(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多孔質シリコン微粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/03 20060101AFI20240930BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C01B33/03
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2022510607
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012294
(87)【国際公開番号】W WO2021193737
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2020058072
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】望月 直人
(72)【発明者】
【氏名】福原 浩二
(72)【発明者】
【氏名】石田 晴之
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221157(WO,A1)
【文献】特開2017-112057(JP,A)
【文献】特開2011-256057(JP,A)
【文献】特表2013-514252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
H01M 4/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性を有することを特徴とする多孔質シリコン微粒子;
A:平均直径が80~500nmであること;
B:BET比表面積が150m
2/gを超え、500m
2/g以下であること;
C:非晶質であること;
D:塩素濃度が、0.1~5.0質量%の範囲にあること;
E:微粒子中の酸素濃度Co質量%とBET比表面積Sm
2/gとの比Co/Sが0.030以下であること。
【請求項2】
前記酸素濃度CoとBET比表面積Sとの比Co/Sが0.010未満である請求項1に記載の多孔質シリコン微粒子。
【請求項3】
更に以下の特性を有する請求項1記載の多孔質シリコン微粒子;
F:30kN/cm
2で圧密した時の嵩密度が0.8~1.0g/cm
3の範囲にあること。
【請求項4】
トリクロロシランを熱分解してシリコン微粒子前駆体を得る熱分解工程;
上記熱分解工程で得られたシリコン微粒子前駆体を不活性ガスの供給下または減圧下、570~680℃の温度で加熱して塩素濃度が20~55質量%に調整された特定シリコン微粒子前駆体を調製する脱塩素工程;
及び
脱塩素工程で得られた特定微粒子前駆体を、水と相溶性を有する有機溶媒存在下に、フッ化水素酸で処理するエッチング工程;
を含むことを特徴とする多孔質シリコン微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多孔質シリコン微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンは半導体基板や太陽電池の材料として知られているが、近年、リチウムイオン二次電池の電極材(負極材)などの種々の用途への使用が提案されている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池の負極材には、グラファイトや非晶質炭素などの炭素材料が一般的に使用されているが、理論容量が372mAh/g(グラファイトをLiC6までリチウム化した場合)と低く、より高容量の負極材が望まれている。
また、シリコンは、カーボン材料に比べて単位質量当りのリチウムの吸蔵量が大きく、理論容量が3,579mAh/g(Li15Si4までリチウム化した場合)と非常に高容量であることから次世代の負極材として検討されている。
【0004】
シリコンをリチウムイオン二次電池の負極材として使用する場合の問題点として、電池の充電時、すなわちシリコンとリチウムが合金を形成してリチウムを吸蔵する際の体積膨張が大きいことが挙げられる。
この充放電によるシリコンの膨張収縮が大きいと、次の問題を生じる。
第一に、膨張収縮の繰り返しによって、歪エネルギーが蓄積し、この結果、シリコンが粉々に破断して空隙が発生し、電気伝導性やイオン伝導性を喪失することで負極の充電容量が低下することになる。
第二に、シリコンの膨張収縮が負極全体の膨張収縮をもたらすことで、負極が集電体や電解質と剥離してしまう。さらには、電池全体にかけられている拘束荷重が変化することによって、電池の充電容量が低下したり、全く充放電できなくなってしまう。このような第二の問題は、従来の有機電解液系のリチウムイオン電池においても重大であるが、ゲル状など半固体型の電解質、あるいは固体電解質を用いる次世代のリチウムイオン電池においてはより深刻である。
【0005】
上記の第一の問題については、シリコンを微粒子化することで、膨張収縮の際にシリコン微粒子が破断し難くなり、耐久性を高くできることが知られている(非特許文献1)。
しかし、粒子径を小さくすると、単位質量当たりの表面(比表面積)が増えることになり、シリコン表面に形成される酸化膜によって酸素不純物量が多くなりやすい。シリコン中の酸素不純物はリチウムと不可逆的に結合することで不可逆容量の原因となり、充電容量を低下させるため、酸素不純物量が極力少ないシリコン微粒子が望まれる。
【0006】
