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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】積層シート、及び食品用包装容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240930BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240930BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/20 Z
B65D65/40 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023081735
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2023036109の分割
【原出願日】2022-12-28
(65)【公開番号】P2024127686
(43)【公開日】2024-09-20
【審査請求日】2023-05-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-16
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】大森 望
(72)【発明者】
【氏名】金▲高▼ 秀成
(72)【発明者】
【氏名】高松 頼信
【合議体】
【審判長】金丸 治之
【審判官】西堀 宏之
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特許第7113579(JP,B1)
【文献】特開2005-146124(JP,A)
【文献】特許第7248359(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B27/00-27/42, B65D1/00-1/48, B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形加工性のばらつきが改善された3層以上の積層シートであって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、45.0質量以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記内層、前記第1の外層、及び前記第2の外層における前記熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1つの層が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウム粒子を含む、
積層シート。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項4】
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上10.0%以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項5】
前記積層シートが、真空成形用積層シートである、請求項1からの何れかに記載の積層シート。
【請求項6】
請求項に記載の積層シートから成形された食品用包装容器。
【請求項7】
3層以上の積層シートからなる、成形加工性のばらつきが改善された食品用包装容器であって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記食品用包装容器に対して、45.0質量以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下であり、
前記内層の無機物質粉末の含有量が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の含有量の総量よりも多く、
前記食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記内層、前記第1の外層、及び前記第2の外層における前記熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1つの層が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウム粒子を含む、
食品用包装容器。
【請求項8】
請求項に記載の食品用包装容器を真空成形により作成するための積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、及び食品用包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、各種樹脂製品における樹脂成分含有量を低減するための試みが行われている。
このような試みとして、樹脂製品における炭酸カルシウム等の配合量を高めることが挙げられる(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6857428号公報
【文献】特許第7113579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方で、炭酸カルシウムの配合量が高い樹脂製品は環境負荷が低いものの、その成形加工性(加工のし易さ)にばらつきが生じ易い。このようなばらつきは、樹脂製品のうち、均一な厚さが要求される積層シートにおいて特に問題となる。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、成形加工性のばらつきが改善された、無機物質粉末含有積層シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、積層シートに配合される無機物質粉末について、所定の粒度分布を満たすものを使用することで、上記課題を解決出来る点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 3層以上の積層シートであって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、40.0質量以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である、
