(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱可塑性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240930BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20240930BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
B29C67/20 B
B29K23:00
(21)【出願番号】P 2023153932
(22)【出願日】2023-09-20
【審査請求日】2024-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 重樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 将徳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 太郎
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-080172(JP,A)
【文献】特開昭51-081869(JP,A)
【文献】特開昭49-107376(JP,A)
【文献】特公昭48-014433(JP,B1)
【文献】特開2007-112855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物をシート状に成形した熱可塑性シートであって、
前記熱可塑性シートの厚み方向において、一方の表面を0%、他方の表面を100%とした場合であって、0%以上20%未満の領域を第1領域、20%以上40%未満の領域を第2領域、40%以上60%未満の領域を第3領域、60%以上80%未満の領域を第4領域、80%以上100%以下の領域を第5領域としたとき、
前記第1領域及び前記第5領域の空隙率は10%未満であり、
前記第2領域及び前記第4領域の空隙率は10%以上25%未満であり、
前記第3領域の空隙率は25%以上50%以下である、
熱可塑性シート。
【請求項2】
前記熱可塑性シートを示差走査熱量測定したとき、前記熱可塑性樹脂の融点に対応する第1吸熱ピークと、前記第1吸熱ピークよりも8℃以上高い高温側の第2吸熱ピークとを有する、
請求項
1に記載の熱可塑性シート。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂と前記無機物質粉末とを質量比50:50~30:70の割合で含有する、
請求項
1に記載の熱可塑性シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含む、
請求項
1に記載の熱可塑性シート。
【請求項5】
前記無機物質粉末は、重質炭酸カルシウム粉末を含む、
請求項
1に記載の熱可塑性シート。
【請求項6】
前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下である
請求項
5に記載の熱可塑性シート。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物を溶融混錬した後、成形してシートを得る工程と、
前記シートを冷却する工程と、
前記冷却されたシートの表面を加熱ロールと接触させて、シート内部の温度がシート表面の温度よりも低い状態を維持するように予熱する工程と、
前記予熱されたシートを長手方向に延伸する工程と、
前記延伸されたシートを加熱炉で予熱する工程と、
前記加熱炉で予熱されたシートを長手方向と直交する方向に延伸する工程と、
を含
み、
前記熱可塑性樹脂の融点をTm(℃)としたとき、
前記シートを冷却する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-100)℃以上(Tm-80)℃未満となるように冷却し、
前記加熱ロールで予熱する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-15)℃以上(Tm-5)℃以下となるように加熱し、
前記加熱炉で予熱する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-5)℃超(Tm+5)℃以下となるように加熱する、
熱可塑性シートの製造方法。
【請求項8】
前記長手方向に延伸する工程及び前記長手方向と直交する方向に延伸する工程は、合計の延伸倍率が8倍以上となるように行う、
請求項
7に記載の熱可塑性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む樹脂組成物の成形体は、光学部材や機能性部材、包装材等の種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポリエステル樹脂を含むA層と、ウレタン樹脂と無機フィラーとを含むB層とを有する太陽電池モジュール用シートが開示されている。当該シートは、A層の空隙率を高くし、B層の空隙率を低くすることで、良好な反射性能を有するとされている。
【0004】
特許文献2では、多孔質部と、防水部とを含むウレタン樹脂膜を備えた透湿性防水シートが開示されている。当該シートは、多孔質部の空隙率を高く、防水部の空隙率を低くすることで、透湿性と防水性とを両立できるとされている。
【0005】
