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特許7562645がん細胞への交流電場の印加及びチェックポイント阻害剤の投与によってがん細胞の生存率を低下させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】がん細胞への交流電場の印加及びチェックポイント阻害剤の投与によってがん細胞の生存率を低下させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20240930BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61N1/32
A61K39/395 U
A61P35/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022515740
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 US2019059650
(87)【国際公開番号】W WO2021050093
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】62/898,290
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドンジアン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・トラン
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/071837(WO,A1)
【文献】特表2019-503398(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0143135(US,A1)
【文献】国際公開第2019/100016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 ―18/18
A61K 39/395―39/44
A61N 1/00 ― 1/44
A61P 35/00 ―35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞の生存率を低下させる方法において使用するための、交流電場ジェネレータ及びチェックポイント阻害剤の組合せ物であって、前記方法が、
交流電場を100から500kHzの周波数で3から10日間がん細胞に印加する工程、及びチェックポイント阻害剤を前記がん細胞に投与する工程
を含む、組合せ物。
【請求項2】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に3から10日間連続的に印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項3】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に3から10日間非連続的に印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項4】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に、3から10日間の各1日当たり少なくとも4時間印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項5】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に、3から10日間の各1日当たり少なくとも6時間印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項6】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に3日間印加し、その後3日間前記交流電場を前記がん細胞に印加せず、更に3日間前記交流電場を前記がん細胞に印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項7】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に1週当たり少なくとも3日間印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項8】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に3から10日の第1の期間印加し、その後前記交流電場を印加しない第2の期間を続ける、請求項1に記載の組合せ物
【請求項9】
前記方法において、前記第2の期間が少なくとも第1の期間と同じである、請求項8に記載の組合せ物
【請求項10】
前記方法において、前記交流電場を前記がん細胞に短パルスで印加する、請求項1に記載の組合せ物
【請求項11】
前記がん細胞が、神経膠芽腫細胞、膵臓がん細胞、卵巣がん細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞、及び中皮腫からなる群から選択される、請求項1に記載の組合せ物
【請求項12】
前記がん細胞が神経膠芽腫細胞である、請求項1に記載の組合せ物
【請求項13】
前記チェックポイント阻害剤が、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、及びニボルマブからなる群から選択される、請求項1に記載の組合せ物
【請求項14】
前記方法において、前記交流電場の周波数が180から220kHzの間である、請求項1に記載の組合せ物
【請求項15】
前記方法において、前記チェックポイント阻害剤の前記がん細胞への投与の少なくとも一部を、前記交流電場を前記がん細胞に100から500kHzの間の周波数で3から10日間印加することを中断した後に行う、請求項1に記載の組合せ物