積層シート。
【0008】
(2) 前記無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.6μm未満であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D20が、2.6μm以上3.9μm未満であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D30が、5.3μm未満であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D40が、6.7μm未満であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D50が、8.2μm未満である、
(1)に記載の積層シート。
【0009】
(3)
前記無機物質粉末における粒度分布D97が、21.0μm以上27.0μm以下である、(1)に記載の積層シート。
【0010】
(4) 前記内層、前記第1の外層、及び前記第2の外層における前記熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1つの層が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、(1)に記載の積層シート。
【0011】
(5) 前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、(4)に記載の積層シート。
【0012】
(6) 前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、(4)に記載の積層シート。
【0013】
(7) 前記無機物質粉末が、炭酸カルシウム粒子を含む、(1)に記載の積層シート。
【0014】
(8) 前記炭酸カルシウム粒子が、重質炭酸カルシウム粒子を含む、(7)に記載の積層シート。
【0015】
(9) 前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上10.0%以下である、(1)に記載の積層シート。
【0016】
(10) 前記積層シートが、真空成形用積層シートである、(1)から(9)の何れかに記載の積層シート。
【0017】
(11) (10)の積層シートから成形された食品用包装容器。
【0018】
(12) 3層以上の積層シートからなる食品用包装容器であって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記食品用包装容器に対して、40.0質量以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下であり、
前記無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下であり、
前記内層の無機物質粉末の含有量が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の含有量の総量よりも多く、
前記食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である、
食品用包装容器。
【0019】
(13) (12)の食品用包装容器を真空成形により作成するための積層シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成形加工性のばらつきが改善された、無機物質粉末含有積層シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
<積層シート>
本発明の積層シートは、3層(すなわち、内層と、内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層)以上の構造を有し、以下の要件を全て満たす。
・内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含む。
・第1の外層及び第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含む。
・無機物質粉末の含有量が、積層シートに対して、40.0質量以上80.0質量%以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下である。
・内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多い。
・第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。
【0023】
なお、積層シートが、本発明の要件を満たしているかどうかは、走査電子顕微鏡(SEM)画像に基づき特定出来る。
具体的には、積層シートの断面等のSEM画像を分析し、各層の厚さ、各層に含まれる成分の含有量を特定出来る。
また、積層シートが無機物質粉末の粒度分布の要件を満たしているかどうかや、積層シートに含まれる無機物質粉末の種類等は、後述するレーザ回折式粒度分布測定装置を用いた方法で特定出来る。
【0024】
無機物質粉末が高配合された積層シートは、無機物質粉末の分散性の低さ等によって、成形加工性にばらつきが生じ易い。
例えば、積層シートの成形のし易さを向上させるため、無機物質粉末の粒子径等の調整(例えば、無機物質粉末の粒子径の平均粒子径を所定範囲にすることや、無機物質粉末の粒子径の最大粒子径を所定の値以下に調整すること)や、分散剤の利用が考えられる。
しかし、従来は、積層シートや、該積層シートから得られる成形品について、大量生産時の品質を安定させること、すなわち、大量生産時の成形性加工性のばらつきには着目していなかった。
上記のような事情のもと、本発明者らによる検討の結果、意外にも、無機物質粉末の粒度分布が、大量生産時の成形性加工性のばらつきに大きな影響を及ぼすことが見出された。本発明の粒度分布を満たすように配合することで、成形加工性のばらつきを抑制し易いという知見は、極めて意外なものである。
【0025】
