(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】情報表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240930BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20240930BHJP
G02B 17/00 20060101ALI20240930BHJP
G02B 17/08 20060101ALI20240930BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240930BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B13/18
G02B17/00
G02B17/08
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2023182402
(22)【出願日】2023-10-24
(62)【分割の表示】P 2022148732の分割
【原出願日】2016-08-30
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153443
【氏名又は名称】株式会社 日立産業制御ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】谷津 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寿紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 一臣
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-341226(JP,A)
【文献】特開平11-064779(JP,A)
【文献】特開平10-039141(JP,A)
【文献】特開2016-132383(JP,A)
【文献】特開2016-090769(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125283(WO,A1)
【文献】特開昭61-184132(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0050791(KR,A)
【文献】特開2012-093506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0100524(US,A1)
【文献】国際公開第2015/186488(WO,A1)
【文献】特開2008-198481(JP,A)
【文献】特開2016-136222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物のフロントガラスに虚像の映像情報を表示する情報表示装置であって、
前記映像情報の映像を生成する映像生成部と、
前記映像生成部からの光束を入射し、前記映像生成部が生成した映像を拡大した虚像を表示するための光学系と、を備え、
前記光学系は、凹面ミラーと光学素子を含んでおり、
前記光学素子は、前記映像生成部と前記凹面ミラーとの間に配置され、前記凹面ミラーの形状と前記光学素子の形状により運転者の視点位置に対応して得られる虚像の収差を補正するように構成されており、
前記光学系は、負の屈折力を持つ光学素子を備えており、前記負の屈折力を持つ光学素子は、前記映像生成部からの映像光が
集光して、前記光学素子に入射され、前記凹面ミラーに向け出射するように構成されて
おり、
前記光学系と前記フロントガラスの間に、外光の赤外線を吸収または反射する光学部材を備える、
情報表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報表示装置において、
前記凹面ミラーの形状は、前記フロントガラスの垂直方向と水平方向の曲率半径の違いを補正するように水平方向と垂直方向で異なる平均曲率半径を有する形状である、
情報表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の情報表示装置において、
前記映像生成部は、虚像上端部の像倍率と、虚像下端部の像倍率とを一致させるように、前記凹面ミラーの光軸に対して傾いて設けられている、
情報表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の情報表示装置において、
前記映像生成部は、前記
映像生成部の光出射面の曲率半径と一致した曲率半径を有する光源を備える、
情報表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記映像生成部はスクリーン板を含み、前記スクリーン板に映像を表示し、前記スクリーン板からの映像光を前記フロントガラスで反射させ、反射された光を前記乗り物の運転者の眼に入射させる、
情報表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の情報表示装置であって、
前記スクリーン板には、マイクロレンズを2次元状に配置したマイクロレンズアレイが含まれる、
情報表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電車や航空機等(以下では、一般的に「乗り物」とも言う)のフロントガラスまたはコンバイナに画像を投影する情報表示装置に関し、その画像をフロントガラス越しに虚像として観察するようにした投影光学系およびそれを用いた情報表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラスやコンバイナに映像光を投写して虚像を形成しルート情報や渋滞情報などの交通情報や燃料残量や冷却水温度等の自動車情報を表示するいわゆる、ヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up-Display)装置が以下の特許文献1により既に知られている。
【0003】
この種の情報表示装置においては、ドライバが虚像を観視できる領域を拡大することが望まれる一方、虚像が高解像度で視認性が高いことも重要な性能要因である。
【0004】
ヘッドアップディスプレイ装置はドライバに虚像を提供する最終反射面としてフロントガラスまたはコンバイナが必ず必要であり、発明者らは視認性が高く良好な解像性能を得るためには、最終反射面であるフロントガラスまたはコンバイナで発生する二重反射により生じる虚像の二重像の改善が重要であることに気付いた。
【0005】
