(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】マラリア伝播の減少
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240930BHJP
A01N 63/20 20200101ALI20240930BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240930BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C12N1/20 Z
A01N63/20
A61K35/74 A
A61P33/06
(21)【出願番号】P 2022501360
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2020069569
(87)【国際公開番号】W WO2021009050
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-05
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】アルフォンソ、メンドーサ、ロサーナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャネット、ロドリゲス
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/005307(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104531585(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101993838(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101016525(CN,A)
【文献】Acta Tropica,2008年,Vol. 107, No. 3,pp. 242-250
【文献】Parasites & Vectors,2014年,7:419,pp. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デルフチア属の細菌を含む
、(i)マラリア伝播及び/又は(ii)マラリア原虫の伝播を減少させるための組成物。
【請求項2】
前記細菌が、デルフチア・ツルハテンシスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記マラリア原虫が、熱帯熱マラリア原虫である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、(i)蚊によるマラリア伝播及び/又は(ii)蚊によるマラリア原虫の伝播を減少させる
ための組成物である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記蚊が、ハマダラカ属の蚊である、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記蚊が、ガンビエハマダラカ又はステフェンスハマダラカである、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記蚊が、ステフェンスハマダラカである、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、糖供給源又は蜜飼料の形態である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
1又は2以上の蚊をデルフチア属の細菌と接触させる工程を含む、マラリア原虫の伝播を減少させ
る方法。
【請求項10】
前記デルフチア属の細菌が、デルフチア・ツルハテンシスである、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記蚊が、ハマダラカ属の蚊である、請求項
9又は
10に記載の方法。
【請求項12】
前記蚊が、ガンビエハマダラカ又はステフェンスハマダラカである、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記蚊が、ステフェンスハマダラカである、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリアの分野に関連し、マラリア伝播の阻止に有用な組成物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
寄生原虫感染症は、マラリアを含む医学的に重要な幅広い疾患の原因である。
【0003】
マラリアは蚊媒介性の疾患であり、ヒトでは、5種のプラスモジウム属の寄生虫(Plasmodium parasite)によって引き起こされ得、そのうち、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum:Plasmodium falciparum)が最も強毒性である。
【0004】
2018年には、世界中で推定2億2800万人がマラリアに感染し、マラリア疾患が推定405,000人の死亡原因であり、幼児及び妊婦が最も影響を受けたグループであった。サハラ以南のアフリカでは、1,100万人の妊婦が2018年にマラリアに感染し、5歳未満の子供がマラリアによる全死亡の67%を占めた(WORLD HEALTH ORGANIZATION. 2018. World malaria report.スイス、ジュネーブ、世界保健機関)。
【0005】