本発明において「積層シートの成形加工性」とは、積層シートの作製時の成形加工性、及び得られた積層シートの成形加工性を包含する。
【0026】
本発明において「成形性加工性のばらつきが抑制されている」とは、積層シートそのものや、積層シートからの成形品について、同条件で多数作製したとき、それら同士の間での形状や性状のばらつき(偏差)が少ないことを意味する。
【0027】
積層シートの成形加工性は、実施例に示した方法で評価し得る。
【0028】
本発明において「成分Aからなる」とは、成分A以外の成分を実質的に含まないことを意味する。
【0029】
本発明において「成分Bを実質的に含まない」とは、成分Bの含有量が、その配合対象全体(例えば、積層シート)に対して、0.1質量%未満である態様、より好ましくは0.01質量%以下である態様、更に好ましくは成分Bを全く含まない態様を包含する。
【0030】
以下、本発明の積層シートの構成について詳述する。
【0031】
(1)積層シートに含まれる無機物質粉末
本発明は、高い割合の無機物質粉末が配合されつつも、無機物質粉末の粒度分布を調整した点に主要な技術的特徴がある。
【0032】
(1-1)積層シート中の無機物質粉末の配合量
無機物質粉末の含有量は、積層シートに対して、40.0質量以上80.0質量%以下である。
このように無機物質粉末の含有量が高い積層シートは、成形加工性にばらつきが生じ易いという大きな課題を有する。しかし、本発明においては、後述する無機物質粉末の粒度分布の調整により、成形加工性のばらつきを抑制出来る。
【0033】
無機物質粉末の含有量は、高くても成形加工性にばらつきが生じにくく、積層シートに対して、40.0質量以上、好ましくは45.0質量以上、より好ましくは50.0質量%以上である。
【0034】
無機物質粉末の含有量は、充分な成形加工性を付与するほどの熱可塑性樹脂を配合する観点から、積層シートに対して、80.0質量以下、好ましくは75.0質量以下、より好ましくは70.0質量%以下である。
【0035】
(1-2)積層シート中の無機物質粉末の粒度分布
本発明の積層シートに含まれる無機物質粉末は、その粒子径の積算分布が所定要件を満たすように調整される。
【0037】
積層シートや、該積層シートから得られる成形品に含まれる無機物質粉末の粒度分布は以下のように特定出来る。
まず、積層シートや成形品を焼成し、灰分(乾燥粉末)を得る。
次いで、灰分を、レーザ回折式粒度分布測定装置に供し、灰分におけるDnをそれぞれ特定する。
【0038】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末における粒度分布D10は、0.9μm以上2.9μm以下である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D10の下限は、0.9μm以上、好ましくは1.0μm以上である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D10の上限は、2.9μm以下、好ましくは2.6μm未満である。
【0039】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末における粒度分布D20は、2.2μm以上4.2μm以下である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D20の下限は、2.2μm以上、好ましくは2.6μm以上である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D20の上限は、4.2μm以下、好ましくは3.9μm未満である。
【0040】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末における粒度分布D30は、5.6μm以下である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D30の下限は、3.6μm以上、好ましくは3.9μm以上である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D30の上限は、5.6μm以下、好ましくは5.3μm未満である。
【0041】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末における粒度分布D40は、7.0μm以下である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D40の下限は、5.0μm以上、好ましくは5.3μm以上である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D40の上限は、7.0μm以下、好ましくは6.7μm未満である。
【0042】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末における粒度分布D50は、8.4μm以下である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D50の下限は、6.4μm以上、好ましくは6.7μm以上である。
本発明の効果が奏され易いという観点から、該粒度分布D50の上限は、8.4μm以下、好ましくは8.2μm未満である。
【0043】
積層シート全体に含まれる無機物質粉末においては、粒径が大きいもの(例えば、直径が22.0μm以上であるもの)が少ないほど、大量生産時の積層シートの成形性(作り易さ)が向上し易い。
したがって、本発明の一態様において、積層シートに含まれる無機物質粉末における粒度分布D97は、好ましくは21.0μm以上27.0μm以下である。
【0044】
本発明における粒度分布の要件を全て満たす無機物質粉末の調製方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
・粒度分布が予め特定された無機物質粉末(市販品等でも良い)を、本発明における粒度分布を満たすようにブレンドする。
・上記ブレンド品を、必要に応じて、孔径のフィルタに通し、粒度分布を調整する。
・上記ブレンド品に対し、必要に応じて、粒度分布が極めて狭い所定粒径の無機物質粉末を添加し、粒度分布を調整する。