一方、例えば、以下の非特許文献1にも開示されるような自動車の天井(サンバイザー)付近にコンバイナを含めた本体を取り付ける装置も既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】PIONEER R&D(Vol.22,2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術によるヘッドアップディスプレイ装置を実現する凹面ミラーによる虚像生成の原理は、
図33に示すように、凹面ミラー1’の光軸上の点Oに対して焦点F(焦点距離f)の内側に物点ABを配置することで、凹面ミラー1’による虚像を得ることができると言うものである。この
図33では、説明の都合上、凹面ミラー1’を同じ正の屈折力を持つ凸レンズとみなし、物点と凸レンズ(説明の都合上、
図33では、凹面ミラーで表記)と発生する虚像の関係を示した。
【0009】
従来技術では、凹面ミラー1’で生成する虚像が見える範囲を広げるためには、物点ABを焦点Fに近づけて物寸法ABに対して凹面ミラーを大きくすると良いが、所望の倍率を得るためには、凹面ミラーの曲率半径が小さくなるためこれらを両立することは困難となる。この結果、ミラーサイズが小さくなり、実効的に拡大率は大きいが、観視可能な範囲が小さい虚像しか得られないという結果となる。このため、(1)所望の虚像サイズと、(2)必要な虚像の倍率M=b/aを同時に満足するためには、凹面ミラーの寸法は観視範囲に合わせ、映像表示装置との兼ね合いで虚像の倍率を決める必要がある。
【0010】
このため、従来技術では、所望の観視範囲において大きな虚像を得るためには、例えば
図33に示すように、凹面ミラー1’から虚像までの距離を大きく、すなわち、最終反射面であるフロントガラスまたはコンバイナ(図示せず)と凹面ミラーの距離を大きくし、同時に、凹面ミラーのサイズを大きくする必要があった。しかしながら、フロントガラスまたはコンバイナで発生する二重反射により生じる虚像の二重像については配慮されていなかった。
【0011】
また、例えば、従来技術である上記の特許文献1に開示されたヘッドアップディスプレイ装置の例では、画像を表示するデバイスと表示デバイスに表示された画像を投写する投写光学系を備え、投写光学系として表示デバイスから観視者の光路において第一ミラーと第二ミラーを有し、第一ミラーにおける画像長軸方向の入射角と第一ミラーにおける画像短軸方向の入射角、および、表示デバイスの画像表示面と第一ミラーとの間隔と、観視者によって視認される虚像の水平方向の幅の関係を所定の条件を満足させることで、小型化を実現している。しかしながら、上述したフロントガラスの両面(ドライバ側と外側の二面)の反射により発生する二重像の軽減手段については記載すらなかった。
【0012】
他方、非特許文献1に開示されるような自動車の天井(サンバイザー)付近に本体を取り付ける装置では、ドライバに面していない反射面に反射防止膜を成膜することで二重像の発生を低減している。しかしながら、衝突事故を起こした時にHUD装置が外れた場合、運転者に怪我を負わせる可能性があるなど、なお安全上の課題が残る。
【0013】
このため、今後は上記の特許文献1に記載されたフロントガラスを反射面とする方式が主流となると考えられることから、フロントガラスの両面で反射する虚像を生成する映像光の反射を投写光学系の工夫で低減する技術手段を考案した。
【0014】
本発明は、以下にも詳述するフロントガラスを反射面とした場合に生じる虚像の二重像化を光学系の工夫で軽減する技術手段を含めて提案するものであり、併せて、運転者が視認する虚像の歪みと収差を実用上問題のないレベルまで軽減した視認性の高い虚像を形成することを可能とする情報表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するためになされた本発明は、その一例として、乗り物のフロントガラスに虚像の映像情報を表示する情報表示装置は、映像情報の映像を生成する映像生成部と、映像生成部からの光束を入射し、映像生成部が生成した映像を拡大した虚像を表示するための光学系と、を備え、光学系は、凹面ミラーと光学素子を含んでおり、光学素子は、映像生成部と凹面ミラーとの間に配置され、凹面ミラーの形状と光学素子の形状により運転者の視点位置に対応して得られる虚像の収差を補正するように構成されており、光学系は、負の屈折力を持つ光学素子を備えており、負の屈折力を持つ光学素子は、映像生成部からの映像光が、光学素子に入射され、凹面ミラーに向け出射するように構成されている。
【0016】
このように、本発明によれば、上述した虚像に発生する二重像を低減させると共に視認性を向上した映像が得られるように、映像表示装置からの映像光の光学系に入射する光の発散角を制御した情報表示装置が実現される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、装置の小型化を実現しながら、運転者が観察する虚像の歪や収差を補正し、虚像に発生する二重像を低減させるために虚像光学系に入射する光源光束の発散角を制御することで、視認性を向上した虚像を形成する情報表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例に係る情報表示装置の周辺機器構成を示す概略構成図である。
【
図2】情報表示装置を搭載した自動車の上面図である。
【
図3】フロントガラスの曲率半径の違いを説明する図である。
【
図4】情報表示装置とフロントガラスと運転者の視点位置を示す概略構成図である。
【
図5】情報表示装置の虚像光学系の一実施例を示す概略構成図である。
【
図6】実施例に係る情報表示装置の虚像光学系全体の光線図である。
【
図7】実施例に係る情報表示装置の虚像光学系の一部における光線図である。
【
図8】虚像方式光学系の原理を説明する概略説明図である。
【
図10】本発明の原理を説明する概略説明図である。
【
図11】実施例に係るアイボックス内の解像性能評価点を示す図である。
【
図12】実施例に係る解像性能評価の結果を示す緑色光線による逆追跡結果(虚像から光線を飛ばし映像源での結像状態を評価)を示すスポット図である。
【
図13】実施例に係るアイボックス中央から見た歪性能を示す図である。
【
図16】映像表示装置と光源装置の配置を示す構成図である。
【
図18】映像表示装置と光源装置からの光束の出射状況を説明する概略図である。
【
図19】光源装置からの光束の出射光分布を説明する特性図である。
【
図20】光源装置の導光体の形状を示す概略構成図である。
【
図21】光源装置の導光体の断面形状を示す概略構成図である。
【
図22】液晶パネルの特性評価の方法を示す概念図である。
【
図23】液晶パネルの画面左右方向の透過率特性を示す特性図である。
【
図24】液晶パネルに白表示した場合の画面左右方向の輝度の角度特性を示す特性図である。
【
図25】液晶パネルのバックライト輝度の左右方向の角度特性を示す特性図である。
