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特許7562736抗CD47薬の処理上有効量を達成するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】抗CD47薬の処理上有効量を達成するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023039709
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2022001223の分割
【原出願日】2014-02-26
(65)【公開番号】P2023075275
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】61/800,102
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ウィリンガム,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ハワード,モーリーン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ジィー
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ,ラビンドラ
(72)【発明者】
【氏名】プロハスカ,スーザン スウィーニー
(72)【発明者】
【氏名】ボルクマー,アン ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ボルクマー,イェンス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ワイスマン,アービング エル.
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-050544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0282174(US,A1)
【文献】国際公開第2013/109752(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/123580(WO,A1)
【文献】Leukemia & Lymphoma,2004年,Vol.45, No.7,p.1319-1327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD47とSIRPαとの相互作用を遮断する抗CD47抗体の治療量を含み、対象の血液の癌の治療の方法に使用するための医薬組成物であって、
前記方法は、
(a)前記抗CD47抗体としての第1の抗CD47抗体、前記第1の抗CD47抗体とは種類が異なる第2の抗CD47抗体、及びそれらの組み合わせから選択された刺激剤を、前記対象に、前記抗CD47抗体の治療上有効量の供与に伴う赤血球の減少に因る毒性を減少させるように治療上有効量よりも少ない準治療量だけ供与すること、及び
(b)前記第1の抗CD47抗体の治療上有効量を前記血液の癌の治療のために前記対象に供与すること
を含んでおり、
ステップ(b)は、ステップ(a)の開始後、3日~21日の範囲で行われる、
医薬組成物。
【請求項2】
前記準治療量は、0.05mg/kg~7.5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記準治療量は、0.05mg/kg~5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記準治療量は、0.1mg/kg~7.5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記準治療量は、0.1mg/kg~5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記準治療量は、1mg/kg~7.5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記準治療量は、1mg/kg~5mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記準治療量は、1mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記治療上有効量は、10mg/kg~40mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記治療上有効量は、30mg/kgの量で供与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記準治療量は、網状赤血球の産生を増加させる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記対象からの血液試料中での網状赤血球数を測定することにより、前記準治療量の投与が効果的であったか否かが決定される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記網状赤血球数が400×10 個/リットル(L)またはそれ以上である場合に、前記準治療量の投与が効果的であったと決定される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ステップ(b)は、治療上有効量が供与されるまで、段階的に増加する濃度で前記抗CD47抗体またはそのフラグメントを供与することを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ステップ(b)は、2倍またはそれ以上の治療上有効量を供与することを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記抗CD47抗体またはそのフラグメントは、CD47発現細胞の細胞死を誘導しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記抗CD47抗体は、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗CD47抗体は、ヒト化抗体またはキメラ抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記抗CD47抗体は、ヒト化5F9抗体である、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記血液の癌は、白血病である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記白血病は、急性骨髄性白血病(AML)または急性リンパ性白血病(ALL)である、請求項20に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細胞のターンオーバーは、アポトーシスプログラムまたは除去のために細胞を特徴付ける他の細胞変化の誘導、及びマクロファージ、樹状細胞等を含む貪食細胞によって次のマーカー認識で始まる。このプロセスは、望ましくない細胞の特異的かつ選択的除去を必要とする。健常細胞と異なり、望ましくない/死んだ細胞は、貪食細胞上の受容体によって順番に認識され得る「イートミー(eat-me)」シグナル、すなわち、「アルタードセルフ(altered self)」、と呼ばれるマーカーまたはリガンドを提示する。健常細胞は、貪食細胞を活性に阻害する「ドント・イートミー(don’t eat-me)」シグナルを提示することがある。これらのシグナルは、死細胞で下方調節され、変化した構造で存在するか、または「イートミー」またはプロ食作用シグナルの上方調節によって抑制されるかのいずれかである。健常細胞上の細胞表面タンパク質CD47及び貪食細胞受容体SIRPαのその関与は、アポトーシス細胞除去及びFcR介在貪食細胞を含む複数の様式によって介在される貪食を遮断し得る、重要な「ドント・イートミー」シグナルを構成する。貪食細胞上のSIRPαのCD47介在した関与を遮断すること、またはノックアウトマウスでのCD47発現の減少は、生細胞の除去及び非高齢赤血球を生じ得る。SIRPαの遮断は、前貪食シグナルも存在する細胞について、通常は貪食されない標的の貪食も可能にする。
【0002】
CD47は、単一Ig様ドメイン及び5つの膜貫通領域を有する、広く発現された膜貫通型糖タンパク質であり、SIRPαのNH2末端V様ドメインによって介在される結合を有するSIRPαのための細胞リガンドとして機能する。SIRPαは、マクロファージ、顆粒球、骨髄系樹状細胞(DC)、肥満細胞を含む骨髄性細胞、及び造血幹細胞を含むその前駆体で主に発現される。CD47結合を介在するSIRPα上の構造決定因子は、Leeら(2007)J.Immunol.179:7741-7750;Hatherleyら(2007)J.B.C.282:14567-75によって議論され、CD47結合におけるSIRPα cis二量化の役割は、Leeら(2010)J.B.C.285:37953-63によって議論される。正常細胞の貪食作用を阻害するCD47の役割と合致して、CD47は、造血幹細胞(HSC)及びその前駆細胞においてその移行期直前及び移行期中に一時的に上方調節され、そして、これらの細胞におけるCD47のレベルはインビボで貪食される可能性を決定する、証拠が存在する。
【0003】
プログラムされた細胞死(PCD)及び貪食細胞除去は、損傷された、前癌状態のまたは感染された細胞を除くために生物が応答する一般的な方法である。したがって、この生物応答(例えば、癌細胞、慢性的に感染した細胞等)を残存する細胞は、PCD及び貪食細胞除去を避ける方法を工夫してきた。CD47、すなわち「ドント・イートミー」シグナルは、幅広い疾患細胞、癌細胞、及び感染細胞上で構成的に上方調節され、これらの細胞に貪食を避けさせる。1つの細胞(例えば、癌細胞、感染細胞等)と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの相互作用を遮断する抗CD47薬は、CD47発現の増加を妨害し、癌細胞及び/または感染細胞の貪食を促進する。したがって、抗CD47薬は、幅広い症状/疾患を治療及び/または保護するために使用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2012/0282174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、抗CD47薬の最初の高用量は、マウス及び非ヒト霊長類(NHP)モデルにおいて赤血球(RBC)の用量依存的減少を引き起こし得る。この貧血症の重度は、治療的有効性に関連した徐放血清濃度を達成するために必要とされるより高用量の使用を不可能にする。本発明は、抗CD47薬の赤血球毒性が緩和され、それによって抗CD47薬の治療上有効量での治療を可能にする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
抗CD47薬の治療量で個体を治療する方法であって、抗CD47薬の治療上有効量を該個体に投与する前に刺激剤を投与することによる方法が提供される。実施形態によっては、本発明の方法は、CD47介在貪食を調節することを目的とした治療法を最適化する際の使用を見出す。かかる実施形態によっては、個体は、癌のための抗CD47薬の用量で治療されることになる。他の実施形態によっては、個体は、細胞内病原体での感染のための抗CD47薬の用量で治療されることになる。本方法では、抗CD47薬の治療上有効量は、刺激剤を投与した後約3日~約21日に投与される。本発明の実施形態によっては、2またはそれ以上の物質が投与される。好適な刺激剤は、赤血球産生刺激剤(ESA)、及び/または抗CD47薬の初回刺激量を含む。
【0007】
本発明の方法で使用するための抗CD47薬は、癌細胞、細胞内病原体で感染した細胞、幹細胞等を含むこれらに限定されない標的細胞に存在するCD47と貪食細胞に存在するSIRPαとの間の結合を妨害する。一般的に、かかる細胞はいずれも、治療される個体に存在する。かかる方法は、前貪食シグナルの存在下で、標的細胞の貪食を増加させ得る。本方法は、CD47介在SIRPαシグナル伝達の遮断を受けやすい任意の疾患について対象を治療するために使用され得る。好適な抗CD47薬は、可溶性SIRPαポリペプチド、可溶性CD47、抗CD47抗体、抗SIRPα抗体などを含み、抗体との用語は、当該分野で公知の、抗体フラグメント及びその変異体を包含する。
【0008】
上記の抗CD47薬の治療量は、赤血球(RBC)の減少及び貧血を招くことがある。本方法は、この問題を解決し、驚くべきことに、本明細書で使用される刺激剤が赤血球の減少に因る毒性を顕著に減少させることを示す。理論に拘束されるものではないが、刺激剤は、CD47介在貪食に対してより抵抗性であり得、そのため抗CD47薬の次の投与中に減少することがほとんどない網状赤血球(未成熟RBC)の産生を増加させると考えられる。
【0009】
本発明のある実施形態は、場合により、刺激剤の投与に対する個体の感応性を決定するステップを含む。例えば、網状赤血球計数、またはヘモグロビンの減少は、刺激剤が網状赤血球の産生を増加させたか否かを決定するために使用され得る。網状赤血球計数は、刺激剤投与の前及び後で行われ、網状赤血球の増加に効果的である計測時間を許容することができる。あるいは、増加した赤血球生成の決定のための任意の好適な方法が使用され得る。
【0010】
刺激剤の投与後、網状赤血球産生の増加に効果的な時間が可能になることによって、抗CD47薬の治療量が投与され得る。該治療量は、多数の異なった方法で投与され得る。実施形態によっては、刺激剤が投与された後、2またはそれ以上の治療上有効量が投与される。実施形態によっては、2またはそれ以上の段階的に増加する濃度の量で、場合によっては等しい量で、抗CD47薬の治療上有効量は投与される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】MIAP410(IgG1アイソタイプ)またはMIAP470(IgG2aアイソタイプ)の単回250μgIP注入を野生型マウスに施した後のヘマトクリット(HCT)の百分率変化及びヘモグロビンの百分率変化を示す。
図2】MIAP410(IgG1アイソタイプ)またはMIAP470(IgG2aアイソタイプ)の単回250μgIP注入をCD47-/-マウスに施した後のヘモグロビンの百分率変化を示す。
図3】対照マウスIgG、MIAP410またはMIAP740の250μgIP投与を野生型マウスに3日毎に施した後のヘマトクリット(HCT)の百分率変化及びヘモグロビンの百分率変化を示す。
図4】Ig様細胞外ドメインにおけるヒト及びマカクCD47間の配列アラインメントを表す。ヒトCD47ECD(配列番号:4);Cyno(マカク)CD47ECD(配列番号:5)。
図5】マウスCD47は除いて、Hu5F9-G4がヒト及びカニクイザルCD47を認識することを示す。ELISAを、抗マウスFc特異抗体をコーティングした後にヒト、マウス及びcyno CD47-mFc融合タンパク質を加えて行った。無関係なマウスFc(mFc)融合タンパク質を陰性対照として使用した。次いで、Hu5F9-G4を加えた。結合した抗体を、HRP結合抗ヒトカッパ(κ)抗体を用いて検出した。
図6】Hu5F9-G4結合を測定した結合定数の概要を示す。SPR結合試験を、GLMセンサーチップを用いるバイオ・ラッドProteOn XPR36システムで行った。結合データを25℃で収集した。反応データを1:1の相互作用モデルを使って全体的に適合させた。括弧の数字は最後に報告された桁での標準誤差を表す。(A)ヒトCD47への結合。(B)カニクイザルCD47への結合。
図7】非ヒト霊長類Hu5F9-G4毒物動態研究データを示す。カニクイザルNHPに、示されたレベルでの単回投与によってHu5F9-G4を投与した。(A)貧血が用量依存で発生したが、自発的に治癒した。灰色バーはヒトにおける輸血の必要性を示すヘモグロビンの範囲を示す。(B)血清レベルの測定による薬物動態(PK)解析は、他の用量は除外して10及び30mg/kgで行った治療レベルでは短半減期を示した。
図8】非ヒト霊長類Hu5F9-G4用量漸増毒物動態研究データを示す。EPOの単回投与による前処理なし、または前処理ありのいずれかを受けたカニクイザルNHPは、示された用量と時点での用量漸増試験でHu5F9-G4を投与された。(A)ヘモグロビンを連続的に測定して貧血を監視した。(B)ELISA法によってHu5F9-G4レベルで血清をスクリーニングし、薬物動態を確定した。パネル(A)の灰色バーは輸血の開始傾向があるヒトのヘモグロビンの範囲を示す。パネル(B)の灰色バーは異種移植研究における強力活性を伴う血清Hu5F9-G4の範囲を示す。
図9】非ヒト霊長類Hu5F9-G4負荷-維持投与毒物動態研究データを示す。カニクイザルNHPは、1日目に1mg/kgまたは3mg/kgの負荷投与(LD)(すなわち、初回刺激量)を受け、次いで、示された時点で10または30mg/kgの維持用量(MD)を受けた。各々の実験群で2頭のNHP(実線及び破線)を使用した。(A)ヘモグロビンを連続的に測定し貧血を監視した。(B)ELISA法によってHu5F9-G4レベルで血清をスクリーニングし、薬物動態を確定した。パネル(A)の灰色バーは輸血を開始する可能性があるヒトのヘモグロビンの範囲を示す。パネル(B)の灰色バーは異種移植研究においてヒト原発AMLに対して強力な活性を伴う血清Hu5F9-G4の範囲(すなわち、治療的に有効な血清レベルの範囲)を示す。
図10】種々の用量の抗CD47剤(本事例ではhu5F9-G4抗体)に関連する網赤血球増加レベルを実証する網赤血球数データを示す。
図11】Hu5F9-G4が腫瘍の成長及び転移を阻害することを示す。A)Hu5F9-G4が異物移植アッセイで膀胱癌を完全に排除する。B)Hu5F9-G4が生体内でヒト前立腺癌転移を予防する。
図12-1】Hu5F9-G4が樹立された転移を排除することを示す。A-B)Hu5F9-G4が肺(A)及び脳(B)における転移性乳癌細胞を排除する。C)Hu5F9-G4が切除した乳房腫瘍の再成長を抑制する。D)hu5F9-G4の血清中濃度は治療有効性と関連した。したがって、ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、非ヒト化抗体と病気(例えば、癌または慢性感染)の治療に関して同じ一般的性質を有し、対象方法はヒト化抗体(例えば、抗CD47抗体)を使用して、癌及び/または慢性感染を治療する時に有効である。
図12-2】Hu5F9-G4が樹立された転移を排除することを示す。A-B)Hu5F9-G4が肺(A)及び脳(B)における転移性乳癌細胞を排除する。C)Hu5F9-G4が切除した乳房腫瘍の再成長を抑制する。D)hu5F9-G4の血清中濃度は治療有効性と関連した。したがって、ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、非ヒト化抗体と病気(例えば、癌または慢性感染)の治療に関して同じ一般的性質を有し、対象方法はヒト化抗体(例えば、抗CD47抗体)を使用して、癌及び/または慢性感染を治療する時に有効である。
図13】実施例4を説明する研究設計を表す。
図14】実施例4で記載した研究の継続期間での全コホートのヘモグロビンレベルデータを表す(図13も参照のこと)。
図15】実施例4で記載した研究の全コホートにおけるHu5F9-G4(ヒト化抗CD47抗体)の薬物動態プロファイルを表す(図13も参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、刺激剤を最初に投与することによって抗CD47薬の治療量で対象を治療するための方法に関する。
【0013】