【0045】
(1-3)積層シート中の無機物質粉末の種類
無機物質粉末としては、特に限定されず、通常の樹脂製品等に含まれるものであっても良い。無機物質粉末は、1種類の物質を単独で又は2種類以上の物質を組み合わせて用いることが出来る。
【0046】
積層シートにおける各層に含まれる無機物質粉末は、全て同一の物質であっても良く、異なる物質であっても良い。
ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、積層シートにおける各層に含まれる無機物質粉末は、全て同一の物質であることが好ましい。
また、後述の通り、積層シートにおいては、内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く調整されるが、本発明の効果が特に奏され易いという観点から、無機物質粉末は、内層のみに含まれることが好ましい。
【0047】
無機物質粉末としては、例えば、以下のものが挙げられる。
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の酸化物;
上記塩又は酸化物の水和物等。
【0048】
無機物質粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
【0049】
無機物質粉末は合成のものであっても良く、天然鉱物由来のものであっても良い。
【0050】
無機物質粉末の分散性や反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を、常法に従い、予め表面改質しても良く、しなくても良い。
表面改質法としては、物理的処理方法(プラズマ処理等)、化学的処理方法(カップリング剤や界面活性剤を使用した方法)等が挙げられる。
【0051】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状(球形、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。
【0052】
無機物質粉末としては、炭酸カルシウムを含むことが好ましい。例えば、無機物質粉末において、炭酸カルシウムは、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%含まれる。
炭酸カルシウムが高充填された積層シートは、成形加工性の安定性に特に劣る。しかし、本発明によれば、積層シートが炭酸カルシウムを含む場合であっても、成形加工性のばらつきを良好に抑制出来る。
【0053】
積層シート中の無機物質粉末に炭酸カルシウムが含まれているかどうかや、その含有量は、積層シートを焼成し、その灰分分析によって特定出来る。
【0054】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムのうち、何れであっても良い。
「重質炭酸カルシウム」とは、CaCOを主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0055】
重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの違いは、例えば、SEM画像の分析に基づき算出された真円度から特定出来る。
重質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、0.50以上0.95以下の範囲である。軽質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、ほぼ1.00である。
【0056】
本発明において「真円度」とは、下式で表される値であり、粒子の不定形性の度合いの指標である。真円度が「1」(最大値)に近いほど真円に近いことを意味し、数値が低いほど不定形の度合いが高いことを意味する。
「真円度」=(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)
【0057】
重質炭酸カルシウムは、その製法上、形状等が一定ではないため、大量生産時の積層シートの成形加工性がばらつき易い。しかし、本発明によれば、粒度分布を調整することにより、重質炭酸カルシウムが高充填された積層シートであっても、成形加工性のばらつきを良好に抑制出来る。
したがって、本発明の好ましい態様において、積層シートは重質炭酸カルシウムを含む。本発明のより好ましい態様において、積層シートに含まれる無機物質粉末は重質炭酸カルシウムからなる。
【0058】
重質炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上13.5μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0059】
(2)内層
内層は、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含む。
【0060】
(2-1)内層に配合される無機物質粉末
内層に配合される無機物質粉末は、積層シートに含まれる無機物質粉末に関する上述の要件を満たせば特に限定されない。
【0061】
本発明の効果が奏され易いという観点から、内層中の無機物質粉末における粒度分布は、下記の要件を全て満たす。
・無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下である。
【0062】
(2-2)内層に配合される熱可塑性樹脂
内層に配合される熱可塑性樹脂としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の樹脂を採用出来る。内層に配合される熱可塑性樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0063】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。これらのうち、良好な成形性等の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0064】
本発明において「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂を意味する。