特許文献3では、熱可塑性樹脂と多量の炭酸カルシウム粉末とを含む樹脂組成物の延伸シートが開示されている。当該シートは、樹脂の使用量を少なくできることから、環境負荷を低減できるだけでなく、延伸によって形成された空隙を有することから、良好な隠蔽性(不透明度)を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-32753号公報
【文献】国際公開第2008/090877号
【文献】特開2021-161350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に示すように、多量の無機物質粉末を含む樹脂組成物の延伸シートは、延伸によって形成された空隙を有する。このような空隙は、シートの内部だけでなく、シートの表層部にも多く存在する。そのため、上記延伸シートは、無機物質粉末を含まない樹脂シートと比較して、シート表層部の機械的強度(特にテープ剥離強度)が低下しやすいことが新たに見出された。
【0008】
これに対し、シート表層部の機械的強度の低下を抑制する方法として、特許文献1に示すように、表層を樹脂のみからなる層で構成した多層構造(例えば2種3層構造)としたり、無機物質粉末の含有量を少なくして空隙の発生を抑制したりする対応が考えられる。しかしながら、多層構造にすると、製造工程が複雑になるため、製造コストが増大しやすい。また、無機物質粉末の含有量を少なくすると、樹脂の使用量を低減できないだけでなく、十分な隠蔽性を有するシートが得られにくい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で、十分な隠蔽性を有し、且つシート表層部の機械的強度の低下を抑制できる熱可塑性シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物をシート状に成形した熱可塑性シートであって、空隙を有する内層部と、前記内層部を挟んで配置され、前記内層部の空隙率よりも低い空隙率を有する2つの表層部と、を含む、熱可塑性シート。
[2] 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物をシート状に成形した熱可塑性シートであって、前記熱可塑性シートの厚み方向において、一方の表面を0%、他方の表面を100%とした場合であって、0%以上20%未満の領域を第1領域、20%以上40%未満の領域を第2領域、40%以上60%未満の領域を第3領域、60%以上80%未満の領域を第4領域、80%以上100%以下の領域を第5領域としたとき、前記第1領域及び前記第5領域の空隙率は10%未満であり、前記第2領域及び前記第4領域の空隙率は10%以上25%未満であり、前記第3領域の空隙率は25%以上50%以下である、熱可塑性シート。
[3] 熱可塑性シートを示差走査熱量測定をしたときに、前記熱可塑性樹脂の融点に対応する第1吸熱ピークと、前記第1吸熱ピークよりも8℃以上高い高温側の第2吸熱ピークとを有する、[1]又は[2]に記載の熱可塑性シート。
[4] 前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂と前記無機物質粉末とを質量比50:50~30:70の割合で含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性シート。
[5] 前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性シート。
[6] 前記無機物質粉末は、重質炭酸カルシウム粉末を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性シート。
[7] 前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下である、[6]に記載の熱可塑性シート。
[8] 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物を溶融混練した後、成形してシートを得る工程と、前記シートを冷却する工程と、前記冷却されたシートの表面を加熱ロールと接触させて、シート内部の温度がシート表面の温度よりも低い状態を維持するように予熱する工程と、前記予熱されたシートを長手方向に延伸する工程と、前記延伸されたシートを加熱炉で予熱する工程と、前記予熱されたシートを長手方向と直交する方向に延伸する工程と、を含む、熱可塑性シートの製造方法。
[9] 前記熱可塑性樹脂の融点をTm(℃)としたとき、前記シートを冷却する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-100)℃以上(Tm-80)℃未満となるように冷却する、[8]に記載の熱可塑性シートの製造方法。
[10] 前記加熱ロールで予熱する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-15)℃以上(Tm-5)℃以下となるように加熱する、[9]に記載の熱可塑性シートの製造方法。
[11] 前記加熱炉で予熱する工程では、前記シートの表面温度が(Tm-5)℃超(Tm+5)℃以下となるように加熱する、[9]に記載の熱可塑性シートの製造方法。
[12] 前記長手方向に延伸する工程及び前記長手方向と直交する方向に延伸する工程は、合計の延伸倍率が8倍以上となるように行う、[8]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性シートの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な方法で、十分な隠蔽性を有し、且つシート表層部の機械的強度の低下を抑制できる熱可塑性シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る熱可塑性シートを示す模式的な断面図であり、