本方法及び組成物を説明する前に、本発明は記載された特定の方法または組成物に限定されるものでなく、よって勿論変動し得ることを理解されたい。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、限定するものでない点も理解されたい。
【0014】
値の範囲が提供される場合には、下限の単位の10分の1までの各介在値は、文脈が別途明白に指定しない限り、該範囲の上限と下限との間において具体的に開示されている、と理解されたい。記載された範囲中の任意の記載の値または介在値と、該記載された範囲中の任意の他の記載値または介在値との間の各より小さい範囲は、本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限と下限は、独立して該範囲に含まれることもありまたは含まれないこともあり、また、記載された範囲で任意に具体的に除かれた限界を条件として、両限界のいずれか一方もしくは両方が該小さい範囲に含まれるか、または両限界のいずれも該小さい範囲に含まれないような各範囲も本願に包含される。記載された範囲が該限界の1つまたは両方を含む場合に、これらの含まれた限界のいずれか一方または両方を除く範囲も、本発明に含まれる。
【0015】
他に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と類似または同等の任意の方法及び材料が本発明の実施または試験で使用され、可能性のある好ましい方法及び材料が本明細書で記載される。本明細書に記載の全ての刊行物は、刊行物が一緒に引用される方法及び/または材料を開示及び記載するために、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0016】
本開示を読んだ当業者には明らかであろうが、本明細書に記載及び例証された個々の実施形態の各々は、別個の成分及び特徴を有し、これらの別個の成分及び特徴は、本発明の範囲または趣旨を逸脱しない他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴とは容易に分離されまたはそれらと組み合わされてよい。任意の記載の方法は、記載された事象の順でまたは論理的に可能な任意の他の順で実行され得る。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、「the(その)」は、文脈が明確に指摘しない限り、複数形も含むことに留意されたい。したがって、例えば、「a cell(1つの細胞)」への言及は、かかる細胞の複数形を含み、「the peptide(そのペプチド)」への言及は、1またはそれ以上のポリペプチド及びその等価物、例えば当業者に公知のポリペプチド等を含む。
【0018】
本明細書で議論される刊行物は、本願の出願日前にその開示が提供されているにすぎない。本明細書では、本発明が先行発明によってかかる開示を実際より早める権利を与えていることを認めていると解釈されるべきものはない。更に、提供された刊行物の日付は、個別に確認される必要があるかもしれない実際の公表日とは異なっていることがある。
【0019】
定義
抗CD47薬
本明細書で使用される用語「抗CD47薬」は、CD47(例えば、標的細胞)のSIRPα(例えば、貪食細胞)への結合を減少させる任意の物質を意味する。好適な抗CD47薬の非限定的な例は、高親和性SIRPαポリペプチド、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド、及び抗CD47抗体または抗体フラグメントを含むがこれらに限定されないSIRPα薬を含む。実施形態によっては、好適な抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体、SIRPα薬等)は、CD47に特異的に結合してCD47のSIRPαへの結合を減少させる。実施形態によっては、好適な抗CD47薬(例えば、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド等)は、SIRPαに特異的に結合してCD47のSIRPαへの結合を減少させる。SIRPαに結合する好適な抗CD47薬は、(例えば、SIRPα発現貪食細胞において)SIRPαを活性化しない。好適な抗CD47薬の効果は、(更に以下に記載の)物質をアッセイすることによって評価され得る。例示的なアッセイでは、標的細胞は、候補物質の存在下または非存在下でインキュベートされる。本発明の方法で使用するための物質は、該物質の非存在下での貪食と比べて、少なくとも10%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%または少なくとも200%)、貪食を上方調節するだろう。同様に、SIRPαのチロシンリン酸化のレベルのためのインビトロアッセイは、候補物質の非存在下で観察されたリン酸化と比べて、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または100%)、リン酸化の減少を示すだろう。
【0020】
実施形態によっては、抗CD47薬は、結合時にCD47を活性化しない。CD47が活性化されると、アポトーシスへの同種のプロセス(すなわち、プログラムされた細胞死)が起こり得る(Manna及びFrazier,Cancer Research,64,1026-1036,2004年2月1日)。したがって、実施形態によっては、抗CD47薬は、CD47発現細胞の細胞死を直接には誘導しない。
【0021】
病原体(例えば、ポックスウイルス、粘液腫ウイルス、シカポックスウイルス、豚痘ウイルス、ヤギ痘ウイルス、羊痘ウイルス等)の中には、感染を可能にする病原性因子として働くCD47アナログ(すなわち、CD47模倣体)(例えば、M128Lタンパク質)を発現するものもあり(Cameronら,Virology.2005年6月20日;337(1):55-67)、病原体の中には、宿主細胞中で内因性CD47の発現を誘導するものもある。よって、CD47アナログを発現する病原体で感染した細胞は、単独でまたは内因性CD47と組み合わせて病原体によって提供されたCD47アナログを発現し得る。このメカニズムは、内因性CD47のレベルを増加させながらまたは増加させることなく、病原体に、感染細胞中での(CD47アナログの発現を介した)CD47発現を増加させる。実施形態によっては、抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体、SIRPα薬、SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド等)は、CD47アナログ(すなわち、CD47模倣体)のSIRPαへの結合を減少させ得る。場合によっては、好適な抗CD47薬(例えば、SIRPα薬、抗CD47抗体等)は、CD47アナログ(すなわち、CD47模倣体)に結合して、CD47アナログのSIRPαへの結合を減少させ得る。場合によっては、好適な抗CD47薬(例えば、SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド等)は、SIRPαに結合し得る。SIRPαに結合する好適な抗CD47薬は、(例えば、SIRPα発現貪食細胞において)SIRPαを活性化しない。抗CD47薬は、該病原体がCD47アナログを提供する病原体である場合には、本明細書で提供される方法のいずれかで使用され得る。言い換えれば、本明細書で使用される用語「CD47」は、CD47及びCD47アナログ(すなわち、CD47模倣体)を包含する。
【0022】
SIRPα薬
SIRPα薬は、通常、シグナル配列及び膜貫通型ドメインとの間に存在する、認識できる親和性でCD47と結合するために十分であるSIRPαの部分、または結合活性を維持するそのフラグメントを含む。好適なSIRPα薬は、天然型タンパク質SIRPαとCD47との間の相互作用を減少(例えば、遮断、抑制等)する。SIRPα薬は、通常、SIRPαの少なくともd1ドメインを含むことになる。実施形態によっては、SIRPα薬は、例えば第2ポリペプチドとインフレームで融合された、融合タンパク質である。実施形態によっては、第2ポリペプチドは、例えば、該融合タンパク質が循環から急速に除去されないように、該融合タンパク質の大きさを増加させることができる。実施形態によっては、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンのFc領域の一部または全部である。Fc領域は、高親和性SIRPα薬によって提供された「ドント・イートミー」シグナルの遮断を亢進する、「イートミー」シグナルを提供することによって貪食を助ける。他の実施形態では、第2ポリペプチドは、例えば、増大したサイズ、多量体化ドメイン、及び/または結合の付加またはIg分子との相互作用を提供する場合には、Fcに実質的に類似した任意の好適なポリペプチドである。
【0023】
実施形態によっては、本題の抗CD47薬は、SIRPα由来ポリペプチド及びそのアナログを含む「高親和性SIRPα薬」である。高親和性SIRPα薬は、本明細書に参照によって具体的に組み込まれている国際特許出願第PCT/US13/21937号に記載されている。高親和性SIRPα薬は、天然型SIRPαタンパク質の変異体である。実施形態によっては、高親和性SIRPα薬は、可溶性であり、該ポリペプチドは、SIRPα膜貫通型ドメインを欠き、野生型SIRPα配列と比べて少なくとも1つのアミノ酸変化を含み、該アミノ酸変化は、例えば、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍またはそれ以上、オフ速度を減少させることによって、CD47へのSIRPαポリペプチド結合の親和性を増加させる。
【0024】
高親和性SIRPα薬は、通常、シグナル配列及び膜貫通型ドメインとの間に存在する、認識できる親和性、例えば高親和性でCD47と結合するために十分であるSIRPαの部分、または結合活性を維持するそのフラグメントを含む。高親和性SIRPα薬は、通常、親和性を増加させるために修飾されたアミノ酸残基を有するSIRPαの少なくともd1ドメインを含むことになる。実施形態によっては、本発明のSIRPα変異体は、例えば第2ポリペプチドとインフレームで融合された、融合タンパク質である。実施形態によっては、第2ポリペプチドは、例えば、該融合タンパク質が循環から急速に除去されないように、該融合タンパク質の大きさを増加させることができる。実施形態によっては、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンのFc領域の一部または全部である。Fc領域は、高親和性SIRPα薬によって提供された「ドント・イートミー」シグナルの遮断を亢進する、「イートミー」シグナルを提供することによって貪食を助ける。他の実施形態では、第2ポリペプチドは、例えば、増大したサイズ、多量体化ドメイン、及び/または結合の付加またはIg分子との相互作用を提供する場合には、Fcに実質的に類似した任意の好適なポリペプチドである。増加した親和性を提供するアミノ酸変化は、d1ドメインに局在化されるため、高親和性SIRPα薬は、d1ドメイン内に野生型配列と比べて少なくとも1つのアミノ酸変化を有するヒトSIRPαのd1ドメインを含む。かかる高親和性SIRPα薬は、場合により、追加のアミノ酸配列、例えば、抗体Fc配列;d1ドメイン以外の野生型ヒトSIRPαタンパク質の部分であって、野生型タンパク質またはそのフラグメントの残基150~374を含むがそれに限定されず、通常d1ドメインを有する連続するフラグメントである部分;等を含む。高親和性SIRPα薬は、単量体または多量体、すなわち、二量体、三量体、四量体等でよい。
【0025】
抗CD47抗体
実施形態によっては、本題の抗CD47薬は、CD47に特異的に結合する抗体(すなわち、抗CD47抗体)であり、1つの細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減少させる。実施形態によっては、好適な抗CD47抗体は、結合時に、CD47を活性化しない。好適な抗体の非限定的な例は、クローンB6H12、5F9、8B6及びC3を含む(例えば、本明細書で参照によって具体的に引用されている国際特許出願公開第WO2011/143624号に記載されている)。好適な抗CD47抗体は、かかる抗体の完全なヒト、ヒト化またはキメラ体を含む。ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、その低抗原性のために、ヒトでのインビボ適用のために特に有用である。同様に、イヌ化(caninized)、ネコ化(felinized)等の抗体は、それぞれ、イヌ、ネコ等の抗体は、それぞれ、イヌ、ネコ及び他の種での適用に特に有用である。本題の抗体は、ヒト化抗体、またはイヌ化、ネコ化、ウマ化、ウシ化、ブタ化等の抗体、及びそれらの変異体を含む。
【0026】
抗SIRPα抗体
実施形態によっては、本題の抗CD47薬は、SIRPαに特異的に結合する抗体(すなわち、抗SIRPα抗体)であり、1つの細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減少させる。好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαの活性化がおそらく貪食を阻害するので、SIRPαを介するシグナル伝達を活性化または刺激せずにSIRPαに結合し得る。代わりに、好適な抗SIRPα抗体は、正常細胞を超えて損傷細胞の選択的貪食を促進する。他の細胞(例えば、非感染細胞)と比べてCD47(例えば、感染細胞)のより高度なレベルを発現するこれらの細胞は、選択的に貪食されることになる。したがって、好適な抗SIRPα抗体は、(貪食を阻害するためのシグナル応答を十分に活性化/刺激することなく)SIRPαに特異的に結合し、SIRPαとCD47との相互作用を遮断する。好適な抗SIRPα抗体は、かかる抗体の完全なヒト、ヒト化またはキメラ体を含む。ヒト化抗体は、その低い抗原性に因ってヒトでのインビボ適用のために特に有用である。同様に、イヌ化(caninized)、ネコ化(felinized)等の抗体は、それぞれ、イヌ、ネコ及び他の種での適用に特に有用である。本題の抗体は、ヒト化抗体、またはイヌ化、ネコ化、ウマ化、ウシ化、ブタ化等の抗体、及びそれらの変異体を含む。
【0027】
可溶性CD47ポリペプチド
実施形態によっては、本題の抗CD47薬は、SIRPαに特異的に結合し、1つの細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減少させる、可溶性CD47ポリペプチドである。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαの活性化はおそらく貪食を阻害するので、SIRPαを介したシグナル伝達を活性化または刺激しないで、SIRPαに結合し得る。代わりに、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、正常細胞を超えて損傷細胞の選択的貪食を促進する。正常な非標的細胞(例えば、正常細胞)と比べてCD47(例えば、感染細胞)のより高度なレベルを発現するこれらの細胞は、選択的に貪食されることになる。したがって、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、貪食を阻害するためのシグナル応答を十分に活性化/刺激することなく、SIRPαに特異的に結合する。
【0028】
場合によっては、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、(例えば、本明細書に参照によって具体的に組み込まれている、米国特許出願公開第US20100239579号に構造的に記載されている)融合タンパク質でよい。しかしながら、SIRPαを活性化/刺激しない融合タンパク質のみが、本明細書で提供される方法に好適である。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、貪食を阻害する十分なSIRPα活性を刺激することなく、SIRPαに特異的に結合し、CD47とSIRPαとの間の相互作用を阻害し得る、変異体を含む任意のペプチドもしくはペプチドフラグメント、または天然に存在するCD47配列(例えば、細胞外ドメイン配列または細胞外ドメイン変異体)も含む。
【0029】
ある実施形態では、CD47の細胞外部分が典型的には142のアミノ酸長であり、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するように、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチド(配列番号2)を含むCD47の細胞外ドメインを含む。本明細書に記載の可溶性CD47ポリペプチドはまた、アミノ酸配列を少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%または95%~99%(または65%~100%の間で具体的に列挙されていない任意の同一性の割合)含むCD47細胞外ドメイン変異体であって、SIRPαシグナル伝達を刺激することなくSIRPαに結合する能力を維持する変異体を含む。
【0030】
ある実施形態では、シグナルペプチドアミノ酸配列は、別のポリペプチド(例えば、免疫グロブリンまたはCTLA4)から得られるシグナルペプチドアミノ酸配列で置換され得る。例えば、細胞外膜を横断する細胞表面ポリペプチドである完全長CD47と異なり、可溶性CD47ポリペプチドは分泌され、したがって、可溶性CD47ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、通常細胞から分泌されるポリペプチドと関連するシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0031】
他の実施形態では、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチドを欠くCD47の細胞外ドメインを含む。具体的な実施形態では、シグナルペプチドを欠くCD47細胞外ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列(124アミノ酸)を有する。本明細書に記載されるように、シグナルペプチドは、分泌されたまたは膜貫通型のタンパク質の細胞表面上に曝露されない。なぜならば、該シグナルペプチドは該タンパク質の転座中に開裂されるか、または該シグナルペプチドは細胞外膜に固定されたままのいずれかであるからである(かかるペプチドはシグナルアンカーとも呼ばれる)。CD47のシグナルペプチド配列は、前駆体CD47ポリペプチドからインビボで開裂されると考えられている。
【0032】
他の実施形態では、可溶性CD47ポリペプチドは、CD47細胞外ドメイン変異体を含む。かかる可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαシグナル伝達を刺激することなくSIRPαに結合する能力を維持する。CD47細胞外ドメイン変異体は、配列番号1と少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%または95%~99%同一であるアミノ酸配列を有し得る(記載された範囲のいずれか1つの間の任意の同一性の割合を含む)。
【0033】