「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)含まれることを意味する。
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されず、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、ラジカル開始剤(酸素、過酸化物等)等を用いる方法等の何れでも良い。
【0065】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、本発明の効果が奏され易く、更に、良好な外観等を実現し易いという観点から、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂からなることがより好ましい。
【0066】
(2-2-1)ポリプロピレン系樹脂
本発明におけるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0067】
ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー(プロピレン単独重合体)、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
「他のα-オレフィン」としては、例えば、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
【0068】
プロピレン単独重合体としては、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示す、直鎖状又は分枝状のポリプロピレン等が包含される。
【0069】
プロピレンの共重合体は、ポリプロピレンランダムコポリマー(ランダム共重合体)、ポリプロピレンブロックコポリマー(ブロック共重合体)、二元共重合体、三元共重合体等の何れであっても良い。具体的には、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0070】
上記のポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレンブロックポリマーを含む樹脂が好ましく、ポリプロピレンブロックポリマーからなる樹脂がより好ましい。
【0071】
(2-2-2)ポリエチレン系樹脂
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0072】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0073】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂が好ましく、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンからなる樹脂がより好ましい。
【0074】
高密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)が、5g/10分以上15g/10分以下であるものが好ましく、7g/10分以上13g/10分以下であるものがより好ましい。
【0075】
直鎖状低密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)が、0.5g/10分以上1.5g/10分以下であるものが好ましく、0.7g/10分以上1.3g/10分以下であるものがより好ましい。
【0076】
高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂において、両者の質量比(高密度ポリエチレン:直鎖状低密度ポリエチレン)は、好ましくは90:10~50:50、より好ましくは92:8~50:50、更に好ましくは94:6~50:50である。
【0077】
(2-2)内層に配合されるその他の成分
内層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0078】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0079】
本発明の好ましい態様は、内層が、炭酸カルシウム粒子(より好ましくは、重質炭酸カルシウム粒子)、及び熱可塑性樹脂のみからなる積層シートを包含する。
【0080】
(2-3)内層に配合される成分の割合
内層に配合される無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂の含有量は、積層シートに含まれる無機物質粉末に関する上述の要件を満たせば特に限定されない。
【0081】
本発明の効果が奏され易いという観点から、内層には充分量の無機物質粉末が含まれていることが好ましいため、無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは40.0質量%以上、より好ましくは45.0質量%以上、更に好ましくは50.0質量%以上である。
【0082】
積層シートに充分な成形性加工性を付与する観点から、無機物質粉末の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは80.0質量%以下、より好ましくは75.0質量%以下、更に好ましくは70.0質量%以下である。
【0083】
内層の無機物質粉末の含有量は、以下の方法で特定された数字であり得る。以下の方法で特定された数字は、上記で挙げた内層に対する無機物質粉末の含有量の例と重複し得る。
(1)工程1
まず、積層シートの任意の5か所において、積層シート断面のSEM画像を取得する。
該積層シートについて、総質量も記録する。
得られた5か所のSEM画像に基づき、積層シートの断面全体に対する無機物質粉末の占有面積(面積1)、及び、積層シートの断面のうち内層に対する無機物質粉末の占有面積(面積2)を特定する。
(2)工程2
次いで、積層シートを焼成し、灰分(乾燥粉末)を得る。
得られた灰分に基づき、無機物質粉末の種類や質量を特定する。
(3)工程3
下記式に基づき、内層の無機物質粉末の含有量(質量%)を特定する。