図1Bは、変形例に係る熱可塑性シートを示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2Aは、実施例1の熱可塑性シートの長手方向と直交する方向の断面のSEM画像であり、
図2Bは、比較例1の熱可塑性シートの長手方向と直交する方向の断面のSEM画像である。
【
図3】
図3は、実施例1の熱可塑性シートをDSC測定して得られた曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の通り、多量の無機物質粉末を含む樹脂組成物の延伸シートは、表層近傍にも空隙を多く有するため、シートの表面強度が脆弱となりやすい。
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、単層押出しで製造しても、温度条件や延伸条件を調整することにより、シートの表面近傍に生じる空隙の数を激減させ、シートの内部にのみ空隙を生じさせることができることを見出した。それにより、単層押出しでも、多層押出しで成形したような構造を有する熱可塑性シート、即ち、表層部の空隙率が内層部の空隙率よりも低い熱可塑性シートを得ることができることを見出した。そのような熱可塑性シートは、十分な隠蔽性を有しつつ、シート表層部の機械的強度の低下を抑制できる。
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る熱可塑性シート及びその製造方法について説明する。
【0017】
1.熱可塑性シート
[熱可塑性シートの構成]
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る熱可塑性シート10を示す模式的な断面図である。
図1Bは、変形例に係る熱可塑性シート10を示す模式的な断面図である。
【0018】
図1Aに示すように、本発明の一実施の形態に係る熱可塑性シート10は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む樹脂組成物をシート状に成形したものである。当該熱可塑性シート10は、空隙11を有する内層部12と、内層部12の両面に配置された2つの表層部13A及び13Bと、を有する。2つの表層部13A及び13Bの空隙率は、内層部12の空隙率よりも低い。なお、内層部12と2つの表層部13A及び13Bは、単層シートにおける空隙率の異なる領域である。
【0019】
具体的には、熱可塑性シート10の厚み方向において、一方の表面を0%、他方の表面を100%とした場合であって、0%以上20%未満の領域を第1領域a1、20%以上40%未満の領域を第2領域a2、40%以上60%未満の領域を第3領域a3、60%以上80%未満の領域を第4領域a4、80%以上100%以下の領域を第5領域a5としたとき、第1領域a1及び第5領域a5の空隙率は、第3領域a3の空隙率よりも低い。また、第2領域a2(又は第4領域a4)の空隙率は、第3領域a3の空隙率と同じかそれよりも低く、第1領域a1(又は第5領域a5)の空隙率と同じかそれよりも高い。
【0020】
より具体的には、第1領域a1及び第5領域a5の空隙率は、10%未満であることが好ましい。第1領域a1及び第5領域a5の空隙率が10%未満であると、熱可塑性シートの表層部の機械的強度が高くなり、テープ剥離強度を高めることができる。同様の観点から、第1領域及a1び第5領域a5の空隙率は8%以下であることがより好ましい。
【0021】
第2領域a2及び第4領域a4の空隙率は、10%以上25%未満であることが好ましく、10%以上20%以下であることがより好ましい。第2領域a2及び第4領域a4の空隙率が上記範囲内であると、第1領域a1と第3領域a3との間、又は、第3領域a3と第5領域a5との間で空隙率が連続的に変化するため、各領域間での剥離をより抑制することができる。
【0022】
第3領域a3の空隙率は、25%以上50%以下であることが好ましい。第3領域a3の空隙率が25%以上であると、熱可塑性シートの不透明度が高まるため、隠蔽性を十分に高めることができる。第3領域a3の空隙率が50%以下であると、熱可塑性シートの機械的強度をより維持することができる。同様の観点から、第3領域a3の空隙率は、25%以上40%以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、上述した内層部12と表層部13A及び13Bとは、相対的なものである。
従って、
図1Aでは、第1領域a1と第2領域a2が、第3領域よりも相対的に空隙率が低いため、(第1領域a1+第2領域a2)を表層部13A、第3領域a3を内層部12と呼ぶことができる。同様に、第4領域a4と第5領域a5が、第3領域よりも相対的に空隙率が低いため、(第4領域a4+第5領域a5)を表層部13B、第3領域a3を内層部12と呼ぶことができる。
【0024】
また、
図1Bでは、第1領域a1及び第5領域a5が、第2領域a2、第3領域a3及び第4領域a4よりも相対的に空隙率が低いため、第1領域a1を表層部13A、(第2領域a2+第3領域a3+第4領域a4)を内層部12、第5領域a5を表層部13Bと呼ぶことができる。
【0025】