また、リチウムとの合金化におけるシリコンの膨張率は結晶質のシリコンほど大きいことが知られており、粒子中の結晶ドメイン(結晶子)が小さく非晶質に近いものであるほど、特に初回充電時におけるリチウムとの合金化に伴う膨張が抑制される傾向がある。しかし、シリコン基板の表面を限定的に非晶質化する方法は知られているが、非晶質のシリコン微粒子を工業的に得る方法は知られていない。特に、電池材料として望まれる酸素不純物量が少なく、かつ非晶質のシリコン微粒子を工業的に得ることは非常に困難である。
【0007】
負極全体の膨張収縮が大きくなるという第二の問題に対しては、負極に用いるシリコンが適度な空隙を保持することで、充電時のシリコンの膨張を空隙が緩和し、負極全体としての膨張収縮を抑制できる。シリコンに空隙を保持させる方法としては、微粒子そのものを多孔体とし、微粒子内部に空隙を形成する方法がある。シリコンそのものを多孔体にする方法としてはシリコンと異種金属による合金を相分離させ、異種金属を酸またはアルカリによって除去することで多孔体を得る方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法ではシリコンが主に結晶質として得られることに加え、異種金属による金属コンタミネーションや異種金属を酸で溶解した際のシリコンの酸化などの課題がある。また、製造方法が煩雑であり、工業的かつ安価にシリコン微粒子を大量製造することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】X.H.Liu et al.,“Size-Dependent Fracture of Silicon Nanoparticles During Lithiation”,ACSNANO Vol.6,No.2,pp.1522-1531(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、リチウムイオン電池の電極材料として好適に使用される多孔質シリコン微粒子を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記多孔質シリコン微粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはリチウム電池の電極材料に適したシリコンについて多くの実験を行い検討した結果、クロロシランの熱分解で得られたシリコン微粒子を一定の温度域で加熱処理した後、さらにフッ化水素酸で処理することによって、リチウムイオン電池の電極材料として好適な多孔質シリコン微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明によれば、下記特性を有することを特徴とする多孔質シリコン微粒子が提供される。
(A)平均直径が80~500nmであること;
(B)BET比表面積が150m2/gを超え、500m2/g以下であること;
(C)非晶質であること(即ち、X線回折においてシリコン結晶に由来するピークが検出されない);
(D)塩素濃度が、0.1~5.0質量%の範囲にあること;
(E)微粒子中の酸素濃度Co質量%とBET比表面積Sm2/gとの比
Co/Sが0.030以下であること;
【0013】
本発明の多孔質シリコン微粒子においては、
(1)前記酸素濃度CoとBET比表面積Sとの比Co/Sが0.010未満であること、
(2)30kN/cm2で圧密した時の嵩密度が0.8~1.0g/cm3の範囲にあること(特性F)、
が好ましい。
【0014】
本発明によれば、また、
トリクロロシランを熱分解してシリコン微粒子前駆体を得る熱分解工程;
上記熱分解工程で得られたシリコン微粒子前駆体を不活性ガスの供給下または減圧下、570~680℃の温度で加熱して塩素濃度が20~55質量%に調整された特定シリコン微粒子前駆体を調製する脱塩素工程;
及び
脱塩素工程で得られた特定微粒子前駆体を、水と相溶性を有する有機溶媒存在下に、フッ化水素酸で処理するエッチング工程;
を含むことを特徴とする多孔質シリコン微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多孔質シリコン微粒子は、低酸素濃度であるとともに、塩素がシリコンの結晶格子内に存在することにより非晶質である。また、化学的に安定であるため、大気中に保持してもほとんど品質が変化することはない。これに加えて、高度な多孔質構造を有することにより膨張収縮によって破壊せず、しかも、圧密した際にも空隙を保持し、低い嵩密度を維持することができる。それ故、リチウムイオン電池の負極材として用いた際の体積変化を抑制する機能を有するため、シリコン特有の高い充放電容量を有しながら充電時の負極の膨張を効果的に抑制し、充放電の繰り返しに伴う電池性能の低下を効果的に抑制することが可能となる。
【0016】
また、本発明の多孔質シリコン微粒子の製造方法は、上記特性を有する多孔質シリコン微粒子を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の多孔質シリコン微粒子の粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<多孔質シリコン微粒子>
本発明の多孔質シリコン微粒子は、下記の(A)~(E)の特性を有している。
【0019】
(A)平均直径;
本発明の多孔質シリコン微粒子は、平均直径が80~500nm、好ましくは、100~250nmの範囲にある。このように微細な粒子径を有することにより、リチウムイオン電池の負極剤として使用した際、膨張収縮による破壊を極めて効果的に抑制することができる。
【0020】
(B)BET比表面積;