内層の無機物質粉末の含有量(質量%)=「無機物質粉末の質量」×「面積2/面積1」÷「積層シート総質量」
【0084】
工程1において、「面積2/面積1」の下限は、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0である。
【0085】
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の含有量に応じて調整出来る。
無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは20.0質量%以上、より好ましくは25.0質量%以上、更に好ましくは30.0質量%以上である。
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは55.0質量%以下、更に好ましくは50.0質量%以下である。
【0086】
(3)外層
外層は、内層の2つの表面に積層される1対の層である(つまり、本発明の積層シートにおいて、外層は、内層を挟むように2層形成される。)。
本発明において、該1対の層を、第1の外層及び第2の外層と称する。
【0087】
第1の外層及び第2の外層の構成は同一であっても良く、異なっていても良い。ただし、第1の外層及び第2の外層は、それぞれ、熱可塑性樹脂を含む。
【0088】
本発明の好ましい態様は、第1の外層及び第2の外層の構成(組成、厚さ、形状等)が全て同一である態様を包含する。
【0089】
(3-1)外層に配合される熱可塑性樹脂
外層に配合される熱可塑性樹脂としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の樹脂を採用出来る。外層に配合される熱可塑性樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0090】
外層に配合される熱可塑性樹脂は、上記(内層に配合される熱可塑性樹脂)に挙げたものと同様の樹脂を採用出来る。
ただし、本発明の積層シートにおいて、外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とは同一であっても良く、異なっていても良い。
【0091】
本発明の好ましい態様は、以下の態様を全て包含する。
(態様1)外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て同一である態様
(態様2)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂と、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て異なる態様
(態様3)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂、及び内層に配合される熱可塑性樹脂のうち2種のみが同一である態様
【0092】
第1の外層、及び第2の外層における熱可塑性樹脂は、それぞれ、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂からなる樹脂がより好ましい。
【0093】
外層に配合される熱可塑性樹脂の割合は、樹脂シートを成形出来る範囲であれば、特に限定されない。
【0094】
熱可塑性樹脂の含有量の下限は、外層に対して、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、更に好ましくは99.0質量%以上である。
【0095】
熱可塑性樹脂の含有量は、外層に対して、好ましくは100.0質量%である。
【0096】
(外層に配合されるその他の成分)
外層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0097】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、上述の無機物質粉末、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0098】
外層に無機物質粉末が配合される場合、内層の無機物質粉末の割合(つまり、内層全体に対する無機物質粉末の割合)が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合(つまり、第1の外層及び第2の外層全体に対する無機物質粉末の割合)よりも多く配合される。
このように調整することで、積層シートの最外表面付近に分布する無機物質粉末が少なくなり、より成形加工性が安定し、外観に優れた積層シートが得られ易くなる。
【0099】
内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多いかどうかは、積層シート断面のSEM画像の分析に基づき特定出来る。
具体的には、積層シートの断面画像において、内層における無機物質粉末が占める面積割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の面積割合の合計よりも多ければ、内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多いと判断出来る。
【0100】
内層の無機物質粉末の含有量に対する、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の含有量の総量の比率(第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の含有量の総量/内層の無機物質粉末の含有量)は、1.0未満であれば良いが、該比率が小さいほど本発明の効果が得られ易い。
最も好ましい態様においては、第1の外層及び第2の外層には無機物質粉末が含まれない。
【0101】
本発明の好ましい態様は、外層が、それぞれ熱可塑性樹脂からなる積層シートを包含する。
【0102】
(4)積層シートの各層の厚さ等
本発明の積層シートにおいて、第1の外層及び第2の外層の厚さの比率は、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。つまり、本発明の積層シートにおいて、外層の総厚さ(第1の外層及び第2の外層の厚さの合計値)は、積層シートの全体厚さに対して、4.0%以上40.0%以下である。