【
図26】液晶パネルのバックライト輝度の上下方向の角度特性を示す特性図である。
【
図27】液晶パネルのコントラストの左右方向の角度特性を示す特性図である。
【
図28】液晶パネルの上下方向の透過率特性を示す特性図である。
【
図29】液晶パネルの輝度の上下方向の角度特性を示す特性図である。
【
図30】液晶パネルの黒表示輝度の左右方向の角度特性を示す特性図である。
【
図31】液晶パネルのコントラストの上下方向の角度特性を示す特性図である。
【
図32】液晶パネルの黒表示輝度の上下方向の角度特性を示す特性図である。
【
図33】従来技術による虚像光学系の原理を説明するための概略図である。
【
図34】S偏光とP偏光による入射角度によるガラスの反射率変化を説明するための概略図である。
【
図35】虚像光学系のペッツバール和を低減する具体的な方法を説明するための概略構成図である。
【
図36】虚像光学系のペッツバール和を低減する具体的な方法を説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を用いて、本発明の実施例について詳細に説明する。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
<情報表示装置の実施形態>
図1は、本発明の一実施例に係る情報表示装置の周辺機器構成を示す概略構成図であり、ここでは、その一例として、特に、自動車のフロントガラスに画像を投影する情報表示装置100について説明する。
【0021】
この情報表示装置100は、運転者の視線8において自車両の前方に虚像V1を形成するため、被投影部材6(本実施例では、フロントガラスの内面)にて反射された各種情報を虚像VI(Virtual Image)として表示する装置(いわゆる、HUD(Headup Display)である。なお、被投影部材6は、情報が投影される部材であれば良く、前述したフロントガラスだけではなく、その他、コンバイナであっても良い。すなわち、本実施例の情報表示装置100では、運転者の視線8において自車両の前方に虚像を形成して運転者に視認させるものであれば良く、虚像として表示する情報としては、例えば、車両情報や監視カメラやアラウンドビュアーなどのカメラ(図示せず)で撮影した前景情報をも含むことは当然であろう。
【0022】
また、情報表示装置100では、情報を表示する映像光を投射する映像表示装置4と、当該映像表示装置4に表示された映像を凹面ミラー1で虚像を形成する際に発生する歪や収差を補正するために補正用のレンズ群2が、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に設けられている。
【0023】
そして、情報表示装置100は、上記映像表示装置4とバックライト5を制御する制御装置40とを備えている。なお、上記映像表示装置4とバックライト5などを含む光学部品は、以下に述べる虚像光学系であり、光を反射させる凹面ミラー1を含んでいる。また、この光学部品において反射した光は、被投影部材6にて反射されて運転者の視線8(EyeBox:後に詳述する)へと向かう。
【0024】
上記の映像表示装置4としては、例えば、バックライトを有するLCD(Liquid Crystal Display)の他に自発光のVFD(Vacuum Flourescent Display)などがある。
【0025】
一方、上述した映像表示装置4の代わりに、投写装置によりスクリーンに映像を表示して、前述の凹面ミラー1で虚像とし被投影部材であるフロントガラス6で反射して運転者の視点8と向かわせても良い。
【0026】
このようなスクリーンとしては、例えば、マイクロレンズを2次元状に配置したマイクロレンズアレイにより構成しても良い。
【0027】
ここで、虚像の歪みを低減するために凹面ミラー1の形状は、
図1に示す上部(相対的に運転者の視点との距離が短いフロントガラス6の下方で光線が反射する領域)では、拡大率が大きくなるように相対的に曲率半径が小さく、他方、下部(相対的に運転者の視点との距離が長いフロントガラス6の上方で光線が反射する領域)では、拡大率が小さくなるように相対的に曲率半径が大きくなる形状とすると良い。また、映像表示装置4を凹面ミラーの光軸に対して傾斜させることで上述した虚像倍率の違いを補正して発生する歪みそのものを低減することによっても、更に良好な補正が実現できる。
【0028】
一方、乗用車のフロントガラス6は、
図2、
図3にも示すように、本体垂直方向の曲率半径Rvと水平方向の曲率半径Rhが異なり、一般には、Rh>Rvの関係にある。このため、反射面としてフロントガラス6を捉えると、凹面ミラーのトロイダル面となる。このため、本実施例の情報表示装置100では、凹面ミラー1の形状はフロントガラス6の形状による虚像倍率を補正するように、すなわち、フロントガラス6の垂直方向と水平方向の曲率半径の違いを補正するように水平方向と垂直方向で異なる平均曲率半径とすれば良い。この時、凹面ミラー1の形状は、光軸に対称な球面または非球面形状(後述する数2の式で表される形状)では、光軸からの距離rの関数であり、離れた場所の水平断面と垂直断面形状を個別に制御できないことから、後述する数1の式で表される自由曲面としてミラー面の光軸からの面の座標(x,y)の関数として補正することが好ましい。
【0029】
再び、
図1に戻り、更に、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に透過型の光学部品として、例えばレンズ素子2を配置し、もって、凹面ミラー1への光線の出射方向を制御することで凹面ミラー1の形状と合わせて歪曲収差の補正を行うと同時に、前述したフロントガラス6の水平方向の曲率半径と垂直方向の曲率半径の違いによって生じる非点収差を含めた虚像の収差補正を実現する。
【0030】
また、収差補正能力を更に高めるために、上述した光学素子2を複数枚のレンズとしても良い。または、レンズ素子の代わりに曲面ミラーを配置して光路の折り返しと同時に凹面ミラー1への光線の入射位置を制御することで、歪曲収差を低減することもできる。以上にも述べたように、更に、収差補正能力を向上させるために最適設計された光学素子を凹面ミラー1と映像表示装置4の間に設けても、本発明の技術的思想または範囲を逸脱するものではないことは言うまでもない。更に、上述した光学素子2の光軸方向の厚さを変化させることで、本来の収差補正の他に凹面ミラー1と映像表示装置4の光学的な距離を変えて、虚像の表示位置を遠方から近接位置まで、連続的に変化させることもできる。
【0031】
また、映像表示装置4を凹面ミラー1の光軸法線に対して傾けて配置することで虚像の上下方向の倍率の違いを補正しても良い。
【0032】