【請求項16】
神経膠芽腫を治療する方法において使用するための、交流電場ジェネレータ及びチェックポイント阻害剤の組合せ物であって、前記方法が、
交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に100から500kHzの周波数で3から10日間印加する工程、及び
チェックポイント阻害剤を前記対象に投与する工程
を含む、組合せ物。
【請求項17】
前記方法において、前記交流電場を前記対象に3から10日間連続的に印加する、請求項16に記載の組合せ物
【請求項18】
前記方法において、前記交流電場を前記対象に3から10日間非連続的に印加する、請求項16に記載の組合せ物
【請求項19】
前記方法において、前記交流電場を前記対象に、3日間の各1日当たり少なくとも4時間印加する、請求項18に記載の組合せ物
【請求項20】
前記チェックポイント阻害剤が、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、及びニボルマブからなる群から選択される、請求項16に記載の組合せ物
【請求項21】
前記方法において、前記交流電場の周波数が180から220kHzの間である、請求項16に記載の組合せ物
【請求項22】
前記方法において、前記チェックポイント阻害剤の前記対象への投与の少なくとも一部を、前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に100から500kHzの間の周波数で3から10日間印加することを中断した後に行う、請求項16に記載の組合せ物
【請求項23】
前記方法において、前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に3日間印加し、その後3日間前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に印加せず、更に3日間前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に印加する、請求項16に記載の組合せ物
【請求項24】
前記方法において、前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に短パルスで印加する、請求項16に記載の組合せ物
【請求項25】
前記方法において、前記交流電場を神経膠芽腫の対象の頭部に1週当たり少なくとも3日間印加する、請求項16に記載の組合せ物
【請求項26】
がん細胞の生存率を低下させる方法において使用するための、交流電場ジェネレータ及びチェックポイント阻害剤の組合せ物であって、前記方法が、
交流電場を100から500kHzの周波数でがん細胞の約1~2%を殺滅するのに十分な時間がん細胞に印加する工程、及びチェックポイント阻害剤を前記がん細胞に投与する工程
を含む、組合せ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全体を本明細書に組み込んだ2019年9月10日出願の米国特許仮出願第62/898,290号の利益を主張する。
【0002】
本明細書で引用した特許、特許出願、及び刊行物は全て、参照により全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
腫瘍治療電場(TTフィールド)は、低強度で、中間周波数(例えば、100~500kHz)の交流電場の非侵襲的印加によってもたらされる効果的な抗悪性腫瘍治療様式である。TTフィールドは極微小管に方向性のある力を及ぼし、有糸分裂紡錘体の正常な集合を妨害する。微小管動態のこのような妨害は、異常な紡錘体形成及びその後の有糸分裂停止又は遅延を引き起こす。細胞は、有糸分裂停止中に死滅するか、又は細胞分裂に進行して、正常又は異常な異数性子孫の形成を導くことがある。四倍体細胞の形成は、スリッページによる有糸分裂の終了によって起こるか、又は不適切な細胞分裂中に起こることがある。異常な娘細胞は、その後の間期で死滅する可能性があり、永久的に停止する可能性があり、又は更なる有糸分裂によって増殖して、更にTTフィールドの攻撃を受ける可能性がある。Giladi M等、Sci Rep. 2015;5:18046。
【0004】
インビボの場合、TTフィールド療法は装着可能で携帯可能な装置(Optune(登録商標))を使用して行うことができる。送達システムには、電場ジェネレータ、4つの接着パッチ(非侵襲的で絶縁されたトランスデューサアレイ)、再充電可能なバッテリー、及び携帯ケースが含まれる。トランスデューサアレイを皮膚に貼り付け、装置及びバッテリーに接続する。療法は、昼夜を問わず、できるだけ多くの時間装着できるように設計されている。
【0005】
前臨床では、TTフィールドは、例えば、Inovitro(商標)TTフィールドラボベンチシステムを使用して、インビトロで印加することができる。Inovitro(商標)には、TTフィールドジェネレータ及びプレート当たり8つのセラミックディッシュを含むベースプレートが含まれている。細胞は、各ディッシュの内側に配置されたカバースリップに播種される。TTフィールドは、各ディッシュに比誘電率の高いセラミックで絶縁された2つの垂直なトランスデューサアレイ対を使用して印加される。各ディッシュのTTフィールドの向きは、1秒毎に90度切り替えられ、こうして細胞分裂の様々な向きの軸を網羅する。
【0006】
最近、免疫感知分子の環状GMP-AMPシンターゼ(cGAS)-インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING、TMEM173によってコードされる)経路が、細胞質DNA感知の重要な成分として特定され、細胞において免疫応答を媒介する重要な役割を果たしている。Ghaffari等、British Journal of Cancer、119巻、440~449頁(2018);例えば、図3参照。STING経路の活性化は、細胞の異常(例えば、細胞質2本鎖DNA(dsDNA)の存在)に応答することによって免疫応答を媒介する。