本発明の積層シートは、内層の厚さに対して外層の厚さを薄くすることで、成形性加工性や外観を向上することが出来る。
【0103】
第1の外層及び第2の外層の厚さの比率の下限は、外観が良好となり易いという観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上、好ましくは2.5%以上、より好ましくは3.0%以上である。
【0104】
第1の外層及び第2の外層の厚さの比率の上限は、内層に含まれる無機物質粉末による成形加工性の向上効果が奏し易くなるという観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、20.0%以下、好ましくは18.0%以下、より好ましくは16.0%以下である。
【0105】
本発明の積層シートにおいて、内層の厚さの比率は、外層の厚さに応じて調整され、積層シートの全体厚さに対して、60.0%以上96.0%以下である。
【0106】
第1の外層及び第2の外層の厚さの下限は、良好な外観が得られ易い等の観点から、それぞれ、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは10.0μm以上である。
【0107】
第1の外層及び第2の外層の厚さの上限は、良好な成形性等の観点から、それぞれ、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは45.0μm以下である。
【0108】
内層の厚さの下限は、良好な機械的特性が得られ易い等の観点から、好ましくは50.0μm以上、より好ましくは100.0μm以上である。
【0109】
内層の厚さの上限は、良好な成形性等の観点から、好ましくは950.0μm以下、より好ましくは900.0μm以下である。
【0110】
積層シートの全体厚さの下限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは100.0μm以上、より好ましくは150.0μm以上である。
【0111】
積層シートの全体厚さの上限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは990.0μm以下、より好ましくは700.0μm以下である。
【0112】
積層シートの密度は、特に限定されない。
【0113】
積層シートは、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートであっても良く、外層の外側(最外層)にその他の層が設けられた4層以上のシートであっても良い。
上記その他の層としては、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の層(印刷層等)が選択され得る。
ただし、成形加工性のばらつきが抑制し易いという観点から、積層シートは、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートであることが好ましい。
【0114】
(5)積層シートの製造方法
本発明の積層シートの製造方法は特に限定されず、従来知られる多層シートや積層体の製造方法を採用出来る。
【0115】
積層シートの製造方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
・シート状に成形した内層及び外層をカレンダーロールで積層する方法
・内層及び外層を共押出する方法
・多層Tダイ方式の二軸押出成形機を用いて、内層用原材料の溶融混練と内外層の共押出成形とを同一工程で行う方法
・複数の環状ダイスを用いた、押出インフレーション方式による方法
【0116】
積層シートは、必要に応じて延伸を行っても良い。
【0117】
(6)積層シートの用途
本発明の積層シートは、通常の樹脂シートにおける任意の用途に採用出来る。
【0118】
本発明の積層シートの成形方法としては、特に限定されず、真空成形、圧空成形、マッチモールド成形等が挙げられる。
これらのうち、成形容易性という観点から、真空成形が好ましい。したがって、本発明の積層シートは、真空成形用積層シートである態様を包含する。
【0119】
本発明の積層シートの好適な用途として、包装容器の材料が挙げられる。
したがって、本発明は、本発明の積層シートから成形された包装容器、特に、食品用包装容器を包含する。
【0120】
食品用包装容器としては任意の容器が包含され、トレイ、カップ、各種容器のフタ、袋等が挙げられる。
【0121】
(7)食品用包装容器
本発明は、本発明の積層シートからなる食品用包装容器を包含する。該食品用包装容器は、以下の要件を全て満たす。
・3層以上の積層シートからなる食品用包装容器であって、積層シートが、内層と、内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備える。
・内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含む。
・第1の外層及び第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含む。
・無機物質粉末の含有量が、食品用包装容器に対して、40.0質量以上80.0質量%以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D10が、0.9μm以上2.9μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D20が、2.2μm以上4.2μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D30が、5.6μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D40が、7.0μm以下である。
・無機物質粉末における粒度分布D50が、8.4μm以下である。
・内層の無機物質粉末の含有量が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の含有量の総量よりも多い。
