matrix composites」、International materials reviews、1994年、39巻、1号、1~23頁(参考文献2)で言及されているように、機械的合成が開発された。
【0016】
これは、高すぎる温度での熱間等方圧加圧法の使用が、一般に回避される理由でもある。
【0017】
実際に、酸化物粒子は一般に、金属マトリックスを形成するための母合金の温度よりも高い温度で溶融する。したがって、酸化物粒子は、溶融金属中での濡れ性が低く、密度が金属とは異なるため、凝集する傾向がある。したがって、そのような条件下では、金属マトリックス中に比較的均一に分散した酸化物強化材、特にナノメートルサイズの強化材で強化された合金を得ることは不可能である。
【0018】
- 科学界においてこれについて議論されているが、機械的合成の後、酸化物粒子を形成するための原子は、任意選択により、及びほとんどの場合、固溶体の形態で、金属マトリックス中に分布する。酸化物粒子が播種され、次いで結晶化することになるのは、それに続く緻密化工程においてのみである。ここで、先行技術で行われるようなこの緻密化工程は、特に、そのサイズ、形態、結晶化の度合い、及び/又は金属マトリックス中の分布といった、得られた強化材の特性を制御するのに有利ではない。
【0019】
- プラズマトーチは、マイクロメートルサイズの粒子を有する粉末を処理し、得るために用意される。ナノ粉末、すなわちナノメートルサイズの粒子を有する粉末を得るには、プラズマトーチに、クエンチリングを組み込まなければならない。プラズマトーチ処理技術はエネルギーが高く、クエンチリングタイプの追加装置がなければ、当業者は、プラズマトーチ処理によって、ナノ粉末も、析出物が凝集すると思われるので、粉末粒子内にナノ析出物も、形成されないと予想する。
【0020】
粉末が溶融するプラズマ処理工程の使用では、最適化された特性を有するODS合金粉末を得られないであろうという先入観に反して、本発明者らは、今や、プラズマ処理工程中に酸化物粒子が合体しないことを示した。
【0021】
それどころか、酸化物粒子は、その析出中に、2つの工程、
i)金属原子が金属マトリックス中を移動し、会合して、実際には粉末粒子内に酸化物分子を形成する間の播種工程と、次いで、
ii)酸化物結晶を成長させて、酸化物粒子を形成することを含む結晶化工程
において、個別化したままである。
【0022】
並行して、依然として、プラズマ処理工程の間に、母合金は一般に、全体的又は部分的に大量に結晶化して、金属マトリックスを形成する。こうして形成された結晶質酸化物強化材は、全体的又は部分的に結晶質の金属マトリックス中に、均一に分散する。
【0023】
したがって、有利には、本発明の生産方法は、ODS合金の金属マトリックスを強化する酸化物析出物のサイズ及び分散が非常に適当に制御されたODS合金を生産することを可能にする。
【0024】
本発明の生産方法における第1の工程中に、粉末混合物は、機械的合成方法に従って粉砕される。粉末混合物は、母材金属粉末及び補助粉末を含む。
【0025】
一般には、機械的合成工程ii)の間に、粉砕条件を調整するとき、母材金属粉末及び補助粉末が緊密に混合されるが、分散酸化物粒子を形成するための中間体における全ての原子が、任意選択により、及びほとんどの場合、固溶体の形態で、次いで金属マトリックスを形成する母合金に組み込まれるように、混合される。
【0026】
この粉末の特性に関して、本発明の生産方法で使用される粉末混合物を構成する粉末の粒径に実際の制限はない。
【0027】
多くの場合、母粉の粒子は、1μm~200μmの間、又は更に20μm~80μmの間、一般には60μm~65μmの間のメジアン径(d50)を有する。
【0028】
粉末のメジアン径(d50)は、この粉末を構成する粒子の母集団の50%が、d50よりも小さいサイズを有するサイズである。
【0029】
これは、例えばISO標準13320(2009年12月1日版)に記載されているように、粒度計を用いたレーザー回折法等の技術によって決定することができる。
【0030】
母材金属粉末は、鉄基合金、ニッケル基合金、又はアルミニウム基合金から選択できる母合金を含む。
【0031】
鉄基合金は、質量で、
- 10%~30%のクロム、
- 10%~30%のアルミニウム、
- 8%~25%のクロム及び3~8質量%のアルミニウム
を含むことができる。
【0032】
鉄基合金は、例えば、オーステナイト鋼、マルテンサイト鋼、又はフェライト鋼等の鋼でもよく、該当する場合は、上記の質量での組成を尊重する。
【0033】
ニッケル基合金は、質量で、
- 例えば、14%~17%のクロムを含むInconel(登録商標)600等の、10%~40%のクロム、
- 例えば、20%~23%又は17%~21%のクロムをそれぞれ含むInconel(登録商標)625又は718等の、10%~40%のクロム、0.2%~5%のアルミニウム、0.3%~5%のチタン、0%~5%のタングステン、0%~2%のモリブデン、及び0%~2%のタンタル、
- 10%~30%のアルミニウム
を含むことができる。
【0034】
一般には、ニッケル基合金は、Inconel(登録商標)でもよい。
【0035】
母合金が、鉄基合金又はニッケル基合金であるとき、粉末混合物は、質量で、0.1%~2.5%の、又は更に0.1%~0.5%の補助粉末を含むことができる。
【0036】
アルミニウム基合金は、質量で、0%~1%の鉄(又は更に0%~0.5%の鉄)、0%~1%のケイ素、及び0%~1%のマグネシウムを含むことができる。
【0037】
例えば、質量で、以下の組成、
- 0.95%の鉄、0.05%のマグネシウム、0.2%の銅、及び0.1%の亜鉛を含むアルミニウム合金1100、
- 最大0.7%の鉄を含むアルミニウム合金6262、
- 例えば、0.4%未満の鉄、0.25%未満のケイ素を含み、マグネシウムを含まないアルミニウム合金1050等の、アルミニウム合金1000系、
- 例えば、0.35%未満の鉄、0.6%未満のケイ素、及び0.9%未満のマグネシウムを含むアルミニウム合金6063等の、アルミニウム合金6000系
である。
【0038】
多くの場合、鉄は不純物であり、ケイ素は合金の流動性を改善する。
【0039】
母合金がアルミニウム基合金であるとき、粉末混合物は、0.2質量%~5質量%の補助粉末を含むことができる。
【0040】
一般には、プラズマ処理工程iii)の間に、酸化物粒子の形態で析出する前駆体粉末の割合は、本発明の生産方法の効率が良いことから、高くてもよい。この割合は一般に、80%(又は更に90%)~100%でもよい。この割合が100%のとき、分散酸化物粒子を形成するための全ての原子は、ODS合金の金属マトリックス中で、強化材の形態で析出した。したがって、結晶質酸化物粒子以外の形態で、ODS合金の金属マトリックス中に存在する分散酸化物粒子を形成するための原子の割合は、追加の割合によって、減少するか、又は更に0%に近いか、等しい。