各領域の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測されたシート断面画像から算出することができる。
【0026】
このような厚み方向の空隙率の分布状態は、後述する熱可塑性シートの製造方法における各工程の温度条件や延伸倍率によって調整することができる。例えば、シートの内部を表面近傍よりも低い温度を維持するようにシートを予熱及び延伸すると、得られる熱可塑性シートの表層部13A、13Bの空隙率は低く、内層部12の空隙率は高くなりやすい。また、合計の延伸倍率を大きくすると、内層部12の空隙率は高くなりやすい。
【0027】
[熱可塑性シートの組成]
上記の通り、熱可塑性シートを構成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末とを50:50~10:90の質量比で含む。
【0028】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、任意のものを使用できる。熱可塑性樹脂の例には、
ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;
エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;
ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;
ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等のポリエステル系樹脂;
芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;
ポリスチレン系樹脂;
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;
ポリフェニレンスルフィド;
ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が含まれる。
熱可塑性樹脂は、1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。これらのうち、成形が容易である等の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂がより好ましい。
【0029】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含む重合体が挙げられる。当該重合体の例には、プロピレン単独重合体及びプロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンの例には、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン等の炭素数4~10のα-オレフィンが含まれる。上記共重合体の例には、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-1-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレン3元共重合体等が含まれる。
【0030】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンに由来する構成単位を50質量%以上含む重合体が挙げられる。当該重合体の例には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体等が含まれる。
【0031】
(無機物質粉末)
無機物質粉末は、特に限定されないが、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の金属の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩又はホウ酸塩;上記金属の酸化物;上記塩又は酸化物の水和物でありうる。無機物質粉末の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が含まれる。無機物質粉末は、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせてもよい。中でも、炭酸カルシウム粉末が好ましい。炭酸カルシウム粉末は、シートの機械的強度をより高めることができるだけでなく、製造コストをより低減することができる。
【0032】
炭酸カルシウム粉末は、重質炭酸カルシウム粉末であってもよいし、軽質炭酸カルシウム粉末であってもよい。熱可塑性樹脂に対する相溶性をより高める観点では、重質炭酸カルシウム粉末が好ましい。
【0033】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状のいずれであってもよい。
【0034】
無機物質粉末の平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。無機物質粉末の平均粒子径が0.7μm以上であると、熱可塑性樹脂に対する無機物質粉末の分散性をより高めることができる。無機物質粉末の平均粒子径が6.0μm以下であると、得られるシート表面の凹凸による外観の低下をより少なくすることができる。
【0035】
無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算により求めることができる。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を用いることができる。