また、本発明の多孔質シリコン微粒子は、前記のような平均直径を有していると同時に、150m2/gを超えるという、極めて高い比表面積を有していることが特徴の一つである。例えば倍率30万倍の超高倍率のSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、微粒子が多孔質の構造を有することが確認され、これにより比表面積が著しく増大していることが推定される。そして、このように比表面積が大きく、多孔質の構造を採ることで圧密した際にも低い嵩密度を維持して空隙を保持することができるという特性を発揮することができ、例えば、リチウムイオン電池の負極剤として使用した際、膨張収縮による破壊を抑制する効果を更に高めることができる。
【0021】
上記多孔質シリコン微粒子の比表面積は、200m2/g以上が特に好ましい。また、比表面積の上限は特に制限されないが、粒子の強度や製造上の制限などより、500m2/g以下、特に450m2/g以下であることが好ましい。
【0022】
(C)非晶質;
本発明の多孔質シリコン微粒子は、X線回折において、シリコン結晶に由来するピークが検出されない。即ち、非晶質であるため、リチウムイオン電池の負極材として用いた際の体積変化を抑制する性質を有している。
【0023】
(D)塩素濃度;
また、本発明の多孔質シリコン微粒子は、塩素を、0.1~5.0質量%、好ましくは0.5~4.5質量%の割合で含有している。即ち、このような塩素濃度を有していることから理解されるように、本発明の多孔質シリコン微粒子は、粒子を構成するシリコンの結晶格子内に塩素が存在しており、化学的に安定であり、大気中に保持してもほとんど品質が変化することはない。また、これにより、この多孔質シリコン微粒子は非晶質となり、リチウムイオン電池の負極材として用いた際の体積変化を抑制する機能を示すこととなる。
【0024】
(E)酸素濃度(Co:質量%)
一般に、シリコンの酸素濃度はシリコン微粒子表面の酸化に起因するものが主体であるため、シリコン微粒子の粒子径が小さくなれば比表面積が増え、酸素濃度は高くなる。このため、比表面積と酸素濃度をそれぞれ規定することは難しい。しかしながら、本発明の多孔質シリコン微粒子は、後述するように、フッ化水素酸処理でシラノール基が除去され、さらに水素で終端されることによって酸化が抑制されているため、前述したような大きなBET比表面積を有していながら、その酸素濃度は低い。例えば、酸素濃度Co(質量%)とBET比表面積S(m2/g)との比Co/Sは0.030以下であり、0.010未満にもなり得る。
【0025】
(F)圧密嵩密度;
本発明のシリコン微粒子は、多孔質であり、この微粒子を圧密した際にも低い嵩密度を維持することができる。例えば、このシリコン微粒子を30kN/cm2の力で圧密した際の嵩密度は、0.8~1.0g/cm3、好ましくは0.9~1.0g/cm3の範囲にある。リチウムイオン電池の製造に際しては、一般的に負極をプレスする工程があることから、圧密した際にも低い嵩密度を維持することは、電池となった後もシリコンを含む負極内に十分な空隙を保持するために重要である。そして、この空隙は、電池を充電した際にシリコンの膨張に起因する負極の膨張を緩和する役割を有し、充放電の繰り返しにおけるリチウムイオン電池の耐久性を向上させる。
【0026】
因みに、上記のような嵩密度の範囲は、シリコンの真密度が2.33g/cm3であることから換算すると、その空隙率は57~66%、好ましい範囲で、61~66%に相当する。
【0027】
上述したように本発明の多孔性シリコン微粒子は、シリコンの結晶格子内に塩素が存在することにより化学的に安定であると共に、これにより非晶質であり、リチウムイオン電池の負極材として用いた際の体積変化を抑制する機能を有する。更に、膨張収縮によって破壊し難い微粒子状であり、しかも、多孔質の構造となっていることで圧密した際にも低い嵩密度を維持して空隙を保持する性質を有し、高い比表面積でありながら不可逆容量の原因となる酸素不純物濃度が極めて低い性質を有する。そのため、シリコンの高い充放電容量を持ちながら、シリコンを用いた負極の欠点である充放電時の膨張収縮が抑制され、充放電の繰り返しによる充放電容量の低下が少ない負極を構成することが可能となる。
【0028】
上記多孔質シリコン微粒子は、必要に応じて解砕、または任意の凝集粒子径に造粒され、さらに必要に応じて任意の溶媒に均一分散したのち、特にリチウムイオン二次電池の負極材として好適に使用することができる。
【0029】
本発明の多孔質シリコン微粒子は、必要に応じて、それ自体公知の各種材料、例えば、負極材料、導電助剤、バインダー、その他の添加剤と混合し、これを圧粉したり、任意の溶媒に分散して集電体上に塗布・乾燥することで、リチウム電池用の負極を得ることができる。
尚、上記の負極材料としては、合成黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、非晶質炭素などを挙げることができる。
また、導電助剤としては、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、繊維状カーボン(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)などを挙げることができる。
さらに、バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリル酸(PAA)などを挙げることができる。
【0030】
<多孔質シリコン微粒子の製造方法>
上述した本発明の多孔質シリコン微粒子は、トリクロロシランを原料とし、このトリクロロシランは熱分解工程、脱塩素工程、エッチング工程を経て製造される。