【0007】
チェックポイントタンパク質は、引き起こされる可能性のある免疫系(例えば、T細胞増殖及びIL-2産生)の阻害剤として機能する。Azoury等、Curr Cancer Drug Targets. 2015;15(6):452~62。チェックポイントタンパク質は、免疫応答を停止することによって、がんに関して有害な影響を与える可能性がある。チェックポイントタンパク質機能の遮断を使用して、休止状態のT細胞を活性化してがん細胞を攻撃することができる。チェックポイント阻害剤は、がん細胞を攻撃する免疫系を動員するためにチェックポイントタンパク質を阻害する抗がん剤である。
【0008】
したがって、チェックポイントタンパク質の活性を遮断して、サイトカインの産生及びがん細胞を攻撃するT細胞の動員を可能にするがん治療として、チェックポイント阻害剤を使用することに関心が持たれており、チェックポイント阻害剤は、免疫療法薬開発における活発な分野である。
【0009】
必要なのは、チェックポイント阻害剤等の免疫応答を活性化し、がん治療に対する応答を強化し刺激する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Giladi M等、Sci Rep. 2015;5:18046
【文献】Ghaffari等、British Journal of Cancer、119巻、440~449頁(2018)
【文献】Azoury等、Curr Cancer Drug Targets. 2015;15(6):452~62
【文献】Ryan Cross、「STING fever is sweeping through the cancer immunotherapy world」96巻 9別版 24~26頁、Chemical & Engineering News (2018年2月26日)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で記載した方法は、交流電場を100から500kHzの周波数で3日間がんに印加し、チェックポイント阻害剤をがん細胞に投与することによって、がん細胞の生存率を低下させる。交流電場はがん細胞に3日間連続的又は非連続的に印加することができる。別の態様では、交流電場は、3日間の各日に少なくとも1日4時間、又は3日間の各日に少なくとも1日6時間、がん細胞に印加することができる。
【0012】
本明細書で記載したように、がん細胞(例えば、神経膠芽腫細胞)をTTフィールドに曝露すると、STING経路が誘導され、炎症誘発性サイトカイン(例えば、I型インターフェロン)の産生及びピロトーシスが導かれる。一態様では、STING経路をTTフィールドで活性化することは、がん細胞を「ワクチン接種」することに類似しており、がん細胞をチェックポイント阻害剤等の抗癌剤による治療に対して特に感受性にする。したがって、がん細胞をTTフィールドに連続的、非連続的、又は断続的に曝露すると、がん細胞をSTING経路の誘導による更なる治療、その後の1つ又は複数のチェックポイント阻害剤及び/又はその他の腫瘍薬による治療に感受性にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】TTフィールドが、対照GBM細胞(対照)に対してTTフィールド(TTフィールド)に曝露した神経膠芽腫(GBM)細胞において、細胞質小核(2本鎖DNA又はdsDNA)の形成を誘導することができることを示した図である。
図2】LN827細胞において、TTフィールドに曝露した後に核ラミンB1(Lamin B1)構造が破壊され、細胞質へのdsDNAの放出が引き起こされることを示した図である。
図3】細胞質dsDNAによって誘導された生化学的経路の例(炎症誘発性(STING)経路及びピロトーシス経路)を示した図である。
図4】cGAS及びAIM2が独立して、TTフィールドへの曝露に応答して小核と共存していることを示した図である。
図5図4の結果から小核と共存しているAIM2/cGASのパーセンテージを示した図である。
図6】U87及びLN827細胞において、TTフィールドに1日曝露した後のIRF3及びp65のリン酸化を示した図である。
図7】TTフィールドがI型IFN応答及びSTINGの下流の炎症誘発性サイトカインを誘導することを示した図である。
図8】GBM細胞(LN428ヒト細胞及びKR158マウス細胞)において、TTフィールドによって活性化された後にSTINGが分解されることを示した図である。
図9】GBM細胞(LN428ヒト細胞、KR158マウス細胞、及びF98ラット細胞)において、dsDNA及びTTフィールド処理によって誘導される炎症応答にSTINGが必要であることを示した図である。
図10】KR158及びF98GBM細胞において、オートファジー及びdsDNA又はTTフィールドがSTING依存性の炎症誘発応答を相乗的に誘導することを示した図である。
図11】F98ラット神経膠腫モデルにおいて、TTフィールドが誘導する炎症性サイトカインの産生がSTING及びAIM2に依存していることを示した図である。
図12】腫瘍サイズがTTフィールドに応答した炎症性サイトカイン発現の倍数変化(fold change)と相関していることを示した図である。
図13】F98ラット神経膠腫モデルにおいて、GBMへのCD45細胞の動員がSTING及びAIM2を欠如しているGBMでは低いことを示すヒートマップの例を示した図である。
図14】CD3(T細胞)の動員がSTING及びAIM2を欠如しているGBMでは低いことを示すヒートマップの例を示した図である。
図15】STING及びAIM2を欠如しているGBMでは、DC/マクロファージの動員は低く、MDSCの動員は高いことを示すヒートマップの例を示した図である。
図16図15のデータの定量的結果を示した図である。