【0036】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末との質量比(熱可塑性樹脂:無機物質粉末)は、50:50~10:90であり、好ましくは50:50~30:70である。無機物質粉末の質量比が多いほど、樹脂量をより低減できるため、環境負荷をより低減できる。無機物質粉末の質量比が少ないほど、成形性はより高くなりやすい。
【0037】
上記樹脂組成物における熱可塑性樹脂と無機物質粉末の合計量は、例えば97質量%以上であることが好ましく、98質量%以上99質量%以下とすることができる。上記合計量が98質量%以上であると、熱可塑性樹脂や無機物質粉末の特性がより得られやすい。上記合計量が99質量%以下であると、他の成分による機能がより得られやすい。
【0038】
(他の成分)
樹脂組成物は、上記した熱可塑性樹脂や無機微細粉末以外にも他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が含まれる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、滑剤や酸化防止剤が好ましい。
【0039】
滑剤の例には、ステアリルアルコール、セチルアルコール等の高級脂肪族アルコール;ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ステアリル、多価アルコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸の金属塩等が含まれる。
【0040】
酸化防止剤の例には、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ホスファイト系の酸化防止剤が含まれる。
【0041】
[熱可塑性シートの物性]
熱可塑性シートは、示差走査熱量(DSC)測定したときに、低温側の第1吸熱ピークと、当該第1吸熱ピークの温度よりも8℃以上高い高温側の第2吸熱ピークとを有しうる(後述する
図3参照)。
【0042】
即ち、高温側の第2吸熱ピークは、熱可塑性樹脂が溶融しきらずに残ったラメラサイズが大きな結晶に由来するピークである。一方、低温側の第1吸熱ピークは、そのような結晶に由来しない、熱可塑性樹脂本来の融点に対応するピークである。
つまり、熱可塑性シートがこれら2つの吸熱ピークを有することは、樹脂の一部が完全に溶融し、他の一部は完全には溶融していない状態(例えばシート表面近傍のみが溶融し、内部は溶融していない状態)を経て製造されたものであることを示している。
【0043】
熱可塑性シートのDSC測定は、以下の手順で行うことができる。
熱可塑性シートから約5mgを切り出して、測定用のアルミパンに封入する。これを示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツールメント社製DSC25)にセットし、窒素雰囲気下で200℃まで10℃/分で昇温し、5分間保持した後、10℃/分の速度で30℃まで冷却する。上記の10℃/分で200℃まで昇温したときの第1昇温過程の吸熱ピークを観測する。
【0044】
熱可塑性シートの厚みは、用途に応じて任意に設定することができる。熱可塑性シートの厚みは、例えば60μm以上200μm以下であることが好ましく、80μm以上180μm以下であることがより好ましい。熱可塑性シートの厚みが60μm以上、好ましくは80μm以上であると、当該シートの機械的強度や隠蔽性をより高めることができる。熱可塑性シートの厚みが100μm以下であると、石油由来樹脂の使用をより削減することができる。
【0045】
上記熱可塑性シートは、任意の用途、例えば印刷用シートや包装用シート、光学用シート(光拡散シートや反射シート等)等に用いることができる。
【0046】
2.熱可塑性シートの製造方法
上記熱可塑性シートの製造方法は、1)熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する上記樹脂組成物を溶融混練した後、成形してシートを得る工程と、2)得られたシートを冷却する工程と、3)冷却されたシートの表面を加熱ロールで予熱する工程と、4)予熱されたシートを長手方向に延伸(縦延伸)する工程と、5)延伸されたシートを、加熱炉で予熱する工程と、6)加熱炉で予熱されたシートを長手方向と直交する方向に延伸(横延伸)する工程と、を含む。
【0047】
1)の工程(シートを得る工程)
まず、上記樹脂組成物を溶融混練した後、ダイから押出して、シート状に成形する。
【0048】
上記樹脂組成物は、上記した熱可塑性樹脂、無機微細粉末及び任意の他の成分を所定の比率で混練した後、ペレットにしたものでありうる。
【0049】
上記樹脂組成物の溶融混練は、例えば1軸又は多軸押出機を用いて行うことができる。溶融温度は、熱可塑性樹脂が十分に溶融する温度であればよい。例えば、熱可塑性樹脂の融点をTm(℃)としたとき、溶融温度は、Tm℃以上(Tm+100)℃以下、好ましくは(Tm+10)℃以上(Tm+70)℃以下とすることができる。なお、熱可塑性樹脂の融点は、上記したDSC測定において、第1吸熱ピークの温度として特定することができる。
【0050】