【0031】
熱分解工程;
熱分解工程では、ケイ素源としてトリクロロシランが使用され、これを熱分解してシリコン粒子(シリコン微粒子前駆体)を得る。
このとき、トリクロロシランには、他のケイ素化合物、例えば、ジクロロシラン、四塩化珪素などが含まれていてもよいが、その量は、Si源中の全モル中に30mol%以下の量であることが望ましい。
【0032】
また、Si源とともに、窒素やアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスをキャリヤガスとして使用することができる。即ち、トリクロロシランは沸点が約32℃と高く液化しやすいが、キャリヤガスを混合することでガス状態を保ち容易に定量供給することができる。キャリヤガスの量は特に制限されず、トリクロロシランに対して、5~80体積%の範囲で使用することが、トリクロロシランの気化安定化のために望ましい。
勿論、気化条件およびガス配管の加温を適切に実施することで、キャリヤガスを使用せずに工業的に実施することもできる。
【0033】
反応容器としては、通常、内壁が石英ガラス、カーボン等の材質よりなる管型反応容器が使用され、所定の温度に内壁を加熱しうる加熱装置が設けられている。反応容器への原料ガスの供給方法は特に制限されないが、ノズルを使用して所定の温度に加熱された領域に供給するのが一般的である。
【0034】
この熱分解工程では、Si源であるトリクロロシランを600℃以上、700℃未満、好ましくは650℃以上、700℃未満の温度に加熱する。これにより、例えば下記式(1)のようにトリクロロシランが熱分解して、中間生成物であるSiClx(xは1.0以下である)を含むシリコン微粒子前駆体が得られる。
SiHCl3
→(1-n)SiCl4+nSiClx+(1/2)H2 (1)
なお、副生物には、四塩化珪素の他に、ジクロロシランやポリマー状のシランも含まれる。
【0035】
尚、加熱温度が上記範囲よりも高い場合、反応物が微粒子として生成せず、反応容器の内壁に融着して反応容器を閉塞してしまう。また、上記の温度より低い場合、目的とするシリコン微粒子前駆体が十分な収率で得られない。
【0036】
反応生成物のシリコン微粒子前駆体は排ガスと共に反応容器から取り出されて捕集され、水素や四塩化珪素、窒素、未反応トリクロロシラン、副生物のジクロロシラン、ポリマー状のシランなどと分離される。捕集方法は特に制限なく、たとえば、サイクロン式の捕集手段や、バグフィルター、電気集塵などの既知の方法を使用できる。
【0037】
捕集されたシリコン微粒子前駆体は、続いて脱塩素工程に送られる。上記シリコン微粒子前駆体の移送手段は、酸素および水分に触れず、かつ容器からのコンタミがない限り、特に制限されない。
【0038】
たとえば、シリコン微粒子前駆体を、カーボン製、アルミニウム製、ニッケル被覆されたSUS製などの容器に窒素置換した後に充填し、脱塩素工程に移送してもよい。カーボン製容器は特に電池材料として使用する際に問題となる金属系コンタミの影響が少なく、高温の粒子を充填しても変性することがないため好ましい。あるいは、前記既知の捕集手段で捕集されたシリコン微粒子前駆体をホッパー等に蓄積し、これを窒素などの酸素および水を含まないガスに同伴させて配管で空送することもできる。
【0039】
脱塩素工程;
脱塩素工程では、上記で得られたシリコン微粒子前駆体が脱塩素反応装置に導入され、570~680℃、より好ましくは580~650℃の温度で加熱して脱塩素処理が行われる。かかる脱塩素により、塩素量が調整されて特定シリコン微粒子前駆体が得られる。
【0040】
脱塩素装置での加熱は、酸素原子を含まない不活性ガスの供給下に行うか、或いは減圧下で行われる。
上記の不活性ガスは、シリコン微粒子前駆体と反応しないものであり、酸素や水を含まない限り制限はなく、窒素、アルゴン、ヘリウム等のガスが好適に使用される。また、このような不活性ガスは、露点が-50℃以下であり、水分が可及的に減少されていることが好適である。
また、前記減圧下での加熱により脱塩素を行う場合、その圧力が、1kPa以下となるように脱塩素反応容器よりガスを排気することが好ましい。
【0041】
上記の脱塩素処理によって、下記式(2)の反応が進み、塩素濃度が調整されたシリコン微粒子前駆体が得られる。
SiClx
→((4-x)/(4-y))SiCly
+((x-y)/(4-y))SiCl4
(2)
上記式中、x、yはx>y>0を満足する数である。
【0042】
脱塩素処理の加熱においては、シリコン微粒子前駆体を均一に加熱するため、シリコン微粒子前駆体を撹拌しながら加熱することが好ましい。撹拌は、反応装置内の容器自体が転動ないし振盪するもの、反応容器内に撹拌翼を設けたもの、気流で撹拌するもの、さらに、邪魔板を設けて撹拌効率を向上させたもの、あるいはロータリーキルン類似のものやスクリュー式押出機類似のものなど撹拌と粒子輸送を同時に行えるもの、などの既知のいずれの方法であってもよい。
【0043】
脱塩素処理の温度は、先に述べた通り、570~680℃、特に580~650℃であり、目的とする多孔質シリコン微粒子を得るために非常に重要である。即ち、前記温度で所定時間、具体的には、2~60分程度加熱することで、塩素濃度が20~55質量%(概算すると、0.21>y>0.97)、好ましくは、40~53質量%(概算すると、0.53>y>0.89)に調整された特定シリコン微粒子前駆体が得られる。
このように塩素濃度が調整された特定シリコン微粒子前駆体は、次のエッチング工程によって効率的に多孔化され、圧密時にも優れた空隙保持、すなわち低嵩密度を維持するシリコン微粒子となる。