【0041】
したがって、本発明の生産方法におけるこの特質により、粉砕される粉末混合物中の補助粉末の割合を減少させることができる。プラズマ処理工程iii)の間、これは、縮小されたサイズ(例えば、ナノ強化材の形態で)の酸化物粒子の形成、及びODS合金の金属マトリックス中での、それらの均一な分布を促進させる。これにより、製造方法のコストも引き下げられる。
【0042】
したがって、この、粉砕される粉末混合物中の補助粉末の割合は、0.1%~0.3%、又は更に0.1%~0.2%でもよい。
【0043】
補助粉末に関しては、その粒子は、一般に、1μm~80μmの間のメジアン径(d50)を有する。したがって、このメジアン径は母粉のメジアン径よりも小さくなり得るため、分散酸化物粒子を形成するための原子を、母材金属粉末の母合金に組み込むことを促進させる。
【0044】
分散酸化物粒子を形成するための原子を組み込むことを目的とした中間体は、YFe3、Y2O3、Fe2O3、Fe2Ti、FeCrWTi、TiH2、TiO2、Al2O3、HfO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、又はそれらの混合物から選択できる。
【0045】
酸化物ではない化合物(例えば、YFe3、Fe2Ti、FeCrWTi、TiH2)は、化学反応後、本発明の生産方法の間に、対応する金属酸化物を形成するための前駆体化合物であって、金属酸化物は、この方法の最後に、より詳細には、結晶質酸化物粒子の形態で、強化合金中に存在する。
【0046】
したがって、分散酸化物粒子を形成するための原子は、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、アルミニウム、又はハフニウムから選択される、少なくとも1種の金属原子を含むことができる。
【0047】
多くの場合、中間体は金属酸化物であって、したがって、酸化物粒子の組成に含まれるための、少なくとも1個の酸素原子を含む。
【0048】
中間体が酸素原子を含まないとき、例えば、金属間化合物(例えば、Fe2Ti若しくはFeCrWTi等)又は水素化物(例えばTiH2等)の場合、酸素は、金属酸化物タイプの別の中間体によって供給され、任意選択により、母合金中に存在する酸素で補充される。
【0049】
粉砕される粉末混合物は、機械的合成方法に従って、粉砕工程ii)に供される。
【0050】
この工程は、例えば、ボールミル又はアトライターから選択されるミルで行ってもよい。
【0051】
ガス状粉砕媒体は、一般に、制御された組成の雰囲気である。これには、水素、アルゴン、ヘリウム、窒素、空気、又はそれらの混合物を含んでもよい。
【0052】
次に、粉砕工程ii)の最後に得られた前駆体粉末は、熱プラズマ処理工程iii)に供される。
【0053】
プラズマ処理工程iii)の間に操作されるプラズマトーチのパラメーターは、粉末製造分野で、例えば以下の研究において、従来使用されているものである:
- Fan, X.、Gitzhofer, F.、Boulos, M.、「Statistical Design of Experiments for the Spheroidization of Powdered Alumina by Induction Plasma Processing」、J Therm Spray Tech、1998年、7(2)、247~253頁(参考文献3)、
- Jiang, X.-L.、Boulos, M.、「Induction Plasma Spheroidization of Tungsten and Molybdenum Powders」、Transactions of Nonferrous Metals Society of China、2006年、16(1)、13~17頁(参考文献4)、
- Ye, R.、Ishigaki, T.、Jurewicz, J.、Proulx, P.、Boulos, M.I.、「In-Flight Spheroidization of Alumina Powders in Ar-H2 and Ar-N2 Induction Plasmas」、Plasma Chem Plasma Process、2004年、24(4)、555~571頁(参考文献5)。
【0054】
これらの研究は、厳密な操作パラメーターがないこと、並びに当業者は、処理される粉末の量及び/又は必要とされる粉末のタイプの関数として、例えば反復によって、それらを容易に適合させられることを示している。しかしながら、本発明の生産方法に適した、参考操作パラメーターは、以下に記述される。
【0055】
使用されるプラズマトーチは、誘導結合高周波プラズマトーチ、吹出アークトーチ、又は移行式アークトーチでもよい。
【0056】
高周波プラズマは、電極を用いずに作動する。エネルギー移動は、誘導結合によって影響を受ける。プラズマを形成するために、誘導コイル内を循環するプラズマガスに磁場が印加される。
【0057】
プラズマトーチの出力は、10kW~80kWの間(より詳細には、10kW~40kWの間)、又は更に20kW~80kWの間(より詳細には、20kW~40kWの間)でもよい。
【0058】
本発明の生産方法の工程iii)で使用される熱プラズマは、例えば、文献、P. Fauchais、「Plasmas thermiques: aspects fondamentaux」(「Thermal plasmas: basic aspects」)、Techniques de l’ingenieur、Part D2810 V1、2005年、(参考文献6)に記載されているようなプラズマでもよい。
【0059】
熱プラズマは、アルミニウム若しくはマグネシウム、又は3500℃で溶融するタングステンを溶融するために、200℃~12000℃の間、例えば700℃~4000℃の間のプラズマ温度にあってもよい。一般には、この温度は、これらの種、より詳細には、前駆体粉末を構成する金属原子を含む種を溶融するのに十分である。
【0060】
熱プラズマは、特にアークプラズマにおいて、その電子密度が1014m-3~1026m-3の間、又は更に1018m-3~1026m-3の間であるようにできる。
【0061】
イオン化エネルギーは、0.5eV~50eVの間でもよい。
【0062】
熱プラズマのこれらの温度及び/又はエネルギーでは、プラズマトーチに含まれるプラズマガスは、一般に、完全にイオン化される。この場合、プラズマガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素、又はそれらの混合物から選択できる。これは一般に、プラズマトーチの中心ガスを構成し、10リットル/分~40リットル/分の間の流速で、プラズマトーチに送ることができる。