貧しい未発達のマラリア流行国における弱体化した医療制度と相まった、抗マラリア薬及び殺虫剤に対する耐性に加えて、ワクチン及び効果的な薬剤の欠如は、根絶の努力を妨げている。
【0006】
マラリア伝播を阻害するための追加のツールを開発及び供給する緊急の必要性があり、これらのツールは、撲滅の目的を達成するために既存のアプローチに統合され得る。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、デルフチア属(Delftia genus)の細菌を含む組成物が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、1又は2以上の蚊をデルフチア属の細菌と接触させる工程を含む、マラリア原虫の伝播を減少させるか又は阻止する方法が提供される。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、マラリア伝播の減少に使用するためのデルフチア属の細菌を提供する。
【0010】
さらに別の態様では、デルフチア細菌(Delftia bacteria)を定着させたハマダラカ属(Anopheles genus)の蚊(以下、本発明の蚊と呼ぶ)が提供される。
【0011】
これらの態様の特定の実施形態において、デルフチア属の細菌は、デルフチア・ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)である。
【0012】
本発明は、多くの点で有利であり得る。本発明者らは、デルフチア属の細菌、特にデルフチア・ツルハテンシスが、蚊によるプラスモジウム属の寄生虫の伝播を妨げることを見出した。本発明の組成物は、蚊を含む環境に導入されると、蚊の中腸におけるマラリア原虫のオーキネート(ookinete)及びオーシスト(oocyst)を抑止することにより、マラリア原虫の伝播を阻止する。デルフチア属の細菌、特にデルフチア・ツルハテンシス(D.tsuruhatensis)は、マラリアの蔓延に対抗するためのツールとして使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、デルフチア・ツルハテンシスのコロニー形態を示す図である。
【
図2】
図2は、熱帯熱マラリア原虫のオーシスト強度に対するデルフチア・ツルハテンシスの影響を示す図である。各ドットは、単一の蚊の中腸におけるオーシストの総数を表し、水平の線は、感染の平均オーシスト強度を示す。マンホイットニー検定を使用して、様々な処理と対照との統計的有意性を比較した。(統計的に有意な分布を示す処理はアスタリスクで表されている:p<0.1、p<0.01、p<0.001、p<0.0001は、それぞれ*、**、***、****で表され、nsは、有意差なしを表す)。グラフの下の表は、処理ごとの解剖された完全給餌の蚊(full-fed mosquito)の総数、感染率、伝播阻害の可能性、平均オーシスト強度の低下、及び平均オーシスト強度を示す。伝播阻害の可能性のパーセンテージ及び平均オーシスト強度の低下は、対照群の値で正規化することによって計算された。
図2A及び2Bは、2回の独立した実験の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一態様において、本発明は、デルフチア属の細菌を含む組成物を提供する。デルフチア属は、グラム陰性の運動性桿菌の属であり、ベータプロテオバクテリア綱(class Betaproteobacteria)のコマモナス科(family Comamonadaceae)に属している。
【0015】
デルフチア属の細菌は、デルフチア属の任意の細菌であり得る。本発明の一実施形態において、デルフチア属の細菌はデルフチア・ツルハテンシスである。細菌は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA Scotland)の下で、2019年5月21日に、アクセッション番号NCIMB43398で寄託された。この細菌は、分離されており、16S rRNAシーケンシングによってデルフチア・ツルハテンシスとして同定されている。この細菌は、ベータプロテオバクテリア綱のコマモナス科に属するグラム陰性菌である。本発明の一実施形態において、デルフチア属の細菌は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA Scotland)の下で、2019年5月21日に、アクセッション番号NCIMB43398で寄託されている細菌である。
【0016】
本発明の一実施形態において、組成物は、(i)蚊によるマラリア伝播及び/又は(ii)蚊によるマラリア原虫の伝播を減少させるか又は阻止するのに適している。一実施形態において、組成物は、蚊によるマラリア伝播を減少させるか又は阻止するのに適している。別の実施形態において、組成物は、蚊によるマラリア原虫の伝播を阻止するのに適している。
【0017】
本明細書で定義されるように、「マラリア伝播又はマラリア原虫の伝播の減少又は阻止」は、マラリアを防止することとして定義され、例えば、マラリア原虫の蚊の段階(オーシスト形成)を抑止することによってマラリアを防止する。
【0018】
デルフチア細菌、特にデルフチア・ツルハテンシスは、マラリア原虫を阻害することにより、蚊によるマラリア伝播を抑制することができることが見出された。具体的には、蚊を含む環境に導入されると、デルフチア・ツルハテンシスは、蚊の中腸におけるマラリア原虫のオーキネート及びオーシストを抑止することにより、マラリア原虫の伝播を阻止することができることが本明細書で示された。したがって、本発明の組成物は、蚊によるマラリア伝播及び/又はマラリア原虫の伝播を減少させるか又は阻止することができる。