用語「治療」、「治療すること」、「治療する」等は、本明細書で使用され、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを一般的に意味する。該効果は、疾患またはその症状(複数)を完全にもしくは部分的に抑制する点で予防的であり、及び/または疾患及び/または該疾患の原因となる逆の効果を部分的もしくは完全に安定化または治癒する点で、治療的であり得る。用語「治療」は、哺乳動物、特にヒトの疾患の任意の治療を包含し、(a)該疾患及び/または症状に罹患しやすいが未だそれを有すると診断されていない対象において、該疾患及び/または症状(複数)が発症しないようにすること;(b)該疾患及び/または症状(複数)を阻害すること、すなわち、それらの発症を抑えること;あるいは(c)該疾患の症状(複数)を緩和すること、すなわち、該疾患及び/または症状(複数)を後退させること、を含む。治療を必要としている人は、既に障害を受けている(inflicted)人(例えば、癌を有する人、感染症を有する人等)、並びに抑制が望まれている人(例えば、癌に増加した感受性を有する人、感染症に増加した可能性を有する人、癌を有すると疑われる人、感染症を有すると疑われる人等)を含む。
【0034】
標的細胞は、損傷された(inflicted)細胞でよく、用語「障害を受けた」は本明細書で使用されて、抗CD47薬で治療され得る症状、病気または疾患を有する対象を意味する。「障害を受けた」対象は、癌を有していてよく、感染症(例えば、慢性感染症)、及び他の超増殖性症状、例えば硬化症、線維症等を有していてよい。「損傷した細胞」は、症状、病気または疾患を引き起こす損傷細胞でよい。非限定的な例として、障害を受けた患者の損傷した細胞は、癌細胞、感染細胞等でよい。病気または疾患が抗CD47薬で治療され得る1つの徴候は、関連した細胞(すなわち、損傷した細胞、例えば癌性細胞、感染細胞等)が同一細胞種の正常細胞と比べて、CD47の増加したレベルを発現することである。
【0035】
治療的処置は、投与前に対象が障害を受けている処置であり、予防的処置は、投与前に対象が障害を受けていない処置である。実施形態によっては、対象は、処置前に、障害を受ける高い可能性を有するか、または障害を受けると疑われる。実施形態によっては、対象は、障害を受ける高い可能性を有すると疑われる。
【0036】
抗CD47薬で治療され得る症状、病気及び/または疾患の例は、癌及び感染症(例えば、慢性感染症)を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用される「癌」は、癌の任意の形態を含む(例えば、白血病;急性骨髄性白血病(AML);急性リンパ性白血病(ALL);転移;微小残存病変;固形腫瘍癌、例えば、乳房、膀胱、結腸、卵巣、グリア芽腫、平滑筋肉腫、及び頭頸部扁平上皮癌;等)。癌細胞が非癌細胞と比べてCD47の増加した発現を示す任意の癌は、本方法及び組成物によって治療されるべき好適な癌である。
【0037】
本明細書で使用される用語「感染」は、生物(すなわち、対象)の少なくとも1つの細胞が感染性物質によって感染されている任意の状態を意味する(例えば、対象が細胞内病原体感染症、例えば慢性細胞内病原体感染症を有している)。本明細書で使用される用語「感染性物質」は、感染された生物の少なくとも1つの細胞において増加したCD47発現を誘導する外来生物実体(すなわち、病原体)を意味する。例えば、感染性物質は、細菌、ウイルス、原生動物及び真菌を含むがこれらに限定されない。細胞内病原体は特に興味深い。感染性疾患は、感染性物質によって起こる疾患である。感染性物質の中には、ある条件下で認識可能な症状または疾患を引き起こさないものもあるが、変化した条件下で症状または疾患を引き起こす潜在性を有する。本方法は、慢性病原体感染症、例えば、ウイルス性感染症、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヒトパピローマウイルス等を含むがこれらに限定されない;細胞内細菌感染症、例えばマイコバクテリウム種、クラミドフィラ種、エシェリヒア種、リケッチア種、ブルセラ種、レジオネラ種、フランシセラ種、リステリア種、コクシエラ種、ナイセリア種、サルモネラ種、エルシニア種、ヘリコバクター・ピロリ等;及び細胞内原生動物病原体、例えば、プラスモディウム種、トリパノソーマ種、ジアルジア種、トキソプラズマ種、リーシュマニア種等、の治療に使用され得る。
【0038】
本明細書で使用する「標的細胞」は、表面上のCD47発現細胞であり、CD47陽性表現型を(例えば、抗CD47薬の投与によって)マスクするかまたは改変することは増加した貪食をもたらす。通常、標的細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞である。
【0039】
用語「レシピエント」、「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者」は、本明細書で交換的に使用され、診断、治療または治療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを意味する。治療目的の「哺乳動物」は、哺乳動物として分類される任意の動物を意味し、ヒト、家畜及び農場動物、及び動物園、スポーツまたはペット動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0040】
「治療上有効量」または「治療量」は、所望の臨床的結果を得る(すなわち、治療的効果を達成する)ために十分な量である。治療上有効量は、1またはそれ以上の投与で投与され得る。本発明の目的のために、抗CD47薬の治療上有効量は、標的細胞(例えば、標的細胞)の貪食を増加させることによって疾患状態(例えば、癌または慢性感染症)の進行を軽減、緩和、安定、逆転、抑制、遅延または遅らせるために十分な量である。したがって、抗CD47薬の治療上有効量は、標的細胞の貪食を増加させるための有効量で、貪食細胞上のSIRPαへの、標的細胞上のCD47の結合を減少させる。
【0041】
実施形態によっては、治療上有効量は、約40μg/mlまたはそれ以上(例えば、約50ug/mlまたはそれ以上、約60ug/mlまたはそれ以上、約75ug/mlまたはそれ以上、約100ug/mlまたはそれ以上、約125ug/mlまたはそれ以上、または約150ug/mlまたはそれ以上)の、抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の徐放血清レベルをもたらす。実施形態によっては、治療上有効量は、約40μg/ml~約300ug/ml(例えば、40ug/ml~約250ug/ml、約40ug/ml~約200ug/ml、約40ug/ml~約150ug/ml、約40ug/ml~約100ug/ml、約50ug/ml~約300ug/ml、約50ug/ml~約250ug/ml、約50ug/ml~約200ug/ml、約50ug/ml~約150ug/ml、約75ug/ml~約300ug/ml 約75ug/ml~約250ug/ml、約75ug/ml~約200ug/ml、約75ug/ml~約150ug/ml、約100ug/ml~約300ug/ml、約100ug/ml~約250ug/ml、または約100ug/ml~約200ug/ml)の範囲である抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の徐放血清レベルをもたらす。実施形態によっては、固形腫瘍を治療するための治療上有効量は、100μg/mlまたはそれ以上(例えば、約100ug/ml~約200ug/mlの範囲の徐放血清レベル)の抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の徐放血清レベルをもたらす。実施形態によっては、非固形腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病(AML))を治療するための治療上有効量は、約50μg/mlまたはそれ以上(例えば、75μg/mlまたはそれ以上の徐放血清レベル;または約50ug/ml~約150ug/mlの範囲の徐放血清レベル)の抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の徐放血清レベルをもたらす。
【0042】
したがって、単一の治療上有効量または一連の治療上有効量は、抗CD47薬の血清レベルを達成し、維持することがきるであろう。抗CD47薬の治療上有効量は、使用される特定の物質に依拠し得るが、通常8mg/kg体重またはそれ以上(例えば、約8mg/kgまたはそれ以上、約10mg/kgまたはそれ以上、約15mg/kgまたはそれ以上、約20mg/kgまたはそれ以上、約25mg/kgまたはそれ以上、約30mg/kgまたはそれ以上、約35mg/kgまたはそれ以上、または約40mg/kgまたはそれ以上)、あるいは約10mg/kg~約40mg/kg(例えば、約10mg/kg~約35mg/kg、または約10mg/kg~約30mg/kg)である。特定の血清レベルを達成し及び/または維持するために必要とされる用量は、投薬量間の時間に正比例し、投与される投薬数に反比例する。したがって、投薬頻度が増えるにつれて、必要とされる用量は減少する。投薬方法の最適化は、当業者によって容易に理解及び実施されるだろう。
【0043】
準治療量は、所望の臨床結果をもたらすためには十分でない用量(すなわち、量)である。例えば、抗CD47薬の準治療量は、疾患状態(例えば、癌、感染症、炎症等)の進行を軽減、緩和、安定、逆転、抑制、遅延または遅らせるために十分でない量である。場合によっては、(以下により詳述する)刺激剤としての抗CD47薬の準治療量を用いることが望ましい。刺激剤としての抗CD47薬の準治療量の使用は、所望の結果(例えば、対象は、「刺激され」て、治療上有効量を受け取る)を達成するが、該用量は、「治療的用量」であるとは考えられない。なぜならば、準治療量は、標的細胞の貪食を十分には増加させず、該疾患状態の進行を軽減、緩和、安定、逆転、抑制、減速または遅延させるために十分でないからである。抗CD47薬の準治療量は、使用される具体的な物質に依拠し得、一般的には約10mg/kg未満である。
【0044】
「維持用量」は、治療上有効量を意図する用量である。例えば、治療上有効量を決定するための実験では、複数の異なった維持用量が異なった対象に投与されることがある。そのようなわけで、維持用量の中には治療上有効量であるものもあり、準治療量であるものもある。
【0045】
刺激剤
本明細書で使用する用語「刺激剤」は、抗CD47薬の治療上有効量の将来的投与のために対象を刺激する物質を意味する。本発明者らは、(例えば、マウス及び非ヒト霊長類(NHP)モデルで以下に示すように)刺激剤を最初に投与しないで抗CD47薬の治療上有効量が対象に投与されると、高用量は赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell)、RBC)の用量依存的減少を引き起こし得ることを発見した。当業者は、RBCの減少を測定する方法を容易に理解するだろう。例えば、RBCの減少は、例えばヘマトクリット値のパーセンテージ変化を長期間測定することによって及び/または長期間のヘモグロビン(例えば、長時間のパーセント変化、g/dL等)を測定することによって監視され得る(図1図3及び図7図9)。よって、RBC減少によって起こる貧血の重度(場合によって、死)は、抗CD47薬の治療上有効量の使用を不可能にすることがある。しかしながら、抗CD47薬の治療上有効量の投与前に刺激剤を投与することによって、対象は、刺激剤の投与後に起こり得る一時的で低度の貧血を超える逆効果を経験しない。したがって、刺激剤の投与は、抗CD47の治療上有効量の将来的投与のために対象を刺激するのに役立つ。
【0046】
刺激剤を使用する本方法は、特に、霊長類を治療する場合に関連する。なぜならば、霊長類はRBC数に感受性であり、貧血を発症しやすいからである。したがって、実施形態によっては、対象は、霊長類(例えば、ヒト、原猿、類人猿、キツネザル、ロリス、メガネザル、モンキー、サル(ape)、オマキザル、ホエザル、コモンリスザル、ヒヒ、マカク、ギボン、大型類人猿等)である。
【0047】
刺激剤は、対象におけるRBC数を増加させ、それによって抗CD47薬の治療上有効量の投与によって起こるRBCの減少を阻止する。したがって、実施形態によっては、刺激剤は、赤血球産生刺激剤(ESA)である。ESAは、当該分野で知られており、エリスロポイエチン(EPO)、EPO誘導体及びEPO刺激化合物を含むが、これらに限定されない。好適な例は、以下を含むがこれらに限定されない:EPOアルファ、EPOベータ、EPOデルタ、EPOオメガ、EPOゼータ、ダルベポエチンアルファ(アラネスプ)、エポエチンアルファ(プロクリット)、エポセプト(ルピン・ファーマ)、ナノキン(ナノジェン・バイオテクノロジー、ベトナム)、エポフィット(インタス・ファーマ)、エポゲン(アムジェン)、エポギン、エプレックス(ヤンセン・シラグ)、ネオレコルモン(ホフマン・ラ・ロシュ)、レコルモン、メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ(ミルセラ)(ロシュ)、ダイネポ、エポマックス、シラポ(スターダ)、レタクリット(ホスピラ)、エポセプト(ルピン・ファーマシューティカルズ)、EPOトラスト(パナセア・バイオテク)、エリプロセーフ(バイオコン)、レポイチン(インド血清研究所)、ヴィントール(エムクレ・ファーマシューティカルズ)、エポフィット(インタス・ファーマ)、エリキン(インタス・バイオファーマシューティカ)、ウェボックス(ウォックハル・バイオテク)、エスポゲン(LG・ライフ・サイエンシーズ)、レリポイエチン(レライアンス・ライフ・サイアンシーズ)、シャンポイエチン(シャンタ・バイオテクニクス)、ジィロップアカディラ(ヘルスケア)、EPIAO(rHuEPO)、及び(瀋陽サンシャインファーマシューティカル株式会社、中国)。投与されるべきESAの用量は、使用される物質の性質に依拠し、多数の対象の特定の因子(例えば、年齢、体重等)にも依拠する。ESAの好適な用量を決定する方法は当該分野で知られている。実施形態によっては、ESAは、製造者の示唆に従う用量で投与され、場合によっては、約50単位/kg体重、約100単位/kg体重または約150単位/kg体重のように低くても、または約17,000単位/kg体重のように高くてもよい。
【0048】
実施形態によっては、刺激剤は、抗CD47薬の準治療量を含む。本発明者らは、刺激剤としての抗CD47薬の準治療量の投与は、抗CD47薬の治療上有効量の将来の投与のために対象を効果的に刺激し、それによって治療上有効量と関連した重度の貧血を避けることを発見した。
【0049】
したがって、本明細書で使用される用語「初回刺激量」は、抗CD47薬の治療上有効量がRBCの重大な減少(減少したヘマトクリットまたは減少したヘモグロビン)をもたらさないように、該治療上有効量の投与のために対象を刺激する刺激剤(例えば、抗CD47薬、ESA等)の量を意味する。抗CD47薬の具体的な好適な初回刺激量は、使用される該物質の性質及び多数の対象の特定の因子(例えば、年齢、体重等)に依って変動し得る。抗CD47薬の具体的な好適な初回刺激量の例は、約0.05mg/kg~約10mg/kgの範囲(例えば、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約7.5mg/kg、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.1mg/kg~約4mg/kg、約0.1mg/kg~約3mg/kg、約0.5mg/kg~約10mg/kg、約0.5mg/kg~約7.5mg/kg、約0.5mg/kg~約5mg/kg、約0.5mg/kg~約4mg/kg、約0.5mg/kg~約3mg/kg、約1mg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約7.5mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約1mg/kg~約4mg/kg、約1mg/kg~約3mg/kg、約1mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約7.5mg/kg、または約10mg/kg)を含むが、これらに必ずしも限定されない。実施形態によっては、刺激剤は、ESAと抗CD47薬の初回刺激量との組合せを含む。
【0050】
「負荷量」は、初回刺激量を目的とした用量である。例えば、有効初回刺激量を決定するための実験では、異なった対象に複数の異なった負荷量が投与され得る。そのようなわけで、負荷量の中には、初回刺激量もあり、初回刺激量でないものもある。
【0051】
用語「特異的結合」、「特異的に結合する」等は、溶液または反応混合物中の他の分子または部分と比べて、ある分子に非共有的にまたは共有的に選択的に結合することを意味する(例えば、抗体は、他の入手可能なポリペプチドと比べて特定のポリペプチドまたはエピトープに特異的に結合するか、またはSIRPαポリペプチドに特異的に結合する)。実施形態によっては、1つの分子が特異的に結合する別の分子についての1つの分子の親和性は、10-5Mまたはそれ未満(例えば、10-6Mまたはそれ未満、10-7Mまたはそれ未満、10-8Mまたはそれ未満、10-9Mまたはそれ未満、10-10Mまたはそれ未満、10-11Mまたはそれ未満、10-12Mまたはそれ未満、10-13Mまたはそれ未満、10-14Mまたはそれ未満、10-15Mまたはそれ未満、または10-16Mまたはそれ未満)のK(解離定数)によって特徴付けられる。「親和性」は、結合の強度、より低いKと相関する増加した結合親和性を意味する。
【0052】
本明細書で使用される用語「特異的結合メンバー」は、特異的結合対のメンバーを意味する(すなわち、2つの分子、通常2つの異なった分子、その分子の1つ、例えば第1の特異的結合メンバーは、非共有手段によって他の分子、例えば、第2の特異的結合メンバーに特異的に結合する)。好適な特異的結合メンバーは、CD47及び/またはSIRPαに特異的に結合する物質(すなわち、抗CD47薬)、またはCD47とSIRPαとの相互作用を遮断する物質を含む。
【0053】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書で交換的に使用されて、アミノ酸残基のポリマーを言う。該用語は、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーにも適用される。
【0054】
用語「貪食細胞」及び「食細胞」は、本明細書で交換的に使用されて、貪食することができる細胞を言う。これらは、食細胞の3つの主なカテゴリを有する:マクロファージ、単核細胞(組織球及び単球);多形核白血球(好中球)及び樹状細胞。
【0055】
患者に関する用語「試料」は、血液及び生物的起源の他の液体試料、固体組織試料、例えば生検試料または組織培養物もしくはそれから得られたもしくは単離された細胞、及びそれらの子孫を包含する。定義は、その入手、例えば試薬による処理の後に任意の方法で作製され、洗浄され、またはある細胞集団、例えば癌細胞を濃縮した試料も含む。定義はまた、特定の種類の分子、例えば核酸、ポリペプチド等を濃縮した試料を含む。
【0056】
用語「生物学的試料」は臨床試料を包含し、また外科切除によって得られた組織、生検によって得られた組織、培養物中の細胞、細胞上清、細胞溶解物、組織試料、臓器、骨髄、血液、血漿、血清等も含む。「生物学的試料」は、標的細胞または正常コントロール細胞を含む試料か、あるいはかかる細胞またはそれらから得られる生物学的液体(例えば、癌性細胞、感染細胞等)を含むと疑われる試料、例えばかかる細胞から得られるポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む試料(例えば、細胞溶解物、またはポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む他の細胞抽出物)を含む。患者からの損傷した(inflicted)細胞を含む生物学的試料は、非損傷細胞も含み得る。
【0057】