一方、情報表示装置100の画質を低下させる要因として、映像表示装置4から凹面ミラー1に向かって出射する映像光線が途中に配置された光学素子2の表面で反射して映像表示装置4に戻り、再度反射して本来の映像光に重畳されて、画質を低下させることが知られている。このため、本実施例では、光学素子2の表面に反射防止膜を成膜して反射を抑えるだけでなく、更に、光学素子2の映像光入射面と出射面のいずれか一方、若しくは、両方のレンズ面形状を上述した反射光が映像表示装置4の一部分に集光しないような形状(例えば、映像表示装置4に凹面を向けた形状)となるよう、その面形状に制約を持たせて設計することが好ましい。
【0033】
次に、映像表示装置4として、上述した光学素子2からの反射光を吸収させるために液晶パネルに近接して配置された第一の偏光板に加えて、第二の偏光板を液晶パネルと分離して配置すれば、画質の低下を軽減できる。また、液晶パネルのバックライト5は、液晶パネル4に入射する光の入射方向を凹面ミラー1の入射瞳に効率よく入射するように制御される。この時、液晶パネルに入射する光束の発散角を小さくすれば、効率よく運転者のアイポイントに映像光を向けることができるばかりでなく、更に、
図27および
図31に示すようにコントラストの高い視認性の良い映像を得ることが可能となる。映像の発散角に対するコントラスト性能は水平方向の方が顕著で±20度以内であれば優れた特性が得られる。更にコントラスト性能を向上させるためには、±10度以内の光束を利用すると良い。
【0034】
一方、光源としては、製品寿命が長い固体光源を採用することが好ましく、更には、周囲温度の変動に対する光出力変化が少ないLED(Light Emitting Diode)として光の発散角を低減する光学手段を設けたPBS(Polarizing Beam Splitter)を用いて偏光変換を行うことが好ましい。
【0035】
液晶パネルのバックライト5側(光入射面)と光学素子2側(光出射面)には、偏光板が配置されており、これにより、映像光のコントラスト比を高めている。バックライト5側(光入射面)に設ける偏光板には、偏光度が高いヨウ素系のものを採用すれば、高いコントラスト比が得られる。一方、光学素子2側(光出射面)には染料系の偏光板を用いることによれば、外光が入射した場合や環境温度が高い場合でも、高い信頼性を得ることが可能となる。
【0036】
映像表示装置4として液晶パネルを用いる場合、特に、運転者が偏光サングラスを着用している場合には、特定の偏波が遮蔽されて映像が見えない不具合が発生する。これを防ぐために、液晶パネルの光学素子2側に配置した偏光板の光学素子側にλ/4板を配置し、もって、特定の偏光方向に揃った映像光を円偏光に変換することが好ましい。
【0037】
制御装置40は、このようなナビゲーションシステム61から、自車両が走行している現在位置に対応する道路の制限速度や車線数、ナビゲーションシステム61に設定された自車両の移動予定経路などの各種の情報を、前景情報(すなわち、上記虚像により自車両の前方に表示する情報)として取得する。
【0038】
運転支援ECU62は、周辺監視装置63での監視の結果として検出された障害物に従って駆動系や制御系を制御することで、運転支援制御を実現する制御装置であり、運転支援制御としては、例えば、クルーズコントロール、アダプティブクルーズコントロール、プリクラッシュセーフティ、レーンキーピングアシストなどの周知技術を含む。
【0039】
周辺監視装置63は、自車両の周辺の状況を監視する装置であり、一例としては、自車両の周辺を撮影した画像に基づいて自車両の周辺に存在する物体を検出するカメラや、探査波を送受信した結果に基づいて自車両の周辺に存在する物体を検出する探査装置などである。
【0040】
制御装置40は、このような運転支援ECU62からの情報(例えば、先行車両までの距離および先行車両の方位、障害物や標識が存在する位置など)を前景情報として取得する。更に、制御装置40には、イグニッション(IG)信号、および、自車状態情報が入力される。これらの情報の内、自車状態情報とは、車両情報として取得される情報であり、例えば、内燃機関の燃料の残量や冷却水の温度など、予め規定された異常状態となったことを表す警告情報を含んでいる。また、方向指示器の操作結果や自車両の走行速度、更には、シフトポジション情報なども含まれている。以上述べた制御装置40は、イグニッション信号が入力されると起動する。以上が、本願実施例の情報表示装置全体システムの説明である。
【0041】
<虚像光学系の第一の実施形態>
次に、本実施例に係る虚像光学系、および、映像表示装置の更なる詳細について、以下に説明する。
【0042】
図2は、既述のように、本実施例における情報表示装置100を搭載した自動車の上面図であり、自動車本体101の運転席前部には、被投影部材6としてのフロントガラスが存在する。なお、このフロントガラスは、自動車のタイプによって、車体に対する傾斜角度が異なる。更に、発明者らは、最適な虚像光学系を実現するため、この曲率半径についても調査した。その結果、フロントガラスは、
図3に示すように、自動車の接地面に対して平行な水平方向の曲率半径Rhと、水平軸に対して直交する垂直方向の曲率半径Rvとで異なり、RhとRvの間には、一般的に、下記の関係があることが判った。
Rh>Rv
【0043】
また、この曲率半径の違い、すなわち、Rvに対するRhは、1.5倍から2.5倍の範囲にあるものが多いことも判明した。
【0044】
次に、発明者らは、フロントガラスの傾斜角度についても市販品を調査した。その結果、車体タイプによっても異なるが、軽自動車や1Boxタイプでは20度~30度、セダンタイプでは30度~40度、スポーツタイプでは40度以上であった。そこで、本実施例では、フロントガラスの自動車の接地面に対して平行な水平方向の曲率半径Rhと水平軸に対して直交する垂直方向の曲率半径Rvの違いとフロントガラスの傾斜角について考慮し、虚像光学系の設計を行った。
【0045】
より詳細には、被投影部材であるフロントガラスの水平曲率半径Rhと垂直曲率半径Rvとは、これらは大きく異なるため、光軸(Z軸)に対してフロントガラスの水平軸およびこの軸に垂直な軸に対して軸非対称な光学素子2を虚像光学系内に設けることにより、良好な収差補正を実現した。
【0046】
次に、発明者らは、情報表示装置100の小型化について検討を行った。検討の条件として、FOVの水平:7度,垂直2.6度とし、更に、虚像距離2mとして検討を行った。検討の当初、虚像を生成する凹面ミラー1(以下の
図5では、平面ミラーとして簡易的に表示する)と映像表示装置4およびバックライト5を基本構成として、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に光路折り返しミラーを1枚配置して、情報表示装置100の容積が最小になるように、それぞれの部材の配置と映像表示装置4から凹面ミラー1までの距離をパラメータとしてシミュレーションを行った。