【0044】
エッチング工程;
上記の工程で得られた特定シリコン微粒子前駆体は、水と相溶性を有する有機溶媒存在下に、フッ化水素酸(フッ化水素の水溶液)で処理する。
【0045】
特定シリコン微粒子前駆体中に残存した塩素基は、下記式(3)に示されているように、フッ化水素酸中に含まれる水分によって、シラノール基へと変化する。
-Si-Cl+H2O→-Si-OH+HCl (3)
【0046】
ここで生成したシラノール基は、以下の式で示されるようにフッ化水素とシラノール基が反応して、ヘキサフルオロケイ酸(H
2SiF
6)が生成し、シリコン表面は水素で終端されると考えられる。
【化1】
【0047】
上記の反応によってシラノール基近傍のシリコンがエッチングされ、シリコン微粒子は多孔質化するものと推定される。
【0048】
なお、シリコン微粒子前駆体は撥水性が高いため、フッ化水素酸と直接混合しにくい。このため本発明では、水と相溶性を有する有機溶媒存在下に、フッ化水素酸での処理を行うわけである。
【0049】
上述したフッ化水素酸処理は、例えば、以下の第1~第3の方法により行うことができる。
第1の方法:
シリコン微粒子前駆体を有機溶媒に分散させたのち、分散液にフッ化水素酸を導入する。
第2の方法:
あらかじめ有機溶媒にフッ化水素酸を溶解した溶液を調製したのち、特定シリコン微粒子前駆体と混合する。
第3の方法:
シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸とを混合したのち、有機溶媒と混合する。
【0050】
上記第1~第3の方法のうち、シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸を効率良く混合するためには第1の方法が最も好ましく、次いで第2の方法が好ましい。
【0051】
なお、上記の処理に用いるフッ化水素酸とは、フッ化水素の水溶液である。市販されているフッ化水素酸中のフッ化水素濃度は、通常47~48質量%であるが、特にこの濃度に限定されない。フッ化水素はガスとしても取扱いできるため、水とフッ化水素ガスをそれぞれ供給することでも同様の効果を期待することができるが、脱水条件下においてフッ化水素ガスを接触させた場合には、特定シリコン微粒子前駆体中の塩素がシラノール基に置換されず、また前述したヘキサフルオロケイ酸を生成するエッチング反応も進行しないため、本発明の目的である多孔質化が達成されない。このため、本発明では、実質的に水とフッ化水素の共存下を意味するフッ化水素酸を使用することが好ましい。
【0052】
有機溶媒としては、特定シリコン微粒子前駆体およびフッ化水素酸と親和性の高いものが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、IPA(イソプロピルアルコール)、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、THF(テトラヒドロフラン)、NMP(N-メチルピロリドン)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
特定シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸との混合比率は、該前駆体中の塩素が十分にシラノール基に置換されるだけの水分と、生成したシラノール基の6倍量より過剰となるフッ化水素を導入する限り特に制限されないが、通常、フッ化水素酸中の水が、該前駆体の質量に対して、100~1000質量%、好ましくは400~500質量%となる量、また、フッ化水素酸中のフッ化水素が、該前駆体の質量に対して、100~500質量%、好ましくは200~300質量%となる量で混合されることが好ましい。
有機溶媒の使用量は、特定シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸が均一に混合するのに十分な量であれば特に制限されないが、特定シリコン微粒子前駆体の質量に対して、100~1000質量%、好ましくは200~600質量%の範囲にあることが好ましい。
【0054】
特定シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸および有機溶媒との混合は、通常、容器内で撹拌、振盪、超音波分散などの公知の手段を採用できる。なお、ボールミルやビーズミルなどの粉砕媒体を使用した混合方法は、破断されたシリコン微粒子の活性の高い表面が酸化されたり、メカノケミカル反応によって有機溶媒がシリコン微粒子と化学的に結合してしまうため、粉砕媒体を使用しない混合手段が好ましい。
【0055】
特定シリコン微粒子前駆体とフッ化水素酸および有機溶媒とを混合する際に、適宜、分散剤などが使用されていてもよい。分散剤は、容易に揮散するものであれば特に制限されず、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系などのアニオン性界面活性剤、アミン塩系、4級アンモニウム塩系などのカチオン性界面活性剤、ポリエーテル系などの非イオン性界面活性剤、アンモニア、トリエタノールアミンなどの塩基などが使用され、その使用量は、特定シリコン微粒子前駆体の質量に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0056】
特定シリコン微粒子前駆体を、フッ化水素酸で処理する温度は有機溶媒やフッ化水素が蒸散しない温度であれば特に制限されず、通常は、室温から80℃の温度で行われるがこの限りではない。