図17】ヒトGBM細胞株LN308及びLN827において、TTフィールドへの3日間曝露によって誘導された「ゴースティング」を示した図である(TTフィールドは細胞において「ゴースティング」を誘導する(免疫原性細胞死の後に残る細胞の残骸))。
図18】TTフィールドに曝露したU87 GBM細胞において、TTフィールドが膜損傷を誘導し、GSDMDを減少させることを示した図である(LDH Release Cytotoxicity Assay: LDH放出細胞傷害性アッセイ)。
図19】ヒト白血病単球細胞株THP-1マクロファージにおいて、TTフィールドが膜損傷を誘導し、GSDMDを切断することを示した図である(PMA150nMで24時間処理したTHP-1細胞はMO-マクロファージに分化する)。
図20】TTフィールドに24時間曝露したTHP1-GFP PMA予備処理細胞を示した図である。
図21】TTフィールドに曝露しなかったTHP1-GFP PMA予備処理対照細胞を示した図である。
図22】TTフィールドに1日間及び3日間曝露した後、TTフィールドがピロトーシス依存性カスパーゼ-1の活性化を誘導することを示した図である。
図23】TTフィールドに1日間及び3日間曝露した後、TTフィールドが誘導するカスパーゼ-1の活性化及びピロトーシスが、低レベルの完全長IL-1ベータ及び高いLDH放出と一致することを示した図である。
図24】TTフィールドが誘導するSTING/AIM2の活性化及び炎症性サイトカインの産生が、TTフィールド処理が終了してから少なくとも3日間持続することを示した図である。
図25】短パルスTTFが誘導するSTING/AIM2活性が、腫瘍増殖の低下及び頸部深部領域流入リンパ節(Lymph Node)へのDC(樹状細胞)動員の増加に関連していることを示した図である。
図26】カスパーゼ1がAIM2を含まないTTフィールド処理細胞で検出されたことを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
神経膠芽腫(GBM)は、積極的な化学放射線療法にもかかわらず、成人で最も一般的で最も致命的な悪性脳がんである。腫瘍治療電場(TTフィールド)は最近、新たに診断されたGBM患者に対して、補助テモゾロミド化学療法との併用が承認された。TTフィールドの追加によって、全生存期間が大幅に改善された。TTフィールドは、低強度の交流電場であり、有糸分裂高分子の集合を妨害し、染色体の分離、完全性、及び安定性を混乱させると考えられている。多くの患者において、TTフィールド治療過程の初期に腫瘍周囲浮腫の増加という一時的な段階がしばしば観察され、その後に客観的なX線画像応答が続き、TTフィールドによる治療効果の主要な要素が免疫媒介過程である可能性が示唆されている。しかし、これらの所見の根底にある機構は不明なままである。
【0015】
本明細書で記載したように、TTフィールドが活性化した小核-dsDNAセンサー複合体は、i)特定のLDH放出アッセイによって、並びにAIM2動員カスパーゼ1及びピロトーシス特異的ガスデルミンDの切断を介して測定されるような、ピロトーシス細胞死の誘導、並びにii)I型インターフェロン(IFN)及びNFκB経路の下流の炎症誘発性サイトカインを含むSTING経路成分の活性化を引き起こした。例えば、図3を参照のこと。骨髄細胞又は脾細胞とノックダウンGBM細胞から得られた上清との共培養実験におけるAIM2又はSTING、或いはその両方のGBM細胞特異的shRNA枯渇は、免疫細胞の誘導を逆転させることができた。
【0016】
GBM細胞株は、インビトロTTフィールドシステムを使用して、臨床的に承認された周波数200kHzでのTTフィールドで処理された。一態様では、24時間TTフィールドで処理されたGBM細胞では、TTフィールドによって誘導された染色体不安定性の結果として、細胞質に放出された小核構造の割合が有意に高かった(19.9%対4.3%、p=0.0032)。これらの小核の約40%は、2つの上流dsDNAセンサー(メラノーマ2(AIM2)及びインターフェロン(IFN)誘導性タンパク質である環状GMP-AMPシンターゼ(cGAS)には存在しない)と共存していたのに対し、未処理細胞では共存していなかった。これらの結果は、GBM細胞においてTTフィールドは免疫系を活性化することを示唆している。
【0017】
本明細書で記載した態様は、交流電場を100から500kHzの周波数で3から10日間がん細胞に印加し、チェックポイント阻害剤をがん細胞に投与することによって、がん細胞の生存率を低下させる方法を提供する。交流電場はがん細胞に3から10日間連続的又は非連続的に印加することができる。別の態様では、交流電場は、がん細胞に、3から10日間の各日に少なくとも1日当たり4時間、又は3から10日間の各日少なくとも1日当たり6時間印加することができる。交流電場は、任意選択でがん細胞に3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15日間印加することができる。別の態様では、交流電場は、がん細胞に、3~5、3~6、3~7、3~8、3~9、又は3~15日間印加することができる。
【0018】
「がん細胞の生存率を低下させる」という用語は、がん細胞が生存し続ける能力を短縮、制限、又は悪影響を与えることを意味する。例えば、がん細胞の成長率又は再生産率を低下させてその生存率を低下させる。
【0019】
「チェックポイント阻害剤の投与」という用語は、医療専門家の管理の下で、又は承認された臨床試験の一部として、規制当局による製品ラベルで承認されたように任意の適切で受け入れられた投与経路(例えば、経口、静脈内、非経口、局所等)を通じて、医療専門家又は患者がチェックポイント阻害剤を患者に提供することを意味する。チェックポイント阻害剤を処方することはまた、チェックポイント阻害剤を「投与すること」であってもよい。
【0020】
「連続的に」という用語は、交流電場を実質的に一定期間印加することを意味する。交流電場の連続的印加は、機器を適切に配置するために印加が短期間(例えば数秒)中断された場合であっても、又は短い停電が発生した場合でも、行うことができる。