【0019】
蚊は、マラリアを伝播させることができる任意の蚊、例えば、ハマダラカ属の蚊であってもよい。本発明の組成物及び方法は、任意のハマダラカ属種の蚊に及ぶことが想定される。本発明の一実施形態において、蚊は、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)又はステフェンスハマダラカ(Anopheles stephensi)である。一実施形態において、蚊はステフェンスハマダラカである。別の実施形態において、蚊はガンビエハマダラカである。
【0020】
マラリア原虫は、任意のマラリア原虫であり得る。一実施形態において、マラリア原虫はプラスモジウム属の寄生虫である。一実施形態において、寄生虫は熱帯熱マラリア原虫である。別の実施形態において、寄生虫はプラスモディウム・ベルゲイ(Plasmodium berghei)である。
【0021】
本発明の組成物は、任意の適切な形態であり得、任意の適切な担体を含み得る。
【0022】
組成物は、飼料組成物であり得、すなわち、組成物は、食物摂取のために蚊に供給され得る形態であり得る。一実施形態において、飼料組成物は、糖供給源(sugar source)又は蜜飼料(nectar feed)である。一実施形態において、飼料組成物は糖供給源である。糖供給源は、誘引性の糖餌であっても、誘引性の糖餌内に含まれていてもよい。誘引性の糖餌は、糖及び毒性成分を含む。本発明による誘引性の糖餌は、毒性成分の代わりに本発明の組成物を含むこと、すなわち、糖及び本発明の組成物を含むことが想定される。
【0023】
一実施形態において、組成物は餌の形態である。餌は、蚊が組成物との接触に引きつけられるように設計される。一実施形態において、それと接触すると、次いで、組成物は、蚊に、例えば摂取によって、取り込まれる。誘引物質もまた使用されてもよい。誘引物質は、フェロモン、例えば、雄又は雌のフェロモンであってもよい。誘引物質は、蚊を餌に引きつける働きをする。餌は、任意の適切な形態、例えば、固体、ペースト、ペレット又は粉末形態であり得る。
【0024】
餌は、適切な「ハウジング(housing)」又は「トラップ(trap)」内で提供されてもよい。そのようなハウジング及びトラップは市販されており、本発明の組成物を含むように既存のトラップを適合させることができる。ハウジング又はトラップは、例えば、箱型であり得、予め形成された状態で提供され得るか、又は例えば、折り畳み可能なボール紙(cardboard)で形成され得る。ハウジング又はトラップに適した材料には、プラスチック及びボール紙、特に段ボール紙(corrugated cardboard)が含まれる。一旦トラップ内に入った蚊の動きを制限するために、トラップの内面を粘着性の物質によって覆ってもよい。ハウジング又はトラップには、餌を所定の位置に保持可能な適切な餌入れ(trough)を内部に含んでもよい。トラップは、蚊が侵入後にトラップを簡単に離れることができないため、ハウジングと区別される。一方、ハウジングは、蚊が餌を摂取することができ、且つ、捕食者に対する安全を感じることができる好ましい環境を蚊に提供する「餌場」として機能する。
【0025】
第2の態様において、本発明は、1又は2以上の蚊をデルフチア属の細菌と接触させる工程を含む、マラリア原虫の伝播を減少させるか又は阻止する方法を提供する。
【0026】
本発明の一実施形態において、デルフチア属の細菌は、デルフチア・ツルハテンシスである。
【0027】
別の実施形態において、デルフチア属の細菌は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA Scotland)の下で、2019年5月21日に、アクセッション番号NCIMB43398で寄託されている細菌である。
【0028】
蚊を細菌と接触させる工程は、任意の適切な方法で行うことができる。例えば、人が蚊及びデルフチア細菌に物理的に接触する必要はない。蚊と接触することがわかっている場所に細菌を置いておくことができる。
【0029】
細菌は、本発明の第1の態様に記載されているように、本発明の組成物の形態であり得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、接触は、本発明の組成物でエリアを処理することによって、例えば、スプレー製剤、例えば、エアロゾル又はポンプスプレーを使用することによって、達成され得る。本発明の特定の実施形態において、エリアは、例えば、トラックに設置された装置による空中投下等を介して処理され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、バックパック散布(backpack spraying)、空中散布(aerial spraying)、散布/ダスティング(spraying/dusting)等によって散布される。
【0031】
蚊は、マラリアを伝播させることができる任意の蚊、例えば、ハマダラカ属の蚊であってもよい。本発明の組成物及び方法は、任意のハマダラカ属種の蚊に及ぶことが想定される。本発明の一実施形態において、蚊は、ガンビエハマダラカ又はステフェンスハマダラカである。一実施形態において、蚊はステフェンスハマダラカである。別の実施形態において、蚊はガンビエハマダラカである。
【0032】
マラリア原虫は、任意のマラリア原虫であり得る。一実施形態において、マラリア原虫はプラスモジウム属の寄生虫である。一実施形態において、寄生虫は熱帯熱マラリア原虫である。別の実施形態において、寄生虫はプラスモディウム・ベルゲイである。
【0033】