用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には(完全長モノクローナル抗体を含む)モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、及び、所望の生物学的活性を示す限り、抗体フラグメントを含む。「抗体」(Ab)及び「免疫グロブリン」(Ig)は、同一の構造特性を有する糖タンパク質である。抗体は特定の抗原に結合特異性を示すが、免疫グロブリンは、抗体及び抗原特異性を欠く他の抗体様分子の両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低レベルで、骨髄腫によって高いレベルで産生される。
【0058】
本明細書で使用される「抗体フラグメント」及び「その全ての文法上の変異体」は、抗原結合部位を含むインタクト抗体の一部、または該インタクト抗体の可変領域として定義され、該部分は、インタクト抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(すなわち、抗体アイソタイプによってCH2、CH3及びCH4)を有さない。抗体フラグメントの例は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、及びFvフラグメント;二重特異性抗体;連続アミノ酸残基の1つの連続した配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の他の抗体フラグメント(本明細書では、「単一鎖抗体フラグメント」または「単一鎖ポリペプチド」と称する)であって、以下を含むがこれらに限定されない抗体フラグメント:(1)単一鎖Fv(scFv)分子、(2)関連する重鎖部分を有さない、1つの軽鎖可変ドメインのみを含む単一鎖ポリペプチド、または該軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含むそのフラグメント、(3)関連する軽鎖部分を有さない、1つの重鎖可変ドメインのみを含む単一鎖ポリペプチド、または該重鎖可変ドメインの3つのCDRを含むそのフラグメント、及び(4)非ヒト種由来の単一Igドメインを含むナノ抗体、または他の特異的単一ドメイン結合分子;並びに、抗体フラグメントから形成された多重特異的または多価構造、を含む。1またはそれ以上の重鎖を含む抗体フラグメントにおいて、重鎖(複数)は、インタクト抗体の非Fc領域で見出された任意の定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプのCH1)を含むことがあり、及び/またはインタクト抗体で見出された任意のヒンジ領域配列を含むことがあり、及び/または該ヒンジ領域配列または重鎖(複数)の定常ドメイン配列に融合されたまたは位置するロイシンジッパー配列を含むことがある。
【0059】
本発明で使用される用語「エピトープ」は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原決定基を意味する。エピトープ抗原決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖等の分子の化学的に活性な表面分類からなり、通常、特定の三次元構造特性並びに特定の充電特性を有する。
【0060】
方法
抗CD47薬の治療量で対象を治療する方法が提供される。本方法は、対象に刺激剤を投与するステップに続いて、抗CD47薬の治療上有効量を該対象に投与するステップを含む。実施形態によっては、治療上有効量を投与するステップは、刺激剤の投与開始後、少なくとも約3日(例えば、少なくとも約4日、少なくとも約5日、少なくとも約6日、少なくとも約7日、少なくとも約8日、少なくとも約9日、または少なくとも約10日)後に行われる。この期間は、例えば、個体による亢進された網状赤血球産生を提供するために十分である。
【0061】
実施形態によっては、治療上有効量を投与するステップは、刺激剤の投与開始後に、約3日~約21日の範囲(例えば、約3日~約17日、約3日~約14日、約3日~約12日、約4日~約12日、約5日~約12日、約5日~約11日、約5日~約10日、約5日~約9日、約6日~約8日、約3日、約4日、約5日、約6、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、または約12日)で行われる。この期間は、例えば、個体による亢進された網状赤血球産生を提供するために十分である。
【0062】
実施形態によっては、2またはそれ以上の刺激剤は、抗CD47薬の治療上有効量を投与する前に投与される。かかる場合には、刺激剤は同一であっても異なっていてもよい。第1の刺激剤は、任意の次に投与される刺激剤と同一または異なった用量で投与され得る。実施形態によっては、2またはそれ以上の刺激剤は、同時に投与されるか、及び/または2つの刺激剤の投与は時間的に重複している、1つの(刺激剤の)投与は別の刺激剤の前後に開始するかまたは終了し得る。
【0063】
抗CD47薬の治療上有効量の投与は、多数の異なった方法で達成される。場合によっては、刺激剤が投与された後に、2またはそれ以上の治療上有効量が投与される。治療上有効量の好適な投与は、単一量の投与でよく、または毎日、準各週、各週、2週間に一回、月に一回、毎年等でよい。場合によっては、治療上有効量は、増加する濃度の2またはそれ以上の用量(すなわち、増加用量)として投与され、そこでは、(i)用量の全てが治療量であるか、または(ii)準治療用(または2またはそれ以上の準治療量)が最初に投与され、治療量が前記増加によって達成される。増加する濃度(すなわち、増加用量)を説明するための1つの非限定的な例として、治療上有効量は、準治療量で開始して毎週投与され(例えば、5mg/kgの用量)、投与が停止されるかまたは継続される(例えば、継続治療量、例えば、30mg/kgの用量)点に治療量(例えば、30mg/kgの用量)が到達するまで、各々の次の用量は、特定の増加量(例えば、5mg/kg)によってまたは変動する増加量によって増加され得る。増加する濃度(すなわち、増加用量)を説明するための別の非限定的な例として、治療上有効量は、治療量で開始して毎週投与され(例えば、10mg/kgの用量)、投与が停止されるかまたは継続される(例えば、継続治療量、例えば、30mg/kg、100mg/mlの用量等)点に治療量(例えば、30mg/kg、100mg/ml等)が到達するまで、各々の次の用量は、特定の増加量(例えば、10mg/kg)によってまたは変動する増加量によって増加され得る。実施形態によっては、治療上有効量の投与は、継続注入でよく、用量は時間と共に変更され得る(例えば、増加される)。
【0064】
投薬量及び頻度は、患者における抗CD47薬の半減期に依って変動し得る。ご承知のように、かかる指針は、例えば抗体フラグメントの使用、抗体コンジュゲートの使用、SIRPα薬の使用、可溶性CD47ペプチド等の使用において、活性物質の分子量について調整されることになる。投薬量は、局所投与、例えば鼻腔内、吸入等について、または全身性投与、例えばi.m.、i.p.、i.v.等のために変動され得る。
【0065】
刺激剤の効率的投与
実施形態によっては、刺激剤の投与が効果的であったか否かを決定するステップは、抗CD47薬の治療上有効量を対象に投与するステップの前に行われる。刺激剤の投与が効果的でない場合には、刺激剤を改めて再度投与することが望ましい。かかる場合には、異なった用量及び/または異なった刺激剤が使用されるか、あるいは同一の用量及び同一の刺激剤が使用され得る。刺激剤の投与が効果的である場合(すなわち、以下に詳述するように、網状赤血球計数は、投与が効果的であることを示す)、抗CD47薬の治療上有効量が送達され得る。
【0066】
刺激剤の初回刺激量が対象において、(ESA刺激剤を投与した後、及び抗CD47薬の初回刺激量を投与した後に起こる)RBC数を増加させ得るので、最近産生された(すなわち、若い)赤血球(すなわち、網状赤血球)の評価は、刺激剤の投与が効果的であるか否かを決定するための評価ツールとして役立ち得る。
【0067】
網状赤血球の評価方法は、血液試料中の網状赤血球の絶対数または相対数を測定することを含む(例えば、網状赤血球計数は、刺激剤の投与前及び後に対象からの血液試料で行われる)。網状赤血球の評価及び/または計数する方法は当業者によって知られており、任意の慣用方法が使用され得る。好適な方法の例は、形態学的評価に基づく試料中の網状赤血球数の計数を含むがこれに限定されない。網状赤血球は、特定の染色、例えば新規なメチレンブルー(NMB)で視覚化できるメッシュ様ネットワークを示す。網状赤血球は、通常のロマノフスキー染色で見たときに、他の赤血球よりも僅かに青く見える。網状赤血球はまた僅かに大きく、全血球計数による高MCV(平均赤血球容積)としてピックアップされる。
【0068】
網状赤血球を評価する好適な方法の別の例は、若い/未成熟RBCのマーカーの発現に基づく網状赤血球数の計数を含むがこれに限定されない(例えば、CD71発現は、より古いRBCに比べて若いRBCでは増加し、CD71は網状赤血球を同定するためのマーカーとして役立ち得る)。
【0069】
網状赤血球を評価する好適な方法の別の例は、試料を、核酸(DNA及びRNA)を顕在化する蛍光色素(例えば、チアゾールオレンジ、ポリメチン等)と接触させた後に、細胞によって示される蛍光量を測定することに基づいて該試料中の網状赤血球数を計数すること、を含むがこれに限定されない。例えば、非選択的核酸色素は、網状赤血球の残渣RNAを染色し得るが、DNA選択的核酸色素(例えば、チアゾールオレンジ)は網状赤血球を染色しない。なぜならば、網状赤血球はDNAを有さない(そのため、網状赤血球はDRAQ5陰性である)。匹敵できる蛍光の中程度レベルは、網状赤血球を成熟RBC(RNAもDNAも有さないため、蛍光が非常に低い)及びリンパ球(網状赤血球と異なり、大量のDNAを有する)と識別する。したがって、網状赤血球計数は、(例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いる)自動式では実行できない。
【0070】
刺激剤の投与が効果的であるか否かを決定するための好適な方法の別の例は、血中のEPOレベルを測定することを含む。ESAはEPO産生を直接的に刺激するために使用され得るが、抗CD47薬の初回刺激量もEPOレベルの増加を引き起こす。そのようなわけで、刺激剤の投与が効果的であるか否かを決定するステップは、血中のEPOレベルを(例えば、刺激剤の投与前後に)測定することを含み得る。
【0071】
刺激剤の投与が効果的であるか否かを決定するための好適な方法の別の例は、ヘモグロビンを測定することを含む。ヘモグロビンを測定する方法は、当業者によって知られており、任意の慣用な方法が使用され得る。ヘモグロビンは、通常、血液試料由来の全血球数計数(CBC)の一部として測定される。研究室へモグロビン試験法は、血液試料(動脈、静脈、または毛細血管)、及びヘモグロビンアナライザ及びCOオキシメータでの分析を必要とする。更に、非侵襲的ヘモグロビン試験法(例えば、パルスCOオキシメータ)も使用され得る。ヘモグロビンを測定する1つの非限定的な例として、赤血球を崩壊してヘモグロビンを溶液に入れる。遊離のヘモグロビンは、ヘモグロビン分子と強固に結合してシアンメトヘモグロビンを形成する、化学物質含有シアニドに曝露される。該試料を特異の紫外線波長(例えば、540nm)に曝露することによって、ヘモグロビン量が測定される。
【0072】
刺激剤の投与が効果的であるか否かを(例えば、網状赤血球計数によって)決定することは、ステップ(a)の開始後、約3日~約12日の範囲(例えば、約4日~約11日、約5日~約10日、約6日~約10日、約7日~約9日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、または約12日)で行われる。
【0073】
網状赤血球計数を行うと、約400×109 個の網状赤血球/Lまたはそれ以上が、刺激剤の投与が効果的であったことを示している。網状赤血球計数は、網状赤血球である赤血球のパーセンテージとして通常表され、健常成人の正常数は0.5%~2%の範囲である。網状赤血球数がこのような方法で表現される時には、約4%またはそれ以上(例えば、4.5%またはそれ以上、5%またはそれ以上、5.5%またはそれ以上、または6%またはそれ以上)の値は、刺激剤の投与は効果的であったことを示している。場合によっては、網状赤血球数の倍増加は計算することができ、2倍またはそれ以上(例えば、3倍またはそれ以上、3.5倍またはそれ以上、4倍またはそれ以上、4.5倍またはそれ以上、または5倍以上)の増加は、刺激剤の投与が効果的であったことを示している。ヘモグロビン測定が行われる場合には、約2~約4g/dLの絶対的減少または約12%またはそれ以上の相対的減少(例えば、約15%またはそれ以上、17.5%またはそれ以上、20%またはそれ以上、25%またはそれ以上、または30%またはそれ以上)、または約12%~約30%(例えば、約15%~約30%、約15%~約25%、または約20%~約30%)の範囲の相対的減少は、刺激剤の投与が効果的であったことを示している。
【0074】
実施形態によっては、対象は、抗CD47薬の治療上有効量の投与後に、疾患(例えば、癌または感染症)の臨床的徴候を監視される。
【0075】
キット
本方法で使用するためのキットも提供される。本キットは、刺激剤及び抗CD47薬を含む。実施形態によっては、キットは、2またはそれ以上の刺激剤を含む。実施形態によっては、キットは、2またはそれ以上の抗CD47薬を含む。実施形態によっては、刺激剤は、投薬剤形(例えば、刺激投薬剤形)で提供される。実施形態によっては、刺激剤は、2またはそれ以上の異なった投薬剤形(例えば、2またはそれ以上の異なった刺激投薬剤形)で提供される。実施形態によっては、抗CD47薬は投薬剤形(例えば、治療上有効量の投薬剤形)で提供される。実施形態によっては、抗CD47薬は、2またはそれ以上の異なった投薬剤形(例えば、2またはそれ以上の異なった治療上有効量の投薬剤形)で提供される。キットの文脈で、刺激剤及び/または抗CD47薬は液体または固体形態で任意の慣用の包装(例えば、スティックパック、ドーズパック等)で提供され得る。
【0076】
上記成分に加えて、本キットは、(ある実施形態では)本方法を実施するための教示を更に含んでよい。これらの教示は、様々な形態で本キットに存在してよく、その1またはそれ以上はキットに存在してよい。これらの教示が存在することがある1つの形態は、キットの包装、添付文書等における、好適な媒体または基質に関する印刷した情報、例えば情報が印刷される1枚または複数の紙である。これらの教示の更に別の形態は、該情報が記録されているコンピュータ読み取り可能媒体、例えば、ディスケット、コンパクトディスク(CD)、フラッシュドライブ等である。存在することがあるこれらの教示の更に別の形態は、離れたサイトで該情報にアクセスできるインターネットを介して使用されるウェブサイトアドレスである。
【0077】
有用性
本方法及びキットは、標的細胞(例えば、癌細胞、感染細胞等)が、同種の正常細胞と比べてCD47の増加した発現を示す、任意の障害(infliction)を治療するために使用され得る。投与される抗CD47薬は、SIRPα(例えば、マクロファージ上のSIRPα)と標的細胞(例えば、癌細胞、感染細胞等)上のCD47との間の相互作用を阻害し、それによって該標的細胞のインビボ貪食を増加させる。本方法は、抗CD47薬の治療上有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含み、それは、該医薬と他の薬物(例えば、抗癌剤、抗感染症剤等)との組合せを含むがこれに限定されない。
【0078】
実施形態によっては、障害は慢性感染症、すなわち、最大1週間、2週間等の期間内に宿主免疫系によって除外されない障害である。場合によっては、慢性感染症は、病原体の遺伝的要素の宿主ゲノム、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、B型肝炎ウイルス等への組み込みを含む。他の場合では、慢性感染症は、例えばある細胞内細菌または原生動物病原体は宿主細胞内に存在する病原体細胞から起こる。更に、実施形態によっては、感染症は、ヘルペスウイルスまたはヒトパピローマウイルスのように潜在的な段階にある。
【0079】
対象のウイルス病原体は、レトロウイルス及びレンチウイルス病原体、例えば、HIV-1、HIV-2、HTLV、FIV、SIV、B型肝炎ウイルス等を含むがこれらに限定されない。対象の微生物は、以下を含むがこれらに限定されない:エルシニア種、例えば、Y.ペスティス(pestis)、Y.シュードツベルクローシス(pseudotuberculosis)、Y.エンテロコリチカ(enterocolitica);フランシセラ種、パスツレラ種、ビブリオ種、例えば、V.コレレ(cholerae)、V.パラヘモリチカス(parahemolyticus);レジオネラ種、例えば、L.ニューモフィラ(pneumophila);リステリア種、例えば、L.モノサイトゲネス(monocytogenes);マイコプラズマ種、例えば、M.ホミニス(hominis)、M.ニューモニエ(pneumoniae);マイコバクテリウム種、例えば、M.ツベルクローシス(tuberculosis)、M.レプレ(leprae);リケッチア種、例えば、R.リケッチア(rickettsii)、R.チフィ(typhi);クラミジア種、例えば、C.トラコマチス(trachomatis)、C.ニューモニエ(pneumoniae)、C.シタッシ(psittaci);ヘリコバクター種、例えば、H.ピロリ(pylori)等。細胞内原生動物病原菌、例えば、プラスモディウム種、トリパノソーマ種、ジアルジア種、トキソプラズマ種、リーシュマニア種等も含まれる。
【0080】
本発明の方法で治療される感染症は、一般的に、宿主細胞、すなわち、細胞内相にそのライフサイクルの少なくとも一部を有する病原体を含む。本発明の方法は、処理の非存在下での貪食と比べて、宿主生物の病原体細胞による、感染細胞のより効率的な除去を提供し、病原体のライフサイクルの細胞内相に関する。
【0081】
実施形態によっては、本発明の方法は、病原性細胞内感染症に罹患した患者の診断;病原性細胞内感染症に罹患したと以前に診断された患者の選択;場合により更なる治療法と組み合わせて抗CD47薬のレジメンで該患者を治療すること;及び治療の有効性について該患者を監視すること、を含む。監視は、感染症の臨床的指標、例えば、発熱、白血球数等を測定してもよく、及び/または病原体の存在を直接監視してもよい。
【0082】
治療は、他の活性物質と組み合わせてよい。抗体の種類は、ペニシリン、例えばペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、オキサアシリン、カルベニシリン、ナフシリン、アンピシリン等;β-ラクタマーゼ阻害剤、例えば、セファロスポリン、例えばセファクロル、セファゾリン、セフロキシム、モキサラクタム等と組み合わせたペニシリン;カルバペネム;モノバクタム;アミノグリコシド;テトラサイクリン;マクロリド;リンコマイシン;ポリミキシン;スルホンアミド;キノロン;クロラムフェニコール;メトロニダゾール;スペクチノマイシン;トリメトピリム;バンコマイシン等を含む。サイトカインも含まれてよい、例えば、インターフェロンγ、腫瘍壊死因子α、インターロイキン12等。抗ウイルス剤、例えば、アシクロビル、ガンシクロビルも治療に使用されてよい。
【0083】
実施形態によっては、障害は癌である。上記のように、同種の非癌性細胞に比べて癌性細胞がCD47の増加したレベルを発現する任意の癌は、本方法で治療され得る。
【0084】