次いで、ダイから押出した溶融状態の樹脂組成物を、例えば一対の冷却ロールで挟んで、シート状に成形する。冷却ロールの温度は、例えば(Tm-80)℃以上(Tm-65)℃以下であることが好ましい。冷却ロールの温度が(Tm-65)℃以下であると、溶融状態の樹脂組成物をより冷却固化させやすい。一方、冷却ロールの温度が(Tm-80)℃以上であると、冷却時間をより短縮できる。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂(融点160℃)である場合、80℃以上95℃以下の冷却ロールで冷却することができる。
【0051】
2)の工程(シートを冷却する工程)
次いで、得られたシートをさらに冷却する。
【0052】
本実施の形態では、上記1)の工程でシートを成形したときのシートの表面温度よりもさらに低い温度、例えば5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上低い温度になるまで冷却する。それにより、後述の予熱及び延伸する工程において、シート内部の温度を低く維持しやすくすることができる。
【0053】
具体的には、シートの表面温度が(Tm-100)℃以上(Tm-80)℃未満となるまで冷却することが好ましく、(Tm-100)℃以上(Tm-90)℃以下となるまで冷却することがより好ましい。シートの表面温度を(Tm-80)℃未満とすることで、シートの内部までより冷却される。そのため、後述するように、シート内部の温度を低く維持しつつ、シート表面のみを加熱した状態で延伸することができる。シートの表面温度を(Tm-100)℃以上とすることで、シート全体が冷えすぎないため、この後の予熱工程でシートの表面近傍を所定以上の温度に調整しやすくなる。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂(融点160℃)である場合、シートの表面温度が80℃未満、好ましくは65℃以下、より好ましくは55℃になるまで冷却することが好ましい。なお、シートの表面温度は、非接触式赤外線温度計等により測定することができる。
【0054】
冷却方法は、特に制限されず、例えば冷風を当てる方法、冷却ロールで冷却する方法、低温雰囲気下で搬送する方法(長時間の空冷も含む)、水冷する方法等であってよい。
【0055】
3)の工程(加熱ロールで予熱する工程)
次いで、冷却されたシートの表面を、加熱ロールと接触させて予熱する。本実施の形態では、多段に配置された加熱ロールでシートを支持しながら搬送して加熱する。
【0056】
そして、冷却されたシートの表面を加熱ロールと接触させて、シート内部の温度がシート表面の温度よりも低い状態を維持するように予熱する。具体的には、シートの表面温度が融点よりも低い温度で加熱することが好ましく、(Tm-15)℃以上(Tm-5)℃以下となるように加熱することがより好ましく、(Tm-10)℃以上(Tm-5)℃以下となるように加熱することがさらに好ましい。シートの表面温度が(Tm-5)℃以下であると、シートの内部まで加熱されにくいため、シート内部の温度をより低く保ちつつ、シート表面のみを加熱することができる。シートの表面温度が(Tm-15)℃以上であると、シートをより延伸に適した温度に調整することができる。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂(融点160℃)である場合、シートの表面温度を、例えば145℃以上、好ましくは150℃以上155℃以下とすることができる。シートの表面温度は、加熱ロールの設定温度によって調整することができる。
【0057】
また、シートの厚み方向の温度差は、加熱ロールの温度だけでなく、シートの搬送速度によっても調整することができる。例えば、シートの搬送速度を速くすると、シートの内部はより加熱されにくくなり、シートの内部をより低い温度に維持しつつ、表面近傍のみを加熱することができる。
【0058】
4)の工程(縦延伸する工程)
次いで、予熱されたシートを長手方向に延伸する。
【0059】
延伸時のシート表面温度も、予熱時のシート表面温度と同様とすることができる。
【0060】
そして、予熱されたシートを、シート内部の温度は低く保ちつつ、シート表面のみが加熱された状態で縦延伸する。このとき、シートの表面近傍は温度が高いため、熱可塑性樹脂が溶融しており、熱可塑性樹脂と無機物質粉末との間に空隙が形成されにくい。一方、シートの内部は、温度が低いため、熱可塑性樹脂が溶融しきれておらず、延伸によって当該樹脂と無機物質粉末との間に空隙が形成されやすい。それにより、シートの表面近傍は空隙が少なく、内部は空隙が多いシートが得られる。
【0061】
長手方向の延伸倍率は、求められる特性や無機物質粉末の含有量に応じて適宜設定されればよく、特に限定されない。本実施の形態では、縦延伸と横延伸の合計の延伸倍率が8倍以上となるように調整することが好ましく、12倍以上20倍以下となるように調整することがより好ましい。ここで、合計の延伸倍率とは、縦延伸の延伸倍率と横方向の延伸倍率の積を意味する。
【0062】
このうち、長手方向の延伸倍率は、2.5倍以上5倍以下であることが好ましく、3倍以上4.5倍以下であることがより好ましい。長手方向の延伸倍率が2.5倍以上であると、空隙がより大きく成長しやすく、得られるシートの隠蔽性がより高くなる。長手方向の延伸倍率が5倍以下であると、シート全体の機械的強度がより損なわれにくい。
【0063】
縦延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけて延伸する方法(ロール法)で行うことができる。
【0064】
5)の工程(加熱炉で予熱する工程)
次いで、縦延伸されたシートをさらに加熱炉で予熱する。
【0065】