【0057】
処理時間も特に制限されないが、1~120分程度、全体的に流動して混合できれば特に制限されない。
【0058】
なお、フッ化水素酸処理において、シリコンウェハの表面エッチングの方法として一般的に行われているような硝酸や過酸化水素などの酸化剤を添加することは、好ましくない。酸化剤を添加するとシリコン微粒子の表面酸化と酸化物除去が激しく進行することで、シリコン微粒子が減容して収率が著しく低下する原因となり、極端な場合、シリコン微粒子全体が溶解消失してしまう。
【0059】
フッ化水素酸が混合された特定シリコン微粒子分散液は、加熱および/または減圧下に乾燥される。かかる乾燥処理によって、有機溶媒、残存フッ化水素酸、生成したヘキサフルオロケイ酸や水の他に、特定シリコン微粒子前駆体が有する塩素とフッ化水素酸に含まれる水とが反応して生成した塩化水素なども除去される。
加熱温度は特に制限されず、前記成分が蒸発する温度以上で行われる。具体的には、大気圧で、80~300℃の温度で加熱することが好ましい。また減圧も前記成分が除去できる条件であれば特に制限されず、大気圧以下で、たとえば40~80torrの減圧下(標準的な大気圧の5~10%程度)まで減圧すればよい。乾燥方法としては特に制限されず、たとえば静置乾燥でもよく、スピン乾燥、熱風乾燥や噴霧乾燥も可能である。さらに、減圧時に加熱を行ってもよい。
【0060】
また、乾燥前に予めシリコン微粒子分散液を固液分離しておくのも好ましい態様である。固液分離の方法としては、遠心分離、吸引濾過、限外濾過、加圧濾過などの既知の分離手段を用いることができる。
【0061】
上述のような脱塩素処理条件及びエッチング条件により得られたシリコン微粒子は、シリコン結晶による骨格を持った多孔性の粒子であり、圧密された場合も優れた空隙保持即ち高い嵩密度を維持できる。この性質はシリコン電池材料、中でも高い圧力(拘束圧)を加えて電池を構成する全固体電池への適用において、シリコンを含む負極内に十分な空隙を保持するために重要である。そして、この空隙は、電池を充電した際にシリコンの膨張に起因する負極の膨張を緩和する役割を有し、充放電の繰り返しにおけるリチウムイオン電池の耐久性を向上させ、高い充放電能力を長期間維持できるため、有用と考えられる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実験で得られたシリコン微粒子の各種物性や各種の測定は、下記の方法により測定した。
【0063】
(1)トリクロロシランの反応率
トリクロロシランの反応率は、反応後の排出ガスの組成をガスクロマトグラフで分析し、検出されるトリクロロシラン、四塩化ケイ素、ジクロロシランの比率から算出した。
【0064】
(2)各粒子の平均直径
試料粒子のSEM観察画像を、画像解析し、100個の粒子について円相当直径を算出し、その平均を平均直径とした。
【0065】
(3)特定シリコン微粒子前駆体中の塩素濃度
特定シリコン微粒子前駆体を、水10質量%を混合したエタノールに分散して反応性の高い塩素基をシラノール基に置換させた後、蒸発乾燥して計測用試料を得た。
計測用試料を蛍光X線分析によって計測した塩素濃度(残存塩素)と、酸素窒素濃度分析計(LECO社製TC-600)で計測して求めた酸素濃度(塩素基をシラノール基に置換したもの)からそれぞれのモル濃度を算出し、その合計を特定シリコン微粒子前駆体の塩素モル濃度として求め、これを質量%濃度に換算した。
【0066】
(4)多孔質シリコン微粒子中の塩素濃度
試料を蛍光X線分析によって計測して求めた。
【0067】
(5)多孔質シリコン微粒子のBET比表面積
試料を、窒素ガスBET吸着法を用いた比表面積測定装置で計測して求めた。
【0068】
(6)多孔質シリコン微粒子中の酸素濃度
試料を酸素窒素濃度分析計で計測して求めた酸素濃度Co(質量%)を、試料のBET比表面積S(m3/g)で除することで規格化し、Co/Sとして表した。
【0069】
(7)多孔質シリコン微粒子の平均結晶子径
試料のX線回折によって得られる回折プロファイルを、Halder-Wagner法で解析することにより求めた。
X線回折でシリコン結晶に由来するピークが検出できないものを「非晶質」とした。
【0070】
(8)多孔質シリコン微粒子およびシリコン微粒子の圧密時の嵩密度
直径10mmの円柱状の粉末圧縮用ダイス(超鋼製)に秤量した試料を充填し、精密万能試験機(島津製作所社製オートグラフAG-X)を用いて規定の荷重となるよう加圧し、このときの圧密試料の高さと試料重量から嵩密度を算出した。
【0071】
<実施例1>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
内径80mm、長さ2500mmのグラファイト製反応筒を690℃に加熱し、ここにトリクロロシランを900g/min、窒素ガスを37NL(Lはリットル)/minの速度で供給してシリコン微粒子前駆体を合成し、バグフィルターで未反応ガスと分離・捕集した。
トリクロロシランの反応率は約40%であり、生成したシリコン微粒子前駆体の約70%がバグフィルターで捕集された。捕集したシリコン微粒子前駆体は雰囲気を窒素で置換された貯蔵容器に蓄積した。捕集されたシリコン微粒子前駆体の一部をサンプリングし、SEM観察を行った結果、微粒子前駆体の平均粒子径(平均直径)は約170nmであった。
【0072】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
上記の貯蔵容器に蓄積されたシリコン微粒子前駆体を、大気に触れないよう注意しながら窒素置換されたグラファイト製の加熱坩堝に供給した。