第3の態様において、本発明は、マラリア伝播の減少に使用するためのデルフチア属の細菌を提供する。一実施形態において、デルフチア属の細菌は、デルフチア・ツルハテンシスである。細菌は、本発明の第1の態様で上記したような組成物の形態であり得る。一実施形態において、デルフチア属の細菌は、蚊によるマラリア伝播を減少させるのに使用するための細菌である。本明細書において、マラリア伝播を減少させることはまた、「マラリア原虫の伝播を減少させること」を意味すると解釈することもできる。
【0034】
蚊は、マラリアを伝播させることができる任意の蚊、例えば、ハマダラカ属の蚊であってもよい。本発明の一実施形態において、蚊は、ガンビエハマダラカ又はステフェンスハマダラカである。一実施形態において、蚊はステフェンスハマダラカである。別の実施形態において、蚊はガンビエハマダラカである。
【0035】
マラリア原虫は、任意のマラリア原虫であり得る。一実施形態において、マラリア原虫はプラスモジウム属の寄生虫である。一実施形態において、寄生虫は熱帯熱マラリア原虫である。別の実施形態において、寄生虫はプラスモディウム・ベルゲイである。
【0036】
本発明のさらなる態様において、デルフチア属の細菌は、細菌に対する幼生期又は成虫期の蚊の直接曝露に基づく疾患管理戦略において使用され得る。曝露は、バクテリアの直接投与(direction administration)を通じて、又は蚊の在来種とデルフチア細菌がすでに定着している蚊との相互作用を介して達成され得る。本発明の蚊は、デルフチア細菌を含み、エリア内のその他の蚊集団と交配し得、したがって、細菌をその他の蚊集団に伝播させることができる作用因子(agent)として使用することができる。デルフチアを含む蚊は、所望のデルフチア株を使用して適切な蚊種に感染させることによって容易に生産され得る。
【0037】
或いは、細菌を直接展開させて、現地の蚊の個体数を増やすこともできる。ハマダラカは、別の蚊からのデルフチア細菌に曝露するか、細菌自体に直接曝露し得る。デルフチア細菌に直接(すなわち、別の蚊を介さずに)曝露する場合には、細菌は、任意の適切な方法によって、及び組成物を蚊に投与することを可能にする任意の適切な方法で送達剤と組み合わせて送達され得る。例えば、蚊は、純粋又は実質的に純粋な形態で、例えば、デルフチアを含む溶液で細菌と接触させることができる。
【0038】
特定の実施形態において、デルフチア属の細菌は、送達剤とともに組成物中に存在する。
【0039】
別の特定の実施形態において、蚊の幼虫形態は、細菌を含む溶液に単に「浸漬」又は細菌を含む溶液で単に「噴霧」され得る。
【0040】
或いは、デルフチアを含む組成物は、送達を容易にするために、及び/又は蚊による組成物の取り込みを増加させるために、蚊の食物成分、例えば、人工蜜又は糖餌に結びつけることができる。経口導入の方法には、例えば、組成物を蚊の食物と直接混合すること、定常の水域を含む蚊の生息地又は野原に組成物を散布することが含まれる。組成物はまた、蚊が成長し、生活し、繁殖し、食餌し、又は寄生する培地に組み込まれ得る。
【0041】
別の実施形態において、組成物は餌の形態である。餌は、蚊が組成物との接触に引きつけられるように設計される。一実施形態において、それと接触すると、次いで、組成物は、蚊に、例えば摂取によって、蚊に取り込まれる。餌は、標的とされる種に依存し得る。誘引物質もまた使用されてもよい。誘引物質は、フェロモン、例えば、雄又は雌のフェロモンであってもよい。誘引物質は、蚊を餌に引きつける働きをする。餌は、任意の適切な形態、例えば、固体、ペースト、ペレット又は粉末形態であり得る。
【0042】
餌は、適切な「ハウジング」又は「トラップ」内で提供されてもよい。そのようなハウジング及びトラップは市販されており、本発明の組成物を含むように既存のトラップを適合させることができる。ハウジング又はトラップは、例えば、箱型であり得、予め形成された状態で提供され得るか、又は例えば、折り畳み可能なボール紙で形成され得る。ハウジング又はトラップに適した材料には、プラスチック及びボール紙、特に段ボール紙が含まれる。一旦トラップ内に入った蚊の動きを制限するために、トラップの内面を粘着性の物質によって覆ってもよい。ハウジング又はトラップには、餌を所定の位置に保持可能な適切な餌入れを内部に含んでもよい。トラップは、蚊が侵入後にトラップを簡単に離れることができないため、ハウジングと区別される。一方、ハウジングは、蚊が餌を摂取することができ、且つ、捕食者に対する安全を感じることができる好ましい環境を蚊に提供する「餌場」として機能する。
【0043】
本発明の特定の実施形態において、例えば、スプレー製剤、例えば、エアロゾル又はポンプスプレーを使用することによって、エリアを処理してもよい。本発明の特定の実施形態において、エリアは、例えば、トラックに設置された装置による空中投下等を介して処理され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、バックパック散布、空中散布、散布/ダスティング等によって散布される。
【0044】
デルフチア細菌の直接使用に加えて、本発明による蚊は、マラリア原虫を伝播することができないため、マラリア伝播を阻止するために使用するのに適した作用因子となる。
【0045】
本発明は、その他のマラリア根絶の努力とともに展開されることが想定される。例えば、本発明を使用するための組成物、方法及び細菌は、既知の抗マラリア剤と一緒に使用され得る。一実施形態において、本発明を使用するための組成物又は細菌は、1種、2種又は3種の追加の抗マラリア剤と組み合わせて使用され得る。総合的なベクター対策管理(IVM)は、利用可能なツールを最大限に活用することを提案している。
【0046】