【0063】
工程iii)の開始時に、プラズマトーチの反応器内圧を低くして(例えば200Pa未満)、プラズマガスのイオン化を容易にすることによって、プラズマの形成を促進することができる。
【0064】
しかしながら、工程iii)の間、プラズマトーチの反応器内圧は、一般に、25kPa~100kPaの間である。この圧力が低いほど、注入流速が速くなり、したがって、プラズマトーチを通過する前駆体粉末の流速は加速される。
【0065】
誘導結合高周波プラズマトーチの場合、反応器は、閉込管に対応する。
【0066】
前駆体粉末がプラズマと接触すると、酸化物粒子の析出反応(すなわち播種及びそれに続く成長)が熱的に活性化され、ほとんど瞬時に起こる。
【0067】
しかしながら、プラズマトーチに前駆体粉末を注入する流速は、より詳細には、処理される粉末の組成及び/又は量の関数として、調整することができる。
【0068】
前駆体粉末は、10グラム/分~45グラム/分の間、好ましくは10グラム/分~30グラム/分の間、更により好ましくは10グラム/分~19グラム/分の間の流速で、プラズマトーチに注入することができる。この前駆体粉末の導入流速は、プラズマガス及び/又はシースガスの流速を増加させることによって、少なくとも部分的に増加することがあるとしても、中心ガスの流速とは独立して設定できる。
【0069】
前駆体粉末は、ウォームねじ又は回転ディスクを用いて、振動によってプラズマトーチに注入し得る。
【0070】
反応器の(プラズマガスの流れを基準として)上流部での注入は、一般に、速い粉末流速と対になるが、一方で、反応器の下流部での注入は、特に反応器における前駆体粉末の移動時間を最適化するために、より遅い粉末流速と対になる。実際には、プラズマトーチ内の熱プラズマの上流部は、より高い温度にあって、これは最適ではない可能性がある。更に、粉末の流速が速いと、プラズマ内での再循環による粉末の分散を妨げる。
【0071】
例えば、適当な妥協案は、以下に説明する注入器の出口の高さが、反応器の上流3分の1に開くように、設定することでもよい。
【0072】
酸化物粒子の形態で析出する中間体の割合を最大化するために、中程度のプラズマトーチの出力を、中程度の前駆体粉末の注入流速と対にすることも賢明でありうる。
【0073】
一般には、10g/分~30g/分の間(又は更に10g/分~19g/分の間)である前駆体粉末の流速と対になる、10kW~40kWの間(又は更に10kW~30kWの間)であるプラズマトーチの出力は、
- 析出した酸化物粒子の割合: 一般には、この改善された割合は、強化合金全体に含まれる金属原子の80~100質量%、好ましくは90%~100%、更により好ましくは100%が、結晶質酸化物粒子の形態であるようなものであり;及び/又は
- 強化合金粉末粒子の平均円形度係数: 一般には、80~100質量%の結晶質酸化物粒子(好ましくは90~100%、更にはより好ましくは100%)の場合、この改善された平均円形度係数は、0.95~1の間、又は更に0.98~1の間である。
を改善できる。
【0074】
前駆体粉末及び/又はプラズマガスは、注入器を介して、プラズマトーチに導入し得る。
【0075】
前駆体粉末は、例えば注入器を介して、プラズマガスと同時に、プラズマトーチに注入し得る。
【0076】
注入器の外面にシースガスを流すことができ、それによって、プラズマを安定化させ、本発明の生産方法の効率を高めることができる。
【0077】
シースガスは、10リットル/分~100リットル/分の間の流速で、プラズマトーチに送ることができる。
【0078】
シースガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素、水素、又はそれらの混合物から選択できる。
【0079】
シースガスは、少なくとも1種の主要シースガスと少なくとも1種の補助シースガスとの混合物でもよい。
【0080】
主要シースガスは(多くの場合、アルゴンである)、高流速で、例えば40リットル/分~100リットル/分の間の流速で、プラズマトーチに送ることができる。
【0081】
補助シースガスは、適当な熱伝導率を有し、それによって、プラズマガスと前駆体粉末間の熱伝達が改善される。前駆体粉末粒子の表面酸化を制限するのは、その還元特質のため、例えば、ヘリウム、窒素、又は好ましくは水素である。補助シースガスは、主要シースガスの供給流速よりも遅い流速で、例えば、1リットル/分~40リットル/分の間の流速でプラズマトーチに注入してもよい。
【0082】
生産方法に従って、熱プラズマ処理工程iii)の最後に、ODS合金粉末が得られる。
【0083】
この粉末の粒子は、一般に、粉砕工程ii)の最後に得られた前駆体粉末のサイズに近いか、又は同一のサイズを有する。
【0084】
この微細構造に関して、ODS合金粉末粒子は、ODS合金の金属マトリックスの体積中に分散するとともに全体的又は部分的に結晶化した酸化物粒子を含む。
【0085】
酸化物粒子は、特定の領域だけでなく、金属マトリックスの体積全体に、均一に分布し得る。特に、酸化物粒子は、ODS合金粉末から得られる材料の機械的特質に有害(亀裂、より低い靭性等)であると思われる、ODS合金粉末粒子の結晶粒界に優先的に配置されることがない。
【0086】
強化合金の等方性微細構造は、粉末全体を通して均一な機械的特質を特に保証し、したがって、この材料の機械的応力の方向に関わらず、任意選択によりこの粉末で製造される材料において保証する。
【0087】
酸化物粒子は、Y2O3、TiO2、Al2O3、HfO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Al2O3、Y2Ti2O7、Y2TiO5から選択される、少なくとも1種の酸化物を含むことができる。
【0088】
一般には、補助粉末が、一般に金属酸化物である1種の中間体のみを含むとき、補助粉末は、ODS合金中に分散した酸化物粒子の組成に直接組み込まれるか、補助粉末の一部が析出していないのであれば、部分的にマトリックスに配置される。
【0089】
補助粉末が、複数の中間体を含むとき、これらの化合物間に、1つ又は複数のタイプの化学的組み合わせが生成されることがあり、このことが、混合酸化物の形成を引き起こすことがある。例えば、補助粉末が、酸化イットリウムY2O3及び水素化チタンTiH2を含むとき、Y2Ti2O7、Y2TiO5、YTiO3、YTi2O6から選択される、少なくとも1種の酸化物は、ODS合金の酸化物粒子の全部又は一部を構成することができる。
【0090】
多くの場合、酸化物がイットリウム及び/又はチタンを含むとき、酸化物は、例えばY2Ti2O7等のパイロクロア構造の酸化物である。