具体的には、シートの表面温度が(Tm-5)℃超(Tm+10)℃以下となるように加熱することが好ましく、Tm℃以上(Tm+7)℃以下となるように加熱してもよい。シートの表面温度が(Tm-5)℃超であると、シートの表面近傍を冷めにくくし、空隙をより形成されにくくすることができる。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂(融点160℃)である場合、シート表面温度を、例えば155℃超、160℃以上、又は165℃以上170℃以下とすることができる。
【0066】
6)の工程(横延伸する工程)
そして、予熱されたシートを、長手方向と直交する方向に延伸する。
【0067】
延伸時のシート表面温度は、上記5)の工程のシート表面温度と同様とすることができる。
【0068】
長手方向と直交する方向の延伸倍率は、縦延伸と横延伸の合計の延伸倍率が上記範囲となるように調整されればよい。本実施の形態では、長手方向と直交する方向の延伸倍率は、3.5倍以上7倍以下であることが好ましく、4倍以上6倍以下であることがより好ましい。長手方向と直交する方向の延伸倍率が3.5倍以上であると、空隙がより成長して大きくなりやすく、得られるシートの隠蔽性がより高くなりやすい。長手方向と直交する方向の延伸倍率が7倍以下であると、シート全体の機械的強度がより損なわれにくい。
【0069】
横延伸は、シートの幅方向両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔をシートの幅方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。
【0070】
この段階でも、シートの表面近傍では、樹脂が溶融しているため、延伸によって空隙は生じにくい。一方、シートの内部は温度が低いため、樹脂は溶融しておらず、縦延伸で形成された空隙がきっかけとなり、さらに空隙が成長する。その結果、
図1A及び1B、後述する
図2Aに示すように、表層部には空隙が極めて少ないか、ほとんど存在せず、内層部にのみ空隙が存在する熱可塑性シートを、単層押出しによって得ることができる。
【0071】
なお、上記実施の形態では、熱可塑性シートの製造方法において、上記4)の工程(加熱炉で延伸する工程)、上記5)の工程(横延伸する工程)を行っているが、求められるシートの特性に応じてこれらの工程を省略することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
1.材料の準備
1-1.熱可塑性樹脂
・ポリプロピレン単独重合体PP1(プライムポリマー社製E111G、融点Tm:160℃)
【0074】
<PP1の融点>
PP1の融点は、後述するDSC測定における第1吸熱ピークの温度として測定される値である。
【0075】
1-2.無機物質粉末
・重質炭酸カルシウム粉末GCC1(イメリスミネラル社製YBB1C、平均粒子径2.3μm)
【0076】
<無機物質粉末の平均粒子径>
島津製作所社製の比表面積測定装置「SS-100型」を用いて、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算により求めた。
【0077】
1-3.他の成分
・酸化防止剤
・帯電防止剤
・滑剤
【0078】
2.熱可塑性シートの作製
<実施例1>
(ペレットの作製)
株式会社神戸製鋼製75リッター3Dバンバリーミキサーで、PP1/GCC1/他の成分(合計)=40/60/1の質量比で15分間混錬した。排出樹脂温度は180℃であった。その後、180℃に維持された有限会社勝製作所製150mm L/D=10 ストレーナー中を通し、190℃でダイからストランドを押出し、水冷後カットして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0079】
(熱可塑性シートの作製)
上記作製したペレット状の樹脂組成物を、東洋精機製作所製ラボプラ一軸Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)で溶融混練し、220℃で押出した。次いで、Tダイから押し出した溶融状態の樹脂組成物を、表面温度が80~95℃に設定した金属ロールに接触させて冷却し、シート状に成形した(1)シートを得る工程)。
得られたシートを、80℃以下に設定したキャストロールで所定時間搬送することで、シート表面温度が60℃になるまで冷却した(2)シートを冷却する工程)。
次いで、冷却したシートを加熱ロールで搬送しながら、シート表面温度が150℃になるまで予熱し(3)加熱ロールで予熱する工程)、縦延伸部で、延伸ロール温度を155℃に設定し、MD方向に3.5倍に延伸した(4)縦延伸する工程)。
そして、縦延伸したシートを、157℃に設定したオーブン内で予熱し(5)加熱炉で予熱する工程)、横延伸部で、オーブン内でシートをTD方向に5倍延伸した(6)横延伸する工程)。それにより、厚み80μmの熱可塑性シートを得た。
【0080】
<比較例1>
実施例1の熱可塑性シートの作製において、2)シートを冷却する工程を行わず、且つ3)加熱ロールで予熱する工程においてシート表面温度が145℃となるように加熱した以外は実施例1と同様にして熱可塑性シートを得た。
【0081】
<評価>
得られた熱可塑性シートのSEMによる断面観察、DSC測定及び空隙率の測定を行った。また、隠蔽性及びテープ剥離強度を、以下の方法で測定した。
【0082】
(1)SEMによる断面観察
得られた熱可塑性シートを切断し、切断面をSEM(日立ハイテク社製TM4000Plus)により観察した。SEM観察は、倍率1000倍、加速電圧15kVにより行った。