少なくとも1種のその他の抗マラリア剤はまた、フェロキン、KAF156、シパルガミン(cipargamin)、DSM265、アルテミソン(artemisone)、アルテミシノン(artemisinone)、アルテフェノメル(artefenomel)、MMV048、SJ733、P218、MMV253、PA92、DDD498、AN13762、DSM421、UCT947、ACT451840、OZ609、OZ277及びSAR97276から選択され得る。
【0047】
熱帯熱マラリア原虫感染症の処置において、少なくとも1種、2種又は3種の追加の抗マラリア剤を以下のリストから選択し得、抗マラリア剤の少なくとも1種はアルテミシニン系の薬剤である。
・アルテメテル+ルメファントリン
・アルテスネイト+アモジアキン
・アルテスネイト+メフロキン
・ジヒドロアルテミシニン+ピペラキン
・アルテスネイト+スルファドキシン-ピリメタミン(SP)
【0048】
上記の併用処置は、アルテミシニン系併用療法(ACT)として既知である。ACTの選択は通常、熱帯熱マラリア原虫の現地株に対する治療効果研究の結果に基づいている。
【0049】
三日熱マラリア原虫(P. vivax)感染症の処置では、上記のようにACTを使用することができる。或いは、少なくとも1種のその他の抗マラリア剤は、特にクロロキン耐性の三日熱マラリア原虫がいないエリアでは、クロロキンであってもよい。耐性のある三日熱マラリア原虫が確認されているエリアでは、上記のように、感染症をACTにより処置することができる。
【0050】
治療薬の組み合わせは、医薬組成物又は製剤の形態で使用するために便利に提示され得、一緒に又は別個に投与され得る。別個に投与する場合には、これは、別個に又は連続的に任意の順序で(同じ又は異なる投与経路によって)起こり得る。
【0051】
本発明の使用のための組成物又は細菌は、殺虫剤処理ネット(ITN)(長時間作用型殺虫剤ネット(LLIN)を含む)及び/IRS(屋内残留スプレー)の使用と組み合わせて使用され得る。ATSB(誘引性の有毒な糖餌)は蚊を引きつけて、有毒な蚊を殺す化合物とともに糖を食べさせる。効率を上げるために、ATSBには、デルフチア細菌を含めることもでき、或いは、前述のように、毒性化合物の代わりにデルフチア細菌を使用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下の非限定的な実施例は、本発明を例示する。
【0053】
実施例1 熱帯熱マラリア原虫が感染することができなかったステフェンスハマダラカのコロニーの観測後の、このコロニー由来の微生物の分離及び同定
熱帯熱マラリア原虫が感染することができない蚊のコロニーが見出された。GSKステフェンスハマダラカによる熱帯熱マラリア原虫に対する感受性の喪失に影響を与え得る因子を明らかにするために、蚊の中腸組織、加えて、生殖適応度、生存、並びにこれらの蚊を繁殖させるために使用された様々な蚊の成長段階及び環境に存在する微生物叢を調査した。
【0054】
ステフェンスハマダラカのコロニーは、ロンドンのインペリアルカレッジから輸入された卵を使って2012年8月に新たに樹立された。スタンダードメンブレンフィーディングアッセイ(SMFA:Standard Membrane Feeding Assay)では、雌の成虫の蚊を日常的に熱帯熱マラリア原虫の感染のために使用し、蚊は中腸のオーシストの平均強度(1匹の蚊あたり2~25個のオーシスト)及び有病率(80~100%)を示した。このコロニーは、1年間のコロニー形成の後、熱帯熱マラリア原虫に対する感受性を徐々に失った。本研究では、感受性の低下に寄与し得るその他の因子の中でも、様々な蚊の組織及び実験室の様々な繁殖環境に存在する微生物叢、繁殖条件、食物、温度、水を含むいくつかの異なる因子を調査した。
【0055】
方法
蚊の生存及び生殖能力
成虫の雌の蚊の死亡率をモニターした。マウスの血液(繁殖中)及びヒトの血液(SMFA中)を給餌した蚊の割合を記録した。マウスの血液を給餌した後の産卵もまた認められた。
【0056】
蚊の繁殖に使用されたインキュベーター(表面、加湿器及び水)からのサンプル採取及び分析
サンプルタイプ:すべてのインキュベーター(1~6)の内壁からの綿棒
サンプルソース:綿棒の採取のために設定されたエリアは、内部の床、内部の天井、及び内部の2つの側壁からであった。
【0057】
サンプリング方法:設定されたエリア(上記)を、基部に綿が付いた棒で拭き取った。それぞれのエリアからの各綿棒を、試験チューブ中の5mLの滅菌LB培地に入れた。別個の試験チューブには、採取日、インキュベーター番号、及びインキュベーター内のサンプリング場所を記した。
【0058】
次いで、これらをロータリーシェーカーにより37℃でインキュベートし、濁りの存在を一定の時間間隔(O/N、24時間、48時間、96時間)でスクリーニングした。
【0059】
サンプルタイプ:繁殖目的で使用されるインキュベーター内の加湿器の水及び水受け(インキュベーター5及び6)
サンプルソース:加湿器容器の水(水容器が空の場合、綿棒を水受けの内側から採取し、上記のように処理した)。
【0060】
サンプリング方法:250mLの水サンプルを水受けから滅菌ガラス瓶に採取した。次いで、これを、真空濾過装置に配置された0.22ミクロンのフィルターを通じて濾過した。フィルターを鉗子で取り外し、試験チューブ中の5mLの滅菌LB培地に入れた。次いで、フィルターをLBで穏やかに洗浄した。別個の試験チューブには、採取日、インキュベーター番号、及びインキュベーター内のサンプリング場所を記した。
【0061】
次いで、これらをロータリーシェーカーにより37℃でインキュベートし、濁度の存在を一定の時間間隔(O/N、24時間、48時間、96時間)でスクリーニングした。