【0047】
その結果、映像表示装置4からの映像光がそれぞれの部品に干渉しないように配置した場合の容積は3.6リットルとなった。その後、更なる小型化を狙って光路折り返しミラーを除いた直接方式について検討を行った。
【0048】
図4を参照して本実施例の虚像光学系の構成について説明する。この
図4は、
図1に示した本実施例の虚像光学系において小型化の検討を行うための基本構成を示した全体構成図である。説明の簡略化のために、収差および歪曲収差補正用の光学素子は省略し、
図1に示したウインドガラス6と同様に、その垂直断面形状を示している。映像表示装置4としては、液晶パネルを想定し、バックライト5を配置した構成を基本構成として、映像表示装置4は、表示された映像を凹面ミラー1によって虚像が得られる位置に配置される。
【0049】
この時、
図5に示したように、映像表示装置4の画面中央の映像から発生した映像光R2、上端からの映像光R1、および、下端からの映像光R3は、それぞれ、凹面ミラー1で反射した際に映像表示装置4に干渉して光が遮られないように配置することが設計的な制約となる。
【0050】
発明者らは、上述した設計制約を考慮して、同時に、FOVの水平:7度,垂直2.6度とし、更に、虚像距離2mとして、凹面ミラー1と映像表示装置4(液晶パネルとバックライト5)との間隔Zをパラメータとして情報表示装置100の容積を求めた。距離Zが100mmの場合は、凹面ミラー1の垂直寸法を最も小さくできる。距離Zを75mmとした場合には水平面と凹面ミラー1の角度α2が大きくなり、凹面ミラー1の垂直寸法も大きくなる。距離Zを更に短縮して50mm以下にすると水平面と凹面ミラー1の角度α3が大きくなり、凹面ミラー1の垂直寸法も更に大きくなる。
【0051】
以上に述べたように、距離Zをパラメータとして、映像表示装置4のセット高さとセット奥行きの関係をシミュレーションすると、距離Zを小さくすればセット奥行きが低減できるが、一方で、セット高さが高くなる。同様に、距離Zとセット容積Lの関係は、映像表示装置4から凹面ミラーまでの空間容積(光路容積と表示)に比べ、セット容積(LCD駆動回路,光源駆動回路、バックライト部体積含む)の変化は距離Zが60mmを境界として変化した。
【0052】
以上のことから、情報表示装置100を小型化するためには、映像表示装置4に表示された映像を直接凹面ミラー1で拡大する距離Zが短い虚像光学系を実現する必要があり、映像表示装置4の映像表示部の画面垂直方向中心は凹面ミラー1の中心より下側に配置されることが必要であることが判った。
【0053】
一方、この配置では、映像表示装置4と凹面ミラー1の上端までの距離(光線R1に対応)が長く、映像表示装置4と凹面ミラー1の下端までの距離(光線R3に対応)は短くなる。そこで、映像表示装置4を映像表示装置4と凹面ミラー1の距離が可能な限り均一になるように配置するのが良い。
【0054】
本実施例の虚像光学系(
図6および
図7を参照)では、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に虚像の歪み補正と虚像で発生する収差を補正する光学素子による収差補正を行うが、これについては後に
図8を用いて説明する。すなわち、凹面ミラー1の光軸上の点Oに対して焦点F(焦点距離f)の内側に映像表示装置4(物点)を配置することで、凹面ミラー1による虚像を得ることができる。この
図8では、説明の都合上、凹面ミラー1を同じ正の屈折力を持つ凸レンズとみなし、物点と凸レンズ(説明の都合上、
図8では凹面ミラーで表記)と発生する虚像の関係を示した。
【0055】
本実施例では、凹面ミラー1で発生する歪みと収差を低減するために光学素子2を配置する。この光学素子は、透過型の光学レンズであっても凹面ミラーであっても良いが、映像表示装置4からの映像光が:
(1)テレセントリックな光束として反射面へ入射する場合は、レンズまたは凹面ミラー1の屈折力はほぼ零となる;
(2)映像表示装置4からの映像光が発散して光学素子に入射する場合には、光学素子は正の屈折力を持つ;
(3)映像表示装置4からの映像光が集光して光学素子に入射する場合には、光学素子は負の屈折力を持つ;
ようにして、凹面ミラーに入射する光束の方向(角度と位置)を制御し、発生する虚像の歪曲収差を補正する。更に、透過型の光学レンズの場合には、映像表示装置4側の入射面と凹面ミラー1側の出射面の相互作用により、虚像に発生する結像性能に関する収差を補正する。本実施例では一つの光学素子について述べたが、複数の透過型の光学素子であっても良く、あるいは、反射型の光学素子(ミラー)と透過型の光学素子の組合せとしても良い。
【0056】
この時、運転者が視認する虚像の大きさは、前述したように、フロントガラスの傾斜により生じる映像表示装置4と凹面ミラー1の距離aと凹面ミラー1と虚像までの距離bが虚像の上端と下端で異なる。そのため、フロントガラスまたはコンバイナを反射面として、虚像の二重像が発生する。そこで、本実施例では、かかる場合に生じる虚像の二重像化を光学系の工夫で軽減する技術を開発し、以下にその詳細について述べる。
【0057】
<虚像二重像化発生のメカニズム>
発明者らは、種々の検討の結果、下記に述べる知見に基づいて、以下に詳述する虚像の二重像化を軽減する技術を開発した。
【0058】
フロントガラスの上部で反射して運転者が視認する虚像は、
図9に示すように、フロントガラスの傾斜と前述の虚像を生成する光線がフロントガラスに斜めから入射するため、フロントガラスの厚さをtとすると、ドライバに近い反射面(以降、反射面1と記載)で反射する正規光の反射位置aと、ドライバから遠い反射面(以降、反射面2と記載)で反射する裏面反射光の反射位置bが垂直方向に距離Lだけ上方にずれてしまい、二つの虚像が形成される。
【0059】
この正規光による正規虚像と裏面反射光による第二の虚像は、空気からフロントガラスに入射光の反射率4%とフロントガラスと空気界面での反射率4%が等しいため、これら正規虚像と裏面反射光による虚像の明るさはほぼ等しい。このため、裏面反射光による虚像の明るさの低減が、虚像による映像の良好な解像性能を得るためには不可欠となる。
【0060】
一方、フロントガラス下部においても反射して運転者が視認する虚像は、
図9に示した上部での反射と同様、フロントガラスの傾斜と前述の虚像を生成する光線がフロントガラスに斜めから入射するが、他方の裏面反射光は正規反射光の上方にずれて二つの虚像が形成される。
【0061】
更に、画面左右方向においては、正規反射光に対して凹面ミラーの光軸がフロントガラスと交差する点から離れる方向に裏面反射光がずれて、二つの虚像が形成される。
【0062】