・食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。
【0122】
また、本発明は、上記食品用包装容器を真空成形により作成するための積層シートも包含する。積層シートの詳細は上述の通りである。
【実施例
【0123】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0124】
<積層シートの作製及び評価>
以下の方法で積層シートを作製し、その評価を行った。
【0125】
(1)材料の準備
各層の材料を以下の通り準備した。
【0126】
(無機物質粉末)
本試験では、無機物質粉末として、炭酸カルシウム粒子(重質炭酸カルシウム粒子)のみを使用した。
各例において、粒度分布が表2~3中の「炭酸カルシウムの粒子の粒度分布」を満たす炭酸カルシウム粒子を使用した。各炭酸カルシウム粒子は、表1に示す粒度分布(Dn)を有する炭酸カルシウム粒子製品A~Cを適宜比率でブレンドし、更に必要に応じて、所定孔径のフィルタを通したり、粒度分布が極めて狭い所定粒径の炭酸カルシウムを添加したりすることで、所望の粒度分布を有する炭酸カルシウム粒子として準備した。
各層における炭酸カルシウムの含有量は、表中の「Ca」に示す値である。
なお、製品A~Cは、本発明における粒度分布Dnのうち、全て、又は一部を満たさない。
【0127】
【表1】
【0128】
(熱可塑性樹脂)
ポリプロピレン系樹脂(PP):ポリプロピレンブロックコポリマー(融点160℃)
ポリエチレン系樹脂(PE):HDPE及びLLDPEのブレンド(HDPE:LLDPE(質量比)=70:30)
なお、上記HDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)は、7.5g/10分である。
上記LLDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)は、0.8g/10分である。
【0129】
(2)積層シートの作製
表に示す材料を用いて、多層Tダイ法により、3層の積層シートを作製した。
積層シートの全体厚さは、260μmに設定した。
内層の厚さは、230μm(積層シートの全体厚さに対して約88%)に設定した。
内層の両面に外層(第1の外層及び第2の外層)を設け、それぞれの外層の厚さは、15μm(積層シートの全体厚さに対して、それぞれ約6%)に設定した。
【0130】
(3)積層シートの評価
以下の方法で、積層シートの作製時の成形加工性、及び得られた積層シートの成形加工性を評価した。その結果を表中の「成形加工性」の項に示す。
【0131】
[成形加工性の評価方法-1(積層シート)]
上記多層Tダイ法により、幅5cm×長さ100mの積層シートを作製した。得られた積層シートを、長さ10cmごとに裁断し、100枚のシート片を準備し、以下の基準で評価した。
【0132】
[成形加工性の評価基準-1(積層シート)]
各積層シートを目視観察及び採寸し、歪の有無や程度に基づき、積層シートの作製時の成形加工性を以下の基準で評価した
A:シート片形状の歪が全く観察されず、シート片の形状にばらつきが認められなかった。
B:シート片形状の歪が僅かに観察され、シート片の形状にばらつきがやや認められた。
C:シート片形状の歪が明確に観察され、シート片の形状にばらつきが明確に認められた。
D:シート片形状の歪が非常に明確に観察され、シート片の形状にばらつきが非常に明確に認められた。
【0133】
[成形加工性の評価方法-2(容器)]
上記で得られた各試験区の積層シートについて、互いの形状のばらつきが少ないものを15~30枚ずつ選択した。
次いで、各積層シートを、遠赤外線ヒーターで予熱した後、真空成形機によって底径50mmφ、開口径50mmφ、高さ30mm、フランジ幅5mmのトレイ状の容器に成形し、以下の基準で評価した。
【0134】
[成形加工性の評価基準-2(容器)]
各容器を目視観察及び採寸し、歪の有無や程度に基づき、各積層シートの成形加工性を以下の基準で評価した。
A:容器形状の歪が全く観察されず、成形品の形状にばらつきが認められなかった。
B:容器形状の歪が僅かに観察され、成形品の形状にばらつきがやや認められた。
C:容器形状の歪が明確に観察され、成形品の形状にばらつきがやや認められた。
D:容器形状の歪が非常に明確に観察され、成形品の形状にばらつきがやや認められた。
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
表に示される通り、本発明の要件を満たす積層シートは、成形加工性のばらつきが抑制されていた。
【0139】
炭酸カルシウム粒子以外の無機物質粉末(タルク等)を用いた場合にも、上記同様の傾向が得られた。
ただし、重質炭酸カルシウム粒子のように特に成形加工性を害し易い材料であっても、安定的な成形加工性を実現出来た点に本発明の大きな意義があると考えられた。
【0140】
上記の実施例においては、内層に含まれる無機物質粉末と熱可塑性樹脂の配合量は等量だが、無機物質粉末の配合量を高めても、積層シートに対して、80.0質量%以下の範囲であれば、上記同様の結果が得られた。
特に、無機物質粉末の配合量が、積層シートに対して、80.0質量%という高量であっても、本発明の要件を満たしていれば、上記「実施例1-1」同様の結果が得られる点は極めて意外な知見であった。
【0141】
上記の実施例においては、外層には熱可塑性樹脂以外の成分を配合しなかったが、無機物質粉末等のその他の成分を配合しても、効果が損なわれない傾向にあった。ただし、外層に含まれる熱可塑性樹脂以外の成分の含有量が少ないほど、本発明の効果が奏され易い傾向にあった。
【0142】
第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%未満であると、内層に含まれる無機物質粉末によって生じる凹凸が、積層シートの最外表面に浮き出てしまい、成形加工性を害し易かった。
他方で、第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、20.0%以上であると、成形加工性は良好であるものの、積層シート全体に含まれる熱可塑性樹脂が多くなり、環境負荷の低減という観点からは好ましくない積層シートとなった。