【0062】
サンプル分析
上記の結果を、Xcelスプレッドシートに集計した。
【0063】
外部の分析グループ(DYNAMIMED S.L.)による細菌同定のための分析に、サンプルの選択されたセットを送った。細菌コロニーは、標準的な生化学的試験を使用した生化学的特性評価によって同定された。
【0064】
蚊の組織のサンプル採取(卵、幼虫、蚊全体、中腸)
サンプルソース:様々な発生段階の蚊の組織を、100μLの滅菌PBSを含む滅菌エッペンドルフに新鮮に採取し、さらなる使用のためにすぐに-80℃で保存した。
【0065】
含まれる組織:
・卵(湿らせた濾紙から採取した卵)
・異なるスタジアムからの幼虫全体(10~12匹/チューブ)
・成虫の雌の蚊を中腸組織のために顕微解剖し、合計10~12匹の中腸を使用した。
・成虫の雌の蚊全体(10~12匹/チューブ)(PBSを添加せず、-80℃で滅菌エッペンドルフに直接保存された。)
【0066】
蚊の組織からのサンプルの分析
滅菌使い捨てペッスルを備えたKONTESハンドヘルド自動ホモジナイザーを使用して、蚊の組織サンプルをホモジナイズした。ホモジネート全体をガラス試験管中の滅菌LBブロス又はYESPブロス(5~10mL)に移し、ロータリーシェーカーにおいて27℃でインキュベートした。濁りが観察されると、サンプルを固形寒天(LB又はYESP)にプレーティングして、単一の純粋な区別可能なコロニーを得た。単一の別個のコロニーは、区別可能なコロニー形態に基づいて選択され、新鮮な液体培地に移された。一晩培養した培養物(500μL)を、等量の80%滅菌グリセロールと完全に混合し、-80℃で凍結保存した。
【0067】
サンプル分析
上記の様々な組織から分離した細菌のサンプルを外部の分析グループ(DYNAMIMED S.L.)による同定のために送った。細菌コロニーは、標準的な生化学的試験を使用した生化学的特性評価によって同定された。
【0068】
中腸組織の顕微鏡観察
羽化後の様々な年齢の蚊(成虫の雌)を中腸のために顕微解剖した(Leica、M80)。次いで、これらをガラス側の上の滅菌PBSにマウントするか、又は0.2%マーキュロクロムD/W溶液で10~15分間インキュベートした。10倍又は40倍の対物レンズを備えた光学顕微鏡(Leica、DM2000)を使用して(合計倍率100倍又は400倍)、又はガラスカバースリップに油を一滴垂らして油浸を使用して100倍で個々の中腸を観察した。
【0069】
結果
蚊の生存及び生殖能力
ステフェンスハマダラカのCRESAコロニーは、バルセロナのCRESAから輸入された卵を使用して、2012年8月にTresCantos施設で樹立された。蚊のコロニーは、ロンドンのインペリアルカレッジ(Robert Sindenグループ)からの卵を使用してCRESAで最初に樹立された。時間の経過による蚊の生存、生殖能力及び全体的な品質の妨害はなかった。蚊の異常な死亡は観察されなかった。ヒトの血液を吸血する割合は、60%~70%であった(これは、このコロニーの蚊で観察された平均吸血率であった)。
【0070】
【0071】
これらのサンプルはすべて、生化学的特性(BiomerieuxのAPIストリップ)によってシュードモナス・オリジハビタンス(Pseudomonas oryzihabitans)として最初に同定された、1種の主要な細菌の優勢を示した。これらのサンプルを16S rRNAタイピングによって再分析し、2種の異なる細菌:デルフチア・ツルハテンシス(
図1)及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)を同定した。優勢な細菌は、16S rRNAタイピングによってデルフチア・ツルハテンシスとして同定された。別の細菌であるシュードモナス・プチダもまた蚊の組織から分離されたが、デルフチア・ツルハテンシスほど優勢ではなかった。
【0072】
実施例2 デルフチア・ツルハテンシス及びマラリア伝播:熱帯熱マラリア原虫伝播の阻害におけるデルフチア・ツルハテンシスの役割を明らかにするための概念実証実験
ステフェンスハマダラカにおいて熱帯熱マラリア原虫感染を抑制するデルフチア・ツルハテンシスの能力を評価した。
【0073】
ステフェンスハマダラカのコロニーは、ロンドンのインペリアルカレッジから輸入された卵を使って2012年8月にGSK(スペインのTresCantos施設)で新たに樹立された。スタンダードメンブレンフィーディングアッセイ(SMFA)では、雌の成虫の蚊を日常的に熱帯熱マラリア原虫の感染のために使用し、蚊は中腸のオーシストの平均強度(1匹の蚊あたり2~25個のオーシスト)及び有病率(80~100%)を示した。このコロニーは、1年間のコロニー形成の後、熱帯熱マラリア原虫に対する感受性を徐々に失った。コロニーの適応度及び生殖能力は損なわれなかったが、蚊の中腸は、膜全体に分散した屈折性の微視的な結晶様構造の出現と、オーシストの欠如を示したことが観察された。蚊の組織を真菌及び細菌の両方の存在についてスクリーニングし、すべての組織に優勢的に存在する少なくとも1種の細菌種の存在を確認した。感受性の低下に寄与し得るいくつかの異なる因子、例えば、繁殖条件、食物、温度、水を調査した。特定の種類の細菌がこのように過剰に存在する原因となった可能性のある因子の1つは、当時使用されていた繁殖プロトコルに関連している可能性があった。マラリア原虫に対する感受性の欠如のため、蚊のコロニーを中断した(discontinue)。蚊の組織サンプル(幼虫、雄及び雌の成虫、中腸組織)は-80℃で保存された。優勢な細菌は、16S rRNAタイピングによってデルフチア・ツルハテンシスとして同定された。別の細菌であるシュードモナス・プチダもまた蚊の組織から分離されたが、デルフチア・ツルハテンシスほど優勢ではなかった。