前述したようにフロントガラスの屈折率を1.5とすると、映像光線のフロントガラスへの入射角度と反射率の関係は
図34に示すように、垂直入射の場合反射率はS偏光とP偏光、共に、4%程度であるが入射角度が25度を超えるとS偏波の反射率が大きくなる。
【0063】
このため、映像表示装置としてLCDを用いる場合は映像出力光をどちら側の偏波を使用するかでフロントガラスの反射率が異なるため、ドライバが視認できる虚像の明るさが、反射面への入射角度で変化する可能性が生じる。
【0064】
更に、フロントガラスと凹面ミラーの距離を変えずにドライバが虚像を視認できる領域を拡大すると、映像光線がフロントガラスに入射する角度が大きくなり画面の上下左右に二重像が発生し虚像のフォーカス感を阻害する。
【0065】
このため、発明者らは、映像表示装置4を凹面ミラー1の光軸に対して
図8に示すように傾けることで、虚像上端部の像倍率M’=b’/a’と、虚像下端部の像倍率M=b/aとを略一致させ、このことによって発生する歪曲収差の低減をすると更に良いことを見つけ出した。
【0066】
更に、光学素子2の垂直方向の断面形状の平均曲率半径と水平方向の断面形状の平均曲率半径とを異なる値として、前述したフロントガラスの垂直方向曲率半径Rvと水平方向曲率半径Rhの違いにより発生する光路差によって発生する、歪曲収差と虚像の結像性能を低下させる収差を補正する。
【0067】
上記に述べたように、フロントガラス6に直接映像光を反射させて虚像を得る情報表示装置100においては、フロントガラス6の垂直方向曲率半径Rvと水平方向曲率半径Rhの違いにより生じる光路差によって発生する収差の補正が、虚像の結像性能確保において最も重要になる。
【0068】
このため、発明者らは、従来の光学設計に用いられてきた、光軸からの距離rの関数としてレンズ面やミラー面の形状を定義する非球面形状(下記の数2の式を参照)に対して、光軸からの絶対座標(x,y)の関数として面の形状を定義することが可能な自由曲面形状(以下の数1の式を参照)を用いることにより、上述したフロントガラスの曲率半径の違いによる虚像の結像性能低下を軽減した。
【0069】
【0070】
なお、光軸からの距離rの関数としてレンズ面やミラー面の形状を定義する非球面形状は、以下の数2の式ように表される。
【0071】
【0072】
自動車用のフロントガラスの屈折率は通常n=1.5であり、一面当たりの反射率は5%である。上述したように、情報表示装置は、フロントガラスで虚像を反射させて運転者のアイボックス内に映像を結ばせるものである。このため、
図9に示したように、映像光線はフロントガラスの車内側の反射面1で反射した正規反射光と、外気に接した反射面2で反射した裏面反射光とに分離され、運転者の目には二重像として認識される。この二重像はフロントガラスの垂直方向と水平方向により発生する方向が異なり、情報表示装置100がフロントガラスの下方に配置された場合には、裏面反射光により発生する二重像は、正規反射光による映像の上部に発生する。
【0073】
同様に、情報表示装置100がフロントガラスの上方に配置された場合においても、裏面反射光により発生する二重像は、正規反射光による映像の上部に発生する。
【0074】
一方、フロントガラスに水平な方向の二重像は、フロントガラス中心より周辺部で曲率半径が小さくなるため、その周辺部では外側(運転者から離れた方向)に発生する。これを軽減するために、
(1)フロントガラスの外気に接した面に反射防止膜を設けて裏面反射光を軽減する。
(2)更に、発明者らは虚像を発生させる投写光学系において、以下に説明する方策を適用することにより、見た目の二重像を軽減することを考え出した。
【0075】
次に、上述した二重像を軽減する実施例を
図10により詳細に説明する。なお、ここでは、説明を簡略化するために実像投写光学系を用いて説明する。
【0076】
図10は、実像投写光学系の物点P1と結像点P0の関係を示している。結像性能の評価は、虚像側(本来の結像点)から物点であるパネル面(本来の物点)に向かって入射瞳を均等分割して光線を飛ばし、パネル面での結像性能を評価する。
【0077】
運転者のアイボックス内を
図11に示すように分割し、均等間隔で光線追跡を行い、それぞれの評価ポイントに対応するパネル面での結像性能を評価した。本実施例に係る
図14および
図15に示したレンズデータに基づく結果は、
図12および
図13に示すように、画面中央と周辺部で発生する収差の大きさが異なるため、スポット形状が画面内の位置で異なり、入射瞳の中央(光軸と交差する点)を通過する主光線に対してスポットが同心円状にならずにボケ(収差)が発生する。
【0078】
そこで、レンズの設計において、主光線より外側に発生する収差を低減するために、瞳の上部周辺部分を通過する光線が主光線より内側に向かうように設計すると良い。具体的には、主光線が通過する光線位置より上部周辺部分を通過する光線が通過する光路における屈折力が、主光線が通過する光路における屈折力と比較して相対的に強くなる形状を有する光学素子を配置すると良い。
【0079】
このことを、
図10に示したように、像点から物点に向かって光線を飛ばす逆追跡の場合について説明する。この手法では、物点を虚像側に、像点をパネル面として、虚像光学系の入射瞳を均等分割して光線を飛ばし、パネル面での結像性能を評価する。虚像光学系においても、実線で示したメリディオナル光線と破線で示したサジタル光線では、虚像光学系の相対的な屈折力が異なる。
【0080】
このため、サジタル光線でフォーカス性能を最良とすると、メリディオナル光線はパネル面の手前で集光し、パネル面では収差が発生する(図中グレー(メッシュ部分)で表示)。このため、前述したフロントガラスで発生する二重像のうち、情報表示装置100がフロントガラスの下方に配置された場合には、裏面反射光により発生する二重像は、正規反射光による映像の上部に発生する。そのため、これを軽減するには、主光線より下に収差が発生するように、入射瞳の中心より上部を通過する光線が通過する虚像光学系の相対屈折力を、他方の入射瞳の中心および中心より下部を通過する光線が通過する虚像光学系の相対屈折力よりも、小さくすると良い。
【0081】
一方、フロントガラスに水平な方向の二重像はフロントガラス中心より周辺部で曲率半径が小さくなるため、周辺部では二重像は外側(運転者から離れた方向)に発生する。そのため、裏面反射光により発生する二重像は、正規反射光による映像の外側に発生するので、これを軽減するには、主光線より内側に収差が発生するように、入射瞳の中心より外側を通過する光線が通過する虚像光学系の相対屈折力を、他方の入射瞳の中心および中心より内側を通過する光線が通過する虚像光学系の相対屈折力より小さくすると良い。
【0082】
また、上述したレンズの設計に替えて、