【0091】
ODS合金中に形成される酸化物粒子は、1nm~500nmの間のメジアン径(d50)を有することができる。好ましくは、1nm~200nmの間であり、又は更に1nm~150nmの間である。したがって、これはナノ粒子である。予想外にも、こうした結果は、プラズマトーチに組み込まれるクエンチリングを使用せずに、本発明の生産方法によって得られることがある。
【0092】
多くの場合、強化合金粉末粒子の一部又は全部は、球形であり、又は少なくとも楕円形である。
【0093】
したがって、強化合金粉末粒子の平均円形度係数は(一般に、結晶質酸化物粒子が、80~100質量%、好ましくは90%~100%、更により好ましくは100%の場合)、0.95~1の間、又は更に0.98~1の間でもよい。粉末のこの係数値が1に近いほど、球体に近い形態を有するこの粉末粒子の割合が多くなる。
【0094】
以下のウェブサイト:
「http://guilhem.mollon.free.fr/Telechargements/Mechanique_des_Materiaux_Granulaires.pdf」
から入手可能な、G. Mollon、「Mecanique des materiaux granulaires」(Mechanics of granular materials)、INSA de Lyon、2015年(特に23頁及び24頁)(参考文献7)の研究に記述されているように、及びISO標準9276-6(2008年版)によれば、粒子の円形度係数は、以下の式を用いて、粒子に完全に内接する円の半径(R
inscr)及び粒子に完全に外接する円の半径(R
circ)から計算されうる形状記述子であり、これらの半径は、参考文献7から引用した
図6に示されている。
【0095】
【0096】
実際には、粉末の平均円形度係数は、粒子の写真及び自動数値解析から得ることができる。好ましくは、同じ粒子の複数の写真を、異なる角度で撮影する。次いで、これらの異なる角度に対して平均化した円形度を計算する。一度、この操作が複数の結晶粒において行われたならば、各結晶粒に対して平均化した円形度の、その全ての結晶粒に対する平均が、粉末の平均円形度係数となる。
【0097】
機器の観点から、粉末の平均円形度係数は、堀場製作所社が販売する「カムサイザー動的画像解析装置」等の機器を使用して、自動的に得ることができる。
【0098】
その組成に関して、強化合金は、質量で、
- 10~5000ppmのケイ素;
- 10~100ppmの硫黄;
- 20ppm未満の塩素;
- 2~10ppmのリン;
- 0.1~10ppmのホウ素;
- 0.1~10ppmのカルシウム;
- 0.1ppm未満の、リチウム、フッ素、重金属、Sn、As、Sbの各元素
のうち、少なくとも1種の元素を更に含むことができる。
【0099】
これらの元素は、多くの場合、最初は母合金に含まれる。一般には、母材金属粉末の化学組成は、本発明の生産方法中に改変されないため、これらの元素は、この場合、金属マトリックス中で変化せずに存在する。
【0100】
金属マトリックス及び/又はそれが含む酸化物粒子の全部又は一部は、結晶質でもよいため、強化合金粉末自体は、全体的又は部分的に結晶質でもよい(好ましくは完全に結晶質でもよい)。
【0101】
強化合金粉末粒子の微細構造は、好ましくは単結晶(全ての粒子が同じ結晶構造を有する)でもよく、又は多結晶(粒子は異なる結晶構造を有し得る)でもよい。
【0102】
結晶質である強化合金粉末の割合が高いと、コールドスプレー法タイプの製造方法での使用に適当でありうる。
【0103】
本発明の生産方法によって得られる強化合金の微細構造及び/又は組成における他の特性を、以下に記述する。
【0104】
本発明は、例えば、強化合金粉末の微細構造及び/又は組成等の、特に本方法について説明される1つ又は複数の変形において、本明細書で規定される生産方法によって得られた、又は得ることができる強化合金粉末にも関する。
【0105】
本発明は、より詳細には、粉末粒子を形成する結晶粒が、金属マトリックスを構成し、その体積中に結晶質酸化物粒子を分散させた強化合金粉末に関する。
【0106】
本発明者らが知る限り、ODS合金は粉末の形態で直接得られたことがなく、このことは、析出物において適当な制御をもたらす利点、(「コールドスプレー法」タイプ等の)冷間形成法において使用可能である利点、及び/又は追加の製造方法によって、改善された密度を有するODS合金(例えばODS鋼)を得る利点を特に有する。既に高密度化された材料の形態ではなく、粉末の形態での(すなわち、分割された粉末状材料の形態での)この直接生産は、以下に記述するように、塊状物、より詳細には構成部品を得ることを可能にする高密度化方法において、本発明による強化合金粉末を、任意選択によりバッチモード等で連続的に、直接使用できるようにする利点を特に有する。
【0107】
結晶質である酸化物粒子の質量での割合は、好ましくは、結晶質酸化物粒子が、強化合金全体に含まれる金属原子を、質量で80%~100%(好ましくは90%~100%、更により好ましくは100%)含むようなものである。この金属原子は、中間体に最初に存在する原子、例えば、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、アルミニウム、又はハフニウムに対応する。
【0108】
換言すれば、金属マトリックスは、溶解した形態で(一般に、原子尺度において、例えば固溶体で)、及び/又はアモルファス酸化物粒子の形態で、強化合金全体に含まれる前記金属原子の総質量に対して、
- 好ましくは0質量%~20質量%の前記金属原子、
- 更により好ましくは0%~10%、又は更に0%の前記金属原子
を含むことができる。
【0109】
強化合金の異なる領域における金属原子の質量は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によるEDXによって、X線マイクロアナリシスを用いて(例えば、強化合金全体について外挿された対照領域に対して)、通常は金属マトリックス中の測定のために、測定することができる。該当する場合は、アモルファス酸化物粒子及び/又は結晶質酸化物粒子に含まれる金属原子の質量も、化学的分析によって決定されうるか、この質量が、金属マトリックスのみに含まれる金属原子の質量を補完すること(つまり、これら2つの質量の合計が、補助粉末中に最初に存在する金属原子の総質量に等しいこと)を考慮した上で、決定されうる。
【0110】
強化合金粒子は、0.95~1の間の平均円形度係数を有することができる。
【0111】
強化合金の金属マトリックスは、結晶質でもよい。
【0112】