本明細書で使用される用語「癌」は、異常な制御不可能な細胞増殖によって起こった様々な症状を意味する。「癌性細胞」と称される、癌を起こすことができる細胞は、特徴的な性質、例えば制御不可能な増殖、不死性、転移性潜在力、急激な成長及び増殖速度、及び/またはある典型的な形態学的特徴を有する。癌は、腫瘍または腫瘍(複数)の存在を(例えば、臨床的または放射線的手段によって)検出すること、腫瘍内のまたは別の生物学的試料(例えば、組織生検)からの細胞を試験すること(例えば、組織生検からの試料)、癌の指標である血液マーカーを測定すること、及び癌の指標である遺伝子型を検出すること、を含むがこれに限定されない多数の方法のいずれかで検出され得る。しかしながら、上記検出方法の1またはそれ以上での陰性の結果は、必ずしも癌の非存在を示すものではない、例えば、次に起こる再発によって証明されるように、癌治療に完全な応答を示した患者が依然として癌を有していることがある。
【0085】
本明細書で使用される用語「癌」は、悪性腫瘍(例えば、上皮内癌、浸潤癌、転移癌)、及び前悪性症状、すなわち、その組織学的起源にかかわらず新形態変化を含む。用語「癌」は、任意のステージ、グレード、組織形態学的特徴、侵襲性、罹患組織の攻撃性または悪性度、または細胞攻撃性に限定されない。特に、ステージ0、ステージI、ステージIIの癌、ステージIIIの癌、ステージIVの癌、Iグレード癌、IIグレード癌、IIIグレード癌、悪性癌及び原発性悪性腫瘍が含まれる。
【0086】
治療され得る癌及び癌細胞は、白血病、リンパ腫及び骨髄腫を含む血液の癌、及び脳腫瘍(神経膠芽腫、髄芽細胞腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、上衣細胞腫)を含む固形癌、悪性腫瘍、例えば、肺、肝臓、甲状腺、骨、副腎、脾臓、腎臓、リンパ節、小腸、膵臓、結腸、胃、乳房、子宮内膜、前立腺、精巣、卵巣、皮膚、頭頸部及び食道の癌を含むが、これらに限定されない。
【0087】
1つの実施形態では癌は血液の癌である。1つの実施形態では血液の癌は白血病である。別の実施形態では血液の癌は骨髄腫である。1つの実施形態では血液の癌はリンパ腫である。
【0088】
1つの実施形態では、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)及び慢性骨髄性白血病(CML)から選択される。1つの実施形態では、白血病はAMLである。1つの実施形態では、白血病はALLである。1つの実施形態では、白血病はCLLである。更なる実施形態では、白血病はCMLである。1つの実施形態では、癌細胞は白血病細胞であり、例えば、AML細胞、ALL細胞、CLL細胞またはCML細胞に限定されない。
【0089】
抗CD47薬を用いる治療に応答する好適な癌は、白血病;急性骨髄性白血病(AML);急性リンパ性白血病(ALL);転移;最小残存疾患;固形癌、例えば乳房、膀胱、結腸、卵巣、膠芽細胞腫、平滑筋肉腫、及び頭頸部扁平上皮癌等を含むが、これらに限定されない。例えば、(i)Willinghamら,Proc Natl Acad Sci USA.2012年4月24日;109(17):6662-7:“CD47シグナル制御タンパク質アルファ(SIRPα)相互作用はヒト固形腫瘍の治療標的である”;(ii)Edrisら,Proc Natl Acad Sci USA.2012年4月24日;109(17):6656-61:“CD47タンパク質を標的にする抗体療法は攻撃的な転移性平滑筋肉腫のモデルに有効である”;及び(iii)米国特許出願第20110014119号;これらの全てはその全体が本明細書に組み込まれている、を参照。
【0090】
医薬組成物
好適な抗CD47薬及び/または刺激剤は、治療的使用のため、例えばヒト治療のために好適な医薬組成物で提供される。実施形態によっては、本発明の医薬組成物は、1またはそれ以上の本発明の治療物質またはその薬学的に許容される塩、エステル、またはその溶媒和物を含む。実施形態によっては、抗CD47薬または刺激剤の使用は、別の治療剤(例えば、別の抗感染症剤または別の抗癌剤)と組み合わせた使用を含む。1またはそれ以上の本発明の抗CD47薬及び/または刺激剤を含む治療製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、所望の純度を有する抗CD47薬または刺激剤を任意の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって保存のために調製される(レミントンのPharmaceutical Sciences 第16版,Osol,A.著(1980年))。抗CD47薬または刺激剤の組成物は、優れた医療業務に一致した方法で調合され、投薬され及び投与されることになる。この文脈で考慮する因子は、治療されるべき具体的な疾患、治療される具体的な哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、該薬の送達部位、投与方法、投与計画、及び医療者に公知の他の因子を含む。
【0091】
抗CD47薬または刺激剤は、局所、経口、非経口、肺内、及び鼻腔内を含む任意の好適な手段によって投与され得る。非経口注入は、筋肉内、静脈内(ボーラス及び一滴ずつ)、動脈内、腹腔内、髄こう内または皮下投与を含む。
【0092】
抗CD47薬または刺激剤は、必要ではないが、場合により活性を増強しまたは治療的効果を増加させる、1またはそれ以上の物質と共に調合される。一般的に、同一の投薬量でかつ上記の使用されてきた投薬経路で、または従来採用されてきた投薬量の約1~99%で使用される。
【0093】
抗CD47薬または刺激剤は、通常、活性治療剤及び別の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として投与される。好ましい形態は、意図した投与形式及び治療的適用に依拠する。該組成物はまた、望まれる製剤に依って、動物用またはヒト投与用医薬組成物を調合するため一般的に使用されるビヒクルとして定義される、薬学的に許容される、非毒性担体または希釈剤を含む。希釈剤は、組合せの生物学的活性に影響を与えないように選択される。かかる希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース液、及びハンクス液である。加えて、医薬組成物または製剤は他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫学的安定化剤等を含んでもよい。
【0094】
更に他の実施形態によっては、医薬組成物は、大きなゆっくりと代謝される高分子、例えばタンパク質、多糖、例えばキトサン、ポリ乳酸、ポリグルコール酸及びコポリマー(例えば、ラテックス機能化セファロース(登録商標)、アガロース、セルロース等)、ポリマー性アミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)を含んでもよい。
【0095】
担体は、直接的なまたはリンカー基を介してのいずれかの共有結合、及び非共有的会合を含む、様々な方法で該物質を有することができる。好適な共有結合担体は、タンパク質、例えばアルブミン、ペプチド及び多糖、例えばアミノデキストランを含み、その各々は、成分の結合の複数部位を有する。担体は、非共有結合等の非共有的会合によってまたはカプセル化によって、抗CD47薬または刺激剤を有することもできる。担体の性質は、本発明の目的のために水溶性または不溶性のいずれかでよい。当業者は、抗CD47薬及び/または刺激剤を結合するための他の好適な担体を知るか、または規定の実験を用いてそれを確認するだろう。
【0096】
許容される担体、賦形剤または安定化剤は、採用される投薬量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、緩衝液、例えばリン酸、クエン酸及び他の有機酸、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、保存料(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシン;シクロヘキサノール:3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラシン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン;単糖、二糖、及びグルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭化水素;キレート剤、例えばEDTA;糖類、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成カウンターイオン、例えばナトリウム、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/または非イオン性界面活性剤、例えばツィーン(登録商標)、プルロニック(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG)を含む。インビボ投与に使用される製剤は殺菌性でなければならない。これは、殺菌性濾過膜による濾過によって容易に達成される。
【0097】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合、例えば、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)またはマクロエマルジョンで、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセル、によって調製されたマイクロカプセルにカプセル化されてもよい。かかる技術はレミントンのPharmaceutical Sciences 第16版,Osol,A.著(1980)に開示されている。
【0098】
放射線核種剤に特異的な担体及びリンカーは、放射性ハロゲン化小分子及びキレート化合物を含む。放射線核種キレートは、金属または酸化金属、放射線核種を結合するためのドナー原子として窒素及びイオウ原子を含むものを含むキレート化合物から形成され得る。
【0099】
本発明において画像化部分として使用するためのX線写真部分は、比較的大きな原子、例えば金、イリジウム、テクネチウム、バリウム、タリウム、ヨウ素、及びそれらの同位体を有する化合物及びキレートを含む。より毒性の低いX線写真画像部分、例えばヨウ素またはヨウ素同位体が本発明の方法で使用されるのが好ましい。かかる部分は、許容される化学的リンカーまたはキレート担体によって抗CD47薬または刺激剤に複合化され得る。本発明で使用するための陽子放出部分は、抗CD47薬または刺激剤とのフッ素化反応によって容易に複合化され得る18Fを含む。
【0100】
典型的には、組成物は、液状液または懸濁液のいずれかとしての注射液として調製され、注射前の液状ビヒクルのための溶液または懸濁液に好適な固体形態も調製され得る。本調製物は、以下で議論するように、ポリ乳酸、ポリグリコール酸または増強したアジュバンド効果のためのコポリマー等のリポソームまたは微粒子に乳化されまたはカプセル化され得る。Langer,Science 249:1527,1990、及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の物質は、活性成分の徐放またはパルス放出を可能にするような方法で調合され得る、デポー注射剤またはインプラント調製物の形態で投与され得る。該医薬組成物は、一般的には殺菌の、実質的には等張であり、米国食品医療品局の医薬品製造品質管理(GMP)規範の全てに完全に合致するように調合される。
【0101】
抗CD47薬及び/または刺激剤の毒性は、細胞培養物または実験動物における標準的医薬的手段によって、例えばLD50(集団の50%致死量)またはLD100(集団の100%致死量)を決定することによって決定され得る。毒性と治療効果との用量比は、治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒトでの使用のための治療投薬量の範囲及び/または刺激剤投薬量の範囲を更に最適化するために使用され得る。正確な調合、投与経路及び投薬量は、患者の症状の点から個々の医師によって選択され得る。
【0102】
本発明を十分に説明してきたが、本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく、様々な変更及び改変がなされ得ることが当業者には明らかであろう。
【0103】
実験
以下の例を提示し、当業者に完全な開示及び本発明の生産及び使用方法の説明を提供する。また、以下の例は、発明者が発明とみなすものの範囲を制限する意図もないし、下記の実験が実施した全ての、または唯一の実験であることを表す意図もない。使用した数字(例えば、量、温度など)に関して正確さを確保するための試みがなされているが、一部の実験誤差及び偏りは当然に含まれる。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧近傍である。
【0104】
本明細書に記載した全公報及び特許出願は、各々の公報または特許出願が援用されるために具体的、かつ個別的に示されているように、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0105】
本発明は、発明の実施の好ましい方法を含むために本発明で発見または提案された特定の実施形態に関して記載した。本開示を考慮して、多数の修飾及び変化は発明の意図した範囲から逸脱することなく例証された特定の実施形態で実施され得ることは当業者に理解されるであろう。例えば、コドンの重複性のためタンパク質配列に影響を及ぼすことなく基盤をなすDNA配列を変えることができる。更に、生物学的機能的等価性の考慮により種類または量において生物学的作用に影響を及ぼすことなく、タンパク質構造を変化させることができる。全てのそのような変更は、付属のクレームの範囲内に包含されることが意図される。
【実施例
【0106】
実施例1
野生型マウスにおける抗CD47抗体の単回投与
MIAP410(IgG1アイソタイプ)またはMIAP470(IgG2aアイソタイプ)の単回250μgIP注入を野生型マウスに施した。この抗体用量は、およそ10mg/kg用量と等価である。血液を眼窩後叢から収集し、CBC分析をHemaTrue血液分析計で抗体注入の後1、3、6日目に実施した。ヘマトクリット(HCT)及び赤血球(RBC)値の百分率変化を図1に示す。全ての抗CD47mAb処理マウスが貧血を発生し、その最低値が投与の約3日後に生じた。MIAP470はより顕著な貧血を誘発する。これはIgG1及びIgG2aアイソタイプによって誘発される特異的なFcR仲介作用に起因する可能性がある。
【0107】
CD47-/-マウスにおける抗CD47抗体の単回投与
CD47-/-マウスをJackson Laboratoryから入手し、250μgの対照マウスIgG、MIAP410またはMIAP470をIPに注入した。血液を収集し、mAb注入の72時間後に分析した。投与したCD47-/-マウスのいずれにも貧血は観察されなかった。ヘモグロビンの百分率変化を図2に示す。これは、野生型マウスで観察された貧血はCD47に結合した抗CD47抗体の直接的な結果であったことを示す。
【0108】
野生型マウスにおける抗CD47抗体の複数注入
WTマウスに、250μgの対照マウスIgG、MIAP410またはMIAP740を3日に1回与えた(図3に破線縦線で表した)。赤血球の毒性を各々の注入前にCBC分析で監視した。HCTの急激な低下は最初の抗体注入と同時(0日目)に発生した。二回目の注入(3日目)はヘマトクリットの更なる低下をもたらさなかった。マウスは、その後の注入に対し耐性になったように思われ、最終的に対照IgG治療マウスと類似した範囲に戻った。抗CD47抗体の反復投与は初期貧血を悪化させないという発見は、非ヒト霊長類における以降の実験の基本である。
【0109】
実施例2
非ヒト霊長類(NHP)における投与戦略の検証
Hu5F9-G4抗CD47抗体(及び、その親5F9)はヒトCD47に結合するが、マウスCD47には結合しない。適切な毒性種を特定するために、マカク(カニクイザル)非ヒト霊長類(NHP)CD47の配列をヒトCD47用いて整列した。そして、2つの配列が細胞外ドメインで僅か3個のアミノ酸の相違を含むことが明らかになった(図4)。3個の非保存アミノ酸は全てSIRP-alpha相互作用領域外に位置することが、刊行物のX線結晶構造によって明らかになった。
【0110】
カニクイザルNHP CD47-Fc融合タンパク質が生成した。これは、実際にはHu5F9-G4がカニクイザルNHPCD47に結合する(図5)ことを明らかにした。表面プラズモン共鳴(SPR)親和性測定を更にBiacoreを用いて実行した。結果は、Hu5F9-G4はヒトCD47の親和性に匹敵する親和性でカニクイザルCD47に結合することを示す(図6)。
【0111】
加えて、フローサイトメトリー及び免疫蛍光法を別々に使用して、Hu5F9-G4抗体は、ヒト白血球及び組織に類似する分布のカニクイザルNHP白血球と正常組織に結合することを示した。総合すれば、これらの研究は、カニクイザルは安全性及び毒性学研究に適切な種であるであることを実証した。
【0112】
抗CD47抗体はNHPs(単回投与)で用量依存的貧血を引き起こす。
多くのNHP研究を、専売グルタミンシンテターゼ(GS)発現系を使用してLonzaによって作製された精製Hu5F9-G4抗体を用いて行った。Hu5F9-G4を、0.1、0.3、1、3、10または30mg/kgで単回投与として投与し、臨床病理学パラメータを、全血球数及び代謝パネルを含めて監視した。網赤血球増加及び球状赤血球症を伴う用量依存的貧血が肝臓または腎臓機能障害を伴わずに観察された(図7)。遊離血漿ヘモグロビンは検出がなく、血管内溶血の不在を示した。血清レベルの測定による薬物動態のモニタリングは、短半減期をもたらす大きな抗原シンクが存在することを示した(図7)。単回投与によって、異種移植研究では僅か10及び30mg/kgで血清レベルが一過的に効力を伴う範囲に達することができた。したがって、適切な投与が貧血を最小化しながら治療的に有効な抗CD47剤レベルを達成し、維持することができる。
【0113】
抗CD47抗体の濃度漸増は貧血を悪化させない。
本発明者らは、エリスロポエチン(EPO)の前投与が若いRBC産生を刺激することで貧血を弱めると推測した。これらの考慮から、本発明者らは初期の低用量が老化RBCの損失を弱め、低感受性の若いRBCの産生を刺激し、それによって以降のより多くの用量の耐性を容易化する可能性があるとの仮説に基づいてNHPで別々の用量増加試験を行った(図8)。2頭の動物を本研究に登録し、1週間の間隔で投薬した。1頭はEPO前処理(3、10、30、100及び300mg/kg)し、1頭は非前処理(1、3、10、30及び100mg/kg)とした。どちらの場合も、NHPは初期投薬で軽度な貧血を示し、反復投与によって悪化しなかった。実際、ヘモグロビンだけがEPO前処理なしでもヒトでの輸血の上限に達した。動物は100及び300mg/kgを含めて全ての用量に良好な耐容性を示し、更なる血液または代謝異常を伴わなかった。研究の終了時点で、両方の動物を安楽死させて、解剖及び組織病理学解析から異常がないことが分かった。
【0114】
この用量増加試験から、本発明者らはNHPでHu5F9-G4の薬物動態を明らかにした。
正常組織に発現したCD47の大きな抗原シンクの存在と一致して、初期の低用量Hu5F9-G4は24時間の半減期で血清から迅速に取り除かれた(図9)。対照的に、高用量Hu5F9-G4は持続した血清レベルを生み出して抗原シンクの飽和を示した。300mg/kgで投薬した動物は、5mg/mlのピークレベルを有し、ほぼ2週間1mg/ml超のレベルを維持した。
【0115】
抗CD47抗体の単回負荷投与はより高い維持用量を可能にする。