図35にも示すように、実像投写光学系を構成する映像表示装置4であるパネル面4Aを、フロントガラスの湾曲面に適合して湾曲することによっても、上記と同様の効果を得ることが可能である。より具体的にはフロントガラスの垂直方向の曲率半径が水平方向の曲率半径より小さいためフロントガラスを凹面ミラーに置き換えると垂直方向の光学的なパワーが大きい。このため、パネルの垂直方向の曲率半径を水平方向に対して小さくして光学的なペッツバール和をシステム全体で小さくして像面湾曲を低減する。これはパネル面4Aを光源5Aに対して凸状に湾曲した構成とすることで実現できる。なお、フロントガラスは、上述したように、垂直方向と水平方向において異なる曲率半径を有していることから、当該パネル面4Aの湾曲も、フロントガラスの異なる曲率半径に対応して、適宜、設定することが好ましいであろう。
【0083】
上述した虚像光学系に光をより効率よく取り込むために
図36に示すようにパネル面4Bの曲率半径と光源5Bの曲率半径を一致させると良い。
【0084】
次に、上述した二重像を軽減すると共に、視認性の高い虚像を形成することを可能とするための本発明の実施例に係る構成について、
図16から
図32により詳細に説明する。
図16は、上述した実施例に係る虚像光学系の映像表示装置4としての液晶パネルとバックライト光源5の要部拡大図である。液晶パネルのフレキシブル基板10から入力された映像信号によりバックライトからの光を変調することで映像を液晶パネル表示面11に表示し、表示された映像を虚像光学系(実施例では、自由曲面凹面ミラーと自由曲面光学素子)で虚像を生成して、運転者に映像情報を伝える。
【0085】
上記の構成では、バックライト光源5の光源素子には、固体光源として比較的安価で信頼性の高いLED光源を用いる。LEDは、高出力化するために面発光タイプを使用するので、後述する技術的な工夫を用いて光利用効率を向上させる。LEDの入力電力に対する発光効率は、発光色によっても異なるが、20~30%程度であり、残りの殆どは熱に変換される。このため、LEDを取り付けるフレームとしては、熱伝導率の高い部材(例えば、アルミニュウム等の金属部材)からなる放熱用のフィン13を設けて熱を外部に放散させることにより、LEDの発光効率そのものを向上させる効果が得られる。
【0086】
特に、現在市場に出回っている赤色を発光色とするLEDは、ジャンクション温度が高くなると発光効率が大幅に低下し、同時に映像の色度も変化するので、LEDの温度低減の優先度を上げ、対応する放熱フィンの面積を大きくして冷却効率を高めた構成とすることが好ましい。LEDからの拡散光を効率よく液晶パネル4に導くため、
図17に示した例では、導光体18を用いるが、塵などの付着が無い様に、例えば、外装部材16によって全体を覆ったバックライト光源としてまとめることが好ましい。
【0087】
また、この
図17には、光源であるLEDと導光体および拡散板を含めた光源ユニットの要部拡大図が示されており、
図17からも明らかなように、ライトファネル21、22、23、24のLEDからの発散光線を取り込む開口部21a,22a,23a,24aを平面とし、LEDとの間に媒質を挿入して光学的に接続するか、若しくは、凸面形状として集光作用を持たすことで、発散する光源光を可能な限り平行光として、ライトファネルの界面に入射する光の入射角を小さくする。その結果、ライトファネルの通過後、更に、発散角を小さくできるので、導光体18で反射後に液晶パネルに向かう光源光の制御が容易になる。
【0088】
更に、LEDからの発散光の利用効率を向上させるために、ライトファネル21~24と導光体18の接合部分25においてPBS((Polarizing Beam Splitter)を用いて偏光変換を行い、所望の偏光方向に変換することで、LCDへの入射光の効率を向上させることができる。
【0089】
上述したように、光源光の偏光方向を揃えた場合には、導光体18の素材としては、複屈折が少ない材料を用い、もって偏波の方向が回転して液晶パネルを通過する際に、例えば黒表示時に色付きなどの問題が発生しないようにすると更に良い。
【0090】
以上に述べたように、発散角を低減したLEDからの光束は導光体により制御され、導光体18の斜面に設けた全反射面にて反射し、対向する面と液晶パネルの間に配置された拡散部材14により拡散された後、映像表示装置として液晶パネル4に入射する。本実施例では、前述したように、導光体18と液晶パネル4の間に拡散部材14を配置したが、導光体18の端面に拡散効果を持たせた、例えば、微細な凹凸形状を設けても同様な効果が得られる。
【0091】
次に、上述した導光体18の構成とそれにより得られる効果について、
図20を用いて説明する。
図20は本実施例の導光体18を示す外観図である。
図17に示したライトファネル21~24により発散角が低減された光束は、導光体18の光入射面18aに入射する。この時、入射面の形状(断面形状を
図21に示す)効果により垂直方向(
図21の上下方向)の発散角が制御され、導光体18内を効率よく伝播する。
【0092】
図21は、導光体の要部断面拡大図であり、ライトファネル21~24で発散角が低減された光源光は、接合部25を経由して、上述したように入射面18aから入射し、対向面に設けられたプリズム18によって全反射して対向面17に向かう。全反射プリズム18は、入射面18aの近傍(B部拡大図)と端部(A部拡大図)で、その形状がそれぞれの面に入射する光束の発散角に応じて、階段状に分割されて形成されており、これにより、全反射面の角度を制御している。一方、映像表示装置である液晶パネル4に入射する光束の当該液晶パネル4の出射面内での光量分布が均一となるように、前述した全反射面の分割寸法を変数として、分割された光束の反射後の到達位置とエネルギー量を制御する。
【0093】
本実施例の情報表示装置100において、上記のバックライトからの出射光が液晶パネルを通過した状態をシミュレーションした結果を、
図18に示す。
図18(a)は液晶パネルの長手方向から見た光の出射状態を示す図であり、
図18(b)は液晶パネルの短手方向から見た光の出射状態を示す図である。本実施例ではFOVの水平角度を設計以上に広げるため、水平方向の拡散角度を垂直方向に対して大きくして、運転者が首を振ったりして眼の位置が動いた場合においても、左右の眼によって視認される虚像の明るさが極端に変化しないように設計している。
【0094】
また、バックライトの垂直方向の発散角を小さくすることで液晶パネルに表示した映像の画面垂直方向の発散角を小さくして、二重像の発生を抑えている。本実施例のように、導光体18を用いて光の出射方向と強度を制御したバックライトを用いた場合における液晶パネル4の出射面の輝度分布を、
図19に示す。
図19からも明らかなように、画面垂直方向(短辺方向)の輝度分布に加え、画面垂直方向(長辺方向)の有効範囲以外での輝度低下の傾斜を小さくできる。