好ましくは、酸化物粒子は、金属マトリックスの体積中に均一に分布し、特に酸化物粒子は、強化合金粉末粒子の結晶粒界に存在しないことが好ましい。
【0113】
金属マトリックスは、鉄基合金、ニッケル基合金、又はアルミニウム基合金で構成し得る。
【0114】
鉄基合金は、質量で、
- 10%~30%のクロム、
- 10%~30%のアルミニウム、
- 8%~25%のクロム及び3~8質量%のアルミニウム
を含むことができる。
【0115】
鉄基合金は、例えば、オーステナイト鋼、マルテンサイト鋼、又はフェライト鋼等の鋼でもよく、該当する場合は、上記の質量での組成を尊重する。
【0116】
ニッケル基合金は、質量で、
- 例えば、14%~17%のクロムを含むInconel(登録商標)600等の、10%~40%のクロム、
- 例えば、20%~23%又は17%~21%のクロムをそれぞれ含むInconel(登録商標)625又は718等の、10%~40%のクロム、0.2%~5%のアルミニウム、0.3%~5%のチタン、0%~5%のタングステン、0%~2%のモリブデン、及び0%~2%のタンタル、
- 10%~30%のアルミニウム
を含むことができる。
【0117】
一般には、ニッケル基合金は、Inconel(登録商標)でもよい。
【0118】
金属マトリックスが、鉄基合金又はニッケル基合金で構成されるとき、強化合金は、質量で、0.1%~2.5%、又は更に0.1%~0.5%の酸化物粒子を含むことができる。
【0119】
アルミニウム基合金は、質量で、0%~1%の鉄(又は更に0%~0.5%の鉄)、0%~1%のケイ素、及び0%~1%のマグネシウムを含むことができる。
【0120】
例えば、質量で、以下の組成、
- 0.95%の鉄、0.05%のマグネシウム、0.2%の銅、及び0.1%の亜鉛を含むアルミニウム合金1100、
- 最大0.7%の鉄を含むアルミニウム合金6262、
- 例えば、0.4%未満の鉄、0.25%未満のケイ素を含み、マグネシウムを含まないアルミニウム合金1050等の、アルミニウム合金1000系、
- 例えば、0.35%未満の鉄、0.6%未満のケイ素、及び0.9%未満のマグネシウムを含むアルミニウム合金6063等の、アルミニウム合金6000系
である。
【0121】
多くの場合、鉄は不純物であり、ケイ素は合金の流動性を改善する。
【0122】
金属マトリックスが、アルミニウム基合金からなるとき、強化合金は、0.2質量%~5質量%の酸化物粒子を含むことができる。
【0123】
強化合金中の酸化物粒子の割合は、0.1質量%~0.5質量%の酸化物粒子を含むことができるようなものである。
【0124】
本発明の生産方法中に析出しなかった補助粉末の一部が依然としてある場合、強化合金は、酸化物粒子を形成するための中間体の原子(一般に金属原子)を、0.1~2.5質量%、好ましくは0.1%~1%、又は更に0.1%未満含むことができる。そのとき、中間体は、一般に金属マトリックス中に配置される。この比率は、酸化物粒子の形態の1種又は複数の中間体の析出度を反映する。これは、特に、酸化物粒子を含まない金属マトリックスの体積に焦点を当てたX線マイクロアナリシス(例えば、透過型電子顕微鏡を用いたEDX分析)によって、測定し得る。
【0125】
酸化物粒子を形成するための中間体が強化合金中に存在する場合、中間体は、YFe3、Y2O3、Fe2O3、Fe2Ti、FeCrWTi、TiH2、TiO2、Al2O3、HfO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、又はそれらの混合物でもよい。
【0126】
この組成から始まり、酸化物粒子は、Y2O3、TiO2、Al2O3、HfO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Al2O3、Y2Ti2O7、Y2TiO5から選択される、少なくとも1種の酸化物を含むことができる。
【0127】
酸化物粒子は、1nm~500nmの間、又は更に1nm~200nmの間のメジアン径(d50)を有し得る。
【0128】
強化合金は、質量で、
- 10~5000ppmのケイ素;
- 10~100ppmの硫黄;
- 20ppm未満の塩素;
- 2~10ppmのリン;
- 0.1~10ppmのホウ素;
- 0.1~10ppmのカルシウム;
- 0.1ppm未満の、リチウム、フッ素、重金属、Sn、As、Sbの各元素
のうち、少なくとも1種の元素を更に含むことができる。
【0129】
これらの元素は、多くの場合、金属マトリックス中に存在する。
【0130】
本発明は、本明細書で説明される1つ又は複数の変形による、上記で規定された強化合金粉末(すなわち、本発明の生産方法によって得られる、若しくは得ることができる強化合金粉末、又は粉末粒子を形成する結晶粒が、金属マトリックスを構成し、その体積中に結晶質酸化物粒子を分散させた強化合金粉末)の使用にも関し、本発明の強化合金粉末が、塊状物(より詳細には構成部品)を生成するために、強化合金粉末の高密度化方法、又は強化合金粉末で基材を被覆する被覆方法(より詳細には、一般に20μm~50mmの薄さ)を受ける使用にも関する。
【0131】
上述のように、本発明による強化合金粉末の特性は、塊状物を得るために、その高密度化に特に適しており、より詳細には、構成部品の形態に、又はコーティングの形態での基材上への堆積に適している(場合によっては、特に比較的厚みのある場合は、高密度化された材料の層とすることもできる)。
【0132】
高密度化の方法は、塊状物、より詳細には構成部品又はコーティングを製造するために、当業者によく知られた、例えば付加製造方法又は粉末射出成形方法等の、粉末(特にODS合金粉末)を高密度化する幅広い方法から選択できる。
【0133】
付加製造(「3Dプリンティング」とも呼ばれる)の原理は、ジェネレーティブ製造方法の原理であり、最終塊状生成物が得られるまで繰り返される2つの工程に帰結する:
- 1.所定の輪郭及び厚みに材料の層を生成する工程。材料を必要な部分にのみ堆積させる;
- 2.先の層の上に材料を追加することによって、次の層を生産する工程。製造は、いわゆる「階段的」製造として要約することができる。
【0134】
付加製造は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている以下の文献で、より詳細に説明されている:
- (参考文献8): F. Laverneら、「Fabrication additive - Principes generaux」(Additive manufacturing - General Principles)、Techniques de l’ingenieur、Part BM7017 V2(2016年2月10日出版);