これらの研究は、Hu5F9-G4が主要な毒作用を伴わずに長期にわたる治療的血清レベルを達成することが可能な用量でNHPに投与し得ることを示した。潜在的な臨床投与戦略をモデル化するために、本発明者らは負荷維持投薬手法を用いた別のNHP研究を行った。本研究では、Hu5F9-G4を、グレード3の毒性を伴わない軽い貧血及び網状赤血球増加症を刺激し得る負荷投与で投与する。本発明者らの単回投与データ(上記を参照のこと)から、負荷投与として1日に1または3mg/kgのいずれかを選択した。1週間後、10または30mg/kgのいずれかの維持用量を投与し、毎週3投与を継続した。両方の負荷投与は共に、30mg/kgの維持用量でも貧血の重症度を軽減し、グレード3の毒性の発生はなかった。第一維持用量の後のPKデータは動物が治療レベルを達成することを示す。本研究は、負荷-維持戦略が潜在的に治療的な薬物レベルを達成しながら貧血を軽減(グレード3の毒性を防止する)することを示唆する。図10は、抗CD47剤(この場合はhu5F9-G4抗体)の種々の用量と関連する網状赤血球増加症レベルを実証する網状赤血球計数データを示す。
【0116】
実施例3
異物移植アッセイにおける抗CD47抗体の治療有効性
本発明者らは、ブロッキング抗CD47モノクローナル抗体(クローンB6H12、マウスIgG1)は、乳房、膀胱、結腸、卵巣、グリア芽細胞腫、平滑筋肉腫及び頭頸部扁平上皮癌を含む固形腫瘍増殖及び転移の阻害に有効であることを以前に報告した(PMID:22451913、22451919)。抗CD47モノクローナル抗体も、血液学的腫瘍増殖の類似した阻害を引き起こした(PMID:21177380、20813259、19632179、19632178)。本発明者らは、ヒト化抗体(例えば、上記の研究で用いたヒト化抗CD47抗体、hu5F9-G4)も固形腫瘍増殖の阻害及び転移排除に非常に有効であることを確認した(図11)。
【0117】
固形腫瘍に対するhu5F9-G4の有効性を調査するために、ヒト膀胱腫瘍細胞株(639V)を免疫不全マウスに皮下移植した。腫瘍マウスをPBSまたはhu5F9-G4で治療した。腫瘍負荷のため全PBS治療マウスを治療4週間後に安楽死させた。対照的に、hu5F9-G4治療コホートでは腫瘍増殖は観察されなかった(図11)。次いで、これらのマウスを更に4週間(更なるhu5F9-G4処理なし)観察した。腫瘍成長はhu5F9-G4で治療したマウスで観察されなかった。これは腫瘍が完全に排除されたことを示した(図11A)。
【0118】
腫瘍転移の形成に対するhu5F9-G4の効果を評価するために、本発明者らは免疫不全マウスにヒト転移性前立腺腫瘍試験片を皮下移植した。腫瘍移植と同時に、本発明者らはPBSまたはhu5F9-G4で治療を開始した。治療の6週間後、リンパ節転移の数及びサイズの顕著な減少が観察された(図11B)。これらの結果は、hu5F9-G4は腫瘍転移を阻害または排除し得ることを示す。
【0119】
樹立転移を排除するhu5F9-G4の可能性を示すために、本発明者らはマウス乳房脂肪体にヒト乳癌初代培養細胞を移植した。肺における腫瘍転移の存在を確認した後に、本発明者らは原発腫瘍を切除して、PBSまたはhu5F9-G4で治療を開始した。4週間後に、hu5F9-G4治療マウスで肺転移増殖の有意な阻害が観察された(図12A)。更に、脳における腫瘍転移の完全な排除が観察された(図12B)。Hu5F9-G4は切除された原発腫瘍の再増殖も阻害したが、これはhu5F9-G4が微小残存病変の治療に有効であることを示す(図12C)。
【0120】
hu5F9-G4の血清中濃度を実験全体で観察した。100-200μg/mlの間のHu5F9-G4濃度は治療有効性と関連した(図12AD)。これらのデータは、ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は非ヒト化抗体と、病気(例えば、癌または慢性感染)の治療に関して同一の一般的性質を有しており、対象方法はヒト化抗体を用いて腫瘍を治療及び/または慢性感染を治療する際に効果的であることを示す。
【0121】
実施例4
カニクイザルの以前の毒性学的実験では、本発明者らのヒト化抗CD47モノクローナル抗体(Hu5F9-G4)の単回注入が、10mg/kg以上で投薬すると容認できないレベルの貧血(Hb>7g/dL)を引き起こした。本発明者らの前臨床医学モデル(100-200ug/ml)では、10mg/kg未満のHu5F9-G4用量は治療有効性を伴う血清レベルを生み出すには不十分である。本新研究は、5mg/kgの単一の初回(priming)用量は、それ以外の場合では毒性の可能性があるレベル(おそらく致死レベル)での以降の維持(maintenance)用量からカニクイザルを保護するのに十分であることを明らかにした。(研究デザインを参照:図13)。
【0122】
貧血はHu5F9-G4の投与に関係するにもかかわらず、いずれの動物でも臨床徴候で毒性の証拠は観察されなかった。したがって、初回/維持用量戦略は300mg/kg程の高用量であってもHu5F9-G4が臨床的に良好な忍容性を示すことを可能にする(図14)。本発明者らは、Hu5F9-G4の投与は、CD47の段階的な損失を老化RBC上のCD47の即時遮断で置き換えることによって老化RBCの排除過程を加速させると考えている。老化RBCの成熟前喪失は、続く網状赤血球増加症によって補償される(これは全研究で観察された)。そして、時間と共に初期貧血は老化RBCが若い細胞で置き換えられるにつれて治癒し、結果として、RBCプールの年齢構成がより若い細胞へシフトする。群2-4(図13図14図15)における血清中濃度は治療有効性を伴う最小限100-200ug/mlレベルを十分上回った。
【0123】
図13。研究設計。動物(#遠い右カラム内のオス及びメス)を5群に分割し、その1つは抗CD47抗体を受けなかった。群2-5の全動物が初回刺激量(5mg/kg)を受け、その後で群2-5は表示した維持用量を受けた。
【0124】
図14。研究継続期間に対する全コホートのヘモグロビンレベル
本研究では水平破線は毒性限界用量を表す(Hb<7)。本グラフ上の各々の点は個別の動物を表す。異なる維持用量レベルでのHbレベルに統計的差異はない。初回刺激量(5mg/kg)は、後続用量の高低にかかわらず防止効果がある。
【0125】
図15。全コホートにおけるHu5F9-G4の薬物動態プロファイル。
群3-4は、有効性を伴う最小濃度(目標範囲)を十分に上回るHu5F9-G4の血清中濃度を達成する。
【0126】
実施例5
アカゲザル及び/またはカニクイザルで研究を行った。アカゲザルとカニクイザルは共に薬理学的に関連する動物種(アカゲザルのCD47はカニクイザルのCD47と100%の配列相同性を共有する)とみなされる。
【0127】
アメリカ食料医薬品局(FDA)医薬品最適研究基準(GLP)規定(21CFRパート58)にしたがって全研究を行った。Hu5F9-G4の開発は、利用可能なICH医薬品委員会、及びFDAガイダンス文書に従った。
【0128】
Hu5F9-G4(ヒト化抗CD47抗体)の生体外溶血アッセイ
CD47は赤血球上で発現し、老化赤血球上で作用するため、Hu5F9-G4がヒトまたはサル(アカゲザル及びカニクイザル)の赤血球の直接血管内溶血を誘発するかどうかを評価する試験を読取として遊離ヘモグロビンを使用して行った。Hu5F9-G4は、ヒトまたはサル(アカゲザルまたはカニクイザル)赤血球のいずれも溶血も誘発しなかった。
【0129】
生体外のHu5F9-G4で刺激したヒトPBMCにおけるサイトカイン産生
本研究の目的は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)におけるHu5F9-G4による潜在的サイトカイン放出誘導を評価することであった。この生体外実験では、3個の別々のドナーから収集した培養PMBCを、Hu5F9-G4(20g/mlをプレートに結合した)、または非特異的ヒトIgG4抗体(陰性対照)、または抗CD3/抗CD28抗体(陽性対照)と共にインキュベートした。サイトカインストームに関連する多くの炎症促進性サイトカイン(例えば、 TNF-α、IL-1、IL-4、IL-6)を含む50の異なるサイトカインをルミネックス(Luminex)多重化分析で評価した。評価した異なるサイトカインのうちHu5F9-G4はヒトPBMCsでサイトカイン放出を誘導しなかった。加えて、サイトカイン放出症候群の臨床徴候はいずれのサルの研究でも観察されなかった。Hu5F9-G4によるヒトPBMCの治療は、非特異的IgG4抗体またはCD3/CD28抗体で治療したPBMCと比較してIL1-RA、MIP1b/CCL4、IL-8及びENA-78/CXCL5のレベルの減少をもたらした。CD47とこれらの4つのサイトカインとの関係は明白でないが、サイトカインレベルの減少と直接的に関連する可能性がある何らの治療関連効果の証拠もサル研究では観察されなかった。
【0130】
カニクイザルに1時間静脈内注入または皮下注入で投与したHu5F9-G4及びB6H12-G4の単回投与研究
本研究の目的は、オスのカニクイザルに1時間IV注入による単回投与として投与したHu5F9-G4の潜在的毒性及び毒物動態を評価することであった。本研究では、Hu5F9-G4を、1日目に単一のオスサルに10mg/kgの用量で投与した。サルを、臨床徴候、摂食量、体重及び臨床病理学パラメータ(血液学、凝固(coagulation)、血液学、臨床化学)の変化について評価した。試料を、研究の継続期間全体で毒物動態分析のために収集した。動物を14日目に試験施設動物コロニーに戻した。
【0131】
治療関連の変化が血液学的パラメータで観察され、軽度から中度の赤血球数(RBC)、ヘモグロビン、ヘマトクリットの減少、網状赤血球数及び赤血球分布幅の顕著な増加、並びに白血球、リンパ球及び単球数の一過性の増加が含まれた。変化は、Hu5F9-G4に関係するとみなされる臨床化学パラメータでも観察され、これらは乳酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビン、AST及びALTの一過性増加を含んだ。血液学及び臨床化学パラメータの変化は、14日目までにベースラインレベルに部分的または完全に戻った。
【0132】
要約すると、10mg/kgでのHu5F9-G4の単回投与は忍容性に優れており、血液学及び臨床化学パラメータの過渡変化に限定される治療関連所見を伴った。
【0133】
アカゲザルへの静脈注入投与による研究
本研究を実施して、カニクイザルの研究が行われた同じ試験施設(ネバダ州レノ、チャールスリバー研究所)でアカゲザルに投与した場合の血液学及び臨床化学パラメータに及ぼすHu5F9-G4の潜在的な効果を評価した。この研究では、Hu5F9-G4を、3mg/kgで1時間IV注入してメスアカゲザル(N=2)に単回投与した。動物を14日間評価した後に施設動物コロニーに戻した。
【0134】
HuF59-G4の投与は優れた耐性を示し、臨床徴候、体重または摂食量においてHu5F9-G4に直接的に関連するとみなされる変化は注目されなかった。水様糞便が7、8及び14日に両方の動物で観察されたが、これは多分、Hu5F9-G4の直接効果よりもむしろ研究関係手順と関係した。加えて、水様糞便は任意の他のサル研究では報告されなかった。治療関連の変化はRBC及びヘモグロビンレベルの減少を含む血液学的パラメータで両方の動物に観察された。しかし、これらの減少は14日目までに回復し、9.4及び9.1g/dL(表1)の最低値でも重症ではなかった。遊離血漿ヘモグロビンは任意の時点でどちらの動物にも検出されなかった。総ビリルビンの増加は各々の動物でも観察されたが、血液学的変化と一致し、研究の終了まで連続した可逆性傾向を示した。
【0135】
要約すると、Hu5F9-G4はアカゲザルで優れた耐性を示し、本研究で観察された治療関連の変化はチャールスリバー研究所(ネバダ州レノ)で実行されたカニクイザル研究で注目された所見と一致しした。
【0136】
【表1】
【0137】
アカゲザルに投与したHu5F9-G4の薬物動態及び忍容性に関する研究
本研究の初期目的は、髄腔内レザバー(intrathecal reservoir)で移植したアカゲザルにおける1時間IV注入として、または髄こう内投与によって投与したHu5F9-G4の薬物動態及び潜在的効果を評価することであった。しかし、1時間IV注入によってHu5F9-G4を投与された第一サルで観察された重症貧血のため髄こう内投与段階を含む残りの研究要素を断念した。本研究では、1頭のオスアカゲザルに、0日目に3mg/kg初回刺激量として、1時間IV注入によってHu5F9-G4を投与し、次いで15日目及び22日目に1mg/kg維持用量を投与した(初期研究設計での維持用量は8、15、22及び29日目に30mg/kgを投与した)。
【0138】
RBC数及びヘモグロビンの相当な減少が、3mg/kg初回刺激量の投与後24時間以内に観察された(表2)。この動物で観察された貧血により8日目の最初に計画した維持用量を投与しなかった。RBC数及びヘモグロビンレベルは回復傾向を示し、14日目までには、RBC数及びヘモグロビンレベルはそれぞれ4.31M/μL及び10.8g/dLに復帰した。したがって、薬注を14日目に再開した。しかし、維持用量を(30mg/kgよりはむしろ)1mg/kgに低減した。16日目に、RBC数及びヘモグロビンが再び減少し始めたが、17日目までにRBC数及びヘモグロビンは回復し始めた。次いで、動物に、21日目で第二の維持用量を投与した(しかし、21日目後に追加的な臨床病理学データは収集されなかった)。加えて、血小板の減少が最初の維持用量の投与後の2日目に注目されたが(14日目)、血小板は21日目までに予備研究レベルに戻った。この変化は、単回投与アカゲザル研究を含む任意の他のサル研究で観察されていなかったことから、本研究で注目された血小板の減少はHu5F9-G4と直接的に関係するかどうかは不明である。
【0139】
【表2】
【0140】
Hu5F9-G4の単回投与及び反復投与研究並びにカニクイザルに1時間静脈内注入で投与したFD6-IgG2の単回投与研究
以前の単回投与研究で観察された貧血は、RBCに発現したCD47結合の結果としてのHu5F9-G4の薬理作用と関係する可能性がある。RBCが老化するにつれて、RBCは徐々にCD47発現を失い、糖タンパク質及び糖脂質からシアル酸を失い、おそらくプロ食作用(pro-phagocytic)シグナルを蓄積し、結果的に食作用による排除に至る方法で膜リン脂質を再編成する(Danon、1988)。本発明者らは、Hu5F9-G4の投与は、CD47の段階的な損失を老化RBC上のCD47の即時遮断で置き換えることによって老化RBCの排除過程を加速させると仮定する。老化RBCの成熟前喪失(premature loss)は、続く網状赤血球増加症によって補償される。そして、初期貧血は老化RBCが若い細胞で置き換えられるにつれて治癒し、RBCプールの年齢構成がより若い細胞へシフトする。これらの考察に基づいて、本研究を、i)初期の低用量Hu5F9-G4は、網状赤血球増加症の十分な誘導にもかかわらず老化RBCの限定的損失を引き起こし、それによって、より低感受性の若いRBCの産生を刺激し、動物を重症貧血から保護する;及び、ii)エリスロポエチン(EPO;RBC産生を刺激する赤血球形成(erythropoiesis)刺激剤)による前処理が低感受性の若いRBCの産生を誘導し、それによってHu5F9-G4投与後に老化RBCの一掃を補償する可能性があるかどうかを評価するために実行した。別の抗体候補(FD6-IgG2)を本研究で評価したがこのINDの考察はしない。本研究では、オスカニクイザルに1mg/kgでの単回投与として、または4週間(1、8、15、22日目)、3mg/kgで週1回、1時間IV注入によってHu5F9-G4を投与した。Hu5F9-G4の用量を週1回投与した1頭のサルに、5日目にIV注入(17,000U/kg)によってエリスロポエチン(EPO)で前処理し、EPOでの前処理が以前に観察されたHu5F9-G4関連貧血を低減するかどうかを評価した。加えて、Hu5F9-G4の用量を週1回投与した1頭のサルに、1、2、5、8、9、12、15、16、19、22、23及び26日目にIV注入(0.5mg/kg)でデキサメタゾン、筋肉内(IM)注入(5mg/kg)でベネドリル(Benadryl)も投与(デキサメタゾンとベネドリルは同時に投与した)し、デキサメタゾン及びベネドリルがHu5F9-G4関連貧血を低減するかどうかを評価した。研究設計を表3に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
標準安全性パラメータ(例えば、臨床観察、体重、臨床病理学など)を研究に組み込んだ。そして、CD47は脳で発現する(参照を追加)ため獣医学神経学的検査を行った。血液を毒物動態研究全体の時点で収集した。群2及び群3の動物は31日目に終端処理し、群4は29日目に終端処理した(群1のサルは試験施設動物コロニーに戻した)。
【0143】
予定外の死は起こらなかった。また、治療関連の変化は、臨床徴候、体重、摂食量、獣医学神経学的検査、凝固または尿分析パラメータ、臓器重量、あるいは肉眼または顕微鏡検査で注目されなかった。
【0144】
Hu5F9-G4に関する変化は血液学及び臨床化学パラメータの変化に限定された。単回投与動物(群1)の変化は、赤血球量(RBC数、ヘモグロビン、ヘマトクリットレベル)及び平均赤血球容積(MCV)の減少を誘導し、また平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)及び赤血球分布幅(RDW)を増加した。これらの変化は2日目までに観察された。この動物は豊富な網状赤血球反応を有し、血液塗抹標本(blood smear)評価で観察されたRBC形態変化が軽微から軽度の球状赤血球症、赤血球大小不同及び多染性を包含した。週1回Hu5F9-G4を投与したサルにおける治療関連の変化は、赤血球(RBC)量とMCVの減少及びMCHC増加を含んだ。これらの変化は3日目まで注目され、Hu5F9-G4単独またはデキサメタゾン/ベネドリルを一緒に投与した他のサルと比較してEPOで前処理した動物では顕著でなかった。赤血球量の変化は27日目(22日目での最終投与の5日後)までに部分的に回復し、対応する豊富な網状赤血球反応に関連した。単回投与サルと同様に、RBC形態変化は軽微から中度の球状赤血球症、赤血球大小不同及び多染性を包含した。遊離血漿ヘモグロビンの有意な上昇は、単回投与または反復投与Hu5F9-G4治療サルでは検出されなかった。
【0145】
Hu5F9-G4投与に関係するとみなされた臨床化学パラメータ変化は、乳酸デヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(単回投与動物のみ)、総ビリルビン(軽微)の増加、及びハプトグロビンの減少(反復投与治療Hu5F9-G4単独、及びデキサメタゾン/ベネドリルのサルのみ)を含んだ。臨床化学パラメータのこれらの変化は、研究終了までに完全もしくは部分的な回復の徴候を示した。
【0146】
要約すると、1mg/kgでの単回投与としてのHu5F9-G4投与、または3mg/kgの用量で4週間週1回の投与(単独またはEPOによる前処理と共に、あるいはデキサメタゾン/ベネドリル投与の組合せで)はオスカニクイザルで良好な忍容性を示した。また、治療関連の影響は血液学(RBC形態を含む)及び臨床化学パラメータの変化に限定された。部分的または完全な回復が研究の終了までに赤血球量及び臨床化学パラメータの変化で注目された。
【0147】
Hu5F9-G4またはFD6単量体の反復投与研究及び カニクイザルXxへの静脈内注入で投与したFD6-IgG4の単回投与研究