【0095】
本実施例の情報表示装置100において映像表示装置として使用した液晶パネルからの出射光(映像光)は、
図23および
図28に示すように、左右,上下方向の視角をパラメータとした場合(
図22を参照)、±50°の範囲で所定の透過率を示す。視角の範囲を±40°以内とすれば、より良好な透過率特性を得ることができる。この結果、
図24や
図29に示すように、表示画面の左右方向と上下方向において、画面を観視する方向(視角)により画面の輝度が大きく異なる。これは、
図25および
図26に示したバックライト輝度の角度特性による。
【0096】
このため、発明者らは、虚像光学系に取り込む液晶パネル4からの出射光をできる限り画面に垂直な光として得られるように、導光体18の全反射面の角度とライトファネル21~24によるLEDからの光源光の発散角の制御を行ってバックライトの視角特性を少ない範囲に絞り込むことで、高い輝度を得た。具体的には、
図24および
図29に示したように、高輝度な映像を得るためには、左右の視野角で±30°の範囲の光を使用し、
図27および
図31に示すコントラスト性能も考慮すると、±20°以下に絞ることで、同時に良好な画質の源画像を用いた虚像を得ることができた。
【0097】
以上にも述べたように、映像表示装置の画質を左右するコントラスト性能は、画質を決める基となる黒表示した場合の輝度(
図30および
図32では、黒表示輝度と表記)をどこまで下げられるかで決まる。このため、液晶パネル4とバックライトの間には、偏光度が高いヨウ素系の偏光板を用いることが好ましい。
【0098】
一方、光学素子2側(光出射面)に設ける偏光板としては、染料系偏光板を用いることで、外光が入射した場合や環境温度が高い場合においても高い信頼性を得ることができる。
【0099】
液晶パネル4でカラー表示を行う場合には、それぞれの画素に対応したカラーフィルターを設ける。このため、バックライトの光源色が白色の場合には、カラーフィルターでの光吸収が大きく、損失が大きくなる。そこで、発明者らは、上記の
図17に示したように、複数のLEDを使用して:
(1)白色LEDを複数使用する場合に比べ、明るさへの寄与が大きい緑LEDを追加する。
(2)白色LEDに赤色または青色LEDを追加して、画像の艶色性を高める。
(3)赤、青、緑のLED個別に配置し、明るさへの寄与が大きい緑色LEDを追加して個別にLEDを駆動することで、色再現範囲を拡大して艶色性を高めると同時に明るさも向上する。
(4)上記の(3)を実施することで赤、青、緑LEDのピーク輝度に対するそれぞれのカラーフィルターの透過率を上げて、全体としての明るさを向上する。
(5)更に、バックライトの第二の実施例として、ライトファネルと導光体の間にPBSを配置して特定の偏波に揃えることで、液晶パネル入射側の偏光板へのダメージを軽減する。なお、液晶パネル入射側の配置する偏光板の偏光方向は、PBS(Polarizing Beam Splitter)通過後に特定方向に揃えた偏波が通過する方向とすれば良いことは言うまでもない。
【0100】
以上にも述べたように、本発明の実施形態における映像表示装置4として、液晶表示パネル出射面にはλ/4板を設けて出射光を円偏光とすることも可能である。その結果、運転者は、偏光サングラスを装着していても、良好な虚像を監視することができる。
【0101】
更に、虚像光学系で使用する反射ミラーの反射膜を金属多層膜で成膜することによっても、反射率の角度依存性が少なく、偏光方向(P波またはS波)によって反射率が変わることがないため、画面の色度や明るさを均一に保つことが可能となる。
【0102】
更に、虚像光学系とフロントガラスの間に、紫外線反射膜や紫外線反射膜と赤外線反射膜を合わせた光学部材を設けることによれば、外光(太陽光)が入射しても、液晶表示パネルおよび偏光板をその温度上昇やダメージから軽減できるので、情報表示装置の信頼性を損なうことがないという効果が得られる。
【0103】
また、虚像光学系は、従来技術において被投影部材とされていたフロントガラスの車両水平方向の曲率半径と垂直方向の曲率半径の差も含めて最適設計を行い、フロントガラスと映像表示装置または中間像表示部の間には、フロントガラス6側に凹面を向けた凹面ミラー1を配置しており、これにより、映像表示装置4の映像を拡大し、フロントガラス6において反射する。この時、前述の凹面ミラー1と映像表示装置4の間には、光学素子が配置されており、他方、運転者の視点位置に対応して結像する前記映像の拡大像(虚像)を形成する映像光束は、映像表示装置間に配置された前記光学素子を通過し、凹面ミラー1で発生する歪みや収差を補正する。そのため、従来の凹面ミラーのみの虚像光学系に比べて、歪みと収差が大幅に低減された虚像を得ることができる。
【0104】
更に、
図1に示した本実施例の構成では、フロントガラス6の上部(車体垂直方向上部)に反射されて得られる虚像は、より遠方に結像する必要がある。このため、これに対応した映像が表示される映像表示装置の上部から発散される映像光束を良好に結像させるためには、前述の凹面ミラー1と映像表示装置4の間に配置した光学素子の焦点距離f1は、短く、反対に、フロントガラス6の下部(車体垂直方向下部)に反射されて得られる虚像は、より近傍に結像する必要がある。このため、これに対応した映像が表示される映像表示装置の下部から発散される映像光束を良好に結像させるため、前述の凹面ミラー1と映像表示装置4の間に配置した複数の光学素子の合成焦点距離f2は、相対的に長く設定されると良い。
【0105】
また、本実施例では、フロントガラス6の水平方向(地面に平行)曲率半径と垂直方向(フロントガラス水平方向に垂直な方向)の曲率半径が異なることで運転者が観視する虚像の画面歪みを補正するため、虚像光学系に、光軸に対して軸対称性が異なる光学素子を配置することで、上述した歪みの補正を実現している。
【0106】
以上、本発明の種々の実施例に係る画像表示デバイスを備えた電子装置に用いるのに適した面状の光源装置について述べた。しかしながら、本発明は、上述した実施例のみに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0107】
100…情報表示装置、101…自動車、1…凹面ミラー、2…光学素子、4…映像表示装置、4A,4B…液晶表示パネル、5A,5B…バックライト光源、6…被投影部材(フロントガラス)、7…筐体、V1…虚像、8…アイボックス(観察者の眼)、9…光源ユニット、R1…上限映像光、R2…中央映像光、R3…下限映像光、10…フレキシブル基板、11…映像表示面、12…フレーム、13…フィン、14…拡散部材、16…外装部材、17…出射面、18…導光体、20…ライトファネルユニット、21~24…ライトファネル、36…液晶パネルからの出射光線。