- (参考文献9): H. Fayazfaraら、「Critical review of powder-based additive manufacturing of ferrous alloys: Process parameters, microstructure and mechanical properties」、Materials & Design、144巻、2018年、98~128頁。
- (参考文献10): T. DebRoyら、「Additive manufacturing of metallic components - Process, structure and properties」、Progress in Materials Science、92巻、2018年、112~224頁。
- (参考文献11): Ministry of Economics and Finance、French Republic、「Prospective - future of additive manufacturing - final report」、2017年1月版、ISBN: 978-2-11-151552-9;特に付録2(205~220頁)の、特に金属粉末を用いた付加製造方法について説明している箇所(付録2、Methods of manufacture、段落3、4、及び5)。
【0135】
より詳細には、付加製造方法は、選択的レーザー溶融法(SLM)すなわち「レーザー粉末床溶融結合法」(L-PBF)、選択的電子ビーム溶融法(EBM)すなわち「電子粉末床溶融結合法」(E-PBF)、選択的レーザー焼結法(SLS)、レーザースプレー法(「直接金属堆積法」(DMD)すなわち「レーザークラッディング」)、又は結合剤噴射法から選択される。
【0136】
粉末射出成形の原理は、金属又はセラミックス粉末とポリマー結合剤の混合物から、構成部品を射出成形し、それに続いて、制御された雰囲気(一般に、水素を除く、上記のガス状粉砕媒体と類似又は同一の雰囲気)下の炉内で、構成部品の脱バインダ(結合剤除去)を行い、次いで、焼結によって後者の緻密化を行うことである。焼結温度は、例えば350℃~1220℃の間である。
【0137】
使用される材料に応じて、英語では「セラミックス射出成形(Ceramic Injection Molding)」(CIM)又は「金属射出成形(Metal Injection Molding)」(MIM)と呼ばれる。
【0138】
粉末射出成形は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている以下の文献で、より詳細に説明されている:
- (参考文献12): D. Moinardら、「Procedes de frittage PIM」(PIM sintering techniques)、Techniques de l’ingenieur、Part M3320 VI(2011年6月10日出版)。
【0139】
被覆方法に関しては、例えば、コールドスプレー法又はホットスプレー法等の、当業者によく知られた被覆方法から選択できる。
【0140】
コールドスプレー法の原理は、一般に100℃~700℃の温度に加熱されたガス(例えば、窒素、ヘリウム、又はアルゴン等)を、「デラバル」タイプのノズルで、超音速に加速させることからなる。次いで、噴霧される粉末材料(ここでは、本発明による強化ODS合金粉末)を、ノズルの高圧部(10バール~40バールの間)に送り、「非溶融状態」で、600m/s~1200m/sの範囲でもよい速度で、被覆される構成部品の表面に噴霧する。構成部品に接触すると、粒子は塑性変形し、衝撃によって、高密度で粘着性のコーティングを形成する。
【0141】
この実施形態の利点は、粒子の融解がないことであり、したがって、酸化のリスクが非常に低く、敵対する媒体に組み込むことができる。
【0142】
コールドスプレー法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている以下の文献で、より詳細に説明されている:
- (参考文献13): A. Papyrin、「Cold Spray Technology」、ISBN-13: 978-0-08-045155-8、2007年版。
【0143】
ホットスプレー法は、フレームホットスプレー法、2本のワイヤー間の電気アークスプレー法、又は吹出プラズマスプレー法から選択できる。
【0144】
ホットスプレー法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている以下の文献で、より詳細に説明されている:
- (参考文献14): A. Proner、「Revetements par projection thermique」(Hot spray coatings)、Techniques de l’ingenieur、Part M1645 V2(1999年9月10日出版)。
【0145】
本発明は、以下の特徴によって、単独で用いて、又はそれらの技術的に可能な組み合わせのいずれか1つに従って、有利に補足される。
【0146】
発明の詳細な説明
本発明の本明細書において、「含む(comprise)」、「組み込む」、「含む(include)」、「含む(contain)」等の動詞及びその活用形は、オープン用語であり、したがって、これらの用語の後に記述されるとともに最初の要素及び/又は工程に追加される、追加の要素及び/又は工程の存在を排除しない。しかしながら、これらのオープン用語は、他のものを除いて、最初の要素及び/又は工程のみが意図された特定の実施形態に更に関し、この場合、オープン用語は、クローズド用語である「で構成される」、「構成する」、「からなる」及びそれらの活用形を更に包括する。
【0147】
要素又は工程に対しての不定冠詞の「a」又は「an」の使用は、特に明記されていない限り、要素又は工程が複数存在することを排除しない。
【0148】
特許請求の範囲において括弧内の参照記号はいずれも、本発明の範囲を限定すると解釈されるものではない。
【0149】
更に、特に明記されていない限り、
- 限度値は、示されたパラメーターの範囲に含まれる;
- 示された温度は、大気圧での実施が考慮されている;
- 強化合金、母合金、又は粉末混合物の成分の質量での比率はいずれも、この合金又はこの混合物の総質量に対する。
【0150】
本明細書において、母合金又は任意の他の合金における組成に特に含まれる金属の「ベース合金」は、金属の含有量が、合金の金属の少なくとも50質量%、特に90質量%超、又は更に95質量%超である金属に基づく任意の合金を意味する。ベースメタルは、例えば、鉄、ニッケル、又はアルミニウムである。ベース合金は、核産業及び/又は放射線照射下での使用に適していることが好ましい。
【0151】