本研究の目的は、5週間にわたる用量漸増で1時間IV注入を介してメスカニクイザルに投与した時のHu5F9-G4の潜在的毒性及び毒物動態を評価することであった(FD6-IgG2は本研究で評価した別の抗体候補であった)。本研究では、1頭のサルに5日目にEPO(17,000U/kg)、次いで週1回の1、8、15、24及び31日目にHu5F9-G4の用量を最大300mg/kgまで漸増して投与した。他のサルに、週1回の1、8、15、24及び31日目にHu5F9-G4の用量を最大100mg/kgまで(EPOによる前処理なし)漸増させて投与した。標準安全性パラメータを本研究に組み込んだ。また、動物は両方とも43日目(最後のHu5F9-G4投与後の13日目)に終端処理した。研究設計を表4に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
両方の動物は共に研究の予定終了まで生き残った。また、治療関連の変化は、臨床徴候、体重、摂食量、凝固及び尿分析パラメータ、腎臓、肝臓または心臓の影響を示す臨床化学パラメータ、臓器重量、あるいは肉眼または顕微鏡検査で注目されなかった。治療関連の所見は血液学及び臨床化学パラメータの変化に限定された。以前の研究と一致して、血液学的変化は赤血球量(RBC数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)の減少及び網状赤血球数の増加を包含した。他の変化はMCHC及びRDWの増加を含み、またMCVの減少も観察された。RBC数及びヘモグロビンの減少は研究終了までに両方の動物で予備研究値近くに戻った(表5)。豊富な網状赤血球数が、3日目に開始した両方の動物で観察され、43日目までに両方の動物で予備研究値近くに戻った。
【0150】
【表5】
【0151】
RBC形態変化は以前の研究と一致し、軽微から顕著に至る小赤血球、赤血球大小不同、多染性及び球状赤血球症を含んだ。予想通りに(EPOの薬理作用に基づく)、これらの変化は動物No.1501と比較して動物No.2501(EPO前処理なし)で、より顕著であった。RBC形態変化 は、37日目までに部分的または完全な回復を示した(表6)。
【0152】
【表6】
【0153】
加えて、リンパ球数及び単球数の増加が両方の動物で観察され、およそ20日目に最も高く、リンパ球数については予備研究値の2.58-3.7倍及び単球数については予備研究値の4.4-6.13倍にわたった。臨床化学的変化は、両方の動物で観察されたハプトグロビンの減少が含まれたが、これは研究終了までに予備研究レベルに戻った。ビリルビンの増加も動物No.2501で13日目に観察された(EPO前処理なし)。
【0154】
両方の動物をHu5F9-G4に曝露して毒物動態を確認した。そして、Hu5F9-G4の循環濃度が用量の増加につれて一般に増加した。最大100mg/kgの用量でのHu5F9-G4の投与は14時間の半減期中央値をもたらした。
【0155】
要約すると、最大100mg/kg(EPO前処理なし)または300mg/kg(EPO前処理)の用量で週1回1時間IV注入によって投与したHu5F9-G4の用量の漸増投与はカニクイザルで一般に忍容性が良好であった。治療関連の変化は血液学(RBC形態を含む)及び臨床化学的パラメータに限定され、これは研究終了までに部分的または完全に可逆的であった。
【0156】
カニクイザルに1時間の静脈内注入で投与したHu5F9-G4の単回投与または漸増投与研究
以前の研究に基づいて、より低用量でのHu5F9-G4の初期投与は、カニクイザルで許容され、それ以降のより高用量の投与を可能にする。本研究の目的は、低用量レベルでの初回刺激量として、次いでより高用量レベルでの反復維持用量として投与した場合にHu5F9-G4の潜在的毒性及び毒物動態を評価することであった。加えて、本研究は初回刺激量/維持薬注療法を用いた有望な臨床薬注予定をモデル化するように設計した。本研究では、メスカニクイザルにリン酸緩衝食塩水(PBS)、または1日目に単一初回刺激量として1時間IV注入によるHu5F9-G4用量を漸増(0.1~30mg/kgの範囲)して投与した(群A及びH)。群B-Fの動物に、1日目にPBSまたは初回刺激量としてHu5F9-G4、次いで、PBSの複数の維持用量または種々のHu5F9-G4の用量レベルを投与した。群D(10501)及び群F(12501)における1頭の動物に、68日目に第二初回/維持用量サイクル(3mg/kgの初回刺激量)の投与を開始し、次いで75、78、82及び85日目に2週間、週2回維持用量(30mg/kg)を投与した。動物No.10501について1日目の第一初回刺激量は1mg/kgであったが、68日目の第二初回刺激量は3mg/kgに増加し、初回刺激量レベルの増加が許容されるかどうかを評価した(動物No.12501については1日目と68日目の初回刺激量は3mg/kgであった)。初回/維持用量予定で投与するよりはむしろ、群Gの動物には1、8、15及び22日目に10mg/kgで週1回Hu5F9-G4を投与した(低赤血球量のため15日目の用量は投与しなかった)。研究設計を表7に示す。
【0157】
【表7-1】
【0158】
【表7-2】
【0159】
【表7-3】
【0160】
全動物を、臨床徴候、摂食量、体重、臨床病理学パラメータ(血液学、凝固、臨床化学、尿分析)の変化について評価した。血液試料を毒物動態の研究及びADA反応の評価の全体で収集した。赤血球(RBC)量減少レベルにより群G(13501;10mg/kgの初回/維持用量)の動物について15日目に投与を中止した。この動物に、22日目に最後の予定用量を投与した。120日目に安楽死させて、完全な解剖検査を受けた動物No.10501(群D)及び12501(群F)を除き、動物を120日目に試験施設コロニーに戻した;臓器の重さを計量し、組織の顕微鏡試験も行った。
【0161】
予定外の死は発生しなかった。また、Hu5F9-G4の全体的投与は臨床的に十分に許容された。Hu5F9-G4関連とされた所見は血液学及び臨床化学パラメータの変化に限られた。
【0162】
単回投与群(A及びH):血液学パラメータ
Hu5F9-G4(群A及びH)の単回投与を施した動物で血液学的変化が注目された。赤血球(RBC)量の可変的減少は、群Aの動物(0.1~30mg/kgの範囲で初回刺激量を漸増して投与した)において、≧0.3mg/kgの投与群で3日目から14日目までの間で観察された(0.1mg/kgでは変化は観察されなかった)。赤血球(RBC)量の減少は、0.3mg/kgでは予備研究レベルの最大0.73倍、1及び10mg/kgでは予備研究の0.63倍、30mg/kgでは予備研究の0.53倍に及んだ(表8)。興味深いことに、群Hの動物についての赤血球(RBC)量は、動物に最高の初期用量(30mg/kg)を投与した場合であっても予備研究レベル以下に僅かしか減少しなかった。しかし、これらの減少は群A及びHでは最終評価時点まで回復傾向の継続を示した。全動物(対照を含めて)で、反応性赤血球形成を示す網状赤血球数が増加した。加えて、MCHC(≧0.3mg/kg)及びRDW(≧0.1mg/kg)の増加が注目され、MCHCは予備研究値の最大1.2倍、RDWは予備研究値の最大2倍増加した。MCVの減少も用量≧0.3mg/kgで注目され、予備研究値の最大0.91倍に及んだ。遊離血漿ヘモグロビンは任意の動物で検出されなかった。リンパ球数は用量0.3mg/kgで増加し、予備研究値の1.19~1.86倍に及ぶ値であった;リンパ球の増加は白血球数に対応し、予備研究の最大2.5倍に及んだ。RBC形態変化 は、6日目及び10日目に評価して用量≧0.1mg/kgで注目された;これらの変化は高用量ほど(0.3~30mg/kg)重度が増加し、軽微から顕著に至る大赤血球、小赤血球、赤血球大小不同、多染性及び球状赤血球症を包含した。
【0163】
【表8】
【0164】
初回/維持用量群(B-F)及び週1回投与(群G):血液学パラメータ
1日目に初回刺激量、次いでHuF59-G4の反復維持投与(群B-F)及びHuF59-G4の週1回投与した動物で観察された血液学的変化は、単回投与動物(群A及びH)で観察されたものと一貫した。赤血球(RBC)量(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)の可変的減少が初回刺激量≧1mg/kg及び維持用量≧10mg/kgを投与した群で観察された(表9-10)。これらの赤血球(RBC)量の減少はより早い時点(5日、8日、12日)でより大きくなる傾向を示した。加えて、赤血球(RBC)量の減少は、初回/維持用量予定で投与した他の動物と比較して週1回10mg/kgを投与した動物でより大きかった(動物No.13501;群G)。興味深いことに、動物No.10501(群D)のヘモグロビンレベルは1日目の1mg/kgでの第一初回刺激量の後に減少したが、68日目の、より高い第二初回刺激量、または75、78、82及び85日目の第二周期の維持用量の後はヘモグロビンレベルの低下はなかった(表9-10)。更に、第二周期の初回/維持用量を投与した他の動物(No.12501;群F)のヘモグロビンレベルは第二周期の間に予備研究レベルを維持した。これらのデータは、10mg/kg以下の初回刺激量で生じた貧血が初回刺激量10mg/kgと比較して重症ではなく、また、初期用量が低いほどカニクイザルによって許容されるHu5F9-G4の維持用量の連続投与を可能にすることを示す。更に、これらのデータは、初回/維持用量予定は週1回の用量予定で観察された程の重症度を生じないことを示す(群G)。全ての初回刺激量/維持群で研究の終了までに赤血球(RBC)量は回復傾向を示した。動物13501(群G、1週間に1回10mg/kg)は、低赤血球(RBC)量(ヘモグロビンレベルが12日目に6.5g/dLであった)のため15日目に投与を中止した。しかし、ヘモグロビンレベルが19日に回復を開始したため、この動物に投与を再開し、22日目に最終投与を施した(表9-10)。動物No.13501のヘモグロビンレベルは着実に回復への傾向を維持し、最終時点(71日)までに予備研究レベルを僅かに超えるまで戻った。網状赤血球数は全ての群(B-F、対照を含む)で増加したが、これは反応性赤血球形成を示す。MCHC及びRDWは初回/維持用量≧1/10mg/kgで増加し、MCHCの値は予備研究の1.21倍、RDWの値は予備研究の2.41倍に至った。MCVの可変的な減少(予備研究の最大0.90倍)も観察された。赤血球(RBC)量の変化と同様に、MCHC、RDW及びMCVで観察された変化は、初回/維持用量予定を投与した他の動物と比較して、週1回10mg/kgを投与した動物No.13501(群G)でより顕著であった。MCHC、RDW及びMCVの変化が予備研究レベルまで、または近くまで連続した回復傾向を示し、これらの変化は可逆的であることを示した。重要なことに、遊離血漿ヘモグロビンは任意の動物で観察されなかった。RBC形態変化 (血液学的パラメータの変化と一致する)も観察され、赤血球大小不同、大赤血球、小赤血球(3/30mg/kgの初回/維持用量で観察されなかった)、多染性及び球状赤血球症が含まれた。全体として、これらの変化の発生率及び重症度は用量依存的には起こらなかった。また、評価時点に基づいて研究終了までに部分的または完全な回復傾向を示した。リンパ球数も初回/維持用量≧1/10mg/kgで増加し、予備研究値の1.25~2.01倍に及び、他のパラメータと一貫して、全体的に回復傾向を示した。
【0165】
【表9-1】
【0166】
【表9-2】
【0167】
【表10】
【0168】
単回投与群(A及びH):臨床化学パラメータ
単回投与動物(群A及びH)では用量≧1mg/kgで総ビリルビンの増加が注目され、6日目に増加が起こり、予備研究値の1.56~3.29倍に及んだ。総ビリルビンの増加は用量依存的に起こらず、また回復傾向を示した。ALT及びASTの増加は、6日目に30mg/kgを投与した単一動物(動物14501;群H)で注目されたが、これらの増加は最終時点までに回復傾向を示した。ハプトグロビンは用量≧0.1mg/kgで減少したが、ハプトグロビンは42日目に2頭のHu5F9-G4治療動物及び1頭のPBS対照動物の予備研究を含めて、全動物について3~4時点で検出レベル未満であった。したがって、ハプトグロビンの減少はこの研究ではHu5F9-G4の単一用量投与と不確定な関係があるとみなされた。
【0169】
初回/維持群(B-F)及び週1回投与(群G):臨床化学パラメータ
単回投与群と同様に、総ビリルビンは初回/維持用量予定を投与した全群で増加した。しかし、総ビリルビンのレベルは研究全体で1mg/dL未満のままであった(表11)。総ビリルビンの増加は研究の最終で回復傾向を示した。ハプトグロビンレベルは全群で減少し、研究の最終で回復傾向を示した(表11)。ALT、AST及びLDHの散発的な変化は研究過程のいくつかの時点で2、3の動物に起こった。しかし、これらの変化は、研究期間の間で僅か1日または2日に起きた正常範囲内(試験施設の歴史的データベースに基づいて)であり、事実上一過性であった。
【0170】
【表11-1】
【0171】
【表11-2】
【0172】
動物のNo.10501(群D)及び12501(群F)は120日目に安楽死させて完全な解剖検査を受けた。臓器の重さを計り組織の顕微鏡試験も行った。食細胞及び単核細胞の浸潤による軸索変性が特徴である、単一で最小の白質部変性の病巣が動物No.10501の延髄内で注目されたが、この所見は、顕微鏡試験を受けた動物の数(2)が少ないこと及び所見の最小の性質のために、この病巣がHu5F9-G4に関連するかまたは付帯的であるかは不明である。重要なことに、この所見は中心的なGLP8週間毒性学的研究において注目されなかったが、これはこの所見は事実上付帯的な可能性があることを示す。
【0173】
毒物動態は、測定可能なHu5F9-G4濃度が、Hu5F9-G4を用量≦0.3mg/kgで単回投与した群で得られなかったことを示した。Cmax及びAUC0-tは一般に用量が増加するにつれて増加した。また、Cmaxの増加は用量≧1mg/kgでは用量比例より大きいように見えた。AUC0-tの増加も用量に比例しなかった。10及び30mg/kgの用量レベルについてのT1/2はそれぞれ10.7対46.5時間であったが、これはT1/2は用量増加に伴って増加し得ることを示唆する。
【0174】
反復投与を施した群については、1または3mg/kg(1日目または68日目)の初回刺激量及び10または30mg/kgの反復投与の後に、平均Cmaxが1日目から8日目まで増加した。Cmaxの増加は1日目から8日目まで用量比例的より大きかった。1(1日目)mg/kgまたは3(68日目)mg/kgの初回刺激量及び30mg/kgの維持用量の後に平均Cmaxが1日目から8日目まで増加した。Cmaxの増加は、1日目から8日目まで用量比例より大きかった。半減期は10.8から173時間の範囲にあった。いくつかの動物はHu5F9-G4の予想された血清中濃度より低かったが、これはADAの存在を示唆する。
【0175】
要約すると、2種類までの初回/維持用量予定では、最大30mg/kgの単一初回刺激量、または最大3/30mg/kgの初回/維持用量としてのHu5F9-G4の投与はカニクイザルで臨床的に十分耐えられた。10mg/kgでのHu5F9-G4の週1回の投与は臨床的に忍容性が高かったが、低赤血球(RBC)量のために15日目に投与を中止する必要があった。しかし、ヘモグロビンレベルは19日目に回復傾向を示し、したがってこの動物で投与を再開した。治療関連の変化は血液学の変化(RBC形態を含む)及び臨床化学パラメータに限定された。赤血球(RBC)量の減少は以前の研究と一貫し、RBC数及びヘモグロビンの減少は、老化RBC上のCD47への結合及びクリアランスの加速で想定されるHu5F9-G4の薬理学的作用と関連する可能性がある。老化RBCのクリアランスは、初期貧血と早期の時点で観察される補償網赤血球増加をもたらし、老化RBCを若いRBCに置き換える。血液学及び臨床化学パラメータにおける治療関連の変化は全て研究終了までに部分的または完全な回復傾向を示したが、これは、Hu5F9-G4のこれらの影響が可逆的であることを示す。重要なことに、データは、初回/維持用量予定で誘導された貧血は、週1回の投与による程の重症ではなく、初回刺激量≦10mg/kgは忍容性があることを示す。そのように、初回刺激量≦10mg/kgによる初回刺激量予定は以降の研究で用いた。
【0176】
カニクイザルへの静脈内注入投与後のHu5F9-G4の薬物動態
本研究の目的は、以前の研究で評価されなかった用量レベルで、初回/維持用量予定として1時間IV注入で投与する際にHu5F9-G4の潜在的毒性及び毒物動態を評価することであった。本研究では、1日目に5mg/kgで初回刺激量としてHu5F9-G4をオスカニクイザルに投与し、次いで、8、11、15、18、22及び25日目に週2回、150mg/kgで維持用量を投与した。研究設計を表12に示す。
【0177】
【表12】
【0178】
臨床徴候、体重、血液学、凝固及び臨床化学パラメータ(77日目までに収集した)の変化について動物を評価した。血液試料も収集し、フローサイトメトリーを用いて受容体占有を評価したが、このINDのデータは考察しない。毒物動態及びADA反応の評価のために149日目まで研究全体で試料を収集した。両方の動物を研究の終了で試験施設動物コロニーに戻した。
【0179】
動物は両方とも研究の予定した終了まで生き残り、治療関連の影響の証拠は臨床徴候、摂食量または体重で注目されなかった。治療関連の所見は両方の動物で観察され、血液学及び臨床化学パラメータの変化を含んだ。予備研究と一致し、軽度の貧血が5日目(5mg/kg初回投与後の4日目)に注目された。RBC数の有意な減少が、8日目(動物1036)及び11日目(動物1037)から開始した両方の動物で観察された。18日目に、標準レベルに戻るRBCの傾向が動物1036で観察された。しかし、動物1037はRBC数で有意な減少を示し続けた(表13)。両方の動物についてRBC数の減少は網状赤血球の有意な増加と一致した。RBC数と同様に、標準レベルに戻る網状赤血球の傾向が動物1036で観察された。しかし、動物1037では網状赤血球が増加し続けた。加えて、動物1037(15日目に開始した)でヘモグロビンレベルが有意に減少した。動物1036のヘモグロビンレベルも減少したが、この動物で観察された減少は動物1037ほど顕著ではなく、ヘモグロビンが10.0g/dLを僅かに下回って低下した11日目以外は研究過程で10.0g/dL以上を維持した(表13)。遊離血漿ヘモグロビンはどちらの動物でも観察されなかった。動物1037について重症貧血のため15日目に投与を止めた。この動物は投与を再開せずに貧血が回復するかどうかを評価した。したがって、動物No.1037には18、22及び25日に投与をしなかった。動物1036のヘモグロビンレベルは研究の大半で10.0g/dL超残っているため、投与を計画通り継続した。貧血にもかかわらず、毒性を示す臨床徴候はどちらの動物でも観察されなかった。加えて、他の臨床病理パラメータの主要な変化は、白血球数、血小板またはクレアチニンレベルを含めて観察されなかった。22日目に両方の動物を獣医師スタッフによって、特に脾臓の触感に注意して検査した。脾臓の触感からいずれの動物も異常がないことが分かった。
【0180】
【表13】
【0181】
動物1037のRBC及びヘモグロビンレベルは有意に減少し、網状赤血球は29日目まで有意に高い(予備研究と比較して)ままであった。しかし、48日目までにRBC、ヘモグロビン及び網状赤血球は回復し始め、77日目までにこれらのパラメータは予備研究レベルに戻った。更に、動物1036で観察されたこれらの血液学的パラメータの変化は、22日目に戻り始め、77日までに予備研究レベルに戻った。したがって、動物1037はHu5F9-G4の投与に関連した貧血により感受性であるように見えるが、投与終了(15日目)は、経時的に貧血が可逆的であることを示す。RBC形態変化も両方の動物で観察され、軽微から顕著に至る赤血球大小不同、小赤血球、多染性及び球状赤血球症を含めて以前の研究と一貫した。
【0182】
毒物動態は、血清Hu5F9-G4濃度が1日目から15日目の投与後4時間まで2頭間で類似することを示した(動物1037は投与中止を15日目に開始した)。両方のサルのT1/2は173から212時間の範囲にあった。