【0021】
「非連続的に」という用語は、交流電場を一定期間印加するが、数秒、数分、1時間以上の定期的な休止又は中断を伴うことを意味する。この態様では、患者は、一定期間(例えば、1、2、3、又は4時間)交流電場を印加し、15分、30分、45分、1時間交流電場を印加しない期間を伴うことができた。別の態様では、患者は、睡眠中は連続的に、覚醒中は非連続的に交流電場を印加することができる。更なる態様では、患者は、食事中又は社交行事中以外は交流電場を連続的に印加することができる。
【0022】
更なる態様では、交流電場をがん細胞に、3から10日間それぞれで、1日当たり少なくとも4又は6時間印加する。
【0023】
更に別の態様では、交流電場をがん細胞に3日間印加し、その後3日間交流電場をがん細胞に印加せず、更に3日間交流電場をがん細胞に印加する。
【0024】
別の態様では、交流電場をがん細胞に1週当たり少なくとも3日間印加する。
【0025】
更なる態様では、交流電場をがん細胞に3から10日の第1の期間印加し、交流電場を印加しない第2の期間を続ける。別の態様では、第2の期間は少なくとも第1の期間と同じである。
【0026】
TTフィールドを印加するための装置は、患者が在宅しているとき、又は眠っている期間中、装置を継続して着用する方が便利な場合、患者が着用することができるので、この態様は患者の快適性及び利便性を大幅に向上させることができる。患者が医療装置に邪魔されないことを望む期間中(例えば、作業、運動、社会活動への参加中)、患者は装置を着用し続ける必要はない。
【0027】
したがって、患者は必要なTTフィールド治療を受けた後で、公共において、又は社会的状況で装置を着用し続けることなく、例えばチェックポイント阻害剤の丸剤を服用する。治療へのコンプライアンスは、患者の快適さと共に向上するだろう。本明細書で記載したような治療サイクル中のTTフィールドの使用の中断は、以前に開示又は示唆されたことはない。
【0028】
更に別の態様では、交流電場をがん細胞に短パルスで印加する。「短パルス」という用語は、各パルスの持続時間が例えば5秒未満である、がん細胞に印加される非連続的な交流電場を意味する。
【0029】
がん細胞は、神経膠芽腫細胞、膵臓がん細胞、卵巣がん細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞、及び中皮腫からなる群から選択することができる。更なる態様では、がん細胞は神経膠芽腫細胞である。
【0030】
チェックポイント阻害剤は、例えば、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、及びニボルマブからなる群から選択することができる。
【0031】
交流電場は、180から220kHzの間の周波数であってもよい。
【0032】
更に別の態様では、チェックポイント阻害剤のがん細胞への投与の少なくとも一部は、交流電場を100から500kHzの間の周波数で3から10日間がん細胞に印加することを中断した後に行う。
【0033】
更なる態様は、交流電場を100から500kHzの周波数で3日間神経膠芽腫の対象の頭部に印加し、チェックポイント阻害剤を対象に投与することによって、神経膠芽腫を治療する方法を提供する。交流電場を対象に3日間連続的又は非連続的に印加する。別の態様では、交流電場を対象に3日間のそれぞれで、1日当たり少なくとも4時間印加する。チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、及びニボルマブからなる群から選択することができる。交流電場は、180から220kHzの間の周波数である。
【0034】
更なる態様では、チェックポイント阻害剤の対象への投与の少なくとも一部は、交流電場を100から500kHzの間の周波数で3から10日間神経膠芽腫の対象の頭部に印加することを中断した後に行う。
【0035】
更なる態様は、交流電場を100から500kHzの周波数でがん細胞の約1~2%を殺滅するのに十分な期間がん細胞に印加する工程、及びチェックポイント阻害剤をがん細胞に投与する工程を含む、がん細胞の生存率を低下させる方法を提供する。一態様では、がん細胞の約1~2%を殺滅するのに十分な期間は3、4、5、6、7、8、9、又は10日間である。
【0036】
TTフィールドは、TTフィールドに曝露した細胞質小核GBM細胞の形成を誘導することができる。図1は、LN827細胞をTTフィールドで24時間処理した後、4%PFAで20分間固定した実験例の結果を示している。DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)(1:5000)染色液を室温で5分間インキュベートして、核及び小核を染色した。図1(右パネル)は、小核を含む対照細胞(約4%)対TTフィールドに曝露した細胞(約20%)の割合を示している。したがって、TTフィールドは、STING経路を誘導することができる細胞質小核(dsDNA)の形成を誘導する。
【0037】
低分子STING活性化剤(例えば、STINGアゴニスト)が知られており、臨床に応用されているが(Ryan Cross、「STING fever is sweeping through the cancer immunotherapy world」96巻 9別版 24~26頁、Chemical & Engineering News (2018年2月26日))、これらの薬物は患者にとって重大な副作用を有することがある。対照的に、TTフィールドは実質的に副作用がないため、低分子STING活性化剤よりも安全で快適な代替手段である。
【0038】