【0074】
凍結保存した蚊の組織サンプルの処理
ステフェンスハマダラカの幼虫及び成虫の雌の中腸の凍結保存組織サンプルは、27℃のLBブロスで成長させた後、-80℃で保存されたGSKグリセロールストックから選択された。これらのサンプルは、熱帯熱マラリア原虫を伝播することができなかった、2012年に樹立されたステフェンスハマダラカのコロニーから取得された。番号5、11及び28のラベルが付いた3本の異なるバイアルを選択した。
番号5=5~8日齢の蚊の中腸。
番号ll=26~30日齢の成虫の中腸。
番号28=ホモジナイズされたステージIIの幼虫から分離された大きなコロニー。
【0075】
各サンプルから個々のコロニーを分離するために、滅菌ループを各チューブに導入し、37℃、200rpmで一晩維持した20mLのLBブロスに植菌した(デルフチアは37℃及び27℃の両方で増殖することができる)。サンプルをLBプレートに画線し、37℃で24~48時間保持した。純粋なコロニーを、同定のために外部の研究所(DYNAMIMED S.L.)に送った。これらのサンプルはすべて、生化学的特性(BiomerieuxのAPIストリップ)によってシュードモナス・オリジハビタンスとして最初に同定された、1種の主要な細菌種の優勢を示した。しかしその後、これらのサンプルを16S rRNAタイピングによって再分析し、2種の異なる細菌:デルフチア・ツルハテンシス(
図1)及びもう一方のシュードモナス・プチダを同定した。
図1は、デルフチア・ツルハテンシスのコロニー形態を示す:クリーム白色の円形コロニー、グラム陰性、桿状、カタラーゼ及びオキシダーゼ陽性、コマモナス科の運動性細菌。
【0076】
蚊の飼育及び中腸からの細菌叢の除去のための抗生物質処理
ステフェンスハマダラカの周期性コロニー(cyclic colony)を、26.5±1℃、14L:10Dの光周期、75±5%RHの環境管理されたチャンバー(Panasonic MLR352 PE)で維持した。昆虫飼育ケージ(30×30×30cm;Bugdorm(登録商標))に入れられた成虫は、10%スクロース(SigmaAldrich(登録商標)S7903)/水溶液+1% Karo(登録商標)シロップに自由にアクセスすることができた。幼虫はプラスチックトレイ(20×15×6cm)で250匹の幼虫/トレイの群で飼育され、粉末のTetra(登録商標)金魚スティックで給餌された。
【0077】
蚊の中腸の正常な細菌叢を除去するために、新しく誕生した蚊(newly emerged mosquito)に、1×ペニシリン・ストレプトマイシン[Sigma-Aldrich(登録商標)、P4333]及び0.4%ゲンタマイシン[Sigma-Aldrich(登録商標)、G1397]を含む、10%スクロースの滅菌蒸留水溶液を給餌した。綿を48時間ごとに新鮮な抗生物質溶液と交換した。実験を行う2日前に、雌の蚊を二重網で封されたボール紙容器に静かに移した。これらの蚊は、糖に浸した綿を除くことによって一晩飢餓状態にした。抗生物質処置が効果的であるか否かを判断するために、10~12匹の蚊の中腸を解剖し、PBS中でホモジナイズし、LB寒天培地にプレーティングした。
【0078】
細菌サンプルの調製及びステフェンスハマダラカの中腸での再増殖
LBプレートからのデルフチア・ツルハテンシスの純粋なコロニーを使用して、蚊に導入するための細菌サンプルを調製した(
図1を参照)。単一の細菌コロニーを100mLのLBブロスで37℃、200rpmで、OD
600が1.0{10
6コロニー形成単位(CFU)/mL}になるまで一晩増殖させた。8mLの培養物をペレット化し(遠心分離2分、10,000g)、10%スクロース溶液で2回洗浄し、最後に4mLの10%スクロース溶液に再懸濁した(最終OD
600は約2.0)。この懸濁液を、綿のプラグで覆われた小さな(5mL)ガラス試験管に導入した。綿が懸濁液を完全に吸収するようにチューブを引っ繰り返し、蚊のカップに導入して餌を与えた。実験当日、蚊は10%糖液+細菌を染み込ませた綿で2時間餌を与えた。細菌懸濁液を摂食する前に、抗生物質で処理された蚊(上記のように40~50匹の雌成虫/カップ)を24時間飢餓状態にした。次いで、すべての綿を10%糖溶液に浸した新鮮な綿と交換した。未処理の蚊(対照)には、細菌懸濁液を含まない10%スクロース溶液が提供された。
【0079】
蚊の中腸からの細菌負荷の計数
滅菌PBSを含むスライドガラスで、実体顕微鏡下で蚊を注意深く解剖した。10匹の雌の蚊(各処理)からの中腸を、1.5mLのエペンドルフチューブに入った100μLの滅菌PBSにすばやく導入した。ハンドヘルドホモジナイザーを使用してサンプルをホモジナイズし、段階希釈を行った。各希釈液100μLをLB寒天プレートにプレーティングし、37℃で24~48時間インキュベートした。細菌コロニーを計数し、CFU/mLを決定した。
【0080】
熱帯熱マラリア原虫の伝播におけるデルフチア・ツルハテンシスの役割
マラリア原虫伝播におけるデルフチア・ツルハテンシスの役割を決定するために、細菌が定着している蚊(上記のとおり)に、以下に説明するようにSMFAにおいて、成熟したガメトサイト(gametocyte)を給餌した。表1は、対照群及び試験群における様々な処理を説明する。
【0081】
【0082】
ガメトサイトの生産