【0083】
(2)DSC測定
熱可塑性シートから約5mgを切り出して、測定用のアルミパンに封入する。これを示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツールメント社製DSC25)にセットし、窒素雰囲気下で200℃まで10℃/分で昇温し、5分間保持した後、10℃/分の速度で30℃まで冷却した。上記の10℃/分で200℃まで昇温したときの第1昇温過程の吸熱ピークを観測した。
【0084】
(3)空隙率の算出
各領域の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測されたシート断面画像から算出した。
まず、ミクロトームでシートを厚み方向に切断した。
切断したシートの断面の15keV反射電子像を観測した。
得られた反射電子画像の輝度を0~255に規格化し、輝度80未満の部分を空隙として評価した。
一方の表面を0%、他方の表面を100%とした場合であって、0%以上20%未満の領域を第1領域a1、20%以上40%未満の領域を第2領域a2、40%以上60%未満の領域を第3領域a3、60%以上80%未満の領域を第4領域a4、80%以上100%以下の領域を第5領域a5としたとき、各領域の画像を抽出した。
抽出した各領域の画像ごとに、輝度80未満の面積/抽出した画像の面積から空隙率を算出した。
【0085】
(4)不透明度(隠蔽性)
熱可塑性シートの不透明度は、JIS P8149により測定した。そして、以下の基準に基づいて評価した。
○:不透明度が90%以上
△:不透明度が85%以上90%未満
×:不透明度が85%未満
【0086】
(5)テープ剥離強度
熱可塑性シートを、縦10cm×横10cmの大きさに切り出して試験片とした。該試験片を基板の上に粘着力の強い両面粘着テープで貼り付けて固定した。基板の上に固定した試験片の表面に、スリーエム社製の「Scotchテープ#600」(保護テープ)を2kgのローラーの荷重により貼り合わせた後、その直後に保護テープを勢いよく剥がして表層の状態を観察するテープ剥離試験を行った。この試験を15回繰り返し行い、以下の基準に基づいてテープ剥離強度を評価した。
○:テープ剥離試験を15回繰り返し行っても表層破壊が生じず、表層の剥がれも全く認められない
△:テープ剥離試験を10回繰り返し行っても表層破壊や表層の剥がれは全く認められないものの、11回目、12回目、13回目または14回目において表層破壊や表層の剥がれが認められた
×:テープ剥離試験を10回繰り返し行うまでの間に、表層破壊又は表層の剥がれが認められた
【0087】
実施例1及び比較例1の熱可塑性シートの評価結果を、表1に示す。また、実施例1の熱可塑性シートの長手方向と直交する方向の断面のSEM画像を
図2A、比較例1の熱可塑性シートの長手方向と直交する方向の断面のSEM画像を
図2Bに示す。また、実施例1の熱可塑性シートをDSC測定して得られたグラフを
図3に示す。
【0088】
【0089】
図2B及び表1に示すように、比較例1の熱可塑性シートは、空隙の厚み方向の分布が一様であり、空隙率も厚み方向に一様であった。また、当該熱可塑性シートは、良好な不透明度を有するものの、テープ剥離強度が劣ることがわかる。
【0090】
これに対し、
図2A及び表1に示すように、実施例1の熱可塑性シートは、内層部(第3領域)の空隙率が高く、表層部(第1、第5領域)の空隙率が低い様子がわかる。また、当該シートは、良好な不透明度を有しつつ、高いテープ剥離強度を示すことがわかる。
【0091】
また、表1に示すように、比較例1のシートでは、170℃近傍の吸熱ピーク(高温側の第2吸熱ピーク)のみが確認されたのに対し;実施例1のシートでは、170℃近傍の吸熱ピーク(高温側の第2吸熱ピーク)に加えて、160℃近傍の吸熱ピーク(低温側の第1吸熱ピーク)も確認された(
図3参照)。
【0092】
通常、熱可塑性樹脂を加熱すると、ラメラ結晶が成長してサイズが大きくなる一方、樹脂が完全に溶融すると、当該ラメラ結晶は消失する。つまり、比較例1のシートは、樹脂全体が溶融しきらない条件で製造されたことから、サイズの大きなラメラ結晶が多く残っており、当該結晶に由来する吸熱ピークのみが確認されたことがわかる。これに対し、実施例1のシートでは、内部の樹脂は溶融していないが、表面近傍の樹脂は溶融するような条件で製造されたことから、2つの吸熱ピークが確認されたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、簡易な方法で、十分な隠蔽性を有し、且つシート表層部の機械的強度の低下を抑制できる熱可塑性シート及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
10 熱可塑性シート
11 空隙
12 内層部
13A、13B 表層部
【要約】
【課題】簡易な方法で、十分な隠蔽性を有し、且つシート表層部の機械的強度の低下を抑制できる熱可塑性シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性シートは、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する樹脂組成物をシート状に成形した熱可塑性シートである。熱可塑性シートは、空隙を有する内層部と、前記内層部を挟んで配置され、前記内層部の空隙率よりも低い空隙率を有する2つの表層部とを含む。
【選択図】
図1