TTフィールドに曝露した後に核ラミンB1構造が破壊され、LN827細胞の細胞質へのdsDNAの放出が引き起こされる。図2は、TTフィールドで24時間処理し、4%PFAで20分間固定し、0.2%Triton/0.04%BSAで1時間ブロックしたLN827細胞の更なる核破壊を示している。DAPI染色された細胞は左側のパネルに示されている(TTフィールド未処理及び処理済は表示通り)。中央のパネルは、細胞をラミンB1抗体で4℃、一晩インキュベートした後、蛍光二次抗体で1時間インキュベートした場合の結果を示している(TTフィールド未処理及び処理済は表示通り)。右側のパネルは、合成した画像を示している(DAPI/ラミンB1)。これらの結果は、TTフィールド印加後dsDNAが細胞質に放出され、STING経路の誘導が引き起こされることを示している。
【0039】
図3は、dsDNAによる炎症誘発性STING経路及びピロトーシス経路の誘導を示している。dsDNAは異常な有糸分裂によって誘導された小核から生成され得る。異常な有糸分裂は、例えば、TTフィールドによって誘導され得る。TTフィールドはまた、ラミンB1構造の破壊によって示されるように、核膜の完全性を低下させ、細胞質にdsDNAを導き、示したようにSTING経路を誘導する。
【0040】
cGAS(環状GMP-AMPシンターゼ)及びAIM2は、TTフィールドへの曝露に応答した小核と独立して共存している。cGAS及びAIM2は、細胞質dsDNAの存在を検出する免疫センサーである。図4では、LN827細胞をTTフィールドで24時間処理し、4%PFAで20分間固定し、0.2%Triton/0.04%BSA(ウシ血清アルブミン)で1時間ブロックした。Flag及びcGAS抗体を4℃で一晩インキュベートした後、二次抗体で1時間インキュベートし、DAPI染色を室温で5分間行った。
【0041】
こうして、cGAS及びAIM2は、TTフィールドに応答した小核とそれぞれ独立して共存しており、TTフィールドが細胞質dsDNAの存在を誘導し、STING経路を活性化することを示している。図5は、TTフィールドに曝露した場合及び曝露していない場合の、図4の結果のcGAS、AIM2、及び小核のパーセンテージを定量化したものである。
【0042】
U87及びLN827細胞において、TTフィールドに1日曝露した後、IRF3及びp65はリン酸化された。図6では、U87及びLN827細胞をTTフィールドで24時間処理した後、全タンパク質を収集した。STING経路の下流にあるIRF3及びp65の存在、並びにそれらの活性化したリン酸化型をウェスタンブロットによって測定した。B-アクチンを負荷対照として使用した。STINGによって誘導される経路(IRF3及びp65)は、IRF3及びp65リン酸化形態の存在によって示されるように、TTフィールドの後に活性化される。したがって、IRF3又はインターフェロン調節因子3及びp65のリン酸化は、STING活性化によって誘発される。
【0043】
TTフィールドは、STINGの下流にあるI型IFN応答及び炎症誘発性サイトカインを誘導する。「STINGの下流」という用語は、STING経路の活性化後に誘導されるサイトカインを意味する。この態様では、TTフィールドは本明細書で記載したようにSTING応答を誘導する。
【0044】
LN428細胞をTTフィールドの有無にかかわらず24時間処理した(図7)。全RNAを抽出し、cDNAに変換した。定量的PCRを利用して、IL1α、IL1β、IL6、IL8及びISG15、IFNα、IFNβの転写レベルを検出した。全LN428タンパク質をタンパク質溶解緩衝液中に収集し、細胞数を判定した。IFNβの内在性タンパク質レベルはELISAによって判定した。最終タンパク質レベルは、細胞数によって正規化した。
【0045】
図7に示したように、LN428においてTTフィールドはインターフェロンb(IFNb)等のサイトカインの発現を誘導する。特に、LN428細胞をTTフィールドに3日間曝露するとIFNbレベルは対照の300倍、TTフィールドに1日曝露すると100倍に増加した。この態様では、TTフィールドを約3日間印加すると、炎症誘発性サイトカインのレベルが著しく増加した。
【0046】
GBM細胞において、STINGはTTフィールドによって活性化された後に分解する。図8にまとめて示した実験では、LN428(ヒト)及びKR158(マウス)タンパク質を示した時点で収集した。STING、p65、及びリン酸化p65タンパク質レベルはウェスタンブロットによって判定した。B-アクチン/GAPDHを負荷対照として使用した。図8に示したように、STINGタンパク質レベル及びリン酸化p65レベルは、24時間にわたるTTフィールド処理で低下している。
【0047】
ヒトGBM細胞(LN428ヒト細胞)において、dsDNA及びTTフィールド処理によって誘導される炎症応答にはSTINGが必要である。図9にまとめて示した実験では、ヒトGBM細胞株LN428にレンチウイルス-shScramble又はshSTINGを安定して感染させた。細胞は、dsDNA又はTTフィールドで別々に24時間処理した。ポリエチレンイミン(PEI)をトランスフェクション緩衝液として利用し、細胞質へのdsDNAの移行を誘導した。全RNAを抽出し、cDNAに変換した。定量的PCRを利用して、IL1α、IL1β、IL8、ISG15、及びSTINGの転写レベルを検出した。
【0048】
図9に示したように、LN428細胞においてSTING経路がdsDNA及びTTフィールドの両方によって誘導されると、STINGがない場合(shSTING)、様々なサイトカインRNA転写物のレベルが低下する。
【0049】
KR158及びF98GBM細胞において、オートファジー及びdsDNA又はTTフィールドは、STING依存性の炎症誘発応答を相乗的に誘導する。図10にまとめて示した実験では、マウスGBM細胞株KR158及びラットGBM細胞株F98にレンチウイルス-shScramble又はshSTINGを安定して感染させた。細胞を分離して、dsDNA又はTTフィールドで24時間処理した。PEIをトランスフェクション緩衝液として利用し、細胞質にdsDNAを誘導した。全RNAを抽出し、cDNAに変換した。定量的PCRを利用して、IL1α、IL6、ISG15、IFNβ、及びSTINGの転写レベルを検出した。