M.Delves(インペリアルカレッジ、ロンドン)から親切に提供された熱帯熱マラリア原虫NF54ガメトサイト生産株から、ガメトサイト培養物を生成した。10%のヒト血清を含むRPMI培地で、無性生殖体(asexual)を最大1%の総パラサイテミアで(at a maximum of 1% total parasitemia)維持した。Ifediba and Vanderberg (1981)によって記載されたプロトコルからガメトサイト培養プロトコルを適応した。ガメトサイトの誘導は、5%ヒト血清A+及び0.5% Albumaxを含むRMPI培地において、0.5%パラサイテミア(parasitemia)(>70% 輪状(ring))及び4%ヘマトクリット値で開始された{ガメトサイト生産培地:RPMI1640(Sigma R5886)1500mL、30mM重炭酸塩(Sigma-Aldrich S5761)、5mMヒポキサンチン(Gibco 11067-030)。培地は、5%ヒト血清A+及び0.5% Albumaxにより完全となった}。
【0083】
毎日培地を交換し、新鮮なRBCを添加せずに、培養物を最大20日間維持した。誘導後13~15日目に、培地を血清のみのガメトサイト処理培地に置き換えた{L-グルタミン及び25mM HEPES(Gibco 13018-031)を含むRPMI 1640(15.87g)、10mMグルコース(Sigma-Aldrich G8270);20mM重炭酸塩(Sigma-Aldrich S5761);5mMヒポキサンチン(Gibco 11067)/L。培地は、10%ヒトA+血清(Interstate Blood Bank)により完全となった}。ステージVガメトサイテミア(gametocytemia)の雄及び雌のガメトサイト比についてギムザ染色塗抹標本を使用し、生存率について鞭毛放出アッセイ(exflagellation assay)を実施することにより、培養物を13日目以降、毎日モニターした。
【0084】
スタンダードメンブレンフィーディングアッセイ(SMFA)
SMFAの開始の2日前に、抗生物質で処理された蚊に上記のデルフチア属の種を給餌した。給餌の日に、成熟したガメトサイト培養物を、37℃で3分間、2500×gで遠心分離した。上清を除去し、血中血球容積が100%である新鮮なヒトRBCで1:1にペレットを希釈して、最終的に、事前に温めたヒト血清を含む50%ヘマトクリット値である蚊用人工血液ミール(artificial mosquito blood meal)として、調合した。すべての工程を37℃で実行した。ガメトサイトを含まない血液ミールを同様の方法で調製した。37℃の循環水浴に接続されたガラスフィーダー(Fisher Scientific、#12831283)に取り付けられたパラフィルムメンブレンを介して、調製した血液ミールを雌のステフェンスハマダラカに30~40分間、デュプリケートで給餌した。26.5±1℃、14L:10Dの光周期及び75±5% RHのインキュベーターで、給餌した蚊を維持した。吸血後24時間で蚊を中腸について注意深く解剖し、細菌数を上記のように決定した。中腸のオーシストを計数するために、完全に発達した卵巣を有する蚊(給餌された蚊)を、給餌後7~8日目で中腸について解剖し(Leica、M80)、0.2%マーキュロクロムD/W溶液中で10~15分間インキュベートした。10倍の対物レンズを使用する光学顕微鏡(倍率100倍)(Leica、DM2000)を使用して、個々の中腸におけるオーシストの総数をカウントした。感染率(1又は2以上のオーシストを有する蚊の割合)及び感染の平均オーシスト強度の両方が、各処理で決定された。
【0085】
結果
デルフチア・ツルハテンシスはステフェンスハマダラカの中腸に定着することに成功した。
デルフチア属の種(デルフチア・ツルハテンシス)が蚊の中腸に定着するのに効率的か否かを判断するために、デルフチアを給餌した蚊を、2回の異なる時点(感染性の血液の給餌(SMFA)前及び吸血から24時間後)で解剖した。10匹の蚊の中腸をプールし、100μLのPBSでホモジナイズし、LB寒天培地にプレーティングし、CFUを測定した。1種類のコロニーのみが観察された。回収された細菌のコロニー形態及び特徴は(数は非常に少ないが)、デルフチア属の種と同一であり、それによりデルフチア属の種が蚊の中腸に定着することができたことが確認された。(表2)。吸血後、細菌数は2~3桁増加した(吸血後の中腸フローラの増加を示す報告/研究と一致)。対照未処理群の蚊の中腸は、吸血前後の両方でコロニーの存在を示さず、在来の細菌叢の除去におけるゲンタマイシン・ペニシリン・ストレプトマイシン処理の有効性を証明した(表2)。
【0086】
【0087】
デルフチア・ツルハテンシスは、ステフェンスハマダラカにおける熱帯熱マラリア原虫の平均オーシスト強度及び感染率を大幅に低下させた。
未処理の対照と比較して、平均オーシスト強度の70%以上の低下が再定着させた蚊において観察された。結果は、処理された蚊において60%を超える伝播の阻害を示した(
図2)。
【0088】
使用されたゲンタマイシン・ペニシリン・ストレプトマイシン処理は、GSKステフェンスハマダラカに存在する在来の培養可能な細菌性中腸フローラの除去に成功した。糖又は血液を給餌された蚊の中腸で、デルフチア・ツルハテンシスの細菌集団を検出することに成功した。血液を給餌した蚊は、血液ミールを給餌した24時間後に、糖を給餌した蚊と比較して細菌数の2~3倍の増加を示した。熱帯熱マラリア原虫の平均オーシスト強度の70%以上の減少及び60%の伝播の阻害が、未処理の対照と比較して検出された。蚊の中腸への熱帯熱マラリア原虫のオーキネートの侵入は、吸血後16~24時間で起こる。この期間(吸血後24時間)中に、蚊の中腸からデルフチア・ツルハテンシスの細菌コロニーのみが回収され、熱帯熱マラリア原虫のオーシスト数の減少にデルフチア・ツルハテンシスが直接的に関与していることが示唆された。