材料/要素に対して「本明細書で説明される1つ又は複数の変形による」という表現は、特に、この材料の構成物における、及び材料/要素が任意選択により含むことができる任意の追加の化学種における化学組成及び/又は割合に関する変形を指し、特に、化学組成、構造、幾何学、空間的配置、並びに/又はこの要素若しくは要素の構成物である部分要素の化学組成に関する変形を指す。これらの変形は、例えば特許請求の範囲で記述されているものである。
【0152】
ここで、本発明の他の目的、特徴、及び利点は、添付の
図1Aから
図6を参照して、非限定的に、例示として与えられる、本発明における特定の実施形態についての以下の明細書において記述される。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【
図1A】本発明の生産方法における粉砕工程ii)の後に得られた前駆体粉末の、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた写真の全体図ある。
【
図1B】本発明の生産方法における粉砕工程ii)の後に得られた前駆体粉末の、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた写真の断面図である。
【
図2A】本発明の生産方法におけるプラズマ処理工程iii)の後に得られた強化合金粉末のSEM写真の全体図である。
【
図2B】本発明の生産方法におけるプラズマ処理工程iii)の後に得られた強化合金粉末のSEM写真の断面図である。
【
図3A】本発明の生産方法におけるプラズマ処理工程iii)の後に得られた強化合金粉末のSEM写真の断面図である。
【
図3B】本発明の生産方法におけるプラズマ処理工程iii)の後に得られた強化合金粉末のSEM写真の、酸化物析出物に焦点を合わせた断面の拡大図である。
【
図3C】
図3Bに表示の1~7の数字によって特定された酸化物析出物の、エネルギー分散型X線分光法(EDX)によって得られた原子のモル比を示す表である。
【
図4A】本発明の生産方法によって得られたODS合金断片の明視野TEM写真である。
【
図4B】本発明の生産方法によって得られたODS合金断片の明視野TEM写真である。
【
図5A】本発明の生産方法によって得られたODS合金粉末のマトリックスに含まれる酸化物析出物を分析するための一連の写真である。明視野TEMによって得られ、分析される酸化物析出物を中心とした写真である。
【
図5B】本発明の生産方法によって得られたODS合金粉末のマトリックスに含まれる酸化物析出物を分析するための一連の写真である。マトリックス及び酸化物析出物に対応する回折スポットを位置付けるための分析後、試料ホルダーをXに対して-2°の角度で傾斜させて得られた、未加工の形でのTEM回折写真である。
【
図5C】本発明の生産方法によって得られたODS合金粉末のマトリックスに含まれる酸化物析出物を分析するための一連の写真である。マトリックス及び酸化物析出物に対応する回折スポットを位置付けるための分析後、試料ホルダーをXに対して-2°の角度で傾斜させて得られた、注釈付きの形でのTEM回折写真である。
【
図5D】本発明の生産方法によって得られたODS合金粉末のマトリックスに含まれる酸化物析出物を分析するための一連の写真である。試料ホルダーをXに対して-20°の角度で傾斜させて得られた、対応する注釈付き写真である。
【
図6】所定の角度で撮影した写真から、粉末の結晶粒の円形度を計算するのに必要なパラメーターR
inscr及びR
circを例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0154】
以下に示す特定の実施形態は、本発明の生産方法、並びにそれによって得ることができる強化合金の組成及び微細構造に関する。
【0155】
1.本発明による強化合金を生産する方法の実施
水素雰囲気下のボールミルにおいて、鉄基母合金からなる母材金属粉末(質量組成: 14%のCr、1%のW、0.3%のSi、0.3%のMn、及び0.2%のNi、1000ppmのC、並びに残りのFe)を、粉末混合物の総量に対して、質量で、0.3%の水素化チタン(TiH2)粉末及び0.3%の酸化イットリウム(Y2O3)粉末を含んでいて、酸化物粒子を形成するための中間体としての補助粉末と混合する。
【0156】
機械的合成によって、チタン、イットリウム、及び酸素原子が組み込まれた母合金からなる金属マトリックスを含む前駆体粉末を形成するために、粉末混合物を176時間粉砕する。
【0157】
本発明の生産方法におけるこの段階では、析出物の形態の酸化物粒子は、まだ形成されていない。
【0158】
次に、前駆体粉末を、最大80kWの出力を供給することができる誘導結合高周波プラズマトーチに送る(テクナ社が販売するPL50モデル)。
【0159】
このタイプのトーチは、例えば文献、Kim, K.S.、Moradian, A.、Mostaghimi, J、Soucy, G、「Modeling of Induction Plasma Process for Fullerene Synthesis: Effect of Plasma Gas Composition and Operating Pressure」、Plasma Chemistry and Plasma Processing、2010年、30巻、91~110頁で説明されている。
【0160】
プラズマトーチは、その外壁に沿って、高速で循環する冷却水に浸漬されたセラミックスの閉込管を備える。プラズマによって発生する高熱流から管を保護するために、管を冷却することは、不可欠である。閉込管の周り及び冷却チャネルの向こうには、プラズマトーチの本体に埋め込まれ、高周波発生器に接続された誘導コイルがある。このコイルは、プラズマ媒体を生成する交流磁場を発生させる。
【0161】
閉込管の内部に、プラズマガス(中心ガスとも呼ばれる)を連続的に注入する。
【0162】
セラミックスの閉込管の内壁を保護するために閉込管内部に設置された石英の中間管を用いて、閉込管の内壁に沿って、渦状にシースガスを導入する。
【0163】
前駆体粉末を、プラズマトーチの反応器の上流3分の1に位置する水冷注入器を介して、プラズマ放電の中心に直接注入する。次いで、前駆体粉末が、飛行中に加熱され、溶融する。誘導プラズマは、電極がプラズマガスに接触することなく作動するため、混入物のない処理を行うことができる。
【0164】
先に得られた前駆体粉末を、Table 1 (表1)に示した操作条件に従って、熱プラズマにさらす。ガス流速は以下の通りである:
- プラズマガス(アルゴン)=30L/分;
- 主要シースガス(アルゴン)=80L/分~100L/分;
- 補助シースガス(ヘリウム又は水素)=0~30L/分。
【0165】