【0050】
関連する実験では、上述の細胞を分離し、クロロキン(オートファジー阻害剤)の存在の有無にかかわらず、dsDNA又はTTフィールドで24時間処理した。PEIをトランスフェクション緩衝液として利用し、細胞質にdsDNAを誘導した。全RNAを抽出し、cDNAに変換した。定量的PCRを利用して、IL6、ISG15、IFNβの転写レベルを検出した。
【0051】
図10に示したように、KR158細胞及びF98細胞において、STING経路がdsDNA及びTTフィールドの両方によって誘導されると、STINGがない場合(shSTING)、様々なサイトカインRNA転写物のレベルが低下する。サイトカイン転写物のレベルは、オートファジー誘導因子コエンザイムQ(CQ)によって更に低下した。
【0052】
F98ラット神経膠腫モデルにおいて、TTフィールドが誘導する炎症性サイトカインの産生はSTING及びAIM2に依存している。図11にまとめて示した実験では、ラットGBM細胞株F98にレンチウイルス-Scramble対照(WT)又はSTING及びAIM2のダブルノックダウン(DKD)を安定して感染させた。細胞を、脳定位固定システムを使用してオスのフィッシャーラットの脳に注入した。細胞を注射してから7日後、熱又はTTフィールドを更に7日間ラットに当てた。治療終了までに、ラットを屠殺し、組織を収集し、更に分析した。定量的PCRを利用して、IL1α、IL1β、IL6、ISG15、及びIFNβの転写レベルを検出した。
【0053】
図11に示したように、STING及びAIM2のダブルノックダウン(DKD)は、示したサイトカインのレベルを有意に低下させた。
【0054】
腫瘍サイズは、TTフィールドに応答した炎症性サイトカイン発現の倍数変化と相関している。図12は、図11にまとめて示した実験で利用したラットの脳の画像を示している。図11の定量的PCRの結果(すなわち、個々のラットのMRI画像の相対的mRNAレベル)は、注射後15日目の各画像の下に示されている。
【0055】
図13は、F98ラット神経膠腫モデルにおいて、CD45細胞のGBMへの動員がSTING及びAIM2を欠如しているGBMでは低いことを示すヒートマップの例である。図13にまとめて示した実験では、ラットGBM細胞株F98は、レンチウイルス-Scramble対照(WT)又はSTING及びAIM2のダブルノックダウン(DKD)によって安定して編集された。細胞を、脳定位固定システムを使用してオスのフィッシャーラットの脳に注入した。細胞を注射してから7日後、熱又はTTフィールドを更に7日間ラットに当てた。
【0056】
治療終了までに、ラットを屠殺し、組織を収集し、更に分析するために分割した。ここで、腫瘍塊を単一細胞懸濁液に分離した。CD45の染色にはマルチフロー抗体を使用した。次いで翌日、単細胞懸濁液を固定して、フローサイトメトリー機で分析した。
【0057】
図14は、CD3(T細胞)の動員がSTING及びAIM2を欠如しているGBMでは低いことを示すヒートマップの例である。図14は、図13と同じ実験をまとめたものであるが、CD3に対する抗体を使用している。
【0058】
図15は、STING及びAIM2を欠如しているGBMにおいて、DC/マクロファージの動員は低く、MDSC動員は高いことを示すヒートマップの例である。図15は、図13と同じ実験をまとめたものであるが、CD11b/c及びMHCII(マクロファージ)を検出することを目的とした抗体を使用している。
【0059】
図16は、図15のフローサイトメトリーの結果の定量的データである。
【0060】
図17は、ヒトGBM細胞株LN308及びLN827ヒトGBM細胞株において、TTフィールドへの3日間曝露によって誘導された「ゴースティング」を示している。「ゴースティング」という用語は、免疫原性細胞死の後に残る細胞の残骸の存在を意味する。これらの実験では、LN308及びLN827細胞をTTフィールドの有無にかかわらず3日間処理した。画像は、明視野顕微鏡下で撮影された。画像は、TTフィールドに3日間曝露した後の免疫原性細胞死の増加を示している。
【0061】
図18は、TTフィールドがTTフィールドに曝露したU87 GBM細胞において膜損傷を誘導し、GSDMDを減少させることを示している。図18にまとめて示した実験では、ヒトGBM細胞株U87を示した条件下で24時間処理した。細胞培養培地に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、細胞傷害性アッセイによって検出した。U87細胞は、レンチウイルス-GSDMD-Flag-NによってガスデルミンD(GSDMD)を強制的に発現させ、TTフィールドの有無にかかわらず処理した。全タンパク質を示した時点で収集した。過剰発現したタンパク質GSDMDレベルは、flag抗体を使用してウェスタンブロットによって判定した。B-アクチンを負荷対照として使用した。図18に示したように、TTフィールドへの曝露は、細胞の1~2%を殺滅した。
【0062】
図19は、TTフィールドがヒト白血病単球細胞株THP-1マクロファージにおいて膜損傷を誘導し、GSDMDを切断することを示している。図19にまとめて示した実験では、ヒト白血病単球細胞株THP-1をPMA150nMで24時間処理して、マクロファージへの分化を刺激した。電場周波数範囲を調べるためにTTフィールド処理の3日目にLDH放出を試験した。THP-1細胞は、レンチウイルス-GSDMD-Flag-NによってGSDMDを強制的に発現させ、TTフィールドの有無にかかわらず処理した。全タンパク質を示した時点で収集した。過剰発現したタンパク質GSDMDレベル及びその切断されたN断片は、flag抗体を使用してウェスタンブロットによって判定した。B-アクチンを負荷対照として使用した。陽性対照は、LPS処理6時間、次いでATP処理1時間を示している。