このグラファイト製坩堝の内部に適量の窒素を供給し、流通させながら、580℃まで加熱した。580℃に到達後、1時間保持したのちに加熱を停止し、自然冷却を行った。冷却後、加熱坩堝を大気開放し、塩素濃度が48.9質量%の特定シリコン微粒子前駆体を取り出した。
【0073】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール170gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)125gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0074】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は150nm、BET比表面積は441m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、1.05質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.003であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は0.93g/cm3であった。
【0075】
<実施例2>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0076】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を600℃とした他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は48.5質量%であった。
【0077】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール152gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)125gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0078】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は150nm、比表面積は396m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、1.58質量%であった。酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.009であった。
【0079】
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は0.95g/cm3であった。
【0080】
<実施例3>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0081】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を620℃とした他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は42.0質量%であった。
【0082】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール175gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)125gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0083】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は170nm、BET比表面積は224m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、4.34質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.005であった。
【0084】
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は1.00g/cm3であった。
【0085】
<実施例4>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0086】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を640℃、保持時間を0.5時間とした他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は51.3質量%であった。
【0087】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール175gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)125gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0088】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は160nm、BET比表面積は200m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、1.25質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.022であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は1.00g/cm3であった。
【0089】
<実施例5>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0090】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を640℃とした他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は20.9質量%であった。
【0091】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール75gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)50gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0092】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は170nm、BET比表面積は225m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、1.21質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.014であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は0.95g/cm3であった。
【0093】
<比較例1>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0094】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
実施例1と同様の方法で実施した。
【0095】
フッ化水素酸処理;
実施しなかった。
【0096】
得られたシリコン微粒子の平均直径は170nm、BET比表面積は36m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量当り、6.24質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)と比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.100であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は1.17g/cm3であった。
【0097】
<比較例2>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0098】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を720℃とした他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は24.2質量%であった。
【0099】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール175gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)125gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した。
得られた乾燥粉をガラス容器に移し、真空乾燥機で、120℃で12時間加熱減圧乾燥し、多孔質シリコン微粒子を得た。
【0100】
得られた多孔質シリコン微粒子の平均直径は170nm、BET比表面積は56m2/g、非晶質であり、塩素濃度が微粒子質量に対し、6.60質量%であった。
酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.050であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は1.06g/cm3であった。
【0101】
<比較例3>
シリコン微粒子前駆体の合成(熱分解);
実施例1と同様の方法で実施した。
【0102】
シリコン微粒子前駆体の脱塩素;
加熱温度を550℃とする他は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた特定シリコン微粒子前駆体の塩素濃度は55.8質量%であった。
【0103】
フッ化水素酸処理;
フッ素樹脂製のビーカーに得られた特定シリコン微粒子前駆体を25g採取し、エタノール126gと混合したのち、47質量%フッ化水素酸(和光純薬試薬 特級)150gとイオン交換水50gを混合したフッ化水素酸を添加した。
フッ素樹脂製の撹拌棒を用いて室温で5分間撹拌したのち1時間静置し、180℃で加熱乾燥した結果、前駆体の全量が溶解し、多孔質シリコン粒子は得られなかった。
【0104】
<比較例4>
多結晶シリコンを破砕した粉末(平均直径5μm)をエタノール中に分散し、ビーズミル(ジルコニアビーズ 直径0.05mm)を用いて湿式破砕することで、平均直径200nmの板状の微粒子を得た。
得られたシリコン微粒子のBET比表面積は85m2/g、平均結晶子径は6nm、塩素濃度は検出下限(0.1質量%)以下であり、酸素濃度(Co:質量%)とBET比表面積(S:m2/g)との比(Co/S)は0.129であった。
また、得られた多孔質シリコン微粒子の30kN/cm2圧密時の嵩密度は1.58g/cm3であった。
【0105】
以上の結果をまとめて表1に示す。
【0106】