処理された粉末混合物の総質量に対する、本発明によるODS粉末(より詳細には、0.95~1の間の平均円形度係数を更に有する結晶質酸化物粒子)の質量比を、Table 1 (表1)の最後の列に示す。本発明の生産方法の最後に得られた粉末のSEM写真分析によって、一次近似が概算される。
【0166】
【0167】
Table 1 (表1)は、プラズマトーチの出力が中程度(一般に、10kW~40kWの間、又は更に10kW~30kWの間)で、プラズマトーチへの前駆体粉末の注入流速が中程度(一般に、30g/分未満)のとき、析出した酸化物の割合がより高いことを示している。
【0168】
したがって、実験4、実験12、実験17、及び実験18では、粒子が球形であり、100%の酸化物ナノ強化材が播種されたODS合金粉末は、
- 粉末流速が、12g/分(実験4及び実験12)、又は15g/分(実験17及び実験18)、
- プラズマトーチの出力が、25kW(実験4及び実験12)、又は40kW(実験17及び実験18)、
- プラズマトーチの反応器内圧が、6psiすなわち41369Pa(実験4及び実験12)、又は10psiすなわち68947Pa(実験17及び実験18)、
- 中心ガスとしてのアルゴンのガス流速が30リットル/分、主要シースガスとしてのアルゴンのガス流速が100リットル/分、及び補助シースガスとしてのヘリウムのガス流速が10リットル/分(実験4及び実験12);又は、中心ガスとしてのアルゴンのガス流速が30リットル/分、主要シースガスとしてのアルゴンのガス流速が60リットル/分、及び補助シースガスとしてのヘリウムのガス流速が40リットル/分(実験17);又は、中心ガスとしてのアルゴンのガス流速が30リットル/分、主要シースガスとしてのアルゴンのガス流速が80リットル/分、及び補助シースガスとしての水素のガス流速が20リットル/分(実験18)
のとき得られる。
【0169】
実験4と実験12の比較は、本発明の生産方法の完全な再現性も示しており、したがって、有利に得られるようにするODS合金粉末の特性の制御も示している。
【0170】
一般には、粒子が球形であって(より詳細には、0.95~1の間の平均円形度係数である)、ODS合金の金属マトリックス中に均一に分散した酸化物のナノ強化材(平均サイズが一般に、50nm~500nmの間、好ましくは50nm~200nmの間)が決まった割合である鉄基ODS合金粉末を得るためには、当業者は、例えば、プラズマトーチに対して以下の操作条件を使用でき、プラズマトーチの出力及び前駆体粉末の流速であって、個別に又は共に作用する優先パラメーターを使用することができる:
→補助粉末の初期質量に対して結晶質酸化物粒子が20~30質量%の場合(つまり、70%~80%の補助粉末は、結晶質酸化物粒子を生成しなかった):
・プラズマトーチの出力: 40kW~80kWの間(又は更に30kW~80kWの間)、
・前駆体粉末の流速: 20g/分~45g/分の間、
及び任意選択により、少なくとも1つの以下の操作条件:
・プラズマトーチの反応器内圧: 5psiすなわち34474Pa~14.5psi(すなわち大気圧)の間、
・主要シースガスの流速: 80L/分~100L/分の間、
・補助シースガスの流速: 10L/分~40L/分の間。
→補助粉末の初期質量に対して結晶質酸化物粒子が80質量%を超える場合(つまり、20%未満の補助粉末は、結晶質酸化物粒子を生成しなかった):
・プラズマトーチの出力: 20kW~40kWの間(又は更に20kW~30kWの間)、
・前駆体粉末の流速: 10g/分~30g/分の間、
及び任意選択により、少なくとも1つの以下の操作条件:
・プラズマトーチの反応器内圧: 4psi~8psiの間(すなわち27.6kPa~55.1kPaの間)、
・主要シースガスの流速: 80L/分(又は更に60L/分)~100L/分の間、
・補助シースガスの流速: 10L/分~40L/分の間。
【0171】
2.本発明による強化合金の組成及び微細構造
機械的合成の最後の工程、及び次いで試験4によるプラズマトーチ中の酸化物析出の工程で、それぞれ得られた前駆体粉末及び強化合金粉末を、SEM(
図1A、
図1B、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3B)、TEM(
図4A及び
図4B)、並びにEDX(
図3Cの表)によって特徴づけた。
【0172】
これらの分析によれば、前駆体粉末の粒子は、様々な形状をしており(
図1A)、母合金の強化材を構成するべく播種された酸化物粒子を全く含まない、無秩序な非結晶質微細構造を有する(
図1B)。
【0173】
しかしながら、本発明の生産方法による粉砕工程ii)とプラズマ処理工程iii)を組み合わせることによって、粉末粒子が本質的に球形及び/又は楕円形であって(
図2A、
図2B、及び
図3A)、結晶質酸化物粒子が均一に組み込まれた結晶質金属マトリックスからなる結晶粒を構成するODSタイプの強化合金を得ることが可能であり、金属マトリックスの粒を表す黒い点の形態で、灰色背景の様々な陰影上に出現している(
図2B、
図3A、及び
図3B)。結晶質酸化物粒子は、ナノ強化材であり、そのメジアン径d
50は、150nm~200nmの間である。5nmより小さい析出物も、数多く存在する。
【0174】
EDX分析も、SEM及びTEM電子顕微鏡によって行われた。
図3Cの表にそれらを示しており、ODS合金粉末粒子の領域1~領域5に存在するナノ強化材には、チタン、イットリウム、及び酸素が豊富であることを示している。これに対して、金属マトリックスの領域6及び領域7で実施された、対応するEDX分析は、マトリックスに、酸素、チタン、アルミニウム、及びイットリウムが存在しないことを示している(アルミニウム及びイットリウムの場合のように、値が記載されていないときは、不確定性限界を含めてmol%<0.1%であるか、又は更に0である)。これらの結果は、分散酸化物粒子を形成するための補助粉末における全ての原子は、ODS合金粉末粒子内に、ナノ強化材の形態で、実際に析出したことを証明しており、
図4A及び
図4Bの拡大図にも見られるとおりである。
【0175】
図5B、
図5C、及び
図5Dは、本発明のODS合金の酸化物析出物を中心とした
図5Aに示された領域のTEM回折によって得られた。それらは、鉄基ODS合金において従来法で得られるパイクロアタイプの酸化物Y
2Ti
2O
7に特有である超格子回折ピーク(すなわち、2つのスポットのうち、1つがより明るい)を有する。
【0176】
本発明は、説明された、及び示された実施形態に決して限定されるものではなく、当業者は、それらを組み合わせて、当人の一般的な知識に基づいて、多くの変形及び改変をもたらすことができるであろう。
【0177】
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