【0063】
図20は、GFPレンチウイルスで標識され、PMA150nMで24時間予備処理されたTHP-1細胞を示している。24時間後、細胞をTTフィールドに24時間曝露し、20分毎に時間経過画像を取得した。
【0064】
図21は、GFPレンチウイルスで標識され、PMA150nMで24時間予備処理されたTHP-1細胞を示している。24時間後、細胞を通常培養条件で24時間増殖させ、20分毎に時間経過画像を取得した。
【0065】
図20及び21で示したように、TTフィールドで処理すると、対照細胞(図21)と比較してより多い免疫原性細胞死(図20)が引き起こされる。
【0066】
図22は、TTフィールドに1日間及び3日間曝露した後、TTフィールドがピロトーシス依存性カスパーゼ-1活性化を誘導することを示している。図22にまとめて示した実験では、THP-1細胞をPMA150nMで24時間予備処理した。24時間後、細胞をTTフィールドの有無にかかわらず示した時間で処理した。カスパーゼ-1活性化検出キットを使用して、切断されたカスパーゼ-1形態を有する細胞を標識した。試料は、フローサイトメトリー機で分析した。
【0067】
図23は、TTフィールド誘導性カスパーゼ-1の活性化及びピロトーシスが、TTフィールドに1日間及び3日間曝露した後の、低レベルの完全長IL-1ベータ及び高レベルのLDH放出と一致することを示した図である。図23にまとめて示した実験では、THP-1細胞をPMA150nMで24時間予備処理した。24時間後、細胞をTTフィールドの有無にかかわらず3日間処理した。ナイジェリシンを陽性対照として12時間利用した。カスパーゼ-1活性化検出キットを使用して、切断されたカスパーゼ-1形態を有する細胞を標識した。試料は、フローサイトメトリー機で分析した。細胞培養培地を3日目の同じ時点で収集した。培養培地中のIL1β及びLDHレベルは、ELISA及び細胞傷害性アッセイによって判定した。
【0068】
図24は、TTフィールドが誘導するSTING/AIM2の活性化及び炎症性サイトカインの産生が、TTフィールド処理が終了してから少なくとも3日間持続することを示している。図24で示したように、TTFによって誘導された炎症性サイトカインの産生はSTING及びAIM2に依存しており、短いパルスのTTF処理の数日後もベースラインを超えて上昇したままである。図24にまとめて示した実験では、K-LUC細胞は、空のウイルス又はSTING及びAIM2を標的として阻害する2本鎖shRNAを有するウイルスで形質導入した。次に、ディッシュ当たり30kのこれらの細胞をTTフィールドで3日間処理し、次いでTTFを中止した後更に3日間培養し、炎症性サイトカインの判定(IL-6及びISG15)のために収集した。図24で示したように、IL6及びISG15の産生増加は、TTフィールドを中断してから(青い棒、EV)少なくとも3日間継続した。
【0069】
図25は、短パルスTTFが誘導するSTING/AIM2活性が、腫瘍増殖の低下及び頸部深部領域流入リンパ節へのDC(樹状細胞)動員の増加に関連していることを示している。STING/AIM2を介したTTフィールドによるこの持続的な炎症活性化は、TTフィールド処理を中止した後に免疫系を活性化した。
【0070】
図25にまとめて示した実験では、K-LUC細胞は、空のウイルス又はSTING及びAIM2を標的とする2本鎖shRNAを発現するウイルスで形質導入し、その後未処理か、又はTTFで3日間処理した。これらのK-LUC細胞3x105個をB6マウスに同所的に移植した。腫瘍増殖はluc BLIによって測定した。中央のパネルに示したように、移植して2週間後の腫瘍サイズは、ダブルノックダウン(DKD)マウスと比較して空のウイルス(EV)TTフィールドマウスで大幅に低下した。これらのマウスはまた、最高レベルのDC細胞(例えば、T細胞)を表した(右パネル)。深部頸部リンパ節は、DC動員及びナイーブT細胞のプライミングが脳からの抗原に対して発生する場所であると考えられている。
【0071】
したがって、TTフィールドは免疫系を刺激して、インサイツ「ワクチン接種」に類似した抗腫瘍免疫反応を引き起こし、ここで細胞は更なるがん療法のために予備刺激される(例えば、少なくとも3日間のTTフィールド治療、次いでチェックポイント阻害剤による治療)。
【0072】
図26は、カスパーゼ1がAIM2を有さないTTフィールド処理細胞では検出されないことを示している。カスパーゼ1はAIM2-2本鎖DNA複合体のすぐ下流にあり、ピロトーシスの分子的特徴である。カスパーゼ1の活性化は、カスパーゼ1の切断産物(活性化)を検出する市販のキットを使用して検出される。活性化されたカスパーゼ1は、AIM2レベルが正常なTTフィールドで処理された細胞(EV(空のウイルス)対EV+TTフィールド)にのみ存在する、右にシフトしている青い曲線の第2のFITCピークとして検出される。しかし、AIM2を有さないTTフィールドで処理した細胞(AIM2KD対AIM2KD+TTフィールド)ではこのようなピークは観察されなかった。したがって、TTフィールドのピロトーシスに対する効果は、少なくとも部分的にはAIM2によって媒介される。
【0073】
本発明は特定の実施形態を参照して開示してきたが、添付の特許請求の範囲で定義されるように、本発明の分野及び範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に対する多数の改変、変更、及び変化が可能である。したがって、本発明は、記載した実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲の言語及びそれらの同等物によって定義される全範囲を有するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10-1】
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