【0183】
要約すると、本研究における治療関連の影響は以前の研究と一貫し、血液学的及び臨床化学パラメータの変化を含んだ。動物1037で観察された重度の貧血を含む治療関連の全ての変化は可逆的であり、研究の終了までに正常範囲に戻った。加えて、観察された貧血にもかかわらず、毒性の臨床徴候はどちらの動物でも観察されなかった。
【0184】
8週間回復期を伴うカニクイザルの静脈内注入によるHu5F9-G4の8週間毒性試験
GLP試験の目的は、カニクイザルに初回刺激量、次いで反復維持用量を投与した場合にHu5F9-G4の潜在的毒性及び毒物動態を評価することであった。以前の研究で観察された動物No.1037での5/150mg/kg初回/維持用量による重症貧血により、本研究では使用する初回刺激量及び最大維持用量を5/100mg/kgとし、臨床研究で提案した用量の合理的安全域を提供した。賦形剤(vehicle)またはHu5F9-G4(5mg/kg)を1時間IV注入によって投与した。1日目に5mg/kgで初回刺激量を投与し、次いで5、10、50または100mg/kgの用量で賦形剤またはHu5F9-G4を維持用量として連続7週間、週2回投与した(8、11、15、18、22、25、29、32、36、39、43、46、50及び53日目)。群5では初回刺激量及び維持用量は同じ投与レベル(5mg/kg)を用いた。回収した動物を賦形剤及び高投与群に含めて任意の治療関連効果の可逆性を評価した。研究設計を表14に示す。
【0185】
【表14】
【0186】
安全性薬理学パラメータを本研究に取り込み、呼吸機能(視覚的呼吸速度)、心臓血管機能(ECG)及び中枢神経系機能に及ぼす影響を示す臨床徴候(例えば、活性、挙動)の変化を含めた。血液試料を毒物動態の研究全体で収集し、ADA反応の評価、並びにCD47の受容体占有を評価した。研究の継続期間全体で臨床病理学試料を評価し、以前の研究データに基づいて特異的パラメータ(例えば、ヘモグロビン、RBC、網状赤血球)を評価した。重症貧血を2頭の動物(動物No.3002;群3、初回/維持用量5/50mg/kg;動物No.4504;群4、初回/維持用量5/100mg/kg)で観察した。また、これらの動物は投与を中止し、貧血の回復及び一旦薬注を再開するとどのように反応するかを評価した。動物No.3002は維持用量6-9について投与を中止し(25、29、32及び36日)、39日目に投与を再開した(維持用量10)。動物No.4504は25日目(用量6)に投与を中止し、投与期間の終了まで投与の中止を継続した。主な研究動物を57日目に終端処理し、また回収動物を109日目に終端処理した。生存中の部分の研究を完了し、主な研究動物の全データは組織病理学を含めて利用可能である。回収動物のデータは利用が可能な場合は提出される。
【0187】
本研究おいて予定外の死は起きなかった。また、Hu5F9-G4の投与は臨床的に良好な忍容性を示した。治療関連の影響は臨床徴候、体重、身体及び眼科検査、体温、ECG、呼吸または心拍数、凝固または尿分析パラメータ、臓器計量、あるいは肉眼及び顕微鏡検査で観察されなかった。
【0188】
以前のパイロット研究と一貫して、血液学的パラメータにおける治療関連の変化は全てのHu5F9-G4治療群で観察され、軽度から中度の赤血球量(RBC数、ヘモグロビン及びヘマトクリットを含む)の減少を含むが、これは1日目の初回刺激量の後に最も顕著であった。これらの血液学的パラメータ変化は、投与相の終了までに回復傾向を示した(ヘモグロビンの変化は表15を参照のこと)。RBC数、ヘモグロビン及びヘマトクリットの減少は全てのHu5F9-G4治療群で観察されたが、これらの変化は明確な用量依存的方法で生じなかった。網状赤血球の増加が全Hu5F9-G4治療群で観察され、赤血球量の減少と関連する豊富な赤血球形成反応を示した。以前の研究と一貫して、赤血球量の減少は、MCV及びハプトグロビンの減少、また、MCHC、網状赤血球及びRDWの増加と関連した。遊離血漿ヘモグロビンは任意の投与群で観察されなかった。リンパ球の最小から軽度な増加も観察されたが、これらの増加は事実上一時的かつ散発的であり、また用量依存的に生じなかった。血小板の最小から軽度な増加が8日目に観察(大部分の群で対照と比較して統計的に有意であった)されたが、11日目までに大部分の群で対照値に戻り始めた。血小板の増加は加速赤血球産生に対する反応性血小板新生及び生理反応であると考えられており、これは網状赤血球の随伴性増加によって明白であった。血液学的パラメータの全ての治療関連変化は投与相の終了まで部分的または完全に可逆的であった。
【0189】
【表15-1】
【0190】
【表15-2】
【0191】
【表15-3】
【0192】
【表15-4】
【0193】
【表15-5】
【0194】
【表15-6】
【0195】
【表15-7】
【0196】
【表15-8】
【0197】
【表15-9】
【0198】
【表15-10】
【0199】
ヘモグロビンは1日目に初回刺激量を投与した後に全てのHu5F9-G4治療動物で減少したが、ヘモグロビンの減少は一般に8日目で第一維持用量を投与した後に最も顕著であった(表16の11日目のヘモグロビンレベルを参照せよ)。ヘモグロビン減少の大きさは動物全体で異なり、11日目にヘモグロビンレベル≦10.0g/dLを持つ動物の発生率は、群2(2/10mg/kg)、群3(5/50mg/kg)、群4(5/100mg/kg)及び群5(5/5mg/kg)で、それぞれ67%、30%、90%及び50%であった。貧血(11日目で)は群2、群3または群5の間で明確な用量依存的方法で発生しなかったが、群4はヘモグロビンレベル≦10.0g/dLを持つ最多の動物を有した。全体として、ヘモグロビン回復の継続傾向が動物全体で観察され、およそ15日目~32日から始まって研究終了まで継続した。しかし、動物No.3602が46日目に第11回目の維持用量を投与した後にヘモグロビンの別の大幅な減少を有したことは、研究の終了近くで注目された1つの例外であった(ヘモグロビンが55日目及び57日目に7.0g/dLも減少した;表16)。しかし、動物No.3602のヘモグロビンレベルは60日目に回復し始め(最後の維持用量の7日後)、109日目の研究終了までに予備研究レベル(13.4g/dL)に戻った。観察された重症貧血により、2頭の動物(動物No.3002;群3、初回/維持用量5/50mg/kg;動物No.4504;群4、初回/維持用量5/100mg/kg)の投与を中止し、貧血の回復及び一旦薬注を再開するとどのように反応するかを評価した。動物No.3002は、より重度な貧血(15日目及び18日目に5.7g/dL程の低さ)を示し、維持用量6-9の投与を中止した(25、29、32及び36日目)。投与を39日目に再開した(維持用量10)。動物No.4504は25日目(用量6)に投与を中止し、投与期間の終了まで投与の中止を継続した(ヘモグロビンレベルの変化は表16を参照せよ)。動物No.3002で注目された赤血球数、ヘモグロビン及び網状赤血球の変化は36日目に回復し始めて、57日目の研究終了まで回復し続けた。同様に、動物No.4504の血液学的変化は回復し始めて、研究終了まで回復傾向が継続した(109日目;この動物は回復群にいた)。したがって、少数の動物が特にHu5F9-G4に起因する貧血に感受性の可能性があるように見えるが、貧血は一過性であり、ヘモグロビンレベルは経時的に回復する。
【0200】
【表16】
【0201】
血液細胞形態変化は、以前の研究と一致し、加速赤血球破壊/クリアランス及び赤血球形成の亢進と関連があると考えられた。これらの変化は、事実上軽微から顕著まで様々であり、赤血球大小不同、球状赤血球症(小赤血球)、多染性、並びに赤血球損傷/クリアランスと一致したエクセントロサイト及び非定型赤血球断片を含んだ。赤血球サイズの範囲の可変性は、より小さな球状赤血球症とより大きな多染性細胞(網状赤血球)の混合によるものであった。いくつかのHu5F9-G4治療動物の循環で有核の赤血球数の一時的な増加も観察された。赤血球形態変化は研究の終了まで回復傾向の継続を示した。骨髄塗抹標本評価の変化は軽微から中程度であったが、異常な核形状を持つ副次的な細胞、複合核、細胞核ブレビング及び/または核対細胞質成熟不同時性(異常核対細胞質成熟)からなる赤血球系統の変化(異形成)に限られていた。付加的な変化はHu5F9-G4と関連する加速赤血球形成反応に関係すると考えられ、付加的な変化として、加速赤血球形成を伴うより未熟な赤血球前駆体への最小~軽度の適度なシフトと共に、群3及び群4(メスだけ)の平均M:E比率の穏和な低下を含んだ。
【0202】
以前の研究と一致して、血液学的パラメータの治療関係の変化(すなわち、RBC及びヘモグロビンの減少、網状赤血球の増加)は総ビリルビンの増加及びハプトグロビンの減少と関連した。臨床化学パラメータの他の変化は高用量群(5/100mg/kg)にだけ観察され、アルブミンの僅かな減少(2頭のメスの動物)、グロブリンの僅かな増加、及びアルブミン対グロブリン比率の対応する減少を含んだ。臨床化学パラメータの全治療関係の変化は、投与相の終了時点で部分的または完全に可逆的であった。
【0203】
8日目の毒物動態は、1日目の5mg/kgでの初回刺激量、及び8日目の5、10、50または100mg/kgでの初期維持用量の後のCmaxの増加は10~100mg/kgが用量比例、5~100mg/kgが用量比例より大きいことを示した。AUC0-72の増加は50~100mg/kgが用量比例に向かう傾向を示したが、AUC0-72の変化は5~100または10~100mg/kgが用量比例より大きかった。平均T1/2は用量の増加に伴って増加傾向を示し、5mg/kgで6時間、100mg/kgで52時間にわたった。曝露では明らかな性差はなかった。25日目の毒物動態は、3週間5、10、50または100mg/kgで週2回投与した後、曝露での増加(Cmax、AUC0-72)は5~100mg/kgが用量比例より大きかったが、10~100mg/kgが用量比例であることを示した。加えて、曝露はオスザルと比較してメスで低い傾向を示した。見掛けT1/2は、高用量と比較して5mg/kgでより短かった。いくつかの動物ではT1/2は25日目と8日目の間で類似し、他の動物ではT1/2は25日目でより長くなるように見えた。平均T1/2は6.3時間(5mg/kg)~66時間(50mg/kg)の範囲にあった。7週間、5、10、50または100mg/kgで週2回投与した後の53日目の毒物動態は、曝露(Cmax、AUC0-72)の増加が5~100mg/kgで用量比例より大きかったが、10~100mg/kgで用量比例であることを示した。
【0204】
25日目または8日目と比較して53日目の濃度対時間分布は、Hu5F9-G4の血中濃度が反復投与と伴に増加し続けることを示唆した。5mg/kgの用量(ADAによる影響を受けると思われる)を除いて、53日目の曝露(Cmax、AUC0-72)の平均値及び中央値は各々の用量群の中で25日目または8日目より一般に高かったが、これは週2回投与の継続によるHu5F9-G4の更なる蓄積を示唆した。ADAの発生は曝露量に影響を及ぼすと思われるが、この影響力は主に5mg/kgの維持用量で注目された。そして、用量≧10mg/kgの維持用量では全体的に曝露量が研究を通して維持された。
【0205】
要約すると、治療関連の所見は以前の研究と一致し、血液学的及び臨床化学パラメータ並びに骨髄細胞の変化を含んだ。血液学的パラメータ変化は網赤血球増加を組み合わせた赤血球数及びヘモグロビンの減少を含んだ。重要なことに、遊離血漿ヘモグロビンは研究全体でいずれの動物でも検出されなかった。Hu5F9-G4関連貧血は、群2、3または5の間で明確な用量依存的方法で生じなかったが、ヘモグロビンレベル≦10.0g/dLを持つ動物の数は最も高い維持用量(100mg/kg)を投与した群5で最も多かった。ヘモグロビンレベルは、およそ15-32日目に開始した全動物で回復傾向を示し、研究終了まで継続したが、46日目に第11回の維持用量投与後、研究終了近くで1頭の動物(群3)に再びヘモグロビンの大幅な低下が観察された。しかし、この動物のヘモグロビンは研究終了(109日目)までに予備研究レベルに戻った。2頭の動物(群3及び4群の各1頭)で、それぞれ観察された重症貧血により投与を中止した。重要なことに、これらの動物で観察された重症貧血にもかかわらず、毒性の臨床徴候は注目されなかった。また、各々の動物のヘモグロビンレベルは研究終了まで継続した回復傾向を示した。赤血球形態変化 は、加速赤血球破壊/クリアランス及び赤血球形成の亢進と一致し、非定型赤血球断片、赤血球大小不同、球状赤血球症(小赤血球)及び多染性からなった。血液学的パラメータ変化は総ビリルビンの増加及びハプトグロビンの減少と関連した。臨床化学パラメータの他の治療関連変化は、高用量群だけに観察され、アルブミンの僅かな減少、グロブリンの僅かな増加、及び対応するアルブミン対グロブリン比率(A:G)を含んだ。これらの全ての治療関連の変化は、研究終了まで、全てのHu5F9-G4投与群において部分的または完全に可逆的であった。骨髄細胞の変化は、異常な核形状を持つ副次的な細胞、複合核、細胞核ブレビング及び/または核対細胞質成熟不同時性からなる赤血球系統の形態変化に限られていた。
【0206】
全体として、週1回(1日)、5mg/kgで初回刺激量、次いで最大100mg/kgで7週連続、週2回の維持用量として、1時間IV注入によるHu5F9-G4投与は臨床的に十分許容された。治療関連貧血にもかかわらず、投与を中止した動物を含めて臨床毒性の徴候は観察されなかった。本研究で観察された変化は以前の研究と一致し、RBC上に発現したCD47への結合による老化RBC除去の工程を加速させるHu5F9-G4の薬理作用と関係すると考えられた。したがって、データの全体に基づいて、本研究に関して重篤な毒性が発現しない最大用量(HTNSTD)は、5/100mg/kgの初回量/維持用量であると考えられた。
【0207】
遺伝毒性
小分子製剤で通常実施される遺伝毒性学研究の規模とタイプはバイオテクノロジー製品に適用できない[ICH S6(R1)]。Hu5F9-G4のようなモノクローナル抗体はDNAまたは他の染色体材料と直接的に相互作用することはないと考えられている。したがって、変異原性試験は不適当とみなし計画しない。
【0208】
発癌性
Hu5F9-G4による発癌性研究を実施していない。Hu5F9-G4の作用機構に基づいて、Hu5F9-G4は発癌性ではないと考えられる。更に、Hu5F9-G4は増殖因子でも免疫抑制剤でもない。したがって、予想される患者の規模及び機構的懸念がないことを想定すれば、発癌性研究は予定(有効な毒物動態評価を含めて)されない。
【0209】
生殖毒性と発生毒性(範囲検出研究及び有効な毒物動態評価を含む)
Hu5F9-G4による生殖・発生毒性試験を実行していない。形式的であるが、自立型繁殖試験を実行しない。治療関連の影響は、8週間の毒性学研究において雌雄生殖臓器の顕微鏡試験で注目されなかった。Hu5F9-G4の潜在的な奇形発生効果はたとえあったとしても実験動物で知られていないため、Hu5F9-G4を妊婦に投与するべきではない。妊娠を避けるために、提案された第一期臨床試驗に登録された男性及び出産の可能性のある女性に適切な予防措置が(例えば、女性は陰性妊娠反応を示さなければならないし、患者は十分な避妊予防措置などに同意しなければならない)。
【0210】
局所忍容性
自立型局所忍容性試験を実行しなかった。しかし、ICH S6(R1)と一貫して、Hu5F9-G4の局所忍容性の評価(注入部位由来組織試料の臨床観察、肉眼検査及び顕微鏡検査)を反復用量毒性試験の一部として実行した。
【0211】
考察及び結論
提案した臨床試験ではHu5F9-G4の投与を支持して包括的な一連の毒性学研究を行った。これらの研究として、試験管内溶血研究、アカゲザル及びカニクイザルにおける単回及び反復投与研究、並びにヒト組織集団における組織交叉反応性研究が挙げられる。
【0212】
全サル研究にわたる主要で一貫した治療関連所見は貧血(赤血球数及びヘモグロビンの減少に反映される)であった。貧血は一般に第一用量(または初回/維持用量予定研究における初回刺激量)の投与後に発生し、赤血球のクリアランス加速、及び赤血球形態変化(例えば、赤血球大小不同、多染性及び球状赤血球症)を含む網赤血球増加を示す変化を伴った。重要なことに、遊離血漿ヘモグロビンは全研究にわたって観察されなかった。Hu5F9-G4に関連した血液学的パラメータ変化は、一般にハプトグロビン及び総ビリルビンの変化を伴った。常時を除きハプトグロビンはしばしば減少し、総ビリルビンの増加が一般に観察された。しかし、ハプトグロビン及び総ビリルビンの変化は用量依存的に発生しなかった。全ての研究にわたって、Hu5F9-G4に関連した血液学的及び臨床化学パラメータ変化は研究の間に回復傾向を示し、研究終了まで部分的または完全に可逆的であった。骨髄細胞学の変化(GLP8週研究で実行;PR013)は、加速赤血球形成に関連すると考えられ、赤血球系統の形態変化、平均M:E比の減少、加速赤血球形成を伴うより未熟な赤血球前駆体への適度なシフトを含んだ。
【0213】
老化赤血球の正常なクリアランスにおけるCD47の既知の役割及びサル研究全体で得られた結合データに基づいて、一次治療関連変化(すなわち、貧血)はRBCで発現したCD47に結合したHu5F9-G4の薬理作用に関係があると考えられる。本発明者らは、Hu5F9-G4の投与は、老化RBC上のCD47の即時遮断によってCD47の段階的損失を置換することによって老化赤血球の排除の過程を加速すると考えている。老化RBCの成熟前喪失は、続く網状赤血球増加症(全研究にわたって観察された)によって補償され、老化RBCが若い細胞によって置き換えられるにつれて経時的に初期貧血が治癒し、結果として、RBCプールの年齢分布が若い細胞にシフトする。
【0214】
Hu5F9-G4の投与に関連した貧血にもかかわらず、毒性の証拠は任意の動物での臨床徴候で観察されなかった。したがって、Hu5F9-G4は300mg/kg程の高用量でも臨床的に忍容性が良好であった。Hu5F9-G4の投与は一過性の貧血をもたらしたが毒性の臨床徴候は注目されなかった。また、Hu5F9-G4はサルによって、300mg/kg程の高用量でも臨床的に良好な忍容性を示した。しかし、毒性学研究から、少数の動物が特にHu5F9-G4関連貧血に感受性であることが分かった。これらのサルがHu5F9-G4に起因する貧血に、より感受性である原因は現時点で不明であるが、貧血は一過性であり、一貫して投与終了と同時に回復傾向を示した。ある患者が他の患者より高感受性であり得るため、血液学変化を提案の臨床研究において厳格に監視し、予め特定したレベル以下の貧血が発生した患者に適切な措置が採られる。
【0215】
Hu5F9-G4に関連した貧血は、全サル研究の全体で部分的または完全に可逆的であり、投与を再開した動物を含め投与を中止した動物では治癒した。8週間の毒性学的研究のHNSTDは、初回/維持用量が5/100mg/kg(試験の最大用量)であった。毒物動態データに基づいて、8週間の毒性学研究で使用した5mg/kgの初回刺激量は、計画した臨床試験において提案の開始初回刺激量0.1mg/kgより28倍~194倍に及ぶ安全域(AUCに基づく)を提供することが予測される。週2回の100mg/kgの維持用量は、提案した臨床試験で予定した0.1mg/kgの開始維持用量の766-803倍に及ぶ安全域(AUCに基づく)を提供することが予測される。
【0216】
要約すると、毒物学研究の結果に基づいて、非臨床的安全性評価プログラムは提案した
臨床試験に関してHu5F9-G4の投与(例えば、IV注入として)を支持する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
【配列表】
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